ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第5話 真の脅威

 俺の目の前の化け物は狂ったように狂気な笑いを浮かべながら、俺たちに襲い掛かってくるッ!!

 今この場にいるのは俺こと兵藤一誠と、リアス、アーシア……直接近接で戦えるのは俺しかいない!!

 ここは俺が体を張ってこいつをぶっ倒さないといけない!

 俺は巨大な魔物から振り下ろされる拳を受け止め―――

 

「ぐッ……ッ!?」

 

 ―――力が、段違いに強すぎるッ!?

 俺は受け止めきれず、そのまま体を建物へと叩きつけられた。

 

「イッセー!」

 

 リアスの声が俺に届き、リアスもまた後方支援で滅びの魔力を魔物に放つ。

 ……だけど魔物はそれを肥大化した汚い腕で取っ払い、そして何かをリアスたちの方に放とうとしていた。

 

『ひははははははははは!!!』

「ざけん、じゃねぇぞッ!!」

 

 俺は瓦礫を吹き飛ばして化け物へと特攻を仕掛ける。

 

『Jet!!』

 

 背中の噴射口からオーラを放出し、その反動でリアス達と化け物の間に介入し、更に赤い球体を浮かばせてそれを殴る!

 球体はドラゴンショットとして化け物に放たれ、その隙に俺は二人を抱えて後方に逸れた。

 

『……強い。なんだ、あのバグのような強さは』

「ああ、ドライグ―――あいつ、ドラゴンショットを喰らってやがるッ!!」

 

 ……俺の視線の先で今しがた、俺の放ったドラゴンショットを喰らっている化け物に対して、俺は戦慄を覚えた。

 ―――なんなんだ、あいつはッ!?

 

『うひゃひゃひゃ……う……ま、いぃぃぃぃぃ!!!!』

「くそ、気持ち悪いッ!!」

『BoostBoosBBBoostBoostoostoostBoostBoostBoostBoostBoostBoosttBoostBoost!!!!!!』

 

 鎧から発せられる際限のなくなった倍増の音声と共に、俺は力を手にして化け物に殴り掛かった。

 倍増を怠ることを忘れず、ストレートに拳を飛ばす―――しかし化け物はその上をいった。

 予想外の反射速度と、巨体からは信じられないほどの俊敏さ。

 それにより俺の拳をいなし、そしてその巨大な拳で殴りかかってくるッ!

 打突は俺の鎧を容易く破って、俺は……がはッ!!!

 

「はぁはぁ…くそ、強いッ」

 

 口から血を吐きながら、二人の前に立つように壁となる。

 アーシアは俺に駆け寄って癒しのオーラを放ってくれ、それで俺の傷が幾分かマシにはなる。

 ……マシにはなるけれど、こいつを倒すための突破口が見当たらねぇッ!!

 

『まさかこれほどとは。先ほどまでは力を抑えていたとでも言うのか?』

「しかもあいつ頭も働いてるぞッ!!」

 

 ……さっきの動き、あいつは明らかに知能を持っている。

 ふざけた笑い声を終始浮かべているけど、その戦い方は洗練されている―――ただの鎧では歯が立たないッ!!

 

「イッセー、真紅の力はまだ使ってはダメ。あれで対等になれたとしても、持久戦であなたが先に倒れるわ」

「でもリアス! あいつを倒すには、今すぐに真女王化しないと駄目なんです!」

 

 リアスの言いたいことは理解できる。

 確かに今の俺の力じゃ、サイラオーグさんとの戦いで目覚めた真紅の赫龍帝(カーディナル・クリムゾン・プロモーション)を使っても、ジリ貧でやられる。

 だけどこいつは匙を、たくさんの人を傷つけているんだ!

 

「逃げられるかよ!!」

『無謀、か。だがそれが相棒ではあるか―――トリアイナで行くぞ、相棒』

「ああ!!」

 

 俺はドライグの言う通り、兵士の駒の力を最大限に引き出す赤龍帝の三又成駒(イリーガル・ムーブ・トリアイナ)を始動させ、化け物に向かって走り出す!

 ―――オルフェルさんに言われたことを思い出すんだ。

 あのヒトは自分が襲われながら俺を分析し、この力の有用な使い方を言っていた。

 ……あのヒトの言う通り、俺には騎士は似合わない。

 真っ直ぐにしかいけないし、それが良いと思っているから。

 だから、俺は俺のやり方で進むしかないんだ!!!

 

龍星の赤龍帝(ウェルシュ・ソニックブースト・ナイト)ォォォォ!!!」

『Change Star Sonic!!!!!』

 

 体を包む鎧を瞬間的にパージし、それにより化け物の視界を奪う!

 俺はそれと共に化け物の背中へと回り込み、更に形態を変化させるために言霊を発する!

 

龍剛の赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴニック・ルーク)!!!」

『Change Solid Impact!!!!!』

 

 鎧は先ほどとは逆に装甲を限りなく強固で鈍重なものにし、俺は攻撃と防御特化の形態に移行する!

 俺には難しいことはまだ出来ない!

 この力だって未完成だし、騎士に至っては使いこなす以前にひ弱だ!

 だけどそれでも戦える!

 

「うぉおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 肘にある撃鉄を打ち鳴らし、拳の威力を更に強化し、そして―――怒りを込めた拳を化け物へと放った。

 化け物は流石というように反応し、受け止めようとする……だけどな、こいつは止められねぇ!

 攻撃特化の恐ろしさの一端でも味わいやがれ!!

 俺の極太の拳は化け物へとめり込み、そして歯ぎしりする勢いで肘の撃鉄を更に打ち鳴らして威力を上げる!!

 ―――そうか、殴っている最中に撃鉄を何度も打ち鳴らすことよって、更なる破壊力を生むことが出来る。

 ともかく、俺は化け物を殴り飛ばした!!

 

「……撃ち抜いた感触はある」

『ああ、確実にあの魔物に直撃したな』

 

 ……だけどどうせまだ倒れてはくれないんだろう。

 俺は拳を握り、建物に衝突して煙の中に身を潜める化け物を警戒する。

 形態は……戦車のままで良いか。

 少なくとも一番やりやすいのがこの形態だからな。

 

「……不気味ね。あの化け物、動かないのかしら?」

 

 俺の傍によってきたリアスがそう呟く。

 ……確かにあの化け物は声を一つも漏らさずに、しかも動く気配を見せない。

 土埃から影が見えるけど、今まであれほどアグレッシブに責めて来た野郎が動かないのは確かに不気味だ。

 リアスは手元に魔力を篭め、いつでも放てるように準備をしている。

 

「……待て―――ちょっと待てよ……ッ!?」

 

 ―――そんな時、俺はあることに気付いた。

 それは先程、あの化け物が俺に打撃を与えて建物に叩きつけた時だ。

 ……俺の鎧は、いともたやすく崩れた(・ ・ ・)

 でもあの一撃で、俺は実は打撃的なダメージはほとんどなかった。

 なのに俺は相当のダメージを受け(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)()

 

『―――まさか奴は』

 

 ドライグが俺の疑問に気付き、そして何かに辿り着いた時だった。

 ―――化け物は土埃の中、異様に姿を変えていた。

 ぐちゃ、ぐちゃ……そんな気味の悪い肉の裂ける音を響かせている。

 そしてそのシルエットはどこかで見覚えがあった。

 

「あれは…………翼?」

「しかも私達と同じ悪魔の翼―――あの化け物は悪魔だって言うの!?」

 

 ……違う。

 俺の視界にはそれだけではない、違う翼も生えている。

 あれはッ!!

 ―――土埃は化け物の翼によって消し飛ばされ、そしてその姿が露わとなった。

 

「なんなんだよ、お前は!!」

「う、そ……あれは」

 

 俺たちの目の前にいる化け物には翼が何枚も生えていた。

 十を越える翼の数―――それは一種類じゃない。

 見える限り悪魔の翼、堕天使の翼、そして……ドラゴンの翼。

 ……例えば朱乃さんは堕天使と人間のハーフで、その状態で悪魔になったから堕天使と悪魔の翼をその身に宿している。

 だけど目の前のこいつは悪魔と堕天使に加えてドラゴンの翼まで備えているッ!!

 

『ひゃはははははははははは!! づぶれろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

「……ッ!」

 

 化け物はそこらにある瓦礫を次々と俺たちへと向かって投げてくる!

 まるで子供が玩具で遊ぶように楽しそうに……だけどその圧倒的な残虐性で寒気がする。

 なんたってこんな化け物がこの町に現れるんだ!

 

「リアス、アーシアを連れて逃げてくださいッ!!」

「何を馬鹿なことを言っているの!? あなたを置いて逃げれるはずがッ!!」

「良いから!! だってこいつは―――まだ本気すら出していないんです!!」

 

 ……化け物は動く。

 俺がさっき確信したこと。

 それは―――奴が龍殺しの力を持っていることだ。

 例えどれだけ力があっても、この堅牢な赤龍帝の鎧を壊すのは難しい。

 特に……俺に対してほとんどのダメージを与えず、鎧だけを完全に壊すなんて芸当をこの化け物が出来るはずがないんだ!

 それで肌に刺さるような寒気に納得が行く。

 

「こいつはッ!! 俺のドラゴンショットを喰らいました! だから魔力に何らかの耐性があるはずなんですッ!!」

 

 俺は突進してくる化け物の動きを止めるように両手で巨体を抑えるも、強すぎる猛攻に押され始めるッ!!

 ……謎の敵を前に、王であるリアスを危険に晒すわけにはいかねぇんだ!

 それにこいつに背を向けたら、確実にやられる。

 だからリアスとアーシアを逃がさないといけない!

 

「良いから早く行ってください!!」

『はひゃぁぁぁぁぁあああ!!!!』

 

 化け物はとうとう翼に生える羽を弾丸のように放ってきた。

 堕天使の翼から放たれる羽の弾丸。

 ……不味い、今避けたら弾丸は後方の二人に直撃してしまう。

 ―――やっぱ、男なら惚れた女くらいは身を呈してでも守らないといけないよな。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉおッ!! 間に合えぇぇぇえ!!!」

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostpBoostBoost!!!!!!!!』

『Jet!!!』

 

 鎧から発せられる倍増の音声と共に俺は加速を重ね、リアスとアーシアの壁となるように立ちふさがる。

 そして―――羽は俺の体を貫く……ッッッ!!?

 

「あが……ッ!? んだよ、くそ……いてぇなッ!!」

 

 ……羽の攻撃を全て受け、血反吐を吐いて肩で息をするッ!

 鎧を纏っていてこの様だ―――二人なら、確実に死んでいた。

 その事実に俺は怒り心頭に化け物を睨む。

 

「ふざけんじゃねぇ!! 二人を傷つけさせてたまるか!! 龍牙の僧侶(ウェルシュ・ブラスト・ビショップ)!!!」

『Change Fang Blast!!!!!!』

 

 俺は内なる駒の性質を魔力特化型の僧侶に変換し、背中に装備された二つの砲台に魔力を溜める!

 さっきのドラゴンショットが駄目でも、こいつはそれとは比べ物にならない威力がある!

 ブゥゥゥン……砲口には赤いオーラが集結していき、パワーをチャージしてゆく。

 化け物との距離は十分ある!

 

「……なんでこっちを襲ってこない―――舐めてるのかッ!!」

 

 ……オーラのチャージが終わり、俺は砲台から化け物に向かって照準を合わせ―――そして放った。

 

「ドラゴンブラスターァァァァァ!!!!!」

 

 ―――視界を埋め尽くすほどの赤いオーラ。

 出来る限り周りへの被害を抑えるために範囲を狭め、砲弾を濃縮したドラゴンブラスターだ。

 

「……はぁ、はぁ。ダメだ、トリアイナの連発は、体力が……ッ」

 

 俺は地面に膝をつき、トリアイナの弱点である体力の消耗に苦渋する。

 まだいけるけど、でもこれ以上トリアイナを使いつづけたら俺が持たない……ッ!

 

「イッセー、手ごたえは?」

「……正直、あれでダメージが与えられなかったらどうしようもないです。濃縮したドラゴンブラスターを直撃したんです」

 

 ……再度煙に包まれるこの空間。

 もう手が残っていない。

 俺の手はもう真女王を残せば何もない。

 あるとすればアスカロン位だけど―――悔しいけど、オルフェルさんみたいに剣を扱うことは出来ない。

 煙は再び晴れ、化け物を見るが……傷はある。

 血はドクドクと出ていて、負傷はしている。

 だけど……気持ち悪い笑みは健在だ。

 

「……お願いします、アーシアを連れて逃げてください」

 

 俺は負傷した個所を抑えながらリアスにそうお願いする。

 怪我をした状態では二人を護りながら戦うなんてことは出来ない。

 

「…………。イッセー、私ってそんなに薄情な女に見えるかしら?」

「だ、だから今はそんなことを言っている場合じゃ―――」

 

 ―――俺はリアスの方を振り返ってそう言おうとした時だった。

 ふにょん……とてもとても柔らかい感触が顔を包み、俺は温かい何かに包まれた。

 俺はそれを知っている。

 そう、これは俺が愛してやまないもの―――おっぱい……ッ!!

 り、リアスと恋人同士になってから初めてのおっぱい!

 すなわちファーストおっぱいだ!!

 すげぇ、なんか今までと気の持ちようが違う!!

 あれだ、俺の女のおっぱいだ! って感じの優越感なのか、これが!

 ははは、何を言っているか分からんがとにかく!

 

「あ、ありがとうございます!」

「こ、こら! 戦闘中にもふもふしな―――あぁんっ」

 

 あ、喘ぎ声、だと……ッ!?

 俺はリアスの反応につい色々な部分が反応してしま―――って、イテテテテ!?

 

「だ、ダメですぅぅぅぅ!! 私の目の前でイチャイチャはダメなんです~!!!」

「あ、アーシア!?」

 

 あ、アーシアが俺の頬をめっちゃ抓ってくる!!

 ってこんな状況で何してんだ、俺たちは!

 

「リアス、とにかく今は―――」

「―――帰ったら、何時間でも私の胸……触らせてあげる」

 

 ―――その言葉は俺の耳に良く通った。

 何時間でも、好きに……触れる?

 この世界にそんな夢幻な言葉があったのか……ッ!?

 

「そ、それって……ちょっとハードな触り方でも」

「ええ、幾らでも好きなだけ。どんなことでも許してあげる―――だからこの場を切り抜けるのよ!」

 

 ……ははは。

 はははははははははは。

 

「―――あ~っはははははははは!!! よっしゃぁぁぁぁああああ!!!!」

『―――うぉぉぉぉぉんん!!!なぜだぁぁぁぁ、なぜこんなことでまたもや、またもやぁぁぁぁあああ!!!!』

 

 ドライグの叫び声が聞こえるが、関係ねぇ!!

 リアスの素敵なおっぱいが!! 99センチの爆乳が!!

 この手で好きに出来るんだ!!

 ここで勝たなきゃ男じゃねぇ!!!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostpBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostpBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostpBoostBoost!!!!!!!!!!!!』

 

 過去最大級の倍増の音声が鳴り響き、俺は更に化け物―――いや、俺の至高なる目的の犠牲者にマッハで近づく!

 

「いくぜぇぇぇ!! 龍剛の戦車(ウェルシュ・ドラゴニック・ルーク)ゥゥゥゥゥ!!!」

『Change Solid Impact!!!!!!』

 

 トリアイナで鎧を戦車化にし、更に両腕の撃鉄を光速で何度も打ち鳴らしまくる!!

 度重なる倍増の力で高まった俺の拳を振りかぶり、そして―――犠牲者君に連打するように光速の打突を放つ!!

 

「うりゃぁぁぁぁぁ!!!!!」

『あがががががあがががががががががががあがあがががががッッッッッ!?』

 

 俺の拳は止まることを知らず、あまりにも早すぎる上に強すぎる拳の力は、堅牢な戦車の鎧の籠手でさえ決壊し始める。

 犠牲者君は次々に拳をクリティカルヒットしていき、先ほどまでの攻防が嘘のように血反吐をその辺りに散らし続ける!

 そして―――

 

「これが俺の、全力だぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 ガキィィィィィィッ!!!

 最後というように撃鉄を打ち鳴らし、激しいオーラをちらつかせて化け物へと放つ!

 減り込む拳は化け物を貫き、そして…………

 

「―――おっぱいこそが正義だ。うん、それに間違いはないっ!!」

 

 ……動かなくなってしまった。

 

「…………ねぇ、ドライグ」

『もうやだぁぁぁ……なんであいぼう、あいぼうだよぉぉぉ……』

「……駄目ね、ドライグが壊れてしまいそうだわ」

 

 リアスはあきれ顔でそう呟き、俺へと近づく。

 

「何はともあれよくやったわ、イッセー……また力の覚醒が私の胸だったけど、もう諦めたもの……」

「え、えっと、その……ごめんなさい」

 

 俺は鎧を解いて、リアスに頭を下げる。

 だけど俺の頭の中では今日の夜、リアスの胸をどうしようという煩悩でいっぱいだった。

 ぐふふふふ……そうだな、先ずはスタンダードに―――

 

『ぎゃは…………あがぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!!!!』

「…………ッ!?」

 

 ―――化け物の、怒号。

 それと共に俺の腹部に何かあり得ないものが突き刺さっていた。

 これは―――う、で?

 

「―――イッセー……ッ!?」

 

 ……駄目だ、急に視界がどんどん暗くなっていく。

 なんか、力を吸われる……そんな感覚が俺を包んでいた。

 

『ひひひひひひひひッ!! がぁっ!!?』

 

 ……化け物も、先ほどの俺の攻撃が堪えているのか、血反吐を吐きながら―――でも俺から腕を抜かない。

 

「このぉッ!! 私のイッセーから、手を離しなさいッ!!!」

 

 ……リアスは化け物に向かって滅びの魔力を放ち続ける。

 だけど―――駄目だ、嘘だろ……?

 こんなところで、また俺は死ぬのか?

 

「はぁ、はぁ……はな、せッ」

 

 俺は化け物の手を掴む。

 ピクリとも動かない手。

 ……意地でも離さないってことかよッ!

 

「俺は、死なないッ! ハーレム、王になって……最強の兵士に、なるんだッ!!」

 

 ―――俺は瞬時に鎧を展開、その余波で化け物の手を弾き飛ばす。

 しかし傷は深くすぐに鎧は解除され、その場に倒れ込みそうになった。

 

「い、イッセーさんッ!!」

 

 ……アーシアはそんな俺を抱き留め、そしてすぐに治療を開始する。

 だけど、この喪失感はなんだ?

 魔力が、全て奪われたような感覚……そうか、あいつの力は奪う事なのか。

 

「―――ッ!? 血が、止まらない?」

 

 ……アーシアは呆然とそう呟く。

 嘘だろ?

 なんで、アーシアの神器が俺に働かないんだ?

 アーシアの力は全てを癒すはずだろ?

 それなのに、なんで……

 

「駄目です……ッ! このままじゃ、イッセーさんは!!」

「何か手はないの!? くっ!!」

 

 リアスは俺たちの周りに結界を張るも、化け物の進撃は止まらない。

 俺の血は流れつづけ、次第に意識すらも―――

 

「目を瞑ってはダメ、イッセー! 私の胸を揉むんでしょ!? 今ならいつか言ってた吸うのも許してあげる!! だから!!!」

「イッセーさん! イッセーさん!!」

 

 リアスとアーシアの悲痛な声。

 ……ダメだな、女の子を泣かせちまうなんて、オルフェルさんにまた叱られちまう。

 

『ひゃあはははははははははは!!!』

 

 ……化け物はとうとう、結界を破って遅い掛かる。

 ―――その時だった。

 

「―――気持ちが悪い。あなたはどの世界にいても、歪み続けるのですね」

 

 …………新たな結界が展開され、化け物の攻撃は防がれる。

 それはリアスが張ったものと同様のものだけど、その魔力は桁違いだった。

 ……俺はこれを知っている。

 以前、三勢力のトツプ陣が協力して張った結界に限りなく近いものを感じた。

 そして俺を包み込む、アーシアとは違う温かい光。

 色はアーシアと同じで鮮やかな碧色。

 ……俺はその声の主を見た。

 

「あん、たは……一体」

「……話しては治りが遅くなってしまいます」

 

 そこにはヒトがいた。

 全身を黒いローブで覆い、頭までも覆い隠す謎の女のヒト。

 俺からは口元しか見えなくて、そのヒトは俺に光―――癒しのオーラを照らしていた。

 

「……これで命に別状はないでしょう。元々が頑丈な体です―――さて」

 

 そのヒトがそう言う頃には俺の腹に空いていた穴は消え去り、血も止まっていた。

 血を失いすぎて眩暈は起こすけど、五体満足な体。

 リアスもアーシアもその存在に驚いており、そしてその存在は真っ直ぐと化け物の方に歩いて行く。

 

「あんたは、何者なんだ? どうして俺を助けて……」

「……放って、おけるはずがないじゃないですか―――だって、世界は違えども。あなたは兵藤一誠なんですから」

 

 そのヒトは微笑んで、そして化け物の方を見る。

 そして……

 

「私のことはアイとでもお呼びください―――さて、ようやく私の前に姿を現しましたね」

『がぁ、がぁぁぁ!! き、さまはぁッッ!!!』

 

 ……化け物が、アイと名乗るヒトの姿を見て言葉を話す上に、怒りを露わにした。

 まさかあのヒトはあれの正体を知っているのか?

 

「……あなたがいたせいで、あのヒトは壊れてしまった。だからこそ、私は貴方を許さない」

 

 アイの周りに展開される無数の魔法陣。

 その声音は穏やかなようで明らかな怒りを含ませていて、魔法陣からは並々ならない魔力を感じるッ!!

 

「―――これは魔王クラスの、魔力!?」

 

 ……さすがのリアスもその力の大きさに驚いているようだった。

 そしてアイが魔法陣を全て化け物に放とうとした―――その時だった。

 

『Infinite Booster Set Up―――Starting Infinite Booster!!!!!!!!』

 

 静かな音声、その後に鳴り響く激しいドライグ(・ ・ ・ ・)の声。

 化け物を前にしていたアイもその音声に驚き、そして俺は上空を見た。

 

「―――お前か、この町を泣かせるのは」

 

 ……激しい速度と圧倒的な魔力、オーラと赤い鎧を身に纏って化け物へと急降下する影が一つある。

 それは真っ直ぐ化け物へと落ちて行き、そして上空から拳を化け物の頭部に叩きつけた。

 化け物はそれだけで頭蓋が割れる音が響き、そして俺はその姿を確認する。

 

「……それに俺の仲間にまで手を出して―――覚悟は出来ているんだろうな」

 

 それは……俺たちを傷つけた化け物に怒り狂うオルフェルさんだった。

 

『Side Out:兵藤一誠』

 

 ―・・・

 

 俺と祐斗が魔物を屠ってほどなくして、俺はあるものを感じ取った。

 悪魔のようでドラゴンのようで、どこか堕天使の気配を匂わせる存在の気配に。

 夜刀さんとの修行がなかったら絶対に気付かないもので、しかもそれは繁華街の方から感じ取った。

 ……どこか嫌な予感がして、俺は祐斗に一声かけてから繁華街まで走り。

 そしてその最中で繁華街の路地裏辺りで結界が張られたことに気付いたんだ。

 そして今、その路地裏に俺はいる。

 鎧を神帝化させ、恐らく最近の騒動の原因を今しがた殴ったところだ。

 頭蓋を割る音が辺りに響き渡り、俺は周りを確認する。

 ……腹の部分の制服が破れて、その場に横になる一誠。

 その一誠の傍で涙を流すリアスとアーシア。

 そして―――

 

「……この前ぶりだな、アイ」

「―――ええ。まさか来るとは思いませんでした」

 

 アイ。

 俺の前に姿を現した謎の女性で、全てがベールに包まれている存在。

 アイは俺の姿を確認すると微笑みを浮かべ、少なからず驚いていた。

 

「……一誠、傷は大丈夫なのか?」

「え、ええ……そこのアイって人に助けられて―――って、オルフェルさん! あんたはこの人のことを知ってるんすか!?」

「知っている、っていうよりかは最近存在を知った。それが正しいな」

 

 俺は減り込ませた化け物から離れ、そしてアイの隣に立って彼女の様子を伺う。

 ……予想通りだけど、やっぱりアイは最上級悪魔クラスの魔力の持ち主だ。

 それを証拠に先ほどまで展開していた無数の魔法陣は一つ一つが良く錬成されたもの。

 それすなわち、彼女の力が努力によるものということを意味している。

 

「……お前がここで一誠たちを助けたってことは、あの化け物は少なからずお前に関係ある存在なんだよな」

「…………」

 

 アイは何も言わずに押し黙るけど、それが肯定を意味している。

 ……そうしている内に化け物は再び立ち上がった。

 頭蓋を砕いたはずなのに、気味の悪い笑いを浮かべる化け物。

 ―――魔物じゃない。

 こいつからは悪意を感じる。

 ……魔物は生きるためにヒトを遅い、命を喰らうことがある。

 それは生きるためであり、魔物には魔物の信念があるんだ。

 だけどこの化け物は違う。

 ただ殺したがために、己が欲求を満たすためにヒトを襲い、襲い、襲い続けて来た。

 匙を傷つけ、花戒さんを傷つけ……この町を脅威に晒した。

 許せねぇよ。

 

「ドライグ、フェル」

『皆まで言うな、相棒』

『ええ、あの化け物が全ての原因ならば。我らはあの化け物を蹴散らすだけのこと。そしてそのために主様に力を貸しましょう』

 

 いつものようにドライグとフェルと言葉を通わせ、士気を高める。

 ともかくこの化け物と戦うには守りが何もない地上では分が悪い。

 ……ここは―――

 

「アイ、この町全体に被害が出ないように結界を張ることは可能か?」

「……ええ。可能です―――でも良いんですか? 私を信用しても……」

 

 ……確かにアイの言う事は最もだろう。

 素性も何も分かっていない謎の人物の力を借りるなんて、本人からしたら愚の骨頂に見えるかもしれない。

 ―――でもアイは一誠の命を救ってくれた。

 それだけで俺は絶大な信頼を置ける。

 誰かを救うことが出来る優しいヒトが、信頼できないはずがないんだからさ。

 ……良し、解は出た。

 

「一誠、お前はそこで休んでろ」

「で、でもッ!! ―――ぐっ……ッ!」

 

 一誠は俺の言葉に対し、さも自分も戦おうという決意と共に立ち上がろうとする。

 だけど体は正直で、すぐに傷の痛みで表情を苦痛なものとさせた。

 ……一誠はそれを理解すると、途端に悔しそうな顔をした。

 きっとこの場で戦えない自分に恥じて、悔しい思いを募らせているんだろう。

 だけど―――

 

「―――誇れ。お前は仲間を護った」

「え? お、オルフェルさん……?」

 

 俺は一誠に真っ直ぐ、そう言葉を紡ぐ。

 あいつは自分のことを低く見る癖がある。

 たぶん今まで自分より格上の相手ばっかりと戦って来て、自分に自信の持てないんだろう。

 

「大切な何かを護ることは難しい。でもお前は命を賭けてまで守り抜いた。最後は油断したのかもしれないけど、それは今後の課題にしろ。だけどさ? ここまでお前の行動は正しいんだ―――それの何を悔しがるんだ?」

「オルフェル、さんッ!!」

 

 すると一誠は俺から視線を外し、体を少しだけ震えさせる。

 

「安心しろ! ここから先は俺がお前を、皆を護る!」

 

 後ろに一瞥し、そして―――化け物に全力の殺気を送った。

 

『ひゃふはははははは―――』

「―――気持ち悪いんだよ、化け物が!!」

 

 俺はいつまでも狂い笑いを続ける化け物に瞬時に近づき、そして……無限倍増を続ける倍増エネルギーを抑えることなく使い、殴り飛ばした。

 化け物は後方に飛んでいき、建物に直撃……することはなかった。

 アイの展開する碧色の魔法陣が壁となり、化け物の動きを建物に衝突する前に止めたんだ。

 

「二度と転生できなくなるくらいに、二度と笑えないくらいにぶっ潰す」

『Infinite Accel Booster!!!!!!』

 

 俺の声音とは裏腹に激しい音声を鳴り響かせる鎧。

 神帝化の際の最大出力を発揮する音声が鳴り響いた瞬間、先ほどとは比べ物にならないほどの力が溢れるっ!!

 その分負担も大きいけどさ―――そんなもん、仲間の想いを背負っているだけで耐えきれる!

 俺は化け物に近づく。

 化け物の背には悪魔の翼、堕天使の翼、ドラゴンの翼…・・・それが幾重にも生えている。

 しかも肌に突き刺さる不愉快な感覚―――龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)か。

 何ともまあ歪な力だ。

 

「どんな経緯でそんな姿になって、どんな経緯でこの町で暴れる―――そんなことはどうだって良い!」

 

 左の籠手から聖剣アスカロンの龍殺しのオーラを噴出させ、そのオーラを左腕に纏ったまま化け物の顔面を貫く!

 化け物はそれを軽快なステップで避けようとするが、俺はすぐさま顕現する。

 ―――先ほど、祐斗と共に戦っていた時に使っていた白銀龍帝の籠手(ブーステッド・シルヴァーギア)を。

 

『Infinite Transfer!!!!!!』

『Reinforce!!!!!』

 

 無限倍増の力の一端をフォースギアに譲渡して創造力の密度を濃密し、そしてその創造力を白銀の籠手に『強化』する!

 籠手はその激しい創造のエネルギーを取り込み、形を変化させる。

 神帝と同じように鋭角なフィルム―――更に宝玉を増やし、白銀の籠手は神帝化を果たした。

 白銀龍神帝の籠手(ブーステッド・シルヴァルド・レッドギア)

 神帝の鎧とは別機関で更に倍増を重ねる武装。

 ……奴は脅威的なほどの戦闘能力を誇っているのは間違いない。

 だけど―――パワーなら、届く。

 

『Over Boost Count!!!!!!』

 

 右腕の白銀の籠手からは一秒毎の倍増が、鎧からはそれを越える無限倍増が行われる。

 体に対する負担にも流石に慣れて来たもんだな。

 さて―――

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 俺は動く。

 神帝の鎧からの無限倍増は全てパワーに回し、神帝の籠手からの一秒倍増は全てスピードに変える!

 一誠はトリアイナという特化型の力でパフォーマンスを変換することが出来るが、俺は俺のやり方でそれを体現してやる!

 

『Over Explosion!!!!!!!』

 

 速度は神速、パワーは絶大。その状態を保ったまま俺は化け物を速度で翻弄する!

 

『ひゃはッ!?』

「やっと仮面が外れて来たな、化け物!」

 

 俺の姿を追えない化け物の背中を位置取り、俺は絶大にまで上昇させた拳を化け物の背中から腹部へと放つ!

 この化け物の人体構造は訳の分からないもの。

 一誠が確実に仕留めたと思えば、すぐに復活した。

 ―――ならばそれ以上の力でこいつを屠る。

 化け物は俺の攻撃で血反吐を吐くが、俺は同じ打撃を放ち続ける。

 放っては血を吐き、放っては血を吐く化け物。

 化け物は俺に反撃しようと、その極太の腕を振り上げた―――今だ。

 俺は即座に左の籠手からアスカロンを抜き去り、そして神速のまま化け物の腕を切り落とした。

 そこから流れる血はドス黒く、それはこの化け物の存在を意義しているみたいだ。

 ……ロキとの戦いは俺にとても絶大な力を与えてくれた。

 一つは紅蓮の守護覇龍。

 新しい覇龍の可能性は、それはもう絶大なものでまだまだ改良の余地がある。

 ……だけどもう一つ、更に絶大な力を与えてくれた。

 ロキは北欧のトリックスターという名に恥じない圧倒的なテクニックを行使した。

 裏の裏の裏をかき、心を揺さぶりトリッキーに傷つけて来た。

 奴の行動一つで俺はたくさんのことを思考し、そしてその結果―――本来、強敵のはずの化け物が相手にならなかった。

 攻撃は全て見切れて、更に隙を突いて化け物に必殺のダメージを与える。

 …………いや、そういえば一つ忘れてた。

 そうだ―――仲間を真に想う強さ。

 それを俺はあの戦いを経て、得たんだ。

 

「そうだな……なんでも出来る。なんでも守れる」

『ふざぁぁぁぁぁ、けらぁぁぁぁぁぁ!!!!!』

 

 化け物は切断された傷をいざ知らず、そのまま俺に向かって特攻を仕掛けて来た。

 ……だけどさ、俺の力は何も赤龍帝の力だけではない。

 

『Force!!』

 

『Creation!!!』

 

 俺は展開を続けるフォースギアを使い、神器を創造する。

 形作るは奴を拘束する力―――例えばフェンリルを封じた時の、魔の鎖(グレイプニル)のような鎖の形。

 動けば動くほど、壊そうと思えば更に強度を上げて離れない鎖。

 白銀の光は鎖を形作る。

 ただしそれは一つではなく複数体の鎖であり、俺はそれを襲い掛かってくる化け物に向けて放った。

 

支配する白鎖(ドミネイト・シルヴチェーン)!」

 

 そう名付ける鎖は化け物の体を支配するように巻き付いて、拘束をしていく。

 更に地面にまで鎖は突き刺さり、化け物はその場から動きを止める。

 ……魔力を円滑に操作したら簡単に破壊される鎖だけど、血の昇る化け物にはそれすらも出来ないようだった。

 ただ物理的に壊そうとするその様に俺は軽蔑を覚える。

 

「―――終わらせる」

 

 俺は紅蓮の球。すなわち魔力で生成された魔力球を手元に出現させる。

 

『Infinite Transfer!!!!!!』

 

『Over Transfer!!!!!!』

 

 更にその魔力球に神帝の鎧と神帝の籠手の二つの倍増エネルギーを譲渡し、魔力球は特大サイズの魔力弾に変わった。

 そのオーラと力の質は正に脅威を感じるものだろうな。

 それを証拠に化け物は―――恐れていた。

 声にならない声を上げ、鎖から逃れようとする。

 

「やっと、気味の悪い笑いを止めたな」

 

 ……こいつは一応、俺の中での現状放てる最強の弾丸だ。

 元々は白銀龍帝の双龍腕(シルヴァルド・ツイン・ブーストアームド)の宝玉を一つ消費して放つことの出来る流星。

 それを鎧の状態で再現する。

 そうだな―――

 

紅蓮の龍星群(クリムゾン・ドラグーン)ってところか? まあ良い。消し飛べ、化け物」

 

 俺は目の前の弾丸を殴り、そして―――放った。

 空を真っ直ぐに穿つ紅蓮の流星は空を切り、そして伸びていく。

 アイの張った結界をいともたやすく破り、そして―――一筋の流れ星のように、化け物へと紅蓮の流星が落ちていった!

 化け物を包む紅蓮の流星の影響で白銀の鎖は形を失っていき、化け物も絶叫を挙げる。

 

『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああぁぁあああああああ!!!!?』

 

 ……威力にして、白銀の流星群よりも一回りかは強力だ。

 まあ赤龍帝の力を限りなく高めた力と、白銀の籠手の力まで譲渡して出来た力だからな。

 現状、守護覇龍の守護龍の逆鱗(ガーディアン・ストライク)に次ぐパワーかもしれない。

 ……次第に化け物からの絶叫は息を潜めていく。

 ―――そして完全に声が消えた。

 俺はそれを理解して化け物に背を向ける。

 

「……チェックメイトだ、化け物」

 

 俺はそのまま仲間の方に歩いて行く。

 後ろにいる皆は目を見開いて今までの戦闘に驚いているのか?

 呆然としている。

 既にアイの姿はこの場から消えていた。

 ……それにしても俺たちの戦闘からあれほど町を完全に護るアイの実力―――何者なんだ、あいつは。

 それにさっきの奴はあいつが言っていた脅威なのか?

 それにしてはあいつは……そこまで強くなかった。

 俺と戦うときに既に体に異常をきたしていたのは、恐らく一誠との戦闘でかなりのダメージを追っていたからだろう。

 だけどそれにしては―――

 

「まさか、あいつにはまだ何かが」

 

 俺はそこまで予想した時だった。

 ―――化け物は、立ち上がっていた。

 更に体を更に歪なもの……怨念の化身と呼ぶほど、恐ろしいほどの姿に変えていた。

 合成獣と呼ぶべきなのか? 頭部はドラゴン、背中には幾重もの多種族の翼、巨大な下半身。

 幾つもの顔が身体中から浮き出ていて、その顔からおぞましいほどの闇を感じる。

 

「……覇。お前は、覇を望んでいるのか」

 

 最早声すら出せない化け物にそう呟く。

 俺がやっとの思いでどうにか出来たものを、奴は間違った方法で臨んでいる。

 ……あの浮かんでいる顔はきっと、あいつに喰われた人々の顔だ。

 それが無数の怨念となって、化け物のタフさと力に変わっているんだ。

 

「……一誠、いけるな?」

 

 俺は振り返らず、後ろの一誠にそう言葉をかけた。

 その言葉と時を同じくして、俺の隣に立つ足音が響いた。

 そこには……一誠が立っていた。

 

「―――当たり前じゃないっすか!! 俺も、一緒に戦います!」

 

 一誠は回復を終えたのか、籠手を左腕に出現させて拳を握っている。

 そして瞬時に籠手を鎧に禁手化させ、くぐもった声で俺に声を掛ける。

 

「一緒に破壊だけを求める馬鹿野郎を倒しましょう!」

「ああ。それが俺たち赤龍帝が見つけたもの。答えは違っても、進む道は一緒―――大切なものを護る」

 

 ……赤い二つの鎧は動く。

 間違った方向に進み続ける化け物を屠るために。

 この町を護るために。

 その覚悟を決めた拳を振るう。

 …………だけど俺たちは知らなかった。

 俺たちが相手にするには、真の敵はこんな三下ではないことを。

 もっとおぞましく。

 もっと強く。

 ―――もっと歪んでいることに。

 

『―――だから、言ったじゃないですか。これから来る脅威を、倒してくださいって』

 

 ―――俺たちの前に黒い何かが通り過ぎる。

 その影は何かをして、俺たちはどういうことかその場から吹き飛ばされた。

 化け物もその存在に驚いていた。

 

『お願いします―――そのヒトを倒して。そのヒトを倒せるのは、あなたたちしかいない』

 

 その目の前の黒い何かに、俺と一誠は驚愕する。

 黒い何かは、より詳しく言えば何色にも染まらないほどの闇色だった。

 黒い絵具に白を足せば、色は灰色に変わる。

 だけど目の前の存在は、本当に染まらない色をしていた。

 闇―――そしてこれまで感じたことのない恐怖と、怨念。

 なんだ、こいつは。

 

『だってそのヒトは―――』

 

 ―――それは鎧。

 何色にも染まらない闇色をした堅牢な鎧だった。

 たくさんの宝玉をあしらった鎧。

 そして俺と一誠が誰よりも目にする鎧。

 その鎧は俺たちと化け物の間に立ち尽くしている。

 …………それはつまり―――

 

『紛れもない、あなたたちなんですから』

 

 ―――黒い赤龍帝の鎧だった。


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