ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第8話 圧倒のグレモリー眷属

 アーシアの抜けたグレモリー眷属はアーシアのいる神殿の奥へと向かい走っていた。

 神殿の中は特に旧魔王派の奴らがいるわけでもなく、ただ静かすぎる不気味さは残るぐらいのただの神殿。

 何となくギリシャ神話に出てきそうな内装をしており、たぶんどっかの神殿をモチーフにして創ったと予想される。

 恐らくは神滅具の一つ、絶霧(ディメンション・ロスト)によって生み出した空間なのだろう。

 ただ一つ、この神殿のおかしなところと言えば……神殿の中が広大過ぎるところだ。

 目視では壁も見えない神殿で、更に神殿を抜けるとまた前方に神殿が見える始末。

 幻術の類なら良かったけど、残念だがこれは単純に神殿が連なっているだけだから最短ルートなんてものは存在しない。

 だからこうやって走って神殿の奥へと向かうしかないんだ。

 

「…………待ってください。人の気配がします」

 

 すると小猫ちゃんは皆にそう静止をかけ、一人立ち止まった。

 つい先ほど神殿の一つを抜けた俺たちの前にはまた新しい神殿があり、俺たちは今しがたそれに突入しようとした最中の出来事。

 小猫ちゃんは猫耳をピコピコ反応させて神殿を見ている……仙術で人の気配を察知したんだろう。

 小猫ちゃんの仙術の精度は黒歌との特訓からか、右肩上がりで上がっているって聞いたからな。

 小猫ちゃんの言い分はおそらく正しいと判断した方が良い。

 

「そう……皆、ここからは心して行くわ。いつ相手に襲われるか分からないから、最新の注意を払って行くわ」

 

 俺たちは部長の言葉に無言で頷き、新たな神殿へと突入していく。

 そしてある程度神殿を走ったところで、俺たちの前にはローブを深々と被った人物が数人も現れた。

 全員体格は小柄……大体10人ほどの者。

 でも確かこいつらは―――ディオドラの眷属。

 素顔は知らないけど確か全員が女だったはずだ。

 俺たちはその場で立ち止まり、一気に臨戦態勢となる―――今、ここでこいつらと戦えってわけか。

 裏切り者はディオドラだが、それに加担するならこいつらを見過ごすことは出来ない。

 俺はすぐさま鎧の無限倍増を再び開始させようとしたその時―――

 

『やぁ、グレモリー眷属の皆さん』

 

 ―――突然、アナウンスのような機械音のディオドラの声が空から聞こえた。

 ゲームのアナウンスシステムでも使っているんだろうな。

 

『あれ?意外と静かだね、赤龍帝。僕としてはもっと焦る君を見たかったんだけど』

「焦ってんのはお前だろ?大方、アーシアには触れることも出来ないとは思うけど」

 

 俺はそう言うと、ディオドラは図星でも突かれたように言葉を濁した。

 ……アーシアに渡した神器は、アーシアが仲間と認識する者以外からは触れることすらできない仕組みになっている。

 まあそれが災いしてさっきのような鎖などの物体の拘束からは逃れられなかったんだけどな―――要は神器の能力を”他人が触れることを防ぐ”のと”物理攻撃の無力化”に絞ったおかげでただアーシアを拘束する鎖は無効化できなかった。

 あれがディオドラが直接アーシアを攫おうとしていたら、それすらも敵わなかったんだけど……

 とにかく、ディオドラからアーシアに触れることはまずない―――あいつが神器の防御を突破するほどの攻撃をアーシアに与えない限りは。

 

『……まあ良い。僕も暇なんだ―――一つ、ゲームをしないかい?』

「……ゲーム?」

 

 その言葉に部長の眉がぴくっと動いた。

 ……少し頭に来ている顔だな。

 それは俺も同感だ―――アーシアを攫っておいて、何がゲームだ。

 あいつの言うこと成すことは全て嘘だらけだ。

 

『ああ、そうさ。レーティング・ゲームは中止となったからね。それの代用としてゲームをしよう。ルールは至って簡単。各眷属が駒を自由に出す。それを続けて君たちは神殿の奥に来れば良いさ。ただし一度使った駒は僕の所に来るまでは使えない―――簡単だろう?』

「………………えぇ、良いわ」

 

 部長は少し考えると、そう許諾した。

 ―――アーシアは俺の神器である程度の安全は保障されているとはいえ、人質として捕えられている。

 あまり勝手な行動は取れないから頷くしかない、か。

 

『賢明だね―――さぁ、じゃあ僕はまずそこにいる『兵士』八名と『戦車』二名を出そう。既に『兵士』は『女王』に昇格済みだけど、良いよね?だって君たちは赤龍帝君を飼い慣らしているのだから』

 

 ……初手から一五名中の十人を投入してくるか。

 俺はディオドラの馬鹿らしいゲームメイクに溜息を吐きながら、部長を見た。

 ―――部長の王としての素質はあんな外道とはレベルが違う。

 もう奴とは土俵が違うんだ。

 だからこそ言える…………これはゲームなんかではない。

 たぶん俺が戦わなくても圧勝する―――そもそも、今、俺の名前だけを出した時点で奴の敗北は決まっている。

 赤龍帝を飼い慣らしている……か。

 典型的な慢心悪魔だ。

 ……グレモリー眷属は俺だけじゃない。

 聖魔剣の祐斗、デュランダルのゼノヴィア、雷光の朱乃さん、仙術の小猫ちゃん、停止と吸血鬼のギャスパー、誰でも癒すアーシア、そして俺たちの『王』である部長……リアス・グレモリー。

 前回のゲームでは俺たち特有の爆発力を活かせなかったおかげでソーナ会長たちと競り合ったが、規制のない俺たちの強さは既に……若手悪魔を超えている。

 それすらも理解できないあいつはもう上級悪魔ですらない。

 

「はぁ……イッセーを出すまでもないわ―――私たちの初手は小猫、ギャスパー、ゼノヴィアよ」

 

 部長がそう言う―――祐斗と俺は後々の切り札ってわけか。

 だけどこのメンバー……なるほど、小猫ちゃんとギャスパーの成果を見せるってわけか。

 俺の指導を受けるこの後輩二人で相手の兵士は十分だ。

 

『へぇ、この人数で僕の駒を相手にするのかい?はは、死んでしまうよ?』

「あなたは高見で見ていなさい―――あなたは何も得ることが出来ないわ。勝利も女も、何一つ」

 

 部長はそう言い捨てると先ほど呼んだ三人に視線を向ける。

 ディオドラが何か喚いているようだけどそれを俺たちは全て無視した。

 

「ゼノヴィア。あなたには『戦車』の殲滅を頼むわ。本当はここでイッセーか祐斗を出したいところだけど、イッセーは後が控えているの……あなたの全力を見せて頂戴」

「ああ――そういうのは得意だ。私も騎士として尋常に参ろう」

 

 部長がそう言うと、ゼノヴィアは不敵な笑みを浮かべる。

 

「小猫ちゃん、ギャスパー。俺と一緒に修行をしてんだ―――圧倒して来い」

「……はい」

「任せてください、イッセー先輩!!」

 

 小猫ちゃんとギャスパーが俺の言葉に頷くと、俺は満を持して鎧を一部分解除し、制服のボタンを外して首元をさらけ出す。

 ―――緊急事態だから仕方ない。

 恥を忍んで俺はギャスパーに吸血行為を促した。

 

「吸え、ギャスパー」

「え……っと、良いんですか?」

「良いから早くしろ―――後で面倒なことになることは間違いねぇんだから」

 

 俺は厳しい視線に耐え、そうギャスパーを急かすとギャスパーは少し背伸びをして俺の首元に唇を近づけそして……カプッ……その音と共に俺から吸血を始めた。

 ギャスパーの喉元からゴクッ、ゴクッという音が響き、ギャスパーは俺から血を吸い続ける。

 …………………………どんだけ飲むつもりかは分からないけど、少し経ってギャスパーのオーラが急激に変化した。

 不気味なほどのオーラの上昇、目は怪しく光る。

 

「んくっ…………はぁ、はぁ……美味しかったですぅ……」

 

 ギャスパーは俺の血を口元から一筋垂らして蕩けた表情で惚気ていた。

 ……この野郎、絶対この機を逃さずって感じでいつも以上に飲みやがったッ!!

 おかげで貧血だよ、チクショー!

 

「……ギャー君。後で覚悟して」

「ギャスパー。後で断罪するからな」

 

 小猫ちゃんとゼノヴィアは未だ惚気ているギャスパーの首根っこを掴んで戦場へと足を踏み入れる。

 ……情けねぇ姿だけど、でもギャスパーも小猫ちゃんもゼノヴィアも、一階の下級悪魔の次元を軽く超えている。

 

『じゃあ始―――』

「まずは初手だ―――アンダー・デュランダル!!!」

 

 突如、ゼノヴィアの叫びと共にディオドラのアナウンスは遮られ、地中から聖なるオーラの斬撃が放たれる。

 地面を削るように相手の眷属に放たれる聖なる斬撃波。

 ……ゼノヴィアは実はデュランダルを地面に軽く突き刺したまま部長とディオドラの掛け合いを聞き、その場に立ち止まっていたんだ。

 アンダー・デュランダルは前回のゲームでゼノヴィアがソーナ会長の僧侶二人を一撃で屠った技。

 地中に自身では対処しきれない聖なるオーラを溜め、それを一気に斬撃波として大地を削るように放つ技……地面から聖なる斬撃波が放たれると言った方が良い。

 突然の不意打ちに加え対処がとり難く、仮に躱せても反応が大幅に遅れる。

 ……ゼノヴィアの開始早々の攻撃により、相手の『戦車』と『兵士』は完全に分断され、小猫ちゃんとギャスパーは『兵士』を、ゼノヴィアは『戦車』の前に立ち塞がった。

 ―――ゼノヴィアはいつの間にアンダー・デュランダルをデュランダル単体で出来るようになったんだろうな。

 今まではデュランダルの力が強すぎて、操作が難しく、簡略化のために祐斗の創る聖魔剣を接続具として電流のように流すことで自身の負担を軽減していた。

 それをデュランダル単体で発動出来るとは……これで役割は分断できた。

 

「とはいえ、二人の相手は昇格した『兵士』。面倒な事には変わりないな」

「ええ……でも大丈夫よ。それを貴方が一番よく理解しているでしょう?」

 

 部長の言葉に俺は頷く。

 ああ、問題はない。

 俺が小猫ちゃんとギャスパーの頑張りはしっかりと見ているからな。

 ……ギャスパーは神器関連を、小猫ちゃんは近接戦闘を。

 後輩組は俺にすぐ甘えてくる一方で俺の隣に立ちたい意識は人一倍高く、それ以上に誰よりも努力家だ。

 ギャスパーは暇さえあれば俺やアザゼルに神器関連の事を聞いてくるし、小猫ちゃんは黒歌と俺に稽古を良く頼む。

 そんな二人は負けやしない!

 

「……アーシアは、優しい女の子だ」

 

 するとゼノヴィアは『戦車』二人の攻撃を悠然と避けながら、デュランダルを片手に独白を始めた。

 

「私は最初、アーシアに魔女だの信仰心が足らないだの、挙句私は断罪しようとした―――私は馬鹿だ。アーシアの本質も知らず、そんな愚かなことをしようとした」

 

 ゼノヴィアの動きは速くなり、次第に相手の『戦車』が反応できないほどの速度となり始める。

 しかしゼノヴィアの独白は止まることはない。

 

「だがアーシアはそんな愚かな私に、どうしようもない私に話しかけてくれた!友達と言ってくれた―――だからアーシアを返してもらう!!私も大切な友達を―――仲間を返してもらう!!!」

 

 ゼノヴィアの叫びで『戦車』は一瞬怯んだように足を止める。

 そりゃあそうだ……何しろ、ゼノヴィアのデュランダルから発せられる聖なるオーラは許容の範囲を大幅に超えるほどの出力を出しているんだからな。

 そのオーラはまるでゼノヴィアの叫びに、想いに反応するかの如く光り、ゼノヴィアを覆っていた。

 

「デュランダルよ、私の想いに応えてくれッ!!協力してくれ―――アーシアを助けるために全てを切り裂く力を!!」

 

 ゼノヴィアの言葉にデュランダルはパァァァっと更に光り輝いた!

 …………その瞬間、俺の腕からドクンという鼓動が生まれる。

 俺の籠手にはアスカロンが収納されている―――その左手の籠手から聖なるオーラがまるでデュランダルと共鳴するように反応し、光り輝いていた。

 まるでこれは―――ゼノヴィアに応えるかのように。

 

「そうか、お前はゼノヴィアの力になりたいか……行け、アスカロン」

 

 俺は籠手からアスカロンを引き抜き、ゼノヴィアのいる方にアスカロンを投剣する。

 アスカロンはゼノヴィアの足元に突き刺さり、ゼノヴィアはそれを一瞬見た。

 

「……お前は私に力を貸してくれるのか?」

 

 ゼノヴィアはアスカロンにそう問いかけると、アスカロンからはまるでその問いに肯定するかのような光を輝かせる。

 ……アスカロンは俺を真の所有者として認め、結果的に従来のアスカロンを遥かに上回る力を体現した。

 デメリットで他人がアスカロンを持つことは出来ず、俺専用の武器になっていた―――そんなアスカロンがゼノヴィアの想いに当てられ、あいつに一時的に使用を許可した。

 これは他の誰も出来ないこと……聖剣に愛されている、って言ったら聞こえが良いか。

 ゼノヴィアは地面に突き刺さるアスカロンを引き抜き、力強く柄を握る。

 

「ならば力を貸してくれ、デュランダル、アスカロン!!お前たちの力を以て私を友達を助ける剣となれぇぇぇぇ!!!!」

 

 ゼノヴィアはデュランダルとアスカロンを交差させて聖なるオーラを溜め始めた。

 ……あれはこの前、祐斗相手に放ったゼノヴィアの新しい技!

『戦車』の二人はそれを察知したのか、すぐさま動き出す!

 が、ゼノヴィアはそれを察したように後方に飛び、更にアスカロンを振りかざした。

 アスカロンの一閃、それにより『戦車』に聖なるオーラの斬撃が飛ばされ、それを『戦車』はガードしようとするも―――ゼノヴィアの一閃には敵わない。

 防御のおかげか外傷は少ないが地面に倒され、そしてゼノヴィアはデュランダルを上空に向けた。

 見る見るデュランダルからは聖なるオーラが溢れ出て、それはデュランダルの剣先で球体となり始める。

 

「……あれは恐ろしいよ。テクニックとか一切関係なしに相手を圧倒できる必殺技みたいなものだからね―――あれは屋内戦の被害を考えなければ無類の強さを誇るよ」

 

 実際にゼノヴィアの一撃を受けた祐斗は若干顔を青くしながらそう呟くと、ゼノヴィアの創った聖なるオーラの塊はあいつの上空で浮かぶ。

 あれは一度出来ればいつでも技をゼノヴィアの任意で発動できる―――あいつは無意識であの技を生んだと思うが、そのバカさ加減でとんでもない技になっているはずだ。

 つまりいつでも発射できる必殺の大砲を常備して、近接戦闘を行える。

 デュランダルだけならばあの球体の操作で上手く近接戦闘は出来ないだろうが、今のゼノヴィアにはアスカロンがある。

 要は―――二刀流専用の技。

 あいつの可能性も祐斗に負けず劣らず相当なものだな。

 

「―――この技は決まればお前たちの命は間違いなくない。故に選択させてやる……ここで断罪されるか、素直に負けを認めて拘束されるか。せめてもの情けだ(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

 ……『戦車』は何も言わない。

 ―――そう、一言も言葉を発さないんだ。

 何故かは知らない……本当に何でなんだろうな。

 ディオドラの愚かさも理解しているはずなのに。

 そもそも勝ち目がないことなど最初から分かっていたはずなのに。

 ……『戦車』は同時に動き始める。

 速度は速く、戦車としての才能には伸びしろもあるだろう。

 …………だけど選んだのはその道。

 

「そうか……残念だ――――――聖斬剣の天照(デュランダル・シャインダウン)

 

 ゼノヴィアは上空にある聖なるオーラの球体を操作し、砕き、上空から光の柱のような激しい一撃を放つ!

 それにより『戦車』二人は飲み込まれ、そしてゼノヴィアは静かに目を瞑る。

 

「「―――ありがとう、ございました…………ゼノヴィア様」」

 

 …………一瞬、その光の柱の中で静かな声音が聞こえた。

 ゼノヴィアはその声を聞いた瞬間に未だ放たれる光の柱を見て、目を見開いた。

 

「―――そう、か…………静かに眠れ」

 

 ―――光が晴れた時、そこには既に何もなかった。

 あの時のあの言葉……本当にゼノヴィアに感謝するような声音で「ありがとう」と言っていた。

 ……どういうこと、なんだろう。

 俺はそう疑問に思いながらも、ギャスパーと小猫ちゃんの方向を見た。

 

「……そこ」

 

 そこには八人で小猫ちゃんに襲い掛かるディオドラの『兵士』の姿があった。

 だけど小猫ちゃんは特にその無表情を崩すことなく、気配を読んで全ての攻撃をいなしていた。

 本当に後ろに目が付いているっていうほど正確に。

 流石の『兵士』もそれに焦りを見せ始めている。

 ―――と、そこで一人の『兵士』の動きが完全に停止した。

 

『小猫ちゃん、停止している間に相手を無力化するですぅぅぅぅ!!!』

 

 ……ギャスパーは複数のコウモリに変化し、その邪眼を活用して相手の動きを止めていた。

 一人が停止されるともう一人が停止され、小猫ちゃんはその度に停止した『兵士』を掌底で殴り飛ばす。

 小猫ちゃんは仙術を得てからは柔と剛を使い分ける戦闘スタイルになっている。

 気配を読み、相手の動きを先読みして動く『柔』とそこから放たれる『剛』の一撃。

 グレモリー眷属は小猫ちゃん以上のパワーを持つ者が多い故に、小猫ちゃんが俺や黒歌との修行で編み出した結論の一つ。

 まだ未完成のスタイルだけどあいつらを圧倒することなら簡単だ。

 動きを止めるギャスパーと、その他大勢を一気に相手にする小猫ちゃん……普段は小猫ちゃんのポジションに俺が参加する形で、俺たち三人の理想的なスタイルを今回は二人で体現しているな。

 

「…………驚きだわ。いつの間にあの二人はあんなに強く……私もウカウカしていたらいつの間にか追い抜かれそうね」

「ええ。俺が一緒に修行しているんですもん―――って、部長も朱乃さんも、二人でかなりキツイ修行しているのは知っているんですけどね」

「あらあら……知られてしましたのね」

 

 部長と朱乃さんは少し微笑みながら、すると戦いは終盤に移行していた。

 明らかに相手は不利―――が、それを悟ったようにまだ動ける『兵士』は一か所に集まって魔力を溜め始める。

 ……なるほど、そう来るか。

 確かに小猫ちゃんとギャスパーは魔力弾関連のことは出来ないだろう。

 何せ教えていないから。

 だけど少しリサーチ不足だ。

 ―――ギャスパーはそもそも、魔力弾など必要ない。

 

『全部止めるですぅぅぅぅ!!』

 

 ギャスパーはコウモリの分身体を全て集結させて小猫ちゃんの前に立ち、そして一度姿を元に戻した。

 魔力弾はそれと共に小猫ちゃんとギャスパーに放たれる……ギャスパーは一瞬、目を瞑った。

 ―――あれをするつもりか。

 

「すぅ……はぁ……ッ!!!」

 

 ギャスパーは息を吸って吐いて、そして一気に怪しく光る邪眼を見開いた。

 その瞬間、ギャスパーの前方の空間はモノクロの世界のように白黒となり、そして魔力弾、『兵士』は全員動きを停止させた。

 ……いや、厳密に言えば少し違う。

 あれはギャスパーの以前行っていた修行が関係した応用の技。

 ―――停止っていうのは非常に神経を使うものだ。

 故に完全な停止は非常にキツイものがあり、だからこそ制御が難しい。

 ―――だけど完全な停止は本当に必要か?

 これがアザゼル、俺が提案したことだ。

 発端はギャスパーだった。

 ギャスパーと初めて出会い、色々話して、そして神器を扱う上での訓練をし始めた時のことだ。

 丁度三大勢力の会議がある前の事で、ギャスパーが初めて俺の血を飲んだ時のことだな。

 あの時、確かギャスパーは祐斗からの投剣を限定で停止させる修行をしていた。

 ギャスパーは祐斗から放たれた聖魔剣を完全に停止させることが出来なかった。

 剣は少しずつ動いて、結果的に停止は破られたのだが……それまでの経緯が重要だ。

 完全な停止は出来なかったが、不完全な停止をした結果、剣の動作はかなり遅くなった。

 それこそ目視できるレベルで。

 簡単に言えば超スロー再生、っていうやつだ。

 だから厳密に言えば停止とは違う。

 ギャスパーの神器の神髄を敢えて不完全に使うことで負担を減らし、余計な停止をさせないがための技。

 停止させている間はギャスパーは集中しているために動けないが、これならある程度集中を削いでも停止は続行できるから応用が利く。

 ……って言ってもこれもまだまだ未完成。

 実力が大幅に離れている奴にはそもそも停止の力は利かないからな。

 だけどギャスパーの停止世界の邪眼(フォービトュン・バロール・ビュー)の可能性っていうやつもかなりのもの。

 更にギャスパーの吸血鬼としての可能性も含めれば相当なものだな。

 ―――さて、もうそろそろ終わりだ。

 相手は既にほとんど停止させられてるだろう。

 停止を受けている本人は実際に完全に停止させられているわけではないから、停止の実感はないだろう。

 要は小猫ちゃんとギャスパーが異様に速く動いていると思うだけ。

 たったそれだけだ。

 

「……これで終わりです―――にゃん!!!」

『い、行け、行けぇぇ!!!』

 

 小猫ちゃんは可愛過ぎる掛け声と共に『兵士』に掌底やら音のえげつない打撃を加えて相手を無力化し、ギャスパーは即座に無数のコウモリに変化して『兵士』にまとわりついて相手を完全に無力化した。

 極めつけと言えば小猫ちゃんが仙術により相手が魔力を練れないようにしたことか。

 停止はそのまま解除され、そして術者を失った魔力弾は消滅し、そして『兵士』は完全に気を失った。

 戦いが終わった。

 ゼノヴィアとギャスパー、小猫ちゃんは俺たちの元に帰って来た。

 ……圧倒的だ。

 ゼノヴィアもギャスパーも、小猫ちゃんも本来は前回のゲームでこれほどの爆発力を抱えていた。

 だけどゲームの形式上、それは不可能だった。

 ―――まあ今回はそんな制限がないから俺たちは好き勝手に暴れられる。

 

「よくやったわ、ゼノヴィア、小猫、ギャスパー……あなたたちの成長に驚いたわ」

「……姉さまとイッセー先輩との修行の成果です」

「イッセー先輩!やりました!僕、勝ちました!!」

「…………早くアーシアを助けに行こう」

 

 三者はそう言うと、部長は嬉しそうに笑う―――自分の眷属が成長しているんだ。

 嬉しいに決まっているよな。

 

「イッセー。アスカロンをありがとう」

 

 するとゼノヴィアは手に持っていたアスカロンを俺に渡した。

 アスカロンからは既に先ほどの輝きはなく、俺が受け取ると再び光を放つ。

 

「お前の想いにアスカロンが呼応したんだ。良い戦いだった、ゼノヴィア」

「そうか―――イッセー、アーシアを助けよう。私の考えることが正しければ、ディオドラ・アスタロトは殺しても足らぬほどの外道かもしれないからね」

 

 ゼノヴィアは先ほど消失した『戦車』がいたところや拘束されて倒れている『兵士』に視線を向けてそう小さく呟いた。

 ……もしかしたらゼノヴィアに何か思い当るところがあるのかもしれない。

 でも今は悠長に話している暇はないからな―――そうして俺たちは次のステージへと足を進めた。

 

 ―・・・

『Side:アザゼル』

 

 俺、アザゼルは旧魔王派の悪魔共を蹴散らしながら移動していた。

 俺が移動する先はリアスやイッセーたちがいるあの神殿。

 この広大なフィールドで唯一存在する建物だ。

 ……だけど敵の数が多すぎて、中々前に進めないっていうのが正直なところだ。

 今回のこの旧魔王派一掃にはオーディンを始めとする神々、帝釈天の仏や各勢力の幹部、話を聞けばティアマットやタンニーンなどイッセーで言うところのドラゴンファミリーも参加しているそうだ。

 ドラゴンファミリーは基本的にイッセーを巻き込んだことに対する怒りだそうだが、そのパワーは半端なく相当な敵を屠っているらしい。

 ……そりゃあタンニーンやティアマットは龍王、夜刀は三善龍最強でオーフィスに至っては龍神だ。

 ―――旧魔王派は本当に敵に回したらいけない存在を分かってんのか?

 

「あぁぁぁ!!!うぜぇぇぇ!!!」

 

 俺は我慢ならず光の槍を幾重にも生み出して悪魔共に放ちまくる!!

 そりゃあもう縦横無尽に放つ。

 ……が、ゴキブリのように奴らは湧いてきやがる。

 

「あぁぁ、めんどくせぇ……RPGで出てくるスライムかよ、あいつら」

「アザゼルよ、喚くな」

 

 すると俺の付近に巨大なドラゴン―――タンニーンが現れた。

 ドラゴンファミリーの一角のこいつがここに現れるか。

 

「あの神殿に一誠はいるのか?」

「ああ。だけどこの人数、中々前に進めねぇよ。明らかにこっちの一個人の戦力は圧倒的だろうけど数だけは奴らの方が段違いだ。マジで戦争を起こすつもりなんだろうな」

「だが肝心のトップは未だに姿を現さん―――さて、どうしたものか」

 

 タンニーンは上空から炎の弾丸を地上の悪魔に放つ。

 それにより結構な数が消失するも、やはりまた生まれる。

 

「オーフィスは来てるのか?あいつがいたら楽なんだが……」

「考えてもみよ。オーフィス程の力ならば簡単にこの空間は崩壊するぞ?そうすれば敵味方関係なく終わりだ―――奴はチビドラゴン共の護衛をしている。ティアマットと夜刀は小回りが利くからな」

 

 タンニーンからの話を聞き、俺は納得するが……やはりこの人数は面倒だ。

 ……その時、俺はある二つの気配を察しした。

 それはタンニーンも同じようで、その二つのオーラは割と俺たちから近いところに感じる。

 ―――両方とも、感じたことのないオーラと質量だ。

 俺とタンニーンはその方向に一気に飛び駆ける。

 この戦場で更にイレギュラーとかは本当に勘弁してほしいぜ!

 俺の懐にある龍王の一角、ファーブニルが封じられる宝玉が反応していることから、これはどちらともドラゴンの反応だ。

 つまり俺たちの知らないドラゴンが二匹、この戦場に紛れ込んでいるってことだろう。

 

「アザゼル、気をつけろ。この匂いはただのドラゴンではなく―――何ッ!?」

 

 俺たちはその気配の所に到着して、そこで信じられないものを見た。

 ………………そこにはオーフィス、のような少女がいた。

 

「何だ、奴は…………オーフィス、なのか?いや、だがオーフィスは今は違う場所にいる……」

 

 俺は何が起きているのか分からずにいるが、地面に降りてそのままそのオーフィスらしき少女を真正面から見る。

 

「お前は何者だ!どうしてオーフィスの姿をしている!!」

「………………おまえ、だれ?」

 

 するとその少女は一切の光のない目をこちらに向けてきた―――まるでオーフィスだが、しかしオーフィスとは根本的に違う。

 オーフィスは既に自我というものがイッセーとの触れ合いにより生まれていて、結構元気な龍神様だ。

 だがこいつからはそんなものが一切感じられなく、殺意も何も感じない。

 まるでつい最近生まれたような感じで何も分かっていない顔をしていた。

 

「俺はアザゼル……俺のことを知らない時点でオーフィスとは別人か」

「オーフィス……リリスの、おねえさま?」

 

 するとそいつはリリスと名乗る―――リリス、だと!?

 リリスとは確か前ルシファーの妻だった存在で、悪魔にとっては始まりの母と言える存在だ。

 ……偶然と言って良いのか?

 それにこのリリスと名乗るこいつからは異様な雰囲気が感じる―――ドラゴンだけじゃなく、まるであらゆるものが無理やり詰め込まれているような様々なオーラを感じる。

 それにオーフィスをお姉さまって呼んだ―――つまりそういうことか。

 

「お前はまさか、オーフィスが組織に残していった力で生まれた存在ってことかッ!?」

「何!?この者がオーフィスの分身体のようなものだと言うのか!!」

 

 タンニーンの言葉に俺は頷くも、警戒は怠れない。

 しかも正体不明の龍の気配はこいつだけじゃないんだ。

 

「―――ああ、その通りだ。堕天使の総督よ」

 

 するとそのリリスの背後から声が聞こえた。

 そいつは貴族服を着ている男で、俺はそいつに見覚えがある―――今回の首謀者の一人だ。

 

「お初にお目にかかる、堕天使の総督。俺の名はクルゼレイ・アスモデウス。真の魔王の後継者なり」

「けっ……首謀者はここで登場ってわけか?」

 

 俺はそう言うと、クルゼレイは不敵に笑った。

 ……くそ、こいつは下手に殺すわけにはいかねぇ。

 少なくともこのリリスのことを少しでも多く聞きださねぇといけねぇからな。

 

「先に貴殿の疑問に答えてやろう。このリリスは我々、禍の団が創りだした最高の人工ドラゴン。裏切り者、オーフィスの残した莫大な蛇の力を媒介し、そこに何万の人の命を代償にする魔術、悪魔の魂、幾数ものドラゴンの亡骸……様々なものを混ぜに混ぜ、それを禁術で形にした新たなドラゴンだ―――ある方のご助力を頂いて完成した存在だ……その絶対値、二天龍をも凌駕する」

「貴様―――そいつを創るためにどれだけの命を摘んだのか、分かっているのかぁぁぁ!!!!!」

 

 タンニーンはクルゼレイの発言に激怒し、口元に大きな爆炎を溜める。

 ……禍の団はリリスを創るために一体どれほどの者を生贄にしたんだ!

 恐らく現魔王の血族の者が次々に襲われていたのはこのリリスも関係しているんだろう。

 つまりディオドラがしたような強化は、このリリスが生み出した何らかのオーフィスと同じような技をしたということ。

 ……幾数ものドラゴンの亡骸。

 恐らく禍の団がドラゴン狩りをし、こいつを具現化させるための肉体を創りだした。

 その人格を創るために禁術を使い、人間を万の数ほど生贄にして、力を向上させるためにあらゆる種族を殺してその力をリリスに合成したんだろうが……残酷すぎる。

 あまりにも旧魔王派共は残酷すぎる……ッ!!

 こいつらはやはり生かしては置けない―――ここで始末するべきだ。

 俺は懐から短剣を取り出し、そして瞬時にその力を解放させる。

 

「行くぞ、ファーブニル―――禁手化(バランス・ブレイク)ッ!!」

 

 俺は即座に黄金の鎧を身に纏い、臨戦態勢を整える。

 よく見れば俺とタンニーンの周りには旧魔王派共が囲んでおり、そしていつでも攻撃出来るような態勢だ。

 ―――上等だ、三下が。

 

「行くぜ、タンニーン―――」

 

 俺が動こうとしたその時だった―――ズォォォォォォォォォォ…………

 突如、そのような気味の悪い音が響いた。

 そしてその瞬間、俺たちを囲んでいた旧魔王派共は、謎の黒い何かに攻撃されて一瞬で消失する―――なんだ?

 こんな芸当をする味方は居ねぇ。

 一体何が……そう思うと、俺たちの後方には何かがいた。

 

「―――ねぇ、そこの堕天使さん。赤龍帝の居場所、知らない?」

 

 俺は後ろに振り返ると、そこには純白の白い布のようなものを頭から被った女らしき人物がいた。

 顔は一切見えない。

 フードのように白い布を被っており、声だけが聞こえる。

 そいつは純白の姿とは裏腹に、恐ろしいほどの”黒”を放っていた。

 ……黒、の中に金色が混じっていると言えば良いか。

 首元にはダイヤ型の宝玉と、それを包むような外装をしているが、その外装はイッセーの神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)と似ており、宝玉の色はそのオーラと同じ黒金。

 気味の悪いほどの黒金だ。

 ……何者だ、こいつは。

 しかも赤龍帝―――イッセーだと?

 

「貴様、何者だッ!!我々の邪魔立ては―――」

「…………うるさい」

 

 するとその少女から不機嫌な声が漏れ、声を荒げたクルゼレイの方に鞭のような動作で黒金のオーラが放たれる。

 クルゼレイはそのオーラを何とか避けるが、その後ろにいた旧魔王派の悪魔はそれが直撃し―――絶叫もなく、瞬く間に消失した。

 

「き、えた?き、貴様!!何をした!?」

「別に……あなたには興味ないから―――消えちゃえ」

 

 するとその女から次々と黒金のオーラが弾丸のように放たれ、それはクルゼレイを追尾するように追いかける。

 クルゼレイは空中を飛びながらもそれを避けるも、オーラは消えることなく追尾していた。

 

「くっ!?何なのだ、貴様はぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 クルゼレイは魔法陣を展開し、その場からどこかに転移して居なくなる―――このフィールド内のどこかに消えたのだろう。

 禍の団の者ならこの空間内を自由に行き来出来るようだな。

 ……気付くと、俺たちの周りからリリスの姿は消えていた。

 良く見るとリリスはあの白いローブの少女の近くに居て、そしてその少女を見ている。

 

「……おまえ、なに?」

「さぁ、私も分かんないかな~……それを知るために赤龍帝の所に行きたいんだけど」

 

 ……あんな恐ろしい力を使う割に、その口調は普通のものだった。

 年は……若い?

 ―――だが正体不明の謎の攻撃、これはあの事件とかなり密接に関係している。

 おそらくこいつは―――

 

「お前が、マモン家襲撃事件の犯人なのか?」

 

 俺は女にそう尋ねると、女は俺の方を向いた。

 

「マモン?…………ああ、あの。さぁ……どうかな?」

「……それを肯定と取らせてもらうぜ」

 

 俺は目の前の奴を警戒しつつ、光の槍を出現させ、タンニーンは爆炎を口元から漏らした。

 ……どうにも恐ろしい力を誇るこいつを放っては置けねぇ。

 

『それは止めておいた方が良い、堕天使アザゼルと元龍王タンニーン』

 

 ―――すると次は機械的な音声が響く。

 その音声は奴の胸元辺りにある黒金の宝玉のネックレスから発せられており、俺はそこでようやく確信を持った。

 

「……やはりそのネックレスは神器―――しかもイッセーの持つ神器と同じタイプの、新種のものかッ!?」

『流石は堕天使の総督。その辺の三下とは違うというわけね』

 

 ……神器に魂が宿るタイプ、ドラゴンの気配、イッセーのフォースギアと同じタイプの神器。

 ここから導き出される結論は―――そういう事か。

 

神創の始龍(ゴッドネス・クリエイティブ・ドラゴン)……この名は赤龍帝の中に眠るもう一体のドラゴンの名だ―――お前は、その娘の中に眠るお前はそれと同種のドラゴンなのか?」

『……ほぉ。中々に鋭い男だ―――その通り、と頷いておくわ』

 

 そいつがそう言うと、俺は一歩後ずさる。

 

「タンニーン……オーフィスを呼んで来い。こいつは俺たちではどうしようも出来ないッ」

「……それが賢明だな―――生きていろアザゼル!すぐに戻る!!」

 

 するとタンニーンは俺の元から離れ、そして俺の前には正体不明の女とリリスが残った。

 

「おまえ、リリスのてき?」

「……誰が敵とか、自分が何とかは知らないけどね―――君も一緒に赤龍帝を見に行く?」

 

 謎の少女の言葉にリリスが頷くと、謎の女は足元に魔法陣を描いた。

 ―――魔法陣を簡単に人間が描く、か。

 規格外も良い所だ。

 今、相当の魔力を感じたことと神器の事を考えるとこの少女は間違いなく人間。

 代わりに人間離れしたものを感じるがな。

 ……だがこいつらがイッセーたちの所に向かうのは正直、勘弁してほしいぜ!

 

「……赤龍帝の居場所、知らないや―――ねぇ、教えて?」

「……断る、と言ったら?」

「うぅ~ん―――消しちゃうかも」

 

 すると少女は俺へと黒金のオーラを放った。

 そのオーラは俺の頬を通り過ぎ、そして俺の後ろで襲い掛かろうとしていた旧魔王派の悪魔に直撃し、その悪魔は一瞬で消え去る。

 

「ね?教えて……じゃないと終わっちゃうよ?」

「―――それはお断りだ。堕天使の総督を舐めんなッ!!」

 

 俺は鎧から光力を最大限に放ち、一気にリリスと女との距離を詰める!!

 そしてタックルをするように飛び込み、そしてその反動で二人は後方に飛んだ。

 二人がいた後に残るのは奴の描いた魔法陣―――これは見たことのねぇものだ。

 

「ひっどぉ~い……私はせっかく優しく聞いてあげてるのに」

「――――――おいおい、マジか……光力マックスだぜ?」

 

 ―――俺は冷や汗を掻く。

 俺の後ろにはいつの間にか、先ほど吹き飛ばしたはずの少女が黒金のオーラをまるで鎌のような形に変え、俺の首元に添えていたからだ。

 リリスは俺の前方に居て無表情でこちらを見ており、黒金の鎌は俺の鎧に軽く触れると―――その刹那、鎧の首元部分が消失した。

 

「…………殺すのか?」

『殺されたくなければ言いな―――赤龍帝はどこだ?』

 

 次は機械音が俺にそう言う―――俺の悪運もここまでか?

 流石にこれは死を覚悟しねぇとやべぇ……たった一度、触れただけで俺の鎧が消失するんだ。

 俺にこんな奴を相手にする手は今はない。

 だがこいつらにイッセーの居場所を教えれば何が起きるかわかったもんじゃねぇ―――たとえ命が消えようとも、教え子を売る行為は絶対にしない。

 俺は徹底抗戦を心に決めた時だった。

 

「―――蛇、我、穿つ」

 

 静かな声が俺の耳に響き、そして俺と少女の間に漆黒の蛇のようなものが放たれた。

 それは黒金の鎌へと衝突し、そして完全に黒金の鎌を切断する。

 ……この鎌を無力化する奴なんて、俺は一人しか知らねぇ―――俺はすぐさま少女から離れて先ほどの援護を受けた方を見ると、そこにはオーフィスがいた。

 オーフィスは片手を少女に向けており、更に視線をリリスの方に向けていた。

 上空にはタンニーンの姿があり、その懐にはイッセーの妹ドラゴン共がいる。

 

『……流石のあんたでも今の状態では龍神には勝てない―――万全で五分五分かそれ以上さ』

「ふぅ~ん……二割じゃあこんなもんか」

 

 ―――二割で、これだと!?

 俺はその事実に驚愕しながら少女を見る。

 ……オーフィスに、オーフィスを元に創ったリリス。

 更に謎のドラゴンをその身に宿す人間の少女。

 この空間は異様すぎる。

 その場にはまた静寂に包まれた。

 

「お前、我と同じ匂い、する……何?」

「……リリスはおねえさまでうまれた。ここにはけんがくにきた」

 

 見学、か……考えはまとまらねぇ。

 ただ一つ、こいつらをイッセーの元に送ることは絶対に出来ねぇことだ。

 何かするに違いねぇしな。

 

『流石に劣勢ね―――良いわ、適当なところにジャンプしなさい。この際、その娘は放っておいて構わない』

「えぇ……仕方ないなぁ―――じゃあまた後で。堕天使さんと龍神さん♪」

 

 すると少女は黒金のオーラに包まれ、一瞬でその場から姿を消した。

 ……この空間で魔法陣は発動するわけがねぇのに、どういう了見だ。

 っと、今はリリスだ。

 こいつをどうにかしねぇと……っと思ったその時、リリスの付近に魔法陣が再び出現する。

 その魔法陣から次第に男の背格好のシルエットが露わとなり、そして……

 

「ちっ……あの糞爺。この俺の手を煩わせやがって―――おい、リリス。いつまで遊んでんだ!!」

「―――お前は……ッ!!」

 

 俺はその男のまさかの登場に驚いた。

 何でこの野郎がこの場にいるんだよ!

 少なくともこいつは旧魔王派には加担しねぇと思っていたのによ!!

 

「あぁ?勘違いしてんじゃねぇよ―――誰が旧魔王派のカス共に手を貸すかよ、アザゼル!!!」

「なんでてめぇがここにいる!!―――ガルブルト・マモン!!!」

 

 ―――そこにはイッセーと小猫、黒歌を境地に立たせたガルブルト・マモンの姿があった。

 

『Side out:アザゼル』

 ―・・・

 俺たちは最初の戦いを終え、次の神殿へと足を踏み入れていた。

 新しい神殿に突入し、しばらく歩くと俺たちの前に4人の男女が立ちふさがっていた。

 俺はその男女を見てどの駒かを大体理解する。

 ……確かゲームでも戦っていたディオドラの『騎士』と『僧侶』だったはずだ。

 見た感じ特に強力な武器は持っておらず、ゲームも早々で両方ともリタイアしていたはずだけど……特に『僧侶』の方はすぐにリタイアした。

『騎士』も特に祐斗に敵うレベルではなかったはず。

 

「相手は『騎士』二人に『僧侶』二人ね……残るは『女王』―――ここは私と朱乃、祐斗で出るわ」

 

 そう言うと朱乃さんと祐斗は一歩前に出た。

 ……なるほど、最後の女王は俺がやれってことか。

 

「イッセー、あなたにはディオドラの『女王』を相手にしてもらうわ……ディオドラの『女王』はあいつの下僕悪魔の中でも飛び抜けて優秀な悪魔だわ」

「ええ。アガレス戦では唯一、アガレスの『女王』を倒しましたから」

 

 そう、ディオドラの『女王』はアガレス眷属の『女王』を実際にゲームで下した。

 強さで言えばあの中では抜きんでているほどだ。

 とにかく俺は与えられた仕事を全うして、あの糞悪魔をぶっ潰すだけ。

 それで良い。

 

「では部長、祐斗くん。参りましょう」

「ええ」

「はい」

 

 部長、朱乃さん、祐斗は相手の眷属と向かい合うように立つ。

 戦いに関しては大丈夫だとは思うんだけど、時間的には出来れば瞬殺くらいしてもらえればありがたいんだけどな。

 アーシアに渡した神器がいつまで持つか分からない上に、一分一秒でも早くあの勘違い野郎からアーシアを離したい。

 

「……イッセー先輩。部長と朱乃さんの戦闘力を一気に上げる方法があります」

「なに?それは本当か、小猫ちゃん!」

 

 俺は小猫ちゃんの突然の発言に少し驚愕した!

 なんと、そんな裏ワザのようなものがあるのかッ!!

 

「それで小猫ちゃん……その方法とは?」

「……ギャー君、イッセー先輩の隣に立って。ゼノヴィア先輩は先輩の背中の後ろに立ってください」

 

 すると小猫ちゃんはギャスパーを俺の隣に立たせ、更に自分はその逆サイドに立ち、ゼノヴィアを指示通りに俺の後ろに立たせる。

 ……んん?

 何故だろう、ものすんごい嫌な予感がする。

 小猫ちゃんはギャスパーとゼノヴィアに何かを耳打ちし……ているうちにもう祐斗が動き始めた!

 相手の『騎士』は祐斗の神速に一切反応できず、祐斗は相手の『騎士』を速度で翻弄する!

 

「―――聖と魔、二つの聖魔によって二重の形を成す」

 

 すると祐斗は言霊を発し、未だ祐斗の速度に驚いている『騎士』はその言霊を聞いて後ろを振り返る……が、遅い。

 祐斗は両腕をクロスさせ、手の平で何かを掴む仕草を取っていた。

 両手には次第に剣の柄のようなものが生まれ初め、それは徐々に形を成す―――あいつ、同時に二本も創れるようになったのか。

 

「ソード・バース―――行こう、聖魔剣・エールカリバー!!」

 

 そして祐斗はその両手にあいつの現段階で創れる最高の聖魔剣・エールカリバーを具現化した。

 エールカリバーの同時創造……あいつも短期間にそれを可能にするほど修行したってわけか。

 祐斗は二本のエールカリバーを構える。

 

「すぅぅ―――さぁ、行くよ」

 

 そして一息つき、動き始める。

 ……勝負は確実に一瞬だ。

 祐斗の速度は圧倒的だ―――つまり今更速度を上げても同じという意味。

 恐らくあいつが使うエールカリバーの能力は……

 

真・双破壊(エール・ツイン・デストラクション)!!!!」

 

 そう、あいつに不足がちなパワーを補う「破壊」の力だ。

 これにより祐斗は『騎士』を速度で圧倒し、そして二重に底上げしたパワーを含む剣戟で相手を切り裂く―――出来事は本当に一瞬。

 ディオドラの『騎士』は祐斗の一動作で無残にも散り行くのだった。

 

「……主が部長だったら、きっと幸せだっただろうね―――」

 

 祐斗はその場で血を流しながら倒れる二人の『騎士』を一瞬、悲しい目で見るとエールカリバーに付着した血を振り払い、剣を消失させる。

 ……流石は祐斗だ。

 さて、後は部長と朱乃さんだけど……

 

「よし、小猫。了解したぞ」

「……はい。よろしくお願いします」

「ぼ、僕も頑張りますッ!!」

 

 ……すると俺の傍で何かボソボソ話していた三人が最後の確認と言いたいような掛け合いをしており、そしてそれを部長と朱乃さんが怪訝な目で見ていた。

 ……………………その瞬間、ギャスパーと小猫ちゃんが俺の腕をギュッと抱きしめ、俺を上目づかいで見てきたッ!!

 ゼノヴィアは後ろから俺に抱き着き、背中に感じてはならない柔らかい感触がぁぁぁぁ!!!?

 無心だ、無心で居るんだ!!俺!!!

 

「……先輩、さっきは頑張ったからご褒美が欲しいです……ッ!!」

「イッセー先輩、僕もご褒美をください!!!」

 

 ―――おい、作戦ってこれか?

 マジかよ、本気で洒落にならないって!!

 

「イッセー、私も頑張った!!だから叱るべき報酬が欲しい!!部長と副部長は未だに相手を倒せていないようだからな!!」

「「――――――ッッッッ!!!?」」

 

 ……ゼノヴィアの大きな声に反応するかの如く、部長と朱乃さんの目がクワッと大きく見開いた。

 ―――煽られるのに慣れてないんですね、分かります。

 

「……イッセー先輩、一日中私とデートしてください―――一番相手を瞬殺した女の子とデートしてくれるんでしょう?」

「なら僕と小猫ちゃんが一日中デートです!!イッセー先輩!!お部屋デートです!!」

「ふふ、お部屋デートか―――まあ未だに相手を倒せていないどこかの二人は無理だがな」

 

 ―――ブチンッ!!!!

 ……実際には聞こえるはずのない音が俺の耳には聞こえた。

 

「うふ、うふふふふふふふふふふふふふふふふふ…………そう、リアス―――敵を瞬殺しますわ」

「えぇ、朱乃、珍しく意見があったわね―――ふふふ……イッセーとお部屋デート、お部屋デート……いえ、やっぱり外に遊びに行くのも良いかしら?あ、でも―――」

 

 ひ、ひぇぇぇぇぇええ!!?

 これ、ゲーム中だよな!?

 朱乃さんと部長が凄い惚気た表情で何か考え事をしている……っていうか簡単に釣られ過ぎだろ!?

 アーシアがこれを見たら逆に絶望するよ!?

 

「な、何を戦闘のとちゅ―――」

「―――雷光よ!!!」

「―――滅びなさい!!!」

 

 ―――部長と朱乃さんは相手の『僧侶』さんが何か言おうとした瞬間に同時に今までとは比べ物にならないほどの雷光と滅びの魔力を撃ち放つ!!

『僧侶』は何か防御の魔法陣らしきものを展開するも、まるでそれは紙のように破壊されて―――漫画に出てくるように体中真っ黒になりプスプスと煙を上げていた。

 …………………………これは相手に少し同情する。

 相手の『僧侶』はそのまま地面に倒れてぴくぴく動いており、一応は死んでいない……はずだ!

 ただ一つ―――ひどい戦いだった。

 せっかく二人がどんな進化をしたか見れると思ったのに、こうなるのかよ!!!

 とにかく、俺たちは次なる舞台へと向かうの―――

 

「あぁぁぁ、次の舞台はございませぇぇぇぇぇぇん―――ってことでこの子をどーぞ!!」

 

 ―――その瞬間、俺たちの前方から何かが勢いよく飛んで来た。

 それは人影……その姿は確かディオドラの『女王』の姿だった。

『女王』にはいくつかの傷が出来ており、そして少し苦しそうな表情をしながらその場に倒れる。

 ……なんで、この『女王』が前方から勢いよく飛んでくるんだ?

 このステージの一つ後で俺が倒すはずだった『女王』を見ながら俺は前方を見る。

 ―――さっきの声、どこかで聞いたことがある。

 

「……部長、行きましょう―――おそらく、次で最後です」

「ええ…………」

 

 俺たちは前方にある次の神殿へと急いだ。

 距離はほとんどない。

 俺たちはすぐにその神殿の前に到着し、そしてその神殿に入って行くと―――少しして一人の男が神殿の中心にいるところに到着した。

 白髪で、身の丈ほどの剣をその場に突き刺してそれに腕を組みながらもたれ掛かる男。

 髪は以前に見た時よりも更に伸びており、その目元には何やら傷跡のようなものがある。

 目つきは鋭く、前に会った時とは比べ物にならないほどの威圧感を纏っていた。

 

「ひゃはははは!お久しぶりでござんす!―――皆の仇敵、フリード・セルゼンでございまぁぁぁす!!」

 

 そこには―――黒いカジュアルな感じに改造された神父服を着こなす、フリード・セルゼンの姿があった。

 

「フリード……ッ!どうしてお前がここに……」

「いやぁ、何ていうか―――糞悪魔のために動かなきゃなんねぇわけってもんがあってねぇぇぇ…………さぁ、やりましょうかぁぁぁぁ!!!グレモリー眷属さんよぉぉぉぉぉ!!!」

 

 フリードはそう楽しそうに言うと、突き刺さる剣を抜き去るのだった。


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