ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第2話 修行と冥界突入です!

 俺は汽車に揺られながら考え事をしていた。

 アザゼルとの三大名家についての話をしてから既に数十分が過ぎていて、アザゼルは神器研究のためか資料を見ていて、小猫ちゃんはさっきまでと同じように俺の膝で眠ってはおらず、今はガラス張りの窓に頭を寄せながら眠っている。

 先程、三大名家の一つ、マモン家当主のガルブルト・マモンの名を聞いてから小猫ちゃんの様子が急変したこと。

 俺はそのことをずっと考えていた。

 あの小猫ちゃんが今まで聞いたことのないような声音で淡々と語っていた話の内容を思い出しながら、俺は腕を組んで考える。

 ……考えてみたら俺は小猫ちゃんのことを何も知らないよな。

 塔城小猫。

 部長の『戦車』の駒の下僕で、そして何よりも俺の可愛い後輩だ。

 よく暴走もするし、そこにも愛嬌があることも知ってる……そしてアーシアや部長、みんなと同じように俺に好意を持っていることだって分かってる。

 だけどそれだけだ。

 俺はそれ以外の小猫ちゃんのことを何も知らない。

 それがどうしても―――悔しかった。

 大切な後輩にあんな声を出させてしまうなんて、先輩失格だ。

 

『主様、ですがどうしようもありません。主様がどんなに思っていても、今の状態では主様ができることなんて高がしれています』

『いや、フェルウェル。俺たちは知っているはずだ…………兵藤一誠という男はそんな普通の理論が通用しない男だということを……そしてそんな性質が、俺たちが相棒のことを慕う理由ということも』

『しかし何も言ってこなければ解決できるものも解決なんて……』

『それをどうにかしてしまうのが相棒だよ……なぁ、相棒……実は何をするべきなんか理解しているんじゃないか?』

 

 ……ドライグは全部悟っているといいたい風に俺にそう言ってくる。

 ―――確かに、弱音を吐くのは俺らしくもないな。

 信じたことをバカみたいに突っ走る……それが俺だよな。

 ったく…………認めたくないけど、やっぱりお前はいい親父だよ、ドライグ。

 

『な、に―――?ま、まさか相棒…………俺のことを……とうとう認めてくれたのか?』

 

 ……まずい、変な地雷を踏んだのかもしれない。

 わなわなと震えるドライグの歓喜の声が俺の心に染み渡ってくるッ!

 

『は、ははははははははははは!!!!どうだ、フェルウェルよ!!!何がマザーだ、パパに敵うはずもなかろう!!!!』

『……ドライグ、表に出なさい』

 

 お、俺の中で赤い龍と白銀の龍が暴れる!

 いや、魂だけの存在だから周りに被害を出すわけではないが、こいつらが喧嘩をしたらフィードバックで俺に精神的ダメージが来るんだよ!!

 

「……?イッセー、もしやドライグとフェルウェルが暴れているのか?さっきからお前からピリピリとしたドラゴンのオーラが出ているんだが……」

 

 するとティアは俺の席のすぐそばに立っていて、不思議そうな表情でそう尋ねてきた。

 ……腐っても龍王、そういう雰囲気は読めるんだな。

 場の空気は簡単に破壊するけど。

 

『来い、フェルウェル―――今の俺は誰にも負けんッ!!』

『その減らず口をへし折ってあげましょう!!!』

 

 っておいおい、マジで喧嘩はじめんのか!?

 自重しろよ、仮にもパパとマザーだろ!?

 

「諦めろ、イッセー。いいか……親というものは、時にして戦わねばならないんだ」

「んな格言いらねえんだよ!むしろ今は俺の戦いだよ!!」

「しかしな、イッセーの中での喧嘩を私はどうこうできないわけだが……オーフィス、どうにかできないか?」

 

 すると今までずっとぼうっとしていた俺の斜め前に座るオーフィスは俺の方をじっと見て、すくっと立ち上がる。

 

「方法、無いことない」

「ならオーフィス!ドライグとフェルを止めてくれ!!」

「…………わかった」

 

 ――――――するとオーフィスは何故か着ている服の首元のリボンを解き始めた。

 ……ってなにやってんの、マジで!!

 オーフィスの突然の行動に俺だけではなくその場にいる眷属の皆、更には眠っていたはずの小猫ちゃんまでもが驚いていた。

 

「他人の精神、入るの難しい。しかし我、ドラゴンの力、宿すものなら可能…………方法、より深い接触」

「お、オーフィス?まさかと思うけど深い接触って……」

「………………生物的繁殖活動」

 

 ……オーフィスは多少もじもじしながらそんなことを言ってのけた。

 

「な、なん、だと…………そうか、より深いつながりを作り、そしてその繋がりから他者への精神にダイブする……龍法陣の活用かッ!?龍というつながりがあるから故に成功する…………さすがは龍神というべきだな、オーフィス!!」

「いや、なに感銘を受けてんだよ、ティア!!そしてオーフィスは服を脱ぐなぁぁぁぁ!!」

 

 俺は慌てて脱ぎ続けるオーフィスの手を止めようとする。

 ……が、その時だった。

 

「ん…………イッセー、大胆」

 

 ―――まるで狙いすましたようにオーフィスは軽やかに移動し俺の手はオーフィスの手ではなくオーフィスの胸へと吸い込まれるように誘導された。

 ふにゃん、という感触が俺の掌に…………ウソだろぉぉぉぉぉ!?

 

「ふふふふふふふふふ………………あれだけ説教してもまだわかっていないのね、イッセー……そうなのね…………」

「あらあら……ちょっとおいたが過ぎましたわ」

 

 ……俺の後方からメラメラとした魔力のオーラと、更に鞭がしなるような音が聞こえた。

 ははは―――振り向かなくても分かる。

 もうあれだな……四面楚歌、俺にはもう味方がいないんだな。

 俺は若干あきらめムードに入った。

 

『く……まさかドライグがここまでやるとはッ!』

『ははは!どうだ、これが父性に目覚めた天龍の力だ!さあ、まだまだ勝負はこれからだ―――俺は知っているぞ!!相棒は実は昔、迷子になって泣いたことがある!貴様はそんな相棒を見たことはあるまい!!』

『何を!わたくしだって主様を慰めたことがあります!』

 

 ……勝負って俺の暴露大会のことじゃねえか!!

 ウソだろ、俺に誰も味方がいないってどういうことだよ!

 っていうかこの事態を収拾するための方法が俺には思いつかない!

 

「イッセー、私は悲しいわ―――揉むのしたってもっと大きいほうが良いでしょう?私ならいつでも受け入れ可能だわ」

「リアス、何もわかってない――――――そんなもの、ただの脂肪」

 

 …………オーフィスの発言に俺たちの空気は冷えに冷える。

 しかもよく見たら眷属の中の小猫ちゃんとかアーシアとかギャスパーが、うんうんっていう風に頷いている!

 

「あらあら……持たざる者と持つ者の違いを分かっていないのですか?」

「オーフィス、それは私も聞き捨てならないぞ?本にも書いてある……男は大きいほうが好きだと」

 

 おっと?

 雲行きが怪しくなってきたぞ?

 オーフィスの発言に朱乃さんとゼノヴィアまで反応してるし、なぜだかオーフィスを先頭に小猫ちゃん、アーシア、ギャスパーはチームを組んでいるみたいに固まってる!

 この中では小柄なメンバーだ。

 そして対抗馬に部長、朱乃さん、ゼノヴィア、なぜかティアといった風にスタイルが女性らしいメンバーがオーフィス達とにらみ合いを始めてる…………

 俺は助けを求めるようにアザゼルのほうを見ると、するとそこにはいたずらな表情を浮かべた堕天使の総督がいた。

 

「まあまあそんな喧嘩すんなって……そんなにイッセーの趣向を知りたいなら、試してみればいいんじゃねえの?」

『――――――――――――!!?』

 

 アザゼルの言葉を聞いた瞬間、俺を除く女子メンバ―ははっと俺のほうを同時に見てきた。

 

「あ、アザゼルぅぅぅ!?お前、謀ったな!!わざとだろ、それ!!!」

「はい?俺も年だなぁ……視力が低下してきたみたいだぜ」

「視力関係ねえだろ!!おい、どうしてくれんだ!!みんなの目がギラギラしてんじゃねえか!!」

 

 俺は少しずつにじり寄ってくるみんなに対し、一歩後ずさりをする。

 どうしてだろう…………悪い予感しかしない。

 この状況から脱出する方法を考えるんだ、じゃないと大変なことになってしまうッ!!

 何か…………そう思った瞬間、俺は女神を見つけた。

 

「んん~・・・あ、にいちゃんだ!ヒー、メル、おきて!!」

「にぃに~~~~」

「にぃたん、にぃたん~」

 

 すると俺のもとに全力でダイブしてくる可愛い可愛い俺の使い魔……フィー、ヒカリ、メルが俺の胸に嬉しそうに抱き着いてきた!

 め、女神だッ!

 俺のこの状況を唯一救ってくれるのは、もうこの子達しかいない!!

 

『……………………』

 

 すると一同も自重してか、にじり寄る歩みを止めて納得できないような表情しながらも進行を止める。

 流石に小さな三人の前では暴走も止まるか……助かった!

 

『はぁ、はぁ…………さすがはマザーを名乗るだけのことはあるッ!まさかここまで俺と対等に戦えるとは』

『わたくしも貴方を見くびっていたようですね―――大した”愛”です』

 

 ―――お前らはまだそんな争い続けてたのかよ。

 俺は心の底から溜息を吐いて肩を落とした。

 つーか、俺のシリアス返せて、ちくしょう!!!

 

「はは……トイレから帰ってきたらすごいことになっているね、イッセー君」

「祐斗……なあ、トランプでもしないか?」

 

 俺は苦笑いをする祐斗にそうすがるのだった。

 ちなみにそれから少しの間、先ほどのチームは硬直状態で睨みあいを続けていたというのは内緒だ。

 

 ―・・・

「ほい、あがり」

 

 先程の騒動が嘘のように俺たちは今、トランプをしていた。

 トランプをしているのは俺と祐斗、ゼノヴィアに部長、朱乃さんでアーシアは最近母さんに教えられてハマっている編み物をしている。

 オーフィスはフィー、メル、ヒカリと戯れている。

 小猫ちゃんは……ギャスパーと携帯ゲーム機で真剣勝負をしていた。

 ……少し前の冷たい感じは、今は見受けられないな。

 ちなみに俺達はババ抜きをしていて、今のところ俺の負けなしといった具合だな。

 

「…………イッセー君、強すぎるよ。一度もジョーカーを引いていないんじゃないのかい?」

 

 祐斗は苦笑いをしながら俺にそう言ってくる。

 確かに一度もジョーカーは引いてないけどな…………言っちゃ悪いが、この中のメンバーは全員表情でどこにジョーカーがあるのかが手に取るようにわかる。

 まあこの中でのポーカーフェイスは朱乃さんくらいかな?

 部長もなんだかんだで表情に出てるし、ゼノヴィアはおバカだし。

 祐斗も惜しいんだけど、やっぱり表情でジョーカーを持っているかどうかがわかってしまうな。

 

「むぅ……やはり私は頭を使う作業が苦手なのか?いや、だが勉強は別にできないことはないし……しかし10回やって8回最下位はいくらなんでも……」

「ゼノヴィア、いくらイッセーが相手だからってあなたは弱すぎるわよ」

 

 部長が珍しくゼノヴィアに苦笑いをしながらそうツッコム。

 

「そのうち二回の敗退は部長ということを忘れては困るな」

「…………いいのよ、これからもっと上手くなるもん」

 

 ふ、不貞腐れた部長は年相応ですごくかわいい!!

 そういえば最近部長はお姉さまじゃなくて、普通の女の子としての反応が増えてきたんだ。

 まあそれは朱乃さんも同じことなんだけど……

 

「でもイッセー君が強すぎるのは同感ですわ。私も相当のポーカーフェイスだと思うけど……」

「確かに朱乃さんが一番手ごわいと思いますけど……それでもなんとなくは察せますから。昔から嘘を見抜くのは得意なんですよ」

 

 ……っといっても、それは俺が兵藤一誠として生きる前の、名前を忘れたころの俺の経験談だけど。

 

「それに俺はどうしても勝てない相手もいましたから」

「……それは興味があるわね。勝負ごとにめっぽう強いイッセーが勝てない相手なんていたの?」

 

 部長は興味津々と声に出そうなくらいの表情で俺にそう尋ねる。

 ……確かにいた。

 俺がババ抜きをしても、何をしても心理戦では絶対に勝てなかった…………ミリーシェだ。

 

「ええ、それはもう心理戦では一度も勝てた試しがありませんよ。俺の心を読んでんじゃねえのかってツッコミたいくらい、俺の考えてることを言い当ててくるんですよ?そんな奴に勝てませんよ」

「……そういえばイッセー君が自分のことを楽しそうに話すのはあまりないよね」

 

 すると祐斗は少し嬉しそうな表情でそう言ってくる。

 ………………俺、今、楽しそうだったのか?

 

『……認めたほうが良い、相棒。相棒にとって、ミリーシェとの思い出はただ楽しいものだったということだ。むしろ、そんな感情がしっかりと残っていたのは俺としても嬉しいさ』

 

 ドライグはそう言ってくれる。

 そうだよな……楽しかったものは楽しい。そう思わないと駄目だよな。

 じゃないとミリーシェにも顔向け出来ない。

 

「まあな。楽しい思い出だし、それに…………俺にとっては掛け替えのない思い出だからな」

「……掛け替えのない思い出、か。いいね、そういうの。僕もそういう思い出をできることなら君と作っていきたいよー――親友として、仲間として、君の笑顔を守れるようになりたいね」

 

 祐斗は笑顔でそう言ってくる。

 おいおい……そういうのはお前のファンとか、ヒロインに言う言葉だぞ?

 少なくとも男の俺に言う言葉じゃねえよ!

 

「祐斗、私のイッセーを口説くのはやめて頂戴」

「あらあら……ダメな子にはお説教が必要ですわね」

「木場祐斗……断罪されたいかい?」

 

 そして祐斗を取り囲む部長たち……ご愁傷様だな、祐斗。

 俺は今までの経験を踏まえて、その場からそそくさと移動しようとしたその時だった。

 

『えぇ~、もうすぐ目標地でありますグレモリー領、グレモリ―本家へ到着します。席に座ってお待ちください』

 

 汽車を運転している車掌のアナウンスが入り、俺は一人黙々と編み物をしていたアーシアの隣に座った。

 するとアーシアは柔らかい笑顔を浮かべて編み物をする手を止めて俺のほうをにっこりとした表情で笑いかけてくれた。

 

「お疲れさまです、イッセーさん」

「ああ……それで何を編んでるんだ?」

「はい!夏が終わったら秋なので、イッセーさんのセーターを編んでるんですけど……不要ですか?」

 

 ……アーシアのウルウルとした涙目を見て、俺はついアーシアの頭を撫でた。

 

「いやむしろ嬉しいよ、アーシア。ありがとう!」

「はい!でもまだちょっと自信がないのであんまり期待はしないでくださいね?」

 

 アーシアは舌をペロッとだして可愛くそういうと、その時汽車は突然揺れる。

 俺は体勢を崩したアーシアを抱き留めて支えた。

 

「あ、ありがとうございます、イッセーさん……」

「わ、悪い!アーシア!」

 

 アーシアの頬が紅潮しているのを見ると、俺はアーシアを抱きしめているのを理解して急いで離れようとした。

 でもアーシアは頭を横に振った。

 

「だ、大丈夫です!むしろ私はイッセーさんがお傍にいるほうが嬉しいというか、とにかく歓迎です!!」

 

 ……俺はアーシアの焦ったような顔を見て自然と頬が緩む。

 ―――今更考えたら、アーシアと出会って俺はいろいろと変わった。

 それまで無意識に女の子を避けてたのもなくなったし、それにこの子と出会ってから自然に笑えている気がする。

 元々楽しいと思っていたけど、アーシアと出会ってからはそれを拍車にかけて楽しい毎日となった。

 もちろんアーシアだけのおかげだとは思わない。

 眷属の皆はもちろん、母さんやティアやフィーたち……みんなのおかげで今、俺は毎日が楽しいって自信を持って言える。

 

「アーシア、ありがとう」

「?」

 

 俺はアーシアにそう言うと、アーシアは首をかしげて不思議そうな表情をする。

 ははは……まあそうだよな。

 

「この毎日を守るためにもっと強くならないとな…………」

 

 俺はそう小さく呟いて、そして決心するのだった。

 そうしていると汽車は停車して、汽車の扉は自動的に開く。

 

「到着したわ。さ、行きましょう」

『はい、部長!』

 

 部長の声に応えるように、俺たちグレモリ―眷属+αは汽車を降りるのだった。

 

 ―・・・

 汽車を降りた瞬間、俺たちが目の当りにしたのは綺麗に整列している人だかりだった。

 そして部長を先頭に汽車から降りると、その人だかりの中心にいる執事服を着ている男の人が一礼した。

 

「お帰りなさいませ、リアスお嬢さま」

『お帰りなさいませ、リアスお嬢様とその眷属様!』

 

 お、おぉぉ…………なんかすごいな。

 部長が汽車を降りた瞬間のお出迎え……さながらお嬢様って感じだ。

 っと、俺はアザゼルが汽車から降りていないことに気が付いた。

 

「アザゼルは降りないのか?」

「俺は今からサーゼクスとの会合でな。あとは三大名家のディザレイド・サタンの野郎も来るってことだから顔を出さねえといけねえんだ。まあお前らの修業までには戻って来てやるよ」

 

 アザゼルは汽車の窓から手を振りながらそういうと、再び先程からずっと目を通していた資料に目を通し始める。

 そして俺は視線を前に戻すと…………おぉ!?

 なんか兵隊みたいな人たちが出てきて鉄砲を上空に向かって撃ち始めた!

 しかもさらに人は増えていて、一種のパレードみたいなものが開催されている!

 …………知らされていたけど、部長って本当にお嬢様なんだな。

 

「ただいま、みんな。こんなお出迎えしてくれてありがとう」

 

 部長は屈託のない笑顔でそう言った。

 ……すると執事やらメイドたちが道を空けて、そして一人のメイド服を着た女性が俺たちのほうにまで歩いてきた。

 

「お帰りなさいませ、リアスお嬢さま……そして眷属の皆様」

「ただいま、グレイフィア。元気そうで何よりだわ」

 

 歩いてきたグレイフィアさんの登場で、眷属の皆は頭を下げる。

 まさかグレイフィアさんのご登場とはな……サーゼクス様のところにいなくても大丈夫なのか?

 

『まあサーゼクス・ルシファーは悪魔の中でもトップの実力者だ。そんな心配は無用とも言えるだろうな』

 

 ドライグが懇切丁寧に説明する……それもそうだな。

 あの人が誰かに負ける姿なんて想像できない。

 

「とりあえず馬車をご用意したのでこれにお乗りください。グレモリ―家の本邸までこれで移動します」

 

 すると馬車が数台、魔法陣を介して現れた。

 でもなんか俺の知っている馬とは明らかに違うような……馬ってこんなに目がギラギラしてたっけ?

 しかも鋭い牙まで生えてるし……どこからどう見ても肉食獣だよ!

 

「……ところで馬車の配置はどうします?」

 

 すると朱乃さんは突然、にこにこ笑いながらそんなことを言ってきた。

 …………来るとは思ってたけど、またか。

 

「……お前たちには悪いが、少し今回は遠慮してもらってもいいか?」

「ティアマット?」

 

 するとティアは部長の前に出て、そう言った。

 もちろんその発言から女性人の視線が鋭くなるが、ティアはやれやれといったような表情をしていた。

「何、そう身構えるな。別に私がイッセーと同じ馬車に乗りたいわけではなくな…………あのチビ共はイッセーと一緒にいたいんだよ」

 

 ……ティアが優しげな、さながらお姉さんのような表情でそう呟いた。

 ティアの視線の先には未だなお行われているパレードを目をキラキラさせて見ていて、ものすごく楽しそうなフィー、メル、ヒカリの姿があった。

 

「いつも一緒に居られるお前たちと違ってあいつらはイッセーと接する時間が少ないんだよ。すまないが、私のわがままを聞いてもらってもいいか?―――なんだ、妹の幸せを願うのも姉の役割なもんでな」

 

 ……俺たちはティアの苦笑いを見て、どこか感動めいたものを抱いた。

 普段は呆れるほどの馬鹿な行動ばかりしているティアがまさかこんなお姉ちゃんな一面があるなんて……そういう俺も本気で感動している。

 なんか今ならティアのことを喜んで「お姉ちゃん」って言っても嫌じゃないかも……

 

「ふふ……どうだ、イッセー。キュンと来たか?お姉ちゃんって呼んでもいいんだぞ?」

 

 …………おい、俺のときめきを返せ。

 最終的にそんな思考に至るティアに俺は溜息を吐いたけど、それがティアらしいとこなので、早々に感動を取り戻すことを諦めたのだった。

 そして俺はフィーたちを連れて馬車に乗り込む。

 俺らが乗る以外の馬車にはオーフィス、小猫ちゃん、アーシア、ギャスパーたちが乗っており、残りはもう一台の馬車に乗っている。

 

「わ~!にいちゃん、すごいよ?キラキラがいっぱい!」

「ははは……お兄ちゃんは黙って妹の面倒をみろってことか?まあ楽しいしいいか」

 

 俺は興味津々に外のパレードを見ているフィーの頭を撫でると、馬車にある椅子に座って足を組んだ。

 俺は三人を見てふと思い出したんだけど、三人って確か普段はティアに鍛錬してもらってるんだよな?

 俺はティアに可愛がられる3人しか見たことないけど……

 

「三人はティアにどんな風に鍛えられてるんだ?」

「ティアねーに?えっとね……フィーはゴウエン?とかおしえられてるぞ?」

「ご、業炎……まあ火炎龍だからな……」

 

 小さく無邪気で可愛いフィーが業火の炎をまき散らしてる姿とか絶対に見たくないな、うん。

 

「メルはりゅーほうじん!」

「龍法陣ねぇ……ティアはドラゴンなら誰でもできるって言ってたけど……」

『主様はドライグやわたくしの力を有していますが、実際にはドラゴンというわけではないですからね……とはいえ、魔力のオーラは限りなくドラゴンに近いものですから……』

 

 ドラゴン専用の魔法のような術式である龍法陣か……俺も余裕が出来たら教えてもらおうかな?

 っと最後はヒカリか。

 ヒカリは光速を司るドラゴンだから速度関係か……そう解釈してみると、ヒカリは俺に話しかけた。

 

「ヒーはおんなのみがきかた…………にいたんにもっと好きになってもらう!」

「へ、へ~……でも今でも大好きだから大丈夫だぞ?」

「そうなの?えへへ」

 

 ヒカリは嬉しそうにだらしなく頬を緩ませる……全くティアはヒカリに何を教えてんだよ。

 でも三人ともだんだんだけど、成長はしてきているとは思う。

 ティアも鍛錬の時にそう言っていたし…………ティアは本人たちの前では恥ずかしがって言わないけど、俺との鍛錬の途中、三人について話したことがある。

 

『あのチビ共?ああ……私は個人的には高く評価している。なんたって私についてくるのだからな!ドラゴンとしての才能は相当なものだろうと思うよ。過去、いろいろな龍を見てきたが、あれほどに純粋で、しかも強い憧れを持つドラゴンはいない』

『憧れ?』

『そうだ。大抵のドラゴンは憧れるとすれば自分の親か、それか強いドラゴンに憧れを持ち、自分を高める……私もそうであったよ。でもな、あいつらが憧れてるのはお前なんだ、一誠。すり寄っているのもお前を憧れ、本気で好きでいるからだ』

『あの小さなドラゴンがねぇ…………』

『想いの力は時に本当の強さになりうる……お前も共感できるところがあるんじゃないか?一誠の力の本質は誰かを守るためだからな。だからこそ、龍王最強と謳われる私との鍛錬もこなせる』

『つまりお前はあいつらがこれまでのドラゴンとは違う、もっと別の成長をするって言いたいのか?』

『その通りだ…………いつかは世代交代もあるだろうな。龍王……今や現役で存在する龍王は私を含めても少ししかいない。だからこそ、あいつらは将来の龍王の候補と私は踏んでいる』

 

 …………こんな会話をティアとしたのは初めてだったな。

 それから俺はフィー、メル、ヒカリのことを別の視点から見るようになった。

 俺の手元にいる小さくて、守りたいドラゴンはいつかすごいドラゴンになって龍王って言われるのか……全然想像がつかないな。

 

「ドラゴンの可能性ってやつは底も見えないな」

『相棒、それを言えば相棒の底も全く見えないぞ?』

 

 俺はドライグからの皮肉に苦笑いをした。

 そうだよ……俺に底なんかいらない。

 強くなるために、守るために制限なんかいらないからな!

 すると俺の前には今まで外のパレードを見ていたはずの三人が俺のほうに掌を出していて、しかもそこから色とりどりの龍の刻印が浮かぶ龍法陣が展開されていた。

 フィーが緋色、メルは藍色、ヒカリが黄色……確か龍法陣の色って言うのはその発動者の性質が色に現れるってティアが言ってたな。

「んん……できた!」

 

 するとフィーはそんな声を出して、緋色の龍法陣を自分に展開し、すうっと円陣が通り抜ける。

 そして緋色のオーラが馬車を包んで、それに続くように藍色のオーラと黄色のオーラが馬車の中を包んだ。

 俺はまぶしさに目を閉じる……そして少し経って目を開けるとそこには―――

 

「フィー?同時展開って言ったのに自分だけ先に展開するなんてずるいよ?メルさんは怒ってるんだから!」

「あちゃちゃ~、ごめんごめん!思ったより早く出来ちゃったから先走ったよ!」

「……とかいいつつメルもフィーと同じくらいに展開してた……全く、こんなのが姉妹なんてにぃにがかわいそう」

 

 ……………………………………えっと、どうなってんだ?

 さっきまで3、4歳くらいの大きさだったメル、フィー、ヒカリが大きくなった?

 年で言えば小学生くらいの大きさ……えっと、なんだこれ?

 そう思っていると大きくなった赤毛のフィー?が俺に話しかけてきた。

 

「一時的にしかなれないんだけど、現状よりも成長できる龍法陣なんだ!知能も発達するから覚えとけってティア姉が教えてくれたんだ!」

「なるほどな……ってことは力もか」

「メルたちの今の精度じゃあ数分が限界なの……でも成長すると兄さんも全然違うように見えるんだね!」

 

 するとメルは少し頬を紅潮させて、両手で自分の頬を覆う。

 

「……にぃに、カッコいい。小さい頃は憧ればっかりだったけど、大きくなったらドキドキする……抱きしめてもいい?」

 

 うぅ~ん……ヒカリは昔より静かになるんだな。

 タイプ的にはオーフィスに近くて、小猫ちゃん寄りだ。

 

「それでどうしてその龍法陣を展開したんだ?」

「うん……あたしたちの成長を兄ちゃんに見て貰いたかったんだ!でも思ったよりも冷静だな、兄ちゃん!」

「普段からこれくらいの驚きは当たり前だからな……でも普通に驚いてるよ。小さくて可愛い三人が、少しだけ成長して更に可愛くなったんだからな!うんうん、兄貴的に妹の成長は好ましいな!」

 

 俺は腕を組んで何度もうなずく。

 が、俺の反応とは裏腹に3人は少しだけ震えてた。

 

「「「か、かわいい…………」」」

 

 ……ん?なんか様子がおかしいような気がしてならない……そう思った瞬間だった!

 

「兄ちゃん!可愛がって!撫でて!」

「メルも!兄さんに愛でられたい!!」

 

 お、おぉ!?

 突然、フィーとメルが小さいときと同じように俺に抱き着いてきた!

 俺は当然、それを受け止めるしかなかったんだけど、そんな二人は俺の胸をすりすりとしてる!

 成長したって言ったけど成長してないじゃん!

 

「……ふふ。二人は甘い」

 

 ……ヒカリが後方でそう言った瞬間、突然二人から煙が噴き出した。

 そして煙が消えるとそこには……さっきまでの姿はなく眠っている小さいドラゴンのフィーとメルの姿があった。

 

「……あの術はまだまだ未完成。しかも私とは違いその二人は急いで展開したから制限時間が私よりも少ない……しかも人間の姿の術まで解けて、眠ってしまう副作用がある……つまりヒカリの大勝利」

 

 するとヒカリは同じ大きさのまま俺にVサインを送ってくる。

 …………ヒカリ、大きくなったら計算高い小悪魔になるんだな。

 昔からませてたけど、こういう風に成長するのか……

 

「私の制限時間はまだまだ残ってる……可愛がって?にぃに」

 

 …………狙ってやっているのだろう。

 物静かになった分だけ、首をかしげて上目遣いをされただけで可愛すぎて倒れそうになるッ!!

 なるほど……女を磨くティアの特訓は将来的にこうなってしまうのか!

 そしてヒカリは俺のすぐ隣に来て、腕にピタってくっつくように抱き着く……そして俺のひざ元にいたフィーとメルを前の席に放った!

 

「ここだったら誰も邪魔こない……にぃに、可愛がって?」

「あ、あはは…………眷属の誰よりも抜かりがないよな……」

 

 俺はそう力なく言いつつ、しかし愛嬌のあり過ぎるヒカリの頭を撫でて、到着する寸前まで膝枕をするのだった。

 ……ちなみにヒカリがわざとらしく衣服を乱していたのは内緒だ。

 

 ―・・・

 馬車に乗って数十分。

 外の風景は綺麗な草原が広がっており、どこか幻想的な紫色の空はどこまでも続いているようだった。

 っと詩人みたいなコメントはさておき、ヒカリの策略から少し間をおいて、ヒカリの龍法陣は解けてしまい、今はドラゴンの姿ではなく小さな子供の姿となって俺の膝で眠っている。

 ヒカリの術は二人とは違い完璧らしく、副作用がないため人間になるための術が解けないと言っていた。

 たださすがに眠気までは消えないそうだけど。

 ま、それはさておいて……いつになったら着くんだろうな。

 さっきから外の風景は森林ばっかりだ……部長が言ってたけど、グレモリー領はどうやらありえないくらいの規模があるらしく、その分、未だに未開の土地も多いらしい。

 土地の大きさで言えば日本の本州くらいって言ってたっけ?

 それを聞いたときは流石に声をあげて驚いてしまったな…………それから俺たちにその土地の一部を割譲するとは言っていたけど。

 ちなみに小猫ちゃんや祐斗、朱乃さんは既に自分の土地を持っているそうだ。

 なんていうか……悪魔っていうのは何でもありだな。

 

「でも流石に三人とも寝てるのか……アザゼルに神器の資料でも借りとけばよかったか?」

『ふふふ……子供の探求心は消えていない主様にわたくしはとても嬉しく思っています……アザゼルと出会ってからは主様は更にわたくしを使いこなすようになってきましたから』

 

 ……そうなんだ。

 フェルの神器……神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)の真骨頂は神器の創造。

 つまり何もないところから神器を創り出すっていう、とんでもないスペックを誇る。

 だからこそ負担も大きく、乱用は避けるべきなんだけどな……とにかく、神器を創造する際に最も必要なことってのが、より詳しい神器の情報ってわけだ。

 例えばその情報が濃密であれば、大げさに言えば現在俺が創れる最高クラスの神器、白銀龍帝の籠手(ブーステッド・シルヴァーギア)のような神滅具だって創造可能だ。

 最も白銀の籠手は、俺がドライグの力を昔から宿していたからこそ出来たんだけどな。

 とにかく、アザゼルは恐らくは神器に関しては世界でも一二を争うほどの博識を持っている。

 その情報を得て、更に自分の情報と当てはめていったら神器創造がスムーズに行えていけるようになったんだ。

 まあギブ&テイクの悪魔の性質上、俺からもアザゼルに情報を提供しているから、アザゼルの人口神器のスペックも大幅に上昇したそうだけどな。

 とはいえ、龍王ファーブニルの宝玉を核にした神器は安定しないって嘆いていたけど……

 

『最近の主様は多少ドライグの力を使いすぎです。横暴です。確かにドライグの力はパワーに関してはわたくしの力よりも強いですが、しかし多様性を持つ主様の性質から考えたらわたくしの手数の多さのほうが合っていると』

『フェルウェルよ……自分が使われないからって相棒に文句を言うのはお門違いだぞ。マザーが聞いて呆れる』

『……あなたは調子に乗り過ぎです。それに先程の勝負はわたくしの……』

 

 はいはい、ストップ、ストップ。

 ドライグとフェルが俺の中で暴れたら精神的ダメージになって俺にフィードバックするんだから、控えてくれよ…………

 

『イッセー、少しいいかしら?』

 

 ……すると突然、馬車に設置されているモニターみたいなところに部長の姿が映し出された。

 

「部長?どうしたんですか?」

『大したことではないんだけど……もうそろそろ本邸に到着するわ。それでそっちはどんな風に……ふふ、眠っているのね』

 

 部長は眠っているフィー、メル、ヒカリを見て苦笑いをしながらそう言った。

 

「わかりました。そろそろ三人を起こしますけど……」

『こっちの馬車では話したんだけど、まずはお父様とお母様と会うことになるわ』

 

 ……部長のお父様とお母様か。

 お父様の方は以前、授業参観の時にお会いしたけどな…………一応、俺は部長とライザーの婚約をぶっ壊したから、なかなかお会いしにくいな。

 間違っていたとは思ってないけど。

 

『ふふ……イッセーでも不安な顔になることはあるのね』

「そりゃまあ……って部長、俺のことを何か勘違いしてませんか?」

『そう?私はこれでも嬉しいのよ。イッセーの意外な一面を見ることが出来て……普段は私よりも冷静だからね』

 

 ……そんな風に見られていたんだな。

 

『でもイッセーなら大丈夫よ。私の可愛い下僕だから当たり前ね……それより冥界にいる間、デートでもしましょ?私が冥界の良い所を案内するわ』

「あはは……お願いします、部長」

 

 部長がそういうとモニターの映像が消える。

 なかなか部長と話をする機会がないもんな……もっと大切にしないと。

 

「…………あれが部長の本…………邸―――?」

 

 俺が馬車の窓から目の前に現れ始める建物を見て、口を大きく開けながら目を見開く。

 ……なんだ、俺は夢でも見ているのか?

 

『相棒、落ち着け。夢ではなく、あれは間違いなく―――城だ』

 

 マジですか!?

 …………そう、俺の目線の先には大きくその存在感を訴えかけてくるほどの大きな城があったのだ。

 そうだな、中世の王族が住んでいるような立派過ぎるお城って言えばいいか?

 ライザーの時に使った豪邸にしか見えない城を“別荘”って言った意味が今になってわかった。

 ……確かにあの城に比べたら、あんなの別荘だ!

 とにかく、俺はしばらく呆けながら目の前の城を見ているのだった。

 

 ―・・・

 俺は眠る三人を背負って馬車から降りて、先に降りていた部長たちに合流する。

 俺の荷物は部長の家のメイドさん達が運んでくれて、ドラゴンの姿のフィーとメル、小さい子供の姿のヒカリをティアに預けて、俺は眷属の皆とグレイフィアさんに案内されて城の門前まで歩いていった。

 俺たちが歩く道の脇にはびっしりとグレモリー家の使用人が綺麗な姿勢で立っている。

 そして門が開き、俺たちは城の中へと入っていった。

 足元にはレッドカーペットが敷かれていて、グレイフィアさんは優雅に手を屋敷の中へと手招きを送った。

 

「どうぞ、お入りください。お嬢様、そしてその眷属様」

 

 う~ん……グレイフィアさんは俺たちよりも身分が上だから敬語を使われると何とも居心地が悪いな。

 ともかく、俺たちはグレイフィアさんに連れられて門を入った先にある大きな階段を上ろうとした時、俺の目線の先に紅の髪をした男の子がいた。

 

「リアスお姉さま!お帰りなさい!!」

 

 するとその男の子は部長の元まで階段を駆け下りて、そのまま部長に抱き着いた。

 

「ミリキャス!久しぶりね……前に見た時よりも大きくなったわね」

 

 部長はその男の子をかわいがるように頭を撫でる。

 …………紅髪ってことはグレモリ―家の所縁のある子なんだろうけど、なんかどこかで見たことがあるような。

 俺がそう思っていると、部長はそのことに気付いたのか、俺の方を見て話しかけてきた。

 

「イッセー、この子はミリキャス・グレモリー。お兄様……現魔王のサーゼクス・ルシファー様の子供で私の甥なのよ」

 

 …………考えてたよりも凄い子供だった。

 でもなるほどな。確かにこの子はサーゼクス様に似てる。

 魔王の名は魔王にしか名乗れないから、名前はグレモリ―のままなのか。

 

「ミリキャス。この子は私の新しい眷属なの。挨拶しなさい」

「はい、お姉さま!僕はミリキャス・グレモリーと申します!よろしくお願いします!」

 

 お、おぉ…この場合、俺は敬語を使えばいいのか?

 いや、でも…………するとグレイフィアさんが俺に耳打ちしてくれた。

 

「兵藤一誠さまのお好きなように接してくださいませ」

 

 グレイフィアさんの耳打ちに従い、俺は普段通りのように接することにした。

 

「よろしく、ミリキャスさま。俺は兵藤一誠。部長ー――リアス様の『兵士』だ。よろしくな?」

「は、はい!そ、その……イッセー兄様って呼んでも宜しいですか?」

「ああ……でもいいのか?こんな馴れ馴れしくて……」

「いいです!それに敬語なんて使われたら緊張してしまいますから!僕のことはミリキャスって呼んでください!」

 

 ……ミリキャスはぺこっと頭を下げる。

 いい子だ。

 きっと将来はとても良い上級悪魔になって、良い『王』になるんだろうな。

 

「流石イッセーね。さて、みんな行きましょう」

 

 部長がそう先導して階段を上りきると、そこにはもう一人女性がいた。

 ……部長とすごい似てる上に、部長よりも大人って雰囲気だ。

 初めて見るならこの方を部長のお姉さんとか思うんだろうけど、俺は一度会っているからな。

 

「リアス、帰ってきたのね」

「はい。只今帰還しました―――お母様」

 

 そう、この方は部長のお母様。

 確かライザーの一件で婚約式典の時にお会いしたことがあったと思う。

 亜麻色の髪、部長と非常に似ているけど少し目つきが鋭い。

 ……なるほど、この人が母さんと交渉した部長のお母様か。

 ライザーの一件では部長を助けることでしっかりとは見てなかったけど、実際にお会いしてみると部長のお父様と同じで年齢不詳だよな。

 

「この子たちがリアスの眷属ね……私はリアスの母、ヴェネラナ・グレモリ―です。新しい眷属の子たちは初めましてですわ」

 

 部長のお母様は柔らかい笑顔を浮かべてお辞儀をした。

 俺たち眷属もそれに返すようにお辞儀をして、部長のお母様は頭をあげて俺の方を見てきた。

 

「……改めてお話しするのは初めてですね、兵藤一誠くん」

「……まあお会いした状況が状況でしたから当然ですね。今一度挨拶申し上げます―――リアス様の『兵士』、兵藤一誠です。どうかよろしくお願いします」

「あら、ふふふ……リアス、良い眷属を持ったわね」

 

 部長のお母様は部長に似た……この場合は部長が似ているか。

 そんな笑顔を浮かべながらそう言った。

 

「まあ立ち話もなんですわ。部屋を用意しましたのでグレイフィアに案内させるわ。グレイフィア、頼みます」

「はい、奥様。それではご案内します」

 

 グレイフィアさんに案内されて俺たちは屋敷を移動する。

 

「あの、イッセーお兄様!もしよろしければお話などをお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

 その途中、俺たちについてきたミリキャスにそうお願いされたから俺は快諾したのだった。

 

 ―・・・

 屋敷を案内されて数時間が経った。

 俺は案内された部屋に入り、それに同伴してきたミリキャスと少し話をしていた。

 どうやらミリキャスは俺のことを既にサーゼクス様や部長のお父様から聞いていたらしく、その時から俺と会いたがっていたらしい。

 それで聞いた話なんだけど、既に俺の存在は冥界では少しばかり有名になっているらしい。

 何でも上級悪魔の通う学校にミリキャスは通っており、コカビエルの急襲、テロ組織の和平会議の乱入において尽力を尽くしたことが既に知れ渡っているらしい。

 そのためか、ミリキャスは俺のことをキラキラした目つきで遠慮なく聞いてきて、それの受け応えをしていたらいつの間にか数時間も過ぎていた。

 

『おう、イッセー。そっちはどうだ?』

 

 そして今、俺はアザゼルと通信をしながら会話をしていた。

 通信の内容はアザゼルが汽車の中で言っていた修業についてだ。

 

「まあ待遇が良すぎて戸惑ってるよ。で、そっちはどうだ?」

『サーゼクスとディザレイド……現魔王のリーダー格と三大名家のリーダー格と会合したとこだ。つっても世間話を少々したくらいか。なぜか知らんがガブリエルの野郎もいたしな』

「ガブリエル?熾天使の一角だろ、確か……今回の会合は三大勢力の会合だったのか?」

『知らない間にそうなってたって話だ。ガブリエルはミカエルの代わりだったらしい……っと話がそれたか』

 

 アザゼルはそういって咳払いをした。

 

『修業に関しては絶対にいると思う。なんたってお前らは“禍の団”の末端に関わっている上に、奴らの一番最初のテロ行為を防いだ。いやでも狙われることは必至だ。故に力をつけてもらうってわけだ』

「まあそれは分かるんだがな……ちゃんと考えてるんだろうな?」

『まあお前以外のメンバーに関して内容は考えているが…………イッセー、どうもお前に関しては扱いに困るんだよ』

「扱い?」

『……現状で不利な状況ながらヴァーリを倒す、無傷でコカビエルを倒す―――眷属の中でのお前の実力は頭二つ抜けてるんだ。一つじゃねえんだよ。一応、お前の修業相手は考えてはいるがな』

 

 アザゼルは本気で困った表情をしていた。

 ……確かに俺は普段、ティアに修業をつけてもらってる。

 しかも夏はオーフィスにも修業をつけてもらおうって思ってたし……下手すれば俺に関しては深く考えなくてもいいんだけどな。

 

『とりあえず、俺はこっちの仕事が終わってからお前らに合流する。それはそうと……三大名家のディザレイドがお前に会いたいって言ってたぞ』

 

 アザゼルは話題の変えて、俺のそう言ってきた……ディザレイド・サタンって言えば、アザゼルの言っていためちゃくちゃ良い悪魔だっけ?

 最上級の位を捨てて、今は冥界の身寄りのない子供のために尽力を尽くしているって言ってたけど……

 

『なんでもお前の仲間を絶対に守るってとこに感銘を受けたらしくてな……好意的に接したい、いずれ話そう、だってよ』

「そんな人なら俺も会って話をしてみたいけどな。ディザレイド・サタン……確か憤怒を司る悪魔じゃないのか?」

『ああ、大罪を司る悪魔なんだがな……まあ憤怒っていっても怒りっていうのは間違いじゃないからな。ただの逆切れなら話は終わりだが、ただ誰か傷つけられた、間違った行動に憤怒する……そんな意味では怒らしてはいけない悪魔だな、あいつは』

 

 ……だからサタンか。

 誰かのために憤怒する、そんな悪魔がいるんだな。

 

『とりあえず一度通信を切るぞ。あとでそっちに合流した時に詳しいことを説明する。それまではバカンスでも楽しんどけよ?』

 

 アザゼルがそういうと通信は切れる。

 バカンス、ねぇ…………とりあえず、修業前の休憩って取っておくか。

 そう思ったとき、部屋の扉がコンコンとノックされた。

 

「若さま。夕食の準備が出来ました」

 

 部長の家の使用人のメイドさんがそう言ってくる…………って若さま?

 俺はメイドさんの言葉を不審に思いながらも部屋を後にしてメイドさんについていく。

 確かこれから…………そう、部長のお母様やお父様との会食だ。

 それを再認識して俺はダイニングルームに向かうのだった。

 


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