ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第8話 倒錯のイッセー ~赤龍帝VS白龍皇~

『Side:アザゼル』

 俺、アザゼルはカテレア・レヴィアタンと空中にて戦闘を行っていた。

 っていってもカテレアと俺の間には埋まらない圧倒的な戦力差があり、俺にとってあいつの攻撃なんざ足止めにもなんねえ。

 

「カテレア。お前、その程度で俺をどうにかできると思っていたわけじゃねえよな?」

「……笑わせてくれますね。この程度でそんな声を上げるなんて、堪え性がないのでは?」

 

 俺は攻撃の手を止め、カテレアにそう言うと奴は俺を鼻で笑うかの如く嘲笑する。

 ったく、最近の若い奴は高齢者に対する労りの気持ちってやつが欠如してんな。

 

「おうおう、そうかい。……で、そろそろ何かしねえと死ぬぞ? お前らのトップの見当はついている。大方―――無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)と謳われるオーフィスなんだろう?」

「そこまでの調べはついていましたか。ではその質問の回答として頷いておきましょう。その通りです。我らはオーフィスをトップとして活動している」

 

 カテレアは呆気もなく俺の質問に応えた。

 ……オーフィスがトップってことは、俺の中でいくつかの状況の悪さが廻った。

 

「……つまりあれか。お前らはオーフィスの蛇(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)を既に持っているってことか?」

 

 俺はカテレアにそう核心に迫る質問をした。

 あいつがこの俺を相手に未だ余裕を見せている理由としては十分すぎることだ。

 無限の龍神と謳われるオーフィスは名の通り、無限を関するドラゴンだ。

 その力は無限、更にその無限の力は、力を分断させて他者にそれを黒い蛇として譲渡することもでき、それを飲めば力が膨大と駆け上がる。

 ようは簡単に他人の力を数段階上げることが出来るってことだ。

 これが面倒極まりない、……なにせ三下でもオーフィスの加護があれば一流の力になるからな。

 それをカテレアが飲めば恐らくは前魔王に近い力が手に入れれるんだろうな。

 

「ええ、その通り……ごらんなさい」

 

 するとカテレアは懐から一つの小瓶を取り出した。……その中には禍々しい黒色をしている、うねるように蠢く蛇が入っていた。

 

「そりゃあ本物だな。それがオーフィスがトップに君臨している確たる証拠だ」

「まだ余裕が御有りなのですか? 私がこれを飲めばあなたなど軽く凌駕する。堕天使の分際が調子を乗るから―――ッ!?」

 

 するとカテレアは突然、信じられないような表情をした。

 まあそうだろう……何故なら俺の手元にも一つの瓶があるからだ。

 それは当然、オーフィスの力なんかではなく―――赤いオーラを放つ力が入った小瓶。

 

「こいつはその蛇とよく似ていてよ。……赤龍帝の倍増の力がまるごと譲渡されている瓶だ。しかもこれはあいつの創った神器の空き瓶を使っているらしいから、この中に入っている力の総量は計り知れないな」

 

 ……俺がイッセーと神器について語り合った時、あいつは俺にこれを渡した。

 あいつの倍増の力が入っている瓶……しかもこの瓶自体が神器であることに俺は驚いたもんだ。

 それをあいつは一つ、俺に渡してきたわけだが……まさかこの俺が使うことになるとはな。

 

「いいか、カテレア。俺は今の状態でお前を瞬殺出来る。つまりお前が仮にその蛇を飲んでも、俺はこの瓶を使えば力関係は少しだけだが元通りだ―――わかるよな、どっちにしてもお前は詰んでいる」

 

 俺は光の槍を幾重にも出現させ、カテレアにそう宣言した。

 

「……貴方は馬鹿ですか? もしかして私が一人で貴方と戦おう(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)としているとでも思っていたのですか?」

 

 ……カテレアが俺に訳の分からないことを言った瞬間だった。

 ―――俺の背後から何か白い光が俺を襲ったッ!!

 そいつは俺を何度も殴り、そして地上へと殴り飛ばす。

 くそ……マジかよ。

 

「結局俺は自分の部下に対する監督不届きかよ。くそっ!!」

 

 俺は飛ばされながらも俺に横槍を加えてきた存在……宙に浮く白い鎧を身に纏うヴァ―リの姿を見た。

『Side out:アザゼル』

 ―・・・

 突然の衝撃音、そして宙に浮かぶ女と白龍皇ヴァ―リ。

 そして見るからにボロボロなアザゼルを前に俺は少しの間、思考していた。

 ボロボロのアザゼルに対し、悠然とアザゼルを見下げるように宙に浮いている白龍皇ヴァ―リ。

 ……なるほど、あの場にいた裏切り者―――そいつがヴァ―リってことか。

 

「いきなり現れて僥倖とはどういう神経だ? ―――この裏切り野郎」

「裏切り者は心外だね。いつ赤と白は仲間になったんだって言うんだい?」

 

 俺とヴァ―リは互いに大地と空中にて睨みあう。

 その間、時にして数秒くらいだろうな……そしてその沈黙はアザゼルによって破られた。

 

「じゃあ俺が言う分には問題ねえよな、ヴァ―リ―――今になって反旗を翻すのか?」

「ああ、そうだよ。あんたには世話になった。…・・・本当にな。だけど悪いね―――俺には和平なんて退屈すぎる」

 

 ヴァ―リは鎧の兜を収納し、顔をアザゼルに見せてそう言い放った。

 ……あいつはどこまでいっても戦闘狂だから納得できるといえば納得できるか。

 

「和平が決まった瞬間に拉致していたハーフ吸血鬼の神器を暴走させ、願わくば各陣営の一人でも殺せればよかったが……まあ高望みは出来ないな。それにその吸血鬼も赤龍帝に保護されたようだしね」

 

 ヴァ―リは俺とギャスパーを見ながらそう言ってくる……こいつ、まさかギャスパーを利用する作戦を提案したのか?

 ……いや、流石にそれはない。

 ただ今回の首謀者、それだけなんだろうな。

 

「……イッセー、あのヴァ―リの隣にいる女は旧魔王派、レヴィアタンの血を引く者だ。お前ならもう理解していると思うが」

「……今回の黒幕は”禍の団”で、旧魔王派はその組織に入ったってことか」

 

 俺は先ほどまで考えていたこととアザゼルの情報を頼りにその解にたどり着く。

 アザゼルはそれを無言で頷くと、俺はその旧魔王派の女を凝視した。

 

「………・・・俺の対峙する敵は高い頻度でだらしない格好をしている気がするよ」

「なっ!? 貴様、私を愚弄するつもりか!?」

 

 ヴァ―リの隣の女は俺の発言に激昂し、俺に攻撃しようとする。……だけどそれは

 

「止めておけ、カテレア。君は赤龍帝には勝てないし、それに―――彼は俺の標的だ」

 

 ヴァ―リによってさえぎられる。

 

「……ヴァ―リ、一体いつからだ?いつからそっち側についた」

「コカビエルの件の後だよ。組織にスカウトされてね。……まあただ協力するだけだよ。降るつもりはない。ただね。『神と戦ってみないか?』、……そんな魅力的な条件を突き付けられて俺が断る理由はあると思うか?」

「けっ……戦闘狂が」

「ああ、そうだ。俺は戦うこと以外に何の興味も抱かない。永遠に戦う……それが俺の夢だよ」

 

 ヴァ―リはさも当然のようにそう語るが、対するアザゼルは少し寂しそうな表情になっていた。

 

「……俺は心のどっかでこうなることを感じていたのかもな。お前は俺と出会ってからずっと戦うことのみを一番にしてきた。こうなることは必然だったんだな」

「今回の件は、我ら旧魔王派の一人、ヴァ―リが情報提供をしてくれました。頭が働く貴方の割には拘束力が弱かったですね、アザゼル。……自分の首を自分で絞めたようなものです」

 

 ―――待て、今あの女はなんて言った?

 ヴァ―リが……旧魔王派の一人、だと?

 

「そう言えば兵藤一誠、君にはまだ俺の本名を名乗っていなかったね―――俺の名はヴァ―リ。……ヴァ―リ・ルシファー」

「なっ―――!?」

 

 俺は……いや、俺の他にも部長もその言葉を聞いて信じられないような表情になった。

 ルシファー……それは前魔王の一人、現在サーゼクス様がついている位にいた魔王の名前。

 ……だけど待てよ。

 神器は人間に宿るシステムだ。

 それが悪魔であるヴァ―リに宿るはずがない。……普通に考えるならそうだ。

 

「イッセー、リアス・グレモリー。信じられないとは思うが事実だ。あいつは魔王と人間の間によって生まれたハーフ悪魔。半分人間だからその身に神器を宿すことが出来た規格外の存在だ」

 

 ……規格外、確かにそうとも言えるな。

 魔王に匹敵する魔力を保持し、神をも殺す神滅具の一つ……”白龍皇の翼(ディバイン・ディバイディング)を持つ。

 力と力を上乗せしたような存在だ。

 

「アザゼルの説明通りだよ。でもまあ俺の他にも規格外なんかいくらでも存在する……そうだろう、兵藤一誠」

 

 するとヴァ―リは白龍皇の翼のしたから悪魔の翼を幾つも生み出す。……それが証明ってことかよ。

 

「う、嘘よ……そんなことあるわけが―――」

「現実を受け止めろ、リアス・グレモリー。こいつは俺の知る中で過去、現在、未来……未来永劫最強の座に君臨する白龍皇だ」

 

 ……アザゼルがそんな風にヴァ―リのことを評価した時だった。

 ―――俺の拳の宝玉が、突然に光を上げた。

 

『…………。少し俺は今、頭にきている。それは相棒も一緒だろう』

 

 ……そうだな。

 頭にきていると言うよりも、そんなわけねえって感じだ。

 俺はそう思った瞬間に悪魔の翼を展開し、そして軽く飛翔する。

 

「お前は最強の白龍皇じゃねぇよ。……俺の中の最強の白龍皇は、一人しかいない」

『如何にも。ヴァ―リ・ルシファーと言ったな。貴様は強いかも知れんが……所詮強いどまりだ。自らのためだけに力を欲する、それだけではこの男―――最高の赤龍帝である兵藤一誠には遠く及ばない』

 

 ……その時、ドライグは辺りに響き渡るほどの声でヴァ―リにそう宣告した。

 

「……まるで俺以外の白龍皇を知っているかの発言だね。だけど俺は最強の白龍皇になるのが今の目標でね―――そしていずれは世界で最も強い奴を倒すのが目的だ」

「それがどうした? 勝手にしておけ……だけどな、お前たちは俺の後輩を利用し、傷つけた。……それで俺はもう頭にきてんだ」

 

 俺は魔力を解放し、ヴァ―リとその隣に立つ女を睨んだ。

 

「―――ッ! これだよ……この殺気、それが君は本物の強者と教えてくれる」

 

 ヴァ―リは少し口元を緩ませる……まるで嬉しそうな表情だ。

 するとその時、ヴァ―リと同じ位置まで飛翔した俺の隣にアザゼルが飛んできて、そして止まった。

 

「アザゼル、嬉しいよ。何せ俺が戦いたい奴が二人も集まっているんだからね……これで落ちついて居られる訳がない!」

「……ヴァ―リ、残念だが俺はお前とは戦わねえよ。そんな機会、赤龍帝が与えてくれねえからな―――せいぜい俺は悪魔の裏切り者を始末するぜ」

 

 するとアザゼルは懐から一つの短剣を取り出し、それを女に向けた。

 ……俺には分かる。

 アザゼルとは夜を通して一晩中語った中だ。……アザゼルの手にあるのは神器。

 しかも見たことのないタイプだ。

 

「俺はよ、サーゼクスやミカエルとはそりゃあ長い付き合いだ。例えよぉ、オーフィスの力を利用して力が上がろうとカテレア―――お前はサーゼクスやミカエルのような存在にはなれねえ」

「世迷言を!」

 

 カテレア……そう呼ばれた悪魔はアザゼルに大質量の魔力弾を放つ。

 確かに力だけで言えば魔王に近いものを感じる。

 

「カテレア、お前は神器のことをどう思う?」

「……そんなもの下賤なものです。私たちが創る新世界においてはそんな存在は許さない」

「はは! とことん俺とは意見が合わねえな―――俺はその逆だぜ。神器が好きすぎて、神器マニアすぎる故に自作神器を創ったりしちまった。まあそのほとんどがガラクタ、機能しないようなゴミだがよ。……何度も繰り返してりゃいつかは成功作は出来る」

 

 その時、アザゼルの持つ短剣が光輝く。

 その光は、オーラは正に……ドラゴンの力ッ!!

 

『これは…・・・っ! まさか”黄金龍君”(ギガンティス・ドラゴン)か!まさかあの神器に龍王を封じているのか』

 

 ……龍王の一人を人工神器に封じたってことか。

 

「こいつは赤龍帝と白龍皇の神器を模して作った人工神器。いや、ドラゴン系の神器を片っぱしから研究し、つい最近、赤龍帝から得た情報から完成した俺の最高傑作。……”堕天龍の閃光槍”(ダウン・フォール・ドラゴンスピア)・・・本当に俺は神器を創った神を尊敬するぜ―――そんな神器のない世界なんか興味はねえ。俺の趣味の邪魔をする奴は誰であろうと―――潰す」

 

 アザゼルが更に神器を光輝かせる。……この波動はまさか、禁手化の前兆。

 

「よく見ておけ、イッセー、ヴァ―リ―――禁手化(バランス・ブレイク)ッ!!」

 

 アザゼルの持つ短剣はその形を崩していく。

 そしてそれは光となり、アザゼルを包んでいきそして……次の瞬間にアザゼルの体に鎧が出現していた。

 金色の眩い輝き、まるでドラゴンのような形状の鎧、そして黄金の鎧から生える12枚の漆黒の翼。

 これは……強さが計り知れない。

 これが堕天使の長。

 アザゼルの真の力とでもいうのか?

 

「こいつは人工神器の疑似禁手状態。”堕天龍の鎧”(ダウンフォールドラゴンアナザ―アーマー)。常に神器をバースト状態にし、禁手化の力を再現したってわけだ」

 

 ……もちろん神器をそんなことをしたら完全に神器はつぶれる。

 だけど人工神器って言うぐらいだからな。

 

『間違いなく使い捨てでしょうね、あの状態は。ですが確かにあれは禁手と同等の力を持っています』

 

 フェルが言うくらいだからそうだろうな。

 さて……カテレアはアザゼルに任せるとして、俺は―――

 

「行こう。ドライグ、フェル」

 

 俺は一瞬目を瞑り、そして次の瞬間に腕に籠手を、胸にエンブレム型の神器を出現させた。

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!』

 

 そして俺は静かに赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を禁手化させ、赤の鎧を身に纏い、それと対称である白龍皇ヴァ―リと対峙する。

 

「これは圧巻だね。……黄金の鎧と赤龍帝の鎧。さあ、兵藤一誠―――戦おうか!!」

 

 ……ヴァーリはそう言って一気に俺との距離を詰めてきた。

 白龍皇の力は触れた相手の力を半減し、それを自分の糧にする。

 だけどな、ヴァーリ。……俺は最強の女皇と戦っている!

 強かった。それにあの時はミリーシェと戦うことが楽しいと思えた。

 あの時だけだ。……俺が戦うことを楽しいと思えたのは!

 

「ヴァーリ・ルシファー。俺が戦うのはお前が俺の仲間に手を出したからだ……だから……全力を持ってお前を潰す」

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』

 

 倍増の力が一気に上昇する!

 俺は向かい来るヴァーリに特に小細工をすることなく、真正面から迎え撃つ。

 あいつは『騎士』と思わせるほどの速度で向かってくるが、俺のこの状態の速度はあいつと拮抗している!

 ヴァーリは至近距離から俺の腹部に拳を放つが、俺はそれをギリギリのタイミングで避けて逆にヴァーリの肩に蹴りを喰らわせた!

 

「ぐっ! 肩の装甲が……、面白いッ!」

 

 ヴァーリは俺に自慢の魔力弾を放ってくるッ!

 すげえ威力だ……コカビエルの圧力とは比べ物にならない!

 俺は背中の噴射口から倍増のエネルギーを噴射し、その魔弾を避け逆に性質を持たせた魔力弾を放つ!

 

「喰らえ。……爆撃の龍砲(エクスプロウド・ドラゴンキャノン)!!」

 

 俺は魔弾に魔力が暴発し、より強力な爆発力を生む魔弾を放つ。

 するとヴァーリはその魔力弾に対し、片手を軽くその弾丸に向けた。

 

『Divide!!』

 

 ……半減の力か。

 しかも今の半減の力はミリーシェがした技の一つ。……何も触れず、現象のみを半減することが可能な技だ。

 魔力という一種の現象を半減する。

 俺の魔力弾はそうやって次々に半減され、そしていつしか消えていった。

 

「やっぱり白龍皇に魔力弾は通用しないか」

『……だが相棒、お前は以前とは違う―――ミリーシェと戦った時はこんな魔力の乱用は出来なかった。だが今の相棒はそれが出来る』

 

 ……そうだな。

 確かにあの時の俺は魔力が欠片ほどしかなく、倍増を重ねてようやく力を使うことが出来たほどだった。

 それに今の俺には、フェルもいる!

 

『Force!!』

 

 創造力が溜まる。……これで気付かないうちに15段階の創造力を溜まった計算だ。

 

『主様が以前、コカビエルに手間取ったのはそれ以前に私の力を使用して消耗していたからです。でも今回に関しては―――主様は万全な状態です』

『相棒、白龍皇の小僧に見せてやれ。お前が昔から変えることのなかった力の真理―――守るための力を!』

 

 ああ、言われるまでもねえ!

 

『Creation!!!』

 

 俺は神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)の真骨頂を発動する。

 神器創造……俺はその力を使い上級神器クラスの神器を創った!

 

「神器創造、白銀の無限槍(インフィニィ・シルヴァスピア)。その能力は、魔力を無限の槍に変えて放つこと!!」

 

 俺は光と共に創り上げた一見、ただの槍を空に放り投げ、そしてそれに向かい膨大な魔力を注いだ!

 この槍の能力は至ってシンプル。

 ……魔力で槍を形成し、それを無限に増殖させる力だ!

 

「神器を創った? しかもこれは……」

 

 ヴァーリは俺の放り投げた槍をじっと見ている。……だけど次の瞬間、槍は光輝いて無数の槍が雨のように舞い降りる!

 全てはヴァーリに向けた力だ!

 

「面白い……ッ!!」

 

 ヴァーリは俺が発動した無限の槍を、魔力壁や拡散タイプの魔弾で相殺しながら消し損ねた槍を軽々と避けていた。

 ……こんなもの、実際には目くらましにしかならないか。

 だけど時間は稼げた。

 

「ドライグ、アクセルモードだ」

『それしかあるまい。それに今は万全の状態。……振り切るぞ、相棒!!』

 

 ドライグは俺の言葉に了承し、次の瞬間に俺の体に変化が訪れる。

 

『Accel Booster Start Up!!!!』

 

 ……神器の倍増速度を魔力を代償に加速させるアクセルモード。

 それにより音声では追いつかないほどの倍増を可能にしたもので、言ってしまえば倍増の速度を更に上げた力だ。

 発動にドライグの意思を必要とするため、多少の時間を要するけど、今ならその心配もない!

 俺の体に一気に倍増による負担が掛かるが、コカビエルの時と違って今日は万全の状態だ!

 俺は背中の噴射口を一瞬で爆発するようなほどに噴射させ、ヴァ―リに向かって行く!

 倍増の力を拳に乗せ、腕を振りかぶりタックルをする勢いで特攻をかけた!

 

「まずは初撃だ!」

 

 俺は雨のように降り注ぐ槍にまぎれてヴァ―リに近づき、そして渾身の一撃を放とうとした。

 完全なる意表を突く確実な攻撃。

 これが外れることは……―――

 

『―――絶対に赤と白の運命をどうにかしようね、■■■■■!!』

 

 ……その瞬間、俺の脳裏に突如浮かぶものがあった。

 それは俺の掛け替えのなかった大切な存在の、守れなかった笑顔。

 ―――ミリーシェの笑顔が、浮かんだ……ッ!!

 俺の拳はヴァーリの顔面に当たる寸前の所で止まる……

 どういうことだッ!?

 どうして、この状況下でミリーシェのことが頭に浮かんだ!!

 俺はあのことは割り切ったはずだろうッ!

 

『相棒ッ! しっかりしろ!! 今は戦闘中だぞ!!』

『主様、今すぐ白龍皇から離れてください!』

 

 俺の耳にドライグとフェルの叫び声が聞こえる。……だけどそれが俺の頭に浸透してこなかった。

 そしてその時は訪れた。

 

「―――これが初撃だ、兵藤一誠」

 

 低いヴァーリの声が俺の耳に通ったと思うと、俺はヴァーリの拳によって殴られ、そして地面へと墜落していくのだった。

 

 ―・・・

『Side:木場祐斗』

 僕、木場祐斗がこの戦場に到着したのは少し遅れてからのことだった。

 ギャスパー君が暴走し、発動した停止世界が解除させて僕はまず朱乃さんや小猫ちゃん、アーシアさんを迎えにサーゼクス様達の元に向かった。

 そして解放された三人を連れ、ゼノヴィアと共に部長達の元に向かった。

 ……白龍皇ヴァーリが裏切ったことは僕は知っている。

 何せ彼は僕とゼノヴィアの目の前でアザゼルに不意打ちをして殴り飛ばしたんだからね。

 サーゼクス様は部長の連絡を受け、今の状況をある程度お教えくださった。

 どうやら今、カテレアはアザゼルと、そしてイッセー君は白龍皇と戦っているらしい。

 そして僕達は部長とギャスパー君の元に到着した。

 二人とも空を見上げて空中による戦いを見ていた。

 

「祐斗、それに皆も……」

 

 部長は僕達の姿を目視するけど、すぐに視線を上に向けた。

 ……そこには恐らくアザゼルと思われるが、彼が黄金の鎧を身に纏って戦っている姿があった。

 そして赤龍帝の鎧を身に纏って、赤龍帝とは対照の存在の白龍皇と戦っていた。

 

「部長。……今の状況はどうですか?」

「ええ。アザゼルの方は特に問題はないわ。あの黄金の鎧を身に纏ってカテレアを力技で圧倒している。……だけど問題はイッセーよ」

 

 僕達は部長とギャスパー君と同じように空を見上げる。

 そこにはイッセー君の得意とする魔弾の性質変化……あれは恐らく爆撃の龍砲だ!

 それを放つものの、白龍皇の半減の力でその攻撃が無力化された光景だった。

 

「流石は白龍皇と言ったところかしら。……イッセーの力と拮抗しているわ。今のところはね」

「……でもイッセー先輩には、もっと別の手があります」

 

 ……確かに小猫ちゃんの言う通りだ。

 イッセー君の強みは冷静な分析力とテクニックの極み、そしてそこから繰り出されるパワー。

 柔軟な発想から幾つもの戦い方を持っていて、一例なアクセルモードと呼ばれる力だ。

 あれはイッセー君にしかできない芸当。……仮に僕も使えたとしても、多分使いこなせない代物だ。

 それにコカビエルを一撃で沈めた二つの神器の合わせ技もあるけど……イッセー君はあれはそれらはあまり乱用できないと言っていた。

 それに何より、イッセー君最大の強さは―――攻略。

 相手を見極め、相手の攻撃を全て攻略していくところだ。

 

「イッセー君の技は圧倒的な力はありますが、その分リスクは大きいですわ。乱用は避けた方が良いのは当たり前。特にあのレベルの強者に対しては余計にです」

 

 朱乃さんの冷静な分析。

 イッセー君が負担を一切考えずにコカビエルと戦っていたのは時間がなかったからだ。

 街全土を崩壊させてしまう術式を破壊するためにコカビエルをすぐに倒す必要があった。

 でも今回は時間制限はない。

 思えばライザー・フェニックスのときだって、不死鳥の精神を折るために追撃に追撃を重ねるために負担を無視していた気がするよ。

 

「……見ろ、イッセーが動くぞ」

 

 ゼノヴィアの言葉に僕はハッとなって考えるのを止めて、空で戦っているイッセー君をみた。

 そこにはイッセー君が槍型の神器を創造し、それを宙に放り投げて、更にそれに魔力の塊を注ぐように放っている姿があった。

 そして放たれた槍は刹那、状態を大幅に変化させた。

 

「不味いわ! 皆、防御を徹底しなさい!」

 

 部長はいち早くそれに気が付き、僕達に命令する。

 僕は耐性のある聖魔剣を幾重にも生みだし、それをドーム状のシェルターのように展開して皆を守ろうとした。

 そしてイッセー君が白龍皇に放ったそれは雨のように槍が無限に降り注ぐ。

 ……だけど槍は地面から一定の距離に突入すると、その姿を塵のように消した。

 

「……なるほどね、イッセー君が部長達を考慮せず危険な技を使うはずないか」

 

 僕は改めてイッセー君の性質を再確認した。

 ……恐らく、地面から一定の距離になると槍を無力化するようにコントロールしたんだろうね。

 相当の集中力と精神力を削がないと出来ないことだけど、イッセー君は変わらないね。

 

「全く……。私たちの事を気にせずに戦えば良いのに」

「でもそれがイッセーさんの良いところです!」

 

 部長の呟きにアーシアさんは笑顔でそう言った。

 ……だけどあの槍の雨も白龍皇には効かない。

 あの男はある意味でイッセー君と似ているね。

 あの身のこなしを見るからに、恐らくテクニックよりの性質だ。

 白龍皇だからパワーも相当にあるだろうね。

 

「見て、イッセーが動き出すわ!」

 

 ……イッセー君は槍の雨が効いていないこと理解してか、すぐさま次の行動に出た!

 恐らくアクセルモードを発動したんだろうけど、それにより突如、イッセー君の力は急激に倍増する。

 そして槍に紛れるように白龍皇に近づき、そしてイッセー君は奴に一撃を放とうとした……

 ――――――その時、僕達は光景を目の当たりにする。

 

「な……ッ!? イッセー君が……殴り飛ばされた!?」

 

 イッセー君は白龍皇に拳を放ったと思った瞬間、奴に拳が直撃するギリギリで拳を止めたんだ。

 そしてその隙を突かれ、激し轟音が響くほどの打撃を与えられ、イッセー君は僕達がいる方に殴り飛ばされた。

 

「ッッッ!!」

 

 イッセー君は僕達に衝突する寸前で背中からオーラを噴射してギリギリのところでとどまる。

 ……先ほどの一撃、あのイッセー君でも相当のダメージを負うほどのものがあったようだった。

 鎧の兜のようなマスクから血が漏れ出て、殴られた箇所の鎧は穴があいている。

 ―――僕は初めて、イッセー君が真正面からまともにダメージを受ける姿を見た。

 

「い、イッセーさんッ! 今すぐに傷を治します!」

 

 アーシアさんはいち早くイッセー君の傷を察知し、神器を発動してイッセーくんの傍に駆け寄る。

 だけどイッセー君の様子は少し可笑しかった。

 

「大丈夫だ、アーシア。……ここは危ないから、今すぐに離れるんだ」

 

 イッセー君はアーシアさんの回復を拒否した。

 どうしてだ。……普段のイッセー君ならこんなことしないはず。

 それにあの時、イッセー君が攻撃の手を休めたのだっておかしい。

 そしてそれは僕だけじゃなく、部長も分かっていることだった。

 

「イッセー!」

「……部長、今のイッセー君には逆効果です」

 

 僕は部長が一歩、イッセー君に近づくのを確認して、部長の腕を掴んで引きとめた。

 さっきの声音―――優しいイッセー君のものではない。

 まるで焦っているような、恐怖しているような声音だ。

 そしてイッセー君はアーシアさんを拒んだ。……普通じゃないのは目で見るよりも明らかだ。

 ―――一体、どうしてしまったんだ、イッセー君!!

 僕は心の中でそう思ったのだった。

『Side out:祐斗』

 ―・・・

 俺は、俺に何が起きているのか分からなかった。

 ヴァーリに殴り飛ばされ、俺は部長達がいるところに墜落した。

 そして部長達が何か言っているのを無視して再びヴァーリの方に向かって、それから少しの時間が経っている。

 

『Divide!!』

『Boost!!』

 

 白龍皇の半減が俺を襲い、その度に俺は倍増を繰り返す。

 俺の力は元に戻るけど代わりにヴァーリの力は奪った分だけ上がり、余分な力は翼から放出されあいつは最高の状態で俺と戦っている。

 

「まだだ。…………まだだ!!」

 

 俺は継続して使用しているアクセルモードによる倍増で一瞬で力を得て、そしてヴァーリに特攻をかける。

 ヴァーリは魔弾を放ちながら俺を迎え撃ち、時折俺に殴りかかるも俺はそれを難なく避けて追撃の一撃必殺を放とうとした。

 全力の魔力を拳に篭め、更に倍増の力でそれを更に強化したものを。

 

「―――ッ! くそ!!」

 

 ……だけどヴァーリに一撃必殺クラスの攻撃を加えようとした瞬間、ヴァーリの姿がミリーシェと重なったッ!

 それにより俺はヴァーリを足蹴りするだけで、ただ後方に蹴飛ばした。

 

「はぁ、はぁ……。なんだよ、これ……」

 

 俺は鎧越しの手を見ると、俺の手は震えていた。

 まるでヴァーリを殴ること。……白龍皇を傷つけることに恐怖を抱いているように。

 

『相棒、奴はミリーシェではない!』

「そんなこと分かってる!! 分かってるけど……くそ!」

 

 俺は震える手を握り締め、全ての感情を吹き飛ばしてヴァーリの方に向かう。

 

「……おかしいな、兵藤一誠。あの時、コカビエルを圧倒した時の力はどうした?」

 

 ヴァーリもまた俺の方に向かってきて、そして俺達は至近距離で殴打の合戦となった。

 俺とヴァーリは放たれる拳を互いに避け、近距離線をする。

 ……こいつの動きは確かに研ぎ澄まされている。

 戦いが好きと言うだけのことはあるけど、でも俺はそれを全て見切れる。

 そして再び一撃をくらわそうとするけど、……でも

 

『私と■■■■■なら運命なんて簡単に変えられるよ!』

 

 ―――何なんだよ、どうしてヴァーリを殴ろうとするとミリーシェを思い出すッ!

 何で俺の体は硬直するんだよ……!!

 ……ヴァーリは俺が止まった瞬間を見計らい、俺を拳で殴り飛ばしたのちに極大な魔力弾を撃ち放った。

 俺はそれを避けることが出来ずに直撃し、そしてそのまま後方に飛ばされ地面に叩きつけられたッ!!

 

「がっ!? 体が、動かない……あいつの顔が、頭に浮かぶッ!」

 

 俺は上体を起こして地面を踏みしめて立ち上がる。

 口から血反吐を吐いて、壊れた鎧を修復した。

 

「……イッセー!!」

 

 ……すると俺の後方から眷属の皆が焦っているような表情で俺に駆け寄ってくる。

 駄目だ、来たら―――今の俺じゃあ、皆を守れないッ!

 

「イッセー君、もう君一人で戦うことはない! 僕達も君と共に戦う!」

「その通りだ、イッセー!」

 

 祐斗とゼノヴィアが共に剣を握ってそう俺に言ってくる。

 ……だけど俺はそれに応えない。

 

「―――アスカロン!!」

 

 俺は静かに聖剣アスカロンを籠手から引きずり出して、再び飛翔する。

 

「もう少し待っててくれ―――俺が何とかするから。……何とか、するからッ!!」

 

 俺は皆から逃げるようにヴァーリへと向かう。

 ヴァーリは先ほど、俺を殴った位置から移動しておらず、ただ宙に浮いていた。

 

「……それはアスカロンか。有名な龍殺し(ドラゴンスレイヤー)の聖剣だね」

『気をつけろ、ヴァーリ。あれはお前が喰らってもかなり大きなダメージを受ける』

 

 ……アルビオンがヴァーリに話しかけているようだった。

 

『相棒。……何度でも言うぞ。ヴァーリ・ルシファーはミリーシェではない。お前の脳裏に浮かぶ存在はただまやかしだ!』

『主様はいつも言っていたではないですか。大切なのは今だ、と……。このままでは誰も……誰も守れません』

 

 ドライグとフェルはそう言うけど―――でも、しょうがないだろッ!?

 どうあがいたって、ヴァ―リを殴ろうとするとミリーシェが頭に浮かぶ。

 そうしていると俺の手は震えて、体が硬直するんだッ!

 怖いんだ……傷つけることが。

 あの白い鎧が赤に染まるのが―――どうしようもなくッ!

 ……俺はその感情を断ち切るようにアスカロンを横薙ぎに振るう。

 

「―――なるほど、持ち主によればあの剣はスペック以上の力を有するというわけか」

 

 アスカロンによって発生した衝撃波を受けて、ヴァーリは少し興奮気味な声音を上げる。

 

「守るための赤龍帝なんだ―――なのにこんなところで止まってられないんだよッ!!」

 

 俺はアスカロンを手にヴァーリに斬りかかった。

 当然、その剣戟はヴァーリには予想されていたから楽々と避けられる……違う、俺は避けられるように加減してしまったんだ。

 これまで何度もヴァ―リにダメージを与える機会はあった。

 だけどそれは全て、訳の分からないことで全部失敗している。

 ……フォースギアによる神器の”強化”を使えば無限の倍増が可能になり、事実上あいつの半減の力も封じれるのに、それを使うことが出来ない。

 俺はヴァーリに直接的なダメージを与えられず、代わりに何度も致命傷のような傷を負わせられていた。

 

「……はぁ。がっかりだよ、兵藤一誠」

 

 ……ヴァーリは落胆の声を上げ、再び俺を殴り飛ばした。

 俺はそれを空中で何とか踏みとどまるけど、俺の真下には部長達がいる。

 俺の方を見て心配そうな表情をしていた。……そうか、今の俺は皆から見てもそんな風に見えているのか。

 笑っちまうな。

 冷静さは取り戻してるのに、それでも敵を傷つけることが出来ないなんて。

 

「……どういうことだ、兵藤一誠。何故君は俺に攻撃してこない。何度も機会はあったはずだ」

 

 するとヴァーリはマスクを収納した。

 その表情は不機嫌以外のなにものでもなく、怒気が含まれる表情でもあった。

 

「おいおい、ヴァーリ。珍しい表情をしてんな」

 

 ……そこで第三者の声が聞こえた。

 その声は俺とヴァ―リの上空から聞こえ、そしてそこには不敵な笑みを浮かべるアザゼルの姿があった。

 でもアザゼルの様子が少し変……ってアザゼルの腕がなかった!

 更に腕の中には意識を失い、全身ボロボロ状態で瀕死に近いカテレアの姿がいた。

 

「ああ、腕か。……こいつが俺の腕に触手巻きつけて、それを媒介して自爆しようとしやがったからな。腕を斬り落として無力化してやったんだ。後はまあ好き勝手に潰してやったさ」

 

 アザゼルはカテレアを無造作に地面に向かって放り投げた。

 少し経って地面との衝突音が聞こえた。

 

「まあ殺しはしねえよ―――悪魔側の問題はサーゼクスに任せることにしているからな。煮るなり焼くなり、それはサーゼクスがするだろうがよ。どうせあの甘ちゃんは命だけは取らないとか言いだしそうだけどな」

 

 アザゼルは面倒臭そうにそう言うと、アザゼルの体を覆っていた黄金の鎧は崩壊した。

 ……疑似禁手化の限界を突破して、神器自体が壊れたか。

 

「こんなもんか。……まあ力は思っていた以上に出ていたし、もう少し付き合ってもらうぜ? 五大龍王の一角・ファーブニル」

 

 アザゼルは唯一残った神器の核として使われていた宝玉に軽くキスをして、それを懐にしまって手に光の槍を出現させた。

 

「……止めろ。こいつは俺がどうにかする」

 

 俺はアザゼルにアスカロンを向けてそう言うと、アザゼルは特に表情を変えなかった。

 

「イッセー。……お前、ヴァーリ相手に手加減しているだろ? そんなお前がこいつを相手になんか出来ない。何故手加減なんて舐めたことをする理由は知らねえがな」

「……それもどうにかする。だから手を出すな!!」

 

 俺の声が響き渡る。

 ……こんなの建前だ。

 実際にはアザゼルがヴァ―リと戦うのが、どうしてもミリーシェを傷つけられると思ってしまうからだ。

 だけどそんなことを知らないアザゼルは舌打ちをして光の槍を消した。

 

「じゃあどうにかしろ。……そろそろあいつも我慢の限界みたいだからな」

 

 アザゼルはそのまま静かに部長達がいるところに降下していく。

 ……確証もないくせに、何言ってんだよ。

 

「……この俺が舐められたものだ。だが君が受けたダメージは相当のものだろう。正直、今から本気でやって楽しいか分からないな」

 

 ああ、その通りだよ。

 お前の一撃一撃はそりゃあ体を抉るほど強力なものだった。

 俺が”兵藤一誠”に転生してからここまで一人の敵に傷つけられたのも初めてだ。

 コカビエルも軽く越えるその実力は本物だ。……本気でやらないと俺は恐らく死ぬ。

 

『相棒。……今の精神状態以上に、肉体の状態を考えると、もう神器強化による無限倍増は不可能だ』

 

 ……そっか。

 だけど自分でまいた種だ。……俺が何とかするしかない。

 禁手化はまだ問題なく行えるはずだ。

 後の問題は―――ミリーシェの影。

 するとヴァーリは突然、部長達の方を見た。

 一体なんだ……。そう思っているとヴァーリは突然、話し始めた。

 

「そうか。……君は守ることを前提に戦っているね。ならばこうしよう―――君の仲間、君の守るべきものを全て殺そう」

 

 ―――なに、言ってんだ?

 

「うん、これは良い手だ。君は仲間をどうにかされると怒り狂う性質のようだから、これで行こう―――まず最初は君の主であるリアス・グレモリーでも殺そうか」

 

 ―――ふざけてんのか、こいつは

 

「そのあと君の家族を殺す。それで君は本気になってくれるだろう。さあ始めようか」

「―――黙れ」

 

 ……言い表せない。

 なんだ、今俺がこいつに抱いている感情は…………。ずっとミリーシェと重ねていたのが馬鹿らしく思える。

 ―――こいつは、ミリーシェとは……

 

「俺が馬鹿だった。……例え重なるにしても、お前はミリーシェとは違う―――ヴァーリ、ふざけるなよッ!! 俺の仲間を殺す? 家族を……、こんな俺を育ててくれた母さんと父さんを殺す?」

 

 神器が俺の怒りに応えて倍増を幾重にも重ねていく。

 

「―――ふざけるのもいい加減にしろ、ヴァーリ・ルシファー!!!!」

 

 俺の赤龍帝の力が赤いオーラとして辺りを包んでいくッ!

 怒り……それが今、俺を支配するもので俺を突き動かす原動力。

 

「……はは、これは実に純度の高いドラゴンの波動だ。感情によって左右される二天龍の力、真っ直ぐな者こそ二天龍の力は向いているそうだけど―――君はその力を俺よりも同調しているみたいだね」

『……ヴァーリ、それ以上の挑発はよせ。取り返しがつかなくなる』

 

 ……アルビオンは分かっているみたいだけど、もう遅い。

 体の限界なんか知るか―――やってやる。

 

『Boost!!!!!』

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 俺はひときわ高い倍増の音声を皮切りに、轟くほどの絶叫でヴァーリに向かって進撃した。

 ヴァーリは嬉しそうに魔力弾を撃ち放つが、俺はそれを全て、アスカロンを片手に切り裂いて無力化し、そしてアスカロンを籠手に収納した。

 

「ッ! 速いッ!?」

 

 ヴァーリは俺の突然の速度の上昇に戸惑うが、もう止まらない!

 俺はヴァーリへとまずは一撃、本気のストレートを放つッ!

 ……ミリーシェの姿と一瞬、重なるが今の俺はもう止まれない。

 その影ごとヴァーリを殴りつけた。

 

「アルビオン、修復だ!」

「させねえッ!!」

 

 俺はアスカロンを収納した籠手でヴァ―リの兜のマスク周辺に拳打を繰り出す!

 それによってヴァーリの兜は完全に崩壊し、そして俺は至近距離で倍増した魔力弾を撃ち放つ!

 ……こいつは徹底的に潰さないと皆が殺される。

 ―――そう思うと俺の体は気味が悪いほどスムーズに動いた。

 

『Divide!!』

 

 その音声と共に俺の力はまた半減される。

 その半減された力はヴァ―リに還元され、あいつの力になっているんだろうな。

 だけどドラゴンスレイヤーであるアスカロンを収納した拳で殴られた兜は修復出来ていない。

 

「かはッ! ……龍殺しの力は流石と言ったところか―――それにしても面白いよ、兵藤一誠! 最初からこうしておけばよかったものを。……でもいいさ。まだ俺は戦える!」

 

 ヴァーリは一段と大きな魔力を俺へと威圧を与えるように放った。

 ……ヴァ―リは大地に降りて行き、俺はそれを追跡するように降下する。

 すると俺の傍に部長や皆が寄ってきた。

 

「イッセー、大丈夫なの!?」

 

 すると部長は俺を心配してか、泣きそうな顔でそう言ってきた。

 

「……すいません、ちょっとどうかしてましたけど、もう大丈夫です。だから少し離れておいてください」

 

 俺は皆から一歩前に出て、マスクを収納してヴァーリと顔を合わせる。

 

「ここまで戦いに高揚したの久しぶりだよ、兵藤一誠。だからこそ本気を出そう―――ハーフ・ディメンション」

『Half Dimension!!!』

 

 ……次の瞬間、ヴァ―リの翼は肥大化し、そして辺りの景色が歪み始めた。

 こんなのミリーシェと戦ったときだってなかった。

 

「イッセー、そいつは全てを半分にする力だッ!」

 

 アザゼルが少し焦るように俺にそう言ってきた―――確かに周りも木とか建物が段々小さくなって半分くらいになっているけど。

 

「まだ物体にしか働いていないが、それはいつしか人体にも影響するッ! 下手すりゃ命も半分になるぞ!」

 

 ……そんなことさせてたまるか!!

 ドライグ、今はもう体の事は気にしている場合じゃない! アクセルモードを全開で発動するぞッ!

 

『……仕方あるまい。ただし一撃で決めろよ、相棒!』

 

 ドライグの言葉を聞き、俺は瞬間的にアクセルモードを再び発動するッ!

 狙うはヴァーリの腹部……そこに全ての力を注いで拳を放つ!

 俺は倍増による全てのエネルギーを速度とパワーに変え、そして一気に動き出す!

 ほんの一瞬でヴァーリの懐にたどり着き、そしてアスカロンが収納されている籠手の方の拳で、狙い通りヴァーリの腹部を殴り飛ばしたッ!!

 

「!!!?????!!!????」

 

 ヴァーリは言葉にもならないような声を上げ、そして後方に殴り飛ばされる。

 それと同時に白龍皇の鎧の、俺の殴った部分は完全に粉々になり、俺の足元にはその破片と腹部から胸にかけてあった白龍皇の宝玉が落ちてあった。

 ヴァーリのしたハーフ・ディメンションは解除され辺りは元の風景に戻り、俺は落ちている宝玉を見た。

 …………ああ、そうか。

 やっと分かった。

 

「お前はそこにいたんだな」

 

 俺は落ちている宝玉を手にとって、それに軽く触れる。

 ―――二天龍の神器の中には、歴代の所有者の残留思念が残っているはずだ。

 それがあったからこそ、俺はヴァーリとミリーシェを重ねてしまったんだ。

 俺はマスクを収納して宝玉を直に見る。

 

「……ごめんな。俺がふがいないばかりに死なせて―――ミリーシェ……ッ!!」

 

 不意に俺の瞳から涙が流れた。

 この位置からなら部長達にはギリギリ見えないはずだ。

 みられてはいけない。

 こんな姿、見られたくないッ!

 

『……主様』

 

 分かっている。……この宝玉はすぐに消えてしまうだろう。

 この中にミリーシェの思念があるとも限らない。

 

『……その宝玉を消さない方法はあります』

 

 ……なんだって? どういうことだ、フェル!

 

『その宝玉を使って神器を創造するのです。元々、私の力は何もない所から神器を創り出す。……だから神器は少ししか存在することが出来ません。ですが主様もアザゼルの技術を見たでしょう』

 

 ……龍王を人工神器に閉じ込めて、神器としたことか?

 

『ええ。それを利用すれば白龍皇の力を神器にすることが出来るはずです。原料があるならもしかしたら長い間、存在することの出来る神器が出来るかもしれません。……それに神器は主様の想いに応えてくれます』

 

 ……やってみる価値はある。

 少なくとも何もしなく、ただここで涙を流すよりは何倍もマシだ!

 俺はフォースギアを掴み、心の底から願う。

 

「……俺の想いに応えろッ! フォースギア!」

『Force!!』

『Creation!!!』

 

 ……俺の胸の神器から白銀の光が発生し、それは白龍皇の宝玉を包んだ。

 優しい光だ―――そして宝玉は同調するように白いオーラを放つ。

 これはなんだ。……そう思った時、俺の胸の神器が突然、音声を響かせた。

 

『Attraction!!!』

 

 その初めて聞く音声に共鳴するように、宝玉の光は神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)の中へと吸収されるように消えていった。

 ……途端に俺の心の中に温かいものが入っていくような気がした。

 

『これは正に吸収。……主様、あの宝玉はわたくしの中に吸収され、保存と言う形で主様のものになりました』

 

 ……そっか。

 

『……恐らく二度と起きない現象でしょう。それにフォースギアの中にはもう保存するほどの容量も残っていませんよ』

 

 フェルは少し可笑しそうな声音でそう言った。

 ……その時だった。

 

「これは本当に驚いたよ。……まさか俺の力を吸収するなんてね」

「ッ!? ……まだ動けんのかよ。かなりヤバい一撃だったはずだけどな」

 

 ヴァーリは鎧を修復した状態で少し宙に浮きながら俺達の前に姿を現す。

 

「ああ、倍増の力を究極にまで高め、更に龍殺しの力までもあった一撃だったからね。俺も流石に回復のアイテムがなかったら死を覚悟したよ」

「……それはまさか、フェニックスの涙?」

 

 ……俺はヴァーリの指と指の間で挟まれている小瓶を見てそう言うと、ヴァーリは静かに頷いた。

 

「まあ傷は治せても体力や魔力までは元通りには出来ない。それにしても正直まいったな―――この世界にはまだ強者が沢山いるんだね」

 

 ……するとヴァーリは手を天に掲げた。

 

「だからこそ面白いよ、戦うことは……。アルビオン、今、俺がこの男を倒すのにはあれしかない―――覇龍(ジャガーノ―ト・ドライブ)、あれを使おう」

 

 ヴァ―リはさも当然のようにその単語を言った瞬間だった。

 ―――俺の頭の冷静さを絞める螺子が、完全に…………外れた。

 

『ヴァ―リ、今すぐに逃げろ!! その名をその男の前で言うのを止めるんだ!!』

 

 ……アルビオンがそう言っているけど、もう遅い。

 

「ん? 何を言っているのか分からないな。……だがそれでまたあの男の力を引き出せるならまた一興だね―――我、目覚めるは」

 

 ヴァーリはその呪文の一端を口にした瞬間、俺はフェルに対して短く言葉をかける。

 

「フェル―――あいつを潰す」

 

 俺はフェルにそう言うと、フェルは何も言わずにただ力を発動させた。

 今まで溜めてきた創造力を全て使い、それを全て強化に回す。

 

『Reinforce!!!』

 

 そしてその音声と共に胸のエンブレムからはこれまでに比べることが出来ないほどの強化の光を生み出し、そしてそれは俺の体に装着される鎧を包んだ。

 鎧の形状は変わり、全体的にフォルムが鋭角になる。

 そう―――鎧は、赤龍神帝の鎧(ブーステッド・レッドギア・スケイルメイル)となった。

 

「その呪文を口にするな。……そんなものがあるから―――」

 

 俺の体にまとわりつくオーラが紅蓮色に近づく。

 ああ。……これはある意味で暴走だ。

 もう止められない。

 

「それを使うな―――あぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

『―――Infinite Booster Set Up』

『Starting Infinite Boost!!!!!!!』

 

 静かな音声の後、突然鳴り響く激しい音声。

 それと共に俺の力が無限のように倍増した。

 これは倍増の濃度が最上級までに上がっている。……そしてそれが無限に続いている。

 逆に俺が壊れそうなほどの衝撃に襲われる。

 俺は気付いた時には既にヴァーリの前にいた。

 

「―――消えろ」

 

 まるで自分じゃないような冷たい声。……そして俺は体が勝手に動くように常に倍増し続ける力を放った。

 それと同時に、俺の体も限界を迎え、自動的に強化は解除されて禁手化による鎧も崩壊し始める。

 ……だけどそれはヴァーリも同じだった。

 白い鎧が粉々に消え去り、足元がふらついていた。

 

「―――これほどのものかッ! だけど君の方が限界だったみたいだね。……全ての力を防御に回したから、ある程度の動きの自由があるよ」

 

 ―――ッ!

 ヴァ―リはまだ動けるッ!?

 俺は倒れそうになりところを足を踏ん張り、そのまま耐えて拳を前にだす。

 

「まだだ。……拳はまだ握れる」

「だけど兵藤一誠、君はもう限界だろう―――初めから本気でやっていればこうはならなかったはずだ」

 

 ヴァーリは一歩、後ろに下がって翼を展開した。

 白龍皇の神器によるものだ。

 そして掌には魔力の塊。……最初に比べたら弱いけど、それでも十分な威力だろう。

 ……俺が避けたら皆に当たる。

 

「まだ俺は倍増出来る」

『Boost!!』

 

 単に禁手化に耐えれないだけで、今の俺でも倍増くらいは出来る。

 足腰に力は入らないけど、でも皆の盾くらいにはなれるッ!

 

「ダメよ、イッセー!」

「イッセー君、逃げなさい!! 私達は大丈夫ですわ!!」

 

 ……皆の声が聞こえる。

 だけど悪いけど、あの威力の魔弾は皆には止められない。

 アザゼルだってのほほんとしているけど、実際のダメージは相当のものだろうからな。

 

「……それが君の答えか」

「そうだ―――俺の、答えだ」

 

 ヴァーリは魔弾を放つ。

 俺はそれを力を倍増を解放し、皆と盾として防ごうとした―――その時だった。

 

「―――ヴァ―リ!! ダメにゃん!!」

 

 …………ヴァーリの放った魔弾は、突如現れた一人の女の子によって防がれた。

 

「……これはどういうつもりだ―――黒歌(・ ・)!」

「言ったはずにゃん! ……兵藤一誠を手に掛けさせないって。この人を手に掛けることは許さないにゃ!!」

 

 ―――俺を助けてくれた、それは後で礼を言うとする。

 だけどヴァーリ、あいつは今なんて言った?

 黒、歌?

 

「そ、そんな……。うそ、です……、そんなはずが……」

 

 ……すると俺の後方で一人、震えた声を上げていた。

 ―――小猫ちゃんだった。

 

「俺の邪魔をしないでもらう。……そこを退いて貰おう。俺はその男と決着をつけなくてはいけない」

「嫌! ……絶対に退かない!!」

 

 黒歌(・ ・)と呼ばれた少女は両手を広げ、手を出させないといったような仕草をする。

 この子を盾にしたら駄目だ。

 ……傷つけたら駄目だ。

 俺の頭の中にそんな想いが駆け巡った。

 そして俺はほぼ反射的にその黒い着物を着た女の子の腕を引いて、瞬間的に自分の後方にさせる。

 

「お前の標的は俺だけだろ、ヴァーリ!」

「ああ、そうだよ。……決着をつけよう!!」

 

 ヴァ―リは俺に向かって翼を羽ばたかせ、飛行しながら襲ってくる。

 だけど駄目だ―――力がもう……ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

「――――――我の友達、傷つけるのを、我は決して許さない」

 

 …………次の瞬間、俺に襲いかかってきたヴァーリは動きを止める。

 ゴスロリ系の可愛い服を身に纏い、突如、俺達の前に姿を現した少女。

 ―――普段の無表情ではなく、怒りの形相をしたオーフィスがそこにいた。

 


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