ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第3話 会合と邂逅

 端的に今の状況を説明しよう。

 現在、俺、兵藤一誠は名門グレモリ―家の本邸の屋敷のリビングルームにいる。

 俺の目の前、というよりかは俺の前にあるテーブルには絶対に食べきれないほどの量の豪華な料理が鎮座しており、更に席には部長をはじめとするグレモリ―眷属、ティアや幼女モードのチビドラゴンズ、オーフィスとミリキャスなどといった面々と、縦長のテーブルの先に座っている部長のお父様とお母様……グレモリ―卿、ヴェネラナ様がその場にいた。

 グレイフィアさんは使用人のようにヴェネラナの傍に優雅に立っていて、これぞメイドの真骨頂というべきメイドの中のメイドって感じがする。

 ちなみに配席ってのは今回は流石に部長の実家に来ているということから、いつものような騒動は起きずに今は俺の隣にはミリキャス、もう隣には祐斗がいた。

 ま、確かに祐斗が俺の隣に来ればある意味で安心ではあるんだけど…………ちなみに周りはしんとするように静かだ。

 皆が席に着いてから数分が経っているけど、なかなかお声がかからないんだよ。

 流石に当主を差し置いて勝手に食べるなんて無礼なことは出来ないし……俺はライザーの件があるから少しばかりお二人とは顔を合わせにくいんだよな~……

 

「はは。そんなに固まらなくていい。リアスの眷属の諸君。今日は無礼講だ。好きなだけ食べ、好きなだけ楽しみなさい」

 

 グレモリ―卿が柔らかい笑顔でそう言うと、緊張が解けたのか眷属の皆は一礼して目の前のごちそうを食べ始めた。

 うぅ~ん……こう豪華な料理を目の前にすると食べ方に困るよな。

 部長、朱乃さん、祐斗なんかはもう慣れているように優雅に食べ始めてるし、小さなドラゴンのフィー達はそんなことを気にする必要はないし、ティアは何だかんだで上品だ。

 アーシアは元々丁寧で綺麗な女の子だから様になってるし……仕方ない、俺は祐斗の食べ方でも真似するか……そう思ったとき、俺の中からある声が聞こえた。

 

『主様は普段のようにしていれば問題はないです。元来の姿勢が主様は紳士そのものですし、それに普段から主様は上品ですよ』

 

 そうか?ならそうするけど……そう思いつつ俺は目の前の肉料理を一口食べる。

 うお、うまッ!!

 普段から母さんのおいしいご飯を食べてるけど、この料理はまた違う意味でおいしい料理だな!

 何て言うんだろう……母さんの料理が心が温まる恋しい味とするなら、この料理はそれこそ最高級のレストランで食べるような最上なものって具合だ。

 どちらもおいしいのが結論だけどな!

 

「ときに兵藤一誠くん」

 

 すると突然、グレモリー卿が俺に少し笑いながら話しかけてきた。

 

「なんでしょうか?」

「そんな畏まらなくてもいい。君のお母様や……お会いしたことはないがお父様は元気かな?」

「まあぼちぼちですね。母さんはいつも通り元気ですし、父さんは毎日電話をかけてくるくらい家族を大切にしてますので……」

「はは、そうか。まあ以前君のお母様にお会いした時、私はあまり話をすることが出来なかったんだけどな」

 

 グレモリー卿は、ははは、というように高笑いをする。

 するとその隣に座っているヴェネラナ様が俺に話しかけてきた。

 

「私も少し前にまどか様とお会いしました。それにしても素晴らしい母でしたわ……年甲斐なく子供についての可愛さなどを討論するほどに盛り上がってしまいまして……それにしても人間でありながらあの美貌を保ち続けるとは、いったい彼女は何なのでしょうね?」

「まあそれは兵藤家の七不思議の一つですから、触れない方が良いです」

 

 苦笑いをするヴェネラナ様に対し、俺も苦笑いで返すしかない。

 っと、その会話を聞いていた俺の周りの皆がなぜか驚いていた。

 

「い、イッセー君はなぜそんなに臆面もなく話せるのかな?」

 

 すると祐斗が俺にそう尋ねてくる…………って言ったって、別に俺は質問されたことに答えただけなんだけどな。

 

「別にお二人も取って食おうってわけでもないからな。普通に話してるだけなんだけど……変か?」

「あらあら……肝が据わっているイッセー君も素敵ですわ」

 

 朱乃さんが少し艶のある笑顔でそう言って、周りには見えないように舌なめずりをする……絶対になんか企んでる顔だよ、あれ!

 っと俺は一つだけ部長のお母様に聞きたいことがあったんだった。

 

「……ヴェネラナ様、一つお聞きしてもよろしいでしょうか」

「あら、なんですか?わたしに応えられることなら応えましょう」

「…………うちの母さんをどうやって今回、説得したんですか?リアス様にお聞きしたんですが、俺はリアス様の帰郷にお供するなんて、俺の母さんが納得するとは思えないんですが……」

 

 ……冷静に考えてみるとそうなんだ。

 俺の母さんは俺がいうのもあれだけど、俺に対する愛情が子供に向ける以上のものがある。

 あのアーシアを家に住まわせることすらも最初は渋っていたくらいだし、しかも今回に関しては長期的に家を空けることになったし……俺の知る母さんなら許可しないと思うんだ。

 でも今回、俺が部長のお供をするって言ったときに……

 

『イッセーちゃん、気を付けてね?悪い人についていっちゃいけないよ?それと困っている子がいたら絶対に助けるんだよ?それからそれから……帰ってきたらただいま、だよ?』

 

 ……なんてことを俺に言ってきた。

 何故か妙に真剣な趣だったな。

 

「いえ?普通にお話をして、許可を得ました。特には不満も漏らしていないはずですわ……それに夏は夫のところに行くと言っていましたし……すみません、あまり詳しいことは私も分かりませんわ」

「いえ、それだけ知ることが出来たら十分です。お手を煩わせてしまい申し訳ございません」

 

 なら俺の杞憂かな?……うん、母さんが子離れしてくれたってことにしておこう!

 

「それにしても兵藤一誠くん。君の活躍は冥界でも有名となっているよ」

「……活躍、ですか?」

 

 すると唐突にグレモリ―卿が俺にそう言ってきた。

 

「ははは。謙遜することはない。実際に聞いていれば大した功績だ。あの堕天使コカビエルを倒し我が娘や眷属を救い、テロを未然に防いだ。これを功績と言わずにはいられない。本来ならば中級悪魔に昇格してもおかしくない……いや、むしろ上級悪魔への昇格の話も既に浮上しているだろう」

「確かにサーゼクス様にこれはいただきましたが…………」

 

 俺は普段から肌身離さず持っているサーゼクス様から頂いた赤い『王』の駒を見せた。

 

「…………それは四大魔王の刻印が入った『王』の駒―――なるほど、君はかの魔王に見初められているというわけか…………ヴェネラナ。やはりあの話を進めるべきではないか?」

「しかしそれはあまりにも早急というものです。順序というものがですね……」

「しかし既にあれ(・ ・)をサーゼクスから受け取っている。早いこと事を進めないと、他からも目をつけられる恐れがある」

 

 ……?

 なんか部長のご両親が真面目な雰囲気で話し合いを始めたぞ?

 

「確かに彼は気品も備えており、今までの動作、仕草から見ても容易にやってのけるでしょう。しかし私たちは以前、その早計さでリアスを苦しめたのですよ?」

「ぐッ……それを言われれば……」

「えっと……何を話しているのかは解りませんが、それは自分に関係することなんですか?」

 

 俺は少し苦笑いを浮かべてお二人にそう尋ねると、グレモリ―卿は咳払いをした。

 

「気にしないでくれたまえ……まあこれは興味程度で聞きたいんだが……君は娘、リアスのことはどう思っているかね?」

「な、お、お父様!?」

 

 すると今まで穏やかだった部長が顔を真っ赤にして突然、椅子から立ち上がった。

 っていうか部長のこと?俺は突然聞かれたことに少しばかり考えていると、部長は少しばかり焦った様子で言葉を続けた。

 

「先程から聞いていればお父様にお母様!私を置いて話を進めないでください!!」

「…………黙りなさい、リアス」

 

 すると今までにこやかだったヴェネラナ様の雰囲気が一転して、目は鋭くなり、口調もこれまでの朱乃さんの柔らかなものではなくなり、棘のある声音となった。

 

「そもそもリアス。あなたは一度、フェニックス家の婚姻を放棄しているんです。それを私たちが許しただけでも寛大だとお思いなさい。旦那様やサーゼクスがどれだけ上に手をまわしてくださったのか、それを理解できていないのですか?」

「り、理解はしています。ですがそのことは私の問題です……お父様やお母様がどうこうするのは、それこそお門違いと思います」

「……ほう」

 

 うわ、部長の一言でヴェネラナ様の視線が更に鋭くなる。

 

「それにおそらくお父様とお母様が考えなさっていることは下手をすれば私の眷属内に亀裂を入れるような事柄です。だからこそ……私は私の眷属をそんな風にはしたくありません。だから……」

「…………そうですか、そこまでこの母に言葉を繋げれるならば、それは本心ということでしょう」

 

 するとヴェネラナ様が肩を下すように嘆息すると、すると次に俺の方を見てきた。

 ……この空気の中で答えないといけないのか?

 …………………………はぁ、仕方ないよな。覚悟決めるか。

 

「……俺にとってのリアス様は―――最高の主です」

 

 俺は自分の本心をヴェネラナ様に言った。

 

「俺の命をお救いになったのもリアス様ですし、それからも何かとお世話をしてくれます……グレモリ―家がいくら情愛深いお家でもリアス様の情愛は相当高いものでしょう。そんな主だからこそ、俺は全力で守るために戦いますし……これからも守るためなら命を懸けるでしょう。だから最高の主です―――それが、俺のリアス様に対する気持ちです」

「………………そうですか。ありがとうございます」

 

 ヴェネラナ様は満足げな表情でそう言うと、それ以降は何も言わなくなった。

 ―――でも俺は結局のところ、最も肝心な部分をはぐらかしている。

 今のヴェネラナ様の言葉の真意を分かっているくせに、俺はその部分をあえて気付かないふりをした。

 いや違う……答えてはいけないんだ、俺は。

 部長は確かに俺に明らかな好意を向けてくれている……じゃなきゃ毎晩一緒の布団で寝たりなんてしない。

 他の眷属の皆だってそうだ。

 だけど俺は実際のところ、みんなをそんな風には見ていない。

 確かに望まれれば頭は撫でるし、一緒に寝ることだって許容している……デートだってする。

 だけど俺はそれ以上の関係を望んでいない。

 俺だって男だ……あんな魅力的な女の子たちにすり寄られたら、純粋な皆に邪まな感情も抱くしし、抱きたいって思うことだってある。

 でも俺はそれをしてはダメなんだ……自分の中の問題がどうにか解決するまでは、そんな半端な気持ちで本気の皆に応えては駄目なんだ。

 皆のことは好きではある……好意だって持っている。

 だけどそれは、俺が祐斗に向ける好意とほとんど変わらない。

 

『……俺はこの最高の相棒を、こんなに苦しんでいる相棒を救える術を持っていない。それが俺が何よりも悔しい』

 

 違うよ、ドライグ。

 これはどうしようもなく俺の問題なんだ……むしろ他の誰かにどうこうされたほうが嫌だ。

 心配すんなよ、相棒。

 今の俺は以前のような俺とは違うからさ……なんていうか、ヴァーリとの一戦以来俺の中には余裕が生まれたんだ。

 あの白龍皇の宝玉を取り込んでから俺の心の中に温かさが入った気がするんだ……それが何かは分からないけど。

 だから今の俺はお前らに心配かけて自分ひとりで無理をすることはないから。

 

「イッセー?」

「―――っ!」

 

 俺は部長の声で気が付いて、周りを見渡すと皆が俺の方を心配するように俺を見ていた。

 

「なんでもないです。とにかく俺は部長や皆を守ります。ほら、今まで守れましたし、これからも守りますし―――守ってもらいますよ、俺も」

「そうか。リアスの『兵士』が君で良かったよ――――――ところで兵藤一誠君。私のことは『お義父さん』と言ってもらえないかな?」

 

 …………グレモリ―卿がそう言った瞬間、俺は感覚的に冷や汗を掻いた。

 よりにもよってなんでそのことを……俺がそう思った瞬間、俺の中で奴の叫び声が放たれる。

 俺の手の甲から緑色の宝玉が現れ、ドライグが辺りに聞こえるように声を出した!

 

『グレモリ―卿よ。貴様、今我が息子のことをなんと言った?』

「ん?兵藤一誠くん。君の手の甲の宝玉から出る声とはもしや……」

「ええ……残念ながらも赤龍帝・ドライグです」

 

 俺がグレモリー卿の問いに答えるけど、当然ドライグは止まらなかった。

 

『言うに事欠いて相棒に“お義父さん”だと?俺ですら呼ばれたことのない至高の言葉を貴様は……貴様はぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 お、落ち着け!

 フェル!!どうにかドライグを止めてくれ!!

 

『すみません、主様。誠に残念なのですが、ドライグの気持ちはわたくしにはよくわかります―――わたくしがドライグの立場であれば怒り狂います』

 

 このおバカ!

 この親馬鹿ドラゴン!嬉しいけどこういう時の過保護はいらねえんだよ!

 

「これはこれは……長いこと生きてきたが、かの有名な赤龍帝と話すことが出来るとは……」

『御託はいい!いいか!相棒……我が可愛い息子の父は俺だけだ!赤龍帝・ドライグと恐れられた二天龍の特権である!!』

「ははは!!本当に兵藤一誠くんは愉快な仲間に囲まれてるな!!」

 

 うわ~、温度差がすごいな。

 っと俺は視線をみんなの方に向けると……

 

「せ、赤龍帝の怒りですぅぅぅぅ!!もう段ボールににげますぅぅ!!!」

「おい、ギャスパー。イッセーからお前の教育を任されているんだ。その段ボールを切り刻むぞ」

「くくく……ドライグが切れてもただのネタでしかないな!」

 

 ……うん。なんかギャスパーが怯えていて、なんか勝手にギャスパーの教育役になっているゼノヴィアが目を尖らせてる!

 何故かギャスパーに対するゼノヴィアのあたりが強いような気がしないことがないな。

 そしてティアはドライグをバカにしたように笑っていて……うわ、場がカオスだ。

 …………だけど、俺はその時、ある姿が目に映った。

 

「…………………………」

 

 ……小猫ちゃんが誰とも話さず、目の前のごちそうにも手も付けず、ただ無表情でいた。

 どうしたんだ、小猫ちゃん……いつもはご飯をおいしそうに食べていて、俺に笑顔を見せてくれているのに…………

 騒がしくなったグレモリ―家本邸のリビングルーム……だけどその中、一人でいる小猫ちゃんを俺はずっと見続けたのだった。

 

 ―・・・

 夜、俺は天井を見上げていた。

 俺がお借りしている部屋は普通に俺の部屋(改築される前の部屋)の何倍もあって、天井もあり得ないくらい高く、更にシャンデリアがついてるくらい豪華な部屋だ。

 会食のあと、俺たちはリビングルームでグレモリ―卿とヴェネラナ様とお話をしたんだけど、その場には小猫ちゃんはいなかった。

 小猫ちゃんはあのご飯にほとんど手をつけなかった…………やっぱり様子がおかしいよな。

 俺は寝付けなくて一度、ベッドの上から起き上がり、部屋の窓の外に歩いていき、外を見た。

 外は月みたいなものが浮かんでおり、空は紫色。

 本邸の庭はびっくりするほどに広大で、噴水なんかもある。

 

「小猫ちゃんの様子が変わったのはヴァーリの一件からか……それとガルブルト・マモンの名を聞いてから」

 

 俺はヴァーリの一件の時の黒い和服を着た少女と、アザゼルから教えてもらった三大名家の一角、ガルブルト・マモンの名を思い出して呟く。

 やっぱりあの名前が出てからだよな……小猫ちゃんの様子が拍車をかけておかしくなったのは。

 最近の俺への妙な甘え、そしてマモンの名が出てからの様子の急変。

 一度、真剣に小猫ちゃんと向き合わないといけないよな。

 

「ん?あれは…………」

 

 俺は窓の外を見ていると、なぜか外にはギャスパーがこそこそしている姿があった。

 なんだ、あれ……何かをこそこそ見てんのか?

 俺は室内から悪魔の翼を展開し、窓を開けてそのまま屋敷から飛び出て静かにギャスパーの傍に舞い降りた。

 

「おいギャスパー。何してんだ?」

「は、はいぃぃぃ!?…………ああ、なんだぁ……イッセー先輩でしたか」

 

 ギャスパーは突然声をかけられたことに驚くも、俺の顔を見てほっと胸をなでおろすように息を漏らす。

 

「で?こんなところで何を見てたんだ?」

「は、はい……実は僕、ちょっと前に寂しくなってイッセー先輩の部屋にお邪魔しようと思って部屋を出たんです」

「へぇ……で、ここにはなんでいるんだ?」

「はい……あれ、見てください」

 

 ギャスパーは一転して心配そうな表情になりながらも、森のような木々の奥の方にある小さな空間を指さした。

 ―――そこには駒王学園の夏の制服を着こみ、手にオープンフィンガーグローブをつけている小猫ちゃんの姿があった。

 

「小猫ちゃん?」

「はいぃ……実は先輩の部屋に向かう直前に小猫ちゃんが屋敷から出ていく姿を見かけたんです。それで今日の小猫ちゃんは様子が変だったのでつけていったら、あんな風に……」

 

 小猫ちゃんは腕を振りかぶり、そのまま一本の大木に拳を放つ。

 小猫ちゃんの放った先の大木には大きな窪みが生まれた。

 

「鍛錬を始めたってわけか」

 

 …………いや、あれは鍛錬とかその類のものじゃないな。

 ―――明らかに全然身が入っていない。

 あんなのはただの捌け口が関の山だ。

 

「はぁ……ったく、後輩って奴は肝心な時に先輩を頼ろうとしねえよな。ギャスパー、ここからは俺に任せて今は部屋に戻れ。いいか?他の誰にもこのことを言うなよ?俺とお前だけの約束だ」

「ふ、二人だけ…………はい!!僕とイッセー先輩だけの約束ですぅ!!」

 

 するとギャスパーは屋敷の方に方向を変え、そのままスキップをしてそうな雰囲気で戻っていく。

 さてと……じゃあ俺もそろそろ向かいますか。

 俺はそう思い、一歩、小猫ちゃんに近づいて行った。

 

「おっす!こんな夜に何してんだ?夜更かしはお兄さん的には許せないぞ?」

「………………イッセー先輩こそ、こんなところで何を?」

 

 俺がそう話しかけると、小猫ちゃんは特に驚くことなく俺の方に振り返ってそう言った。

 

「夜の散歩ってことにしてもらえたら助かるな……で?」

「……別になんでもないです」

「そういうのはもっと嘘をつくのがうまくなってから言ってほしいな」

「…………わかってました。言ってみただけです。イッセー先輩には嘘をつけないことはずっと前からわかってましたから」

 

 小猫ちゃんは視線を俺から外し、そしてぽつぽつと話し始めた。

 

「……自分の不甲斐なさを感じて、鍛えていただけです」

「不甲斐なさ?」

「……イッセー先輩が悪魔になった原因は私です。私があの堕天使レイナーレに正体を知られなかったら、私は襲われることはありませんでした。そしてイッセー先輩が私をかばって死ぬことも………………いつもそうなんです。結局、誰かに守られて、守られて……本当に大好きなものをなくしてしまう…………捨て猫みたいにフラフラで……」

 

 ……小猫ちゃんが少し涙を流しそうになるが、それを彼女は拭って俺の方を真剣に見てくる。

 

「……だから一人で歩けるようになりたいんです。しっかりと前を見て、イッセー先輩みたいに…………」

「―――昔話、しよっか」

 

 俺は今の小猫ちゃんを見て、ふとあることを思い出した…………俺が兵藤一誠ではなかった頃の話を。

 

「昔さ、俺には友達…………いや、相棒がいたんだ。ドライグじゃないよ。その相棒は最初は俺をライバル視してたけど、一度拳を交えてそれからは仲良くなった。まあよくある喧嘩して初めて分かり合えるって奴だ―――そしてそいつは普通の人より強い力を持ってた。だけど俺はさ、そいつより強いから……そいつは劣等感を持ち始めたんだ」

「…………劣等、感?」

「そう。俺にできないのに何であいつには出来るんだ……俺に近づきたい、俺の隣に立ちたい……そんな風に思って無理して戦って、その末で何かを守ろうとして……そこでやっと気付いたんだ」

「……何に気付いたんですか?」

「それには答えない。悪いけど、それは自分で出さなければいけない答えだ」

 

 ……そいつが気づいたのは、本当の強さの意味。

 ただ覇を求めるのではなく、本当の意味で強い奴の条件を―――誰かを大切に思うっていう気持ちを。

 

「小猫ちゃんは絶賛迷い中だろう。だけど迷うことは悪いことじゃない。別に無茶をすんなとも言わない。むしろ迷惑をかけてくれ……他人ならまだしも、近くにいる仲間って奴は好きな奴に迷惑かけられることが嬉しんだ」

 

 俺はそう言うと、羽織っていた上着を脱いで服の裾をまくった。

 

「そんなに強くなりたいなら俺が相手をしてやる。もちろん神器は使わない。だけど俺の力の全力をもって相手する」

「………………全く、イッセー先輩は甘々です」

 

 すると小猫ちゃんは薄く笑ってファイティングポーズをとる。

 

「……でも先輩のそんな優しいところがずっと大好きです」

 

 そう言って小猫ちゃんは俺の言う通り、俺と鍛錬を始めるのだった。

 ……答えを出してくれ、小猫ちゃん。

 そしたら俺は全力をもって小猫ちゃんの表情を笑顔にして見せるから。

 

 ―・・・

 夜が明けて翌日となった。

 俺と小猫ちゃんの鍛錬はあの後、すぐに終わって今俺たちは先日乗った汽車に乗っていた。

 理由は簡単…………これから若手悪魔の会合があるからだ。

 今回に関してはティアやチビたちはグレモリ―家においてきて、眷属のみの移動となる。

 向かう先は魔王様がいる領土で、話では都市部ってことだ。

 

「都市部って言っても割と人間界と変わらないんだなぁ……あ、自動販売機みたいなものがある!それと……コンビニ!?治安大丈夫なのかな……そもそも自動販売機って治安の良い日本だから出来たことだから、それを悪魔世界で……」

「大丈夫よ、イッセー。ここは魔王が管理している領土ですもの。そんな物騒なことは起きないわ」

 

 部長が俺の疑問に笑顔で答えてくれる。

 

「悪魔は結構人間に合わせてるのですわ。戦争が終わってからは純粋な悪魔が減り、人間が悪魔に転生するのも増えましたので」

「ああ、なるほど……じゃああのコンビニとかもそうなんですね」

 

 俺は汽車の窓から見えるコンビニを見てそう呟いた。

 っとそろそろ駅に到着しそうだな。

 

「いい?これから地下鉄に乗り換えるわ……表から行くと面倒だから」

「地下鉄もあるんだ……なんか悪魔も画期的ですね」

 

 俺が関心しているのも束の間、汽車が駅について俺たち眷属は汽車から降りる。

 そしてそれと同時に……

 

『きゃぁぁぁぁぁぁああ!!!リアス様ぁぁぁぁ!!!!!』

 

 うおっ!?

 俺たちが汽車から降りると、そこにはたくさんの悪魔がいて部長に黄色い声援を送った!

 なんかアイドルがファンに浴びせられる声援みたいだな……ってか部長って実はかなりの人気者だったのか?

 

「あらあら、イッセー君も驚いてしまいましたのね。リアスは魔王の妹ですわ。しかも容姿は整っていていますもの……人気が出るのは当然ですわ」

「まあそうですけどね……ははは」

 

 俺たちは部長を先導としてついていく。

 当然視線は眷属である俺たちにも向けられるわけで……

 

「リアス様の眷属の顔ぶれが増えてるわ!」

「噂では最近、赤い龍を宿した男性を眷属にしたと聞いたけど……」

 

 ……そんな会話が微妙に聞こえてくる―――って俺のことじゃん!

 こんな一般層にも知られてるのか。

 

「困ったわね……急いで地下に行きましょう。専用の電車も用意させているわ」

 

 部長がファンの子に手を振りながら歩いていく。

 意外と女の子のファンが多いけど……まああれだけ綺麗な人だったら同性でもファンになるってことなのかな?

 

『うぉぉぉぉお!!リアス様!!お綺麗です!!』

 

 ……男性にも人気の部長様であった。

 そんな部長は苦笑いをしながらも手を振るのだった。

 

 ―・・・

 地下鉄に乗り換えてから数分後、俺たちは目的地に到着した。

 電車を降りたすぐの場所にいた係りの人に連れられて俺たちは待合室のホールみたいなところに連れていかれて、今は待機室としてホールで待機していた。

 ホールの先には通路があって、たぶんそこから会合の会場に向かうんだろうけど……まあその辺は部長から説明を受けたから大丈夫だろう。

 

「そういえばこれから集まる若手悪魔について何も知らなかったな……部長、教えてもらえませんか?」

「あら、言ってなかったかしら?」

 

 部長は目を見開いて可愛く首を傾げる……が、そのあとすぐに説明してくれた。

 

「今期の若手悪魔は私を含めて6人。一人はイッセーも知ってる駒王学園の生徒会長でシトリー家の次期当主、ソーナ・シトリー」

「会長に関しては予想はついてましたけどね……それで残りは?」

「残りはそうね……大公家のアガレス家、現魔王アジュカ・ベルゼブブ様を輩出したアスタロト家、その他の魔王を輩出したゼファードル家もね。そして最後に大王家の次期当主にして若手ナンバー1の―――」

「バアル家だ」

『―――――――!!?』

 

 そこで初めて俺たちとは全く違う、低い声音の男の声が後方より聞こえた。

 俺はいち早くそちらに目を送るとそこには一人の男がいた。

 短い黒髪、明らかに鍛えられあげた圧倒的に肉体、肉食動物のようにぎらぎらとした紫色の瞳…………そして闘気にも似た雰囲気。

 背は高くて俺よりもかなり高い。

 

「―——サイラオーグ!!」

 

 すると部長はその男の人の名前?を叫んで彼の傍に駆け寄った。

 

「久しぶりだな、リアス」

「ええ、本当に……会わないうちにまた背が高くなったんじゃない?」

「ははは。そうであるかもな…………っと、そろそろお前の眷属がポカンといているから、紹介をしてもらえないか?」

 

 男が俺たちの方……取り分けて俺の方を見ながらそういうと、部長は咳払いをして一歩後ろに下がって男の方に手を向けた。

 

「この人はかの有名な大王家のバアル家の次期当主なの……名前は」

「サイラオーグ・バアル。バアル家の次期当主だ」

 

 ……サイラオーグさんは野性的ではあるが社交的な笑みを浮かべた。

 そしてすかさず眷属の皆がサイラオーグさんに挨拶と自己紹介をして、なぜか知らないけど残されたから最後に挨拶をすることになった。

 

「部長…………リアス様の『兵士』の兵藤一誠です」

「……なるほど。お前がサーゼクス様の仰っていた…………」

 

 サイラオーグさんは俺の方をじっと見ながら何かに納得するような顔をしたと思うと、俺の方に一歩近づいてくる。

 近くで見るとホントにでかいな……俺もこれくらい背があればいいのに。

 

「なるほど、一目あって理解した。確かにその身にまとうオーラ、魔力は赤龍帝に間違いないな。噂はかねがね聞いている。あの魔王様が絶賛するほどだ」

「お褒めに預かり光栄です」

「そんな堅苦しい言葉は必要ない。普段の話し方で構わないぞ」

「……ならそうさせてもらうよ。実はあんまり堅苦しいのは苦手だからさ」

 

 俺は口調をみんなに向けるようなものに変える。

 にしてもこの人が大王家の当主か…………なんか思っていたのと全然違うな。

 

「堕天使コカビエルを無傷で倒し、歴代最強の白龍皇を倒したと聞いたときは耳を疑ったが、なるほど……確かにそれほどの力量はあるだろうな」

「むしろ俺も驚いてるぜ、サイラオーグさん。よくもまあそこまで極端に鍛えられるもんだ。尊敬するほかない」

 

 俺は多少意味深にそう言うと、サイラオーグさんは嬉しそうに笑みをこぼした。

 

「ほう……強さだけではないということか。まあ立ち話もなんだ……またゆっくり話そう」

「……で?サイラオーグは何故この場にいるのかしら?」

 

 部長は仕切り直しというようにそういうと、するとサイラオーグさんは嘆息した。

 

「くだらないから出てきた。既にアスタロト、アガレスも来ているんだが……面倒なことにグラシャラボラスまで来ていてな……早速口論になった」

「…………心中察するわ、サイラオーグ。でも放っておいて大丈夫かしら?アガレスはともかく、グラシャラボラスの方は自制心というものが……」

 

 部長がそう言った瞬間だった。

 ドガァァァァァァァァァアアアン!!!!…………突然、そんな激しい轟音が離れた会合の会場の方から聞こえてきた!

 

「ったく、なに暴れてんだよ!」

 

 俺は溜息を吐きながらも轟音の音の大きさから心配になって、会場の方に駆け走って行った。

 

「い、イッセー!?ちょっと、まだ今回の注意とか言ってないんだけど!?」

「すんません、後にしてください!!アーシア、一応ついてきてくれ!!」

「は、はい!!」

 

 俺はけが人がいるかもしれないという心配からアーシアの手を握って走る。

 

「ははは!リアス、なかなか面白い男を眷属にしたな」

「笑い事じゃないわ!サイラオーグ、あなたもついてきて!」

 

 部長が後ろでそんな会話をしているのをそっちのけで俺は轟音の響いた会場の方に走っていき、そして大きな扉を勢いよく開けた。

 そしてそこには―――まるでテロでもあったと疑いたいほどのボロボロとなった会場の風景だった。

 そしておそらく会場をそうした人物が二人……厳密にはその眷属がそれぞれ強いオーラを発しながらにらみ合いをしていた。

 そしてそれを全く止めない笑顔な悪魔が優雅に茶を飲んでたけど……止めろよ、バカか。

 とにかくけが人とかはなくて良かった。

 

「グラシャラボラス、あなたは馬鹿なの?こんなところで戦闘を始めようとするなんて……これだから野蛮な男は嫌いなのよ」

「はぁ!?ったく、こっちが気を利かして別室に女にしてやろうとしてんのによ。アガレスの女どもはガードが堅くて仕方ねえな!そんなんだから男が誰もすり寄ってこねえんだろ?処女臭くて仕方ねえ!!ははははは!!」

 

 うわぁ……面倒な男だよな。

 ってかあれのどこが上級悪魔なんだろうか……部長や会長、サイラオーグさんは上級悪魔としての気品ってもんがあったし、見た感じあのアガレスの女の人も上級悪魔らしい。

 だけどあの男……上半身は裸だし、どこぞのヤンキーみたいにタトゥなんかやってるし……なるほど、部長やサイラオーグさんが溜息を吐いた意味が分かった。

 

「い、イッセーさん……どうしましょう……ちょっと怖いです」

「安心しろ、アーシア」

 

 俺は少し怖がるアーシアの頭を撫でてあげると、するとつい視線を感じた。

 

「……なんだ?」

 

 先程まで優雅にお茶を飲んでた笑顔の男が一瞬、憎憎しそうな表情で俺を見ていたような……ちょっと試してみるか。

 

「アーシア、ちょっと目をつぶってみてくれ」

「目をですか?」

 

 アーシアは半分疑問に抱きながらも目をつむってくれて、俺は男の方に背を向け、アーシアが完全に隠れるように立って少し頭を屈んだ。

 たぶん後ろから見ればキスしているように見えるはずだけど、実際には頭についてた毛屑を取ってただけだ。

 だけど突如、机ががたんとなり更にティーカップが割れるような音が聞こえた。

 …………ま、とにかくなんか知らないが俺は嫉妬されてたってわけか。

 でもあいつ、視線がどうにも気味が悪いからアーシアはあいつには近づけないようにしよう。

 って問題はあっちだよな……

 

「ここはお前たちが使っていたホールとはまた違う、若手悪魔が軽く挨拶をする場だったんだが……血気盛んでプライドの高い若手悪魔を一緒にするというところが愚の骨頂というところか。あの通り、予想通りに喧嘩を始めたんだ」

 

 遅れてその場に到着したサイラオーグさんは俺にそう言ってきた。

 なるほどな……そう言ってもアガレスのあの女の人は迷惑そうにしてたけど。

 

「鎧はやり過ぎか?でも介入するためには力を見せつけないといけないし……はぁ、面倒くさい!」

 

 俺はその場で全力の魔力を開放する。

 俺の体から赤いオーラが噴出し、そして俺はホール全体から視線を集めることになった。

 

「ほう……俺がしようとしていた介入とはまた違うが、だが面白いな」

「そういうんだったら初めからあの二人を止めておいてくれよ」

 

 俺はサイラオーグさんにそういうけど、依然として彼は笑っているだけだ。

 

「おいおい、そこの下級!しゃしゃり出てんじゃねえぞ!?」

 

 ……思ったより簡単に釣れたな、あの上級悪魔。

 今までアガレス家の女の人に向いてた殺意が俺に向けられたと思うと、俺はアーシアを背に隠し、魔力放出を止めて何も言わずに三下臭のする男をにらみつけた。

 

「何見てんだよ、お前!見てんじゃねえ!!」

 

 すると男は俺に向かい魔力弾を行使してくるが…………残念なことに、それは同じ魔力弾で相殺する必要もなかった。

 俺は向かいくる魔力弾に対してただ神器も使っていない拳を放った。

 拳の表面に多少の魔力を覆うだけの拳だけど、それだけで魔力弾は消え、俺の拳から煙が少しだけ浮かぶ。

 

「い、イッセー!!」

 

 そして少し遅れて部長が俺の名を呼びながら登場する……まあ手は出してないから大丈夫だろう。

 

「おぉ?お前、もしかしてリアス・グレモリ―の眷属だったか?おいおい、聞いてくれよグレモリー。お前の眷属が俺に喧嘩売ってくれてよぉ……お詫びついでに別室に来てやらせ」

 

 ……男が部長に下心満載の表情で近づこうとした瞬間、俺は動き出した。

 さっきまでは俺たち眷属に関係なかったけど、部長に手を出そうとするなら話は別だ!

 俺は赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を展開し、一度の倍増と共に男の前に一瞬でたどりつき、そして拳を当てようとした瞬間だった。

 

「お前が手を下すまでもない、兵藤一誠」

 

 ……サイラオーグさんが男の前に立ちふさがっていた。

 俺は寸前のところで拳を止めて、神器を消した。

 それを見るとサイラオーグさんは男の方に体を向けて、上から見下げた。

 

「ゼフォールド・グラシャラボラス、最終忠告だ。おとなしくしろ。この場で暴れることも、ましてや俺の従妹であるリアスを手にかけることも許さん」

「邪魔すんなぁぁ!!!バアル家の無能―――」

 

 男……グラシャラボラスが最後まで言葉を発することはなかった。

 サイラオーグさんに襲いかかろうとした瞬間、男の腹部にサイラオーグさんの迫力ある拳が突き刺さったからだ。

 その打撃音の後、グラシャラボラスの体は大きく後ろにそれ、そしてそのまま壁に衝突して壁に大きなクレーターが生まれた!!

 グラシャラボラスはそのまま意識を失ったのか、ぐったりとその場に倒れた。

 ……速い。

 俺の前に立った時も思ったけど、サイラオーグさんはとんでもなく早く、そして圧倒的なパワーだ。

 俺が先程、サイラオーグさんに皮肉のように言った言葉の理由はこれだ―――この人は悪魔としてはあり得ないけど、魔力というものが全然感じられなかった。

 それこそ全く……だけど俺はサイラオーグさんが弱いなんて全く思わなかった。

 むしろ逆…………この男は若手悪魔にしては強すぎるだろうな。

 俺は武者震いをするように体が震える。

 ……っていうか部長の従妹だったことに内心驚いた。

 

「……最終忠告と言ったはずだ」

「おのれ、貴様!!よくも我が主を!!」

 

 するとあの男の眷属がサイラオーグさんに襲いかかろうとしたから、俺は神器を再発動してサイラオーグさんの前に立って眷属どもに拳を向けた。

 

「ここでこの男とやりあってもお前らの主の二の舞だ。それよりも主を本当に大切に思うなら主を回復させたらどうだ?これは同じ眷属悪魔としてのアドバイスだけど」

『………………』

 

 俺がそういうとあいつの眷属は頷いて、壁のあたりで倒れている主のもとに駆け寄った。

 

「俺のセリフを取ってくれるな、兵藤一誠」

「ははは……悪いな。あと、俺のことは気軽に一誠でいいよ。本当なら俺は敬語を使わないといけないんだからさ」

 

 ……俺とサイラオーグさんはどちらともなく笑う。

 改めてわかった―――この男は俺とどこか似ている気がする。

 たぶん向こうも同じことを思っているだろうな…………なんとなくだけど。

 

「イッセー…………あなた」

 

 …………やばい、部長のことを忘れてた。

 めちゃめちゃ不機嫌オーラを出しながら腕を組んで俺を見てる!あとサイラオーグさんの方も!

 

「とりあえずイッセー……正座よ?」

「はい…………」

 

 俺はそう頷く。

 

「アガレス、まだ時間はある……一誠が叱咤を受けている間に化粧直しでも行け。一度殺気立ったのであればそれを洗い流した方が良い」

「……わかってます」

 

 そしてあの男と喧嘩をしていたアガレス家の女の人もその場から立ち去り、そして俺はそれから数分の間、部長から叱咤を受けることとなった。

 

「ごきげんよ―――何ですか、この状況は」

「い、イッセー!?どうしたんだ!いったいお前ほどの男がなぜ正座をしているんだぁぁぁ!!?」

 

 そして会長率いるシトリー眷属が会場入りしたのがそのすぐ後であった…………正座はきついなぁ~……

 

 ―・・・

「私はアガレス家の次期当主、シーグヴァイラ・アガレスです。先程はお見苦しい姿をお見せしたこと、お詫び申し上げます」

 

 先程の雰囲気とは一変、若手悪魔の『王』たちは挨拶を交わしていた。

 ボロボロになった会場は駆けつけたスタッフによりほとんど修復され、今は例のゼフォールド・グラシャラボラスの眷属を抜いた5人の悪魔が顔合わせをしていた。

 そして化粧直しを終え、アガレス家の次期当主の女性がお詫びも込めて挨拶をした。

 そしてそれに続くように部長、会長、サイラオーグさん―――グレモリ―家、シトリー家、バアル家の次期当主の皆さんが挨拶をした。

 

「グレモリ―家次期当主、リアス・グレモリ―です。こちらこそ私のイッセー……『兵士』が迷惑をかけたわ」

「シトリー家次期当主、ソーナ・シトリーです。先程の騒動の場には居合わせませんでしたが、よろしくお願いします」

「バアル家次期当主、サイラオーグ・バアルだ。最初に収拾をつけなかったことを詫びよう」

 

 三人のあいさつが終わり、そして最後に先程優雅にお茶を飲み、俺の挑発に反応した男が挨拶した。

 

「僕はアスタロト家次期当主、ディオドラ・アスタロトです。以後お見知りおきを」

 

 ……今は特に邪険さは感じないけど、でもこういういつも笑顔を浮かべている奴は信用できないんだよな、経験的に。

 とりあえずアーシアを気になっているみたいだから、アーシアは俺の傍に置いておくか。

 まあとにかく、5人の挨拶は終わって少し談笑する場となったので、俺は匙のところにいった。

 

「おっす。久しぶりだな、匙」

「おお、イッセー!聞いたけどお前、上級悪魔の方々の喧嘩に首突っ込んだってな!流石って言いたいけど、手はいくらなんでも出さない方がいいぞ?」

「それはもう部長に大目玉くらったよ」

 

 俺は先程の説教を思い出してげんなりする……でも確かに少し自制しないとな。

 ここから先は俺等よりも身分の上の上級悪魔もいることだし、下手なことをして部長の評価を下げるわけにはいかないな。

 ……でも俺にそんなことできるかな?仲間をバカにされたらもう冷静さなんか無くなるとしか思えない。

 

「俺の性質みたいなものだからな……ある程度は我慢できるとは思うけど…………」

「イッセーはそう言うよな。だけどお前の仲間だってイッセーが非難されるとこなんて見たくないだろうからさ」

 

 珍しくも匙が俺を心配してくれる……元々世話焼きな性格だからそれも仕方ないか。

 それと人情深い男でもあるし……まあそんなところを俺は気に入っているんだけどな。

 

「イッセー、ちょっといいかしら?」

 

 すると俺の前には部長がいて、俺を呼んでいるようだった。

 

「どうしたんですか、部長」

「あなたを紹介してほしいとシーグヴァイラさんが言ってきたのよ。いいわね?」

「部長が言うのであらば、従います」

 

 俺は匙に手を軽く送って、そしてアガレス家次期当主のシーグヴァイラさんのところまで部長と共に歩いていく。

 シーグヴァイラさんの隣にはサイラオーグさんが腕を組んだ状態で立っており、部長は俺を紹介した。

 

「彼は私の『兵士』の兵藤一誠よ。一応、『兵士』は彼ひとりなのだけれど……」

「初めまして、シーグヴァイラ殿。俺は兵藤一誠です。先程は不遜な真似をしたこと、お詫びします」

「いえ、助かりました。あの場でかの凶児、ゼフォールド・グラシャラボラスとやりあわずに済みました」

 

 シーグヴァイラさんは柔らかい対応でそう言ってくれる。

 改めて彼女を見ると、すごくきれいな人だ。

 眼鏡をかけているのがインテリっぽくて高貴に見えるし、おそらく頭もまわる人だろう。

 それに着ているドレスも露出の少ない感じで清楚って感じがするし、綺麗って言葉が一番しっくりくるな。

 

「先程のオーラから察するに……あなたが赤龍帝ですか。ですが神滅具の力を使わずにあの魔力のオーラ……相当の実力と察します」

「身体能力だけでもかなりのものだ。察するに鍛えるのを怠っていないとみる」

 

 すると隣のサイラオーグさんが俺の方を好奇心旺盛に見てくる。

 

「主を守らないといけないからな……それぐらいはして当然だと自負してるよ」

「そうか。リアス、良き『兵士』を持ったな。力以前にこれほどの良き心だ―――さぞ惚れ込んでいるのだろう」

「なッ―――サイラオーグ!!!」

 

 部長は顔を真っ赤にしてサイラオーグさんの名を叫ぶ。

 ……まあこの三人はうまくやっていけるだろうし、ソーナ会長も社交的で知的な人だ。

 だけど未だ誰とも話そうとしないディオドラ・アスタロト……あの人は何を考えているんだろう。

 まあいい。

 とりあえず俺は居心地の悪そうなゼノヴィアのところに行った。

 

「やっぱり居心地が悪いか?ゼノヴィア」

「……イッセーか。いや、そういうわけではないのだが……まあこれまで敵としていた悪魔がこれほどいるものでな」

「元教会出身にはきついか」

「だがイッセーが来てくれたおかげで随分と楽になったよ。相変わらず居て欲しいときにいてくれるな。だから私は惚れたのだが……」

 

 ゼノヴィアは躊躇いもなく俺に大胆にそう言う……そこまで真正面から好意を示されたら俺もちょっと恥ずかしいッ!

 

「ははは!イッセーが照れる姿は可愛いな!アーシア、お前も来てみろ。イッセーが可愛いぞ?」

 

 すると少し離れたところで朱乃さんと話をしていたアーシアが不思議そうな表情でこっちに来た。

 

「なんですか、ゼノヴィアさん」

「イッセーに自分の想いをぶつけてくれないか?」

「はぁ…………イッセーさん、いつもいつも一緒にいてくれてありがとうございます!大好きです!!」

 

 や、やめてくれぇぇぇ!!

 恥ずかしくて死にそう!!死なないけど、やっぱ死にそう!!

 なんだこの甘くも苦しい空間は!!

 この俺が遊ばれている!?

 

「あらあら、可愛いイッセーくんですわ…………うふふ、苛めっ子の苛め心をくすぐる可愛さですわ」

 

 うそ~……朱乃さんが舌なめずりをしながら妖艶な様子でこっちに来た!

 それだけじゃなくてさっきまで物陰に隠れていたギャスパーまでこっちに来たし!

 そして小猫ちゃんも来たけど、彼女の様子が明らかに不機嫌だ!

 

「イッセー先輩、僕も大好きですぅ!!」

「ギャスパーやめろ!これ以上俺をいじめるな!!」

 

 若手が集まる場なのにいつも通りか!

 全く俺の仲間は肝が据わってる!人のこと言えないけど!!

 

「…………イッセー先輩を苛めるのはやめてください」

 

 ……すると小猫ちゃんはその空気を破壊するような声音でそう言ってくれた。

 それを皮切りにその場は収拾がついたけど……小猫ちゃんの様子も昨日に比べたらマシになったな。

 

「小猫ちゃん。もう昨日のことは……」

「……昨日のことは忘れてください。どうにかしてました…………でももしかしたら迷惑かけるかもですから……」

「その時は遠慮しなくていいよ」

「……はい」

 

 小猫ちゃんは少し笑顔を見せ、はにかむように笑った。

 それと同時にその場に使用人が登場して、俺たちを会合の場に案内する。

 そして始まる……若手悪魔が勢ぞろいする会合が。

 

 ―・・・

 俺たちが連れていかれたところは異様なほどの魔力が交差する会場だった。

 俺たちが立っているななめ上の方に大きな席がいくつも並んでおり、そこには上級悪魔と思われる初老などの威厳さたっぷりの悪魔。

 まあそっちからは特に強いものは感じないけど、やばいのはその上だ。

 一番上の席には俺も知るサーゼクス様、その隣にセラフォルー様がいらっしゃり、そしてその隣には知らないけど恐らく魔王様なんだろうな。

 残り二人の魔王という四大魔王が集結していた。

 そして眷属を後ろにして、各悪魔の主がその悪魔の方々の前に立つ。

 先程サイラオーグさんにぶっ飛ばされたヤンキーみたいな男は回復したのか、だが腹部に痣が残っており、時折サイラオーグさんを睨みつけているな。

 そして6人の若手悪魔がそんな風に並び立つと、上級悪魔のお偉いさんの一人が威圧的な声音で話し始めた。

 

「よくぞ集まってくれた、次世代を担う若手の者たちよ。この場を設けたのは一度、この顔合わせで互いの存在の確認、更には将来を競う者の存在を認知するためだ」

「早速やってくれたようだがな」

 

 老人風の悪魔がそう言った後、その隣の年老いた悪魔が皮肉を言う。

 まあそうですよね……顔合わせの一番最初にホールを半壊させるとか、俺も流石にどうかと思うけど。

 

「まあ若気の至りというものもある。君たち若手悪魔の実力は申し分ない。よってこの会合を皮切りに、互いに力を高めてもらいたいものだね」

 

 すると一番頂上にいるサーゼクス様が俺たちに向かってそう言ってくれた。

 たぶん魔王の中でもサーゼクス様がリーダー格なんだろうな。

 するとその時、サイラオーグさんが挙手をした。

 

「一つ質問をしても宜しいでしょうか、サーゼクス様」

「なんだね、サイラオーグ」

「……我々、若手悪魔もいずれは禍の団(カオス・ブリゲード)との戦に参戦するのでしょうか?」

 

 サイラオーグさんはそこまで見越しているのか……といっても俺たちグレモリ―眷属はいやでもテロ組織に狙われる可能性が高いからな。

 そのことを知っている上での進言だろうけど。

 

「できれば私たちとしては君たちを戦に巻き込みたくはない」

「ですが、実際にこの場にはテロ組織とまともにやりあって生きて帰ったものだっています。若手ですが我々の悪魔の一端を担うもの。悪魔の世界のためにも尽力を尽くしたいと―――」

「サイラオーグ。君のその勇気と力は私も認めているよ。だけど前回……私の妹の眷属が巻き込まれたことも私は嫌でね。君たち若手は私たちの宝だ。君たちほどの有望な若手を失うのは私としても心苦しい。発展途上の君たちは段階を踏み、確実に強くなってくれ」

 

 ……サーゼクス様の言葉でサイラオーグさんはぐうの音も言えなくなり、そのまま発言を取りやめた。

 そしていろいろな悪魔の方々の言葉をいただいて、サーゼクス様は最後といった風に話す。

 

「長話をしたが、最後に君たちには本当に期待している。だから私に聞かせてくれないか?君たちの目標……野望でもいい。それを聞かせてくれ」

 

 サーゼクス様はうっすらと笑ってそう言う…………と共にその言葉に最初に反応したのはサイラオーグさんだった。

 

「俺の夢は魔王となることが夢です」

 

 ―――場が騒然とする。

 すげえな、サイラオーグさん!あれだけの悪魔を前にして、何の迷いもなく真正面から言い切った!

 流石のあの悪魔の方々もその真っ直ぐさに感嘆を漏らしていた。

 

「ほう……大王家から魔王か。すさまじい目標であるな」

「俺が魔王になってほしい、それほどの男であれば自然と俺が魔王となるでしょう。そうでなければその程度の男と言うまでです」

 

 やっぱりサイラオーグさんはすごいな。

 そうしていると、次に間髪を入れず部長が進言した。

 

「私の目標はレーティングゲームの覇者となり、愛する眷属と共に精進する……それが現在の、近い未来の目標です」

 

 部長がそういうと、先ほどと同じほどの感嘆を漏らす声が聞こえる。

 そしてそのあと若手の悪魔の人たちがそれぞれの抱負、目標を言って最後はソーナ会長の番となった。

 

「私の目標は…………冥界にレーティングゲームの学校を建てることです」

 

 レーティングゲームの学校?

 でも確かレーティングゲームを学ぶ上級悪魔の学業施設は存在しているはずだ……アザゼルが俺に教えてくれたから間違いない。

 

 それはそこまで難しくないはず……だけどソーナ会長ほどの人がそれだけで終わるわけはない。

 するとソーナ会長は間髪入れず言葉を続けた。

 

「レーティングゲームの学校と言っても、現存する上級悪魔や特例の悪魔のための施設ではありません―――平民、下級悪魔、転生悪魔……そんな悪魔が平等に学ぶことのできる、そんな学校を作ることが私の目標です」

 

 ―――ッ!!

 すごい……やはりその程度ではない人だ。

 この場で、そんな壮大な目標を語れるこの人はやっぱり只者じゃない!

 俺は心の中でソーナ会長の目標に感嘆するが、だけど上にいる悪魔の方々は眉を細め、どこか見下げるようにソーナ会長を見ていた。

 なんでそんな目をする?―——俺はふと嫌な予感がよぎった。

 そしてその予感は的中してしまう。

 

『ハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!!!!』

 

 ……突如、その場で起きる嘲笑。

 俺たち若手側の悪魔は一部を除けば誰も笑っていない……だけど上の魔王様を抜いた悪魔共は会長を嘲け笑う。

 なんだそれ……人の夢を、目標を、祈願を!なんで笑ってんだ!!

 俺の拳を握る強さがつい強くなる……と同時に俺の腕を引く祐斗。

 

「これは笑える!笑い話としては腹がよじれるぞ!!」

「言うに事欠いて下級のための学校?―——冗談としてはなかなかのものだぞ!!」

「無謀にして傑作!そんなものを語るのが正式な場ではなく、この場でよかったものだ」

 

 ふざけんな……なんだ、この腐った老害どもは……ッ!!

 

「ダメだ、イッセー君。君は聞いていないかもしれないが、この場で上に逆らうのは得策じゃないッ!」

「……んだよ、それ。んなこと分かってる!でも……」

 

 あそこで一人、あんな罵倒を受けるソーナ会長を見て、なにもしないなんてそんなことできるわけがない!

 

「私は……本気です」

 

 ……会長は少し手が震えるものの、真っ直ぐ上を見る。

 

「本気ならばなおさらそのような愚考を考え直されよ、ソーナ殿。いくら魔界が変革期に入っているからとはいえ、悪魔とは上級悪魔が下級、転生者を見定め、下の者は力を示してのし上がるのが常だ。それをそのような乙女の夢ごとのように語りよって……旧家の家の顔も丸つぶれも良い所でありますぞ」

 

 ――――――腐っている、あの糞悪魔は。

 なぜ人の夢を汚されないといけない?目標を持つことがどれほどの素晴らしいことか、なんでわからない?

 この場でその言葉を浴びせられることを覚悟していたはずのソーナ会長がなぜそんな言葉を浴びせられないといけない?

 悪魔は…………俺の思い描いていたものとはやはり違うってのか?

 

「ごめん、祐斗」

 

 俺は祐斗の手を振り払い、老害どもへと殺意を込めてにらみつける。

 俺の付近で塵が燃えるような音がバチバチと聞こえ始め、近くにいたそれぞれの眷属悪魔は俺を見た。

 ―――っとその時だった。

 

「なんでっすか!!なんで……ソーナ様の夢をバカにするんですか!!たとえそれがそうであっても、貴方たちに会長の夢をバカにする権利があるんですか!!?」

 

 ……匙が、一歩前にでてそう言った。

 あいつ……あれほど俺に言っておきながら自分がそれをすんのかよ。

 ったく、あいつは―――最高の男だぜ。

 

「匙、やめなさいッ!この場であなたがそれを言う権利は……」

「いやっす!!たとえ会長の命令でも、俺の目指す男は絶対に引きません!だから俺は自分の言ったことを撤回なんて絶対しないっす!!」

「……ふん。主が主であれば下僕も下僕と言ったところだな。全く……これだから人間の転生者など高がしれて―――」

 

 …………くそ、どうしてくそ悪魔は一度覚めた俺の冷静さをまた消すようなことを―――言うんだろうなッ!!!

 俺は全力の殺気……コカビエルに対して最後に浴びせた殺気以上のものを老害どもに浴びせた。

 

「―——ッ!!貴様!名を名乗れ!!そのような殺気を我々に向けるなど、謀反だ!!」

 

 ……老害の一人が俺の方に視線を向けて、そう発言する。

 でも俺は何も言わない―――こんな奴らと口をきいてやる必要もない。

 眷属の皆も、周りの他の眷属も俺の方を見てくる。

 だけど俺は視線を外さず、じっと老害を見る―――正しいはずはないだろうけど、親友に“俺の目指す男”なんて言われたら引き下がれない。

 

「名乗れと言っている!!この場からつまみだされ―――」

「ああ~、ああ~、うるせぇなぁ~~~、老害ども」

 

 ―――ッ!?

 その場に俺の声とも違う、今まで聞いたことのないような第三者の声が聞こえた。

 その声は俺たちの立つその後ろ…………会場の入り口から聞こえた。

 そこには男がいた。

 指にいくつもの高級そうな指輪をつけ、目つきはギラギラと鋭く髪はオールバックでいかにも悪魔らしい風貌。

 真っ黒なコートを羽織って、ポケットに手を突っ込んで歩いていく。

 俺たちの隣を通り、そして通り過ぎるさなか俺の首根っこをつかんで匙の隣に行き、そして俺を匙のとなりに立たせた。

 

「自分じゃあ行動に起こせない無能が勝手なこと言ってんじゃねえよ、ははは!!」

「な、なぜ貴様がここにいる!!名家は今回の席は欠席すると言っていたはずじゃ!!」

「はあ?んなの知らねえよ。暇つぶしに来てみればミドコロある奴がいてよぉ……ってかお前、誰に向かって話してんのかわかってのか?」

 

 すると男は一番先頭に立ってその老害を睨みつけ、そして魔力をオーラとして威圧するために放つが―――ッ!?

 この力……間違いなくコカビエルを上回っている!

 なんだ、この男は……

 

「……そのくらいにしてもらえないかな」

 

 するとサーゼクス様はその場に立ち上がって男に向かってそう言った。

 隣のセラフォルー様は何故か俺たちに向かって親指を立てて「グッジョブ!」って言う風な顔をしてるけど……まあシスコンだから仕方ない。

 

「おい、サーゼクス。お前らは有能だが、なぜそんな無能を飼い馴らす?俺ならさっさと捨てて有能な奴をこの場に置くがなぁ」

「……名家である君がそんなことを言えば、どうなるかはわかっているだろう」

 

 ……待て、名家?

 じゃあなんだ……もしかしてこいつは―――

 

「おっと、餓鬼共に自己紹介がまだだったな……俺はマモン」

 

 ……その名が会場に響く。

 

「三大名家、マモン家当主のガルブルト・マモンだ。覚えておけ、若手ども」

 

 ――――――ガルブルト・マモン。

 その男はまさかのタイミングで現れたのだった。

 そしてその男の登場が会場の空気を一変させることとなった。

 


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