ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第9話 無限の少女と守りたいもの

 その場にいる全ての人物は、その存在の登場に声も出せずに驚いていた。

 黒い髪に黒い瞳、ゴスロリ風のファッションをしている美少女の姿をしたドラゴン―――無限を司るドラゴンと謳われる世界最強クラスの存在を前に絶句していた。

 無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)、オーフィス。……神が最も恐れたドラゴンの一角であり、そして……

 ―――俺、兵藤一誠の友達だ。

 そんなオーフィスは俺とヴァーリの間に立って、俺を守るように立ちふさがっていた。

 

「―――これはどういうことだ、オーフィス。……君は今、何をしているのか分かっているのかい?」

 

 あのヴァーリすらも冷静を保ってはおらず、声音の端々に困惑感があった。

 

「……我、今、感じたことのない気持ちになっている」

 

 するとオーフィスは耳に響くような静かな声で話し始めた。

 

「その気持ち、我、知っている―――我、怒っている」

「―――ッッッッ!!!!」

 

 その時だった。

 オーフィスはヴァーリに向かってドラゴンのオーラを噴出させる。……なんつうレベルの力だよ。

 反対側にいる俺にまでオーフィスの力は伝わってきた、圧倒的なほどの力。

 世界最強と言われるのが十分頷ける。

 

「イッセー、我の大切な友達。故、我、許さない。……イッセーを傷つけること、絶対に許さない」

「……冗談が過ぎると言いたいところだけど、本気のようだね―――まさか俺ともあろうものが強者を目の前にして足が震えるなんてねッ!」

 

 ……恐らくヴァーリは今まで味わったこともないような恐怖に襲われているんだろうな。

 あのオーフィスの力をまともに感じているんだ。

 

「おいおい、冗談きついぜ。……こいつはどういう状況だよ、イッセー」

 

 するとその時、アザゼルがオーフィスに警戒するような表情で槍を出現させて話しかけてきた。

 いや、アザゼルだけではない。

 その場に魔法陣が展開され、そこからサーゼクス様やミカエルさんまでもが現れた。

 各陣営のトップが全員集まり、そしてそれぞれがオーフィスを警戒していた。

 

「イッセー、とりあえずそいつから離れろ。そいつはヴァ―リやカテレアの組織でトップを張ってる野郎だ」

「イッセー君、今すぐにその者から離れたまえ。……ここは私も本気でいかなければならないということか」

 

 アザゼルとサーゼクス様は力を解放し、今すぐにでも戦い始めようとしている。

 確かに、そんな存在が突然現れたら警戒するのは当然のことだ。

 だけど俺はそんなものお構いなしにオーフィスに話しかけた。

 

「オーフィス……お前が組織―――禍の団のトップっていうのは本当なのか?」

「…………我、その質問に頷く」

 

 するとオーフィスは俺の質問に頷いた。

 

「詳しいこと、後で言う。故に、この場、我、任せてほしい」

「……そう言うことなら頷くしかねえな。ただし、俺も一緒だ!」

 

 俺は限界に近付いている体に鞭を打ってオーフィスの隣に立ち、そして皆のいる方向を見た。

 

「部長、サーゼクス様……。大丈夫ですよ。そこで見ていてください―――どうにかなりますから」

 

 ……俺はそれだけ言うとヴァーリを見た。

 翼を展開したまま未だ戦闘意欲を示していて、ギラギラとした視線を浮かべていた。

 ―――っとそこで俺はすぐ後ろにいる存在に気がついた。

 

「助けてくれてありがとな! 色々聞きたいことはあるし、話さなきゃいけないこともあると思うけど―――とりあえずありがとう、それだけ言っておくよ」

 

 俺はすぐ後ろにいる黒い着物を着た黒髪の美女に向かってそう言った。

 その子はどこか涙を流しそうな顔になるけど、俺は構わず前を向く。

 

「……そろそろ本題に入らないか? 俺はこれでもうウズウズしているんでね―――早く決着をつけたいんだよ」

「そんなこと、我、させない。それでも向かい来る。それなら我、アルビオン、消す」

 

 オーフィスの体から這うように黒い蛇のようなオーラがうねりを上げて放たれる。

 俺は初めてみたな―――オーフィスが怒っている姿を。

 そうだよ。……誰かのために怒れる人が、こんな優しい子がテロ組織にただ参加しているはずがない。

 

「禍の団の者に我は言う――――――我、この時、以て、禍の団、脱団する」

 

 ―――オーフィスの発言を聞いた瞬間、一番早くに反応したのはヴァ―リではなく、アザゼルに倒された旧魔王派の女だった。

 いつの間に起きてたんだろうな。……当然、動けないようだけど。

 

「オ、オーフィス!!? 貴方は何を仰っているのか分かっているのですか!?」

「分かっている。……故に我、イッセー、隣、いる」

「ふざけるな!! 貴方は自分の立場を何も分かってはいない!! 組織には、我々が創る新世界には貴方という存在が!!」

「―――んなもん、幻想にすぎないだろうが」

 

 ……俺は女の発言に、つい頭にきて口をはさんだ。

 それを機に旧魔王派の女は俺の方をキッと睨みつけてきたけど、俺は構わずに話し続ける。

 

「立場も何もねえよ。お前らは大方、オーフィスの願いを聞くふりをしてオーフィスの力を利用していただけだろうが! それをふざけるなとか、それこそふざけんな!! そんな勝手な戯言、オーフィスの友達の俺が許さない!!」

「そ、そんなものただの虚言にしかッ!!」

「虚言じゃねえ。俺はオーフィスの最初の友達で、それはずっと変わらねえ。それにお前の創る世界には誰もついて来ねえよ。ただ自分たちの幸福だけのために他者を傷つけることを前提にした都合の良い世界、共感する奴なんていない。お前たちはただ愚かなだけだ。だから魔王の座を奪われ、無様にそこにひれ伏してる―――そんなお前たちに、誰も付いて来ない。努力の欠片もないお前たちにはな」

 

 俺の言葉を全て聞くと、女は絶望的な表情になってその場に崩れ落ちる。

 ……ただ自分たちの思惑だけで和平を実現させるための会談を襲い、俺の後輩を利用した。

 そんな奴らが創る世界なんか良いわけがない。

 ただ自分たちの利益だけの世界なんか、俺は絶対に認めないし、それにこいつがサーゼクス様や他の魔王様に通用するとは思えない。

 そして俺は改めてヴァーリを見た。

 

「あはは……驚きというか、むしろ今の俺は感動しているよ―――兵藤一誠、君はとんでもないことをしでかしたね」

「その割には口元が緩んでねえか? ヴァーリ」

 

 ……ヴァーリはどこか嬉しそうな表情をしている。

 どういう思惑かは知らねえけど。……とにかく最後の問題はこいつだ。

 

『相棒、お前の体はもうもたない。立てているのが不思議なくらいだ―――だが根性を見せれば一度くらいの解放は可能だろう?』

 

 ……ならそうさせてしようぜ。

 いつだって俺は最後は我慢で戦ってきたもんな。

 

「オーフィス、下がってろ。……こいつは俺が倒す」

「イッセー。……我、イッセー、従う」

 

 そしてオーフィスは俺の言葉に頷いて一歩退いた。

 

「君は凄まじいね。赤龍帝の力だけでなく、その身に末恐ろしいもう一つの神器、龍殺しの聖剣アスカロン、そして―――ドラゴン。龍神すらもその手中に収めるとはね」

「収めてなんかいねえよ。ただ友達、大切な存在なだけだ。……それ以上の意味なんかいらない」

『Boost!!』

『Divide!!』

 

 ……同時に俺達の反発する力が発動する。

 そして、その音声が鳴り響いた瞬間、俺の籠手は力を解放したッ!

 

『Explosion!!!』

 

 ドッと俺の体に負担が掛かる―――普段ならどうってこともないけど、今の状態ではかなりきつい。

 だけど俺は拳を握り、ヴァーリと対峙した。

 ヴァーリは翼を織りなして魔力弾を俺へと放ちながら近距離でぶつかりあう。

 ―――ずっと、こいつの白い鎧をミリーシェと重ねてきた。

 だけどそれが間違っていることに気付いた。……こいつはミリーシェとは根本で違いすぎる。

 ……ミリーシェは、決して間違ったことはしなかった!

 戦いに溺れなかった!!

 愛に歪むことはあっても、他人を傷つけてまで間違いを起こすことはなかった!

 

「俺は……、お前を倒す! ヴァーリィィィィィ!!!!」

「ッッッッ!!!?」

 

 俺はヴァ―リが放つ魔力込みの拳を右腕で防ぐ。

 その拳によって右腕に嫌な亀裂の走る音が響くが、俺は浮いているヴァ―リの腕を瞬間的に掴み、そして地面にたたきつけた。

 ヴァ―リは一度、大きく地面にバウンドして宙に浮き、俺はそれに向かって……

 

「これで終わりだ!! うぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 ―――解放した全ての力を注ぎ、再び地面へと叩きつけたッ!!

 ヴァーリが叩きつけられた地面は巨大な窪みを生み、そしてヴァーリはその窪みの中心で震える。

 ……確かな感触があった。

 

『……見事だ、兵藤一誠』

 

 その声はヴァーリのものではなく、アルビオンのものだった。

 

『……ヴァーリはフェニックスの涙で回復したと言ったが、あれは嘘だ―――実際にはあの一撃は涙でも完全には治すことは出来なかった。ヴァーリもまた、満身創痍だったんだよ』

「……はは、凄いな。君は―――これでは覇龍を使うこともできないな」

 

 ……ヴァーリはそう自嘲するように呟いた。

 そんなヴァーリに俺は奴の近くまで歩いていき、そして言った。

 

「―――俺の勝ちだ。……ヴァーリ」

「……そうだね、俺の負けだ―――兵藤一誠」

 

 ……ヴァーリは少し苦笑いをしてそう呟いたのだった。

 

「―――おいおい、マジかよ! オーフィスが寝返ったと思いきや、まさかヴァーリが負けるとか、あり得なさ過ぎて俺っち驚愕だぜ!」

 

 するとその時、俺とヴァ―リの近くに舞い降りる一人の存在がいた。

 三国志風の鎧を身に纏っている青年のような見た目で、軽い口調の男。

 

「美候か……何をしに来たんだ?」

 

 ヴァーリは突然現れた男に対し、倒れたままでそう問いかけた。

 対する美候と呼ばれた男は苦笑いをしながらヴァ―リの質問に応える。

 

「それは酷いんだぜ? お前がピンチって聞きつけて急いで向かってみたらなんだ、この状況は―――オーフィスが反旗を翻して、しかも黒歌までいるってどんな状況だぜ? しかもお前が敗北しているなんてよ」

「ふふ……それもそうだね―――だけど負けは負けだ。俺は今回、兵藤一誠に敗れた」

 

 するとヴァーリはゆっくりと体を起こし、口から出る血を拭った。

 俺は一歩、足を後ろに下げると次の瞬間にさっき俺を庇った黒歌(・ ・)と呼ばれた少女がヴァーリと美候の傍に現れる。

 そして何やら回復の光みたいなものをヴァーリに浴びせ始めた。

 

「……黒歌。君はあっち側に行ったのではなかったのか?」

「…………約束は守るにゃん。ただあの人を傷つけるのは許さないにゃん」

「そうか。……ならばそういうことにするよ」

 

 ヴァ―リは嘆息するように溜息を漏らした。

 

「イッセー。……我、どうしたらいい?」

「……何もしなくていい。どうせ俺はこいつを追撃するほど力は余っていないからな」

 

 俺はそう言うと体全身から力が抜けて、装着している全ての神器が解除されるのを確認した。

 ……今までで一番状態がヤバい。

 意識を保っているのがやっとだ。

 

「イッセーさん!!」

 

 ……アーシアの声が聞こえて俺はその方向をみると、そこにはそれまで俺とヴァーリの戦いを見ていた眷属の皆や各勢力のトップが急いで駆け寄ってきた。

 アーシアは俺の元まで来るとすぐさま神器で俺の体の傷を回復し始める。

 ……久しぶりに受けたけど、相変わらず癒されるなぁ……。

 そう和やかに思っているところだけど、今はそうじゃなかった!

 ヴァーリは倒したけど、問題は山積みだ。

 

「……ヴァ―リを倒すなんて今代の赤龍帝は相当の腕だな! 俺っちは美候。……闘戦勝仏の末裔だぜ!」

「なるほどな。孫悟空の力を受け継いでいるってわけか―――で、お前はどうする気だ? この場で俺たちとやり合う気か?」

「それも魅力的なお願いだけどよぉ。ヴァーリ、残念ながらお帰りの時間だ」

 

 すると美候はヴァーリに向かって不敵に笑みを浮かべて言った。

 美候はヴァーリの回答を待たずに手に持っている長い棍棒をくるくると回転させて、そして地面にポンと当てた。

 するとそこから黒い煙のようなものが出現し、あいつら三人を包んだ。

 

「―――俺が見逃すとでも思っているのか?」

「はっは! 見逃すねぇ。……少なくともこっちに黒歌がいるなら見逃すっしょ?」

 

 ……こいつ、まさかそれを見透かしてこの大胆な行動に出ているのか?

 だけど問題はそこじゃない―――さっきから、小猫ちゃんが震えていることだ。

 そしてそんな小猫ちゃんを黒歌は優しそうな目つきで見ていた。

 

「……ごめんね―――ご主人さま、その子(・ ・ ・)を宜しくたのむにゃん」

 

 ……何故か黒歌は俺の顔を見て少し寂しそうな笑顔で言ってきた。

 ―――そうかよ。……ならいい。

 何となく、また会えると思うから。

 

「兵藤一誠」

 

 するとヴァーリは少しずつ姿をくらます中で俺に話しかけてきた。

 当然他の皆はそれを止めようとするけど、どういう原理かサーゼクス様やミカエルさん、アザゼルが干渉しても黒い煙は消し去らない。

 

「君は強かった。……だけど今度はもっと本気の君とやりたいな。俺は君に必ず追いつくよ。とりあえず、今の目標は君に絞る。次に会う時は―――もっと強くなって戦いたいものだ」

 

 ヴァーリはそんな台詞を残して行くと、一陣の風がその空間を襲って黒い煙は消えさる。

 そしてそこには既にヴァーリ達の姿はなかった。

 

「…………逃がしちまったのはまあ仕方ねえとして―――話は聞かせてもらうぜ、イッセー。……そしてオーフィス」

 

 ……俺とオーフィスはアザゼルの言葉に頷くのだった。

 ―・・・

「そう言えば部長、旧校舎が半壊しているのですが……」

 

 とりあえず俺とオーフィスの話を聞くと言うことで、落ちつける場所に向かう途中で祐斗が旧校舎を見て言った台詞に俺は冷や汗をかいたものだった。

 ……何せぶっ飛ばしたのは俺ですから!

 っという経緯もあって今、俺達はまだ無事であった新校舎の生徒会室に来ている。

 ちなみにこの場には俺の治療のために付き添っているアーシアと主である部長、そしてサーゼクス様とアザゼル、ミカエルさん。……そしてオーフィスしかいない。

 それ以外の皆は今回の事件の後処理……まあ生け捕りした組織の連中を拘束して然るべきところに閉じ込め、後は校舎の修復だ。

 祐斗は鋭い指摘を加えただけで復旧作業に勤しんでいるそうだ。

 ……さてと、そろそろこの場の空気から逃げるのはよそうか。

 今の状況は生徒会室の席に三勢力の面々がそれぞれ座っている。……ってアザゼルはアーシアにでも治療してもらったのか、切断された部分を包帯で覆っていた。

 現在、俺は三人の目の前に対面するように座っていて、アーシアは俺の隣で回復をしてくれていて、そして部長は生徒会室の壁にもたれかかるように立っている。

 オーフィスはというと……

 

「我、この位置、気に入った」

 

 俺の太ももの上に座って足をパタパタさせている!

 なんてマイペースな龍神様だ!! そうしているとアザゼルの青筋がピクピクしているのが俺でもわかった。

 

「聞きてえことは山ほどだが、まずオーフィスに聞こうか―――さっき言ったことは本当か? 組織を抜けるってやつは」

「我、その問いに頷く。我、イッセーとの約束、守るため、やるべきこと、終えた」

 

 ……そう言えばずっと気になっていたことだった。

 オーフィスが俺に言っていた「やるべきこと」。

 ずっとどんなことかは教えてくれなかったんだよな。

 

「ふむ。……そのことは私からも説明した方がよさそうだな」

 

 ―――その時、何度か経験している神出鬼没な声が聞こえた。

 なんでだろう。……何故黒髪美女の最強の龍王、ティアマットことティアは突然現れるんだろうな。

 よく見ると彼女の足元には龍法陣。……ドラゴンが使う魔法みたいなものらしいが、それが浮かんでいた。

 更に幼女モードのフィー、メル、ヒカリもばっちりといるし―――そして突然の龍王到来によって各陣営のみなさんは更に驚いていた。

 

「やぁ、三勢力のトップ共。私は一誠の使い魔にしてドラゴンファミリーのお姉ちゃんドラゴン―――ティアマットだ」

 

 ……………………空気が凍ること数十秒。

 未だ決め顔でいるティアは、次第に自分がやらかしたことに気がついて顔を赤くなるのがその更に数秒後。

 

「で、オーフィス。そのやるべき事とはなんだ?」

 

 ―――そして見事になかったことにされたのがそのすぐ後の事だった。

 

「うわぁぁぁん!!! イッセェェェェェェェ!! 鴉がお姉ちゃんをイジメるぞ!! 不埒な変態鴉が虐めるんだぁぁぁぁ!!!!」

「うそ! ティアってそんなキャラだったっけ!? フェル、とにかく自立歩行型になってティアを慰めてあげて!!」

『はい、主様!! ティアマット、しっかりしてください!!!』

 

 俺にしがみついてくるティアをどうにかするため、俺は胸にブローチ型の神器を出現させて分離させる。

 ティアは自立歩行型の機械ドラゴンになることができ、そしてフェルはティアの傍によって慰めを開始した。

 

「……お前のせいだぞ、アザゼル! うちのティアは強いくせにメンタルが豆腐なんだぞ! 突いたら簡単に穴が空くんだぞ!?」

「知るか、そんなの!!」

 

 ああ、ごもっともだ!

 ……ってシリアスが台無しになってしまった!

 アーシアは隣で苦笑いしてるし、部長は頭を手で押さえて溜息を吐いていらっしゃる!

 でも何となく、この場の苦しい空気はどうにか消えていた。

 

「にいちゃん、ねえちゃんをなぐさめる?」

「そうだな。……とりあえず頭を撫で撫でしてあげたらどうだ?」

 

 俺は純粋な瞳でそう尋ねてくる火炎龍ことフィーにそう言うと、フィーは赤い髪を揺らしながらティアの所に行って頭を撫でていた!

 ヤバい……ッ! 久しぶりの俺の保護欲が爆発する!

 可愛すぎる。……そう思っているとアーシアが俺の頬を軽くつねった!

 

「むぅ~~~~~……!」

 

 ぷくっと頬を膨らませて怒るアーシアの可愛さに俺はクラクラするが、とにかく今はふざけている場合じゃないよな。

 

「ふぅ……私とした事が、堕天使ごときに精神攻撃をされるとはな―――恐るべし、堕天使の総督」

「おうおう、全く嬉しくない評価をありがとよ! ―――で、そろそろ本題に入ろうや」

 

 するとアザゼルは仕切り直しと言ったようにオーフィスを指差した。

 

「そいつはテロ組織。……禍の団のトップだった。そのことは理解しているか? 龍王ティアマット」

「ああ、それはオーフィスから知らされていた。まあトップと言うよりかはお飾りに近いんだがな」

「……お飾り?」

 

 俺はその単語に少し反応すると、ティアは話を続けた。

 

「簡単に言えば象徴だよ。オーフィスの願いは一誠も知っているな?」

「ああ。……静寂を手に入れる。グレートレッドをどうにかしたい、だったっけ?」

 

 俺は事前に知っていた情報を口にすると、サーゼクス様が俺とティアの会話に乱入した。

 

「ちょっと待ってくれるかい? ―――イッセー君、君はいつオーフィスと出会ったんだい?」

「……ライザーとの一戦の直前の夕方ですよ」

「…………そうか、あの時だったのか」

 

 サーゼクス様は何か納得したような表情になっている。……もしかしてオーフィスが俺達のゲームを見ていたことに気付いていたのか?

 

「話を戻すぞ。イッセーの言う通り、オーフィスの願いは次元の狭間。……そこに漂うグレートレッドをどうにか倒して静寂を手に入れることだった―――当初はな」

「当初ってことはつまり……」

「そう。……我、最初、静寂、手に入れること、願いだった」

 

 するとオーフィスは俺の膝の上で口を開く。

 

「故に我、禍の団に蛇、渡した。いつかグレートレッド、倒すのに協力してくれる、言った」

「なるほどな。……カテレアの野郎が蛇を持っていたのはそれが理由か」

 

 蛇っていうのは確かオーフィスの力の一つだったはずだ。

 それを飲むことにより対称は異常なまでの力を手に入れることが出来る、ある意味では俺の倍増の譲渡と似ているものだ。

 っていっても持続性が全く違うけどな。

 

「……でも我、その考え、違うと知った。イッセー、我のこと、友達と言ってくれた」

 

 ……するとオーフィスは膝に座ったまま首だけ俺の方を向けて、上目遣いで俺を見つめる。

 そしてその表情は―――笑顔だった。

 

「我は求めるもの、変えた。……当然、静寂も大事。でも我、それ以上に―――イッセーの近くで、平穏、求めたい」

「つまりそういうことだ。オーフィスは組織に利用され、力をなし崩しに提供していたわけだ。だがオーフィスの願いを叶える奴が現れたとしたら、オーフィスは組織に頼る必要はなくなる。……私はそれをオーフィスに相談されたんだよ」

 

 ……なるほど、オーフィスが前にティアにしていた相談事はそれだったのか。

 ってことはオーフィスが言っていたやるべき事っていうのは……

 

「私はほっとけば良いと言ったんだけどな。……オーフィスは思った以上に律儀な奴で、感情みたいなものが芽生えたからか組織の連中を気遣った。元は自分のせいで出来た組織。……裏切るようなことは出来なかったんだ。だからオーフィスはな―――無限の力の半分を占める割合を自ら切り離し、それを禍の団に献上した」

「―――なっ!?」

 

 俺はティアの発言を聞いて驚いたッ!

 まさかオーフィスはそこまでして俺の傍にいようとしたとでもいうのか!?

 そしてそれに驚いているのはその場にいる全員だった。

 

「まあ話を最後まで聞け。切り離すと言っても、その力は無限ではなく有限。そもそも無限を体現しているのは”オーフィス”であり、力ではないからな。……無理矢理奪われるならまだしも、私も手伝って自ら力を切り離したんだ。回復には時間を有するが、オーフィスは未だ無限の体現者だよ」

 

 ……つまり禍の団に献上した力は有限なもので、いつかはなくなるってことか。

 確かにオーフィスのオーラは以前に比べて少し減っているようだけど。……だけどそれでも半減したようには見えないな。

 

「オーフィス、今どれくらい回復したんだ?」

「……8割弱くらい」

 

 ……そりゃあ最強のドラゴンだもんね。

 常識が全く通用しないぜ!

 

「だが半分で有限とはいえ、オーフィスの力をそれほどに保有している組織はやはり危険です。……もしそれを使えば少なくともどこかの勢力が崩壊する恐れも……」

「天使長は用心深いね。……でも大丈夫だろう。組織はどう思っているかは知らないけど、こっちにはオーフィスがいるんだ―――少なくとも、オーフィスはイッセーを守るためなら惜しみなく力を使うさ」

 

 ティアはさも当然のようにそう言うと、そこにいる全員が俺の方を見た。

 ……後は俺の仕事ってわけか。

 

「……サーゼクス様も、ミカエルさんも、アザゼルにもそれぞれ抱く想いはあるとは思うけど。……でも俺にとってオーフィスは大切な友達で、家族とも言っていい存在だ。もしそれに手を出すなら―――俺達は黙ってはいない」

 

 ―――俺の周りに機械ドラゴン化したフェル、三人のチビドラゴンズにティアに俺の手の甲から宝玉としてドライグ、そしてオーフィスが集結する。

 ティアが言うところのドラゴンファミリー。

 

「……おいおい、怖いなぁ。天龍に龍王、しかも龍神に睨まれたら流石に何にも言えないぜ―――しゃーねーな。一応、黙認ってことにしてやるよ。ただし、オーフィスが表立って何かするのは禁止だぜ?」

「そもそも伝説級のドラゴンが出てきている時点でそう答えるのが自然でしたね。ある意味での第四勢力。……兵藤一誠君、全てはあなたに掛かっているので、どうかその手で龍神を手中に収め続けてください」

「はは。もう流石と言うべきかな? ―――イッセー君、今後も君には期待するよ」

 

 アザゼル、ミカエルさん、サーゼクス様はそれぞれ諦めの表情や苦笑い、笑顔を漏らしてそう言ってくれた。

 ……正直、脅しに近い行為だったけど、でもどうにかなったはずだ。

 部長も特に不機嫌そうな表情はなく優しい表情で居てくれる。……そしてアーシアは何故かチビどもと戯れていた。

 

「はーい、これが回復の力ですよ~」

「「「きれい!!」」」

 

 ……とりあえずアーシアの肝っ玉が思った以上にでかいことに俺は気付いて、そして肩の力を抜く。

 ―――どっと、しんどさが出てきたな。

 そう言えば俺は直前までヴァ―リと死闘を繰り広げていたんだな。……色々あり過ぎてそれが麻痺してたけど。

 アーシアのお陰で傷は癒せたけど(それ以上に心もだけど)、体力や神経までは癒すことは出来ないからな。

 

「赤龍帝もお疲れということだしよ―――悪かったな、うちのヴァーリが裏切って」

「それを言うなら私達悪魔サイドも過失があった―――カテレアの件は礼を言おう。よくぞ殺すことを躊躇ってくれた」

「はっ! あいつが堕天使サイドの奴だったら迷わず殺した。……ただ、まだ和平が成立してねえからな」

 

 ……どうやらアザゼルも相当疲れているようだな。

 あいつだってカテレアと戦っていたんだから当然と言えば当然か。

 聞くところではオーフィスの力を利用し、前魔王に近いパワーを得ていたらしいし。

 だけどあいつとはまた色々と語らねえといけないな。……特にあの人工神器!

 

『……相変わらずだよ、相棒は。―――だがそれが相棒だな』

 

 ドライグが呆れるようにそう言ってくる。

 とにかく、オーフィスはこれで晴れて―――あれ、なんか忘れているような……?

 

「ところでオーフィス。お前はイッセーの何がいい?」

 

 ……そうだった。

 俺の周りに近づくドラゴンは皆、何かとつけて立場に拘るんだった!!

 っていうかティアは何故それをわざわざ聞くんだよぉぉぉ!!

 

「……我、イッセーの、従妹、良い」

 

 ……あれ?

 オーフィスのことだから妹とか、そこらへんで攻めてくると思ったけど意外と謙虚だった。

 家族というより親戚だけど……

 

「従妹? まだ祖母枠と祖父枠、あとは兄枠が残っているぞ?」

「ティアマット、分かっていない――――――従妹、結婚できる」

 

 ―――――――はい、これまでで一番の爆弾でした。

 それからの事は覚えていません。

 何故ならその発言に驚きすぎて疲れが頂点に達したからです。

 最後に俺が覚えているのは……まあアーシアと部長の怒った表情でした。

 そして俺は静かに望んで意識を手放した。

 

 ―・・・『Side:???』

『どう思った?あんたは』

「どうってことはないよ。それにいきなり赤と白の対決を見せられてもどう返せばいいかもわかんない」

『懐かしむ、そんな気持ちは湧かないみたいだね』

「懐かしむ? 何を懐かしむのかな?」

『……そうか、それは私の勘違いね。そもそも覚えていないなら仕方ないね』

「そっ。……わたしはまた寝ることにするよ。また時が訪れたら起こしてね――――――アルアディア」

『そうするわ。それに何も目覚めぬ雛鳥を覚醒させるのも酷だからまだお休みなさい―――――――終わりはまだまだ先だからね』

『Side out:???』

 

「終章」 心の在り処

 駒王学園で起きた騒動から既に3日が経過した。

 その間に俺は更に詳しい事情をオーフィスとティアから聞いて大体の事は理解した。

 ”禍の団”を創ったのはオーフィスで間違いないが、だけどそれは口車に乗せられたようなものであり、まだ実際に組織全体が動いていないとのことらしい。

 今回、三大勢力のトップが集まる会談を襲ったのが実質的な初めての行動であったと後にアザゼルが言ってきた。

 オーフィスに関しての処罰はないけど、一応責任としては俺が取ることになっていて。……まあ簡単にいえばオーフィスがこちら側にいれるように細心の注意を払えとのことらしい。

 それで今、俺達グレモリ―眷属は最近になって修復された(壊したのは俺)部室でのんびりしている。

 今の俺はと言うと……

 

「……イッセー先輩は今は私だけのです」

 

 ……最近、前にも増して甘えん坊になってきた小猫ちゃんを膝枕しながら頭を撫でて可愛がっていた。

 うん、だって頭がいたくなるほどに可愛いんだもん!

 なに、この癒しの存在!

 最近アーシアと共に台頭してきた二大癒しの存在です!

 ―――そう言えば、俺はまだ幾つか疑問を持っている事柄がある。……っていうより確信を持っていないことがたくさんあるのが正しいな。

 一つはオーフィスと共に俺を庇った黒歌と呼ばれた黒い着物を着た黒髪の女の子。……偶然かもしれないけど、彼女の名前は俺の大切な存在の一つであったあいつと同じ名前だ。

 ……そして小猫ちゃんのこの甘えようは少し疑問を抱くほどだ。

 純粋に甘えてくれるのは嬉しいけど、でも今の小猫ちゃんは何かから逃げたくて俺に依存しているって風に感じる。

 今、この場にアーシアが不在なのは助かるけど。……それと先ほどから女性陣の視線が凄まじいです。

 でも状況を察してかギリギリで止まってくれてるけど。

 

「……和平が成立したからひと段落と思ったのだけれど。……これは対策が必要みたいね」

「そうですわね。……正直、小猫ちゃんのあの儚い可愛さにはかなわない部分もありますわ」

 

 んん? 部長と朱乃さんは何やら作戦を練っているみたいだけど、そう言えばサーゼクス様が仰っていたな。

 和平成立。……これは事件後の後日にもう一度、内密に開かれたサーゼクス様、ミカエルさん、アザゼルの三人の会合によって決まったことだ。

 和平成立にあたって最も関係深いのが駒王学園だったことから、この歴史的な事は『駒王協定』と呼ばれているらしい。

 どの勢力にもこの決定に不満を持つ人もいるけど、アザゼルなんかは流石と言うべきカリスマと口頭で部下をその気にさせたらしい。

 アザゼルは有能だな。

 

「おっす、グレモリ―眷属~! 来てやったぜ!」

「あうぅ。……皆さん、遅れて申し訳ないです!」

 

 ……突然開けられた部室の扉、そして申し訳なさそうな顔をしているアーシアに、スーツを着崩したアザゼルが何故かそこにいた。

 ―――ってなんでアザゼルがいるの!?

 

「なっ!? アザゼル、なぜ貴方がここに!!」

「ははは! そりゃあ言ってないから驚くも当然か。……いやぁ、よくよく考えたら俺の部下の馬鹿がイッセーやアーシア・アルジェントに迷惑かけたってことを反省して、この学園に教師として赴任してやったんだぜ!」

「…………ごめんなさい、正直有難迷惑だわ」

 

 うわぁ……部長の表情が超冷たくなった。

 あれはアザゼルに全く関心を持っていない表情だ。

 

「まあこれは俺の償いみたいなもんだ。今回の事件でお前らは嫌でも”禍の団”と接触することが増えるだろうからな。……そんな時に奴らと戦えるのがイッセーだけっていうのがお前らの魔王も心苦しいんだろうよ。ってことで俺がこの眷属の力の底上げとしてコーチになってやるってわけだ」

「……確かに堕天使の総督レベルの奴が俺の修行相手になってくれるのは嬉しいな」

 

 俺は小猫ちゃんに膝枕をするのを止めて、アザゼルの方に歩いて行ってそう言った。

 ……いや、小猫ちゃんよ。そんな名残惜しそうなウルウルな目を浮かべないで?

 撫でまわしたくなるから!

 

「にしてもリアスよ、お前はついてるぜ。……この眷属は神器持ちの奴が多いが、この俺とイッセーの力を借りることが出来るからよ」

「イッセーだけで十分なんだけどね」

「まあそう言うな―――それにこいつはお前にとってもメリットは多いことだぜ? 神器っていうもんは使いこなせば強い矛だが、そうでなかったらただの諸刃の剣だ。それにこの眷属は強力な神器が多い。それを使いこなせばお前らは相当の眷属になれるぜ?」

 

 ……確かにアザゼルの言うとおりだな。

 そもそも俺はあまりアザゼルに否定はしていないけど、問題は朱乃さんだ。

 朱乃さんにとって堕天使は複雑な存在のはずだからな。

 

「……姫島朱乃、やはりお前にとってバラキエルは許せないか?」

「……たぶん、自分の中で許せないと思いこんでいると思いますわ。でも私から父様に近づくことはないですわ」

「……思っていた以上に対応が柔らかいな。俺としては罵倒するぐらいは覚悟してたんだが」

「いない人を罵倒するほど私は落ちぶれていませんわ。それにイッセー君がいれば父様など……ふふ」

 

 ……朱乃さん、少し頬笑みが怖いです。

 でも朱乃さんのお父さんに対する気持ちは色々とマシにはなったのかな?

 許せない気持ちはあるとは思うけど、それでも俺と話した時よりは幾分マシだ。

 

「ああ、それとバラキエルなんだがな。……最近、朱璃が冷たくて沈んでんだわ。それとイッセー、朱璃がお前に会いたがってんぞ? それと朱乃もな」

「……俺ですか?」

「おう。……聞いた話じゃあお前、餓鬼の頃に朱乃と朱璃の命を救ったみたいだな? それで朱璃がその時のお礼をしたいって……ってお前ら、何驚いているんだ?」

 

 アザゼルが俺と朱乃さん以外の部員の驚いている顔を見ながらそう言った。

 ……そう言えば俺と朱乃さんの事は誰にも言ってなかったな。

 

「……朱乃、後でそのことを詳しく聞かせてもらうわよ?」

「望むところですわ」

 

 ああ、またこの二人のにらみ合いだ。

 でももう最近は見慣れてしまったな。

 

「それと白龍皇のことだ」

 

 ……その単語を聞いた瞬間に皆が静まり返った。

 ヴァーリ・ルシファー。

 俺が対峙した白龍皇の名前だ。

 

「奴は”禍の団”に入っているということが正式に発表された。しかもあいつ、自分のチームを持っているらしい。この前の美候ってやつが良い例だな。今のところは知ってんのはそれだけだ」

「……すみません、あの黒い着物を着た人はどうなんですか?」

 

 ……すると珍しく小猫ちゃんが挙手をしてアザゼルにそう尋ねた。

 表情は少し不安そうだけど……なんだ?

 

「……俺も詳しいことは知らねえが、恐らくあいつは直接組織には関わっていないらしい。詳しいことはサーゼクスが知っているらしいが」

「……いえ、それだけ聞けたら十分です」

 

 すると小猫ちゃんは再びソファーに座った。

 表情はどこか安心していそうな顔だな。

 

「まあリーダーであるヴァーリはイッセーが倒しちまったんだけどな。まさかあのヴァーリが下されるとは思っていなかったぜ。あながち、今代の赤と白は互いに歴代最強なのかもしれないな」

「それ、違う。イッセー、最強じゃない」

 

 ……ホントに突然だった。

 その声が聞こえたと思った瞬間、俺の背中に少し重荷が掛かるように誰かくっついていた。

 って誰かっていうのは言うまでもなく。……オーフィスだ。

 

「おお、オーフィス。相変わらず風のように現れるな」

「我、イッセーの隣、いつでも現れる。ブイ」

「っておいおい! まるで何回もこんなことがあったような会話だな!」

 

 ……アザゼルが焦ったように俺とオーフィスにツッコンできた。

 だけどアザゼルはこほんと咳払いをして、仕切り直しと言う風にオーフィスを見た。

 

「で、オーフィス。イッセーが歴代最強じゃないっていうのはどういう意味だ?」

「……イッセー、強い。今までの赤龍帝よりも、誰よりも。でも我、知っている。……イッセーは最強じゃない―――最高」

「……最高?」

「そう。イッセー、最高の赤龍帝、優しいドラゴン。今まで最も優しくて、でも強い。だから、最高の赤龍帝」

「……それは僕も―――いや、僕達も同意見だね」

 

 ……オーフィスの言葉に祐斗が頷くと、他の皆もうんうんと頷いた。

 俺の中のドライグとフェルも頷いているようだった。

 

「なるほどねぇ……。確かに、イッセーには期待してしまうな―――とにかく、この眷属の現時点における目標は強化。少なくとも組織から生きて逃げれるほどには強くなってもらうぜ?」

「分かっているわ」

 

 部長が真剣な表情をしているのをアザゼルが確認すると、今一度高らかに笑う。

 

「まあそう言うことで俺は形的にはオカルト研究部の顧問だ。納得してなかったら納得してもらうぜ」

「……そう言えば貴方がここに入るのは誰に頼んだの?」

「あ? そんなのセラフォルーに決まってんだろ」

 

 ……確かにあの魔王様なら軽く「オッケー☆!」とか言いそうだよな。

 

「ところでだ、イッセー。……オーフィスは今はどこで生活してるんだ?」

「ああ、基本的にはティアに面倒は見てもらうはずだったんだけど。まあほとんど俺の家に居候だな。風のように現れるからもう慣れたよ」

「……龍神が居候とはシュールだな」

 

 アザゼルの言うことに俺は激しく同意すると、オーフィスはVサインをして少し笑った。

 

「改めて考えるとイッセーの家族……ドラゴンファミリーだっけ? 世界の新しい勢力になるレベルだな。龍神のオーフィスに龍王最強のティアマット、赤龍帝ドライグにオーフィスに近いものを感じる創造の龍、あと子供の上級クラスのドラゴン。……あとは優しいドラゴンか?」

 

 アザゼルは少し苦笑いをしながらそう言うけど……確かに傍から見たら三大勢力に拮抗しそうなくらいの勢力だよな。

 ドラゴンは力の塊。……俺はそうは思わない。

 ドラゴンにだって心はあるし、優しさもある。

 ……ただ皆が恐れているだけで、ドラゴンはいい奴なんだ。

 

『世界広しと言えど、そんなことを言ってくれるのは相棒だけだよ』

『あのオーフィスを恐れずに接したのですから、当然ですよ。……ああ、実態があるのが羨ましいです』

『言うな、フェルウェルよ。……最近、相棒は弱ってくれているから慰めることが良くできる! それだけを噛みしめるぞ』

『ふふ……そうですね』

 

 ……ドライグとフェルは最近は割と仲がいいな。

 普段からそうしていればいいのに、些細な事で俺の中で喧嘩するからな。

 ―――後、問題が残っているとすれば、俺か。

 今回ではっきりした。

 俺の心の中にはまだミリーシェがいる。

 それは俺の中で大きな割合を占めるもので、たぶんどうしようもないだろう。……ヴァーリを殴れなかったのもミリーシェと重ねてしまったせいだからな。

 俺の中の無念、そしてあいつを死なせてしまった後悔……それが俺を支配している。

 たぶん、この問題はまだ解決しない。

 ……だけど皆となら解決出来るかもしれない。

 まだ皆に俺のことを告白する勇気はないけど、いつか絶対に言って見せる。

 ――――――絶対に。

 


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