ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第4話 良妻賢母や神々です!

 現在、俺と朱乃さん、黒歌はアザゼルを先導にして駒王学園からそう遠く離れていない病院にいた。

 この病院は悪魔の息が掛かっているところであり、そして俺たちがここにいる理由は簡単。

 朱乃さんのお母さん―――姫島朱璃さんと会うためだ。

 姫島朱璃さん……俺が小さい頃に一度だけ会ったことがある人間で、堕天使の幹部ことバラキエルとの間に朱乃さんを授かった彼女の母親。

 それが原因で命を狙われることになり、そして俺を庇って妖刀による呪いを受けることになった人でもある。

 

「……黒歌。悪いが先にイッセーと朱乃だけを行かせても良いか?」

 

 俺たち四人は病室の前まで歩き、病室のプレートに『姫島朱璃』と書かれた部屋の前で止まり、そしてアザゼルは黒歌にそう言った。

 俺と朱乃さんを先に?

 

「別に良いけど……っていうか私がここに呼ばれたのも未だに謎にゃん」

「それは後から話す―――イッセーに朱乃。お前らは先に朱璃と会って色々話せ」

 

 するとアザゼルは真剣な表情でそう言うと、病室の扉の前から離れて俺たちに入れと催促をした。

 色々と話す、か。

 確かに俺も話さないといけないこともあるし、謝らないといけないこともある。

 それは朱乃さんも一緒だよな。

 

「朱乃さん、行きましょう」

「……はい」

 

 朱乃さんはほんの少し笑みを漏らすと、そのまま病室の扉を何度かノックした。

 そして少しの間が空いて―――

 

『はい、お入りください』

 

 ……どこか朱乃さんと声音が似ている、優しそうな声が室内から響いた。

 それを確認すると俺たちは病室の扉を開けて、そして室内へと入っていく。

 病室の中は特に不思議なものではなく、ごく普通の病室だった。

 天井は真っ白で、室内も余計なものがない白に統一されている。

 花が飾られているからか、花の香りが鼻孔をくすぐり、ホンの少し緊張していた心を穏やかにさせる感覚すら感じた。

 そして真っ白なベッドの上に上半身を上げて窓の外から雲一つない空を見上げている女性。

 髪は朱乃さんと同じく長く、艶やかで美しい黒髪で、容姿は美人という言葉がとても似合う人だ。

 ―――その女性は俺と朱乃さんの方をゆっくりと首を動かせて見てきた。

 

「―――とても大きくなったわね、朱乃。ずっと会いたかったわ」

「―――母様……ッ!!」

 

 その女性―――朱璃さんが優しそうな声音でそう言った瞬間、朱乃さんは今までの緊張が嘘のように涙を流し、そしてそのまま朱璃さんに抱き着いた。

 ……普通に考えたら、これは当たり前だよな。

 まだ思春期も脱してない頃から大好きな母の元を離れなくてはならなくなって、しかも立場の違いから簡単に会う事すら出来なかった朱乃さん。

 そんな大切なお母さんと会えたんだ―――嬉しくて涙が出るのは当たり前だ。

 朱乃さんは年頃の女の子のように朱璃さんの胸の中で泣き続け、そしてそんな朱乃さんの頭を優しく撫でる朱璃さん。

 ……少しは後悔はある。

 俺がもっと強ければ、そもそも朱璃さんは呪いを受けることもなく、俺を庇うこともなかった。

 だけど俺の詰めが甘かったから、だから朱璃さんはこうして治療として療養しているんだ。

 そして朱乃さんとバラキエルさんが喧嘩になったのも俺が原因で―――俺も関わらなくちゃいけないよな。

 確かに今の俺はあやふやで、しかも自分の問題すらも解決出来てはいない。

 だけど、それでも俺は手伝いたい。

 朱乃さんとバラキエルさん、この二人のすれ違いをどうにかしたい。

 ……違うな、この家族のすれ違いをどうにかしたいんだ。

 家族は本当に……本当に温かいものだ。

 それを教えてくれたのは母さんと父さん……そして何よりドライグとフェル。

 俺の大切な家族が俺を大切に想ってくれるから、今でも俺はここでこんな風に思えるんだ。

 

「朱乃も……会いたかったよ……ッ!!」

「あら……ふふ。朱乃は大きくなっても甘えん坊で泣き虫ね。大丈夫……お母さんはここにいるわ」

 

 朱璃さんは朱乃さんとよく似た微笑みを浮かべながら頭を更に優しく撫でる。

 朱乃さんはそれで安心したのか、少しずつ鳴き声を潜めて行って、そして朱璃さんとしっかり視線を交わして……

 

「……私、姫島朱乃は母様の元に帰ってきました―――ごめんなさい……ずっと、ずっと……会えなくて……勝手にどこかに行ってしまって……ッ!!」

「今はいいの。帰って来てくれてありがとう、朱乃。可愛い娘がこうして涙を流して再会を喜んでくれるんですもの……これ以上、嬉しいことはないわ―――おかえり、朱乃」

 

 朱璃さんはそのまま朱乃さんを力が弱いながら抱き寄せ、そして抱きしめる。

 朱乃さんはそれに精一杯応え、そしてしばらくの間は何も言葉を交わさずにそのまま抱きしめ合うのだった。

 

『母として、娘を心配するのは当然です―――良い母親ですね、彼女は』

 

 フェルのお墨付きだ―――絶対、良いお母さんなんだろう。

 雰囲気でも、見ただけで分かる。

 だけど流石に俺も居心地が悪いな。

 あの朱乃さんと朱璃さんは二人だけの世界に入っているって感じだし、俺の姿は目に入っていないって感じだ。

 ……冷静っぽくて、何だかんだで感動で周りの風景が見えなくなっているんだろう。

 それはとても良いことだし、俺は別に視界に入れられなくても大丈夫だ。

 こうなれば俺は別にこの場に必要なかったんじゃないのか?

 

『いや、相棒はこの場にいなくてはならない。そもそも姫島朱乃が勇気を出せたのは相棒の存在のおかげといっても良い』

 

 そんなものか?

 

『そんなものだ。勇気を出すのは自分の力だけではどうにもならないところがある。相棒も思い当たるところの一つや二つはあるだろう?』

 

 ……まあそうだけどな。

 戦うのだって勇気が必要だし、面と向かって言い合うのだって勇気だ。

 誰かの後押しが必要なことだってあるし、自分から動くことだって必要だ。

 だけど朱乃さんは自分で動こうとしていた―――きっと俺がいなくても、自分で勇気を振り絞れたよ。

 俺はほんの少し背中を押しただけ……言ってしまえば導火線にほんの少し火を灯しただけだよ。

 

『……相棒らしいな』

 

 ドライグは少し笑みを含む声を漏らし、それ以降は特に何も言わなかった。

 俺らしい、ねぇ……自分では良く分からないけど。

 

「―――兵藤、一誠君」

 

 ―――不意に俺の名前を呼ぶ声がした。

 当然それはこの場にいる朱璃さん以外の何者でもなく、気付いた時には朱乃さんも朱璃さんも抱擁を止め、そして穏やかな表情で俺を見ていた。

 

「そ、その……お久しぶりです、って言えば良いんでしょうか?」

「あら……ふふ。緊張何て必要ないですわ―――もっと、こっちに寄ってきてもらっても良い?」

「は、はい」

 

 俺は言われるがまま朱乃さんと朱璃さんの方に近づいて行き、ベッドの近くにあった椅子に腰かけた。

 すると朱璃さんは俺の頬をすっと触れて、そして頭を撫でる。

 ……心が温かくなるように、少し胸がジーンとした気がする。

 これが何かは分からないけど。

 

「―――ずっと、あなたにはありがとうって言いたかったわ。朱乃を救って、私を救って……小さい子供なのに、血だらけになりながら大人と戦って……本当に、ありがとう……っ!!そして……ごめんなさい」

「………………どうして、謝るんですか?」

 

 言葉を言っている最中、朱璃さんは少し瞳に涙を溜めて謝ってきた。

 ……朱璃さんは謝ることなんてない。

 なのにどうしてこの人は泣きながら謝るんだろう―――俺にはそれが分からなかった。

 

「……私はまだ小さかったあなたに、あと少しで大変な十字架を背負わすところだった―――私があの時、あなたに救われなかったら、あなたはきっと……ずっと後悔していたと思うから……だから、ごめんなさい……ッ!!」

「――――――」

 

 俺はつい言葉を失った―――そんな風に言われたことは初めてだった。

 確かに朱璃さんの言う通り、もしあの時、朱璃さんを救うことが出来なければ俺はずっと後悔していただろう。

 …………救って、終わりじゃないんだ。

 救うだけじゃ終わりじゃない―――救われた側だって、朱璃さんのように色々な想いが交差している。

 俺は初めてそれを知った。

 俺は何度も他人から自分の命を大切にしろと言われてきた。

 誰かを救いたくて、命を張って―――今まで、俺は守られる人の想いを考えてきたことはあっただろうか。

 俺のことを本当に大切に想ってくれている人たちの想いを想ったことはあったのか?

 …………情けない。

 馬鹿だ、俺は―――守られたはずだ。

 目の前のこの人―――朱璃さんが俺を庇って命を落としかけた時に涙を流した時に、凄まじい後悔をしたはずなのに、それすらも忘れていた。

 ……守るだけじゃ、ダメ……なんだろう。

 つまり俺の今までしてきたことは―――

 

「―――一誠君」

 

 ―――俺が最悪の思考に陥っている時、突如、朱璃さんから真剣な声音の声が響く。

 俺はそれでハッとして朱璃さんの方を見た。

 

「……なるほど。確かにアザゼルさんの仰っていた通りね―――朱乃」

「母様?」

 

 朱璃さんは真剣な眼差しを俺に向けた後で朱乃さんを見て、そして何やら耳打ちをする。

 その耳打ちは俺には聞こえず、そして少し間をおいて朱乃さんは決心のついたような表情に変わった。

 

「―――とても危うい。一誠君、あなたは朱乃やあのヒトよりもはるかに強くて……脆いわ」

 

 朱璃さんは俺の頭に手をかざそうとするも、それを止めて俺にそう問いかけて来る。

 

「私はこう見えても母親をやっていますもの……顔を見れば分かるわ。その心はとても強い正しい心……でもそれはいつなんどき、黒に変わるか分からない―――そんな、色が見えるわ」

 

 ……朱璃さんの目の色がほんの少しだけ碧色に染まっているのが俺には分かった。

 まるで俺を見透かすような瞳と言葉が俺を通過して、俺は……何も言えなかった。

 ―――そう言えば、そうだよな。

 元々姫島家は由緒ある神社……力を持つ人間の家系だ。

 朱璃さんが人間離れした力、異能のようなものを持っていても不思議ではない。

 

「私は生まれつき、霊視の力があるの。だから人のオーラがなんとなくだけど見えるわ……このままだと一誠君、あなたは―――いえ、これは私の役目ではないかしら」

 

 朱璃さんはそう言うと、朱乃さんの方を向いて、真剣な表情を向けた。

 

「本当は朱乃、あなたを叱らないといけないし、文句の一つや二つはあるわ。頭ごなしに怒るのも親の役目―――だけど、それをするのは貴方が真に自分に向き合えてから。きちんと自分と……お父さんと向き合ってからよ」

「……分かっています」

「あら、ふふ……それでこそ私の娘よ―――だから、自分を受け入れて、強くなって……その子を仲間と一緒でも良い。救ってあげなさい。それが私、姫島朱璃があなたを許す条件です」

 

 朱璃さんは少しばかり厳しい口調ながらも、母親らしい威厳を持った言葉で朱乃さんにそう言うと、朱乃さんは力強く頷く。

 

「まあそれはあの人もなんだけど……ふふ」

「?」

 

 俺は朱璃さんの最後の言葉の真意が分からなかったが、朱璃さんは部屋の窓から外を見ていた。

 俺はそちらに視線を向けると、外には病院の中庭があり、そのベンチに一人の体の大きな男性が座っていた。

 しかもその近くにはアザゼルがいて、その男の肩をポンポンと叩いている。

 ……少しばかり男から哀愁が感じ取れるんだけど、あれは一体誰なんだろう?

 

「……あの人も来ていたのですね。母様」

「一応、今回はあの人がこの地に目的があったから……その付き添いよ。ただ余りにも朱乃に対して煮え切らないから、少し頭ごなしに怒ったわ」

 

 ……朱璃さんの笑顔が若干黒かったのは内緒だ。

 ここは一度、聞いておくべきか。

 

「朱璃さんから見て、今のバラキエルさんと朱乃さんの関係はどうなんですか?」

「そうね……耳を少し貸してもらえるかしら?」

 

 すると朱璃さんは俺に手招きをして、それに応えて耳を彼女の耳元に近づけた。

 

「どちらも子供よ。朱乃もあの人もただすれ違っているの……ただ一歩、前に出た朱乃に応えることが出来ていないのはあの人の方」

「……なるほど」

「あの人の目を覚まさせるには私ではどうにもならないの。きっとあの人と同じ目線に立てる人じゃないと……」

 

 朱璃さんは苦笑いをしながらそう呟いた。

 ……同じ目線に立てる人―――その言葉を聞いたとき、俺は不意にある男の姿が頭に浮かんだ。

 

「……イッセー君。二人を呼んできて貰っても良いかしら?私は朱乃と少し話をしたいから」

 

 俺は朱璃さんの提案に頷いて、朱乃さんの顔を横目で見ながら病室を後にする。

 ―――朱乃さんの表情は穏やかなものだった。

 

 ―・・・

 俺は病院の中庭に出て、ベンチに座っている男の方に近づいた。

 片方はアザゼル、そしてもう一人……きっちりスーツを着こんでいる堕天使の幹部、バラキエルさんだ。

 二人は何かを話しているようだけど、いったい何の話をしているんだろうな。

 

「煮え切らない男はあまり好きじゃないにゃん」

「……黒歌」

 

 すると黒歌が突然俺の横に現れて、そう言った。

 黒歌はバラキエルさんに特に関心のないような視線を向けている。

 

「やっぱり黒歌の目にもそう映るのか?」

「うん。アザゼルに話は少しは聞いたにゃん―――ホント、家族の大切さを知ってるならもっと大切にしろって話だけど」

 

 ……黒歌は小さい頃から小猫ちゃんと二人きりで生きてきた。

 たった二人の姉妹、たった二人の家族。

 だから黒歌の小猫ちゃんを、家族を大切に想う気持ちは俺も頭が上がらないほどだ。

 それこそ命を賭けて守ろうとするほどに。

 

「朱乃ちんは前に進もうとしているのに、肝心の親があれじゃねぇ……いくら奥さんにドライな態度を取られているからって」

「……なるほどな―――黒歌、俺に少し良い考えがあるんだけどさ」

「良い考え?」

 

 黒歌は俺の言葉を反復し、そして首を傾げた。

 良い考えっていうのはついさっき思いついたことだ。

 って言ってもそんなに難しい話ではないし、俺が何かをするわけではない。

 俺はその考えを黒歌に伝える……と、黒歌は少し目を丸くするが口元を緩めた。

 

「―――ふふ、それは良い考えにゃん♪確かにあの人ならこの状況、どうにかしてくれるかも」

 

 黒歌は俺の提案に快く賛成してくれた。

 ……なら俺のやることは大体決まったな。

 

「黒歌は先に病室に戻っていてくれるか?俺はアザゼルとバラキエルさんを呼んでから向かうから」

「王の仰せのままに、にゃん♪」

 

 黒歌はウインクをしながらスキップをするほどのテンションで、そのまま病院に入って行った。

 それを見計らい俺はアザゼルとバラキエルさんの方に近づき、そして話しかけた。

 

「アザゼル。朱璃さんがお二人をお呼びだぞ」

「……話は終わったのか、イッセー」

 

 俺の登場にアザゼルは特に驚くことはなく、そう尋ねてきた。

 

「ああ。俺との話はもう終わったよ。色々気付かされたし、すごく有意義な時間だった―――初めまして、バラキエルさん。俺は兵藤一誠です」

「君がかの有名な―――私はバラキエル。堕天使の幹部をしているものだ」

 

 バラキエルさんはベンチから立ち上がり、一礼してそう挨拶した。

 そして続ける。

 

「先に言わせてくれ―――君がいなければ、私は大切なものを全て失っていた……本当に、ありがとうッ!!朱璃と朱乃を救ってくれて……ッ!!」

「え……えっと……」

 

 俺は戸惑う―――バラキエルさんは厳格に挨拶したものだから、もっと頭の固い人だと思っていた。

 だけどバラキエルさんは頭を下げ、俺にそう言ってくる。

 

「頭を上げてください―――俺はあなたに頭を下げて貰うためにここに来たんじゃないんです。朱乃さんを、朱璃さんを……あなたをどうにかしたいから、だからここに来たんです」

「…………すまない。少し、取り乱した」

 

 バラキエルさんは俺の言葉を聞いて、ゆっくりと頭を上げ、そして俺と対面する。

 ―――雷光のバラキエル。

 堕天使でもトップクラスの実力の持ち主で、その雷光の二つ名は伊達じゃないと聞いたことがある。

 朱璃さんの旦那さんで、そして朱乃さんのお父さん。

 現在は娘との関係がこじれており、そしてその原因となったのが俺の存在。

 奥さんである朱璃さんには娘と関係をこじらせたのが原因でドライな関係になっていて、当のバラキエルさんは煮え切らないヒトって、黒歌と朱璃さんは言っていたけど……

 

「アザゼル。先に病室に行って貰っても良いか?少しバラキエルさんと話したいことがある」

「……手短に頼むぜ。今日は色々とスケジュールが詰まっているからな」

 

 アザゼルは嘆息しながら立ち上がり、手をひらひら振りながらその場から立ち去る。

 そしてこの場に残る俺とバラキエルさんは少しの間、無言になった。

 

「……単刀直入に聞きます―――あなたは、朱乃さんとの関係がこのままで良いと思っているんですか?」

「……ッ」

 

 バラキエルさんは俺の問いに対して、苦虫を噛んだような表情となった。

 

「今、朱乃さんは前に進もうとしています。堕天使の血を受け入れようとしている―――あなたはどうしたいのですか?」

「……私は…………朱乃が幸せであれば、それで……構わない」

 

 するとバラキエルさんはポツリとそう呟いた。

 

「朱乃にとって、君という存在は大きいものだ。君は朱乃にとってヒーローのような存在だ―――君の傍に朱乃がいる、それが朱乃の幸せならば、私は……朱乃が笑ってくれるなら、遠ざけられても、嫌われても……構わない」

「………………それが、あなたの本音なんですか?」

 

 バラキエルさんは本音を吐露していない。

 ただ朱乃さんの事を想っていることは確かで、でもその方向性が間違っているようにも感じた。

 ……確かに複雑な心境だと思う。

 きっとこの人は凄く真面目で、頭が固くて……そして優しい人なんだ。

 不器用なんだ。

 だからすれ違っている―――だけどバラキエルさんを奮い立たせるには俺では役不足だ。

 だから―――

 

「俺の質問には答えなくても良いです―――きっと今は歯車がかみ合っていないだけなんです。朱乃さんも、バラキエルさんも、朱璃さんも……俺も」

 

 バラキエルさんには会わないといけない人がいる。

 それは俺が尊敬する、俺が知る限りで一番家族を大切に想い、大切にして、そして愛していると自信をもって言ってくれる……父さん。

 

「大丈夫です、バラキエルさん。きっとあなたは分かり合える。朱乃さんも、朱璃さんも貴方を大切に想っていますから……家族って、すごく温かいものですから」

 

 俺はそれだけ言うと、そのまま病院へと足を向ける。

 

「行きましょう、バラキエルさん。今は朱璃さんの事が重大でしょう?」

「……そう、だな―――ありがとう。そうか……アザゼルが君と話した方が良いと言ったのは……」

 

 バラキエルさんは何かをぶつぶつと呟くと、俺と共に病院……朱璃さんのいる病室へと向かった。

 ―・・・

 再び朱璃さんの病室に到着すると、その中には何とも言えないメンバーが集結していた。

 アザゼル、バラキエルさん、朱乃さんに朱璃さん、黒歌……そして俺。

 今は黒歌が仙術を用いて朱璃さんの体を調べているようだ。

 手の平で朱璃さんの胸元にそっと触れて、そこから青いオーラを漏らしている。

 

「う~ん……なるほどねぇ~……結構、呪いが進行しているみたいにゃん」

「……やはりか」

 

 アザゼルは黒歌の言葉を聞いて、腕を組んで納得するような表情をした。

 少し前に教えてもらったことだけど、今回、黒歌が呼ばれた理由は朱璃さんに掛けられている呪いを診察するため。

 生命を司る仙術だから、うってつけとアザゼルは考えたようだ。

 仙術使いは本当に希少な存在らしく、アザゼルの陣営には仙術を使える人物はいなかったそうだ。

 世界最高の仙術使いは闘戦勝仏―――孫悟空。

 だけど黒歌の才能と将来性だけなら孫悟空とも見劣りはしないらしい。

 

「呪いの進行具合は抑えられているからまだマシだけど、これ以上呪いが朱璃ちんに残ると、それこそ命に関わるかも」

「…………どうにか、出来ないのか?」

 

 黒歌の言葉にアザゼルはそう返す。

 その言葉に朱乃さんやバラキエルさんも焦るような表情になっており、だけどこの二人の間にはやはり隔絶のような距離がある。

 

「……呪いは一種の負の仙術って言えるにゃん」

 

 すると黒歌は朱璃さんの胸元から手の平を抑えるのを止め、そして話し始める。

 

「仙術は生命を操る力。気自体も生命から存在するものだし、派生といっても力にゃん……呪いはその生命に根付いて命を蝕んだり身体に影響を及ぼすもの、なんだけどね~―――呪いの根源は仙術じゃなくて、怨念とか恨み。負の力を封じた物、例えば魔剣とか妖刀の力は確かに強いけどその分、代償があるのは大なり小なり呪いがあるからにゃん。でも代償があるからこそ、持ち主の命を削って力を発揮する……まあある意味、魔剣や妖刀自体が仙術の類と言っても良いんだけどね~」

「……負の面に堕ちた仙術ほど怖いものはない、か」

「うん、イッセーの言う通りにゃん。闇に堕ちた仙術と同じくらい呪いは厄介。しかも呪いの力は潜伏期間に比例して強くなるにゃん」

 

 ……潜伏期間、病気のようなものか。

 その考えなら、呪いをどうにか出来るのかっていうアザゼルの質問は、首を横に振ることになる。

 それほどに呪いってものは厄介で、黒歌で言うところの妖刀ってのは一種の仙術なんだろう―――それが歪となった。

 

「科学技術で呪いの進行だけは抑えていても、根本を解決しない限りどうにもならないにゃん。今の段階で既に身体に影響が出ているからね」

「……ええ。黒歌さんの言う通り、既に私は自分の足で立つことは出来ません」

「―――ッ!?」

 

 朱璃さんの発言に一番反応したのは朱乃さんだった。

 バラキエルさんはとても悔しそうな顔をしており、アザゼルは同様―――アザゼルからしても呪いに関しては専門外なんだろう。

 それでも呪いの進行を抑えていたんだ。

 何もいうことはない―――少なくとも俺からは。

 

「朱乃。そんな顔をしないで……今の所はまだ大丈夫だから」

「母様…………ですが、私はそれでも」

 

 ……朱乃さんはバラキエルさんと視線を合わせようとせず、ただ真っ直ぐと朱璃さんを見続ける。

 バラキエルさんはバラキエルさんで居心地が悪そうにしているし……埒が明かない。

 それに今の問題は―――

 

「……んにゃ?別に私、治せないとは言っていないよ?」

『――――――え?』

 

 ―――俺たちの声が一つになった瞬間だった。

 当の発言者、黒歌はケロッとした表情で目を丸くしている。

 ……えっと、状況を確認しようか。

 俺たちは朱璃さんの状態が絶望的に悪い事、呪いに関してはどうしようもないと思っていたところだ。

 そこで黒歌が、実は私はどうにかできる……そう言いたいんだろう。

 よし、確認は終えた。

 

「く、黒歌さん!?どういうことですか!?いえ、この際そのことはどうでも良いですわ!!方法が!あるのですか!?」

「にゃんんん!?朱乃ちん、揺らさないでにゃん!頭が回るにゃん!!」

 

 朱乃さんは珍しく動揺しながら黒歌の肩を揺さぶってそう問いただす。

 黒歌は無論されるがままだ。

 

「お、お、お、落ち着け、朱乃!!今は話を聞くべきだ!!」

「うるさいですわ、父様!しかしこれが落ち着いていられませんわ!!」

 

 ……意外なファーストコンタクトだ。

 二人とも焦ることで普通に会話している……っていうか、親子だなってつい思ってしまったりしている。

 朱璃さんもその光景を見て微笑ましい感じになっているし。

 ―――っと、朱乃さんはハッとした表情となって一つ、咳払いをした。

 

「うにゃぁ~……朱乃ちん、少しは手加減するにゃん……」

 

 黒歌は朱乃さんの行動に目を回しつつ一息つく。

 とはいえ、俺も黒歌の発言には驚いているし、何より聞きたい。

 朱璃さんを救う方法があるなら、知りたい。

 

「仙術は生命を司る力。そしてその力を宿す者は本当にごく少数にゃん。朱璃ちんの呪いは相当なステージにまで達しているのは確か。私個人の力では対抗できないことも確かにゃん」

「……個人?」

 

 アザゼルは意味深に黒歌の言葉を拾い上げる。

 

「そ。私一人では無理でも、私には可愛い可愛い白音がいるにゃん♪まだ未熟だけど将来的才能は私並みだからね~……それに私の主様もいる」

「……やはりイッセーが必要となってくるのか」

 

 アザゼルが何かに納得するようにそう呟くと、黒歌を含め、全員が俺の方を見てきた。

 ……俺が必要?

 

「イッセーには前に軽く話したことがあると思うけど、イッセーは仙術に対する素養があるにゃん。しかも力を増大させる赤龍帝でもある―――イッセーと白音が仙術を習得したら、私と白音とイッセー。この三人の力を組み合わせれば呪いを解くことなんか造作もないにゃん♪」

「……なるほど。つまり呪いを解くための力の絶対値が一人では足りないということか。だがやはり時間が掛かり過ぎるぞ」

 

 確かに、俺と小猫ちゃんが仙術を習得するまでっていうのはいくらなんでも未確定過ぎる。

 俺の場合は仙術の糸口を掴めば後は神器を駆使すれば何とかなるけど、小猫ちゃんは突然のパワーアップは肉体的に危険だ。

 ―――って、そんなことを黒歌が考えていないわけがないか。

 

「言ったでしょ?呪いを解く(・ ・ ・ ・ ・)には三人の力が必要だって」

 

 ……なるほど、そういう事か。

 俺は黒歌の言いたいことが大体理解できた。

 

「確かに私個人の力では呪いを解除は物理的に無理にゃん。呪いは、ちまちま治すことは出来ない。やるなら一発、どでかい花火みたいに一気に消し去らないといけないにゃん」

「つまり、黒歌は呪いを解くことは出来ないけど、それと似たようなことは一人でも出来る……ってことだろ?」

「流石イッセーにゃん♪」

 

 黒歌はにんまりと笑い、もう一度だけ朱璃さんの胸元に手を添える。

 

「イッセー、ちょっと赤龍帝の力を借りても良い?」

「……なるほど。了解だ―――ドライグ、行けるか?」

『相棒が俺の力を使うのは久しぶりだ―――ああ、全く問題ない』

 

 俺はドライグに確認を取りつつ、左腕に赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を装着した。

 その時点から俺は何度か倍増を繰り返し、そして黒歌の肩にそっと手を添えて、そして……

 

『Transfer!!!』

 

 黒歌に対して溜めた倍増の力を譲渡した。

 

「んん……にゃぁぁん……ッ!―――白音に聞いていたけど、これはすごいにゃん……(ちょっとだけ濡れちゃったかも)……」

「~~~~~ッッッ!!真面目にやれ!!」

 

 俺は妙に艶やかな表情を浮かべる黒歌の頭を軽く叩く……でも黒歌が纏う仙術の青白いオーラは更に純度が濃くなった。

 つまり黒歌の力が無事に強くなったってことなんだろう。

 黒歌は未だに蕩けたような余韻が残ってものの、仕事はするらしく朱璃さんに仙術による光を与える。

 青白い光はすうっと朱璃さんの胸へと吸い込まれるように入っていき、そして朱璃さんは少し目を瞑って何かを我慢するような表情となった。

 

「私のしてることはアザゼルちん達、堕天使がしていた超強力版みたいなものにゃん♪呪いの毒素を仙術である程度削って呪いの影響を一時的にほぼ消す。私の生命エネルギーをイッセーの倍増の力で強めたから、この力が朱璃ちんの中にある限りは呪いは進行しないはずと思う」

「……つまり今は呪いの毒素と戦っているから朱璃さんは辛そうな表情なのか?」

「そ。これでこの先、10年間くらいは何とかなるはずにゃん」

 

 黒歌は猫耳と尻尾をフリフリさせながら俺の周りをうろちょろする。

 ……10年間は大丈夫ってことは、俺はその10年間で何とか仙術を手に入れないといけないってことか。

 ―――新しい目標が出来た。

 今の俺がたとえどれだけあやふやだとしても、目標があればとりあえずはそのことに集中できる。

 ……朱璃さんを救いたい。

 俺の心にその想いだけが染み渡ったのだった。

 そしてそれから数分して朱璃さんは穏やかな表情となり、目を開いた。

 

「……朱璃、大丈夫か!?」

「お母様!体の調子はどうなのです!?」

 

 ―――それと同時に朱璃さんの元に駆け寄るバラキエルさんと朱乃さん。

 ……たとえ邪険な仲でも、心配するものは同じだ。

 

「あらら……大丈夫よ。黒歌さんのおかげでかなり体が軽くなったもの―――ありがとう、黒歌さん、イッセー君」

 

 朱璃さんは穏やかな笑顔を浮かべながらそう言うと、俺と黒歌は何も言わずに笑顔で返すのだった。

 ……そういえば、バラキエルさんがここに来たのは別件があるってさっき朱璃さんが言っていたな。

 俺はそれを思い出した。

 朱璃さんがここに来たのはそのついでってことだし、堕天使であるバラキエルさんの用事ならたぶん俺たち悪魔も無関係な事柄ではないだろう。

 

「それでバラキエルさんはどうしてここに―――」

 

 俺がバラキエルさんの方を見てそう尋ねようと思ったその時だった。

 ―――コンコン。

 唐突に病室の扉が二度、三度ほどノックされた。

 

「どうやら来たようだな」

 

 アザゼルの反応からあいつはこのノックの主を知っているようだ。

 でも俺たちは今からここに誰かが来るなんて知らされていないけどな。

 

「―――失礼します。オーディン様に仕える戦乙女(ヴァルキリー)、ロスヴァイセです」

「ほほほ。ロスヴァイセ、随分と畏まっているのぉ……もっとを肩を抜かんか」

 

 ―――その姿は知っているものだった。

 一人は女性の割には長身で、とても綺麗で長い銀髪の女性であるロスヴァイセさん。

 会うのは前の北欧旅行以来か?

 そんでその後ろにいるのは北欧神話の主神として名高いオーディン。

 ローブのような服に眼帯をつける隻眼の爺さんだ。

 ……だけどなんでこの二人がこんなところにいるんだ?

 正直に言って見当がつかない。

 

「久しぶりじゃのぉ、アザゼル。それに赤龍帝」

「じじいも元気そうで何よりだ。無事に到着してとりあえずは安心したぜ」

「……アザゼル、話が見えてこないんだけど?」

 

 俺は一人、全部理解していると思うアザゼルにそう尋ねると、するとロスヴァイセさんがいつの間にか俺の傍に居た。

 

「お久しぶりです、イッセー君!以前の事件での活躍は聞いています!」

「……活躍なんて、そんな……」

 

 俺はディオドラの一件の事を思い出して、少しだけ嫌な光景を思い出す。

 覇龍による暴走により俺がもたらした凄惨な血の海の光景……それを振り切るように頭を振った。

 

「そんな謙遜することはないです!事件の根底で活躍したというのは事実なんですから」

「……これ、ロスヴァイセ。ここぞとばかりに色々質問するでない……ふむ。これは本来、お主の役目なんだがのぉ」

「―――はっ!イッセー君、ごめんなさい!私、どうしても同い年ぐらいの男の子と話すのに慣れていないので……」

 

 ロスヴァイセさんはすると平謝りするように頭を下げる。

 その隣でオーディンの爺さんが嘆息している……たぶん、ロスヴァイセさんは俺がどういう方法で事件を終わらせたっていうところまでは知らないんだろう。

 そしてオーディンの爺さんは知っているんだろう。

 俺が覇龍を使って旧魔王派を倒し、殺したことを。

 だからロスヴァイセさんを咎めるようなことを言ったんだろう。

 

「あんまり気にしないでください、ロスヴァイセさん。俺は全然気にしてないので……」

「イッセー君…………どこか、変わりましたか?」

 

 ……するとロスヴァイセさんは俺の顔を覗きながらそう尋ねてきた。

 ―――勘の鋭い人だ。

 

「今の顔はまるで………………いえ、何でもないです」

「……?」

 

 俺は何か言おうとしたロスヴァイセさんに疑問を持ちながら、オーディンの爺さんを見た。

 にしてもどうして神様がこんなところに来ているんだろうな。

 ―――っていうか、もしかしてバラキエルさんの目的とこの神様は重なっているんだろうか?

 そうだとしたら辻褄が合う。

 っとアザゼルは俺が色々考え込んでいるのに気が付いたのか、切り出した。

 

「とりあえずイッセー。お前の家でゆっくり話しても良いか?」

 

 俺はその言葉に頷くのだった。

 ―・・・

 大豪邸になった兵藤家の最上階。

 そこにはお客様を出迎える為にVIPルームが創られており、そして今はその場に色々な顔ぶれがあった。

 部長を初めとするグレモリー眷属の面々。

 更に堕天使のアザゼル、バラキエルさんに北欧からはるばる来たオーディンの爺さんとロスヴァイセさん。

 天使サイドはイリナとガブリエルさんだな。

 そして何故かこの場には珍しくティアやオーフィスがいなく、俺の膝元にはチビドラゴンズ(幼女バージョン)がお昼寝中だ。

 ティアとオーフィスは野暮用でしばらくは俺の所には来れないと言っていたから、少しの間はチビドラゴンズの面倒は俺が見ることになっている……らしい。

 今度、夜刀さんが応援に駆けつけてくれるみたいだけど。

 ……さて、大体のことをアザゼルから説明を受けた俺たちグレモリー眷属。

 

「つまり、爺さんが日本にいる間は俺たちが爺さんを護衛する、ってことか?」

「かいつまんで言えばな。元々この町は天使、悪魔、堕天使の協力体制の元で厳重に管理されているから、比較的安全とは言えるんだが……やはり神となると警戒していて損はない」

 

 用は日本に用事のある爺さんを護衛するのがバラキエルさんがこの地に来た理由であり、そしてそのお鉢は俺たちにも回ってきたってことだ。

 それを若手悪魔にやらせるのはどうかと思うが……それに俺だって体調は本調子ではない。

 

「にしても爺さんよ。日本に来るのが予定よりも早すぎるぞ。俺もバラキエルから連絡があった時は驚いたが……元々、この来日の目的は日本神話の神々と話をつけるためだろ?」

「そうじゃな。そうなんじゃが……北欧も今は色々と面倒な時期なのじゃ。特に最近ではわしのやり方を非難するものが多くてものぉ……特に厄介者に捕まるのが面倒故にここに逃げ込んだ」

「厄介者?北欧神話の厄介者と言えば―――まさか、ロキか?」

 

 ―――ロキってまさか、北欧神話随一の神……悪神と謳われる神のことか!?

 北欧神のトリックスターと言われる神様で、伝説クラスの魔獣をいくつも生み出している神でもある。

 五大龍王が一匹もロキによって生み出された魔物の一人ってほどだからな。

 

『最近の相棒はこっち方面に異様に詳しくなって来たな』

 

 っと、ドライグからのツッコミもあるほどに最近は異常関連には博識になってきているのは確かだ。

 情報は何にも勝る武器だし、知っておいて損はない。

 

「よう知っておるな、赤龍帝。まあ奴もまたわしを良く思わん神々の一角じゃ。奴自身はそこまで強くはないんだがのぉ……その配下の魔獣共が異常な強さじゃ。故に事を起こされる前に北欧を出てきた。ついでに日本の文化でも堪能しようかのぉ」

「ふ~ん……でも日本の文化を楽しむっていうのは賛成だよ。この国は飯は美味しいし、親切だからな。きっと楽しいはずだ」

 

 俺がオーディンの爺さんにそう説明すると、すると爺さんは愉快そうに高笑いをする。

 この神様はこういう娯楽が大好きみたいだし、元々そう言う性質を持つ神様何だろう。

 戦闘になれば恐ろしく強いけど。

 

「なるほど……よし、アザゼル!ナイスバディーなおなごがいる店に案内するが良い!」

「ほぅ……オーディン、それはそういう系をお望みというわけかい?」

 

 ………………いやらしい表情を浮かべるオーディンとアザゼル。

 とってもゲスイ表情となっている御二方をゴミのような目で見るロスヴァイセさんにガブリエルさん。

 

「……オーディン様……ッ!ここには日本神話の神々との会合で来ているというのに……ッ!」

「これだからアザゼルは未婚総督を脱退出来ないのです。少しはイッセー君の紳士さを見習えば良いと思いませんか?」

「―――あなた、お名前は?」

「ガブリエルと申します。熾天使の一人ですね」

 

 ……っと、何故か知らないがガブリエルさんとロスヴァイセさんが握手をして仲良くなってる!?

 何故だ!?

 どういう経緯があれば、今の会話から仲良くなれるんだろう。

 俺には女性のあれが分からないな。

 今も会話に花を咲かせてガールズトークしているし……

 俺は近くにいた祐斗の方を見て、不意に一言。

 

「この状況、カオスだな」

「あ、あははは……それは言わないでおこうよ」

 

 俺と祐斗はゲスイ男二人、その光景を腕を組んで見ているバラキエルさん、何とかお父さんを無視しようとしている朱乃さん、そして状況に茫然としながらも苦笑いをしている俺たちグレモリー眷属を見ながら肩を落とすのだった。

 割と真面目な話をしていたのに、どうしてこうなるんだろう。

 俺は真摯にそう思った。

 が、もう手遅れということで、諦めたのだった。

 ……だけど、俺の知らないところで実はこの時、一人の男が動いていた。

 そりゃあもう、一体どこで情報を得てきたのかと言いたいほど。

 

『……むっ!この気配はまさか―――』

「ドライグ、それは言うな―――どうせもう止められない」

 

 俺は何かの気配に気付いて不機嫌な声を上げるドライグを制止する。

 そう―――あの野獣のような男が、もう少しでこの場に来る。

 俺は不意にそう確信していた。

 俺は未だに朱乃さんに話し掛けることが出来ていないバラキエルさんを見た。

 ―――このことをきっかけに、あの人は父親として変わるだろう。

 俺は何の根拠もないが、そう思ってしまうのだった。


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