ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第4話 もう、諦めて吹っ切れます!

 俺、兵藤一誠が母さんのお説教から解放されたのは22時だった。

 ……なんだろう、あの拷問は。

 最近は母さんと話す機会が中々なかったからか、母さんはすごい不満を俺に言ってきた。

 とりあえず色々なことを言っていたけど、簡単に要約すれば「最近、私と接してくれてない。お母さん寂しい。もっと構って」というのが一番分かりやすい。

 ……母さん、少しで良いから子離れしよう。

 ホント切実な願いだった。

 ともあれ、母さんの拷問を終えた俺は風呂に入り、先にアザゼルに連絡することにした。

 俺は携帯電話を取り出し、画面を操作してアザゼルへとコールを電話した。

 

『もしもし、イッセーか?』

 

 少し間をおいて電話口からアザゼルの声が聞こえた。

 

「ああ。母さんにさっき解放されたんだ……それで連絡したのは」

『分かってる。大方、ディオドラのゲーム内容を見せろってところだろ?今から俺がそっちに向かおうか?』

「いや、俺が直接行く」

 

 俺はそう応え、魔法陣の書かれた一枚の紙を出した。

 これは悪魔を召喚するための簡易魔法陣であり、悪魔稼業をする際に良く使うものだ。

 

「召喚してもらっていいか?俺、あんまり術は得意じゃないから」

 

 アザゼルはその言葉に頷き、そして俺は周りに誰もいないことを確認するとそのまま転移していった。

 ……転移先はアザゼルが俺にちょっかいをかけていた時の高級なマンションの一室だ。

 そこには和服姿のアザゼルがいた。

 

「まあ上がれや。積もる話があるからよ」

「ああ。俺も少し話さないといけないことが多いからな」

 

 俺は靴を脱ぎ、そのまま部屋のソファーの方に歩いていき、そして座るとアザゼルから飲み物が出される。

 

「で?ディオドラの件はさておくとして…………アーシアとやったのか?」

「やってねぇよ。そんなことよりも重要なことだ―――ヴァーリが出た」

「……なんだ、そのゴキブリが出たみたいな言い方は」

 

 アザゼルは特に驚くこともなく、そう言った。

 俺としてはもっと驚くと思っていたんだけどな。

 

「ヴァーリが、ねぇ……一応話は聞かせてもらう」

「それがな――――――」

 

 俺は先程、アーシアと俺の前に現れたヴァーリ、アーサー、スィーリスのことをアザゼルに隠すことなく話した。

 アザゼルは俺の話を何も言わず聞き、そして俺が全てを言い終わると……

 

「なるほど……あいつが忠告しに来たってわけか」

「そう。俺も現れた時は驚いたけど、特に危害を加えてこなかったし、それに何かあいつはテロリストっぽくないってのが個人的な意見だな」

「同感ではある。確かにあいつが目立ってしたテロ行為は和平会議の時のみだ。それ以降は特に目立ったことはしてねぇ……お前の予想通り、大方組織の強い奴に喧嘩を吹っかけて楽しくしてんじゃねぇの?」

 

 素直にあり得そうで笑えないけど、ならあいつは何でわざわざ禍の団に入ったんだろうな。

 そもそも黒歌がヴァーリに協力していたのだって、あいつは私情が原因って言ってたから、恐らくは……

 

「あいつは私情のために組織に入った―――不本意ながら組織に入っているっていうのが一番の見解か?」

「さぁな。あいつは読めねえし、まあそれが面白くはあるんだが……はぁ、俺も親の感情が抜けねぇな」

 

 するとアザゼルは溜息を吐きながら頭をポリポリと掻いた。

 

「……敵になっても、アザゼルはヴァーリのことを心配しているのか?」

「さあな。ただ……ヴァーリが小さい頃にあいつを拾い、ずっと育ててきた。俺にとってあいつは子供みてぇなもんだ。だからこそ分かることもあるんだよ―――あいつは戦闘狂だが、間違ったことを嫌う芯の通った戦士だ。だからこそガルブルト・マモンの一件でお前や黒歌、小猫を助けるような真似をしたんだろう。だから今回もわざわざ忠告なんてしてきたんだろうな」

「―――そういうのを心配って言うんだよ」

「……は。違いねぇな」

 

 アザゼルは若干諦めるようにそう頷くと、傍に置いていたグラスに酒を注ぎ、そのまま飲み干す。

 照れ隠しだな、きっと。

 

「にしてもガルブルト・マモンの行方か…………もしかしたら、これは全部繋がっているのか?」

 

 するとアザゼルは顎に手を当てて何かを考え始める。

 繋がる、ねぇ。

 

「……お前には話しておくか。これはまだ機密事項であまり大っぴらには言えねぇんだがよ。ガルブルト・マモンの奴が行っていた不明な取引に関してはある程度、露呈した」

「禍の団か?」

「ああ、それが大半だ。あの野郎は言いたくはないが、三下ではねぇ。自分の立場、自分の末路を考え込んで逃げ道を無数に用意していた。その一つが禍の団。だが露呈した不明な取引でも未だに正体不明の取引が残ってんだ」

 

 ……正体不明か。

 恐らく、その正体不明がガルブルト・マモンと繋がりがあり、そしてあいつを匿った正体ってわけか。

 ―――そうか、だから繋がったか!

 

「つまりアザゼルはガルブルト・マモンを匿った存在の正体が、ヴァーリが組織に入った理由って言いたいのか?」

「大方は正解だ……つっても未だに空想の理論でしかねぇからな。実際のところは本人しかわからねぇ―――だが、お前に関しては今はそれよりも問題があるだろう」

 

 するとアザゼルは何やら束となっている資料を机の上にドサッと置いた。

 それは―――レーティング・ゲームの資料?

 

「そいつは前回のディオドラのレーティング・ゲームの資料やらお前の個人データ、っていうか眷属全体の詳しい情報がある。お前は既にヴァーリから聞いていると思うが、ディオドラは理解不能なパワーアップをしたんだよ。実際に映像を流すか……」

 

 するとアザゼルは術か何かで空中に映像を映し出すと、そこからアスタロト眷属とアガレス眷属のレーティング・ゲームが開始される。

 最初はセオリーの駒のぶつけ合い。

 戦力的にはシーグヴァイラさんの眷属が圧倒的に有利、明らかに押しているし、今のところはディオドラが完全に劣勢だ。

 ゲームは序盤から中盤に入る……とその時、突然ディオドラは前線に出た。

 そして

 

「―――なんだよ、これ」

 

 ……実際には中盤戦なんてなかった。

 突如台頭してきたディオドラは、ヴァーリの言う通り不相応の力を行使してシーグヴァイラさんの眷属を次々に撃破していき、そして最後はシーグヴァイラさんと一騎打ち。

 そこでも力で押し切り、そしてそのままゲームは終了した。

 

「ああ、その意見には俺も賛成だ―――これはもう反則の類だ。完全にこれは自分の力ではないっていうのが俺の意見だ」

「……映像越しには分かりにくい、けど―――この力、オーフィスの蛇に少し似ているところがある」

「ああ、それはオーフィスからも既に聞いている」

 

 するとアザゼルは足を組んで酒をもう一度飲んだ。

 

「だが、オーフィス曰くこれは自分の力じゃないらしい。確かにオーフィスの力があれば三下も一流に近い力を発揮できるが、それすらも検出出来なかった……ゲームを取り止めさせるためには証拠がなさすぎる」

「でも、仮にオーフィスの力が関与している場合は―――」

 

 間違いなく禍の団が関与している、というのを俺はのど元で止めた。

 はっきり言えば俺の言っているのは所詮は空論でしかないから、説得力に欠ける。

 説得力を帯びるためには確固たる証拠か現行犯を抑えるしかない。

 だけど当のオーフィスが自分の力とは違うと言っているんだ……恐らくは本当に違う。

 でも似ている力となれば……くそ、考えがまとまらない。

 守護の神器をフェルの力で創って、皆に渡すのが一番の安全策かもしれないな。

 今なら中級クラスの神器なら具現を1か月していても平気になってきたし。

 数には限りがある上に具現中は俺の精神が削られ続けるけども。

 とりあえずディオドラ対策は俺の頭でしっかりとして、いつでも対応できるように神経を研ぎ澄ますことにして……

 

「イッセー、お前の言いたいことは理解できる。お前はいつも最悪のことを考えて行動し、今まで仲間を救ってきた。だが……この推測は結局は下級悪魔と堕天使の総督、しかも極めつけは敵である白龍皇。しかもオーフィスは前までは組織にいたんだ」

「悪魔の上層部を納得させるだけの説得力がない、か……」

 

 俺とアザゼルは同時に溜息を吐いた。

 より良い解決方法なんて思いつかないし、何より今の俺に出来るのは守るだけ。

 

「……にしてもマモン家全員を瀕死に追い込んだ奴はいったい誰なんだろうな」

「例の正体不明の襲撃者のことか」

 

 アザゼルが漏らした言葉で俺は得心した。

 それは俺も既に聞き及んだ、俺たちとガルブルト・マモンの一件のすぐ後に明らかになったマモン家襲撃事件だ。

 犯人は正体不明で、襲撃を受けたマモン家の者はほぼ全て瀕死。

 命を失う瀬戸際のところまで傷つけられていたらしい。

 

「お前も知っての通り、マモン家は未だに絶大な力を有していた三大名家の一角だった。ガルブルト以外にも上級悪魔トップクラスの者も多い……にも関わらず、それがほぼ全て殲滅された―――襲った人物は相当な手練れであり、なおかつ不気味な奴だ」

 

 ……俺も既に聞き及んでいる。

 その正体不明の奴が使った力っていうのは全くもって説明することの出来ない代物だったらしい。

 一番わかりやすい言葉で表すなら、黒い霧のようなものが襲ってきた……っていうのが得られることの出来た情報。

 

「お前も気を付けろ。この存在はかなり不気味だ。人知れずマモン家に現れ、そして人知れず消え去った。足跡の一つも残さず、何の痕跡も残さねぇんだ」

「分かってる」

 

 警戒しておくことに違いはないか。

 ……だけど、何でマモンを襲ったんだろうな。

 直截な恨みとかか?あいつは色々な悪魔に恨みを買っていただろうから、それも理解できるが……

 

「ま、俺からの話はこれくらいだ―――一つ、質問良いか?」

「ああ、別に構わないけど」

「じゃあ質問だ―――お前は何故、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)の存在を知っているんだ?」

「―――ッ」

 

 俺はアザゼルのまさかの質問に一瞬、歯ぎしりをした。

 覇龍……俺の最も嫌う、赤龍帝の籠手に宿る最悪の力。

 俺が兵藤一誠ではない頃に命を失った原因であり、俺がミリーシェと離れ離れになった原因でもある。

 

「ずっと気になっていたぜ。ヴァーリが覇龍を使おうとしたあの時、お前は尋常じゃない怒りをあいつにぶつけた。あの時は特に何も思わなかったが、お前と接している内に少し疑問を覚えたぜ……お前のすげぇところは怒りに燃えていても冷静さを失わないところだが、お前はあの時、完全に冷静さを失った。何故だ?」

「…………覇龍なんてものは、この世界にあってはならない力だよ」

「ああ、あんなものはただの力に対する溺れ―――だが、高々高校生のお前がそこまではっきりとした拒否を何故出来るんだ」

 

 アザゼルは真面目な表情で俺の方を見る。

 俺はその眼に思わず息を飲んだ。

 ―――俺が前代の赤龍帝で、しかも覇龍を使ったことがある。

 そう言えばアザゼルは簡単に納得するだろう……だけど俺の過去を教えるということは、それはすなわち俺の弱さを見せるってことだ。

 ……他人の弱さを肯定する俺は、自分の弱さを肯定されたくない。

 淡々と言ってしまえば俺の性質は所詮、それだ。

 しかも俺の過去はただの弱さじゃない―――後悔の憤り、未だ残り続けるミリーシェへの想い。

 そこには今の俺の姿は一つもないんだ。

 ……ダメだ、俺は言い訳ばかりだ。

 結局のところ、俺は―――自分をさらけ出せない。

 

「俺は……」

「言わなくても良い―――最強じゃない。オーフィスがそう言った意味が今更ながら分かったぜ。んで、お前と同じドラゴン共がお前を可愛がるのも。お前は放っておけねぇよ」

「……ごめん。今はまだ―――何度この言葉を使えば気が済むんだろうな。俺は」

「一応言っておく。少なくともお前の周りにいる奴はどいつもこいつもお前の味方だ。年長者のありがたい言葉を聞かせてやる―――自分と周囲を信じろ」

 

 アザゼルは意地の悪そうな笑みを浮かべつつ、俺にワインを注いだグラスを向けてそう言った。

 自分と周囲を信じろ、か。

 

「ああ、肝に銘じておく」

「そうかい?なら良いが……っと、そろそろ帰ってやれ。お前を独占しすぎると女どもがうるさいかねぇ」

「なんだよ、それ」

 

 俺は苦笑をしながら立ち上がり、アザゼルは俺の部屋に向けて魔法陣を展開した。

 俺はその中に入った。

 

「……っと、最後に素朴な質問だ。部室に飾ってるお前が描いたらしい、大切な存在の大集合の絵があるだろ?」

「ああ。最近は暇になったら新しいのを描いてるけど、それがどうかしたか?」

「……お前の隣にいるあの金髪のゆるふわな髪の美人は誰だ?俺の知っている限り、お前の周り(・ ・ ・ ・ ・)にはあの美人はいないだろ?」

「―――大切な奴だった奴だよ……誰よりも」

 

 俺は顔をアザゼルから背け、そして魔法陣の力でその場から消えていく。

 しかしアザゼルの表情は少し怪訝なものであった。

 

 ―・・・

 俺が部屋に戻ると、そこには眷属の皆+黒歌、イリナ、オーフィス、ティアの姿があった。

 チビドラゴンズは既に眠かったのか幼女モードで眠っていて、その傍でギャスパーも眠っていた―――という現状説明という名の逃げを止め、現実を見ることにしよう。

 俺の目の前には何故だか知らんがコスプレをした女の子たちがいた。

 

「あれ、部屋間違えたのかな?失礼しまし―――」

「皆、イッセーを捕えなさい」

 

 部長は部屋から逃げようとする俺に対し、周りに命令をした瞬間に俺は襲い掛かられるッ!!

 俺はあっという間に動きを封じられ、そのまま椅子に縄で縛られてコスプレした彼女たちを見させられる……なんだ、何なんだこの状況はぁぁぁ!?

 

「……先輩、逃げちゃダメです」

「ちょっと小猫ちゃん、距離が近いんじゃないでしょうか!?」

 

 小猫ちゃんは異様に俺に接近して、俺の顔を覗き込むように顔を近づけてきて、少し身を乗り出せばキス出来るくらいの距離になっている!

 

「こらこら、白音?お姉さまを差し置いて自分だけはズルいにゃん?」

「……ごめんなさい、姉さま」

「良い子、良い子♪素直に反省するのは良いことにゃん♪」

 

 黒歌は小猫ちゃんの頭を撫でながら可愛がる姿を見て、俺の心は温かくなる。

 あぁ、姉妹愛を見ていると癒されるなぁ。

 ……黒歌と小猫ちゃんは何やら魔法少女のコスプレをしていて、猫耳と尻尾を生やしているという斬新な魔法少女のコスプレだ。

 可愛いし似合っているが……黒歌は胸のサイズが大きいためか、胸のあたりがかなりきつそうで動くたびに服がはち切れそうになっている……魔法少女じゃないぜ!

 スタイルがこの中でもトップクラスで高いからだな?

 

「イッセー、姉妹そろって魔法少女にゃん♪可愛い?」

「……先輩のために着ました。どうですか?」

「ああ……うん、可愛いよ?二人なら何を着ても似合うと思うし……あ」

 

 俺は迂闊なことを言ってしまったということをすぐに気付いた。

 俺の前の二人は非常に顔を赤くして尻尾をすごく揺らしている。

 ―――これはそう、昔から黒歌と白音は嬉しいことがあると尻尾を振って、そして挙句の果てにえげつないほどに甘えてくる、そんな前兆。

 俺は少し身構える……と、それと共に二人は予想通りに俺の懐に飛び込んできた!

 俺はそれに対し成す術なく倒された。

 

「罪作りにゃん、イッセー♪すりすり~」

「……すぅ、すぅ……いい匂いがします。にぁ♪」

 

 何か俺のにおいを嗅ぐ二人の猫姉妹……あはは、周りの目線が辛いぜ!

 もうあれだ……諦めよう。

 それが最も傷つかなくてすむ方法だから……さぁ、みんなの評価に勤しもうか。

 

「い、イッセーさん!その……大丈夫、ですか?」

 

 すると俺の最強の癒しの存在ことアーシアが倒れる俺の心配をしてか、そんな言葉を言ってくれる。

 俺はそっちに顔を向けると、そこにはアーシア、ゼノヴィア、イリナの姿が。

 

「ホントこの家は面白いよね!私、すごく気に入ったって感じなの!」

「どうだい、イッセー。一応頑張ってはみたんだが……」

 

 ……そこにはベタなメイド服姿のイリナ、そして更に似合いすぎている執事服を着るゼノヴィアの姿があった。

 そして―――天使の羽をつけ、頭に天使の輪っか。更に真っ白の純白の女神のような布を身につけるアーシアが―――

 

「あなたは女神ですか?」

 

 あ、つい声が漏れた。

 ……だって、あまりにもアーシアが別格過ぎるんだもん!!

 なんだよ、この天使は!

 もう似合いすぎててアーシアを愛でまわしたい気分になるじゃねぇか!(注:頭を撫でまわす)。

 

「はい、イッセーさんだけの女神です!」

「あはは、天使はここにいたんだ~……」

「ちょ、ちょっと!?天使は私だよ!?ほら、翼も輪っかもあるし!!」

 

 イリナは焦るような形相ですぐに翼と輪っかを展開するも、俺はそれを一切見なかった。

 イリナは泣き崩れるも、俺は気にも留めずに……するとゼノヴィアが俺の前に立ちふさがる。

 

「さて、イッセー。そろそろ私の魅力に気付いたらどうだい?似合っているだろう?」

「似合っているけど、何で執事服?」

「………………この眷属、普通に可愛いコスプレをして勝てるとは思わない。なぜなら私は女らしくない性質だからな。故に敢えて執事で攻めてみた。桐生に意見を貰ってね」

 

 ……初めて桐生に俺は賞賛を贈る。

 ―――偶には良いことするじゃねぇか、あの野郎。

 でも確かにこれはかなりのギャップだな。

 女の子が執事なんて面白い発想だし、意外と男装が似合ってるな、ゼノヴィア。

 っていうかまだ俺の懐にいたのか、小猫ちゃんと黒歌は!

 

「ふふ……イッセーくん」

 

 すると突如、俺の自由な右腕は何やら柔らかく温かいものに拘束される……って朱乃さん!?

 俺の隣には露出の多すぎるナースの恰好をした朱乃さんの姿があり、そしてその豊満な胸で俺の腕を挟んでいた……何やってるんだよ、もう!!

 でもその拘束は解かれず、そして俺も謎の力で解けなかった。

 

「最近、私はイッセー君との触れ合いが少ないですわ……少し寂しいの」

「いや、だからってこれはダメでしょ!?」

 

 俺は何とか力技で拘束から抜け出し、部屋の隅まで逃げる!

 するとじりじりと寄ってくる数人の人影。

 小猫ちゃんと黒歌、アーシアやゼノヴィアは満足したのか寄らず、イリナは未だに挫折中。

 残りのメンバーは俺との距離を詰める中、突如俺の背後に風が吹いた。

 

「……イッセー、我とゲームする」

 

 そこには真っ黒なウエディングドレスを着たオーフィスがあり、少しだけ不機嫌な表情で俺を見ていた。

 

「お、オーフィス?どうしてわざわざゲームをするためにそんな綺麗なドレスを?」

「我、似合う?お嫁さん、恰好」

「に、似合ってるよ?うん、黒いウェディングドレスが異様に似合っているけど……」

「……良かった」

 

 するとオーフィスは少し微笑を俺に向ける。

 ……オーフィス、表情が少しずつ多彩になってきたよな、っていう地味な感動を覚えつつ、未だに近づく部長、朱乃さん、ティアに顔を向ける。

 

「朱乃、あなたはイッセーに対してエッチな接し方が多過ぎよ!!」

「あら、それすらも出来ないリアスは黙っていれば良いですわ」

「私に出来ないとでも?」

「「…………………………………………」」

 

 すると突如にらみ合いが始まる部長と朱乃さん。

 ちなみに部長はどういうわけかバニー姿だった。

 

「表に出なさい、朱乃。今日という今日は許さないわ」

「あらあら、うふふ…………望むところ、ですわ」

 

 ……もう見慣れた日常なのでもう何にも思いません、それが俺の素直な感想であった。

 

「一誠。ところでお姉ちゃんの姿はどう思う?ほら、最近は尊厳がなくなっていると思って騎士の姿になってみたんだが……」

「はいはい、似合ってるよ。でも甲冑姿は結構見慣れてるからな」

 

 俺の言葉に崩れ去るティアなのであった。

 ……ちなみに俺のベッドでスヤスヤと眠るチビドラゴンズはデフォルメな怪獣の着ぐるみを着て顔だけ出しているというファンシーな恰好で、俺はついキュンと来たのだった。

 

 ―・・・

「それにしても平和だな~……あ、オーフィスはそっちのモンスターを倒して」

「我、殲滅する」

「……先輩、そいつの弱点は角です」

 

 現在、俺とオーフィス、小猫ちゃんはゲームをしていた。

 大画面には大きなドラゴンのようなモンスターがいて、俺たち三人はそれを倒すべく会話をしながらコントローラーを操作する。

 ちなみに俺たち以外はと言うと、既に自分の部屋に戻ったり俺たちのプレイを見ていたりしている。

 部長と朱乃さんは未だ別室で喧嘩?をしており、ティアはショックからチビドラゴンズを連れて帰って行った。

 俺のベッドで眠っていたギャスパーは、満面の笑みで上機嫌なゼノヴィアが自室に連れて帰り、結果としては室内には俺、オーフィス、小猫ちゃん、アーシア、イリナ、黒歌が居て、イリナは先ほどからうつらうつらとなっている模様。

 黒歌はゲームをする小猫ちゃんを自分の膝上に乗せて腹部をギュッと腕で抱きながら可愛がっていた。

 

「……我、こんなドラゴン、捻り潰す」

「はいはい、それはゲームの世界でな?あ、オーフィス。ラストアタックだ」

 

 オーフィスは中々倒れないドラゴンに対し黒いオーラを少し漏らすも、俺の言葉を聞いて使っている大剣でドラゴンを一閃。

 画面の中のドラゴンはそのまま倒れた。

 

「……私と先輩、オーフィスさんが居たらどんなモンスターも倒せます」

「そう言えば小猫ちゃんがオーフィスにゲームを教えたんだよな」

 

 今更ながら、小猫ちゃんの趣味はゲームだったりする。

 俺も結構得意なんだけど、小猫ちゃんのゲームテクは俺たちと比べても飛び抜けており、そんな小猫ちゃんはオーフィスのゲームの師匠だそうだ。

 

「小猫、我の師匠。頭、上がらない」

「……そんなことないです。オーフィスさんもかなり上達しています。流石にまだイッセー先輩と私には敵いませんが、少しずつ近づいてきています」

「……我、尊敬する」

 

 オーフィスと小猫ちゃんはグッと腕を組む……何か妙な組み合わせだな。

 とにかく、俺としてはオーフィスと小猫ちゃんが仲良くすることは賛成だからもっと仲良くなってほしい。

 オーフィスは友達と呼べる存在が少ないからな。

 

「すぅ……すぅ……イッセー……さん……」

 

 俺を呼ぶ声が聞こえて俺はそっちを見ると、そこには床の上で眠っているアーシアの姿があった。

 今の時間は結構遅くなってきてるからな……そろそろ眠かったんだろう。

 俺はそっと立ち上がり、アーシアを抱き上げて部屋の方に連れて行こうとすると……

 

「イッセー、アーシアちゃんを起こすのは可愛そうだから寝かしてあげたらどう?ほら、イッセーのベッドで」

「……それもそうか」

 

 黒歌にそう言われると、俺はアーシアを自分のベッドに連れて行き、そっと布団を被せた。

 ……今日一日はアーシアにとっても色々あった日だ。

 ディオドラのせいでアーシアは初めて誰かに怒り、初めて誰かを殴った。

 

「アーシアも頑張ってんもんな」

 

 毎朝俺の日課に付き合ったり、神器の扱いの修行を俺と一緒にやったり、誰かを癒したり。

 アーシアは努力家だから、誰よりも何かを背負ってしまう傾向にある。

 だからこそ、俺がアーシアを支えないといけないよな。

 

「それでイッセー。あのディオドラとかいうヘタレをどうするつもり?一応はあれでも上級悪魔だからあんまり荒手は使えないけど」

「さぁな。何も考えてない―――だけどタダでは済ませない。きっちり自分の無力さやら卑怯さやらを知らしめて……潰す」

 

 俺は黒歌の言葉に拳を強く握って応えた。

 

「うぅ~ん。まだまだ優しいね~……私なら再起不能になるまで壊し続けるけど♪」

「……怖いぜ、黒歌。まあ同感だけどさ?」

 

 俺は若干顔を引き攣らせながらそう言うと、黒歌は可愛くウインクする……女の子は怒らせたら怖いぜ!

 何ていうことを考えていると、もう次の日になっていた。

 

「もう日が変わったから自分の部屋に帰った、帰った!」

『……?』

 

 するとその場にいるイリナ以外の人物は頭の上に?のマークを付けたような表情になり、キョトンとしていた。

 

「おい?なんでそんなキョトンとしてんだ?」

「我、イッセーの従妹。従妹、結婚可能。故に我、一緒に寝る」

「にゃはは!流石にこの黒歌ちゃん、アーシアちゃんっていう敵に塩を送る真似はしないよ。二人っきりでベッドに入るとか羨ましすぎるからねぇ」

「……私はアーシアさんと協定を結んでいるので」

 

 はい、ストップ!

 つまりは

 

「つまり俺の部屋で眠ると?」

 

 俺の言葉にイリナ以外は頷く―――マジっすか?

 

「だ、ダメよ!!そんなのは不純だわ!!男の子と女の子は適切な距離があるの!」

「ふふふ、イリナちん。そんなことを言って、実はイッセーのベッドで一緒に眠ることをちょっと羨ましいだけなんじゃないのかにゃ~?」

「ち、違うわ!確かに望みがないこともないけど、でもやっぱり天使的にダメ!!」

「でもその天使の御株もアーシアに見事に奪われたんじゃ……」

「止めてぇぇぇ!!!それは言わないでよぉぉぉぉ!!!!」

 

 俺の呟きにイリナは夜中にも関わらずそんなことを涙ながらに叫んだ。

 アーシアの天使姿はイリナからしても中々心に来てたんだなぁ……確かにもう女神様って言っても良かったほどの可愛さだったけど。

 

「うぅぅ……アーシアさんの女子力は反則よぉ……料理も出来て、何でも頑張っちゃって一途で……金髪碧眼ってもう反則よぉ……天使の姿も似合ってて……」

「い、イリナ?もしかしてマジ泣き?」

 

 俺は崩れ去るイリナに近づき肩をそっと揺らすと……やべ、マジで泣いてる。

 

「い、イリナの天使姿も可愛かったぞ?うん、似合ってたよ。ほら、幼馴染にそう言うのを関係なく言うのは恥ずかしいもんなんだよ」

「……ホント?」

「そうそう!イリナは可愛いぞ!髪の毛は栗毛で綺麗だし、スタイルも良いからさ!!」

「可愛い……綺麗……スタイルが良い……愛してる……」

 

 ……おい、最後のは一言も言ってねぇぞ。

 だけどイリナは純白の天使の翼を展開した……が、それは白黒に点滅していた。

 

「だ、ダメェェェェェ!!!そんな甘い言葉を言わないでぇぇぇぇ!!!堕ちちゃう!!堕天使に堕ちちゃうからぁぁぁぁ!!!」

「あ、なるほど。これが天使が堕天使に堕ちる瞬間なのか」

 

 俺はイリナの叫びに関心するが、残念ながらイリナはそれどころじゃない。

 天使が堕天使に堕ちる時は決まって不純なことを考えたり、実際に不純なことや野蛮なことをした時だ。

 つまりイリナはその瀬戸際に立たされていると、そういうことか。

 

「……天使も難儀です。好きな人に不純なことを考えれないなんて……悪魔で良かったです」

「私はまだ妖怪だけどねぇ……うん、早くイッセーの眷属になって命令されたいにゃん♪」

「……我、無限の龍。我の気持ち、無限大」

 

 何か後ろの奴らが言ってるけど、どうしようか。

 イリナは天使、不純なことを考えれば堕ちる可能性が大。

 だから俺は下手なことを言ってはいけない……か。

 

「ん?結局はイリナがどうにかするしかないのか?」

「それを言わないでぇぇぇぇぇ!!――――はぁ、はぁ……何とか収まったわ」

 

 イリナが思いっきり叫ぶと白黒の点滅は消えて元の純白の翼に戻る。

 叫ぶことで煩悩を振り払ったか。

 ……天使ってのも大変だな。

 

「私はもう戻るわ……イッセー君の傍に居たら、今ならすぐに堕ちちゃうもの……じゃあお休みなさい、皆」

 

 イリナは少しやつれた顔で顔で俺の部屋から出ていく……イリナ、希望を持つんだ!

 煩悩は確かに天使にとっては刃だけど、それを超純粋な愛に変えれば大丈夫!……なはず!!

 俺はイリナにエールを送りながらそう呟くのだった。

 

「……先輩、一緒に眠っちゃ……ダメ?」

「―――なん、だと?」

 

 すると小猫ちゃんは俺の服の裾を弱弱しくキゥッと握り、そして上目遣いをしてきた。

 小猫ちゃんはこんな技は持っていないはずだ!

 だってこんな俺の保護欲を掻き立てる表情は今までしなかったもん!!

 素で保護欲を掻き立ててたけど、今回のは今までで一番のものだ。

 

「にゃふふ……イッセーに適材適所という言葉を贈るにゃん。白音の保護欲を一番良く分かっているのは私♪…………ソースは私にゃん」

「そりゃああんた、物凄いシスコンですもんね!!」

「あと白音にその技を授けたのは私だよ?これでもイッセーの好みは昔から理解してるにゃん♪」

 

 俺は蕩けた表情の黒歌にそうツッコムが、小猫ちゃんの上目遣い&黒歌の教えた技に俺は抵抗など出来るはずもない。

 

「―――眠るだけな?ホントにくっつくとかは無しだよ?」

 

 そう、負ける以外の選択肢など存在すらしていなかった。

 

 ―・・・

 眠れない夜だ。

 眼は完全に冴えていて、俺の体は活発化している。

 今すぐにランニングして汗を流したいくらいだ。

 ―――そりゃあ魅力的な女の子に囲まれながら眠れるわけがない。

 

「にゃ……もう……食べれません……」

「……………………」

「すぅ……すぅ……ふふ……」

 

 順番に小猫ちゃん、オーフィス、アーシアの寝息と寝言が俺の耳に通る。

 っていうか思いっきりくっついてんじゃん。

 何が眠るだけだよ、畜生ッ!

 これはもう起きるしかないか。

 

「ふふふ……イッセーは自分に甘えてくれる子が好き?」

「起きてたのか、黒歌」

 

 俺は小猫ちゃんとオーフィスを振り払い、ベッドから出ると黒歌がベッドの脇で和服を少し着崩して座っていた。

 

「元々白音は一度眠ると目を覚まさないにゃん。こんな状況でイッセーが眠れるとは思わなかったけど、その通りだったにゃん」

「まあな。少しトレーニングルームで汗でも掻こうかと」

「手伝おうか?」

「卑猥な意味以外ならいいけど」

 

 俺の言葉に黒歌は黙りこくり悔しそうな顔をしていた……先手を打って良かった。

 本気じゃないだろうけどさ。

 

「そう言えば、黒歌の本気って知らないな。最上級悪魔クラスとは聞いているけど」

「そりゃあまだ見せていないからねぇ……私と手合せする?」

「そうだな……お願いしようか」

 

 俺はそう言うと黒歌と共に地下のトレーニングルームに行った。

 トレーニングルームと言ってもいくつかの部屋に分かれており、魔力や悪魔の技術で完全防音かつミサイルが撃ち込まれても大丈夫なところだ。

 多少派手に暴れても大丈夫だとは思う。

 俺はトレーニング用のジャージに着替え、そして黒歌も着物から専用の着物?に着替える。

 普段着ている黒い着物だな。

 さてと……

 

「じゃあ始めますか―――赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)

『Boost!!』

 

 俺は籠手を展開し、黒歌の方を見た。

 

「籠手だけで良いの?これでも私、結構強いにゃん」

「おいおいで考える……っていうか禁手は使った後が疲れるからな」

「そ―――さてと。じゃあ私もイッセーの眷属に相応しいのを見せつけるために本気を出すにゃん」

 

 すると黒歌は青い綺麗なオーラと、黒いオーラを纏う。

 青いオーラは恐らくは仙術で、黒い方はたぶん妖術か何かか。

 すると刹那、俺の右の頬を何かが掠めた。

 そして俺の背後の壁から少し大きな音が響き、俺はそっちを見ると、壁は少し傷が入っていた。

 ―――見えなかったな。

 

「なるほどな……あんまり出し惜しみはしないでおくか」

『Force!!』

 

 俺は籠手の他に神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)を展開し、創造力を溜める。

 今の一撃で理解した。

 黒歌は相当なまでに強い。

 しかも今のは本気ではなく、ただの牽制だ。

 ガルブルト・マモンの一件では突然の不意打ちに小猫ちゃんを守ったせいで戦えなかったけど、仮に真正面から戦えばあいつも黒歌に押されたはずだ。

 それほどの力を今感じた。

 

「これでも仙術、妖術のエキスパートにゃん。舐めて掛かれば痛い目を見るよ?」

「ああ―――今思い知ったよ。こっちもギアを上げる」

 

 俺は魔力のオーラを噴出させ、身体能力を大幅に上げる力―――オーバーヒートモードを発動させる。

 それにより身体能力は神器なしでも上級悪魔レベルになり、俺は籠手を強く握る。

 

「なるほど、接近戦ね……じゃあこういうのはどうにゃん!!」

 

 黒歌の周りにいくつかの円陣が生まれ、そしてそれに通過した黒歌は突如オーラを増した。

 妖術か何かだろう……恐らくは徒手格闘のための術。

 更に仙術を織り交ぜているから一度攻撃が当たれば気を狂わせられる仕組みか?

 夜刀さんとの修行で仙術を嫌なほどに受けまくったからな……あのヒト、容赦がないからな。

 

「じゃあ行くにゃん―――」

 

 黒歌は俺の目線から消え、突如殺気を俺は隣から感じた。

 そこには黒歌の俺に拳を振り上げる姿があった―――気配を感じなかったってことは、恐らく仙術で気配を消したのか。

 夜刀さんの仙術は見抜けることがかじろうて出来てたのに黒歌には出来ない……ってことは簡単な話で仙術においては黒歌は夜刀さんよりも極めているってわけかッ!!

 だけどオーバーヒートモードは身体能力だけじゃなく、各神経系のレベルも大幅に上がる技だ!

 反射神経のレベルも数段階でアップしているから、俺は黒歌の拳を何とか避けて距離を取り、そのまま何発かの攻撃力重視の魔力弾を放つ!

 

「妖術、仙術を用いて硬質さを」

 

 黒歌は言霊を言いながら妖術による円陣を展開し、それに仙術のオーラが付加されて、俺の魔力弾を完全に防御した。

 ―――強い。

 一切の隙もなく、防御の力も兼ね備えている。

 妖怪としての能力もそうだけど、極め抜かれた仙術と妖術は圧倒的に強い上に、それを最高の形で織り交ぜて戦う。

 この中に将来的に強い魔力が加われば恐ろしいな……ともかく今の俺ではこの状態で勝てる気がしないな。

 

『認めたくはないですが、黒歌さんは禁手で相手をするべき相手ですね。あの力量、ずっと妹を守ってきた力です』

『守る力ほど強いものはない、か……まるで相棒だな』

 

 この二人が認めるほどか。

 

「オーバーヒートモード、解除」

 

 俺は魔力の過剰供給を止めて、強制的な身体能力の上昇を打ち止めにする。

 高々上級悪魔の力では黒歌には勝てない。

 ここは―――

 

「ドライグ、行くぜ―――禁手化(バランス・ブレイク)

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!』

 

 俺は籠手を禁手化し、赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)を身に纏った。

 力は増し、更にオーラが勝手に噴出する。

 ……これがオーフィスが風呂の中で言っていた俺の変化か。

 

「……イッセーの鎧のオーラがまた強くなってるにゃん」

「そりゃどうも―――こっちも本気だ、黒歌」

 

 俺は姿勢を低くして、一気に動き出すモーションを取る。

 その瞬間、俺の鎧から倍増の音声が鳴り響いた!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』

 

 俺の力は次々に倍増し、そして俺は背中の噴射口からオーラを噴出させて一気に黒歌との距離を縮めた。

 黒歌はそれに気付いて防御陣を幾重にも作るが、恐らく強度に回す力が足りない。

 俺はそれを素直に拳で打ち砕き、更に鎧の速度を活用して神速で動いて黒歌の背後に立って拳を放つ。

 

「―――降参にゃん。流石の黒歌ちゃんも真正面から力で押されたら無理にゃん」

 

 俺は黒歌の言葉を聞いて拳を寸止めし、そのまま鎧を解いた。

 

「ふぅ……頑張ったけど、通常のイッセーを圧倒するのが今の限界にゃん……っていうか通常で上級悪魔クラスっていうのが反則よね」

「そりゃあ修行しているからな。お前の王様にならないといけないんだから」

 

 俺はその場に座り込む黒歌の頭を撫でてそう言うと、黒歌は少し微笑した。

 

「神器なしで上級悪魔、神器を使えば最上級悪魔と同等かそれ以上にゃん。全く、すごい王様を持ったものにゃん……まあイッセーの努力は昔から知ってたけどねぇ」

「そっか」

 

 黒歌は修行で疲れた俺をいつも仙術で癒してくれていたらしいからな。

 

「……実は私、イッセーが特別な力を持っていることに気付いていたにゃん」

 

 すると黒歌は唐突にそう言ってきた。

 

「そうなのか?」

「うん……まさか神滅具なんてものとは思わなかったけどね。でも持っていたからこそ、私はイッセーの存在を悪魔に知られたくなかったにゃん」

「俺の力を知れば……悪魔が俺の力を欲すると思ったからか?」

「うん……それにガルブルト・マモンは最上級悪魔だったにゃん。まだ小さな子供だったイッセーに関わらせたくなかった」

 

 ……黒歌は俺と白音との平穏な毎日を望んでいたからな。

 

「……守って、私と白音を。私も白音とイッセーを守るから」

「約束する」

 

 俺はすぐさま断言した……何度も俺が言っている言葉だ。

 守る、約束する。

 その言葉を今まで俺は何度も言ってきた。

 だからこそ今回もきっと―――

 

「さて、しんみりは無しにゃん♪キャラじゃないし……それよりも私はどの駒が良いかな~」

「駒の役割か……」

 

 俺は少し考えることにした。

 今の戦闘を考えるに、黒歌は結構幅広い可能性を持っていると思う。

 術関連に特化していると思えば、それを応用して接近戦も可能。

 つまり「僧侶」と「戦車」のどちらでもいける……となると当然「女王」との相性もいいはずだ。

 除外すべきは「騎士」と「兵士」か……あれは完全に接近戦の類だからな。

 それに黒歌には「騎士」も「兵士」も似合わない。

 

「俺的には僧侶、かな?妖術とか仙術とかに精通しているし、将来的には魔術関連も可能になるとしたら一番適切なのは僧侶か。ただ、その僧侶の駒価値は『兵士』三つ分……確実に足りないな」

 

 俺はそう嘆息した……「女王」は「兵士」9個分の駒価値だからな。

 それに「女王」の駒はもっとオールラウンダータイプに与えたい駒だから……うん、「僧侶」だ。

 戦車は黒歌の価値に見合うか分からないからな。

 

「まあ駒は二つ使えば大丈夫だろうから……変異の駒なら良いけどな」

「将来的に見据えれば良いと思うにゃん♪」

 

 黒歌は俺にタオルを渡して、そして腕にくっついてくる。

 ……無心だ。

 俺の腕に広がる感触はただのクッション、それ以上のそれ以下の何者でもない。

 俺は心にそう刻み込んだ。

 

「反応してる、反応してる♪イッセーってそう言う感情が無いようで実はかなり過剰だよねぇ……あれ、理性が鋼鉄みたいな感じにゃん。普通の男ならこんなことされたら押し倒すくらいはすると思うけどね~」

「俺は今後もその鋼鉄を硬くし続けるよ……うん、俺の理性は誰にも壊せない!」

「じゃあ今壊してあげるにゃん!!」

 

 黒歌は俺にそう言いつつ、色々とヤバいことをするのであった―――貞操は守ったが。

 

 ―・・・

 黒歌を引き離し、俺は飲み物を飲むためにリビングに来ていた。

 既に時刻は1時くらい。

 黒歌は先に部屋に戻り、俺はリビングに誰もいないと思っていたんだけど……リビングには明かりが灯っていた。

 俺は静かにリビングに顔を覗かせると、そこにはソファーに座る母さんの姿があった。

 

「母さん?」

「イッセーちゃん。まだ起きてたんだね」

 

 母さんは俺の存在に気づき、すぐにソファーから降りて冷蔵庫の方に行き、そしてグラスにお茶を注いで俺に渡してきた。

 

「はい、これでしょ?」

「ああ。ありがと、母さん」

 

 ……母さんは昔から心を読んでいるかの如く俺の行動を当ててくる。

 実際に当てているわけではないけど、親が成せる業かそんなもんか。

 

「でもいつもきっちり早い時間に寝る母さんが珍しいな。どうしたんだ?眠れないの?」

「うん。ちょっと目が冴えちゃって……イッセーちゃん。お母さんが眠くなるまでお話に付き合ってくれない?」

 

 俺は母さんのお願いに頷き、ソファーに座った。

 母さんは俺の隣に座って、俺と母さんは色々と話した。

 学校の事、友達の事、夏休みの話せる事……色々と日常的な会話をした。

 母さんとの会話をする機会が最近はなかったからな……この機会って感じで色々と話している。

 

「松田君と元浜君は相変わらずだよね~……でもイッセーちゃんとだからバランスが良いと思うけど」

「それならあいつらにはもっと行動を自制してほしいけど」

 

 ちなみに今の話題は我が悪友、松田と元浜だった。

 あいつらの軽はずみな行動を愚痴っているだけなんだけどな。

 だけど母さんはそれを全部聞いてくれて、助言をくれたりする。

 たまに俺も母さんの愚痴を聞いたり話を聞いたり……そうしていると既に時間は2時を超えていた。

 母さんも流石に眠くなって来たのか、時折目元を拭っては眠気を隠そうとしているのは明確だった。

 

「眠かったら寝たらいいじゃないか?母さん」

「えぇ~……イッセーちゃんとお話しする機会が中々ないんだもの。ここで話さなければ兵藤まどかの名が泣くわ!!」

 

 母さんはエッヘン!、っと胸を張って満足げな表情をする……そこで俺は少し思った。

 母さんは、本当にこの状況を可笑しいとは思っていないんだろうか。

 突然部長のお母様と会って俺の夏休みの一件を承諾するとか、そもそもこの家に他の皆を住まわせること許可するとか。

 母さんは特に術に掛けられているわけではない。

 でも母さんは突如大きくなった家とか様々なことを許容している……もしかしたらそういうことを素直に受け入れるような何かを受けているかもしれないけど。

 

「―――大丈夫だよ」

「え?」

 

 母さんは見据えたような表情で俺の頬に触れていた。

 優しく、包み込むような―――アーシアが母さんに憧れてるのはこういうところなんだろうな。

 

「お母さんはイッセーちゃんの味方だよ。ずっと、何があっても……親が子供をしっかりと見るのは当然だもの。だから……気にしなくて良いよ」

「母さん?一体何を―――」

「じゃあお休みなさい、イッセーちゃん!!」

 

 母さんはそう言うと、俺から離れて自分の部屋に行ってしまう。

 俺は母さんの言葉の意味も、何も分からずただその時、呆然と立ち尽くしただけだった。

 

『……彼女はまさか―――いえ、そんなはずは……』

 

 ただ俺の心にフェルの疑心な声音が響いたのだった。

 

 ―・・・

『Side:アーシア・アルジェント』

 私、アーシア・アルジェントは今の生活が大好きです。

 毎日イッセーさんと一緒に居れて、話せて、たくさんの大切なお友達が出来ました。

 昔の私が今の私を見たら驚くと思います。

 誰かに囲まれて、笑顔で居られることを。

 ……だからこそ、私に居場所をくれたイッセーさんが私は大好きです。

 イッセーさんの笑顔、優しさ……誰かのために怒ることも、時には叱ってくれるところも、頭を撫でてくれるところも―――たまに寂しい顔をすることも。

 私は夏休み最後の北欧旅行でリヴァイセさんにたくさんのことを教えてもらいました。

 イッセーさんの強さ、弱さ……誰かのために涙を流し、自分を責める。

 たくさんのことを教えていただいて、力の意味も教えてもらい、色々と考えました。

 だからこそ、私はイッセーさんに本当の意味で笑ってもらいたい。

 ―――白龍皇のヴァーリさんが現れてから少し経った夜中、イッセーさんは嫌な夢を見るようにうなされていました。

 それが何の夢かはわかりません……イッセーさんは少し経って起きて、そして涙を流していました。

 その時の涙、悲しい表情を私は朧げな意識でしたが、今でも良く覚えています。

 何で泣いていたのかはわかりません……だけどイッセーさんは、今なお何かと戦い続けているような気がします。

 時たまに見せる寂しそうな表情、そんなイッセーさんの隣に立ちたい。

 ……私のささやかな願いです。

 大好きだから、他の何とも比較できないほどにイッセーさんのことが大好きだから。

 私はまどかさんをこの世で一番尊敬しています。

 だってまどかさんが一番、イッセーさんを理解している人だから……一番イッセーさんを愛している人だから。

 嫉妬以上に、尊敬しました。

 例えそれが親が子供に向けるものであろうと、私はそれほどの想いを向けるまどかさんが大好きです。

 ―――イッセーさんの特別になりたい。

 桐生さんが私に教えてくれるような関係になりたい。

 イッセーさんと一生一緒に居て欲しい……これは私の我が儘なのでしょうか。

 イッセーさんは魅力的な人です。

 皆が彼のことが大好きで、色々な人に認められて……ライバルのヴァーリさんにも認められる。

 そんな私がイッセーさんの隣に立つことが許されるのかと考えたこともありました。

 ……だけど、リヴァイセさんは私に教えてくれました。

 ―――誰かの隣に立つのに、資格は要らない。本当に必要なものは、それはその者をしっかりと理解し、そして自分の想いも理解できているかどうか、と。

 だからこそ私はイッセーさんの強さも弱さも、綺麗な部分も醜い部分も……何もかも好きになりたい。

 イッセーさんが間違っていたらそれを正して、私が間違っていたらイッセーさんに正してもらいたい。

 ……イッセーさんの一番になりたい。

 それが難しいことは分かっています。

 イッセーさんの周りには私に負けないくらいの想いを向けている魅力的な人達がいます。

 だけどまどかさんはそんな私にこうも言ってくれました。

 ……アーシアちゃんは魅力的な女の子。だから他に負けるなんてことはないよ。

 その言葉に私はついこの人には敵わないと思ってしまいました。

 私が尊敬するまどかさんやリヴァイセさんは誰よりもイッセーさんという存在を理解して、そして愛している。

 それが私が抱く行為とはまた違うものでも、でも決して決定的な違いがあるものじゃない。

 私はそう思います。

 朝になって私はイッセーさんの隣でいつものように何とかついて行こうと走っています。

 イッセーさんは私のスピードに合わせてくれていて、私は思いました。

 合わせるんじゃなくて、私が追いつきたい。

 走るという意味ではなくて、もっと別の意味で。

 私は少しだけ速度を上げました。

 イッセーさんは驚いたような表情で私を見て、そして笑顔を見せてくれる。

 ……離れたくないです。

 こんなにも大好きになってしまった人と……離れたくない。

 私、アーシア・アルジェントに生まれた何が何でも叶えたい夢、願望。

 今までここまでの感情に動かされたことはありませんでした。

 ディオドラさんを治療して、そして魔女と言われ教会を追放された時は悲しかったですが、どこか達観した思いもありました。

 仕方ない、こうなってしまったの自分の行いのせいだ。

 そんな風に考えて全てを諦め、そして日本に来てイッセーさんに出会い、そして救われた。

 居場所をくれて、私に大切な存在と、絶対に何があっても守ると言ってくれました。

 私の幸せはイッセーさんから始まったんです。

 だからこそ、私は永遠にイッセーさんと幸せで居たい。

 大切な人達と笑顔で居たい―――居て欲しい。

 ……そんな中で、本当の笑顔で居ないイッセーさんを私が笑顔にしてあげたい。

 違いますね―――一緒に笑顔で居たい。

 だから私はディオドラさんに近づきたくないです。

 生まれて初めて私は誰かに憎しみ、怒りという感情を抱きました。

 ディオドラさんがイッセーさんのことを醜いドラゴンと言った時は、つい手が出ました。

 怒りに任せて、普段は言わないような言葉を言ってしまいました。

 だけど……だけど私は一切の後悔はありません。

 あそこで言わなかったら、自分を責めていたと思うから……殴らなかったら、イッセーさんが醜いと肯定すると思ったから。

 だから私は初めて言います。

 ―――私は、ディオドラさんが……大嫌いです。

 良く好きの反対は無関心と言いますが、私はそうは思いません。

 大好きの反対は大嫌いだと思います。

 ……大好きな人を傷つける人は、大嫌いだから。

 だから私はどう思われようが、嫌な目で見られようが……イッセーさんが大好きで、ディオドラさんは大嫌いです。

 もうすぐイッセーさんと私の二人の時間は終わります。

 日課のランニングは終わって、また騒がしいけど楽しい日常が始まります。

 だからこそ―――

 

「イッセーさん」

「ん?どうした、アーシア」

 

 私はイッセーさんに声をかけると、イッセーさんは何の戸惑いもなく私に笑顔を向けてくれました。

 そんなイッセーさんに私は

 

「―――イッセーさんのことが、私は大好きです!!」

 

 ……何度目かも分からない、自分の本心をイッセーさんに言いました。


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