ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~ 作:マッハでゴーだ!
高校二年生の夏休み。
普通の男子高校生ならば、夏休みに家族や友達と旅行に行ったり、遊びに行ったりデートに行ったりとそりゃあもう青春ってもんができるはずだ。
そう…………普通の高校生ならばそれが当たり前なんだろうな。
だけど俺、兵藤一誠はと言うと…
「うぉぉぉおおお!!こいつでもくらえぇぇぇ!!ティアァァァァァ!!!」
……生身一つで15メートル超の巨大なドラゴンと対峙していた。
「くっ!!まさか通常形態でそこまで出来るようになっているとはッ!!さすがは我が弟!!」
ティアはでかい巨体で空を軽やかに舞いながら俺の攻撃を受け流す。
今の俺の状態は
…………いや、語弊があるな。
「ならば兵藤一誠!俺の炎を食らってみよ!!」
地上の山から突然、ティアと同じくらいの大きさのドラゴンが現れ、俺に向かって炎のブレスを放ってきた!
そう…………俺の対峙―――修行相手は何もティアだけではない。
元龍王にして最上級悪魔であるドラゴン、タンニーン。
「解放!!」
『Explosion!!!』
俺はそのブレスを解放した倍増の力で魔力を何倍にも高め、魔力弾を放ち相殺する。
向こうは力を加減しているとはいえ、さすがはドラゴン……威力がけた違いだ。
「……まさかここまでのレベルとは思いもしなかったぞ、兵藤一誠」
「まさか禁手を使わずにそれほど実力が上がっているとはな。お姉ちゃんは驚きだ」
空中にて俺はティアとタンニーンといった伝説級のドラゴン二人と相対する。
……アザゼルに嵌められてから既に5時間ほど経過している。
俺はタンニーンに捕まえられて今はグレモリー領の山や空、挙句海のようにでかい湖まで使って鍛錬をしているんだ。
今は山での修行、湖での修行の果てに空中による本気のスパーリングをしている…………今のところは禁手なしで戦っているんだ。
「……イッセー、油断、禁止」
―――ッ!?
気配もなく、風のように突如俺の後方に現れるオーフィス!!
俺は最短の挙動で後ろに振り向くと同時に防御態勢をとると、オーフィスはすでに黒い蛇を弾丸のように放とうとしていた。
ダメだ、ブーステッド・ギアだけじゃやられる!!
「フェル!防御系の神器だ!!」
『了解です、主様!!』
俺は胸元にあるエンブレムブローチ型の神器、
既に数段階の創造力は溜まっている!
『Creation!!!』
その音声とともにエンブレムから白銀の光の塊が発生し、俺のブーステッド・ギアに重なりあった!
「
この盾の能力はいたって簡単だ!
単に神器に装備する盾であり、その神器の能力によって適応した防御力の盾を得る!
ブーステッド・ギアの性質は倍増……つまり与えられる盾は―――防御力を高めていく盾!!
「ドライグ、盾に倍増のエネルギーを譲渡!」
『応ッ!!』
『Transfer!!!』
ドライグが盾に力を譲渡し、倍増による盾の防御力上昇は更に速度を増し、盾は巨大なものとなった。
俺はそこで盾を籠手と分離し、そしてオーフィスの弾丸を迎え撃つ!
「……無限、蛇、食らえ」
くっ!!さすがは龍神様だ!!
破壊力が段違いに強い上に、これでも手加減してんだろうな…だけど一矢報いてやる!!
盾が蛇によって浸食されるのを見計らい、俺は盾を捨ててオーフィスに突っ込む!
速度は禁手じゃないから昇格で『騎士』の力を発動させ、速度を補う!
『Boost!!』
『Explosion!!!』
倍増のち俺は瞬時に倍増したエネルギーをすべて解放し、拳に集中する。
そして無防備にたたずむオーフィスに一撃入れた!!
「……イッセー、一撃、良い。だけど我、少ししか、効かない」
オーフィスは殴ったまま止まっている俺の腕を持つと、すさまじい勢いで空中に放った!!
ってマジか!?
俺は遥か空中に上昇していく!しかもえげつない速度で!!
止まらないとやばい!!死ぬ!!マジで死んじゃう!!
俺は何とか魔力を後方に逆噴射して動きを止めようとした時…………
「兵藤一誠。多少覚悟することをお勧めするぞ」
「久しぶりに本気の力を使うぞ、一誠」
―――ようやく動きを止めた瞬間、俺の後ろには巨大なドラゴン二匹。
極太の腕を振り上げて、そして…………
「ウソォォォォ!?それは不味いって!死ぬ!!本気で洒落にならん!フェル!!」
『はい!!』
俺はフェルに心の中で指示を出した。
『Force!!』
『Reinforce!!!』
俺は溜めた7段階の創造力を『強化』の力を使い、ブーステッド・ギアに使う!
それにより籠手の形状は多少変化し、籠手の各所が鋭角なフォルムとなった。
「神器強化、
『Over Boost Count』
その音声が鳴り、そして次の瞬間―――一秒ごとの倍増が始まる!
俺は目の前に全力で魔力壁を作り、一秒でも多く時間を稼いで自分の力を高めていく!!
っていうかまともにこいつら二人の一撃なんか食らうことは出来ない!!
「よしッ!いくぞ!!」
『Over Explosion!!!』
その音声が鳴り響いた瞬間、俺の体から赤いオーラが噴出し、力が何倍にも膨れ上がった!!
そして俺の魔力壁は打ち破られ、そして俺はティアとタンニーン、二人の拳と俺の拳が交差する!
―――って流石に無理に決まってるだろぉぉぉお!!!
…………俺の抵抗はむなしく、俺は遥か上空から叩き落されることになるのだった。
俺に出来ることは…うん、今の解放で余った力を防御に回そう。
そうして俺は無駄に冷静な頭で抗うことをあきらめた。
―・・・
ズガァァァァァァン!!!
……そんな轟音が響いて俺は地面にたたきつけられる。
防御を集中したおかげか、割と怪我は少なくて済んだけど……さすがは龍王最強と元龍王。
まったく歯が立たないな。
とりあえず山の中に落とされたから見つかるまで隠れておくか。
―――ちなみに俺が今している修行はティアかタンニーン、オーフィスのうち誰か一人に見つけられたら即バトルってものだった。
ドラゴンと超恐怖の鬼ごっこ……しかも一人に見つかれば三人で来るという恐ろしいものだ。
『相棒、なぜ禁手を使わない?禁手を使えば少なくともタンニーンとティアマットとは戦えるだろう?』
「ああ、そうだなぁ…………今まで発現してきた力の確認と…まあなんだ。どれくらい俺に可能性があるかを探るために全部の力をまんべんなく使ってるってところだ」
『ですが主様…………それも全ての力を以てしても…………』
「まあ現段階の俺の最強の力は禁手を強化した
無限の倍増を理論上は可能とするあの鎧があれば、少なくともティアとタンニーンといい勝負は出来るだろうけど…あの技は連発できない上に燃費が悪い。
圧倒的に差が開いている相手ならまだしも、ティアとタンニーンが相手なら燃料切れが目に見える。
それにやってみて分かったけど、倍増の感覚……つまり倍増の大きさは前と比べてもかなり大きくなっているみたいだからな。
普通の神器の状態でもある程度の敵とは戦えるよ…………防御力はないけど。
『今の相棒の籠手の状態での戦闘能力は眷属でも一位だ。おそらくほとんどの上級悪魔に通用するだろうよ…………相棒も内心で焦っているんだろう?ここまで戦ってきた敵の強さに』
「まあ、な」
俺は草の上に寝転びながら空を見上げる。
焦っているのはその通りだ。
これもかなりのオーバーワークだし、効率的かどうかはわからないけど…………やってみる価値はあるはずだ。
それにこんな良い修行環境はなかなかないしな。
相手が龍王やら龍神とかの伝説級のドラゴンばっかりだ。
これだけの経験を積めば、俺が今考えている力の応用だって可能になるかもしれない。
「そう言えばアザゼルが龍王に近い力を持つドラゴンも呼んでいるって言ってたよな?」
俺はアザゼルが俺を見捨てる前に言った言葉を思い出してふとそう言った時だった。
「ん?なんかいい匂いが…………」
俺の鼻孔が何かいい匂いを掴んだ。
これは…………料理?そう言えばあれから5時間もぶっ通しで鍛錬してたせいで腹がペコペコだよな。
……一応行ってみるか。
俺は立ち上がり、そのまま匂いのする方に歩いて行った。
草木をどけて歩き、少し経つと森の中に一つの空間にたどり着く―――そしてそこに誰かがいた。
……鍋を混ぜてる?
背丈は2メートルくらいか?なんか和服……袴なんか着ていて頭に侍が被るような藁の帽子を被ってる。
腰には……刀を帯刀している?
まんま時代劇に出てくるような侍だな。
「……そこにいるのはもしや、兵藤一誠殿でござるか?」
…………その侍は、振り返ることなく俺のことを指してそう言ってきた。
俺はそれで警戒しようとするが―――
「警戒は無用でござる。拙者、赤龍帝殿の敵ではないでござる故に」
すると侍は鍋を回すのをやめ、俺の方に振り返る。
その顔を見て俺は少し驚いた―――そこにいるのは人の見た目ではなかった。
いや、ほとんど人なんだけど顔には数か所に鱗、さらに耳は鋭く牙が少しある。
まるでその見た目は……龍人。
見た目はすごいカッコいいけど、もしやこの人が……
「……あなたはいったい」
俺がそう尋ねようとしたその時…………ぐぅ…………俺の腹から情けない音が響いた。
「はは。腹が減っては戦は出来ぬ。さあ、拙者とともに飯を食おう」
すると侍は自分の隣をポンポンとたたいた……座れとでも言いたいのか?
…………だけどこの人はあまり警戒しなくても大丈夫かな?
「粥でござる。味付けは塩、それと自家製の漬物もあるでござるよ?」
「あ、ありがとう…………ってそうじゃない!侍さん。あなたがもしかして」
「最後までは言わなくてもわかるでござるよ。拙者、名を
夜刀さんはそういうと、薄く笑って立ち上がる―――そして次の瞬間、彼の背中には群青色の翼…………ドラゴンの翼があった。
「アザゼル殿より要請を仕った龍でござるよ」
「……やっぱり貴方が」
夜刀さんはそう言うと、再び腰を下して粥の入った器をすする。
俺はそれをみて真似するように粥を食べる……?
なんだ、なんか食べた瞬間、体が活性化したみたいに温かくなったような…………
「今、不思議に思っているでござるね?当然、この粥はただの粥ではござらぬ」
「ただの粥じゃない?」
「如何にも。この粥は拙者の仙術によって効能が最上化されている健康面において最高位に達する粥……万能粥でござる」
「仙術!?」
俺はその言葉を聞いて驚いた。
詳しく知っているわけではないけど、仙術っていうのは生命をつかさどり、操る力だ。
大雑把な知識しかないけど悪魔や天使、堕天使が持つような魔力や光力といった直接的な物理攻撃は持たないものの、その代わりに人の気やチャクラなどといった力を操作することができる力。
一例では身体強化や相手の気を乱して活動を停止させるとか応用法がかなりあるらしいけど…………
とにかくすごい力だ。
「赤龍帝殿は今しがた、かの有名な龍王や龍神と手合せしていたのでござる。疲れも相当のものだと察する……故にこまめな回復は必須なのでござるよ」
「……ありがとうございます」
「いいのでござるよ。ただ鍛えることだけが修行というものではないのでござる。衣食住、それらをきっちりこなすこと、これこそが至上なのでござる」
…………ひどく説得力があるな。夜刀さんの言うことは。
それに仙術を操ることができるということは、この方はそれほどの力を以ているという証明だろうし、それに近くでいてそれに気付かせないほど実力を隠している。
でも夜刀さんは間違いなく龍王クラスのドラゴンだ。
『随分と久しぶりだな、
するとドライグが俺の手の甲から宝玉となって現れる…珍しいな、自分から現れるなんて。
「これはこれは……ドライグ殿も既に目覚めて参ったか。おひさしゅうでござる」
「ドライグ、お前は夜刀さんと知り合いなのか?」
『ドラゴンの中でこの者を知らないものは少ない。世にも珍しい”恐れられないドラゴン”だからな』
恐れられないドラゴン?
なんだそれ…………確かにこの人は全然怖くない上に、すごい優しいドラゴンだとは思うけど。
「そう言えば正式な紹介はまだでござった―――拙者、
「三善龍?」
俺は夜刀さんが言った聞きなれない言葉に首をかしげていると、ドライグが俺に話しかけてきた。
『三善龍とはその名の通り、人間や悪魔、神や天使など様々な勢力から”善”の性質を認められ、その称号を得た三匹のドラゴンのことを示す。この夜刀神もまた認められた善のドラゴン…………古来より力の象徴として畏怖されてきたドラゴンの中では異端とされる龍なんだ』
「天下の天龍殿にそういわれると嬉しく感じるでござる……とはいえ、拙者は古来では不気味なドラゴンと言われていたのでござる」
「不気味なドラゴン?」
善と言われるまでに良いドラゴン…………それがこの夜刀さんなのに、なんでこの人はそんなことを言うんだろう……そう思っていると夜刀さんは語り始める。
「拙者の名がつけられた所以は夜に現れる龍。そして拙者を見た者は不幸に見舞われる……そんな伝説がある時代に生まれたのでござる。現代であれば夜に動くことは何も不思議ではないでござるが…………昔、特に日本という国では夜に動くのは大抵が悪しき心の現れでござった」
……なるほど、言いたいことは分かった。
つまり昔……まだ武士がいた時代やもっと昔の時代では夜に何かをすることは、たとえば誰かを暗殺したりすることがあったってことか。
「拙者はそんな悪の心を持つものから人々を守るために夜の世を徘徊していたのでござるが…………この時代はそんなことはもう無用であるから故に、今はこのようにフリーの万屋のようなことをしているのである」
「……つまり夜刀さんは日本出身のドラゴンってことですか?」
「そうでござるね。同期には八岐大蛇や印旛沼の龍などが存在しているでござるが……八岐大蛇は邪龍として討伐され、顔なじみのドラゴンは随分と減ったでござる」
夜刀さんは遠い目をしながら少し寂しそうにそう語った。
俺は話を聞きながら夜刀さんの作った粥や漬物を食べる……本当に体の疲れが消え去ったな。
これが仙術の力か……俺も出来ればつかえたいいんだけど、たぶん無理だろうな。
「さて、腹ごしらえは済んだでござるね」
すると夜刀さんは手をパンパンと払って、そして立ち上がり手で鍋をふれる。
―――次の瞬間、大きな金属性と思われる鍋は真っ二つに切り裂かれ、そして次々と鍋が切り刻まれていつしか粉のようにあたりに霧散してゆく。
…………なんていうか、力に無駄が一切なかった。
「さて、ではそろそろ拙者と手合せ願おうか―――好きなように向かってくるでござる」
……その瞬間、夜刀さんから発せられる殺気に俺は一歩、後ずさりした。
―――俺もまだまだ弱いな。
実のところ、この人を若干なめていたかもしれない。
柔らかい物腰に優しい性格、しかも善の心を持つ三善龍の一角……そんなドラゴンだからこそ、俺は失念していた―――俺も一発、気合を入れるか。
「フェル、創造力はどうなってる?」
『主様のご食事中も溜まっていたので、40段階は溜まっております』
「了解……じゃあ久しぶりにあれだ」
俺はフェルに確認をし、胸のブローチに手を当てる。
「『創りし神の力……我、神をも殺す力を欲す』」
神器創造の極地……神滅具の創造の呪文。
そして俺が創造できる神滅具クラスの神器は―――一つしかない。
「『故に我、求める…………神をも殺す力―――
『Creation Longinus!!!!』
俺の胸を押さえた右手に、フォースギアから出現する白銀の光が纏わり、そして徐々に形作る。
光は次第に止み、そして俺の右腕には白銀の籠手……
「ほう……神器を創る神器―――それが創造の龍の力でござるか」
夜刀さんは腰に帯刀している刀を引き抜き、それを両手で持って構える。
ならこっちもシステムの発動だ!
『Start Up Twin Booster!!!!!!!』
『Boost!!』『Boost!!』
赤龍帝の力である紅蓮の籠手と、フェルの力を用いて創造した白銀の籠手。
その二つが共鳴し、互いに相乗効果を生んで今までの籠手の力の何倍ものスペックを放つツイン・ブースターシステム。
夜刀さんにどれだけ通用するかわからないけど……でもあの人はいつまで人の姿でいるんだろう。
『いや、相棒。奴は実質、ティアマットやタンニーン、そして俺やフェルウェルとは違い性質的には人間に近い。龍人というやつだ。つまりあの姿がすでにドラゴン……多少の変化は出来るだろうが、成人を迎えたドラゴンの中では奴は最も小さいドラゴンだ』
……なるほど、つまり夜刀さんはあの大きさでドラゴンなのか。
「―――いざ尋常に参る」
―――ッ!?
次の瞬間、夜刀さんの姿が俺の視界から消え、一瞬で俺の目の前に現れて刀を振るう!
俺はそれに何とか反応し、左腕の籠手よりアスカロンをイメージした!
『Blade!!』
籠手より聖剣アスカロンが出現し、刃と刃を交差させる!
「それは聖剣……なるほど、つまりお主は剣を扱うことができるというのでござるか!」
「それはどうでしょうね!」
『Right Explosion!!!』
俺は夜刀さんの嬉しそうな顔を皮切りに、右腕の籠手の倍増の力を解放する!
力を拳に篭め、アスカロンで刀ごと薙ぎ払おうとするが……
「―――無切の斬過」
次の瞬間、俺は突然力なく膝を地面に落としてしまった。
なんだ、今の…………まるで神速のように夜刀さんの刀が俺を通りすぎ、その瞬間に俺の体が動かなくなった!
「無切の斬過は仙術を用いた術。この刀、拙者の創りだしたいくつもの刀の一つ。無切刀―――何も切れぬ刀だが、速度は目に見えぬ神速を生み出す刀でござる」
「……まだ、だぁ!!」
俺は全く動かない体をどうにかしようと魔力を逆噴射させ、無理やり体を動かせる!
おそらくはあの斬撃…仙術で俺の気を若干歪めたんだろうな。
だからこそ、気は関係のない魔力のみで体を動かしてみたが……かなりきついな。
「ッ!?……体に流れる魔力を伝達させ、魔力の噴射により身体能力を向上させ、無理やり体を動かせる…………その状態で動けるものなど数知れずでござる……なるほど、磨けば磨くほど輝きを増すとはこのことでござるね」
すると夜刀さんは刀を腰に再び帯刀させ、手のひらを俺の方に向けてくる。
……体は魔力のオーバーブーストで何とか動かせるけど、流石は龍王に近いドラゴン。
―――経験が全然違いすぎる!
「肉弾戦がお好みでござるなら、拙者もそれに合わせようぞ」
「別に好きとかそんなのはないんですが…………夜刀さん、貴方は究極のテクニックタイプの本質ですね」
俺は二つの籠手を構える。
勝てないにしても、夜刀さんに一撃ぐらいは当ててみせてやるッ!!
「体が小さく、他の龍とは違い拙者はブレス系統にめっぽう弱い故でござる―――が、肉弾戦ならば拙者の見せ場でござるね」
夜刀さんは再び神速で俺に近づく!
手にはいつの間にか出現した二つの小さな短刀!
ここは全力でぶつかってやる!!
『Twin Explosion!!!!』
ツイン・ブースターシステムの真骨頂、同時解放により俺は二重に溜まった倍増のエネルギーを魔力に向けて使い、身体のオーバーブーストを高めて体を動かす!
神速が相手ならば俺も神速で相手をするしかない!
俺は素早く『騎士』にプロモーションし、夜刀さんと神速の攻防を開始した。
同時解放の制限時間は割と長くなったけど、どれほど長続きするかはわからないからな。
確実に攻撃をよけ、俺もテクニックタイプとの戦闘をシュミレーションする。
「拙者の動きについてくるでござるか!拙者、龍王と競っても速度だけは勝てる自信があるというものを!!」
「本気じゃないくせによく言いますね!!」
俺の拳が夜刀さんに突き刺さる……と思いきや、それは神速による残像で、夜刀さんはいつの間にか俺の背後に立っていた。
「これにて一本……ッ!?」
夜刀さんは勝利を確信したのか、短刀を俺に振り下ろそうとするが―――俺はこれを読んで、既に手を打っていた。
籠手のひじ部分にある噴射口からオーラを噴射し、体の向きを夜刀さんに向け、さらに両手の手のひらを彼に向けている。
そして次の瞬間、二つの籠手から音声が流れた。
『Twin Impact!!!!』
「ツイン・ドラゴンショット!!」
ゼロ距離からの魔力砲が夜刀さんを襲う!
夜刀さんは赤い魔力弾に覆われ、俺は空中を飛んですぐさまそこから距離をとる。
『Twin Reset』
『Boost!!』『Boost!!』
すると同時解放の力は解除さえ、再び倍増が開始する。
どうだ?そう思った時だった。
「―――良き攻撃に良き判断、予想…………つい拙者も本気になったでござる」
―――煙の中から現れた夜刀さんは、状態が変化していた。
顔は完全に龍のものとなり、腕も足も全てが太く、すさまじいものとなっている。
背中には剣のような群青色の翼、刀の尾。
そしてドラゴンのすさまじいオーラ―――本気の姿だ。
そして彼を取り囲むように包囲された幾重もの刀……体には少しだけ傷がある……おそらくは俺の攻撃によるものものだろうけど、それにしたってこの状態での全力があの程度か……
「が、拙者を打ち取るほどではないでござる―――精進せよ、兵藤一誠殿。お主はまだまだ強くなれるでござる」
「ありがとう、ございます」
―――次の瞬間、俺は無限のように放たれる神速の刀に襲われる。
そのあまりにも圧倒的すぎる攻撃に、俺は抵抗むなしく意識を失うのだった。
その中で思った―――真っ向から久しぶりに誰かに負けたのに、なぜか悔しくないということを。
―・・・
「―――く…………はぁ……」
「ようやく目を覚ましたか、一誠」
―――目を覚ますと、俺の後頭部には柔らかい感触があった。
俺は瞼を少しずつ開け、辺りを見るとそこには人間となって膝枕をしてくれているティア、更にせっせと布を水に浸しているチビドラゴンズ、そして薪に火をつけて魚?を焼いている夜刀さんがいた。
ここは山の中か?
辺りは樹がかなり生えていて森のようだけど、おそらく森の吹き抜けの空間がここなんだろうな。
よく見れば空にはタンニーンが飛んでおり、オーフィスは木々を飛んで遊んでいる。
「ああ、ティアか……俺はどれくらい眠ってた?」
「大体二時間くらいだ……自信を無くすことはないさ。この男は龍王に近い力を持つ―――下手をすれば龍王最強の私の次に強いレベルだ。本気になれば負けて当然だ」
ティアが俺の頭をなでながら、優しい口調でそう言った。
―――俺はあの時、夜刀さんの圧倒的な斬撃の攻撃に歯もたたず、そのまま敗れ去った。
俺は体の状態を何とか起こし、そして夜刀さんの方を向いた。
「おや、起きたのでござるね。傷は仙術である程度、回復する力を促進させておいた故に大丈夫でござるよ」
「……おかげで体に違和感は感じないけど」
俺は腕を軽く振るってそういうと、上空からタンニーンが降りてくる。
「起きたか、兵藤一誠。さすがに初日からやり過ぎだぞ。いくらなんでも俺やティアマット、オーフィスを同時に相手にするのは正気の沙汰じゃない」
「こんぐらいやらないと強くなれないんだよ。俺は赤龍帝だから力を呼び込んでしまう性質がある―――守るためにはもっと力が必要だからな」
「……ふむ。何世代かに渡って赤龍帝殿を見てはきたが、そういう者は初めてでござるな」
すると夜刀さんは関心したようにそう言った―――そう言えば夜刀さんはいったいどんな力を有したドラゴンなんだろうな。
『夜刀はその名の通り、刀を司るドラゴンだ』
すると俺の手の甲より宝玉が現れ、あたりに聞けるように俺にそう言ってきた。
刀を操る?
「その通りでござるね。拙者の力は仙術と龍術―――ティアマット殿の言うところの龍法陣でござる。更に拙者の龍としての性質は刀……龍刀、と呼ばれる特殊な刀を生み出すことができるでござる」
「龍刀?」
俺が不思議にそう言葉を漏らすと、夜刀さんは笑顔で頷く。
「龍の性質を持つ刀。拙者はそれによりパワーは欠けているものの多彩な攻撃を繰り出すことができるでござる……先ほどの兵藤一誠殿―――一誠殿に向かって放った刀の群れはすべてがすべて、違う性質を持つ刀を神速で放つ”無双・億変化の刀舞”。拙者の技の一つでござる」
「……あれは避けるのも難しそうですね」
「あれは本来避けることが不可能な技なのでござるが……それでもいくつかの刀を避けていたのは評価するべきでござるね」
そう言ってもらえるとありがたいけど、避けることが出来たのは本当に少しだけだ。
俺もあの状態では手も足も出なかったし、まだまだ未熟な部分も多い。
「しかし兵藤一誠。お前は既に禁手を得ており、しかも出力も安定していると聞く。白龍皇も下すほどであろう。ならばその力を使えば……」
タンニーンがそう言うけど、残念だけどそんなにうまくはいかないってのが現段階だ。
ヴァーリは確かに撃退はしたけど、実際にはフェルの力をフル活用しての勝利。
途中、普段通りに戦えなかったとはいえ、戦場では言い訳は無意味だからな。
「禁手は絶対ではないんだよ……っていうかこの世に絶対なんてことはないしな―――愚直に鍛えぬくしかないだろ?」
「ほう…………面白い。なるほど……お前がドラゴンに気に入られる理由が分かった気がする」
タンニーンが悟ったように可笑しそうに笑う……俺、そんなに変なことを言ったか?
「兄ちゃん!!タオルどーぞ!」
「おぉ、フィー。ありがとな?」
俺は濡れタオルを持ってきてくれたフィーの頭を撫でると、フィーは嬉しそうに体を震えさせる。
すると俺の近くのティアは手を組んで何かを考えていた。
「……今のファミリーで埋まっている席は父、母、姉、妹、従妹……空席は兄、祖父、祖母、従兄だけか……」
……真剣に何考えてんだよ。
俺は肩を落とすと、俺は横目でタンニーンを見た。
大きな巨体、鋭い瞳、だけどそこからそこはかとなく優しいオーラを感じる。
なんとなくあのドラゴンの背中で眠ってみたいという感覚に襲われる……改めて俺はそう思った。
そう思うとタンニーンなんてそんな失礼な呼び方はダメだよな……ならどう呼ぼうかな?
タンニーンさん?
いや、なんか違う…………となると―――
「タンニーンのじいちゃん?」
「む?どうした、突然俺をじいちゃんなどと……」
すると俺の小言にタンニーンのじいちゃん……うん、これが一番しっくりくる。
じいちゃんが反応した。
「いや、なんかタンニーンのことがお爺ちゃんって思えてさ……ほら、誇り高いし、俺に稽古つけてくれるし…………」
「ははは。そうか、じいちゃんか―――いいだろう、一誠。じいちゃんと呼べばいい。なぜかは分からんが心地いいからな」
……なんてカッコいいドラゴンだ!
俺の中のパパドラゴンとはえらい違いだ!
もうなんだー――このドラゴンならドラゴンファミリーに入ってくれても大歓迎っていうか、むしろ入ってほしいくらいだ!
今まで常識が通じる人がいなかったし!
っていうか今日はカッコいいドラゴンによく出会うな。
夜刀さんもそうだけど、タンニーンのじいちゃんも誇り高き崇高なドラゴンだし。
いや、そういってしまえば昔のドライグだってカッコよかったんだけど……パパ化してから俺の悩みの種の一つだしなぁ……まあそれでも俺を叱るときは叱るし、俺にとっての最高の相棒であるのだけれど。
『……主様、そろそろ今の状態を整理しましょう』
するとフェルが機械ドラゴン化して俺の前に現れ、そう言ってきた。
そう言えばまだ他のみんなに俺の目標やら修行内容を決めてなかったもんな。
まずは俺の現在使える力をまとめてみるか。
まずは
次に
基本的な力はこの二つ……そこからの応用が俺の自分の可能性で強さと仮定しているけど……
「一誠殿。お主が眠っている間にティアマット殿やドライグ殿に色々と教えてもらったでござる。それを踏まえて評価するに、一誠殿の力は大したものでござる。が、多少燃費が悪いものが目立つでござるね?」
「確かに、俺の使う力は自身への負担が大きすぎるから連発は出来ないな。特にフォースギアは使うたびに精神力を削るし、神滅具を創造することは現在は連続は無理だな―――今のスタイルは籠手をメインに予備としてフォースギアってところだな」
俺は率直な意見を皆に言う。
フォースギアの『強化』にしても二つの神器を兼ね合わせた『ツイン・ブースターシステム』も負担ってもんは大きい。
それに何より、俺はすべての闘いを神器を前提とした戦い方としているからな……逆に神器なしなら俺はどれだけ戦えるんだろうな。
悪魔になって身体能力は格段に上昇したし、もともとの格闘訓練も効果は出ている。
体力は昔から鍛え続けてきたから大丈夫だろう……魔力も心もとないが何とかいける。
だけど決定打がないよな……神器だったら一撃必殺的な力があるけどな…………
そういう意味ではフォースギアだって決定打に欠けるところがあるから……やっぱりブーステッド・ギアとフォースギアによる
でもそればっかりだと対策だって立てらえるだろうし…………難しいな。
「手札を多くしないと―――やっぱり、無謀に挑戦するしかないか」
「イッセー、その顔、思いついた?」
するとオーフィスが俺の顔を覗いてそう言ってきた。
おぉ……こいつは俺の心でも読んでいうんでしょうかね?
今考えていたことをそのまま言いやがって……まあ確かにオーフィスの言う通り、俺は二つのことを思いついたけど。
「何を思いついた?兵藤一誠」
タンニーンのじいちゃんがそうたずねてくる……これは言っておいた方がいいかもしれないな。
俺はそう思い、話した。
「俺がしようとしているのは――――――――――――――――ってことなんだ」
俺は自分が掲げる目標を言うと、途端にそれぞれが多様な反応をし始めた。
……やっぱりそうなるか。
「……拙者としての意見は、片方は可能で、もう片方は不可能に近いということでござる」
「しかしそれをするならば、更に経験値を積む必要があるな」
「仕方ない―――かわいい弟のためだ。ひと肌脱ごうとするか」
夜刀さん、タンニーンのじいちゃん、ティアはそういってくれた。
俺の掲げた目標に驚きつつも協力してくれるみたいだな。
「……よし、おいチビども」
するとティアは突然、フィー、メル、ヒカリの首根っこを掴んで俺の方に放ってきた!
俺はそれを抱き留めると、ティアは立ち上がりたき火を消す。
「これから1週間、私やタンニーン、夜刀はそれぞれ不意打ちとしてお前を狙うサバイバルゲーム方式をとる。そのチビどもは一誠のサポート役としてくれ。それとオーフィス、お前の仕事は1週間後だからそれまではイッセーの修行を見ていてくれ」
「……了解」
オーフィスは珍しくも声でうなずき、俺やフィーたちも頷く。
不意打ち形式のサバイバルゲームか……随分と恐ろしいことを考えてくれるな。
だけどそれなら俺が今一番必要としている
火は完全に消え去り、あたりは闇に包まれる……それとともにタンニーンのじいちゃんは空に飛んでゆき、夜刀さんとティアは同時に森の暗闇に消えていく。
「じゃあ俺のサポート頼むぜ。フィー、メル、ヒカリ」
『うん!』
三人同時ににっこり笑って、俺は再び木々に火をつける。
たぶん鍛錬は明日からだろうから今日はゆっくりと体を休めないと…………そこで俺は気付いた。
―――寝床、どうしよう…………非常に重要な問題であった。
―・・・
「にぃに!うしろからティアねえ!!」
「了解!!」
フィー、メル、ヒカリが俺のサポート役となり、サバイバルルールの鍛錬を初めて早くも三日。
俺は現在、メルを背後に置きながら森の中から不意打ちのように攻撃を続けるティアと対峙していた。
この鍛錬は俺の修行もだがチビドラゴンズの修行も兼ねている。
今は俺のサポート役として参加させているけど、少しずつ戦闘というのに慣れ始めてもいた。
たとえば気配察知や軽いブレス攻撃……それと龍法陣とかか。
戦力としてはまだまだだけど、でも大いに役立っている。
……ティアの気配がとり難いランダムなブレス攻撃。
更に接近戦での肉弾戦―――まだまだティアには届かない部分もあるけど、でもだんだんわかってきた。
「もうそろそろ単調な攻撃は飽きたんだよ、ティア!!」
俺はメルのいう背後に向かって魔力弾を放つ!
威力が拡散した連弾式では話にならないから、一点集中の貫通力を増大させた魔弾だ!
「くっ!読まれたか!さすがだな、イッセーにメル!!」
ティアが人の容姿で姿を現す……なるほど、隠れた闇討ちなら人の姿が良いってわけか!
「メル!ティアに向かって全力のブレスだ!」
「うん!」
メルは人間の姿からドラゴンの姿となる……大きさは少しだけ大きくなり、オーラの質もでかくなったか?
まだまだ小さいけど口を大きく開けると、そこから雷撃が溜まっていく!
『Boost!!』『Boost!!』
俺は現在、ツイン・ブースターシステムを使っており、数段階の倍増が完了する。
俺はその左の紅蓮の籠手でメルの体にふれた。
『Left Transfer!!!』
そして突如、俺の左の籠手の倍増のエネルギーがメルの体に譲渡され、メルの雷撃は絶大のものとなる。
……今日は俺は基本的にサポートを重点において戦っているんだ。
だからサポート的な立ち回りをする!
ただメルが強力な雷撃を放つにはもう少し時間が要する!
『Light Explosion!!!』
俺は白銀の籠手の倍増を解放し、溜まった分だけ己を倍増する!
そして雷撃をためるメルをおいてティアに近づいた!
「ッ!まだ二日目で速度が上がっているッ!!」
「お前の闇討ちのおかげで身体能力が上がりに上がってんだよ!!フェル!!」
『主様、了解です!』
俺はフェルの名を叫ぶと、胸のエンブレムブローチが白銀に光る!
『Reinforce!!!』
こいつは神器の強化の力!
俺はそれを先ほどメルに力を譲渡した左腕のブーステッド・ギアに使用し、その瞬間、籠手の形状が変わり
『Over Boost Count!!』
一秒ごとの倍増を知らせる音声とともに、左腕の籠手は一瞬で俺の力を引き上げる!
毎日毎日死ぬ気で鍛錬しているおかげか、身体への影響が減ってきているのを俺は感じた。
「ちっ!―――龍法陣」
ティアは自分の付近に幾重もの龍法陣を展開し、俺を迎え撃つ。
だけど俺の役目はメルが全力の雷撃をティアに直撃させることだ!
……っとその時、龍法陣はティアの体に次々に吸収される。
「身体超過の龍法陣だ―――いくぞ!!一誠!!!」
―――次の瞬間、ティアの速度が急上昇する!
人の姿で相手してんのに、夜刀さんと同様の速度!?
これはもう本気じゃないと逆にやられる!
俺は即座に赤龍神帝の籠手で未だなお続けている倍増のエネルギーを、右腕の白銀の籠手に譲渡する!
一度リセットされた白銀の籠手に再び瞬時に倍増のエネルギーが供給され、倍増を失った左腕の籠手は再び一秒ごとの倍増を始める!
これで準備は整った!
「今日はこれで終わりだ、一誠―――」
「ああ、終わりだ―――今日は一本、とらせてもらうぜ」
ティアが神速で俺の前に現れると同時に、俺は十分に倍増の溜まった両籠手の倍増を解放した!
『Twin Explosion!!!!!』
ツイン・ブースターシステムの真骨頂、同時解放!
これにより今までとは比べ物にならないほど力が底上げされ、更に俺は『兵士』の特徴である『昇格』の力で『騎士』に昇格。
速度をティアと同列にまで上げる!
「うぉぉぉぉぉおお!!」
ティアの攻撃が拳が当たる前に俺はティアを凌駕する速度でそれをかわし、そして
『Twin Impact!!!!!』
両腕にオーラを集中、そして全力の一撃を両手で一撃ずつ、ティアに放った!!
「くっ!!!?」
ティアは避けることが出来ないと判断したのか、防御に徹しようと腕を交差させるものの、しかし威力を殺し切れず後方に飛んでいく!
「今だ!!メル!!」
「な、なにぃぃぃぃぃ!?」
ティアが飛んでいく先には既に雷撃を溜め終わったメルの姿……今のメルの一撃は命中率は極端に低いものの最上級悪魔にだって傷を与える一撃を持ってる!
ただ避けられる可能性が高いのなら、当たる状況を作ればいい!
これがサポート役のすべきことだ!
「ぎ、ぎゃぁぁぁぁ!!!」
メルの全力の雷撃がティアに直撃する!!
ティアは抵抗できずにそれを真っ向から受け、今なお雷撃の渦に巻き込まれて感電中である。
すると雷撃を撃ち放ったメルは力を使い果たしたのか、その場に倒れそうになっているのを見て、俺は神器をすべて解除してメルの方に走って、支えるように抱き留めた。
「ふぅ…………さすがに負担をかけすぎたか」
俺は腕の中で眠る小さなドラゴンの頭を撫でてその場に座る。
まだ大丈夫だけど、流石にツインブースターからの片方の神器の強化は疲れるな。
「ほう、ティアマットに深手を負わせたか」
すると上空から次はタンニーンのじいちゃんが現れる―――連戦かい!
俺はすぐさま籠手を出現させ、じいちゃんに対して臨戦態勢を整える!
「ヒカリ!!!」
俺はヒカリの名前を呼ぶと、すると森の奥から高速で黄色いドラゴンが俺のもとに飛んでくる!
一応、呼べばいつでも来れるようにしておけって言ったけど、予想より速いな!
「くぅ……妹の雷撃も私にある程度のダメージを与え始めるのか……成長はうれしいものだな」
すると雷撃を振り払い、ドラゴンの姿となったティアが森の木々を薙ぎ払い現れる!
この状況で二人相手か!?
全く、人気者はつらいなッ!!
「おうおう、やってるねぇ―――おっす、イッセー」
すると木々の間より現れる男の姿があった―――それは和服を身に纏う我らが顧問、アザゼルであった。
「あ、アザゼル?」
「三日ぶりだな……さすがにドラゴン4匹の相手は骨が折れるか?にしては五体満足だが……」
アザゼルは俺を見ながらそんなことを言ってくるけど……俺は既に上半身は裸だ。
だってこいつら相手にしてると制服が消えるくらい激しいものになるからさ!
っていうかなんでアザゼルがこんなところに?
「まあいい。おいタンニーン、ティアマット!ちとこいつを休憩させてくれ!!多少話があるもんでな!」
「どちらにしろそろそろ休憩をさせようと思っていたところだ―――一誠は自分に対する追い込みが常識を逸脱しているものでな。俺としてもある程度で様子を見分けなければならん」
「同感だ」
するとティアは人の姿となり、メルとヒカリを持ってどこかに飛んで行ってしまう。
「まあなんだ―――飯でもくらって話そうぜ?」
するとアザゼルは大きな重箱を出して、そして俺に手渡ししてきた。
―・・・
「ふぅ…………三日ぶりに普通の飯を食えた気がするよ」
俺は部長やアーシア、朱乃さんが作ったということらしい弁当を平らげて満足したようにそう言った。
いや、うまかった!
最近は魚やら獣の肉ばっか食ってたからな!
しかもこの2日間はチビドラゴンズやオーフィスの分も作らないといけなかったし……うん、なんでこんなサバイバルに適応してんだろうな。
「はは、良い食いっぷりだな!そんだけ綺麗に食ってやれば、あいつらも笑顔だろうよ」
……現在、この場にいるのは俺、タンニーン、オーフィス、アザゼルの4人だけだ。
今日はまだ夜刀さんを見てないんだけど、どうやら彼は今日は他の依頼で違うところに行っているらしい。
明日からまたこっちに合流するらしいけど。
「んで修行の状況はどうだ?見た感じ、三日前よりも更にオーラが上がっているように見えるが……」
「そりゃあ四六時中ドラゴンに追っかけまわされたらそうなるわ!ったく……限度ってもんがあるだろうが」
「そう言う割にはきっちりこなしてんじゃねえか。言っておくがこの修行はグレモリー眷属ではできるもの……いや、ある程度の悪魔では絶対に出来ねえことだ。それをこなすお前はやっぱり常識をいろんな意味で超えてんだよ」
アザゼルが腕を組んでそう納得するように言う……こんな修行、どこの誰がするんだよ。
命がいくつあっても足らねえ!
「で、アザゼル。まさか弁当のデリバリーがお前の目的じゃないだろ?」
「察してくれて助かるぜ。どうしてもお前と面と向かって話すことがいくつかあってな」
するとアザゼルは真剣な趣となる……真面目な話か。
俺は座りなおしてアザゼルと向き合うと、アザゼルは口を開けて話始めた。
「イッセー、お前は朱乃のことをどう思う?」
「朱乃さんか…………それを聞くのは、アザゼルが堕天使だからか?」
……アザゼルは頷いた。
「まあなんだ。朱乃は俺の部下と言うか、ダチの娘でその嫁の娘だ。お前も少なからず朱乃とは昔、かかわりがあったんだろ?」
「まあ……一応は、な」
俺は昔、朱乃さんと会ったことを思い出す…………ぐちゃぐちゃになった和風の室内、泣き叫ぶ朱乃さん、娘を守る母親。
それを思い出すと拳を自然と強く握ってしまう。
「……話はまあ大体、朱璃から聞いてる。なんでもまあ餓鬼なのに朱乃を救って、死にかけだった自分の命まで救ってくれたとは言っていたが―――お前なら納得だ。餓鬼でも命張るだろうからな、お前は」
「…………」
俺は考える。
朱乃さん…………俺にとっては守るべき仲間、そして俺の前では年相応の女の子。
多少イタズラが過ぎるところもあるけど、そこも美点である可愛い女の子で、そして…………俺にはっきりとした好意を抱いている。
「朱乃さんは……守りたい仲間だよ。これはいつまでも変わらない。たとえ命を張っても守るだろうな」
「……そうか。ならお前が守ってやってくれ―――あいつが最も信頼を寄せているのはお前だ。おそらく、これはここから先も絶対に変わらない。お前に負担をかけんのは分かっているが」
「負担とかそんなのはない。守ることが負担なんかにならないし、それに―――それが重荷になるんだったら、俺は喜んで背負い込んでやる。俺、馬鹿だからな!」
俺が笑ってそういうと、アザゼルは俺の肩を掴んでくる。
「…………頼む。あいつは、俺の大切な友の最愛の娘なんだ―――お前は力を呼んでしまう赤龍帝……お前じゃないと朱乃は守れないんだッ!!」
「アザゼル……」
……アザゼルの真剣なところを俺は初めて見た。
この男が、そこまでの思いを朱乃さんにぶつけるのはいったい何故なんだ?
「……一つだけ、聞いていいか?」
「ああ」
「……朱乃さんのお父さん―――バラキエルはどうして、朱乃さんが悪魔になったことを許したんだ?」
俺は一番の疑問をアザゼルに聞いた。
アザゼルが言うことが本当なら、バラキエルは本当に朱乃さんを愛しているはずなんだ。
なのに朱乃さんは悪魔となった。
ここに明らかな矛盾がある。
「……複雑だったんだろう。朱乃は当時、まだ小さい子供だった。そして自分が死にかけだったところにお前が来て、助けてくれて、そんで死にそうだった朱璃を救ってくれた―――さぞかしヒーローに見えたんだろうな」
「…………もしかして、俺が原因なのか?」
俺はアザゼルの話を聞いてふとそう思ってしまった。
「いいか?子供頃の思い出ってものはそれからの人生に関わる。そんな中、家族を救ってくれたヒーローってもんが朱乃の頭の中にこべりついているんだ。お前に救われてからの朱乃は毎日のようにお前を探し回っていたそうだ。お前の姿を見たい、また会いたい……そんな気持ちにとらわれて、お前を毎日探し、探し、それが何か月……1年以上続いた」
……?
その時点ではまだ朱乃さんはまだ悪魔になっていない?
「なんていうか、その時はまだバラキエルは朱乃に嫌われてなかったんだが…………父親の複雑なところだな。朱乃は自分よりも男、父親のバラキエルは信頼せず、ただ一人の男を追い求めた……まだ一ケタの年の可愛い娘がだ。そりゃあほっといたら夜ですら探しに町に繰り出すとか、親として怒るだろう?―――そこで大喧嘩だ」
「あ…………………………それ、思いっきり俺のせいじゃん」
俺はそこで頭を抱える―――完全に、俺のせいじゃん!
朱乃さんがお父さんを嫌う理由は俺自身だ!っていうかマジか!そこまで想われてたのか、俺!!
「お前のせいじゃねえよ。こいつはな、それぞれの想いのすれ違いなんだよ。バラキエルは娘を想うあまり、正直俺もどうかと思うけど朱乃に言っちまったんだ―――『それだけ探しても見つからないならそれまでだったんだ。お母さんや俺にこれ以上心配かけないでくれ』ってな」
「……それは子供に対しては流石にきついんじゃないか?」
「その通り。それが原因で朱乃とバラキエルは大喧嘩。朱乃はずっと我慢していたことをバラキエルに言いまくって、バラキエルはその真実やら言葉を受け止めることしか出来なかったんだが…………最終的に朱乃が悪魔になる要因となった理由はお前を貶されたからなんだよ」
「…………なんて言っちまったんだ?」
「『助けるだけ助けておいてその後、お前を放置する男なんて忘れろ。どうせその程度の男だ』…………本当は言いたくなかったセリフだが、娘を止めるため仕方なく言ったんだ―――それが原因で朱乃は家を飛び出し、しばらく経ってリアスに保護されたってわけだ」
アザゼルがそう言い終わり、俺はいろいろと考える。
……これは誰かが悪いわけじゃない。
本当にただのすれ違いから起こったことなんだな。
でも原因は俺で、朱乃さんが悪魔になったのも俺が原因。
でも俺があの時、朱乃さんを助けていなければもっと悪い状況になっていただろうし―――考えても仕方ないか。
「イッセー、今俺が言ったことは俺の主観も入ってる。両者の本当の気持ちなんか、本人しかわからないが―――まあバラキエルは現在、妻には愛想をつかされて冷たい態度を受けてるから、罰はある程度は受けてると思うぜ?そんなところだ―――お願いだ。お前だったら、あいつの問題だってどうにかしてやれると思ってる。俺じゃどうにも出来ねえんだ」
アザゼルが俺に頭を下げようとするが、俺はそれを止める。
「だから言ってんだろ?お前に言われなくても目の前に問題が現れたら何とかする。その程度の重荷は俺が背負うって。ったく、俺の周りは俺を肝心なところで頼らないやつが多すぎだろ」
俺は毒を吐くようにそう言うと、小猫ちゃんを思い出す。
「でもありがとう。朱乃さんのことで、胸の閊えがとれた気がするよ。たまには先生らしいこともするんだな、アザゼル」
「……はっ!当然だろ?俺はなんたって、堕天使の総督で超優秀だからな」
……アザゼルは普段通り、不敵な笑みを見せてそう言った。
「んじゃそろそろ俺は修行に戻るかなぁ……」
「っと待て。一番大切なことをお前に言ってない。さっきのは俺の私情だが、これはお前に関することだ」
するとアザゼルは足元に魔法陣を出現させた。
「実はな、ついさっき小猫が倒れた」
「なっ!!?」
俺はその言葉を聞いて驚いた。
「話は最後まで聞いてくれ。理由はオーバーワーク……単に修行をし過ぎて体が限界を達して現在は療養している」
「……やっぱりそうなったか」
俺はそうつぶやいた。
言ったそばから早速無理して倒れるか……全くもってしょうがないな。
「お前はこうなることを予見していたのか?」
「まあ、な。無理することは目に見えてたけど……大方、それでも無理に修行を続けようとしてるんじゃないのか?」
俺は予想を伝えると、アザゼルは頷く。
「今はリアスと朱乃が説得して静かにしているが、あれじゃあまた同じことは目に見えている」
「つまりは俺を呼び戻す―――ったく、人使い荒いな、アザゼル」
俺は嘆息すると、近くにかけてあった制服のシャツを羽織り、魔法陣の中に入る。
「タンニーンのじいちゃん。呼ばれたから一度戻る。いいか?」
「お前も少し休め。一誠だってオーバーワークだ。ここらで少し休んで、そこからまた地獄を見せてやる」
「はは―――了解。楽しみにしてるぜ、じいちゃん」
そして俺は魔法陣でジャンプする。
さて…………人のことは言えないけど、無茶するかわいい後輩を叱らないとな。
そう思いながら俺はグレモリー家の屋敷に転送された。
―・・・
屋敷に転送され、俺はアザゼルと別れて廊下を歩いていた。
「あら……兵藤一誠君」
「ヴェネラナ様。数日ぶりです」
廊下を歩いているとヴェネラナ様と遭遇し、俺は反射的に頭を下げる。
「いえ、あなたを呼んだのは私ですわ―――小猫さんはメディカルルームにいます」
「……今の小猫ちゃんの状態はどんな感じですか?」
「…………無茶をし過ぎる向こう見ず。それが私の感想ですわ―――話では、あなたが普段自分に課する修行メニューの数倍のものをしていたそうです」
ま、まさか俺のメニューの数倍!?
今の俺の修行に比べたらかわいいものだけど、だけど小猫ちゃんがそれを数倍もするのはいくらなんでも無茶すぎる!
俺の普段はティアと一対一で戦っているんだぞ!
たぶん魔獣相手に修行をしてたんだろうけど…………それでも一歩間違えれば死ぬことだってある。
「……今はリアスや朱乃に様子を見せていますが、正直目を離したらすぐに出て行ってしまうでしょう―――どうかお願いします」
「……頭なんて下げないでください。そんなことしなくても、はじめからどうにかしますから」
俺はヴェネラナ様から離れてメディカルルームに向かおうとする。
場所は近くにいたメイドさんに教えてもらい、連れて行ってもらう。
屋敷の中はでかすぎて、たぶん俺は道に迷うからな。
そして連れられてメディカルルームまで連れられ、ノックをして中に入った。
「い、イッセー!?」
俺が突然室内に入ってきたことに部長が驚きつつも俺に近づいてくる。
室内は学校の保健室みたいな作りになっており、白いカーテンに仕切られて誰かがいた。
たぶん小猫ちゃんだろうな。
そばに朱乃さんが椅子に座ってるし、たぶん間違いないだろう。
「小猫ちゃん、俺だよ」
「ッ!?」
すると小猫ちゃんの姿は見えないが、驚いているような声を上げた。
……どうしたんだろう。
俺は小猫ちゃんがいるベッドに近づき、カーテンを開けた。
「全く、俺の修行の数倍のメニューをするのは向こう見ず過ぎ――――――」
―――――――――――――――開けた瞬間、俺は言葉を失った。
頭の中が真っ白になった。
何も考えられない、感情が真っ白になる。
俺の中にポッカリと空いていた空白が埋まるような感覚。
俺は何も考えられない状況で、ただ自動的に言葉を出した。
「部長、朱乃さん―――席をはずしてもらえますか?」
「い、イッセー?どうしたの、突然」
「……………………部長、ここはイッセー君の言うことを聞きましょう―――こんなイッセー君は見たことがありませんもの」
……朱乃さんがそう言いながら、部長を連れて室内から出ていく。
だけど俺はその姿すらも見えなかった。
なぜなら、俺は目の前の姿に目を奪われてるから。
確かに目の前にいるのは小猫ちゃんだろう……それは間違いない。
そして俺の頭の中で、ようやく一つの事柄がつながった。
俺の胸の中に空いていた空白。
それを埋める事柄が。
「―――白音、なんだよな?小猫ちゃん」
俺は目の前の、真っ白な猫の耳と尻尾をはやした少女にそう問いかけた。