ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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【第8章】 平行世界のダブルヒーローズ
第1話 その名はオルフェル・イグニール


 ……俺は夢を見ていた。

 夢、というべきなのかどうかは分からないんだけどさ……どこか、現実味を帯びて、そして―――悲しい夢だった。

 

『どう、してだよぉぉぉぉ!!!どうして、皆が殺されなくちゃ!!!ふざけんな……ふざけんなよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――!!!!』

 

 男は傷だらけで、手元に血濡れた女を抱きながらそう泣き叫ぶ。

 その周りには幾つもの動かない死体が転がっていて、男は光を失った目で敵と思われる存在を睨んだ。

 ……ゾクッと、背筋が凍るほどの目だった。

 敵ですらそれまではけらけらと笑っていたのにも関わらず、その笑みを止める。

 どこか身構えたようにも見えたが―――男は涙を流し続けていた。

 

『どうして……お前は、皆奪うんだよ……ッ!先生も、恋人も!仲間も家族も!!どうして―――世界はこんなにも、冷たいんだよ……』

 

 ……俺も自然と涙を流していた。

 その夢が幻でも、その辛さを分かってしまったから。

 

『うひゃうひゃ!そんなもん、決まってんだろぉ~、赤龍帝~~~』

 

 しかし男は先ほど身構えたのはどこに消えたのか、口調が軽くなる。

 ……殺意が芽生えるほどに。

 

『そんなもん、この俺が楽しむためだけためのことだ♪何百、何千年と生きていてどうにもつまんねぇからよぉ~―――この際、世界のリセットしようってわけよ♪だから世界は冷たいぜぇ~?うひゃひゃひゃひゃ!!』

 

 ふざけた口調で、そんなことを抜かし男。

 顔も姿も見えず、声だけで殺意が芽生えるほどだ。

 ……だけどそのふざけた口調を前にして、男は何の言葉も発さない。

 ―――違う、発する必要がない。

 男はその身に闇色の何か(・ ・)を纏いながら、光を失った目で目の前の怨敵を見ている。

 そして―――傷だらけの男は天を仰ぎ、涙を流し……

 

『皆……もう、俺無理だわ……どんだけ止められても、さ―――自分を染めてでも、こいつを…………―――殺したい』

 

 ―――その瞬間、その男の体を包む闇色のオーラ。

 闇、だけではなく赤が混じる不気味な色。

 まるでその色は……血。

 そして彼の腕に収まっていた赤い『何か』は―――暗黒に染まっていた。

 

『は?なんだ、これ?こんなもん、俺は―――』

 

 男は余裕だった表情が終わり、焦る表情に急変する。

 それと共に、それまで大切な人を抱えていた傷だらけの男は、血濡れた金色の髪の女の子を地に寝かせて、そのまま怨敵の前に立つ。

 その姿は正に―――人の身を捨てた、復讐の塊。

 

『―――全部、死ねば良い……お前の存在も、命も、野望も、喜びも……お前という存在は、もうここで……死ぬ』

 

 ………………夢はそこで途切れる。

 だけどその後の展開は、何故か俺は容易に想像できた。

 ―――全く以て、寝覚めの悪い夢だ。

 ここまでイラつくほどの夢を見るのは生まれて初めてかもしれない。

 そして―………………

 ―・・・

 

『夢、か……相棒が唸るほどのものならば、それは相当の悲劇な夢であったのだろうな』

『血濡れて全てを失ってしまった男の夢、ですか……何とも悲しい夢です』

 

 俺、兵藤一誠は相棒である二人にそんなことを軽口で話していた。

 昨夜俺の見た夢のことを包み隠さず、世間話も如く話す……これこそ真の関係と呼ぶべきものであり、俺たちの繋がりの強さを意味しているんだ!

 ……そう、現実逃避の一環として。

 

「……なあドライグにフェル。これ、どういう状況なんだろうな?」

『………………心を強く持て、相棒ッ!!』

『彼女たちだってそこまで鬼ではない!……はずですッ!!』

 

 二人の確信を持たない励ましが聞こえるも、俺からすればより現実を突きつけられる結果となった。

 俺の今の状態……それは―――

 ガシャン、シャラン…………鎖でグルグル巻きにされ、拘束される両手両足。その状態で椅子に固定されており、そして

 

「おはよう、一誠。良い目覚めか?」

「おはよう、イッセー。我、元気……イッセーは?」

「うん、元気だよ?―――少なくとも、折檻されていなければ」

 

 ―――ティアやオーフィスによって軟禁されていた。

 事の発端は俺がこの二人に最後に自分の秘密に関して話したことにある。

 いや、元々タイミングが悪く二人に伝えることが出来なかっただけなんだけど、最悪なことにオーフィスとティアはその事実をチビドラゴンズから話されたそうだ。

 それはもう、自信満々にまるで自分のことであるかのように自慢して。

 そして3日間の地獄の鬼ごっこを経て、現在に至るというわけだ。

 とはいえ、軟禁されているのは二人の怒りからではない。

 

「―――我、イッセーとイチャイチャする」

「ならば私は可愛がろう!」

 

 ……鎖はオーフィスの指ぱっちんによって粉々になり、二人が凄まじいほどの近距離で俺と触れ合う!

 オーフィスは腕にくっ付くように抱き着き、ティアは俺の頭を優しく撫でる。

 正に弟をあやす姉のような手際と手癖……そう、この二人がこうも関わりを強要してくるのは、それこそ俺の過去を全て話したことが由縁しているんだ。

 つまり―――この二人に全てを話した瞬間、二人は大号泣。

 その後俺を癒すとか勝手なことを言って、どこかに連れて来て軟禁……そして今に至るってわけだ。

 

「流石は私の弟、良く頑張ったな~。よしよし、私がずっとナデナデしてやる!」

「……嬉しい?イッセー」

「…………………………とりあえず、学校に行かせてください」

 

 ―――切実な願いだった。

 ……一時間後。

 

「んん~~~♪♪♪ふぅ……満喫した。心の底からイッセー分を満喫した気分だ!」

「クンクン……我の体、イッセーの匂い、する」

 

 二人の欲望が静めるには予想以上に時間が掛かり、そして今はこんな風に自由の身となった!

 とても危険な香りがプンプンするものの、ようやくの自由だ!

 俺はそそくさと着替えを済ませて、二人が満足をしている間に室内から脱却しようと試みる……も、それはオーフィスに阻まれた。

 

「……我、イッセーを束縛する」

「えぇ~……まだ満足してないの?」

 

 龍神様はとても我が儘だった。

 ―――俺はとりあえずチビドラゴンズを呼び出してティアを抑え、そしてオーフィスに対しては取りあえず甘やかせまくってどうにか部屋から出ることに成功するのだった。

 ……ともかく、今日はとても忙しい一日になるわけだし、こんなところでもたついては居られないんだよな。

 なんたって今日は……

 

「―――駒王学園のオープンキャンパスなんだからな」

 

 ―・・・

 

「~~~っということで、私達オカルト研究部の仕事はこれくらいよ。そんなに難しいことはないし、仕事は最初の方だけだからそれからは部室でのんびりとしていれば問題ないわ」

 

 俺たちグレモリー眷属+αは部室でリアスの説明を受けていた。

 今回のオープンキャンパスで俺たちに託された仕事は受付とご案内の仕事だ。

 要は校門前で所属学校と名簿を一致させて、中学生の親御さんを案内する役目をソーナ会長から要請されたらしい。

 なんでも今年は例年に比べて倍以上の人が来るそうで、人手が圧倒的に足りないらしいけど。

 ちなみに観莉もまた駒王学園を志望校にしているから、今回もオープンキャンパスには参加するってことを前に聞いた。

 

「仕事の割り当ては……そうね。受け付けは私、朱乃、祐斗、ギャスパーでするわ」

「……ギャスパーを受付に持っていくとか、正気ですか?」

 

 俺はありのままの思いをリアスにぶつける。

 なんたってあのギャスパーが、まともに初めて会った他人と話せるとは思わなかったからだ。

 しかも受付の上でのコミュニケーション能力があいつは著しく欠如しているんだから、この疑問は最もだと思う。

 

「イッセーの疑問は最もだけど、出来ないからってしないなんて私は許さないもの。ね?ギャスパー?」

「はい!僕だっていつまでもダメダメじゃないんですぅ!!」

 

 ―――ッ!?

 ば、馬鹿な!?

 

「ぎ、ギャスパーが前向きとか天変地異の前触れじゃないのかッ」

「ひ、ひどいです!イッセー先輩!!」

 

 俺がそんな風に言うと、ギャスパーは俺の懐に入ってきて涙目でポカポカと腹部を叩いてくる。

 無論痛くも痒くもなく、ただ愛らしいだけの行動だ。

 

「……ともかく、治療の一環よ。会話能力が欠如している社会力皆無のギャスパーがレベルアップするためでもあるわ」

「……部長も何気にひどいこと言ってるよね」

 

 祐斗はリアスの言葉を聞いて、苦笑いをしてそう呟く。

 でもまあデータ照合とかそういう器用な面で言えばギャスパーはこの中の誰よりも適しているわけでしな。

 何分、眷属の中でも悪魔稼業の契約者数は群を抜いているわけだし……パソコン上の中でだけど。

 

「そこでイッセー。あなたには私と朱乃がいないから、臨時で受付以外の皆をまとめて欲しいの」

「了解です」

 

 俺は短くそう頷く。

 多少の不安は残るものの、俺は今いるメンバーを見た。

 右からイリナ、ゼノヴィア、アーシア、黒歌、小猫ちゃん………………ああ、なるほど。

 

「アーシア、小猫ちゃん。よろしく頼むな?二人だけがこのチームの戦力だ」

「ちょ、イッセーくん!?」

「……それは頂けないな、イッセー。少なくとも私はイリナよりは有能だぞ」

「見くびらないで欲しいにゃ~!」

 

 三人が喚くも、残念ながら俺からしたら最悪の結末が目に見えている。

 ……例えばゼノヴィア。

 奴は脳筋だ。脳筋ゆえに、効果音を使いまくって口頭では案内なんて出来ないだろう。

 次にイリナ―――確実にテンパる。

 そして最後に黒歌だが……まあ未来の新入生候補に確実に悪戯する。

 ……っとまあこんなもんだ。

 

「あらあら、イッセーくん?ダメな子を上手く使うのが虐めっ子の本領ですわ」

「そうなんですか?……ってか朱乃、最近俺をそっちの方向に持っていこうとするのを止めてくれませんか?」

 

 ……そうなんだよな。

 朱乃って最近、俺をどうにも自分と同じような性質にしようと、微妙な英才教育を施そうとしてくるんだよ。

 いきなり俺を呼び出して講座をすると思えば、それはドS講座とかも普通にある。

 

「イッセー君は私並の筋がありますもの……鍛えがいがありますわぁっ!!」

「……遠慮します」

 

 朱乃を軽くあしらって、俺は大体の予定を立てる。

 多少の不安は残るけど、潜在的な能力は粒ぞろいなはずだから大丈夫と思う。

 後は……まあ俺の踏ん張り次第か。

 

「じゃあそろそろ行きましょうか」

『はい!』

 

 リアスの一言に俺たちは同調するようにそう応えた。

 

 ―・・・

 

 ……結果から言おうか。

 

「―――我、この学園、入学希望」

「お姉ちゃんが偵察に来てやったぞ、一誠!!」

「あ、にいちゃんだ!!腕章つけてかっけー!!」

「凛々しい兄さんも良い感じだね!!」

「……ふふ、にぃにコレクションに新たな一ページが刻まれた……」

「あ、イッセーくんやっほ!観莉ちゃんも無事に到着したよ~」

 

 ―――何 故 お 前 た ち ま で い る !!!

 俺は心の中で声を大にしてそう言うのだった。

 オープンスクールの仕事が開始して、当初は順調だった。

 ゼノヴィアやイリナのサポートをしつつ、アーシアや小猫ちゃんの様子も見計らいつつ黒歌の暴走を止める。

 多少のしんどさはあったものの、それでも普通にこなせるほどのものだった。

 しかし―――目の前でにんまりしてる奴らが来るまでの話だ。

 

「しかし盛況なものだな~。さ、一誠!私たちを案内するが―――」

 

 ティアが最後まで喋ることはなかった。

 俺は周りに見えないように龍法陣を展開し、ティアを喋られないように施す。

 そして観莉の方を向き、そして……

 

「体育館はこちらの道を真っ直ぐお進み頂いて、突き当りを右に曲がったところになります」

「え、えっと……は、はい!」

 

 観莉は俺の表情に気付いたのか、いつものような悪戯な行動はせずにせっせと移動していった。

 残るはオーフィス、少女モードのメルとフィーとヒカリ。

 ……ここは理由を聞くしかないか。

 

「悪い、アーシアと小猫ちゃん。ちょっとこの場を任せていいか?」

「は、はい!」

「……で、出来れば早く帰ってきてください……あ、あちらが―――」

 

 ……それにしても人の数が異常に多い。

 良く見ればリアスたちの方も相当忙しそうだし、ギャスパーは顔を真っ青にして作業してるし……これはさっさと訳を聞いて早く戻ってきた方が良いな。

 俺はそう思いながらオーフィスたちを連れ、受付用テントの裏に行くのだった。

 

「―――で?忙しいから手短に聞くけど、何でいるんだ?っていうかどうして観莉まで一緒にいたんだ?」

「んー!!んんー!!!」

 

 ……口を塞ぐティアが煩いが、まあ放置しておこうと決める。

 するとメルがすっと挙手をし、俺の問いに答えた。

 

「えっとね、兄さん!オーフィスちゃんとティア姉さんはアザゼルの鴉に呼ばれてここに来たんだよ!私たちは兄さんに会いたくて来て、そこでたまたまオーフィスちゃんが観莉ちゃんを見つけたから、一緒に来たんだ~」

「……なるほどな。オーフィスと観莉は友達だし、アザゼルが呼んだ理由が何かは分からないけど」

 

 ……メルがアザゼルのことを鴉って言ったのは忘れよう。

 たぶんティアの教育だと思うが、今度ティアを問い詰めることにして今は忘れよう!

 とりあえず今この場に居座られるのは面倒だし……そうだな、部室に行っておいてもらおう。

 

「後で落ち合おう。とりあえず今は部室に待っておいてもらっていいか?」

「うん!」

 

 ……あれ?もしかしてメルってティアよりお姉さんしてるんじゃないか?

 物凄い頼りになるし……これはティアよりもお姉さん肌があるような気がしないこともない。

 ともかく俺は皆を部室に送り、そして皆の元に帰ろうとした。

 その時―――

 

「すまないね。少し、聞きたいことがあるんだが」

「……はい?」

 

 俺は突如、学ランのような制服に身を包む長身の青年に話し掛けられた。

 黒い髪で端正で整った顔をしている青年―――その姿を確認したとき、俺は不意に体の筋がゾクッとするような感覚に囚われた。

 俺はとっさに一歩後退り、体が勝手に目の前の男を警戒してしまう。

 

「……悪いね。突然話しかけてしまって……実は俺もこの学校の見学に来たんだけど、青髪の女の子の説明が効果音が多すぎて少し分からなかったものでね」

「……ゼノヴィアの奴―――気付けよ(・ ・ ・ ・)

 

 俺はゼノヴィアに毒突くと共に、先ほどからずっと(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)隙のない青年を真っ直ぐと見た。

 ……感覚で分かる―――この男はただの人間(・ ・ ・ ・ ・)ではない。

 かといって異形の存在ではなく、悪魔や吸血鬼、妖怪などといった類ではない。

 となれば答えは一つ。

 

「これは随分と大胆なことをするもんだな―――人間(・ ・)

「ほう……これは驚きだ。まさかそこまでの警戒心と洞察力があるなんてね―――悪魔(・ ・)

 

 ……間違いない―――こいつは、禍の団のメンバーだ。

 それも一筋縄ではいないほどの雰囲気を持つ、桁外れの実力者。

 人間でありながらそうとまで思ってしまった。

 

「……こんなところで騒ぎを起こすつもりか?」

「…………はは。可笑しいことを言うね。そんなこと、人間である俺がするはずがないだろう?」

 

 青年は笑いながら俺を横切って傍の木々にもたれ掛る。

 リラックスをしているようにも見えるが、幾分隙がないから警戒は怠らない。

 

「俺は残念ながらか弱い人間だ。弱さを知る人間だ―――故に俺は、弱い人間を傷つけはしない。これが俺の……俺たちの理念なものでね」

「人間、理念……ね。ああ、分かったよ。お前のその雰囲気、強さ、考え方―――お前が英雄派のトップってわけか」

「ご明察―――俺の名は曹操。英雄派の二大トップ(・ ・ ・ ・ ・)の一角を担わせて貰っている……人間だよ」

 

 青年―――曹操はそう言うと、俺に背を見せてその場から去ろうとする。

 

「……なんのためにここに来た?まさかヴァーリみたくご丁寧に挨拶をしに来たわけではないだろう?」

「いや、まさにその通りさ―――悪魔の英雄(ヒーロー)を見に来たのさ。そして話してみて理解してしまった」

 

 曹操は振り返り、俺へと人差し指を向ける。

 ……そして宣戦布告した。

 

「―――兵藤一誠。君は俺の宿敵に相応しい存在だ。俺という英雄が完成するためには、君という英雄を倒さなければ成り立たない。故に君を俺のライバルとしようと今決めた」

「……ライバルなんて、ヴァーリで事足りてる」

「はは、つれないことを言うなよ。安心するといいさ―――俺は旧魔王派のように汚い真似はしない。正々堂々、対策に対策を立てて君たちと戦うさ。何せ人間だからね」

 

 不敵な笑みを見せて、曹操は歩みを進める。

 ……だけど俺はその曹操の言葉を聞いて、理解できた。

 ―――こいつは、今までの敵とはわけが違う。

 

「……お前がどんな人間だろうと、俺の大切な存在を傷つけるっていうなら俺は―――全力で全てを護って、お前たちを倒す」

「流石は守護覇龍―――楽しみにしておくよ。それではまた機会ある逢瀬の時まで、互いに力を高めておこうか」

 

 ……そして曹操は森の中に消えていき、そして気配すらも消えていった。

 その瞬間、俺の隣に黒歌が走って来た。

 

「はぁ、はぁ……一瞬、イッセーの殺気がしたから急いで来たら―――まさか曹操がいるなんて思ってもいなかったにゃん」

「……なあ、黒歌―――あいつは、人間だよな?」

「…………うん。あいつは人間…………ヴァーリが覇龍を使わざる負えなかったほどの」

 

 俺は黒歌の言葉を聞いて、次の明確な敵が露わになった気がした。

 英雄派のトップ、曹操。

 まさにあいつは―――英雄に憧れる、まさに子供のような存在。

 俺はそう思った。

 次の敵は―――人間。

 俺はそう感じざる負えなかった。

 

 ―・・・

 

「―――あぁぁ……疲れた……」

「ま、まさか案内だけあれほどの労力を使うとは」

「ちょっと仮眠を取りたいのよ……」

 

 ……無事?仕事を終えた俺たちは休憩室となっている教室で横になりながら、そんな軽口をたたいていた。

 正直に言って舐めていた。

 まさかあんだけの参加者がいるなんて……しかもやけに話掛けられたりしたかた、余計にだ。

 

「イッセー、この黒歌ちゃんがマッサージしてあげるにゃん」

「……姉さま。私もします」

 

 黒歌と小猫ちゃんは謎に元気だし、アーシアに至っては俺に無言で癒しオーラを放出していた。

 外傷がないから効果はないものの、心が癒されるッ!!

 流石は女神アーシアだ!

 

「……なんか私の御株がダダ下がりな気がするのよ」

「イリナ、喚くな……既に地についている株だ」

「……疲れすぎて怒る気にもならないわ……」

 

 あの二人も喧嘩する暇がないほどに疲れている様子だ。

 ……っと、そこで俺の携帯電話に連絡が入る。

 ディスプレイの表示は……アザゼル?

 そういえばティアもオーフィスもアザゼルに呼ばれたって言ってたっけ?

 

「もしもし、アザゼルか?」

『おい、イッセー!今時間は良いか?』

「……良いも何も、今は休憩室でだらけてるよ。で?」

『何、お前のことだ。既にオーフィスやティアマットと出会っていて俺からの連絡だ―――大体の予想は出来ているだろう?』

 

 ―――やはり、そうなのかッ!?

 俺はアザゼルの不敵な笑みの聞こえそうな声音を聞いて、予想が確信に変わる。

 

『苦節の何十年の月日の研究の成果だ―――もちろん、お前がいなければ完成するこの出来なかった人工神器……』

「ついに完成したっていうのか!?お前って奴は、どこまで……ッ!」

 

 俺はアザゼルの言葉につい心が熱くなるッ!!

 それは俺とアザゼルが完成をさせるために協力して創っていた、夢幻のような存在。

 男の子ならば一度は創ってみたいと思うようなもの―――すなわち

 

『人工神器―――時間旅行の二輪(タイムバイク)

「タイムマシンッ!!まさかその始動のために……」

『ああ―――決行は今日だぜ』

 

 俺の中のテンションは跳ね上がるのだった。

 ……そう、俺はテンションが上がり過ぎて、俺の元に届いていたもう一つの連絡を見誤ったんだ。

 そして俺はこの時、まさかこの後に大変なことになるなんて考えもしなかった。

 そんなことはいざ知らず、俺はスキップしそうな勢いでアザゼルの元に向かうのだった。

 

 ―――メールだよ?

 

『イッセー君!後でオカルト研究部に見学に行っても良いかな?私、こう見えてオカルトとかホラーとか好きで興味あるんだ~!あ、部室はオーフィスちゃんに教えて貰ったから大丈夫!!じゃあまたあとでね♪ 観莉より』

 

 ―・・・

 

 …………部室内では凄まじいほどの緊張感が包み込まれていた。

 そこにいるのはグレモリー眷属にイリナ、黒歌……更にチビドラゴンズにオーフィス、ティアといった面々だ。

 そしてその皆の前に立つのが俺とアザゼル。

 そんな俺たちの前に鎮座するのが―――かなりの重量がありそうな轟々しいバイクだ。

 見た目からしてかなり尖がった形をしていて、ここら辺はアザゼルの趣味なのか?

 速度メーターには最速620キロメートルと表示されており、更に他の画面には○○年前なんて数字も表示されていた。

 ……なるほど。

 

「確かに、完成してるな」

「おうよ!俺もこんなにも早く完成してしまうなんて思わなかったぜ!!」

 

 俺とアザゼルがガシッと腕を組み合わせ、友情を確認する!

 ……っと、他の皆は状況を理解できずにポカンとしていた。

 

「……歴史的瞬間が見れるって言われて来たんだけど、一体どういう状況なのかしら?」

「おい鴉。私やオーフィスを呼んだ理由を教えろ」

 

 その状況を打破するためにリアスとティアがそうアザゼルに尋ねた。

 ……するとアザゼルは不敵にふふふっ、と笑ってどこからか巨大なホワイトボードを取り出した!

 

「―――日本にはアニメというものが存在するだろう?」

「ちょ、いきなり何を」

「皆、黙ってアザゼルの話を聞いてやってくれ」

 

 俺は戸惑う皆を抑え、アザゼルの話を続けさせる。

 

「俺は当初、そんなアニメには興味はなかった。所詮は人間の創った娯楽的な存在……そう思っていたのはほんの数十年前のこと―――だが、俺は知ってしまった!!俺の固定概念をぶっ壊すほどの凄まじい人間の想像力に!!」

「「「……こくこく!!」」」

 

 チビドラゴンズはアザゼルの言葉に凄まじい勢いで頷いている!!

 そうか、あいつらはアニメとかそういうのが大好きなんだもんな!

 

「俺はあの感動を忘れはしない……何をしてもダメなヨワタ君を助けようと未来からはるばるタイムマシンでやってきた、トラゴエモンのことを……彼が出した素晴らしい秘密道具の数々をッ!!」

「……アザゼル、良く分かってる」

 

 ……ここでドラゴンファミリー内でのアザゼルの株が一気に上がっているのは気のせいではないだろう。

 少なくともオーフィスの表情はアザゼルの話を聞いてうきうきしたものになっていた。

 ……チビドラゴンズに付き合ってアニメとか見てるから、オーフィスもそういうのを好きになっていたってわけか。

 

「そういう想いから、あの感動を現実にしようとトラゴエモンの秘密道具を次々に開発した!だがしかし!!どうしてもタイムマシンだけは完成しなかった!!」

「……はぁ。もうここは黙って聞きましょうか」

 

 リアスは反論することに諦めたのか、肩を竦めてソファーに座る。

 

「しかし俺はこの地でイッセーと出会い、知識を交換し合って協力し合って今日この日!!タイムマシンならぬタイムバイクの完成へと足を踏み込んだのだ!!」

「そう……俺の創造神器、意識を一時的に過去に送ることが出来る過去への架け橋(ブリッジ・イエスタデイ)とアザゼルの人工神器創造の知識、そして俺たちが調べ漁った魔術の数々を組み合わせてな」

「…………ここまでの魔術と神器の無駄遣いはむしろ尊敬の域です」

 

 小猫ちゃんの的確なツッコミが炸裂するが、当の小猫ちゃんは割とウキウキしていた!

 

「俺は今、こう考える―――男の浪漫は女と酒…………そしてタイムマシンだ!!」

「あ、熱いですぅ!!アザゼル先生の熱意が凄まじいほどに熱いですぅ!!!」

「う、うん……そうだね―――こうも断言されると、逆にカッコよく見えてしまうのが不思議だよ」

 

 ギャスパーと祐斗が戸惑いながらもそう言うと、アザゼルは目の前のバイクに触れて説明を続けた。

 

「ともあれ完成したのがこの時間旅行の二輪(タイムバイク)。これに乗る存在を1週間、任意の過去に送ることが出来る神器だ」

「一週間?何故、一週間なんだい?」

 

 するとゼノヴィアはアザゼルにそう尋ねる。

 ……まあそれについては俺が説明しようか。

 

「それ以上の期間を過去で過ごすと、こっちに帰ってこれないっていうのが理由だよ」

「帰ってこれない?」

「そう。言ってしまえば過去に行くっていうことは、同じ時間軸に同時に同一の存在が二人いるってことなんだ。そしてそこで仮に過去を改変してしまい、本来自分たちがいたはずの時間軸に影響を与えてしまい、過去と現実。この二つに矛盾を発生させてしまう―――つまりタイムパラドックスが起きてしまうんだ」

「…………それが起きてしまうと、帰ってこれないと?」

「ああ。そのタイムパラドックスを起こさないために多彩な魔術、魔法を使って一週間という猶予を創ることに成功したんだ。そこに関してはロスヴァイセさんにも手伝って貰ったよ」

「……まさかあの協力がタイムマシン作成に関わっていたなんて思いもしませんでしたけどね」

 

 ゼノヴィアは納得したような表情になる。

 

「神器の制約としてはまず自分が過去に干渉出来ない術式を組み込んだ。つまりこれは過去を実際に見ることの出来る過去映画館みたいなもの。鑑賞する神器なんだ」

「か、過去を……鑑賞……」

「……昔の映像を、観られる……」

 

 ……俺の言葉に一番に反応したのは以外にも朱乃さんと小猫ちゃんだった。

 俺の姿をじっと見ながら、何やら考え事をしている様子。

 

「だがな。ここまでの神器を創るにあたって、やはり制限を付けなければ完成は出来なかった―――その一つがイッセーだ」

「どういうことにゃん?」

 

 黒歌はアザゼルの意味深な言葉に追及する。

 

「この神器は過去に戻れる神器。干渉は出来ないとはいえ、同じ時間に同じ存在が二人いるというイレギュラーを生んでしまう神器だ―――だからこそ、保険という形でイレギュラーに対応できる存在がこのバイクに乗らなきゃなんねぇ」

「なるほど♪確かに私の王様であるイッセーなら、どんな事態でも対処できるにゃん♪それに神器創造の神器なら帰ってこれる可能性もあるし」

「何よりイッセーがドラゴンの力を二つ宿しているという理由もある」

 

 アザゼルはそういうと、俺はドライグとフェルの神器を左腕と胸元に展開する。

 

「そのために今回、俺はオーフィスとティアマットを呼んだってわけだ」

「……なるほど―――龍の門(ドラゴンゲート)ってことか」

「ご明察だ、ティアマット」

 

 要は仮に向こうで限りないイレギュラーが起きた場合、強制的に現実に戻すために龍の門(ドラゴンゲート)を開かせる存在を用意したいということだ。

 アザゼルの弁では次元の狭間でもドラゴンゲートがあればなんとかなるらしい。

 そういう意味でティアとオーフィスにこの場で説明しているってわけだ。

 

「んでもって二つ目の制限なんだが―――この神器、バイクが故にイッセーの他一人しか過去にはいけねぇんだよ」

『――――――ッ!!!?!!?!?!?!?』

 

 ……ん?

 なんか、アザゼルがその言葉を言った瞬間に場の空気が変わった気がした。

 特に小猫ちゃんと朱乃さん辺りが凄まじいほど目を見開いていた。

 

「……一人しかイッセー先輩と行けない―――なるほど」

「ええ、なるほど……ですわ」

「ははは―――僕も熱くなって来たよ」

「過去……あのイッセー君を、もう一度……」

 

 小猫ちゃん、朱乃さん、祐斗、ロスヴァイセさんが何故か躍起になっていた。

 特に祐斗の不敵な笑みに俺はこの世のものとは思えないような寒気を感じた。

 それこそ先ほどの曹操以上の寒気―――あ、そういえば皆にあいつのことを言ってないな。

 

「……お?意外にもやる気になっているのは4人だけか?」

 

 するとアザゼルは意外そうな表情をしながら、リアスやアーシアたちの方を見た。

 

「……まあ私は過去にイッセーと会っているわけではないから。だからあまり魅力を感じていないの。それなら今のイッセーとイチャイチャしながら映画を見た方が楽しいもの」

「ぼ、僕もほとんど部長と同じなんですが―――と、とりあえず血を吸ってもいいですか?僕、疼いて……はぁ、はぁ……」

 

 ……リアスとギャスパーの弁は同じようだけど、俺は更に寒気を感じるッ!?

 くそ、なんなんだよ今日は!

 背筋が寒くなることが多すぎだろッ!?

 

「……ふむ、お土産はうまいものを頼む」

「い、イッセーくんが私としか遊んでいなかったあの頃…………あぁ、ダメ!!考えるだけで堕天しちゃうぅぅぅぅぅ!!!」

「……お前は何回堕天しかけてるんだよ」

 

 俺は嘆息しながらイリナの頭部をチョップした。

 ……そして俺はあまり乗り気ではないアーシアと黒歌を見た。

 アーシアは少し儚い微笑みを浮かべていて、黒歌はうんうんと何かに頷いている様子だった。

 

「……その、私の過去ってそんなに戻りたくないものといいますか―――私、今が大好きですから!だから今回は皆さんに譲ることにします」

「…………アーシア」

 

 俺はアーシアの傍によってそっと頭を撫でる。

 ……そうだもんな。アーシアにとっては過去は辛いもんな。

 俺は無神経な自分に少し嫌になりながらも、黒歌の方を見た。

 

「ま、私もアーシアちゃんと同じ感じにゃん♪私、今を生きる女だから……それに今はイッセーの眷属候補を色々漁ろうと思ってるにゃん♪」

「……おっと、忘れてた―――イッセー、戻ってくる頃にはお前は上級悪魔になるための用意が全て完了してるからな。一応心構えだけはしとけよ?」

 

 アザゼルがそう言って思い出す。

 ……そっか、俺、上級悪魔になるのか。

 全然実感がないな、俺が上級悪魔になるなんて。

 アザゼルの話では上の意見を全て四大魔王の権力で押し込んで、決定に至ったわけだからさ。

 ……だけどこれで黒歌の安全を確保することが出来る。

 黒歌を救うために上級悪魔を目指していたんだからさ。

 だからかな?黒歌が最近、機嫌が良いのは。

 

「……で?お前ら。誰がイッセーと一緒に行くのか決めたのか?」

 

 するとアザゼルは何やら話し合っている四人にそう言った。

 どうやら小猫ちゃん、朱乃、祐斗、ロスヴァイセさんは乗り気なようで誰が行くかを口頭で相談しているようだ。

 

「……僕、気になるんだ…………イッセーくんがオルフェルくんだった時の姿が。どれほどの凛々しい姿なのか―――ふふ」

「私、最近百円均一の店を発見したんです!!だからそこで品を集めて過去で困らないようにしましょう!!イッセー君!」

 

 …………ロスヴァイセさん?

 あれ?あれだけ凛々しく頼もしい存在に思えたロスヴァイセさんが今はそんな風に思えないや。

 そしてそれ以上に―――俺、本気で感情矯正の神器を創っても誰も怒らないよな?

 あいつのせいで最近あいつと話していると女子から変な目で見られるんだよ!!

 

『……主様の主義に反するとはいえ、主様を苦しませる存在はマザー的のアウトです』

『ああ、その通りだ―――フェルウェルよ、やってみるか?』

『ええ……ドライグの倍加の力と私の創造……この二つが噛み合えば、不可能はないはずです』

 

 ドライグとフェルが真剣にそんな相談をしていると、目の前では状況が進んでいた。

 ……じゃんけんをしていた。

 そしてそのじゃんけんで既に敗者が二人、決まっていた。

 

「そ、そんな……ぼ、僕が負けるなんて……ッ!」

「う、うそばい……一発で負けるんだら、ありえんばい……ッ!!」

 

 ……祐斗とロスヴァイセさんが一発で負けていた。

 それはもう面白いくらい一発で。

 

「先着一名でイッセー先輩と過去旅行ツアー…………本気を出すときが来たようです」

「あらあら、うふふ…………やはり最後のライバルは小猫ちゃんですか。ならば尋常に勝負と行きますわ」

 

 ……うん、もう誰でもいいや。

 俺はそう思ってすっとタイムバイクに跨った。

 ……意外にも座り心地が良く、俺はそれを確認すると跨るのを止めてバイクを背にするようにもたれ掛かる。

 そして目の前では小猫ちゃんと朱乃による激しいじゃんけん大会が行われていた。

 あいこが何回も続き、中々決着が着かない。

 ……するとチビドラゴンズと共に近づくオーフィスの姿に気付いた。

 

「…………我、お勧めしない。イッセー、行かないで」

「ふ、フィーたちを置いていくなんて許さないぞぉッ!!」

「め、メル……捨てられるの?」

「……ぐすッ……にぃに、ヒーのこと嫌いになったの……ッ?」

 

 ―――俺の保護欲が急激に高められた瞬間だった。

 この愛くるしいチビドラゴンズと、最近可憐さに拍車が掛かって来たオーフィスの上目遣い……俺の決心が、決心がぁぁぁ!!?

 だ、だけど俺はやっぱり一回、自分を見つめ直したいんだッ!!

 それにこれは俺に対する、試練の一つなんだよ!

 辛い過去と真に向き合うことが出来た俺の第一歩……昔の謎に手を伸ばせるチャンスなんだ。

 だから決心を鈍らせるわけには……ッ!!

 

「―――はぁ、オーフィスにチビ共。あんまり一誠を困らせるなよ」

 

 するとティアが四人の首根っこを掴み、ソファーの方に投げ捨てる。

 ……そしてティアは俺に顔をずいっと近づけ、俺の目を真っ直ぐと見て来た。

 

「……まあなんだ。私も一誠の過去の一抹を知って、どうにかしてやりたい気持ちがあるんだよ。だけど私は頭が堅いから、こんなことしか出来ないからな」

「……ティア」

 

 俺は一種の感動を覚える。

 ……まさかティアが人の気持ちに敏感になれる日が来るなんてッ!!

 

「……ありがと、ティア。それとごめん―――今まで、ダメ姉とばっかり思っていたよ」

「いやいや、大したことはな―――え、今までそんな風に思っていたのか?」

 

 俺はティアから視線を外すことでその問いに頷く。

 ……するとティアはそそくさと俺から離れ、部室の隅っこで体育座りになってブツブツと何かを呟いていた。

 

「やはり普段からお姉ちゃんをしていないのがいけないのか?それに私は一誠にお姉ちゃんと呼んで欲しいのに、今まで一度しか呼んでくれない……実は私、あんまり一誠に好かれていないのか?いや、そんなはずが……はッ!まさか一誠は年下が好きで、実は年上は好みじゃない……しかしそれではオーフィスは私以上に年上―――ははは、私は嫌われているのか、そうか……うわぁぁぁぁぁん!!!」

「………………………………ごめん、俺がいない間にティアをどうにかしておいてもらえるか?」

「う、うん……ティア姉さん、強いのにメンタルは豆腐だから」

「ティア姉!!そんな傷つくなよな!!そもそもそんなに評価高くないからさ!」

「……フィー。それ、逆効果」

「……我、任された」

 

 オーフィスはグッと親指を立てて頷くと、俺はもう一度小猫ちゃんと朱乃さんの方を見た。

 

「―――まさかこれほどまでとは。ですが小猫ちゃん?私は次、グーを出しますわ」

「……なら私もグーを出します」

 

 …………なんか、心理戦に突入していた。

 なるほど、それだけあいこが続くわけだ。

 っていうか早く決まらないかな?

 俺も早くタイムバイクを始動させたいしさ。

 そう思って俺はタイムバイクを軽く叩いた―――その時だった。

 ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥン…………突如、何か機械的なものが展開される音が響いた。

 

「ん?っておい、イッセー!!タイムバイク、起動してるぞ!?」

「は?」

 

 俺はその異変とアザゼルの声を聞き、自分の近くのタイムバイクを見ると―――それは白銀と黒色に光り輝いていた。

 ……いや、可笑しいだろ?

 タイムバイクは何もしなければただの早すぎるバイクでしかない。

 アザゼルが術式を再度流し、俺の魔力を注がなければこれは動かないんだ!

 明らかに正規の起動じゃないッ!!

 ―――その時、室内に二度ほどコンコンとノック音が鳴り響く。

 それと共に勢いよく開かれる部室の扉…………俺は嫌な予感がした。

 

「やっほ、イッセー君!!この前はいきなり帰ったけど大丈夫だっ…………ってえぇぇぇぇぇええええ!!!!?!」

 

 ―――突如、部室を訪れた観莉が入ってくるなり目の前の異常に気付き、驚きの声をあげる!

 だけどそれだけじゃないッ!!

 観莉はまるで引き寄せられるかのように白銀と黒い光に引っ張られ、俺の方に飛んできた!!

 俺はそんな観莉を抱き留めるも、その衝撃が凄まじかったのか、観莉は気絶する。

 そして―――

 

『二名の搭乗を確認。当機、時間旅行は起動をkkkkkkkkkkkkk―――』

 

 ……いや、いくらなんでもこれは可笑しい。

 起動実験を終えて、安全性を確認しているはずのこいつが今になって暴走とかあり得ないッ!!

 俺はそこで気付く―――足元に、碧色の魔法陣が展開されていることを。

 

『―――外部からの干渉を受諾。当機、時間旅行(タイムトラベル)を変更し、平行旅行(パラレルトラべル)を開始します』

「なッ!?―――アザゼル、これはいくらなんでもおかしい!?神器を強制終了させるんだ!!」

「分かってる!?だけどこいつ、何らかの横槍を受けてこっちの制止を受け付けねぇんだよ!!」

 

 ―――タイムバイクに搭乗する俺と観莉は光に包まれる。

 俺はまるでバイクに拘束されるようにその場から動けず、そして

 

「くっ!!もうタイムトラベルのシークエンス状態だッ!!イッセー!!こうなりゃもうこっちからは止めることは出来ない!!良いか!?飛ばされたら、まずは俺と何とか交信を取るんだ!!ドラゴンゲートでもなんでも良い!!」

「だけどそれじゃあ観莉がッ!!」

「もうどうにも出来ないッ!!だからイッセー、お前がその小娘を護るしかない!!こっちからもどうにか探るから、お前も最大限の努力を怠るなよッ!!」

 

 アザゼルのその言葉を聞き終ると、次第に俺と観莉の体がその場から消えていく。

 神器からは激しいエンジン音が響き、そして―――

 

『イッセー(君)(さん)!!!!!!!!』

 

 皆の叫び声のような声を聴いた後、俺の視界は眩い光に支配された―――……

 

 ―・・・

 

 浮遊感。

 それが今、俺を支配している状況だった。

 どこかに飛ばされた俺と観莉だけど、眩い光が収まったと思った瞬間に感じる浮遊感。

 俺は目を開け、辺りを確認すると―――そこは空の上だった。

 

「はぁぁぁぁあっ!?な、何だよこれぇぇぇぇ!!!!」

 

 俺と観莉は互いに近くにいるものの、視界は晴天の空と真っ白な雲。

 凄まじい勢いで俺たちは重力に引っ張られるように落ちており、俺は咄嗟に観莉を抱きかかえた。

 恐らく、俺たちはどこかしこに転送されたはずだ。

 それが過去か未来かは分からないけど、とりあえず今、俺がすべきことは観莉を護ること。

 ただの人間である観莉を危険な目に巻き込んだ責任を取らなきゃなんねぇ!

 

「ドライグ、フェル!!」

『状況は理解している!まずは神器を展開しろ、相棒!!』

『まずは安全を確保し、それから物事を考えるのです!』

 

 俺は二人の言葉を理解し、すぐさま赤龍帝の籠手を展開、それをすぐさま禁手化させて鎧を身に纏った。

 更にドラゴンの翼を展開し、更に悪魔の翼すらも展開しその場で何とか踏みとどまろうと踏ん張る……っ!

 だけど思った以上に落ちていく勢いが強すぎるッ!!

 

「ギリギリか、アウトか……どちらかだけどッ!」

 

 俺は出来る限り威力を翼の推進力で相殺し、安全に地上に降りようとする。

 普通の人間なら生身でこんな降下は体が持たないから、魔力で観莉の周りに膜のようなものを生成し、そして―――地上が見えた。

 

「―――うそ、だろ……!?ここってまさかッ!!」

 

 ……驚きでしかなかった。

 当たり前だ。

 だって俺の目前に広がった光景、それは―――

 

「―――駒王町って、どういうことだよッ!!?」

 

 ―――慣れ親しんだ町だったからだ。

 しかも俺が知っている駒王町の風景そのもの。

 そして俺が落ちる先は―――駒王学園、校庭のど真ん中だ。

 

「……校庭なら、まだ周りへの被害は少ないはずだ!」

 

 俺はそう理解し、そして……地上に降り立った。

 下降による衝撃は出来る限り殺し、校庭の真ん中に鎧姿のまま着陸する。

 ……ともかく目先の安全は確保した。

 

「……情報だ。いくらなんでも、情報が足りなさすぎる。ここがどこで、そもそも過去か未来か。それをはっきりさせてからアザゼルと交信を試みるぞ」

『それが無難か。ともかく、ヒトに見つかる前に鎧を解かなけれ―――ッ!?相棒、避けろ!!』

 

 ドライグの言葉が耳に届いた瞬間、俺は自分のすぐ傍から殺気を察知した。

 その殺気は真っ直ぐ俺に向かっており、俺は観莉を抱きかかえながら、ステップを踏んでそれを避ける。

 

「くそ、なんだよッ!!」

 

 俺は突然襲い掛かって来た存在に目を向けようとした瞬間―――俺の足元に魔法陣が展開され、そして次々に剣が地面から生えてきたッ!!

 俺はそれを魔力砲を幾重にも放つことで全て破壊し、そして空中に飛ぶ。

 ……それと共に鳴り響く雷鳴と赤と黒を混ぜたような魔力弾が放れるのを黙視した。

 

「観莉を支えたままじゃ腕は使えないし―――足に倍増のエネルギーを集中!」

 

 俺は高まった倍増のエネルギーを足に集中し、向かいくる二つの攻撃を全て蹴り飛ばし、衝撃波により相殺する。

 そしてそのまま地上に再度舞い降り、俺を襲う存在に目を向けた。

 

「おい、いきなり襲い掛かるってどういう了見だ!!こっちは人を支えてんだぞ!?殺す気かッ!?」

 

 俺は頭に血が上り、そう怒鳴り散らし―――次の瞬間、頭が真っ白になる。

 ……当たり前だ。

 

「―――黙りなさい。最近、この町に現れ悪事を働く鎧の存在は貴方なのでしょう?それに何より!!私の可愛い下僕の姿を真似て悪事を働くなんて許さないわ!!消し飛ばしてあげる!!」

「あらあら……やっていいことと悪い事の分別も出来ない悪い子には、お仕置きが必要ですわ」

「……僕の親友の鎧を着ているなんて、趣味が悪いよ」

「……正体を現してください、侵略者」

「そ、その鎧はイッセーさんだけのものです!!」

「何者かは知らないが、それは私たちの兵士のものでね―――多少、勘に触った」

「こ、怖いですけど!先輩の姿で悪いことをするなんて、許さないですぅ!!!」

「……何が起きているかは理解できませんが、ともかく拘束させてもらいます!」

 

 ……だって俺の目の前には

 

「―――ふっざけんな!!お前、誰なんだよ!?やっぱり最近の事件は全て、お前の仕業なんだろ!?」

 

 ―――俺と同じ赤い鎧を身につけ、俺と同じ声を発する男と……リアスや朱乃といったグレモリー眷属の面々がいた。

 ……ああ、そうか。

 そういえばあの時、バイクのAIはこう言ってたっけ?

 ―――平行旅行(パラレルトラベル)

 つまりここは過去でも未来でも、現実でもなく……平行世界。

 

「……ったく、どうしてこうなるのかな」

 

 俺はもう溜息を吐くことすら億劫になり、鎧の兜を収納する。

 そしてその素顔を目の前の人物に見せた。

 その瞬間、目の前の人は皆、驚愕するように目を丸くした。

 

「―――い、イッセーがふ、二人……!?」

 

 ……そう、平行世界。

 つまり俺が二人いたって不思議ではない。

 すると赤い鎧を着た男も兜を収納し、そしてその顔を外気に晒した。

 その顔は俺と差異はあれど、俺と同じ顔をしていて……それで納得する。

 

「……ったく、本当にまた厄介事に巻き込まれるってことか」

 

 ―――一難去ってまた一難。

 俺は…………知りもしない平行世界に、一般人である観莉と共に飛ばされたのであった。


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