ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第13話 二天龍の猛撃

 俺は赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)を纏い、神器の禁手化に伴うオーラの噴射でロキの弾丸を消し去る。

 既にオーディンの爺さんと日本神話の神々との会合は始まっており、爺さんの護衛としてアザゼルがついている。

 ここにいる面子はグレモリー眷属、ヴァーリチーム、タンニーンの爺さんに夜刀さん、イリナ、ガブリエルさん、黒歌、バラキエルさん、ロスヴァイセさん。

 シトリー眷属は実力を考えて後方支援……つまりこの一帯に結界を張り、そして外に被害を出させないようにしているんだ。

 匙に関してはグリゴリが匙の強化のための実験をしているそうだが、まだこっちに帰ってきていない……戦闘には間に合わせるとアザゼルは言っていたけど、どうとも言えないな。

 ……ともかくだ。

 目の前のロキの傍には二つの大きな影と小さな影がある。

 灰色な毛並みの巨大な狼……神喰狼・フェンリルと破廉恥極まりない恰好の女……不死の魔獣・ヘル。

 向こうの戦力はたった三人なのに、この迫力だ。

 

「ヴァーリ、分かっているな」

「ああ―――君と俺でロキを相手取り、その間にフェンリルを封じる。作戦通りでいこうじゃないか」

 

 ヴァーリは口元をにやけさせ、そして白龍皇の翼(ディバイン・ディバイディング)を展開させ、即座にそれを禁手化させた。

 

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!!!!』

「さて。俺も準備万端だ―――悪神ロキ。楽しませてもうおう」

 

 俺とヴァーリは共に空中に浮遊し、ロキと対峙する。

 その瞬間、ロキの傍にいたヘルが姿を消した。

 

「あら、赤龍帝……この前の続きは私でしょう?今度こそ―――食べさせてもらうわ!」

 

 ヘルは俺の前に姿を現し、そして俺の心臓にめがけて鋭く尖らせた手を放つ。

 ……だけどお前の相手は俺じゃない。

 

「…………悪いですね。あなたの相手は熾天使の一人―――不肖ですが、女性天使最強と称される私が相手です」

「イッセーくんには指一本触れさせないわ!!」

 

 ―――ガブリエルさんは6対12枚の翼を織りなし、微笑みを浮かべてヘルの手刀を止めていた。

 ヘルの手刀を止めている手の反対の手には光り輝く美しい槍。

 アザゼルが使うような光の槍ではなく、物体として存在する槍で、しかも神々しい光を微かに見せている。

 更にガブリエルさんに寄り添うように翼を広げ、光の剣を構えるイリナ。

 

「ほぅ……高が天使と言えど、まさかかの有名なガブリエル殿が前線に出て来るとは思いもしなかったわ―――高々天使二匹に、私が破れるとでも?」

 

 ヘルは薄気味悪い笑みを浮かべた瞬間だった。

 ヘルに猛スピードで近づく影―――その影は一瞬でヘルの懐に辿り着き、掌底を放つ。

 その影は二つ。

 

「イッセーにしたことを忘れたとは言わせないにゃん」

「……私達も加勢します」

 

 小猫ちゃんと黒歌は共に白黒の耳と尻尾を生やし、気を纏わせて殺気立つ。

 ヘルは二人の掌底で後方に飛ばされるも、すぐに体勢を整えて二人を睨んだ。

 

「……殺すぞ、小娘が」

「―――人のご主人様に手を出しといて、ただでは帰さない」

 

 黒歌が本気でぶち切れている姿を初めて見る。

 それを見て、ロキは興味深そうに向こうを見ていた。

 

「ふむ……あれではヘルは向こうで手一杯か…………まあ問題はない!」

 

 ロキは手を上空に上げると、途端にフェンリルは動き始める!!

 方向としては高級ビル……丁度会合をしているところだ。

 

「……やらせぬぞ。神喰の狼よ」

 

 ―――一閃。

 夜刀さんによる、流れるような動きと斬撃により、フェンリルの足には一瞬で幾つもの傷が出来上がっていた。

 夜刀さんはフェンリルに神速で近づき、一瞬と言える時間で数連撃の斬撃を喰らわせていた。

 三善龍最強の刀を操るドラゴン。

 フェンリルは自分が攻撃されたのを確認し、夜刀さんに獰猛な視線を向ける。

 そして夜刀さんに遅い掛かろうとするが、それをタンニーンの爺ちゃんとバラキエルさんが遮った。

 バラキエルさんは雷光を、タンニーンの爺ちゃんは隕石級の威力とされる火炎を共に放つ。

 フェンリルはその攻撃に気付いて瞬足で回避し、威嚇をするように咆哮を放った。

 

「魔物の相手は魔物だ、フェンリルよ」

「行くぞ、フェンリル」

 

 夜刀さん、タンニーンの爺ちゃん、バラキエルさんの圧倒的オーラとフェンリルの殺気が交差する。

 その最中。

 フェンリルの足元に魔法陣のようなものが輝く。

 ―――次の瞬間、その魔法陣から無限のように剣がフェンリルに向けて放たれた。

 フェンリルはそれすらも避けるが、しかし避けた先に待ち構えるのは二段構え(・ ・ ・ ・)の巨大な聖なる斬撃波。

 フェンリルはそれに対し、直撃を受ける他なかった。

 

「年長組には悪いけど、僕たちもいることを忘れて貰っては困るよ」

 

 祐斗は聖魔剣エールカリバーを携えてそう宣言する。

 その傍らにはアーサーとゼノヴィアが共に聖王剣コールブランドと聖剣デュランダルを握っていた。

 ……先ほどの攻撃は祐斗の魔剣創造(ソード・バース)による遠距離攻撃と、聖剣使いの二人による斬撃波か。

 って美候も地味に如意棒を伸ばしてフェンリルに攻撃していたが、それはかすりともしていなかった。

 

「人数を揃えてくることはある、ということか。確かに、これならば役割は分担できるな!―――で?我の相手は貴殿ら二人で良いか?それともフェンリルを封じる(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)、その小娘共もか?」

 

 ―――こいつ、理解していやがるか。

 いや、ここまでは想定内だ。

 俺だってロキの立場なら、フェンリルを無力化するための対策を建てるってくらい、予想する。

 奴の言う通り残りのメンバーはフェンリルを封印するための人員だ。

 ヘルとフェンリルを消耗させ、フェンリルの隙を見てダークエルフから調達した魔の鎖(グレイプニル)でフェンリルを無力化する。

 確実に上手くいくとは思わないが、やる価値は十分にある作戦だ。

 ―――次の瞬間、俺たちやロキたちをも包む巨大な魔法陣が展開された。

 これはこの場にはいないシトリー眷属が展開した、転移魔法陣。

 ここまでの人数を強制的に転移させる魔法陣を展開するのに、相当の魔力を使う。

 後は―――シトリー眷属は俺たちがいなくなった後の駒王学園、更に駒王町の守護が役目だ。

 この機を逃さず禍の団が攻めて来る可能性だってゼロではない。

 

「なるほど、場所を変えるというわけか……まあ良い!面倒だが、その趣向に付き合ってみせよう!」

 

 そして俺たちはそのまま転送された。

 ―・・・

 

『Side:終焉の終龍・アルアディア』

『起きてきたと思えば、よくこの異常な状況を察知できるものだね』

「さー。なんか知らないんだけど、胸騒ぎ?みたいなものを感じてね~~~…………それで?この状況はなんなのかな?」

『どうやら北欧の神の問題に、あの赤龍帝たちが関わっている……ってことらしいわね』

「ふぅん…………じゃあ見に行こっか?アルアディア」

『……ほぅ。随分と上機嫌なようね。何が良い夢でも見たいかい?』

「分かんない♪でもぉ~……何か、思い出しそうなんだよねぇ~。とっても大切な何かを。あの赤龍帝くんを見てたら、ね?」

『…………そう。それは良い事ね』

「うん♪―――それでアルアディア。私は介入していいのかな?」

『それは止めておいた方が得策ね。何せあの場には神、悪魔、天使、堕天使……そしてドラゴンがいる。それを全て相手にするのは危険。傍観するに限る』

「それはそれで面白くないけどね~……ま、いっか」

『…………彼らの行った場所は知っているわ―――さあ、我が宿主よ。見届けに行こうじゃない』

「見届ける、ね……素敵、その言い方♪」

『Side out:アルアディア』

 ―・・・

 

 俺たちが飛ばされた転移先はほぼ平地のひらけた土地だ。

 そこには今は使われていない採石場であり、ここはその跡地。

 先程までの立ち位置は変わらず、やることは変わっていない。

 

「さっきのお前の問いに答える―――お前の相手は俺たち、二天龍だ」

「右に同じく…………さぁ、早くやろう、ロキ殿ッ!!先ほどから俺の体は武者震いで止まらないものでね……ッ!!」

 

 俺とヴァーリがそう言うと、ロキは楽しそうに空に顔を向けて、高らかに笑った。

 

「ははははははははッ!!それは良い!!この世界に、我を差し置いて赤龍帝と白龍皇を同時に相手した者などいるまい!!」

 

 ロキは背後に複数の、それぞれ紋様の違う魔法陣を描く。

 あれは前回の俺の戦闘で行った北欧魔術の連続発動か!

 

「ヴァーリ、フェンリルの方は向こうに任せてこっちはこっちで動くぞ」

「了解―――さぁ、二天龍の初の共同作業……というわけでもなかったか。まあ良い、行こう!」

 

 俺とヴァーリはそれぞれ翼を織りなし、瞬間的にロキへと近づく!

 ロキはその瞬間、俺たちに向け幾重にも北欧魔術による弾丸を放った。

 速度の速い弾丸、オーラが桁違いの弾丸……一つ一つ見切るのは正直不可能なほど複雑なものだ。

 

『Reinforce!!!』

 

 俺は即座にフォースギアを展開し、既に溜めていた創造力の一部を『強化』に使い、鎧を神帝化させる。

 鎧の各所が鋭角なフィルムになり、力が湧き出る!

 

『Infinite Booster Set Up......Starting Infinite Booster!!!!!!!!』

「うぉぉぉぉぉぉおお!!!!」

 

 無限倍増は始まり、そして俺はその拳を一直線にロキへと向けた。

 無限倍増によるオーラの逆噴射によりロキの弾丸をいくらか無力化し、更に拳に魔力を集中させて弾丸を殴りつけて霧散させる。

 ロキは不敵に笑みを浮かべつつ魔法陣を展開、それを俺の拳と合わせようとする。

 が、俺は背中の噴射口から倍増のオーラを噴射し、ロキの隣を横切った。

 

「……なに?」

 

 ロキはその行動に怪訝な顔つきになった。

 前回のロキとの戦いでは、俺はロキに加えてヘルまで相手にしていた。

 ……だけど今回の俺は一人じゃねぇ。

 

「初手は譲ろう……合わせろよ、兵藤一誠」

 

 ヴァーリの声が聞こえ、そして横切ったその先の空中にはヴァーリによって描かれた魔法陣が浮かんでいた。

 それは一つ二つではなく、ロキを中心に囲むように、一定の距離で幾つも張られている。

 ―――これは攻撃的なものではない。

 ただし防御的なものでもなければ、結界のような拘束系のものでもない……もっと単純なもの。

 

「まさか―――足場かッ!!」

 

 ロキは気付くが、もう遅い!

 ……空中戦において、最も危険なのは急激に速度を上げた後の急停止だ。

 どれだけの強者でも、突進してすぐに角度を変えて飛ぶことは出来ない。

 その一瞬の隙が死を左右する……それがこの戦いだ。

 だからこその足場。

 俺の突進力と推進力は赤龍帝の性質上、ヴァーリのそれよりも上だ。

 しかも神帝化しているため、それは更に一段階上に行く。

 

「大方、威力を丸ごと返す技をしようと思っているようだけどな!!俺に同じ技が喰らうと思うな、ロキッ!!」

 

 俺はロキを翻弄するように、ロキの周りを足場を利用して光速で移動し続ける。

 魔法陣を足場にして、ほぼノーストップでダッシュを繰り返し、ロキは意外にも苦い表情をしていた。

 そして―――

 

「ぐ、うぅぅぅぅ!!?」

 

 ロキが完全に俺を見失った瞬間、俺はロキの懐へ倍増のエネルギーを全て乗せた拳を放つ。

 拳はロキの横腹にめり込み、そして俺はそのまま殴り飛ばした。

 

「―――ヴァーリ、今だ!!」

 

 俺は後ろに向かい飛び、そしてそう声を上げる。

 その瞬間、ロキを殴り飛ばした上空から白銀の流星のようにヴァーリが飛んできた。

 

「ちぃぃぃ!!ならば―――レーヴァテイン!!」

 

 ロキは飛ばされる最中、神剣レーヴァテインを魔法陣から取り出す。

 そこから放たれる神々しいオーラが身を焦がすも、俺は即座に籠手よりアスカロンを投射する。

 アスカロンは真っ直ぐとレーヴァテインを握るロキの手へと放たれ、そして剣を弾いた。

 更に一時的に籠手に収納していたミョルニルを取り出し、意識を集中する。

 ―――大きさを巨大に。雷をこの身に宿せ。

 そう念を送った。

 

「恐れ入るな、兵藤一誠の作戦は―――二手目だ、悪神ロキ」

 

 ヴァーリは身動きの取れないロキに対し、拳を放つもロキはそれを軽くいなそうとする。

 だけどヴァーリも歴代最強の白龍皇と称されるほどの実力だ。

 空を移動しながらヴァーリとロキは互いに肉弾戦へと発展する。

 二振りの剣は空を切っており、俺は更に意識をミョルニルに意識を集中させる。

 雷……神をも焦がす、雷を放て。

 そう念じた瞬間、ミョルニルから雷鳴が鳴り響いた。

 

「何……ッ!?まさか、ミョルニル……オーディンめ、そんなものまで用意していたのか!!」

 

 途端にロキの表情は変わった。

 ……ロキにとって、それほどこの小槌は驚異のものなんだろう。

 だがこのタイミングで余所見をするとは、慢心が過ぎたな、ロキ。

 

「―――貴殿は誰を相手にしているのか忘れたようだな。隙だらけだ!」

 

 ヴァーリはその隙を逃さない。

 ロキの頭蓋に向けて立体的な足技……俺と模擬訓練をした時の技をロキへと披露する。

 そのロキはその打撃をいなそうとするも、威力を殺しきれず蹴り飛ばされた。

 俺はその機会を見逃さない。

 

「……ここで終わらせるぜ、ロキ」

「くっ……舐めすぎたかッ!!だがこの程度でやられる神と思うな!!」

 

 ロキは極大な魔力を手元に生成し、更に反対の手には手の平サイズの魔法陣を展開する。

 そして俺のミョルニルによる一撃と、真っ向からぶつかり合った。

 雷撃による音と魔力による歪な音が激しい爆音を響かせ、そして―――相殺した。

 

「アスカロン!!」

 

 俺はすぐさま空中で浮遊しているアスカロンの名を叫ぶと、アスカロンは俺の手元に戻る。

 ……しかし、それはロキも同様だった。

 ロキは先ほど手元に展開した魔法陣からレーヴァテインを出現させていた。

 さっきの右手の魔法陣はレーヴァテインを戻すための布石かよ……ッ!!

 本当に抜け目のない野郎だ!

 

「はははは!!!なるほど、素晴らしい!!何ともまあ熟練したもの!これが貴殿の本気か!!」

 

 俺とロキは聖剣と神剣による剣戟へと発展する。

 一端ミョルニルは籠手に収納し、更に懐から無刀を取り出して魔力を供給。

 単純に力の強い性質の魔力を無刀に送ると、それは紅蓮の刃を生成して無刀・紅蓮の龍刀へと変換した。

 赤龍帝の性質を含む刀、つまり刀でつけたダメージを倍増する刀だ!

 

「良くあれを受けて戦えるものだ!精神を完全に壊したつもりが、予想外にメンタルが強いと見たぞ!!」

「るっせぇ!!俺は良い仲間、家族に恵まれた!!それだけだ!!!」

 

 俺のアスカロンとロキのレーヴァテインが何度目かの鍔迫り合いにより、金属音を鳴らせる。

 すると俺の視線の先に覚えたての北欧魔法陣を展開するヴァーリがいた。

 ……今度は俺に合わせろってか?

 

「ははは!分かるぞ、白龍皇と結託して我に攻撃を当てよう、そう考えているのであろう!!だが我こそ悪神!そんなものに安々と引っかかるほど脆弱ではない!!」

 

 ロキは鍔迫り合いの最中、空いている方の手に魔法陣を展開し、そこから速攻で機関銃のように魔力弾を撃ち放った!

 俺はそれを避けきれず、鎧越しに幾つかそれを直撃してします……ッ!!

 口元から少しばかり血を吐き出すも、痛みで目の前のこいつを見失うわけにはいかない!

 ……落ち着け。

 こいつは心理を読むことに関しては一枚も二枚も上手だ。

 それこそ、場数が違う。

 ならそれすらも計算に入れろ。

 こいつが心理戦にめっぽう強く、更に俺の考えを読むのに長けているなら俺の手札でその利点を失くさせればいい。

 俺の手札は―――フェルだ。

 

『Force!!』

『Creation!!!』『Creation!!!』『Creation!!!』『Creation!!!』

 

 俺は胸に装着してあるブローチ型の神器に溜まる創造力を分割して使い、連続で神器を創造する。

 連続創造により頭が割れるように痛いけど、そこの部分も考えて神器は創った。

 一つは回復系の神器、癒しの白銀(ヒーリング・スノウ)

 こいつでロキの攻撃による傷と、頭痛をある程度治す。

 そして残り三つがこいつを追い込むためのものだ。

 

「行け、白銀の追鎖(チェイサー・シルヴチェーン)

 

 残り三つの神器は今だ白銀の光で包まれているが、俺は構わず三つの内の一つを放つ。

 俺の手首には太いバックルのようなブレスレットが装着されており、鎖には鋭い棘のようなものが生えている。

 こいつの性質は簡単だ。

 ロックオンしたターゲットをひたすら追い続ける、ただそれだけ。

 だけど耐久度を重点においているから攻撃により壊れる心配はなく、そこまで多量の創造力なしで創れる使い勝手の良い神器だ。

 

「面倒な力だ……ッ!!神器を創る神器など、忌々しいことこの上ない!!」

 

 ロキはヴァーリの方に意識を向けながらも鎖を避けたり、魔法陣で防いだりして立ち回る……やはり一筋縄では行かないか。

 なら残り二つの神器だ。

 俺はそれを二つ、手に取る。

 アスカロンと無刀はひとまず収納し、宙に浮かぶ光を掴む。

 

無空の理(スペース・ボックス)―――魔剣創造(ソード・バース)!!!」

 

 光は俺の両手から吸収されるように入っていき、そしてその効力を発動していく。

 ―――俺が創造したのは、馴染み深い俺の友が使う神器、魔剣創造。

 そして何もない空間に壁や床などと言った箱のようなものを創る神器、無空の理(スペース・ボックス)

 極端に言えば魔剣創造は祐斗の持つそれよりも遥かに下回る劣化版、『無空の理』に関して言えばただ物体を創るだけの神器だ。

 だがこの二つが噛み合えば……いや、三つが噛み合えが化学反応を起こす!!

 二つの神器は言わば内蔵型の神器。

 俺が思ったことをそのまま起こすタイプの神器。

 神器自体に決まった形はない。

 

「ヴァーリ!お前はいつでも打てる準備をしろ!!」

 

 俺はそう叫び、そして飛び立つ。

 鎖を操作してそれすらも武器にし、縦横無尽に空を駆け巡るロキを追い込める!

 

「我を翻弄するつもりか?はははは!!目的が分かってしまえば、こんなもの大したものでもない!!」

「息巻いてろ―――教えてやる。例え分かっていても、絶対に避けることの出来ない必中があるってことを」

 

 俺はロキの移動する所々に幾つもの白銀色の壁を創る。

 

「なるほど、我の移動を制限して追い込む、か―――だが甘い!!」

 

 ロキは魔力の逆噴射により壁を乗り越えて避ける。

 その瞬間を狙う。

 

「……剣が、生えただと?」

 

 ……俺は先ほど創った壁に、魔剣創造による剣を生やせる。

 良く祐斗が行う技の一つだ。

 壁から生えた魔剣はロキへと向かい勢いよく放たれ、ロキはそれはレーヴァテインで粉々にした。

 

「ちっ……やっぱそうなるよな」

「ふっ…………来ないのであれば、我から行くぞ!!」

 

 ロキは不敵に笑みを浮かべ、そしてヴァーリの方へと直進する。

 俺は次に自分の足元に床を創り、それを足場にして力強く飛び上がった。

 

「ははは!流石に反応するか!だがそんなものでは―――何?」

 

 次の瞬間、俺はロキの周りに白銀の光で包む空間を創った。

 そしてその内側に魔剣創造で魔剣を創り、串刺しの部屋を再現する!

 

「なるほど、空間を創り、その内側に剣を内包する。中々に良いコンボだ。そしてこれを破った瞬間、我は白龍皇の一撃をまともに受ける…………だが」

 

 ―――ぞくっ。

 俺は背筋に冷たいものを感じた瞬間、背中に脅威を感じた。

 俺はそちらを振り向くと、そこには…………ロキの姿があった。

 剣を振りかぶり、既に振り下ろしている状態。

 

「がぁぁぁっ……ッ!!」

 

 ……つまり、俺はロキの直撃をまともに受けたということだった。

 俺は先ほどとは比べようにないほどの血を吐くッ!!

 

「途中まで良かったが、創った神器が脆弱であったな。ただの転移魔法陣のマークを貴殿の付近に先に用意していたのだ。油断したな、赤龍…………」

「……ああ、そうだな―――お前が、油断したな」

 

 ロキは最後まで言葉を言い切ることはなかった。

 それは…………ロキの足に鎖が巻き付いていたからだ。

 この鎖はただ一つの目的しかないもの……ただ追尾して、捕まえる。

 だからこそ相手からしたら対処が簡単なものだ。

 故に俺は目くらましでしかも派手な神器を二つ創った。

 そして自ら策に溺れた振りをし、そして直撃を受け…………拘束した。

 二つの神器はただの囮。

 そしてこの鎖は一度捕まえた相手を離さない。

 鎖は途端にロキの体に巻き付き、更に棘を鋭くさせた。

 ぐるぐる巻きにされるロキの顔には珍しいことに焦りが見え、その次の瞬間―――ヴァーリからの絶大な一撃がロキへと直撃する。

 それは地面に向かって放たれ、地上で戦闘をしている皆の方に放たれていた。

 極太の白い魔力砲は地面を削り、それを境に俺の創った神器は全て消滅する。

 

「全く……手の込んだ作戦だな。だがあれほどまでに対応されるとは、予想よりも遥かに厄介だ」

 

 ヴァーリはどこか関心めいたようにそう呟いた。

 今の発言を鑑みるに、恐らくあれでロキでは倒れていないんだろう。

 ……ミョルニルの力を打ち消し、二対一でもあれほどまでに攻略される……最後のは捨て身の作戦で、俺もそれなりに深い傷を負った。

 

「……行くぞ、ヴァーリ」

 

 俺は先導するようにロキが飛んでいった方向に向かう。

 魔力砲により地面に大穴が空いており、若干土埃が舞っていた。

 ……その中に一つ、影があった。

 

「―――いやぁ、驚いたものだ。まさかあれほどの連携を行えるとは、我も予想外であったぞ。いや、もはや慣れていると言っても良いほどの素晴らしい動きであった……あれはそう。何度もシミュレーションを重ねたと言えば良いか?」

 

 少しばかり絶望を覚えた。

 ロキから聞こえる声は無傷のように軽く、関心している声は逆におぞましく聞こえる。

 ヴァーリの全力を喰らってあれなのか?

 

「それに我の禁術を受け、未だに精神が安定しているのも気になるが……ミョルニルを使うことが出来る貴殿が、何故そもそも禁術に嵌ったのか―――考えれば考えるほど面白いな、赤龍帝!!」

 

 ……土埃は張れ、そこにいたのはローブが消え去るも、体に火傷が少しある程度のロキであった。

 あれを喰らって、火傷一つしかない。

 …………違う、良く見ればロキの周りにはいくつかの魔法陣があった。

 恐らくはあれでヴァーリの攻撃を幾分か防いだ……北欧式の魔術によって。

 

「しかし惜しい!実に惜しかったな!!我に対し、同じ北欧魔術を使ったのが失策であった!それか赤龍帝の白龍皇の立場を逆にすれば話は変わったが……だがおかしいな。二天龍の共闘に慣れている(・ ・ ・ ・ ・)のは赤龍帝のみだ」

「お前、どこまで……ッ!!」

 

 俺はロキの呟きを聞き、戦慄する―――たったあれだけの戦闘で、何故そこまで到達できる!?

 俺の根本の部分に到達しかけているロキは、どこまで頭が働いているんだ……!?

 

「……あれは危険だ。どちらかと言えば兵藤一誠、君に似た性質だよ」

 

 ヴァーリはそこで表情が固くなった。

 

「少ない情報で対策を立て、最善の戦闘を行う……それがロキの本質。正に君と同じ―――いや、場数を考えれば奴の方が格段に上だ」

「……戦闘が長引けば、不利になるのはこっちってわけか」

 

 俺は息を飲み、ロキの動きを警戒する。

 しかしロキは今だ何かをぶつぶつ呟いている……その束の間だった。

 

 ―――ウォォォォォォォォォンンンン!!!!!!!

 

 …………俺の耳に、狼の絶叫のような鳴き声が聞こえた。

 ロキはそれを聞いてふとそちらの方を見る。

 

「―――無双・億変化の刀舞」

 

 そこには強力な刀を幾つも創り出し、それを浮かべて永遠と撃ち放つ夜刀さんの姿があった。

 体中に傷があり、それほどに戦闘が激しいのは見て分かる。

 フェンリルは夜刀さんの攻撃を避けるも、幾つかは避けきれずに直撃していた。

 ……一つ一つの刀が強力な性質を持つ夜刀さんの奥義の一つ。

 そして次はタンニーンの爺ちゃんが業炎を放ち、更に後方から他のメンツが遠距離で攻撃している。

 比較的被弾率が低い完全なテクニックタイプの夜刀さんが先陣に立ち、後ろから強力な後方支援があのチームの戦い方か。

 

「ほう。思った以上に我が息子は苦戦しているな…………ふむ、これは所謂境地というものか?」

「……その割には余裕さが消えないな―――だけどそれもここまでだ」

 

 俺がそう言った瞬間、自体は急変した。

 今の今までフェンリルの相手をしていた夜刀さん達はフェンリルから距離を取ったんだ。

 そして……

 

「にひひひ♪んじゃ、行ってみよう―――解析(アナイシス)

 

 次の瞬間、スィーリスは目元に装飾の富んだ機械的な眼鏡が出現する。

 ……森羅解析の眼鏡(ホール・アナイシスレンズ)

 森羅万象、心以外の全てを解析してしまう桁外れの力で、それは神すらも解析してしまうほど。

 今、あいつの視線はフェンリルに向いており、そして何かをぶつぶつと呟いている。

 

「形成は基本的には魔物と同等、でもあの牙は神仏を殺す神殺し……でも魔術に神殺しに対応する術式のみを特化すれば…………うん、ラクショー♪」

 

 フェンリルはスィーリスの不審な行動に反応し、即座にそこから移動しようとした。

 ……しかしそれは叶わない。

 動こうとした瞬間、フェンリルの四足に魔法陣が展開され、一瞬動きを止めた。

 

「ナイス、ルフェイ!」

「え、ええっと……やっちゃってください、スィーリスさん!」

 

 アーサーの妹のルフェイちゃんは杖をフェンリルに向けて、スィーリスにそう言う。

 あの魔法陣の展開者はルフェイちゃんか……確かに凄まじい才能だ。

 あのフェンリルを一瞬でも止める魔法陣を創れるなんてな。

 スィーリスは手元に魔法陣を展開し、そしてその中に腕を突っ込んだ。

 そしてそこから―――巨大な鎖を取り出し、それをフェンリルに向かって放つ。

 それは一本だけではなく、何本も積み重なりフェンリルに纏わり、そして拘束していく。

 ……魔の鎖(グレイプニル)

 ただしこれはダークエルフにより元の鎖よりも強化され、加工されたフェンリル専用の鎖だ。

 この戦いで最も厄介な存在であるフェンリルを封じるもの。

 武器加工において最高の力を発揮するのはダークエルフと聞いていたが……これは予想以上だ。

 アオォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!……フェンリルは怒り狂うようにそう雄叫びを上げるが、しかし既に鎖で拘束されている。

 

「ロキ、これでチェックだ」

 

 俺はアスカロンの剣先をロキに向け、そう言った。

 ロキはそれでも表情から余裕差は消えない上に、俺の方を見ずにガブリエルさん達と戦っているヘルを見ていた。

 

「うふふふふふ!案外下種な戦いをするのですね、ガブリエル!」

「あなたにだけは言われたくはないですね―――射抜きます」

 

 ガブリエルさんは槍を矛先をヘルに向け、その先端に神々しい光を集中させる。

 ……あの槍、普通の槍じゃない。

 

「神槍・ブリューナク……これは天界により複製した偽物―――ですが、魔物には効果覿面です」

 

 ガブリエルさんは12枚の翼を織りなし、更に魔法陣を展開した上で突進を試みた。

 ……シトリー眷属にテクニックの極意を教えたのは、あのガブリエルさんだ。

 だからこそ、あの人の戦闘には必ず意味がある。

 

「熾天使が偽物を使う?でも私をそんなもので殺せると思わないことですねぇ~!!!」

 

 ヘルは次の瞬間、どす黒いオーラと共に一撃一撃が必殺レベルの魔力弾を連続で放ち始める。

 ガブリエルさんはそれに対し、手の平に展開した大きめの魔法陣を弾丸の予測線に配置し、そして弾丸を弾く。

 ……ヘルの攻撃方法を予想し、それに対して先に対抗術を用意する。

 これがガブリエルさんの戦い方。

 

「……懺悔なさい、己の罪を」

 

 ガブリエルさんは慈悲のない冷たい言葉を浴びせ、そして―――槍でヘルの腹部を貫いた。

 更に貫いた槍は輝き、その槍の矛の数を……五又に増やす。

 ……嫌な肉の音がここまで聞こえてきて、そしてヘルはその場に絶叫も出さずに倒れた。

 ガブリエルさんはそんなヘルから槍を勢い良く抜き、そして槍に付着している血を払った。

 

「…………これで11回目、ですか―――いい加減、倒れてくださいません?」

『………………いやぁ、ですわぁぁぁぁ♪』

 

 …………始まった、ヘルの蘇り。

 血を大量に出しながら倒れていたヘルは突如、黒い液状の『何か』となりガブリエルさんに纏わりつく。

 ガブリエルさんはそれに対し、嫌悪するような表情で抵抗しようとしたが、それに敵わず体を蝕まれ始めた。

 

「ホント、面倒な奴にゃん!!白音!!」

「はい、姉さま!」

 

 即座に黒歌と小猫ちゃんはガブリエルさんに近づき、仙術による掌底を纏わりつくヘルに放つ。

 それによりヘルはガブリエルさんから消し飛ばされ、空中で浮いた。

 

「そこよぉぉぉ!!」

 

 イリナは純白の翼を織りなして空を飛び、そのまま宙に浮かぶ黒い液体を光の剣で一刀両断した。

 液体は綺麗に真っ二つになり、そして……また一つになり、ヒトの形を形成する。

 そこには傷一つない、元のヘルの姿があった。

 

「あなたたちでは私をどうこうはできませんねぇ……そろそろ諦めたらどうです?」

「全く嫌になりますね……こう何度も生き返られたら、疲れてきます」

「でも諦めるわけにはいかないにゃん。あんたがイッセーを傷つけようとするからには、ここであんたを消し飛ばす以外の選択肢はない!」

 

 ……よく見ればガブリエルさんに限らず他のメンバーも体のいたるところに傷を負っていた。

 4人の連携でどうにか戦っていたんだろうけど……これは面倒な上に厄介だ。

 不死身の魔物、ヘル。

 一度死んでも液状になって蘇り、しかもそこから猛攻を始める化け物。

 

「だけどフェンリルを封じた。ヘルは足止めし、あとは俺とヴァーリでお前を倒せば終わりだ」

「ふむ……赤と白の乱舞も良い余興であったが、やはり我が息子の真の力を温存(・ ・ ・ ・ ・ ・)するわけにはいかぬか(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

 ……ロキはそんなことを呟きながら、魔力を輪状に生成し、それを輪投げをするようにクルクルと回して―――瞬間、俺へと向かって高速で放った。

 

「なッッッッ!!?」

 

 そのあまりもの速度に俺は反応が遅れ、輪は俺の横腹を切り裂いた。

 鎧をいとも簡単に崩し、俺の体へと直接深刻なダメージを与える……ッ!!

 

「貴殿達の速度、力、手札は見させて貰った。確かに素晴らしいほどの才能、力だ!それは認める他ない―――だが様子見は終わりだ、二天龍」

 

 ―――まさかこいつ、今の今まで情報を集めていたのか……?

 俺たちの絶対値を測り、その対策を立てるためにフェンリルすらも力を温存させて……

 

「ヘル、いつまで遊んでいる―――殲滅する時間だ」

「あらお父様♪良いのですか?」

「良い…………甘く見ていたが、戦いが長くなれば面倒だ」

 

 ロキは不敵に笑い、そして自分の立つ左右の空間に二つの巨大な魔法陣を展開する。

 それと共にヘルもまた空中、地に無数の魔法陣を描いた。

 

「……ッ!ヴァーリ、今すぐロキを落とすぞ!!」

「何を言っている?奴がまだ何かを見せてくれるのならば、そちらの方が好都合だ」

「そんなことを言っている場合じゃねぇ!!あれは―――フェンリルを出した時と同じ魔法陣だ!!」

 

 もう喋っている暇はない!

 俺は翼と背中の噴射口を全力で展開し、ロキへと近づく。

 俺はあの魔法陣を一度、見たことがある。

 ロキとの空での戦いで奴が見せたフェンリルを召喚するために描いた魔法陣。

 あれはあの時のそれと酷似している。

 ―――考えてはいた。

 本当にロキの戦力はたったの三つなのかって。

 普通に考えるなら神々を相手にそれほどの少人数で反逆を起こすとは思えなかった。

 しかも相手は北欧魔術を極め、魔術の極地に到達したオーディンの爺さんだ。

 どう考えても―――あのロキが何も対策を立てないとは思えない。

 そして対策がおそらくあれだ。

 しかも最悪の対策……それは

 

「フェンリルの複製……ッ!!」

「ほう、流石に気付くか!!……だが遅い。これでは前回の戦いと同じであるな!!」

 

 前回と一緒……あの時はロキがフェンリルを召喚している振りをしていて、実際にはヘルが召喚していた。

 それを見破れなかった俺はフェンリルの召喚を許してしまった。

 あいつはここで揺さぶりをかけてくる。

 

「……させません!!北欧式魔術、全方位展開(オールレンジ)!!!」

 

 ロスヴァイセさんはロキとヘルの狙いに気付いたように魔法陣を全方位で展開し、そしてそれを一気に発動する。

 狙いはヘルの展開した魔法陣の破壊。

 俺はロキの前に到着し、アスカロンを収納して鎧の力を完全に出し切る!

 

『Infinite Accel Boost!!!!!!!!』

 

 神帝の鎧の全ての力を出し切る音声が流れ、感覚的にはさっきの数十倍の力を確信する!

 

「喰らえぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 俺はロキを殺すほどの力を倍増の力を拳に集中させ、そしてそれを速攻で放った。

 途端に俺の拳に何かを貫く感触が伝わった。

 …………それは余りにも硬いものを貫いた感触だった。

 ぐぅぇ、がぁぁぁ…………そんな、ヒトとは思えない嗚咽の音が俺の耳に届く。

 

「残念であったな……それは我ではない」

 

 俺が貫いた者、それは―――魔物だった。

 人の形をしていない、異形の化け物のような容姿。

 それは腹部を貫かれ絶命しており、次第に光の結晶となって俺の前から消えた。

 ……俺は見た。

 ヘルの展開した空中の魔法陣から無数の魔物が姿を露わにしていて、それは地上も同じだった。

 蟲と合成されているような魔物、魔蟲、合成獣のように異質な魔物。

 吐き気を催すほどの数の魔物がいた。

 

「ヘルは死を司る魔物だ。ある意味で最凶の魔物とも言える……故に魔物を無限に従える魔物の女神だ」

「どけ―――邪魔だぁぁぁぁ!!!」

 

 俺はロキに近づくのを阻む魔物をアスカロンと無刀を使って薙ぎ払う。

 あいつにあの魔法陣を展開させるわけにはいかない……!

 

『Infinite Transfer!!!!!』

 

 俺はアスカロンに膨大な倍増のエネルギーを譲渡し、アスカロンの聖なるオーラを大幅に倍増させた。

 無刀を収納し、そして激しい光で包まれるアスカロンを空中の魔物に向かって放つ。

 光は大きな刃のようになって魔物を消していった。

 

「神剣レーヴァテインよ……神の剣の本懐を奴に見せるぞ!!」

 

 ロキは俺の極大なオーラを含むアスカロンに対し、神々しい光を放つレーヴァテインで力を相殺させていた。

 

『Force!!』

 

『Creation Longinus!!!』

 

 俺は小さな声で神滅具を創造するための言霊を呟き、白銀龍帝の籠手(ブーステッド・シルヴァーギア)を装着した。

 

『Infinite Transfer!!!』

 

 俺は瞬時に白銀の籠手に無限の倍増のエネルギーを譲渡し、白銀の籠手を神帝化させた。

 ……体の負担は過去考えられないほどの物になっている。

 鎧の上だから周りには気付かれていないけど、さっきから口元から血が流れ続けている。

 白銀の籠手からは『Boost!!』の音声が一秒毎に流れ、更に無限倍増は次々に行われている。

 そして同時に発動した。

 

『Over Explosion!!!』

『Infinite Explosion!!!!!』

 

 白銀の籠手の倍増の解放と、神帝の鎧の無限倍増の解放。

 それによりアスカロンは辺り全てを覆うほどの光に包まれ、俺の鎧の赤い色が更に紅蓮に近づいた。

 

「―――む、これは」

 

 ロキは何か驚いた声を上げるが、関係ない!!

 俺の現段階の最大火力だ!!

 俺はアスカロンを振り切った。

 アスカロンから放たれる聖なるオーラは巨大なドラゴンを形作り、ロキと魔法陣を包み込む。

 空中の魔物は完全に消え去って塵になっていた。

 

『相棒、無茶をし過ぎだ!!それでは最後まで持たんぞ!!』

『今までに負った傷の深さを考えてください!!』

「はぁ、はぁ……く、そ……こんな程度で限界迎えて溜まるかよ……ッ!!」

 

 ……俺はドライグとフェルの言葉を振り切る。

 俺は倒れそうになる体に気合を入れるように拳を強く握り、太ももを殴る。

 まだ動ける……奴を倒すまではな。

 今の攻撃でロキを倒した感触は―――ない。

 それを肯定するように、光の中より笑い声が聞こえた。

 

「ははははははッ!!惜しい、惜しいぞ赤龍帝!!これが前哨戦なのが勿体ない!!実に素晴らしい!!何だ、今の一撃は!!我ですらどうにも出来んとは、一介の悪魔が、赤龍帝が出来ることではない!!!だが無念であったな!!!あと一秒、貴殿の攻撃が早ければ我の全てが終わっていたものを―――さぁ、終焉の時だ」

 

 ロキがひとしきりに言葉を終え、そう言った瞬間…………

 オォォォォォォォォォォォォォォォンッッッッッッッ!!!!!!

 ―――二つの、耳の痛くなるほどの大きな狼の咆哮が聞こえた。

 予想は当たってしまった。

 俺の目の前、そこには……

 

「さぁ、スコル、ハティ。お前たちの父を傷つけた者は奴らだ―――ここからは殺戮と蹂躙の時間だ」

 

 ……そこにはフェンリルよりも一回り小さい二匹の灰色の狼がロキを守るように浮いており、当のロキは体の至る所から血を流しているものの、五体満足だった。

 その口元は歪んだ笑みを浮かべており、神剣レーヴァテインを二振り(・ ・ ・)握っていた。


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