ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第11話 負けられないレーティング・ゲーム

『Side:アザゼル』

 俺、アザゼルは魔王の連中とそれ以外の今回の事件に関与した、もしくは真相を知っている最上級悪魔の集まりにいる。

 その中にはタンニーンや既にその事実をどこから得たか分からんが、真相のある程度を知るガブリエル、その付き人の紫藤イリナの姿もあるな。

 でもまさか三大名家の残り二家の当主と前当主まで来るとは思っていなかった。

 

「この度の事件でおそらく最上級悪魔、ガルブルト・マモンを慕っていた悪魔は猫又の黒歌を非難するだろう……それはどうにかしても止めなければならない」

 

 サーゼクスはそう言い始める。

 こいつは先ほどまで自分の『女王』と共にグレモリー家の本邸にイッセーの見舞いに行ったから、その時何か話したんだろうな。

 ……にしても俺も流石に知らせを聞いたときは驚いた。

 悪魔のパーティーだから魔王共と会場入りしようとしていたから、その集合時間まで遊んでいたのは完全に俺の過失だ。

 あと一歩、あの場にイッセーがいなかったら……そう思うと鳥肌が立ってしまう。

 …………しかも、俺はイッセーに内密に知らされたが、あの場にはヴァーリもいたそうだ。

 何故イッセーがヴァーリの存在を内密に俺に知らせたのかわからんが、イッセーから教えてもらった情報から、俺はヴァーリが組織に入ったのには何か本当の理由がある気がする。

 その理由こそがヴァーリが黒歌を私情による契約をしていた原因でもあり、あいつは不器用ながらも遠まわしにイッセーや黒歌、小猫を助けたんだろうな。

 ……あいつは戦闘バカだが、嫌いになれない。

 イッセーはそう言っていたが、まあそうだろう。

 あいつは芯から悪ではなく、心はどちらかと言えば善に近い。

 ―――全く、今代の赤龍帝と白龍皇はどっちもイレギュラーだな。

 その力もそうだが、それ以上にその精神、目標とするもの。

 

「……サーゼクス殿。話を聞いている限りでは、過程がどうであれ、彼……赤龍帝、兵藤一誠くんの手柄はかなりのものと思いますよ?」

 

 ……そこでガブリエルの野郎が挙手をして言う。

 今回の件は完全に悪魔の過失…………悪魔の問題の種であったガルブルト・マモンを放置していた悪魔側の責任だ。

 故に熾天使や堕天使の幹部からは非難もあるんだが……まあイッセーの働きでそれもかなりマシだ。

 全勢力が共通しているのは、”兵藤一誠”という男に対する評価の高さ。

 俺のところのシェムハザも珍しくイッセーのことを褒めていたし、熾天使どもはイッセーが教会近くにいた二年間のうちに天使サイドがイッセーを確保しておけば良かったと後悔しているそうだ。

 ……それに関しては俺もそうだな。

 とにかく言えることは、各勢力は未だ膠着状態なんだが、兵藤一誠という存在には共通してある程度の信頼を置いているってことだ。

 まああれだけ各勢力を救った男でもあるからな。

 

「確かに赤龍帝くんの手柄は上げていけばかなりのものよね!この前だってソーナちゃんを助けてくれたし!あ、コカビエルの時もそうだね~!」

「セラフォルー。それは君の私情も入っているだろう?」

 

 セラフォルーの相変わらずのシスコンぶりにサーゼクスがツッコむが、サーゼクス……お前も相当なシスコンだ。

 

「だがサーゼクス殿。実質、俺の孫…………一誠の功績はかなりのものだ。実力も既に最上級悪魔とも対等、あるいはそれ以上にやり合えるだろう……実際、俺はあいつと本気の戦いになれば持てる全ての力を出さなければならん…………俺が鍛えたからこそ分かる―――あの男は、現状でも先が見えんほどの可能性を秘めている」

「お前がそこまで言うとはタンニーン……イッセーをかなり評価してんだな」

「アザゼルよ。お前こそ、先ほどから頬が緩んでおるぞ?」

 

 ……タンニーンにそう言われて俺は自分の頬がゆるんでいることに気付いた。

 

「…………この度は、すまなかった……ガルがこんなことを起こして」

 

 ……すると部屋の一角に二人で座っているディザレイド・サタンとシェル・ベルフェゴール―――今はシェル・サタンか。

 ディザレイドがサーゼクスに頭を下げた。

 

「……ディザレイド殿とシェル殿は彼と同期の幼馴染だったね…………やはり悲しいのか?」

「……まあ、な。だがそれ以上に苛立っている―――この落とし前は俺がつけよう。でなければこの拳が収まり切れんッ!」

「…………落ち着け、この筋肉ダルマ」

 

 ……するとその隣のシェル・サタンがディザレイドの脇腹を小突く―――では済まない打撃音で殴る。

 こいつ、口悪いな。

 だがこいつが悪魔界では女性悪魔の双翼と謳われる―――唯一、最強の『女王』と謳われるグレイフィア・ルキフグスと魔王セラフォルー・レヴィアタンと同等以上に渡り合える女性悪魔として有名なシェル・ベルフェゴールだ。

 っていうかディザレイドもよくこんな嫁さんをもらったな。

 

「あの変態糞脱糞のストーカー変質者、及びどうしようもなく救いようのない強欲無能野郎はディー……あんただけの責任じゃない……あたしもあんたと一緒に落とし前をつける」

「……シェル。この場でその言葉はダメだ。それでも抑えた方だが……」

 

 ……マジか!?

 今のでも抑えた方なのか!?

 ―――この嫁とディザレイドの間に生まれた娘が今のベルフェゴール家当主とか、恐ろしすぎるな。

 

「とにかく、この度もまた兵藤一誠によって救われた……これはもう上級の位を渡しても問題はないはずだ」

「…………難しいぞ、サーゼクス。それは余りにも現状では難しい」

 

 俺はサーゼクスにそう言う。

 ……確かにイッセーには上級悪魔の看板を背負うほどの力量、品格、頭脳……『王』としても力を十二分に発揮するだろう。

 仲間想いもかなり良いところだ。

 だが―――あまりにも早すぎる。

 イッセーは悪魔になってまだ月日が経っていないんだ。

 確かにイッセーという赤龍帝を自分たちの元に置きたい悪魔側のトップ陣の気持ちは分からないでもない。

 だがトップだけが決めることに下はついて来ない……特に悪魔は。

 せめてイッセーがもっと世間的にも有名で、なおかつ相当の功績を上げれば、中級を飛び超えて一気に上級に飛び級もあり得るんだろうが……難しい。

 

「分かっている。だが彼はもう止まらないさ―――この私を前に、絶対に上級悪魔になると宣言したからね」

「……あいつが自分から?」

 

 俺はサーゼクスの言葉に素直に驚いた。

 ……まさかイッセーが自ら望むなんてな…………まあどうせ、また誰かを救うためだろうけど。

 でもあいつ…………いったい無意識にどれだけの女を惚れさせるつもりだ?

 俺の知っている限りでは眷属全員は木場も含めて、あいつに熱烈な好意を向けている。

 あいつはあのルックスにあの熱血漢だ。

 モテないはずがないし、それ以上にあいつに向ける好意は劣情がない。

 おそらく、イッセーはその存在自体がでかすぎて、あいつの傍に居たいと女に思わせてしまい、結果的にそれが「ハーレムでも良いから彼に愛されたい」と思ってしまい、無自覚にハーレムを形成してしまうタイプの男だ。

 滅多にいないタイプ……女たらしでもなければ欲が多いわけでもない。

 修羅場のようなもんが発生しないハーレム……か。

 あいつなら平等に全員を大切にするだろうからな。

 しかもあいつ、男にまで好意的に見られる傾向にあるからな。

 まあそんなあいつが自分から上級悪魔を目指すと言ったんだ―――もう、あいつは止まらない。

 目標があればそれを絶対に達成するために努力をする奴だ……俺の課したあんな修行をこなすんだからな。

 

「―――小童ども。お主らはわざわざ来てやったわしに出迎えなしとは無礼じゃぞ?」

 

 ……その時、その室内に老人のような声が響いた。

 古ぼけた帽子をかぶる隻眼の爺。偉大な風格をしているのにも関わらず質素なローブを身に纏い、杖を体を支えてる。

 

「―――オーディン」

 

 ……こいつはオーディン。

 北欧の神々の主神である化け物みたいな強さのエロ爺だ。

 今回はおそらくはサーゼクスにゲームの招待を受けて来たんだろうな……何人かの戦乙女(ヴァルキリー)を連れてのご登場だ。

 

「これはこれは…………お早いご到着で。申し訳ございません、オーディン殿」

「サーゼクスか。お主の招待状、もらったからには来てやったぞ―――それにしてもいろいろな勢力がそろっているのぉ…………良い女がうようよいるわい」

 

 ……するとオーディンはシェルやガブリエル、紫藤イリナ、セラフォルー、グレイフィアなどと行った女の体をいやらしい目つきで見始めた。

 するとそんなオーディンの前に立つヴァルキリーの鎧を身に纏う背は高い方か?

 明るい銀に近い髪のヴァルキリーが少し怒った顔でオーディンを叱った。

 

「もう、オーディン様!!そんな卑猥なことばかりだとヴァルハラの名が泣きますよ!」

「うるさいのぉ……そんなのだからお前はいつまで経っても好きな男を勇者(エインヘリヤル)に出来んのじゃ」

 

 ……オーディンの一言で急に泣き出すヴァルキリー……なんだ、こいつは……

 するとオーディンは不思議に思う俺を見てきた。

 

「久しぶりじゃのう、アザゼル…………この娘、まだ小さいころに祖母の家にいた東洋の男に一目惚れしたらしいんじゃが、その男とは音信不通な上に向こうは忘れてるとか思っているのじゃ……故に」

「うえぇぇぇぇぇん!!私はこんなだからどうせあの子にも無視されるのよぉぉぉ!!どうせ彼氏いない歴=年齢のヴァルキリーだもん!!うぇぇぇぇぇん!!!」

「こんな風に、泣き叫ぶのじゃ……ほほほ、愉快じゃ、愉快じゃ」

 

 ……にしても東洋人の男、か。

 なんかまた面白そうなものが転がりこんできたな。

 

「それでわしはゲームを見に来たのじゃ…………噂では、サーゼクスの妹の…………あのけしからん乳房をしておる娘に新しい眷属が出来たと聞き及んだのじゃが……」

 

 ……ヴァルハラにもイッセーの噂は行っているのか。

 っとその時、先ほどまで泣きわめいていたヴァルキリーが俺の前に来て、少し何かを聞きたいような顔をしていた。

 

「ああ?どうした?」

「貴方様はアザゼル様、でいらっしゃいますか?」

「おう、そうだが……」

「……その…………イッセー、という男の子の名前を知りませんか?実は私の祖母が彼と由縁がありまして……その…………信じられませんが、悪魔に転生…………したという噂を聞きまして……」

 

 ……うわ、ビンゴ。

 こいつの惚れてる男ってまさかのイッセーかよ!

 ってかどんな経緯でヴァルキリーの祖母と由縁を持てんだよ!!

 

「ああ、イッセー君なら私の妹、リアスの『兵士』だよ」

 

 するとサーゼクスは隣でヴァルキリーに言った。

 

「…………あの、彼に会うことは、できますでしょうか?」

「……今は難しいね。彼は先の戦闘で今日は絶対安静で…………禍の団と交戦となり、怪我をしたんだよ」

「―――――――――」

 

 ……そのサーゼクスの苦笑いを含むセリフを聞き、ヴァルキリーは表情を失った。

 ―――なんだ、この威圧感は。

 先ほどまでヘタレな感じを出していたヴァルキリーとは思えないほどの覇気だ。

 するとヴァルキリーはオーディンの隣まで歩いていき……

 

「―――オーディン様。今すぐにテロ組織を滅亡させましょう。私の勇者(希望)に手を出したなんて…………断じて許しませんッ!!」

「ろ、ロスヴァイセ?お主、落ち着け……そんなんだから彼氏が―――」

「―――オーディン様?何か、仰いましたか?」

 

 …………あいつ、あのオーディンを笑顔で封殺したッ!!

 なんて奴だ……この場で口数が減らないオーディンを笑顔で黙らせただと!?

 

「ま、まあなんじゃ…………わ、わしがその男と会わせてやるから、明日はその男の雄姿を見ようぞ!サーゼクス!その男はゲームに出るんじゃな!?」

 

 ……オーディンが言葉を少しだけ震えさせてサーゼクスに問う。

 この爺のこんな姿を拝められるとは……あのヴァルキリーには感謝だな。

 

「ええ、イッセー君は出ますよ。明日の試合、恐らくリアスは彼を中心にゲームを動かすでしょうから……」

「そ、そうか……それでいいじゃろう?」

「…………はい!ではこのロスヴァイセ、オーディン様を全力を以てお守りします!」

 

 ……先ほどとは違い屈託のない笑顔でオーディンにそういうロスヴァイセというヴァルキリー。

 イッセー……お前、とんでもない女にもフラグ立ててたのか?

 

「…………ところでアザゼル」

 

 するとサーゼクスは俺に話しかけてきた。

 

「君は教師という立場から、監督者という立場からリアスたちを見ているだろう。だからこそ聞きたい―――君ならば、一番最初にリアスたちの誰を取る?」

「…………そりゃあ……まあイッセーだろうな」

 

 俺は本音をサーゼクスに言った。

 

「イッセーという存在は既にリアスの眷属の中では精神的な支えだ。そりゃああいつは何があっても諦めず、今まであいつら全員を守り抜いてきた―――が、それがあいつらの最も大きな弱点でもある」

「それは……彼を失った場合のことか?」

「そうだ……っと言ってもあいつは機転が利く上に今回の修行で得たものが大きい……だがそのイッセーを失えば、リアスたちは崩れる可能性が大きい」

 

 ……ゲームにおいて、テンションを上げるための存在はかなり重要だ。

 その役目は今はイッセーが無自覚にしている。

 俺だってイッセーの敗退は考えられんが、もしイッセーが使えない状態になればどうなるだろうな。

 

「……ソーナもそこを突くだろう」

「だけどあいつも難儀だよな―――実質、『王』を二人も相手にする羽目になる。イッセーはパワーもあればテクニックもある。頭もあるから…………だがソーナは一番気を付けなければならないことはイッセーではないぜ?」

「……というと?」

 

 サーゼクスは俺にそう言ってくる。

 

「簡単だ――――――リアスの眷属で警戒するのがイッセーだけと思えば、あいつは大怪我をするってわけだ。強くなってんのはイッセーだけだと思えば大間違いだ」

 

『Side out:アザゼル』

 

 ―・・・

 俺は怪我もかなりマシになり、甘えるチビドラゴンズやオーフィス、眷属の皆を宥め、今は明日の試合の最後のミーティングをしている。

 その前に黒歌のことだが……まあそれなりに皆と仲良くは出来ている。

 今はあいつも疲れていたのか、用意された部屋で眠っており、今の俺の部屋には眷属の皆にアザゼルの姿があった。

 

「よし、全員集まったな」

 

 アザゼルは全員が集まったこの状況で、仕切り始めにそう言った。

 

「んじゃ最後の確認を始めるぞ……っとその前にイッセー、今のお前の状態が知りたい。ゲームではお前の力は必要不可欠だからな……正直に答えろよ?」

「……分かってるよ」

 

 俺はアザゼルの言葉にため息を吐きながら頷く。

 

「今の俺はアーシアの癒しの力と黒歌の仙術でかなり回復はしてる……体力も問題ない……けど恐らく、フォースギアの強化は出来ない。普通の神器なら問題ないけど、赤龍神帝の鎧(ブーステッド・レッドギア・スケイルメイル)は使用できない。あとは制限は特にないな……例のモード(・ ・ ・ ・ ・)も使用は可能だ―――ただ、長引けばちょっと支障が出る可能性はないとは言い切れない」

「……想定していたよりははるかに良い。俺の想定では禁手やその他もろもろ使えないと仮定していたからな」

 

 ……俺も覚悟はしていたけど、あの無茶な修行は俺に傷に対する耐久力も兼ね備えた。

 二度と御免だけど、でも得たものは大きいな。

 でも相手はソーナ会長……俺の見立てでは、『王』としての資質は部長よりも高いかもしれない。

 シトリー眷属はテクニックタイプの人物が多く、熾天使であるガブリエルさんがアドバイザーだったからな……

 油断なんて、一切出来ない。

 

「良いか?相手はお前らと同じ学び舎で生活しているからこそ、お前たちの大まかなことは理解しているはずだ……それはお前たちも同じ。ライザーとのゲームもソーナは見ていたから、研究されているだろう」

「そんなことは百も承知よ……その上でソーナを倒すわ」

「その意気だ―――向こうにはギャスパーの力、小猫の本当の力を知られているわけだが……小猫」

「……もう、何も怖いものはありませんから……私は私の出来ることを全てします」

 

 ……小猫ちゃんは決意のこもる目で頷いた。

 このゲームは黒歌も見るだろう……だから気合も十分だ。

 

「向こうの駒は理解しているか?」

「ええ……『王』が一、『女王』が一、『騎士』が一、『戦車』が一、『僧侶』が二、『兵士』が二…………数の上では同じよ」

「ああ、数ではな…………が、この眷属には大きな武器がある。わかるか?」

「……イッセー、でしょ?」

 

 アザゼルは頷いた。

 

「イッセーの強さは『王』である私も理解しているわ……悔しいところだけれど、イッセーには『王』としての資質がある。それを『兵士』として、しかもパワーだけではなくテクニックにも精通しているわ―――ジョーカー、と言っても可笑しくはないわ」

「その通りだ。本来ならばイッセーは制限されても可笑しくないほどのオーバーアビリティーを持っている…………が、それは全て努力によるものだ。それを言った悪魔は全員黙らせて、今回の勝負はイッセーにハンデはなし……ただ、ギャスパーには制限が掛かった」

 

 するとアザゼルは一枚の紙?みたいなものをテーブルの上に置く。

 そこには悪魔文字が書かれており、俺は微妙な知識しかないけど、それを一部翻訳する。

 そこには『以下のことにより、ギャスパー・ヴラディの持つ停止世界の邪眼(フォービトュン・バロールビュー)の使用を禁止する』と書かれていた。

 

「ギャスパーは修行により、かなり神器も安定し始めたんだがな……やはり停止の力は危険なんだ。動きだけでなく、他者の命を停止したら終わりだ―――だからこそ、今回はギャスパーは吸血鬼としての力しか使えない……どうだ、大丈夫か?」

「……大丈夫です。僕だって……必死で修行しました……イッセー先輩みたいになりたいから……」

「その心構えがあれば大丈夫だ。あとはゲームで弾けろ―――とまあ俺が言えるのはこれぐらいだ。後は修行で得た力を発揮すればいい……イッセー、何か言いたいことはあるか?」

 

 するとアザゼルは俺にそんなことを聞いてきて、みんな俺に視線を向ける。

 ……言いたいことか。

 

「……何ていうか、向こうはたぶんがむしゃらに突き進んでくると思う……それこそ命を賭けて。だからこそ起きるはずのないことだって起こるかもしれない……向こうも必死で修行してたんだから、油断なんてダメだ。全力で、油断もなく、完膚なきまで―――ソーナ会長のことは考えず、目の前の敵を討つ。それぐらいの覚悟でいかないと勝てないと思う」

「……そうね。たとえこのゲームはソーナの夢が掛かっているからと言っても、私の夢もあるわ―――二度と負けられないわ。前回のゲームは私のせいで負けた。だからこそ…………勝ちましょう」

 

 ……部長の言葉にみんな頷く。

 負けられない……俺にあれほどの男を見せつけた匙。

 あいつに報いるためにも、あいつの想いに応えるためにも……絶対に負けられない。

 

「…………ははは、やべぇな……今から鳥肌が立ってきた…………お前ら、俺が最後に言ってやる――――――圧倒しろ。向こうがどんなに強くなっていても、お前たちにはその力がある」

『…………』

 

 俺たちは無言でアザゼルの言葉に頷く。

 圧倒なんて、不可能に近いかもしれない。

 だけどまぁ……やることは全部やってやる。

 そうして決戦前夜の夜は更けて行った。

 

 ―・・・

 その次の日、俺たちグレモリー眷属は一つの何もない空間にいた。

 いや、実質俺たちだけではない。

 俺たちと睨みあうように、目の前にはシトリー眷属の面々がいた。

 緊張の趣き……ここから俺たちは同時に試合の会場に転送される。

 いわばこれはゲーム前の最後の顔合わせってことだ。

 

「……リアス。先日のことは既に聞いています。まずは労いが必要でしょうか?」

「要らないわ、ソーナ。見ての通り、イッセーは普段通りだもの―――遠慮なんていらないわ」

 

 部長と会長が軽く言葉を交わす。

 両者とも視線は好戦的だ…………この二人は昔からの幼馴染だそうだ。

 だからこそ二人には負けられない感情があるんだろう。

 

「そんなもの始めからないわ……リアス、私はあなたに絶対に勝ってみせるわ」

「…………いえ、それは無理よ―――私たちの眷属は負けないもの……二度と」

 

 ……それだけ言葉を交わすと、俺たちはそれぞれ違う方向に歩いていく。

 俺たちの向かう先には俺たちを応援するグレモリー卿やヴェネラナ様。

 更には俺のドラゴンファミリーやミリキャス、そして黒歌の姿があった。

 チビドラゴンズは既にちょっと戦闘態勢を整えてる……気合入り過ぎだろ。

 さっきからシトリー眷属を睨んでるよ!

 ……ともかく、俺たちがこの場所から転送されてから皆は所定の観覧席に移動するそうだ。

 

「リアス。グレモリーの名に恥じぬよう、全力でやってきなさい」

「一度負けているのです―――勝ってきなさい、私の娘なのですから」

「リアスお姉さま!頑張ってください!!イッセーお兄様も皆さんも!!」

 

 ミリキャスが元気いっぱいの笑顔でそう言ってきた。

 

「イッセー、我、イッセーの雄姿、見る」

「冥界中にお前の強さを見せつけて来い、一誠……私の弟は負けん」

「にいちゃん!はやくフィーも呼んでね!!」

「メルも!!にいたんのためにたたかう!!」

「にぃに……ヒカリがすぐにかけるつけるからね?」

「……イッセー!応援するにゃん!!」

 

 ……俺の家族がいろいろな表情を浮かべつつ俺にそう言ってきた。

 こんだけの声援を貰ったんなら、勝たねぇとカッコ悪い!

 

「ああ……絶対にカッコいい姿見せてやるからな!」

 

 俺は拳を皆に向け、笑って言葉を返す。

 すると俺たちの周りに魔法陣が出現し、俺たちの体は輝き始める。

 そして俺たちは―――俺たちのゲームが始まった。

 

 ―・・・

 ………………目を開けると、テーブルだらけの空間に俺たちはいた。

 ここは…………レストランか?

 でもこの風景、どっかで見たことあるような…………なるほど。

 俺はそこで理解した。

 ここはおそらく、駒王学園の生徒であれば誰しも一度は行ったことのある学校の付近にあるショッピングモールだ。

 二階で横長の建物で天井はガラス張りだ。

 色々な店が軒並み並んでおり、俺も結構な頻度で行くから慣れ親しんでいる。

 つまりこのデパートが今回のゲームのフィールドってわけか。

 ……このデパートにはそんなに大きな広場はない。

 一応あるとすれば子供の遊び広場か、それかデパート内にある噴水広場……もともと広大なデパートではあるけど、俺たちの有利とは言い難い戦場だな。

 

『皆様、この度、グレモリー眷属とシトリー眷属のレーティング・ゲームの審判役を務めますルシファー眷属の『女王』、グレイフィアです』

 

 ……すると店内放送のアナウンスからグレイフィアさんの声が響いた。

 前回のゲームの時はルシファー眷属とは言わなかったけど、今回のゲームは冥界中に放送されるものらしいからな。

 しっかりと自分の身分を誇らなければならないってところか。

 

『両陣営、転送された場所が本陣でございます。リアス様は二階の東側、ソーナ様は一階の西側が本陣となります。『兵士』の駒の方はそれぞれ敵陣に入った瞬間から昇格が可能となります』

 

 ……なるほど。

 この建物は横の長さが異様に長いから、両端の階の上下がそれぞれの本陣ってわけか。

 分かりやすいが、たぶんこれだけがルールじゃないはずだ。

 この建物は屋上が駐車場、他にも立体駐車場もあるはずだ……店内はたぶんほとんどの系統の店舗がある……おそらくは普段と同じように再現されているはずだ。

 つまりは駐車場に止めてある車、食品売り場の食べ物……それらはたぶんあるんだろうな。

 ……まだ何か考えられることはあるか?

 そう思っていると、アナウンスが再び入ってくる。

 

『なお、今回のゲームでは両チームにフェニックスの涙を一つずつ支給されます。作戦時間は30分。それまでは両チームも接触は禁止となります……更に特別ルールをそれぞれの『王』に送信しましたのでご確認ください―――では作戦時間です』

 

 グレイフィアさんによるアナウンスがブツッと切れる。

 特別ルールか……俺はそこで部長の方を見ると、部長は少しだけ訝しい表情をしていた。

 

「……ちょっと困ったわね」

 

 すると部長は俺たちに部長の手元にある端末を俺たちに見せてきた。

 

「特別ルール『物を極力壊さない』……つまり、これは派手な攻撃を封じられたのと同じことよ」

「…………それはつまり、私や副部長の力が制限されるということかな?」

 

 部長の言葉に一番早くゼノヴィアが反応した。

 物を極力壊さない……言ってしまえばこの中で随一のパワーのゼノヴィアの力が封じられたことと同じなんだよ。

 ゼノヴィアの強みはその絶大なデュランダルによる聖なるオーラ。

 そしてゼノヴィア自身のパワーだ。

 あらゆるものを破壊する力を持つがゆえに、今回のゲームではそれが封じられているのも同然……俺もかなり痛い。

 俺の全力の力と言えば、どれもこれも周りに影響を与える”実戦向きの力”だ。

 通常の禁手でさえかなりの力を発動してしまう故に、今回は余り向かない力かもしれないな。

 いや、むしろ通常形態である籠手と……ツイン・ブースターシステムが限界か。

 それでもかなり怪しいな―――単なる火力は今回は余り使えない。

 となると……予想よりも早くあれ(・ ・)を使うことになるな。

 

「今回のルールは正直に言って、私達には不利なルールよ。ゼノヴィアは力が半減され、朱乃の大掛かりな魔法もどれほど効果を発揮するか分からないわ……力が売りの私達には最悪と言っていいほどのルールね」

 

 ……でも部長は薄く笑っていた。

 

「でもこれはポジティブに考えましょう―――圧倒的に最悪な状況下で、敵を倒す。それによって私たちの評価は上がるわ」

「あらあら、部長も珍しく燃えていますのね」

「ふふ、そうかしら…………私も『王』らしく、自分のしなければならないことをしたいのよ」

 

 部長はそう言うと、手元に光の小さい球を浮かせ、それを俺たちの耳に入れた。

 確か戦場においての通信機。

 

「屋内線では大掛かりな攻撃は封殺されるわ。それはこれによって一番被害を受けるのはイッセー…………イッセーの強みは最強のパワーから繰り出されるテクニックの数々……そのうちのパワーが消えたから、今回はテクニックに走るしかないわ」

「了解です」

 

 俺は部長の言葉にうなずく。

 俺が今回、テクニックで戦うとなると、俺は誰と組むべきだろうな。

 俺はそれを言おうとした時、部長に人差し指で口元を抑えられる。

 

「イッセー、あなたの助言は最後にもらうわ……あなたばかりを頼っていたら『王』として示しがつかないわ」

「……すみません。ちょっと調子に乗り過ぎました」

「いいのよ……今回こそ、私の……私たちの力で勝ちたいもの」

 

 部長は俺の口元から指を離し、そのまま一拍する。

 

「今回は3つのチームに分けるわ。一つはゼノヴィアと祐斗のチーム。もう一つはイッセー、小猫、ギャスパーのチーム……そして本陣を構える朱乃、アーシア、私のチーム。涙は祐斗に渡すわ」

 

 ……俺もそれの方が良いと思う。

 俺の場合は神器の創造で回復出来るし、部長の陣営にはアーシアがいる。

 そうなると涙は必然的に祐斗……特にゼノヴィアに必要になるだろう。

 

「さて……ここからはソーナの使いそうな手を考えましょうか」

 

 ……会長は既に俺たちの最初のゲームのことを調べ上げ、それを元に色々と仕掛けてくるだろう。

 つまりそこで既にハンデがある。

 

「ソーナの眷属はテクニックタイプが多いわ。イッセーやゼノヴィアのような大きなパワーを持つ者はいない……代わりにカウンター系統の力が多いでしょう。それに加えて修行を積んでいるからそれなりに能力の変化もある…………特に神器持ちは顕著ね」

 

 神器は一つの変化で様変わりする能力があるからな。

 俺の力だって向こうからしたら脅威だし……そりゃあ時間さえあればあらゆる属性の神器を創れる上に、ブーステッド・ギアがあればその時間さえ短縮できる。

 回復の神器でさえ15秒で最低なものは出来るわけだし……そう考えるとフェルの力ってすげぇな。

 

「……イッセー、あなたはカウンターに対するカウンターは得意かしら?」

「―――一番好きな相手ですね。俺は一応、他人の表情を読むのは得意ですし……たぶん大抵のテクニックタイプは俺には通用しません」

 

 ……流石に夜刀さんは無理だけどな。

 あそこまでテクニックを極めればカウンターどころの話ではないし。

 

「おそらくソーナはこのくらいのことを普通に考えるわ……つまり向こうからしたら、イッセーはこの眷属で最も厄介ってことね。つまりどんな手を使ってでもイッセーを敗北させようとしてくる……祐斗、普段からイッセーと修行をしているあなたなら、イッセーをどうやったら倒せると思う?」

「…………正直、僕にはそんなビジョンが思いつきません。実践なら瞬殺も覚悟しなくては勝負にもならないはずです」

 

 ……祐斗がそう言った時、俺は祐斗の発言に少し目を見開いた。

 そこで部長が少し笑った。

 

「そう―――実践ならば、ソーナはイッセーには足掻いても勝てない……そう理解しているわ。実践なら、ね」

「でもこれはゲーム、って言いたいんですか?」

 

 部長は俺の言葉に頷く。

 

「……ここからは想定の話。ゲームに記載されるルールは『戦闘不能の状態であるならばリタイア』……つまり真正面から倒さなくても、敵が戦闘不能になってくれればリタイアになる。おそらくソーナが突いてくるイッセー対策はそこね」

 

 ッ!?

 ……驚きだ。まさか部長の頭の中にはここまでのことが予測されていたのか?

 俺も全く考えもしなかったことだ……少し油断していたのかもしれないな。

 今まで倒してきた敵から考えて、俺が倒されることなんてあるはずがない……

 そんな慢心さが俺にあった、か。

 まだまだだ……俺も『王』を目指す悪魔なら、慢心は捨てなきゃいけないな。

 このゲーム……俺にとってはチャンスだ。

 俺はいち早く上級悪魔にならなければいけない……そのためにもこの場で俺にはその資格があるということを冥界中に知らしめなければならないんだ。

 

「…………部長、一つ質問良いですか?」

「ええ。ぜひ聞かせて頂戴……あなたの意見は頼りになるから」

「……物を出来る限り破壊しない―――つまり、相手に破壊させるように動かせば、それは相手が破壊したことになりますか?」

 

 ……その言葉を聞いた瞬間、眷属みんなが少し驚いた。

 

「……盲点だったわ。確かにものは壊してはいけない……つまり相手を殴り飛ばし、その殴り飛ばした相手が例えば車に激突し、その車が大破した―――そうなれば破壊したのは殴った力に勝てなかった相手ってことね」

「それだったら俺はいくらでも戦い方があります。何しろカウンターは得意ですから………………それと、ちょっとだけ相手に怖いところがあります」

「怖いところ?」

「はい…………仮に、相手が命を顧みないような戦い方をした場合です」

 

 ……俺は自分に置き換えて一度考えたんだ。

 例えば匙。

 俺があいつの立場だとして、もし自分が惚れている相手の夢が馬鹿にされ、その眷属も馬鹿にされて、そして残された見返すチャンスがこのゲームだった場合……

 俺は命を賭けてでも勝ちを優先する。

 しかも匙はかなり熱い男だ。

 かなりの予想でそれぐらいのことをしてくると思う。

 

「命がけで戦い続ける奴ほど怖いものはありません……たとえ、力が大幅に離れていたとしても、油断なんて一切できません」

「……そうね。そのことも念頭に置かないといつ逆襲されるかわからない……それにソーナのこのゲームに賭ける想いは相当のものでしょうから……」

 

 ……さて、まだ考えれることはあるはずだ。

 ソーナ会長ほどの人なら、これくらいのことは事前に予想しても可笑しくない。

 

「ギャスパー、あなたはコウモリに変化して序盤戦を逐一報告してもらうわ……ただし、危険になればすぐにイッセーに報告。イッセーチームと名付けましょう……イッセー、私は現場にはいないから正しい指令が出せないかもしれないわ。だから貴方がこのチームを動かして」

「了解です……ギャスパー、何かあれば俺に常に連絡。疑問がちょっとでもあれば俺に話せ」

「は、はいですぅ!!」

 

 ギャスパーが俺に敬礼するようにピシッとする……成長したなぁ、こいつも。

 俺は「えらいぞ、ギャスパー」とか言いつつ頭を撫でた。

 

「見たところ、この会場は丸ごとコピーされているみたいですわ……部長、一応は駐車場を確認するべきと思いますわ」

「そうね……祐斗、あなたの速度で調べてきてくれるかしら?そこに階段もあるからそこから行ってきて」

「了解しました」

 

 すると祐斗は一瞬でその場から姿を消す……速いな、あいつ。

 

「……この位置からもソーナの位置からも敵がこちらに来るのは手を取るようにわかると思うわ。となると幻覚を使ってくる可能性もある……イッセーと小猫、あなたたちはかなり重要な戦力となるわ」

 

 すると部長は俺と小猫ちゃんにそう言ってきた。

 ……俺の気配察知と小猫ちゃんの仙術による気配の察知。

 同じように見えるけど、小猫ちゃんは辺りに流れる気の気配から気配を察するのに対し、俺はマジで命の危険性から身につけた野性的な第六感と魔力探知によるものだ。

 精度は間違いなく小猫ちゃんが上だ。

 

「吹き抜けのショッピングモールが今回の一番考えることね。向こうの兵士は二人……そしてこっちはイッセーのみ……ソーナは何があってもイッセーを自陣には寄らせたくないでしょうから……」

 

 すると部長は色々と考え始める。

 本当に部長はいろいろと勉強したんだな……前回のゲームで一緒に戦術を考えたけど、今回は一人。

 しかも感心するほどの予想だ。

 ……予想はたとえ当たらなくても十分に効果を発揮する。

 予想は大げさに物事を考えるからこそ、それ以外の事態に陥っても冷静に対処できるようになるからだ。

 ……俺は俺のことを考えるべきか。

 俺を間接的に倒す方法……ドライグ、フェルは思いつくか?

 

『……微妙だな。間接的に相棒を倒すなど不可能に近い。大抵の不意打ちに対処できるからな……そう、あるとすれば不意打ちなんだが、相棒には頭が三つあるのと同義だ』

『わたくしの意識とドライグの意識、そして主様の意識がそれぞれ平行で動いてますから不意打ちはおおよそ効きません』

 

 ……となると俺を行動不能にする手もあるな。

 不能にしている間に部長を倒す……比較的可能性の高い手でもある。

 ……考えてたら嫌な予想はいくらでも生まれるか。

 

「イッセー……貴方が最も危険視すべき相手は誰かしら?」

 

 ……すると部長は俺にそんなことを言ってきた。

 一番警戒すべき相手…………なぜか知らないけど、俺の頭には自然とその姿が浮かぶ。

 

「―――匙ですよ。間違いなく、向こうの最大戦力は匙です。あいつは俺に言ってきました……自分の夢を。目標を。そして俺に宣戦布告を…………俺に宣戦布告を放つ奴って決まって諦めの悪い根性が凄まじい奴なんです…………だからこそ、俺は向かいくる匙を倒します。喧嘩を真正面から売られたんです―――真っ向から返り討ちにしてやりますよ」

「そう…………匙君ね。彼の神器は厄介よ―――おそらく神器についてもっとも詳しいことを知っているのはイッセーでしょうね。進化していると思うかしら?」

「間違いなく、していますよ。神器は良くも悪くも宿主の想いに応える…………っていうか、あれほどの想いがあるのに神器が応えてくれないんなら、その程度の想いだってことですよ」

 

 俺は切り捨てるようにそう言った。

 

「厳しいのね、イッセー……」

「……どうせ、あいつは俺の前に来ますから。それくらいの想いがあるって信じているんです」

 

 俺は拳を握る。

 あいつは俺の前に来る……この謎の感覚はきっと当たる。

 そうしていると祐斗が屋上と立体駐車場から帰ってきた。

 あいつの話では存在はしているものの、機能は働かないってことらしい。

 さて……ここからはもう考えることはない。

 実践あるのみだ。

 

「みんないるわね―――ゲーム開始は今から15分後。5分前にはここに集まれるようにして頂戴。それまではそれぞれでリラックスでもしておいて」

 

 部長の一言で俺たちは一旦、解散する。

 リラックスねぇ……俺は割と落ち着いている方だから、他の人物に対してリラックスさせようかな?

 見たところ、祐斗と部長、ゼノヴィアは特に固い感じはしない……アーシアとギャスパーはがちがち、小猫ちゃんと朱乃さんは……ちょっと不安って感じか。

 俺は先にがちがちのアーシア、ギャスパーと少し話し、そのあと朱乃さんの方に向かった。

 

「―――朱乃さん」

「あ……イッセー君でしたか」

 

 雑貨屋で雑貨を見ていた朱乃さんが俺の声に気付いて俺の方に振り返った。

 朱乃さんは修行で悪魔として魔力の才能と……堕天使としての光の力を使えるようにしていたらしい。

 ……そう言えば朱乃さんの堕天使嫌い…………っていうかお父さん嫌いは俺から始まったようなものだったな。

 

「……ちょっと謝ろうと思いまして…………その、朱乃さんとお父さん……バラキエルのことをアザゼルから聞きました」

「……ええ、そうですわね。だって私からアザゼル……先生に頼みましたもの」

 

 すると朱乃さんは不安そうに俺の手を握る……この眷属は不安になると手を握ろうとしてくるな。

 でも俺はそれを握り返した。

 

「自分では言うのが恥ずかしかったんです……だって、まるで親の仇、みたいな風にイッセー君にお父様のことを言えましたから……」

「……そうですか。でも、喧嘩の理由は」

「イッセー君にはありませんわ―――私はもしかしたら、お父様に止めてほしかったかもしれませんわ」

「止めて、もらいたかった?」

「……そうですわ。あの時、私が家を出たとき、お父様は私を止めませんでした。私の王子様を悪く言ったことでちょっと懲らしめてやろうと最初は思いましたの……そしたらお父様は止めてくれませんでしたわ……それがどうしようもなく悲しくて…………一度、しっかりと話さないといけないことは分かっていますの……でも」

「……もう良いです……朱乃さんの気持ちは分かりましたから」

 

 ……バラキエルさん。

 あんたはちょっと不器用すぎる。

 娘のしてほしいことを何も分かってなかったんだ。

 そりゃあヒトは完璧じゃないから相手の気持ちを完全にわかることは出来ない。

 それに自分の妻を傷つけてしまった負い目もあったんだろう……だからこそ、朱乃さんに強く当たれなかった。

 ……でも家族は反発しあっても、喧嘩したとしても最後に分かり合うべきなんだ。

 俺は兵藤一誠ではないころ、それが出来なかった。

 家族がいなかったから……でも俺を想ってくれる家族同然の人がいた。

 だからこそわかるんだ。

 これは朱乃さんの問題じゃない……こんなにも朱乃さんの心を乱しているのはバラキエルさんだ。

 両方とも悪いわけではない……すれ違ってるだけなんだ。

 

「…………私はこのゲームで、堕天使の力を使いますわ」

 

 ……すると朱乃さんは決意のこもった目をしていた。

 

「あの人に私が進んでいるところを見せつけるために……イッセー君が私を安心させてくれたから……だから見ていて、イッセー君」

「はい……勝ちましょう」

 

 朱乃さんは笑顔のまま、無言で俺の言葉にうなずいた……と共に俺は服の裾を引っ張られる。

 俺はそっちの方に目を向けると……そこには小猫ちゃんの姿があった。

 

「あらあら……私はもう十分に力を貰いましたわ……ここは小猫ちゃんに譲りますわ」

 

 朱乃さんはいつも通りのニコニコ顔でそのまま歩いていく。

 俺はそれを確認すると、小猫ちゃんの方を見た。

 

「……先輩は相変わらずですね。自分はさておいて……」

「俺はなぜかリラックス出来てたからな……小猫ちゃんは不安なのか?」

「……はい。本当に上手くいくのか……それが凄く不安で、ちょっとだけ……甘えさせてください」

 

 すると小猫ちゃんは……猫が飼い主に抱き着くように、少し飛んで俺の首に手を回して俺を抱きしめた。

 その時間は本当に数秒だけ。

 それが経つと小猫ちゃんは俺から手を離し、そのまま笑顔になる。

 

「……もう、大丈夫です。怖くありません」

「ああ―――もう時間だな」

 

 俺はその辺りにあった時計を確認し、もう5分前になったことを確認して小猫ちゃんと共にみんなの元に向かう。

 そして―――――――――――――――

 

『それではレーティング・ゲームを開始してください』

 

 ―――そのアナウンスと共にレーティング・ゲームが始まった。

 


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