ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第7話 心で繋がっているんです!

 ディオドラとのゲームに向け、俺たちは全力で出来ることをしてきた。

 時にそれはハードワーク気味な修行、精神を落ち着けることなど、本当に今までにしてきたことを短期間で。

 俺はと言うとティアにお願いして本気の模擬戦をしたり、神器組と共に神器関連の修行をしたりしていた。

 そして今日―――ディオドラとのレーティング・ゲームの日となった。

 俺の部屋には眷属全員に加えイリナ、黒歌、オーフィスがいて、俺たちは最終確認の途中だ。

 今日のゲームの対策はもちろんだけど、それ以上にディオドラ対策。

 そうしている間に時間は刻一刻と過ぎて行き、そしてゲームまで残り2時間となった。

 今回は部室から魔法陣で一気にゲーム会場まで飛んで、そこからゲームスタートらしく、割と落ち着ける仕様となっている。

 

「……こんな感じかしら。何か質問はあるかしら?」

「いえ、特には」

 

 部長の建てた戦術を聞いて、俺は特に意見はないのでそう言う。

 ……かなり考え込まれた戦術の数々に俺は驚いているけど、それはたぶんアーシアを失わないための部長の努力なんだろうな。

 たぶん、これほどの戦術ならば何が起きても対処は出来ると思う―――相当の事ではない限りは。

 という事で一度、この場で自由行動となり、部長や朱乃さんは一緒に部室に向かい、小猫ちゃんは黒歌と何かを話しているようだった。

 祐斗とゼノヴィアは騎士同士で何か話しており、ギャスパーはいち早く部室に向かった。

 ……俺は一人、ポツンと床に座るアーシアの方に近づき、話しかけた。

 

「アーシア……不安なのか?」

「イッセーさん……不安、なのでしょうか。自分ではあまり分からないんです」

 

 アーシアは苦笑いをしてそうはにかんだ。

 この戦いはアーシアのための戦いだ―――俺たちの方が燃えるに燃えて、肝心のアーシアはきっとどう反応すれば良いのか分からないんだろう。

 アーシアは皆のように戦えるわけではない。

 後方からの支援、これが基本となるだろう。

 アーシアからしたら、この戦いは自分のためのものなのに、自分は何もしないとか思っているのが妥当か。

 ……だとしたら、アーシアらしい。

 自分のために誰かが傷つくのを嫌がる優しい女の子だ。

 

「アーシアに、お守りをあげるよ」

 

 俺はポケットから一つの小さなネックレスのようなものをアーシアに手渡した。

 そのネックレスは白銀色の鈴が鎖で通されており、少し手を揺らすと音色を響かせる。

 ……俺が40回ほどの創造力を使い、何日かかけて創った創造神器。

 白銀の護鈴(ガーディアン・シルヴベル)

 その装着者に対する物理的な攻撃を全て防ぐ、音の壁を作り所有者を守る俺の創れる最高の防御系神器だ。

 これなら魔力弾や打撃からアーシアを絶対に守ってくれる―――代わりに何重にもかけて創った神器な故に、具現中の俺の精神的なダメージは否めないけど、な。

 だけどそれぐらいどうってことない。

 

「これは……」

「俺が創ったお守りだ。特に変わったものじゃない―――絶対にアーシアを渡さない。だからそれをずっと肌身離さず持っているんだ」

「……つけて貰って、いいですか?」

 

 アーシアは俺にネックレスを渡してそう言った。

 俺はアーシアのお願いに頷いてアーシアの後ろに回り、髪に引っかからないようにアーシアの首元にそれを付けた。

 アーシアの胸元で鈴のネックレスは光る。

 

「綺麗な鈴ですね」

「まあフェルの力だから綺麗なのは当たり前だ」

 

 俺は普段、俺の胸に神器が展開される部分に手を抑えて、そう言うとアーシアは少しだけ微笑んだ。

 

「……無理は、しないでください。イッセーさんはいつも誰よりも頑張って、誰よりも傷ついてしまいます。だから無理だけはしないでください。傷は私が癒します。イッセーさんを私が完全に癒しますから……」

「―――誰にものを言ってんだ?俺があのヘタレ悪魔にやられるわけないだろ?安心しろって。五体満足で帰ってくるからさ」

 

 俺は久しぶりにアーシアの頭を優しく撫でて、微笑み返した。

 ……やる気が更に出てきた。

 完膚なきまで俺はあいつを―――

 

「完膚なきまで、私はディオドラ・アスタロトを粉砕させてみせよう」

「おい、俺のセリフを奪ってんじゃねぇよ。ゼノヴィア」

 

 横からカッコいいセリフをゼノヴィアに奪われてそう言うと、ゼノヴィアはしてやったりと言いたいような顔をしていた。

 この野郎……って思いながらも少し可笑しい自分もいることは否定できないな。

 

「イッセー、気を付ける」

 

 俺は声をかけられたと思うと、すぐ傍にはオーフィスが居た。

 

「どうした?」

「……あの悪魔、使う力、不明。だから気を付ける。慢心、ダメ」

「分かってるよ―――慢心なんて欠片もないから」

「……そう」

 

 オーフィスはそう言うと、次は視線をアーシアに向けた。

 

「……イッセー、頼む」

「はい!」

 

 オーフィスとアーシアは特に言葉を交わすわけでもなく、ただその一言ずつで頷き合った。

 二人にも何か通じるところがあったのだろうか……にしても俺をよろしく、か。

 初めて言われたな……そんなこと。

 いつも任されてばっかりだったけど、たまにはそれも良いか。

 そう思った。

 

「イッセー、約束―――あの悪魔、殺す勢いで倒して」

「ああ、任された!」

 

 オーフィスの最後の言葉に俺は力強く頷いたのだった。

 そしてゲームまでに時間は刻一刻と近づいていた。

 

 ―・・・

 カチ、カチと時計の音が妙に鮮明を帯びて聞こえていた。

 ゲーム開始までの時間はもうなく、俺たちはいつも通りの服装をしていた。

 アーシアはシスター服、ゼノヴィアは俺の要望で多少露出が解消された教会の戦闘服。

 それ以外は駒王学園の制服で開始までの時間を部室で過ごしていた。

 

「……そろそろ時間のようね」

 

 部長がそう呟くと、時計の針がゲームの時刻を告げた。

 部長は立ち上がり、用意された魔法陣の中へと入って行き、俺たちはそれに続いた。

 魔法陣は転送する準備段階に入り、そして俺たちは転送されるのを無言で待つ。

 途中、ゲームが不安なのかアーシアが俺の手を握ってくるが、俺はそれを握り返した安心させる―――不安が俺の行動で消えるなら、喜んで不安を消してやる。

 魔法陣は次第に光り輝く。

 やれることはやった……後はそれを全てあの糞野郎にぶちかますだけだ。

 魔法陣から発せられる光は俺たちを包んでいき、そして―――俺たちは転送された。

 

 ―・・・

 俺たちは転送された。

 辺りは白く、地面は石造り、ただ何もないただっ広い空間で一定間隔で柱のようなものが埋め込まれているな。

 後方を見ると、そこには大きな神殿のようなものがある―――だけど何か様子がおかしい。

 俺たちは戦闘フィールドに到着したはずなのに未だにアナウンスが来ない上にディオドラの眷属も到着した様子はない。

 

「……なんだ、この嫌な予感は」

 

 俺はすぐさま赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)を展開し、謎の雰囲気に備える。

 皆もその雰囲気を察したのか、警戒を始めた。

 ―――その時だった。

 神殿の反対側にあるところに魔法陣が現れ、それが次々と現れていく。

 その数は一つや二つの騒ぎじゃない!

 何重にも魔法陣が描かれていく!

 

「―――これはアスタロトの紋様じゃない!」

 

 祐斗の叫びで俺たちは完全に戦闘態勢になった。

 アスタロトの紋様じゃない魔法陣がフィールド内に現れる……間違いなくこれは異常事態の他の何物ではない。

 ってことはつまり―――

 

「魔法陣一つ一つに同じ紋様の物はないですわ。だけどこの紋様は記憶通りだとすれば―――」

「旧魔王派、ってわけかッ!!」

 

 俺は目の前に現れ続ける悪魔―――禍の団(カオス・ブリゲード)に堕ちた旧魔王派の悪魔どもを睨みつける。

 その数は十や二十を軽く超えている…………下手をすれば千を超える旧魔王派の悪魔共だ!

 なんて数を送ってきやがる!!

 ってことはつまりこれは―――ゲームがテロ組織に乗っ取られた。

 こういう事か!?

 

「皆、一か所に集まって!」

 

 部長の一言で俺たちは一か所に固まり、俺たちを囲むような悪魔の軍勢に警戒する。

 ……それぞれにレベルの差異はあるだろうが、恐らく平均的には上級悪魔クラスの悪魔共だ。

 人数はまだ増え続けている。

 ―――結局、ヴァーリの忠告は正しかったのかよッ!

 

「忌々しき偽りの魔王の血縁者、リアス・グレモリーとその眷属よ―――今、ここで散り行くが良い」

 

 すると悪魔共は同時に魔力を集中させ、照準を俺たちに向けてくる―――ここは無理をしてでもどうにかするしかないッ!!

 

「ドライグ、フェル!!」

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!』

『Reinforce!!!』

 

 俺はすぐさま赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)を身に纏い、更にあらかじめ溜めていた創造力を使用して神器を強化する。

 鎧の形状は鋭角になり、そして鎧は赤龍神帝の鎧(ブーステッド・レッドギア・スケイルメイル)となった。

 

「部長ッ!俺が相手を薙ぎ払う隙に一気にここを離れてください!!」

「でもッ!!」

「早く!!これはゲームじゃない!!戦争と同じです!!」

 

 俺はすぐさま上空に飛び、手元に何重もの赤い魔力の塊を出現させ、そして上空からそれをあらゆる方向に撃ち放つ!!

 

拡散の龍砲(スプレッド・ドラゴンキャノン)!!!」

 

 弾丸はその全てが拡散し、弾数が数百にもなって旧魔王派の悪魔共に雨のように降りかかる。

 それにより奴らの一部が行動不能となり、その隙を見て皆がそこから離れようとする。

 ―――すると俺に向かい、地上から旧魔王派が次々に魔力弾を放ってきた。

 

「赤龍帝を先に落とせ!!奴が消えれば我らの脅威はない!!」

「殺せ!!殺せェェェェ!!!!!」

 

 呪詛のような叫びと共に撃ち放たれる魔力弾。

 俺はそれを上空を飛びながら避け続け、そして神帝の鎧の真骨頂を発動しようとした。

 

「無限倍増、行くぞ!!」

 

 俺は神帝の鎧の能力である無限倍増を行おうとしたその時だった。

 

「キャァァァァッ!!!?」

「――――――なっ!?アーシア!!」

 

 俺の視線の先には鎖によって体を拘束されるアーシアの姿があった。

 しかもその鎖は上空から放たれており、そしてそこには―――ディオドラの姿があった!!

 

「ディオドラァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

 俺は冷静さを欠如した状態でアーシアを拘束する鎖へと貫通の性質を付加させた魔力弾を撃ち放つッ!!

 ―――だけど、鎖は切れなかった。

 

『―――Infinite Booster Set Up―――Starting Infinite Boost!!!!!!』

 

 俺はすぐさま無限倍増を開始して自らの力を倍増し続け、アーシアの元に向かう!

 皆もアーシアの救援に行こうとするも、旧魔王派の悪魔共に防がれて出来ていない!!

 

「生かしては還さぬぞ、赤龍帝ェェェ!!!!!」

「くっ!!邪魔だぁぁぁ!!!」

 

 俺は特性を付加させず、ただ破壊力だけの魔力弾を撃ち放ちながらアーシアの元へ急ぐ!!

 アーシアは鎖に抵抗しているけど、あれはアーシアを攻撃しているわけじゃない!

 動きを封じるための束縛な故に、俺の渡した神器では対抗できないはずだ!

 俺は幾人もの旧魔王派を吹き飛ばし、そしてアーシアの元に辿り着いた。

 

「アーシア!!」

「イッセーさんッ!!!」

 

 アーシアの手と俺の手が触れ合う―――しかし俺の手は届かず、アーシアは鎖に拘束されたまま宙に浮いた。

 

「あはははははははははは!散々僕を馬鹿にしてくれたな、赤龍帝!!アーシアは僕が頂く!君は僕とアーシアが結ばれるその時を見ていろ!!」

「ふざけんじゃねぇぞ、ディオドラ!!!」

 

 俺はアスカロンを左籠手から引き抜き、そしてそれをディオドラに速射するッ!!

 アスカロンは空を切り、その剣先はディオドラの肩を貫通した。

 

「がぁぁぁぁぁああ!!!?き、貴様……赤龍帝!!!!」

 

 ディオドラはすぐさま剣を抜き、その場に投げ捨てて俺たちに膨大な魔力弾を放とうとした。

 くそ、謎のパワーアップの影響からか、俺の手から聖剣が離れたことで聖剣の力がダウンしたのかは分からないけど、思った以上にあいつにダメージが少ないッ!!

 だけど聖剣の傷の影響か、今は動きが鈍っている!!

 

「ゼノヴィア!今がチャンスだ!!」

「分かっている!!アーシア!!!」

 

 ゼノヴィアは足元を踏み蹴って飛翔し、デュランダルの聖なる波動を振動させながら剣を大きく振りかぶった。

 ディオドラがその場で捨てたアスカロンはどういうわけか、空中で浮きながら俺の元に戻ってきて、俺はそれを握るともう一度飛び上がって奴の方に向かう。

 

「―――良いのかい?そんなオーラを放つ聖剣を振りかぶればアーシアは死ぬよ?」

「なッ!?―――くっ!!」

 

 ゼノヴィアの動きは一瞬止まり、その隙を突いてディオドラはゼノヴィアへと魔力弾を放った!

 ゼノヴィアは剣を盾にそれを防ぐも、体勢を崩して地面に落ちて行く。

 ―――アーシアに俺の渡した神器があったことを忘れたのか!

 ……だけどゼノヴィアの判断は正しい。

 流石の創造神器でも聖なるオーラに対抗できるかどうかは不明な所だ。

 もしものことを考えたら―――くそ!!

 

「無様だ、汚いドラゴン君」

 

 ディオドラは俺に魔力弾を放つが、俺はそれを拳で相殺する―――だけどそれがタイムラグを生んだ。

 アーシアは空中に出来た空間の歪みに囚われ、身動きが取れずにその歪みに消えていく。

 もう、間に合わない―――ならアーシアを安心させるんだ。

 

「―――アーシア。絶対に助けに行く。大丈夫だ―――だから待っておいてくれ」

「イッセーさん、ゼノヴィアさん…………はいッ!私、皆さんを信じています!!」

 

 ……俺は間に合わないことを悟ると、アーシアにそう言って上空から落ちて行くゼノヴィアを救出して地上に降りる。

 ディオドラはアーシアと共に歪みに消え、そして最後に……

 

「君たちは禍の団のエージェントに殺されるが良い。この人数だ―――もし生き残れたのならば、神殿の深奥に来るが良いよ。素敵なものが見れるから」

「―――ほざいてろ、低能。お前みたいな雑魚じゃあ何も出来やしねぇよ」

 

 俺はそう捨て台詞を言うと、ディオドラの気配は消えた。

 

「何故だ!!イッセー!!!なぜアーシアの所に行かなかった!!!お前ならば間に合っただろう!?なのになぜ私を先に助けた!!!」

 

 ……ゼノヴィアは俺にそう言って、涙を浮かべてそう懇願する。

 俺の鎧を弱弱しく殴り、寄り掛かるように蹲った。

 

「―――しっかりしろ、ゼノヴィア」

 

 俺とゼノヴィアは旧魔王派に囲まれ、よく見ると他の皆は俺たちの救出に動いていた。

 何十、何百も悪魔がいるがそんなのお構いなしに俺はゼノヴィアに話し続ける。

 

「アーシアが待つって言ったんだ―――さっさとこの屑共を消し飛ばして、ディオドラを潰しに行くぞ」

「イッ……セー?」

 

 ゼノヴィアは力弱くそう呟く……故に俺は敢えて叫ぶ。

 

「―――さっさと立て、ゼノヴィア!!いつもの馬鹿はどこに行った!?簡単だろう!!奪われたから奪い返す!!お前の残念な頭でも分かるだろうが!!」

「……………………ああ、そうだね」

 

 ゼノヴィアはデュランダルを握り、立ち上がる。

 そしてその剣先を俺たちを囲む旧魔王派の連中に向けた。

 

「目が覚めたよ、イッセー……さっきの発言は取り消してくれ―――久しぶりに私も堪忍袋の緒が切れた」

「同感だ、相棒―――同じ伝説の聖剣を持つ者同士、あいつらを殲滅するぞ」

 

 俺とゼノヴィアは背中越しに聖剣を構える。

 そして同時に動こうとした―――その時だった。

 

「―――その覚悟、気合。あっぱれだ」

「久しぶりにあたしも良いもんが見れたな。礼を言うぞ、この集まることしか能がない糞悪魔の能無し旧魔王派共」

 

 その二つの声が響いた瞬間、俺たちの周りに居た旧魔王派の悪魔たちは一瞬でぶっ飛ぶ―――え?

 確か数百人いたはずなんだけど……中級悪魔や上級悪魔が一気に吹き飛んだ?

 俺は先ほど聞こえた方向を見ると、そこには―――二人の男女が居た。

 袖のない服から見える、その鍛え抜かれた強靭な腕とその腕にある無数もの傷跡。

 短髪で、目はサイラオーグさんよりもギラギラしたまるで恐竜のような風格をあらわにしてる悪魔と、その傍に立つ目が鋭く、腰まで届く金髪を雑に後ろで結っている綺麗だけど雌豹のような女性。

 だけどその女性からもとんでもなく恐ろしいオーラが出ており、そのレベルはその男―――三大名家最強と謳われる男と同等だろう。

 そう、そこには―――ディザレイド・サタンとシェル・サタンがいた。

 

「で、ディザレイドさん!?ど、どうしてここに!!」

「久しぶりだな、兵藤一誠。娘と会ったようで嬉しく思う……が、今はそんな悠長なことを言っている場合ではないようだな」

「見りゃあ分かるだろ、この筋肉ダルマが」

 

 ……口が悪いな、この人!

 見た目とのギャップがあり過ぎて怖いわ!

 

「まぁ良い。ここはあたしとディーに任せて先を急ぎな」

「で、でもこの人数です!三大名家と言えど―――」

 

 俺が反論しようとすると、瞬間的にシェルさんが俺とゼノヴィアの前に現れて俺たちの体を軽々と持ち上げ、部長たちが戦っている方向に投げた……投げた!?

 

「餓鬼は大人のいう事を聞いとけ!!」

「ちょ!?ディザレイドさん!?」

「ど、どういうことだ!?私とイッセーの華麗なコンビネーションは!!?」

「………………すまんな。俺の嫁はこう、鬼なもので」

 

 ディザレイドさんが申し訳なさそうな声でそう言うが、俺とゼノヴィアはそんなのお構いなしに絶賛交戦中の部長たちの方に飛んでいく。

 俺は鎧を身に纏っているから良いけど、ゼノヴィアは生身だ!

 俺はゼノヴィアを抱えてそのまま旧魔王派の連中のところに突入―――結果的に部長たちの元にたどり着き、更に衝突の勢いで何人か倒せた。

 

「え、イッセーとゼノヴィア!?どうして飛んできたの!?……っれそれは良いわ!早くここを薙ぎ払って神殿に向かうわよ!!」

「そうなんですけど……ディザレイドさんとシェルさんがここは私たちに任せろって……」

「三大名家!?……でも流石にこの人数を二人で相手にするのは―――」

 

 部長は辺りを見渡すと、未だに人数が増え続ける旧魔王派共の姿がある。

 その数は千人をも超えているはずだ。

 これは抜くことも困難だぞ!?

 

「―――キャッ!?」

 

 ―――するとまた悲鳴が聞こえる。

 そっちを見ると、悲鳴を上げた朱乃さんが居て、更にその傍に人影が!!

 

「敵か、くそぉぉぉぉ!!!」

 

 俺は敵と認識してその影に拳を放とうとした―――が、それを寸前で止めた。

 何故か?それはそこにいたのは敵ではなく……朱乃さんのスカートを捲って朱乃さんのパンツを見ているエロ爺がいたからだった。

 

「ふぉふぉふぉ……危ないのぉ。その拳がこのおいぼれに当たったらどうする気じゃったのかのぉ」

「あんたは―――オーディン!?」

 

 俺はまさかの人物の登場に驚いて情けない声をあげた。

 そりゃそうだろう―――俺たちの前には何せ、北欧神話の主神であるオーディンがいるのだから。

 

「オーディン様!どうしてこのような戦場にいるのです?」

 

 すると部長は驚きながらも爺さんにそう尋ねた。

 爺さんの登場で旧魔王派も動きが止まり、一触即発の空気になっている―――下手に手を出せば殺される、そんな空気になっているくらいだ。

 そりゃあ神様だからな。

 奴らもそれくらいは分かってるんだろう。

 

「話せば長くなる―――簡潔に教えてやろう。禍の団がこのゲームを乗っ取ったんじゃ」

「えらく簡単だな、おい」

 

 俺は既に分かり切っていることを言われてそう言うと、オーディンは「ほほほ」と笑う。

 ……この爺さんには敬意が湧かねぇよ。

 

「此度の一件の原因はディオドラ・アスタロトの反逆。即ちあの小僧が旧魔王派の手を引いたのじゃろう。奴の急激なパワーアップも組織が関わっているはずじゃ。しかも厄介なことにお前たちのいるこの空間は面倒な結界で覆われており、このオーディンを以てして数人しかここに送ることは出来んかった―――たまたま傍にいたディザレイドとシェルしかな」

「……大体理解は出来たよ。それでその結界ってのは何なんだ?神である爺さんですら干渉が難しいレベルと言えば―――」

「―――神滅具(ロンギヌス)じゃよ」

 

 ―――ッ!?

 俺たちはその言葉に衝撃を受ける……神を殺すためのシステム、神滅具。

 俺の籠手のそれやヴァーリの翼と同じものってわけか。

 厄介なものが敵に回ったものだな。

 

「名は絶霧(ディメンション・ロスト)。神滅具の上位ランクに名を記す伝説の神滅具の一つじゃ。空間、結界に対して抜きんでた能力を誇るものじゃ。この神―――魔術、魔法関連に特化したわしですら干渉が難しいものとなると、術者は神滅具があろうとなかろうと相当の実力者じゃな」

 

 オーディンはその左目を軽く覗かせながらそう呟いた。

 そこには水晶のような義眼が埋め込まれており、その義眼は魔法文字や呪術文字あどが記されているなど、多少気味の悪いもののように感じた。

 

「さて、アザゼルの坊主からお前たちにこれを渡すように頼まれたのじゃ」

 

 するとオーディンは部長に耳に付けるタイプの通信機のようなものを渡し、部長はそれを受け取って眷属全員に渡す。

 恐らくはアザゼルと通信を取るためだろう。

 

「オーディンッ!!貴様を打ち取れば我らの名は上がる!!ここで死んでもらおう!!」

 

 するとその均衡を破った一人の旧魔王派の悪魔はオーディンに向かって魔力の塊を放った。

 それに続くように他の悪魔共も魔力弾を放ち―――

 

「己の高も知らぬ低能共は黙っておれ―――神の御前じゃぞ?」

 

 オーディンはその全てを指を少し動かすだけの動作で全てを無力化した。

 ……圧倒的だ。

 これが神の力、か……恐ろしいな。

 

「さぁ、行くが良い。ここはこの爺に任せてのぉ」

「で、ですがオーディン様!この人数はいくらなんでも御一人では―――」

 

 その時……ドゴォォォォォォォォン!!!!

 ……近くの方から激しい轟音が響き渡る。

 俺たちは突然のことにそちらを向くと、そこには……

 

「―――消え去れ。覚悟なき者よ」

 

 その強靭な腕を旧魔王派の悪魔共に振るい、一度に百単位の悪魔を屠るディザレイドさんがいた。

 腕には同色のオーラが噴出しており、そのオーラに俺は背筋が凍る―――世界は広い。

 何てレベルのオーラだ。

 あんなものをまともに受ければ無事では済まないぞッ!!

 

「若き悪魔よ。この戦場においてお主らの実力では逆に足手まといじゃ―――神殿に行くのじゃろう?仲間を救うのじゃろう?結構な事じゃ―――行け、ここはわしたち大人に任せてのぉ」

「……爺さん」

 

 オーディンはそう言うと、手元に槍らしきものを具現化させ始めた。

 その隙を突こうとして悪魔共はオーディンに襲い掛かってくるが……

 

「貴様ら。敵をオーディン殿だけと考えているのか?」

「これだから蠅共は気持ち悪いことこの上ない」

 

 しかし、それは二人の悪魔の猛烈な攻撃により無力化された。

 ―――強い。

 三大名家と謳われたディザレイド・サタンとシェル・ベルフェゴール。

 一角のガルブルト・マモンとやり合ったこともあるけど、この人達の実力は段違いだ。

 恐らく魔王にも匹敵するほどのレベル―――あの時、ガルブルト・マモンが本気を出していたかは分からないけど、ホント嫌になるな。

 俺が目指す世界は、こんな奴らが集まっているなんてな。

 

「助太刀、感謝するぞ―――グングニル」

 

 オーディンは槍の具現を終わり、そしてその槍を投げ放つ。

 その瞬間―――その場にいた数十人は跡形もなく消し去ったッ!!

 槍から放出されたあり得ないほどのオーラに当てられてやられたのか?

 ……なんでもありかよ、神様。

 

「さぁ、行け。兵藤一誠とグレモリー眷属。ここは俺たちに任せて仲間を救ってみせよ―――若き世代の可能性は無限大だからな」

「カッコつけてんじゃねぇよ、ディー………………戦場で女口説くなよ、バカ」

 

 ―――あぁ、ディザレイドさんがこの人に惚れた意味がなんとなく分かった気がした。

 色々とギャップが凄まじいな、この人。

 

「―――ッッッ!!?早く逝きな、糞餓鬼ども!!!頭に風穴開けられてぇのか!?」

 

 そして怒り狂うシェルさん―――いつの間にか具現化させた黒い銃をバンバン撃つもんだから、俺たちは走るしかなかった。

 

「皆、行くわよ!!」

『はい!!』

 

 部長の言葉に頷いて、俺たちは神殿に向けて走り出す。

 すると俺たちの周りに何か膜?のようなものが張られ、それは旧魔王派共の攻撃から俺たちを守っていた。

 俺はその膜から感じるオーラの方向を見てみると、そこにはオーディンが何か丸い球体を操作する姿がある。

 

「神殿までは守ってくれよう―――さて悪魔共。この老体を偶には動かさぬと鈍ってしまうからのぉ……少しは気張ることを期待する」

「ここで貴様たちは俺が屠る―――覚悟しろ」

「ディー!!さっきのことは何でもねぇからな!!―――あぁ!!てめえらが全部悪い!!この憂さ晴らしはさせてもらうから!!!」

 

 …………シェルさん、それは完全なる逆恨みです。

 俺は心の中でそう思いつつ、三人の頼りになり過ぎる背中を見ながら神殿へと走って行くのだった。

 

 ―・・・

 俺たちは次々に現れる旧魔王派の悪魔共の攻撃から避け続け、ようやく神殿の前まで到着した。

 神殿前に到着すると耳に通信機を付けて、そこから何か反応を待つこと数秒。

 通信機から何か音声が届いた。

 

『あぁ、こちらはアザゼル。お前たち、無事にオーディンからそれを受け取ったみてぇだな』

「アザゼル」

 

 そこから流れる音声はアザゼルの声で、アザゼルは少し安心したような溜息を漏らす。

 

『とりあえず言いたいことはあると思うが、話を聞いてくれ―――現在、俺を含むレーティングゲームの観戦席、VIPルーム、そしてそのフィールド。そこにはうじゃうじゃ旧魔王派がいる』

「それは分かっているわ」

『続けるぞ。この件についてはある程度の予見は出来ていた―――ってか、イッセーもある程度納得はしているだろう?』

「……ああ。なんとなく、嫌な予感はしていたよ」

 

 もしかしたらアザゼルとのあの時の会話で予感はしていたのかもしれない。

 だからこそ、アーシアにあんなものを渡したんだ。

 完全なる守護の神器を、な。

 

『そう、予見していた。旧魔王派共は禍の団においては現状、最大勢力だ。そして俺が立案した―――奴らのテロ行為を事前に察知し、逆に一網打尽にする』

「待てよ。つまりお前はこの展開を予見した上で俺たちをここに送り込んだって言うのか!?」

『ああ―――責任は全て俺にある。後でお前やリアスたちに非難されることだって覚悟の上で、もしお前たちが死んでいたら……俺も首を斬らせるつもりだった』

「………………」

 

 俺はアザゼルの声音で少し上がった怒りが静まる―――確かに危険な賭けではあった。

 だけど今回の事柄で旧魔王派の悪魔共を一掃出来れば、確かに今後の悪魔陣営にとっては得は多い。

 …………今は身内で言い争っている場合じゃない、か。

 

「アザゼル。教えてちょうだい……ディオドラのパワーアップは原因は何?」

『おそらく、禍の団が何か力を上げるアイテムでも創りだしたんだろう……テロ組織ってやつは無駄に高性能な危険物を創りやがる。おそらく媒介はオーフィスが置いていった奴自身の力―――有限だからこそ、それを改造し、強化し発展させたのが俺の予想だ』

「……借り物の力であいつは―――ふざけんな」

 

 俺は神殿の壁を拳で殴ると、その神殿の壁は軽く消し飛ぶ。

 ……怒りは抑えて、抑えて、あとで爆発させろ。

 

『この事態を予見していた理由の一つは、お前たちには黙っていたが現魔王の血族のものが不審死するという事件が原因だ。お前たちは知らないだろうが実はグレイフィアやサーゼクスの下僕は陰から悟られずお前たちの護衛をしていた。不審死っていうのはおそらく旧魔王派の者共による暗殺だろう―――首謀者は旧魔王派の旧ベルゼブブと旧アスモデウスの子孫。そして予見できた最大の理由は』

「ディオドラの馬鹿な行動ってわけか」

『ああ。奴らとしてもあの行動は予想外だったろうな―――敵ながら愚かな行為だ。俺は今からお前たちを裏切ります、と言いたいような行動だ。だがここからが本題だ―――奴らはそれを承知でテロを行っている(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)ってことだ』

 

 アザゼルの意見には俺も賛成だ。

 何せ、相手に予見されている行動をわざわざ実行に移したんだからな。

 たぶんオーディンがこの場にいるという事は他の神話の神々とか他勢力も旧魔王派狩りに参加しているんだろう。

 見た感じ旧魔王派の人員は相当なものだと思うけど、でも何か裏がありそうだな。

 

『この点がポイントだ―――奴らにはこんな失敗するような計画を実行に移すだけの理由がある。それが判明するまでは俺も迂闊なことは出来ねぇんだ。一応俺もお前らのいるフィールド内で旧魔王派共と交戦しているが、いかんせんフィールドが広大過ぎてお前たちの援護にも回れねぇ』

 

 アザゼルがそれを言い終わると、一度間を置いた。

 

『……悪いな、リアス。お前たちを危険なことに巻き込んで。お前が眷属を愛しているのは知っている―――すまない、俺の行動でお前たちを危険な目に遭わせた』

「……私たちは別に良いわ―――でもアーシアがディオドラに連れ去られたわ」

『―――なっ!…………そうか、あの野郎は……ッ!!』

 

 するとアザゼルは明らかな怒気を含ませた声音を響かせる。

 

「―――俺はアーシアを救いに行く」

『…………神殿には何があるか分からねぇんだ。お前たちのいるところだって安全とは言えない―――ここからは俺たちに任せて」

「―――ふざけんな。何を言われようが俺は助けに行く…………アーシアと約束したんだ。絶対に助ける、だから待っておいてくれって―――何があっても助ける。止められても、俺は一人ででも行く」

「……一人で行って貰っては困るな―――私だってアーシアの友達だ。一人で格好つけるなよイッセー」

 

 ゼノヴィアは俺の肩を掴んでそう言うと、不敵な笑みを浮かべた。

 ……ああ、そうだ。

 これは俺一人の気持ちじゃない。

 

「私は王様よ。アザゼル、たとえ命を賭けてでもアーシアの元に行くわ」

「妹みたいな存在ですもの―――助けて当然ですわ」

「……協定以上に、アーシア先輩を尊敬していますから」

「お、同じ僧侶の仲間を失いたくないですぅぅ!!!」

「僕も皆の意見と同じです―――僕の剣は仲間を守るため剣です」

 

 皆がアザゼルに向かってそう言うと、アザゼルは苦虫を噛んだような声を上げ、しばらくすると……

 

『―――頑固なのはいつも通りかよ。ああ、くそ…………行け、俺の教え子共!!そんでアーシア救って俺の前にもう一回顔見せろ!今回はお前たちには縛りはない!!本当のお前たちがどれほどの物か、あの勘違い野郎に見せつけろッ!!!!』

『当然ッ!!』

 

 俺たちは声を合わせてそう言うと、神殿の前で立ち尽くす。

 

「イッセー。あなたの出番は最後までとっておくわ―――ごめんなさい、今回はあなたを頼ることが多くなるかもしれないから、先に謝るわ」

「謝らないでください―――俺も最後まで怒りはとっておきますから」

「そう……小猫、アーシアのいる場所は分かるかしら?」

 

 俺が部長にそう言うと、小猫ちゃんにそう言った。

 小猫ちゃんは猫耳をピョンとだして、それをフリフリと揺らしながら何かをサーチしているような仕草を取り、そして神殿の奥へと指さした。

 

「……神殿の奥からアーシア先輩の気を感じます」

「なるほど、神殿の奥ね―――イッセー、貴方がアーシアに渡した神器について教えてくれるかしら?」

 

 すると部長は小猫ちゃんの説明を聞いた後に俺にそう聞いた。

 現状の確認をするためだろう……俺はアーシアに渡した神器の説明をした。

 

「……はい。基本的には完全な防御のための神器です。能力もさっきオーディンがしたような防御の術に似ています―――ただ対象限定がアーシアを傷つける、って具合に絞っていますからさっきみたいに拘束の類には利きません。ディオドラがアーシアに暴力を振るえば間違いなく神器の効力は発動するので、最低限の安全は確保できているはずです」

「神器はどれくらい持つかしら」

「恐らくは今の状態―――今は俺は神帝の鎧の無限倍増を止めていますが、これを発動すればあまり長くは持ちません。防御レベルは神滅具に近づいてはいますが、一度に大きな攻撃を受けたらフィードバックでダメージを受ける可能性も……最低限、命を守るための神器ですから」

「いえ、十分よ―――急ぎましょう」

 

 俺の説明を聞いて部長は神殿へと一歩、足を踏み入れる。

 ―――アーシアを傷つける奴は許さない。

 例えそれが神様や魔王様で…………どんな奴でも俺がこの手でぶっ倒す。

 だからアーシア、待ってろ。

 すぐに助けに行くから……だから待ってろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―・・・

『Side:???』

『どうやら悪魔共が何か起こすみたい。あんたはどうするの?』

「アルアディア……さぁね。何にも覚えていない私にそんなことを聞くのはあれだと思うけど?」

『そう?でも―――赤龍帝も居るみたいだけど』

「…………そう」

『おや?反応したみたいね?』

「別に反応なんてしてないよ―――良いよ。私も見に行ってあげる。それであの時、赤龍帝が傷つけられて怒った理由が分かるなら……ふふふ」

『?何が可笑しいんだい?』

「さぁ、分からないなぁ―――でも何故か、見に行くことが楽しいんだ。何故かは分からないけどねぇ」

『そう……さぁ、生まれたての雛鳥が起きていられるのは少しだけなのだから、早く行こうじゃない』

「―――次は何を見せてくれるのかな?創造の龍を身に宿す赤龍帝は」

 

『Side out:???』


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