ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第4話 本心とレーティングゲームです!

 目の前の男、ガルブルト・マモンは不敵な笑みを浮かべながら俺たち若手悪魔の顔を見ていた。

 こいつが……三大名家の当主の一人、ガルブルト・マモン。

 アザゼルの言っていた三大名家で最も権力を持つ、現役の最上級悪魔の一人。

 

「おい、そこの茶髪二人。この俺に名乗ることを許してやる。名乗れ」

「……リアス・グレモリ―さまの『兵士』、兵藤一誠」

「そ、ソーナ・シトリーさまの『兵士』、匙元士郎っす!」

 

 俺は存外に扱われるも体裁から名を名乗り、匙は若干緊張の趣で名乗り……あの老害どもを一言で黙らせるほどの人物っていうのが匙の中に植えつけられたから当然といえば当然か。

 だけど俺からすればあいつは良い感情を持てる相手ではない。

 アザゼルの部下を何人も殺した男、そして何より小猫ちゃんが嫌う……っと俺はその時、初めて小猫ちゃんの方を見た。

 …………あれは少しまずいかもしれないな。

 小猫ちゃんがガルブルト・マモンに向ける視線は完全に恨みを持つ者の視線だ。

 しかも相当の……おそらく聖剣計画の時の祐斗とも変わらないほどだ。

 

「……マモン殿、どういった風の吹き回しかな?このような場にあなたは今まで現れたことはなかったはず」

「はは!サーゼクス、それは言ってくれるなよ。そもそも一応は招待状はもらってんだからよぉ。つ~か、この場を収めろよ、魔王殿」

 

 ガルブルト・マモンは煽るような挑戦的な口調でそう言うと、サーゼクス様は額に手を当てる。

 

「もう!おじ様たちはよってかかってソーナちゃんを苛めるんだもん!!お姉ちゃんは怒るよ!!」

 

 するとセラフォルー様がぷんぷんと自分で効果音を言っているけど、目は割と本気で怒っていた……ああ、セラフォルー様も分かりにくいけど怒ってたんだな。

 するとあの悪魔たちはバツが悪そうな表情になって押し黙る…………俺もまだまだ未熟だよな。

 いくらなんでもあの場で前に出たのは失策だった…………ああ、後で部長のお説教だろうな。

 

「それにそれだけソーナちゃんを苛めるんなら、それならソーナちゃんが勝てばいいんだよね?ゲームで好成績を残せば叶えられることも多いもん!!」

「……セラフォルー、それはいい考えだ」

 

 するとサーゼクス様は感心したように、そして思いついたような表情をしていた。

 

「良い機会だ。いずれ君たち若手悪魔には一度ゲームを体験してもらいたかったのだよ。ふむ―――リアス、ソーナ。一つ、ゲームをしてみないか?」

 

 ―――そういうことか。

 俺はサーゼクス様の言葉を得心した…………つまりはこの悪魔たちを黙らせるため、ソーナ会長が実現させようとしている夢の可能性を示させるチャンスを与えているのか。

 

「―――ははッ!!おもしれえ対戦カードだな、サーゼクスよぉ。この場に置いて上に歯向かった馬鹿ども二人を含む眷属か?だが悪くねえ」

「「……………………」」

 

 俺と匙はガルブルト・マモンの視線を無言でとらえ、俺は奴をじっと睨むけど、奴はノラリクラリとした表情で挑戦的に俺を見てくる。

 ……いまいちこの悪魔の目的が掴めない。

 

「俺は馬鹿な奴が大好きだぜ?なんたって思いも知らねえ方向に進んでくれるからよぉ―――てめえらのことは俺の脳細胞で覚えておいてやるよ。天龍と龍王を身に宿す餓鬼」

 

 ―――こいつ、まさかドライグとヴリトラの存在に気付いているのか!?

 

『……相棒、この男には気を付けたほうが良い。この者、おそらく相棒が先程、殺気を送った老害の悪魔共とはわけが違う―――力は間違いなく最上級悪魔のもので頭がかなりまわる男だ』

『ドライグと同意見です。あの三下の言動のようで超一流の雰囲気……警戒を怠ることはしないでください』

 

 ……ドライグとフェルを以てしてその意見。

 気を引き締めねえとな。

 

「ちょうどよかったんだよ。アザゼルとの会合の時、アザゼルが各勢力のレーティング・ゲームファンを集めてデビュー前の悪魔の試合を観戦させて親交を深めようという意見もあったものでね―――いいかな?リアス、ソーナ」

「はい。このような場をくださったサーゼクス様にこのソーナ・シトリー、全力をもってお答えします」

「私もです―――ソーナ、やるからには本気よ。手加減なんて許さないわ」

 

 すると部長と会長の間で火花が飛ぶように視線が飛び交う。

 俺たち、グレモリ―眷属とシトリー眷属のレーティング・ゲーム……どうなるかは予測不能だけど……でも。

 

「……………………」

 

 今は小猫ちゃんの方を気にした方が良いな。

 

「では対戦の日取りは人間界の時間で八月二十日。それまでは各自好きなように過ごしてくれ―――詳しいことは後日送信しよう」

 

 ……サーゼクス様の言葉を皮切りに会合は終わる。

 そして気付いた時には既に俺の近くにいたガルブルト・マモンの姿はどこにもなかった。

 

 ―・・・

「なるほどな……そんな経緯でソーナたちシトリー眷属とやりあうってわけか」

 

 会合が終了して俺たちグレモリ―眷属はグレモリ―家の本邸に帰り、そして俺たちを迎え入れてくれたアザゼルに部長は事の顛末を話していた。

 ちなみに俺は列車の中でこれまでで一番きついお叱りを受け、今は猛反省中だ。

 

「にしてもまさか奴が…………マモンの奴が会合に現れるとは。俺も予想外だったぜ」

 

 アザゼルは苦虫を噛んだような表情になって腕を組んだ。

 ……アザゼルの場合はガルブルト・マモンは部下を何人も殺した奴だから複雑なんだろうな。

 でも和平の成立のため、アザゼルは自分の想いを振り切って実現のために奔走したんだし、頭では理解しているとは思うけど、こればっかりは仕方ない。

 

「にしてもイッセーにしては我慢できた方じゃねえか?今回は視線とオーラだけで済んだんだからな…………俺の知ってる限り、罵倒ぐらいしても不思議じゃなかったんだが……」

「俺の言いたかったことは匙が全部言ってくれたし……それにあそこは匙の男気を汚したくなかったんだよ。当然反省はしてる―――流石に軽率な行動だった」

「はっ!違いねえが、まあそれがお前の性質だから仕方ねえ。で、だ」

 

 アザゼルはリビングルームの机をトンと叩いて、仕切り直しのように切り出す。

 

「レーティング・ゲームの実施日は8月20日。今は7月28日……大体20日間あるな。リアス、お前は何をすべきか分かるか?」

「……修業、でしょ?」

 

 部長がアザゼルの質問に当然のように答えた。

 やっぱりそれしかないよな……どっちにしろ、俺は冥界にいる間は鍛錬を増やそうと思ってたし丁度いい。

 それに目先の目標もあることだしな。

 

「当然だな。それにお前たちのトレーニングメニューは既に俺の頭で出来上がっている……一部を除いてだが」

 

 ……アザゼルが俺の顔を見て苦笑いをしてくる。

 それを見て皆はなんか納得したような顔をしてるんだけど。

 ―――俺は視線に耐えきれなくなり、アザゼルに質問した。

 

「でも俺たちだけが堕天使の総督にそんなことをしてもらってもいいのか?いくらなんでも他の若手と比べて不公平な気が……」

「な~に言ってんだ。俺は悪魔サイドに随分と神器関連の研究成果を献上してんだぜ?こんなことで不公平とか言う悪魔なんか格下もいいとこだ。いいか。強くなるためには目の前のものを利用しろ。そして最大限の努力が必要なんだよ」

「あらあら…堕天使に努力など言われても説得力ありませんわ」

 

 およよ、朱乃さんの珍しい毒舌。

 これは普段は小猫ちゃんの役目なんだけど…………まあこの状態の小猫ちゃんに言っても無理があるか。

 今の小猫ちゃんは完全に先程のことから殺気立っている。

 いや、何かに焦ってるって感じだ。

 普段のファンシーさも、愛くるしさ……はあるが、とにかく余裕がない。

 

「……というよりイッセーがいればあなたの提示する内容くらいのものを出してきそうなんだけど」

「ははは!それを言われるときつい部分があるが―――堕天使の総督様をなめんなよ?確かにイッセーは優秀だが、俺もなかなかの優秀さだ。そんぐらい自負しているんだ。ま、あんまりイッセーばっかに頼るってのも考えものだな」

 

 アザゼルがそう言うと部長は押し黙って封殺される。

 

「それに俺以外にも各勢力のトップが若手に助言ぐらいはしてるぜ?例えば熾天使の一人、ガブリエルなんかはシトリー眷属のアドバイザーだ」

『―——―——―——ッ!?』

 

 え、なにその新事実!

 あまりにも突然の宣言に俺はびっくりした!っていうか皆びっくりしてる!

 熾天使の一人、ガブリエルさんって言ったら天界の女性最強で有名な人だ。

 しかも天界一の美人ということで悪魔にもファンがいると聞いたことはあるけど……それほどの人が匙たちのアドバイザーをしてんのか。

 

「っと言ってもガブリエルのスタイルからして確実に実力が伸びるのが保証できるのはテクニックタイプなんだけどな……ちなみにこいつはあいつ本人から聞いたことだから間違いない」

「なるほどな……天界からガブリエルさんが冥界に来てた理由はそれか」

「おう。あ、それと紫藤イリナだっけ?あいつもガブリエルのお供で来てるらしいぜ」

「……は?」

 

 ……なんかもう、ガブリエルさんのことであんまり皆も驚かなかったけど、そうなのか。

 イリナか……コカビエルの一件以来、色々と教会側であったそうで落ち着いて連絡できてないから心配してたけど、安心したな。

 あいつはあいつでしっかりできているようで。

 

「とにかく修業は明日から始める。各修業内容もだな。今日はまあ……嵐の前の静けさでも味わっとけ」

 

 アザゼルがけらけら笑うと、するとグレイフィアさん&ドラゴンファミリーの面々が歩いてきた。

 そして俺たちにグレイフィアさんが上品にお辞儀をした。

 

「皆様、温泉の準備が整いました。どうぞお入りください」

 

 俺はその言葉を聞いて固まった。

 そしてグレイフィアさんの手を握って、心を籠めて……

 

「お、温泉――――――グレイフィアさん、俺はあなたを心の底より尊敬し、感謝しています」

 

 感謝の気持ちを表した。

 そう俺は―――――――――温泉が大好きなのだ。

 

 ―・・・

 ギャスパーが「あれ?僕はどちらのお風呂に入ればいいんですか?イッセー先輩のところ?でもイッセー先輩以外に見られるのは……うぅぅぅぅ!!!」などというわけがわからない自問自答を無視して、俺は早速だが露天風呂に入っていた。

 湯船につかり、足を延ばしてタオルを頭の上に乗っける。

 はぁ…………なんていう極楽。

 これぞ日本が伝統文化だ。

 ちなみに男風呂ということで現在、フェルは機械ドラゴン化して部長たちのところに送っている。

 フェルはドライグとは異なって一時的になら俺から離れることが出来るからな……だから眷属の皆ともある程度はお話は出来るそうだ。

 ちなみに俺以外に祐斗、アザゼルが俺の隣で湯船につかっていた。

 

「ふぅ~、極楽だなぁ―――流石は冥界の名門中の名門であるグレモリ―家の私有温泉なら、名泉の中の名泉だろう」

「お?アザゼルも温泉の良さが分かる口か?」

「おうよ。これでも人間界でも温泉には入りまくってる……どうだ?湯煙の旅でもしてみるか?」

「あはは……イッセー君とアザゼル先生は仲がいいよね」

 

 祐斗が苦笑いをしながら温泉について語る俺たちを見てくる。

 

「おうよ。何せこいつは俺と神器について語り尽くせる数少ない同志だ―――俺とこいつの情報を合わせれば、確実に全勢力で神器関連ではトップだ」

「ははは……それは笑えないよね」

 

 確かに一個人である俺とアザゼルで一番なら問題もいいとこだけど、残念だが真実だ。

 神器を創る神器、神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)を持つ俺は神器の奥深い所、深層から細部までを解析する力を持っている。

 そしてそんなものなしで神器を解析し、自分で人口神器なんてものを創ってしまうほどの知識と頭脳、力を持つアザゼル。

 言わずとも答えは出てくるよ。

 

「そういえばずっと気になってたんだけど、イッセー君の神器創造は僕の魔剣創造(ソード・バース)を創ることは出来るのかい?」

「一応は出来るぞ?だけど…………お前が持ってこそのソード・バースだ。お前の持つ神器は他の魔剣創造(ソード・バース)所有者の数倍ものスペックを誇ってる。聖魔剣がいい例だ。あれは悪魔であり、なおかつ聖剣の因子を持つお前―――お前たちだからこそ起こせた奇跡だ。まあ結論から言えば創造は出来るが創ろうとは思わないな」

「それは採算が取れないからか?」

「そ。魔剣創造(ソード・バース)は高位の神器だからな……負担は大きい方だし、それに祐斗の聖魔剣ほどの出力が出ないなら創る価値がない」

「君にそういわれると嬉しいね」

 

 …………祐斗は笑っているが、なぜか先程から祐斗は俺に少しずつ近づいてきている。

 おい、やめろ!ちょっと顔を赤くすんな!

 

「裸の付き合いで神器の話とはいけねえな―――男の裸の付き合いでは元来から内容は決まっている。すなわち下ネタだ」

「「……………………」」

 

 俺と祐斗はアザゼルの宣言に少し口元を歪ませる。

 まあ昔は幾百ものハーレムを築き上げてきた奴だし?女好きなのは分かるけどな……俺らを巻き込むな。

 

「まあそんな黙りこくるなって。お前らは多少紳士すぎだ―――つーかイッセーの理性の強さは異常だよ。よくもまああれだけの女どもにすり寄られて一つもヤラねえもんだ」

「いや、お前だったら逆に寝るのか?」

「そりゃあ望まねえんならやらねえが…………俺も昔は若かった。女の乳を揉んで堕天したのが遠い過去のようだぜ」

「「……はぁぁぁあああ!!!?」」

 

 うお、祐斗と叫ぶ声がハモってしまった―――ってそうじゃない!

 なんの暴露だよ、それ!!

 そりゃあアザゼルは普通に良い奴だし、なんで堕天したのか不思議だったけどさ!!

 女の人の胸を揉んで堕ちたとか、予想をはるかに上回り過ぎだろ、おい!!

 

「おいおい、言っておくが天使といえど聖人君子ばかりじゃないぜ?そりゃあ女の裸を見るだけで堕天しそうになる童貞ばかりだ!ははは!!それだから実は女の扱いが苦手なんだ!!天使なんて童貞使だ!ははは!!!」

「……イッセーくん。アザゼル先生、お酒入ってるよね?」

「ああ、今気付いたけど……湯船にグラスとウィスキーとつまみがある」

 

 …………早く退散した方がいいか?

 いや、下手に動けば怒らすこともないわけじゃないし、まだまだ温泉につかっていたい。

 

「何が結婚だよ、こんちくしょうがぁぁぁ!!気付けば同期で俺だけ取り残されてる?ははは!笑えねえよ、くそったれ!!」

「まあまあ落ち着いてください、アザゼル先生」

「るっせぇ!!お前にはわからねえ!何が未婚総督アザゼルだ!!シェムハザの野郎もバラキエルの野郎も結婚してるからって余裕見せやがって!!ひっくッ……うぃぃぃ、調子出てきたぜぇぇぇ」

 

 こいつ、どんだけ飲む気だよ!!

 それで何本目になると思ってんだよ!ってかどこからそんなに酒が出てくるんだよ!

 

「コカビエルゥゥゥの野郎もぉぉぉ、女に興味ないとか言いつつ愛人をぉぉぉ……うっぷ」

「おいおいおい、流石に飲み過ぎだろ!アザゼル」

「るっせぇ!!そんなことを言うてめえは、こうだぁぁぁぁぁああああ!!!!!」

 

 アザゼルは12枚の漆黒の翼を展開して、俺の体をとらえて宙に浮かせる!

 っておい!!

 

「なんのつもりだ、アザゼル!!おろせ!!!」

「ひっく!旅は道ずれ~~~~、世を~~~はなさぁぁぁけぇぇぇぇ~~~~」

 

 アザゼルは完全に悪酔いしたのか、翼をぶんぶんの振り回す!

 当然俺も回転して少しずつ目が回ってくる!

 くそ!ドライグ、仕方ないから神器を使うぞ!!

 

『……ぐがぁぁぁぁ……ずごぉぉぉぉ……』

 

 おい!温泉が気持ちいいからって寝るとかふざけんなよ!!

 

「あらよっと、そらよっと、とんでゆけぇぇぇぇぇ~~~~!!!」

「歌いながら遊ぶなぁぁぁぁ!!飛ばすなぁぁぁ!!!」

 

 俺の叫びもむなしく、俺は酔っぱらったアザゼルによってそのまま投げ飛ばされたのだった―――女子風呂に。

 ………………ああ、こんなことならさっさと温泉から上がればよかった。

 俺は切にそう後悔するのだった。

 

『ん?あれはもしや―――主様!?』

 

 飛ばされる俺、アザゼルの飛ばした距離は半端なくて結構離れていた女子の露天風呂の方まで飛ばされているさなか、どういうことか寸前になってフェルが俺に気付く。

 っていうか裸で飛んでくるってどこぞの変質者だ!

 そして俺は……………………女子の露天風呂の湯船に墜落したのだった。

 

「ごほっ!!アザゼル…………いつか絶対殺す…………確実に屠る…………」

 

 俺は湯船から顔を半分出してそう言った……と共に嫌な予感がした。

 

「い、イッセー先輩……ぼ、僕と一緒に温泉に入るために飛んできてくれたんですか!?」

 

 ―――俺が落下したところに丁度いたギャスパーが、俺の手を握って目をウルウルさせてんなことを言ってきた。

 

「んなわけねえだろ!?未婚総督アザゼルに投げ飛ばされたんだよ!!」

 

 俺はつい怒って立ち上がってギャスパーにそう言…………ん?立ち上がって?

 俺はふと自分の腰回りを見る。

 ―――腰 元 に は 何 も 装 備 は な か っ た !

 

「うぅ……イッセーさんの…………あんな大きなものはいらないですぅ……」

 

 む!この癒される声はまさか!!

 湯船に顔をほとんどつけ、顔を真っ赤にして俺の方を見ているアーシアちゃんの姿があった。

 

「う、うそぉぉぉぉぉぉおお!!?」

 

 俺は急いで湯船に体をつけさせる……が、残念ながら湯船は半透明!

 隠せないじゃん!ってかタオルはどこ行った!?

 

『主様!タオルは屋敷の屋根にのっています!!』

「あのときか!?アザゼルに飛ばされたときにのったのか!?おのれ、アザゼル!!」

「あらあら…そんなに一緒に入りたいのなら言えば喜んで混浴しますのに」

 

 ぴとっ……そんな風に俺の後ろから誰かが抱き着き、その瞬間俺の背中に何かとてつもなく柔らかい感触が広がる!

 って朱乃さん!?

 

「ちょ!それは本気でやばいですって!?」

「あらあら、反応してちゃいます?ふふ―――欲情してもいいんですのよ?」

「いや、俺も男ですからまずいですって!っていうか女の子がそんなことを言っちゃいけません!!」

 

 俺はすぐさま離れようとするけど、俺の体にホールドされた朱乃さんの手は振りほどけない!

 さっきから耳元に息を吹きかけながら話すのはやめてください!

 

「朱乃!!」

 

 おぉ!!すると俺の前に何もつけてないが、この際それはどうでもいい!!

 部長が俺と朱乃さんのもとに来て、朱乃さんを引きはがそうとしてくれた!!

 救世主だ!

 そして朱乃さんは部長によって引きはがされ、俺は自由に―――

 

「イッセー……朱乃ばかりずるいわ」

 

 …………なりませんでした、はい。

 引きはがし、部長は俺に抱き着きました―――真正面から。

 

「むぅぅぅぅぅぅう!!イッセーさん!!私もくっつきたいです!!」

「イッセー……私も女なんだ―――わかるな?」

「はぅ…なら僕は足に……」

 

 するとアーシアとゼノヴィアがちょっと怒った顔で俺の腕にそれぞれくっついてくる!

 ど、どうすればいい?

 右にアーシア、左にゼノヴィア、前に部長と後ろに再び抱き着いてきた朱乃さん!ついでに足にくっつくギャスパー!!

 完全に俺は包囲されているじゃないか!!

 ってかなぜこんな時にティアやオーフィスがいない!

 あいつらなら助けてくれたはずなのにぃぃぃ!!!

 っていうかフェルはなぜ助けてくれない!ってなんですぐに俺の中に戻ってるの!?

 

『いえ、こんな状況で寝ているドライグを叩き潰すのが今のわたくしの役目なので―――起きなさい、糞親父ドラゴン』

 

 口が悪い!ってか本当に誰か助けてください…………なぜか俺の力でも振りほどけないから!!

 そう懇願したその時だった。

 

「―――先輩、目を瞑ってください」

 

 突然、澄んだ声音が俺の耳を通り、俺はその声の通りに目を閉じると突如、今まで感じていた感触が消えているのに気が付いた。

 そして誰かに手を引かれ、そして走り出して少し経って俺は目を開けるとそこには小猫ちゃんがいた。

 

「……先輩が困っていたので、助けました。でも鼻の下を伸ばしてました」

 

 小猫ちゃんは俺から目を逸らして少し怒る。

 ……小猫ちゃんはタオルを巻いているけど、水滴のせいで少し濡れて透けている。

 

「こ、小猫ちゃん……前、隠して……」

「……先輩になら、見られてもいいので」

 

 すると小猫ちゃんはすっと俺の手を握ってきた。

 俺は視線を外していたけど、小猫ちゃんにもう一度視線を戻す。

 

「そ、それにしてもよくあの5人から俺を連れ出せたな~、ってここはどこなんだ?あと、タオル巻いてくれてありがとう?」

 

 俺は今更ながらいつの間にか巻かれていたタオルのことをお礼し、雰囲気を変えるためにそう言うと……

 

「……を操れば、その程度くらいは簡単です」

 

 小猫ちゃんがボソッと何かを言う……魔力でも操ったのか?

 いや、でも小猫ちゃんがそんな高等技術……それこそ朱乃さんや部長でも出来なさそうなことをできるとは……

 俺は辺りを見渡すと、そこは恐らく脱衣所だった。

 小猫ちゃんは露天風呂から俺を連れ出したから未だ髪の毛からぽたぽたと水滴が落ちている……って早くここから行かないと……って俺の服ないじゃん!!

 どうする?もう一度露天風呂に戻ってそこから男子風呂に戻るか?

 いや、でも……

 

「……イッセー先輩は、私のことを聞かないんですか?」

「―――ッ」

 

 俺は不意に尋ねられた小猫ちゃんの問いに、言葉を詰まらせる。

 

「聞いても、答えてくれるの?」

「……イッセー先輩が言うなら、答えます」

「………………だったら一つだけ教えてくれ―――小猫ちゃんは、あの男……ガルブルト・マモンをどうしたいんだ?」

 

 俺は真剣に小猫ちゃんにそう言った。

 小猫ちゃんの内情は聞かない……だって自分から言ってほしいから。

 だから俺はこのことを聞いた。

 すると小猫ちゃんは答えた。

 

「…………大嫌いです、あんな悪魔ッ!他人を見下して…………そんな男を……いえ、やっぱり何でもないです」

 

 すると小猫ちゃんは俺の手を放そうとしてくる―――だけど俺は強く小猫ちゃんの手を握った。

 

「―――逃げるのか?俺から」

「…………ッ!」

 

 小猫ちゃんは俺の顔を見て、一瞬泣きそうな顔をするが、すぐに顔をしかめる。

 

「………………小猫ちゃんが言いたくなかったそれで良い。だけどさ、一つだけ言っておくよ」

 

 ……あぁ、俺はやっぱりバカだな。

 冷たく接することなんかできない……だから俺は―――小猫ちゃんを抱きしめた。

 

「―――俺はいつでも君の味方だ。臭いセリフかもしれないけど、無責任に聞こえるかもしれないけど………………小猫ちゃんのためなら命を張る覚悟だってある(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)。それだけは頭に入れておいてくれ」

 

 俺はそれだけ言うと、小猫ちゃんを抱きしめのを止めて、顔を見ずに神器を発動し、そのまま赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)を身に纏い、そのまま高速で露天風呂を経由して空を飛ぶ。

 その途中部長たちが俺の姿を見て驚いていたけど、俺はそれを無視してはるか上空まで飛んで止まった。

 兜をスライドさせて顔だけ外気にさらし、そして拳を強く握る。

 

「―——ったく、世話が焼ける後輩だよ。ちょっとは俺を頼れっての」

『相棒…………そのだな、今言うべきじゃないと思うが、すまんかった』

「フェルにボコボコにされたんだろ?なら良い―――なあ、俺は小猫ちゃんを救うことが出来ると思うか?」

『……主様らしからぬ弱気ですね。ですが大丈夫ですよ…………わたくしの可愛い子は、いつだってどこでだって優しいドラゴンですから』

『最高の赤龍帝、その言葉を忘れているぞ?』

「……そっか」

 

 俺は少し笑って男子露天風呂に飛んでいく。

 ……あの時の小猫ちゃんの表情は見ていない。

 だけどたぶん笑ってはいない―――きっと泣きそうな顔だったはずだ。

 改めて俺はお前・・・ガルブルト・マモンを嫌いになったかもしれない。

 たとえ俺が何も関係なくても、あの時わかりにくい方法でソーナ会長を助けてあげたかもしれなくても。

 小猫ちゃんにあんな顔をさせる奴は―――嫌いだ。

 そう俺は思った。

 

 ―・・・

 翌日。

 俺を含めたグレモリー眷属は現在、屋敷のリビングルームにあるソファーの前で、ソファーに座っているアザゼルを前にして立っている。

 オーフィスやティアなどといった付き添いのドラゴンファミリーは俺たちの方を見ながらもゴロゴロしており、そして俺たちは今からアザゼルから修行の説明を受けようといていた。

 アザゼルの手元には数枚の紙があり、たぶんそれに各人の修行内容がびっしり書いてあるんだろうな。

 

「さて、これからお前らに修行の内容を通達するんだが……この修行においてはすぐにでも効果が出る奴とそうじゃない奴がいる。そのことは十分理解しておけよ?」

 

 アザゼルはそう言うと、早速という風に一枚目の紙を部長に向けた。

 

「まずはこの眷属の『王』であるリアス。まずは俺の意見を言おうか。お前の潜在的な魔力の才能、頭脳、どれをとっても一級品だ。これは間違いない。このまま何もせずとも成人を迎えるころには才能は開花し、近い未来最上級悪魔の候補にも挙げられるだろう―――が、今すぐにでも強くなりたい。それがお前の意気込みだな」

「・・・あんな無様な恰好、それに―――足手まといは嫌よ」

 

 部長は苦虫を噛んだように悔しそうな表情をした―――たぶんライザーとのレーティング・ゲームのことを思い出してるんだろうな。

 あの時、部長はライザーの不死身に一歩近づかず、さらに最終的にライザーの不意打ちによって倒された。

 そのことは部長の心に深く刻み込まれているんだろう。

 

「それならお前はその紙に書かれた内容をみっちり体に叩き込め」

 

 アザゼルは先ほど部長に渡した紙を指すと、部長は黙々と読み始める。

 そして読み終わると少し不思議そうな顔をしていた…どうしたんだろう。

 

「これ、ほとんど基本のトレーニングなんだけど…」

「お前はそれでいいんだ。いいか?お前の才能と力はすでに上級悪魔でも結構高位のもんだ。ただお前の相対してきた敵はコカビエルやら不死鳥とかの奴らだ。お前は自分の肉体を酷使するタイプの戦士じゃない上に『王』だ。『王』は時にして力よりも知恵、眷属を導く統率力が必要となる。それをするためには基礎あるのみ、基礎がねえ奴がどれだけ応用やっても効果なんてねえんだ」

 

 アザゼルの説得力のある言葉で部長は納得したのか、何も言わなかった。

 確かに部長の修行内容、相当の効率でなおかつ理想的な内容だ。

 さすがはアザゼルだ…たぶん俺よりも人に何かを教えるのに長けているな。

 

「さて、次は朱乃」

「はい」

 

 朱乃さんはすっと俺たちの一歩前に出てアザゼルの前に立つ。

 朱乃さんか……朱乃さんはある程度は堕天使のことは割り切っているのか、特には不満な表情は見せずにアザゼルを見ている。

 ただ視線は氷のように冷たいけど……まあ最初よりは随分とマシだな。

 だけど朱乃さんのやるべきことと言えば…それを伝えるのは余りにも酷だけど、でもアザゼルは躊躇いもなく言った。

 

「自分に流れる血、堕天使の血を受け入れろ」

「………」

 

 アザゼルの言葉に朱乃さんは少し顔をしかめた。

 …朱乃さんのお父さんは堕天使の幹部、バラキエル。

 おそらく最上級悪魔と同等かそれ以上の力の使い手なんだろう。

 その血が朱乃さんに流れているのならば、おそらく力の絶対値は計り知れないだろうな……が、それは血を受け入れた場合の話だけどな。

 するとアザゼルは重ねて続ける。

 

「フェニックス家とのレーティング・ゲームは見させて貰った。全体にいろいろと言いたいことはあるが、朱乃。あの時、お前は堕天使の力を行使すれば容易に相手の『女王』を倒せたはずだ。たとえそれが涙という回復アイテムがあった場合でもだ」

「…わかっていますわ。そんなこと……」

 

 …ここから先が朱乃さんの本当の闘いなんだろうな。

 自分の気持ちとどれだけ向き合え、どれだけ戦えるか…俺にはどうすることもできないけど。

 

「さて、次は木場。お前は現段階でどれだけ神器の禁手化を持続させられる?」

「…約5日間。ですが力を全力で使えば1日も満たないと思います」

 

 アザゼルの問いに祐斗が答えると、アザゼルは少し考える間をおいて再び話し始める。

 

「…予想していたよりはかなり長いな。しかし木場。この眷属ではイッセー、今までお前たちが遭遇してきた人物ではヴァーリ……この二人は余裕で禁手状態を一か月以上持続できる。特にお前の禁手は持続時間が長いのが肝だ。現在が5日間なら次は1週間、そしてそれを少しずつ伸ばしてゆき、最終的には修行の終わりまでに1か月間、禁手状態を維持しろ」

「…わかりました」

 

 祐斗はアザゼルの言葉に頷く…禁手の持続性を伸ばすのが一番の課題ってことか。

 かなりタフな鍛錬になりそうだな。

 

「神器の扱いは以前のゲームから随分上達しているようだが…剣術の方はもう一度一から鍛えなおすんだっけか?」

「はい。師匠に一から教えていただくつもりです」

 

 へぇ、祐斗にも師匠なんて存在がいたんだな。

 っと次はゼノヴィアか……

 

「さて、次はゼノヴィアだが…お前は今以上に聖剣デュランダルに慣れてもらうことを重点とするぜ。なんたってその剣は悪魔にとっては最高の矛だ。後は…少しは視野を広げろ。お前はパワーに直線すぎる傾向がある」

「しかしパワーこそ至上…これまで使ってきた聖剣もパワー系だから私には……」

「んなこと言っても、この眷属の実質的なテクニックタイプは木場、そしてオールラウンダーのイッセーだけだ。お前がパワーパワー言ってると眷属のパワーバランスが崩れる」

「むぅ……」

 

 ゼノヴィアは痛いところを突かれてぐうの音も言えないようになる…実際そうだしな。

 ゼノヴィアのパワーは戦車並だけど、代わりにテクニックに富んだ相手に弱い傾向がありそうだからな。

 今のところはそんな相手とは遭遇していないものの、残念だが次の対戦相手であるソーナ会長の眷属はテクニックタイプの人物がほとんど…

 嵌め手を貰って終わりとかは話にならないからな。

 

「まあテクニックっていうもんはすぐには身につけることは不可能だ。何だかんだで経験と慣れがものをいう……今回はとにかくデュランダルを使いこなせるようになれ。その続きはそれからだ」

「了解した」

 

 ゼノヴィアが少し居心地が悪そうな表情になりながらも頷く。

 

「さて、次はギャスパーだが…」

「は、はいぃぃぃぃぃ!!?」

 

 …アザゼルに目線を送られたギャスパーは視線が怖いのか、近くにあったダンボ―ルに隠れようとする……だけど俺はギャスパーのダンボールを粉砕した!

 

「ぼ、僕のお家がぁぁぁぁああ!!」

「お前は反省しろ。そんでアザゼルの話を聞けっての」

 

 俺はギャスパーの首根っこを掴んでアザゼルの前に立たせる。

 ったく、この馬鹿な後輩は世話が焼けるな。

 

「ナイスだ、イッセー。で、ギャスパー……お前は現状、論外だ」

「ろ、論外!?」

「そりゃそうだろ?停止世界の邪眼(フォービトュン・バロール・ビュー)は非常に危険な神器だ。しかも宿主のお前が引き籠りに加え対人恐怖症とかあり得ない。お前はその人に対する恐怖心を克服、さらには神器の更なる操作を可能にしてもらうぜ。そのための専用プログラムは組んでやった―――ところでギャスパー、お前はイッセーの血を飲んだことがあるんだよな?」

「は、はい……二度三度四度五度…………あれ?どれくらい飲みましたっけ?」

「…ならまあいい。赤龍帝の血は神器の成長には都合がいいからな。修行前に一度吸わせてもらえ」

 

 アザゼルがそういうとギャスパーは俺の方をじっと見てくる……はぁ、今飲まれるのは勘弁してほしいから用意してきて良かった。

 俺はポケットにある瓶を取り出し、それをギャスパーに向かって投げた。

 

「直接飲まれるのは面倒だからある程度抜いておいた。後で飲んどけ」

「…ぼ、僕は先輩の首筋から直接飲みたいなぁって……」

「別にいいが……ゼノヴィアに殺されるぞ?」

 

 ギャスパーはゼノヴィアの鋭い視線に気が付いて顔を引きつらせたまま黙ってしまった。

 

「じゃあ次はアーシアだ」

「は、はい!」

 

 おぉ、アーシアは気合が入っているな。

 アーシアは普段から俺との朝ランニングとか神器の訓練を一緒にこなしているから、アーシアの力はよく理解している。

 

「はっきりって現段階のアーシアの神器の使い方はこの眷属でもトップクラスだ。回復という点においてはイッセーをも遥かに凌駕している。さらに体力も予想をはるかに上回るほどにある」

 

 アザゼルはアーシアに関心するようにそう言う。

 …アーシアはすごい努力家だから当然だな。

 

「イッセーの鍛錬に付き合っているそうだな。だがまだまだ未熟な点は多い」

「だけどアザゼル。アーシアの回復力は現時点で最高レベルだぞ?瀕死程度の傷は一瞬で治すくらいだ」

「それぐらいは理解している。回復力の速さ、努力を続けて得た体力、んで神器の使いこなしているのは分かる…が、すべては基本的な使い方だ」

 

 …なるほどな。

 現在、アーシアが行える神器の応用は回復領域の拡大と縮小だ。

 基本が忠実に出来上がっているから、ここから先は応用ってことか。

 

「アーシア、お前の才能は大したもんだ。向上心もある。確かに力の質から考えて戦闘は不向きだが、それを補えるほどのサポート能力がある」

「…つまり、私にできることをしろってことですか?」

「ああ。そういうことだ。とりあえずお前はリアスと同じく基本トレーニングを重点に置け。んで神器の方だが…質問だがアーシア、お前は瀕死の敵がいたら放っておくことはできるか?」

「………」

 

 …その質問はアーシアにはきついものがあるぞ。

 アーシアが追放された原因は悪魔の怪我を治してしまったこと…敵であろうと治療してしまう優しいアーシアにそんなことできるはずがない。

 

「答えたくないなら答えなくていい。まあまず不可能だろうな。アーシア、お前の優しさは美点だが、しかし戦闘になれば不利な美点となる。俺が予定していたメニューでは回復範囲を大きくすることだったが、そうするとアーシアは味方だけではなく敵すらも回復してしまう……だからこそ、もう一つの応用を覚えてもらうぜ」

「もう一つ、ですか?」

「おうよ。回復オーラの拡大から派生した方法…名付けて『癒しの弾丸』だ。要は回復のオーラを弾丸のように放ち、遠くに離れた味方だけ回復する方法。回復力が落ちる可能性があるだろうが、それでもこれからの回復の可能性は広がる…イッセー、見本を見せてやれるか?」

 

 するとアザゼルは俺にそんなことを言ってきた…まあできないことはないけどな。

 俺は嘆息して左腕に籠手を出現させた。

 

『Boost!!』

『Transfer!!!』

 

 一段階倍増が完了し、瞬時に俺はそれを譲渡の力で放射。

 倍増のエネルギーを手のひらで魔力を操る感覚で球体にし、それをアザゼルの方に投げた。

 

「まあこういうことだ。今イッセーがした赤龍帝の譲渡の力により倍増した力を放射、それを球体にして俺に投げたってことだ。アーシアはこれをできるようにしてくれ」

「は、はい!…イッセーさんと同じことを…同じことを…」

 

 アーシアは強く頷くと何かを呟きながら下がった。

 ……………で、一番の問題に直面するってわけだ。

 

「最後に小猫だ」

「…はい」

 

 いつもの何倍も気合の入っている声……なにを言っても今の小猫ちゃんは無理をするんだろうな。

 

「お前は『戦車』としての才能は申し分ない。駒の性質にも同調しているだろう―――だけど、この眷属の中にはお前よりオフェンスが強い奴がいる」

「―――ッ!分かっています…」

「ああ、わかっているからこそ、そこまで焦ってんだろう。木場は聖魔剣によって大幅に力が上がった。ゼノヴィアはデュランダル、そしてイッセーに至っては赤龍帝でしかも禁手化すらも会得している。その中でお前の攻撃力は小さくはないが……目立たない」

 

 …なかなか重いことを言うな。

 アザゼルだって本当なら言いたくはないだろうけど…汚れ役ってものか。

 教師も大変だよな。

 そして小猫ちゃんは……悔しそうな表情で歯噛みしていた。

 

「…小猫、お前はなぜ力を使わない?お前だって本当の力を―――」

「やめてくださいッ!!!」

 

 ――――――小猫ちゃんが、叫んだ?

 普段から物静かで、よく甘えてくる小猫ちゃんが誰かに叫ぶのを俺は初めて見た。

 

「………それ以上は、やめてください。ここからは自分で考えることですから」

「……俺から言えるのは朱乃と同じ―――受け入れろ、自分の力を」

 

 アザゼルはそういうと、手元の最後の紙を小猫ちゃんに渡した。

 小猫ちゃんはそれを無言で受け取って、一歩下がる。

 そして俺の隣に来て、そして俺の服の裾をキュッと握った。

 

「小猫……」

 

 部長は小猫ちぁんを見て心配そうに見ている…いや、全員か。

 アザゼルは頬を掻きながら苦笑いをしていた。

 

「…仕切り直しだ。最後にイッセー」

「ああ」

 

 俺は小猫ちゃんの手を一瞬握り、安心させて一歩前に出る。

 さてさて、いったいアザゼルは俺にどんな修行をつけてくれんだろうか…わくわくして仕方ない。

 今まで自分で決めて自分で鍛えることしかしなかったからな~。

 

「はぁ…お前の扱いにはホント困るぜ。ライザーとの戦闘でも分かることだが、お前の力と言うか影響力はもうこの眷属の支えと言ってもいい。と言ってもお前の成長は止まっているどころか今もなお続いている…ってかヴァーリ倒せるとか自分で鍛えても問題ないだろうってのが正直なところだ」

「おいおい…結構わくわくしてるのにそりゃねえだろ」

「待てよ。何も考えていないわけではない―――なんつーか、もうこの際、お前には一切の遠慮はいらないと思ってな?」

 

 アザゼルは笑った―――あり得ないほど歪んだ、何か企んでいそうな表情を……

 その瞬間だった!

 

「うぉ!?なんだ、この揺れ!」

 

 室内が突然揺れる!

 俺は何が起きたかわからなかったが、アザゼルは悠長にリビングの窓を全開にすると、そこには――――――ドラゴンがいた。

 

「―――よくもまあこんな堂々と悪魔の領域に入るとはな、アザゼル」

「そう言うなって…これでも魔王の許可をわざわざ貰ってんだぜ?―――タンニーン」

 

 ―――ッ!?

 今アザゼルはタンニーンって言ったのか?

 まさかこのドラゴンは……元龍王の魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)と謳われるドラゴンにして悪魔に転生した最上級悪魔―――タンニーン!

 すっげぇ!!

 めちゃめちゃカッコいいし、なんか風格ってものを感じる!

 俺の周りには変なドラゴンが集まりすぎて、こういう誇らしいドラゴンとは久しく会ってなかったんだ!

 

「ふん、俺もサーゼクスの願いでなければここには来なかった―――で、そこで俺のことをキラキラした視線で見ている小僧はなんだ?」

「おお、こいつが今回、お前にも(・ ・ ・ ・)手伝ってもらう現代の赤龍帝だ。普段は冷静なんだが……おい、イッセー!」

「んだよ、俺は今、このドラゴンを見て感動してんだよ!こんな普通にカッコいいドラゴンを久しぶりに見て感激なんだよ!!邪魔スンナ!未婚総督アザゼルさんよ!!」

「んだと、てめえ!!」

 

 するとアザゼルは沸点が低く、俺に襲いかかろうとしてくる。

 が―――

 

「おい、鴉。誰の弟に手を出そうとしている?」

「我、アザゼル、屠る」

 

 そのアザゼルの前に今まで不干渉だったティアとオーフィスが乱入してきた。

 ってオーフィスの発言が洒落にならない!

 

「む!!!!???……これは驚いたな。まさかこんなところにティアマットとオーフィスがいるとは………しかもなんだ?二匹だけではなくそれ以外にもドラゴンのオーラ…」

 

 タンニーンはチビドラゴンズや俺の方を見てきて戸惑うような声を出していた。

 ……それにしてもカッコいいな、このドラゴン。

 

「小僧…名を名乗ってもらえるか?赤龍帝が悪魔についたというのは聞いていたが、名は知らんのだ」

「兵藤一誠だ!にしてもカッコいいな、タンニ―ン!15メートル以上はあるか?それと握手してくれ!」

「ははは。いいぞ、それくらい。なんだ、今代の赤龍帝は随分と面白いな」

 

 タンニーンは俺を見て笑う。

 

「随分と仲良くなっているとこ悪いが、その辺で―――オーフィス、ティアマット。昨日の要請について受諾してくれるか?」

「まあいいだろう。他ならぬイッセーのためだ。ひと肌脱ごう」

「…」

 

 ん?アザゼルの言葉にティアとオーフィスが頷いている。

 …………………………なんだろう。

 とてつもなく嫌な予感がするのは俺だけだろうか。

 

「ってことだ、イッセー」

 

「…………なあ、アザゼル?そう言えば俺の修行相手って…」

「ははは、目の前にいるだろ?」

 

 …アザゼルは指さす方向に確かにいるドラゴンたち。

 えっと……まさか―――まさかぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!?

 

「おい!お前の修行相手ってこの3人!?いくらなんでもそれは!!」

「ははは!なに言ってんだ、イッセー。そんなわけないだろぉ?」

 

 ああ、そうなのか……さすがはアザゼル、俺の同志だ!

 そんなわけないよな~、こんな伝説のドラゴンを相手にしたらいくらなんでも俺だって―――

 

「後からもう一匹、龍王に近いレベルの奴を呼んでるからな!これだけじゃあ物足りないんだろう?」

 

 ……………その時、俺はふと肩を掴まれる。

 そこにはオーフィスがいて、ティアがいた。

 

「あ、アザゼル!?いくらなんでも可笑しいわ!!」

「そ、そうですわ!!いくらなんでもイッセーくんが死んでしまいますわ!!」

 

 おお!!二大お姉さまが俺の擁護に回ってくれた!!

 

「おいおい、考えてもみろよ?―――イッセーが強くなって帰ってきて、お前らを守って耳に愛の言葉をささやく……最高と思わねえか?」

『――――――!?』

 

 なんで衝撃を受けてんだよ、この眷属は!!

 愛をささやくってなんだよ!

 ってか本気でこれはやばい!!ティア一人ならともかく、龍神に龍王最強、元龍王に加えて龍王に匹敵するドラゴンはやばすぎる!!

 俺はすぐさまこの空間から逃げ出そうとした瞬間、俺は体の自由が奪われる!!

 ってオーフィス!?

 

「我、約束した―――夏、イッセー、我と一緒」

「約束したけど!!うお!?」

 

 俺はそのままタンニーンのいる方に投げられて、そのままタンニーンの太い腕によってロックされた!

 そしてタン二ーンの背中に飛び乗るティア、オーフィス、そして連れられているチビドラゴンズ!

 ていうかタンニーンの力強い!?

 

「リアス嬢、その辺の山を好きに使うが…良いか?」

「ええ、好きに使ってもらって構わないわ―――イッセー、生きて帰ってくるのよ?」

 

 部長!?

 なにアザゼルに説得させてるんですか!!

 

「助けてぇぇぇ!!!いくらなんでもこれはあんまりだぁぁぁぁぁああ!!!!」

 

 俺は助けを呼ぶように叫ぶが、しかし誰も答えてくれない!!

 俺はドラゴンに掴まれ、空中でふと思った。

 

 ――――――母さん、ごめん。

 俺、今年の夏で死ぬかもしれない本気で…

 かくして始まってしまった。

 最強クラスのドラゴン+αによって鍛えられる地獄の修行が………そんなことを考えながら、俺はドライグとフェルに慰められながら色々と諦めるのだった。


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