ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第3話 離れたくないです!!

 ディオドラ・アスタロトが突然、俺たちの部室に来てから数分が経つ。

 ディオドラは淹れられた紅茶を手にソファーに座って笑みを浮かべており、部長とアザゼルはその反対側のソファーであまり焦ることなく座っており、そして俺たちはその光景を見ながらもディオドラを睨んでいた。

 俺も既にこの野郎には嫌悪感すら抱いていて、アーシアは俺の手を握って不安そうな表情をしている。

 少しの沈黙がこの空間を包んでいる。

 ―――ディオドラ・アスタロト。

 アーシアが魔女と呼ばれる原因となった悪魔で、アーシアはこいつを助けるために教会を追放され、辛い思いをしてきた。

 会合の場ではアーシアに変な視線を送り、求婚して断られたのにも関わらず未だなおしつこく迫ってきてアーシアを困らせる。

 許されるのならば、この場で二度と表に顔を出せないようにしてやりたい。

 だけど俺は下級悪魔。

 赤龍帝とはいえ、直接上級悪魔に手を出せば悪魔の上層部は黙ってはいないだろう。

 だからこそ、俺は今は見ていることしか出来ない。

 でも、もしこいつがアーシアに手を出すのなら……身分なんか関係なしに、こいつをぶっ飛ばす。

 それぐらいの覚悟はある。

 

「ディオドラ。どういうつもりかしら?わざわざ私の領域に足を踏み入れて」

「リアスさん。あなたには既に連絡を送ったでしょう。僕はここに『僧侶』のトレードをしに来ました」

 

 ディオドラは表情を変えずにそう言うと―――

 

「ぼ、僕は絶対に何があっても嫌です!!」

「落ち着け、お前じゃないから」

 

 俺は焦るように即答するギャスパーの頭を叩き、溜息を吐く。

 ……まあ見ていて気持ちよかったな。

 あのギャスパーが拒否する場面を見ることが出来るなんてな。

 いつもならダンボールの中に入ってビビっているところだけど、これもこいつの成長ってわけか。

 

「言い方を変えましょう。リアスさんの『僧侶』、アーシア・アルジェントをトレードして頂きたい」

 

 ディオドラは笑顔でそう言うと、アーシアの方を嫌な目つきで見てきた。

 アーシアは途端に震え、そして俺の手を握る力も強くなり、手は汗でにじむ。

 ……あいつ、自分がふざけたことを言っているのを理解しているのか?

 求婚して、物でアーシアを釣ろうとして、挙句の果てにトレードというアーシアの意志を無視して手に入れようとする―――舐めてんのかっ!!

 

「では僕の方から用意するのは―――」

 

 するとディオドラは何やらカタログのような冊子を取り出し、それを机の上に置こうとした時だった。

 ―――その冊子は部長から発せられた滅びの魔力で塵となり、そして部長は今まで見たことのない目つきでディオドラを睨みつけた。

 

「―――ふざけないで。何故あなたにアーシアを渡さないといけないのかしら?」

 

 ……声は驚くほどに静かだ。

 だけどその眼、纏うオーラは完全に頭にきているもの。

 いや、部長だけではなく、その場にいる者は全員が同じような状態だった。

 

「それはアーシアの能力が捨てがたいからですか?それとも―――」

「もっと単純な話よ。私はアーシアを愛しているわ。妹のような存在よ。それをトレードというまるで物を扱うような言動に私は怒っているの―――今すぐにここから消えなさい。そうしなければ私はあなたを滅するかもしれないわ」

 

 ……部長の稀に見る完全拒否。

 普段ならまだ余裕を見せてお姉さまの態度を見せるけど、今の部長はそんなものを取っ払い、一人の眷属を大切にする『王』としてディオドラを牽制している。

 塵となった冊子を見てディオドラは少し目を鋭くする。

 

「僕はそんな気持ちはないんですが……それは思い違いです。僕は真にアーシアを愛している。だからその想いに付き従ってここに来たんです。それを」

「聞こえなかったかしら?今すぐにここから消えろって言ったのを」

「だから僕は―――」

 

 すると次はディオドラの近くのティーカップが切り裂かれ、真っ二つになった。

 ―――ゼノヴィアだ。

 ゼノヴィアは凄まじい殺気を纏っており、恐らくそれが聖なるオーラが漏れたものが刃となって無意識にディオドラに向かったんだろうな。

 

「そもそも、あなたは自分の愚かさを分かっているのかしら?相手を傷つけることを嫌うアーシアがあなたにはっきりとした拒否を示したのにも関わらず、あなたはあろうことか物で釣ろうとして、挙句の果てにはトレードという汚い手を使おうとしたのよ―――そんなあなたにはアーシアは何があっても渡さないわ」

 

 部長は立ち上がり、ディオドラにそう言い放って魔力を全開で放出する。

 その場にいる皆は全員がいつでも動けるようになり、俺も拳を握る。

 アーシアの手を優しく握り、反対の手でいつでもあいつを殴れるようにした。

 

「―――分かりました。今日は素直に帰ることにします」

 

 するとディオドラは溜息をした後に立ち上がり、俺とアーシアの方に歩いてくる。

 アーシアはすぐさま俺の背中に隠れ、俺はアーシアとディオドラの壁となった。

 

「……どいてもらえるかな?僕はアーシアに用があるんだ」

「アーシアはお前に話なんてない。そもそもお前を拒否しているんだ―――男なら察せよ」

「違うね。アーシアは突然のことで前はつい断ったんだ。僕とアーシアは運命で結ばれてる―――それを邪魔しないでもらえるかな?下等生物の薄汚いドラゴンくんは汚い炎でも吹いておきたまえ」

 

 ―――ディオドラは笑顔でそんなことを言ってきた瞬間、俺は理解した。

 これがこいつの本性。

 誰かを笑顔で馬鹿にして、嘲る畜生。

 

「運命?はっ……そんなもんあるなら、初めから拒否されているわけねぇだろ。な?アーシア―――」

 

 ……俺がアーシアの方を振り向いてそう言おうとした時、そこにはアーシアはいなく、そしてその瞬間―――パンッ!!

 ―――部室内に、そのような何かを叩く破裂音が聞こえた。

 俺はその方向を見てみると、そこにはディオドラの頬を平手打ちしたアーシアの姿があり、ディオドラは殴られた頬を抑えていた。

 

「私の大好きな人に……そんなこと言わないでください!!イッセーさんは……優しい―――優しいドラゴンです。いつも私を助けてくれる人です!!」

「…………そういうことか。アーシアはそこの赤龍帝に惑わされているんだね」

「惑わされてなんていません!運命なら、私は……イッセーさんとが良いです。絶対に……何があっても離れたくないですッ!!」

 

 アーシアはそう言うと、俺の腕を抱きしめてディオドラに強い意志を示し、これほどにない拒否を見せた。

 ……アーシアが、誰かを叩くなんてな。

 ―――優しいアーシアにそんなことをさせたのは、この悪魔か。

 

「ならこうしよう。僕は次のゲームで」

「まだ分からないのか?そう言うのがアーシアに嫌われる原因なんだよ」

 

 俺はもう我慢の限界になり、ディオドラを睨みつけたまま言葉を紡ぐ。

 こいつにははっきりと言わないと気が済まない。

 

「大方、お前はゲームで俺に勝ったらアーシアに自分の物になれって言うんだろ?それが前提で間違いなんだよ―――お前のやってることは身勝手。まるで人を物として扱い、その人の想いを全て無視して自分の思い通りにする自分勝手な行動なんだよ。それならお前には誰も付いてこない」

「……貴様」

「それに、それ以上に―――お前は何があっても俺には勝てない。例え反則技をしようが、どんだけのパワーアップをしようが、俺がどれだけ疲弊していようが……お前が俺に勝てる可能性は万が一すらない。アーシアを泣かせる奴は俺が神様であろうと魔王であろうと―――ぶっ潰す」

 

 俺はそう言い放つと、ディオドラは声は上げずにただ俺を睨む。

 

「―――その言葉、ゲームでも聞かせてほしいね。じゃあまたね、アーシア。次に会う時はきっと君を僕の虜にしてみせるよ」

「嫌ですッ!!」

 

 ディオドラはそんなことを言って魔法陣を展開し、そしてその場から姿を消す。

 ……アーシアの体は震えており、手の平は真っ赤になっていた。

 怖かったんだろう。

 誰かを傷つけることなんてしたことのないアーシアが初めて誰かを叩いた。

 ―――生半可な覚悟じゃない。

 

「……はぁ。空気が最悪ね―――イッセー、今日はもうアーシアと一緒に帰って頂戴。そうね、今日の夕食は19時よ」

「―――はい、わかりました」

 

 俺は部長の言っている言葉の意味を察し、そして立ち尽くしているアーシアの手を引いてそのまま部室から退散する。

 ……アーシアもあの言葉を言うのはかなり無理したはずだ。

 普段は人を傷つけることを言わないアーシアが、それでもディオドラに自分の本心と怒りを口にしたんだ。

 部長はアーシアと気晴らしをして来い、そう言いたいんだろう。

 ディオドラの件は家に帰ってアザゼルから再度聞くことにするとして、今はこの状態のアーシアをどうにかしないとな。

 俺はそう思いつつ、アーシアを引き連れて行くのだった。

 

 ―・・・

 学園からそう離れていないところにある二階にわたる縦長のデパート。

 この前のシトリー眷属とのゲームの時に戦いを繰り広げたフィールドでもあるな。

 俺はそこにアーシアを引き連れて、そして今はフードコートのアイスショップに来て、適当なものを選んでアーシアに渡した。

 アーシアは未だ沈んだ表情をしており、どちらかと言えば怒っているというよりも悲しそうだ。

 どっちにしろ辛そうっていうのは手に取るように分かる。

 ……アーシアは結構自分で溜め込む女の子だからな。

 だからこそ、誰かが察してあげないといけない―――その役目は俺だ。

 

「アーシア。元気がねぇぞ?」

「あ……ありがとう、ございます」

 

 アーシアの頭を軽く撫でると、アーシアは少し顔を上げてそう言った。

 だけどまだ表情は曇っている。

 

「……アーシアは、ディオドラを助けたことを後悔しているのか?」

「…………わかりません」

 

 俺がそう聞くと、アーシアは苦笑いをしながら応えてくれる。

 ……普通の者なら、ディオドラに恨みの一つでも抱いて当然だと思う。

 あいつが教会の前で倒れて、それをアーシアが見つけ治して、当のディオドラは駆けつけた教会関係者を殺して逃亡した。

 それによりアーシアは魔女と言われ、教会を追放されたんだ。

 だけどそれでもアーシアは微笑みを絶やさない。

 そんな優しいアーシアが初めて怒ったんだ。

 

「あの時は、私も無我夢中でした。ただ目の前には傷ついていた悪魔がいて、助けないといけないほどの重症で……辛かったです。魔女って言われたり、教会を追放されたのは―――だけど、それよりも優しいイッセーさんがひどいことを言われるのが、何故か耐えれなかったんです」

「アーシア……」

 

 ……聖母の微笑み。

 それはアーシアの神器の名前でもあるけど、それ以上にアーシアの性質を象徴している名前と今更ながら思った。

 アーシアがそう話しているときの顔は優しさに包まれており、微笑みは美しかった。

 儚げで、だけど惹きつける。

 ……初めてアーシアを見た時、俺はアーシアを一目見た瞬間に見惚れた。

 何となく優しい雰囲気をしていて、あの時は特定の人とは出来る限り接さなかった俺が、アーシアとは接したくなっていた。

 ―――アーシアを守りたい。

 この小さな体を、不安になる心を、笑顔を……守りたい。

 いや、守るだけじゃ駄目だ。全然対等じゃない。

 そう、俺は―――

 

「ずっと一緒だ……アーシアが学園に転校してきたその日に言っただろ?だからさ―――アーシアを傷つける奴は俺が潰す。何があっても、この拳でアーシアを守ってみせる」

「……やっぱり、イッセーさんは優しいです」

 

 ……アーシアは不安さを全て捨て去って、俺に満面の笑みを見せる。

 アーシアの笑顔は俺が、何があっても守らないといけない―――違う、守りたいんだ。

 これは俺の意志だ。

 強迫観念じゃなくて、ただ純粋にアーシアという一人の女の子を守りたい。

 色々な存在に振り回されて、ようやく手に入れたアーシアの平穏を壊させやしない。

 

「……無理は、なさらないでください。私はイッセーさんが傷つくところを見たくはないです。心も、体も」

「傷ついたら、両方の意味でアーシアが癒してくれよ?アーシアは俺にとって最高の癒しなんだから」

「……いつか、癒しだけでは済まない存在になります!」

 

 アーシアは決意の篭った目で俺の方を見て、力強い言葉を俺にぶつけてくる。

 

「今日は悪魔稼業なんてないから思いっきり遊ぼう!」

「はい!」

 

 俺とアーシアはそう言い合い、そして家に帰るまで遊び尽くすことにした。

 

 ―・・・

 アーシアと俺はゲーセンに行ったり、一緒にクレープを食べたりしていると既に外はかなり暗くなっていた。

 時間を忘れていたから仕方ないけど、時間は既に19時30分……部長に言われた時間から30分も過ぎていた。

 俺とアーシアは今は何度か来ている噴水のある公園に来ており、そこで座りながら話をしていた。

 他愛のない話だけど、最近はそんなことが出来ていなかったからな。

 同居人が増えたり、ライザーやらコカビエルやらヴァーリやらガルブルト……ホント、最近になって厄介なことが凄まじい勢いで増えたからな。

 最近は賑やかな暮らしも悪くないと思えるけど、やっぱりこんな風に前みたいにアーシアと二人でゆっくり話したりするのも良いと思う。

 ともあれ、そろそろ帰った方が良いなと思った矢先だった。

 

「やぁ、久しぶりだな。兵藤一誠」

 

 ………………俺とアーシアの座るベンチの前に、一人の男が親しげに声を掛けながら現れる。

 ―――親しげも何も、こいつは何でこんな短期間で俺の前に姿を現すのかな。

 

「久しぶりっていうか、数週間ぶりじゃねえか―――ヴァーリ」

「それもそうだな」

 

 ……白龍皇。またの名をヴァーリ・ルシファー。

 テロ組織である禍の団(カオス・ブリゲード)の一員であるのにも関わらず、何故かテロ組織のような直接のテロ行為をしない変わり者であり、そして以前は黒歌を助けるために力を貸してくれた人物でもある。

 とにかく一言で言えば、戦闘狂であるが悪い奴ではない。

 警戒はするけどな。

 

「い、イッセーさん……この方は」

「大丈夫。ヴァーリは馬鹿だが、そんなに悪い奴じゃない。少なくとも襲ってくるような卑怯な真似はしないよ」

 

 少し怯えるアーシアに俺はそう宥めると、アーシアはじっとヴァーリを見て一回ぺこりと頭を下げる。

 

「……テロ組織に入っている時点で悪い奴だろう?」

「でも黒歌は助けてくれただろ?なら良い奴だ」

「………………そうか」

 

 何故かヴァーリは顔を俺たちから背ける。

 何でだろう?と思った矢先、ヴァーリの後ろから人影が更に二つ、俺たちの前に姿を現した。

 

「やっほ~、イッチン!!処女サキュバスのスィーリスだよぉ?」

「ヴァーリは意外と褒められることに弱いのですよ。初めまして、赤龍帝殿」

 

 ……そこには黒歌の件で一度俺たちの前に姿を現した、確か人間とサキュバスのハーフのスィーリスって子と、優しい雰囲気と微笑みを浮かべながら帯剣している丁寧な口調の男。

 だけどあの剣は…………

 

「その剣。何の聖剣だ?いくらなんでもオーラのレベルが段違いだ」

 

 俺はその剣―――聖剣から感じる莫大なオーラに警戒しつつ、その男を見る。

 するとその男は少し感心したような目をしながら、一度会釈をした。

 

「これは失礼しました。私の名はアーサー・ペンドラゴン。ヴァーリチームの一員でございます」

「アーサー・ペンドラゴン―――英雄・アーサー王の血を引いているのか?」

「ええ、その通りです―――そしてこの聖剣はわが家に伝承される聖王剣コールブランドです」

 

 ―――聖王剣コールブランド!?

 あの地上最強の聖剣と謳われる世界最強の聖剣だとは……そりゃあオーラを鞘越しに放つわけだ。

 だけどそれもかなり抑えられているところを見ると、恐らく相当の強者だろう。

 

「……ですが、あなたから発せられるアスカロンのオーラは私の聖剣とさして引けを取らない―――手合せしたいところですが、ここでは自重しましょう」

「こっちとしてもこんなところでドンパチ騒ぎを起こしたくないからな」

 

 ほんの一瞬、好戦的な目をしたところを見ると、このアーサーという男もヴァーリと同じく戦闘狂かそれに準ずる奴なんだろうな。

 にしても俺のアスカロンはこの男にここまで言われるほど従来と違ってくるのか。

 

『そもそも相棒は従来の赤龍帝から大きく異なる成長をしているがな』

『おそらくわたくしという特異性と主様の性質が完全に新しい道へ進ましているのです。それが赤龍帝の新たなる可能性を芽生えさせている……というのが客観的な見方でしょうか』

 

 とにかく、俺はこのまま突っ走れってことで。

 ……ってかなんでこいつらがここにいるんだろう。

 

「あ、その顔は何故お前たちがここに!?って思ってるでしょ?その答えにはこのスィーリスちゃんが教えてあげよう♪」

 

 すると、以前に比べれば露出の少ないハーフパンツにダボダボのシャツ?を着ているスィーリスがマイペースにそう言う。

 ……なんとなく、このスィーリスは苦手なタイプだ。

 何ていうか、色々な意味で勝てそうにない気がする。

 

「それでスィーリス。どうしてここにヴァーリやらアーサーやらがいるんだ?それとお前も……一応はテロ組織だろ」

「えぇ~?私って別にテロ行為とかする気ないからね~……ぶっちゃけ、スカウトされて入ったは良いけど、つまんないからヴァーリのチームに転がり込んだんだ~」

「俺も特にテロには興味がない……戦えればそれで満足だからな」

 

 ヴァーリは特に表情を変えることなくそう言う……ま、戦闘狂だから何を聞いても意味はないか。

 確かに白龍皇が分かりやすく何かテロをしたということは聞いていないし。

 

「ヴァーリ、スィーリス。話が進みません―――私が説明しましょう」

「ああ、あんたがこの中で一番まともそうだしな」

 

 アーサーは柔らかい微笑みを見せながら、そして話し始める。

 

「ヴァーリがここに来たのはあることに関する調査と、あなたに対する情報提供です」

「……情報提供?」

「ええ―――ガルブルト・マモン、彼のその後についてです」

 

 ―――俺はその言葉を聞いて息を飲む。

 ガルブルト・マモンは黒歌と小猫ちゃんを傷つけ、二人を引き離した悪魔だ。

 今では最上級の位を剥奪され、冥界中の指名手配となっている。

 話では禍の団によって回収され、そこに入ったと聞いたけど……

 

「あの男は禍の団に入った……んだけどね。俺の予想では大方、旧魔王派の派閥に入ると思っていたんだけど、実際には不明な点が多い」

「不明?」

 

 俺はヴァーリの言葉を聞き返すと、ヴァーリは頷く。

 

「組織には色々な派閥があって、それは一枚岩じゃない。例えば俺は白龍皇チームとしての派閥であり、旧魔王派、様々なものがある。それのどこに入ったのか、そもそも組織内にいるのかすら不明だ」

「……そのことを気を付けろと?」

「それもある……けどそれ以上にこの前のゲームを見せてもらったからそれの賞賛をしに来た」

 

 するとヴァーリは少し含み笑いをして、そして拍手をした。

 

「驚愕だ。まさか君が自分で創造した神器を禁手に至らせるとは思ってもいなかった。あの技には感服したよ―――まだまだ、君に届かないことが嬉しくもある」

「……白銀龍帝の双龍腕(シルヴァルド・ツイン・ブーストアームド)か」

 

 確かにあれは応用は利くし、瞬間的な爆発力は赤龍帝の鎧すらも凌ぐ。

 だけどあのヴァーリがそれを素直に賞賛するとはな……悪い気分じゃないが。

 

「それとアーシア・アルジェント。君の回復能力もかなり高水準だ。君の神器を使いこなす点で言えば兵藤一誠とも引けを取らない」

「あ、ありがとうございます!」

 

 するとアーシアは突然褒められたことで驚いて、反射でお礼を言ってしまう……うん、礼儀正しく誰にでも優しいのがアーシアだ。

 だけど流石のアーシアもまだこの3人には警戒しているのか。

 それは普通の反応だし、俺が微妙に警戒していないのが可笑しいと思うけど……でもやっぱりこいつらがそんな悪い奴とは思えないんだよな。

 

「……それと一つ、忠告をしておこう。ディオドラ・アスタロト……あの若手悪魔には警戒しておいた方が良い」

 

 するとヴァーリはそんなことを突然言ってきた。

 何でヴァーリがそんなことを言ってくるんだ?

 そう思っていると、ヴァーリは察したのか更に言葉を続けた。

 

「まだ君はディオドラ・アスタロトとシーグヴァイラ・アガレスを見ていないんだな……後でアザゼルにでも聞いてみると良いが、簡潔に言えばあの男は本来の力よりも大幅に超えた力を使ったんだ」

「……大幅に超えた力?」

「そう。あまりにも不相応な力だったものでね。必要ないと思ったが、一応君に忠告しておこうと思った……次の相手はあの男なのだろう?ならば気を付けた方が良い……俺からはこれくらいだ」

 

 するとヴァーリは一歩下がり、そして次はアーサーが俺の前に出てくる。

 この男が俺に用があるのか?

 

「……あんまりお前らと話すわけにはいかないから、出来る限り簡単に話してくれ」

「ええ、察しています。私は少し前、ある聖剣使いと一戦交えました―――白髪で白い神父服を身に纏う、見たことのない聖剣を扱う少年と」

 

 ……なんだろう、その単語を聞いていき、俺の頭にはある一人の男の顔が頭に浮かぶ。

 いやいや、まさかと思うけど―――まさかそれって

 

「―――フリード・セルゼン。多少奇怪な話し方をする少年でしたが、非常に卓越された戦いをする戦士でした」

「やっぱりそうなのか……ってかフリードって」

 

 ……フリード・セルゼン。

 一度俺に呆気なくぶっ飛ばされ、その後、コカビエル襲撃の際にエクスカリバーという「力」が欲しいだけで計画に参加するも、当の首謀者、バルパー・ガリレイの非人道さを貶したらしく、最終的に祐斗の聖魔剣と一騎打ちで敗れたはずだ。

 確かヴァーリの登場でいつの間にか姿を消していたけどな。

 

「ヴァーリから聞き、少なからず貴方に関わりがあった人間ですので。ただ―――彼の剣には凄まじい覚悟と、しかし迷いがあったのが印象でした」

「覚悟と迷い?」

 

 ……全く正反対の性質だぞ、それは。

 アーサーの感想は曖昧な上に良く分かんねぇものがあるが、分からないことはない。

 俺も拳を交えた奴の性質は何となく、その拳から放たれる力で分かるからそれとよく似た感覚だろうけど。

 それにフリードの性格を考えると、覚悟と迷いを背負う男じゃない。

 マイペースに外道で、でもヴァーリと同じように戦闘に楽しさを見出した野郎だ。

 そこには覚悟も、何よりも迷いはなかった。

 

「……彼は今、禍の団に居ます。突如、組織に現れたのです。どこからスカウトされたかもわかりませんが、しかし私と交戦した時以外は常に憂鬱な表情をしていました」

「憂鬱……それもあいつにはない性質のはずだけど」

 

 それにフリードの使っていた聖剣っていうのも気になる。

 このアーサーが見たこともない聖剣っていうレベルだ。

 そしてこの男にそこまで言わせる腕、力……今はまだ分からないけど、あいつにはいったい何があったんだ?

 

「一応は頭に留めておいてください」

「……なんで俺にそんなことを言うんだ?」

 

 俺はアーサーにそう問うと、アーサーは少し腕を組んで、そして少し唸るように考える。

 そして少し経って思いついたように考えて……

 

「そうですね。あの少年は少し鬼気迫るところがあって、すぐにでも死んでしまうような感じでしたので……良き剣士を死ぬのは見るに堪えないところがあるので。ただの保険ですよ」

「とか言って、結構あいつのことを気にかけているお兄ちゃん肌のアーサーくん、お人好し~~~♪」

 

 するとスィーリスは肘でアーサーの脇腹をつつきながら、面白おかしそうに笑う。

 ……ってなんでこいつはここに来たんだ?

 

「あ。あたしは結構人の心を読めるからあんまり不必要に考え込まない方が良いぞ~?あたしはイッチンに会えるって聞いて、わざわざこの童貞ちゃんと一緒に来たのだ♪」

「お、お前……流石に白龍皇と最強の聖剣使いを煽るなよ?俺でもお前の未来を心配する」

「ど、ど、童貞って……はぅ……」

 

 するとアーシアは俺の横で、何故か意味が分かったのか恥ずかしがる。

 ……また桐生の野郎かッ!

 後日、あいつを徹底的に潰す計画をつい頭で考えていると……

 

「ほぉ~……君がイッチンのお気に入りのアーシアちゃんかぁ……むむ、これは手ごわいなぁ」

「へ?」

 

 するとスィーリスは俺の腕に引っ付くアーシアの方をじろじろ見て、見定めるような顔をしていた。

 

「全体的なバランスが良く、小さくもなく大きくもない……顔はかなり整ってるし、性格は見たところ良好、一途っぽくて彼氏を絶対に裏切らないタイプ、エッチは相手に尽くすのと、保護欲をくすぐる受け身タイプか……うん、気に入った♪」

 

 何かスィーリスはぶつぶつと何かを言い始めると、隣のアーサーが解説をしてくれた。

 

「ああ、気にしないでください。彼女は女の子の性質を解析するのが好きなようで。私の妹も解析されてしまいまして、彼女とは仲良しですよ」

「へぇ、妹がいるんだ」

「ええ。ルフェイという私の自慢の妹です」

 

 ……ルフェイ?

 確かオーフィスの話で出てきた、本来は組織にいてはいけない普通の女の子で、オーフィスに従妹の存在を教えたという女の子か。

 

「ねね、アーシアちゃん。私とお友達になってよ!私のことはスィーリスって呼んでくれて良いからさぁ~~~」

「へ?……え?」

 

 アーシアは突然のことで頭が混乱するようにスィーリスと俺の方を交互に見ながら?のマークを浮かべる。

 うん、俺も理解不能だけど、そんなに悪い子じゃないと思うよ。

 

「あたし、可愛くて純粋な子が好きなんだよねぇ~……だからお友達になって?あたし、結構友達少ないから!」

「は、はい……じゃあ、スィーリスさん?」

「あぁん、もう可愛い♪」

 

 するとスィーリスはアーシアに抱きつく!

 ―――今更だけど、この子がぶつぶつ何かを言い始めた時に神器の気配を感じた。

 察すれば恐らくは解析する神器か、それに準ずる神器か。

 余り聞いたことのない能力だけど。

 

「―――イッチン、この子をあの気味悪い笑顔の変態に渡したらダメだぞ?」

「……お前に言われるまでもねぇよ。さっさとアーシアを離せ」

 

 俺は少し笑って、アーシアからスィーリスを引き離し、3人から少し距離を取る。

 

「そうだな、そろそろ頃合いか―――アーサー、スィーリス。そろそろ帰ろう」

 

 するとヴァーリは腕時計を見てそう言うと、二人はヴァーリの方に行く。

 頃合い……恐らくそろそろ自分達の存在がバレるとでも思っているんだろう。

 そもそも警戒されているはずのこいつらがこんな自由にこの町に入ることが出来たのは、恐らく仙術か魔術の類を活用したからだ。

 

「えぇ~……ヴァーリ一人で帰りなよぉ。あたしはアーシアちゃんとイッチンと遊ぶから~」

「スィーリスさん。あまりヴァーリを困らせないでください。一応、私たちはテロ組織の一味なのですから」

「ぶぅ~……はぁ、仕方ないなぁ~」

 

 スィーリスはふてぶてしくそう言うも、しかしすぐさま懐からチラシのようなものを出してヴァーリに渡した。

 

「あたし、このイタリアンを食べたいからヴァーリ、奢って!!良い男は良い女に甲斐性を見せるものだよ?」

「ならその魅力を感じさせてもらいたいね、不可能だけどな」

「むぅ~~~」

「―――はぁ、早くいくぞ。イタリアンを食べに行くんだろう?」

 

 ヴァーリは大きな溜息を吐いた後でスィーリスの持っていたチラシを奪い取って歩き出す。

 ……ヴァーリも大変だなと心の中で同情したよ。

 そして3人は暗闇の中に去って行き、嵐が過ぎたように俺とアーシアはその場に立ち尽くす。

 そこで俺は時間を確認した―――既に、20時を過ぎていたのだった。

 

「帰ろっか、アーシア」

「そうですね」

 

 ……俺は半分母さんからのお説教を諦め、そのまま家へと向かって帰って行ったのだった。

 

 ―・・・

「お母さんは悲しいの。可愛い息子が不良になっちゃって」

「いや、だから母さん。アーシアの気晴らしね?」

「―――黙って、お母さんの話を聞くの!!」

 

 ……現在時刻は20時30分。

 俺とアーシアは母さんの前で正座をしていた。

 俺がアーシアを抱え、あの公園から空を飛びながら帰ること1分、家を玄関先で母さんは仁王立ちで立っていたんだ。

 そしてそのままリビングに直行、正座までにはさして時間は要らなかった。

 ちなみに小猫ちゃんやオーフィス、黒歌なんかはアイスを食べながらこっちを見ており、部長や朱乃さんは心配そうな目でこっちを見ている。

 

「イッセーちゃん。私はね?お母さんとして言ってるんだよ?可愛い可愛い私の子供が夜遊びを覚えちゃうなんて、お母さんは悲しいの!」

「夜遊びって……」

「夜遊びなの!!女の子と一緒に夜に遊ぶのは重罪!!もうお父さんに連絡するからね!?」

「は、はぅぅ……お母様、ごめんなさい!私です!!イッセーさんと遊んで一緒にアイス食べてクレープを食べて、ベンチでおしゃべりをしたのは私のせいです!!」

 

 ―――アーシア、それは逆効果だ!

 そんな真実をぶちまけてしまえば―――

 

「う」

「「う?」」

「―――羨ましいよぉぉぉ!!!」

 

 すると母さんは突然、そんな風に叫び声を家中に木霊した。

 ……なんて声出すんだよ、母さん!!

 アーシアもびっくりだよ!!

 あんた最近本当に年を疑うほどに若すぎる!!

 ―――きっと、最近は身近に若い女の子がたくさんいるからと思うけどな。

 

「ひぃ、ひぃ……ふぅ~……ふふ、このまどかさんが、してやられるなんてね。でもアーシアちゃん、流石が私の弟子ね」

「―――お母様ッ!!」

 

 するとアーシアと母さんが手を取り合って師弟関係を確かめる……なんだ、この青春ドラマを見ている気分は。

 

「聞きなさい、アーシアちゃん。イッセーちゃんとはどういう存在?」

「尊い存在です!!」

 

 ……んん?

 何かは知らないが、唐突に儀式みたいな掛け合いが始まったぞ?

 

「そう、尊い存在なの。カッコ良さの中に子供らしさが残る可愛い存在。頼りになり、たまに抱きしめたくなる存在なの。ならそんなイッセーちゃんが夜遊びをすることはどう思う?」

「はっ!―――私が、間違っていました……イッセーさんにそんなことをさせてはいけないんですね」

「そう……精進しなさい、アーシアちゃん。貴方はまだまだ可能性があるの。あなたなら、私を超えられる!!」

 

 ……これ、何てドラマ?

 俺は目の前で繰り広げられるドラマを見ながらそう呟くと、すると……

 

「帰って来たか、一誠。待ちくたびれたぞ、私の可愛い弟よ」

「くぅぅぅぅ……」

 

 ……すると、突如リビングにティアと犬?が現れる。

 柴犬くらいの大きさか?よく見れば上にはチビドラゴンズが乗っており、何かペットのような扱いだ。

 ってかどうしてティアがここにいるんだ。

 

「オーフィスにゲームを一緒にすると誘われてな。弟と従妹のためなら喜んで地の果てから来るのが姉の役目だろう?ついでにチビ共がお前に会いたいと言っていたもんでね」

「あ、にいちゃんだ!!おふろはいろ?」

 

 すると正座をする俺の元にフィーが飛び込んで来た。

 

「あ、ティアさん!久しぶりね~。フィーちゃんもメルちゃんもヒカリちゃんも元気?」

「おぉ、まどか!!私もお前と会いたかったぞ!!」

「「「まどか、こんばんは!!!」」」

 

 ティアは母さんと仲が良く、この家には母さんと話すために現れることが多い。

 チビドラゴンズは母さんに良く懐いていて、母さんからしたら小さい娘のような存在らしく、良くお菓子を作ってあげてたりするらしい。

 ってここに来て人の密度が増えたな。

 部長と朱乃さん、黒歌とかは自分の部屋に戻っていて、つぶらな目で俺の方を見ている犬?に俺は目を向けた。

 ……何だ?何でこのワンコは俺を見ている?

 いや、普通に可愛いけど。

 

「あ、イッセー。そいつはケルベロスの亜種の奴だ。ほら、あの時に下った」

「…………ああ、なるほどね」

 

 そう、この犬はつまりはコカビエル襲撃の時に俺とティアの前に立ちふさがった九つの首があったケルベロスの亜種で、今は確かティアのペットのはず。

 非常に従順らしいが、これを見れば納得だな。

 でもこいつ、かなり強い。

 実はあの時は俺一人ではかなり手こずった奴だ。

 何せ首が9つあるから、それぞれの首から様々なブレス攻撃、その強靭の足からは信じれないほどの速度、脚力を見せつけた。

 コカビエルは上級悪魔を簡単に屠れるレベルと言っていたけど、あれは納得だ。

 まあツイン・ブースターシステムによる同時解放で全力で殴ったらおとなしくなったけど。

 ……こうしてみると可愛いな。

 そうだ、名前を聞いてみよう。

 

「ティア、この可愛いワンちゃんの名前は何なんだい?さぞ凛々しくも可愛い名を付けたんだろう?俺はこう見えても動物は好きなんだ」

「ほぉ……私の神がかりなネーミングセンスを聞きたいか?ふふ、良いだろう」

 

 するとティアは母さんから離れてポーズを取り、そして……

 

「その犬の名は――――――ポチだ!!!」

「そうか、そうか。そりゃあ凛々しい…………………………はぁ?」

 

 俺は自信満々でそう宣言するティアの言葉に頷きそうになるも、言葉を聞き逃さずティアにそう発言した。

 ―――ポチ、だと?

 その名を呟いた瞬間にケルベルスは震えて、泣きそうな目で俺を見て来たぞ!!

 おいおい、この野郎!!

 

「いくらなんでもポチはねぇだろ、この馬鹿野郎!!!」

「ふげ!?」

 

 俺はノンステップで立ち上がり、そのままティアに近づいて背負い投げをして地面に倒し、そのまま関節技でティアを固める!!

 これはいくらなんでもケルベロスが不憫すぎる!!

 普通に最上級悪魔と渡り合える魔獣に対して何ていう名前をつけやがる!!

 

「今すぐそんな名前は取り下げやがれ!いや、もう俺が名前を付ける!!いいな!!?」

「ぎ、ギブだ!!一誠、お姉ちゃんは限界だからその辺で止めてくれ!!!名前は好きに決めていいからぁぁぁぁ!!!」

 

 ティアが地面をバンバンと叩き、俺は納得がいかないままティアへの拘束を解いてやる。

 そして涙ながらの目で俺を見るケルベロスの方に行き、目線をケルベロスと合わせてやる。

 名前、か。

 俺が黒歌や小猫ちゃんに名前を付けた時はその見た目でつけたけど、柴犬の見た目をするケルベロスからは何も……亜種のケルベロス、か。

 亜種とケルベロスから文字を引っ張って―――良し、決まった。

 

「良いか?お前はこれからポチじゃなくてアロスだ。ケルベロスの亜種だからアロス。それで良いか?」

「わん!!」

 

 アロスから心地良い鳴き声が響き、俺は頭を撫でてやる。

 確かこいつは人の言葉が理解できるほど知性が発達しているはずだから、俺の言葉の意味が分かるだろう。

 

「これからもフィーたちをよろしく頼むな?ティアはあんな感じでダメな姉だから、お前がしっかりしてくれよ?」

「わん!」

 

 するとアロスは俺の足元に来て甘えてくる……おぉ、かなり懐かれたな。

 そういえばアロスは俺とティアには従順ってティアが言っていたな。

 ……俺のペットにしたい気分だ。

 

「ああ!!ポチ……じゃなかった!アロス、にぃたんにくっつくのダメ!!メルがくっつく!!」

「……ダメ。にぃにはヒカリのにぃに」

 

 ……あれ?

 ヒカリちゃんの様子が少しばかり変化した?

 まるで以前見たかのような大人びた声音と話し方。

 …………あぁ、そろそろあの小悪魔ヒカリへと進化を始めているわけか。

 ともかく、母さんの説教はティアやこいつらのおかげでどうにかなったな。

 

「ぷっ……くすす……」

 

 すると突然アーシアは面白可笑しそうに笑った。

 楽しそうに、可笑しそうに。

 

「どうしたの、アーシアちゃん?」

「い、いえ……少しだけ、楽しくて……こんな楽しい毎日が続けばって思うと、可笑しくて……」

 

 ……この家は暖かいという言葉に俺は素直に同意した。

 俺とアーシアはそっくりだ。

 神器に振り回され、親も居ない。

 親の温かさも知らなくて、ただ一人の心から笑いあえる友達も居なかった昔の俺に。

 だからこそ、アーシアはこの暖かさを噛みしめているんだ。

 俺と同じように、この空間がいつまでも暖かいように祈っている。

 ―――だからこそ、俺は守るための赤龍帝でありたい。

 この笑顔を……アーシアだけの笑顔じゃない。

 皆の、俺が自信を持って大切と呼べる人を守りたい。

 だからこそ、だからこそだ。

 この平穏を、アーシアの笑顔を奪おうとするディオドラ・アスタロトを俺は絶対に倒す。

 こんな最高の居場所を絶対に奪うことは許さない。

 俺はそう決心した。

 その夜、俺は自分の居場所という存在を再認識したのだった。

 

「あ、イッセーちゃん?まだお説教は終わってないからね?」

「……あ、やっぱり?」

 

 ―――俺に逃げ道など存在しないことを知った夜でもあった。

 それから母さんのお説教(延々と息子の可愛さを語る)をして、それに我が第二の母、フェルウェルが俺の中で大はしゃぎになるのは別の話である。


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