ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第7話 停止世界と後輩の涙

 俺、兵藤一誠は今の状況を誰よりも早く理解した。

 先ほど、一瞬俺の肌に感じた違和感……それは間違いなくギャスパーの神器が暴走し、辺り全ての時を停止させたことを意味している。

 その証拠に今、俺達グレモリ―眷属の一部のメンバーは一切動かなくなっていた。

 

「……小猫ちゃんと朱乃さん、アーシアは停止しているのか」

 

 俺は一切動かなくなった小猫ちゃんと朱乃さん、アーシアを見ながらそう呟いた。

 ……これもギャスパーの潜在的な才能のせいか。

 本来、邪眼は自分より強いものを停止させることは出来ない。

 ……だから本来なら小猫ちゃんや朱乃さんも停止させることは出来ないはずだ。

 でもそれが出来ているということは恐らく、ギャスパーの潜在能力は二人を上回っているということだろう。

 

「……おい、イッセー。これはあの吸血鬼の仕業か?」

 

 するとアザゼルが頭をポリポリとかきながら俺にそう尋ねてきた。……仕業って言うのは人聞きが悪いな。

 

「たぶんそうだろうな」

「ふむ……これが邪眼によるものなら、納得できるな。イッセーは実力的にも停止させられることはない。主であるリアス・グレモリーは当然として、聖魔剣使いは、その存在の異質さから停止を免れ、デュランダル使いは停止される直前で聖剣を発動させたのか……」

 

 アザゼルが俺の考えていたことをそのまま口に出した。

 一応、この場に置いて動くことが出来ないのは小猫ちゃんと朱乃さんだけだ。……流石に各勢力のトップを停止することは出来ないか。

 でも問題は……

 

「……なぜギャスパーの力が暴走したのか。私からしたらそれが一番の問題だわ」

 

 部長の言うとおり、ギャスパーの力が暴走した理由だ。

 少なからず今のギャスパーは安定しているはずだ・・・俺の血を飲んだことと修行をしたから暴走はまずしないだろうと高を括ったんだけどな。

 

「……これは由々しき問題かもしれません」

 

 するとミカエルさんは部屋の窓から外を見てそう呟いた。

 ……そこには停止しながら宙に浮いている存在がいくつか見受けられた。

 

「……今回の会談は我々にとって今後を決める重要なことだった。だからこそ各陣営はそれぞれ、持てる力をこの学園の警護に回したが……。しかし全て止められては警護の意味もないな」

 

 サーゼクス様は少し苦虫を噛んだような表情しながらそう言った。

 ……この学園にはサーゼクス様、ミカエルさん、アザゼルがそれぞれの力を使って張った強固な結界によって包まれている。

 そしてその結界の中には俺達以外に、悪魔、天使、堕天使といったそれぞれの種族が警護を行っていたんだ。

 だけど今、その警護に回っていた者たち全員が停止している。

 ……ギャスパーの停止の力に抗えたのはここにいる俺たちだけってことだ。

 

「……どうしてギャスパーは今の状況で暴走したんだ」

「わからないわ。でも今はとにかくギャスパーの身が心配よ」

 

 部長は少し焦ったような表情になっていた。

 手は少し震えていて、今すぐにでもこの場からギャスパーの所まで行きそうになっている。

 だからこそ俺は安心させるように部長の手を握った。

 

「……イッセー」

「落ちついてください。気持ちは分かりますが、今この状況を把握していない限り、ここを離れるべきではありません」

 

 ……部長は静かに頷いて俺の言葉に耳を傾けてくれる。

 この中でこの状況で情報を持っていそうなのは…………。アザゼルだな。

 そう考えている矢先、アザゼルは俺の近くに寄ってきて話しかけてきた。

 

「イッセー、先に言っておく―――これは偶然じゃねえ、引き起こされた必然だ」

「ッ!? …………どういうことか説明してくれるか?」

 

 俺はアザゼルの言葉に心底驚きながらも問い続けた。

 

「全てが停止した直前、俺はここにいる全員にテロ組織の名を言おうとしただろう?元凶はそれだ」

「……なるほどな」

 

 大体の察しはついた。

 この状況で何でギャスパーの神器が暴走したのか……。でもその察しがついた瞬間、俺の中の怒りが跳ね上がった。

 

「……部長、落ち着いて聞いてください。俺も冷静ではないですけど我慢しているので」

「……分かっているわ」

 

 部長は俺の言葉に耳を傾けてくれ、そしてその場にいる人物は俺が話すのを待っているようだった。

 

「おそらくそのテロ組織っていうのは、この会談の意味。……すなわち和平というものに否定的な感情を抱く連中の集まりでしょう。つまりテロ組織からしたらこの会談は邪魔の他ならない。だからこそ邪魔をしに来た。……ギャスパーの暴走は恐らく―――組織によって強制的に暴走させられたッ!」

「……さっき言えなかった組織の名前を言っておくぜ―――禍の団(カオス・ブリゲード)。あらゆる勢力の強者が集まった種族混合の組織だ」

 

 ……カオス・ブリゲード。

 正直、名前なんかどうだっていい。

 ただそいつらはギャスパーに何かをして暴走させた!

 その事実に変わりはないんだ!

 

「……許さないわ。私の可愛い下僕を利用するなんてッ! 万死に値する!」

「落ち着きたまえ、リアス……それに窓の外を見れば今の状況を理解できる」

 

 サーゼクス様は部長の肩に手を置いてそう言うと、眷属の皆は同時に窓の外を見た。……そこには黒いローブのようなものを纏った幾人もの人間の姿があった。

 俺はその存在を知っている―――だからこそつい呟いてしまった。

 

「……魔法使い」

「その通りだ。あれは魔法使い。……ったく、魔法使いまでも組織に手を貸してんのかよ」

 

 ……魔法使いは魔法陣から次々と現れ、そして俺達のいる校舎に魔法を発動させて攻撃している。

 でもこの校舎は堅牢な結界によって包まれているから、あんな半端な攻撃ではびくともしなかった。

 だけどあの魔法使いたちは恐らく……

 

「……あれは見た感じだと中級悪魔クラスの魔法使いだね。力量は何となく察しがついたよ」

 

 祐斗はじっと魔法使いを見つめながらそう呟いた。

 すると祐斗の隣にいたゼノヴィアは俺に疑問を浮かべたような顔をしながら、そして次に話しかけてきた。

 

「イッセー、君はギャスパーが暴走した理由を察しているのかい?」

「……まあいくつかは想像は出来ている。ただどれも外れていて欲しいけど…………。一つは神器を暴走させるような神器を使ったりすること。正直これならまだマシだ。だけど問題はもう一つの可能性……」

 

 俺は思い付いた可能性を頭に浮かべながら、爪がめり込むほど拳を握る。

 掌からはそれによって少し血が出てくるが、今の俺は怒りでどうにかなりそうだった。

 もう一つの可能性……俺の血を飲んで神器の暴走が治まったはずのギャスパーが暴走した最悪の理由。

 ……魔法使いなら可能なことだ。

 ただ単純にギャスパーを精神的に追い詰め、傷つけ、更に―――負の感情を増幅させる魔術を施せば神器は暴走する。

 俺がここまで頭に血が上っているのだって、もしかしたら魔術が若干作用しているからかもしれない。

 

「……やることは完全に決まっている―――ギャスパーを助ける、それだけだ」

「ふふ……イッセーならそう言うと思っていたさ」

 

 ゼノヴィアは不敵な表情でそう呟いた。

 だけど問題はここからどうやって出ていくかだ。

 外は害虫のように魔法使いがうじゃうじゃいるし、ひょっとすると更に強大な敵がいることも否定は出来ない。

 下手に外に出るのは危険か。

 すると突如、ヴァーリは何の躊躇いもなく言い放った。

 

「……アザゼル、ハーフ吸血鬼がいる校舎ごと吹き飛ばせば済む話ではないのか?」

「そんなことしてみろ。赤龍帝はお前を何があっても殺すぞ」

 

 ヴァ―リの発言にアザゼルは特に表情を変えることなく返した。

 

「ヴァ―リ、お前は外に出て魔法使いどもを蹴散らせ。白龍皇であるお前が出れば、恐らく相手は動揺で作戦が乱れる」

「……ふ。了解だ」

 

 ヴァ―リは少し鼻で笑い、そして次の瞬間、眩い光を発しながら力を解放した。

 ……これは間違いなく禁手(バランス・ブレイク)

 

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!!!!』

 

 その音声と共にヴァ―リの体は白い鎧によっておおわれる。

 赤龍帝と対を成す白龍皇の神器の禁手化……”白龍皇の鎧”(ディバインディバイディングスケイルメイル)

 すごく懐かしい姿だ。

 ……そんな感傷に浸る暇もなく、ヴァーリは行動を起こす。

 そしてヴァ―リは窓を突き破って外に出ていった。

 白い鎧を身に纏ったヴァーリは魔法使い共の上空に移動し、そして上空から魔力を弾丸として雨のように撃ち放った。

 

「まあこれで外の魔法使いはどうにかなるだろうな。……だが問題はまだ解決してねえぞ」

 

 そうだ……まだギャスパーを助けるための筋道が見つかっていない。

 おそらくギャスパーは捕まっているから、真正面から行くのは危険すぎる。

 かといって相手の虚を突く方法は……

 

「……キャスリング。これを使えば一瞬で旧校舎に移動できるわ」

 

 ―――ッ!

 そうだ、俺は失念していた。

 ……『王』には瞬間的に『戦車』と位置を変えることが出来る”キャスリング”という力がある!

 そして部長の『戦車』の駒はまだ一つ残っていて、それは確か部室にあるはずだ。

 

「……確かにキャスリングは良い手だ。だがリアス一人に行かせるのは正直、心もとない。やはり複数人で行かせるのが妥当なところだが……」

 

 サーゼクス様は腕を組んで考えていると、グレイフィアさんはサーゼクス様に何かを耳打ちした。

 

「サーゼクス様、赤龍帝である兵藤一誠に渡したものをお忘れですか?」

「……手柄だよ、グレイフィア」

 

 するとサーゼクス様は俺の方を見て二コリと笑ってきた。

 ……なんだ? そう思っていると、俺のポケットに入っているある物が光り出した!

 

「……イッセーくん、私が君に渡したものは今もあるようだね」

「もしかして。……この『王』の駒のことですか?」

 

 俺はそれ……サーゼクス様から頂いた『王』の”悪魔の駒”(イ―ビルピース)を掌に置いてそう尋ねた。

 でもこの駒は飾りのはずだ。

 

「……黙っていたが、本物ではなく直接的な力も有していないが、だが『王』の駒の機能だけは働く―――術を施し、その駒をリアスの『王』の駒と同調させて同一のものとすれば二人を同時に転送することも可能だよ」

 

 ……なるほど、『王』の駒同士だからこそ出来る同調か。

 するとサーゼクス様は俺の駒を手にとって、何やら術を施し始める。

 グレイフィアさんもそれを補助し始めて、俺は部長と顔を見合わせた。

 

「恐らく旧校舎には敵がいます。だから失敗は許せません……部長、ギャスパーを救いましょう」

「ええ、イッセーがいれば私は何でもできるわ。ギャスパーだって絶対に救ってみせるわ!」

 

 部長の覇気のある心強い声と共に、俺の士気も上がった。

 ……でもここで停止している小猫ちゃん、アーシア、朱乃さんのことが心配だな。

 

「……御安心ください。ここで停止している貴方の仲間は私が確実に守ります」

 

 するとミカエルさんは俺の心を見透かしたようにニッコリと笑ってそう言ってきた。

 ……大天使のお守りなら安心だな!

 

「……赤龍帝として既に絶大な力を持つイッセーなら安心か。だが気をつけろよ?」

 

 すると突然、アザゼルは手を宙に向けた。

 その瞬間、窓の外に無数の光の槍が現れて、そしてアザゼルが手を淵下ろした瞬間にその槍は魔法使いに降り注がれた!

 

「容赦はしねえぜ。向こうも覚悟の上だろうから、殺すことを躊躇しない。……っても次々に魔法使いが現れるからキリがねえな」

 

 俺はアザゼルによって屠られた魔法使いを傍目に、更に魔法陣から現れる魔法使いを見る。

 確かにこれほどの人数を導入するということは向こうも本気ってことか。

 

「……そもそもこの会談を邪魔することなんか不可能に近いはずだ。三勢力のトップの創った結界を潜り抜け、この学園に潜入なんてありえねえ。……つまりこの会談の場にいた、もしくは関係していた奴にスパイがいたことを考えねえとな」

 

 ……アザゼルは何故かその言葉を遠くを見るように儚げに呟いた。

 

「リアス、イッセー君。準備が整った」

 

 するとサーゼクス様は俺に『王』の駒を手渡して、そして次の瞬間に俺と部長の足元に少し大きめな魔法陣が生まれた。

 

「……そういえばアザゼル。組織のトップの事を聞いていなかった。一体誰なんだ?」

 

 俺はアザゼルにそう問いかけると、すると何故かアザゼルは俺の方を向いて不思議そうな顔をしてきた。

 

「……お前はとっくに気付いていると思ってたが、まあ仕方ないか。っていうよりこの会談の中でお前はそいつの名を言ったはずだ」

「―――は?」

 

 俺はアザゼルの言葉にただ情けない感嘆を漏らす。……それと同時に、俺達のいる室内にいくつかの異変が起きた。

 一つは室内に突然、展開された魔法陣……恐らくは悪魔のものだ。

 そしてそれを見た瞬間のサーゼクス様やグレイフィアさんの慌てよう……すると次の瞬間、サーゼクス様は転送のための魔法陣を即座に発動した。

 

「……そうか、今回の黒幕は―――グレイフィア! 今すぐにリアスとイッセー君を転送する!」

 

 サーゼクス様が焦り、そして何かに気付いたような表情になっている・・・相当な事だ。

 あの魔王であるサーゼクス様が焦るなんてな。

 だけど今、俺と部長に命じられているのはそのことではなく……ギャスパーを助けることだ。

 すると部長は不安からか、俺の手を再度握った。

 

「……行きましょう、イッセー」

「ええ。ギャスパーを救いましょう!」

 

 そして俺達は光に包まれて、そして次の瞬間に転移したのだった。

 ―・・・

『Side:木場祐斗』

 ……僕、木場祐斗は聖魔剣を出現させて今の状況を警戒している。

 部長とイッセー君が転移されてすぐ、そして転移される前に室内に展開された一つの魔法陣。

 それを見てその場にいたセラフォルー様は不意に何かを呟いていた。

 

「……レヴィアタンの魔法陣」

 

 ―――僕はその言葉を聞いて驚愕したッ!

 何故なら、僕の知るセラフォルー様の魔法陣の紋様とあの魔法陣の紋様はまるで違う……ということはつまり、残された可能性はッ!

 

「……ヴァチカンの書物で見たことがある―――あれは旧魔王の魔法陣だ」

 

 ゼノヴィアが冷や汗をかきながらそう呟いた……なるほど、つまり今回のこの騒動の黒幕、首謀者は!

 

「はじめまして、偽りの魔王。……そして各勢力のトップの皆様」

 

 魔法陣の中より一人の女性が姿を現す。

 胸元を大きく露出させているスリットの入ったドレス。……イッセー君が見たら即座に説教し始めそうなドレスだ。

 

「……これはどういうことだ、旧魔王レヴィアタンの血を引く者―――カテレア・レヴィアタン」

 

 ……やはり旧魔王の血族ということか!

 話には聞いたことがある。……現在の魔王―――サーゼクス様やセラフォルー様が魔王になるまでの経緯はそんな簡単なものではなかった。

 つまるところ、今の政権になることに反対していた者たちがいたらしい。

 それが今は亡き旧魔王の血族……旧魔王派と呼ばれる者たちのだ。

 旧魔王派は最後まで魔王を力有るものから選出することに反対していたそうだけど、、結局それは通らず、そして戦争で疲弊した悪魔は最後の力で旧魔王派を冥界の隅に追いやったそうだ。

 ……そしてカテレア・レヴィアタンは見下げた目つきで僕達を見下した。

 

「サーゼクス、我々旧魔王派のほぼ全ては禍の団(カオス・ブリゲード)への参加を決めました」

「―――旧魔王派と新魔王派の確執はここにきて完全なる溝になってしまったってわけか」

 

 アザゼルは少し面白可笑しそうにそう呟く。……そう言えばイッセー君がそういう男だって言っていたね。

 だけどサーゼクス様は何とも言えない表情になっていた。

 

「……それは本気で言っているのか、カテレア」

「ええ、そう受け取ってもらって構いません」

 

 ……クーデターというやつだ。

 だけどいくらなんでもタイミングが面倒すぎる!

 恐らく旧魔王派は和平のこと、神の不在の事を知った上で行動に移ったと思うけど、それにしたって同じ悪魔である僕達の敵になるなんて……

 

「……考え直すことは出来ないか? 出来れば私は、旧魔王派の存在を失いたくはない」

「まるでいつでも殺せるから、だからついでに情けをかけると言いたげな台詞ですね」

 

 ……カテレア・レヴィアタンは笑顔でサーゼクス様の言葉を否定する。

 

「旧魔王派を代表して言わして貰いましょう。……ふざけるな、私達はお前達偽りの魔王を認めない」

 

 するとカテレア・レヴィアタンの周囲に幾つもの魔法陣が展開された。

 

「私たちは悟りました。旧魔王も神もいないこの世界。そんなもの必要ない―――それならば創り変えよう。……そのために組織への加入を決めたのです」

「カテレアちゃん! 止めて!」

 

 するとセラフォルー様は悲痛な叫びをあげた。

 ……同じレヴィアタンの名を名乗る方だ。恐らく複雑な思いがあるんだろうね。

 

「よくぬけぬけとそんな台詞を吐けますね、セラフォルー! ですが私は貴方を殺し、再び魔王を名乗ります。そして全てを消し去り、新たな世界を創る。……そのために私は力を得ました」

「それは興味深いな。力を得た……。そりゃあお前らのトップから貰ったもんか?」

 

「……堕天使の総督、アザゼル」

 

 するとアザゼルは一歩前に出て少し侮蔑しているような表情でカテレア・レヴィアタンを見ていた。

 

「ええ、そうです。……だから何と? 私たちは世界を滅ぼし、そしてそこに新たな魔王として君臨し、神を我々の指導者とします」

「……あはははははははは!! そりゃあすげぇな!!」

 

 ―――アザゼルは突然、高笑いをあげながら嘲笑うかのような態度をとった。

 ……何を考えているんだ、彼は。

 

「……何が可笑しい、アザゼル」

「いやいや、夢があって良いと思うぜ? だけどよ―――夢と言うよりそれは無駄にスケールのでけぇ無謀な野望だ。夢っていうのは赤龍帝が俺達に示したことを言うんだぜ?」

 

 ……ああ、その通りだ。

 イッセー君の夢は皆と一緒に笑って平和に過ごすこと。……だからこそ彼は力を欲する。

 皆を守ることを第一の前提として戦う。

 ―――この悪魔たちとは、絶対に違う。

 

「言ってしまえばお前らのは人さま迷惑ってわけだ。ただ自分たちの利益のためだけにしか動けない馬鹿共。だけどそう言う奴が力を持つから世界は不公平だよな」

「……我々を侮辱するとは許しませんよ、アザゼルッ!」

「お前の台詞の端々から俺は感じるぜ? ―――一話目で主人公に倒させる、無駄に強い悪役の成れの果てを。まあここには主人公は居ねえから仕方ねえ」

 

 ―――ッ!

 アザゼルは掌に光の槍を出現させて、そして常闇の黒い翼……ここまで来れば寧ろ美しいとまで思ってしまう黒い翼を展開させた。

 おそらく堕天使の中では最も多い12枚の翼。

 それは暗に彼が堕天使で最も強いことを意味している。

 

「カテレア、お前の相手は俺がしてやる。ミカエル、サーゼクス、邪魔立ては許さねえぜ?」

「……分かっていますよ。私は兵藤一誠の仲間を守りますから」

「……カテレア、最後の通告だ―――我々に下る気はないか?」

 

 ……サーゼクス様の最後の良心だ。

 だけど、カテレア・レヴィアタンはその言葉を無視して、そしてアザゼルに襲いかかる。

 ―――だけど僕は次の瞬間、堕天使の総督の強さを知ることになった。

 

「おいおい、そんな馬力でこの俺に相対するつもりか? ―――冗談にしては笑えねえぞ」

 

 カテレア・レヴィアタンの頭蓋を持ち、アザゼルはそのまま乱暴に彼女を天井を破って頭上に放り投げ、そして無限のように光の槍を撃ち放った。

 ……あのコカビエルは相当な力を持っていた。

 だけどこの男はその力を遥かに凌駕するほどの圧倒的な力を保持している。

 そしてアザゼルは光の槍を止め、そしてカテレア・レヴィアタンが飛んでいった方に向かって行き、そして二人の空中での壮絶な戦いが始まった。

 そんな最中、サーゼクス様は僕に話しかけた。

 

「……木場祐斗君。今この場にリアスがいないから、私は君にお願いしたい。私とミカエルはこの場から動けない。学園中に張ってある結界の制御をしなければならないからね。だからこそ、君に外にいる魔術師を押さえてほしい」

「―――はい。魔王様の命、この木場祐斗、全霊を持ってその役目を果たします」

 

 僕はサーゼクス様に跪いて低い姿勢のままそう言った。

 

「君がリアスの下僕でよかった。その聖魔剣で私たちの剣になってくれたまえ」

「……木場祐斗、ならば私も君と戦おう。私も不肖な事に『騎士』なものでね。……『騎士』は二つ揃えば真に力を発揮するだろう?」

 

 ゼノヴィアは聖剣デュランダルを構え、不敵な笑みでそう言った。

 

「そうだね。……行こう、これも皆のためだからね」

「ふふ、そうか。これは後でイッセーに御褒美を貰えそうだ―――そうだな、まずは……」

 

 ……イッセー君、僕はゼノヴィアのこの呟きは聞かなかったことにするよ。

 だって”子作り”と”10人”って単語が聞こえたんだから、仕方ないよね?

 僕は心の底で親友に謝りながら、聖魔剣を二本構えて魔術師の殲滅に向かうのだった。

 ……ギャスパー君は頼んだよ、部長、イッセー君!

『Side out:祐斗』

 ―・・・

 ……うん、状況は最悪だ。

 俺、兵藤一誠が言えるのはまずはこれくらいだ。

 キャスリングで部室に飛ばされたのは良いんだけど、飛ばされた先には思っていた以上にローブを着こんだ魔術師がいた。

 そして何より……ギャスパーの様子がおかしい。

 ロープで椅子に縛られ、だけどその表情からは―――絶望の色が見受けられた。

 俺と部長はというと、今は魔術師に囲まれている。

 そりゃあギャスパーを人質に取られているから下手には動けない。

 

「突然現れたから肝を冷やしたぞ、悪魔」

 

 するとローブをきた魔術師のリーダー格と思われる女が、俺達を睨みながらそう言い放つ。

 

「……そんなことどうだっていい。だけどどういうことだ―――お前ら、ギャスパーに何をした!?」

 

 俺は様子のおかしいギャスパーをみながら、魔術師たちに叫ぶように言う。

 

「あら、あの使えない吸血鬼のことかしら? ホント、煩わせてくれるわ!」

 

 ガンッ!

 そんな打撃音が室内に響き渡る。……あの女、ギャスパーを殴りやがったッ!

 

「こいつは私達に抵抗して何人も私たちを停止させ、私まで―――本当に気味が悪いわ」

「ふざけないで! 私の下僕を傷つけて、許さないわ!」

 

 部長はギャスパーが殴られたことに激昂する。……俺も正直、怒りで我を忘れそうだ。

 ……その時、ギャスパーの沈んだ顔が少し上がる。

 そこには――――――ギャスパーの涙があった。

 

「部長、イッセー先輩……。僕はどうしようもないです。結局何もできないし、皆を停止させるだけ……皆を傷つけることしかできない」

「……ギャスパー」

 

 部長はギャスパーを見てあいつの名前を呟いた。

 ……そして俺はその状況が、一番回避したかったことへの証明だと言うことに気が付いた。

 つまりは

 

「お前らは、まさかギャスパーのことを調べて、トラウマから神器の暴走を強制したのか!?」

「あら……中々頭が回るようね。その通りよ。こいつのある程度の過去を調べ上げ、そして負の感情を相乗させる魔術を使って精神を壊し、そして神器を暴走させた。……中々いい方法でしょう?」

 

 ふざけやがってッ! 俺の後輩の心を弄んで、何得意げに話してんだよ!

 

『……だが歯がゆい。手を出そうにも出せないッ!』

『手を出せばギャスパーさんを傷つけることになる。命の保証が出来ないことを主様がすることはないです』

 

 ドライグとフェルの言うとおりだ!

 俺は手を出せない……今はまだ。

 

「もう嫌なんですッ! 誰も傷つけたくない! だから死んだ方がいいんだッ! それならだれにも迷惑はかからない。…………だから僕の事は無視してここにいる人たちを倒してください」

 

 ―――ギャスパーは涙でぐしゃぐしゃになった状態で、笑顔でそう俺と部長に言った。

 

「愚かね、貴方達は。こんな出来そこないの吸血鬼、洗脳して道具にすればいいものを……悪魔の癖に偽善ぶる。吐き気がするわ」

「……ふざけないで。私は下僕を大切にする。偽善なんかじゃない! ギャスパーは私の大切な下僕よ!」

 

 部長はギャスパーをけなされたことに激昂するけど、すると魔術師は長い杖を部長に向けてきた。

 

「生意気よ。それに悪魔の癖に美しいのがいらつくわ」

「ギャスパー……私は貴方を大切に思っているわ」

 

 部長はそんなことお構いなしにギャスパーに笑顔でそう言った。

 

「……本当にどうしようもない悪魔ね。使えないごみを労い、死ぬ状況下で切り捨てもしない。いいわ、とびっきりその体を傷つけ、凌辱してから殺してあげる」

 

 魔術師は部長に杖を構えて魔術を行使しようとした。

 …………ああ、これはあれだ。

 ――――――我慢の限界だ。

 

「―――ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!」

 

 俺は溜まりに溜まった全魔力を部長とギャスパーに当たらないように、それだけを考慮して乱暴に放つッ!

 たかだか人間に少し力が生えた位の存在が、赤龍帝の力に対抗することもできるはずもなく、なすすべなく吹き飛んだ。

 部長はそれに目を見開いて驚いている。

 ……もちろん、決定打にはならない不意打ちだけど、でも吹き飛んだおかげでギャスパーの元には魔術師はいない。

 俺はすかさずギャスパーに近づいた。

 

「い、イッセー先輩……。僕を、殺してくださいッ!」

「……………………」

 

 ギャスパーは涙を流しながら俺にそうせがむように言ってくる。

 そして俺はそんなギャスパーを

 

「ふざけんな、この馬鹿野郎!!!」

 

 ―――その頬を叩いた。

 

「い、イッセー、先輩?」

「……叩いたことは後でいくらでも償ってやる。だけどな! ふざけんなよ、ギャスパー!!」

 

 俺はギャスパーが囚われるロープをちぎってギャスパーの胸倉をつかんだ。

 

「何が死んでいいだ……ッ。お前は俺の後輩だッ! 死んでいい存在なんかじゃない!!」

「だけど……僕がいたらイッセー先輩だって!」

「誰がいつ、お前に傷つけられたって言った。ギャスパー」

 

 俺はギャスパーの胸倉から手を離し、そして次にギャスパーの肩に手を置いた。

 

「俺は赤龍帝だぜ? 例えお前がおっかない神器を持っていたとしても、俺はお前に傷つけられたりしない。それに仮に停止させられたとしても、何も思わない」

「どうして、ですか?」

「……仲間だから。後輩だから。大切な奴だからだ」

 

 ……俺はギャスパーに素直な気持ちをぶつける。

 ギャスパーは薄ら涙を浮かべながら俺の言葉を聞いてくれる。

 だから言うんだ。……ギャスパーに!

 

「ギャスパー! 俺はお前が大好きだ!! 大好きな奴ならどんだけ傷つけられても許してやる! 皆そうだ! 部長も。朱乃さんも、小猫ちゃんも、祐斗、アーシアも、ゼノヴィアも皆そうだ! だから死んで良いなんかいうな!!」

 

 俺はギャスパーの今すぐにでも壊れそうな儚い肢体を抱きしめる。

 部長はその姿を見て近づいてギャスパーの頭を優しく撫でた。

 

「私も同じ気持ちよ……ギャスパー、例え神器が暴走しても私たちは仲間よ。一人が怖いなら皆と一緒なら大丈夫よ」

「イッセー先輩、部長……」

 

 ……ギャスパーの体は震える。

 涙がこぼれる―――けどこの涙はさっきとは違う。

 

「……ギャスパー、俺の血を飲め。俺がお前の中にいればお前は大丈夫だ。いつでも俺はお前の味方だから―――一緒に戦おう」

「――――――ん、かぷ」

 

 ……ギャスパーは少し遠慮げに俺の首筋の包帯を取り去り、そしてこの前と同じ箇所を噛む。

 そして血を吸い始めた。

 ほんの数秒、ギャスパーは俺の体に自分の体を押しつけるように手を回し、抱きつきながら血を飲み続ける。

 そして……静かに俺の首筋から離れた。

 

「イッセー先輩が……僕のなかに……」

 

 ……頬が異様なまでに高揚し、表情は惚気ているように朦朧としている。

 だけど確かに感じた。

 ギャスパーの力が―――格段に上がったことを。

 

「くっ! ふざけないで、私たちをぞんざいに扱い、感動ごっこするなんて!」

 

 魔術師は吹き飛ばされた後、起き上って俺達に向かって魔術による攻撃を放ってきた。

 ……だけどそれは完全に止まった。

 いや、ギャスパーによって―――

 

「イッセー先輩と部長には手を出させないですぅ!」

 

 停止させられていた。

 

「なっ!? 何が起きて―――」

 

 そして魔術師の一人が最後まで言葉を紡ぐことは出来なかった。

 ギャスパーの邪眼はあやしく光り、そしてその魔術師を停止したからだ。

 ……後輩にだけ戦わせるのもあれだな。

 

『Boost!!』

 

 俺は籠手を出現させてギャスパーの隣に立つ。

 そしてギャスパーと二人で部長を背にし、守るように魔術師たちの前に立ちふさがった。

 

「ギャスパー、一緒に戦うぞ。部長を守るために!」

「はいッ!」

 

 ―――次の瞬間、ギャスパーはその姿を変化させた!

 そうか……吸血鬼の本質は、変化!

 ギャスパーはその特性を使い、無数のコウモリとなった!

 そしてギャスパーは魔術師たちに襲いかかった。

 

「見た者を全て停止させる邪眼に、姿を変化させることが出来る吸血鬼の能力。そして俺の血を飲んだことで今のギャスパーは安定しています」

 

 俺は部長にそういいつつも、籠手の倍加を続ける。

 ギャスパーの生み出したコウモリの群れは魔術師たちに襲いかかり、血を吸っていた。

 

「な、に!? 血だけじゃないわ! これは魔力を吸っている!」

『無駄ですよ。僕はイッセー先輩の血のお陰で力を自由に使える! 全てを停止する!』

 

 ギャスパーは次の瞬間、魔術師の行動のみを全て停止させた。

 ―――才能ってものはあいつの事を言うんだろうな。

 

『Boost!!』

 

 籠手は6段階の倍加を終えた。

 そして俺は一歩、前進する。

 

『イッセー先輩! 今です!!』

「ナイスアシストだぜ、ギャスパー!」

 

 俺は籠手に願った……手に入れた、一つの剣を。

 

「聖ジョージの龍を切り裂く剣よ。……俺の思うがままになれ」

 

 ―――次の瞬間、俺の籠手から聖剣アスカロンが出現した。

 俺はそれの柄を握り、後方に横薙ぎに振りかぶる。

 そして籠手に溜まった倍増の力を解放し、アスカロンの聖なるオーラに力を注ぐ。

 

「いくぜ魔術師。これがアスカロンの初撃だぁぁぁあ!!!」

 

 ギャスパーはその場から退避し、俺はアスカロンを横薙ぎに振り切った。

 聖なるオーラは斬撃として停止した魔術師へと放たれ、そして一瞬にして―――魔術師は成す術もなくアスカロンの斬撃波でぶっ飛んだ。

 ……ついでに部室も消し飛んだ。

 

「い、イッセー! 部室を消し飛ばしてどうするの!? …………ってそうじゃなかったわ!アスカロンの聖なるオーラを使いこなすってどういうことよ!」

 

 すると部長が色々な感情が混ざったような表情……好奇心に怒り、驚愕に焦りなどと言った表情が交錯しながら俺にそう問いかけた。

 

「えっと……その、まだ言ってなかったんですけど、俺はアスカロンに認められて本物のアスカロンの担い手になったみたいです」

「――――――驚きで何も言えないわよ。とにかく凄いとだけ言っておくわ」

 

 ……部長が呆れたような表情でそう言うと、するとギャスパーはコウモリの状態から人の姿となって俺の隣に舞い降りた。

 

「イッセー先輩! やりました!」

「……ああ、お前と俺が組めば最強だ!」

 

 俺はギャスパーの頭をわしゃわしゃと撫でまわしながら、笑いかける。

 ギャスパーは小犬みたいにぶるぶると心地よさそうに震えるが、それをよしとしない部長は俺の頬を引っ張ったのだった。

 ……そして気付けば、停止された世界は解除された。

 

「いいか、ギャスパー。お前は同等と俺達の仲間だって言えばいい。もしそれを否定する野郎がいたら、そんときは俺を呼べば、そいつぶっ飛ばすからさ」

「イッセー先輩……。分かりました、その時はイッセー先輩を呼ぶですぅ!」

 

 ……ギャスパーはそこで、初めて見る満面の笑みでそう言ったのだった。

 ―・・・

「……ドライグ、一つ気になっていることがある」

『テロ組織のトップのことだろう……。相棒、信じられないだけで、実は見当はついているんじゃないか?』

 

 ……俺はドライグにそう言われ、押し黙る。

 今、俺と部長、ギャスパーは旧校舎を出てサーゼクス様の元に帰ろうとしている。

 その最中、俺は転送前にアザゼルが言った言葉が気になっていた。

 ―――見当か。確かについている。

 だけど信じたくないっていうのが本懐だ。

 

『……主様―――あの組織のトップがオーフィスかもしれない、そのことに気付いているのでしょう』

 

 ……フェルは俺の見当を何の構いもなしに言い放った。

 そうだ。

 俺があの会談で口にした世界最強クラスの存在なんか、オーフィスとグレートレッドぐらいだ。

 そしてグレートレッドは現在、次元の狭間にいる。

 だからこそ、消去法でオーフィスがとなった。

 だけどさ……俺は信じていないよ。

 仮にオーフィスがそうだとしても、俺はオーフィスが世界を滅ぼしたいとは思っているとは考えられない。

 だってオーフィスは…………俺の友達だ。

 あんな純粋で良い子なドラゴンが、そんなことを願うはずもない。

 

「……イッセー?」

 

 俺がドライグと心の中で会話していると、部長が怪訝そうな表情で俺を見ていた。

 ちなみにギャスパーは俺の背中にひっついていて離れない。……こいつ、根本的な人見知りは一切治っていないな。

 まあそれは今後、どうにかするか。

 俺はそう思って一歩、歩んだ―――その時だった。

 

「ッ!? 部長、伏せてください!」

 

 俺は突然の強大な力の接近に部長に向かってそう言い、俺もギャスパーを抱えて地面に伏せた。

 そして次の瞬間に、ごぉぉぉぉぉぉぉん!!!!

 ……そんな衝突音が聞こえたと思うと、その音が聞こえた所。…………俺達のすぐそばにはアザゼルの姿があった。

 しかもその姿は……血を流していて衣服が少しボロボロになっている状態。

 俺はそれがどうしても信じられなかったが、すると俺は一つの……いや二つの力を察知した。

 それは空中で、そして俺は空中に視線を向ける。

 

「これは僥倖だ。運が良い。……まさかアザゼルを殴り飛ばした先に君がいるなんてね―――赤龍帝・兵藤一誠」

 

 そこには破廉恥以外のなにものでもない女の姿と、そして……

 ―――白龍皇・ヴァ―リの姿があった。


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