ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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【第1章】 旧校舎のディアボロス 
第1話 金髪と、視界は真っ赤な……


 何故かは知らないけど、どういうわけか俺の視界にはプライドの欠片もなく土下座をしている友人二人がいる。

 唐突で悪いけど、こちらからしても唐突なんだ。

俺、兵藤一誠の前には中学以来の友人の松田と元浜が恥を捨ててそんな暴挙にでている。

 

「とりあえずどうしたんだよ? そんな土下座なんかして……」

「もうこの際、イッセーでいいんだ! 女の子を紹介してくれぇぇぇぇ!!」

「そうだ! もうイッセーしかいないんだぁぁああ!」

 

 ……このエロ野郎どもが叫ぶせいで周りからすごく視線を集める。

 中には女子で、軽く悲鳴を上げる子もいるけど、それは松田と元浜が学園で煩悩を全開で表に出すため、女子生徒からかなり引かれているらしい。

 

「…………とりあえず落ち着け」

 

 俺は運動場が見える芝生の上で未だに土下座をする二人の後頭部を軽く小突く。

 さすがにこれは居心地が悪い。

 周りから見たら、俺がこの二人をまるで従えているみたいだからな。……え、死んでもいやだけど。

 

「……イッセーよ、俺と松田がこの学校に猛勉強して入った理由は覚えているな?」

 

 ……確か、驚くほどの煩悩だらけの理由だったと思う。

 その前に駒王学園のことに少し触れると、駒王学園は元々は女子高であったらしく、その名残から女子生徒の数の方が学年を通しても比率が高い。

 学力のレベルもそこそこ高く、普通に難関校であるのだけど、この二人はそんな駒王学園でどうやらハーレムを作れると思っていたらしい。

 ……全くもって幻想だよな、それ。

 当然、そんなことは初めから不可能なわけで。

 それに特に松田なんかは普通にしていればスポーツ万能で爽やかに見えるはずなのに、エロ発言がこいつを駄目にしている気がする……

 まあそれは云々として、こいつらは普通な面で言えば良い奴らだ。

 エロは置いといたら人のことをしっかりと考えれるし―――そう、エロを置いておいたらな。

 

「蓋を開ければどうだ!? 女子は俺らを避け、ハーレムどころか彼女の一人も出来やしない!」

「いや、それは自分の責任でもあるだろ? あと地味に俺を加えるな。俺は避けられてない」

「黙れい、このモテ男が!! 女弄びやがって!」

「弄んでねぇよ! ってか何で女の話になるんだよ!」

 

 俺は元浜の眼鏡越しの本気の涙に少し戸惑う……

 涙するほどにお前はハーレムしたいのか!? いや、ホントに彼女一人いればいいじゃん!

 まだいないだろうけど、元浜も普通にしていればいい奴だし、そこまで見た目も悪くないからさ!

 

「イッセーよ。……貴様、入学して以来、女子に人気のない所に呼ばれた回数を言ってみよ」

「覚えてねぇよ?」

「ならば俺が答えてやろう!! イッセー!!」

 

 元浜は突然立ち上がり、メガネをくいっと上げ、胸ポケットから黒い手帳をとった。

 

「まずは一度目の呼び出し、入学当日、クラスの女子。……話した内容は不明、しかし戻ってきた時の女子は妙に浮かれていた。それからの数カ月、お前の元には数々の女子が来たはずだ、数にして50人程度……」

「う、浮かれているだと!? どういうことだ、元浜氏!」

「俺の調査によれば付き合った形跡はない。だが浮かれていたのだ。そりゃあ目に見るよりも明らかにな……」

「な、何がったんだ、イッセー! 応えてくれ!!!」

 

 松田が俺の肩を激しく揺らす。

 ……そんな大した話じゃない。

 初めは普通に好奇心で俺を呼び出したが、良いのか悪いのか、駒王学園は割と草花で繁っている。

 当然、虫とかも出てくるわけで女子からしたら怖いらしく、それを助けたら仲良くなったという経緯だ。

 虫が嫌なら校舎裏なんか呼び出さなきゃいいのにな。

 

「そんな大したことじゃないさ。……普通に仲良くなっただけだし、お前らが考えるような告白とかもそんなにないし、あっても断った」

「……そう言えばイッセーは特定の相手をつくらないよな。引く手は数多のはずなのに」

 

 松田は俺の顔を見てそう言ってくる。

 

「……別に、彼女とかはあんまり気にしないんだ。出来る時は出来るだろうし、それに今はお前達とかと馬鹿してるほうが俺に合ってるし、俺もそっちの方が楽しいんだよ」

 

 芝生に寝転びながらそう言った。

 実際の話、俺は正直、こいつらとの関係は気にいっている。

 いい奴だし、こいつらの長所は俺が良く知っている……もしこいつらを噂だけ判断しようとする奴は俺は許さないさ。

 それに……どうも今の俺には恋愛というものに楽しさを感じないんだ。

 良いものだとは思うし、必要なことなのかもしれない……でも俺は何故か、一歩先に踏み込もうと思えないんだ。

 どうしてもチラつくんだよな……あいつの、笑顔が。

 多分それは……いや、暗い話はなしだ!

 とにかく今は、こいつらと一緒に遊ぶことが楽しい! それで良いんだ!

 

「うぅ……イッセーが俺達のことをそんな風に思ってたなんて!」

「ああ、こんなことなら嫉妬してあんな噂を流さなければ良かった!」

 

 ―――…………あんな、噂?

 それまで穏やかだった俺の心にヒビが入った。

 

「おい、おまえら……噂っていうのを俺に詳しく、それはもう詳しく教えてくれるか?」

「「やばッ!!」」

 

 二人は顔が青ざめ、すぐさまその場から逃げようとするが俺はそれをさせず、こいつらの首根っこをしっかりと握りしめて俺の方に向かせた。

 表情は当然、笑顔である。

 

「い、い、いやぁ~……イッセーがあまりにも異性にモテルくせに特定の相手を作りませんからね?」

「ほう……それで?」

「た、たまに教室に遊び来ていたイケメン王子、木場祐斗と仲が良いみたいだから、その……」

「……言い逃れは?」

「「……出来れば命は残す方向でッ!!」」

 

 二人の声が綺麗に重なった瞬間、俺は二人をギャグ漫画のように芝生に顔を埋め込んでやった!

 よし、すっきりした!

 そして俺の中のもやもやも消えた!

 

「お前らだったのかよ……俺と木場のホモ疑惑を流したのは!!」

 

 ……それは非常に不名誉な噂であった。

 

「兵藤君、今日もすごい具合に埋まってるね? そこの二人」

「……木場か」

 

 すると俺のすぐ傍にもう一人のエロ馬鹿の被害者、木場祐斗が現れた。

 傍らにはこいつの取り巻きみたいな女子生徒が何人かいた。

 

「ひ、兵藤君と木場きゅんのツーショット!?」

「見るようであまり見ないシーンよ!! 今すぐ永久保存しましょう!!」

「爽やかイケメンの木場きゅんに、兄貴肌男前イケメンの兵藤くん……ぐは!」

 

 おいおい! 最後の子、なんか血を吐いたよ!?

 そして何で木場、お前の取り巻きは俺とお前の会話を見てそこまで興奮してるんだよ!

 なんか不本意な噂がここまで広がっている!?

 

「あはは……それより兵藤君、こんなところで何をしているんだい?」

「変な噂を流すのが大好きなそこの馬鹿をめり込ませただけだ」

「噂? ああ、僕はそれはあまり気にしてないから大丈夫だよ」

「いや、気にしようぜ? それでお前は部活か?」

 

 俺は気を取り直して、木場に尋ねる。

 

「うん。なんか最近、部長とか他の部員が悩んでるみたいだからね。……兵藤君もどうだい?」

「いや、俺はオカルト研究部の面々とは面識がないしな。……行ってもお前と話しているのが関の山だろうな」

「僕はそれでも構わないけど。でもそれなら仕方ないね。じゃあ兵藤君、またね」

 

 木場はそう言うと、爽やかな笑顔で手を振りながら旧校舎にあるオカルト研究部の部室へと歩いて行った。

 そして俺は、あいつの後ろ姿を見ながら、ふと思った。

 ……松田と元浜を、地面に埋め込んでいたことを。

―・・・

『Side:木場祐斗』

 

 まず最初に僕、木場祐斗は悪魔だ。

 元は人間で、とある事情で死にそうになっているところを我が主、リアス・グレモリ―様に悪魔の駒(イービルピース)を与えられ、悪魔に転生した転生悪魔だ。

 そして僕は今、リアス様が部長をしている駒王学園の旧校舎にあるオカルト研究部の部室のソファーに座りながら、副部長である姫島朱乃さんの淹れてくれた紅茶を飲んでいた。

 

「あらあら、裕斗くんは本日は来るのが遅かったのですね」

「はい、道中に友人と顔を合しましたので、少し会話を……」

 

 口調が柔らかく、艶のある黒髪でニコニコしているオカルト研究部副部長の姫島朱乃さんが普段通りの笑顔で僕に話しかける。

 

「祐斗くんにそんなに仲の良い友人がいるのは初耳ですわ」

「あはは、僕にも友人の一人はいますよ」

 

 僕は苦笑しながら彼女の入れてくれた紅茶を飲み干す。

 今、この場にいるのは全て悪魔だ。

 僕の主、リアス・グレモリー様を筆頭に、彼女の右腕であり同時に女王の駒を与えられた三年生の朱乃さん、そして僕の反対側のソファーでぼうっと呆けている戦車の駒を与えられた一年生の塔城小猫ちゃん。

 僕は部長から騎士の駒を与えられていて、そしてここにはいないけどもう一人、僧侶の駒を与えられた子もいる。

 

「あらあら……小猫ちゃんは本当に最近はずっとぼうっとしてますわね。何か悩みかしら」

「小猫ちゃんはあんまり自分のことは表に出しませんからね……それに部長も」

 

 僕は小さな円テーブルの上に置かれたチェス盤の上の、真っ赤なチェスの駒をいじっている部長の姿が目に入った。

 そこには兵士の駒が8つ、僧侶、戦車、騎士の駒が一つずつ乗っていて、いずれも部長の待つ悪魔に転生させるための悪魔の駒(イ―ビルピース)だ。

 

「やはり部長の悩みとはあのことでしょうか」

「ええ。……それは突然のことでしたもの。流石の部長も戸惑っているのですわ」

 

 すると朱乃さんは部長の傍に寄って行った。

 

「部長、あまり考え込むのは体に毒ですわ。少し肩の力を抜かれればどうですか?」

「……ええ、ありがとう、朱乃。少し休むことにするわ。それに私の頭で考えてもどうにもならないでしょうから」

 

 部長は少し笑うと、朱乃さんと共に部室の横にある仮眠室に行った。

 何で一介の部活であるオカルト研究部にそんなものまで備えられているかというと、そもそもこの駒王学園がグレモリー家が作った学校だからだ。

 

「……祐斗先輩」

 

 すると小猫ちゃんが知らない間に僕の傍に来ていて、僕の服の裾を軽く引っ張っていた。

 

「……少し出てきます。一応、部長に言っておいてもらえますか?」

「うん、わかったよ。……それで今日はどこに?」

「……内緒です」

 

 すると小猫ちゃんは少し頬笑みながら部室から退散した。

 ここのところ……っというより僕が駒王学園に入学して以来、小猫ちゃんはこの夕方の5時ぐらいから6時にかけて、どこかに一人で行くようになった。

 最初の方は部長や朱乃さんも心配していたんだけど、ずっと悩んでるのかは分からないけど、ぼうっとしている小猫ちゃんが帰ってきたら少し機嫌が良くなっているのを見て、二人も黙認するようになった。

 

「気にはなるけど……」

 

 僕はそう呟くと、部長がそれまでいじっていた部長の悩みの種であるチェスの駒……3つの兵士の駒をみた。

 どれも同じように見えるが、8つのうちのこの3つの兵士の駒はただの駒ではない。

 いや、違うね―――ただの駒だったのに、ある日突然にただの駒ではなくなったんだ。

 本来、悪魔の駒は転生させる際、その人間の能力や価値によっては一つの駒では足りなく、複数の駒が必要になることがある。

 そんな中で悪魔の駒の中のバグとして生まれた駒……変異の駒(ミューテーション・ピース)は、その当たり前が通用しない。

 例えば騎士の駒で考えると、すごい剣豪がいて、本来はその剣豪は騎士の駒の一つでは転生できないとする。

 なら騎士の駒が複数いるけど、変異の駒というのは本来複数の駒が必要なのにも関わらず、それを一つで済ますことのできる一種の特異現象を起こすものなんだ。

 簡単に言えば、一つの駒の中に何個もの駒が入っているって考え方だね。

 そして僕の目の前の兵士の駒はそれに該当する。

 普通はこの変異の駒は、悪魔の10人に1人は一つくらいは持っているんだけど、数年前までなら部長は変異の駒は既に使っている僧侶の駒の一つしか持ってなかった。

 しかしここ数か月前、突然、それこそ変異的に8つの駒のうち3つが変異の駒になったんだ。

 部長はこの3つの駒を悪魔の駒の製作者、四大魔王アジュカ・ベルゼブブ様に見せたところ、一つで兵士の駒の6個分の価値があるらしい。

 こんな現象は流石の魔王様も見たことも聞いたこともないらしく、その現象を追求したいということから、魔王様はこの駒を部長に使わせるということになったらしい。

 

「単純計算で、兵士23個分か……」

 

 僕はその数字に少し恐れおののく。

 一体、何があったらただの駒が変異の駒になるんだろうね……

 その時だった。

 

「……駒が、動いている?」

 

 ―――突然、兵士の駒の8つが、小さい光を灯しながら動いていた。

『Side out:木場』

―・・・

 俺、兵藤一誠は今は学校から帰っている途中だ。

 とりあえず情けで松田と元浜を芝生から抜くと、あの二人は化け物をみるような顔で謝りながら走り去ったのだ。

 だから俺は今は一人で帰ってる。

 時間にしたらもう夕方の5時を少し過ぎたぐらいだ。

 

「うう~ん……今から帰ったら母さんに絡まれるから、少し遅めに帰ろうかな」

 

 母さんは少しはマシになったとはいえ、やはり子供の俺を可愛がることを非常に好んでいる。

 この前、母さんの部屋にある「イッセーちゃん成長アルバム」と題名に書いてあるアルバムを見つけて中を見た時、俺はものの2秒でアルバムを元のあった場所に戻した……

 そりゃそうだよ!

 なんか体重から全てのあらゆる情報が赤裸々に書いてあったんだぞ! 悪寒の一つくらいはするわ!!

 

『それだけ主様を愛しているということなんでしょう……美しいではありませんか、親子愛』

 

 すると俺の中からフェルの声がした。……ってあれ?

 ドライグは?

 

『以前にドライグが言っていたでしょう? 今は赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)は調整期に入ったとのことなので、数日の間はドライグはその調整作業に集中するらしいです』

 

 ああ、言ってたな。

 そう……今、俺の中の神器の一つの赤龍帝の籠手は負担が掛かり過ぎたために、ドライグから使用を止めるように言われて、今は発動できない状態にあるらしい。

 

『主様の修行量と更に成長速度は相当の早さですよ。……それで負担がかかり過ぎたのでしょう。わたくしの神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)も今は軽い調整期ですし、三度の創造力をためるのがやっとでしょう』

 

 三回で作れる神器と言えば……下級か中級クラスの神器くらいか?

 

『そうですね……。どちらにしても今日はゆっくりしましょう。たまには休暇も必要です』

 

 フェルは優しい声でそう言ってくれる。

 相変わらずフェルは優しいよな。

 するとその時だった。

 

「……あれは、どうしたんだろ?」

 

 俺の視線の先には、道行く人に何かを聞こうとするが結局相手にされずにおどおどしているヴェールを被った小柄な女の子がいた。

 髪の毛の色は……金髪?

 ああ、だから日本語が通じずに相手にされないってわけか……。はは、仕方ないな。

 

『ふふ……。主様もお優しいですよ』

 

 俺はフェルウェルの呟きを聞きながら、その女の子の方まで歩いて行った。

 たぶん、さっき聞こえた言語通りなら彼女の言語は昔の俺と同じだろうから、俺は言語を変えて彼女に話しかけた。

 

「何かお困りですか?」

「……え?」

 

 その女の子は俺の方を振り向く。

 目を丸くして、俺の方をじっと見るとちょうど風がなびいて彼女のヴェールが飛ばされるのを黙視すると、俺はヴェールをその場で軽く飛んで、そしてヴェールを掴んで彼女に渡した。

 

「はい、飛ばされたもの」

「あ、ありがとうございます!」

 

 すると女の子はぺこぺこと頭を下げて大げさにお礼を言った……そんなすごいこともしてないのに、そんなに礼を言われたらなんか罪悪感がっ!!

 ……じっと俺は彼女を見る。

 正直言って、俺が今まで見た中では圧倒的な美少女がいた。

 あまりにも綺麗なグリーンの相貌によく手入れされているだろう金髪の髪。

 肌は雪みたいにきれいで、どこか守ってあげたくなるような雰囲気を醸し出しており、何よりその雰囲気はとても優しそうだ。

 

「うぅ……私の言葉はこの国ではどの方にも通じませんでしたから、すごく嬉しいです! 通じる方がいらっしゃって!」

「それは良かったんだけど……なんか困ってたんじゃないのか?」

「はぅ! そうでした!」

 

 あはは……なんかホントに守りたくなってきた。

 っと話は逸れたな。

 

「私、今日付けでこの町の教会に赴任してきたんです。……貴方はこの町の住民の方なのですか?」

「ああ、俺は兵藤一誠。仲の良い奴とか、家族からはイッセーって呼ばれてるよ」

「わ、私はアーシア・アルジェントと言います! それでその……」

「道に迷ったんだろ? 教会なら俺、知っているから案内しようか?」

「えっと……。その、いいのでしょうか? 初対面でそんなにお世話になって……」

 

 アーシア・アルジェントという少女はどこか不安げな表情で俺を覗き込む。

 ……こう、なんていうか。俺は猛烈な癒しを感じる。この子の人の良さをほんの少しの会話で確信した。

 

「ああ、どうせ俺も大してすることなかったしさ。困った時はお互いさまって言うだろ? それに君だって、困っていたら助けようと思わない?」

「……ええ。そうですね―――それじゃあ、お言葉に甘えます、イッセーさん! 私のことはアーシアって呼んでください!」

「おう――よろしく、アーシア!」

 

 そして俺とアーシアは隣に立って歩き始めた。

 その途中で知った話で、アーシアは出身は欧州らしく、後はシスターっていうのは見た目で分かった。

 あと分かったのは……アーシアが本当に優しい子ということだ。

 俺のことを気遣うように話すし、この子と話していてすごく楽しい。

 松田とか元浜とは違う、新しい新鮮な楽しさだ。

 

「あ……イッセーさん、少し待っててくださいね?」

 

 アーシアの目的先である教会がようやく見えてきた時、公園を横切った際にアーシアは突然、公園の中に入っていった。

 俺はアーシアについて行くと、そこには転んで怪我をした男の子がいてアーシアはその子の血が出ている膝へ手を当てる。

 そして次の瞬間、俺は少し目を見開いた。

 

「……あれは、神器(セイクリッド・ギア)?」

 

 ……アーシアの手から淡い緑色のオーラのような光が発せられ、すると男の子の膝の傷がどんどんなくなるようにみるみると治っていき、終いには傷が完全にふさがった。

 

『回復系統の神器ですか……あれはかなりの高位の神器ですね』

 

 フェルの言うことだから間違いないだろうな。

 なんか、俺はアーシアが聖女のように見えた。

 

「はい、これで大丈夫です」

 

 アーシアは男の子にそう言うが、当然、男の子には通じていない。

 するとその時、男の子の母親らしき女の人がアーシアを怪訝な表情で見ていて、そして男の子を連れて公園から早歩きで立ち去ろうとしていた。

 

「お姉ちゃん!ありがとう!!」

「……?」

 

 当然、アーシアには通じていないらしく、俺はアーシアの方まで近寄った。

 さっきの男の子が言ったことを彼女に伝えると……

 

「ありがとう、だってさ」

「……すみません、つい」

 

 アーシアは舌を出して小さく笑うと、嬉しそうにほほ笑んだ。

 

「……その力ってさ」

「はい、治癒の力です。……変、ですよね? こんな力を見たら普通のヒトなら……なんて。でも神様から頂いた大切な力なんです。……そう、大切な」

 

 ……アーシアはどこか表情を暗くさせる。

 どうしてだろう……アーシアのその顔を見たら、どうにかしてあげたいと思ってしまった。

 何で神様からの頂いたって言うのに、そんなに暗い顔をする彼女を笑顔にしてあげたいと思った。

 ―――それに何より助けてあげたのに、母親からはあんな怪訝な表情……報われない。

 アーシアは優しい子だから報いなんてどうでもいいんだろうけど……でもそれとこれとは話が別だ!

 俺は居ても立っても居られなくなり、アーシアの手を握った。

 

「……イッセーさん?」

「……もちろん驚いけど、俺は優しい力だと思った。誰かを救える力が、間違っているはずがないと思う。それに優しいアーシアに癒しの力って、相性抜群だろ? 会って間もない俺でもそう確信できるんだぜ?」

「……イッセーさん。ふふ―――ありがとございます。なんか、慰められちゃいましたね」

 

 少しは表情は晴れたかな?

 アーシアは笑顔だ。この子にはこの屈託のない笑顔が良く似合う。

 

「教会はもうそこだから道はもう大丈夫か?」

「はい! ありがとうございました、イッセーさん。何かお礼をしたいのですが……あ、お礼を教会で!」

「……せっかくのお誘いだけど、今回は遠慮しとくよ。俺はお礼が欲しくて助けたわけじゃないんだ―――だから今度、お礼とか関係なく誘ってくれたら嬉しい!」

「……イッセーさん、お優しいです。本当に―――はい! 次はしっかりと御もてなしの準備をしてお誘いします!」

 アーシアは少し微笑を浮かべながらそう言った。

 

 俺はそのまま、何故かアーシアのヴェールに包まれた頭を撫でた。

 アーシアは俺の行動にキョトンとしながら頬を少し赤くしている。

 

「また何か困ったことがあったら俺を頼ってくれよ? あの時間帯なら毎日さっきの道を通るからさ」

「……ありがとうございます、イッセーさん! ……日本に来て、不安だったんですけど、イッセーさんみたいな素敵な方に出会えて、私、嬉しいです! あぁ、これは主が私に下さった優しい贈り物です!」

 

 アーシアは高い声音でそう言うと、上機嫌で教会の方に向かう。

 アーシアは俺から少し離れ、俺にそこから手を振った。

 

「じゃあ、イッセーさん!必ずまたお会いしましょう! 絶対ですよ!」

「ああ・・・またな」

 

 そうして俺はアーシアと別れたのであった。

―・・・

 アーシアと別れて、俺は家へと向かっていた。

 ちょうど、良い頃合いの時間でそろそろ母さんも心配するよな時間帯だ。

 大体、6時くらいかな?

 夕日もそろそろ消えそうな時間帯だ。

 それにしても、アーシアは良い子だったなぁ……

 

『主様が特定の女の子を気にいるのは珍しいですね?』

 

 いや、本当に良い子だったから。

 優しいし、気が利くし、最近はあまりああいう良い子はいないからさ……あと守りたくなる雰囲気がな?

 ……それにどことなく、誰かに似ていていたから。誰か、は言わないけどさ。

 

『気持ちはわかりますよ、主様……今、この場にドライグがいないことが唯一の救いですか?』

 

 ああ……そう言えばドライグ、最近は本当に保護者の域を超えたからな。

 嫌な気分じゃないけど、松田と元浜を何故か敵視しているし……

 

『主様の悪影響になるとでも考えているのでしょう。……ですがなんだかんだでドライグは主様の意思を尊重しますので、大丈夫ですよ』

 

 分かってるよ。

 まあ今はドライグの力も使えないし、すぐに帰りますか……

 そう思ったその時だった。

 

「……フェル、この感じ、まさか」

『ええ、魔力を感じます。それとこれは―――聖なる力? いえ、聖なる力に邪さが入っている……。恐らく、堕天使の類かと』

 

 ……フェルは力の探知を得意としている。

 だからこそ信じられる。

 俺が今いるのはさっきのアーシアと通った小さな公園ではなく、もっと大きな、噴水が有名な公園だ。

 

「魔力は十中八九、悪魔のものだろうな……。でも聖なる力に邪さ、か。フェルの言う通り、堕天使で間違いなさそうだな」

 

 俺は大体の予想がついて、急いでその場から走り出す。

 

『主様。今の主様は籠手の力は使えません。その状態でこの件に首を突っ込むのは危険です!」

 

 ……そうかもしれないな。だけど、それは俺が止まる理由にはならない。

 俺の予想から考えると、この町にいる悪魔は全て、駒王学園の生徒のはずあんだ!

 堕天使が悪魔を襲う理由は一つ―――なら俺がどっちを救うのかは明確だ。

 

『……確かに、悪魔の方が弱まっているのは確かです。……ですが主様を危険な目に遭わせては、相棒としてドライグに合わせる顔がありません!』

「―――お前も過保護だよな、大概。だけど俺にはお前がいるんだぜ?」

 

 俺はそう呟くと、俺の胸から白銀の宝玉が現れた。

 宝玉は俺の胸に埋まるように装着されていて、宝玉の周りは銀色の装置のようなもので包まれている。

 

『Force!!』

 

 ……神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)

 15秒ごとに創造力を高め、溜めた創造力に比例して一時的に神器を創り出すことの出来る無限の可能性を秘めた神器。

 でもこれも調整中だからそんなに使えないだろうな。

 

『Force!!』『Force!!』

 

 更に15秒後、30秒後に二度の創造力が溜まる……が、現状においてこれが限界だ。

 三回なら、高が知れた神器しか創れないが、無いよりはマシだ!

 

『Creation!!!』

 

 その音声とともに、俺は想像する。

 武器は使い慣れた籠手型、今、創れる最高の神器を創造。

 そして次の瞬間、俺の左腕には赤龍帝の籠手と少し見た目が似ている籠手型の神器が装着されていた。

 

龍の手(トゥワイス・クリティカル)か。……ありふれた神器だけど、仕方ないな」

 

 赤龍帝の神器を創造して生まれた神器はありふれたものだ。

 確か所有者の力を一時的に倍増する力。赤龍帝の籠手の超下位互換の神器だ。

 ……仕方ない、これでやるしかないんだ。

 

『主様、その神器でさえ10分と持ちません! 本当に危なくなったら逃げてください!』

 

 分かってるよ。……さあ、行くぞ!

 

『Boost!』

 

 龍の手から力が倍になるのを感じる。

 これはブーステッド・ギアじゃないから魔力を介した力は使えない……というより、俺は赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)がないと現状魔力を使えない。

 状況は最悪だ。でも行くしかない!

 俺は倍増した身体能力で力を感じる方へ走っていく。

 そして……公園の中心にある噴水のところまで行くと、そこには二人の存在がいた。

 

「あらら……。随分と弱い悪魔さんだこと!」

「……不意打ちしたくせに、良く言いますね」

 

 1人は駒王学園の女子の制服を着た小さな女の子だ。

 髪は白髪で確か……そうだ、松田と元浜が言っていた学園のマスコット!!

 あとは木場と同じでオカルト研究部でそして・・・悪魔ってことか。

 彼女は血をいたるところから流していて、どうにも調子が悪そうだ。

 ……そしてもう一人は堕天使。

 黒髪で、恥ずかしいほどに肌を露出しただらしない格好をしていて、光の槍のようなものを手にしている。

 

「ふふ……下級な種族である悪魔なんて、殺してしまえばいいのよ。それに貴方は主の元を離れてぼうっとしてたし……もしかしてはぐれ?」

「……違います」

「ま、どうでもいいんだけどね。私の本来の目的はあなたの学校の男子生徒だったのに、その子の名前を聞いた瞬間、目的を聞いてくるなんてね。……しかも気付いていなかったのに魔力まで出して、私に悪魔ですって言いたかったのかしら?」

「……知りませんッ!」

 

 小さな女の子は堕天使に小さな拳を放とうとするが、だけどあの手負いだ。

 明らかに思うように動いていない。

 駄目だ、あの子はこのままじゃ殺される!

 でも今の俺は人間の倍の力しかない……それでも俺に何もしない選択肢なんて存在しない!

 堕天使があの子に槍を向け、それを投げるような動作に入った!

 もう迷ってはいられないな。

 

「―――その子から離れろ、痴女ぉぉぉぉぉ!!!」

 

 俺は全速力で少女と堕天使の間に入って龍の手(トゥワイス・クリティカル)をつけた左腕の拳を強く握る。

 堕天使の槍は既に放たれていた。

 

「……ッ!! せ、先輩!?」

 

 後ろの女の子が俺の突然の登場に驚いている。

 でも彼女は致命傷はないものの、光によるダメージが激しい。

 満足に動けないだろう。

 

「大丈夫だよ。―――堕ちた天使がうちの後輩を傷つけてんじゃねえ!!」

 

 そして俺は放たれた光の槍に全力の拳をぶつける。

 例え仮の神器でも耐久力は本物並みだ!

 槍は相殺され、そして俺を見た堕天使は俺を見て驚いている。

 

「……私の槍を相殺したのは驚いたけど、まさか兵藤一誠君?」

「ああ、そうだよ……堕天使」

「私の存在を知っているのね。……確かに、あなたは危険分子かもしれないわね―――っていうか初対面の女性に対して痴女は失礼じゃなぁい?」

 

 堕天使の女は先ほどの俺の叫びに反応したのか、青筋をピクピクとさせる。

 ―――でも今の問題はそんなことじゃないんだよ。

 今の問題は、お前がこの女の子を傷つけたってことだ!

 

「本当は貴方に告白して、デートでもしてから殺してあげようと思ったのだけどね……ねえ、私と付き合ってみる?」

「……いやいや、無理だから。好みじゃないし、それに俺はお前みたいな下品な女が嫌いでね―――そんな痴女っぽい格好している女は死んでもごめんだ!」

「下品、ですって!!」

 

 ……百人中百人が痴女って選択するからな?

 そんなことを考えていると、堕天使は両手に光の槍を二つ作って、俺に放ってくる!

 俺は片方を籠手にぶつけて相殺し、もう片方を避けて後ろの女の子を背負ってその場から離れる。

 速力も倍になっているからな。あれくらいの攻撃なら余裕で避けれる!

 

「たかが人間風情が! 至高なる私に向かって!!」

「至高とかなんだか知らないけどな。だがな。誰かを傷つける奴は至高なんてありえない! 単なる害悪だ!」

 

 俺は少し離れたところに少女を置いて、堕天使へと向かった。

 多分相手の方が身体能力も全てが上だろうな……。だけどそれがどうした?

 俺は堕天使へと全力で拳を振るった。

 

「……何かと思えば、それってただの龍の手(トゥワイス・クリティカル)じゃない。全く、何が危険分子よ―――まあ確かに人間のくせに強いけどね!!」

 

 堕天使は槍を投げてくる!

 速いッ! 避けきれずに槍は俺の頬を掠め、そして頬からは一筋の血が滴り落ちる。

 

「……割と結構好みのルックスだけど、死んでちょうだい!」

「お前の好みとか一切興味ないんだよ!」

 

 再度、槍を籠手にぶつけて相殺する。

 だけどもう神器が限界だ!!

 さっきから籠手にヒビが生まれ始めていているのを見て、俺は冷や汗を掻いた。

 

『主様! もう駄目です、神器が持ちません! このままでは!』

 

 フェルの声が聞こえる……でもここで逃げても何も変わらないさ。背を向ければあの槍にやられる。

 それなら前を見て戦う方がまだ建設的だ!

 

「ふふ……ならお次はこんなのでどう!!」

 

 堕天使は槍を投げた。

 ―――俺が離れたところに置いた、あの少女の方に。

 駄目だ、槍は複数投げられてる。……相殺は出来ない。

 なら足は間に合うか?

 そう思考したときには、俺は全力の速力を出していた。もう瞬間移動ってくらいのものじゃないか? 体のリミッターが外れたように、人間離れした速度で少女を突き飛ばし、そして……

 

「ぐっ…………ぅッ!!!」

 

 ……何かが突き刺さる感覚がした。

 何かが、俺の胴体を貫く。

 白髪の少女を庇って、俺はあの槍を突き刺されたのか……

 感覚がない―――まるであの時、俺が死んだときみたいだ。

 ……あの子は大丈夫か?

 

「先輩っ! しっかりしてくださいッ! 起きて……起きてくださいッ!!」

 

 ったく、なんて顔をしてんだよ。

 こんなもの、大したことねえのに……あれ?

 俺の体は突然、力が抜けていく。

 何で立ち上がれない?

 

「まだ意識があるなんて相当のものね……。じゃあね、兵藤一誠君♪結果的に貴方を殺せてよかったわ」

「ふざける、な―――」

 

 堕天使が立ち去る……。―――最初からこいつの目的は俺だったってことか。

 

「あぁ。……ダメだ―――だけど無事で、良かった……」

 

 俺は俺の傍で泣いている少女が目に入った。

 悲しそうだ、不安そうだ・・・

 ―――何となくこの子は、あいつに似てるな……白音に。

 こういう時、あいつは何をしたら喜んだっけ?

 そうだ……頭を撫でて、抱きしめれば―――

 ああ、抱きしめる力も残って無かったな……。じゃあ頭を撫でるくらいだな。

 

「だい、じょうぶだ……心配、なんか―――」

 

 声が出ない。

 視界が真っ赤だ。

 こんな赤、久しぶりに見た。

 ああ、そう言えば木場が言ってたっけ?部長の髪は素晴らしい紅だって……

 一度くらいは見たかったかもな……。

 ごめんな、ドライグ、フェル……こんなに弱い俺で。

 でも今回は守れたよな? だったら俺はそれで……―――あいつは。こんなので死んだら、ミリーシェは怒るよな。

 ……俺の意識は完全に途切れた。

 まるでパソコンの電源を切ったように、ぶつりと。

 そして最後、かすかに見えた……紅の髪が。

 俺はかすかに見えた紅の髪と、俺の中で泣き叫ぶフェルの声を傍目に、静かに目を瞑った―――……


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