ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第7話 成長したグレモリー眷属です!

 空中による空中戦、地上による地上戦、海の中での海中戦……俺、兵藤一誠は出来る限りのことは全てやっていた。

 俺が修行を開始して既に十数日ほど経過している。

 途中、一度屋敷に戻って小猫ちゃん……白音との再会を果たし、俺はその後、またこの地獄の修行に戻っている。

 どんな修行もこなし、どんな苦しいことも耐えてきた。

 その努力もあってか、少しずつ俺の中で変わり始めていたものがあった。

 

「神滅具創造―――白銀龍帝の籠手・弐!!」

 

 一つはフェルの神器創造のときに起こる精神への負担。

 俺はこの地獄の修行をこなしていく中で精神力が異常なまでに鍛えられ、それまでの一度の創造力の溜まる大きさが更に大きくなり、今では神滅具を創造するのに20段階の創造で創造可能になっていた。

 つまりこれまで40段階でようやく創造出来た白銀龍帝の籠手(ブーステッド・シルヴァーギア)が同じ段階で二つ創造出来ることを意味している。

 それによりドライグの力なしでもツイン・ブースターシステムが可能になり、更に身体能力も向上しており、白銀の籠手の制限時間も大幅に上がっている。

 俺は現在、空中にてティアとタンニーンのじいちゃんと対峙しており、俺の両腕には白銀の籠手が装着されている。

 

「手札が多いな、一誠―――来い!!」

「言われなくても!!」

『Boost!!』『Boost!!』

 

 俺は二重倍増により力が増大し、更に悪魔の翼を展開してじいちゃんの極大ブレス、ティアの無駄のない拳を避けながら倍増をためる。

 夜刀さんの神速と一切の無駄のない戦いを経験し、相手の動きを読んで確実に避けることを学んだ。

 あの人の一撃、食らったら洒落にならないもんだからな!

 っていうかこの戦闘は俺の初日の戦闘に似ている。

 あの時はやられてばっかりだったけど、今は違うッ!

 

「俺の成長を見せてやる!!」

『Twin Transfer!!!』

 

 俺は数段階溜まった倍増の力を胸の神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)に譲渡!

 まだあまり溜まっていなかった創造力は一気に倍増し、俺はその力を即座に発動する!

 

『Reinforce!!!』

 

 神器の強化の音声とともに、胸の神器から白銀の光が俺の両籠手に注がれ、そして神器の形状は赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が強化された時と同じように変化する!

 強化の力を二つに分けて同時に強化する、これを俺は思いつきフェルの神器の可能性の広さを改めて実感した!

 だから今はフェルの力のみを使い、この馬鹿強いドラゴンと対峙しているんだ!

 

「神滅具強化―――白銀龍神帝の籠手(ブーステッド・シルヴァルド・レッドギア)!!双龍手!!」

 

 現段階のフェルの力を全活用した最高火力の形態……今日こそぶっ倒す!

 

『Over Twin Boost Count!!!!!!』

「ツイン・ブースターシステムと両籠手の一秒倍増のコンボ!いくぜ、ティア、じいちゃん!!!」

 

 俺は動き出す。

 即座にじいちゃんが小さいブレスを乱雑に放ってくるけど、俺はそれをすべて見切る!

 今の俺は一秒でも野放しにしたら止まらない!

 

「まずいッ!タンニーン!!今のイッセーの火力は―――」

「人の心配してるんじゃねぇぇぇ!!!」

『Left Over Explosion!!!!!』

 

 俺の左手の籠手の倍増の力が爆発的に解放される!

 この形態は制限時間が短い上に身体、精神とも負担を掛かる力だからな!

 俺は解放した力でティアに拳打を放つッ!速度で言えば瞬間的なら夜刀さんに近いもののはずだ!

 更に俺はゼロ距離から破壊力抜群の魔力弾……俺の得意の性質を持たせた魔力弾を連続で放つ!

 爆発、断罪、拡散…………俺が今まで使ってきた性質魔力弾をすべてうち放ち、俺はティアが地面へと落ちていくのを確認すると、標的をじいちゃんに絞る!

 

『Left Over Reset』

『Right Over Explosion!!!!!』

 

 左の解放が終わり、残った右腕の籠手の倍増を解放!

 その力をすべて魔力に向けて使い、俺は口の中に一つの火種を創った!

 

「て、ティアマット!?―――そこまでの火力を持つか!?ならば俺の全力の火炎で相手だ!!」

「望むところだ!!」

 

 じいちゃんは口を大きく開け、口元に業火の火炎を溜めていく…………あれに対抗する力も考えてる!

 火種、それを倍増の力を使って倍増に倍増を重ね、そして―――放つ!

 火種の元は龍法陣の基礎的なものをティアに教えてもらったから出来る技!

 積んだ経験をすべて使うぜ!

 

「うぉぉぉぉ!!劫火の龍息(ヘルファイア・ドラゴンブレス)!!!」

 

 俺の口元より放たれる劫火とじいちゃんより放たれる業火がぶつかりあう!

 これでも相当の力を使って放ってるんだ!対抗してくれないと困るぜ!

 

「むッ!これは……ぐごぉぉぉぉ!!!」

 

 ッ!?

 じいちゃんのブレスの力が更に大きくなる……本気ってわけか!

 だけど今の俺の状態でならいくらでも威力を上げることが出来る!

 なぜなら……この瞬間でも右の籠手は一秒倍増を続けているからだ!

 

『Left Over Transfer!!!』

 

 俺は火炎に向かい力を譲渡!!

 譲渡されたことで劫火はひときわ強力なものとなり、そのままじいちゃんを包む!

 

『Twin Booster System Down』

 

 ……その音声と共に俺の二つの籠手は崩壊し、ツイン・ブースターシステムは終わりを迎える。

 普通の形態ならもっと時間制限があるけど、神帝形態のツイン・ブースターシステムは神器そのものに負担がかかりすぎる上に、創造した神器では耐久力が足りないんだ。

 それ以上に俺の体への負担も凄まじいものだけど……これまでの地獄を考えたらどうってことはない。

 とりあえずは倒せていないまでも、行動は不能にできたから次は……

 

「久しぶりに行きますか―――禁手化(バランス・ブレイク)

 

 俺は悪魔の翼を展開したままブーステッド・ギアを展開し、そのままノーステップで禁手化へと移行する。

 体に次々と鎧が装着されていき、そして……

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!』

 

 俺はこの修行を始めて数回目の赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)を身に纏った。

 そして俺より更に上空にいる無表情のゴスロリ少女……オーフィスを見た。

 

「……イッセー、初日と違う…………なお、強く……なった?」

「どうだろうな―――ただ、地獄にいたから強くなったんじゃないか?」

「……今のイッセー、油断、皆無。我、イッセー、脅威、感じた」

 

 龍神様のお言葉はありがたいな……だったら行くぜ!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』

 

 久しぶりの制限の外れた倍増!

 ツイン・ブースターシステムも、籠手の神帝化による一秒倍増も強力だけど、この鎧の火力安定はやっぱりトップクラスだ!!

 

「闇、蛇、我、放つ」

 

 次の瞬間、無慈悲にもオーフィスから蛇のような弾丸が放たれる!

 それは一直線ではなくうねるように向かっており、動きに予想がつけにくい!

 それどころかあれは一発一発が破格の力だ!

 一発でも受けたらその時点で鎧が崩れる!

 

「プロモーション……『僧侶』(ビショップ)!!」

 

 俺はこの攻撃に対処するため、『兵士』の昇格の力を使い『僧侶』に昇格。

 それにより魔力面の力が増加し、俺はオーフィスの蛇に対して特攻をかける!

 

「当たればそれまでだけど、威力自体があるわけじゃない!コントロールは俺の十八番だ!!」

 

 オーフィスの放つ蛇の数と同じ数だけ俺は赤い魔力弾を放った!

 オーフィスの蛇は当たれば浸食して、それが無限に続いて対象物を崩壊させる力!

 つまり特殊な能力があるだけで、威力事態は余りない!

 いや、たぶん威力のある技もあるんだろうけど……まあいい!

 オーフィスは絶大な力を誇り、そりゃもう世界最強だろうが、最強だからこそあまりコントロールがうまい方ではない!

 蛇は確実に一つずつ消え去って行き、俺は瞬時にオーフィスに近づく。

 

「…………我、驚いた―――今の、打撃重視、蛇」

「そりゃ驚いた……じゃあ今回はダメージを通す!!」

『BoostBoostBoostBooutBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBooutBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!』

 

 俺は瞬時に幾重もの倍増を行い、そしてオーフィスに本気の打撃を加えた!

 それにより一瞬、煙が立ち込めるけど…………確かな感触がない。

 まあそれは予想の範疇で、本当の目的はほかにある。

 

「……強い。力、一日目より、強い。10倍?20倍?…………我、測れない」

 

 ……思っていたよりもオーフィスの感想はいいものだったけど、だけど本当の目的はオーフィスの腹部……腹部にある一つの龍法陣だ!

 これも基礎な龍法陣……ドラゴンに対するマーキングの力!

 ただのそれだけなら別に特別な力はないけど……こいつの本当の目的は―――

 

「油断が過ぎるでござるよ、一誠殿」

 

 突如、背後に現れる夜刀さん。

 

「一誠ぃぃぃ!!!お姉ちゃんは怒ったぞぉぉぉ!!」

「今一度、本気の一撃を喰らわしてやるッ!!」

 

 更に下方よりブレスを放とうとしているティアにじいちゃん……おいおい、思い通りに動きすぎだろ(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 俺は不意に少し笑みをこぼした。

 三人はほぼ同時に俺へと各々の攻撃を放つ。

 俺はそれを見て確信した―――引っかかったな!

 

「―――発動、誘導の龍法陣!!」

 

 俺の言葉と共にオーフィスの腹部の円陣が赤く光る!

 強い奴には強い奴の一撃を喰らわせればいい!

 しかもオーフィスに俺の攻撃が通らないのなら、同じドラゴンの攻撃を当てればいい。

 ……その発想で俺は特に攻撃力のない龍法陣……マーキングに加え、対象を”龍の攻撃”に絞った誘導の術を発動した。

 って言ってもこれはドラゴン限定で出来る技なんだけど……まあ知恵を働かせた奴の勝ちだろ?

 夜刀さんの仙術込みの無慈悲の斬撃、ティア、タンニーンのじいちゃんの先ほどの戦闘のとき以上のブレス……それらがオーフィスに襲い掛かる。

 俺はオーフィスから出来る限り離れ、離れた位置から手のひらに今日練れるすべての魔力を収束し、更に神器の倍増の力でそれを倍加。

 

「今までのやり返しだあぁぁぁ!!!」

 

 そして、それまでで最も強力な魔力弾をティア、タンニーンのじいちゃん、夜刀さんに放つ!

 魔力は尽きたけど体力的にはまだ余裕があるから鎧は解除されず、俺は結構な傷を負った三人を遠目で見る。

 ……?

 なんか、あいつら動いていないんだけど…………そう思った時、突然オーフィスを襲った三人の攻撃によって発生した煙が消え去り、そこから…………

 

「……我、激怒。プンプン」

 

 まるで怒ってないように聞こえるが、実際にめっちゃ怒ってるオーフィスの姿……あれ?なんか俺じゃなく三人に切れてる?

 オーラをめちゃめちゃ噴出しているし、それを見ているドラゴン三人が凄い震えてる……

 

「今、ターン、我。何故、邪魔した?」

 

 手に俺に放った時とは比べ物にならないほどの黒い蛇の弾丸が生まれてる……もしかしてあれか?

 俺との二人きりを邪魔されたから腹いせに……とか?

 

『主様、いいですか?―――オーフィスは、あれでも自分の欲望に素直なんです。故に深愛を示す主様との時間を邪魔されるのは我慢ならないのでしょう』

『ふ……これだからティアマットはダメなのだ……まず自分で龍法陣を教えておきながらそれを見抜けぬとは何たる馬鹿だ。だが夜刀は流石にかわいそうだな』

 

 うわ、この二人助けるつもりが毛頭にない。

 夜刀さんは確かに不意打ちで攻撃するように頼んでたからかわいそうだよな……よし、助けよう。

 そもそも俺のせいだし、ティアやじいちゃん、夜刀さんの行動を読んだ上での攻撃だったし!

 

「オーフィス、お前が本気になったらさすがにここら一帯が消し去るからさ……その蛇、消してもらえるか?」

「……条件」

 

 するとオーフィスは一言、条件という言葉を口にする。

 ……条件か。

 オーフィスが喜びそうな条件なんかあるのか?

 

『……癪だが、仕方あるまい……相棒、少し耳を貸せ―――とっておきの言葉を教えてやる』

『なっ!!ドライグ…………まさかあなたはあのセリフ―――主様を知るものが一度は言われたいセリフを主様に吐かせるつもりですか!?』

 

 ……え、ちょっと待って!?

 そんなやばいセリフなのか?なあ、答えて!?

 

『ええい、うるさい!散々バカにされてようやく出来たまともなファミリーであるタンニーンと夜刀を失うわけにはいかんのだ!』

 

 ……ドライグも男一人が寂しかったんだな。

 うんうん、でも俺がいたじゃないか―――いいぜ、腹くくってやる。

 教えろ、ドライグ!!

 

『ふ……幸運を祈るぞ、わが息子。さあ、オーフィスに――――――』

 

 ………………なっ!?

 ドライグ、あんたは俺にそんなことを言えというのか!?

 そんなくっさいセリフを真顔で吐けと!?

 

『主様、一応言っておきますが普段からその程度のセリフ、吐いてますからね?この前だって……』

 

 えぇい、うるさい!

 良いぜ!オーフィスの胸に響く言葉を言ってやる!

 

「よく聞け、オーフィス!!俺になら撃っても構わない!!だけど―――お前は撃てないって知っている。だってお前は俺の――――――大切な奴だから」

「……………………………………………………結婚、して」

 

 オーフィスが顔を真っ赤にしてそう言うと、巨大な蛇は消えていく…………って結婚!?

 あんなセリフで求婚するくらいなのか!?

 するとオーフィスは空中から俺の腕に抱き着く…………ちょっと待ってな?

 これ、取り返しがつかない可能性が……

 

「………………我、イッセー、全部、捧ぐ」

「なんだそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」

 

 自分で撒いた種だけど言わせてもらいたい―――なんで俺の仲間はこんなのばっかなんだぁぁぁぁぁぁ!!!

 ……とりあえず、修行の皮切りのように俺が叫んだ瞬間だった。

 

 ―・・・

「にぃに、にぃに……オーちゃんはどうしてにぃににひっついてるの?」

「それはな……俺の迂闊な行動が原因なんだよ」

 

 俺はヒカリの頭を撫でながらため息を吐く……先ほどの修行が終わり、薪木を火の中に突っ込みながら俺たちは火を中心を円を描くように座っていた。

 修行は9割方終わり、俺は現在、修行相手だった先生たちに話を聞くことにした。

 それで今は結構遅い時間ってこともあり、ティアの傍でフィーとメルは既に眠っており、ヒカリは未だに元気だ。

 ……将来的には計算高い魔性の女の子になるからなぁ、ヒカリは。

 

「ははは、先ほどは助かったでござるよ。まさかオーフィス殿の逆鱗をこの身に受けそうになるとは……」

「……それで俺の生んだ代償は凄まじいものですけどね」

 

 ちょっとムスッとしたように言うと、夜刀さんはまた笑う。

 全く、この人は能天気だよな。

 

「本題に入ろうか、一誠。この数週間、お前の修行を4人体制で行ってきた―――そして結果、今日に至っては禁手なしで我らに深手を負わせた……これは凄まじい進歩、成長だ」

「そうだな、流石は私の弟!もちろんイッセーだけでなくチビ共も成長した……姉としては誇り高いな!」

 

 タンニーンのじいちゃんと人間の姿のティアがそんな風に俺を評価してくる。

 ……確かにかなり力はついたと思う。

 先ほど久しぶりに禁手を使ってみたが、今までよりもはるかに体は軽かったし、それに倍増の強さの感覚も上がっているようにも感じた。

 とはいえ、オーフィスと真っ向からやったら瞬殺だろうけど……

 

「元々、一誠殿は完成に近い力を持っていたでござる……おそらく、一誠殿の力が本当の意味で発揮されるのは死と隣り合わせの戦場……誰かを守るときでござるね。拙者もうかうかはしていられないでござる。わずかこの期間で一誠殿は大幅に力をつけた―――完成だったものを壊し、再び高見に向かって成長し続けているでござる」

「……でも、俺は目標にしていたことには届かなかった……」

「二つの目標の内、一つは届いたでござる。むしろあれ(・ ・)自体が普通の思考じゃないでござる」

 

 ……俺の掲げた目標の一つは今回、成し得なかった。

 でももう一つ―――神器なしで最上級クラスと戦う可能性の糸口を掴むという目標は達成した。

 

「だが一誠殿。あれは主に拙者しか内情を知らぬが、非常に危険なものでござる。下手をすれば自分の身を亡ぼすこともあり得る―――あくまで必要な時にだけ使うべきでござる」

「……分かってますよ。っていうか、ツイン・ブースターシステムやら禁手よりかはまだ優しいでしょう?」

「…………気を付けろ、と言いたいだけでござる」

 

 夜刀さんの忠告を俺は聞き入れる……肝に銘じておくよ。

 

「……一誠。一つ、お願いがあるんだ」

「お願い?」

 

 するとティアが珍しく俺にそう切り出してきた……ティアが俺にお願いをするなんて珍しいな。

 

「ああ……今度のゲームがあるだろう?おそらく使い魔の使用は一誠は制限されると思う。私は龍王だ……だがそのチビ共は制限されない」

「……つまりお前が言いたいことは」

「ああ―――そこのチビ共をレーティング・ゲームで使ってやってくれ。お前ほどじゃないが、チビ共だっていつもの何倍も頑張ってきたんだ」

 

 ……知ってるよ。

 今、俺の近くにいるヒカリだってよく見れば傷や土埃の跡が付いてる……それにこいつらは俺のサポートをして全力で俺と一緒に修行した。

 その中で一度も弱音を吐かず、ただ俺の後ろをついてきたんだ……誰よりも、俺がこいつらが頑張ってきたことは分かってる。

 

「―――約束するよ。俺は次のゲーム、フィーとメルと、ヒカリ、それと眷属の仲間と共に勝つ。二度と負けてやんねぇ……絶対に」

 

 ……初めてのゲームのとき、俺の甘い考えで小猫ちゃんを敗退させてしまい、アーシアは泣いた。

 部長だって守れなくて泣いた……もう二度と、ゲームで負けるわけにはいかない。

 

「まあなんだ―――ありがとな?一緒に戦ってくれて…………その、ね……ティア姉ちゃん」

「――――――――――――――――」

 

 俺は少し恥ずかしかったがそう言うと、ティアはなんか固まった。

 どうしたんだ?そう思ったら突然、ティアは……

 

「そ、の、笑顔、は…………はんそ、く…………がくっ」

 

 ……わけわからないことを言って、幸せそうな表情でその場に倒れたのだった。

 

「凄まじいでござるな。ティアマット殿の周りに幸せの気が満ち溢れているでござる……」

「……もう一生寝かしといてください……はぁ、ティアはいいお姉ちゃんなのに残念だよ、本当に…………」

 

 俺はため息を吐く。

 

「ははははは!!退屈しないな!お前たちと一緒にいるのは!!」

「……そう言えばタンニーンのじいちゃんはさ。どうして悪魔になったんだ?」

 

 俺はじいちゃんに一番疑問だったことを聞いた。

 じいちゃんは龍王の一角だったし、それに未だなお力は健在だ。

 それなのに何でわざわざ悪魔になったんだろうって不思議だったんだ。

 

「……あれはいつのころだったか」

 

 するとじいちゃんは話し始めた。

 

「……ドラゴンアップルという果実があるんだ。その果実を主食とするドラゴンの種族がいてな……だがドラゴンアップルが絶滅しかけ、そしてその種族は龍王であった俺のもとに来た…………果実があった地域は既に冥界にしかない。だから悪魔になった―――簡単だろう?」

「つまりじいちゃんはドラゴンを守るために、自分の不利益を考えずに悪魔になったのか?」

「ああ……上級悪魔、更には最上級悪魔になれば領地を貰える。ドラゴンアップルの生息している場所を占領するために悪魔になった。今では人工で果実を作る研究をしているよ―――俺の生きがいみたいなものだ」

 

 じいちゃんは昔を思い出すようにそう言った…………俺はそのじいちゃんの話に共感できるものを感じた。

 誰かを救うために、そこまでの行動がとれる―――やっぱり、このドラゴンは誇り高く、優しいドラゴンだ。

 

「タンニーン殿は悪魔でなければ三善龍の一角でもおかしくなかったでござるね……素晴らしい行動でござる」

「俺にしか出来なかったんでな……それに貴様は三善龍の称号を貰うほどの善行を重ねて来たのだろう?」

 

 ……そう言えば夜刀さんからは行ってきた善行については聞いてなかったな。

 

「……拙者の行ってきたことは当然の事ばかりでござるよ。時には人々を導くために悪を切ったことも……たとえ悪でも命を奪うのは罪でござる」

「……でもそれは」

「わかってるでござる。拙者がやらなければもっと多くのものが傷ついたでござる―――故に拙者、その者たちの分まで生き、己が道を信じぬく。それが拙者の志であり、生涯変わらぬ思いでござる」

 

 ―――カッコいいな、この二人は。

 誰かを救うことを当たり前、当然のように語ることのできるドラゴン。

 俺はこの二人にあこがれた。

 

「大丈夫でござるよ。一誠殿は拙者とは違う、もっと優しい道があるでござる。拙者、こう見えても不器用で故に遠回りも多かったでござる。一誠殿には一誠殿の道が、拙者には拙者だけの道がある……そう考えると人生とは捨てたものじゃないでござるね」

「……そう、だよな」

 

 ……この人が三善龍と称される理由が改めて分かった。

 夜刀という龍は、誰よりも自分を知っている……自分に出来ること、しなければならないこと……そんな当たり前のようで出来ないことをするのが夜刀さんなんだ。

 

「……三善龍の残りはどうなっているんですか?」

「…………三善龍のあと二角でござるか……彼らとは共に切磋琢磨した友でござったよ」

 

 ……夜刀さんは少し悲しそうな顔をしていた。

 もしかして……そんな予想が俺の頭を駆け巡ると、夜刀さんは俺をじっと見て首を横に振った。

 

「大丈夫でござる。死んだとか、そういうのではないのでござる…………拙者以外の三善龍は片方は健在、しかし……もう片方は封印されたでござる」

「ふ、封印!?」

 

 俺はその台詞に驚きを隠せなかった!

 善行を重ねて来た龍が封印される理由が俺には見当たらない……そう思ったんだ。

 

「何も悪の心に堕ちたから封印されたわけではないのでござる―――寿命、だったのでござる」

「寿命……」

「そうでござる。彼―――封印の刻龍(シィール・カーヴィング・ドラゴン)と謳われた龍は名の通り、封印をつかさどるドラゴンであったでござる」

 

 ……夜刀さんはその龍のことを語った。

 

「名はディン……彼の行った善行とは、害悪となる怪物や邪龍……魔物を封印して人々を守ったことでござる。しかしその封印とは……自身の中に邪悪を封印すること―――結果、ディンは命を削りながら様々な者を救っていったでござる」

「……それで今は?」

「…………聖書の神が死ぬことを憐れんだ結果、ディンは神器に封印されたでござる。おそらくドライグ殿やフェルウェル殿と同じように意識だけの存在……それが三善龍の一角、封印の刻龍・ディン」

 

 ……神器か。

 神器の中で未だなお生きているんなら、いずれは会うことも出来るだろうな。

 

「残りの善龍は今も健在でござる。宝眼の癒龍(トレジェイズ・ヒールドラゴン)ヴィーヴル……その名の通り、癒しの龍でござる。絶対的な癒しの力を持っている龍でござるが…………めったに世間に顔を見せぬが、拙者の友でござる―――ちなみに彼女は女性の龍でござる」

 

 ……最後の情報をなぜ俺にひそひそといったのかは置いておくとして、なんかアーシアみたいなドラゴンだな。

 しかも癒しの力……人前に現れない理由は分かる。

 アーシアもそうなんだけど、回復の力ってものはかなり希少なものだ。

 それがドラゴンなら相当の回復力を持っているんだろうし、存在を悪魔が知れば群がって眷属にしそうな勢いだもんな。

 だから本当に癒しが必要な者にだけ癒すために隠居してるのかな?

 

「拙者の知る友たちは以上でござるね。ヴィーヴル殿とは時たまに会いに行っているでござる。彼女は寂しがりのドラゴンでござるから」

「実は好きとか?」

「―――残念ながら、ヴィーヴル殿はそのような人物ではないのでござる。それにヴィーヴル殿の愛したのはディン殿…………拙者など、足元に及ばぬ若輩者でござる」

 

 ……なんか、ドラゴン通しの恋愛を聞かされて何とも言えない空気になってしまった。

 っと俺はそこで腕に引っ付いていたオーフィスが寝ていることに気が付き、俺はそっとオーフィスを寝かせて再びじーちゃんと夜刀さんと対面する。

 

「……さて、そろそろ眠ったらどうでござる?今日で修行は終わり……ここからは疲れた体を癒すことに専念するのでござる」

「まあそれはそうなんだけど……なんていうか、こんな風に腹を割って話す機会もそうないと思って……」

「…………なるほど、ドラゴンファミリーが一誠殿を溺愛する気持ちが分かったでござる」

 

 すると夜刀さんは懐から一本の刀?のようなものをだし、それを俺に渡してきた。

 その刀には刀身はなく、ただ柄と鍔だけがあるもの。

 

「それは刀身なき刀でござる。名は無刀…………無の淵より顕現する刃は一誠殿の気持ちに応えてくれるはずでござる―――護身刀として、常に身につけるでござる。きっと一誠殿の力になるであろう」

「……いいんですか?」

「いいでござる。拙者が創った傑作の一つを一誠殿が持つことに意味があるでござる―――一誠殿には刃がない方がお似合いでござる」

 

 夜刀さんが薄く笑うと、そのまま立ち上がって群青色の翼を展開した。

 

「拙者はこれより他の任務がある故、ここで別れを申すでござる…………また、会おう」

「……ありがとう。夜刀さん」

「どういたしまして、でござる」

 

 そのまま夜刀さんは神速でその場から消える……三善龍の一角……あれこそが優しいドラゴンだな。

 

「お前の強さは既に最上級悪魔と全く遜色がない。むしろ下手をすれば他の最上級悪魔から『駒』のトレードが来るほどだろう……だがお前はリアス嬢の『兵士』が似合っているだろう」

「ああ、トレードなんかされる気はないよ―――それでもタンニーンのじいちゃんにはまだ勝機は見えそうにないけど」

「がはは!!それは当たり前だ……と言いたいところだが、実のところ肝を冷やしている。お前の成長の速さと爆発力は実践で発動するだろう。あれが本気の闘いであれば、俺も全力でやらなければならんだろうな。お前の強さは手札の数だ。しかもその手札一枚一枚がジョーカー級だ。だからこそその力、仲間のために使え……歴代の赤龍帝は皆、力に溺れ堕ちて行ったからな」

「……分かってるよ。俺が誰よりも…………赤龍帝の宿命を」

 

 俺はうまく笑えているだろうか?

 じいちゃんは俺の方を見ている。

 

「そうか……さあ一誠、早く眠れ。眠れぬならじいちゃんの翼で寝るか?少し硬いが温かいぞ?」

「はは……そうさせて貰おうかな?」

 

 その日、俺はタンニーンのじいちゃんの翼に包まれて眠ったのだった。

 

 ―・・・

「んん……久しぶりに帰ってきたなぁ」

 

 俺はあくびをするように体を伸ばす。

 今、俺やドラゴンファミリーの皆はグレモリー家の本邸前にいた。

 なんか知らんが帰りにタンニーンのじいちゃんの背中に乗って帰ろうと思っていたのに、なぜか知らないけど俺はじいちゃんと速度の勝負をすることになって……

 俺も全力で飛んだんだけど、思った以上に疲れなかったのは修行の成果かな?

 俺は手を軽く払って目の前にいるじいちゃんを見た。

 

「サンキューな、じいちゃん!おかげで強くなれた」

「いや、俺も楽しかったぞ。まさかドライグを宿すものに加え、未だかつて見たことないドラゴンを宿した神器ともやり合えたからな―――長生きはするものだ」

『礼をいうぞ、タンニーン。だが忘れるな―――パパが一番偉大だ』

『いえ、マザーです!』

 

 ……もういいから、対抗意識燃やさなくて!

 

「まったく……楽しい集団だ、ドラゴンファミリーというのは」

「じいちゃんもその一員だぜ?」

「ふ……だから余計に楽しいのだな」

 

 するとじいちゃんは俺に手を差し伸べてきた。

 握手かな?俺はそれを受け入れ、じいちゃんのでかい手と握手をした。

 

「これからもよろしく、タンニーンのじいちゃん!」

「…………ところで一誠。パーティーには俺も参加するが、会場入りはどうするんだ?」

 

 ……パーティーっていうのは魔王様がゲームの前に主催していものであり、若手悪魔である俺たちも招待されてるんだ。

 当然、最上級悪魔であるじいちゃんもそれに参加することになっており、他の最上級悪魔も数多く来るらしい。

 

「いや、まだ決まっていないと思うけど……」

「ほう……ならば俺の背中に乗って行け。当然眷属の者共も総出で連れて行ってやる」

「……いいのか?」

「当然だ。孫を甘やかすのがじいちゃんの役目、か?」

 

 タンニーンのじいちゃんが少し可笑しそうにそう言った……ああ、なんで他の皆はじいちゃんみたいな紳士さとかがないんだろうか。

 

「では後日、連絡を送ろう……ではな、一誠!」

 

 そしてじいちゃんは空に飛翔し、そのまますごい速度で飛んで行ってしまった。

 うぅ~ん……いいヒトだった。

 

「さてと……ってみんな先に屋敷に帰ったか?」

 

 俺は周りに自分だけの状況に少しため息を吐く……まあ気を利かしてくれたんだろう。

 んじゃあ俺も戻るとしますか……っと思った時、俺は後ろに気配を感じた。

 

「おっす、久しぶりだな。祐斗」

 

 俺は振り返らずにそう言うと、後ろで驚くような声がして、俺はそこで後ろを振り返る。

 そこには案の定、祐斗がいた。

 

「け、気配を消して近づいてたんだけど……驚いたよ。久しぶりだね、イッセー君」

「ははは。気配消すってのはマジで気付かないから……」

 

 何度夜刀さんに殺されかけたことか……だってあの人、仙術で完全に気配消す上に速度が超絶の神速なんだもん。

 思い出しただけで泣けてくる。

 

「……僕も強くなったつもりでいたけど、まだまだだね―――イッセー君のオーラの質が桁違いに上がってるよ」

「それを測れるお前も相当腕あげたな……今度手合せしようぜ」

 

 俺は薄く笑うと、すると次に何か物体が祐斗の後方よりトコトコと歩いてきた……なんだ、あれ?

 包帯?を身に巻き付けまくっていて、ミイラみたいだな。

 

「おや、イッセーと木場じゃないか。随分と久しぶりだな」

「……ゼノヴィアだったのか。うん、まあそんな馬鹿なことするのはお前くらいだもんな」

 

 俺は全身包帯だらけのミイラ女、ゼノヴィアに呆れたように言うと、ゼノヴィアはちょっと怒った声音で……

 

「怪我をして包帯を巻いて、また怪我をして包帯を巻いたらこうなったんだ……仕方ないだろう?」

「はいはい……フェル」

『了解です』

 

 俺はそういうと、胸にフォースギアを展開する。

 

『Force!!』『Force!!』

『Creation!!!』

 

 二段階の創造力を使用し、そのまま神器を創造…………修行中、非常にお世話になった癒しの神器、癒しの白銀(ヒーリング・スノウ)を創造し、その瓶を割って中の雪のような粉をゼノヴィアに振りまいた。

 

「……傷がなくなった?」

 

 ゼノヴィアはそうつぶやくと、そのまま包帯をとっていく……って包帯だからまさか!!

 

「おい祐斗!屋敷からお前の自慢の足で羽織るものをとってこい!このバカ、包帯の下は裸だ!」

「了解したよ!!」

 

 祐斗はそのまま一瞬で姿を消す……あいつもかなり速くなったな。

 っと今はこいつだ……仕方ないな。

 

「ゼノヴィア、こいつを羽織っとけ」

 

 俺は自分の夏服のシャツをゼノヴィアに羽織らせる。

 修行中は上半身裸で修行をしていたためほとんど破れていなくて助かったな。

 ゼノヴィアは包帯をかっぱらって、そのまま俺の制服を羽織った。

 

「ありがとう、イッセー…………それにしてもまたすごい体になったようだ……差がますます開いたか?」

「お前のオーラだって相当なまでに上がってるぜ?パワー全般だけど……」

 

 俺はそこで嘆息する……まあすぐにはテクニック力なんて身につかないだろ。

 

「さて………………ッ!!このオーラ…………俺を癒すこのオーラはッ!」

 

 俺は突然感じた気配に目を向けると、屋敷から少し慌てながら出てくる存在……アーシアの姿があった!

 

「イッセーさん、ゼノヴィアさん!」

 

 シスター服を身に纏い、小走りで走ってくるアーシア……くそ、流石は元祖癒しの存在!!

 別格過ぎる!!

 もう今すぐに愛でたいぜ!

 

「久しぶり、アーシア。随分と頑張ったようで何よりだ」

「い、イッセーさんも…………前よりもずっとカッコよく……いえ、前もカッコよかったんですけど……あうぅぅぅ!!」

 

 アーシアは俺を見て恥ずかしそうに視線を外す……ああ、そう言えば今の俺って上半身裸だったな。

 

「俺がいない夜は一人で眠れたか?」

「い、いえ……やっぱりイッセーさんの温もりが……今日は一緒に寝てもいいですか?」

 

 アーシアがそんなことを上目づかいで言ってくるッ!

 ぐっ……!こんな視線に俺が負け―――

 

「おう、いつでも大歓迎だ!」

 

 ―――るに決まってる!!

 だってアーシアの可愛い上目遣いに勝てる男がこの世にいようか!?いや、いない!

 大事だから反語使ったけど、それが世界の常識なんだ。

 …………俺、さっきから何言ってんだろ。

 自重しようと思った瞬間だった。

 

「あら、みんな大集合ね―――イッセー、久しぶりね」

「……部長も久しぶりです」

 

 するとアーシアが出てきたところから部長も現れて、笑顔で俺たちを迎え入れてくれる。

 

「積もる話しもあるけれど、今はまずシャワーでも入ってきなさい。修行の報告はそれからよ」

 

 部長のその言葉で、俺たちはシャワーを浴びてそのあと俺の部屋に集合ってことになった。

 ……なんで俺の部屋なのかは疑問だけど。

 

 ―・・・

 外で修行していた俺、祐斗、ゼノヴィアはシャワーを浴び、そして今俺の部屋には眷属の皆にアザゼルがいた。

 どうやらドラゴンファミリーの他のメンバーの内、フィー、メル、ヒカリは疲れが溜まってたんだろう。

 今は用意された部屋でティアに面倒を見られながら眠っている。

 オーフィスは後で部屋に来るそうだけど……

 そして部屋に集まった皆と久しぶりに顔合わせする。

 ……全員、かなり魔力の質やオーラが上がっているな。

 まあとにかく、まずは外で修行をしていた俺たちが話をすることになり、だいたいのことを話した。

 祐斗は師匠との修行の顛末、ゼノヴィアはもういろんな猛者と戦いまくったことを。

 そして俺の番になって―――俺は全ての事を洗いざらい話した。

 

「――――――ってことなんですけど…………ってみんな、どうした?」

 

 なぜか知らないけどみんな引くどころか、唖然としていた。

 アーシアに至っては顔面蒼白、小猫ちゃんは手に持っていたお菓子を全部地面に落とす始末。

 アザゼルすら口を大きく開いていた。

 

「いや、引いてんだよ……なんだ?お前はつまり、禁手も使わず、寝床も用意せず、野生の中で適応して生活してたってことか?」

「え、普通はそうじゃないのか?」

 

 俺は普通にそれをしろってことだと思ってたんだけど…………

 どうやら祐斗もゼノヴィアも山小屋やグレモリー家の別荘で生活していたそうだ。

 ……あれ、俺の扱い、今更ながら可笑しくないか?

 

「おいおい、冗談きついぜ?じゃあなんだ―――タンニーンのじいちゃんの全力の炎も、夜刀さんの暗殺級の闇討ちも、ティアの無慈悲な攻撃も、反則級のオーフィスの力も…………俺だけそこまで自分を痛めつけていたのは」

「だから驚いてんだよ。俺の予想してたのは一人一人、マンツーマンでの指導って思ってたのに、まさか全員一気に相手してたとか……よく死ななかったな?」

「うっさいわ!!何度も死にかけたわ!!体中生傷が毎日出来たわ!」

「……それでも逃げ出さないイッセーは流石だわ。ほら、抱きしめてあげるから……」

 

 部長の優しさが心に染み渡る……俺はつい抱きしめられてしまった。

 

「………………イッセー君が桁違いになっているのは納得したよ」

「んで、イッセー……どこまで力は上がった?」

 

 するとアザゼルは俺にそうたずねてくる。

 

「……神滅具創造、シルヴァーギアの創造力の20段階まで短縮。ツイン・ブースターシステムの神帝化。身体能力全面、スタミナ、気配察知……それと神器なしでの戦闘方法。あとは倍増の尺が大幅に上がった。じいちゃん仕込みの火炎放射と簡易龍法陣……ってくらいだな」

「……………………お前、磨けば磨くほど強くなるのか?さすがにそれは…………ってことは燃費の悪さは?」

「ある程度は解消できた。けどそれでもやっぱり微妙だな…………もっと長期に渡って鍛えねえと、これ以上の解消は難しいな―――ってかあんな修行、二度とごめんだ!もうトラウマだよ……うぅぅ」

 

 ちょっと涙が落ちる……だって一時は寝る時でさえ夜刀さんが狙ってきたんだもん……そのせいで気配察知なんてものまで身に付いたし……

 知ってる人じゃないと見分けつかないけど……

 

「……アーシア、小猫……イッセーを癒してあげて?貴方たちが一番効果があるわ」

「は、はい!イッセーさん!私はここにいますよぉ?」

「……先輩、膝枕してあげるです」

 

 あぁ……俺の疲弊した精神が癒されていく…………地獄の修行はいいこともあったけど、今になってトラウマのようによみがえってきた。

 ……今は癒されよう。

 そう思ったのだった。

 

「ま、とりあえずはイッセーダウンで報告会は終わりだ。明日はパーティー。そのためにしっかり寝ておけよ?」

 

 ……アザゼルのその言葉で解散となる。

 ようやく、俺は地獄から解放されたのであった。

 

 ―・・・

 ……その夜、俺のベッドにはアーシアがいた。

 既に俺の腕を掴んで熟睡中であるけど、俺はなぜだか眠れなかった。

 

「……はぁ、ちょっとふらふらするか」

 

 俺はそっとアーシアの頭を撫でて、そのまま部屋を出て廊下を歩く。

 屋敷の中は高級そうな壺やランプとかで飾られており、俺はそれらが飾られている廊下を歩く。

 

「…………先輩」

 

 ……すると突然、後ろから声がかけられる。

 ―――俺が全く反応できない、なんてな。

 俺は声の聞こえた方を振り向くと、そこには小猫ちゃんの姿があった。

 

「こんばんは、小猫ちゃん」

「……はい」

 

 ……小猫ちゃんは真っ白いパジャマを着ていて、そして少し頬を染めている。

 

「今、気配が全く感じられなかった……ってことは」

「……仙術、です」

 

 やはりそうか……でも俺が気配を察知できないほどってことは、かなり高レベルの仙術だ。

 それほどの仙術の才能を小猫ちゃんも持っているのか。

 俺と小猫ちゃんは壁にもたれかかるように立ち、そして話す。

 

「……いっぱい、修行しました……イッセー先輩があの日、私に言ってくれた言葉を思い出して…………」

「……俺さ、なぜか眠れないんだ。本当に、なぜだかわからないけど……たぶん、俺はここで小猫ちゃんと話すために眠くないのかもな」

「……うれしいです……それに私も一緒、ですから」

 

 ……小猫ちゃんはキュッと、俺の手を控えめに握ってきた。

 

「……もう足手まといは嫌です。だから先輩……力をください」

「小猫ちゃん」

 

 ……小猫ちぁんは俺の方に顔を上げて、目をつむっていた。

 ああ、これはあれだろう……キス、ってことだろうな。

 普通の男なら、ここで小猫ちゃんを想っているならキスくらいするはずだ……俺だってそんな気持ちがないわけではない。

 部長と朱乃さんには不意打ちだとはいえ、キスは確かにされた。

 だけど俺にとってキスは…………ミリーシェとの大切な思い出なんだ。

 今更、引き摺っても何も変わらないことは分かってる……でもそんな半端な気持ちではキスは出来ない。

 ―――何もない草原で、子供心で何度もしたキス。

 あれが俺にとってミリーシェを愛したのには変わりないから……

 俺は小猫ちゃんの頬を撫で、そして顔を近づける。

 そして俺は…………小猫ちゃんの頬にキスをした。

 

「……ごめん。これが俺の精一杯なんだ……」

「…………いいえ、十分です」

 

 小猫ちゃんは目を開けると、弱い笑顔を見せてくれた。

 

「……イッセー先輩が自分からしてくれたキスなら、頬っぺたでも嬉しいです。たぶんみんなされたことはないと思うから……イッセー先輩からは……」

「小猫ちゃんはなんで……いや、聞くのは野暮だな」

 

 俺は苦笑いをして窓の外を見る…………小猫ちゃんの気持ちはもうわかってるから、だから聞かない。

 

「……先輩は色々な人に好かれてます……私もそうだから、みんなの気持ちが分かるんです…………でも私は誰にもこの想いは負けません…………」

「勝とうぜ、ゲーム」

「はいッ!」

 

 俺たちは笑顔でそういうのだった。

 そして夜は老けていく…………俺たちの大事な一戦が、すぐそばまで来ていた。

 


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