ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第13話 封じられし兵藤一誠

 俺の力が唐突に消えてなくなったように抜ける……なんだ、これはッ!?

 先ほど、二重倍増の力を解放して匙を倒しに掛かった矢先、不意に物陰から現れた女の人……会長の『戦車』である由良さんが言った瞬間、俺の力は消え失せ、人間レベルのものとなった。

 ……いや、消えたレベルではない……まさにこれはあの時の感覚と似ている。

 ―――白龍皇に力を半減された時の感覚……それが更に何倍にもなったような……

 

「悪いな、イッセー!!―――ラインよッ!!!」

 

 ……匙から放たれる8本ものライン……恐らく匙の出せる限界の本数に近い数だろう。

 あいつの表情がかなり苦しそうになっているから一目瞭然だ。

 だけど俺はそれを避けれない……いったい、何が起こったんだ!?

 そして俺は…………匙のラインの餌食となる。

 

「くッ!!俺の力を吸う気かッ!!」

 

 こいつの目的は俺の無力化からの神器による力の吸収!

 くそ、失態だ…………まさかここで『戦車』を投入してくるとはっ!

 待て、今考えるのはそんなことではない。

 俺の力を無力化した…………このことを考えるんだ。

 

「……イッセー先輩から、離れてください!!」

 

 小猫ちゃんは手に仙術による少し青いオーラを纏わせ、匙の腹部を全力で殴打した。

 匙は神器のコントロールに集中しているせいか、防御も出来ず激しい打撃音と共に吹き飛ばされる。

 

「はぁ、はぁ……小猫ちゃん、サンキュー―――アスカロン!」

『Blade!!』

 

 俺は再び籠手からアスカロンを取り出し、ラインを完全に断ち切る……だけどかなり力を持っていかれた。

 今の俺は人間クラスか?

 今は下手な攻撃でもやられる可能性がある……それに神器も発動は出来ない。

 さっきの向こうの攻撃を見極めない限りは、な。

 

「……小猫ちゃん、今の攻撃の感触は?」

「…………仙術を合わせましたが、少しの間だけ気が狂い、行動できなくなる程度です。骨もひびくらいは折れていると思いますが……」

 

 ……どちらにしろ、今の俺は完璧に足手まといだ。

 相手は行動不能の匙を除けば、五体満足の由良さんと仁村さんがいる。

 こっちは小猫ちゃん……圧倒的に分が悪い。

 とはいえ、逃がしてはくれないだろうな……

 

「兵藤君……あなたはここで打ち取るわ…………匙くんが作ってくれたチャンスを逃すわけにはいかないもの」

「打ち取らせねえよ―――何せ、俺は眷属を守り抜くと決めてるからな。どんだけピンチでも、俺は切り抜けてみせる!」

 

 ……考えろ。

 由良さんは現れた瞬間、反転(リバース)と言った。

 これがもし何かを引き起こすキーとなるものだとすれば、恐らくはその言葉が俺の力がなくなった理由だ。

 なら反転とはなんだ?

 言葉通りの意味なのか?…………仮にこれが消失の力なら、バニッシュとかそんな感じの言葉でも良いはずだ。

 なら……おそらくは反転は何かを反転させるんだろうな。

 予備知識で調べた時にはそんなものは相手にはなかった。

 となると……後付けの能力。

 だけどそんなものは簡単に身につくはずがない。

 とすれば―――まさかとは思うが、匙と同様に命を賭けているってわけか。

 

「……留流子、あなたは私が出てから兵藤君を倒して。今の彼は人間クラスよ」

「分かりました……匙先輩、少しここで見ていてください!」

 

 すると二人は同時に動き出す……おそらく、仁村さんは俺を取りに来る。

 小猫ちゃんの相手を由良さんがするんだろうな……だけど、今の俺がたとえ弱っていたとしても……

 

「ちょっとさ…………俺を舐めすぎじゃないか?」

 

 あんまり簡単に取られると思われるんのは頭に来るんだよ!

 魔力は使ってはいけない……反転の力はもしかしたら放たれた攻撃を反転させ、跳ね返してくるかもしれないからな。

 つまり体技のみで相手を圧倒する。

 今の俺は力はない、神器は使えない。

 あるのは観察するための眼と今まで培ってきた経験と体術。

 予測しろ、相手の動きを……相手は力はあるにしろ、戦闘においてはド素人。

 たとえ速度があっても相手の動きを予測し、表情から相手の次の手を読み取れ。

 

「ッ!?攻撃が、当たらない!?」

「留流子ッ!早く向こうに加勢をッ!」

「……させません」

 

 ……小猫ちゃんは俺と体術もしていた。

 あれしきの事、どうとでもなるはずだ。

 ―――俺は相手の攻撃を避け、そして距離を一定に取りつつ考える。

 反転……オセロで言えば白を黒に返すことを反転と言う。

 じゃあ俺がされた反転は何なんだ?

 俺があの時使っていたのは一つは魔力……だけど魔力を反転してもそれは聖力となるから、逆に相手からしたら厄介な代物になるはずだ。

 ――――――…………なるほど、そう言うことか!!

 

「小猫ちゃん!この場は一端を引く!!相手はかなり危険なものを使ってくるからな!!」

「ま、まずい!匙君!!」

 

 すると、小猫ちゃんが殴り飛ばした際が立ち上がり、腕をこっちに向けていた。

 ―――まさか、ラインで俺を拘束するつもりか!

 

「イッセー!!お前を逃がすわけにはいかねぇ!!」

 

 匙は俺へとラインを飛ばしてきた。

 ダメだ、ここで俺がやられたらこの情報が部長に行かない。

 ラインは俺の元に近づく。

 ―――その時

 

「――――――あらあら……私のイッセー君に手を出すのは許しませんわ」

 

 ……悠然としたその優しい声と共に、俺の横を雷撃―――雷に光の混じった力……雷光が通り抜け、伸びてきたラインへと放たれ、衝突する。

 それと共に俺の耳に音声が入った。

 

『―――イッセー、そちらに朱乃を送ったわ。そちらに大方、相手側の『戦車』が行っていると予想したけど……正解だったようね』

「……ははは。助かりました、部長」

 

 俺は通信の声に笑いながら、小猫ちゃんの元に行く。

 突然の攻撃に驚いている由良さんを不意打ちで蹴り飛ばし、そのまま小猫ちゃんと共に雷光の放ち続ける―――朱乃さんの傍に駆け寄った。

 雷光は匙のラインの動きを止める……ものの一瞬で燃え尽きるように、ラインは光が崩れるように消えた。

 

「なっ!!俺のラインがッ!?」

「…………まさかここで相手側の『女王』を……匙君、留流子、ここは引くわ!!」

 

 すると俺に蹴り飛ばされた由良さんは匙と仁村さんの腕を掴み、戦線から離脱し始める。

 

「い、イッセーを打ち取れてないんだぞ!?今が最高のチャンスだ!」

「相手側に『女王』がいる方が危ないわ!それに仮に取れてもこっちは全滅する可能性が高い!!」

 

 匙はその行動に文句を言うが、由良さんに封殺される。

 ……恐らく、分かっているんだろうな。

 朱乃さんが先ほど放った雷光……その恐ろしさを。

 普通の雷ならさして危険性はない……が、この雷光は堕天使の力である光力を含む。

 それらが相乗し合い、そして強化された雷が朱乃さんの新たに使う雷光。

 悪魔に対しては強力な武器だ。

 

「あらあら……私の後輩を苛めて、苛め返さず帰すわけないですわ」

 

 朱乃さんは追撃をするように雷光を何発か放つ……だけど先ほどに比べ威力を消している。

 ……たぶん、この場では使いにくいんだろうな。

 雷光は屋外で使うのが最も効果的な力……ここでは不利だ。

 とにかく、今は少し落ち着けるところに行かないといけないな。

 

「……逃がしましたわ……大丈夫です?小猫ちゃん、イッセー君」

「なんとか……助かりました、朱乃さん」

「……右に同じく、です」

 

 朱乃さんは俺たちの方に振り向き、ニコニコした表情で満足顔をする。

 雷光……朱乃さんは自分の過去を振り払い、ようやく前に進めた証拠。

 その力は、想いは……相当なものだ。

 

「朱乃さん―――朱乃さんの雷光は綺麗です。本当に、惚れ惚れするくらい!だから誇りましょう……その力を、自分のものって」

「ふふ……そうですわね…………ここは敵陣ですわ。まずはここから退却しましょう。ここからは中盤戦……祐斗くんの方も色々あったそうですから」

 

 ……そうだ。

 今まで抑えていたけど、既にギャスパーはリタイアした。

 それを思い出すとかなりきつい……ギャスパーを送ったのは俺だ。

 

「……大丈夫です、イッセー先輩」

「……ありがとう、小猫ちゃん」

 

 小猫ちゃんは籠手に包まれた俺の手を握り、そう言ってくれる。

 そうだ……今は感情的になる局面ではない。

 そう思い、俺たちは安全な場所へと向かった。

 

 ―・・・

 ……俺と小猫ちゃん、朱乃さんは俺たちの自陣に近いカフェの窓辺の椅子に座る。

 ここは仮に敵が来ても俺たちにとってはかなり有利な立地……ものは少ないほうだし、窓から外に行けるからな。

 そこで一旦落ち着くことにした。

 

「……これから俺は全員に通信を繋げます。少し今すぐに言わなければいけないことがありますので」

「……それはさっきの、イッセー先輩を無力化した力のことですか?」

「ああ……」

 

 俺は小猫ちゃんの言葉に頷いて耳に手を当てた。

 

「……皆、聞こえているか?」

 

 ……俺が通信を開始すると、通信を聞くみんながそれぞれ声を出して応答した。

 

「今から言うことを黙って聞いてもらいたい…………さっき、俺が完全に無力化された」

『―――ッ!?』

 

 俺の言葉を聞いて、通信を聞く全員が声にもならないように驚く。

 

『イッセー、どういうこと?』

「ええ…………正直、こんなことを予測もしていなかったんですが……向こうは反転(リバース)という力を使います。これは言葉通り、事象を反転する力ですが……恐らくは反転できる事象は限られています」

『……それでイッセー君はどうなったんだい?』

 

 祐斗が通信越しで俺に尋ねてきた。

 

「ああ……恐らく、俺が反転されたのは”倍増”…………しかも一度の倍増なら問題はないが、それを俺はツイン・ブースターシステムの時の解放でやられた」

 

 倍増が反転されたら、それは白龍皇の力の半減となる。

 解放は自分の内側で力を内放し、自らの力を倍増していくことだ。

 しかもツイン・ブースターシステムはその性質上、左右の同時解放時に通常の籠手の数倍の力を引き出すという利点がある。

 それがあるからこそツイン・ブースターシステムなんだけど、今回はそれを逆に利用された。

 力の解放は何も一気にすべてを引き出すわけではない。

 何段階に分けて力を解放し、そしてある地点で全ての倍増の力を解放出来るんだけど、今回はその一段階目で反転された。

 つまり、元々の力を簡単に飛び越え、俺を人間レベルまで力を半減した……激減だ。

 俺はそのことを皆に説明する。

 

『…………困ったわ。つまりその反転の力はイッセーの神器を封じたことになるわ。今は回復しているかしら?』

「……倍増を続け、一度解放したら元には戻りますが、それは一時的……しかもそこで更に半減されたらまた俺は使い物になりません……恐らく、反転は完全なものではない……徐々に力は戻りつつありますが……」

『事実上、ブーステッド・ギアは使えないことになるわね』

 

 ……フォースギアだけで戦えないことはない。

 だけど俺は既に40段階で神滅具を創造しているんだ。

 本来は20段階に短縮されてるけど、具現できる時間を長くするためにわざわざ40段階にした。

 ……恐らく、禁手クラスの力なら反転でも力のレベルが違い過ぎて無理だろうけど……あれはもっと物のないところでないと出来ない上に、反転されない保証は出来ない。

 さて…………俺もそろそろ出し惜しみは出来ないか。

 

『……こっちの状況を説明します』

 

 すると祐斗がそう話し始める……そう言えば向こうのことは何も知らなかったな。

 

『先ほどのギャスパー君のリタイアは副会長の神器によって跳ね返されたゼノヴィアの聖なるオーラを彼……彼女が身を挺して守ったことによるものです。ゼノヴィアはギャスパーくんが抑えきれなかったオーラの衝撃で少し負傷。だけど戦闘には支障はありません。今は戦闘中だった副会長、巡さんを聖魔剣の幻術で回避し、本陣の近くで待機しています』

 

 ……ギャスパー。

 あいつはおそらく、序盤戦以外で自分は戦力にならないから、ゼノヴィアを庇ったんだろう。

 だけどそんなことは簡単に出来るものじゃない。

 例え命は保障されているゲームでも、そんな恐ろしいことは生半可な覚悟ではできない。

 ……あいつも強くなってる。

 本当は神器を使えるのに今回はそれを禁止されて、悔しい思いをしただろう。

 だけどあいつはよく戦った……本当に!

 

『……だけどギャスパーの犠牲は私たちに勝機を見出したわ……私たちはソーナたちの企てをことごとく打倒している。つまりは向こうも焦っているはずよ。向こうは僧侶を二つ消えているどころか、手の内をかなり出したのにイッセーとゼノヴィアは倒せず、更に屋上で何かをしようとしていたことも遮られた』

「つまり、相手は手を失い始めている……反転の力を晒し、神器の力も晒し、作戦は破綻……そろそろ何か仕掛けてくるはずだ」

 

 俺は椅子から立ち上がる。

 

『イッセー、行けるわね?』

「ええ……ちょっと俺も舐められたみたいですし―――ブーステッド・ギアを封じたぐらいで勝てると思っていた相手に思い知らせます」

 

 白銀龍帝の籠手(ブーステッド・シルヴァーギア)の具現時間はゲーム中は続くはずだ。

 一度具現した神器は普通の神器同様、いつでも取り出せる……代わりにその度に制限時間が減るけど。

 俺の力は……半分は元に戻ったはずだ。

 俺の武器はフォースギア……恐らくアスカロンも反転で聖剣としての力を封じられるだろうからな。

 それと使い魔……あいつらは絶対に戦わせることになるな。

 ―――匙、まさかお前は俺が神器なしでは使い物にならないとは思ってないよな?

 いずれはこういうときが来るとは思っていたけど、まさかこんなに早くとは思わなかった。

 

「部長、指示を」

『ええ…………祐斗はイッセーと合流、小猫は続行でイッセーと組んで頂戴。朱乃はイッセーの危機にイッセーを守ることを専念。ゼノヴィアは一度私たちのところに戻りアーシアの回復を受け、こちらで待機……涙は祐斗が持っていて』

『はいッ!!』

 

 俺たちは同時に力強く言い、そして動き出す。

 これから向かうのは相手の本陣。

 向こうは恐らく、俺たちの本陣は狙ってこない―――向こうの本陣は一階の西側……つまり建物の入り口付近のカフェだろう。

 あそこはほとんど物がなく、俺たちからしたらもっとも戦える舞台。

 しかも近くにこれまた比較的に俺たちの戦いやすい広場がある……恐らくはここで俺たちを本陣に近づかせないようにするだろうな。

 俺がそこに入った時点で俺は『騎士』に昇格する。

 ここで最も戦いやすいのは騎士だからな。

 そしたら速度は相手を圧倒、神器創造により相手を屠る……この方程式が成り立つ。

 それをさせないためには俺たちを何とかそこで食い止める。

 要は俺たちよりも早く部長たちの方にたどり着く……こっちには俺たちの大半の戦力を送っている。

 相手はそれを予測するはずだ。

 ……局面は完全に俺たちの優勢に動いているはずだ。

 俺たち三人は相手の本陣に向け移動する。

 祐斗は後から俺たちに合流するだろうけど、部長は何で祐斗をよこしたんだろう。

 この局面なら祐斗ではなくゼノヴィアの方が良いはずなのに。

 そうしているうちに俺たちは広場付近に到着す…………る……………………おいおい、冗談だろ?

 何故だ…………何故、広場に――――――大蛇がいるんだ!?

 俺はつい目を見開いて素直に驚く。

 俺たちの目の前には体長は4メートルほどあるすごく強そうな大蛇がいた。

 

「これはまさか…………使い魔か!!」

「ええ―――そうですよ、兵藤一誠君」

 

 ……俺の言葉に誰か、静かな声の持ち主が応えた。

 その声の主は大蛇の頭の上…………そこに乗りながら俺たちを見下げていた。

 まさか……本陣を離れるのか!?

 そこには―――ソーナ会長がいた。

 

「……まさか自分で戦線に参加ですか?」

「ええ。ここであなたたちの最大戦力をつぎ込んでくるのは読めていましたので……ここであなたたちを全員で迎え撃とうかと」

 

 ……すると、広場の陰から会長の眷属が俺たちを囲むように現れる。

 ―――なるほど、本陣を捨てて全員でここに来たと。

 おそらく俺にブーステッド・ギアは封じたことを知らしめたからこそ出来た手だろう。

 ……ああ、確かにこれは大ピンチだ。

 俺の力はまだ完全に回復していない上に力を匙に吸われたからな。

 

「私たちは命を賭けています。これは私の夢を賭けた大勝負―――生半可な覚悟で挑めば、終わりです」

 

 すると全員が戦闘態勢を取り、ソーナ会長は蛇の上から降りてこちらを睨む。

 

「バジリスク!!イッセーを狙え!!」

 

 ……確かバジリスクは匙の使い魔だ。

 相当な力を持っているらしいし、たぶんあの蛇もかなり成長してんだろうけど……さて、そろそろ頃合いだな。

 

「イッセー、お前の神器は封じた!!この人数にバジリスクが相手だ!ここでお前を倒す!!」

 

 …………はぁ。

 ったく、あいつは――――――何、油断してんだよ。

 

「―――悪いけど、イッセー君だけじゃないよ。グレモリー眷属は」

 

 爽やかな声が響いた瞬間、匙の目の前に一瞬で現れる祐斗。

 それに匙は完全に反応できず、祐斗は聖魔剣をそのまま振るおうとした…………が、それを阻まれる。

 

「悪いね、木場君―――さっきは出来なかったけど、ここで勝負願えるかな?」

「……願ったり叶ったりだ―――偽・天閃(フェイク・ラピッドリィ)!!」

 

 祐斗がそう叫んだ瞬間、祐斗の速度は一気に上がる!!

 あれがあいつの新しい力……エクスカリバー・フェイク。

 現状では出力と能力がまだ弱いと言っていたけど、あれはかなりの可能性を秘めている。

 さて……祐斗が頑張ってんだ。

 

「匙さ…………お前だけが、強い使い魔を持っているとでも思っていたのか?」

「は?……まさか、お前―――龍王使うつもりか!?いくらなんでもそれはずるいだろ!?」

「…………お前、バカか?」

 

 俺はつい、本音が漏れてしまう。

 

「ば、バカだと!?これでも俺は学校の成績は―――」

「止めなさい、匙……それに龍王を使うことは禁止されています」

 

 ……ソーナ会長が匙の言葉を遮り言った。

 ああ、ティアの使用はルール上、禁止された。

 作戦時間の時には話題に出てこなかったが、昨日のミーティングの後にアザゼルに直接言われたからな。

 

「よし―――フィー、メル、ヒカリ!!聞こえてるか!?」

 

 俺は空に向かい、全力で声を上げる。

 これを三人も見ているはずだからな……あいつらのモチベーションを上げるために何かしてやんねぇと。

 

「ちょっと不甲斐ない兄ちゃんに力を貸してくれ!!―――汝、我の契約をもって召喚に応えよ!!」

 

 俺の足元に赤い魔法陣が現れ、そして俺はそこから一歩下がる。

 

「ッ!今すぐに兵藤君を打ち取りなさい!」

 

 するとソーナ会長は他の眷属にそう言うが、俺の仲間がそうはさせない。

 朱乃さんは雷光を、小猫ちゃんは仙術を使い俺を守護する。

 さぁ、行こう―――

 

「召喚!出でよ―――チビドラゴンズゥゥゥ!!!」

 

 魔法陣は赤く輝き、そして―――魔法陣より三人の人影が現れ、俺に飛びついて来た。

 

「にぃちゃん!!だいじょぶ!?」

「メルもしんぱいだよ!!けがないの!?」

「………………あれが、にぃにのかたき」

 

 ……あれぇ?

 俺の予想ではチビドラゴンズが颯爽と現れ、そしてカッコいい演出になるはずだったんだけどなぁ……

 幼女の姿で現れたフィー、メル、ヒカリの内、フィーとメルは俺に抱き着いて俺の心配をし、ヒカリは凄い敵意丸出しで匙をすげぇ睨んでる。

 あれだ……親の仇を見るような表情だ。

 

「……なんだろう、このそこはかとなく負けた気分は……」

 

 匙は俺の使い魔を見ながらげんなりする……ったく、シリアスが台無しだ!にしても可愛いな、チクシォー!!

 俺は宥めるように三人の頭を撫で、地面に二人を置いた。

 

「だがな!!明らかに俺のバジちゃんの方が強い!!聞いた話では幼少のドラゴンは余り力が上がらないからな!!」

 

 ……確かにバジリスクは短期間で相当なまでに成長しているようだ。

 だけど俺は匙の言葉に少し頭に来た。

 ―――誰が……誰の妹が弱そうだと?

 

「匙―――お前は今、ドラゴンファミリーの怒りを買った」

 

 恐らくこの放送を見ているティア、オーフィス、タンニーンのじいちゃんは切れてるだろうな。

 そして俺の中の相棒は……

 

『……熱い男と思ったがな―――相棒、もうやってやれ』

『主様、ティアマットの思いが私に流れてきます…………主様、あいつを殺せとの言葉をきっと彼女は言っているでしょう』

 

 ちょ、流石にそれは切れすぎ!?

 …………匙も運がない。

 この世で最も怒らせてはならない者たちの地雷を踏んでしまったのはお前だよ。

 

「いいか、匙―――兄は大切で可愛い妹を馬鹿にされると怒り狂う。姉もそうだ…………俺はこいつらのために、馬鹿にされたこいつらの努力を証明するためにお前を殺…………倒す!!」

「ちょ、なんかヤバいセリフ言っただろ!!―――バジちゃん!いけぇ!!」

 

 すると匙はバジリスクを俺の方に襲わせてきた。

 ―――俺は三人の背中に瞬間的に3つの龍法陣を描く。

 龍同士の心を繋げる簡易陣だ。

 これで心で会話できる。

 バジリスクは俺たちに襲いかかる―――その瞬間、突如バジリスクは雷と炎に覆われた。

 

「それと普通のドラゴンとこいつらを一緒にすんなよ―――こいつらは伝説の龍王に鍛えられてんだよ」

 

 俺は目の前でバジリスクを止めた三人―――ドラゴンの形態となった三人を見ながらそう言った。

 

「フィー、メル、ヒカリ!そっちは任せたぞ!!」

 

 俺はそう言うと、フィー、メル、ヒカリはバジリスクと交戦を始める。

 光速で動くヒカリがバジリスクを翻弄し、強い火炎と雷を持つフィー、メルが追撃のように攻撃を放つ。

 バジリスクは毒のようなものを口から吐くものの、そんな遅い攻撃故に簡単に三人に避けられる。

 さて。

 

「さっきは度胆抜かれたが、ここからはそうはいかねぇ―――行くぞ、匙」

「ああ……だけど今回は俺だけの力じゃない!!」

 

 すると匙は手元にある……大きな風船?のようなものを俺に見せてきた。

 ……その時、俺はそれの正体に気付く。

 

「―――俺から吸った力かッ!!」

「そうだ!お前に勝つにはお前から奪ったこの力と眷属の皆の力が必要なんだ!!」

 

 すると匙は自分の胸にラインを一本、更に複数のラインを各方向に放った。

 ―――それは皆と交戦している他の眷属の者。

 その皆からラインにより魔力を吸い取り、そして自分の生命力すらも魔力源として使う―――俺から奪った力は倍増の力。

 ……つまり眷属が一丸となり、匙に力を少しずつ託したことになる。

 

「お前から奪った力を魔力コーティングをしてもらった風船に溜めて、お前を倒すための布石とする!!俺は命を賭ける!!」

「……………………」

 

 匙は風船を割り、集めた魔力を全て解放し、そしてそれを俺の力で倍増する。

 匙の体中の血管からは筋が浮き出て、体が振動する―――あいつの付近で魔法陣が展開されている!

 恐らくはあいつによるもの……それにより匙の力は何倍にも膨れあがる。

 

「くっ!!お前を、倒すために、会長に禁止されてるけど使ってやるッ!!ヴリトラッ!!お前も龍王なら、あいつに勝たせろぉぉぉ!!!」

 

 ―――次の瞬間、一瞬だけ匙の付近に不吉な黒い影が見えた。

 あれは……ヴリトラの意識?

 そして匙からの威圧感は増す……あれは一種の暴走を利用した一意的なレベルアップ!命を削り、自分の力ではないレベルのパワーを引き出している!!

 魔法のようなものを利用してるのか!?

 ガブリエルさん……あんた、なんて危険な物を教えてんだよ…………いや、たぶん匙にお願いされて教えたんだろうし、禁止もしていたはずだけど……これは下手をすれば命を大幅に削ることになる。

 そこまでして……か。

 

「―――お前は遠すぎる!でも、今の俺なら届く!!たとえ自分だけの力じゃなくても、勝てればそれは俺の勝ちだ!!」

「…………ああ、そうだな。勝てれば、それはお前たちの勝ちだ。だけどな!!」

 

 俺は全魔力を解放する。

 ここまでの戦いで俺はほとんど魔力を使ってない。

 それはこの状況の可能性を考え、最小限にとどめてきたからだ。

 確かにこのゲーム、俺は派手な魔力弾や禁手は下手には使えない。

 頼みのブーステッド・ギアも封じられた。

 

「俺は絶対に負けねぇ!!たとえお前が眷属全員の思いを背負って戦っていても!!俺は仲間を守り抜き、お前を倒す!!!」

 

 匙は俺へと速攻と言える速度で近づき、俺に拳を放ってきた。

 俺はそれを――――――片手で掴んだ。

 

「なっ!?俺は、自分の体を何倍にも強くしてんだぞ!?なのに神器も使ってないお前がどうして!?」

「…………甘いんだよ、匙!!!」

 

 俺はその拳を手の平で砕くように握り、そしてそのまま全力であいつの顔面を殴り飛ばす!!

 その瞬間、バジリスクがその巨体で勢いよく飛んでいく匙を支える…………

 俺の体から魔力が漏れる―――これこそが、俺が神器なしで最上級の敵と戦うために編み出した技。

 きっかけは簡単だった。

 俺が夜刀さんと戦った時、俺は仙術によって気を狂わされて動けなくなった時、俺は魔力を逆にオーバーブーストさせて無理やり体を動かした。

 ……ならそれを実戦で使えないかって考えたんだ。

 もちろんそれの習得にあり得ない過酷な修行をして、しかも手に入れた今でも最上級レベルと相対するには修行がいる。

 だけど―――この戦いでは使える。

 体中に魔力を過剰供給し、肉体に負荷をかけ続け、脳のリミッターを強制的にはずし、身体能力を魔力のみで強化した状態。

 拳一つで岩を砕き、敵を崩し、神器がなくても戦えるようにした形態。

 すなわち

 

「―――オーバーヒートモード、始動」

 

 俺の体からは湯気のような霧が出て、俺は匙を睨みつける。

 

「ここからは俺は神器は使わない。ラインで俺の力を吸えば、お前は逆に暴走する―――こい、匙。男は男同士、拳で来い!!」

「ッ!!」

 

 匙は俺へと拳を放つ。

 俺はそれを敢えて避けず、そのまま受ける!

 

「ッ!?か、硬い!?」

「―――その程度なら、今の俺には傷一つつけられない!!」

 

 俺はその手を掴み、匙へとストレートを振るった!!

 匙はそれを避けれず飛んでいきそうになるが、俺は匙の手を再び掴んで空に上げる。

 ……この形態は身体面の全ての能力を一時的に爆発させる。

 燃費の悪いレーシングカーにガソリンを注ぎ込み、限界速度を超えて走るような状態だ。

 だけどこの状態なら元々の防御力よりも大幅なレベルアップが出来る……ただし、現在では限界が15分だ。

 それ以上するとリタイアの恐れがある。

 だけど……

 

「イッセーェェェェ!!!!」

 

 匙は空中でラインを二階の手すりに伸ばし、そのまま蔓で降りるように落下の力も加えて俺に蹴りを入れるッ!!

 

「くっ!効かねぇ……効かねぇよ!!!」

 

 俺は蹴りの痛みを我慢し、そのまま匙を殴り飛ばし、更に俺は飛ばした方向に移動する。

 すると主の危機を察知したバジリスクが俺の前に立ちふさがる!

 シャァァァァァァァァ!!!…………そんな声を放つと、すると俺の付近にヒカリが舞い降りた。

 するとヒカリは俺に龍法陣を掛ける…………これは自分の性質を少しだけ相手に付加する龍法陣!

 かなり高度な技のはずだ。

 すると俺の体は少し軽くなり、そして俺は一瞬でバジリスクに近づき、こいつの前で拳を振るうモーションに取る。

 

「お前の相手、は!俺だ!!」

「匙ッ!!」

 

 すると匙は俺の前に姿を現し、俺の拳を止める!

 ……俺の制限時間が過ぎるのと、こいつの魔力が尽きるの。

 たぶんこの殴り合いはそれが終わらないと終わらない。

 匙はどんだけ殴られても倒れない。

 そして俺も絶対に倒れない。

 

「うぉぉぉぉぉ!!!」

 

 匙は無理やり体を動かし、俺へ拳をぶつけようとするが、俺はそれを避ける。

 ―――二度と、こんな戦いはこいつはしないだろう。

 こんな捨て身の戦い方、ガブリエルさんが許すわけがない。

 きっと会長だって許さない。

 だけどこいつは惚れた女のために、命を賭けて俺と相対する。

 正直言って、匙は魔力は弱い。

 動きも素人なら、神器だって俺の神器に比べたら並のものだ。

 ……だけどこいつは俺に似てる。

 俺が―――俺が兵藤一誠でなかった頃の俺に。

 才能が何一つなくて、禁手に至るのも数年掛かった俺に。

 魔力もなく、出来ることは自分の体を鍛えることだけだったあの頃の俺に。

 だから……だからこそ、俺はこいつを完膚なきまでぶっ倒さなくちゃいけない。

 こいつが俺に憧れてるっていうのならば、こいつは正々堂々、真正面から倒さなくちゃいけない。

 これはゲームだ。

 だけどゲームだろうと!!

 匙の……匙元士郎という男のこの想いに俺は全力で応えなければならない!!

 例え万全の状態でなくとも、俺はこいつが憧れ、目標となるための存在で居続けるために匙を倒す!

 こいつは俺のダチだから―――

 

「お前を倒す!!匙!!!」

「うるせぇ!!イッセー!!!」

 

 俺と匙の拳がぶつかり合う。

 俺は普段の俺通りの戦いをしていない。

 正真正銘、これは喧嘩だ。

 これほどわかりやすい男同士の喧嘩は他にない。

 拳と拳で、自分たちの想いと想いをぶつけ合う。

 例え俺と匙に圧倒的な差があったとしても、一瞬でも油断があれば俺は負ける。

 

「俺は、お前に、憧れてる!!でも、会長の夢のために―――お前は邪魔、なんだ!!」

「お前の王様だけが命がけで戦っていると思うな!!」

 

 俺は匙のボディーブロウを躱し、そのまま裏拳で匙を地面に叩きつける。

 匙は数バウンドしてすぐに立ち上がるも、俺はそれに食らいついた。

 

「部長だって、ライザーとの戦いでずっと後悔してた!」

「くっ!!」

 

 俺は連続で何度も匙に拳を放ち続ける。

 匙はそれを防御もせず、俺の顔面に重い拳をぶつける。

 

「部長だって負けられない!!自分のせいだと後悔して!!この日のために寝る間も惜しんで修行した!!」

 

 ……レーティング・ゲームを知るため、色々な資料を寝る間もなく読んでいたとアザゼルは言った。

 

「会長だって!!馬鹿にされて、夢をかなえるために!!このゲームに全てを賭けてんだ!!」

「こっちだって全力だ!!勝手に自分たちの想いを上にしてんじゃねぇ!!」

 

 俺は匙の拳に血反吐を吐きながらも、匙を頭から地面に叩きつける。

 ……今のは確かな感触があった。

 匙は頭を抑えながらも俺を睨みつける。

 

「上も下もねぇ。優劣を勝手に判断してんじゃねぇ。そんなことを考えているうちは―――お前の拳は響いてこない」

「く……そッ!!」

 

 匙はポケットから何かを取り出した―――瓶。

 つまりはフェニックスの涙。

 あいつが持っていたんだな。

 匙は涙を自分に振りかけると、今まであった傷がみるみるうちに治っていき、そしてあいつは再び立ち上がる。

 

「……あぁ、確かに俺はお前の言う通り、心のどっかで思ってたよ…………俺たちのゲームにかける想いは誰にも負けないって……実際にそう思ってる」

「…………こいよ、匙。俺は何度だって相手する」

 

 俺は拳を構える―――と同時に、ドスンという音がその場に響いた。

 俺はそっちを見ると、そこには体から少し血を流すチビドラゴンズと、光の結晶化して消えていくバジリスクの姿があった。

 更に他の俺の仲間は……傷だらけになりつつも、まだ戦える状態。

 数で圧倒はされたものの、相手の方が傷ついている。

 

「会長、もうあなたは攻め入られています―――もう反転は通用しません。祐斗の聖魔剣は反転しても変わりませんし、雷光は出力が大きくて反転は出来ないでしょう」

「…………残念ですが、チェックされていたのはあなた達ですよ」

 

 ……すると会長の姿が少しずつぼやけていく。

 

「ここには私はいません。なぜならここにいる私は映像。魔術を使い、そこにいるかのように見せかけた幻術です。これはそちらが倒した僧侶二人が残してくれた賜物。そして私は既にあなたたちの本陣の付近にいます。そこに魔法陣を展開し、私の眷属の数人だけでも転移させれば私たちの勝ちです」

 

 ―――会長はそんなことを言った。

 すると会長は少しずつ姿を消していく。

 ……おそらく、戦闘になれば気を読める小猫ちゃんがそんな余裕をなくすと思ったんだろう。

 実際に正解だ。

 そして人知れず王単身で気配を消し、俺たちの本陣に近づき、そしてそこに眷属を数人転移させる。

 俺たちの来る人物を全て理解した上での行動、今の俺たちの本陣にいるのはゼノヴィアと部長とアーシア……なるほど、確かにかなり危ない。

 しかもゼノヴィアは反転に対処は出来ないだろう。

 アーシアの回復の力を反転されれば、絶大なダメージがアーシアを襲う。

 そして本陣に行けば、この状態の匙や仁村さんと言った『兵士』は昇格する。

 

「…………悪い、イッセー……これはゲームだ。俺たちの目的は悟られることなく会長を送り届けるために派手に戦うこと」

 

 すると匙を中心としたシトリー眷属の数人が魔法陣に包まれ、消え始める!

『兵士』が一人、『戦車』が一人、『女王』が一人……恐らくは傷が深くない人物だ。

 残りはサクリファイス、か!

 そして会長の姿は消え、そのまま俺たちはその場に残された。

 

「さて、じゃあ残された私達でここを死守するわ―――私たちの勝ちよ」

「命がけで!!」

 

 するとこの場に残る巡さんと仁村さんは戦闘準備を始める。

 ――――――何も知らないで。

 

『皆、そろそろ始めるわ―――私たちの反撃を』

 

 そう部長から通信が入った瞬間だった。

 俺と朱乃さんはチビドラゴンズを連れてその場を一気に離脱する…………屋上に向かって。

 

「ど、どうして―――屋上への階段の方に……」

 

 遠目で見る巡さんが少し不安そうな目で俺たちを見た。

 あの場に残るのは小猫ちゃんと祐斗……それは相手の巡さんと仁村さんの足止めのため。

 ――――――ここからは反撃。

 何故なら………………部長は会長の最後の攻めを見抜いていたからだ。

 部長が最初の方に言っていた仕込みはこのための布石だったんだ。

 

「部長も今回はかなり頭が切れていますわ…………まさかこんな手を思いつくなんて、思ってもいませんでしたわ……少なくとも、失敗すれば私と部長、アーシアちゃんの行動は無駄になっていましたもの」

 

 ……部長と朱乃さん、アーシアは魔力面で優秀な側面を持っている。

 しかもこの三人は修行場所が同じで、そういう術関連の修行を積んでいたそうだ。

 つまり三人が集まれば高度な魔術的なものを仕掛けることも可能…………ギャスパーをあの展開で祐斗の方に送った大きな理由は屋上とその付近に魔法陣を利用した術を仕掛けるためだった。

 でもまさか会長が屋上で何かを企んでいたとは考えもしなかったけど……向こうもこっちも戦略や戦術が交差して、上手くいかないことが多かった。

 部長だって最後はほとんど賭けだった。

 なんたって部長たちの仕掛けた術は―――自分たちの本陣付近に転送されたものと術者を強制的に屋上に転送するというもの。

 俺と朱乃さん、チビドラゴンズは屋上に到着する。

 車は綺麗に端に避けられており、これがゼノヴィアが俺たちの戦闘に参加しなかった本当の理由。

 パワーのあるゼノヴィアが車を移動させ、戦闘しやすい布陣を作るために車を動かしたんだ。

 俺たちが到着すると―――

 

「早かったわね、イッセー……もう少し遅くても良かったのだけれど」

「…………リアス、あなたは」

 

 そこにはあらかじめ屋上で待ち伏せていた部長とアーシア、ゼノヴィアがいて、それに対抗するように会長の他の眷属が臨戦態勢を整えていた。

 

「正直な感想を言えば、ソーナ……私はあなたを甘く見ていたわ。まさかイッセーが一度突破されるとは思っていなかったもの…………反転。おそらくそれはイッセー攻略とアーシアの無力化のために用意していた切り札だったんでしょうね」

「ええ……でもまさかリアスがここまで私の手を潰してくるとは思いませんでした……いえ、私は舐めていたんでしょう―――あなたの眷属の兵藤君だけを潰せば、それで有利になると」

 

 屋上にいるのはソーナ会長、匙、真羅副会長、由良さん……こっちは俺、朱乃さん、部長、ゼノヴィアで、実質的にはアーシアを護るためにゼノヴィアは戦えない。

 部長もそこまで深く戦闘に参加できないから……実質俺と朱乃さんで会長を除いた三人と戦わないといけない。

 

「ソーナ……あなたは知らないと思うけど、私のライザーとのゲームの評価は最低なものだったわ―――一人の兵士と戦術を思考し、自らそれを感情任せに潰した王…………私はあのゲームでは何も出来なかった。だから私はあれ以来、一人でずっとゲームを知ろうとしたわ―――このゲーム、がむしゃらなのはあなただけではない。私だって、未来を賭けているわ!」

「私だって負けません!私には夢がある!!戦力的にはこっちの方が分があります!」

 

 すると会長は魔法陣を出現させ、それより水による物体……蛇やドラゴン、獣と言った造形のものを創り上げる。

 

「朱乃さん、副会長は任せます―――俺はあのバカと、決着をつけるので」

「……あらあら、そんな凛々しい顔を魅せられたら、頷くしかないですわ」

 

 朱乃さんは雷光を迸らせながら、少し頬を赤くして言った。

 俺はこっちを向く匙と由良さんと視線を合わせる。

 

「―――逃げてんじゃねぇよ、匙。お前の覚悟は十分分かった…………だけどな、こっちは今まで思い通りに戦えず、みんなに負担を掛けたばかりか、俺を応援してくれる大切な奴らにカッコ悪いところを見せちまった―――だからこそ、俺はこの場でお前を倒す」

「……来い!!イッセー!!」

 

 匙が再び自分の体に鞭を打ち、無理な力で血反吐を出すが、それでも好戦的な視線を俺に送る。

 

「にぃちゃん、ガンバレェェェェ!!!」

「にぃたん、だいすき!!そんなのたおしちゃえ!!!」

「にぃに!!にぃにぃ~~~!!!」

 

 ……チビドラゴンズは精一杯の声援を俺に送り、それを何度も大声で叫んだ後に限界を迎えてその場から離脱する……あいつらもバジリスクとの戦闘でかなり傷ついていたからな。

 

「見てろよ、三人とも……皆の想いに応える!!」

 

 オーバーヒートモードはもう使えない。

 一度あいつを戦闘不能に出来たから、もう十分だ。

 それにこのフィールドは―――俺の力を最大限に発揮できる場所だ!!

 

「行くぞ、ドライグ、フェル!!!」

 

 俺の腕に紅蓮と白銀の籠手が再び装着する……そして赤龍帝の籠手は光輝き、俺の体を覆った。

 そして次々に俺の体に鎧を装着させて行き、そして―――

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!』

 

 俺は赤龍帝の鎧を身に纏い、その音声が鳴り響く。

 ―――そして、最終決戦が始まった。


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