ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第6話 黒い赤龍帝

 人の目のない暗い路地裏世界に広がる緊張。

 この町で人を襲っていたであろう化け物と遭遇し、それに対処していた俺たちの前に現れた新たな存在(・ ・)

 それを目前に控え、少なからず俺は衝撃を受けていた。

 禍々しいほどの闇のオーラをまき散らしながら、これもまた禍々しいまでの闇色の鎧を身に包む存在。

 その鎧は所々亀裂が入っているような状態で、更に深緑で染まった宝玉が埋め込まれていた。

 総じてその外見は、俺と一誠にはなじみ深いものだったんだ。

 違うのは纏うオーラと色。

 だけど俺はこの時、確信した。

 

「―――この男は、俺たちと同じ存在……」

 

 ―――すなわち、赤龍帝であると。

 その闇色の赤龍帝は俺たちと化け物の間に突然割って入って、俺と一誠をどういう原理かはわからないけど吹き飛ばした。

 そして今は―――化け物の方を亡霊のように不気味に、視線を向けていた。

 

「お、オルフェルさんッ。俺、馬鹿だからよく状況を理解していないですけど、一つだけわかります―――あいつは、やばいっ!!」

 

 一誠が俺にそう耳打ちする。

 ……ああ、あんな存在がいるなんて思いもしない。

 あれほどの負を(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)俺は見たことがない(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 俺は冷や汗を掻く。

 本来なら俺と一誠はここから動いて、あの合成獣と化した化け物を倒さないといけない。

 だけど―――今、本能的に動いてはならないと思ってしまった。

 

「……………………………」

 

 ……今、あの黒い赤龍帝が何かを呟いた気がした。

 それはあの化け物に対してであり、当の化け物はといえば

 

『がぁぁぁらぁぁ!?』

 

 ―――その存在に戦慄し、我を忘れていた。

 俺は耳を澄ましてその声を聞こうとする。

 その声はいまだわずかに呟かれており、そして俺は聞いた。

 

「…………………(ロシテヤル)

 

 それは確かに、確実に言い放っていた。

 

「―――コロシテ、ヤルッッッ!!!!!!!」

 

 ―――呪詛に近い、呪いのような声で……そう力強く化け物に向かって咆哮を放つ黒い赤龍帝。

 その瞬間、俺たちに衝撃が走った……ッ。

 黒い赤龍帝の言葉とともに、その体からは闇色の何か(・ ・)が噴出し、俺たちの肌すらも焦がす。

 これはなんだ!?

 いったい、やつは何者なんだッ!!

 まさか―――

 

「あれが、アイの言っていた脅威なのか?」

 

 俺は今はただ、見ていることしかできない。

 今動けば、俺は死ぬ。

 そう思ってしまうほどの力を俺はやつから感じる。

 ―――ぐるぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 ……そのような断末魔のような叫びと共に、両者はともに動いていた。

 合成獣のような化け物は頭部のドラゴンの首を伸ばす。

 それを横薙ぎに力強く振るう―――その瞬間だった。

 

『Blade……』

 

 ……あまりにも低い男の声と共に黒い赤龍帝の手から、闇色の剣が生えていた。

 黒い赤龍帝はそれを目にも留まらぬ速さで振りぬき、そして―――ドラゴンヘッドを、一刀両断した。

 化け物の頭部は切り刻まれ、化け物はそこから新たな頭部を生やして黒い赤龍帝に襲い掛かる!

 それに対し黒い赤龍帝は……姿勢を低くして、背中に生える禍々しいドラゴンの翼を織りなして、化け物へ向かう。

 

『Boost……』

 

 耳を澄まさない限り聞こえないようなほど低い倍増の音声と共に、黒い赤龍帝の纏うオーラ、そして……闇は何倍にも膨れ上がった。

 膨れ上がった力は闇色の塊になって、黒い赤龍帝の尾の辺りに集中していく。

 ―――あれは、ドラゴン?

 

「ま、魔力で生成したドラゴンなんすか!?」

「……何一つ、理解は出来ない。それでも分かることがあるとすれば」

 

 ……奴に、慈悲などない。

 黒い赤龍帝が尾から八つ首もの黒い龍のような塊を創り、更に化け物へと追撃を行う。

 八つのドラゴンの首はあらゆる方向から化け物に襲い掛かり、黒い赤龍帝はその攻撃と共に翼と剣を巧みに、しかし荒々しく攻撃に活用していた。

 化け物の首を躊躇いもなく切り裂き、翼をまるで刃のように振るう。

 そしてその拳に闇色のオーラを集結させて化け物を壊すように殴る。

 それの繰り返しだ。

 化け物も反撃しているけど、黒い赤龍帝はその全てを最初から分かっているように避ける。

 まるで何度も何度もシミュレーションを繰り返し、対策を練り続けたというほどの見極め。

 荒々しさはあるけど、それ以上に―――洗練されている。

 

「ぁぁ、あぁ―――あぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!」

『ぐぎゃぁぁぁぁぁあぁあああ!!!!!』

 

 両者共に叫びながら戦う。

 血潮を撒き散らし、どれだけ傷ついても黒い赤龍帝に襲い掛かる化け物。

 どれだけ相手が起き上がろうとも、何度も化け物を殺すための一撃を繰り出す黒い赤龍帝。

 怨念の篭った拳だ。

 ……あれほどの間違った力(・ ・ ・ ・ ・)を、どうして手に入れてしまったんだ。

 一体、何があったらあんな姿になってしまうんだよ……ッ。

 

『……俺たちには分かるまい。仮に奴が相棒やこの世界の兵藤一誠と同質の存在だとして―――だからと言って、何かできるとは思えん』

『今はただ見ることしか出来ないのです』

 

 黒い赤龍帝は獣のような姿勢で化け物の右腕に飛びかかった。

 鎧の兜の口部分がガシャンと開き、そこから牙のようなものが生成されて化け物の肉を喰い千切る。

 そして―――その傷口から闇色の魔力弾を幾重にも放ち続けた。

 ボコォ……、ボコォ……。

 血肉が弾け飛ぶ音と、恐ろしいまでの凄惨な状況に流石の俺も目を背けた。

 ……なんだよ、これ。

 これじゃあまるで―――

 

「……こんなの、ただの覇龍じゃねぇか……ッ!!」

 

 小さくそう呟く。

 俺が最も嫌った、赤龍帝のパンドラの箱。

 俺の人生を一度狂わせ、やっとの思いで昇華することが出来た力だ。

 ……こいつは正に覇龍。

 悲しみに暮れて、覇を求めて怨念を肯定する復讐者だ。

 根拠はない。

 だけど―――どこか、黒い赤龍帝のことを否定することが出来なかった。

 敵のように、思えなかった。

 だってさっきから黒い赤龍帝が叫ぶ絶叫も、叫び声も―――悲しそうだったから。

 

「はぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」

 

 今にも泣きそうな声だったから。

 ……黒い赤龍帝は翼を織りなし、空に神速で浮かぶ。

 バサッと禍々しい傷だらけのドラゴンの翼を羽ばたかせ、更に尾の八つのドラゴンの首を地表にいる化け物へと放った。

 魔力で出来た黒いドラゴンの首は化け物を地面に磔るように襲い掛かり、化け物は成す術なく地面に磔にされた。

 そして―――黒い赤龍帝の鎧に埋め込まれた深緑の宝玉は、禍々しい黒い光を放つ。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost……』

 

 先程、たった一度の倍増の音声ですら黒い赤龍帝の力は驚異的なレベルで跳ね上がった。

 それが幾重にも重なって鳴り響き、黒い赤龍帝の放つ魔力、オーラ、そして……闇は何十倍にも跳ね上がる。

 鎧のマスクの目元からは赤黒い眼光が光り、黒い赤龍帝は動けぬ化け物へと『何か』を発動しようとしていた。

 

「―――ッ!? まずい、あれは普通じゃないぞッ!!」

 

 ―――俺はその魔力量と破滅的なオーラを肌で感じて、呆然としている一誠の腕を引っ張りリアスたちの方に移動した。

 アーシアはその凄惨な現状に瞳に涙を溜めており、リアスは口元に手を当てて気分が悪そうな顔をしている。

 ……あれほどの負のオーラ、怨念を前にしたらそれが当然の反応だ。

 なまじ俺は怨念を受け入れ、前に進んだからある程度は大丈夫だけど。

 ―――ともかく、あれはまずい。

 

「良いか、一誠。今から奴が放つ攻撃は下手すりゃここら一帯を全て崩壊させるレベルのものだ。おそらく、アイの張っている結界もあるだろうけど―――それだけじゃ足りないのが必至だ」

「なッ!? そ、それならあいつらをまとめてぶっ倒したら……」

 

 ……できたらそれも良いだろう。

 だけどダメだ。

 

「……もう、俺たちが手を出していい戦いじゃない―――黒い赤龍帝、あいつの化け物に対する怨念は本物だ」

 

 俺は胸元のフォースギアに触れる。

 現段階で俺の創れる神器の中で、防御に秀でたものでは奴の攻撃に耐えることは出来ない。

 ―――いや、もしくは今なら出来るかもしれない。

 紅蓮の守護覇龍に目覚めて、精神力が大幅に強くなった今ならフォースギアの新たなステージに踏み込めるかもしれない。

 ……フォースギア、第一のステージは神器の創造だった。

 その次のステップで創った神器の禁手化。

 これは白銀龍帝の籠手(ブーステッド・シルヴァーギア)の禁手、白銀龍帝の双龍腕(シルヴァルド・ツイン・ブーストアームド)で果たした。

 更に既存の創造神器を使って、神器を創り変えることにもアーシアの時に成功している。

 ……そう、ならフォースギアのもう一つの力を使うしかない。

 

「フェル、この籠手を防御系の神器に創り換える」

『……確かに、現状溜まっている創造力ではあの攻撃に耐える神器は出来ないでしょう。ですが仮に創り換えても限界があります』

「―――だったらその創り換えた神器を、更に強化する」

 

 俺は神帝化を解き、すっと目を瞑った。

 ……アーシアが神滅具に囚われた時、俺は事前にアーシアに渡していた防御系の神器を使って神器を創り換える―――創換の力を使って新たな能力を神器に付加した。

 あの時は神器を強制的に解除する『鍵』を創換したけど、今回は攻撃の武器を防御に変えないといけない。

 ……形状は盾だ。

 ただし今から籠手を盾に変える時間はない。

 盾形の籠手に形状を変更し、更に倍増の力を残す。

 能力のキャパシティーが既に倍増の力のせいで残っていないから、出来る限り単純な能力を残す。

 籠手の譲渡の力を取り除き、残すのは倍増のみ。

 ……俺の思考と共に籠手は白銀の光を放つ。

 フォースギアからは創造力が供給され、徐々に籠手は形を成していった。

 ―――能力は、防御の一点。

 術者を中心とする直径100メートル外へと衝撃を全て防御する盾だ。

 言ってしまえば100メートルの空間内を絶対空間にし、外に衝撃を加えさせないもの。

 そして更に倍増の力でそれを大幅に上げる。

 

「行くぜ―――神器創換!!」

『Convert Creation!!!!!』

 

 その音声と共に神器は姿形を換える。

 ―――ッ!!?

 それと、共に……激しい頭痛が頭に走るッ!!

 やっぱりこの力はまだまだ改良の余地があるか……ッ!

 だけど!

 

白銀龍の盾拳(ブーステッド・シールドギア)!」

 

 変化した神器を見る。

 籠手の甲の部分に機械仕掛けの盾のようなものが装着されていて、俺はそれを展開させる。

 盾はパーツが展開され、幾つかの工程を経て大きなものとなった。

 更にエネルギーのシールドのようなものが展開され、そのエネルギーが俺を中心とする100メートル内に供給される。

 更に元々の10秒ごとの倍増も健在だ。

 ……だけど黒い赤龍帝は既に全ての用意が完成していた。

 

「……オマエサエ、イナケレバッ!!! ユルサナイ、ゼッタイニ―――コロス!!!」

 

 ……黒い槍。

 良くアザゼルが好んで使うような光の槍のようなものだった。

 しかし大きさと闇のオーラが段違いで、この距離から魂を削られるような痛みを感じるッ!!

 

「フェル、この盾を強化する!」

『―――なっ!? 主様、分かっているのですか!? ただでさえ精神力を大幅に削る創換の力を使って、更に強化なんてしたら主様は!』

「やるしかないんだ! じゃないと俺たちどころか、この町の全ての人たちが死んでしまう!」

 

 例え世界が違っても、それでも駒王町は俺が育った大切な場所なんだ!

 だからこそ、護らないといけない!

 

「―――それが俺の決めた道なんだ。だからフェル、いつもの言葉通りだけどさ? 俺に……一緒に戦ってくれ」

『……………………』

 

 ……フェルは無言になる。

 フェルは今までの俺の無茶な行動でかなり過保護になっている面があって、それは俺を大切に想ってくれている裏返しなんだろう。

 ……それでも無茶をする時は無茶をしないといけない。

 前とは違う。

 前の俺はただ守ることが強迫観念になって、失うことにただひたすら恐怖していた。

 だからこれは俺の道なんだ。

 ずっと長い事フラフラし続けて出した―――俺の進む道だ!

 ……俺がそう心の中で思った瞬間だった。

 

『Reinforce!!!!!』

 

 ―――フォースギアから、強化の音声が鳴り響いた。

 フォースギアから注がれた強化の力は右腕の盾に注がれ、途端にその盾に通っていた倍増の音声が一秒後とに鳴り響き始める。

 その分、頭痛が激しいことになったけど、なッ!!

 ……フェル。

 

『……わたくしの可愛い息子は、頑固です。強情です。無茶ばかりします。守るためなら自分を二の次にして、いつも何もわたくしには仰ってくれません―――でも嬉しかった』

 

 フェルは心の底で話し続ける。

 

『今、しようと思えば無理矢理力を使うことも出来た。でも主様はわたくしに仰ってくれた―――それだけで、もう今まで感じていた不満がどうだってよくなりました』

「……フェル。もしフェルがティアとかオーフィスみたいに人間態になれることが出来たらさ? ―――絶対に、良い女だよ」

『ふふ、当然でしょう?』

 

 フェルは不敵に笑い、そして俺は目の前の状況を再確認する。

 今この段階で外への影響は心配ない。

 後は―――一誠たちか。

 

「良いか、一誠。今すぐ俺から50メートル以上距離を取れ。その上でリアス、お前は一誠から倍増の力を譲渡してもらって、全力でアーシアと一誠を防御魔法陣で守るんだ」

「で、でもオルフェルさんは!?」

「―――この盾は付近と、自分を護るための神器。それに防御に魔力を全て使えば何とか耐えれるはずだ」

 

 俺は一誠の方を見ながらそう言うと、回し蹴りで一誠をリアスの方に蹴飛ばした。

 

「い、いでっ!?」

「良いから早く行け! あいつ、もう力を放つぞ!」

 

 一誠は文句の言いそうな顔をしながら、でも俺を心配するような顔をする。

 ……ったく、あいつは可愛い奴だな。

 ―――一誠たちは俺の指示通り移動し、そして黒い赤龍帝は槍を振りかぶる。

 化け物は磔の力が相当強いのか、もがくも一切動くことが出来なかった。

 化け物は恐れおののく。

 あの槍に、明らかな恐怖を抱いていた。

 

『あひゃ……ひゃはははははははははははは!!!』

 

 ……そして、歪なほどの笑みを更に浮かべる。

 狂った心が壊れたように笑い続ける。

 そして―――

 

「ワラウナ―――ソノコエデ、ワラウナァァァァァァァァァ!!!!!」

 

 黒い赤龍帝は手元にある黒い槍を振りかぶり、投槍した。

 光速で放たれる槍は一瞬で化け物を貫き、そこからその大きさが変化する。

 ―――何十倍にも。

 

『あがぁ、がぁ―――ひゃははははははははははははははははははははは!!!!!!!』

 

 ……槍の肥大化と共に化け物はメリメリと体が引き裂かれていき、そして―――槍は破裂し、辺りに凄まじい闇色の衝撃波を放った!

 俺の創った神器の効果で外へと衝撃を軽減させ、俺自体は自身の魔力を全て防御に回し、更に右手の盾で何とかそのダメージに耐える!

 フィードバックで口から少し血が出てくるけど、何とか耐えれるッ!!

 化け物は最後、気味の悪い笑い声を挙げて―――木端微塵に、塵も残さず消え去った。

 闇のオーラはそれだけでは収まらず、大地を揺らす!

 ―――バキィィィィィィッッ!!!!

 ……そんな音と共に、俺の盾にいとも容易く大きな亀裂が入った。

 

「……ったく、創換した上で強化してるのに簡単に壊されるとか、勘弁しろよッ!!」

『……仕方、ありません。……主様、耐えてください!』

 

 フェルは何かを決心したようにそう言ってくる。

 そっか……なんとなく、やることは分かったよ。

 ああ、耐えてやる。

 ―――だからもう一度神器を強化してくれ!!

 

『Reinforce!!!!!』

 

 ……神器強化の音声がもう一度鳴り響き、更に倍増の速度が早くなる。

 更に盾自体の強度も強化され、そして―――目が、霞んできた。

 不味い……ッ!

 連続強化がここまでとは思わなかった。

 ロキ戦でこれを使わなかったのは正解かもな……!!

 だけどこれ、なら!

 

「うぉぉぉぉぉぉぉお!!!」

 

 意識を保つために大声で叫び、そして衝撃から自身と一誠たちを護る。

 ―――俺が覇龍を使った時、最後に次元の狭間に造られた空間を崩壊させたらしい。

 この一撃は正にそれを実現しそうなほどのもんだ。

 ……少しでも気を抜けば簡単にそれを実現させる。

 

「ッッッ!!」

 

 肉体と精神に来る圧倒的なダメージに、意識を飛ばしそうになるッ!

 俺は不意に自身の後ろを見た。

 ―――そこには今すぐにこっちに来そうな、一誠の心配そうな表情があった。

 

「……ったく、あいつにあれだけ説教しただろ―――歯を食いしばらなきゃ、男じゃない!!」

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!』

 

『Transfer!!!』

 

 更に鎧の能力である倍増の力を全て魔力に対して譲渡し、防御に徹底する。

 ……そして、闇は鎮まった。

 それとほぼ時を同じくして俺の右腕の盾は崩壊し、風化するように塵になって消えた。

 

「はぁはぁ……なんとか、耐えたぞッ」

 

 辺りは霧に包まれるように白く土埃が舞い上がり、視界からは影しか黒い赤龍帝が見えなかった。

 肩で息をしながら、俺は黒い赤龍帝の影を見た。

 ……黒い赤龍帝は自身が蹴散らした化け物がいたであろう場所に茫然と立っており、空を見上げていた。

 

「オルフェルさん!!」

「い、今すぐ治療します!!」

 

 すると後方より一誠とアーシアが俺の方に走って来た。

 アーシアはすぐさま持ち味の癒しの力を俺に対して施し、一誠は俺の体を支えるように肩を貸してくる。

 

「……オルフェル君。あの化け物は、どうなったの?」

「……恐らく、消し飛んだ」

 

 俺はその光景を目の前で見ていた。

 あの攻撃で、肉体が持つなんてありえない。

 確実に死んだ―――

 

「そう……。だったらあのヒトにも感謝しないといけないわ」

 

 リアスはそう言って、黒い赤龍帝に近づこうとした。

 だけど俺は、それを手を引いて止めた。

 

「……? オルフェル君、どうして」

「ダメだ―――あいつに不用意に近づくな」

 

 ……だって、あいつの闇は未だに渦巻いているから。

 俺は未だ警戒を解かずに黒い赤龍帝を観察する。

 ―――その時、ビル風が辺りを通り抜けて土埃が消え去った。

 

「……やっぱり、そうなのか」

 

 俺は黒い赤龍帝―――いや、そこに立っている男を見て仮説を確信のものにした。

 黒い鎧は既に解除されていて、そこに立つ男は空を見上げてポツリ、ポツリと……涙を流していた。

 

「みんな……やっと、仇、とったよ……やっと、あいつを……」

「「「―――え?」」」

 

 一誠たちはその姿を見て呆然となった。

 ……それは仕方ないか。

 俺も黒い赤龍帝ってことで仮説だけ立てていただけで、その存在の心当たりがあったわけじゃない。

 ―――そこには男がいた。

 真っ黒なボロボロの布に身を包んで、顔中に切り傷があり、髪の毛が無造作に伸びている男。

 目には光が灯っていない、虚ろな目をした男。

 ……だけど、その顔に心当たりがあった。

 

「お、オルフェルさん? あ、あれってまさか」

「ああ。たぶん、俺と同じでこの世界に飛ばされた存在―――平行世界の、兵藤一誠」

 

 ―――そして覇に囚われ、闇に心を奪われた存在。

 目の前にいるのは、そんな存在だった。

 

「……だけど、闇は。根付いた怨念は、簡単には消えない。受け入れてしまったものは、抱いたものは自分の意志とは関係なく自らを蝕む。だから―――」

 

 ―――脅威はまだ去っていない。

 俺はそう確信した。

 ……その確信とほぼ同じくして、黒い赤龍帝は俺たちの方を視界に入れた。

 そして―――リアスの顔を見て、目を見開いた。

 

「……そ、っか……。あなたは、そこに、いるんです……ね」

 

 ……黒い赤龍帝は一歩、俺たちの方に足を踏み込める。

 目は虚ろなまま、しかしそこにどこか希望の光が差し込んでいた。

 ―――アイ、お前の言っていた通り、こいつはもう壊れている。

 心が、もう壊れている。

 復讐を果たした後に残るのは、空虚な想い。

 自分が生きる意味を見いだせず、何をすれば良いかを求め、理想を欲する。

 そしてその結果が起こしてしまうのが……間違った選択。

 

「……一誠、リアスとアーシアを連れて逃げろ」

 

 俺は腕と胸元に籠手とフォースギアを展開し、一誠から離れて三人の前に立つ。

 黒い赤龍帝の目にはリアスしか映っていない。

 どういう理由かはもちろんわからない―――だけど、あいつはリアスを求めている。

 

「そ、それってどういう……」

「良いから、逃げろ! まだ脅威は去ってないんだ! あいつは、お前の大切なものを―――リアスを欲しているんだ!!」

「―――ッ!?」

 

 俺の言葉に一誠は目を見開く。

 今この場で冷静になる方が難しいけど、でも一刻を惜しまないといけない状況だ!

 それに何より、この黒い赤龍帝と一誠では圧倒的な経験の差が違う。

 

「なん、だ……おまえ、も、俺から……ウバウノカ?」

「……違うな。今お前が、こいつから大切な存在を奪おうとしてるんだよ」

「……オレガ? オレガ……ウバウ? ―――ガァッ、ウガァァァァァアアアア!!?」

 

 ―――それは突然だった。

 俺が黒い赤龍帝に言葉を投げかけ、奴の動きが止まった瞬間、黒い何かが奴を覆う。

 これは……黒いオーラのようなものに、襲われているのか?

 ……違う。

 これは

 

「闇に、飲み込まれているのか?」

 

 そう、飲み込まれているという言葉がしっくりと来る。

 だけど疑問が残る―――あの闇は、どこから現れた?

 あいつの中から……じゃない。

 明らかに外部から突然現れた。

 ならそれは―――まさか!!

 

「さっきの化け物の残骸かッ!!」

 

 俺は手元に即席の魔力弾を創る。

 そしてその闇のオーラを吹き飛ばすために放つが……。くそ、威力が弱すぎる!

 簡単に闇のオーラに吸収されるように弾丸は消え去り、黒い赤龍帝は苦しむように叫び声をあげている。

 

『相棒、奴は明確な敵だ! 今すぐに消滅させるべきだ!!』

『あれは放っておいたらいけないです! 今すぐに全力を以て倒しましょう!!』

 

 ……ドライグとフェルの言う事は最もだ。

 奴から感じる闇も悪意も、全てが全て有害なものだろう。

 だけど……、だけど!!

 ―――あいつを、敵とは思えないんだッ!!

 あいつから感じる悲しみを、辛さを……直観だけど、理解してしまうんだ。

 本当に何でかは分からない!

 今は、拳が握れないんだ……ッ!

 

「アガガアァァァァァ!! イヤダ、モウウシナウノハ―――イヤナンダヨォォォ!!!!」

「……ッ!!」

『Accel Booster Start Up!!!!!!』

 

 黒い赤龍帝は生身のまま俺へと襲い掛かってくるッ!

 俺の中のドライグはほぼ強制的に倍増の速度を更に加速させるアクセルモードを始動させ、俺は黒い赤龍帝へと向かい討つ。

 

「落ち着け、暴走がお前の望んでいることなのか!?」

「ダマレェェェェエエエ!!!」

『Fall Down Welsh Dragon Balance Breaker……』

 

 黒い赤龍帝は闇色の鎧を身に纏い、凄まじいオーラを纏って襲い掛かる。

 こっちもさっき、こいつの攻撃を止めて満身創痍だッ!

 加速した倍増の速度とアスカロン、そして無刀を駆使して俺はどうにか黒い赤龍帝の攻撃をいなす。

 ……先ほどまでの洗練された攻撃じゃない。

 ただ暴走して、襲ってきているだけだ。

 ―――だけど拳から、悲壮感が伝わってくる。

 

「オレハ、オレハ!!」

「俺はお前のことは何も知らない! だけどお前はそんなことをするためにここまで来たのか!?」

 

 真っ直ぐに放たれる拳をいなし、カウンターで懐に入って拳を放つ。

 だけど黒い赤龍帝の鎧は堅牢で、傷一つ付かなかった。

 俺は背中のドラゴンの翼を駆使して距離をとって、手元に残り少ない魔力を集める。

 黒い赤龍帝は更に化け物の残骸、闇の塊を纏いながら襲い掛かってくる!

 

「オルフェルさん! 俺も!!」

「良いから逃げろって言ってんだろ!! 早くしろ、俺も長くは―――がぁッ!?」

 

 下の一誠に向かってそう叫んだと同時、俺は口から血反吐を吐き出す。

 なんだ、今の突然のダメージは。

 

『これは―――龍殺しの力? まさかさっきの化け物の力なのか……ッ!?』

 

 ドライグから推測されることはさておき、今、一誠たちに掛けられる余力は欠片もない!

 それに奴の目的がリアスなのだとしたら、要られるほうが面倒なんだ!

 何より……俺も限界に近いッ!

 

断罪の龍弾(コンヴィクション・ドラゴンショット)!!』

 

 破滅力を付加させた魔力弾を黒い赤龍帝に向けて放つも、奴はそれを拳で打ち砕いて向かってくる。

 

「……くそッ!! オルフェルさん、絶対に!! 帰ってこなかったら許しませんから!!」

 

 一誠はそう悔し涙を浮かべるように力強く言い放ち、リアスとアーシアを抱きかかえて禁手化して飛んでいく。

 ……さて。

 

「―――目を覚ましてもらうぜ、黒い赤龍帝」

 

 ……そんな無謀なことを言いつつ、俺は黒い赤龍帝に特攻をかけていった。

 

 ―・・・

 

『Side:兵藤一誠』

 

「何でですか、先生!! オルフェルさんを今すぐに助けに行かないと行かないと!!」

 

 俺、兵藤一誠はオルフェルさんの援護の元、駒王学園まで逃げてきた。

 そして今は状況をアザゼル先生に説明し、今すぐに救援に向かおうとしていたけど……それを止められたんだ。

 

「少しは落ち着け、イッセー。今のお前は体も気力も限界に近い。そんなお前が行っても足手まといがオチだ」

「……ッ! でも、それでも俺は!!」

 

 自分を認めてくれた、大切な仲間を見捨てることなんか出来ないッ!!

 俺たちを逃がすために体を張ったヒトを、助けたいんだ!

 

「……むしろオルフェルは誰よりも冷静だった。聞いた限りではお前たちを背負ったままの方が戦いにくい。それを考えた上でお前たちを逃がしたんだろう」

「でもオルフェルさんだって傷だらけだったんです!」

「それでも一番可能性が高かったのがその選択だったんだろうな―――ったく、どっかの誰かさんと同じでお人好しだな。あいつも」

 

 アザゼル先生は頭を掻いてそう呟く。

 

「良いか? お前たちが戦った化け物っていうのは相当危険な存在だった。何度も立ち上がるタフさ、身体中が合成獣化している異常性、そしてドラゴンスレイヤー。可笑しいほどの性能―――それを屠った黒い赤龍帝。イッセー、お前が敵うとでも思っているのか?」

「……そんな自信、ありません。それでも俺は行かなきゃいけないんです」

「…………。それでもな、俺はお前たちの監督役としての任がある。みすみす危険地に生徒を送るのは確かな勝機があるときだけだ」

 

 ……アザゼル先生の言いたいことは分かる。

 このヒトだって何だかんだ言ってお人好しだ。

 だからこそ俺たちを危険な目に遭わせたくないし、出来ることなら戦わせたくないんだ。

 俺だって出来ることなら皆には安全で居て欲しいし、俺だってエロエロなハーレムライフを満喫したい!

 ―――でも、俺たちが力を付けたのはその幸せを勝ち取るためだ。

 今、俺たちを護ってくれているヒトがいる。

 ……そのヒトを救うために、俺はこの力を使いたい。

 

「―――お願いします。俺は、俺を救ってくれたヒトに恩返しをしたい! だから行かせてくださいッ!!」

「……イッセー」

 

 リアスが俺の手を握って、そんな声を漏らす。

 部室に集まった皆も同じ顔をしていて、俺はただアザゼル先生に頭を下げた。

 

「―――あぁ~あ、ここは俺がカッコよく戦線に立つ場面だけどなぁ。おい、イッセー。俺の名場面を返しやがれ」

 

 ……するとアザゼル先生は俺の頭をクシャクシャと撫でまわし、ニィッと笑う。

 

「まあお前はそんな理論の前じゃ止まらないし、進んでいくっていうのは知ってんだよ。お前はこれまでそんな無茶苦茶な方法で前に進んで、仲間を守ってきたもんな」

「せ、先生……」

「イッセー、行け。出来るとか出来ねぇとかは俺が何とかしてやる」

 

 アザゼル先生はそう二カッと笑いながら席から立ち上がり、先陣を切るように歩む。

 他の皆もそれに続くように歩いて―――って、そこで俺は気付いた。

 

「観莉ちゃんはどこに行ったんだ?」

「……一応イッセー先輩のお家に置いてきました。あそこなら危険が少ないので」

 

 俺の言葉に小猫ちゃんが応えてくれる。

 そっか、なら安心―――そう思った時だった。

 ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!

 ……そんな激しい衝突音が、グラウンド内に響いた。

 

「な、なんだ!?」

「……さぁね。ただ一つだけ分かることがあるとすれば―――歓迎すべきヒトではないよ」

 

 ……木場は部室の窓からグラウンドを見ながら、一筋の汗を流しそう呟いた。

 待てよ、あれからまだ30分も経ってないんだぞ!?

 何で―――何で黒い赤龍帝がここにいるんだよ!!

 

「……嘘だろ。まさかあいつが?」

「ッ!!」

 

 俺は一人、その場から走り出す。

 向かうのはグラウンド!

 ……オルフェルさんがやられたなんて信じない。

 あのヒトは強いんだ!

 心も力も!

 ……俺はグラウンドに到着すると、そこには土埃に包まれた黒い赤龍帝がいた。

 近くに、オルフェルさんはいなかった……―――

 

「……おい、オルフェルさんは、どこだッ!!」

「…………」

 

 黒い赤龍帝は先ほどとは打って変わって何もしゃべらない。

 そして―――神速で、俺の目の前に辿り着いた。

 

『あ、相棒!!』

 

 黒い赤龍帝の拳が俺の腹に真っ直ぐに放たれる。

 あまりにも突然のことで、その拳が異様なほどスローモーションのように見えた。

 ―――これをまともに受けたら、それで終わりだッ!!

 頭よりも体が勝手に動き、その拳に対し俺は後ろに飛んで回避する!

 危ないってもんじゃねぇぞ、あれ!

 今のはまぐれだ、二度目はない……ッ。

 

「応える気は、ないのか……?」

「…………」

「……だったら、吐かせてやるッ!!!」

 

 俺はブーステッド・ギアを展開し、そのまま数カウントの後で禁手化を果たす!

 体を包む鎧姿となって、そして黒い赤龍帝に殴り掛かった!

 

『Blade』

『Blade!!!』

 

 黒い赤龍帝が俺の攻撃を全て躱して闇色の剣を出すのを確認すると、俺も負けじとアスカロンを取り出す!

 籠手と一体化したアスカロン、それを用いて奴の剣と剣をぶつけ合わせた!

 

「ドライグ、籠手にアスカロンのオーラを譲渡してくれ!」

『応ッ! だが相棒もそこまで余裕はないぞ!!』

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!』

 

 全力の倍増+アスカロンの龍殺しの力込みの全力だ!!

 

「うぉぉぉぉぉぉぉおお!!!!!!」

 

 俺は拳を真っ直ぐと黒い赤龍帝に向けて放つと、黒い赤龍帝は―――それを俺と同じように拳を放って力比べをするような動きをしていた!

 この野郎ッ!

 

「望むところだ、このヤロオォォォォ!!!」

 

 黒い赤龍帝と俺の拳が激しい金属音を鳴り響かせながらぶつかる!

 俺は一切の力を緩めずに拳を放ち続け、黒い赤龍帝も少し押され気味か?

 ……分かりにくいけど、こいつだって消耗している。

 あの化け物とオルフェルさんとの連戦だ、疲れないわけがない!

 

「ドライグ、トリアイナで勝負をつける!!」

『この状況なら戦車しか手はないぞ!』

 

 ドライグの助言通り、俺は自分の中の駒を変化させる!

 

『Change Solid Impact!!!!!』

 

 その音声と共に俺の鎧は更に分厚い堅牢なものとなり、戦車の性質である絶大なパワーを手に入れる!

 更に肘にある撃鉄を何度も打ち鳴らし、拳の勢いを更に強くし、そして―――殴り飛ばした!

 それを確認すると、更に俺は自分の中の駒を更に変更させる!

 

『Change Blast Fang!!!!!』

 

 駒を僧侶のものに変え、背中に巨大なブラスターが装着される!

 そこにあらかじめ用意していた魔力を装填、更に!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!』

 

 倍増の力でそれを極大にする!

 一度の戦いに何度も出来るわけではないけど、これならチャージを短縮してドラゴンブラストを放てる!

 いくぜ!!

 

「ドラゴンブラスタァァァァァァァ!!!」

 

 視界を真っ赤に包むほどの弾丸が空中の奴へと放たれる!

 周りへの影響はアザゼル先生にどうにかしてもらうしかねぇ!

 ブゥゥゥゥン……徐々にドラゴンブラスターは鎮まって、俺は遠くで地に足を付ける黒い赤龍帝を見る。

 ……若干だけど黒い鎧に血が付着している。

 ダメージは確実にあったはずだ。

 

「はぁ、はぁ……くそ、やっぱ連戦続きのトリアイナじゃあ、限界があるかッ!」

『むしろ今の攻撃が通ったことが僥倖か。いや、だが―――』

 

 考えるのは後だ。

 今は奴を……そう思った時だった。

 黒い赤龍帝は……突如、頭を抱えていた。

 

「ア、ガァァッ!! ち、がう……、オレハ! 俺はッ!!」

 

 ……なんなんだ、あいつは。

 何に、苦しんでいるんだ?

 ―――そんな苦しんでいる状況下で、奴の状態は更に変化する。

 ……鎧が、更に鋭角になり始めていた。

 尾からは先ほどの化け物との戦闘時のように、魔力がドラゴンの形となっていて、首数は八つ。

 ドラゴンの翼は千切れ千切れになっていて、禍々しい。

 さっき見た時よりも、何倍も凄まじいものになっているッ!!

 

「きえ、され―――キエサレェェェェェェェ!!!!」

 

 ―――八つのドラゴンの首は、同時に俺へと伸びて来た。

 あの時の技をするつもりか!?

 

「ドラゴンショット!!」

 

 俺は手元に球体を作り、それを殴ってドラゴンショットを放つ!

 それによって首の一つが消し飛ぶけど―――駄目だ、全部さばききれないッ!!

 

「こうなったら真紅になって」

 

 俺は新たに手に入れた真紅の赫龍帝(カーディナル・クリムゾン・プロモーション)のための呪文を紡ごうとした。

 ……その瞬間、俺よりも後方で幾つもの攻撃的オーラを感じた。

 一瞬俺がそっちに視線を送ると、そこから幾つかのものが俺を横切って向かいくるドラゴンの首へと一直線に向かう。

 破滅の魔力、光の槍、雷光、聖魔剣、聖剣による斬撃波、北欧魔術による砲撃。それらによって6つのドラゴンの首が消し飛んだ。

 更に俺の右側の校門前から放たれる水のドラゴンのように形作られた魔力の塊が放たれ、最後のドラゴンの首も消し飛ぶ。

 ……後ろには遅れて到着した皆。

 そして校門側からは―――ソーナ会長が歩いてこちらに来ていた。

 

「悪いが黒い赤龍帝。お前にはここで退場を願い申し上げるぜ」

「何かは知らんが、敵ならば討つ。このデュランダルの名の元に断罪してやろう」

「か、回復なら任せてください!」

「僕の仲間を傷つけるなら、例え平行世界の住人だろうと許さないよ!」

「私もまた、グレモリー眷属の一員ですから。戦いましょう」

「……先輩を傷つけるなら、許しません」

「悪さが過ぎましたわね、黒い赤龍帝さん?」

「ぼ、僕だって戦ってやるですぅぅ!!」

「幼馴染的にもここは私も加勢するのが礼儀ってものなのよ!」

「い、イリナさん? それは些か意味が……。まあ私も客としてお招きいただいているのです。フェニックス家の者として、加勢しましょう」

「……自分の眷属をやられて、黙ってあなた方に任せておくなんて出来ません―――加勢します」

 

 ……仲間の加勢。

 今この場に俺の仲間が集結していた。

 頼もしい皆の登場に俺も気合を入れ直す!

 ―――そしてみんなの戦闘に立つリアスが、黒い赤龍帝を前にして堂々と言い放った。

 

「……あの化け物を倒してくれたことには感謝するわ―――だけどあなたがこの町を脅かす行為をするならば、私は……貴方を敵と認定する」

「……………………」

 

 ……黒い赤龍帝は、皆の姿を前にして立ち尽くす。

 先程までの覇気が嘘のように、立ち尽くしていた。

 

「―――イヤ、ダ」

 

 ―――そして、小さくそう呟き始めた。

 それに加えて体から湧き出る黒い闇のオーラが漏れ始め、色を更にどす黒くする!

 

「ウシナイタク、ナイッ!! ヒトリハ、ヒトリハ!!!」

 

 ―――嫌なんだ。

 その言葉は紡がれることはなく、黒い赤龍帝は再び闇に包まれた。

 ……あれは、もう化け物の類だ。

 黒い赤龍帝は神速で向かってくるッ!

 拳には圧倒的闇の力が漏れていて、俺はそれに反応すら出来ない!

 黒い赤龍帝の拳は俺の目の前にあり、そして

 

「だ、めだ……ッ! もう、きずつけちゃ……ッ!!」

 

 ―――俺の鎧のマスクに当たる寸前で、拳を止めた。

 その声はさっきまでのものじゃなく、一人のヒトとしての声。

 苦しんでいる声そのものだった。

 

「あ、あんたまさか……」

「お、れは―――ぎゃぁぁぁがぁぁぁぁぁああああああ!!!!!」

 

 ……黒い赤龍帝は苦しむように俺に背を向け、絶叫をあげながら神速で空へと消えていく。

 しばらくするとその姿は見えなくなり、俺はその場に崩れる。

 ……鎧が、ボロボロになっていた。

 ただ近くに寄られただけで、ここまでのダメージを受けていた。

 もちろん俺自身が既に限界に近いって理由もあるとは思う。

 それでもあいつは……

 

「なんだんだよ、お前は……。一体、何に苦しんでいるんだよ……?」

 

 俺はそう思う。

 だけど一つだけ断言できることがあった。

 それは―――

 

「あいつとは、決着をつけないと駄目だ。たぶん、次に会う時―――その時が最後の戦いだ」

 

 ……そう確信し、俺はそこでハッと思い出す。

 

「……そのことより、オルフェルさんを探さないとッ!! あのヒトはあいつと戦って!」

「……まあそれが妥当か―――まずはオルフェルの捜索だ。あいつがいなけりゃ話が始まらねぇ」

 

 ……俺たちはアザゼル先生の一言で散開する。

 俺は鎧を解除し、足をバシッと叩いて奮い立たせるッ!

 こんなところで限界を迎えている場合じゃない!

 今はただ!

 

「―――無事でいてください、オルフェルさんッ!!」

 

 そう願うだけだった。


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