ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第14話 限界を超えて

 俺は赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)を身に纏い、オーラを噴出させる。

 俺たちが今いるこの屋上は俺にとって一番有利な戦場だ。

 魔力弾は放てるし、空だって飛べる。

 俺は鎧を身に纏いつつ、右手には白銀龍帝の籠手(ブーステッド・シルヴァーギア)を装着している。

 鎧とは倍増が別機関で動いているからな……まあ簡単に言えば鎧で制限なしで倍増した力を更に倍に出来るってわけだ。

 

「ば、禁手(バランス・ブレイカー)ッ!!やっぱりそれで来るか!!」

 

 匙は俺の姿を見て目を見開く……フェル、今の俺の具合はどうだ?

 

『はい。絶対に「強化」の力はダメです。あれをすれば昨日の傷が再び開きます。「創造」も抑えた方がよろしいかと……神滅具を具現している状態で別の神器は非常に危険です』

『相棒、アクセルモードに制限をつける―――一度だけだ。それ以上は相棒が持たん』

 

 了解……今ある武器だけで何とかやってやる。

 向こうはフェニックスの涙を使い、既に回復の術がない。

 俺は匙と由良さん、朱乃さんは真羅副会長と対峙する。

 ゼノヴィアは部長とアーシアを護る形でデュランダルを持っている……けど少し体が自由には動かないのか?

 少し苦い表情をしている。

 祐斗と小猫ちゃんは広場で巡さんと仁村さんと交戦中……これが最終決戦だ。

 さて―――相棒、一発のろしを上げるぞ!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

 俺は瞬時に力を倍増させ、そして禁手の力で一瞬で匙の前にたどり着き、そして拳を撃ち放つッ!!

 

「くっ!!反転(リバース)!!!」

 

 すると由良さんはそんなことをしてくる―――無駄だ。

 屋上に俺を連れてきてしまった時点で、相手側にあった俺に対するアドバンテージは失った。

 俺のブーステッド・ギアが封じれたのは、通常の籠手の状態のみ。

 

「たとえ、その反転があなたたちが命を賭けて使う力でもッ!!」

「なっ!?リバースが効かない!?」

 

 由良さんはその真実に恐れおののく。

 …………俺のこの鎧は俺が長い間かけてようやく手に入れれたものだ。

 

「たかが数日で手に入れた力で!!俺の魂の篭ったこの鎧に勝てると思うな!!」

「がぁッ!?」

 

 俺の拳が匙の腹部に突き刺さり、そのまま匙は屋上の車に激突し、更にそれを大破させてフェンスにめり込む。

 すると次は由良さん。

 俺に『戦車』の力と魔力を含んだ拳を放つも、俺はそれを敢えて避けない。

 

「―――小手先ばかりに時間を費やして、自分の体を作るのがおろそかになってる。それじゃダメだッ!!」

 

 俺は由良さんの拳を受けて、そう言い放って匙と同じ方向に由良さんを殴り飛ばす!!

 ……確かに、振動は俺の鎧越しにも伝わってきた。

 だけど、それだけだ。

 全然、匙ほどの力が伝わってこない。

 反転…………その力を何とか使うために修行してきたんだろう。

 だけど反転なんて、所詮は一度限りの不意打ち程度にしか使えない。

 その性質さえ分かってしまえば幾らでも対処の方法はあるし、それに頼り過ぎれば今度は隙が生まれる。

 …………ならば、それに時間を費やすならもっと肉体を強く出来たはずだ。

 

「―――立て、匙…………まだ終わってねぇだろ」

 

 俺は一歩、殴り飛ばした二人に足を進める。

 するとフェンスの方から、ガシャンという音が響き、そしてそこから―――匙が立ち上がっていた。

 

「く……流石は、イッセーだなぁ…………本気でもないのに、どんだけ想いのこもった拳なんだよ……」

 

 ……匙は血反吐を吐き、でも俺の方に向かって歩いてくる。

 おそらく、あいつの捨て身のパワーアップももう続かないはずだ。

 それでもあいつがあれを続けられるのは、まだ立ち上がれるのは…………男の根性だ。

 俺だったらどれだけ殴られても、どんだけ傷つこうとも倒れない。

 それをあいつは俺の前でしてるんだ―――はは、これがガルブルト・マモンが俺を相手にしていた時に感じた恐怖、か。

 怖いな……どんだけ傷ついても立ち上がる。

 想いのために立ち上がるこいつは―――強者だ。

 たとえどれだけ力が離れていようとも、こいつは立ち上がる。

 

「イッセー…………お前は、なんでそんなに油断しねぇんだよ……そんだけの力を持ってんのに、どうして格下の俺にそんな風に―――本気で、相手をしてくれるんだ……」

「―――格下じゃねぇ。お前は強い…………俺が認める。たとえどれだけ傷つこうとも、どれだけ地面を這いつくばっても―――諦めない奴が一番強いんだ!!だからこそ、俺はお前を倒す…………お前の気持ちに応えるために」

「くそ…………くそぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 匙は残る魔力を全て放射し、俺へと黒いラインを10本以上放ってくる!!

 もう避けねぇ……俺もこいつの想いに応えるために―――俺の全てをぶつけてやる!!!

 ――――――その時、俺の心の奥がドクンという音を響かせる。

 

『ま、まさか…………まさかこのタイミングでッ!?こんなことが、あり得るなんて……』

 

 するとフェルはどこか戸惑ったような、しかし少し嬉しそうな声を上げていた。

 

『主様…………主様は超えました―――わたくしの限界、神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)の更なる高みへ!!』

 

 ―――待て、それはまさか…………

 

『はい。主様が掲げた目標の内の最後の一つ―――事実上、あり得ないはずの現象………………すなわち』

 

 フェルが何かを言う前に、俺の右腕の白銀の籠手が光り輝くッ!!

 俺の手は震え、辺りに衝撃波のような風を吹き荒らせ、匙のラインを吹き飛ばすッ!!

 

『……ガルブルト・マモンとの事柄、このゲームが始まってからの様々な事柄……そして何より修行の事柄……その全てが主様の経験となり、そして主様は今、更なる高見への階段を目の前にしています』

 

 ……俺の突然のことに、その場での戦闘は一度中断し、みんなが俺を見ている。

 籠手は更に光り輝く。

 

『わたくしのフォースギアの禁手は今までの前例がないので、至れるのかは現状で分からない。ですが主様は敢えてわたくしではなく、わたくしの力で創った神器に着目しました』

 

 そう……俺はフォースギアを禁手にすることはまだ出来ない。

 だけど創造した神器…………この籠手ならそれが出来ないだろうかと考えた。

 そりゃあ一度創った後に経験を積み、禁手させるまでの時間が数時間しかないならそんなものは不可能だ。

 だけど俺はこれまで様々な経験を積んできた。

 だからこそ可能とは思っていた―――創造した神器のバランス・ブレイク。

 経験したことを全て神器に叩き込み、そして何か劇的な変化を起こして、俺の想いに応えさせる……それが禁手。

 

『形も能力も未知です。彼を倒すのは鎧だけでも十分です―――それでもこの力を使いますか?』

 

 ああ……俺の想いに応えてくれたんだ。

 ならその想いはあいつ―――匙にぶつけねぇといけない。

 

『ならば、ともに―――』

 

 フェルは静かな声でそう言った。

 そして俺はフェルと声を合わせるように―――

 

「『創造神器―――禁手化(バランス・ブレイク)』」

 

 そう言い放った。

 その瞬間、籠手は辺りに白銀の光を放ちながら、次第にそれは形と成す。

 ―――ブーステッド・ギアを複製したこの籠手は俺は普通に鎧になると思っていた。

 だけど違ったようだ。

 まるでこの戦いに応えるように、俺の一番望んでいる形となる。

 それは鋭利な鋭角のフォルムをした腕だ。

 まるでドラゴン……赤き鎧に現れた、美しい光沢の白銀の龍の腕。

 籠手とかなり形状が変わり、腕は太く、更に強大そうなオーラを放っている。

 俺はそれに見惚れた……これはまさしくフェル。

 美しく、崇高な見た目をする白銀のドラゴン。

 その腕は肩から一定の間隔で埋め込まれた宝玉を介して光り、手の甲の大きな宝玉はまるで全ての力を解放するように白銀に点灯する。

 そう、これは―――

 

白銀龍帝の籠手(ブーステッド・シルヴァーギア)の禁手―――白銀龍帝の双龍腕(シルヴァルド・ツイン・ブーストアームド)!!!」

 

 白銀に光り輝く、俺の両腕に装着された左右一組の禁手。

 通常の籠手の数倍もの厚さを誇る硬質で頑丈な―――最強の拳だ。

 

「つ、創った神器を……バランス・ブレイカーにした?」

 

 会長はこっちを見て、目を見開いて驚いている。

 それはその場にいる全員―――呆けてんじゃねぇ。

 そう言おうとした時だった。

 

「呆けるな!!これは本気のバトルだ!!あれは今、初めて使うから隙もある!!力が全てじゃないってガブリエルさんに教えられただろ!?」

 

 ……匙は俺の言いたかったセリフを全て言って、そして俺を睨みつける。

 

「たとえお前がまた強い力を得たとしても、俺は諦めない―――お前が俺だったら、お前がそうするようにな」

「ああ………………行くぞ、匙」

 

 俺は白銀の腕を構えると腕の宝玉が一つ割れ、その突如、一瞬の内に何倍にも凝縮されたような倍増の力が俺の中に廻ったッ!?

 まさかこれは―――倍増の最大限のエネルギーを含んだいくつかの宝玉を破壊し、一瞬で力を解き放つ力なのか?

 しかもこの力はやばい―――鎧と合わせれば、下手すれば「強化」の力なしでも神帝の鎧と同等に戦えるッ!!

 

「一撃で決める」

 

 俺はそう言って、動き出す。

 匙の動きをよく見て、あいつの動きを予測する。

 この力があいつに放てるように、当たるように―――そして

 

「これで終わりだ、匙」

 

 俺は力を解放していない逆の腕で匙を上に殴り上げる!

 匙は空中に浮遊し、俺は鎧の倍増の力を背中の噴射口から噴射し、一瞬で匙の元に移動する。

 

「くそ―――強すぎんだ、ろ……イッセー…………ったく、これだからお前は―――憧れてしまうんだよ……」

「ああ、勝手に憧れろ…………俺はお前の憧れで居続けてやるから―――これで終わりだ!!!」

『Full Boost Impact!!!!!!!』

 

 白銀の腕よりそんな音声が響き、俺は匙へと全力で拳を打ち当てる。

 匙の腹部に拳が埋没し、そして腕の宝玉が白銀に光輝き、そして力は更に大きくなるッ!!

 鎧の倍増の力も更に加え、匙を屋上に向かい殴り飛ばし、そして―――

 

『ソーナ様の「兵士」一名、リタイア』

 

 ……屋上の地面に衝突する前に、匙は光となってリタイアした。

 さっきの攻撃……おそらくその前で既に満身創痍だったはずだ。

 それでもあいつは俺に立ち向かい、戦意を失いかけていた自分の仲間に叱咤をかけて立ち直らせた。

 下ではみんなが未だに戦闘を続けている。

 ゼノヴィアはアーシアを背後に俺が殴り飛ばした由良さんと交戦、朱乃さんは真羅副会長、そして会長は部長―――俺は部長の前に舞い降りた。

 

「匙は倒しました、会長―――これで数はこちらが有利になりました」

「ソーナ…………もうあなたの眷属は全てが満身創痍よ。それでも戦うならば、私はあなたと戦う」

「……そうですね。確かに私達は既に疲弊している…………ですが、私の大切な『兵士』……匙があれだけあなたに喰らいついて、私が諦めるわけには行きません」

 

 ……会長は水を魔力で操作し、そして部長を睨みつける。

 部長は嘆息し、そして俺の前に出る…………と共に、俺は膝をついて鎧を解除する。

 

「はぁ、はぁ…………強がってたけど、あいつもやるなぁ…………俺もそろそろ限界かも……」

 

 ……本音を言えば、俺は昨日の一件はかなり今日も引き摺っていた。

 普通に戦う分には問題ないけど、今回俺はオーバーヒートモード、そして……土壇場で手に入れた白銀の腕を使用し、持てる力を全て使ってあいつを終わらした。

 恐らくは……体力よりも体の中枢を担う神経に負担が掛かっている。

 気が少し乱れているんだろうな……もうこの腕くらいしか使えないぞ。

 

「イッセーさんッ!!」

 

 するとアーシアは俺に駆け寄って回復オーラを俺に浴びせてきた……最小の小さいオーラで瞬間回復。

 回復速度は磨きがかかっていて、反転のことも頭にいれて反転されない範囲で俺を回復した……神経の方もかなり楽になったな。

 ここから俺が出来るのはアーシアの護衛。

 アーシアは各人に回復オーラをすごい速さで放ち、サポートに徹底する。

 回復の出来る俺たちと、疲弊を続ける相手……勝敗は明らかだった。

 そしてその数分後……

 

『ソーナ様のリザインを確認しました。今回のゲームはリアス・グレモリー様眷属の勝利となります』

 

 ……ゲームは幕を閉じたのだった。

 

 ―・・・

『Side:アザゼル』

 俺、アザゼル……いや、その場にいる各勢力のトップ達はそのゲームを見て唖然としていた。

 恐らくこれは俺らだけではない。

 これを見ている最上級悪魔、レーティング・ゲームをする悪魔全体、そして冥界の市民。

 皆が驚いているはずだ。

 始まりは『王』と『王』の読み合い…………これはもう俺からすればプロの戦いと言ってもよかった。

 そしてゲームの進行に伴い、リアスが打った布石という賭け、ソーナの眷属の命を賭けた戦術……たとえ褒められたものではなくても、あいつらの思いがどれだけ大きいかを冥界中に知らしめた。

 その他にも木場の神器の新たなる進化、ゼノヴィアのデュランダルの新たな可能性、小猫の成長、朱乃の雷光、リアスたちにチャンスを作ったギャスパー、王として覚醒したリアス……

 特に匙という男はこの冥界にその名を轟かせたはずだ。

 あの赤龍帝にあれほど喰らいつき、あれだけの想いで命を賭けて戦い続けた。

 ―――そしてそれに全力で応えたイッセーもまた、その存在を冥界どころか全ての勢力に知らしめた。

 正直、鳥肌が立った―――あれほどの不利な戦局で、自分に不利な攻撃をされてもなおあいつは自分の力を最大限に使って相手を撃退した。

 昨日の件が未だに響いているのにも関わらず……しかもあいつが掲げた馬鹿げた目標すらも突破しちまった。

 あいつは今回のゲームで魅せた。

 その可能性とゲームの面白さ…………俺はこのゲームを評価できない。

 どっちの眷属も素晴らしすぎる……そう思わせるほどの好カードだった。

 

「…………これはどうするべきだろう……どちらの眷属も申し分ない。これを見ている冥界放送の視聴率が最高80%を超えたそうだ」

 

 するとサーゼクスは俺の隣でそんなことを言ってきた。

 ……おおよそほとんどの悪魔はこれを見てたんだな。

 

「正直、若手悪魔でこんなゲームを見ることが出来るとは思わなかった。どちらも一歩も引かないゲーム。ただ勝敗を分けたのは最後の一手を読んだリアスと、そのきっかけを作ったギャスパー君だろうね」

「……サーゼクス、あの兵士の二人、名を何と申した?」

 

 するとめちゃめちゃ顔を真っ赤にしてキャーキャー言っているヴァルキリーの横にいるオーディンが、面白いものを見たような顔をしてサーゼクスにそう尋ねた。

 

「リアスの『兵士』の兵藤一誠君と、ソーナの『兵士』の匙元士郎です」

「そうか…………あの二人、大事にするが良い。ああいう悪魔は将来、悪魔の世界を背負うべき者じゃ……あの二人の三度にわたる戦い、見ているこっちがハラハラしたものじゃい……ただシトリーの方に言っておけ―――あんな未来を潰す戦い方はこれ以降するな、とな」

 

 ……まあその辺はオーディンと同意見だ。

 あの反転(リバース)の力は俺たちグリゴリが研究していたものだ。

 以前までは属性のみを反転することしか出来なかったが、イッセーとの出会いでかなり技術が上がった。

 だがあれは後天的な能力だ…………後天的な神器のようなもので、しかもあれは命を削るもの。

 どれだけの強者でも一度の使用で命を削る危険な物だから、俺たちも研究を止めたほどだ。

 一体、あれはどこからのリークだ?

 ガブリエルはあれを見たとき、ここで驚いていたから絶対に違う……となればグリゴリの誰かが教えたのか?

 ……まあそれはおいおいどうにかするとして、とにかくあれは今後のゲームでは禁止にさせる。

 若い可能性の芽を摘みたくないからな。

 

「ふむ……これは悪魔も捨てたもんじゃないのぅ……愉快じゃ、愉快じゃ!」

 

 ……オーディンが誰かを褒めるのは珍しいな。

 っと俺はそこで反対側に座るディザレイド、シェル、そしてその二人の娘の方を見た。

 

「……あれがディーの言っていた面白く素晴らしい男、か……なるほど、確かに良い戦士だ。敵を下に見ず、たとえ不利な状況でも打開する……しかもあれほど熱い男―――お前と似ているよ、ディー」

「いや、彼を俺と一緒にするのはダメだ…………兵藤一誠はきっと、将来の悪魔を背負う存在になる」

「なるほどな……それでさっきからこいつが画面を見て全く反応がなくなったんだが……」

 

 するとディザレイドとシェルの娘がモニターに映るイッセーの姿を見てぼうっとしていた。

 ……おいおい、嘘だろ?

 確かにゲームにおけるイッセーは俺から見ても男らしい男……熱い想いで拳を振るうカッコいい奴だ。

 それは冥界全土に知れ渡っているとは思うが……まさかこの二人の娘もイッセー病にかかるか?

 こりゃああいつの女難は更に拡大していくだろうな……それを見て楽しみにしている俺もいるが。

 ……ヴァーリがなぜ、あの場に現れて言い訳をごねてイッセーを助けた意味が分かった気がするぜ。

 あいつは、たとえ敵であっても面白い。

 力もそうだが、あいつは無意識に色々な者を惹きつけてしまう。

 赤龍帝の性質以前に、あいつの行動は全部あいつに返ってくるんだ。

 それが友好にしろ、好意にしろ……あいつの女難は一生消えねえよ。

 あいつが自分の行動を変えるまで……んで、あいつはあの行動を止めることはない。

 なんつっても、俺はあいつの同志だからな!!

 

「うぅ~~~、ソーナちゃん負けちゃったよぉぉぉ!!でも………………」

 

 ……あれ?

 イッセー……お前もしかして―――一番ダメなフラグを立てたか?

 あのシスコン大魔王が妹以外でもない男に興味を示している……これは嘘であってもらいたい。

 でもあの魔王様、モニターをディザレイドの娘と同じような顔で見てんだぜ?

 

「……んで、ティアマットやらタンニーンやらオーフィスやらは何故殺気だっているんだ?」

 

 俺はモニターを見て殺気立つ奴らを見てそう言った。

 

「……あの匙とかいう男はこの世界で一番怒らせてはならん私たちを怒らせた」

「我、許さない。妹、侮辱、あいつ殲滅」

 

 ―――匙、お前、やっちまったな。

 このファミリー、自分の身内を少しでも馬鹿にされると怒り狂うみたいだ。

 これは自業自得……ちなみにあの小さなドラゴンは治療を受けているらしいが……

 俺は再び画面に目を戻す。

 ゲームは確かにソーナの負けでリアスの勝ちだ……だが、ソーナは自分たちの可能性を知らし、リアスは持てる全てをぶつけて勝利した。

 どっちも評価は高い。

 

「さて、どうしたものか…………ゲームで最も印象深かったのは三度の『兵士』と『兵士』の戦い……どちらにこれを贈ればいいんだろうね」

「ゲームでのМVPに送るものか…………そりゃあイッセーか匙、どちらかだろうが……」

 

 確かに、どっちに贈っても不思議ではない。

 片や新たなる可能性を示し、限界を超え、更なる高見へと昇り始めた赤龍帝。

 片や格上の敵に決死の覚悟で挑み続け、負けはしたが自分の眷属の強さを見せつけた男。

 どちらも賞賛すべきだし、МVPはどちらでもおかしくはないな。

 さて……これから更に面白くなってきたぞ。

 イッセーの成長は見ていて面白いし、戦っている姿は不思議と気持ちを高揚させ、あいつと共に戦いたいと思ってしまう。

 だがリアス、今回のゲームでお前は気を付けろよ?

 

「―――今後、リアスにはトレードの要請が殺到するはずだ。もちろん相手はイッセー君…………彼は既に最上級悪魔レベルな上に手元に置きたくなる……面白いね、彼は」

 

 そう……今回のゲームでイッセーはその強さを示した。

 悪魔は強い奴を望む傾向にあるからな……あのガルブルト・マモンは最初、イッセーと匙を称賛したそうだ。

 あいつは悪でも、この二人の性質を理解してたんだな……聞けばイッセーを自分の眷属にしようとしていたそうだし。

 

「さて、ゲームは終わった―――私は向こうに向かうよ」

 

 サーゼクスは立ち上がり、その場を後にする。

 そして俺もまた、ゲーム終わりのあいつらの元に向かった。

『Side out:アザゼル』

 

「終章」 可能性はどこまでも

 

 俺、兵藤一誠はゲームが終わった直後に医療施設に送られた。

 意識はあったものの、中々体の負担が大きかったらしい。

 にしてもこのゲーム……俺にとって得るものは大きかったな。

 オーバーヒートモードの力と創造神器の禁手化。

 まだ白銀の籠手だけしか出来ないだろうけど、確かな感触があった。

 あれをするには今後、神器を創造して俺の知識を神器に無理やり叩き込む必要があるな―――知識と経験、それを神器に送り続けて禁手化させるまでの時間を鎧で稼ぐ……これが俺のこの神器の使い方になる。

 あの白銀龍帝の双龍腕(シルヴァルド・ツイン・ブーストアームド)はあの時の俺の想いに合わせたから体への負担がかなり軽減されている使い勝手の良い禁手。

 宝玉には俺が篭めることの出来る最大限の倍増のエネルギーが篭められていて、タイムラグなしで最大限の倍増が可能になる。

 しかも鎧と比べて負担が少ないとなれば、俺の可能性は更に高くなるはずだ。

 危惧すべきは宝玉は一度使うごとに数を減らしていくということだけど……

 ……赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)白銀龍帝の双龍腕(シルヴァルド・ツイン・ブーストアームド)の掛け合わせの絶対値は赤龍神帝の鎧に近いだろうな。

 別に俺はアーシアの力で既に回復しているから、ここに来る必要はなかったんだけどな……とにかく、俺は動けるから匙の病室に向かった。

 俺は二度、扉をノックして中に入る。

 

「……イッセーか」

「おう…………治療はされてるみたいだな」

 

 匙は俺の方を見て苦笑いをする。

 体中に包帯を巻いており、殴られた跡がまだ消えずに残っている。

 俺も結構殴られたけど……まあ修行の時に更に大きなものを喰らいすぎたからな。

 

「……勝てるとは、思ってもなかった。お前は強いし、俺のことを全く油断してくれないからな」

「―――響いたよ。お前の拳は、俺のここに」

 

 俺は自分の胸を叩いて匙にそう言うと、匙に手を差し伸べる。

 

「会長の眷属で俺にあそこまで喰いかかれたのはお前だけだ。あんな魂を込めた拳、この冥界を探してもあんまりいない―――ナイスゲームだよ、匙」

「…………くそっ……なんだよ、それ……カッコ、よすぎんだろッ!…………ありがとう、イッセー」

 

 匙は俺の手を取り、少し涙を流して強く手を握った。

 俺はそれを握り返す……お前は男だったよ。

 会長もそれを分かってくれているはずだ。

 

「……俺、先生になれるかな?」

「なれる。俺の太鼓判だ……あれだけの熱さを持っていれば、きっと良い先生なれる」

「はは……お前に言われると、何故か説得力があって困るな」

 

 俺と匙は少し話していると、唐突に扉がノックされてそこから紅髪の魔王、サーゼクス様が現れた。

 

「サーゼクス様?」

「さ、サーゼクス様!!!?」

「おや、イッセー君もここにいたのかい?」

 

 すると匙は取り乱したように驚き、俺は現れたサーゼクス様に視線を送るだけ―――テンパりすぎだろ、匙……

 

「いやいや、そんなに大層な態度を取らなくても良い。まずは労おうか……良い戦いだったよ、イッセー君に匙君。あれほどの名勝負はなかなか見れるものではない」

 

 俺と匙はその言葉に頭を下げる……だけど労いのためにわざわざ魔王様が直々に来るか?

 そう思っていると、サーゼクス様は高価そうな箱を俺たちの方に渡してきた。

 

「これはレーティング・ゲームにおいて最も印象に残った戦いをした者に贈る物なんだ……言ってしまえばМVPだね」

「……だけど、何故それが二つあるんですか?」

 

 すると匙は恐る恐るサーゼクス様にそう尋ねた。

 

「……悪いが、本当のМVPはイッセー君だ。これは勝者でもあり、更には他の方々の意見でもある…………だけど、私は匙君にもこれを贈りたくてね―――前例はないが、今回のМVPはイッセー君と匙君……君たち二人だ」

「……はい」

 

 俺はサーゼクス様の持つ箱を受け取り、礼を言うが…………匙はそれを受け取らなかった。

 匙は少し悔しそうな顔をして、サーゼクス様を見ている。

 

「……俺は……イッセーに負けました……だからこそ、そんな大層なものは受け取れませんッ!!俺は仲間に守られてようやくイッセーと戦えたんですッ!!それで負けているのにそんなものはッ!!」

「―――馬鹿か、お前」

 

 俺はそんなことを言う匙の頭を小突いた。

 その威力が意外と強かったのか、匙は小突かれた頭を抑えて悶え苦しむ…………ったく、こいつはしょうがないやつだな。

 あんだけゲームで強気だったのに、今はこれかよ。

 

「たとえ自分の力でなくても、勝てば俺の勝ちだ……お前はあの時そう言った―――俺はその時、言い返しただろ?勝てばお前たちの勝ちだ、って。これはゲーム、一対一で馬鹿みたいに戦うより、仲間と手を取って戦う方が良いに決まっている…………受け取れ、大馬鹿。これを受け取らないのは、自分の仲間を……会長の頑張りを無にしていることと同義なんだよ」

「…………でも」

「それはお前だけのものじゃねぇ―――お前の眷属全体に贈られたものだ」

 

 俺がそう言うと、匙は下を向いてサーゼクス様に礼を言い続ける。

 ……ったく世話の焼ける。

 

「ははは……イッセー君に言いたいことを全て言われてしまったね―――匙元士郎、先生になりなさい。君ならば、君たちならばきっと冥界を支える柱になれる」

 

 ……俺は病室を後にしようとしたその時、あることを思い出した。

 ああ……そう言えば、匙に言い忘れてたな。

 

「匙……お前、俺の妹を馬鹿にしたことを忘れるなよ?あれは流石にやばい―――世界最強のドラゴン達がお前を敵視するかも知れないけど、俺は助けないからな~」

「は?え、なにそれ……ちょっと待って!?最強のドラゴン!?っておわ!!」

 

 すると匙の病室の開いている窓から一本の矢がベッドに突き刺さる。

 そこには紙が巻かれており……矢文?

 匙はそれを見てガタガタと震え始める……俺は少し気になったから、それを奪ってて矢文を見ると……

 

『拙者、人というものに怒りを覚えてしまった……拙者は夜刀と申す。この度、主は我が家内のフィー殿、メル殿、ヒカリ殿を容姿で判断し、侮辱した―――正々堂々、果し合いにてこの怒りを晴らしたい所存でござる。更に申せば主は龍王、龍神、悪魔となった龍王すらも怒らせてしまったでござる…………いずれ会おう、黒きヴリトラの主よ』

 

 …………あの夜刀さんがこんなものを送ったか~……匙、お前は強く生きろ。

 意外と悪戯好きな夜刀さんのことだ……今頃、この匙の姿を少し笑っているんだろうな……ただ果し合いは本気と思うけど……

 

「やべぇ……お、俺……とんでもない奴らを、敵に?―――うわぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 匙が号泣する姿を見て、サーゼクス様は苦笑し、俺は面倒なので放置して病室から去る。

 そして病室に戻る最中……部長と出会った。

 

「あらイッセー……あなたはよく頑張ってくれたわ。それにその箱を貰えたのね―――本当に、あなたは私の誇りよ」

「いえいえ……部長の読みがなかったら、きっと負けていましたよ……俺たち全員の勝利です」

「ふふ……そうね。でもイッセー。いくらゲームだからって色々とカッコつけ過ぎよ」

 

 すると部長は俺にそんなことをガミガミ言い始めた。

 どうした?そう思うと、俺は施設の大きなテレビ画面に目が入る―――

 

『心配しなくても、可愛い後輩は俺が守ってやるよ』

『ここから先は男の勝負だ!!匙!!!』

『本当に、惚れ惚れするくらい!』

『ちょっと不甲斐ない兄ちゃんに力を貸してくれ!!』

『俺は絶対に負けねぇ!!たとえお前が眷属全員の思いを背負って戦っていても!!俺は仲間を守り抜き、お前を倒す!!!』

『こっちだって全力だ!!勝手に自分たちの想いを上にしてんじゃねぇ!!』

 

 ………………な ん だ 、 こ れ は ! ! ?

 先ほどのゲームがダイジェストのように放送されてる!?

 しかも俺がゲームの時に言った言葉が次々に放送され続けてるぅぅぅ!!?

 いや、マジで何これ!?

 

「……本当なら、ゲームにおいてその箱を貰ったМVPの悪魔はインタビューを受けるんだけどれどね?イッセーは運ばれたから放送の中で時間が余ってしまったの……だから急遽、ゲーム中の出来事をダイジェストすることと、それと確か―――」

 

 部長が何かを言おうとした時、ダイジェストが切れてどこかの施設の映像が流れる。

 するとマイクを持つキャスター?の人がハイテンションでそこにいる子供―――チビドラゴンズにマイクを向けた。

 

『この度、ゲームにおいて巨大なバジリスクを見事撃退した小さきドラゴン、使い魔の子達です!!さて、彼女らは兵藤一誠君の使い魔だそうですが、今の心境は?』

 

 キャスターはそう質問する……やめろ……なんか嫌な予感がするから!!

 

「カッコよかった!!にいちゃんはいつもやさしくて、つよいんだよ!!」

「にぃたんだいすき!!あとでだっこしてもらう!!」

「……にぃにはやさしいドラゴン!つよくて、かっこよくて、だいすきなおにいちゃん!!」

 

 ―――俺は、なぜか寒気がした。

 これはいけない、そう思ってしまった。

 

「部長―――これ、取り返しがつかないと思うんですが……」

「ふふ…………イッセーが有名になるのは誇るべきなのかしら、悲しいことなのかしら……いえ、イッセーと既にキスをしている私は……でも一番甘えてないし……イッセー、ちょっと頭を撫でてくれる?」

「え?あ、はい」

 

 俺は部長の頭を撫でる……部長は俺より少し背が低いからか、ちょっと頭を掲げた。

 綺麗な髪だな……ってそうじゃない!!

 これ、冥界中に放送されてる全国放送だよな!?

 なんだよ、この羞恥プレイ!!

 恥ずかしすぎるだろ!?

 

『『『やさしい、やさしい、ドラゴンはぁ~~~』』』

 

 しかもあのチビドラゴンズ、画面の前で歌を歌い始めやがった!?

 もう無理……俺はフラフラとした足取りでそのまま自分の病室に向かうのだった。

 

 ―・・・

「部長……俺、もうダメみたいです……」

「イッセー!ダメよ!!私はまだあなたとキスしかしてないわ!!死んではダメよ!!」

 

 ……なんてコントのようなことをする俺たち。

 病室に戻り、俺は現実逃避でそんな演技をして部長はなぜかそれに乗ってくれた。

 っとのこともあって、ある程度精神が回復した俺…………そっかぁ、俺、冥界中にあんな恥ずかしい歌を歌われたのかぁ……

 俺は無表情で放心していると、するとドアがコンコンと二度叩かれる。

 そして扉が開くと、そこには白いひげにローブを身に纏う爺さんがいた。

 傍には数人の女の人を連れており、そしてその爺さんに部長は立ち上がり、そして挨拶をした。

 

「あなたはオーディン様ですね?お初にお目にかかります……私はリアス・グレモリーです」

 

 部長はその爺さんを知っているようだけど……オーディン!?

 あの北欧の主神、アーズガルドの実質的なトップ!?

 神様だ!!神様がいる!!

 

「ほほう……ゲームでもそのけしからん胸を―――っとそうじゃないのぅ……ゲーム、見事であった」

「いえ、オーディン様にそう言っていただけるならば、今後も精進します」

 

 ……その爺さん、頭を下げる部長の胸を凝視する。

 ―――こいつ、エロ爺か!?

 

「っと、お主が赤龍帝じゃのぅ……実はお主に会いたい会いたい言っておったヴァルキリーが鼻血の出し過ぎで病院送りになったのじゃ……」

「えっと……とりあえず、そのヴァルキリーさんにお大事にって言っておいてもらえますか?」

「ほほほ……お主はまたロスヴァイセを殺す気かのぉ?」

 

 ……ロスヴァイセ?

 なんか聞いたことのある名前のような………………まあいっか。

 っていうか鼻血で倒れるって。

 

「まあ良い。あのヴリトラの男とお主の戦い、見事であった。あのまま先へ進むがよい……ではわしは今から神々や三大勢力との会議があるのでのぅ……また会おうぞ………………その前にあのバカを迎えに行かなくてはのぉ……」

 

 ……嵐が去るようにエロ爺は病室から出ていく。

 ってかロスヴァイセ―――今更だけど、ちょっと心辺りがある俺がいる。

 たぶんあの人も孫って言ったよなぁ……どうせ夏休みに一度あの人の元に行かないといけないから丁度いいか。

 そう思って俺は再び、先ほどのことが胸に刺さって眠りにつくのだった。

 

 ―・・・

 八月の後半。

 夏休みも残すところ1週間ほどで、俺たちは行きよりも人数が若干増えてるけど、ともかく今日俺たちは人間界に戻る。

 今、俺たちグレモリー眷属の面々は見送りに来てくれたグレモリー卿とヴェネラナ様、ミリキャス、グレイフィアさん、サーゼクス様と顔合わせをしていた。

 

「リアス。お前は良い眷属を持った。これからもその眷属と共に、精進しなさい」

「ゲームについてはよくやりました。それでこそ私の娘よ」

「はい、お父様、お母様」

 

 部長は二人に賞賛を贈られて少し照れた様子で礼を言う。

 俺はというと、ゲームの後から色々とあって、精神が削られているが……まあ元気だ。

 するとミリキャスは俺の前に歩いてきた。

 

「イッセー兄様!ゲーム、すっごくカッコよかったです!!あの白い腕もカッコよかったです!!」

「お、おう……ミリキャスも元気でな?」

 

 俺はミリキャスの頭を撫でてやると、ミリキャスは子犬のように嬉しそうに震える……こういう弟がいたら可愛いんだろうけどな……

 すると幼女モードのチビドラゴンズがミリキャスの方を睨んでいた。

 

「こら!にいちゃんにかわいがられるのはフィーたちだけ!!」

 

 すると3人のリーダー的存在のフィーがミリキャスに食って掛かる……この二人は毛色も性格も似ているところがあるからな。

 俺はフィーを宥めて嘆息する……すると俺はグレイフィアさんに話しかけられた。

 

「兵藤一誠様。名家との戦い、並びにゲームでの活躍……サーゼクス様はこれを高く評価し、それを上の方々に掛け合うそうです。上級悪魔、それが今のあなたの目標でしたら、それは近い将来叶うでしょう―――サーゼクス様からはその後を見据えなさい、とのことです」

「その後……ねぇ」

 

 俺はグレイフィアさんの言葉を重く受け止める。

 確かに俺には目標がない。

 上級悪魔になるのだって、俺の傍にいるこの黒歌のためだ。

 だけど……俺には目標なんてあるのかな?

 ただ皆をずっと守りたいし、楽しく生きていきたい。

 悪魔は永遠に近い年月を生きて行く。

 だからこそ、目標ってのはかなり重要なことだ。

 あぁ、これはまた色々なことを考えないといけないかもな。

 

「……ところで兵藤一誠君。私は君のことを親しく”イッセー君”と呼びたいのだが……良いだろうか?」

「私も呼んでも構いませんか?」

 

 するとグレモリー夫妻はそろってそんなことを言ってきた。

 

「ええ、構いませんよ。そう呼ばれる方がしっくりくるので」

「そうか……ではイッセー君。その手で、わが娘をよろしく頼む」

「色々と我が儘なところもありますけど、根は良い子なので」

「ちょ!お母様にお父様!!私は我が儘などではありませ……って朱乃にみんなもどうしてそんな顔をしているの!?」

 

 すると部長は苦笑いしている俺たちに向かい、そんなことを涙ながらにそう言った。

 

「イッセー君。先ほどグレイフィアに私の気持ちを言われてしまったけど……君には近々、色々な悪魔から眷属に誘われるだろう。だがどうか……リアスの兵士でいてくれ」

「あはは……俺の主は永遠に部長―――リアス様だけですよ。ご心配なさらずとも」

 

 俺は笑顔でそう返すと、サーゼクス様は納得したように何も言わなかった。

 そして俺たちは列車に乗る。

 ああ、色々あったけど、さらば―――冥界。

 色々なトラウマを残したが、まあいい思い出として頭に刻むよ、うん。

 そして俺たちを乗せた列車は出発したのだった。

 

 ―・・・

 帰りの列車の中で俺は窓辺の席で少しうたた寝をしていた。

 正直、まだ体の疲れは取れてない。

 ガルブルト・マモンの一件とレーティング・ゲーム(の後の騒動)で心身共に疲弊しているのだ。

 っとその時、俺の足元に一匹の黒い猫が現れ、俺の膝元に飛び乗った。

 

「何してんだよ、黒歌」

「にゃはは!ばれちゃった?」

 

 するとその黒猫は一瞬で黒歌となり、俺の膝元に座って抱き着いてくる。

 

「良い?イッセー……私は長い間、イッセーの近くに入れなかったから白音と一緒に甘える権利があるにゃん♪っていうか将来を約束されているから、この眷属で一番イッセーと一緒にいれるんだよぉ?」

「まあ黒歌は俺の眷属になるからな……まあまだ当分先だけども」

「……ありがとにゃ……白音と私に―――居場所をくれて」

 すると黒歌は俺の耳元でそんなことを呟く……居場所、か。

 むしろ俺はこいつらにそれを言いたい……俺は小さい頃、こいつらが俺の家に来てから素直に笑えるようになった。

 ミリーシェを失い、ただ誰かを守りたいことだけが俺の生きる理由だった俺に、生きる活力をくれたのは黒歌と白音だ。

 だからこそいなくなって悲しかったし、苦しかった。

 

「―――姉さま、ずるいです」

 

 すると小猫ちゃんは俺と黒歌のすぐそばに突然現れる。

 そして俺の空いている席にちょこんと座り、俺の腕をギュッと掴んできた。

 

「……甘えさせてください、ご主人様……」

 

 ――――――これはあれだ。

 俺は小猫ちゃんの猫耳&尻尾&頬を赤くした上目遣いに、何か目覚めてはならないものが目覚めそうになった。

 

「む……この眷属、白音が一番の敵にゃん……白音、私と取引しにゃい?」

「……取引、ですか?」

 

 んん?

 なんか黒歌と小猫ちゃんが取引なんて言葉を使い始めたぞ?

 

「そうにゃん―――私と一緒にイッセーを虜にするにゃん。イッセーは素直に甘えてくれてかつ、騒動にさせない女が好きにゃん」

「…………お姉さまと私が組めば最強、と言いたいのですか?」

「そうにゃん―――どう?」

「……分かりました、お姉さま」

 

 ……なんか知らないけど取引が成立してた―――っておいおい。

 これじゃあ俺の平穏が消えるじゃないか!!

 そうすると、俺の猫は満面の笑みを俺に向けてきて、そのまま俺を押し倒しやがった!!

 それを見た他の眷属、ドラゴンファミリーの面々はめちゃくちゃ反応してまたもや騒動になる。

 ……でも、俺は手元にいる二人の姉妹の温もりを感じて、心が温かくなる。

 ようやくこの二人は元の仲の良い姉妹に戻れたんだ。

 俺が二人に黒歌と白音という名前を付けた理由。

 ―――二人は猫なのに、いつも二人で仲良く、鳴き声で歌を歌っていた。

 歌で綺麗な音色を俺に聴かせてくれた―――だから白音と黒歌。

 俺の大切な…………大切な存在だ。

 俺はあの日、二人が居なくなった日を思い出す。

 大好きだった二匹が消えて、一日中、家にも帰らず町中を探し続けた。

 家に帰って何度も泣いた…………もう子供じゃなかったのに、子供のように……

 俺はその温もりを再確認すると、目から涙が落ちた。

 それを二人に悟られないように拭い、俺はただ―――止まらない涙をぬぐい続けたのだった。

 

 ―・・・

 駅に到着し、俺たちは共に荷物を持ってホームに向かった。

 帰る方向はアザゼルと祐斗以外は一緒。

 ああ、ティアはどうやら電車疲れで眠ったチビドラゴンズを連れて帰るようだった。

 まあとにかく、俺たちは駅から出ようとした―――その時、目の前に一人の男がいた。

 あいつは確か―――アーシアに変な目線を送っていたディオドラとか言う若手悪魔。

 そいつはアーシアの方に詰め寄ってきた。

 

「アーシア?アーシアなんだろう?」

「……イッセーさんッ」

 

 するとアーシアは俺の後ろに隠れて、怯える。

 でもディオドラはそんなことをお構いなしに詰め寄ってくるもんだから、オーフィスはそんなディオドラの前に立ち塞がった。

 

「アーシア、我の友達。怖がらせる、許さない」

「僕は君に話があるんじゃない―――アーシア、僕だよ。忘れてしまったのかい?」

 

 するとディオドラはオーフィスを避けて近づき、胸元を開いて傷を見せてきた。

 その傷を見たとき、アーシアが反応する。

 

「も、もしかしてあの時の……」

「そうだよ。あの時は顔を見せることが出来なくてごめん……僕は君に命を救われた悪魔だよ」

 

 こいつが……アーシアが教会を追放された原因となった悪魔ッ!!

 ディオドラは笑顔でアーシアに触れようとしてくる―――けど、俺はそれを遮りアーシアを護るように庇う。

 

「悪いが、俺のとこのアーシアはお前に怯えてんだ。お引きとり申し上げる」

「……僕はアーシアに話があるんだ。そんなに悪い事かい?」

 

 ディオドラはさも当然のようにそんな風に言ってくるが、悪いが俺は最初からこいつのことを何故か敵視してしまっていた。

 こいつに―――アーシアは触れさせたくない。

 

「アーシア、聞いてくれ。会合の時は挨拶が出来なくてすまなかった。僕はずっと君にお礼を言いたかった。あの時、君に救ってもらい、出会えたことは運命と思っている―――僕は君のことが好きだ。僕の妻になってくれ」

 

 ―――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!?

 ディオドラはそんなことを言って、そして俺の後ろに隠れているアーシアに近づいてその手を握って手の甲にキスをしようとした。

 ……その時、アーシアはその手を勢いよく振り切った。

 

「ご、ごめんなさい―――私、イッセーさんが大好きなので貴方とは絶対に結婚できません!!!!」

 

 ―――夏が終わり、秋となる。

 そんな季節の境目で、俺は初めて見てしまったのだった。

 …………真っ向から求婚を即答で拒否された男を。

 アーシアはそう言って俺の手を握る。

 眷属の皆は突然現れて振られ、意気消沈しているディオドラを哀れな目で見ている……恐らく俺の目もそんな感じだろうけども。

 …………………………俺はまず、この振られた残念な悪魔を放置するか、無視するか、憐れみを込めるかで迷うのだった。

 ……うん、また騒動の幕開けなんだろうなと俺は一重に諦めるのだった。


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