ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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【第7章】 放課後のラグナロク
第1話 兵藤家の平和な一日


『ぐふぅぅぅぅぅぅ!!?き、貴様!?何者だ!!?』

 

 俺の……いや、俺たちの目の前の大きな画面のディスプレイには見るからに怪物っぽい見た目の化け物と、赤いコートを羽織る俺の姿があった。

 ……唐突で悪いが、俺、兵藤一誠と我が家に居候している人物は今、地下一階にあるシアタールームの大画面で、とある番組を見ていた。

 それは―――『兄龍帝・お兄ちゃんドラゴン!!』というタイトルの特撮番組だ。

 

『別に俺が誰でも問題ないだろ?問題なのは…………子供の笑顔を絶やすお前だ。お前がそれを止めないなら、俺は…………お前を倒す!―――禁手化(バランス・ブレイク)!!』

 

 画面に映る俺はとてつもなくカッコつけた台詞を吐いて、籠手を出し、籠手に埋め込まれた宝玉を抑えてポーズをした後に鎧姿に変身する!

 ……これこそが、俺が前回、テレビ出演のオファーと共にやらされたことだった。

 基本的に普段俺がする動作とは変わらないから特に何も考えずにした。

『兄龍帝・お兄ちゃんドラゴン!!』とは冥界で絶賛放送中の子供向けヒーロー番組……らしい。

 この製作を志願した方……サーゼクス様は日本のある特撮番組を手本にしてこの番組を考察したらしく……見ての通り、主役は俺だ!

 第一話は俺本人が戦闘役を務め、そして台詞なんかは言いたいことを言えって言われた結果がこの第一話(それ以外の話は俺と背格好の似たスーツアクターの悪魔さんに俺の顔を埋め込むらしい)。

 先程サーゼクス様から視聴率の速報をお聞きしたけど、どうやら視聴率は現在60%をキープしており、最高視聴率は70%以上を記録したそうだ―――どうしてこんなことになってしまったのだろうとは、もう考えないことにしよう。

 っというわけで記念すべき第一回の放送を俺たちグレモリー眷属、アザゼルにイリナ、黒歌、そしてドラゴンファミリーの面々は見ていた。

 

『まさか貴様は―――兄龍帝かッ!!まあ良い!貴様はここで葬り去る!!』

『俺は子供を守るために戦う!それがドラゴンを身に宿した俺の宿命だ!!行くぞ!!』

 

 ……俺、こんな台詞を吐いてたのか!?

 あの時は怪人役の人の演技が感極まってつい応えてたけどさ!!

 っていうかさっきから皆の画面を魅入る目が凄まじい!!

 一言も言葉を発さずに画面を凝視してるぞ!?恥ずかしいにもほどがあるだろ!!

 

『頑張って、お兄ちゃんドラゴン!!』

『そんな怪物倒して!!』

『……子供たちの声援は俺の力となる!!行くぞ、俺に身に宿るドラゴンよ!!―――アクセルモード!!!』

 

 ……子供の声援を受けて、つい俺は嬉しくなっていつもの戦闘のようにフェルの強化の力を使い、赤龍帝の鎧をアクセルモードに移行する。

 ―――自分で言うのもあれだが、俺は馬鹿なのか?

 っていうか一話目から第二形態!?やり過ぎだろ、放送局も!!

 そういうのはカットするのが普通じゃないのか!?

 

『な、なに!?き、貴様ぁぁぁ!!!』

『これで終わりだ―――』

 

 画面上の俺は幾つかのバトルシーンの後、そんな言葉を漏らして空を飛ぶ。

 背中のブースターからは赤いオーラが噴出し、そしてその脚にあるブースターから炎のようなオーラが噴出し、そして空中でキックのポーズを取って―――

 

『ドラゴンキック!!!』

 

 俺の背後に赤い龍がいるような演出がCGによって組み込まれ、俺がそのまま怪物にすっごいキックを放った!!

 それによって怪人は吹き飛ばされて、そしてそのまま一気に爆発して消えてしまう。

 そして俺はそのまま地面に着地して、マスクを収納し、その光景を見ていた。

 ―――なんだ、このクオリティー。

 

『―――赤いドラゴンを身に宿した兄龍帝・お兄ちゃんドラゴンは今日も子供の笑顔のために戦う。その男の名はイッセー…………たった一人で、悪の巨大組織と戦うその姿は誰もが憧れる……そう、皆のお兄ちゃんなのだ』

 

 ………………そんな感じで第一話が終わった。

 

「す、すごいわ。まさかイッセーの魅力がここまで描かれているとは……設定も面白いし……」

 

 部長はそんな感嘆を漏らす。

 ……兄龍帝・お兄ちゃんドラゴンとはグレモリー家が著作権を握っている特撮番組だ。

 あらすじはこう。

 全ての記憶を失った名もなき少年は一匹のドラゴンと出会う。

 何もない少年はただ、目の前で怪人によって殺されそうになる人を見て、何も無い心に心を生み、そして赤い龍と契約して変身能力を得た。

 そして悪の巨大組織と戦う内に少年は名前を思い出し、そしていつしかその姿を見た子供たちはその兄貴的な言動を見て聞いて、その者を兄龍帝・お兄ちゃんドラゴンと呼ぶようになり、そしてその青年、イッセーは今日も子供たちの笑顔を守るために戦う。

 ……っていう、結構しっかりした設定の話だったりする。

 この放送を機にグレモリー家は新たな収入源を得たらしく、お兄ちゃんドラゴン関係のグッズを販売し、かなりの儲けを既に生んでいるらしい。

 俺も試作品としてブーステッド・ギアの玩具を見せてもらったけど、凄まじい出来栄えで驚いた。

 更には赤龍帝の鎧の人形とアクセルモード化の人形も発売予定で、俺が今まで発現した力をそのまま商品化するというらしい。

 例えば鎧の神帝化と白銀龍帝の双龍腕(シルヴァルド・ツイン・ブーストアームド)、それといずれは神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)も劇中に登場させるらしい。

 ちなみに今回は一話ということで登場していないが、眷属の皆も登場するらしい。

 

「いやぁ、俺も協力してたから感無量だぜ!まさかここまでイッセーだとは思わなかったなぁ~……お、エンディングはお前と子供たちが一緒に踊っている姿か……」

 

 画面にはエンディングの明るい音楽が流れ、それと共に笑顔の子供たちが俺と一緒に踊っていた。

 どこぞの教育番組みたいな感じだな。

 これは俺も直接出演してくれと頼まれており、それなりにギャラが凄まじいらしい。

 ……子供たちの選出は応募によるものらしく、応募数は相当なものだったらしい。

 エンディングは周期的に変えていくらしいから、俺もその度に子供たちと踊らないといけないそうだけど。

 ま、あんまり苦じゃないか良いけどな。

 ってか記憶を全て失った設定に俺は一瞬、ドキッとした。

 ……っていうかそろそろ現実に目を向けようか。

 

「ねぇ、皆―――どうして俺とそんなに距離が近いんだ?」

 俺は画面を見る皆―――より正確には俺との距離があまりにも近すぎる皆にそう言った。

 今の状況を言ってみようか。

 まずはチビドラゴンズ。

 この三人は俺の肩やら頭に乗って画面をキラキラとした目で見ており、それはオーフィスも同様。

 次は小猫ちゃんと黒歌だ。

 小猫ちゃんは俺の膝の上に猫耳を出しながら座っており、黒歌は俺の座る席の下でもぞもぞしながら画面を見たり、俺に悪戯をする。

 そして部長と朱乃さんは俺の腕を占領、アーシアは俺の手を握っており、そしてイリナとゼノヴィアは出遅れた。

 ―――何なのだろう、この人口密度は。

 っていうか前の体育祭から俺と皆との距離が異様に近くなった気がする。

 前からお風呂上りに俺の部屋には確実に数人来ていたのが、最近では基本、全員が来るようになった。

 特にそれで何かをすることはなくて、普通に日常会話をしたりゲームをしたり……と、そんな風な感じだ。

 ……まあ皆が俺との距離を縮めている理由は何となく分かっている。

 ―――前回の旧魔王派との一件で見せた俺の覇龍。

 それで俺は皆に自分の闇とも言える部分を見せてしまった。

 ……あの場にいなかった黒歌は仙術で俺の中に負のオーラがあるのを知っていたらしく、話の大体を聞いて納得していた。

 でも特に態度とかを変えることはなく、それこそ普段通りに悪戯をしたり……でもたまに真剣な表情で俺を見たりしてくる。

 ……きっと、俺と向き合おうとしているんだろう。

 自分のことを一切話さない俺と、それでも知ろうとして向き合ってくれているんだ。

 ―――俺は自分の事、俺が前赤龍帝だということ、一度死んでいること……そしてミリーシェという存在のこと。

 それを話そう……としているんだけど、何ていうんだろうな。

 俺がいざ話そうと思った時に、そういう時に限って誰かの邪魔が入って結局話せないことが多いんだ。

 

『もうあれはどこかの誰かが操作していると言っても良いくらいの確率だぞ。相棒がいざ話そうとした時に限って邪魔が入るなど』

『誰か陰謀でもしているんでしょうか?もうマザードラゴンはプンプン怒ってます!』

 

 ……ドライグ、フェル。落ち着け。

 確かに神がかっているほど邪魔は入っているけどさ?ホント。

 ―――既にアーシアとのデートから一週間近く経過している今日この頃、俺には話せる機会ってものがいくつもあった。

 特に皆に話したいから全員揃っている時に話そうとした時に限ってメンバーが半分以下になったり、下手すれば全員出払うことすらもある。

 本当に陰謀を考えてしまうほどだ。

 

「まあイッセー、諦めろ。お前の女難は一生消えねえからよ―――いっそ、ハーレムも良いんじゃねぇ?」

「馬鹿言うな、アザゼル!俺にそんな甲斐性があるわけないだろ!?」

 

 俺は横から傍観しているアザゼルの軽口に怒鳴り気味に応えると、するとアザゼルは苦笑いをしていた。

 ……何、その表情。

 

「お前が甲斐性無しなら、この世界の男は全て甲斐性無しだぜ?」

「は?そんなわけ……」

 

 俺は同意を求めるように皆の方を見る……が、誰一人として俺の視線に応える者はいなかった。

 ―――マジで?

 

「確かにイッセー君の将来的な甲斐性って計り知れないよね!上級悪魔入りは確定みたいなものだし、それに優しいし!」

「……そうですね。このお兄ちゃんドラゴンでの利益の一部はイッセー先輩に入りますし、それにこれまでの功績に比例して冥界からもお金の形で授与されますから」

 

 イリナと小猫ちゃんが皆の気持ちを代表するように言った。

 確かに俺たちグレモリー眷属は若手悪魔にしては異例なほどに禍の団のテロ行為を防いだりして功績を上げている。

 功績を上げれば個人の評価も上がり、上級悪魔への道も早くなると以前教えられた。

 俺の上級悪魔入りの話も功績がかなり関係しているらしい。

 

「お前の甲斐性やハーレムはともかく、お前はもっとこれからは力以上に政治や悪魔の事を知って行かねぇといけないぞ。上級悪魔化はいずれ内定しているものだ」

「……力よりも、か」

 

 ……むしろ今の俺はそんなものよりも力だと思う。

 守るための力はまだまだ不足しているし……ヴァーリじゃないけど、俺はもっと守るための力が欲しい。

 それはこの前の覇龍の一件で思い知った。

 俺に今、一番必要なものは力と強い心。

 もう迷わないように前に進めるような、アーシアの持つ強さが必要なんだ。

 上級悪魔になるなんてまだまだ先の話だし、それに―――今の俺には上級の位は相応しくない。

 

「……………………」

 

 すると俺の表情を皆は真剣な表情で見ていた―――まただ。

 最近、皆にこんな視線を向けられることが多い。

 そんなときは俺は大抵、こんな物騒な事ばっかり考えている。

 

「にゃん♪」

 

 ―――するとその時、黒歌は俺の足元で舌なめずりをしながら悪戯っぽくニヤッとした。

 俺はその顔を見た瞬間、嫌な予感がした。

 

「おい、黒歌。何考えてる?」

「えぇ?別に何にも考えてないよ~?にゃはは!!―――それより今日の夜はあれ(・ ・)だよ?」

 

 すると黒歌は表情を崩さず、そう意味深に呟いてきた。

 うぅ……あれか。

 俺は黒歌の言ったことを理解して途端に恥ずかしくなってきた。

 

「あのぉ……あれって何ですか?」

 

 するとアーシアは控えめに手を上げてそう尋ねてきた。

 それを見て黒歌は更に悪戯な表情となり、アーシアの質問に答えるように話す。

 

「あれっていうのはイッセーが削った命を回復させるための仙術にゃん♪この中では私と白音しか出来ないんだにゃん♪ね?白音?」

「……はい」

 

 小猫ちゃんは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてそう応えると、俺の方を見てくる。

 ……二人が言う仙術というのは、俺が覇龍を発動してしまったことが原因で行っている治療の一つなんだ。

 これはアザゼルと夜刀さんからの提案で、共に仙術を使える黒歌と小猫ちゃんにしか出来ないことらしい。

 治療の内容は……簡単に言えば、回復系の仙術を使い、長い年月をかけて少しずつ命を回復していくという方法らしい。

 仙術とは生命を司る力だ。

 気と呼ばれる人の生命力の流れを狂わし、一時的に戦闘不能状態に出来ることとは逆に、仙術によって俺の体の気の乱れを正して生命力自体を回復させることが出来るらしい。

 特に覇龍による生命力の減少は例外で、仙術での治療が有効ということを教えてもらい、俺は定期的に小猫ちゃんと黒歌から仙術治療を受けているというわけだ。

 ……っていうか黒歌の行動?のおかげで周りの真剣な表情がなくなったような気がする。

 まさか黒歌はこれを狙って……

 

「ふふふ……これで既成事実は……じゅるり」

「……いや、ないな。ないない」

 

 俺は今、思ったことを全て頭から振り払って溜息を吐くのだった。

 まあ仮にそうだったとしても、今更俺が何かを言うわけでもないし……命、か。

 考えたこともなかったな。

 何にも考えずに力を使って、誰かを守ろうとしていた。

 正直、万年に近い命なんて実感がなかったし、数百年の命だって人間から考えてみたら破格のもののはずだ。

 だけど―――皆を残して死んでしまう。

 アーシアとずっと一緒にいるなんて言ったくせに、皆とずっと笑顔でいたいと思っているのに俺は……数百年したら死んでしまう。

 いや、むしろこれからも同じように戦ったりしていたら更にその命は小さくなってしまうだろう。

 ……もっと自分を大切にしろ。

 俺はサーゼクス様から体育祭の時、そう言われた。

 ―――死にたくない。

 俺はまだまだしたいことだってある。

 やらないといけないことだってたくさんある。

 

「っていうかさ―――そろそろ皆、離れようぜ!?」

 

 俺はさしあたって、まずは未だに俺に密着を続けるメンバーにそう言うのだった。

 

 ―・・・

「さっきの先輩はすっっっっごく恰好良かったですぅぅ!!―――あ、ババ引いちゃった……」

「何を言っている、ギャスパー。イッセーは普段からあんな感じで―――き、貴様!図ったなぁぁぁ!!?」

「ゼノヴィア、うるさいわ!もう、これだからゼノヴィアは昔から―――きゃぁぁぁぁぁ!!?ババが私の手に!?ああ、主よ!これはどういう事でしょうか!?」

「……ババ抜きぐらい静かにしろよ」

 

 今、俺とギャスパー、ゼノヴィアにイリナはイリナの部屋でババ抜きをしていた。

 先程の番組鑑賞が終わり、今の俺たちは4人でババ抜きしており、そして今の状況は俺が持っていたババをギャスパーが引き、続いてそのババをゼノヴィア、イリナが引いて行ったというわけだ。

 ……うん、こいつらババ抜き弱い連中だ。

 特に表情が顔に出るメンバーだもん。

 

「ま、まあ良いわ。さぁ、イッセー君!私から一枚、カードを引いてちょうだい!ミカエル様のご加護を受ける私が負けるわけが」

「はいはい、じゃあ―――はい、これで上がり」

 

 俺はイリナの4枚の手札から一枚を引き、そしてそのまま上がりとなる。

 当然イリナの表情からババがどこにあるかは明白であり、俺が上がった瞬間にイリナは絶望した表情となった。

 

「ふ、ふふふ!ま、まあイッセー君は強いからしょうがないわ!さぁ、ゼノヴィア!私に勝てるかしら?」

「……ふむ。イッセー、少し良いかな?」

「ん?」

 

 俺はゼノヴィアに手招きされ、そのままゼノヴィアの口元に耳を寄せた。

 そしてごにょごにょと何かを話され…………なるほど、そうすれば良いのか。

 オーケー、オーケー。

 俺がゼノヴィアから作戦を聞いた後、少し攻防戦が続いて三人の手札は残り少なくなる。

 俺はゼノヴィアに話された内容に納得して、そしてイリナの方を見る。

 

「な、なに?イッセー君。今は私はゼノヴィアと……」

「―――イリナ、お前……可愛いな」

「……………………へ?」

 

 するとイリナは俺の言葉にキョトンとし、そして目を見開いた。

 俺が今、ゼノヴィアから言われたことはこうだ。

『イリナを出来る限り褒めて貰っても良いかい?』っと言われたものだから、面白そうだから褒めてみた。

 後悔はしてないよ?だってイリナ、面白いから。

 

「昔はやんちゃで男の子みたいだったけど、今はこんなに可愛くなったからさ。幼馴染としては鼻高々だよ」

「な、な、ななななな!?いいいいい、イッセー君!?い、いきなり何で!?」

「それにいつも笑顔なところはイリナの良い所だし、それに優しいから皆に人気あるところもイリナの魅力だよ」

 

 そこで俺はゼノヴィアとアイコンタクト―――ゼノヴィアはイリナの残り三枚の手札の内、一枚に手を伸ばした。

 そしてイリナはと言うと……錯乱中だ。

 

「や、止めてぇぇぇ!!堕ちちゃう!!イッセー君にそんなことを言われたら堕ちちゃうよぉぉぉぉ!!!ってゼノヴィア、それはダメェェェェェ!!!」

 

 イリナはゼノヴィアが手札を引こうとしているのに気付き、錯乱するまま言葉を漏らした―――あ、ホントにゼノヴィアの作戦通りになった。

 ゼノヴィアはイリナの台詞でニヤッと笑い、そして先程引こうとしたカードを引き、そして上がった。

 イリナはそこでもう一度叫ぶも、しかし今はそれどころじゃなかった。

 ……翼が、白と黒に点滅してる。

 これは確か天使が堕天使に堕ちる時の現象だったはずだ。

 ―――少し悪いことしたかも。

 

「じ、じゃあ僕も……あ、上がり」

「ま、負け……た…………」

 

 イリナは手札をシャッフルしないままギャスパーにジョーカーの位置を察知され、そのまま負けるのだった。

 そしてゼノヴィアは立ち上がり、高笑いを上げた。

 

「ははははは!イリナ、これでお前は私をおバカとか言えないだろう!お前の敗因は天使であることだ!!」

「うぅぅぅ……ゼノヴィアに、負けた……ガクッ」

 

 そのままイリナは倒れていくのだった。

 俺とギャスパーと言えばその光景に苦笑いをするしか出来なかった。

 

「ところでイッセー、修学旅行の事だが」

「おいおい、イリナを放っておいてやるなよ」

 

 俺は崩れ去るイリナの頭をポンポンとしながらそう言うと、イリナは涙目で俺に懇願するような顔つきになった。

 

「うぅぅ……イッセーくんだけだよぉぉ、私にやさしくしてくれるの……ガブリエル様も厳しくて、ゼノヴィアもこんなのだから…………イッセー君の優しさで涙がでちゃうの……」

「そうか、そうか。幼馴染だから当然だろ?」

「でもね?漫画に出て来る幼馴染ってたいてい―――うわぁぁぁぁぁん!!!」

 

 イリナは一人でブツブツ呟くと、そのまま泣き叫んでしまうのだった。

 …………イリナ、気を強く持つんだ!

 ってか色々な意味でメンタル弱いな、俺ももっと優しくしてあげよう。

 そう思うのだった。

 

「修学旅行ねぇ……そう言えばもうそろそろそんな時期か」

「班分けは是非に私と同じ班になってほしい。当然、アーシアや黒歌もいるから安心して良い」

「ちょっと、ゼノヴィア!?私はどうなの!?」

 

 するとイリナは復活して、あっさり自分が抜け者にされていることに全力でツッコんだ。

 ……これはメンタルが弱いのか強いのか、良く分からないな。

 と、ゼノヴィアは薄く含み笑いをした。

 

「良いかい、イリナ―――班のメンバーは基本女子三人という暗黙の了解があるんだ。つまり後から来たイリナでは……うぅ。私も悲しいよ」

「全く悲しそうな顔をしていないじゃない!ちょっと笑ってるじゃない、ゼノヴィア!―――って、え?ホントなの?嘘よね?」

「ああ、悲しいことだが…………イリナ、君は強く生きるんだ」

 

 イリナはゼノヴィアの言葉に軽く絶望した顔になるが……イリナ、考えたらこれが嘘ということは分かるはずだ!

 まず黒歌はイリナと転校した日が同じだし、何よりゼノヴィアは桐生をカウントしていないぞ!

 しかも班員の数は全部で5名以上10名以下という制限もあるから!

 しかしイリナはなお絶望していた。

 

「え、どうしたら良いの?え?え?」

「……先輩、ちょっとあれは……」

「うん、流石になぁ……」

 

 俺とギャスパーはこそこそ二人のやり取りを見ているが、当のゼノヴィアもやり過ぎたと思うところがあるのか、本気でへこんでいるイリナを見て俺とギャスパーの方をチラチラと見ていた。

 ……目線を合わせない俺とギャスパー。

 焦るゼノヴィア、沈むイリナ。

 その部屋の中には異様な空気が浸透していた。

 

「皆さん。ここにいるんですか?」

 

 すると部屋の扉を何度か控えめにノックをして、アーシアが室内に顔を覗かせた。

 ―――この空気を破ってくれるのか、アーシアは!

 流石は女神に至っただけのことはある!

 するとアーシアは軽く沈んでいるイリナに気付いて、急いでイリナに近づいた。

 

「い、イリナさん!どうしたのですか!?」

「あ。アーシアさんだぁ~……あのね?私、皆と一緒に……修学旅行……うえぇぇぇぇん!!!」

 

 するとイリナは未だ勘違いしながらアーシアに抱き着いた。

 アーシアは少しキョトンとした表情をしており、そしてイリナの背中を優しく摩って……

 

「はい!一緒に修学旅行を楽しみましょう、イリナさん!私もそういう行事は初めてで楽しみです!班も一緒ですから!」

 

 ―――ああ、これこそアーシアだからこそ成せる業ッ!!

 アーシアの優しい笑顔と言葉でイリナの涙は止まり、更に表情はパァァっと明るくなった。

 

「ホント?私、皆と一緒に回れるの?」

「はい!でもどうしてそんなことを……」

 

 アーシアは俺たちの方を見ると、するとゼノヴィアは苦笑いをしながらアーシアから視線を外した。

 ゼノヴィア……流石にバレバレだぞ?

 アーシアはゼノヴィアがイリナを泣かしたことを察したのか、ゼノヴィアに近づいて……

 

「ゼノヴィアさん、あんまりいじわるしたらメッ、ですよ?」

「あ、あぁ……すまない、イリナ。少し調子に乗ってしまった」

 

 流石のゼノヴィアもイリナに素直に謝り、騒動は何とか収束に近づいた。

 ……うん、皆仲良くが一番だよね。

 

「もう、ゼノヴィアはホント意地悪よね!でも素直に謝ってくれたから許してあげる!だって私は天使なんだもん♪」

「そ、そうか……」

「ええ、イリナさんは凄く良い天使さんです!」

 

 ……ゼノヴィアはイリナの台詞と満面の笑みのアーシアを見て、ちょっと苦笑いをした。

 ―――分かるぞ、ゼノヴィア。お前が考えているであろうことが。

 イリナは直接見ていないかもしれないが、アーシアは何と女神に至ったからな……天使どころの話ではない。

 でもここで言ってしまえばイリナは―――考えるのはよそう!安全が第一だ!

 俺は心の奥深くでそう考えるのであった。

 

 ―・・・

 俺が主役を務める『兄龍帝・お兄ちゃんドラゴン』の放送時間は人間界側で言うところの朝に当たる時間だ。

 実は冥界の時間的役割は人間界側に合わせており、今は昼頃。

 今日は休日な上に特に悪魔の仕事はないということで、結構のんびりしていたりする。

 

「ふんふんふん♪おいしっくな~れ、イッセーちゃんのために~♪」

「はうぅぅぅ~……流石まどかさんです……っ!!」

「ホントそうよねぇ……あの可憐さは一体なんなのかしら。まどかさんはずっとあんなに綺麗だから、きっと秘密があるに違いないわ!」

 

 台所には鼻歌混じりにフライパンを振りながら楽しそうに料理する母さんの姿があり、その姿を見てキラキラと目を光らすアーシアと、感心するイリナ。

 ……うん、最近母さんが実は学生なんじゃないかと思うときが多々あるよ。

 っていうか日に日に若く見えるのは何故だろう。

 

「やはり一番のライバルとはまどかさんなのかしら……」

「そうですわね……まどかさんの弟子にしてもらいたいですわ」

 

 朱乃さんと部長も何やら二人で会話をしている……っていうかこの人数の料理をそそくさと作っている母さんの家事能力は相変わらずすごいな。

 ……ちなみに今、この場にはグレモリー眷属の一部とイリナしかいない。

 ドラゴンファミリーについては今日はオーフィスはいなく、普段休日は家に来るチビドラゴンズやティアも今日はいない。

 何でもティアはチビドラゴンズの修行で、オーフィスは面白そうだからとそっちについて行ったんだ。

 小猫ちゃんと黒歌は姉妹二人で色々と絆を深めているらしく、今日は外でご飯を食べると言っていた。

 俺も誘われたんだけど、先にゼノヴィア、イリナ、ギャスパーから誘いを受けていたからそっちを優先した、っというわけだ。

 遊んでいる間は部長、朱乃さん、アーシアはガールズトークをしていたそうだけど。

 ……っと、こんな風に兵藤家では基本皆仲が良く、色々な組み合わせで話したり遊んだりしている。

 ただ最近は遊びに誘われることが多かったりする。

 

『休日はのんびり、そして偶に修行。そして平日は基本的に学業を終えてから修行。ある意味で理に適っているな』

『修行疲れを大体休日に落とすのは良いことです。適度の休息をすることで修行の質も高くなるので』

 

 っと、俺の修行を長年管理してくれている二人からのお墨付きだ。

 この毎日のサイクルが良いんだろう。

 日に日にみんなの力も徐々にだが強くなっており、仲間として頼もしいしな!

 

「ところでイッセー?午後は何か用事はあるかしら?」

「用事、ですか?いえ、特には……」

「なら丁度良いですわ。イッセー君、お昼にリアスと私と一緒にお洋服を買いに行きましょう」

 

 服を買いに、か。

 そう言えばしばらく新しい服とか買ってないか。

 

「イッセーってあまりお洒落に興味がないみたいだから、私と朱乃でコーディネイトしてあげるわ」

「うふふ……男の子の服を選ぶのも楽しそうですわ」

 

 う~ん……まあ良いかな?

 俺は少しの間は激しい修行とか、そういうのは禁止されているから……ドライグとフェルに。

 

『今は体に負担を掛けるのは良くないからな。相棒が思っているほど覇龍の影響は大きいのだ』

『一時的な戦闘は良いです。ですが長時間の修行は今は抑えた方が良いです』

 

 って感じで止められているから、気分転換には丁度いいか。

 

「分かりました。二人の買い物にも付き合いますね」

「良いのよ、イッセー。幾つも店をチェックしているから、イッセーに似合う良い服を選んであげるわ」

「あらあら、うふふ……これは依然として楽しみですわ」

 

 これで昼以降の予定は埋まったか。

 そう言えば他の皆はどうするんだろうか。

 

「皆はこの後、どうするんだ?」

「ぼ、僕は祐斗先輩とアーシア先輩と一緒にアザゼル先生に、その……神器関連のことを少し……」

「私は地下のトレーニングルームで少々鍛えるつもりだよ」

「私はまどかさんと昔話を少々ね!」

 

 なるほどな。

 誘われなかったら神器組に付いて行きたいところだったけど、まあ良いか。

 基本的に神器組は神器関連の勉強と修行……特に今回はアーシアの禁手についての考察がアザゼルの興味深い所か。

 俺も結構考察してみたけどな。

 

「はーい、皆出来たよ♪料理名はパスタ類5番勝負!!かしらね?」

『―――いつの間にこんなに……ッ!?』

 

 俺たちは奇跡的に声を一つにし、5種類もあるパスタ料理を前にしてツッコムのだった。

 ……うん、あり得ない!

 あんな短時間で5種類のパスタ料理を作る母さん、すごすぎだろ!?

 ―――ちなみに味はお金を取れるほどのおいしさだった。

 

 ―・・・

「イッセー君はカジュアルな方が似合いますわ!」

「いや、違うわ。イッセーは爽やか系の方が似合うに決まっているわ!」

 

 ……現状を説明しよう。

 今、俺は朱乃さんと部長と共に買い物に来ている。

 そして今は男向けの服が売っている店内で二人に服をコーディネイトしてもらっていた……わけだけど、結果的に意見が食い違って今のように二人は言い合いとなっている。

 朱乃さんは俺にカジュアル系の服を勧めているのに対し、部長は爽やかで清潔感が漂う、いわゆるきれいめ系の服を勧めているんだ。

 それでいつものように言い合いになっているという状況……周りの視線が少し厳しいな。

 何せ二人は俺から見ても凄まじいほどの美少女だ。

 スタイル抜群、容姿端麗で長身。

 どこぞのファッション誌に載っても遜色がないほどの美貌をしている。

 そんな二人と男物の買い物に来る男子とか、そんなものは嫉妬の対象として見られるのが妥当なところだ。

 ……まあ嫉妬の視線はどうでも良いけど、ここでまた喧嘩になるのは店側に迷惑が掛かるな。

 ここらで止めて―――

 

「およよ?イッセー君、こんなところでどうしたの~?あ、この前ぶりかな?」

「―――観莉?どうした、こんなところで……」

 

 俺は突然頬をつつかれて振り返ると、そこには観莉の姿があった。

 観莉は手元に紙袋をいくつか持っており、恐らくは買い物に来ているのか?

 ってかなんで男物の店の中にいるんだろう。

 

「この店の横を通り過ぎようと思ったらイッセー君の後姿が見えまして……それでイッセー君はお買い物?」

「ああ。部活の先輩とちょっと……」

 

 俺は視線を二人に向けると、するといつの間にか部長と朱乃さんは言い合いを中断させ、俺と観莉の方を見ていた。

 ……視線が鋭いものになっているのは気のせいだろうか。

 今はそう思いたい。

 

「へ~……ってうわ!すっごい綺麗な人!イッセー君の周りには綺麗な人が多いね!」

「あら、ありがと―――それでイッセー?しっかりと紹介してもらえるかしら?」

「そうですわね……イッセー君、紹介してもらえます?」

 

 部長と朱乃さんは出来る限りの笑顔を俺に向けながらそう言うが、でも目は笑っていない。

 全くもって、これっぽっちも笑っていなかった。

 

「え、えと……こっちは袴田観莉っていって、今は中学三年生です。来年は駒王学園を受けるらしくて、たまに俺が勉強とかを教えているっていうのはこの子で」

「袴田観莉です!いつもイッセー君にはお世話になってます!」

 

 観莉は凄まじい良い笑顔と元気な声でそう自己紹介をした。

 どこからどう見ても好印象に映るだろう。

 

「そう。私はリアス・グレモリー。イッセーが所属しているオカルト研究部で部長をしているものよ」

「私は姫島朱乃と申します。リアスと一緒でオカルト研究部で副部長をしていますわ」

「リアスさんに朱乃さんですか……よろしくお願いします!来年は絶対に駒王学園に入りますので!」

 

 おぉ、観莉はすごい自信だな!

 でも確かに最近の観莉の成績は右肩上がりだし、特に観莉はプレッシャーに強い負けん気の持ち主だから心配はないか。

 それに努力家だし。

 

「元気な子ね。頑張りなさい」

「まあその頃には……ふふ」

 

 ……その頃には部長も朱乃さんも卒業している。

 朱乃さんはその言葉を最後までは言わず、ニコニコフェイスを見せるのだった。

 

「それでイッセー君。今日はこのお姉さんたちとお買い物?」

「ああ。それで今は俺に似合うジャンルの服で言い争いになっていたんだ」

 

 俺はジト目で二人を見ると、すると二人は視線を俺から外して苦笑いをした。

 っと、観莉は店内を見渡すような仕草を取った。

 

「ふむ、ふむ……あ。あんな感じなら……」

 

 観莉は何か考えるような目で店内を俳諧し、そして服の一式を手に戻ってきた。

 

「イッセー君って大人っぽいし、それにお兄ちゃん肌だから黒を基調にしたお兄系の服で攻めてみたらどうかな?アクセサリーとかつけたらそれっぽくなると思うよ?ほらほら、着替えた♪」

 

 すると観莉は俺を更衣室の方まで押し、そのまま仕方なく俺は更衣室に入った。

 ……まあとりあえず着替えてみるか。

 季節的には秋っぽい服だけど、まあ先取りということで俺は着替えてみた。

 スーツっぽい上着にカジュアルなシャツ、それとお洒落風なネクタイにシルバー色のブレスレット、それと革靴にぴっちりとしたジーンズ。

 俺はそれを全部身に纏い、そのまま更衣室から出た。

 

「「―――ッ!!?」」

 

 俺が更衣室から出ると直ぐに部長と朱乃さんは俺を観察するように見て、そして驚いたような表情となった。

 ……なんか、色々な方向から視線を感じるような気がしてならない。

 

「うんうん、似合ってる♪それにコートを羽織れば冬季なら結構爽やかな感じになるし、夏なら上着を脱いでシャツだけでも良いと思うよ?カジュアルと爽やか系の両方で行けると思いますけど……」

 

 観莉は部長と朱乃さんに語り掛けると、すると二人は突如、観莉の手を握った!

 うお、早い!

 動きが段違いだ!

 

「袴田さん―――いえ、観莉さん。あなたのチョイスは素晴らしいわ!」

「ええ、イッセー君の良さが出ていますわ……私もまだまだですわ」

「い、いやぁ~。お二人に褒めてもらえれば嬉しいです!」

 

 観莉は少し恥ずかしそうな表情をしながらポリポリと頭を掻くと、少し二人から距離を取ろうとする。

 そう言えば自分で人見知りって言ってたもんな。

 でも観莉のおかげで騒動に終止符が打てて良かった。

 

「じゃあ俺、この服を買ってきますね?」

「あ、イッセー。今日は私と朱乃が全部代金を持つわ。イッセーは前にオーフィスと買い物をして破算したのでしょう?」

 

 ……ああ、オーフィスと一日ゆっくりと遊んだ日の事か。

 あの時はオーフィスが下着を持っていないという新事実が発覚し、急遽、オーフィスの下着を買いに行ったものは良いけど、結果的に流れで20着以上の下着を買う羽目になったということだ。

 それで銀行からわざわざお金を下ろして、結構やばい金額が一気に消えたからな。

 まあそんなこともあり、俺は結構自由に使えるお金は少なかったりする。

 悪魔稼業のお金や事件を解決した奨励金、それと特撮の方のお金はすごい額はあるんだけど、そっちの方はいつか上級悪魔になった時のために必要になるから基本的には溜めておけと言われているからな。

 ……今回はお言葉に甘えよう。

 また買い物に来た時は俺が払えば済む話だしな。

 俺はもう一度着替え、来ていた服の一式を二人に渡すとすぐに会計を済ませ、店の外に出た。

 観莉はどうやらこの後はバイトらしく、部長たちが会計をしている間に帰って行った……確か次に勉強を見るのは来週だっけか?

 部長たちの服も無事に買ったことだし、今日はもう―――

 

「じゃあイッセー、次の店に行くわよ?」

「あらあら……次は下着でも選びに行きましょうか」

 

 ―――女性のお買い物がこんなもので終わるはずもなく、そのまま十数店舗をはしごにしたのだった。

 ちなみに帰る頃には俺の腕はおろか、首にまで買い物の袋が吊ってあったりするが、それは気にしないことにした。

 ―・・・

「あ……んん……イッセぇ……そこ、ダメにゃん……私、おかしくなるにゃん……ッ!!」

「おい、何紛らわしい声出してんだ」

 

 俺は密着する黒歌の無駄に艶やかな嬌声にツッコむが、当然そんな嬌声が上がるような行為はしていない。

 現在は既にその日の夜となった頃だ。

 俺は部長と朱乃さんとの買い物から帰宅してそのまま晩御飯を食べ、そして今は黒歌と小猫ちゃんによる仙術治療を受けているんだ。

 二人は布地の薄い白の装束服で俺に密着する形で仙術による治療をしており、より詳しく言えば俺の気の流れを自己回復するように促し、それによって覇龍によって消費した命を回復しているんだ。

 俺はと言うと上着を脱いで上半身裸である。

 それを二人掛かりでしており、俺には何とも言えない心地の良い気持ち良さと、決して意識してはいけない女の子の柔らかさが……ッ!!

 意識するな、意識するな!

 二人は俺の元飼い猫、守るべき存在!!

 

「……せん、ぱい……どう、ですか?気持ち良いですか?んっ……」

「ちょっと小猫ちゃん!?最近、小猫ちゃんは黒歌に毒され過ぎじゃないかな!?」

「にゃふふ……何だかんだで白音と私は姉妹だからねぇ。根本的には白音もしっかりとエッチな側面もあるんだにゃん♪」

「……えっちじゃないもん」

 

 小猫ちゃんがぷくっと頬を膨らませながら黒歌に文句を言うが、それを見て黒歌は更に顔を真っ赤にしていた。

 

「もう、可愛いにゃん!!白音、可愛いにゃん!!」

「……俺の背中に体を密着させながら暴れないでもらえます?」

 

 俺は割と真剣にそう言うが、黒歌はなおも悪戯な笑みを浮かべるだけだった。

 

「エッチな気分になっちゃった?それなら黒歌ちゃんが……」

「いや、やっぱり良いや。うん、そのままで仙術をお願い!」

 

 俺はこれからの展開を予想し、先にその展開に終止符を打つようにそう言うと、途端に黒歌からは舌打ちが聞こえた。

 ……恐ろしい。

 

「……お姉さま。冗談はさておいてください」

「あれれ~?冗談と思うにゃん?白音だってイッセーとエッチなことしたいでしょ?」

「…………………………………………」

 

 ―――お願いだから黙らないで、小猫ちゃん!

 そして顔を真っ赤にして俯かないで!そしてそこから上目遣いは止めてくれ!

 可愛過ぎるから!!

 

「……まあ私は直接イッセーの覇龍を見たわけじゃないけどね~。でも、一度だけヴァーリの覇龍を見てるから、どんなものかは知ってるにゃん」

 

 すると黒歌は治療の仙術を俺に行使しながら、そんなことを話し始めた。

 小猫ちゃんもその言葉にハッとしたような表情となり、そして真剣な表情で俺の顔を見る。

 

「お願いだから、二度とあれは使わないで。イッセーにあんなものは似合わないにゃん。イッセーはこう……もっと優しい力があるから」

「……優しい力、ですか?お姉さま」

「そ。白音もしっかりとイッセーを見るにゃん。今はこの眷属はイッセーの本質を見ようとしているにゃん―――ま、言うだけ意味ないよね~♪」

 

 黒歌はそれだけ言うと、先ほどと同じように仙術の治療を再開した。

 ……俺には似合わない、か。

 ああ、あんなもの似合ってたまるか。

 だけど俺はあれを使った。

 何かを守るためには力が必要だ……だけど力は結果として誰かを傷つける。

 誰かを守るためには覇がいるけど、覇は嫌い……矛盾も良い所だ。

 

「……先輩。先輩が私を必要としてくれるなら、何でもします……っ。だから……もう覇龍は使わないで、ください……っ!先輩が目の前で死ぬのは……もう、嫌です……!」

「…………小猫ちゃん」

 

 俺は一度、小猫ちゃんの目の前で死んでいる。

 きっと俺の死は小猫ちゃんにとってはトラウマに近いものになっているのかもしれない。

 現に小猫ちゃんは瞳に涙を溜めながら俺にそう懇願し、体を震えさせているから。

 ―――黒歌の言葉の意味が今になって分かった。

 皆が最近、俺に妙に迫ってくるのはきっと……俺を知るため。

 自分からは自分のことを一切、話さない俺に自分から近づいて、俺を受け入れようとしているからなんだろう。

 俺もそれに応えて、早く自分のことを話さないといけない。

 ……でも、もしこの大切な存在を失いそうな時になったら―――俺は使ってしまうだろう。

 だけど俺がもう一度、覇龍を使ってしまえば俺の命は完全に断たれ、皆は更に悲しむことになる。

 眷属の皆が、ドラゴンファミリーの皆が、家族が、友達が俺に向けてくれる好意を全て俺は棒に振ることになる。

 だから俺は今以上に皆を危険に晒さぬように守る力を強くしないとな。

 俺たちがこれまで相対してきている相手は、いつ自分たちが殺されても可笑しくないレベルの奴だ。

 だから―――

 

「―――きっと、皆を守って見せる。笑顔で居てみせる。だから……心配すんな!」

「……私も強くなります。これまで以上に……だからなんでも一人で抱え込まないでください」

 

 小猫ちゃんはキュッと俺を抱きしめてそう呟くと、すると後ろの黒歌は少しばかり不機嫌な声を上げた。

 

「むぅ~……白音に一本取られたにゃん!白音、自分の武器をフル活用するのはズルいにゃん!」

「……別に武器なんて」

「違うにゃん!白音のその儚くも抱きしめたくなる可愛さは驚異的にゃん!!―――もうこうなったら」

 

 すると黒歌は後ろから抱きしめる強さを強く……っておいおい、これは洒落になんないぞ!?

 黒歌から布の掠れる音が聞こえたと思うと、途端に俺の背中に圧倒的な弾力と柔らかい感触が……ッ!?

 

「もうイッセーが理性崩壊するまで責めるにゃん♪」

「く、黒歌!お前、何してんだよ!?」

「……お姉さま。それは卑怯です―――なら」

 

 小猫ちゃんは決意をするように声を漏らすと、途端に顔を真っ赤に上気させながら自分の白い装束服を脱ぎ始める!?

 元々布地が薄いのに脱いだら駄目だろ!!

 俺のそんな心の叫びは虚しく、小猫ちゃんは完全に生まれたままの姿となり、恐らくは後ろの黒歌も同じ―――どうしよう、パパ、ママ!!

 

『むむ―――今、相棒が……パパ、と……―――フェルウェルぅぅぅぅぅ!!!酒だ!!酒を飲むぞぉぉぉぉぉ!!!!』

『ふふふふふふふふふふふふふふ!!この日がついに!ドライグ……今日は飲み明かしましょうか!!』

 

 ―――この親馬鹿ドラゴン!おたんこなす!!おバカ!!

 なんでここで嬉しくなって発狂してんだよ、この!

 

「初めては二人きりが良いけど―――良いにゃん、白音。初めてが三人一緒っていうのも新鮮にゃん♪」

「……優しく……リードしてください。先輩……」

「―――なんで準備万全みたいな声してるんだよぉぉぉぉ!!ほら!!もう仙術は終わっただろ!?」

 

 俺は最後の抵抗というように二人にそう叫ぶように懇願するも、すると途端に二人は不思議そうな顔をした。

 ……なんでそんな顔をするんだ?

 

「ねね、イッセー―――エッチもれっきとした仙術だよん?」

「………………はい?」

 

 俺は聞き違いと思い、もう一度黒歌に問いただした。

 きっと何かの間違いだろう!

 すると次は黒歌ではなく小猫ちゃんが恥ずかしそうな表情で話した。

 

「……その……より詳しく言えば房中術です……気の扱いに長けた女性…………つまりお姉さまと私が男女の意味で一つになることで他人に気を分け与えて生命力の活性化を促す方法で……」

「簡単に言えばエッチして、イッセーに気を送るってこと♪手っ取り早い上に子作りも出来るから一石二鳥……いや三鳥?それとも四鳥かな?」

「―――聞き間違いであって欲しかった……ッ!!」

 

 俺は天井を仰いでそう言うも、当の二人は既に目がね?据わっているんだよね?

 あはは、何この状況―――誰か、助けてくださいッ!!

 そんな馬鹿なことを考えていると、突然小猫ちゃんが少し体をビクンと震えさせた。

 耳と尻尾は鳥肌が立ち、小猫ちゃんの頬がトロンとしていく。

 

「せん……ぱい……なんか、顔があったかくて、ぽかぽかします……」

「…………黒歌?なんか小猫ちゃんが暴走している感じがするのですが?」

「ああ~……白音にはまだ刺激が強すぎたのかにゃ?―――仕方ない、今日は諦めるにゃん」

 

 すると黒歌は俺から離れて裸のまま小猫ちゃんに近づき、頭を軽く撫でた。

 その手からは青白い光が出ており、恐らくはあれは仙術か何かだろう。

 

「……先輩……私、先輩のあかちゃんが―――ふにゃ~………………にゃふ……」

 

 小猫ちゃんが何か言ってはいけない言葉を言おうとした時、小猫ちゃんはそのまま猫言葉を言いつつ意識を失っていく。

 すると黒歌は小猫ちゃんを支えながら、自分の膝で小猫ちゃんを膝枕した。

 ……ってか服を着ろよ。

 俺はそう思いつつ、視線を二人から外して二人の白い装束服を二人の肩から被せた。

 

「ありがと。ま、こんな風にまだ白音に子作りはまだ早すぎるにゃん。でもあのまま放っておいたら間違いなく発情してたはずだから……ちょっと気を操作して眠って貰ったにゃん」

「黒歌は大丈夫なのか?」

「私は自分の発情期を操作できるからね~……ま、発散するときはイッセーで発散するにゃん♪――――――でもイッセー」

 

 ……黒歌は少し真剣な表情を向けてきた。

 それによって俺は姿勢が真っ直ぐとなり、変な緊張感が走る。

 

「もし本当にイッセーの寿命が無くなりそうになったら、私は無理やりイッセーを襲ってでも房中術をするにゃん。だからそうならないように自分の命は大切にして―――エッチするなら和姦が良いにゃん♪ほら、女の子はやっぱりラブラブなのを期待しちゃうからね~」

「……ごめん、最後のが無ければ俺の黒歌への好感度は爆発してたよ」

 

 俺は黒歌の頭にチョップを加えると、黒歌はどこか嬉しそうにそれを甘んじて受けていた。

 ……命を大切に、か。

 確かに黒歌は俺が自分の命を顧みずに救った一人でもあるし、正直、ガルブルトの件ではヴァーリが助けに来なかったら俺は確実に死んでた。

 そうすれば黒歌は一生、俺を死なせてしまった十字架を背負うことになっていたのかもしれないのにな。

 反省しよう。

 行動がどうであれ、黒歌は俺の眷属として俺を見てくれている。

 皆が俺を見ようとしてくれているんなら、俺も皆ともう一度しっかり向き合わないとな。

 

「そう言えば、イッセー。お父さんは今はどこにいるにゃん?」

 

 すると黒歌は俺にそんなことを聞いてきた―――そう言えば、黒歌と小猫ちゃんは母さんや父さんとも面識があるもんな。

 何せ一年間、同じ屋根の下で生活した家族だ。

 ……父さん、か。

 そう言えばこの二人以外の眷属の皆は未だに会ったことがないよな。

 父さんは世界を転々と移動する人で、その理由は優秀な人材だからだ。

 凄い仕事の出来る人で、世界的大企業に所属しており、世界にある店舗を転々と出張を繰り返しているせいか、あまり家にはいない。

 とはいえとても家族想いで、普段から家族のためなら仕事なんて辞めてやる!!、なんて断言するくらい良いお父さんだ。

 実はドライグがライバル視しているというのは内緒だけど。

 

「父さんか……結構長い間会ってないからな。俺もそろそろ―――」

 

 会って話がしたいな、そう黒歌に言おうとした時だった。

 

『―――うぉぉぉぉぉぉおおお!!!!?い、家が!!?す、凄まじいほど豪邸になっているぅぅぅぅぅぅううう!!!?まどか、まどかはどこだぁぁぁぁ!!!!?イッセーぇぇぇぇぇぇ、どこだぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

 ―――その時、家中に響き渡るほどの声が俺の耳に響き、その声が長い間続く。

 声が少し静まる頃には耳鳴りが耳に響き、その声量がどれほど大きなものかが分かった。

 

「……………………ね、イッセー?今のってもしかして」

「…………ああ。もしかしなくても、間違いなく……」

 

 俺は少しばかり溜息を吐きながらも上着を着て廊下に出る。

 そして階段を下りて一階に向かい、そして玄関先にいるとある男の姿を見て少しばかり苦笑いをした。

 その男ってのは俺よりも体格があり背が高く、なおかつこれでもか!、というほど雄の顔をしている。

 髪も短く切り揃えられ、母さんと隣にすれば間違いなく100人中100人が美女と野獣と評価するであろう人。

 

「おぉ、イッセー!!しばらく見ないうちにまた大きくなったな!!嬉しいぞ!!それで一体、この家はどうなっているんだ!?凄まじい豪邸でこの俺、兵藤謙一を以てしても流石に焦ったぞ!!」

「あはは…………おかえり―――父さん」

 

 ―――兵藤謙一。

 正に雄と言うべき我が不肖の父がこの時を以て帰ってきた。

 それを意味していたのだった。






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