ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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【第5章】 冥界合宿のヘルキャット
第1話 夏休みといろいろです!


 俺、兵藤一誠は悪魔である。

 突然だけど今の俺の状況を簡単にまとめようか。

 現在、俺の視点には天井が広がっている…うん、これは別に問題視することじゃない。

 ―――が、それは自分の部屋だった時にのみ言える話だ。

 しかし残念なことに俺の視線の先の天井は自室のものではない。

 …………俺は確か自分の部屋で眠っていたよな?

 それは間違いないはずだ。

 そして俺の寝床には昨日は部長とアーシアがいたはず(半分強制)なんだけどな。

 ………………なのに何故俺の腰には張り付くように抱きついている小猫ちゃんがいるのだろう。

 

「ってなんで小猫ちゃんと部長達が入れ替わってるんだぁぁぁ!?」

 

 いや待て、そもそも部屋の景色がずいぶんと違う!

 俺は小猫ちゃんに抱きつかれた状態で室内を見渡すと、そこには白を基調としたヌイグルミやらといったファンシーグッズとか、とにかく可愛い光景の部屋だ。

 …………うん、間違いなく小猫ちゃんの部屋だろうな。

 でもどうして自分の部屋で寝てたはずの俺が小猫ちゃんの部屋にいるのだろう…………

 とりあえずまずは小猫ちゃんを起こそう…………そう思った時だった。

 

「…………にゃぁ……すぅ…………せん、ぱぃ…………しゅき……」

 

 ………………小猫ちゃんの寝息交じりの寝言を聞いた瞬間、俺の癒されゲージが爆発する!(癒されゲージとは俺をとにかく癒してくれる存在の度合いのことだ)

 なんていう破壊力だ!

 寝顔は可愛いし、小猫ちゃんの愛くるしさで俺は今日をやっていけるぞ!

 とりあえず可愛いので頭を撫でて愛でることにした。

 

「にゃふぅ……」

「よし、今度から癒されたくなったらここにこよう」

 

 俺はそう決意した。

 …………っとあまりにも可愛い小猫ちゃんの仕草で本題を忘れてたな。

 

「小猫ちゃん、起きて」

 

 俺は愛でることを我慢して小猫ちゃんの肩を揺さぶった。

 すると小猫ちゃんは未だに半分寝ているような目で俺をじっと見てきた。

 

「…………イッセーせんぱぁい♪」

「ちょ、小猫ちゃん!?起きてるよね!それ絶対に起きてるよね!?」

 

 小猫ちゃんが寝ぼけたように俺の首に手を回して頬をスリスリしてくる!

 なんだ、この可愛い生物は!

 ってそうじゃない!

 小猫ちゃんは勢いで更に耳たぶを甘噛みしてきたり、首元を舐めたりしてくる!!

 

「ちょ、それホント待って!洒落にならない!洒落にならないからぁぁぁぁ!!!」

 ………………今朝早く、兵藤家に俺の絶叫が響いたのだった。

 

 ー・・・

「…………おはようございます、イッセー先輩」

「うん、おはよう。でも俺は朝から色々と小猫ちゃんに聞きたいことが山ほどあるんだけど……」

「…………先輩の体、温かかったです。それといい匂いでした」

「違う!俺が言いたいのは自分の部屋で眠ってたのに何で朝起きたら小猫ちゃんの部屋にいたっのかってことだよ!」

 

 俺は若干声を荒げてそう尋ねる。

 今の状況はパジャマが若干着崩れしている小猫ちゃんがベッドの上でチョコンと座っており、俺はそれの反対側に座っている。

 小猫ちゃんは未だに眠そうだけど…………ふと時計に目をやると時間はまだ5時にもなってなかった。

 

「…………事の始まりは夜中の一時くらいです」

「それくらいなら皆もう寝てるな」

 

 皆、っていうのはそれはオカルト研究部の女子部員のことを指す。

 というのも、少し前から小猫ちゃんを含めるオカルト研究部の女子部員は俺の家で居候をしているんだ。

 なんでも眷属同士の交流を深めるとかの名目で……それでアーシアや部長を筆頭として朱乃さん、小猫ちゃん、ゼノヴィア、ギャスパーは兵藤家で一緒に暮らしていたりするんだ。

 小猫ちゃんは話を続ける。

 

「……私はイッセー先輩と一緒に寝たくて夜中に先輩の部屋に忍び込みました」

「…………うん、続けて」

「…………そして布団を剥ぐと、そこには部長とアーシア先輩がいました」

「うんうん。それで?」

「………………ムッとしたのでイッセー先輩から二人を剥がして、先輩を部屋に連れ込みました」

「はい、ストップ!連れ込むってなんだよ!っていうか小猫ちゃん、俺をどうやって運んだんだ!?」

 

 俺はあまりにも現実味がなさ過ぎてそういうと、小猫ちゃんは……

 

「…………ルークの力ですが?」

 

 キョトンとした表情で、さも当然のようにそう言ってのけた!

 ……そっかー、悪魔の力か。

 俺は遠い目をしながらそう思った。

『戦車』の性質はパワーだからな。

 ただ、夜中に男を担いで自分の部屋に連れ込むのはなんとも想像しにくいもんだな。

 

「…………部長やアーシア先輩ばっかりズルいです。私も先輩と一緒のお布団で寝たいです」

「…………いや、あれ半分強制だからな?逆らったらアーシアの涙目とか、どれだけ俺の心を抉れば気が済むんだ…………」

 

 一度一緒に寝るのを断ったときのアーシアの絶望した悲しそうな表情を思い出して俺はげんなりとする。

 

「……とにかく、今後はあまりこういうのはよろしくないと思うからさ。たまにだったらいいから連れ込むのは禁止だよ?小猫ちゃん」

「…………わかりました。イッセー先輩がそう言うならちょっとだけ我慢します」

 

 小猫ちゃんは渋々といった感じで頷く。

 とりあえず頭を優しく撫でると小猫ちゃんは嬉しそうに体を震えさせる。

 ーーー最近の小猫ちゃんは俺へのスキンシップが前よりも過剰になっている。

 俺がそう感じ始めたのは和平会議が過ぎてからすぐのことだ。

 それから小猫ちゃんはできる限り俺の側にいて、そして甘えるようになった。

 でもそれは純粋に甘えてるだけじゃなくて…………手放したくないような、離れたくないような感じ。

 どこか俺が小猫ちゃんから離れることに恐怖を抱いている感じがするんだ。

 それ故か、最近の小猫ちゃんは朝の登校から休み時間、昼休み、放課後は絶対に俺の教室に来るなどしてるんだ。

 だから何となく、今の小猫ちゃんは危うい感じがする。

 …………もしかしたら小猫ちゃんのトラウマみたいなものが和平会議の時の事件で発作したのか?

 朱乃さんの過去のようなことも…………まあそんなことは考えてもわからないか。

 とりあえず今は早く小猫ちゃんの部屋から退散するか。俺が小猫ちゃんの部屋から去るために部屋の扉の取っ手を握ろうとした…………その時だった。

 

「小猫?朝早くから悪いけれどイッセーを見なかったかし―――」

「「あ」」

 

 ノックもなしに扉が開き、茫然とする俺と小猫ちゃんは部長と真っ向から顔を合わせる。

 視線が交差することものの数秒。

 が、その数秒が俺にとって永遠のように感じた……これはやばい。

 朝早くから小猫ちゃんの部屋から出てくるとか、何か誤解を生んでいるに違いない!

 そんな施行に至りながらも俺は冷や汗をぶわっと掻いた。

 

「部長さん、イッセーさんはいましたか?」

「ふふふ…………イッセーくんがいないなんて許しませんわ」

 

 ………………結果論を言おう。

 状況は最悪な方向で悪化したッ!!

 部長の後方よりひょっこりと顔を出したアーシアと朱乃さんの視線が俺と合い、再びその場に静寂が訪れる。

 そして小猫ちゃんは先程から俺に視線を合わせてくれない。

 なんだろう、この裏切られた感覚は……

 

「「「「「…………………………」」」」」

 

 俺たちの間で繰り広げる静寂。

 そんな静寂を最初に破ったのは…………

 

「お、おはようございます?部長にアーシア、朱乃さん?」

 

 ……それはいつの日か部長が母さんと最初に遭遇した時に言った、それはねえよと思った言葉だった。

 その数秒後、朝早くから約3名のお説教を受ける俺であった。

 ―――俺は無実だぁぁぁぁぁぁああああ!!!!

 

 ―・・・

「全く、イッセーは油断しすぎだわ」

 

 部長が嘆息するようにそう声を漏らす。

 今朝早くの説教を終え、俺を含むオカルト研究部は部長と朱乃さんの作った朝食を食べていた。

 ちなみに日課であるランニングはしたんだけど、アーシアを宥めながら走ったから、ほとんどジョギングに近かった。

 ともあれ誤解は解いたので、もう誰も怒っていない……はずだ!

 

「イッセー、我、ご飯を食べさせて」

「あらあら……なら私はイッセー君に私の愛情をこめて食べさせてあげますわ」

 

 その言葉にわかりやすく反応する他のみんな。(母さんを含む)

 

「い、イッセー?私は卵焼きを作ったのだけれど、よかったら……」

「あら、リアス?これは公平な勝負で得た者の唯一の権利ですわ―――そこで黙って指を咥えて見ておいてください」

 

 あ、朱乃さんの挑戦的な物言いに部長の青筋がぴくっと動く!

 最近ではよく見るようになった光景だけど、ほうっといたらこの二人は魔力を使った喧嘩を勃発させるからな。

 ちなみにご飯を食べる席を決めるときにも一悶着あったりした。

 今現在は俺の左隣にオーフィス、右隣に朱乃さんが座っているんだけどさ……それを決めるまでの騒動が大騒ぎだった。

 最終的に公平にじゃんけんってことになって今の配席となった。

 ……それにしても兵藤家の食卓はにぎやかになったよな。

 今やオカルト研究部の女子部員全員に母さん、ほぼ居候状態のオーフィス……母さんは本当によく認めたよな。

 聞いた話で部長のお母様が交渉したらしいけど……ホント、どんな交渉をしたら母さんを説得出来るんだろうな。

 そもそもアーシアの同居自体が渋々だったわけだし……っていうか父さんが帰ってきたら現状に驚くだろうな。

 ―――さてと、ずっとスルーしてきたことをそろそろ部長に聞くことにしよう。

 

「部長、ずっと気になっていたことを聞いてもいいですか?」

「なあに、イッセー?」

 

 部長は屈託のない笑顔で可愛くそう尋ねてくる。

 いや、だってさ……誰もそのことにつっこまないんだ。

 朝は小猫ちゃんの一件で目に入れなかったんだけどさ―――なぜだかしらないけど家が前よりも格段に大きくなってるんだ!

 なんだ、これ!?

 今更ながら冷静になって考えてみるとあり得ないだろ!

 ごく普通の二階建てだった家が気付いたら六階建てになっているなんてさ!

 

「取り敢えず、なんで家が六階建てになっているかっていう理由を聞きたいんですが……」

「あら、言っていたじゃない?家を増築しようって。それに流石にこの人数と共同生活するのには元々の大きさでは限界があったのよ…………それと六階建てじゃなくて地下三階を加えた九階建てよ?」

「き、九階!?―――あ、なんかエレベーターみたいなものまである……ってウソだろぉ!?」

 

 俺はリビングを出たすぐそこにあるエレベータを遠目ながら見てそう叫ぶ。

 そりゃあ信じられないだろ!

 朝起きて九階建ての豪邸になってるんだだからさ!

 しかもこのリビング、今までの5倍以上の広さを誇ってるし?

 ああ、なんかもう考えるのがおかしくなってきたな~~~

 

『ふ、フェルウェルぅぅぅぅ!!!息子が!!俺たちの可愛い相棒が現実逃避をしているぞぉぉぉ!!!』

『おおおお落ち着いてください、ドライグ!こうなればもう癒しのドラゴンオーラを放つのです!!』

 

 ……俺の中の愉快なドラゴン、ドライグとフェルが慌ただしくそう叫んだ。

 いや、フェル……お前が一番落ち着こうぜ?

 そんなことを心の中で言っていると、俺の斜め前に座っている母さんが俺に話しかけてきた。

 

「イッセーちゃん、リアスさんのご実家ってすごいんだね?最近モデルハウスの仕事を手掛け始めたってことで無料で家をリフォームしてくれたのよ。それとお隣の鈴木さんと田村さんが急にお引越ししたらしくて…………なんでもすごい好条件の物件が見つかったって言ってたけど…………」

「・・・部長?」

 

 俺は母さんの話を聞いて部長のほうを見ると、部長はわざとらしく視線を外した。

 っていうかリフォームの域を軽く超えてるよ!

 一日で地上六階地下三階の豪邸なんかどこぞの匠が出来んだよ!

 ……お隣さんの引っ越しは間違いなくグレモリー家がかかわってるんだろうな。

 よし、これ以上考えることはよそう。

 するとその時、俺の席から一番離れたところに座っているギャスパーが突然立ち上がった。

 

「イッセー先輩!どうして僕をランニングに誘ってくれなかったんですか!?僕も先輩と一緒にいた……先輩のように強くなりたいのに!」

 

 ギャスパーは少し涙目でそう懇願する。

 そういえばギャスパーはこの家に移ってから、オーフィスとは違う意味で俺の行動を真似するようになったんだ。

 オーフィスがなんでも俺の真似をして俺の後ろをついてくるのに対して、ギャスパーは俺の鍛錬に付き合ったり、たまにランニングについてくるようになった。

 

「おい、ギャスパー。君にそんな発言権があると思っているのか?」

 

 ……するとギャスパーの隣に座っているゼノヴィアが鋭い視線をギャスパーに送った。

 配席のじゃんけんで最初に負けたからか、少し機嫌が悪いゼノヴィアだけど、当然それだけではないんだ。

 

「ぜ、ゼノヴィア先輩!?い、イッセー先輩、助けてくだ」

「ほう……朝の全てをかけたじゃんけんを停止の力を使ってズルしたお前がイッセーに助けを求めるのか?」

 

 ……そう、ギャスパーはじゃんけんで全員が手を出す瞬間にみんなの動きを止めて完璧な後出しをしようとしたんだ。

 もちろんゼノヴィアは聖剣の力があるから止めることが出来なくて、それでばれて強制的に一番遠い席になった。

 

「…………自分で起きないギャー君が悪いです。このヘタレ」

 

 すると小猫ちゃんから厳しい一言がギャスパーに発せられた!

 

「あぅぅぅぅ!!!小猫ちゃんがいじめるよぉぉぉ!!!」

 

 するとギャスパーは足元に置いてあった段ボールに体ごと入って隠れる。

 ……ったく、あいつは根本的に変わってないな。

 まあでも随分とマシにはなったよ。

 最近ではちゃんと学校に行ってるし、クラスのほうでも何とかやっていけてるって小猫ちゃんも言ってた。

 ……とにかく、いろいろとあったけど今は比較的に平和に毎日を楽しく過ごせてる。

 まあそんな頻繁に前みたいにテロとかは遠慮したいけどな。

 

「……イッセー、郵便受け、手紙、届いてた」

 

 するとオーフィスは思い出したように懐から一通の手紙を渡してきた。

 橙色のきれいな便箋に包まれた手紙…………ああ、レイヴェルからの手紙か。

 レイヴェルってのは俺が前に部長の婚約の一件でぶっ倒したライザー・フェニックスの妹のレイヴェル・フェニックスって女の子だ。

 あまりにも綺麗な日本語と達筆な文字に感動して以来、こうして時たまに文通とかをしているんだ。

 あいつの妹とは思えないほどの礼儀正しい女の子で、文通でいろいろと話したりしている。

 ちなみにライザーはいまだに引きこもっているらしいが……まあレイヴェルが頼んで来たら目を覚まさしてやろうかな?

 とりあえず俺は早速手紙を開けた。

 そしてその文面には……

 

『お久しぶりです、兵藤一誠様。レイヴェル・フェニックスです。人間界ではそろそろ夏の真っ盛りだとは思いますが、体調は宜しいでしょうか?ところで私、最近になってお母様とトレードされてフリーの僧侶となったのです。お兄様が今は伏せていますので、見かねたお母様がそうなさったのですが……と、そんなことはどうでもいいですわ。ところでそろそろ長期休暇となると風の噂でお聞きしました。もし冥界に訪れることがあればぜひ、我がフェニックス家にお立ち寄りください。それではまたお会いできる日を楽しみにしています

 ―――レイヴェル・フェニックス』

 

 ……ああ、なんて素晴らしい気品を持ってる女の子なんだろう。

 まあもともといい子だったし、今はフリーなのか……あの子なら僧侶としては引く手数多なんだろうな。

 そうしてるとなんかみんなの視線が俺に向いているのに気付いた。

 

「はぅ!イッセーさんが他の女の子の手紙を読んでます!」

「な、なにぃ!?アーシア、それはどういうことだ!私にも分かるように簡潔に教えてくれ!!」

 

 アーシアとゼノヴィアがわけのわからない方向に暴走している!!

 

「で、イッセー。レイヴェルからは何て?」

「いえ、特に何かはないんですが……あ、そういえばあの焼き鳥はまだ引きこもっているらしいですよ?」

「そう?元婚約者ながら情けないわね」

 

 部長は全く興味すらなさそうにご飯を食べながらそう呟く。

 まあ相手があのライザーだからな。

 っと、俺は視線を外していたアーシアとゼノヴィアの方を見ると……

 

「「ああ、主よ!私たちはどうすれば良いのでしょうか!!」」

 

 ……ミカエルさんに頼んで悪魔でも祈れるようになったからって、とにかくわけのわからないことを祈っている二人の姿があった。

 とにかく、兵藤家の食卓は普段通り騒がしいのだった。

 

 ―・・・

「え?冥界に帰るんですか?」

 

 俺は朝食を終えて自室で夏休みの宿題を昇華していると、部長は俺にそう言ってきた

 ちなみになぜか今までの数十倍にまで大きくなった俺の部屋にはオカルト研究部のメンバー全員が集まっていた。

 そしてなんか少しづつ俺のもとに接近してきている気もするんだけど……

 

「ええ、そうなの。毎年夏は冥界に帰っていてね」

「そうなんですか……じゃあその間は俺はこっちにお留守番なんですね。じゃあ予定とか入れるか…………」

 

 俺は夏は悪魔の仕事とかすると思っていたから予定を丸ごと空けてたけど、予定を入れないとな。

 

「何を言っているの?イッセー、あなたも冥界に行くのよ?」

「へ~………………えぇぇぇぇええ!!?」

 

 俺は軽く流そうとしたけど、やっぱり流せなかった!

 

「当然でしょ?下僕が主についていくのは当たり前よ。それにあなたと離れて暮らすなんて私には考えられないもの」

「い、いや……まあそう考えれば当然かなって感じもしますけど……他のみんなは知ってたのか?」

 

 俺は俺よりも先に悪魔になってた他のメンバーに話を聞いてみることにした。

 

「うん、そうだね……去年の夏も部長と共に冥界のグレモリー家にお世話になったよ。その分、いろいろと悪魔の勉強もしたんだけどね?」

「私はリアスとは一番長い付き合いですので……あ、今は部活中ですわね」

「…………冥界はいろんな意味ですごいです」

 

 祐斗、朱乃さん、小猫ちゃんは三者三様にそう答えてくれる。

 確か俺が冥界に行ったのはフェニックス家との婚約式典の時に殴り込んだ時だよな。

 それ以外は行ってないし……ってことはゼノヴィアだけが冥界に行ったことがないのか。

 

「ちなみにアーシアは冥界に行ったことはあるのかい?」

「冥界ですか?私はイッセーさんと一緒にティアさんの背中に乗せていただいて一度だけ……」

「ふふふ……元教会の聖剣使いの私が悪魔となって冥界に行くのはごく当たり前か…………まあ破れかぶれとはいえイッセーに責任を取らせるからそれも良いか」

 

 ……ゼノヴィアが何やら怪しく笑っているのを俺は見ないことにしよう。

 すると祐斗は俺のほうを見ながら苦笑いをしていた。

 ―――そういえば、祐斗と一緒に聖剣計画の一件で俺が助けたあいつらに会い行く約束をしてたな。

 あいつらとはたまに連絡も取ってるんだけど、まだ裕斗のことは教えていないんだ。

 何て言うんだろうな……驚かせたい。

 夏休みに会いに行くのもよかったんだけど、こうなってしまえば仕方ないか……うん、でも絶対に会いに行きたいな。

 

「冥界か……出来れば修業したいな」

 

 ……ここ最近の俺の悩みの一つだ。

 ここのところ遭遇する敵はどいつもこいつも強敵ばっかだ。

 コカビエル然り、ヴァーリも然り…………とにかく俺は今の状態よりもさらに強くなりたい。

 みんなを守るための力をもっと身に着けたい。

 そのためにもっと強くなるために強い奴に稽古をつけてもらいたいんだよな……っとなるとやっぱり……

 

「……リアス、我、イッセーと離ればなれ?」

 

 ……そんな時、オーフィスはとても悲しそうな表情で部長にそう尋ねた。

 そう、やっぱり強者といえばオーフィスしかいない。

 それに夏になったら俺を鍛えてくれるように約束したからな。

 

「う~ん……オーフィスに関してはなかなか難しいのよね。無害ってことは分かっているわ……ただ、元禍の団(カオス・ブリゲード)のトップってことがね……でも公にはなってないんだし、大丈夫かしら……でも……」

 

 すると部長は自問自答をするようにぶつぶつと言いながら考え込む。

 確かにオーフィスはそれまでの経歴に若干の問題があるからな……

 

「まあいいじゃねえか。オーフィスを連れて行っても特に問題はないと思うぜ?そして俺も冥界に行くぜ」

『―――!?』

 

 すると突然、今までそこにいなかった人物の声が聞こえた。

 その声が聞こえたほうに顔を向けると、そこには渋い色の和服を着た容姿の整っているオカルト研究部の顧問兼堕天使の総督のアザゼルがいた。

 ……不法侵入か、この野郎。

 

「おっと、ちゃんとチャイムを鳴らして玄関から入ったぜ?そんなに睨むなよ、生徒諸君」

 

 ……アザゼルを皆は睨んでいるんだけど、それもこれもアザゼルはいまいち俺以外の人物から信用されてないんだ。

 まあ俺にちょっかいかけてきたこともあるし、今まで敵対してきた組織のトップだからな。

 仕方ないといえばそれまでなんだけど、とにかく信用を獲得するのはまだ先の話だな。

 

「へぇ、お前はこの夏休み、研究に没頭すると思ってたんだけどな」

「それも魅力的なんだがなぁ……まあ一応は堕天使の頭を張ってる身分、仕事しねえとシェムハザがうるせぇんだよ。くそ、あの野郎、自分が結婚してるからって調子づきやがって……俺だってその気になりゃ結婚くれぇ………………」

 

 ……どうやらアザゼルの地雷を踏んでしまったみたいだな。

 こいつ、自分で「俺は過去に幾重ものハーレムを築いてきたから、お前ら俺に惚れんなよ?」とか新任教師のあいさつで全校生徒の前で言ったのに、意外と婚期を気にしてるのか……

 

「っと脱線したな。とにかく、俺も冥界にお前らの『先生』として行かしてもらうぜ。俺のスケジュールはと…………面倒くせぇな。リアスたちの里帰りに現当主にお前らの紹介。あとはまあ新鋭若手悪魔との会合で、あっちでのお前らの修業だ……あとはサーゼクスとの会合―――はぁぁぁぁ……」

 

 うわ、こんな面倒そうな溜息を聞いたのは初めてだ。

 確かにハードスケジュールだけどな……ま、それもアザゼルの宿命ってことで。

 

「リアス、俺はどのルートで冥界入りすればいい?堕天使ルートか、それとも悪魔側が用意してくれるか?」

「……こちらで用意させてもらうわ。アザゼル―――先生」

 

 部長は渋々といった感じでそう呟くのだった。

 

 ―・・・

 俺は冥界に向かう日の前日、行きつけの町のはずれにある喫茶店に来ていた。

 今日は珍しく一人で、実はある子に会いに来ているんだ。

 そして俺は店の扉を開けると、鐘の音が鳴って店の中から明るい声が聞こえた。

 

「いらっしゃいませ~~~、何名様ですか?---ってイッセーくん!」

 

 そこには満面の笑みを浮かべて出迎えてくれる中学3年生の俺の知り合い、袴田観莉がいた。

 いつも通りのバイトの制服にエプロンという姿で、セミロング気味の髪を一つに纏めている。

 まあこれも夏の約束の一つなんだ。

 この喫茶店にお茶に来るときに観莉の休憩時間に勉強を教えるって約束したからな。

 

「今日は一人なんだ!オーフィスちゃんは?」

「今日は家でゴロゴロしてたから置いてきたんだよ」

「あはは……なんか簡単に想像できちゃうのがすごいよね……あ、席に案内するね?」

 

 すると観莉は慣れたように俺を席まで案内する。

 今日はまだ早い時間からか、俺以外には特に客はいなかった。

 

「おや、イッセー君。数日ぶりかな?」

「あ、マスター。数日ぶりです」

 

 すると俺の元まで直接マスターこと風浜江さんがコーヒーの入ったカップを持って、柔らかい笑顔でやってきた。

 

「あ、これは僕の新しいブレンドのコーヒーなんだ。できれば意見をもらえるかな?」

「……いつもすみません」

「何、僕と君の間柄だ、特に気にすることはないよ……ところで今日は観莉くんへの勉強会かな?」

「はい。夏休みに急遽予定が入ったもので……」

 

 すると観莉はレールに水を乗せて俺の座る席にまでやってきて、笑顔でそれを俺の前に置く。

 

「はい!お水に私の愛情の詰まったクッキー!手作りだよ?」

「……いいのか?」

「うん!勉強を教えてもらうお礼みたいなものだから遠慮しないで食べて?結構自信あるから!」

 

 俺は水と一緒に置かれて可愛い袋に入れられている小麦色のクッキーを一つつまんで口に含む。

 ……うん、甘すぎず程よい固さのクッキーだな。

 なんとなく心が休まる。

 

「おいしいよ。ありがと、観莉」

「いえいえ!それでイッセーくん、今日もお願いできるかな?」

「ああ、そのために来たからな……ってことで、マスター。観莉をお借りしても宜しいですか?」

「うん。この時間帯はほとんど客が来ないからね。それにそろそろ観莉くんも休憩の時間だったからね」

 

 マスターは笑顔でそう言うと、静かに店の奥へと消えていく。

 

「じゃあイッセーくん、勉強道具を取ってくるから待っててね!」

 

 観莉はそういうと、まるでスキップをしそうな勢いでルンルンとバイト用の更衣室に勉強道具を取りに行った。

 

 ―・・・

 勉強を教え始めて1時間くらい経った。

 元々観莉は飲み込みが早い。

 これはマスターから聞いたんだけど、いろいろなバイトを短期間でたくさんしていたらしく、だからその仕事を短期間でマスターするほどに順応力が高いらしい。

 まあ大体が年齢がばれてバイトを辞めさせられていたっていうから、けがの功名って感じだな。

 それはさておいて、とにかく観莉はそういう経験からか飲み込みは早い。

 だから教えていて教えがいがある。

 

「ね、イッセー君。ここの問題なんだけど……」

「う~ん……それは筆者の言いたいことを問う問題か」

「うん。筆者の言いたいことなんて筆者にしかわからないと思うんだよね」

 

 ……最もなことをいう観莉に俺は苦笑いをすることしか出来なかった。

 

「まあそこら辺は割り切って考えよ。とにかく、筆者の言いたいことなんかは文章から根拠を探して―――」

 

 そういった風に観莉に説明すると観莉は次々の飲み込んでいってしまうんだよな。

 これなら倍率が跳ね上がってる駒王学園も大丈夫かもしれない。

 運動は得意らしいし、バイトの面接で面接慣れしてるから駒王学園の面接試験と身体能力試験もまあ大丈夫だとは思う。

 

「ああ、なるほど……そういう考え方もあるんだね~…………?どしたの、イッセー君。私の顔をじっと見て…………あ、もしかして見惚れてた~?」

「そうだよって言ったらどうするんだ?」

「え?…………あはは、それはそれで照れるね」

 

 観莉はにこやかに笑ってそう言い返した。

 

「キリもいいし一回休憩にしよっか……っというの忘れてたんだけど、俺、明日からの夏休みは実はこの町にいないんだ」

「へ、そうなの!?あ~あ……せっかくイッセー君と一緒に遊びに行こうと思ってたのにぃ…………それで旅行とか田舎に帰ったりするの?」

 

 ……旅行って言われれば旅行だし、帰郷っていえば部長の帰郷に付き合うから里帰りとも言えるんだけどな。

 

「ああ、まあそんなとこだ。それでしばらくは会えないんだけど……」

「うん……それじぁあ仕方ないよね………………―――あ!いいこと考えちゃった!!」

 

 すると観莉は思いついたように暗そうな表情から一変、明るい表情となった。

 

「夏休み終わったら私の家庭教師してくれない?迷惑じゃなければの話なんだけど…………」

「ああ、それくらいならむしろ引き受ける!まあ後輩になるかもしれないしな」

「えへへ…………イッセーせんぱい?」

 

 ……俺は観莉の先輩という言葉にかなりぐっと来た!

 何て言うんだろう、小猫ちゃんやギャスパーとは違う感じの言葉に俺は不思議とやられた。

 ―――とにかく、帰ってきたら全力をもって観莉の受験を手伝おう、俺はそう決心したのだった。

 

 ―・・・

 次の日、朝早くから俺たちグレモリ―眷属+アザゼルとオーフィスは汽車らしきものに乗って冥界に向かっていた。

 らしき、なんていう曖昧な表現を使うのは、これが汽車かどうかすらわからないからだ。

 元々は普通に俺たちは電車のホームで待ってたんだけどさ、突然足元に穴が開いて、そこから降下していったんだ。

 それでその降下中に足元に魔法陣が現れたと思うと、俺たちの目の前には今現在、乗っている汽車が煙を上げながらそこにあって、俺たちはその汽車に乗り込んだんだ。

 ちなみにこの汽車はグレモリ―家の所有物らしく、俺はそこでグレモリ―の家のすごさを再認識したんだ。

 ちなみに今の俺たちの席順に関してはなぜかまたじゃんけんで決められ、その結果で俺の隣が小猫ちゃん、その前がアザゼルとオーフィスというような形となった。

 座席の形は向かいあう形の電車でよくある席で、オーフィスはぼ~っとしながら何も見えない外を見ており、そしてアザゼルは何やら本を読んでいるようだった。

 

「……そういえば最近ティアを見かけてないな。いつもいつも呼んでもないのに突然現れるのに…………」

 

 俺はそうふと思った。

 ―――その時だった。

 

「ふふふ……姉が弟の行動を理解していないはずがないだろう?龍王およびお姉ちゃんドラゴンをなめるなよ?」

 

 ………………………………なんか、いた。

 ものすごく自然に、部長と朱乃さんの席の正面に座って優雅に紅茶を飲んでいた。

 しかもよく見るとひざ元でチビドラゴンズのフィー、メル、ヒカリが眠っていた。

 ―――なんで、またこのバカドラゴンは唐突に現れるんだよぉぉぉぉぉ!!!

 

「……部長、これは大丈夫なんですか?いや、ホントマジで……このバカドラゴン、何のアポもってませんよ?」

「え、ええ……私も今気付いたら目の前にいた彼女に驚いているわ…………い、一応魔王様やお父様に確認するけど、一応はいつでも現れてもいいように許可だけはもらっていたのが幸いしたわ」

「あらあら……過去の行動をかんがみて進言して正解でしたわね」

「い、イッセー?わ、私はあれだぞ?お姉ちゃんであってバカドラゴンではないぞ?」

 

 ……朱乃さん、ナイスです!!

 俺は朱乃さんに心から礼を言って、俺はティアをスルーするのだった。

 

「…………イッセー先輩、少しお膝をお借りしてもよろしいですか?」

「え?別にいいけど……」

 

 俺は突然の言葉に反射的にうなずくと、次の瞬間小猫ちゃんは俺の膝を枕にして横になった。

 そして少しすると小猫ちゃんは寝息を漏らし始めたのを俺は聞いて、少し嘆息しながらも彼女の小さな頭を撫でた。

 

「ははは!さすがはイッセーだな!後輩人気なら木場を抜かすことはある!」

「いや、そんな情報は別にいらないんですけど…………」

 

 俺はそういうと小猫ちゃんの頭を撫で続ける。

 背筋が凍るほどの鋭い視線を四方から向けられるが、気になんかしないぞ!

 とりあえず俺は落ち着くまで無視することにした……っと思った時だった。

 

「イッセー、そんな状態で悪いんだが、ちょっと話をしてもいいか?」

「話?」

「ああ……って言ってもお前にとっても将来的には必要な話だ…………以前、三勢力の和平会議の時に襲ってきた奴らのことを覚えているか?」

「ああ……旧魔王派の奴らだっけ?」

 

 俺はアザゼルの問いに答えると、アザゼルは頷いて話を続ける。

 

「ああ。旧魔王の直接の血を引く奴らが起こした反乱だ。旧魔王派の連中の大半は禍の団に入ったって話だ……ヴァーリも含めてだが」

「……で?その話は俺もすでに理解しているぞ?」

「本題はここからだ。実はな、旧魔王派が健在だった時代、その当時から魔王どもと肩を並べるほどの大きな悪魔の家があったんだ」

 

 するとアザゼルは球状の機械みたいなものを出して俺に放り投げると、それは俺の見やすいちょうどいい高さで浮いてそこから三枚の画像を映し出した。

 二人の男と一人の女の画像だ。

 

「そいつらはある家の当主でな……その三家は通称『三大名家』なんて呼ばれている悪魔界ではトップクラスの力の持ち主だ。一応、強さの序列からいうと”サタン家”、”ベルフェゴール家”、”マモン家”……まあどの家も知られていない名門だ」

「……サタンにベルフェゴール、マモン」

「そうだ。まあ実際に俺が知っているのはその中の一人、三大名家当主最強と言われるディザレイド・サタン。まあ戦争の時に遭遇してハルマゲドンしたことはあるんだけどよ……正直、二度と戦いたくないと思ったぜ……勝ったけどよ」

 

 アザゼルは身震いするような表情でそう言う。

 ……アザゼルが恐れるほどの悪魔か。

 俺は表示されている画像の悪魔を見る…………その肉体には幾重もの古傷があり、歴戦の覇者という言葉が似合うほどの鍛え抜かれた体、写真越しでもわかるほどの力量……確かに魔王クラスの実力保持者だな。

 

「まあ三大名家自体は現魔王政権には不介入で不満はねえんだろうけどな……サーゼクス達は相当焦ったみたいだ。あの三大名家が旧魔王派に手を貸すことがあるかもしれないってな」

「そりゃあ旧魔王と関わりのあった人物だからな」

「三大名家は基本的には権力とかには興味がない連中ばっかだからな。サタンことディザレイドも今では最上級悪魔の称号を捨てて、何やら冥界の餓鬼どものために奉仕活動しているって話だしな……しかもベルフェゴール家は世代交代して、今はお前と対して変わらない年の女が頭を張ってるらしい」

 

 ……なるほどね。

 まあ大体の三大名家の事情は理解できた。

 でも俺はまだ多少の疑問が残っている。

 アザゼルが最後の一人のことを話していないことだ。

 

「で?なんで最後のマモンのことを話さないんだ?」

「…………いや、すまんな。最後の一人は俺もなかなかの恨みに近いものがあるからな……そいつには部下を何人も虐殺されたから何ともな」

 

 ……アザゼルのこんなところ初めて見たな。

 こんな憎憎しい表情は。

 

「そいつは三大名家の中では最弱なんだが、でも三大名家で最も権力を持ってる悪魔なんだ。現在存在する最上級悪魔の一人で、その絶対値は魔王とも遜色のない悪魔。マモン家当主の―――」

「………………ガルブルト」

 

 ……するとその時、俺の膝で眠っているはずの小猫ちゃんが体を起こして、静かに言葉を発した。

 冷たい、まるで雪のような言葉だ。

 今まで聞いたことのないような刺々しくもなく、感情も何もこもってない声音。

 

「…………ガルブルト・マモン。それがマモン家当主の名です」

「……小猫、なんでお前はそれを知っている?」

 

 アザゼルは驚いたような表情をしながら小猫ちゃんにそう尋ねると、小猫ちゃんは今までに見たことのない表情でただ一言……

 

「…………ガルブルト・マモンは私が世界で最も嫌いな悪魔ですから」

 

 ……小猫ちゃんのセリフの後に列車内に冥界に入ったというアナウンスが入る。

 だけど俺の耳にはそのアナウンスは入ってこず、ただ小猫ちゃんの豹変した声音に耳を奪われているだけだった。


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