ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~ 作:マッハでゴーだ!
「イッセーさん~!こっちですよ~~~♪」
俺の目の前で、可愛い私服姿のアーシアが俺に手を振りながらニコニコフェイスで前を歩く。
今日は体育祭の代休で、体育祭が執り行われてから数日が経過していた。
せっかくの休日ということで俺はアーシアと出かけることにして、今は駒王町からかなり離れたところでデートをしていた。
……なんていうか、俺とアーシアがキスをしてからは特に関係性が変わったわけではない。
元々近すぎるっていうほど仲が良かったのもあるんだけど……ただアーシアは俺に対して異様にキスを求めるようになった。
一緒に話をしていると、突然目を閉じて唇をキュッと閉めることも少なくなかったりする。
……まあそれに応えてしまう俺もどうかと思うけど。
ともあれ、このデート日和には最適の日に俺とアーシアはデートをしているというわけだ。
俺はアーシアの隣に駆け寄ると、アーシアは控えめ気味に俺の服の裾をキゥッと握る。
「え、えへへ……ちょっと、恥ずかしいです……」
―――何、この癒しと萌えの生物は……ッ!?
ホンの少しはにかむアーシアは可愛過ぎるッ!!
『うぅぅ……相棒がちょっと元気になったのは嬉しいぞぉぉぉ……うぉぉぉん』
『えぇ、えぇ……やはりアーシアさんは素晴らしいです……ぐす……でも我が子はまだあげません……ッ!!』
……おいおい、パパさんにママさんや。
俺を想うことは嬉しいが、泣くなよ……伝説のドラゴンだろ?
―――まあ、アーシアが隣にいてくれることが今の俺にとってはすごく安心できることだ。
こんな風にちょっとした触れ合いが今の俺は恋しい。
……ともあれ、のんびりとした休日を過ごしている。
ちなみに他の眷属の皆にはバレないように朝のランニングの時にアーシアに話したからな。
バレたら尾行されそうだし、それに黒歌と小猫ちゃんに至っては仙術使えるからな。
気配察知されてそれで終わりだ。
「イッセーさん!見てください!子犬さんが可愛いです♪」
「ちっちゃいなぁ……生まれてすぐかな?」
俺とアーシアはペットショップに入り、気持ち良さそうに眠っている子犬を見てそんな会話をする。
……アーシアはもっと可愛いって思っているのは内緒だ。
そんな感じで子犬を見ていると、すると俺たちの近くに店員さんと思われる女の人が近づいてきた。
「すみません、少しよろしいでしょうか?」
「はい?」
するとその店員さんは俺とアーシアに話しかけてきて、アーシアは首を傾げてその店員さんを見る。
「その、よろしければ直接この子に触ってみますか?」
「良いんですか?」
「はい。その代わりと言っては何なんですが……店の前のガラスに子犬とあなたたち二人の写真を撮って、張ってもよろしいでしょうか?あまりにもお似合いなもので……」
店員さんは少しはにかんでそう言うと、アーシアは少し恥ずかしそうに俺の後ろに隠れる。
……お似合い、か。
そう言われると嫌な気分じゃないな。
「ええ、良いですよ?アーシアも良いよな?」
「は、はい!」
「あ、ありがとうございます!!じゃあすぐに写真の用意をしますので、その間は子犬と遊んであげてください!」
店員さんは大急ぎで子犬を俺たちに渡し、そして店の奥へと用意をするために行ってしまう。
渡された子犬はアーシアの腕の中で眠っており、心地よさそうな寝息を漏らしていた。
「ふふ……可愛いですね。イッセーさんも抱っこしますか?」
「いや、俺は子犬を抱いているアーシアを見るだけで十分だよ」
俺はそう言うと、子犬の頭をそっと撫でた。
すると子犬は突然、目をパチクリと開けて俺の方を見てきて、そして「くぅぅん」という鳴き声を漏らしながら俺へと飛び込んだ。
俺はそれを受け止め、そして腕の中で子犬が頬ずりをした。
「はぅ……イッセーさんは動物さんに良く好かれますね」
「ああ。昔からなんだよ。近所にいる番犬とかも懐いてくれてさ……そう思えばフィーとかメルとかヒカリとかもか……最近ならアロスとかも」
俺はチビドラゴンズとティアのペットのケルベロスの亜種ことアロスを思い出してそう言うと、アーシアは慈愛に満ちた表情で俺を見た。
「きっと動物さんたちはイッセーさんの優しさに本能で気付いているんですよ」
「確かに動物は人よりもそういうのに敏感っていうのは良く聞くけど……」
子犬を撫でながらアーシアと話していると、するとアーシアは俺に頭を撫でられる子犬を見てちょっとだけ羨ましそうな顔をした。
……子犬に焼きもちとは、また可愛いことを……ッ!
俺は少し肩の力を抜いて、そしてそんな顔をしているアーシアの頭を少しだけ撫でた。
するとアーシアは俺の腕の中にいる子犬と同じ反応をして、少しだけ体を震えさせた……おいおい、子犬と同じ反応って。
「ごめんなさい、お待たせしました……って、ふふ。お似合いですね」
するとその場にインスタントカメラを持った店員さんが来て、そんな風なことを言った。
そして俺が反応する前に一枚、今の状況を撮影した。
「これをどうぞ。これは流石に店の前には貼れないので」
すると店員さんはカメラから現像された写真を俺に渡してきた。
そこにはアーシアの頭を撫でながらも癒されている俺と、気持ちよさそうに頭を撫でられるアーシア、静かに頬ずりをしている子犬の姿があった。
「じゃあそこに立って貰えますか?彼女さんは彼氏さんの腕と腕を組んで…………」
そして俺たちは店員さんに言われるがままポーズをとり、そして撮影されるのだった。
―・・・『STORY 1:フリードのその後』
「ふぅ……ちょっとだけ疲れましたね」
「ああ。まさかあんなに人が集まっているとはな……」
俺とアーシアは繁華街の奥の方にあるテラス式のカフェで一息ついていた。
あのペットショップの周りには異様に人が集まっていて、それから二人で抜けるのがかなりしんどかったのが本音だな。
ともかく、撮影してもらって、その写真を一枚貰ってアーシアも満足げな様子だ。
写真は二枚とも、アーシアのカバンに大事そうに入っていて、アーシアは宝物にすると嬉しそうに言っていたな。
……ところでアーシアの胸元には白銀色の鈴と鍵のついたネックレスがついている。
これは以前の戦いの前にアーシアにお守りとして渡し、既に能力は無くなっているんだけど、何故か消えなかったんだ。
普通、俺が創った神器は能力を失うか、俺が限界を迎えるとそのまま消滅するんだけど……どういうわけか、あの神器は能力を失っても実体を残している。
『恐らくはアーシアさんが禁手に至ったのが原因かと。構造などはわたくしでも不明ですが、
神器の奇跡で終わらすのが一番ロマンチックか?
……アーシアの力は俺を救ってくれた。
心も体も、全部。
―――俺はアーシアを何があっても守りたい。
でも俺が命を賭けてアーシアを守れば、アーシアは悲しむ……いや、皆が悲しむ。
眷属の皆も、ドラゴンファミリーの皆も……俺を想ってくれる人が全員悲しむ。
そんなの、絶対に嫌だ。
だから俺は自分が死なないと確信できるほど強くなって、そして皆を守りたい。
……俺も、守ってほしい。
―――やっぱ、修行あるのみだ!
「……そう言えばイッセーさん。あの後、フリード神父はどうなったんでしょうか」
するとアーシアは思い出したように俺にそう言ってきた。
……フリードか。
最後の最後で目を覚まして、そのまま大切な子供たちを救いに行くと言っていたけど、どうなったかは俺も知らないな。
ただあいつも守るべきものが出来て、ようやく前に進めるだろうから、もう間違った道は通らないはずだ。
何だかんだで筋が通った奴だからな。
「さて、もうちょっとここでのんびり―――」
「ぎゃッ!!!」
……するとその時、俺たちの席の近くで背の小さな白髪の男の子が足を躓いて倒れ、そしてテーブルの上にあった飲み物のカップが地面に落ちそうになる。
俺はそれを何とかキャッチするが、少しだけ零れてそれがズボンに付着した。
……まあ色が黒色のズボンだから大丈夫だろう。
それより倒れた子供を助けてあげないと。
っと、その時だった。
「おい、何してんだよ~……あ、申し訳ない…………っすわ……」
「ああ、大丈夫だ………………よ?」
俺はその小さな男の子の保護者と思われる、多少口調が緩い男と顔を見合わせて、つい黙りこくった。
アーシアはその姿を見て目を見開いて驚いている。
「……お、お久~~~、げ、元気してた?」
「お、おう。お前も元気そうで何よりだな……フリード」
……そう、そこには普通の男子学生が着るようなお洒落な恰好の、苦笑いをしながら挨拶をしたフリード・セルゼンがいた。
―――ってなんでこんなところに!?
話題に出てたからっていくらなんでもタイミングが良すぎるだろ!?
「フリーにいちゃん。どうしたの?」
「ふ、フリードお兄ちゃん……ひ、一人にするのは止めてよぉ……」
するとその後ろからは更に二人の女の子……両方とも白髪で、フリードと同じだ。
一見すると普通に兄弟のように思えるな。
っと、そうじゃない!!
「……とりあえずその男の子を助けよう。話はそれからにしよう?」
「そ、そうっすね……ってことでさっさと起きるべしッ!」
するとフリードは倒れている男の子の脇を掴んで立たせ、溜息を吐きながら転んだことで泣いている男の子の頭を撫でて泣き止ますのだった。
……ちなみに転んだ際に出来た傷はアーシアの力で治したのだった。
―・・・
現在、俺とアーシアの席にはフリードが同席していた。
フリードの連れていた三人の子供は遊具エリアで遊んでおり、そしてフリードは運ばれたココアを飲んで一息ついた。
「まあ結果論、救えたんですわ。ぎゃはは」
「随分あっさりだな、おい」
俺はフリードにツッコみを入れつつ、若干呆れる。
……でもそんな簡単な話じゃないんだろうな。
フリードの頭には包帯らしきものがあり、たぶんそれは体中に巻かれている。
白髪と髪が長いから分かりにくいけどな。
「……まあ口で言うほど楽じゃなかったんですけどねぇ。とりあえず傷は負っちゃったけど、ぶっちゃけイッセーくんに殴られた跡が一番ヒリヒリしますわ、ひゃはは!!」
「ふ~ん……まあ謝らないけど」
「謝らなくて良いっすよ~。俺様、誰かに謝られるほど良い人間じゃございません♪…………まあ、あいつらの笑顔を見てたら、それも良いかなとか思っちゃってるけどねぇぇぇ……」
フリードは遊具エリアで無邪気に遊ぶ子供たちを見て、少し優しそうに目を細めた。
「……フリード神父」
「アーシアちゃん、俺に神父とかナンセンスだぜ?それに君を傷つけたしねぇ……罵詈雑言の数百位は受けるよぅ?」
「……必要ないです。昔はどうであっても、今のフリード神父……フリードさんは良い人って分かりますから!」
「……ったく、相変わらず甘ちゃんだこと」
フリードはココアを飲みながら、そう毒づく。
「それよりも子供の数があの写真よりも少し少ないけど、どうしたんだ?」
「今はガルドの爺さんが二人を見てますわ。残り二人はガルドの爺さんの錬金術に興味津々でね~~~……俺のアロンダイトエッジさんもこんな風に収納できちゃう位に改造するほど優秀ですからのぉ♪」
するとフリードは手首に巻かれた剣の形をしたブレスレットを指してそう言った。
聖堕剣・アロンダイトエッジ。
太古の昔に堕ちた聖剣として廃棄された聖剣・アロンダイトの欠片を集め、更に稀代の錬金術師、ガルド・ガリレイの手によって生まれた世界初の人の手による聖魔剣。
それがアロンダイトエッジだ。
そしてそれの担い手がこのフリード・セルゼン。
俺も相当手こずったほどの力を有している戦士だな。
「……結構、死んじまったんすよね。第二次聖剣計画で」
するとフリードは少し悔しそうにそう呟いた。
それを俺とアーシアは黙って聞く。
「あの実験ではまず最初に専用の薬を投与され、副作用で髪の色素が抜けるんですわ。それから聖なる力と魔の力に適応するなんて馬鹿な考えで実験を続け、そして―――大抵が死ぬ」
「……最強の聖魔剣とその担い手を創る計画、だっけ?」
「そうですわ……まだ俺が介入したタイミングはマシだったぜ。ガルドの爺さんは一歩間違えれば全員死んでたっていうくらいだからねぇ」
……そう言えばガルド・ガリレイはフリードと同じで一度悪に堕ち、そこからまた這い上がった人だったな。
会ったことはないけど。
「元々、七本のエクスカリバーの原型を創ったのはガルドの爺さんだぜ?それをバルパーの糞が掻っ攫って、自分の手柄にしようとしたんだから、迷惑な話だぜ―――あ、俺も迷惑か?ひゃははは!」
「相変わらずうるさい奴だな、お前は」
「ははは、それが俺様のアイデンティティーだぜ?うざくて、面倒な男、フリード・セルゼンとは俺の―――」
「フリードお兄ちゃんもあそぼ……?」
するとフリードの台詞は俺たちの席の近くに来ていた、気弱そうな女の子によって遮られた。
その女の子はフリードの手を恥ずかしそうに握っており、顔は真っ赤―――ああ、なるほど。
ちょっとした子供心と恋心が混じった感じか。
「ああ、もう邪魔すんだよぉぉぉ!!今、せっかくカッコよく決めてたのに!!」
「いや、安心しろ。一切カッコよくなかったから」
「……うそん?」
フリードは俺の言葉にがっくりしながら肩を落とす。
「ふ、フリードお兄ちゃんはカッコいいよ?」
「Oh、マイエンジェル♪このこの~~~♪」
するとフリードはテンション高めで照れ屋な女の子を高い高いした……あいつ、地味に面倒見が良いな。
するとアーシアは少し感心する目をしていた。
「す、すごいです、イッセーさん。人って、変わろうと思えばあんなに変われるんですね!」
「うん、アーシアの中のフリード像は酷いものだろうから気持ちは分かるよ。うんうん」
俺はうんうん頷きながらその微笑ましい光景を見ていた。
……傷つきながらも大切な存在を守ったフリード。
子供たちからしたらあいつはヒーローだ。
俺だってそう思う―――きっとあいつは、これからもふざけた口調で何だかんだであの子たちを守っていくんだろうな。
「さてさて……そろそろ帰らねぇとガルドの爺さんが煩そうだから、帰ることにしますわ―――これ、一応連絡先ですわ」
するとフリードはどこからか出した紙切れを俺に渡してきた。
そこには魔法陣らしきものが描かれている。
「まあ必要ないとは思うけど、何かあったら呼べば一回くらいは駆けつけてやるぜ。一応目を覚まさせられたお礼ってことで」
「……ああ。遠慮なく貰っておく―――お前も本当にヤバいときは俺を呼べ。そしたら必ず駆けつけるから」
「…………真っ直ぐに言うのは相変わらず、ってことだねぇ……ま、頭の隅にでも追いやっておくっすわ」
フリードは薄くニヤッと笑うと、俺とアーシアに背を向けた。
……っとそこでもう一度振り返る。
「それとデート中にお邪魔してごめんなさ~い♪―――くれぐれも、英雄には気をつけるっすよ、悪魔たち~……じゃ、アディオス♪」
フリードはそれだけ言うと、手をピラピラと振りながらそのまま子供たちの方に歩いて行った。
……なんというか、食えない奴だな。
にしても英雄、か―――確か先日、ヴァーリが俺たちの前から去るときにも英雄派には気をつけろって言っていたよな。
「なんていうか……嵐のようなお人ですよね、フリードさんって」
「ああ。しかもめんどくさい台風みたいな奴だよ―――あれだ。微妙な強風を長時間かけて移動する台風みたいな?」
……うわ、想像しただけで面倒過ぎるな、それ。
俺は少し嘆息してテーブルに置いてあったカップを手に取り、その中の紅茶を飲むのだった。
『ご主人様、お電話だにゃ~?早く要件すましてにゃんにゃんなことをするにゃん~~~♪♪』
―――っと、その時、俺のポケットに入ってる携帯電話が奇妙な音声を流した。
……きっと黒歌が勝手に変な着信音に変えたのだろう。
つかにゃんにゃんな事ってなんだよ、おい!
「い、イッセーさん?く、黒歌さんとそんな……」
「あ、アーシア?大丈夫だからな!?黒歌とにゃんにゃんとかしないからな!?されることだって……」
涙目のアーシアにそう言い訳するも、後者は完全に否定することが出来ないのだった……だって、黒歌は常に俺の貞操を狙って来るもんッ!!
バレないように媚薬入りの飲み物を飲まされたのは数えきれないほどだよ、チクショー!!
『……なら渡されたものを食べなければ』
バカヤロー、ドライグ!!
黒歌の涙目+上目遣いに勝てるわけねぇだろ!
『……まあそれも主様ですものね。ふふふ』
『甘ちゃんだが、それこそ我らが子というわけか……儚く辛い運命だ』
……二人のドラゴンを無視して、俺は着信に応答する。
どうやら連絡相手は松田のようだった。
『お?もしもし、イッセーか?今、俺と元浜はカラオケに来てるんだけど、お前もどうだ?』
「カラオケ?………………悪い、ちょっと今日は遠慮しておくよ」
俺はチラッと横目で紅茶を飲むアーシアを見てそう答えた。
今日はアーシアとのデートだからな。
……うん、松田と元浜には悪いけど、この埋め合わせはまた今度しよう。
『そっかぁ……最近、イッセーはちょっと様子がおかしいと思ってたから気分転換になればと思ったんだけどな』
「……松田」
『まあ良いや!ところで電話口は結構騒音が聞こえるんだが……外にいるのか?』
すると松田は俺が外にいることに気付いてか、そう聞いてきた。
まあ繁華街だから周りの音は聞こえるか。
「ああ。ちょっとしたお出かけだよ」
『………………まさか―――デートか?』
『な、なにぃぃぃぃ!!!?松田氏、それはどういうことだぁぁぁ!!!』
すると松田の声とは違う絶叫のような声が電話口から聞こえる……ッ!!
声がデカい、元浜!!
……まあ確かに休日でお出かけって言われたら嫌でも気付きますよね。
仕方ない、白状するか。
「ま、アーシアとお出かけが正解だよ。で?要件はまだ?」
『くっ!まさかそこまで素直に白状するとはッ!!えぇい、イッセー!!せめてアーシアちゃんに電話を代われ!!』
「なんでそんな……」
『良いから変わるんだぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!』
……松田の怒りの声音につい負けて、俺は携帯電話をアーシアの方に渡してしまう。
―――おい、今の叫び、コカビエルの断末魔や叫びよりも怖かったぞッ!!
「あ、アーシア?ちょっと電話を代わってもらえるか?」
「あ、はい」
アーシアはキョトンとした表情で俺から電話を受け取り、そして通話を開始する。
アーシアはその相手が松田ということが分かると少し微笑んで、何度か頷いた。
「はい、はい……はい、分かりました。了解です……いえ大丈夫です、イッセーさんが一緒なんですから……え!?そ、それは……はい。この前体育館裏で……その、イッセーさんの方から…………えぇ!?そ、それは―――」
「はい、ストップ!!アーシア、電話パス!!」
俺はアーシアが呟いていた単語で嫌な予感がして、アーシアから電話をもぎ取り再び電話口に耳を当てる。
『それでアーシアちゃん!イッセーとはもうあれの一線を越えてしまったのか!?あのイッセーがキスしただけでも驚きなのに!?』
『うぉぉぉぉぉんん!!我らが童貞同盟がぁぁぁぁぁ!!!!』
―――さて、どんな説教が必要かなぁ?
こいつら、アーシアから何を聞きだしたんだろうねぇ……さて
「―――松田さん?元浜さん?ねぇねぇ、この声誰か、分かるかなぁぁぁぁ?」
『『ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいい…………ッッ!!!!??!?』』
俺のどす黒い声音で松田、元浜は電話越しでも分かるほどに驚き、恐怖する。
今のは若干魔力で恐怖感を出させたんだけど……ははは。
驚くことはないじゃないか。
「おいおい、親友の声でそんな化け物を見た、みたいな叫び声は止めてくれよ―――なぁ?」
『お、お、お、おうッ!!と、と、友達じゃないか、俺たち!!そう、イッセー、マイフレンド!!』
「そうか、そうか―――次の登校日、腹に鉄板仕込んでおけよ」
俺がそう言うと二人からは更なる断末魔。
俺はそれを無視して通話を切り、ついでに電源までオフにする。
―――さて、次会った時は殺そうか。
うん、それが世界のため、学園のため……そのためならこの手を血で汚してやろう。
「い、イッセーさん……ほどほどにしてあげてくださいね?」
「あはは、アーシア。何を言っているんだい?この俺がそんな親友(仮)を殺すわけないじゃないか」
うわ、すっげぇ嘘くさい言葉だなぁ……まあとりあえず今は忘れておいてやろう。
……だけどやっぱりあいつらも俺の心配をしてたんだな。
「……そういえばイッセーさんはどうして松田さんや元浜さんとあんなに仲が良いんですか?」
するとアーシアは俺の顔を覗き込んで、不思議そうな表情でそう尋ねてきた。
……まあ考えればそうだよな。
松田と元浜といえば覗きの常習犯にして、学園からは野獣やら変態やらのレッテルを貼られている……まあ自業自得だが。
俺は……まあ自分でいうのはあれだけど松田や元浜と仲良くするタイプではないと周りからは見えるだろうな。
基本的に学校生活は真面目な方だと思うし、そんな嫌がることもしていないつもりだ。
―――だけど俺は自信を持ってあいつらを親友と呼ぶ。
掛け替えのない大切な友達だ。
「そうだな……前の北欧旅行の時にさ、聖剣計画の事を話しただろ?」
「はい……セファさんやジーク君、エルーちゃんを救ったお話ですよね……」
そう、聖剣計画で俺が何とか救えた三人。
逆に言えば三人以外を助けられなかったということで、俺はそれをずっと後悔していた。
「そう。当時はまだ俺は子供だったからな……目の前で死を目の当たりにして、守れなかったことに対して絶望して……誰かと関わり合いを持つことを止めた時期があったんだよ」
「―――ッ!?」
アーシアは俺の言葉に目を見開いて驚いた。
……そう、聖剣計画についての俺の後悔は昔に解消したどころか、今でも残っている。
祐斗との出会いでかなり扶植されたけど……少なくとも当時はそんな割り切ることが出来なかった。
「そんな俺の馬鹿な時代にさ―――松田と元浜に出会ったんだ」
―・・・『STORY 2:親友の条件』
子供の時代の俺は……何ていうか、割と浮いた存在だった。
普通の同級生よりも色々なことが出来て、落ち着いていて、何でもそつなくこなせた。
もちろん俺の精神は子供ではなかったから、当然と言えば当然だ。
それでも不審がられないようにある程度の加減をしていた……でも一度だけ、それをしなかった時期があった。
それが聖剣計画に関わった後の事だった。
俺は聖剣計画の事件から少し経って日本に戻った。
日本に戻るとまずは新しい学校に転校ということになり、当時の俺の年齢は10歳で、小学校4年生だった。
まあそんな時期の転校ということもあり、俺は結構注目されたわけ……だけど、俺は誰とも仲良くしたくなかった。
……聖剣計画で目の前で何人もの人の死を見て、精神が多少摩耗していたって言い訳したら良いだろうか。
目の前で何人も子供が死んでいって、しかも俺に「ありがとう」と言ってきた顔を思い出すと、俺はどうしても同じ子供たちに笑顔を見せることは出来なかった。
仲良くしようと思う気もなかったし、それに……俺は友達を変な意味で解釈してしまったんだ。
仲良くなって、大切になって……そして目の前でその大切を失えば、どんなに悲しくて苦しいだろうか。
そう思うと……誰とも仲良くしたくなかった。
初めの方は俺に話しかけてくれる子たちもいたけど、冷たい態度を取っていたら次第にその荒波も小さくなって行ったよ。
誰とも自分から話そうとせず、冷たい態度ばかりを取る。
子供心では詰まらないだろうな。
俺も思うよ―――周りからしたら事情も何も知らないんだから、怒って当然だ。
…………でも、そんな俺に構いもせず話しかけて来る奴がいた。
「なあ!兵藤!!今日、一緒に野球しようぜ!!」
「いやいや、ここはインドア派でゲームの一択だ、松田!!」
―――松田と元浜だった。
あの二人はどれだけ冷たくあしらっても、どれだけ突き放してもいくらでも引っ付いてきた。
口を開けば遊ぼうぜ、一緒に帰ろうぜ……どれだけ拒否をしてもあいつらは俺に話しかけてきた。
「……興味ない。俺は良いから二人で遊べばいいだろ?」
「んな冷たいことを言うなって!!ほら、立てよ!!」
松田は今とは比べ物にならないほどの爽やかで無邪気な笑顔を向けて来るものだった。
ホント、今のあいつにあの当時の顔を見せてやりたいくらいだ。
……俺はあいつらに無理矢理連れまわされて、その度に一緒に遊ばされた。
もう強引過ぎるぐらいだ。
朝学校に来れば一番に二人して俺のところに来て、帰るときは遊んで帰ろう。
昼休みはサッカーをしようだの、野球をしようだの……当時は戸惑った。
昔の俺は本当に冷たくて可愛げのない餓鬼だったから……大抵の奴は俺のことを嫌がっているみたいだし、こそこそ悪口を言われているのも知っていた。
それが当たり前で、それを望んでいた節もあった―――嫌われるなら、それで良かった。
だけど松田も元浜も、それでも俺に毎日笑顔で関わり合ってきた。
俺はそれを次第に受け入れようとしていたんだ。
……だけど、子供って奴は結構残酷だ。
今まで自分たちがどれだけ話しかけても何の反応も示さなかったのに、何で松田や元浜とは普通に接するんだって。
しかも俺は面倒なことに成績だけは優秀だったから、ある意味で嫉妬の的だったんだ。
松田は運動出来たけど頭は残念で、元浜は勉強は出来たけど運動音痴だ。
……ちょっとずつ、クラスメイトは俺が誰かと仲良くするのを目の敵にした。
話はそこから始まる―――……
―・・・
「おい、イッセー!今日は走り高跳びで勝負だ!!絶対負けないからな!!」
「いやいや、松田氏。ここは知能戦で将棋だ!」
松田は俺の前で不敵な笑みを見せて、そんなことを言ってきた。
正直、面倒だった。
俺は誰とも仲良くしたくないのに、松田と元浜は好き勝手に近づいて色々遊びたがる。
……そんなに遊びたかったら、他のクラスメイトと遊べば良いのにな。
「……ホント、鬱陶しい……私達の誘いは無視する癖に……」
……その時、俺にワザと聞こえるように陰口が叩かれる。
それにも慣れたものだな。
でも気にならない……だって俺は……
「もういい。俺、図書室行くから」
俺は盛り上がる松田と元浜を置いて、一人席を立った。
陰口を言われるのは結構だけど、流石に聞いてやるほどの精神力は俺にはない。
だからこういう時は静かな図書室に行けば良い。
「お、おい!待てよ!!俺もちょっとエロい本見たいから!!」
「俺は元々インドア派だから図書室の選択は安定だな」
「……なんでついてくるんだよ」
俺は何だかんだでついてくる二人にそう言うと、二人は満面の笑みを浮かべて……
「「そりゃあ、友達だからな!!」」
……そんなことを恥ずかしげもなく言ってきた。
本当になんなんだろう、この二人は。
俺は―――別にこいつらと仲良くしたいためにここにいるんじゃない。
本当なら……大切な人を守るために、力をつけたいところなのを我慢してここに来てるんだ。
大切な人が増えたら、守る対象が増えたら……また失ってしまうかもしれない。
あの時の……守れなかった子供たちのように。
だから友達なんて要らない。
俺は一人で良い。
父さんと母さんだっているし、リヴァイセさんや助けた三人だっている……イリナだって友達だ。
これ以上……繋がりなんて要らない!
「別に俺は友達とか言ってない」
「良いの!俺はイッセーを友達って思ってるから!!」
「ふふ、俺は親友と思っているぞ?松田よ」
「なっ!なら俺も親友だ!!」
……そんな風に勝手に言い合いを始める二人を放って、俺はそそくさと図書室に向かう。
っとその途中、俺の横を上級生と思われる5人組が通った。
そいつらは少しガラが悪そうで、俺にワザと肩をぶつかってくる。
……そして俺が若干ぶつかったことに対してお辞儀すると、俺を肩を掴んできた。
「いってーな!!前見てあるけよ!!」
「……謝ったけど?」
「ちっ……お前、下級生の分際で上級生に対して生意気だぞ!!」
何か勘違いしているみたいだけど、当たって来たのはあちらの方だ。
でも上級生は俺を取り囲んで何か色々文句を言って来る。
図書室に行くためには上級生の教室を通らないといけないわけだから、面倒だからさっさと通りたかったのにな。
「それで?俺はあんたたちにもう一回謝れば良いの?はいはい、ごめんなさい……次からは気をつけるから」
「はぁ!?ふざけんなよ!!なんだ、その態度は!!」
「だから謝ってる。当たったのは俺も悪いから」
……ホント、面倒。
何でこう、俺は昔からこういう面倒な奴に絡まれるんだろうな。
でも何かここで下に出るのは嫌っていうか……まあ殴りかかってきたら向こうが悪いから良いか。
―――っと、その時だった。
「―――イッセー!!お前が謝る必要なんかない!!」
「―――そ、そうだ!!明らかにわざと当たってたよ、そいつら!!」
……その時、松田と元浜が少し怖がりながらも上級生にそんなことを言った。
そのせいで上級生の死線は俺から松田と元浜に移動する―――馬鹿が!
んなことしたら相手の矛先がお前らに向くだろ!!
「ああ?何々、こいつのお友達?ああ、それはそれは勇敢なことで!!」
「うるさい!!お前ら、イッセーを苛めると許さないぞ!!」
松田は上級生に負けじと、怒りの表情でそう喰いかかる……けどそれによって上級生は更に怒りがヒートアップした。
松田の胸倉を掴んで、殴ろうとする―――なんですぐに手を出すんだよ、糞が。
俺はその拳を掴んで、そのまま握り潰す勢いで握った。
「い、いってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?て、てめぇ、何すんだ!?」
「あんたらが用があるのは俺だよね?それにこいつら、別に友達でもないクラスメイトだから……おい、早く自分の教室帰れよ」
俺は松田と元浜の前に立って若干後ろを向いてそう言うと、すると松田と元浜は俺に何かを言いたげだった。
……早く戻れよ。
「悪いのはこいつらだろ!?イッセーは何も悪いことしてないだろ!!」
「そんな頭の悪そうな連中、いつも通り無視すればいいじゃん!!」
―――なんでもう、そんな火に油を注ぐようなことを言うかな!?
予想通り上級生君たちは怒り心頭で、いつでも喧嘩出来そうな感じになってるし!!
こんな奴ら、本気何て出さずともボコボコに出来るけどさ!
「よし、決めた……お前ら、礼儀のなってない下級生に勉強って奴を教えてやるぞ!!」
「まじふざけんなよ!」
……次第に辺りのギャラリーが増えていく。
そりゃあ傍から見たら下級生を複数で虐める上級生なんだから、悪いのは明らかに向こうだ。
ただあの5人組は上級生の中でも上の方で罵っている馬鹿どもだから、誰も文句は言えないのかな?
誰も非難の目線を送るだけで、止めに来ない。
……そう思えば、この馬鹿二人はすごいんだろう。
上級生に自分の意見を言えたんだから……でもそういうのは本当に友達を救うのにした方が良いよ。
俺はお前らの友達になる資格なんか無いから。
「―――はぁ。あんたら分かってないの?」
こうなった以上、全ての怒りを俺にぶつけさせるしかない。
「俺よりも二年も長く生きてるのに、五人で一人の下級生を上から罵って、挙句殴ろうとしてる―――馬鹿じゃないのか?道徳を習わなかった?そんなことしてると浮いちゃうよ?」
出来るだけ馬鹿にして、こいつらの怒りの矛先を俺に向けさせる。
大方、暴力でしか全てを解決できないタイプの奴だからな。
口では負けないし、それに―――これなら松田と元浜は傷つかないはずだ。
今まで俺に強引だけど仲良くしようとして来たから……一応助けないと寝覚めが悪い。
「そもそもこうなっている以上、怒られるのはあんたらだよ?上級生を下級生が虐める、当然このギャラリーの数だから言い訳は出来ない―――分かったらさ、さっさとそこ、どいてもらえる?俺は早く図書室に行きたいんだけど」
「な、な、な、なっ!!!!!」
よし、これで俺が一発殴られれば悪いのは完全に向こう。
……いや、元々俺が口が悪かったのが原因だけどさ。
まあ生意気聞いたお礼に一発位は殴られてやる。
どうせ子供のパンチだ―――鍛えているから、痛くもない。
上級生のリーダー格と思われる奴は腕を振りかぶって、そしてそれを―――
「―――い、イッセーを苛めるなぁぁぁぁ!!!」
振りかぶると思った時、俺の後ろから運動音痴の元浜がリーダー格の男にツッコんでいき、体当たりをするッ!!
それで上級生の一人は体勢を崩して倒れた。
―――何やってんだよ、元浜は!!
お前はそんなキャラじゃねぇだろ!!
すると俺の前に松田が立った。
「ふざけんな!!イッセーを殴るんなら俺が相手だ!!」
―――あぁぁ、何でこう!こいつらはそんなに俺を友達にしたいんだよ!!
こんなに突き放されてるなら察せよ!
せっかくお前らを逃がすチャンスを作ったのに……くそ、面倒くさい。
もうあれか?こいつらを俺が一方的にボコボコにして俺だけの責任にするのが早い。
「おい、お前らどけ。俺が―――」
「うっせー、分からず屋!!何俺たちを守ろうとしてんるんだよ!!別にお前がそんなことをする必要ないだろ!!」
「そ、そうだぞ、イッセー!お前は悪くないんだから、いつもみたいにふんずり返れよ!!」
俺の言葉を遮る松田と元浜―――少しだけイラッとした。
これは子供心って言った方が良い……単純に、俺がこいつらを逃がそうとして頑張ってんのに、それを理解しているくせに俺を庇うこいつらにちょっと嫌気がさした。
こいつらが正しいことは俺が良く分かってる―――そんな良い奴だからこそ、俺は俺の傍に置きたくない。
「ああ、もう鬱陶しんだよ!!俺にくっつくな!!そんな集まることしか能がない奴らに俺が負けるわけないだろ!!さっさと消えろよ!!」
つい、感情的に俺は松田と元浜にそう言い放った。
俺の怒号が廊下に響いて、そして松田と元浜は一瞬だけ顔を見合わせて、そして―――泣いた。
………………………………何やってんだ、俺。
松田と元浜は涙を流して、そしてその場から走り去る。
この空間に漂う異様な空気―――俺は馬鹿か。
何を子供みたいに怒って、何も悪くない松田と元浜に当たってんだよ。
……今のは、普段から悪口や陰口を言われている対する鬱憤やストレスも入ってた。
それをこんな俺に普通に接してくれるあいつらに……糞が。
「あぁぁ、久しぶりに頭にきた―――おい、上級生」
「な、なんだよ!!」
年が上とか、そんなもの関係なく一瞬俺に対して恐れるような顔をする。
俺は一歩、そいつらに近づくと上級生は一歩、後ずさりをした。
「俺はさ……図書室に行きたいだけだったのにさ―――ホント、何やってくれたか分かってるのか?なあ―――なぁ!!!!」
俺は半分八つ当たりのように叫ぶと、それに圧倒される上級生。
……俺は神器を宿しているからか、非常にこういう叫びや威嚇だけで殺気のようなものが相手に放てる。
だから高が子供ならそれだけでビビらせて、何も出来なくさせることだって不可能じゃない。
俺の語尾を非常に大きくした叫びは完全に上級生たちの心を折って、俺はそれを横目で見ながらため息を吐いた。
「もし松田と元浜……あいつらに変なちょっかいをしてみろ―――二度と笑えないようにしてやる」
俺がそれを言ってやると、ぶんぶんと首を縦に振る上級生。
……俺はそれを無視してそのまま図書室に向かう。
―――ああ、これは本当にやってしまった。
そう思いつつ、俺は好奇な視線を受けつつ図書室に向かった。
……ただ松田と元浜が泣いたのは、俺の胸に結構な勢いで突き刺さった。
―・・・
その日の放課後。
珍しく松田と元浜は俺の周りに来なかった。
それとは別に今まで俺の悪口を言っていたクラスメイトが一気に寄って来た。
「ね、兵藤君!!あの嫌な上級生を泣かせたって本当!?私達もあいつらうざかったんだよね!!!あ、一緒に帰ろ?ずっとお話したかったんだよ!!」
「おい、俺の方が先だろ!?兵藤!!今日皆でドッチボールするんだけどお前も来いよ!!お前の武勇伝を聞かせてくれ!!」
…………どうやら俺が圧倒した上級生は下級生に凄まじく嫌われており、それは風の噂で俺が泣かしたと知れ渡ったそうだ。
それのせいでさっきから今まで俺に陰口を叩いていたクラスメイトが俺に近づいてくる……なんでこうなるんだよ。
俺は横目で松田と元浜に視線を送るが、そこには既にあいつら二人の姿はない。
―――チクリ、とほんの少し胸に痛みが走った。
……何、ちょっと悲しんでんだよ。
自分でやったことだろ―――そうだ、俺の近くにいるからって良いことなんてない。
あれで良かったんだ……きっと。
俺はそんなことを思いつつ、適当にまとわりつくクラスメイトを対処して、そして荷物を持って帰るのだった。
…………………………そう思っていた矢先、通学路の河原の近くで松田と元浜が俺を待ち伏せしていたのだった。
―・・・
「何だよ、話って」
俺は河原の近くで待ち伏せしていた松田、元浜を前にして、河原の川沿いで二人を見る。
少しだけ涙の跡があり、そしてその顔はかなり怒った表情だった。
……まあ怒られるのは当たり前だな。
これは一発位殴られるのは我慢して―――
「「ごめん!!さっきはお前をおいてあそこから逃げて!!!」」
―――は?
こいつら、何を言っているんだ?
「そのさ……イッセーにあんな風に言われたのがちょっと悲しくて……でもあれは俺らを助けるために言ってくれたんだよな?ごめん!!勝手に逃げて!!」
「すまない、イッセー!!一発殴ってくれ!!あの状況を悪くしたのは俺だから!!」
……俺に頭を下げる松田と元浜に、俺は不意に怒りみたいなものが生まれた。
もちろん二人に対する怒りじゃなくて―――自分に対する怒り。
「なぁ?言ったよな、俺……お前らの事、鬱陶しいって」
「ああ、それがどうした?いつもくっ付いてるから当たり前だろ?」
松田はあっけらかんとそう答える。
「でもな、俺も言わせてもらうぜ―――さっきのお前、カッコ悪いんだよ!!」
すると松田は俺に向かってそう言ってきた。
その隣の元浜はそれに続けて言う。
「なんだよ!イッセーはいつもなんでもクールにこなして、あんな奴ら相手にしないだろ!!なんであんな奴らにすぐに謝るのだ!!カッコ悪い!!いつもみたいに無視しろよ、馬鹿!!何ビビってるのだよ!!」
「はぁ!?ふざけんな!!ビビッてねぇよ!!あんな奴ら、俺が相手にするわけねぇだろ!!そもそもお前らが余計なことを言わなければこんなことにはならなかったんだよ!!」
俺はつい頭が来て、松田と元浜にそう当り散らした。
「うるせぇ!!友達助けたくて何が悪い!!」
「それが有難迷惑なんだよ!!ふざけんな!!」
「イッセーこそふざけるな!!俺たちは友達になりたいんだよ!!いつもいつも俺たちを無視して!!」
元浜は俺の胸倉を掴んで、そして―――俺の頬を殴った。
それを実感して、俺の頭の冷静さがブチッと切れる。
「んだよ、それ!!俺はそれが嫌でお前らを相手にしてねぇんだよ!!それなのに!!」
「うるさい!!俺らはそれでもイッセーと仲良くしたいんだよ、チクショー!!!」
松田もついにぶちぎれて、俺に殴り掛かってくるッ!!
俺は殴られて、そして松田と元浜を殴り返した!
「ああ、もう良い!!喧嘩だ、おらぁ!!」
松田と元浜は二人掛かりで俺を殴ってくる。
俺はそれを避けることも忘れ、そして松田と元浜を殴る。
それを何度も何度も続け、それこそ子供のような喧嘩を続けた。
「一人でカッコつけるな!!この馬鹿!!」
「カッコなんかつけてねぇよ!!いつもいつもエロいだと何だの言ってきやがって!!迷惑だっての!!」
「迷惑で何が悪い!!友達は迷惑かけるものだろう!!」
お互い顔を腫らせて自分たちの文句を言い合い、そして殴り合う。
今までの鬱憤を、文句を……俺たちは言い合いながら喧嘩した。
殴られて、殴り返して……大人が止めに来ようと俺たちは止めないだろう。
「迷惑かけたくねぇんだよ!!だから友達なんかもういらない!!お前らはもっと良い奴と友達になれよ!!」
「お前だって良い奴だろ!!」
すると松田がそう言って、俺の頬を拳で貫いた。
俺はそれを受けて、松田を見る。
「俺、知ってるんだぞ!お前がいつも誰もやりたがらないことを一人で黙ってしてるの!!花瓶の水替えとか、帰りに暴れたせいで乱れた机を並べなおすとか!!」
「それに下級生を上級生から助けていただろう!!前に!!そんな良い奴なのにどうして俺たちと仲良くしてくれないんだよぉぉぉ!!」
次は元浜の拳が俺に加わるも……俺は違うことを考えてた。
……こいつらは、俺の知らないところで俺を見ていたんだな。
わざわざこんな喧嘩をしてまで俺と友達になろうとする―――ホント、ふざけたくらい良い奴らだよ。
なら―――
「―――うるさい!!仲良くしたいに決まってんだろ!!!」
俺は松田と元浜を同時に殴った。
それによって二人は地面に飛ばされて、でも俺は二人に近づく。
「なんだよ、それ!!何でそんなことまで知ってんだよ!!俺は……俺は!!友達が傷つくのを見たくないから、だから!!」
「うっせぇ!!傷ついたらお前が守ってくれれば良いだろ!!黙って友達になれよ!!」
「いい加減にしろ!!」
…………俺たちは倒れるまで喧嘩し続けた。
初めて、本音を言い合えた気がした。
分かったんだ、こいつらが俺に喧嘩をしてまで友達になりたい理由が。
理由……なんて初めから無いかもしれない。
―――友達になりたいことに、理由なんて要らないから。
「はぁ、はぁ……ったく、なんだかな―――お前ら、しつこ過ぎ」
「う、うっせぇ……ああ、痛いなぁ……これ、母ちゃんに怒られるぞ」
「ま、松田氏よ……眼鏡割れたけど、どうしよう……」
俺たちは河原の芝生付近で三人倒れながら、そんな軽口を交わした。
元浜の眼鏡は喧嘩のせいで割れている。
……ああ、久しぶりに本音言ったかもしれない。
ってか子供相手に喧嘩って……俺も体は子供だけどさ。
『……偶には良い。もう友と認めてしまえ―――本当はもっと前から認めていたのだろう?相棒』
『ふふ……主様も子供らしい心が残っていたのですね―――嬉しく思います』
……俺の中からドライグとフェルがそんなことを言って来る。
―――ははは、ったく。
俺は上半身だけを浮かして、松田と元浜を見た。
「ホント、お人好しだよな、お前ら」
「お前に言われたくない、イッセー」
「全くだ」
すると松田と元浜は少し笑って、そして―――
「拳で語り合ったらもう友達って、どっかの漫画で言ってたぞ?」
「なら俺たちももう友達だろう?イッセー氏よ」
松田と元浜はニヤッと笑ってそう言うと、俺は首を横に振った。
二人はそれで表情を崩しそうになるが、俺はそれに間髪入れずに―――
「拳で語り合えるのは―――親友の間違いだ。仕方ないから親友になってやるよ……松田、元浜」
「「ッッッ!!」」
俺の言葉に二人は驚愕しつつ、二カッと笑う。
俺は一人立ち上がり、そして二人に手を差し伸べた。
「さっさと帰るぞ。まずお前らの親に俺から謝って、そんで―――一緒に遊ぼうぜ」
「お、おう!!野球、サッカー!!今までお前が無視してたの全部やらせるぞ!!」
「俺もゲームを溜めているのだ!!いっそ今日は泊まって行け、イッセー!!」
俺と松田、元浜はそんな会話を交わしつつ、帰路に立つ。
既に辺りは夕方で、俺たちの背には夕陽が出ており、辺りを橙色に染めていた。
その光景は綺麗で、そして―――その日、俺たちは初めて親友になった。
…………家に帰って俺は母さんに怒られたのは言うまでもない。
―・・・
「……っとまあ、こんな感じで―――ってアーシア?」
俺は松田と元浜の話を言い終えると、アーシアはハンカチで瞳から零れる涙を拭いていた。
「うぅぅぅ……イッセーさんと松田さんや元浜さんにそんなことが……うぅぅぅ!!感動で涙が止まりません!!」
「……いや、泣きすぎでしょ」
俺は尋常じゃないくらいのアーシアの涙に苦笑いをしつつ、頭を撫でる。
……まあ俺の懐かしい数えるほどしかない青春だよ。
まああの時の俺は青かった。
いや、今もか?
『あの時の主様は非常に子供のようで良かったです……今思えば、私の母性がはぐくまれたのはあれが原因ですね』
『ふふふ……俺は相棒と一緒にいる―――一緒にいれば、いつの間にか父性が生まれていたさ』
……うるさいです、夫婦ドラゴン。
『『夫婦などではない(ありません)!!!』』
ドライグとフェルの声が重なる!
何でいつもこれだけは重なるか、疑問だよ。
……っとしている内にアーシアの号泣も止まった。
「ふぅ……良い話でした。おかげですごく泣いてしまいました」
「うん、お願いだから他の眷属の子たちには言わないでくれよ?同じように泣かれそうで怖いから」
…………それは不可能と思い知り、この話を知った者たち全員に号泣されたのはまた別の話であったりする。
―――ともかく、とりあえず視線に耐えれなくなった俺とアーシアは次の場所へと向かうのだった。
―・・・
「お待たせしました、イッセーさん!」
アーシアは涙跡を消すためにトイレでお化粧直し……とはいえ、ほとんど化粧なんかせずとも綺麗なアーシアだ。
今もリップをつけてるくらいだし……っとアーシアの唇を見て、俺はつい胸の鼓動が早くなった。
―――俺はあの唇にキス、したんだよな。
……するとアーシアは途端に唇に手を当てた。
「あ、あの……流石にこの公然の場でキスは……出来れば人気の少ないところの方が……」
「―――いや、アーシア。俺がそんなことをする男に見える?」
「い、イッセーさんが望むのならば……頑張ります!!」
……話を聞いてください、お願いします!!
そんなことを言いつつ、俺たちは今は駒王学園の校門近くにいる。
駒王学園の屋上から見える夕焼けってのはかなり絶景で、特に今日みたいに良く晴れた日は、レジャーシートを敷いて日向ぼっこするのも悪くない。
今はまだ一五時くらいだからお日様は全力で地面を照らしており、俺とアーシアは即座に屋上に向かう。
休日だから人はほとんどおらず、私服で入っていると怒られるから俺は一目が無い所で飛んで、アーシアを抱えながら一気に屋上に向かった。
「す、すごい跳躍力です!私もあんな風に飛んでみたいです!」
「……ごめん、全然想像できないし、あんまりアーシアが暴れるのは似合わないかな?」
俺は若干想像してげんなりする。
だってさ?格闘家風の衣装を身に纏い、肉弾戦をするアーシアの姿なんて見たいか?
―――結論、見たくないです。
っとまあそんな軽口を交わしつつ、アーシアと俺は地面にレジャーシートを敷いて更にタオルケットを地面に敷く。
流石にコンクリートの上は固いからな。
そしてアーシアが用意してきた手作りのクッキーと紅茶を並べて、のんびりと過ごすことにした。
「あぁぁ……平和だなぁ……」
「そうですねぇ、イッセーさん……」
太陽に照らされ、俺たちは昼間の縁側で日に照らされながらのんびりとするお爺ちゃんとお婆ちゃんのような会話をしていた。
それに気付いてどちらともなく笑う。
…………考えてみれば、アーシアとのんびり過ごすのはすごく久しぶりかもしれない。
こうやってデートするのは出会って間もない頃以来だしな……いや、つい最近放課後にデートしたか……まああれは別にすれば、普段は絶対に誰かが付属してくるから。
―――アーシアは俺を受け入れてくれた。
俺の覇龍の姿を見て、なお俺を助けてくれた。
……アーシアは俺の覇龍を見て、どう思ったのだろう。
「……私は、イッセーさんのことを怖いとは思いません」
―――するとアーシアは俺の心を見透かしたように、突然そんなことを言った。
「私はイッセーさんの何かを知っているわけではないです……でもイッセーさんがその……覇龍を使っている時の姿は、忘れることは出来ません―――あんな悲しそうに泣いている姿を」
「泣いている……か」
……確かに泣いていたよ。
だけどそれを知られることになるとは思っていなかった。
―――俺を癒したあの歌。
あれを聞くと俺は心が穏やかになって、覇龍による憎しみすらも薄れていった。
微笑む女神の癒歌……全くもって、アーシアそのものだ。
ヴァーリも良く名付けたものだ。
―――俺はアーシアが何で助かったのか、その全容を知らない。
まだゆっくりと聞けてないし、それに―――あの歌の意味も知りたい。
あの歌詞、そんな即興で創れるものじゃない。
俺はあの歌詞を一説だけ覚えている。
―――
……アーシアはそう最後の所でこの歌詞を唄った。
これで俺の意識は完全に元に戻ったんだ。
俺は知りたい。
この歌の意味を、歌詞を―――アーシアがこの歌詞を描いた想いを。
「アーシア……教えてくれないか?」
俺はアーシアに尋ねる。
「アーシアに何があったのか、そして…………歌詞の意味を」
「……はい。そうですね……じゃあ順を追って話しましょう。あれは私が光に巻き込まれた後の事でした―――……」
そしてアーシアは話し始めた。
―・・・『STORY 3:微笑む女神の癒しの歌』
それは私が光に飲み込まれた時の事でした。
イッセーさんが私を庇い魔力の塊の雨をその身に受けている最中、私は光に飲み込まれました。
そして飲み込まれ、私が次に目を開いたとき、私の視界に飛び込んできたのは……何とも表現しにくい真っ黒と言いますか何と言いますか……
少し気味の悪い空気の、あまりそこにいたくはないような空間でした。
……っと私はそこで自分の異変に気付きます。
それは―――私の視界が妙に白銀色で輝いていたのです。
「これは……それにここはどこなんでしょう……」
私は辺りを見渡してみますが、そこには何もありません。
そして私は自分の胸に掛けられている、イッセーさんから頂いたお守りの鈴と鍵を見ました。
そこからはかすかな白銀の光が漏れていて、そしてその光は私を守ろうと防御の膜を張っています。
……その光はまるでイッセーさんが私を守ってくれているように温かく、そして私の不安だった心は落ち着きました。
―――以前に、イッセーさんからお話を聞いたことがあります。
レーティング・ゲームの会場は次元の狭間と呼ばれる空間の一角を使って創られていて、その次元の狭間は何者の存在も許さない無の空間と。
それでも存在出来る者は相当の力の持ち主で、大抵は狭間の無に当てられ、存在が消滅する。
……正に私が今いるこの場所がその次元の狭間なのでしょうか。
「……イッセーさんの所に帰らないと……じゃないときっと悲しんでしまいます……ッ!」
……自惚れかもしれませんが。
私はそこから動こうと試みるも、私にはこの場をどうにか出来る力はありません。
―――どうしようと迷っている時でした。
「……君はこんなところで何をしているんだい?アーシア・アルジェント」
「そんな無防備な状態で次元の狭間に来るとか、命知らずにも程があるぜい?癒しの嬢ちゃん」
「美候。明らかに彼女は転送されています―――大方、旧魔王派の方々でしょう」
……私の前には、どこからか飛んできた白龍皇のヴァーリさん、強い聖剣を持っているアーサーさん、そして………………お猿さん?がいました。
「……何故だろうねい。俺っち、微妙にディスられた気がするんだがねぃ」
「き、気のせいです!」
私は少しドキッとしてそう応えると、するとヴァーリさんは私の状態を見て何か考えるように顎に手を当てていました。
「……なるほど。君のその神器は兵藤一誠が与えたのかい?」
「は、はい……そうですが」
「そうか。流石は抜かりがないと言うべきか。もし君がその神器を持っていなければ、この空間で問答無用で死んでいたところだ」
……つまり、私が生きているのはイッセーさんのおかげ、ということでしょうか。
そう思うと私の胸はキュンと熱くなります……イッセーさんはまた私を守ってくれたのですね……ッ!!
「とはいえ、その神器も中々限界を迎えていると見て間違いないだろうね。徐々に光を失っている」
ヴァーリさんがそう言うと、初めて私を包む白銀の光から力が失われ始めていることに気が付きました。
……そもそも、イッセーさんが無理をなさって私を救うために神器を創り変えたと言っていました。
「イッセーさんは……大丈夫なのでしょうか……」
「こんな時まで彼の心配とは恐れ入ります―――ですが、大丈夫かどうかで言えば……間違いなく大丈夫ではないでしょう」
アーサーさんの言葉を聞いて、私は少し動揺しました。
……大丈夫じゃない?
どういうことでしょう……そう思った時、ヴァーリさんは私を見て話し始めました。
「もしかしたら君も感じることが出来るんじゃないか?―――怒りの、圧倒的なオーラを」
「怒り……って、もしかして……ッ!!」
「その通り―――兵藤一誠の怒りだ」
私は肌にチクリと、少しだけ痛みが走ります。
―――イッセーさんが、怒っている。
いえ、怒っているだけじゃなくて―――悲しんでいるのでしょうか?
私は何となくそう思ってしまいました。
「次元の狭間までその力が届くか……なるほど、彼は覇龍においても規格外か」
「ですが覇龍を使うとなると……間違いなく命を削ることになります」
「いやいや、赤龍帝はヴァーリに負けず劣らず魔力を持っている上に、それを倍増することだって可能だぜい?冷静ささえ失っていない限りは―――って、あのあんちゃんが覇龍を使う時点で冷静なんてあるわけないかい」
……三人の会話は私の耳には届きませんでした。
―――どうにかして、イッセーさんの傍に帰りたい。
そればかりが頭に渦巻いていました。
「―――帰りたいか、アーシア・アルジェント」
するとヴァーリさんはそんな風に私に尋ねてきました。
……私の心を読んだかのようなタイミングです。
「はい!早く帰ってイッセーさんを止めないとダメな気がします……たぶん、ですけど」
「……今帰れば、君は兵藤一誠の醜い姿を見るかもしれない。覇龍とはそういうものだ―――意識を怨念に委ね、殺戮の龍と化し全て殺し、破壊する。覇龍は端的に言えばそれだ……そんな姿を君は見たいのか?」
ヴァーリさんの言葉は全て、本当の事なんでしょう。
私の頭にはイッセーさんがくれたお守りを介してイッセーさんの感情がホンの少しだけ流れてきます。
……たとえ、今のイッセーさんがいつものイッセーさんじゃないとしても。
私はリヴァイセさんと約束しました。
『……イッセー君はのぉ、物凄く脆いんじゃ。力は確かに強いが、じゃがとても弱い心を持っておる。強さと弱さ、その二つは紙一重―――イッセー君を支えておくれ。おばあちゃんとの約束じゃ』
……北欧旅行で私はリヴァイセさんにそう言われました。
だから―――
「……イッセーさんのそんな姿は見たくないです―――でも、イッセーさんの強さも弱さも、全部受け入れないと本当に好きとは言えないです……だから、私をイッセーさんの所に連れて行ってください……ッ!!」
私はヴァーリさんにそう言うと、ヴァーリさんは少しだけほくそ笑んだ後で私に背を向けました。
そしてアーサーさんの方を見ました。
「アーサー。予定変更だ―――今すぐに旧魔王派が暴れるフィールドに向かう」
「おやおや……良いのですか?今日の本来の目的はあの龍でしたが」
「良い。どうせ覇龍を発動している兵藤一誠がいる―――それに赤と白がいれば自然と来るだろう」
「素直じゃないねい……素直に助けたいと言えば良いんだぜい?」
すると三人はそんな軽口を叩きながらそんな会話をしました。
……ヴァーリさんの目的や詳しいことは何も分かりません。
ですが―――イッセーさんが仰った意味が分かりました。
戦闘狂だけど、悪い奴じゃない……その通りだと思います。
「ありがとう……ございます!」
私が頭を下げると、ヴァーリさんは少し驚いた顔をしつつ表情を崩しませんでした。
「ところでアーシア・アルジェントさん。貴方がどこからここに飛ばされたのか分かりますか?」
するとアーサーさんは私にそう尋ねて来ました。
恐らくは移動するために情報が必要なのでしょう。
「神殿の一番奥の方で飛ばされたのですが……」
「なるほど、あの神殿の奥ですか……ならば分かりやすいですね―――行きましょう」
アーサーさんは腰に帯剣していた聖剣を抜き去り、そしてその聖剣で適当な場所で振り抜きました。
そして剣で何もない空間を一閃し、すると―――その空間に裂け目のようなものが生まれました。
それはどこかに繋がっているみたいで、アーサーさんはその裂け目の方に手招きをし、一礼して「どうぞ」と言いました。
「ここから直接神殿へと繋がるでしょう。ヴァーリ、先導を頼みます」
「分かっている―――おそらく、向こうも戦闘は終わっている頃だろうな……いや、戦闘と言うべきではないか……アーシア・アルジェント」
「はい?」
「先に言っておこう。君が行ってどうこう出来ることではないかもしれない。ただドラゴンを止めるための術を教えておこう―――歌だ。ドラゴンを止めるには昔から歌と相場は決まっている」
ヴァーリさんが私にそんなことを言ってきた理由は分かりません。
でも私はヴァーリさんの言葉を受け止めました―――ドラゴンの止めるには、歌。
そのことだけを頭に刻んで……そして空間を脱出した私の視界には、ある光景が広がりました。
―――瓦礫の山の頂上。
その頂上で雄叫びを上げるように泣いている鎧姿のイッセーさんがいました。
その鎧の色はいつものような赤色じゃなくて、もっとどす黒い血のような赤。
優しいイッセーさんからは考えることが出来ないほどの色でした。
姿はほとんどドラゴンのようなお姿で…………そして何よりも、悲しみに暮れた状態のようにも思えます。
瓦礫の山を見て呆然としているのは眷属の皆さんで、するとヴァーリさん達は皆さんの方に近づいて行きました。
私はそれについて行き、するとヴァーリさんは部長さんに話しかけて何か会話をしています。
私は出遅れたせいで内容は良く聞こえませんが……って皆さんが泣いています!!
どこか怪我をしたのでしょうか……そう思った時、アーサーさんが話し掛けてきました。
「きっとあなたを失ったと思って涙を流しているのですよ。顔を見せてあげてはどうですか?」
「は、はい!!」
私はアーサーさんにそう言われ、私はヴァーリさんの背後から顔をひょこっと覗かして、皆さんに話し掛けました。
「あ、あの…………皆さん?どこか怪我でもしたのでしょうか?」
私は控えめな声で皆さんにそう言った時でした。
今まで泣いていた皆さんは私の声に反応し、そして同時に私の方を見て目を見開いて驚いていました。
「あ、アーシア……ッ!!!」
そして―――大粒の涙を流しながら、ゼノヴィアさんは私の名前を呼びながら私を抱きしめました。
飛び込んできて、抱きしめられるとゼノヴィアさんは涙声で弱弱しく私を抱きしめてきます。
……ゼノヴィアさん。
私の大切な……お友達。
私はほんの少し涙が出てきました。
「ぜ、ゼノヴィアさん……ごめんなさい、心配かけて……」
「うぅぅぅ……良いんだ、アーシア……こうして、戻ってきてくれただけで私は……私はッ!!」
私はゼノヴィアさんの涙にちょっとだけもらい泣きをしながら、でもイッセーさんを見ました。
……未だ、一人で瓦礫の山で咆哮を上げるように泣き続けるイッセーさん。
私のここにいる理由をアーサーさんは部長さん達に説明している時、私はずっと考えていました。
―――イッセーさんを救う方法を。
……そう言えば、と考えました。
この戦いが始まる前、イッセーさんのお母様であるまどかさんが私に話し掛けてきたことをこのタイミングで思い出しました。
『―――お願い、アーシアちゃん。イッセーちゃんを想っているなら、イッセーちゃんを大切にしてあげて。何があっても、受け入れてあげてね?人はね?想うことが出来ればなんだって出来る―――奇跡だって起こせるんだから。だから』
「―――私が、イッセーさんを救います」
私はまどかさんの言葉を思い出し、その言葉に改めて頷くようにその言葉を漏らしました。
それと共にその場にいた知らない人……白いローブを着て、頭に真っ白なヴェールのような布を深く被る女の人は私を見てきました。
この方が何者かは分かりません。
ただ今しがた、部長さんや皆さんと口論になっていたのは分かります。
彼女は、イッセーさんを助けるけど、代わりにイッセーさんを貰う……そう言いました。
―――でも、そんなの嫌です。
イッセーさんは私達の大切な仲間……部長さんにとっては大切な下僕、朱乃さんにとっては命を救われた恩人、小猫ちゃんにとっては昔、ずっと一緒にいた絆の男の人で、木場さんはもう親友と言っても良いような間柄、ゼノヴィアさんは絶望していたところを救われています。
全員がイッセーさんの事を大切に思っていて、大好きな存在です。
……そんな大切な存在を、奪われたくない。
だから―――
「……あれを止めるつもり?あんな化け物みたいな状態のあの子をどうにかできると思っているの?」
化け物……その言葉に私は拒否感を覚えました。
あの姿は―――化け物なんかじゃないです。
「化け物なんかじゃないです。あれは―――イッセーさんです」
誰かを助けて、傷ついても立ち上がる。
仲間を誰よりも大切にしていて、誰よりも強くて、そして―――誰よりも何かを背負う人。
そんなこと眷属の皆さんはもう知っていることです。
私だけの特権じゃない―――部長さんは、私は皆さんよりも何歩も先にいると言っています。
黒歌さんはそれよりも更にイッセーさんとの距離は、差があると言ってました。
ですが……そんな距離、初めからないんです。
私はイッセーさんを本気で好きで、大好きで……それは皆さんも同じ。
想いに順番なんてなくて、どれも純粋にイッセーさんを好きでいるのですから。
きっと皆さんはここから帰ったらイッセーさんを大切に想って、イッセーさんを知ろうとするでしょう。
私だってイッセーさんのことはまともには知りません―――だから、同じスタートラインです。
ほんのちょっと私はフライングをしちゃってますけど、でも皆さんはそんなものすぐに埋めて来るでしょう。
だから、そんな日常を取り戻すために……
「イッセーさん……そんな姿になって、イッセーさんが一番辛い、ですよね。いつも誰かを護るために力を使うイッセーさんがそんなことを望んでいないことは分かってます」
―――イッセーさんを助けます。
私がそう思った時、突如イッセーさんから衝撃波が生まれ、それによって私の頭のヴェールは飛んでいきます。
イッセーさんは私を認識していないのでしょう。
……イッセーさんは教えてくれました。
神器とは、その所有者の想いに応えて進化して、奇跡を起こすと。
私の力は従来のものとは違う進化を遂げるだろうと―――今、私は変わらないとダメなんです。
だから主よ―――例え存在していなくても構いません。
私にイッセーさんを救う力を―――私の想いに応えてください!!
「―――イッセーさん。私はイッセーさんが大好きです」
私の本心を、思いをイッセーさんにぶつけます。
「この言葉はきっとイッセーさんには届いていないでしょう。だけど―――私はずっとイッセーさんと一緒です。ずっとイッセーさんの傍にいて、いつもイッセーさんを癒します…………だから、お願いします」
例え届いていなくても……私はイッセーさんを助けるために―――一緒に帰って、皆さんと笑顔で毎日を過ごすためにッ!!
―――ドラゴンを止めるには昔から歌と相場が決まっている。
ヴァーリさんは私にそう教えてくれました。
……ならば
力を貸してください。
イッセーさんを助けるために―――いつも誰かを守ってばっかのイッセーさんを癒す力を、私に下さい!!
私は天に祈りを捧げるように手を組み、そして目を瞑って―――その時、私の胸の中でドクン……という音が響きました。
私の両手の中指に装着されるエンゲージリングは、その装飾を少し変形し、そして中指から薬指に指輪がはまり、そして碧色のオーラが激しく私を覆います。
―――頭の中に、突如イッセーさんを救う方法が浮かびました。
それはとても単純で、そして……私が好きなものでした。
―――歌。
ヴァーリさんが教えてくれた、ドラゴンを鎮める唯一の方法で、そして―――私が一人ぼっちの時、いつも一人でしていたことでした。
あの時は聖歌でしたけど……この歌は、イッセーさんを想って描いた歌詞。
私の友達になってくれたイッセーさんへの感謝。
いつも私を助けてくれる姿に憧れ、恋を抱いた私の想い。
そして―――一人で悲しみ、苦しむイッセーさんを癒したいと想って、その想いを歌詞に綴ったものでした。
私はその歌詞を唄います。
―――自分の想いを、イッセーさんに対する気持ちを、本心を。
全て歌に込めて。
私の歌は碧色のオーラを含ませ、そしてそのオーラはイッセーさんを覆い始めました。
本当はとても心は弱くて、今だって一人で悲しむくらいに儚いイッセーさん―――誰よりも優しいイッセーさんを助けたい。
私一人では知ることも出来なかった。
でもそれをイッセーさんを想う人達が教えてくれました。
この歌は、私だけのものじゃない―――イッセーさんを想う人、全員の歌です。
きっとイッセーさんなら間違ってない、そう言ってくれるでしょう。
大切な仲間の皆さんは、間違っているわけがないと言ってくれるでしょう。
<……
その強さに憧れているから。
優しさを好きになってしまったから―――イッセーさんの力になりたいから。
そう思った時、機能を失ったはずの胸にある鍵と鈴の神器が―――まるでイッセーさんを救えというように、再び白銀の光を灯しました。
……フェルウェルさんも、イッセーさんを救いたいはずです。
助けます、必ず!
私の歌は終わりました―――その時でした。
「あぁ……がぁ……アー…………シ……ア……」
―――瓦礫の山の上で、イッセーさんが私の名を呼ぶ声が聞こえたのです。
私はそれを見て、聞いて、そして……更に唄いました。
歌詞なんて存在していません。
ただの私の想い。
ただの告白まがいな歌詞を。
「―――
―――私がその歌詞を唄った時、イッセーさんの纏う鎧は崩壊し、そしてその姿を消しました。
イッセーさんの体にあった傷は消えていき、そしてイッセーさんは状態を維持することが出来ず……そのまま瓦礫から崩れ落ちました。
私は瓦礫から落ちてくるイッセーさんを抱きしめるように抱き留め、そしてイッセーさんが腕の中にいる安堵感と嬉しさに涙がこぼれ出ました。
「―――アー……シア」
イッセーさんは私を弱弱しく、まるで存在を確かめるように抱きしめ、私はそれに応えるように抱きしめ返しました。
それによってイッセーさんは大粒の涙を溢し、そして
「……ごめん、な……アーシアッ!!……俺、俺……お前を……護れ、なくてッッッ!!!」
―――イッセーさんは何度も、何度も涙を流して私に謝ってきました。
その時、私は初めて実感しました。
…………イッセーさんが、初めて私に本音をぶつけてくれたと。
本当の意味で甘えてくれて、弱さを見せてくれたと。
―――ようやく、私はスタート出来る気がします。
この人の本当の姿を知って、ようやく―――本当に好きと言える。
そんな気がしました―――………………
―・・・
……俺はアーシアから歌詞の意味を聞き、そして何があったのか全てを理解した。
理解した上で俺は思った。
―――アーシアは、俺よりも何倍も強いと。
「こんな感じなんです。歌詞の意味とかは……その、とても恥ずかしいんですが」
アーシアは照れながらはにかんでそう言うと、俺はアーシアの手を握った。
アーシアはそれに少し驚くも、俺は構うことなく話し掛ける。
「……ありがとう、アーシア。君がいなければ、俺は…………いや、違うな。皆がいなければ俺はここにはいなかったよ」
「そうです。私一人の力じゃあどうすることも出来なかったですよ?ヴァーリさんが私を助けてくれなきゃ、皆さんの想いを私が知らなければ……私は奇跡を起こすことが出来ませんでした」
アーシアはそう語ると、タオルケットの上に倒れ込んだ。
「私は、まだまだスタートラインに立ったばっかなんだと思います。イッセーさんの事を真に理解しているドライグさんや、フェルウェルさんや……リヴァイセさんやまどかさんのいるところへのスタートに。だからこれからです―――ね?」
「……ははは!!なんだ、それ!……ホント、アーシアは良い子だよ」
アーシアの言葉に俺は不意に笑みを漏らした。
―――すごいな、アーシアは。
ホント、すごい……俺なんかよりも強くて、しっかりと自分を持っていて……あやふやな俺とは大違いだ。
「良い子でしたら頭を撫でてください!それで私は癒されるので♪」
「そっか……って、癒しはアーシアの専売特許だろ?」
「いえいえ……ふふ。こんな風にのんびりする一日も良いものですね―――ねぇ、イッセーさん」
するとアーシアは夕陽を背にして、少し真剣な顔をした。
「イッセーさんは……眷属の皆さんや、ドラゴンファミリーの皆さん、松田さんや元浜さん、桐生さんのことが大好きですか?」
「……ああ。大好きだ」
俺はアーシアの言葉に頷く。
「……なら、ちょっとずつで良いんです―――私たちに色々なことを話してください。イッセーさんを想っている人はきっと、すごいイッセーさんの事が大好きなはずですから!どんなことだって、受け入れてくれます!」
「それはアーシアの保証付き?」
「はい!!花丸印の保証付きです!!」
アーシアは満面の笑みで、そう言った―――そっか。
ああ、そうか。
ようやく分かった―――俺は、踏ん切りが欲しかったんだ。
一度は覚悟を決めて、アーシアを失ったと思ってその覚悟に躊躇が生まれた。
覇龍を見せて、それで俺は―――ホント、誰かに殴って欲しいくらいだ。
アーシアも引っ叩いて目を覚まさせれば良かったのに。
……俺は、自分と向き合っていかないといけない。
それを思い知らされた。
「アーシア。俺さ―――」
俺がアーシアに全てを打ち明けようとしたその時だった。
屋上のドアがバンッ!!と開き、そしてそこから雪崩のように人が流れてきた。
「…………皆、何してるの?」
俺は皆―――眷属の皆、ドラゴンファミリー、アザゼル先生やガブリエル先生、イリナ、黒歌に至るまでの全員にそう言葉を投げかけた。
「べ、別に覗いていたわけじゃないわよ?ただ少し入る込む空気じゃなかったから皆でね?様子を見ていたのよ?」
「あらあら……リアス、そんなことを言いつつアーシアちゃんとイッセー君がキスするかしないかあたふたしてたじゃない?」
「朱乃先輩、それはあなたもだろう?それはもう焦っていたじゃないか?」
「そ、そうよ!っていうか知らない間に凄く差が空いているのは何故!?ああ、主よ!!」
「……羨ましすぎです、アーシア先輩。私もイッセー先輩を癒したいです」
「ふふ、白音?なら今晩、仕掛けてみる?」
「ぼ、僕もお話を聞いても良いですかぁ!?」
「ははは……皆、言いたい放題だね」
眷属組&イリナと黒歌がそう言いつつ、俺は嘆息しながら他のメンバーを見た。
……ったく、何してるんだよ。
「あ、姉として弟の素行をな?少しは確認するべきかと……」
「ティアマット殿。この場においてはそれは見苦しい言い訳でござる」
「そうだ、ティアマット。素直に言えば良いではないか?」
「「「アーシアちゃんだけズルい!!」」」
「……我、少しだけ嫉妬を覚える―――ズルい」
「くぅぅぅぅぅん……」
……っていうかチビドラゴン化したタンニーンのじいちゃんまでどうしているんだよ!?
あんた最上級悪魔でしょう!?
そして夜刀さんは今日も居るんですね……意外とお暇なのかな?
……っていうか一気に人口密度が高くなったな、この空間。
「……んで?ちょっとはマシな顔になったか?イッセー」
「うふふ……普通に心配は出来ないのですか?アザゼルは」
「……うっせぇ」
―――ったく、しょうがない奴らだよ。
俺なんかの心配ばっかして……でも、それがどうしようもなく嬉しい。
アザゼルとガブリエルさんは少し言い合いを初め、他の皆は俺のところに集まって大騒ぎになる。
ただ一つだけ共通していることと言えば―――皆、俺を想ってくれている。
アーシアが言っていた通りってことか。
『そうさ、相棒……お前は一人じゃない。俺もついているさ』
『ええ。主様。わたくし達はいつでも主様の味方です―――ずっと、一緒ですよ』
ああ、そうだ。
……そう、俺も前に進まないといけない。
この大切な仲間とずっと一緒にいるために……ホント、決心ってもんが遅いよな、俺。
―――夕焼けが橙色に染まる夕刻。
学園の屋上には俺の大切な存在がたくさんいた。
それぞれ個性豊かで、そして俺のことを大切に想ってくれている奴ら。
ある意味で大騒ぎになり、そして屋上にはついに生徒会メンバーまで集まり、更に騒動は増した。
……でも、偶には良いよな?
こんな馬鹿騒ぎも―――な、ミリーシェ。
俺はさ……こいつらを、こんな馬鹿ばっかりだけどさ―――大好きになってしまったんだ。
だから……
―――俺はそれ以上は思わず、ただ目の前を見た。
…………そこにあったもの。
それは―――笑顔だった。