ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~ 作:マッハでゴーだ!
「久しぶり―――――――――黒歌」
俺は一言、静かな声音で少女に向かってそう言った。
俺がその名を口にすると、その少女―――黒歌は瞳から涙を少し落とし、そして笑顔を俺に見せてきた。
「久しぶりにゃ…………ご主人様」
少し憂いを含んだ笑顔だけど、俺の顔を見てそう言ってくる……やっぱりこの子は黒歌だ。
ここで初めてちゃんと話して確信を持てた―――こんな懐かしい感覚、黒歌しか考えられない。
「にゃはは……私のことを知ってるってことは……白音から全部聞いたのかにゃ?」
「まあ、な…………って言っても俺が正体に気付くまでずっと黙ってたけど」
「……あの子らしいにゃ」
そう言うと、黒歌は胸元に手をやって左手で右手をキュッと握る……どこか様子がおかしい気がする。
俺が知っている黒歌はいつも白音を連れまわし俺に悪戯したり、甘えてきたり……そんな猫だった。
だけど今の黒歌は……どこかふらふらしている。
「じゃあ私が今は絶賛指名手配中の凶悪はぐれ妖怪ってことも理解してるってことにゃのね……」
「……ああ、理解してる―――わかってるから、ここに来た」
俺は黒歌のわざとらしい、自虐的な発言を止めるように言葉を紡ぐ。
……俺はもう全部知ってしまっているんだ。
「まどろっこしい話はなしだ。俺はもうほとんどのことを理解している……お前が本当に小猫ちゃんを愛しているのも、俺に隠れて俺を救おうとしたことも―――その結果、命を狙われることになったことも」
「……全部知っていたのにゃね。うん、大体は正解……ご主人様の言う通りにゃ」
すると黒歌は歩んでは止まって、歩んでは止まる。
手を後ろで組んで、相槌を打つように話す。
「私は黒歌。ご主人様の想像通り……白音の姉で、ご主人様のペットの黒歌にゃ。ご主人様と離れるのが嫌で、悪魔ににゃることを断り続けた結果、すべてを失った猫……」
「……なんで自分をそんな風に語るんだ?」
俺は居ても立っても居られなくなって、黒歌にそう言うと、黒歌はまた似合わない苦笑いを俺に向けてきた。
「……ご主人様は既に悪魔にゃ。そして私は最上級悪魔に手を出した犯罪者…………どうつくろっても、その現実は変わらにゃい」
「…………」
「……私は今でもご主人様が大好き―――今でも初めて出会った時のことは覚えてるよ」
……すると黒歌は昔を思い出すように上を見ながら話し始めた。
「私は人間が大嫌いだったにゃん。白音をいじめて、石ころを投げてくる……ほかの種族も大嫌いだった。親のいない彷徨い猫又、薄汚い下種……そんにゃことを言われたこともあった」
「…………そんなこと」
「わかってる―――白音が妖怪ハンターに怪我をさせられて、私は既に心身が疲労していたにゃ。傷つけられて、傷つけられて……そんな毎日の中で大切にゃ妹と一緒に生きていたにゃ…………だけど白音は怪我をして、私もほとんど倒れかけだった―――そんなとき、ご主人様が私達の前に姿を現した…………初めは警戒してたにゃ……でもご主人様を見た瞬間、私は思った」
すると黒歌は目の前に何か青いオーラのようなものを発動する……あれは……仙術なのか?
「……私は当時から仙術を使えたにゃ。仙術は気の流れを読むことが出来るにゃ……つまり、なんとなくその人がどんな人物なのかを分かることが出来る―――ご主人様の気は優しいものだった。本当に、それまで見たことないくらいの気……優しくて、強さを持っていた……だから私はご主人様に身を投じたにゃ」
「…………小猫ちゃん―――白音も同じことを言っていたよ。俺はなんとなく暖かかった。だから身を委ねることが出来たって」
「にゃはは……姉妹だから、男の好みも想いも同じね!」
……だったら黒歌はなんで俺に近づいてこないんだよ。
俺はふと心の中でそう思った。
さっきから黒歌は俺に一定の距離以上近づいてきていない。
「……ご主人様が知らにゃいことを教えてあげる」
「……何をだ?」
「―――私がガルブルト・マモンを半殺しにして、私は白音を連れて冥界に行った。そこで私はどうにかして魔王サーゼクス・ルシファーと会ったにゃー――不思議と思わなかった?私と白音が消えてからの付近の期間で、2年間もおじちゃんが海外に出張になったこと」
…………確かに俺は疑問に思っていた。
あの当時は何も知らなかったけど、突然の父さんの出張……あまりにも時期がおかしかった。
二人がいなくなってから俺は二年も海外で住むことになった。
つまり……
「……黒歌がサーゼクス様に進言したのか?」
「そうにゃ……何とかして私はガルブルト・マモンにご主人様という存在を隠していた。だけど私は奴を傷つけて、追われることににゃれば、ご主人様にも魔の手が伸びるかもしれない―――そう思って、私はほとんど強引な手で自分の家族を海外にやったの」
……俺たちが行ったところの付近にはイリナやイリナの家族がいた。
つまりそれが意味していたのは…………付近に教会があったということ。
教会は天界サイドの領域であり、悪魔は迂闊に近づけない……それに加えてガルブルト・マモンは最上級悪魔だ。
だからこそ権力が余計に働き、俺たち家族に手を出すことが出来なくなった。
「……俺は、お前に―――守られてたのか?なのに俺は何も知れずに……のうのうと暮らしていたって言うのか!?」
俺は黒歌の衝撃の話に頭が混乱する。
俺は……誰かに守られていたのに、その守ってくれていた奴を救わなかったのか!?
それを今まで知りもしなかった……そう思うと悔しさが俺の胸に広がった。
「ご主人様は何も悪くないにゃ!…………ご主人様はいつも優しい。だから自分を責めるの―――そんなご主人様だからこそ、私も白音も……」
……黒歌から涙がこぼれるが、でも黒歌はすぐに着物の裾でその涙を拭う。
まるで俺に涙を見せたくないと言いたいように……必死に涙をぬぐった。
「あれ?なんで涙が止まらないにゃ……悲しくなんかにゃい、にゃいのに……ッ!!」
……黒歌は拭うけど、でも涙は止まらない。
次々に涙は溢れた。
「悲しくないなんて、嘘だ」
「う、嘘じゃないにゃ!私は白音とご主人様が幸せなら、悲しくなんか!!」
「悲しくないなら―――涙は出ないよ」
俺が黒歌にそう言葉を浴びせると、黒歌は目を丸く見開いて俺を見た。
……そうだ、俺は小猫ちゃんと約束した。
たとえどんなに難しいとも、どんな問題があろうとも―――黒歌を助ける、救って見せるって。
ああ、救ってみせる。
自分の想うがままに……ディザレイドさんも言っていたみたいに―――黒歌を想うことで救ってみせる!
「黒歌、お前は優しい奴だ。白音を守って、俺も知らない間に助けて、俺はお前がした行動を誇りに思う。たとえ悪魔を傷つけて犯罪者に仕立て上げられたとしても、たとえ誰かがお前を否定したとして…………俺は黒歌が正しいってことを知っている」
「……でもどうすることもできないにゃ!!ご主人様は優しい!!優しいからそんにゃ言葉を何の疑問もにゃく、真正面から言えるにの!!でも問題はもう一悪魔の話じゃにゃい!!」
……ああ、黒歌の言っていることは最もだ。
黒歌の言っていることはもう既に一悪魔にどうこうできる問題じゃない。
悪魔の世界の上層部……下手すれば悪魔全体を敵に回すことにもなるかもしれない。
だけど……だけど俺は今、黒歌という女の子を放ってなんて置けない!
自分を助けてくれた子を、見捨てることなんかできない!
「私が傷つけた悪魔は手を出しちゃいけにゃい悪魔だった!!でも私がしにゃければ悪魔は白音を殺してた!!ご主人様だって、傷つけられたかもしれにゃい!!だから、私は自分のした行動に後悔なんてにゃい!!」
「ああ、そうだろうな……黒歌は自分のした行動に後悔はしていないよ。当然だ。妹を守るのは姉の役目、そして妹を愛するのも姉の役目……ああ、そうだよ―――だけどそれが、結果的に小猫ちゃんを一人ぼっちにした!!」
「――――――ッッッ!!」
……俺の言葉に、黒歌は表情を失った。
「黒歌、確かにお前は何一つ間違っていない。そんなことは分かってる―――でも小猫ちゃんはずっと、ずっと一人ぼっちだったんだ!大好きな姉を失い、俺にも近づけない!そんな中で悪魔になって…………あいつは俺のところに一度だけ来た」
「――――――そ、そんにゃ……の、嘘にゃ」
「嘘じゃない。あいつはすぐにでも泣きそうな表情だった……本当に一人になったような顔で……この前だって泣いてた―――泣いて、たんだッ!!」
俺は歯を食いしばって涙を堪えるッ!
ここで俺が泣くのはダメだッ!
「俺は悔しいッ!近くにいたお前らのことを何も分かってやれなくて、小猫ちゃんを泣かせて、黒歌を泣かせて……一人ぼっちにしたッ!俺は許せない――――――こんな馬鹿な俺が、一番許せないッ!!!」
俺は涙を止めるため、握り拳をそのまま地面へと向けて放つ……痛くないはずなのに、そこからは血がどくどく出ているように痛さを感じた。
「ち、違うにゃ!ご、ご主人様は何も悪くない!!勝手にしたのは私!!自分たちの正体を知られて、また大切な家族を失うのが怖くて!!自分たちの本当の姿を明かしていればもっと違う結末があったにゃ!!それをしなかったのは私!!ご主人様じゃにゃい…………だから、自分を責めないで!!!」
「…………じゃあ黒歌。お前も自分を責めるな!」
―――俺は涙を振り払い、再び立ち上がって黒歌を見つめる。
「そんな風に、自分を責めるなッ!お前が自分を責めると、俺も辛いんだ……お前だって辛いんだろ?苦しいだろ?だったらなんで助けを求めないんだ!どうして今も泣いてるのに、どうして強がるんだ!」
「強がらにゃいと……白音は守れにゃい!もう…………私は、大好きな人達とは、いられにゃい……私がいると、みんな傷つくから……」
「―――今、お前がいないから傷ついてるやつがいるだろう?」
俺は一歩、黒歌に近づく。
「白音は自分の弱さに泣いた。いつもいつも守られてばかりと言って、泣いた……俺がその時出来たことは、あいつを抱きしめることだけだった―――小猫ちゃんは、今傷ついている…………俺は言ってることがむちゃくちゃなことは分かってるッ!今も冷静じゃないし、頭の中はぐちゃぐちゃだ……だけど一つだけ言わないとダメなことがある」
また一歩、黒歌に近づく。
「近づいちゃ、ダメにゃ……」
黒歌は力なく、しかしそこから動かない。
「俺はお前が大好きだ」
動かない黒歌に、一歩ずつ、確実に近づく。
「ダメ……抑えられにゃいから、やめて……ッ!私の幸せは……」
「やめない」
俺は一歩、更に一歩…………そして距離はほとんどなくなる。
「自分がどうなってもいい幸せなんて嘘だ―――さっきも言っただろ?本当に幸せだったら、涙なんか出ない」
―――俺と黒歌の距離はゼロとなった。
「嫌なら、黒歌は逃げれたはずだ。そもそも俺に存在を知られるへまはしなかったはずだ」
「そ、それはご主人様が―――」
「それもだよ。本当に俺と関わらないつもりなら、俺のことをそんな風には呼ばない。仙術があるのに、俺に気配を察知されることもなかったんだ……お前は俺に気付いてほしかったんだ……一人ってことを分かってほしかったんだ」
そして俺は―――
「―――もう一回言う。俺はお前が、大好きだ。だから俺を頼れよ」
「あ―――」
俺は黒歌を抱きしめる……痛いくらい、強すぎるほどギュッと。
昔、黒歌と初めて出会った時と同じように、優しく……でも力強く。
「本当のことを教えてくれ、黒歌―――お前はどうしたいんだ?本当に、こんなバッドエンドで良いのか?本当に、これがお前の幸せなのか?」
「―――違うに、決まってるにゃ……っ!!」
……黒歌は涙声で、俺の背中に手を回して抱きしめてくる。
「どうしてッ!せっかく、覚悟、だって……決めてたのにッ!―――一緒に居たいッ!白音とも、ご主人様ともッ!!ずっとずっと一緒に居たいにゃ!!大好きだから!!愛してるから!!」
「だったら言え―――俺にどうされたいのか、言え!!」
俺は黒歌に叫ぶようにそう言うと、黒歌は涙腺を切ったように涙を流し、そして……
「……けて…………―――助けて!!ご主人様!!私を…………助けてよぉ…………」
「――――――当たり前だ、バカ…………助けてやる。俺が絶対にッ!!」
俺は更に強く、涙を流す黒歌を抱きしめる。
「………………ご主人様、ホントに、分かってるかにゃ?私を助けるってことは、悪魔を敵に回すってことにゃるよ?それなのに……」
「大丈夫……どうだ?俺の大丈夫は何となく説得力があるだろ?」
「…………ご主人様は変わってにゃい…………だから、ありがとう……」
黒歌は俺に体重をあずけるように抱きしめる……俺はそれを受け入れつつ、森の方を見た。
「……いるんだろ?小猫ちゃん」
「――――――ッ!!」
……すると黒歌は俺の言葉を聞いた瞬間、俺が向けた方に顔を向けた。
そこには一本の大木があり、そこから―――小猫ちゃんが現れた。
その瞬間、黒歌は俺から離れようとするが、俺はそれをさせずに黒歌を小猫ちゃんの方に押した。
黒歌は俺に押されたことに耐えれず、そのまま小猫ちゃんの前に立たされる。
「し……白音」
「…………お姉さまッ!!」
……小猫ちゃんは黒歌の顔を一瞬見て、そして一瞬で顔を真っ赤にして涙を一筋落としてそのまま黒歌に抱き着いた。
黒歌は何が起こったかわからず抱き着かれたことで呆然としている。
……小猫ちゃんはおそらく、俺が会場を出ていくのに気付いて付いてきたんだろうな。
そしてそこから俺たちの様子を見ていたんだ。
俺と黒歌の会話を聞き届けた。
「……もう、いやですッ!!お姉さま、もう離れないで!!一人に…………しないで……」
「白音…………ごめんね……ごめん、ねッ!!」
……姉妹そろって似たように涙を流す。
この二人はホント、そっくりの姉妹だ。
一人でため込んで、背負って、無理をして……そして一人で悲しみ、泣いてしまう。
そんなことを一人で我慢なんて出来るはずがないんだ。
これだけの絆で結ばれた二人が、ずっと一緒にいないなんて、そんなことは絶対にダメなんだ。
それに俺は二人にってしまったからな……助けてやるって、救ってやるって―――一人で背負えないものを一緒に背負ってやるって。
問題はこれからだろうけど、だけど俺はこの二人―――とても、とても大切な俺の二人の家族を。
白音と黒歌を絶対に守ってみせる。
あの時は守れなかったから、だからこそ今度こそ。
もう二度と傷つけさせない。
「……お姉さま、帰りましょう…………もう、ずっと一緒、です……」
「…………私も、一緒に居たいにゃ―――大好きにゃ、白音……」
黒歌は昔からの……妹を優しく柔らかい表情で抱きしめる。
俺たちはまた、ここから進めばいい。
俺は抱か合う二人に近づこうとした――――――ッ!!?
俺はその瞬間、背筋に冷たいものを感じ、そして嫌な予感が頭をよぎった!
「―――ッ!?ダメにゃ!!白音!!」
……すると黒歌は突然、小猫ちゃんを抱きしめるのを止めて俺の方に向かい勢いよく小猫ちゃんの体を押した。
その反動で小猫ちゃんは俺の方に体制を崩して飛んできて、そして―――次の瞬間だった。
―――――――――ズガァァァァァァァァン!!!!!
………………今まで黒歌と小猫ちゃんが抱き合っていたところに何者からの魔力の塊が放たれ、辺りの木々が消し飛び、そして俺は飛ばされそうな小猫ちゃんを支えてその場に足腰に力を入れ、踏ん張る。
黒歌は……黒歌は大丈夫なのか!?
「にゃ…………ご、主人さま……白音……に、げて……ッ!!」
……辺りに立ち込める砂塵。
その砂塵の中から、声が掠れ掠れになっている黒歌の声が聞こえた。
「黒歌!!」
「お姉さま!!!」
俺と小猫ちゃんは同時に黒歌の声を聞き、叫び声に近い声で彼女の名を叫ぶ。
……その時、その砂塵の中より黒歌とは違う、一つの人影が目に入った。
―――あいつが、黒歌と小猫ちゃんを狙った奴かッ!!!
「誰だ…………お前は誰なんだよ!!?」
俺は砂塵の中にある人影に怒声を浴びせると、次の瞬間、その人影から風のようなものが吹き荒れ、そして砂塵は消える。
……そこには血を流し、衣服をボロボロになっている黒歌の姿と、そして―――
「―――あぁ?てめぇ、誰に口効いてんのか分かってんのか?下級が」
「……っ!!あ、あいつは…………よくも、よくもお姉さまを!!」
小猫ちゃんはその姿を見た瞬間、体に溢れる魔力を噴出させる。
……それは俺もだった。
「なんで、お前がここにいる―――ガルブルト・マモン!!!」
―――そこには、前回見た服装と同じ服装をした悪魔。
ガルブルト・マモンがいた。
―・・・
『Side:リアス・グレモリー』
「ふぅ……やっと挨拶は終わったわね」
私、リアス・グレモリーは他の上級悪魔、最上級悪魔の方々に挨拶を終えて今は近くにある椅子に座りながらため息を吐いた。
こういう時、自分の身分が恨めしくなるけれど、でも私はグレモリー家の次期当主だから仕方ない。
そんなことを思いながらも先ほど朱乃から貰った飲み物に口をつけて一段落つけた。
「お疲れ様です、部長」
「祐斗……ううん、こんなもの別に疲れなんてないわ。慣れっこだもの」
私の元に寄ってきた『騎士』の祐斗に私はそう答える。
祐斗かイッセーが近くに居れば男避けにはなるから丁度いいかもしれないわ……欲を言えばイッセーの方が嬉しかったのだけれど……
っと、そう言えばさっきからイッセーの姿が見当たらないわね。
それに小猫も……どうしたのかしら?
「祐斗、イッセーを知らないかしら?それに小猫もいないようだけれど……」
「いえ、僕は特には……先ほど、イッセー君とギャスパー君とゼノヴィアが一緒に居るのは見かけましたが……」
「おや?およびかな、木場」
……すると突然、祐斗の後ろにゼノヴィアがひょこっと顔を覗かせた。
「ゼノヴィア。イッセー君を知らないかい?先ほどから姿を見かけないんだよ」
「イッセーか?イッセーは確かギャスパーのト……お手洗いについていったはずだが……」
ゼノヴィアが珍しくも物事をオブラートに包む……まあ大方、イッセーに叱咤を受けたのでしょうね。
でもそのギャスパーも帰ってこないし……とその時、会場の入り口付近から見知った顔が……サイラオーグ?
隣には彼の『女王』もいるけれど……
するとサイラオーグは私の方に向かい、歩いてきた。
「リアス、少しいいか?」
するとサイラオーグは私に話しかけてくる……どうしたのかしら?
「どうしたのかしら、サイラオーグ」
「いや、先ほど化粧直しに行っていた俺の『女王』を迎えに行ったらな、確かお前の『僧侶』だったものが周りをあたふたして見渡していたものでな……」
「ギャスパーかしら?でもギャスパーはイッセーに連れられて行ったはずよ」
「………………どういうことだ」
するとサイラオーグは良く分からないような表情をしていた。
「俺はお前の『僧侶』を見る前、一誠と会っているぞ?しかも俺はそのあとトイレに向かうと言った……あの男が眷属の仲間を放っているとは思えん」
「それはそうね…………待って、小猫もいない?」
……私はそこで少し嫌な予感がした。
どういうことかしら……どうしてよりにもよってイッセーと小猫…………
「祐斗、私はギャスパーを迎えに行くわ。それと眷属を私が行った後、エントランスに連れてきてちょうだい」
「……どうしてですか?」
「……・・予感が外れていてくれたら嬉しいのだけれど、もしかしたらまずいことになっている可能性があるわ」
……今回のこのパーティーには最上級悪魔も招待されている。
私は来ている全ての悪魔の方にご挨拶をしたわ……だけど、ある方だけ挨拶できていない。
確か今回のこのパーティーには来ていたはずなのに、その方は未だ姿を現さない。
―――そう、ガルブルト・マモン。
小猫が最も恨む悪魔、憎む存在。
私は急いでギャスパーをトイレ前で回収し、そのままエントランスに向かった。
そして少し経って、祐斗がほかの 眷属の皆を連れてくる。
「部長さん?イッセーさんを知りませんか?さっきから姿が見えなくて……」
するとアーシアは私に目を丸くしてそうたずねてきた。
……やっぱりこの中にイッセーと小猫のいる場所を知る人はいないのね。
「私もイッセーの居場所は分からないわ……とりあえず外に―――」
「リアス嬢、少し良いか?」
……私の名を呼ぶ方向に目を向けると、そこには小さな図体をした一匹のドラゴンがいた。
……今の声はまさか―――
「おっと、すまんな。俺はタンニーンだ」
「やっぱりそうだったのね」
イッセー曰く、ドラゴンは種族によっては姿を変えれるものもいるとは聞いていたけど、まさかこんなチャーミングな容姿にこの方が変化するなんてね。
「どうしたのかしら、タンニーン。こんなところに来て……」
「……先ほど少し気になるものを見てしまってな。一応、リアス嬢に確認を取ろうと思ってな」
「気になるもの?」
「ああ―――先ほど、会場から飛び出して森の中に入っていくリアス嬢の下僕の―――小猫といったか?その者が森の中に入っていたのだ……なにか心当たりはあるか?」
………………まさか、本当に嫌な予感が当たってしまうなんて!
それがもし本当なら……
「タンニーン、少し問題かもしれないわ。皆、今すぐに森に向かうわよ」
「……どういうことだ。それにこの場には一誠の姿もない…………まさか、あの二人は何かに巻き込まれたのか!?」
「そうかもしれないわ。とにかく今は―――」
ズガァァァァァァァァァン!!!!
……その次の瞬間、そんな轟音が外で響いた。
私は急いで外を見ると…………森のあるところから煙のようなものが舞い上がっていた。
「予想が当たったわ…………」
「……まさか、
「いえ、タンニーン―――おそらく、これはあの組織の仕業じゃないわ」
私はタンニーンと眷属の皆と共に森の中に入っていく…………
「…………これは―――結界魔術!?」
……でも、その歩みは少しすると止まってしまった。
私たちの目の前には大規模な結界魔術が展開されている……しかも見る限りではかなり複雑かつ強固なもの。
下手をすればお兄様たち魔王レベルの人でも解除に時間を要するほどのものだった。
しかもそれが一重ではなく何重にも……ここで朱乃と私でどうにかなるものじゃない!
「これは結界……ならば!」
ゼノヴィアは空間にひびを作り、空間の裂け目に手を伸ばし、そこから聖なるオーラを放つ聖剣デュランダルを取り出して、その結界へと剣を振りかぶり、そして切りつける。
「ッ!?なんて硬さだ!私のデュランダルで少しの傷しか出来ないとはッ!」
「ならば僕も!聖魔剣!!」
祐斗は幾重にも聖魔剣を生み出し、それを放つように結界にあてるが……全てが跳ね返される。
なんていう固さなの!
「―――どけ、リアス嬢と眷属よ」
……するとタンニーンが巨大なドラゴンと化し、そして大きく腕を振り上げ、そして結界に向かって打撃を加えるものの……
「くっ!俺を以てしてもこれほどの傷しか生まんのか!?」
……しかしそこには結界にほんの少し、ひびが入るほどだった。
タンニーンがもしこの場で本気のブレスを吐けば、ここら一帯は炎の海となる……それを考えての行動だったのだろうけど……
「―――朱乃!あなたは私と共に結界の解除を!祐斗、ゼノヴィアは引き続き結界に出来る限りの傷を生まして!アーシアは今すぐにこのことを魔王様にお知らせしてきて!」
『はい!!!』
私の言葉にみんなが頷く……私は術の解除に取り掛かる―――けど、これは余りにも複雑すぎる上に何層も結界重ね過ぎているわ!
こんな結界を張れるのは―――やはりあの男しかいない。
弱音なんて吐いている場合じゃないわ。
私は全身全霊の力を持って術の解除をする。
―――お願い、無事でいて!イッセー、小猫!!
『Side out:リアス』
―・・・
俺と小猫ちゃんは目線の先にいるガルブルト・マモンを睨み付けるように見ていた。
「ははは!!偶には魔王共の言う通り、こういう社交の場に出てみるもんだなぁ!まさかこんなところで糞猫と再び会える……とはな!!!」
ッ!!!
あの野郎……倒れる腹部に蹴りを入れやがったッ!!
それにより黒歌の口からは血が吐き出されるッ!
「う、ぐ……はぁ、はぁ……」
「くははははは!!!良いざまだなぁ、おい!!あの時はよくも俺を半殺しにしてくれたもんだなぁ……」
「ッ!止めろ、ガルブルト・マモン!!」
俺は野郎を制止するようにそう叫ぶが、奴はあの蹴りを止める気はない!
ならこっちもやるしかない!
「ドライグ、フェル!!」
『Boost!!』
『Force!!』
俺は瞬時に
「おっと、そこから動くな―――じゃねえと、さっきと同じレベルの魔弾をこいつにぶち込むぞ?」
だけど俺の脚は止まってしまう……あの野郎は黒歌に手のひらを向け、そこから魔力を集中させていた!
さっきの威力……正直驚くほどの破壊力を飛んだ魔力弾だった。
あんなものを悪魔じゃない黒歌が二度も受けたら命に関わるッ!
「神器を全て解除しろ。じゃねえと今すぐこいつを殺すぞ?」
「ッ!この野郎…………分かった」
俺は全武装を解除する。
そして俺は動けないが、その場で奴を睨んだ。
「それが……それが三大名家のすることなのか!?ガルブルト・マモン!!」
「ははは!おいおい、まさかお前……これを卑怯とか抜かす気か?―――そもそもこいつは犯罪者だろうが!」
「ッ!!それもこれも貴方が!!」
小猫ちゃんは頭に血が上ったように、普段からは考えられないようなほど大声で叫んだ。
「はっ!……良く見りゃあお前……あの時、この糞猫に守られてた害猫じゃねえか―――おいおい、俺を誰だと思ってんだ?俺はマモン……強欲のままに生きて何が悪い?」
「あぐ……ッ!」
黒歌は再び蹴られるッ!
「やめろ!!なんでだよ……なんでお前はそんなことが出来る!!どうしてこいつらを傷つけるんだ!!」
「おいおい、お前は気に入っているからよぉ、兵藤一誠?同じことを何度も言わせるなよな」
ふざけやがって!!
俺の爪が手の平に食い込み、手の平から血が出てくるのを忘れるほどに頭に血が上るッ!
「俺はマモン。強欲こそが俺の至上だぁ―――欲しいものは何があっても手に入れる。どんな手段を用いても、気に入るもんは全部俺のものだ!」
「それがたとえ!人としての尊厳を失うことだとしてもか!?」
「ああ、そうだ―――代わりにいい条件を出してんだ。それでお相子、代わりにそいつの人生を全て俺のものにする…………なのによぉ、こいつは俺のラブコールを何度も、何度も送ったのにそれ全部断りやがって!!!」
「うぐッ!……はぁ、はぁ…………」
黒歌の息が絶え絶えになり始めてる!
「止めろ!なんで目の前から来ない!!お前にはそれほどの力があるだろう!?」
「……ははは!おいおい、まさかお前……俺がお前を過小評価してるとでも思ってんのか?」
……ガルブルト・マモンは黒歌を傷つける足を止め、俺をにやにやとした気持ち悪い目つきで見てきた。
「逆だ、逆……お前、最近転生したばっかりのくせに強すぎんだよ。いいか?相手を侮るのは三下のやることだ―――本当の強者はよぉ、相手を見定める。それにより最も適切で心臓を抉るような方法を考えるんだよぉ!!!」
「ッ!!」
……こいつは万が一にも、油断することは絶対にない。
たとえ屑でも戦争を生き抜いてきた悪魔だッ!そんな甘いものじゃない!
「ははは!こいつもそうだ……俺はあの時、一切の油断もなかった。だがな、まさか仙術を予想をはるかに超えるほどに使えたことで俺はやられた―――でもこいつ、大馬鹿だ!!わざわざ人間だったてめぇを助けるために悪魔から追われる屑に成り下がったんだからな!!!」
―――こいつ、俺が黒歌が庇った人間ってことを知っていたのか!?
「さてと……じゃあそろそろもう少し悲鳴を上げてもらいましょうか!!!」
「ッ!止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ガルブルトが黒歌に向かい、複数の小さな魔力弾を放とうとしたとき、突発的に発動してしまった―――龍法陣。
簡易的なものしか出来ない上にドラゴン限定で行える力……マーキング系の誘導術。
つまりドラゴンを見に宿す限りなくドラゴンに近い俺に、発射系統の技を全て俺に誘導する技。
要は……
「が、ぁぁ!!?」
―――全ての魔力弾が、俺に向かうってわけだッ!
くそ……いてぇな!
「…………てめえ、バカか?わざわざ自分の方に殺人弾をぶち込ませるとか、頭行ってじゃねえの?」
「お前、ほどじゃねえよッ!糞野郎ッ!――――――そんだけ人を傷つけたいなら、俺に撃てよ」
俺は口元から流れる一筋の血をぬぐい、首元のネクタイを緩めてガルブルト・マモンを睨む。
「……っ!先輩!」
「小猫ちゃんッ!……俺から、離れろッ!」
俺は前に出てくる小猫ちゃんを手で遮ってガルブルト・マモンと対峙する……俺の近くに居れば小猫ちゃんだって危ない!
「や、めて……ご主人、さま……」
「黒歌、お前はそこで見とけ―――俺が助けてやるからッ!ぐ、ぐがぁぁぁぁぁあ!!?」
……再び奴から放たれる常識外れの魔力弾。
俺の胸に描かれる赤い龍法陣は赤く光、その力を発動させすべての魔力弾を俺に向けさせる。
血反吐を口から地面に吐く。
だけど倒れないッ!ここで倒れたら俺は二度と二人を救うことは出来ないッ!
「…………糞が。なぜそこまでこんな糞どものために命を張れる?言っておくが、今の攻撃でてめえの骨は幾つか逝ったぜ?それでも」
「黙れ、糞野郎。てめえは黙って俺に弾丸ぶち込めよ、ヘタレ!!」
「…………ははは!!!てめえ、やっぱり面白れぇぞ!!気に入り過ぎだぜ、あはははは!!!!――――――おい、お前、俺のものになれよ」
……ガルブルト・マモンは高笑いの後、俺の方を見てそんなことを言ってきた。
「今ならこの糞猫もおまけでつけてやるよ。三食首輪付で一生楽しい生活を送らせてやる―――だからお前、俺の眷属になれ」
「んなの、死んでもお断りだッ!!」
俺は奴の気に入らない目を睨みつけてそう叫ぶ……そんなの、嫌に決まっている!
「ふざけんなよ、糞悪魔―――俺の主はリアス様だけだッ!誰がお前の眷属になるかよ!!眷属を大切に思わない、人をものにしか感じない!何回転生してもお前はリアス様には逆立ちしても敵わないんだよッ!!」
「―――はっ。じゃあ死ねよ!」
ガルブルト・マモンから先ほど、黒歌に放ったレベルの魔力弾が次々に放たれるッ!
「ぐッ……はぁ、はぁ…………まだまだ、んなの、効かねぇッ!!」
……体のいたるところから血潮が噴き出る。
『相棒ッッッ!!!あの、卑怯者がぁぁぁ!!!』
『主様ッ!!主様ッ!!』
ッ!泣いてんじゃねえ、よ!フェル!!
お前の主が、どいつか分かってんだろ……ッ!
こんなことで俺はやられねえッ!!
「……もう、やめて……ッ!!私が、死ねば……ご主人様、は……傷、付かにゃい…………傷つくのを、見たくにゃいッ!!」
「―――黒歌!俺は、お前を、助けるって言っただろッ!!」
……奴から魔力弾は続けて撃ちだされる。
俺はそれに抵抗せず、ただ受け止め続ける。
くそ……痛みで意識がおかしくなってきやがるッ!
だけど―――あいつの涙、それだけで俺は立ち上がらないといけないッ!
「お前は、死なせねぇ!!お前は笑顔で、小猫ちゃんの元に…………俺の傍に、いなきゃ、いけねえんだ!!」
俺は倒れそうになる体を膝を殴っていうことを聞かせる……まだまだ限界なんか来てねぇ!
こんな程度で倒れるようじゃあ、俺はあの修行でとっくに死んでんだよ!
「……ッ!?どう、して……魔力、が……」
……俺は後ろにいた小猫ちゃんを見ると、そこには蹲って驚愕の表情となっている小猫ちゃんがいた。
―――小猫ちゃんの魔力が、どこかに流れてる?
「ようやく俺の体質が効いてきたみてぇだなぁ……糞猫の分際では結構、頑張った方じゃねぇのか?」
「ん、だと?―――まさ、か!」
「ご名答!マモン家には代々受け継がれてきた体質ってもんがある―――強欲を司るからこそ得た、他人の魔力を強奪する特性だ!ごく無自覚に流れ出る微弱な魔力を自動的に感知し、他人から魔力を奪う!!実力が拮抗している、もしくはかけ離れすぎている奴には効かねぇが、まあそこの餓鬼も頑張った方だ、ぜ!!」
奴は小猫ちゃんから奪った魔力で俺へと魔力弾を三度放つッ!
く、そ……今の奴は、かなりヤバいッ!
ありゃあおそらく、小猫ちゃんが『戦車』だからか、パワー重視の魔力……んだよ、才能あるじゃん……小猫ちゃん。
「くはははは!!良い様だ!!仲間の力で自らを亡ぼす!!それがてめえの本懐なんだよ、赤龍帝!!」
「もう、止めて…………私だったら、どうなっても構わないにゃ!!だから……もう、ご主人様を」
「―――だから、言ってんだろ」
俺はまた倒れそうになる…………けど、もう一回踏ん張る。
仲間の攻撃がなんだ……仲間の力を受け入れねえなんて、仲間じゃない!
「ッ!!んだよ、てめえは!!!」
……ガルブルト・マモンは突然、焦ったように俺に魔力弾を放つ。
俺はそれを腕を体の前にだし、こらえながらも言葉を続けるッ!!
「命を、懸けてでも…………お前を、守るって!」
「だまれぇ!!!」
ガルブルト・マモンは一際大きな魔力の塊を作る………………あれは冗談じゃすまないかもな。
塊は俺に放たれ、俺へと―――
「はぁ、はぁ―――あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!?」
痛みに耐えるために絶叫を上げるッ!
服なんて、もうボロボロだ……
体中から出血し、意識も朦朧としている……腐っても最上級悪魔ってことかよ。
一撃一撃が殺人級の威力…………そんなこと、わかってる。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………ぺっ…………その、程度か?」
俺は口の中から血の塊を吐き、奴を何度目かわからないほどに睨みつけた。
あいつの目から俺はどんな風に映っているんだろうな……誰かのために自分を捨てる愚か者?
それともただのマゾヒストか?
―――まああいつの視線なんてどうだっていい。
「はぁ、はぁ……何なんだよ、お前は。仮に、今この場をしのげてもこいつは指名手配の犯罪者だ!お前がしようが、犯罪者を冥界は見逃さねぇ……どっちにしろ、この糞猫は死ぬことは変わんねえ!!」
「それ、が……どうしたッ!!」
「ッ!!」
……俺の叫びに、奴が一歩、後方後退りした。
それは正に―――恐れたって具合だな。
「でも……実際にそうにゃの…………ご主人様……」
「ああ、そう、だろうな……例え、この場を逃げれたとしても、お前は犯罪者のままかもしれない―――なら、黒歌を俺の眷属にすれば良い」
……小猫ちゃんとの会話の後、俺はずっと考えていた。
黒歌は何一つ悪いことはしていない。
でも黒歌が追われる身となっているのは、目の前にいるこの糞野郎が下手に権力を持っているからだ。
なら俺が権力を持てばいい。
対等な権力でなくても、俺は今、冥界から重宝されつつある悪魔―――赤龍帝だからな。
「ある男が言っていた。救うことは誰かを想うことだとッ!人は想い、努力し、結果誰かを救うと!―――俺が、上級悪魔になれば眷属を持てる。現四大魔王はガルブルト・マモン、お前の行動に疑念を持っている!だからこそ、サーゼクス様は黒歌の気持ちに応え、小猫ちゃんを救った!!」
俺はそこでようやく真っ直ぐと立ち、奴を見ることが出来た。
「お前は確かに権力を持っているのかもしれない―――でも覚えておけ。今まで傷つけてきた人の分だけ、お前はあらゆる人物から恨まれている……一つ一つが些細な者でも、重なればお前の先には―――絶望しかないってことを」
「はっ!んなことあるわけ」
「―――三大名家の内、ディザレイドさんやベルフェゴール家が最上級の位を降りてお前が降りない理由が今になって分かったぜ―――お前は怖いんだ。自分が貶めてきた奴に自分が貶められることを恐怖した!権力に守られてないと何もできないから!!だから、捨てられないんだ!!なら話は終わりだ」
俺は拳を握り、戦う意思があることを示す。
「俺が上級悪魔になれば、その時点でお前は終わりだ―――覚悟しろ、ガルブルト・マモン。例え死にかけでも俺は死の底から立ち上がるッ!!」
「―――はっ!ああ、そうかもなぁ……ったく、これだからてめぇを欲しがったんだ………………てめえは危険すぎる。ここで始末してやるよ。せめてもの情けに、この糞猫とお前、全員まとめて殺してやる!!!」
……奴は両手を宙に向け、絶大ともいえる魔力を溜めていく。
「お前が生きて戻れば俺は位を失う―――ああ、正しいぜ。だからこそ、俺はてめぇを俺のものにしようとした。だがもう殺すことも同じだ…………シネェェェェ!!!」
奴の掲げる魔力の塊は大きな球体となり、それは辺りの木々を消していく。
……野郎、やっぱり結界を張ってたのか。
これじゃあ外にこの情報が行かない……このままじゃあ確実に死ぬッ!
俺だけじゃない……魔力を奪われ続け、疲弊している小猫ちゃん、既に最初の攻撃で瀕死の黒歌……せめて、この二人だけでも守る!!
「くっ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」
俺は内にある魔力を解放し、小猫ちゃんの肩に手を触れ、小猫ちゃんに龍法陣……基礎的な防御術だけど、俺の魔力をかなり注いだから大丈夫だろう。
後は黒歌にどうにかして同じ術を掛けるっ!
「ッ!?この期に及んでまだんな力が!?だがもうおせぇ!!もう終わりなんだよぉ!!!」
「あき、らめない!!」
俺は魔力をコントロールしているせいで動けないガルブルト・マモンの方に走り出す。
……なんだろうな。
俺が堕天使レイナーレ、あいつに小猫ちゃんを殺されそうになった時と似ている。
あの時みたいにまるで体の枷が外れ、自分の体じゃないように体が動く感覚。
ってかあの時、俺一回死んだんだな。
―――たとえ死ぬかもしれなくても、守って見せる。
ガルブルト・マモンはあと数秒もすれば魔力の塊を放つだろう。
たぶん、こいつは全ての魔力をあの塊に注いだはずだ……結界を操作する力位は残しているかもしれないけど。
でもその程度なら、二人が生き残ればどうにかなるはずだ。
生き残れば、ガルブルト・マモンは罪なき小猫ちゃんを殺そうとしたことになり、しかも今までの黒歌に対する悪事も世間に漏洩する。
……居場所は、出来るはずだ。
黒歌も小猫ちゃん……白音も。
『やめろ、やめろ相棒!!?何を考えている!!自分を犠牲にして誰かを救うのは良い!だが自分を捨てて誰かを救うのはやめろといっただろ!!!』
『ダメ……ダメです!主様!!』
……ごめんな……ドライグ、フェル。
だけどそれでもあえて言う―――絶対に死なない。
説得力ないけどさ……大丈夫。
俺の大丈夫は説得力があるだろ?
「黒、歌ぁぁぁ!!」
俺は瀬戸際で黒歌の肩に触れ、そしてそこから龍法陣が展開、俺の魔力を注ぎ強固なものとする。
……禁手ではもうタイムロスでどうこう出来ない。
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」
ガルブルト・マモンが俺に向かい魔力弾を放とうとする。
俺はその余波で木々に叩きつけられ、遠目からそれを見ていた。
「いや……ご主人様ぁぁぁぁぁああ!!!」
「せんぱい!!!!」
―――くそ、泣かせたままで死ねるか!!
俺はまだある魔力で体の防御力を高める。
あとは…………神頼みだ。
神様はいないけどさ―――奴は、放つ。
その全力を……………………そう思った時だった。
『Half Dimention!!!』
―――その音声が、自然と俺の耳に入ってきた。
その瞬間、俺の目の前の脅威はまるで
それが次々と小さくなっていく…………なん、なんだ?
俺はふと、掠れる視線の中で空を見上げた。
……この結界は、かつてコカビエルが俺たちの学校を襲撃した際にシトリー眷属が張った術とよく似た構造をしている。
要は……ガラスのような結界。
そしてあの時………………あの時と同じようにガラスが割れるような音がした。
そしてその結界を割った人物は俺の方を見て、そして……
「久しぶりだな――――――――――――――――――我が
―――白龍皇、ヴァーリ・ルシファーが純白の鎧を身に纏い、そこにいた。