ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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【第6章】 体育館裏のホーリー
第1話 新学期の始まりと驚きの連続です!!


 俺、兵藤一誠は限りなく癒しを求める男だ。

 色々と精神的苦痛を味わう俺にとって、癒しというのは重要かつ必要不可欠なものであり、それがなくなるということは俺の「死」を意味している……

 なんて冗談?はさておき、俺の癒し的存在であるアーシアは何故か今、俺の部屋の中のベッドで倒れていた。

 倒れている、っていうのは語弊があるかもしれないな。

 ……倒れているのを装っている、というのが正しい。

 

「アーシア?どうした~?」

 

 俺はベッドの上に倒れるアーシアの肩を揺すると、するとアーシアに手を引っ張られた。

 俺はそれに引き寄せられるようにアーシアの上に覆いかぶさるように倒れ、そしてアーシアは至近距離で俺に何かを言ってきた。

 

「はふぅぅ……あぁ、イッセーさんだぁ……」

「…………アーシア?酔ってる?もしかして酔っぱらってる?」

「酔ってなんてないれすぅ……チュ~」

 

 するとアーシアは頬を赤く染めて、呂律の回っていない状態で俺にキスをしてこようとする!!

 酔ってんじゃん!!普通に酔ってますよ、アーシアちゃん!!

 

「おい、誰だ!アーシアに酒なんて飲ました奴は!!」

「にゃはははは!!ハイハーイ、私だよ~~~」

 

 ……するとベッドの脇から一人の黒髪で着物を着た女の子。

 将来の俺の眷属候補、黒歌が笑いながら登場する。

 今の時刻は飯を食い終わって既に9時を回っており、他の皆はお風呂に入っているそうだけど……

 すると黒歌は何やらお酒の空き瓶をクルクルと回しながら笑っていた。

 

「黒歌ぁぁぁ!!!アーシアになんてもんを飲ましてんだよ!!」

「アーシアちんが飲み物を探してたからねぇ?丁度いいところに飲み物があったからあげたにゃ~」

「あげるな!!アーシアは未成年!!ってかなんでそんなものがあるんだよ!」

「フフフ……それはイッセーをこれで酔わして…………その隙に……じゅるり……」

 

 …………黒歌の舌なめずりを見て、俺は冷や汗を掻いた。

 ―――こいつの目はマジだ。

 マジで俺を酔わせて何かする気だと俺は確信した。

 

「イッセーさぁん……服脱いで一緒にぃぃ……」

「ちょ、アーシア!?首に腕を回すの止めてぇぇぇ!!」

「むむ……アーシアちんも中々やるなぁ……私も仲間に入れてー!!!」

 

 すると黒歌が必要最低限の装備(パンツのみ)でベッドにダイブしてくる!!

 何考えてんだよ、この馬鹿猫がぁぁぁぁぁ!!!

 

「将来的にイッセーの眷属が内定してる私は、そろそろ既成事実が欲しいにゃ~♪えっちしよ?」

「可愛く首を傾げてもダメに決まってんだろォォォォ!!!そういうのはもっと深い仲になってから」

「じゃあ深い仲になろうよぉぉぉ!!!」

 

 すると黒歌まで俺に抱き着いてくる!!

 ちょ、待ってね!?

 黒歌のスタイルってもんは、俺から見ても爆発的なものなんだ!!

 下手すりゃ部長や朱乃さんと同等、むしろそれ以上なんだ!!

 しかも二人よりも甘えるのが上手という武器を持っていて、いかに俺が理性が強いだろうが……やばい。

 顔が熱くなってきた。

 

「あ、ちなみにイッセーのご飯の中に時間差で来る微量の媚薬を少々……」

「おい、今なんて言った!媚薬!?」

 

 俺は黒歌の言葉をしっかりと聞いた!

 道理で体が熱いわけだよ、コノヤロー!!

 

「むぅぅぅ……イッセーしゃん、黒歌しゃんだけと仲良くはダメれすぅぅ……私とも……仲良く………………すぅ、すぅ……」

 

 ……するとアーシアは規則正しい寝息を漏らしながら眠り始めた。

 うん、この寝顔を俺は一生守り続けたい!!

 そんなことを思いながら、俺はアーシアに布団をかぶせてあげた。

 

「……この眷属でやばいのは白音とアーシアちんかな?イッセー、ロリコン?」

「甘い、甘いぞ黒歌……俺は俺を癒してくれる存在が良いんだ。それが結果的にアーシアや小猫ちゃん、チビドラゴンズだっただけで、俺はロリコンなわけではない!ちなみに黒歌は最近、悪戯ばっかしてくるだけで十分俺の癒しだよ」

「……………………たまにイッセーは、無意識に堕としに掛かるにゃん」

 

 すると黒歌はちょっと顔を赤くして、俺から視線を外して脱ぎ去った着物を再び着る。

 なんだ、冗談だったのか?

 

「にゃふふ……今、冗談って思ったでしょう?違うにゃん……イッセーはお淑やかで素直に甘えてくれるタイプの女の子が好きと分かったから、それに合わせているだけにゃん!!」

「…………はぁ、まあそれが黒歌だよな」

「溜息はひどいにゃん!?」

 

 黒歌は俺の反応を見て、そうツッコんでくる。

 まあ、でも……

 

「合わせないでも、俺が好きなのはタイプじゃなく、その人自身だから……黒歌も好きだよ、色々な意味で」

「……色々な意味がなかったら、イッセーを襲っていたとこにゃん」

 

 ……うん、セリフのチョイスは正解で良かった。

 一歩間違えればそのままベッドに押し倒される→そのまま仙術で拘束→頂かれる、までのコンボが発動してしまうから。

 

「……でも確かにアーシアちんは可愛いよね……なんか、この眷属内でもある意味頭一つぬけてるというか、特別イッセーが気に入っているっていうか」

「別にそんなことないと思うけど……」

 

 ……アーシアは大切な存在だ。

 絶対に守る存在で、出来ることならずっと傍に居たい。

 悲しんでいたら頭を撫でるし、姿を見れば話しかける。

 俺もたまに甘えるし、話していても話が尽きることはない。

 

「何ていうかにゃ~?イッセーとアーシアちんって私と白音並に似合ってるにゃ。これは自画自賛じゃなくて、もうずっと昔から一緒にいる二人みたいな?」

「……よくわからないな。とにかく――――――この寝顔、写真撮っても良いかな?」

「………………笑顔で許してくれるにゃん」

 

 ……俺は呆れた顔を黒歌にされるのだった。

 ちなみに寝顔は俺の脳内に厳重に保存しました!

 ―――なんて馬鹿なことをする間に、俺は寝てしまったアーシアに布団をかけて、あり得ないほどでかくなった自分の部屋のソファーに腰かける。

 隣にはきっちり黒歌が居て、距離が数センチもない上に体をくっ付けてくる!!

 

「く、黒歌は明日から駒王学園に転入だよな?」

「そうだよ?流石に白音と同じ学年は無理があるから、一個上の学年……イッセーと同じ学年にゃん」

 

 黒歌は前回のガルブルト・マモンの一件で指名手配が解除され、今は俺の保護という形で兵藤家に居候している。

 部長の計らいで駒王学園の2年生に転入することになっており、明日の始業式に合わせて転入する。

 

「クラスはイッセーと同じがいいな~……本当は白音とも同じクラスが良いんだけど……お昼休みとか、白音のところに遊びに行っていいよね?」

「ああ。その時は俺も行くよ。黒歌だけじゃあ不安だから」

 

 ……暴走しそうだし。

 黒歌ってめちゃめちゃシスコンな上に、小猫ちゃんに不用意に近づく男子を排除しそうだし……俺も許さないけども!

 ………………今更ながら、俺って意外と独占欲強いのか?

 

「私には王子様の付き添いはいらないよ?そんなキャラでもないし」

「黒歌も女の子だろ?似合わないもなにも、初めからお姫様だし………………ってどうした?」

 

 俺は顔を真っ赤にした黒歌の珍しい表情を不思議に思いながらも、黒歌の頬を少し触ってそう言うと……

 

「に、にゃん!?」

「あ、悪い……それでどうした?」

 

 俺が黒歌の頬に触れた瞬間、可愛い声音で驚く黒歌……今まで隠していた耳と尻尾が出たな。

 この家では母さんの目があるから、どっちとも隠してたはずなんだけど……まあ似合っている上に可愛いからいいか。

 

「い、イッセーのえぐい角度からの天然はずるいにゃん……悪戯好きはこういう方向からの不意打ちは弱いのに……」

「なにぶつぶつ言ってんだ?」

 

 考えることがあるのか、黒歌はぶつぶつ独り言を言い始める。

 まあとにかく―――その時、部屋の扉が開いた。

 

「むむ、アーシアはここにいたのか」

「ぜ、ゼノヴィア先輩……ノックは必要ですよぉ……」

 

 そこにはパジャマ姿の風呂上りのゼノヴィアとギャスパーの姿……ギャスパーはフリフリで、ゼノヴィアは何ともまあシンプルな青色のパジャマだ。

 ってか最近、風呂上がったら絶対に一人は俺の部屋に来るっていう決まりでもあるのか?

 そしてギャスパー……お前だけだよ、そんな当たり前な常識を言ってくれるのは……これで俺の血を頻繁に飲みにこなければッ!!

 ギャスパーが俺に血を望むときは決まって貧血になる寸前まで飲まれるからな……ギャスパー曰く、「奇跡の血液」らしい。

 何でも何年も置き続け、最高の状態になった最高級のワイン以上のものらしい……なんでワインで例えたのかは知らないが。

 

「まあとにかくイッセー、先にお風呂に入ったらどうだ?もう全員出たらしいから」

「おう……って黒歌、何で付いてきてんだ?お前、もう入っただろう?」

 

 俺は立ち上がって着替えを持って部屋から出て行こうとするとき、後ろから付いてくる黒歌にそう言った。

 

「気にしない、気にしない♪」

「………………」

 

 ―――そーか、そーか……こいつはちょっとだけお話(説教)が必要なようだな。

 俺は黒歌と肩を組んでそのまま―――

 

「にゃん!?い、イッセー!?そ、それはちょっと洒落にならにゃいぃぃぃ!!!」

「ああ、そうだろう?懲りたら風呂場までついて来ようとするなよ?な?俺の可愛い眷属候補ならわかるよな?」

「わ、分かったから止めてにゃぁぁぁ!!!」

 

 ……ふふ、黒歌は昔からな―――首元に息を吹きかけられるのが弱いんだ!!

 肩を組んでぎっちりホールドしたら逃げられるまい!

 ささやかな俺のやり返しだ、おらぁぁぁぁ!!!!

 

『うぅぅ……相棒が日に日に口が悪くなっている…………何故だ、あの可愛い頃の相棒が…………』

『いえ、親とするならば、子供の成長を悲しくも喜ぶのです……それが親の使命。親とは、子の成長に涙し、笑みを見せるもの……ふふ、辛い定めです』

『やはりか……フェルウェルよ。お前には色々と教えられるな……』

『いえ。わたくしも貴方に教えられることもあります……流石はパパドラゴン』

 

 ……なんか、親の道を語ってんぞ、夫婦ドラゴンが。

 

『『夫婦などではない!!!』』

 

 ……うん、とにかく仲が良いことは分かったから、もう何でもいいから俺の奥で話しておいて?

 

「だ、め……イ、ッセェェェ……それ以上は……ダメェェ……」

 

 …………あ、放置していたせいで黒歌が痙攣を起こしたようにぐったりしていた。

 とりあえず俺は肩を組むのを止めて、介抱をゼノヴィアとギャスパーに任せてそのまま逃げるように風呂場に向かうのだった。

 

 ―・・・

 異様なほどに改築された兵藤家の風呂場は当然のように巨大になっている。

 もう露天風呂のようなレベルな上に、サウナまでついてるからな……地下にはプール、屋上には家庭菜園のスペース。

 が、俺が使うのは基本的には新しく出来た風呂ではなく、今まであった普通のサイズのお風呂だ。

 …………冗談ではなく、大きな風呂に入っていたら誰かが絶対に入ってくる。

 それも偶然を装い、だ。

 一度露天風呂に入ってたら朱乃さんが乱入してきたからな……それから基本的に俺はこの馴染みのお風呂に入っているわけだ。

 

「……あれは」

 

 俺は風呂に向かう最中、リビングを抜け玄関の近くを通ったとき、あるものを見て苦笑いする。

 …………玄関先に積みに積まれた豪華な箱の数々。

 まるでプレゼントを贈るときの紙に包まれていて、それは全て同じ人物からの同じ人物への贈り物だ。

 

「あら、イッセー。お風呂に入るのかしら?」

 

 するとエレベーターが開き、そこからパジャマ姿の部長が現れる。

 ……せめて寝る前までは下着をつけましょうよ…………半分諦める形で視線を送りつつ、俺は部長に尋ねた。

 

「部長、これはあのフラれ……ディオドラ・アスタロトからアーシアに対するプレゼントですか?」

「ええ……彼も困ったものね。もう木端微塵に振られているのにこんな悪足掻き……アーシアはしっかりと自分の気持ちを伝えて振ったのにね」

「優しいアーシアじゃあ絶対に即答はしないのに、アーシアは頑張ったんですけどね」

 

 ……ディオドラ・アスタロト。

 若手悪魔の一人で、そして合宿から帰ってきたところを待ち伏せて、そして急に現れてアーシアに求婚。

 そして呆気なくフラれた残念な悪魔だ。

 にも関わらず未だにアーシアにプレゼントを贈ったり、デートに誘おうとする始末……正直、あいつには困っている。

 アーシアはこれのせいで笑顔を見せながらもストレスは溜まっているし、他の眷属の皆も困っている。

 アーシアのストレスは前の祐斗と俺、アーシアとでの北欧旅行でほとんど消えたけど……代わりに大変な爆弾が投下したんだが……思い出したくもない!

 とにかくディオドラには俺たちは本当に困っているんだ。

 

「それにあいつ、分かってないんですかね?一度拒否されてるのにこんなにもので釣ろうとしたら、普通の女の子だったらまず一発で嫌いになるのに」

「ちなみにイッセーならどうするの?」

「…………恋人は無理でも、友達になりますかね?」

「……普通は友達になろうとも思わないけど、まあディオドラよりは健全ね」

 

 部長は少し苦笑いをして、積み上げられた箱を小突く。

 

「私なら一発でお断りだわ。こんなの受け取って喜ぶなんて絶対にあり得ないわ。アーシアは優しいから何も言わないけど、アーシアだって迷惑しているもの」

「……とりあえず、俺は先に風呂に行ってきます。俺の部屋でアーシアが寝てますけど、自分の部屋に戻しておいてもらえますか?」

「……そう。ええ、分かったわ」

 

 ……っとのことで俺は部長と別れ、そのまま風呂場に行って脱衣所で服を脱ぎ、そのまま風呂場に突入する。

 その数分後………………

 

「はぁぁぁ……良い湯だなぁぁぁ……」

 

 俺はリラックスするように足を伸ばし、そう言葉を漏らした。

 連日で旅行に行ったのは良いものの、代わりに凄まじいほどの疲れることに遭遇したからな。

 こうやってのんびりするのも久しぶりな気がする。

 

「そう。我、イッセーとお風呂、気持ちいい」

「そうか、そうかぁ……風呂は良いよな~―――それでなんでここにいるのかな?オーフィス?」

 

 俺は特に驚くことなく体重をかけて一緒に湯船につかるオーフィスの頭を撫でながら、そう尋ねた。

 もうオーフィスに至っては驚くことの方が疲れるし、割と気配なしでいつの間にかいることも多々だからな。

 

「我、イッセーの傍に居たい。ダメ?」

「ダメじゃないよ~」

 

 ……随分とまあ軽い口調でそう言ったもんだな、俺。

 そうするとオーフィスは俺の体にスリスリと自分の体を押し当ててくる。

 

「どうした、オーフィス?」

「……イッセー、反応しない。何故?」

「どこ見て言ってんだ、おい」

 

 俺の下半身を見てそう呟くオーフィスの頭を小突く。

 ったく、せっかくのんびりモードだったのに一発で元通りになったじゃんか!

 

「それで?なんで風呂に突入したんだ?それとそろそろ体を擦り合わせるのは止めろ、限界だ!」

「…………仕方ない」

 

 するとオーフィスは擦り合わせるのは止めたものの、体育座りをしながらチョコンと俺の太ももの上に座った。

 

「最近、我、イッセーと触れ合ってない」

「まあ確かにな。俺は旅行に行ってたし、オーフィスは用事やらで家に居なかっただろ?何してたんだよ」

「………………ヴリトラ、殲滅」

 

 ………………その言葉を聞いた瞬間、俺の頭には笑顔で俺に手を振りながら空へと昇って行く匙の姿が廻った。

 きっと、あいつはこう言っているはずだな……『イッセー、俺、星屑になったよ~、妹は馬鹿にしてはいけないんだな~、さようなら~』って。

 ―――本気であり得そうだから、明日あいつの様子を見に行こうと思う俺なのであった。

 

「……イッセー、力、跳ね上がってる」

 

 するとオーフィスは俺の胸を手の平で抑えながらそう呟いた。

 

「俺の力が?」

「そう……神器じゃない。根本的、身体能力、跳ね上がってる。オーラが数段階、上がってる」

 

 ……それを聞いて少し驚く。

 確かに前の夏合宿は色々あったからな。

 ガルブルト・マモンとの戦い、匙とのゲームでの拳のぶつけ合い。

 修行の経験値とそれらの事柄が結果的に俺の最終目標だった創造神器の禁手化、特に白銀龍帝の籠手(ブーステッド・シルヴァーギア)を禁手させることに成功した。

 通常の籠手の約数倍の厚さの龍のような腕である左右一組の腕、白銀龍帝の双龍腕(シルヴァルド・ツイン・ブーストアームド)

 非常に燃費の良い禁手で、肩から手にかけ、一定間隔で埋め込まれている白銀の宝玉を一つ代償にすることで、その時点の俺の限界倍増の力を一瞬で手に入れれる力だ。

 タイムラグなしで、しかも負担も軽減されているからかなり使い勝手が良い。

 ただ禁手に至らせるまでに多少の時間を要するのが唯一の欠点だけど、赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)を使えばそれも解消される。

 それにまだまだ力を隠していそうだからな。

 相当期待の大きい神器だ。

 

「……龍王に近い、またはそれ以上。でも、力に飲み込まれるの、ダメ」

「分かってるよ。力になんて飲み込まれたりしない……それが駄目だってことは俺が一番良く知っているからさ」

 

 俺は心配そうに俺を見てくるオーフィスの頭をそっと撫でながら宥めた。

 …………過去の赤龍帝はその絶大な力に溺れ、最終的に力に支配されてその身を滅ぼした。

 その後悔や怨念が神器に意識として残り、それが覇龍なんてものを生み出してしまったんだ。

 力なんて、そんなものはオプションにしか過ぎない。

 必要なのはその力を得るまでの過程なんだ。

 どれだけ努力したか、それがあれば力に溺れることなんてない。

 たぶん、歴代の赤龍帝はそれがなかったんだろうな……突然、人外の力を得て、そしてその力を振るった。

 俺は元が最悪だった上に自分の体を鍛える他、これを使いこなす術がなかったから努力に努力を重ねただけで、才能があれば歴代のようになっていたのかもしれない。

 ……そう思うと、ミリーシェはすごいよな。

 あれほどの才能に恵まれていたのに、力なんてどうだって良いって割り切っていたんだから。

 あいつみたいなのが、本当に強い奴なんだろう。

 

「……イッセー、すごく、悲しそうな顔、してる」

 

 するとオーフィスは俺の頬を両手で触り、少し心配をするような表情をしていた。

 ……悲しそう、か。

 

「ちょっとだけ、昔のことを思い出しただけだよ」

 

 やっぱり、まだ俺は過去を払拭する事が出来てない、か。

 そりゃそうだ……あんなことを簡単に拭い去ることが出来るわけがない。

 ミリーシェを殺した奴だって、姿もその尻尾すら掴めてないんだ。

 ―――仮に、その正体を俺が知ったとしたら、俺はどうするんだ?

 怒りに狂うか?それとも復讐なんてことを止めるのか?

 …………分からない。

 下手をすればまたあの力を……覇龍を無意識に使うかもしれない。

 あんなものは使いたくないが、でも―――俺の負の部分に触れるあの黒い影が現れたら、俺の理性は保てるのか?

 

「俺の秘密主義もここまでくればあれだな…………キツイものがあるな」

 

 俺は天井を見上げてそう呟いた。

 ……俺は他人の気持ちを知りたがる癖に、そのくせ自分はさらけ出さない。

 皆を守るけど、自分の心を表には出さない。

 何でだろうな……俺が前代の赤龍帝ってことを言っても、信じてもらえないと思っているからか?

 それとも……本当は自分が被っている仮面を外したくないだけなのかもしれない。

 他人の仮面は剥ぎ取るけど、皆に恰好悪いところを、醜い部分を見せたくないんだ。

 自分をさらけ出せば、周りが離れていくと思ってしまうから……昔のように、本当にミリーシェしかいなくなって、そして彼女と同じように……いなくなってしまうと思うから。

 ―――いい加減、そんな自分に嫌気がさした。

 だからこそ、自分の殻を破るために俺の力は進化し始めたのかもしれない。

 

「ありがと、オーフィス。俺もなんとなく分かった気がするよ」

 

 俺はオーフィスの頭を再度撫でて、風呂場から出ようとする……っとその時、オーフィスは俺の背中に抱き着いた。

 

「……イッセー。我、家族…………ドラゴンファミリー、絶対、イッセーの味方」

「分かってるよ―――ありがと、オーフィス」

 

 俺は振り向かずそのまま風呂場から出て脱衣所に行って服を着た。

 ……皆が俺に好意を向けてくれている。

 そんなことはとっくに分かっている。

 それでも俺がその想いに、気持ちに応えないのは……失うのが、怖いから。

 本気で好きになって、またそれを失うのが怖いから。

 今まで俺の好きになった奴はみんな死んだ。

 ミリーシェだって、俺は兵藤一誠になる前に何人も大切だった仲間を失っている。

 だからこそ……怖い。

 それをさせないために全部守るために……そうするために俺は力を望んでいる。

 守るための力、命を賭けて誰かを守りたい。

 俺の周りの、手の平で収まるくらいの皆を守って、共に生きていきたい。

 

「―――俺は変わりたい。弱い自分を、変えたいんだな」

 

 そう呟き、俺は脱衣所から出ていくのだった。

 

 ―・・・

 翌日、俺とアーシアは日直の仕事があるため先に学校に向かっていた。

 久しぶりの学校、ついでにアーシアと二人での登校ってのも久しぶりだ。

 

「イッセーさん!今日から新学期ですよ!!」

「はは。アーシアは朝から元気だな」

 

 俺の前をスキップしながら歩くアーシア。

 まあ久しぶりに学校の皆と会えるからか、多少テンションが上がってるんだろうな。

 本当は俺は黒歌と一緒に行こうかと思っていたけど、日直だからゼノヴィアに昨日の晩に頼んだ。

 

「そう言えば桐生さんから昨日電話がありました」

「桐生から?」

「はい……それが、なんか面白い噂話というか、都市伝説?みたいなことを言ってまして……」

 

 アーシアの口から都市伝説って言葉が出るとはな。

 でも桐生か……奴はアーシアに良からぬことばかりを吹き込む不届きものだからな!

 

「それでどんな話な」

「ふふふ、それは皆のアイドル、桐生藍華ちゃんが教えて進ぜよう!!」

 

 ……突如、俺たちの後ろから現れる黙っていれば眼鏡系美少女、桐生藍華がそんなことを言いながら俺たちの前に現れた。

 

「アイドルっていうか、変態じゃね?」

「あ、あはは……」

「ひ、兵藤!?私をあんな松田や元浜と一緒にしないでもらえるかな!?アーシアも愛想笑いでごまかしちゃダメでしょ!!」

 

 普段の行いを悔い改めろ、俺はそう心の中で思った。

 

「まあいいわ。それで都市伝説よね?」

「ああ。お前がわざわざアーシアに話すくらいだからな。結構興味ある」

「都市伝説っていうか、何か一種の病気みたいなものなんだけどねぇ……都市伝説”他人の心が乗り移る欠片”!!」

 

 ……他人の心が乗り移る欠片?

 そんなことを桐生は言ってきた。

 

「これ、最近結構有名になってる話なのよ?なんでも、その他人の心ってのは女の残留思念らしくて、その心に乗り移られると誰かを唐突に好きになったり、好きな気持ちが歪んで犯罪まがいなことを起こしてしまう……どう?ある意味、怖いでしょ?」

「いや、まあ怖いけど…………都市伝説って言うほどのものか?そりゃあ人を好きになれば歪んだ部分も出てくるだろ?」

「そ!だから都市伝説と言うよりかは一種の病気!恋の病?みたいな感じかなって思ってねぇ」

 

 桐生にしては上手いこと言ってるな。

 確かにそれは都市伝説っていうより恋の病だ。

 

「まあ?どれだけ信憑性を持ってる噂かどうかは分からないけど、まあここに約一名、絶賛恋の病に犯されている末期患者いるけどねぇ~~~」

「う、うぅぅぅ……」

 

 桐生はアーシアに悪戯な視線を送りながらそんなことを言った。

 それによってアーシアは顔を真っ赤にして俺の方を見てくる……おい、そんな保護欲を掻きたてる表情で俺を見るな!

 って俺て手が勝手に動く!?

 自然とアーシアの頭に手が向かって、そのまま俺は撫で始める……なんだ、これ。

 

「ほうほう……イッセーも中々やるね!それにアーシアのその表情も卑怯よねぇ~。男の感情を弄ぶ天然の魔性?みたいな」

「おい、純真で可憐なアーシアを小悪魔呼ばわりするな!」

 

 悪魔だけど!!

 心は天使なんだよ、アーシアは!!そりゃ愛しい存在だよ!!

 

「は、はぅ!!純真で、可憐で、愛しいだなんて……」

「うん、愛しいは声には出してないよな?まさか俺の心を読んだのか!?」

 

 ……ってなわけで新学期早々、早くも騒々しい朝の幕開けだった。

 

「それはそうと、今日うちの学年に二人の転校生と新しい先生が来るみたいよ?」

 

 ―――新しい先生と転入生二人?

 これはまた変な時期に新任の先生か……転校生の一人は黒歌だろうけど。

 

「もしかしたらうちのクラスに集まるかもねぇ……何故か転校生は十中八九、私たちのクラスに来るし」

「アーシアとかゼノヴィアか?まあ確かにな」

 

 実際には部長のコネで俺のいるクラスに入れただけだけどな?

 ―――俺はこの時、気付くべきだった。

 この転校生と新任教師という単語で、想定しておくべきだった。

 そんなことはいざ知らず、俺たちはそのまま和気藹々と学校に向かうのだった。

 

 ―・・・

「初めまして、塔城黒歌と申します。どうかよろしくお願いありんす」

「初めましてー!紫藤イリナです!!イリナって呼んでね~!!」

 

 ……新学期が始まり、いつもの顔ぶれと軽く挨拶をかわしHRとなった少し前。

 俺たちの担任が転校生のことを言ったのが数分前。

 そして後ろの方にある俺の席に視線を送る二人の顔見知りの女の子が教室の前で挨拶したのが現在だ。

 俺の目の前には駒王学園の女子生徒の制服を身に纏う黒歌とイリナの姿があり……って何だ、それ!?

 黒歌は良い!!言葉遣いが何故か似非京都風になっているのは何とか目を瞑ろう!

 だけどなんで天界サイドの人間であるイリナがいるんだ!?

 

「えぇ~っと、紫藤さんと塔城さんは兵藤と縁があるそうだから、何かあったら兵藤に聞きなさい」

「「はい!!」」

 

 元気の良い声ありがとう!!

 これは後で全力で尋問だ!!

 そう思いつつ、俺はにこやかに二人に笑顔を送るのだった。

 ……そしてその数分後。

 

「塔城ってことは黒歌さんはあの小猫ちゃんのお姉さんなの!?」

「そうだにゃ~♪白音は可愛いよね~」

「紫藤さんは兵藤君とどういう仲なの?」

「幼馴染だよ!小さいころから仲良しなんだ~」

 

 ……休み時間となった現在、黒歌とイリナの周りには女子生徒がたくさんいる。

 二人のコミュニケーション能力は高く、既に仲良さげに色々と話している……のは良いんだけど、俺はそれを遠巻きにアーシア、ゼノヴィアと見ていた。

 

「……イッセー、イリナは何故ここにいるんだい?いつかはイリナと再び顔を合わせるとは思っていたが、まさかこんな形で……」

「今更ながらあの時のまた今度ねってこのことだったのか……っていうか、あの野郎、一本も連絡を寄越さないとはな」

 

 俺は遠巻きで奴を睨むと、すると俺の後方から殺気が!!

 俺はその方向に即座に拳を放つと……

 

「あぶしッ!?」

「へぶッ!!?」

 

 ……そこには俺に殴られ、その場に倒れる松田、元浜の姿があった。

 

「よぉ、松田、元浜。随分なご挨拶だな?あぁん?」

「くっ!新学期に入って元より拍車が掛かって体がガッシリした上に幼馴染と黒髪爆乳美少女と知り合いだと!?ふざけるな、イッセェェェェェ!!!」

「何故だぁぁぁ!!!なぜイッセーと我らでそこまでの差が!!」

 

 松田と元浜は号泣しながら駄々っ子のようにそう喚く……こいつら、やっぱり駄目だったのか?

 

「それで女の一人でも出来たのか?」

「うぅぅぅぅぅ……嫌味なのか?それは嫌味だろ…………何が色々と進む夏だ!!他の男子は俺は卒業しましたって顔しやがって!!おい、田中!!こっちをニヤニヤしながら見んじゃねぇぇ!!!」

「荒れてるな、松田……」

 

 俺はマジで号泣している松田の肩をポンポンと叩く。

 っと、そろそろイリナに話を聞かねぇと。

 そう思い、俺はイリナの方に近づいた。

 

「イリナ、黒歌。ちょっと良いか?」

「あ、イッセー君。あの時ぶりだね、お久しぶり~!ゼノヴィアも!!」

「どうしたにゃん、イッセー?」

 

 うわぁ、こいつらの雰囲気、若干似てるところあるから一気に相手するのは面倒だなぁ……とりあえず俺は二人を連れて人気のないところに連れていく。

 俺の周りにはアーシア、ゼノヴィアもいて、そのまま二人と対面した。

 

「まあ黒歌が同じクラスなのかは何となくそうなるかなって思ってたからいい。だけどイリナ、どうしてお前がここにいるんだ?」

「あ、それはまた放課後にオカルト研究部の方にお邪魔するから、その時に説明するわ!」

 

 ……なんか納得できないんだけど、まあ良いか。

 ―――っていうか、どうしてかイリナから感じる聖なるオーラの純度が高くなっているような気がするのは気のせいか?

 

「っていうか黒歌。さっきの良く分からない言葉遣いは何だ?」

「あれ?第一印象が大事と白音に言われまして……にゃは♪」

 

 ……可愛くウインクする黒歌を可愛いと思ってしまう自分が悔しいッ!!

 何ていうか、黒歌はある意味で小猫ちゃんよりも破壊力のある可愛さを持っているかもしれないな。

 明らかに可憐さでは小猫ちゃんが圧勝しているようにみえるが、実際のところこの両者に差はない。

 むしろ黒歌のギャップ差にやられる男子も少なくはないはずだ。

 これで暴走がなければ問題はないけど……考えるだけ無駄か。

 

「まあいっか……にしても俺たちのクラスにここまで転校生を集める、ねぇ……元々人数が少ないクラスだったのもあるだろうけど」

 

 アーシア、ゼノヴィアに続き黒歌、イリナまで俺たちのクラス入りか。

 何ともまあ騒がしいクラスになったもんだ。

 でも黒歌もイリナも社交性は抜群だからすぐに馴染めると思うし、それにうちのクラスはノリが良く、良い奴が多いからな。

 一応、部長にメールで聞いておくか。

 俺はそう思い、イリナの件に対することを文面化して部長にメールで送信した。

 そして数分でメールは返事が来た……えっと、何々?

『色々と話すことがあるから放課後に部室まで案内をお願い出来るかしら?黒歌も連れて来て頂戴』っていう内容だ。

 とりあえずは…………っと、次の授業は体育だったな。

 

「じゃあアーシアにゼノヴィア、二人をよろしく頼むな?今から体育だから二人の案内をしてやってくれ」

「はい!イリナさん、黒歌さん!更衣室はこちらです!」

 

 何故かアーシアは嬉しそうな笑顔を見せながらイリナと黒歌を連れて更衣室へと向かっていく。

 ……なんであんなに嬉しそうなんだ?

 そんなことを思いつつ、俺も体操服に着替えてさっさと運動場に向かうのだった。

 

 ―・・・

 駒王学園の体育の授業は少し面白いシステムだ。

 2クラス合同の体育の授業なんだけど、クラスの時間割を時折変更し、年を通して全てのクラスと合同出来るように授業を進めるんだ。

 だから男子数が極端に少ない男子生徒にとって交友関係が広くなる良い機会で、俺も仲良くなろうと積極的に話しかける。

 今日は確か匙のクラスと合同の体育のはずだ。

 そう思いつつ俺は匙を探して辺りを見渡すと……確かに匙はいた。

 そう―――体の数か所に傷テープやら包帯を包んでいる姿で。

 ……そう言えばオーフィスが言ってたな。

「………………ヴリトラ、殲滅」って言ってたけど、まさか本当に殲滅したとは思わなかった。

 

「おっす、匙!元気か?」

 

 俺は敢えてそう聞くと、匙はビクッと振り返り、そして俺の顔を見て少し涙を流し始めた。

 

「い、イッセー…………もう、俺死んじゃうのかな?」

「………………………………………………今日、飯奢ってやるよ。うん……とりあえず涙を拭けよ」

 

 俺は本気で涙してそんな悲しいことを真剣に聞いてくる匙の肩に手を置き、そう言うと匙は次は号泣する。

 ―――オーフィスにティア、いったい匙に何したんだよ!?

 

「聞いてくれるか、イッセー」

「ああ。当然だ―――俺もあいつらに地獄を見せられた仲間だ!」

 

 匙にそう言うと、匙は自分の身に何が起こったかを話してくれた。

 要約すると、俺とアーシア祐斗が北欧旅行に行っているとき、匙は生徒会室で眷属の皆と新学期に向け仕事をしていたらしい。

 するとドラゴンファミリーの面々が現れ(夜刀さんも)、突如匙をあるところへ連れて行ったそうだ。

 ドラゴンファミリーのメンバーは会長には匙に稽古をつけてやると言って、会長はそれを承諾。

 そして匙は……

 

「お前、あんなことを2週間もしていたんだな……刀を持ったドラゴンの兄ちゃんは木場なんか目じゃないレベルの速度で無双してくるし、ティアマット様はいつまでも追いかけてくるし!!!オーフィス様のデコピンで木々が何本も消え去るって本当にチートかよ!!!………………イッセー、俺は今から過去に戻れるならあの発言を言い直したいよ……」

 

 ってな具合で叫んだり、沈んだり、何とも言えない状態で話してくれた。

 これはあれだ……一生もののトラウマだろうな。

 でもな、匙―――俺はもっとすごかったぜ?

 何せ更に殺しにかかるドラゴンの皆様、更にはタンニーンのじいちゃんまでも居た生活を山の中で2週間以上していたからな。

 ……思い出すだけで凍えそうになる。

 

「おーい、兵藤兄貴!出番だぜ!」

「おう。じゃあ匙、俺は番が回ってきたから」

 

 ちなみに今日の体育は野球で、俺は呼んでくれたクラスメイトからバットとヘルメットを受け取り、打席に立った。

 ちなみに兵藤兄貴って言うのは一部の男子から最近になって呼ばれ始めたあだ名なんだけど……とりあえず、俺はバットを構える。

 相手は男子野球部でピッチャーをしているクラスメイト、更に二塁には既に松田が出ていた。

 あいつ、同じチームだったのかよ。

 

「兵藤!普通のスポーツでは負けるが、これでは負けないぞ!!」

「……おう」

 

 ……いや、正直言って今の俺の視力と反応速度は世界最高の投手の投げる球ですら止まっているのと同じなものでな?

 悪魔だからそれも当たり前で、しかも夏の修行で身体能力全般が大幅に上がっているおかげでどんな球でもホームランにしてしまうわけで。

 初めから対等の勝負を人間とは出来なくなってしまっているんだ。

 悪魔になって少し辛いところだな。

 こうやって対等にクラスメイトとスポーツを楽しむことも出来ないからな……かといって、俺はわざと負けるなんて甘いことは出来ない。

 それに手を抜いたら相手にも悪いし……ってことで全力ですることにした。

 

「行くぞ、兵藤ォォォォ!!!!」

 

 ピッチャーがかなりの速度の送球をする。

 ―――結果は明白で、普通にホームランになるのだった。

 

 ―・・・

 時は変わって放課後。

 俺とアーシア、ゼノヴィアはいつも通り部室に向かっていて、そしていつもと違うのはそこに黒歌とイリナがいることだった。

 部室前に着き、俺たちは扉を開けて部室の中に入っていくと、そこには部長、朱乃さん、小猫ちゃん、ギャスパー、祐斗、アザゼル、ガブリエルさんがいた―――って、ガブリエルさん!!?

 俺はまさかの人物の登場に手に持っていた荷物を部室の床に落とし、そのまま目を見開いたまま口を開けて驚く……いや、ホントなんで?

 

「あら。兵藤君はお久しぶりでイリナさん、こんにちは。それ以外は初めましてですね?」

 

 するとガブリエルさんは上品に立ち上がり、そのまま淑女らしくペコリと頭を下げた。

 でも俺の頭の中は混乱し続ける!

 

「あの、イッセーさん?ガブリエルさんってもしかして……」

 

 アーシアが俺の制服の裾を引っ張って恐る恐ると言う風に聞くと……

 

「ええ、アーシア・アルジェントさん。私は熾天使の一人、ガブリエル。お会いできて嬉しく思います」

「い、いえ!!わ、私もお会いできて嬉しいです!!」

「か、かの有名なガブリエル様とこのような場でお会い出来るとは……ああ、主よ……この奇跡をお許しください!」

 

 元教会出身のアーシアとゼノヴィアは本当に嬉しそうにそう言うと、ガブリエルさんは微笑みを見せた。

 

「とりあえずお前は早く入ったらどうだ?」

「お、おう」

 

 俺はアザゼルにそう言われ、戸惑いつつ扉を閉めて室内に入る。

 そして朱乃さんはイリナに特製の紅茶を淹れ、そしてイリナはガブリエルさんの隣に座り俺たちはその場に立って二人を見る。

 ガブリエルさんは前に見た服装と違い、人間界の女性用の白いスーツを着ている……すごい似合ってるけど、何でそんなのを着ているんだ?

 それにイリナだってどうして転入して来たんだ?

 

「どうも、お久しぶりです!この度は天界の者である私をこのオカルト研究部に招待してくれてありがとうございます!」

「ああ、それは良いんだけどさ……なんでここにいるんだ?」

 

 俺はイリナにそう聞くと、するとイリナは突然立ち上がる。

 

「よくぞ聞いてくれたよ、イッセー君!いくね?―――えい!!」

 

 イリナがそう言うと、次の瞬間―――イリナの頭に天の輪、そして背中には純白の翼が生えていた。

 …………え?

 

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇええ!!!!?』

 

 そこにいる俺やアーシア、ゼノヴィアなどとこの状況を飲み込めないものが全員、同時にそう叫んだ!!

 いや、驚くだろ!?

 幼馴染から背中と頭に翼と天輪を装着したんだぞ!?

 驚くわ!

 何のゲームの装備だよ!!天使系統の武器ですか!?

 

「こら、イリナさん。あなたと私は天界からの使者でこの学園に来たんですから、もっと常識ある説明をしてからそれを出しなさい」

 

 するとガブリエルさんが座ったままイリナに睨みを利かせると、イリナはシュンとしてそのままの状態で座りなおした。

 

「こいつは天使化って言ってな。悪魔が人間を転生させるシステムを天界が応用し、実現させた人間を天使に転生させるシステムだ。んで、この娘はそのシステムで天使に転生したってことだろ」

「ええ。イリナさんは御使い(ブレイブ・セイント)として天使になりました」

 

 アザゼルの問いにガブリエルさんが応える……ブレイブ・セイント?

 俺は聞きなれない単語に頭を悩ませていると、するとガブリエルさんは続けて話し続ける。

 

御使い(ブレイブ・セイント)というのは悪魔サイドのイービルピースの天使版と思ってください。悪魔の技術を教えていただき、それにより人間をトランプの札に見立てて転生させるというシステムで、現状では熾天使の4人がそれぞれスペード、ダイア、クローバー、ハートのキングの札であり、人間を天使に転生させて配下と言う形にしているのです」

「イービルピースで言えば熾天使が『王』でそれ以外の駒を人間から転生させようってわけだ。駒が札になったってわけだな。ガブリエルはハート、ミカエルがスペードの札のキングってわけだ―――ったく、天界も面白いことを考えるもんだ。悪魔がチェスなら天使はトランプ。悪魔と堕天使の二つの技術を組み合わせて新しいシステムを創るとは、中々に面白いな」

 

 アザゼル、どこか面白そうな顔してるな。

 まあこいつは研究堅気の堕天使だし、こういう技術ものが大好きだからそれも当然か。

 天使は神が死んだことでこれ以上の天使が生まれなくなった。

 だから人間から天使を転生させ、そして自軍の強化をしようってわけか。

 でもトランプってことは、イリナにも相応の札が渡されてるんだな。

 

「イリナは誰の配下でどの札なんだ?」

「私はミカエル様のエースよ!かの有名なミカエル様のエースなんて、私は幸せよ!!これも神の―――ミカエル様のお導きだわ!!神の不在を知って死ぬほど泣いたけど、これでもう大丈夫よ!!」

「うぅ……分かります、イリナさん」

「分かるぞ、イリナ!!」

 

 アーシアとゼノヴィアはうんうんと頷き、そして三人は手を握り合って共に『ああ、主よ!』と祈った―――これは教会三人娘の結成の瞬間だな……悪魔が混じってるけど。

 ……それにしてもなるほど、イリナはミカエルさんを神のように信仰してるってわけか。

 イリナも中々強いな。

 別れるときは弱弱しかったけど、普通に割り切って考えてる。

 

「いずれはミカエル様は悪魔と天使の異種間のレーティング・ゲームをしたいと仰っていました。未だに両者のトップ陣の一部は三勢力の和平に垣根を訴えるものも多いから、それをゲームというスポーツのような形で発散させようと……」

 

 確かにレーティング・ゲームは命を失うまで戦うわけではないし、殺し合いではないからな。

 そういう意味では不満を発散する良い機会になるだろうけど……でもどうして二人が来たんだろう。

 

「イリナとガブリエルさんはどうしてここに来たんです?」

 

 俺は二人に質問をすると、ガブリエルさんは小さく挙手をした。

 

「三勢力の和平が実現するきっかけとなったこの駒王学園。ここは既に三勢力のバックアップにより成り立っています……ある意味の完全なる中立地帯のような場所です。この学園には悪魔、そして堕天使の総督という現地のサポート要員がいるのに対して天界からは誰もいない……そうミカエルは考えたのです」

「それで私は生徒、ガブリエル様は教師としてこの学園に送られてきたの!」

 

 つまりは新しい教師っていうのがガブリエルさんだってわけか。

 ようやく納得が出来たな。

 確かにここには悪魔、堕天使がいるのに天使がいないのは天界からしたら少し問題なんだろう。

 天使っていうのは堅気の律儀なヒトが多いって話だし、それはミカエルさんの人柄とか性質を鑑みたら理解できる。

 それで送られてきたのがイリナとガブリエルさん。

 でも熾天使を送るとは、ミカエルさんも大胆なことをしたな。

 

「ったく、俺はガブリエルはいらねぇって言ったのにミカエルの野郎、勝手に魔王と話をつけやがって……」

「アザゼル。私には手を出さないでくださいね?えっと……未婚総督アザゼルでしたか?」

「うるせぇぇぇぇぇえええ!!!!それを言うなぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 お、おぉ……アザゼルが手玉に取られるとこを見れるとは。

 ガブリエルさん、ナイスです!っと俺は親指を立ててエールを送るのだった。

 

「ふむふむ……これはすごく勉強になるわ……ここは私が任されているのだから、もっとしっかりしないとッ!」

 

 部長が何やら決心を固めていらっしゃる!

 確かにこの学園を直接任されているのは部長とソーナ会長だからか、すごい張り切ってるな。

 

「に、にゃはは……私は唯一普通の妖怪だから肩身が狭いにゃ……」

 

 すると黒歌は少し苦笑いをしながらそう呟く……っと、小猫ちゃんがそんな黒歌の手をすっと握った。

 

「……大丈夫です。お姉さまには私と先輩がいますから」

「………………もう、可愛いにゃ~!白音~~~!!!」

 

 黒歌はそう励まされたからか、小猫ちゃんの頭をナデナデしながら抱きしめた。

 二人はまたすごい仲良しの姉妹に戻れたんだな、うんうん。

 仲良しが一番、ついでに俺も混ぜてほしいのは内緒だ。

 っていうかあの二人を愛でたい、全力で!

 俺も我慢しているけど、大好きだった黒歌と小猫ちゃんの尻尾やら耳やらを見ていると、すごく触れ合いたい想いが爆発しそうになるんだよな。

 …………ちなみに俺の愛でたいランキングではチビドラゴンズと同等かそれ以上っていうのが素直なところだ。

 

「……イッセーくん?大丈夫かい?」

「―――う、うぉ!!?」

 

 俺は突然祐斗に話しかけられて、一瞬で祐斗から距離を取る。

 …………そりゃあ当たり前って話だ。

 なんたって、旅行の最後にあんなことになったんだからな……帰りの飛行機では何とかアーシアの隣に座り、二人でもうずっと話し込んだ―――そうでもしないと祐斗の魔の手が……くそ、寒気が!!

 

「……祐斗先輩はイッセー先輩に常に3メートルの距離を取ってください」

「うちのイッセーはホモに何てあげないにゃん!!」

 

 するとそんな祐斗と俺の間に俺の愛でたい筆頭、小猫ちゃんと黒歌が立ちふさがる!!

 って黒歌!

 俺がせっかく言葉を濁してたのに、そんなはっきりと!!

 ちなみに祐斗のことはアーシアを介して眷属の皆が知っていることだ。

 

「あはは……良いかい、黒歌さん。僕は男が好きというホモではない―――好きになったのがイッセー君だった。たったそれだけだよ」

「―――重症にゃん!!!!リアスっち!!今すぐこのバカに薬をつけるにゃん!!」

「無理よ……祐斗の目を見なさい。これほどの覚悟の灯った目では薬程度ではどうにも出来ないわ」

 

 部長、ちょっと諦めが入ってませんか!?

 そうしていると眷属メンバーが俺と祐斗の間にバリケードを作り、一致団結して俺に近づかせようとしないようになる。

 ……すごい、普段あれだけ言い合いになるのに共通の敵が出来ると最高のコンビネーションを発動する!

 これをゲームで使えたらすごいことになるんじゃないか?

 

「なるほど……この眷属はイッセーを巡る共通の敵ならば最高のパフォーマンスをすると……これは今後のゲームで使えるな」

 

 アザゼルもどうやら同じことを考えていたようだ。

 

「ガブリエル様、みなさんが仲良くしているから私も混ざっていいと思いますか?」

「ええ。しかしあの少年からは何故か邪なものを感じませんね…………なるほど、それほど純粋な想いというわけですか……ふふ、面白いです」

 

 ……そうなんですか、ガブリエルさん!?

 邪のない純粋な気持ち……それを俺以外の女の子に向けたら良いのに。

 俺はそう思うしかなかった。

 

「これは困ったね。でも皆に聞いてもらいたい―――この気持ちには邪さはないよ。これはむしろ僕は誇るべき想いと断言できるよ。僕がこれほどの熱情に科せられたことは今までに一度もない。故に僕は恥ずかしげもなくイッセー君が好きだと言えるよ」

「むしろここまでくれば清々しいですわね。ですが近づけさせませんわ」

「断罪してくれようか、木場!いいか!!イッセーの貞操は私の物だ!!」

『違うわ!!!!』

 

 凄いな、眷属+イリナの言葉が重なった!!

 っていうかこれは色々と面倒なことになりそうだったから、俺は逃げるようにその場から離脱しようとすると、ダンボールの中に隠れているギャスパーに手を引かれた。

 

「僕は女の子と男の子なので問題ないです!!」

「うん。そう言うセリフはダンボールから出て言おうか?天界が怖いのは分かるけど、あの人たちは怖いヒトじゃないからさ?」

 

 俺はこの中で最も安全なギャスパーの頭を撫でながらそう言うのだった。

 とりあえず今の状況で言えることは……うん、この部室は更ににぎやかになったってことだった。


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