ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第9話 集結するドラゴンと決意の覚悟

 兵藤家地下一階の大広間。

 そこには今更ながらと言えば良いか、異様な面々がいた。

 俺たちグレモリー眷属に加え、シトリー眷属に天使陣営のイリナ、そしてヴァーリチームに加え俺の眷属(候補)の黒歌。

 そんな人物たちが集結していた。

 アザゼルやバラキエルさん、ガブリエルさんはそれぞれやることがあるとのことでここにはいなく、ロスヴァイセさんやオーディンの爺さんは北欧に関する連絡があるとか。

 当然、禍の団の一員であるヴァーリチームに関しては皆警戒している模様で、当の本人たちは凄いのんびりと過ごしていた。

 白龍皇であるヴァーリは紅茶の入ったティーカップに口を付けながら、何かの本を読んでおり、スィーリスは先ほどからアーシアに近づいたりこっちに来たりしている。

 アーサーは剣の手入れ、ルフェイちゃんは何故か挙動不審にこっちをチラチラと見ていた。

 そして美候に至っては棒を振り回しており―――いや、それは自由すぎるッ!?

 とにかくこっちの殺気は全て無視しているあいつらの神経にはむしろ感服する。

 

「……なるほど。北欧の術式というのも案外面白いな―――対策で幾つか覚えておくか」

「そんな片手間で覚えるほど北欧の術式は簡単なのか?」

 

 俺は本……ロスヴァイセさんの持っていた魔導書を読んでそう唸っているヴァーリに話しかけた。

 ヴァーリは俺の声を確認すると顔を上げ、そして俺を見る。

 

「君が俺に話しかけて来るなんてね―――簡単ではない。ただ覚えるだけならさして難しい事ではないからね」

「……才能か。お前はあいつに比べても負けないくらいの才能があるよ」

「前代の白龍皇の事か」

 

 ヴァーリは俺の言葉に察するように、そして興味深そうな顔をする。

 ―――今のこの時間は夜刀さんとタンニーンのじいちゃん、そして三善龍のヴィーヴルさんというドラゴンの到着までの待機時間だ。

 何でも三大勢力からの戦力補充は夜刀さんとタンニーンのじいちゃんだけらしい。

 禍の団のテロ行為……英雄派が神器所有者を送り続けている例の件で、あちこちで厳重な警戒態勢が強いられているそうだ。

 むしろ天使サイドからはガブリエルさんが、堕天使サイドからはバラキエルさんが送られていることからまだマシと考えた方が良いかもな。

 ……っと、ヴァーリだったか。

 

「君が俺と最初に戦った時、まともな戦闘をしなかった意味が分かったよ―――なるほど、君の性質を考えれば普通で居られるわけがない、か」

「……まあそうだな」

 

 俺はヴァーリの言葉に素直に頷く。

 ヴァーリは辻褄が合ったように理解した表情をしており、こいつはこいつなりに納得したんだろう。

 

「それにしても歴代最強の女皇か……是非とも戦いたいものだね」

『……それは止めて置いた方が良い、ヴァーリ』

 

 ……すると珍しくもアルビオンが手の甲から宝玉として現れ、そしてヴァーリにそう言った。

 

「アルビオンは俺が負けるとでも言いたいのか?」

『ああ。悪いが確実に負ける―――特にこの男を傷つけた存在にはミリーシェはかつて、どんな敵でも確実に殲滅してきたのだからな』

 

 …………………………今、すごい体温が下がった気がした。

 アルビオンから知らされた新事実に俺は苦笑いをしつつ、するとヴァーリは驚いた顔をしながら俺に尋ねる。

 

「アルビオンをしてそう言わせるほどに強いのか?」

「……まあ、正直に言えば俺が一番戦いたくないと思った唯一の相手、かな。それは自分の想いもあったし、だけどそれよりも…………怒らせたらもう、な」

 

 俺は懐かしむようにミリーシェと初めて共闘した時の事を思い出した。

 突如現れた邪龍に対してのミリーシェの無慈悲な攻撃の数々や言動……今、思えば狂気染みていたとも言えるかもしれない。

 ……だけどそれを含めて好きになったんだもんな。

 

「……前代の謎。それはおいおい調べていくしかなさそうだ」

「お前が興味を持つなんてな……ちょっと意外だ」

「同じ白龍皇の事は誰よりも俺が知らないといけないことだ。ある意味では当然だろう?―――それにアルビオンのためでもある」

 

 ……そっか。

 アルビオンも長い間、ミリーシェと共に居続けた存在だ。

 ミリーシェの相棒として俺がいない間、あいつの話を聞いたりしていたそうだし、あいつに対して大切に想う気持ちもあったのだろう。

 それは再会したときにもそれは感じた。

 

「俺は君を観察しているからね。君は誰よりも赤龍帝、その存在そのものと向き合ってその強さを得ている―――俺も向き合うのさ。俺の夢を叶える手段の一つに過ぎないけどな」

「……そっか」

 

 俺はそれ以上、ヴァーリに対して何も言わずに肩の力を抜く。

 ヴァーリの思惑とか目指す目標とかは俺には分からないけど、それでもヴァーリが白龍皇と向き合ってくれるのなら、それでいい。

 そんな白龍皇は今までいなかっただろうから。

 

「―――皆もそんなにこいつらを睨んでいても何にもならないぞ?根本的に自由な連中なんだから、縛り付けるなんて最初から無理なんだからさ」

「……ふふ。それもそうね」

 

 すると一番表情が強張っていた部長は薄く笑い、そして肩の力を抜いた。

 この中でもまだ良心的なアーサーでも好戦的な側面を持っているんだからな。

 そんな一癖も二癖もある連中を一々気にしていた方が気が散るってもんだ!

 

「むふふ……アーシアちゃん、覚悟しなさぁぁぁい♪」

「ちょ、スィーリスさん!?」

 

 ―――突然か、この野郎!

 突如そのような会話?が聞こえて俺はそちらを向くと、そこにはしびれを切らしたような形相でアーシアに抱き好き、何故か胸などを弄ってる―――っておい!!

 

「だ、ダメです……ッ!そこはイッセーさんしか……っ!」

「良いではないか、良いではないか♪女の子同士はノーカン♪―――むむ、前に視た(・ ・)時よりもサイズが少し上がってる?」

 

 …………はぁ、ったくこのサキュバスは。

 でも今の「視た」っていう言葉には引っかかる―――ああ、なるほど。

 とりあえずアーシアが涙目で俺の方に訴えているから助けよう!

 俺はそそくさとスィーリスの後ろに立ち、そして手を振り上げて―――

 

「アーシアが泣いちゃうからそこまでだ、スィーリス」

「―――えっと……うん、わかったからその魔力に包まれた手を収めて?ね?そんなチョップ受けたら乙女的にね?」

 

 スィーリスは俺の殺気と魔力を察知したのか、珍しくも焦る表情だ。

 手をぶんぶんと前に振って、無抵抗を示しているんだろうが―――はは!

 ―――俺は魔力を消した状態で、スィーリスの後頭部へとチョップするのだった。

 

「いきゃいッ!?」

 

 スィーリスは素っ頓狂な奇声を上げて後頭部を涙目で押さえると共に、アーシアは俺の背中に隠れるように逃げてきた。

 

「はぁ……ったく、これだからヴァーリチームは」

「あまり俺のチームだからとは言わないでくれないか?一応、スィーリスは俺たちの中でも問題児に入るほどだからね」

「い、イッセーちんもヴァーリもひどいッ!?」

 

 スィーリスのあざとい言葉が発せられるも、当然のように反応する存在はいなかった―――とにかく、今更ながらこっち側の戦力を確認しないとな。

 

「とにかく、アザゼルが術式を完成させる前に戦力の確認をしよう。当然、不確定要素であるヴァーリ、お前たちもだ」

 

 アザゼルが術式を完成させる……っていうのは、それはミドガルズオルムの意識を呼び出すための龍門(ドラゴンゲート)のことだ。

 これを完成させることに加え、更にそのための人員の到着までの時間。

 つまり今のこの時間は待機時間ってことになる。

 

「はーい!はーい!!そういうことなら私が一番乗り♪」

 

 ……スィーリスは先ほどの一連の事を忘れたと思わせるくらい元気に自己主張しやがる。

 切り替え早いな、おい!

 スィーリスの無駄に元気な声と挙手により黒歌が若干呆れたような表情になるものの、ともかく話が先だ。

 スィーリスの戦力はこの中でも最も謎で、俺もある程度の情報しか持っていない。

 人間とサキュバスのハーフで、下級悪魔のサキュバスの中では異常なほどの魔力を宿している。

 更に恐らくは神器らしきものを持っている……くらいか。

 更に言えば恐らく術関連に長けた人物と思われるか。

 

「おほん!……じゃあまずはこれを見ておうかな?―――森羅解析の眼鏡(ホールアナイシス・レンズ)♪」

 

 ―――次の瞬間、スィーリスの目元に光が何かを形作り、そして……神器が現れた。

 それは多少仰々しい見た目の機械的な眼鏡のようなもので、それをスィーリスは得意げに掛けながらこっちを見て来る。

 

「なるほど、なるほど……あ、思ったより大き―――」

「…………視線を下に下げないでもらえるかな!?」

 

 スィーリスは視線を俺……詳しくは下半身に向けて来ることに反射的に頭を叩きながらツッコんだ!

 ……確かにこいつはヴァーリチームの中でも一番面倒な存在のような気がしてきた。

 ―――森羅解析の眼鏡、か。

 

「兵藤一誠。こいつの行動に一々反応していたらキリがないぞ?」

「……忠告どうも。今それを再認識したところだ―――で?そろそろ説明をお願いできるか?」

「うんうん、了解♪」

 

 スィーリスは知的さを演出したいのか、人差し指で眼鏡をくいっとする。

 その行動に特に意味はないんだろうが……するとスィーリスは満を持して話し始めた。

 

「私の力は解析の力。例えそれが神であろうと、魔王であろうと全てを解析する―――それが森羅解析の眼鏡という神器の能力なのだ♪」

「……下手すれば神滅具並のポテンシャルだな」

「ポテンシャルはそうだけど、実際には神滅具ほど激レアなものじゃないんだよね~。組み合わさってはいけない二つないし、それ以上の能力が一つとなっているもの……それが神滅具なんだよ?高々解析に特化した神器では、とてもじゃないけど鼻高々ではないのだよ、イッセーちん♪」

 

 スィーリスはウインクしながら決めポーズを送ってくる……だけど今の神滅具の理解度……いや、神器に対する理解度を考えるならば。

 それならばスィーリスの力は神器じゃなくて、あいつ自身の方がよっぽど凄まじいんだろう。

 例え情報を持っていてもそれを活用できなければどうしようもない―――つまり、ヴァーリチームにいると言うことはそれを出来ている証拠、というわけだ。

 

「でも不思議なことに、この神器は心までは解析できないんだよね。本気出せば神仏にさえ通用する解析力も、心の前では力を出せないんだからね~」

「それはあれよ!神器を御創りになられた今は亡き神の素晴らしい理なのよ!心は解析できないほど神秘で素晴らしいもの!きっと神はそう願ったのね!!」

 

 ……イリナは目をキラキラとさせながら既に死んでいる聖書の神に祈りを捧げる。

 確かにそう考えるとロマンチックではあるけど、流石に少しは静かにしていて欲しい!

 ―――なんだかんだしている内に、この場において漂っていた殺伐とした空気は消えていた。

 それがスィーリスやヴァーリたちのおかげとは、言いたくないんだけどな。

 

「とにかく私の力はこの解析の神器と、それとサキュバスとしては異端レベルの魔力量かな?たぶん黒歌と同じ程度には強いよ?」

「むぅ……言い方はイラつくけど、まあ正しいと言えば正しいにゃん」

 

 黒歌は少しばかり不機嫌に頬を膨らませながらも、そう頷いた。

 スィーリスの力は黒歌と同レベル……なるほど。

 黒歌は俺も実際に手合わせしたけど、禁手を使わないと俺も勝てないような相手だ。

 眷属の皆には悪いが、他の誰よりも黒歌は強い。

 

「まあ私はこれくらいにしておいて……じゃあ他のメンバー、行ってみようか♪」

「……何故お前が指揮っている?―――まあ良い。俺は知っての通り、白龍皇だ。心配されなくてもそれなりの実力は自覚している。アーサーは聖王剣の所有者で実力は最上級悪魔さえも対等に渡り合える。美候は孫悟空の血を継いでいる実力者だ」

 

 ヴァーリは腕を組みながらそう言うと、そして最後に視線をアーサーの妹……ルフェイの方に視線を向けた。

 

「あ、あうぅ……そ、そんなに視線を送らないでもらえますか?ヴァーリさん……」

「……アーサー。ルフェイの説明は君に任せよう」

「ええ、分かりました―――では私、アーサー・ペンドラゴンが詳しくを説明しましょう」

 

 するとルフェイの隣に座っていたアーサーはヴァーリの指示に従うように立ち上がり、そう話し始めた。

 物腰は驚くほどに紳士的で、これがテロリストじゃなかったら普通に魅了されるような男だよな―――戦闘意欲がなければ。

 

「この場にいるこの女の子は私の妹、ルフェイ・ペンドラゴン。魔法、魔術関連に優れた私の自慢の妹です」

「え、えっと……よろしくお願いします!」

 

 ルフェイは突然自分の事を紹介されたことに戸惑いつつ、大きな帽子を取ってペコリと頭を下げた。

 ……今更だけど、あの子がオーフィスに『従妹』っていう概念を吹き込んだんだよな?

 ―――いや、時効って奴か?いや、でもあれのせいで俺は色々精神的妨害を受けたことに間違いはないんだから……

 そんなことを思っているうちに、アーサーは更に話を続けた。

 

「魔法、魔術に特化したルフェイで、私達、ヴァーリチームの中でもその一点に置いて飛びぬけた才能を持っています。次の戦いでも足手まといにはならないです」

「お前が断言するほど、か―――でも良いのか?次の戦いは命がいつ消えても不思議じゃない戦いだ。そんな戦場にルフェイちゃんを連れて、もしもの事があったら……」

「ルフェイを心配してくださるのは有難いですが、大丈夫です―――大事な妹です。私がこの身を賭しても守りますよ」

 

 アーサーはニッコリと笑顔を浮かべてそう断言する。

 その真っ直ぐな言葉にルフェイちゃんは凄く嬉しそうに表情を明るくし、アーサーの方をキラキラとした目をして見ていた。

 ……やばい、この兄貴恰好良すぎるッ!

 良くもまあそんな妹殺しの台詞を爽やかに笑顔で言えるッ!!

 

『いや、相棒が言える立場か?』

『主様の言えた義理じゃないですよ?お兄ちゃんドラゴンなんですから』

 

 ……ドライグとフェルの鋭いツッコミが俺に突き刺さる……ッ!

 ―――やっぱりそういうセリフを言うのは控えた方が良いのか?でも意識して言っているわけじゃないし、そもそも感情的になったら勝手に言葉は出るんだし……

 

『『諦めた方が良い(ですね)』』

 

 ……とにかく話を続けるぞ!

 俺はそう無理やり二人の言葉を振り切りつつ、意識を目の前に向けるとそこには……

 

「さ、サインをください!!」

 

 ―――色紙を手に、それを俺の方に向けてそんなことを言うルフェイちゃんがいた。

 ドライグとフェルとの会話に集中していたせいで、それまでの経緯が良く分からないんだけど……なんでだ?

 

「はは。すみませんね、赤龍帝殿。ルフェイは『兄龍帝・お兄ちゃんドラゴン』の大ファンでして……それはもう、隠れ家にグッズを全て集めるほどのファンなのです。私も少しばかり嫉妬してしまうほどに……」

「……視線が少し怖いんだけど―――いや、何でもない」

 

 何も言うまい―――だけど俺は確信した。

 今のアーサーの目はとても怖い目で、俺は口には出せないが―――こいつ、相当のシスコンだ!

 俺はそう確信したのだった。

 とにかくサイン位だったらという感じでパパッと色紙にサインをし、そしてそれを渡すと先ほどアーサーに向けていた視線の何倍にも強い目の輝きで、色紙を嬉しそうに見ていた。

 俺はそれに苦笑いをしつつ、地味に俺の方を笑顔で……笑顔だけど一切笑っていないアーサーに対して冷や汗を掻いた。

 

「はっはー!流石シスコン大魔神、アーサーだぜぃ!そもそもルフェイがさっき視線がキラキラしていたのだって、赤龍帝の真似をしたアーサーが見栄を張って恰好をつけ―――」

「―――黙りましょうか、美候。我がコールブランドの血錆にされたくなければ」

「……良いねぃ。やろうか?アーサー」

 

 何故か知らんがアーサーと美候がバチバチと視線を合わせる!

 っていうか敵陣に来てまで喧嘩するって、馬鹿かこいつら!

 ここはヴァーリにどうにか―――

 

「それにしてもこの紅茶はとても美味だ」

「あらあら、白龍皇にお褒めに預かるとは光栄ですわ」

「―――止めろよ、ヴァーリィィィィ!!!!」

 

 俺は完全無視のヴァーリについ頭を全力で叩いてツッコんだ!

 いや、それもむしろ許容してほしいくらいだ!

 自分のチームが今まさに死闘を始めようとしている時に、朱乃さんと微笑ましい会話しやがって!

 

「―――ツッコまれたのは初めてだが、なるほど。新鮮で興味深いな」

「何、冷静に分析してんだ!お前のチームの団員が今すぐにでも戦闘開始しそうな雰囲気なんだよ!どうにかしやがれ!!」

「戦いたければ戦えば良いさ。俺は戦闘意欲に対する肯定者だからね。むしろ俺も混ぜて貰って三つ巴で―――」

 

 こいつ、手遅れだ!

 こうなりゃ気絶させて―――

 

「―――う~ん、ちょっと目障りだから黙ろうね?」

 

 ―――俺が気絶させようと動こうとした時だった。

 それまではノータッチだったスィーリスが突然アーサーと美候の傍に立ち、そして二人の肩をそっと掴んだ。

 

「へ?ちょ、スィーリス!?お、おま!まさかここで―――」

「スィーリスさん、あれだけはやめてくださ―――」

「うん、ごめん、手遅れ!―――頂きま~す♪」

 

 スィーリスは最大限に小悪魔な表情をした後に舌なめずりをし、そして次の瞬間……アーサーと美候は力なくその場に倒れた。

 …………その場は騒然とした。

 そりゃそうだ、殺気出しまくりのアーサーと美候が同時に成す術もなく倒れたんだからな。

 

「~~~~~ごくっ……はぁ、ご馳走様♪それにしても美候の精力って獣臭くて不味いよね~♪アーサーはアーサーで淡白だし」

「こ、こんにゃろう……勝手に吸いやがってその言い草はねぇだろぃ……ッ!!」

「ま、全く、相変わらずの醜悪さ、ですね……立てなくなるくらい喰らうとは……」

 

 ……そういえば、スィーリスは初対面の時に言っていたな。

 自分は人間とサキュバスのハーフで異端児、そして直接性行為をしなくても触れるだけで他人から精力を奪うことが出来るって。

 なるほど、あの時の言葉の意味はこういう事か。

 確かに凄まじい能力だな、ある意味では。

 あのアーサーと美候が成す術なしとは……これからは俺も気をつけよう。

 そう思った。

 

「あ、イッセーちんには直接手を出すつもりだから安心して良いよ?」

「ああ、そうかそうか―――って安心できるかぁぁぁ!!!」

 

 俺はそう叫び声のように怒声を浴びせるも、スィーリスは悪戯な笑みを浮かべるだけだった。

 ……調子が狂うな。

 とにかく戦力の確認は出来た。

 ヴァーリチームは今回の戦いの戦力としてはかなり有効であること。

 後はアザゼルが龍門(ドラゴンゲート)を完成させて、それから残りのドラゴンのメンバーが集まれば、フェンリルの対策だって出来る。

 

「―――おや?随分と騒がしい様子でござるね。イッセー殿」

 

 するとその時だった。

 涼しいような声音の、俺の尊敬するドラゴンの一角の声がした。

 それは室内の入り口付近からで、そこには―――

 

「夜刀さん!!」

 

 いつも通りの袴と藁の帽子を被る夜刀さんがいた。

 夜刀さんはニコリと笑顔を見せる。

 

「お久しぶりでござるね。色々と大変だったと聞き及んでいるでござる―――微力ながら拙者も力添えする所存でござる」

「微力なんてことはないよ!夜刀さんがいればすごい心強い!!」

 

 ……俺の剣術とか気配察知を手に入れることの出来たきっかけで、ある意味での師匠のようなヒトだからな。

 それに何より夜刀さんの善行に俺は何よりも尊敬している!

 そんなヒトが俺たちの味方になって一緒に戦ってくれるな百人力だ!

 

「嬉しい限りでござる―――さて、拙者の来た理由は心得ているでござるね?」

「……ええ。当然―――龍門でミドガルズオルムとコンタクトを取るため。そのために三善龍の二角までも集結させるって……」

「その通りでござる…………が、まあどうしたものでござるか」

 

 するとその時、夜刀さんは少しばかり苦笑いをしながら頬をポリポリと掻いた。

 ……?どうしたんだろう、夜刀さんが何とも言えないような表情をしている。

 話では夜刀さんが三善龍の一角、宝眼の癒龍(トレジェイズ・ヒールドラゴン)と謳われるドラゴンを連れて来るってことになっているはずだ。

 だけど夜刀さんの近くにはそのような姿は見えないし……

 すると夜刀さんは唐突に後ろを振り向き、そしてしゃがみこむように中腰になった。

 

「いつまでも拙者の後ろに隠れていてもどうしようもないでござるよ?ヴィーヴル殿」

「で、でもでも~!こ、こんなに人がいるなんて聞いてないよ~!」

 

 …………なんだろう、今聴こえたとても可愛らしい少女の声は。

 

「拙者もまさかこれほどの人数がいるとは予想も出来なかったでござるよ」

「そ、それでもそれでも!は、恥ずかしくて人前に何て出られないのぉ~~」

「……それで良くイッセー殿と話してみたいと言ったものでござるね」

 

 ……夜刀さんは呆れるように溜息を吐きながらも、その場から立ち上がり、そして―――その謎の声の姿が露わとなった。

 

「は、はわ!?や、夜刀くん!?」

 

 ―――その場の空気がとても小さくなったという事を、俺は今後の人生で忘れることはないだろう。

 そしてその姿は余りにも予想外過ぎた。

 っていうか予想出来る方がおかしいと思う。

 何せそこにいたのはドラゴンの姿をしているわけでもなく、ティアのように大人の人間の姿をしているわけでもなく。

 

「紹介するでござる―――こちら、三善龍が一角。宝眼の癒龍(トレジェイズ・ヒールドラゴン)と謳われる癒しのドラゴン、ヴィーヴル殿でござる」

「ど、どうしてどうして!?夜刀くんの裏切り者~~~!!!」

 

 ―――まるで宝石みたいな少女がそこには居た。

 クリスタルみたいに輝くような綺麗で澄んでいる瞳、アーシアとは真逆で、サラサラな銀髪、正直言えば美しいと言うより、妖艶で現実離れし過ぎているような可憐さって言った方が良い。

 着ている服が幻想感を溢れさせるドレスみたいな服ってところが尚更そう思わせるかもしれない。

 そんな―――幼女がそこにはいた。

 その幼女はちっちゃな手で夜刀さんをポカポカと叩きながら、涙目で反論する。

 ……そう言えば、と思い出す。

 ―――残念ながら、ヴィーヴル殿はそのような(・ ・ ・ ・ ・)人物ではないのでござる。

 夜刀さんが最初に彼女の事を話した時、俺は軽口で好きじゃないのかと聞いた。

 そしてそんな回答が返ってきた―――今思えば、そのような恋愛感情を向ける対象ではない。

 そう暗に言っていたような気がしてきたのだった。

 とにかく一言―――俺の予想していたヴィーヴルさんの想像を完全にぶち壊して、三善龍と邂逅したのだった。

 ―・・・

 

「うぅ……ひどいよひどいよぉ~……夜刀くんのバカ……」

「埒が明かなかったからしかたないでござる」

 

 あれから少し経ち、とりあえずと夜刀さんとヴィーヴルさんは俺を前にしながら室内のソファーに腰かけていた。

 夜刀さん曰くヴィーヴルさんは極度の人見知りだそうで、基本的に癒しの存在であるアーシアはいても平気と判断し、この付近にいるのはアーシアを含めた四人だけ。

 それ以外は遠巻きから興味津々にこちらを伺っているようだ。

 ……だけど俺からしてもこれは予想外だった。

 まさか三善龍の一角のドラゴンがこんな感じのヒトとは思わなかったからな。

 今まで見てきたドラゴンは誇り高き強者の風格を醸し出していて、たまにおバカだけどそれでも凄まじい力を持つ存在ばかりだ。

 だけど何だろう……このヴィーヴルさんからは凄まじくアーシアと同じ雰囲気が感じられる!

 

「では改めて紹介するでござる。この方は三善龍の一角、癒しの力を司るヴィーヴル殿でござる」

「は、は、初めまして!き、君のことは夜刀くんから聞いてたから知っています!」

「えっと……初めまして、兵藤一誠です」

 

 うぅ~ん……なんだか向こうがむやみやたらに緊張しているせいで、こっちも何とも言えないって感じだな。

 にしても癒しの龍、ね。

 確かヴィーヴルさんは絶対的な癒しの力を持つドラゴンで、その力でたくさんの存在を救い、そして三善龍の一角と呼ばれるようになったというのは、以前夜刀さんから聞いたことがある。

 ただ癒しの力というのはアーシアの時の騒動から考えても絶大なもので、その力を欲しがったあらゆる勢力から姿を隠すために隠居したというのは既に聞き及んでいる。

 

「ちなみにヴィーヴル殿は完全な人見知りの甘ちゃんでござる。寂しがり屋にも関わらず自分から積極的になれないという難儀な存在で、中々拙者も気に掛けるしかないもので……」

「……夜刀さんも大変なんですね」

 

 俺は憐れみの視線を送りながら、肩を下ろす夜刀さんの肩をそっと手を置く。

 夜刀さんは俺の言葉に感動したようにギュッと手を握ってくると、するとその隣で……

 

「や、夜刀くん!なんだかすごくすごく馬鹿にされている気がするんだけど!?」

「真実を言ったまででござる」

 

 ヴィーヴルさんが喚いていた。

 夜刀さんはそれに対して冷徹にもそう言い切る……これはまるで兄と妹を見ている気分だな。

 手のかかる妹と、頼りになる兄って感じだ。

 ―――改めて観察してみると、確かにヴィーヴルさんからはドラゴン特有の禍々しく強い気のようなものは感じない。

 オーラは限りなく優しく包み込むような感じで、夜刀さんが三善龍で随一の戦闘に関する実力者というのも納得だ。

 三善龍は力というよりも良き行いや特異な能力が秀でているから、ヴィーヴルさんは戦闘には適していないんだろう。

 っていうか普通の女の子だもんな。

 見た目からしても、オーラからしても。

 

「もうもうッ!夜刀くんは昔から私に意地悪ばっか言うんだから!もっと優しくし―――あぅ……」

「はぁ……全く、ヴィーヴル殿は相変わらずでござる」

 

 すると夜刀さんは溜息を吐きながら、ヴィーヴルさんの言葉を遮るように頭を撫でる。

 ヴィーヴルさんは突然のことで驚くも、次第に猫のように静かになって体を気持ちよさそうに震えさせていた。

 ……っと、すると隣に座っているアーシアがツンツンと俺の横腹を突いた。

 

「イッセーさん、ヴィーヴルさんってもしかして寂しかったんじゃないでしょうか?」

 

 アーシアは俺の耳元で、出来る限り小さな声でそうボソボソと呟いた。

 ……寂しかった、か。

 確かに見た感じでは夜刀さんとヴィーヴルさんの間には、入り込む余地のないような絆のようなものは感じる。

 それこそ兄妹のようか関係性だ。

 しかも夜刀さんは俺の知るドラゴンの中でも面倒見がよく、更に戦慄するほどカッコイイと来たものだ。

 人里離れたところで一人で暮らしているヴィーヴルさんが寂しがるのは当たり前、か……

 流石と言うべきか、アーシアの優しさは相変わらずのものだな。

 

「アーシアがそう言うなら、そうかもしれないな」

「きっとそうですよ。だってあの二人を見ていると、凄く心が和みますから」

 

 アーシアはそう屈託のない笑顔でそう断言する。

 俺はアーシアといるだけで心が和む、とは言わないでおこう。

 なんかまた面倒なことになりそうだから!

 

「―――っと、そうではないでござる!拙者がここに来たのはこのようなことをするためじゃないでござる!!」

「こ、このようなこと!?夜刀くん、それはちょっと酷いよ!!」

「喧しいでござる!そもそもヴィーヴル殿が望んでここに来ていることを理解してござるか?」

 

 夜刀さんはキリッとした目つきでヴィーヴルさんを見ると、彼女は体を縮こませて、バツの悪そうな表情となった。

 正に親に叱られた娘って感じだ。

 いや、親鳥に置いて行かれた雛鳥の間違いか?

 

「まずは仕切り直しでござるーーーっと、アーシア殿。その節はイッセー殿を救って頂き、誠感謝しか浮かばないでござる!長らく感謝の念を贈ってなかったが、この場を機会に礼をしたいでごさる!」

「そ、そんな大層なことはしていませんよ?」

 

 アーシアは突然の夜刀さんの荒ぶる言葉に苦笑いをしながら、謙虚にそう言った。

 実際には大したことだと思うんだけど、アーシアがそれを自分から自慢げに語るはずもない。

 

「何を言うでござる!イッセー殿の心も体も救ったのでござる!―――家族とすれば、感謝しても仕切れぬ。ファミリーの誰しもが言葉には出さぬが、イッセー殿が覇に囚われた時、我らドラゴンファミリーは何も出来なかったでござる……っ!」

「…………」

 

 夜刀さんはその拳から軋むような音がするほど、悔しそうな表情を浮かべて手に力を込めた。

 肩は震えて、そんな夜刀さんを見て隣のヴィーヴルさんは一瞬目を丸くし、そして次第に優しそうな目をした。

 ……夜刀さんは誰よりも立派で、優しいヒトだ。

 だから背負わないで良い自分に対する怒りを背負って、そして今は苦しんでいる。

 そしてそれは俺のせいだ。

 あの時、俺はどうあがいても覇龍を発動しないなんて選択肢を選ぶことは出来なかった。

 それほどにアーシアを失った時の喪失感は測りに乗せることが出来ないほど苦しいもので、アーシアがいなかったら文字通り俺は止まることも出来なかった。

 ……だから、夜刀さん。

 貴方がそんな顔をすることはないんだ。

 俺がもし夜刀さんの立場だったら、同じような反応をすると思う。

 きっと自分を責める。

 だけど―――夜刀さんが俺だったら、きっとあなたも俺と同じような考え方をするはずだから。

 だから……―――

 

「だったら―――俺を守ってください、夜刀さん」

「―――イッセー、殿?」

 

 俺の言葉に夜刀さんの表情がポカンとする。

 俺の言葉は隣のアーシア、更には向かい側のヴィーヴルさんすらも目を丸くしていた。

 

「俺はきっと、これからもこんな自分を変えることが出来ません。何かを守る。それが例え俺の強迫観念でも、それは俺のやりたいこと……変えたくないんです、そんな自分を」

 

 俺は間髪入れず、話を続ける。

 

「だから、守る俺を守ってください。もしも夜刀さんがピンチになったら俺が夜刀さんを守ります……だから―――一緒に戦ってください」

「―――ッ!当、然でござるッ!!拙者はこの身に邪気を覆っても、家族を守るでござる……!!」

 

 夜刀さんはほんの少し目元を赤くしながら、力強く心強い言葉を以てそう宣言した。

 ……ありがとう、夜刀さん。

 ―――なんとなく、俺はそう思った。

 

「……うんうん、そっかそっか―――夜刀くんがあなたを大切に想う気持ちが分かった」

「ヴィーヴルさん?」

 

 その時だった。

 何度かうんうん、と頷きながら何かを納得したようヴィーヴルさんが俺の顔を真っ直ぐと見ていた。

 その目は慈愛そのもので、視線だけで何かを癒しているみたいに感じた。

 

「似てるの。あなたは、私達の大切だったディン君に―――全て自分一人で背負って、何かを守るためだけに力を振るった……そんな大好きだったドラゴンに」

「……三善龍の一角……封印の刻龍(スィール・カーヴィング・ドラゴン)

 

 俺はディン……全ての悪意を背負い、その身を果てさせてまで何かを守ったドラゴンの名を不意に呟いた。

 以前、夜刀さんから聞いた今は亡き三善龍の最後の一匹。

 封印を司り、邪龍や世の害となる存在を自身の身に封印し続け、最後は限界を迎えて死を迎えた善龍のことを。

 俺がそれを呟いたとき、ヴィーヴルさんは目を瞑って深呼吸して、そして目を開いた。

 

「そう……全ての悪意をその身に引き受けて、多くの命を救ってきた私と夜刀くんの仲間。赤龍帝くん―――イッセーくんはディンくんと考え方も、有り方も……心意気も何もかもそっくり」

「……考えてみれば、そうかもしれないでござるね」

 

 ……夜刀さんはヴィーヴルさんの言葉に同調するように言葉を漏らした。

 

「夜刀くんがイッセーくんと私を会わせたいって言った意味も分かった。君の前だったら、そんなに恥ずかしいとかそんな感情はなくて……どうして、どうしてかな?―――君のことが他人のように思えない」

「……そう、ですか」

 

 俺は言葉では言い表せない言葉の凄味に、自分の言葉を失う。

 優しい口調なのに、ヴィーヴルさんの言葉は余りにも清々しく、そして何よりも重かった。

 まるで少し寂しいような、悲しんでいるような声。

 ……そうか。

 既に命を失い、魂だけの存在となった三善龍最後の一角であるディンさん。

 ―――そのドラゴンに対する彼女の気持ち。

 それが今のヴィーヴルさんの言葉の重みや、そして寂しそうな声音につながっている……俺はなんとなくそう思った。

 ……俺だってそうだから。

 だからかな―――このヒトとは、どこか他人のようには思えない。

 何かを失った、そんな思いを持っている者同士だから。

 

「俺は……その、あなたに会えて良かったです―――ホント、良かった」

「え、えっとえっと……うん。わたしも出会えて良かったよ!」

 

 ……ああ。

 本当に、出会えて良かった(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 俺と同じ思いを共有してくれるような人と会うことが今の俺からしたら嬉しかった。

 

『…………そうか―――相棒、お前は……』

 

 ……ドライグ、今は静かにしておいてくれ。

 お願いだから―――

 

『分かっているさ、相棒』

 

 ドライグは全てを悟るようにそれ以上は何も言わなかった。

 

「そ、その……紹介が遅れましたが、私はアーシア・アルジェントと申します!」

 

 ―――沈黙を良い形で破るように、アーシアは少しばかり明るめの声でそう頭を下げながら自己紹介をした。

 ……アーシアには助けられてばっかりだ。

 俺も今のこの沈黙をどうにも出来なかったら、凄く有難かった。

 ―――するとヴィーヴルさんの視線はアーシアへと向かった。

 互いに視線が通うアーシアとヴィーヴルさん。

 綺麗な金髪と銀髪、優しそうで穏やかな目。

 二人は少しの間、沈黙で互いの姿を確認し、そして―――

 

「い、イッセーさん!どうしましょう!!私、ヴィーヴルさんと友達になりたいです!!」

「夜刀くん、夜刀くん!どうしよう、どうしよう!!このアーシアちゃんと仲良しになりたいよ!!」

 

 ………………二人同時に、ほとんど同じことを俺と夜刀さんにそれぞれ言った。

 ―――あれか?言葉には出来ないインスピレーションを感じたとか?

 運命的なものを感じ取ったとか、そんな見解で良いのだろうか……とにかく俺はアーシアに言ってあげることにした。

 

「うん……普通に仲良くしてくださいって言えば大丈夫だと思うよ?」

「アーシア殿ならば簡単に受け入れてくれるでござる」

 

 俺と夜刀さんは苦笑いをしながらそうアドアイスをすると、すると二人は同時にハッとするような顔をし、そして互いに顔を再び見合わせて……

 

「「わ、わ、わたしと友達になってくださ―――はぅ!?」」

 

 ……まるでシンクロをするように同時に頭を下げ、その結果二人は勢いよく互いのデコを衝突させるのであった。

 ―――ああ、分かった。

 この二人、すっごく似た者同士な上に、行動とか性質とかほとんど一緒なんだ。

 恥ずかしがり屋なところとか、凄く一生懸命なところとか。

 案外好みとか趣味とかも一緒なのかもしれないな。

 ……っていうか、なんだろう―――この二人の絡みを見ていると、何故か心がホッコリと癒される!

 ちなみに今は二人とも、ぶつけた額を痛そうに抑えている。

 それで互いに癒しのオーラを出して、相手の額を回復させていて―――ってえぇ!?

 まさかの相互回復をこんなところでするなんて思いもしなかった!!

 

「むむ、むむ!アーシアちゃんの回復力、すごいよ!凄く優しい感じがする!しかも精度が高いッ!!」

「ヴィーヴルさんの回復もすごいです!!あっという間に痛みが消えました!!それに私のものよりもすごいです!言葉では言い表せないほど!!」

 

 アーシアはヴィーヴルさんの橙色の回復のオーラを見て、対するヴィーヴルさんはアーシアの碧色の回復のオーラを見て互いに驚く。

 おぉ……これは癒しコンビ結成の瞬間を俺は目の当たりにしたんじゃないか?

 っていうかこっちを興味深そうに見ていた皆もこの光景を見て和やかな表情をしている!

 

「イッセー殿……歴史の始まりでござるね」

「ええ、その通りです」

 

 俺と夜刀さんは二人を見ながら、そのような訳の分からないことを話すのであった。

 ……うん、この癒し力の高い二人を見ているなら当たり前だ。

 そう思った―――っと、その時、俺の携帯電話が鳴る。

 ディスプレイの画面に表示されているのは……アザゼルだ。

 ってことはつまり、龍門(ドラゴンゲート)が完成したのか。

 俺はそっと携帯電話をポケットに突っ込み、そして立ち上がってヴァーリと匙の方に歩いて行く。

 そして―――

 

「さあ、行こう。そろそろ時間だ」

 

 そう言って、アザゼルが待つ地下のホールへと向かうのだった。

 ―・・・

 

 俺にヴァーリ、匙と夜刀さん、ヴィーヴルさんを乗せたエレベーターが地下に向かって下がっている時だった。

 

『……相棒。本当のことを教えてくれないか?』

 

 その時、ドライグが唐突に俺だけに聞こえる声……いや、実際にはフェルと俺にだけ聞こえる声でそう尋ねて来た。

 ……やっぱりドライグは気付いていたんだな。

 

『……私も、ある程度は悟っていました―――主様が何故、このタイミングで自分の事を全て仲間に話したのか……言葉の節々の重みも』

『第二の親である我々が知らないわけもないだろう?』

 

 そうだよな。

 ドライグとフェルだもんな……全部、悟っていて当たり前だ。

 だから、そんな絶対の信頼を二人に向けているから俺は二人には何も言わないんだ。

 

『寂しくはあるが、嬉しくもあるな……そう言ってもらえると』

『……主様』

 

 ……ああ。

 ならさ、ドライグにフェル。

 俺から一つ、大切なお願いがあるんだ。

 

『……考えてみれば、相棒が誰かに何かを頼むことは珍しい―――言ってみろ、相棒。俺は相棒と常に共にある』

『我々は主様に付いて行きます。例えそれが修羅の道でも、茨の道でも……どんな道でも』

 

 ……ありがとう。

 ならさ。

 

 

 

 ―――――――――最後まで、死ぬその時まで俺と一緒に居て、一緒に戦ってくれるか?

 俺がそう言った瞬間、俺の意識は一瞬で神器の中。

 俺が夢の中で二人と会う空間へと行っていた。

 俺の目の前には赤き龍と白銀の宝石のような龍がいる。

 生前のドライグとフェル。

 誇り高き赤き化身のドラゴンと、この世で最も美しいドラゴン。

 その二人が俺の前に立っていた。

 

『相棒―――その言葉、単なる自己犠牲ではないな?』

「……ああ。そんな安いものじゃない。自分でも理解している―――俺が死ねば悲しむ人がいる。苦しむ人がいる……俺の命は決して安いものじゃないってことくらい分かってる」

『ならばなぜ、そう言うのです?』

 

 ……二人の声音は優しいものだ。

 俺を非難しようとしているものでも、否定しようとしているものでもなかった。

 ―――俺は、答えを出したんだ。

 ヴィーヴルさんに出会って、母さんと父さんという大切な存在に包まれて……大切な仲間に囲まれて。

 そんな人たちを守りたい。

 

「ロキとの戦いは正直言えば勝てるかも分からない。確実に全員が生き残る方法なんてあるとは思わない―――例えばさ、俺が決死の覚悟で全力で戦って、俺一人だけが死ぬのと、それとも何人も犠牲が出て、そして俺が生き残る……そんな選択肢があれば俺は―――――――――絶対に、前者を選ぶ」

『……それのどこが自己犠牲ではないんだ?』

「自己犠牲だよ。だけどそれだけじゃないんだ―――守りたいんだ。これは俺がずっとずっと……兵藤一誠になる前から思っていたんだ。だけど色々なことがあり過ぎて、その心を忘れて、ただ守ることが強迫観念になっていた」

『……主様はどうしたいのですか?』

 

 ……言おう。

 俺の全ての気持ちを、思いを。

 誰よりも俺の傍にいた二人に。

 

「失うことに対する恐怖から来る強迫観念じゃない……例え俺がいなくなって、皆が悲しむことになっても、やっぱり俺は皆に生きてもらいたい……皆、俺と同じ気持ちだと思う―――だけど俺は、死んでもロキを倒す」

 

 そして―――

 

「だから、俺と最後まで戦ってくれ。俺に力を貸してくれ。最後の最後まで、一緒―――」

『言うな。分かっているさ』

『ええ、全く以てそうです。こうなった主様の頑固さと強情さはわたくし達が誰よりも知っています―――ですが知っていましたか?ドラゴンというのは諦めが悪いのです』

 

 ……俺の言葉は二人によって遮断された。

 ドライグとフェルは、何を言っているんだ……?

 

『相棒は俺たちを舐めているぞ。そんなもの、最初から覚悟の上だ。例え消えることになっても俺たちは相棒と共に戦い抜く』

『戦い抜くというのは、つまり勝つのです。死ぬことなんて許しませんし、させません―――大切な子供なんですよ?兵藤謙一も、まどかさんも言っていたでしょう?』

 

 そして二人は共に黙り、次の瞬間……

 

『『子供を守るのが親の役目だ!!』』

 

 そう……高らかに宣言した。

 

『相棒がそうであるように、俺は相棒のためならこの命、簡単に落とそう。相棒を守るためならばむしろ喜んで死神に魂を売ろう』

『ですがそんなことはない―――わたくしとドライグは何があっても主様を守ります。主様が仲間を、大切な存在を守るように我々も主様を守りましょう』

「だけど、それは……」

 

 二人は俺の制止の言葉を聞かずに、そして話し続けた。

 

『ははは!!俺たちは似た者同士だ。互いに大切に想っていて、それを守るためならば命すらも惜しくないと考えるほどにイカレている……だがそれの何が悪い?互いにそう思っているならば、全てを守り抜いてみせようぞ―――我が相棒、兵藤一誠!』

『頑固でも我が儘でも、自己犠牲でも構いません。わたくし達は互いに守り抜き、戦い抜きます……だからこそ、我が主様よ―――死なせません。あなたを必ず守ります』

 

 ……………………有無を言わせないっていうのはこういうことを言うんだろうな。

 だけど……ああ、分かったよ。

 命を天秤に乗せる。

 だけど俺は死なない。

 だって俺が死んだら、二人も死んでしまうんだろう?

 命を賭けるんだろう?

 ……なら戦い抜いてやる。

 だから俺は―――

 

「――――――絶対に、負けない」

 

 そう誰にも聞こえないような声で、俺は目を開けてそう言った。

 それと同時にエレベーターの扉が開き、そして俺たちは奴を倒すための算段への一歩を踏むのだった。


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