ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第10話 居眠りドラゴンは物知りです!

 エレベーターの扉が開いたそこには既にいくつかの影があった。

 兵藤家に出来た地下の空間は異様なまでに広大なものであり、たとえば体長が十数メートルの物体でも入ることが出来る。

 つまり……そこには巨大なドラゴンであるタンニーンのじいちゃんがいた。

 

「これは久しいな、イッセー。お前の顔を見ることを楽しみにしていたぞ」

「タンニーンのじいちゃん!ああ、久しぶり!」

 

 タンニーンのじいちゃんは二カッと凶悪ながらも笑みを浮かべる。

 まあドラゴンだから何とも言えない笑顔だけど、それは言わないでおこう。

 

「ひ、ひぃぃぃ!?や、夜刀君!ど、ドラゴンがいるよぉぉぉ!?」

「落ち着くのでござる、ヴィーヴル殿。そしてお主もドラゴンであろう!?」

 

 ……うん、最もな指摘です、夜刀さん。

 まあヴィーヴルさんがそんな感じの反応をするってのは何となく予想はついていたし、まあ順当と言えるだろう。

 

「夜刀も久しいな。以前、学園にイッセーを見に出向いたとき以来か?そしてそちらが…………なるほど、癒しの龍。三善龍の一角か」

「ひ、ひぃひぃ!?こ、怖いよぉ……ッ!夜刀君も、ディン君もこんなに怖くないよぉ……」

 

 ……そこまで言うか?

 俺はマジ泣きしているヴィーヴルさんに対してそんな感情を抱くも、タンニーンのじいちゃんの方を見た。

 

「…………そうか……俺は、ここまで泣かれるほどに恐ろしい形相なのか―――ははは、何故だ?目から汗が……」

「―――じいちゃんはカッコ良いから!!お願いだから泣かないでくれぇぇぇ!!!」

「そ、そうでござる!多少の怖さは歴戦の覇者の証でござる!誇るべきでござる!!」

「多少……そうか、多少も怖いんだな……ははは」

 

 ―――おいおい、何を言っても逆効果か!?

 ならば奥の手を使うしかない!!

 

「汝、我の契約を以て召喚に応えよ!!とりあえず上にいるけど出てきてくれ!チビドラゴンズゥゥゥゥ!!!」

 

 俺はそれっぽく手を開いて魔法陣を三つ展開すると、魔法陣は赤く染まる。

 そして次の瞬間、その魔法陣から三つの小さな姿が現れた。

 

「うぅぅん……はえ?にいちゃん、どうしたんだ?」

「むにゃぁ……すぅぅぅ……にぃ、たん……♪」

「……むむ。にぃにのにおいがする」

 

 ……そういえばお昼寝の時間だったな、こいつらは。

 だからさっきもあの場にはいなくて、俺の部屋でずっとお昼寝してたんだっけ。

 うん、悪いことをした気もするが今は緊急事態だ!

 

「フィーにヒカリ!今、じいちゃんが凄まじい自己嫌悪に襲われているんだ!甘えてあげてくれ!!」

「フィーはにいちゃんにあまえたいぞー!!」

「……フィーに同意。にぃに~~~♪」

 

 おいおい、なんでこの状況で言う事を聞いてくれないんだ!?

 いつもは素直に聞いてくれてるのに!

 

「俺は……怖いか~……泣かせるほどに怖いか―――」

「タンニーン殿ぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 ―――あれ、どうしてこんなことになったんだろう。

 今更ながらだが、俺はそう思わざるを得なかった。

 

「……あれ?なんで俺たち、こんなアウェイなんだ?」

「さあね。だけどこれほど伝説級のドラゴンが集まって馬鹿騒ぎとは、それはそれで興味深い……」

 

 ……うん、ごめんな。

 匙は複雑そうな表情で、ヴァーリは興味深そうな表情でこっちを見ているもので、俺はそう心の中で謝った。

 だけど俺もこれは不本意な結果なんだよ!

 っていうかドラゴンファミリーが集まった状況では、これはむしろ普通のことなんだ!

 

「……………………カオスだな、おい」

 

 ……奥の方で龍門を描き終えていたアザゼルはこの状況を見て、苦笑いを通り越して呆れた表情をしながらそう呟いていた。

 ―・・・

 

「―――だからおじいちゃんはこわくないの!」

「そうか……ありがとう、メル!これは俺は戦える!!」

 

 ……とりあえず、あれから少し経って起きたメルの説得により、じいちゃんは何とか元気を取り戻した。

 事の発端となったヴィーヴルさんは夜刀さんからキツイお叱りを受け、今は涙目で正座中。

 こっちに助けを求めるような目を送るものの、当の俺は完全に放置していたりする。

 

「ったく、お前らはよくもまあ集まればそこまで騒げるもんだな。むしろ感心するぜ」

「本意じゃないって言ってるだろ?」

 

 とはいえ、そう言われても可笑しくないから困ったものだ。

 むしろ今回はこの場にオーフィスやティアがいなくて助かった。

 …………っというか、ドラゴンファミリーの面々には俺のことをどう説明すれば良いんだ?

 今更だけど、そのことに頭を悩ます。

 チビドラゴンズは既に知っていると思うけど、特に一番話さないといけないような人種(オーフィスとティア)が当分は帰ってこれない現状。

 ……あれ、嫌な予感がする。

 

『……まあいないのだから仕方あるまい。後で謝ればなんとかなるさ』

『ええ、覚悟は必要だと思いますけど』

 

 笑いながら言えることじゃないよな、フェルさん!?

 ドライグもなんか軽い!!

 心の中でそうツッコむも、誰かが反応してくれるはずもなく肩を落とす。

 ……っと、話が脱線しすぎているな。

 とりあえず、だ。

 

「とにかく、龍門は完成したんだろ?アザゼル」

「当然だ。陣は完璧で、あとは所定の場所にお前らが立てば今すぐにでも奴の意識を呼び出せる」

「……?アザゼル、確か龍門はそもそも、それ相応の場所を用意する必要があるはずだ。意識を呼び出すための空間、それをまずは作らないといけないはずだが……」

 

 ヴァーリはアザゼルにそう指摘する。

 へぇ、そんな制限があるんだな。

 だったら空間もへったくれもない、兵藤家ではそんなことがまず不可能なはずだけど。

 

「ああ、それなら問題ねぇ。オーフィスがイッセー側に来るって知った時に、もしもの時のためにと思ってサーゼクスに頼んで、この家全域を龍門発動可能領域にリフォームしてもらったからな」

「…………お前、ヒトの家に何してくれてるの?」

 

 俺はアザゼルのカミングアウトに青筋をぴくぴくと動かしながら、出来る限り冷静に言葉を掛ける。

 ……通りでこの空間が他と比べて異常に広いわけだよ!

 とにかくそれについての追及は後だ。

 

「この場に集まっているのは……二天龍であるドライグとアルビオン。龍王であるヴリトラ、ファーブニル。三善龍の夜刀、ヴィーヴル。それと謎のドラゴンのフェルウェルか」

「うぅぅ……絶対、俺この場において無用な存在だろ……ってか役に立たない存在ナンバー1じゃん!」

「……一応匙もヴリトラの力は宿しているんだから、そんな自分を卑下にしなくても」

 

 まあ無理もないか。

 ここまで伝説級のドラゴンが集まっているんだからな。

 っていうか匙は一度、ドラゴンファミリーから制裁を受けているんだよな。

 チビドラゴンズを馬鹿にしたから―――そう思った時だった。

 

「そういえば貴様は以前のゲームの際、チビ共を馬鹿にしたのであったな……ッ!!今更ながら思い出したぞぉぉ!!」

「ひ、ひぃぃぃぃいい!!?ご、ごめんなさいごめんなさい!!もうしませんから!!夜刀様とかオーフィス様とかティアマット様からぁぁぁ!!!」

 

 ……匙がタンニーンのじいちゃんの激昂を見た瞬間、小刻みに震える!!

 既にトラウマ化している例の事がフィードバックしたんだろう。

 とにかく生まれたての小鹿みたいだ。

 

「……なるほど、少しあの時はやり過ぎたでござるか?いや、しかし実際にやったのはオーフィス殿とティアマット殿であって、拙者は”無双・億変化の刀舞”を直撃は避け、当たると思わせる恐怖を演出しただけなのでござるが……」

「十分やり過ぎ!それって修行の時に俺に対してした、それぞれ性質の違う刀を投合する技だよな!?」

 

 俺は夏休みの修行の時にされた、夜刀さんの奥義の一つを思い出してげんなりする。

 無数の刀を宙に浮かせ、それぞれ性質の違う強力な刀を投合するという恐ろしい奥義―――あんなの思い出したくもないトラウマだ。

 匙はあんなものまで目の当たりにしたのか……あそこまでビビるのも納得できる。

 ……とりあえず頭のネジがその時は外れていたんだろうと思う。

 とにかく匙が使い物にならなくなる前にどうにかしないと!

 

「フェル、とりあえずじいちゃんを止めていてくれ」

『了解です、主様』

 

 フェルは俺の言葉に反応するように、俺から分離して機械ドラゴンとなる。

 そしてパタパタとじいちゃんの方に向かって飛んでいった。

 じいちゃんの方はフェルに任せるとして……よし、とりあえず用意はするか。

 

「アザゼル、指示を頼む」

「はぁ……やっと収拾付いたか。まずは所定の位置につけ。一応、ドラゴンであるからチビドラゴンズはイッセーの傍に、その左右にヴァーリと匙だ」

 

 アザゼルは嘆息を一つ漏らしつつ、的確に俺たちに指示を出す。

 それぞれのドラゴンは各自、所定の位置に描かれている魔法陣の上に乗り、そして少しすると魔法陣からそれぞれ色の違う魔法陣が光を浮かべた。

 俺の魔法陣は赤、ヴァーリは白で匙は黒色。

 フィーたちチビドラゴンズはそれぞれ朱色、黄色、蒼色の魔法陣で、タンニーンの爺ちゃんは紫色、夜刀さんは群青色でヴィーヴルさんは桃色。

 そして機械ドラゴンと化したフェルは白銀色で、アザゼルの持つファーブニルが封じ込められた宝玉の元には金色の魔法陣が浮かんだ。

 ……ここまでのドラゴンが集結したのは中々ないんじゃないか?

 

「これほど多くのドラゴンが集結するのも中々に珍しいものだ……長生きはしてみるものだな」

 

 じいちゃんは感慨深そうに、俺の思ったことを代弁するように呟いた。

 二天龍に五大龍王、三善龍に創造の龍までいるんだからな。

 これでミドガルズオルムが反応しなかったら洒落にならないぞ!

 ……しかしそれも杞憂で終わった。

 次第に龍門は発動されていき、俺たちの前には何かの立体映像が浮かび上がる。

 その映像の下には灰色に光る巨大すぎる魔法陣が描かれており、そして―――は?

 

「で、で、でけぇぇぇぇぇぇえええええ!!!!?」

 

 ―――その驚きに満ちた声は俺の隣にいる匙からのもので、しかしそれは納得だ!

 何故ならそこに現れた存在は……今まで見てきたドラゴンと比べても一線を風靡するほどの巨体だからだ。

 今まで見てきたドラゴンの中で最大の大きさなのは、100メートル以上の大きさを超す、孤高にして最強のドラゴンであるグレートレッド。

 だけど目の前のドラゴンはそれの何倍ものサイズで、ここにいるドラゴンの誰よりも巨大だった!

 

「ど、ドラゴンの……おばけ……はふ」

「ヴ、ヴィーヴル殿ぉぉぉ!?」

 

 ほら!

 ヴィーヴルさんがあまりにも大きすぎる肢体に驚いて、気を失うほどに凄まじい!

 こんなドラゴンからどんな話を聞くって言うんだよ!

 終末の大龍とは良く言ったものだ。

 ここまでの巨大なドラゴンから発せられる声音や言葉、俺はそれに対してかなりの期待をこの時は持っていた。

 ……そう、その時までは。

 

「……んん?なんで龍門繋がってるのに反応しないんだ?」

 

 俺は蛇のようにとぐろを巻いた東洋系のドラゴンの様子を見て、不意にそう言葉を漏らした。

 これほどの伝説級のドラゴンが集まっているのにも関わらず、ミドガルズオルムは反応を見せない。

 

「……やはりこやつはそうなのか。数えるほどしか会っとらんが、怠惰なドラゴンなものだ」

「じいちゃんはこの巨大なドラゴンと会ったことがあるんだ」

「ああ。数えるほどしかないが、やはりこいつの本質は残念の極み―――なに、じいちゃんに任せるが良い」

 

 するとじいちゃんは二カッと笑みを浮かべた後に大きく息を吸い込む。

 じいちゃんのお腹は膨れ上がり、そして……

 

「―――起きんか、この怠け者がァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

 …………次の瞬間、家の全体を揺るがすほどのじいちゃんの怒声が響くッ!

 流石は元龍王の怒号だ!

 魔王並の威圧感……流石はタンニーンのじいちゃんだ!

 さて、これで反応の一つや二つは―――

 

『……ぐごぉぉぉぉぉぉぉぉおお……はたらいたら……負け……ずごぉぉぉぉぉぉぉ……』

 

 ……めっちゃ寝てた。

 そりゃあもう、じいちゃんの怒声を無視するレベルに熟睡に加え、誇りも威厳の欠片もない寝言を添えて。

 なおその反応に唖然としているのは何も俺だけではない。

 

「……………………ほ、ほう。きょ、興味深いな」

「い、今の咆哮でなお寝てる?嘘だろ?」

 

 ……ヴァーリが、引いていた。

 あの戦闘以外に何も興味はありませんと常日頃から言っている、あのヴァーリが苦笑いを通り越して引いていた。

 匙は匙である意味でミドガルズオルムの反応に戦慄しており、アザゼルや他のドラゴンは頭を抱えて溜息を吐いていた。

 ―――っていうか、終末の大龍(スリーピング・ドラゴン)ってまさか……そういう意味なのか?

 

『残念ながら、その通りだよ。相棒―――奴はドラゴンの中でも度を過ぎた怠け者として有名なドラゴンだ。我の強い神々があまりにも怠け者過ぎて、せめて世界の終末だけでも良いから働けと言われたほどだからな』

 

 ……俺はガクリと肩を落とす。

 これまで見てきたドラゴンは若干のおバカさは持っているものの、やはり誇り気高きプライドや恰好の良さを持っていた。

 だけどこれはあまりにも……ッ!!

 

『主様、現実とは残酷なもの……受け止めるしかないのです』

 

 フェルが魂だけこちらに飛ばしてきて、そんな悲しい現実を突きつけるッ!

 俺の持っていたドラゴンに対する憧れをそんな簡単に捨て去れるか!

 俺は諦めない!

 このドラゴンだって話せばきっと素晴らしい何かを持っているはずだ!

 

『『…………………………………………』』

 

 無言は止めてくれ、二人とも!

 ……とにかくまずはあれを起こすところから始めないといけないようなのだった。

 

 ―・・・

 

『ふはぁぁぁぁ……ああ、眠い……あれ、なんか色々とすごい龍の波動を感じるけど…………とにかくお休み~……すぴー』

「「「「「「「「「起きろ!!!!!!!」」」」」」」」」

 

 俺たちの声が一つになった、奇跡の瞬間だった。

 ……あれから何故かこのドラゴンを起こすのに数十分掛かった。

 ミドガルズオルムは寝起きが凄まじく悪く、最終的にはその場にいるドラゴンたち全ての殺気をあいつに集中させ、ようやく起こすことに成功した。

 その努力も今まさに無駄になろうとしていたけど!!

 

「……ね、ねぇねぇ、イッセー君……あのミドガルズオルムくん、すっごくすっごく大きいけど、全く怖くないって感じるのは私だけかな?」

「いえ、この場の全員がそれを感じ取っているはずです―――絶対に」

 

 俺はヴィーヴルさんの言葉を完全に肯定し、多少の睨みをミドガルズオルムに向けた。

 可憐なチビドラゴンズの必死の言葉すらも聞き届けなかった不届き者だ!

 許せない!

 

『うぅぅ~ん……声が大きくてうるさいよぉ……あ、タンニーンだ。おひさ~。それになんかいっぱい顔なじみがいるね~』

 

 ミドガルズオルムはその巨大な目で辺りを見渡しながらそう呟いた。

 なお既に俺の中の奴に対する希望観測は一切ない。

 

『あれぇ?ドライグやアルビオンがいるの?しかもヴリトラとファーブニルもいる。それと三善龍の二角の夜刀神とヴィーヴル……ああ、ディンは僕が眠っている間に神器に魂を封じられたんだっけか……ははー、これはまたたくさんのドラゴンが集まってるね~。有望そうなドラゴンもいるし―――それに全く知らない、波動が桁違いなドラゴンまでいる』

 

 ……ミドガルズオルムから発せられた言葉から、俺は単純に驚いた。

 ただ見て、感じただけでずっと眠っていたはずのあいつは、次々に全部言い当てていったんだ。

 そして最後はフェルの方を見てそう言った……波動が桁外れのドラゴン、か。

 当然、始創を司るドラゴンな上に、生前の力だけを言えば下手すれば龍神と真龍にも届き得る存在だからな。

 

『あと~、そこにいるドライグを宿している君ー。君からはオーフィスの匂いとグレートレッドの波動を感じるんだよね~。今代の赤龍帝?にしては破格のオーラと質だし……あ、でもどこか悪魔の匂いがするし……なるほど~、転生者かー。君の主はやり手だねぇ……赤龍帝を眷属にするなんて、将来有望だよー』

「……ごめん、俺、あんたのことを残念なドラゴンとばかり思ってた。いや、今現在も思っているんだけど……」

『間違ってはいないよ~?僕は知識だけが取り柄だからねー。眠っているのは知識を蓄えるためなんだ~―――たぶん』

 

 ……認識、改めなくても大丈夫そうだな。

 うん、すごいと言えば間違いなくすごいドラゴンなんだけど、もう尊敬とかする気にはならない。

 

『んん~、でも君からは赤龍帝以上に、何かが匂うねぇ。なんだろう、僕も少し興味が生まれているのが不思議だよ~』

『相棒はドラゴンを惹きつける才能を持っているから当然だ、ミドガルズオルム』

『おぉ、ドライグ!君もおひさだね~……なるほど、ドラゴンに好かれる才能か。ならこれだけのドラゴンが集結するのもうなずけるね~』

 

 ドライグは俺の手の甲から宝玉として出現し、ミドガルズオルムにそう言葉を投げかけると、ミドガルズオルムは納得するような声音を上げる。

 

「この場にはいないが、オーフィスとティアマットも我らの仲間だ。お前が眠っている間に色々とドラゴンの世界も変わってきているぞ、ミドガルズオルム」

『ほほー、あの静寂にしか興味がなかったオーフィスと、暴れまわるのが大好きな困った龍王最強のティアちゃんがねー……ドラゴンが仲間、か~。少し眠っている間に面白いことになってたんだねぇ。なるほど、そんな赤龍帝だからこそ肩を揃えてこの場にいることが出来るんだね』

 

 するとミドガルズオルムは俺とヴァーリの方を見ながらそう言った。

 

「……噂はかねがね聞いていたが、思っていた以上に博識……いや、頭の回転が早いと言うべきか。恐れ入った、ミドガルズオルム」

『いやいやー、そんなことはないよー?凄いと言うのはタンニーンとか、三善龍のことを言うんだよぉ』

 

 ……確かに三善龍である夜刀さんもヴィーヴルさんも、ドラゴンのために龍王を捨てて悪魔になったタンニーンのじいちゃんもすごい。

 ミドガルズオルムは怠け者だけど、その辺りはしっかりと理解して評価しているのか。

 もしかしたらこのドラゴンは龍王最大の情報通のドラゴンなのかもしれないな―――年中寝てる癖に。

 

『……おやおや、何故か貶された気がした気がするんだけど……ま、いっかー…………それでどうして僕を呼んだんだい?』

 

 そう言えば本題に関してまだ何も話が進行していなかったな。

 ミドガルズオルムの言葉でようやく本題に踏み込めるということで、アザゼルはミドガルズオルムに問いかけた。

 

「聞きたいことは他でもない。ミドガルズオルム、お前の父と兄妹の事が聞きたい」

『ああ、なるほど~。とうとうダディとワンワンとお姉ちゃんは本腰入れて動いたんだね~。昔からオーディンのやることなすことに異議を唱えていたけど、やっぱり反逆がダディたちの終末かー』

 

 ミドガルズオルムはうんうんと頷きながら、軽い口調でそう言った。

 

「お前はこうなることを予知していたのか?」

 

 タンニーンのじいちゃんはミドガルズオルムにそう尋ねると、ミドガルズオルムは首を横に振って否定する。

 

『可能性の話だよー。昔からダディは野心家だったからねぇ……でもダディは野心を抱く故に油断はないよぉ~?油断しているようで油断の隙も無いトリックスター。北欧の神々の中でも異質な存在がダディだからねぇ……タンニーンたちはダディを相手に戦うの?』

「ああ、そうだ」

『なるほどぉ……ならワンワンとお姉ちゃんまで付いてくるんだ。大変だねぇ……実力的な意味でダディよりも厄介なワンワンと、性格的な意味でダディよりも厄介なお姉ちゃんを相手にするなんてねぇ』

 

 ……流石はロキの息子だ。

 自分の兄妹の事は完全に理解しているんだな。

 確かに奴らは面倒以外の何物でもない。

 実力も何もかもが超一流の化け物たちだ。

 だからこそミドガルズオルムから情報を得て、あいつらを倒すための算段のつけるんだ。

 

『ワンワンの牙は神を簡単に屠る神殺しの力だからねぇ。真正面から対抗するなんて、それこそ全盛期の二天龍くらいしか出来ないねぇ……お姉ちゃんはそもそも死なないし、しつこいし価値観が歪んでるから……まあどっちも弱点はあるよー?』

 

 弱点……その言葉を聞いて俺は不意に高揚した。

 あの化け物にも弱点は存在することに対する安心感と、対抗は可能という希望の光が見えてきたことが。

 その二つを感じで俺は武者震いのように体が震え、鳥肌が立つ。

 

『ワンワンは魔の鎖(グレイプニル)を使えば行動をある程度抑えることができるよぉ~。でもダディの頭の良さを考えればそれも対策されているんじゃないかな?』

「……オーディンとロスヴァイセが北欧から得た情報では、グレイプニルではフェンリルは抑えることが出来なかったそうだ。それを鑑みれば」

『間違いなく強化してるよねぇ。ダディがそんなことを怠るとは思えないしー……ならダークエルフに協力を呼び掛けて、鎖を強化してもらえばいいんじゃない~?』

 

 ミドガルズオルムはそんな提案を俺たちにする。

 ダークエルフ、か……悪魔とか天使がいるんだから、エルフがいても不思議はないよな。

 にしてもどうしてミドガルズオルムは自分を生んだ父や兄妹の情報を俺たちに流すんだろう。

 あいつらを倒すってことは、こいつの家族を傷つけるってことなのに。

 

「ミドガルズオルムは良いのか?」

 

 俺はミドガルズオルムに対して、今思ったことを聞くことにした。

 ミドガルズオルムは一回あくびをし、そしてその大きな瞳で俺をじっと見てきた。

 

『良いってなに~?もしかして僕の流す情報が実は嘘でした~……っとでも思ったのかなー?』

「違う……ロキやフェンリルとかヘルとかはさ。一応はお前の家族だ。なのにお前は何も無理することなく、家族の弱点をベラベラと喋っている……こっちとしては有難いけどさ、お前はそれで良いのかなって思ったんだ」

『ああー、なるほど~……考えてみれば、君たちの感性で考えればそうかもしれないよねぇ―――でも良いんだー』

 

 するとミドガルズオルムはとても軽い口調……なのにどこか重さを含んだ声音で話し始める。

 

『確かにワンワンは可愛いし、ダディは好きだけどね~……でもダディたちのしていることは、きっと悪いことなんだよね~。ダディにはダディの信念があるんだけど、その信念を貫く方法が間違ってる……僕的にはこらしめて欲しいんだよねぇ~。僕がしても良いんだけど、やっぱり僕はここから動けないから……僕が情報を流すのはそれが理由だよ~』

「……ミドガルズオルムなりの正義のためか?」

『違うよ~?そんな大層なものじゃないよぉー。僕はそんなキャラじゃないしー……あえて言うなら、責任かな?』

 

 ……こいつのことを残念とか考えていたけど、そいつは浅はかだった。

 

『一応家族だしー?お姉ちゃんもワンワンもダディにゾッコンだから止めないからねー。せめて普段だらけてる僕が動かないと流石にねー。北欧の神様たちにも怒られるし、それに―――終末にだけ動きたいから。でもまだその時じゃないと思うんだ~』

 

 このドラゴンは何もかもを理解して、その上でロキを倒すための算段に協力している。

 それにミドガルズオルムの話には、どこか俺の胸に突き刺さるものがあった。

 家族の間違いは家族が止める……俺は不意にあの夜のことを思い出した。

 本当の意味で父さんと母さんと分かり合えた……二人の愛を、想いを知ったあの夜。

 すべての決心がついたあの時の会話を、俺が涙した事柄を。

 俺はミドガルズオルムの言葉に頷いた。

 

「オーディンの爺さんが言ってたよ。黄昏なんて来なくて良い。ラグナロクはまだまだ先だって」

『流石オーディンだよね~。実は僕に眠ることを勧めてきたのもオーディンなんだよー?もしかしたらオーディンはこうなることを考えて、僕をダディの手元から離したのかもねぇ……』

 

 ミドガルズオルムは感慨深そうにそう言うと、再度大きな欠伸をした。

 

『僕も眠くなってきたから、早く話を進めよー……ダークエルフの長の場所の情報を神器に送りたいんだけど……赤龍帝に送れば良いかなー?』

「いや、白龍皇の方に頼む。この手の類のことはヴァーリの方が詳しいからな」

 

 アザゼルはミドガルズオルムにそう対応をあおると、ミドガルズオルムから灰色の光がヴァーリに向けられて放たれた。

 それはヴァーリの手の甲のアルビオンの宝玉へと入っていった。

 

『なるほど……ヴァーリ、解析は完了した。ダークエルフの長の居場所は大体理解できた』

「了解した、アルビオン」

 

 ヴァーリは軽くアルビオンに礼を言う。

 

『じゃあ次はお姉ちゃんのことだねー。お姉ちゃんの性質はどの程度知ってる?』

 

 ミドガルズオルムはなぜか俺の方を見ながらそう尋ねてきた。

 確かにこの中で誰よりもあいつの情報を持っているのは俺だから、俺が話すべきとは思うが……

 

「あいつの不死身の力と、それと……気に入った男を食べようとする、あの狂った性格だ」

『わー、もしかして赤龍帝はお姉ちゃんに気に入られちゃった?それはご愁傷様だねー』

 

 ミドガルズオルムはとても軽い口調でそう言うけど、割と本気であいつに気に入られるだけはかんべんだ!

 一度食われかけているから、あれはある意味トラウマみたいなものなんだよ!

 

『まあお姉ちゃんはこの世界から消すことなんて無理だと思うよー?お姉ちゃんは実力自体は大したことないけど、死んでも生き返るからねぇ……僕も何度も食われかけたからわかるんだけどね?もうあれは反則だよー……』

 

 ……ミドガルズオルムの口調は軽いままだけど、明らかに声のトーンが低くなっているのを俺は見逃さなかった。

 ―――なるほど、こいつもあいつに気に入られているのか。

 なんでかものすごくミドガルズオルムと想いを共感できるような気がした。

 

『一応、実力は大したことはないから力技で何度も殺して、精神を削って戦意喪失を狙うしかないねー。それとお姉ちゃんを相手にするのは女の子のほうが良いよー?』

 

 ……要はフェニックスとの戦い方の要領で戦えってことか。

 でもあいつ、戦意喪失なんてするのかな?

 魂ごと削らないと永遠に蘇り続けるような化け物だし、魂がある限り存在し続ける存在らしいから。

 

『お姉ちゃん対策として最も有効なのは、ダディを先に倒すことだね~。お姉ちゃんはダディがいなかったら特に何か事を起こすことはしないファザコンだからねー―――まあそのダディが一番厄介なんだけどねぇ』

 

 ……まあそうだろう。

 フェンリルとヘルに関しては弱点はあるだろうが、当のロキはそのようなものはない。

 それはミドガルズオルムが一番良く分かっていることなんだろう。

 

『ダディはワンワンより力は劣るかもしれないけど、隙と言える隙が全くないんだよね~。ある意味でオールラウンダーの極みみたいな感じだよぉー。心理戦は負け知らずだしー、神剣レーヴァテインとか北欧魔術を極めてるからねぇ。下手すればオーディンにも勝るとも劣らないかもしれないよー?』

「……フェンリルのような分かり易い最強の力はないけど、全てのパラメーターが全般的に高いオールラウンダー、か。バランスタイプの神様ってところか」

『その発想で正解だよー。だからダディを倒すためには単純な実力で倒すしかないんだー。つまり正攻法が唯一の対抗手段だよぉ』

 

 ……なるほど、確かにそれは分かり易い。

 ロキは確かに多彩な北欧魔術、神剣レーヴァテインによる圧倒的な剣戟、そして何より心理戦に強い側面を持っている。

 一筋縄ではいかないのは間違いないが、俺はあの時、何とかあいつに食らいつけてはいた。

 負けてしまったのは確かだけど、あいつの戦い方やスタイルはなんとなく理解できた。

 勝てない―――そんなビジョンはロキに対しては抱いていない。

 確かにこれまでの誰よりも強いし、たぶん世界でも最強クラスの実力者だ……だけど俺は今まで一度も確実に勝てる戦いなんてものはなかった。

 全ての戦いを自分の出来る最大限の力で、不利な状況の中でも何とか打開してきたんだ。

 出来得る最善を尽くしてきた。

 だからこそ初めから出来ないなんて、そんな弱音は吐かない。

 

「なるほど、ロキは正攻法が一番というわけか……ならばやはり俺と兵藤一誠が組めば勝てる見込みは十全にある」

『へ~……赤と白が肩を並べているから不思議に思ってたけど、現代の赤龍帝と白龍皇()変わってるね~。戦う以前に共闘するなんてさー』

 

 ―――待て。

 今のミドガルズオルムの発言は看過できるものじゃない。

 今、このドラゴンはなんて言った?

 現代の赤龍帝と白龍皇()……そう言った。

 赤龍帝と白龍皇は本来、互いにライバル関係に当たる宿命の敵同士だ。

 それは二天龍の呪いであり、そして過去それを拒んだ赤龍帝と白龍皇……普通からかけ離れていた二天龍の宿主は―――俺とミリーシェだけだ。

 

『ふはぁぁぁぁぁ……そろそろ僕も眠くなって来たねぇー……ねぇ、タンニーン。もう良いかな?』

「……いや、しかし本当にロキ対策はそれだけで良いのか?」

『うぅ~ん?そうだねぇ、決定打が欲しいならミュルニルの小槌くらい用意すれば良いと思うよ~?本物はトールが貸してくれないはずだけど、限りなく本物に近いレプリカをオーディンが持っていたはず……だと思うよー?』

 

 タンニーンのじいちゃんの問いにミドガルズオルムは答えるが、俺の頭にはそれ以上にミドガルズオルムの言葉の真意のことで埋め尽くされていた。

 ……俺が欲しがっていた情報を、ミドガルズオルムは知っているかもしれないんだ。

 前世の謎、俺が俺の名を忘れた真意、誰も先代の赤龍帝と白龍皇を覚えていない理由―――そして俺たちを襲った黒い影。

 

『じゃあそろそろ僕は―――って、あれれ?どうしたのぉ、赤龍帝ー。さっきから僕に何か聞きたそうな顔をしているけどぉ?』

 

 ……するとミドガルズオルムは俺の方を見ながら、察するようにそう尋ねてきた。

 聞くのなら、今しかない。

 今聞かないと絶対俺は後悔する。

 だから……

 

「ミドガルズオルム……お前は―――先代の赤龍帝と白龍皇の事を知っているのか?」

 

 そう言った。

 俺の言葉を聞いたミドガルズオルムはその時、一瞬ポカンとした表情をした。

 しかし次の瞬間、今まで眠そうだった瞳を大きく見開いた。

 

『……驚いた。まさかそのキーワードが出てくるなんてねぇ―――その問いには頷いておこうかなー?まあ直接会ったわけじゃないし、何故か存在があやふやでどの勢力からも認識されていないけどねぇー』

「知っているんだな……ッ!?なら知っていることを全部教えてくれ!!」

 

 俺はミドガルズオルムに頭を下げながらそう懇願すると、周りのチビドラゴンズを除くドラゴンファミリーはその行動にポカンとし、そして俺のことを既に知っている人たちは苦虫を噛むような表情となった。

 

『え、えっと……僕は知識しかないんだよねぇ。しかもどういうことかその人の名前を忘れて、誰も先代の赤龍帝と白龍皇の事は覚えていない―――知っているというより、僕の考えならばこれはどう考えても第三者の手が伸びているよね』

「第……三者?」

 

 俺はミドガルズオルムの言葉を反復するように言った。

 第三者……つまり俺とミリーシェの過去の存在自体をあやふや、もしくは消した存在がいる。

 そして―――そんな存在は一人しかいない。

 

「また、あいつなのか……ッ!あいつは、ミリーシェを殺して、なお俺たちを苦しめるのか……ッッッ!!!!」

 

 黒い影……ミリーシェを殺し、俺たちの人生を終わらせた張本人。

 何者かも、どうして俺たちを襲ったのかも分からない謎の存在―――俺の、生涯許すことのない復讐の対象。

 

「い、イッセー殿?こ、これは一体どういうことなのでござる……一体先ほどから何の話をしているのだ?」

「……夜刀君、待って…………今のイッセー君に話し掛けたらダメだよ」

 

 夜刀さんとヴィーヴルさんの会話すらも俺の頭には入ってこなかった。

 

『これを第三者の魔の手と考えるなら、相手は一筋縄ではいかないかなぁ……何せ深海の誰も認識することすら出来ない場所で眠っていた僕にさえ干渉するほどの力――――普通に考えて神クラスじゃないと出来ないことだよ』

「神……そうか、神か……なら神を当たっていけば、いつかあいつを殺すこと事が…………」

 

 俺は感情をそのまま言葉に出す。

 神ならば、同じ神を当たっていけばいつか黒い影の正体に辿り付けるかもしれない。

 そう考えるとどうしても言葉になってしまった。

 だけどその瞬間―――俺の腹部に衝撃が走った。

 それは痛さは全くなくて、体をそのままこちらに委ねていたような感覚。

 俺の懐には……チビドラゴンズがいた。

 

「にぃちゃんは……そんなかおしちゃ、ダメなのだ!!そんなのにぃちゃんじゃない!!」

 

 フィーは俺の顔をじっと見ながら、涙を溢しながら必死な声音で俺にそう言ってきた。

 フィーだけじゃない。

 メルもヒカリも、同じような目をして何かを懇願していた。

 

「にぃたん……いっしょにいるから、そんなさびしくて、こわいかおしないで……そんなの、さびしいもん……!」

「にぃに、ヒーがそばにいるから……だからなかないで……?」

 

 ……実際に泣いているわけではなかった。

 でもこいつらの目から見たら、俺は恐ろしくて寂しくて泣いているような表情になっていたのか。

 …………目の前のことに感情を囚われて、少しおかしくなっていた。

 落ち着け。

 俺は復讐者であると同時に、グレモリー眷属の下僕で、ドラゴンファミリーの一員なんだ。

 だからチビドラゴンズを泣かせてはいけない。

 いつもこいつらの前ではにいちゃんで居てやるんだ。

 小さいのに、俺の心配ばかりしてくれるこの優しいドラゴンたちを、不安がらせたらダメなんだ。

 

「……ごめんな。俺もちょっと冷静じゃなかった―――ありがとう、俺を止めてくれて」

 

 俺は三人に合わせるようにしゃがみこんで、そして三人の頭をそっと撫でた。

 三人は分かり易いように喜びの表情を浮かべて、そして俺はミドガルズオルムの方を向いた。

 

「悪い、ミドガルズオルム。俺の聞きたいことはそれだけだ」

『ううん。興味深いものが見れたから良いよぉ―――でも僕もなんとなく、分かった気がしたよー…………赤龍帝の周りにはドラゴンがたくさんいて、惹かれているわけが』

 

 ミドガルズオルムは楽しそうにそう言うと、タンニーンや夜刀さんの方を見た。

 

『ねえ、タンニーンに夜刀神。赤龍帝のことは大切?』

「……当たり前でござる。同じ釜戸を共にした同士、何があっても拙者はイッセー殿の味方でござる」

「当然だ。俺はイッセーのじいちゃんを自負しているものでな。それにあいつを見ていると放っておけないし、何故か共に居たくなる―――理屈ではないのだな」

『そっかぁ……やっぱり不思議な存在だなぁ、現代の赤龍帝―――そういえば名前、まだ聞いてなかったねぇ』

 

 ミドガルズオルムは俺の方を不意に見て、そう言った。

 そして俺はそれに応えるように……

 

「兵藤一誠。グレモリー眷属の「兵士」で、ドラゴンファミリーの一員で……えっと、赤龍帝眷属の将来的な「王」だ」

『なるほど、兵藤一誠か…………覚えておくよ。じゃあ僕も皆を見習ってイッセーで♪』

 

 ミドガルズオルムは先ほどまでの眠気はどこにいったのか、本当に楽しそうにそう喋っていた。

 何がそんなに楽しいのだろう。

 

『中々名残惜しいけど、今回はこれまでにしよー。僕もやっぱり眠気には勝てないし……でも偶に龍門を開いて、話し相手になって欲しいなー』

「……俺で良かったら、いつでも」

『じゃあダディに勝って生き残らないといけないね―――それに僕は動きたくないから、出来れば終末は来てほしくないしねぇ』

「―――それが本音か、惰眠ドラゴン!!!」

 

 俺はホロ映像にそうツッコむと、ミドガルズオルムは楽しそうな声で笑いながら次第に姿を消していく。

 そして姿を消していく最中、不意に俺の耳に小さい声が届いた。

 

『―――その時は、前代の事も教えてねー』

 

 ……………………恐らく誰にもこの声は届いていない。

 あいつが俺にだけ語り掛けてきたものだ。

 だけど俺はなんとなくあのドラゴンの事が分かった気がした。

 あいつが龍王たる理由。

 ずっと眠っている癖にティアやタンニーンのじいちゃんと同じように龍王と呼ばれていたのは、きっと……ミドガルズオルムの隠れた才能が理由なんだろう。

 たったの少しの情報でほぼ正解に近い答えを出すあの頭……食えない奴だ。

 俺が前代の赤龍帝ってことも見抜いていたし、ホント―――ドラゴンってのは、すげぇな。

 今更だけど。

 のほほんとしているようで実は鋭く、そしてあの巨体から強さも龍王に相応しいものなんだろう。

 終末にだけでも良いから動け―――つまり、神々は終末だけでも良いから動けというほど、ミドガルズオルムの力を高く評価している。

 そこまでの価値がなきゃ、とっくに討伐されて当然。

 なのにそれをしないってことは、ミドガルズオルムは相当に有能なんだろう……これで惰眠ドラゴンでなきゃ、どれだけ良い事か。

 

「ミドガルズオルムはロキの頭脳を、ヘルはロキの性格を、フェンリルはロキの強さを受け継いでいる、か……笑えないな」

 

 俺は不意に考え付いたことをポツンと呟きながら、拳を強く握る。

 ……情報は得た。

 覚悟はとっくに決まっている。

 戦力は整った。

 後は―――戦うだけだ。

 

「……ん?…………んん?おい、アザゼル、どういうことだ?一体何がどうなっている!?お前ならば何か知っているのだろう!?」

「ま、誠に請謁ながら、拙者も全く理解できないでござる!!何故アザゼル殿たちは納得した顔をしているのでござる!?チビドラゴンズ殿も何故理解した顔をしているのでござるよ!?」

「お、お、落ち着いて夜刀くん!!わ、私を相手にする時のクールさはどこにどこに行ったの!?」

「そんなことはどうだって良いでござる!!説明を所望する!!イッセー殿ぉぉぉぉ!!!」

 

 ……………………その前に説明が必要だな。

 俺は凄いけど愛すべき馬鹿なドラゴンたちに笑みを溢しつつ、そう思った。


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