ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第6話 和平の裏の蠢く影

 俺達、グレモリ―眷属はオカルト研究部部室に全員で集まっている。

 昼間のいざこざ(主に女難)を経て、現在は既に夜の時間に差し迫っている。

 そして今日、更に言えばこれから行われる会談……悪魔、天使、堕天使の三つの勢力のトップがそれぞれ集まって行われる3すくみの会談が駒王学園で行われる。

 駒王学園の教員会議室でその会議は行われ、そして会談に第三者が乱入して邪魔にならないようにするために今日の学校は休校となり、そして会議に乱入がないように学校全体に強固な結界を張っているらしい。

 厳重な警戒だ。……先ほど、この部室に来ていたサーゼクス様は絶対に崩れることのない結界と言っていたから安心できるだろうな。

 ……ところで今の眷属の皆は一部を除いて緊張で固まっていた。

 普段通りなのはゼノヴィアと俺ぐらいなもので、他はそれぞれ岩のように緊張によって固まっていた。

 

「イッセー、どうしてここまで皆は緊張しているのだ?」

「……皆をお前と同じにするなってことだよ」

 

 ゼノヴィアは肝が据わっているというよりかは若干鈍感だからな……これから起こる会談の重要性をあまり理解していないかもしれないな。

 

『今の悪魔、天使、堕天使の均衡は危ない状態で保たれている。それをどうにかするというのが名目だと魔王は言っていたな』

 

 ドライグが俺の中から声をあげるが、当然のことながら他の部員には聞こえていない。

 まあ大方はドライグの言う通りだ。

 今の三勢力はいつでも均衡が崩れて再び戦争になるかも分からないからな……そう言う意味でもこの会談は諸刃の剣的な一面を持ち合わせている。

 会談が上手くいかなかった場合、この均衡はいとも簡単に崩れさることと、逆に上手く行って和平が完成する。……この二択だ。

 ―――そうは言っているものの、俺はこの会議の大体の結末は考えがついている。

 何せ俺は三勢力のトップ陣……サーゼクス様にミカエルさん、アザゼルと既に対面しているからな。

 それであの人たちの大体の性質は分かったつもりだ。

 よっぽどのことがない限りは……そう思っていると俺の方にアーシア、小猫ちゃんが擦り寄ってきた。

 

「い、イッセーさん……。緊張して震えてきてしまいました……」

「…………撫でてください」

 

 小猫ちゃんはドストレートだな!

 そう思いつつ俺は小猫ちゃんとアーシアの頭をいつものように髪の毛を梳くように撫でた。

 前から思ってたけど女の子の髪の毛はきめ細やかで綺麗だよな……すると俺の足元に何か知らないけどダンボールが不気味に近づいてきていた。

 

「い、イッセーせんぱい~、僕も撫で撫でしてくださいぃ~」

「……邪魔しないでください、ギャー君」

 

 ダンボールの中に入っていたギャスパーが顔だけ出して俺にそう言ってくるけど、俺に撫でられている小猫ちゃんが少し不機嫌そうな顔でギャスパーに睨みを放つ!

 そして途端にギャスパーはぶるっとダンボールの中で震えた!

 

「……朱乃、お姉さまキャラにイッセーは興味がないのかしら」

「あらあら、そうでもないですわ。甘え方が上手なのはアーシアちゃん達っていうだけですわ。……それに私もイッセー君に甘えるのは得意ですわ」

「あら、なら朱乃はイッセーのお布団で一緒に()で眠ったことはあるのかしら?」

「それなのに手を出してもらえないなんて、部長は女としての魅力がないのですか?」

「…………戦争よ、朱乃」

「望むところですわ」

 

 ってこんなとこで知らないふりしてたらまた喧嘩に勃発しそうな二人を発見、っていうか仲が良いのか悪いのかが良く分からない会話だな!

 ……っと嫌に祐斗が静かだな。

 俺は部長と朱乃さんを傍目に祐斗の方を見ると、祐斗はソファーで足を組んで静かに紅茶を飲んでいた。

 ―――気付かなかったけど、祐斗も冷静だったんだな。

 たぶん、辛い過去をを乗り越えて祐斗は強くなったんだろうな。……だからこんな状況でも冷静でいられるってことか。

 俺はそれに対して軽く微笑んで祐斗から視線を外し、時計を見る。

 ……そろそろ時間だな。

 

「部長、そろそろ会談の時間です」

「あら、そのようね」

 

 朱乃さんと延々と口論をしていた部長は切り替えたように言うと、俺達を先導して前に立つ。

 ……そしてギャスパーの方を見た。

 

「悪いわね、ギャスパー。この会談は各勢力のトップ陣が集まる会談なの。あなたの力は未だに不完全なの。……だからギャスパーは部室でお留守番よ」

「はいぃぃ! 僕はここでいつも通りひきこもっていますぅ!」

 

 ……ギャスパー、お前のひきこもり体質は未だに健在だったか。

 俺がそう呆れながらもギャスパーにあらかじめ用意していた一冊の本を手渡した。

 

「イッセー先輩、これは何ですか?」

「俺がよく読む本だよ。作家はあんまり有名じゃないけど、面白いから読んで暇つぶしでもしとけってとこだ。そこの棚にはお菓子。間違っても小猫ちゃんの奴には手を出すなよ?」

「い、イッセー先輩の本……僕、必ず読みますぅ!! お菓子は……はい、気をつけますぅ!」

 

 ギャスパーは意味が分からないほどのハイテンションでそう言うと、ダンボールの中に入り込んでそのままもぞもぞと部屋の端まで虫のように這っていった。

 そのなんともいえない光景に俺を含めた皆は苦笑いをしているのは言うまでもない……うん、俺も何も言えないよ。

 とにかく今は三すくみの会談が先だ。

 俺達はそこで先日のコカビエルの事を説明しなければならないらしい。

 そして俺達は部長を先頭に会談が行われる会議室へと向かった。

 ―・・・

「失礼します」

 

 部長が控えめな感じで教員会議室の扉をコンコンと叩いて、扉を開けた。

 そしてそこには―――俺からしたら見知った姿がちらほらとあった。

 室内の内装は普段の会議室とは違って豪華絢爛、どこぞの王族が使っていそうな長いテーブルに豪華なイス、明らかに会談のために改良された会議室がうかがえるな。

 そしてその椅子に腰かける数人の姿。

 一人は光の天輪を頭に浮かべる優しい表情のミカエルさん、我らが魔王様であり部長のお兄様のサーゼクス様にその傍らに立つグレイフィアさん、ソーナ会長の姉であり魔王でもあるセラフォルー様、更に我が友、アザゼル!

 ……そしてアザゼルの隣に座る白龍皇、ヴァ―リ。

 それぞれのトップ陣は普段のような格好ではなく、装飾の施されている派手な格好だ。

 俺達は室内に入り、そして俺はそこに参列している方々を見た―――あ、ミカエルさんの頬は未だに殴られた跡がある!

 でも表情は優しげだな。

 すると今まで座っていたサーゼクス様が立ちあがり、そして俺達の方まで歩いてきて他の悪魔以外の者たちに話しかけた。

 

「この子たちは今回、コカビエルの件を解決してくれた我が妹とその眷属だ」

 

 サーゼクス様は部長や俺達をそう各陣営に紹介をした。

 するとその中でミカエルさんがその場で立ち上がり俺達に軽く頭を下げた。

 

「報告は受けています。深くお礼を申し上げます」

「うちのコカビエルが随分と迷惑をかけたな、悪かった」

 

 ミカエルさんが頭を下げてそう言った最中、アザゼルが特に表情を変えずにそう言った。

 アザゼルは特に悪そびれがないって感じだな。……ってあいつがそんな気の利いたことをするわけもないか。

 

「ではそこに座りなさい」

 

 サーゼクス様は俺達のために用意されている席を指してそう言うと、俺達はサーゼクス様の言うとおり、静かに座った。

 その席の付近にはソーナ会長の姿もあり、今回の件にはある程度、関わっていたためだろうな。

 一人なのは眷属を代表してってことか。

 俺達は今回のコカビエルの件は思いっきり当事者だから、全員集められたってところだろうな。

 

「さて、それでは集まったところで話しを始める前に言っておこう。ここにいる者達は全員が神の不在を認知しているということでいいかい?」

 

 俺達を含めるその場にいる全員が無言でサーゼクス様の問いに肯定すると、サーゼクス様は話し続けた。

 それから3つの勢力による会談が始まった。

 各陣営のトップがそれぞれの勢力の意見を一人ずつ話していき、そしてそれを他の陣営は黙って聞いておくっていうのが暗黙だ。

 そしてサーゼクス様は悪魔の未来について熱弁し、そしてそれは戦争と隣り合わせで生きていれば叶わないと説く。

 ミカエルさんはいかにして人々を導くか、神がいない世界でどのように平和を掲げるかを説き、そしてアザゼルはわざと空気を読んでいないような発言をして俺達を凍りつかせる。

 ……ちなみに俺の席順は部長を隣にして後ろに小猫ちゃん、部長の逆サイドにアーシアという具合だ。

 特にアーシアは神の不在の事を聞いてから不安なのか、俺の手を握っていて俺はそれをそっと握り返した。

 するとそれを見ていたのか、俺の後ろの小猫ちゃんから冷たい視線が俺に突き刺さる!

 

「……イッセー先輩、私も手をニギニギしてほしいです」

 

 小猫ちゃんが小声でそんな可愛い台詞を無表情で吐いてくる!

 ああ、もう小猫ちゃんの可愛さには俺は最近どうにかなりそうだ。……一日中膝枕して撫で撫でしてあげたい!

 そんな煩悩を考えていると次は部長が苦笑しながら俺を見ていた。

 

「イッセーは凄いわね。こんな状況で冷静でいられるなんて」

 

 すると部長はアーシアと同じように俺の手を握ってくる……その手は少しだけ震えていた。

 ……普段は俺達の『王』として立ち振る舞い、そしてお姉さまキャラだけど部長も普通の女の子なんだな。

 こういう風に不安になってしまうのは当然か。

 

「大丈夫ですよ。隣に誰かがいれば不安なんか消し飛びますから」

 

 俺は部長に小声で少しはにかむように言うと、部長は笑顔でありがとうって言ってきた。

 不安は誰かが隣でいてくれれば消し飛ぶ―――これを再認識させてくれたのは眷属のみんなだ。

 そうしているとサーゼクス様達は既に自分たちの意見を言い合ったのか、俺達の方を見ていた。

 

「ではリアス、こちらは大体のことを話し終えたからそろそろ今回の事件についての説明をしてもらえるか?」

「はい、ルシファーさま」

 

 部長がそう言うと、部長の傍に座っていた会長と共に立ち上がり、今回のコカビエルの件で俺たちが関わったことの全てを説明する。

 部長の口調は一見、淡々している感じはするもののやはり部長も自分の言い方を違えれば三勢力の今の関係にひびでも入ると思っているのかな?

 故に部長の手は小さく震えていた。

 ……部長と会長がする説明については各陣営、様々な表情をしていた。

 二人の説明する内容は全ての事実をありのまま、正直に伝えている。

 コカビエルが何のために悪魔や天使側に喧嘩を売ったのか、そしてそのコカビエルやあの事件に関わっていた者……フリード・セルゼンやバルパー・ガリレイなどといったことも全て。

 そして部長と会長が説明を終えると、サーゼクス様は二人に労いの声をかけたのちに座らせた。

 

「コカビエルの件は完全に俺の監督不届きだ。それに関しては謝罪するぜ。コカビエルは今は俺が直々にコキュートスに凍らした。一生出てこれねえよ。…・・・だがあのフリードの野郎は雲隠れしやがってどこにいるのか分からないのが現状だ。ったく、あの野郎はどこに行ったんだか……」

 

 アザゼルがやれやれと言いたい風な溜息を吐きながらそう言う。

 フリードの奴、祐斗にやられてから消えたことには気づいてたけど、雲隠れしてたんだな。

 隙がないというか何というか…・・・ある意味尊敬できるかもしれないな。

 あいつのそういう身の軽さだけは。

 いや、適応力と言った方が良いかな?

 

「……で、そんなことはどうでもいいんだ。俺はもっと知りたいことがある」

「ほう……奇遇ですね、アザゼル」

 

 アザゼルのその言葉に便乗するようにミカエルさんとアザゼルが俺の方をじっと見てきた。

 な、なんだ?

 

「一応ここでは友と呼ばずに名前で呼んでおくぜ、赤龍帝の兵藤一誠。ヴァ―リから報告は受けている―――あのコカビエルを無傷で倒したそうだな」

「それは私も紫藤イリナから報告を受けました。あの伝説に残るほどの堕天使コカビエルを赤龍帝で、しかも悪魔になって日も浅い貴方が圧倒したと聞いた時は耳を疑いました」

 

 二人は俺をまじまじと見ながらそう言うけど俺は特に動揺することはなかった。

 

「……お前は何者だよ。神器を俺並みに熟知している奴なんか聞いたこともねえ。しかもお前の中には赤き龍だけじゃなく、それに準ずる、もしくはそれすらも超える存在がいるんだろう」

「お前の言う通りだよ、アザゼル。俺の中にはドライグやアルビオンすらも超えるドラゴンが眠っている」

 

 ……今の俺の発言で驚かなかったのは眷属の皆とサーゼクス様、グレイフィアさんだけだった。

 だけど俺の中のもう一人のドラゴン……始まりと創造を司る「神創の始龍」(ゴッドネス・クリエイティブ・ドラゴン)であるフェルの存在をそれ以外の奴らは知らないから驚いてるんだろうな。

 

「……お前の神器を創造する神器の存在を聞いてから疑っていたが、やはりそれほどのドラゴンか。だが聞いたことがないぞ、赤龍帝。俺の知る限りでは二天龍を超えるドラゴンと言えば……」

「グレートレッドにオーフィスって言いたいんだろう」

「……そこまで知っているのかよ」

 

 アザゼルは次は特に驚くこともなく、むしろ関心するような感嘆の声を漏らした。

 実際にオーフィスとは面識まであるし、友達だからな。

 いずれはグレートレッドとも話してみたい!

 

「今までで稀に見ないほどの異質な赤龍帝だよ、お前は。現段階でバランスブレイカーを取得し、更に二天龍すらも超えるドラゴンの神器の担い手」

「そして聖剣アスカロンの真の所有者に選ばれた赤龍帝ですか。全く規格外もいいところです」

 

 規格外、か……

 確かに聖剣に選ばれたことも、そもそもフェルの眠る神器を所有してしまったことも、そしてなによりも兵藤一誠に転生したこと自体が信じられない。

 だけど俺の根本はたとえ力を得ても変わることはない。

 ……するとアザゼルが俺にあることを問いかけてきた。

 

「赤龍帝。お前に……いや、白龍皇であるヴァ―リ。お前にも問いたい。お前たちはその絶大な力。神をも殺す力(神滅具)を得て何がしたい」

「……俺は戦うことが全てだ。それ以外のことには一切の興味はない」

 

 するとヴァーリは口を開いて即答する。……こいつは徹底的な戦闘馬鹿のタイプか。

 するとその場にいる視線が全て俺の方に向けられた……そして俺は口を開いて答えた。

 

「守ること。せめて俺の掌に収まる全てを守ること。俺はそのために力を欲する。だから強くなろうと思うし、敵とも戦う。戦うことのない世界があれば俺は喜んで力を捨てる」

「……それは本気で言っているのか、兵藤一誠」

 

 するとその場でヴァ―リが立ちあがって俺の顔を睨むように目を細め、見てきた。

 

「ああ、何もかも本音だ」

「……君が戦う理由が守るため、他者のためか。まるで俺と正反対だな」

「ああ、だからこそお前とは相容れない。俺はお前を否定する気はない。ただお前と違って俺は戦いに魅力を見出すことはない」

「……残念だよ。俺の中では君は俺が戦いたい存在の中でも断トツだ。……今すぐにでも戦いたい気分だよっ!」

 

 ヴァ―リが声を荒げてそう言った瞬間、ヴァ―リの首筋に光の槍が突きつけられた……アザゼルによるものだ。

 

「自重しろ、ヴァーリ。今、この場でお前と赤龍帝が戦えば、この会談は無駄になる」

「だからと言ってこの男への戦闘意欲は消し去ることなんて不可能に近い。……アザゼル、あんたは見ていないから知らないだろうがあの男の力は想像を絶する」

 

 ヴァーリがにやりと俺の方を見て笑う。

 

「そんなことは知らない。それでも俺はお前と戦う気なんか一切ない」

「だが赤と白は戦う運命だろう?」

「そんな運命、俺には必要はない。俺はただ仲間を……。眷属の皆や友達、家族を守るだけでいい」

 

 俺はそう言うとヴァーリから視線を外して皆を見た。

 眷属の皆は笑顔で俺の方を向いている……そうだ、これが正しいんだ。

 俺は自分の気持ちに素直になるだけでいい。

 それが俺の今できることだし、それにやりたいことだ。

 

「つまらないな、そんな人生は。誰かのためだけに生きて行くなど俺じゃあ到底できないな」

「お前が退屈と思うことでも俺にとっては大切なことなんだよ。どちらしても俺はお前と戦う気はない」

 

 俺はそう断言すると、ヴァーリは俺から視線を外して特に何も言わなくなくなった。

 

「ほぉ……。赤は他人のために、白は自分のために戦うか。本当に今回の赤と白は変わってんな。本当なら赤と白は出会ったら、神器に眠る歴代赤龍帝と白龍皇の魂が共鳴して、互いに戦い合うってはずなんだが……」

 

 ……赤と白の神器の中にある負の魂、悪霊のような心を前世の俺や今はいないミリーシェはどうにかしようとした。

 実際にあんなことがなければ―――ミリーシェが何者かに殺されなかったら全てが上手く行っていた。

 それはアルビオンも言っていた事実だ。

 今更、過去を振り返っていても何も変わるわけがない。

 だから俺はもう過去を拭い去らなければならない。

 ―――それでも、これだけは聞いておきたい。

 ちょうど各勢力のトップ陣がここに勢ぞろいしてるんだ……ちょうどいい。

 

「貴方達に一つ聞きたいことがあります……前代赤龍帝の事を御存じではないでしょうか」

 

 ……俺の発言にまず最初に驚いたのは俺の中にいる二人のドラゴン、ドライグとフェルだった。

 

『どうしてそれを今に聞く!』

『ドライグ。……わたくしも驚きでありますが、今は主様のなさることを見ておきましょう。主様は無意味な行為をしたことはないのですから』

 

 フェルは驚きながらも俺の行為に驚きながらもドライグを鎮めてくれる。

 そして俺の質問に最初に応えたのは神妙な顔つきをしたアザゼルだった。

 

「前赤龍帝のことだと? ……なぜそんなことを聞く必要がある」

「俺の中のドラゴンが前赤龍帝のことを言ってくるからな。一応、聞いておこうと思って」

 

 ……俺は即興で考えた出まかせをアザゼルに言うと、アザゼルは腕を組んで考え込んでいた。

 

「……はっきり言ってしまえば、俺は知っていることはほとんどない」

「ほとんど?」

 

 俺はアザゼルの言葉を反復するように言い返すと、アザゼルは続けて話す。

 

「実は前赤龍帝の事は俺が知りたいくらいだ。どういうわけか前の赤龍帝のことは誰も分かっていないんだ。前代の赤龍帝がいた時代、人物……どれも分からないことずくし―――俺はこの空白を『前代の空白』って呼んでいる」

「それは我々天使サイドも同じです。前代赤龍帝のことは全てが謎とされています……そして白龍皇もまた然りです」

 

 ―――俺はアザゼルとミカエルさんの話を聞いて、あることを自覚した。

 俺は……前赤龍帝であった俺の存在はこの世界のどこにもなくなっている。

 俺ですら自分の本当の名前を忘れてしまっているんだ。

 そしてミリーシェ……前代の白龍皇のことでさえ、今ではもう俺やドライグ、アルビオンしか覚えていない。

 分からないことだらけだけどそれだけは分かる。

 …………一体どうなっているんだ。

 前代の赤龍帝と白龍皇……つまり俺とミリーシェは最後、凄惨な最期を迎えたはずだ。

 なのにそれを誰一人として把握していない。

 

『……相棒、今の優先順位を見誤るな。今は昔のことよりも、掌に収まるくらいの仲間を守るのだろう』

 

 ……そうだな、ドライグの言うとおりだ。

 このことはおいおい考えていく。それよりも今は和平のための会議だ。

 

「話を中断させて悪かった。―――とにかく俺が戦う理由は守るため。皆が笑顔でいられるためです」

 

 俺は三勢力のトップ陣に頭を下げて謝罪すると、サーゼクス様は俺の隣まで歩いてきて俺の肩をトントンと叩いた。

 

「いや、君の気持ちはよくわかった。これからもリアスや仲間のためにその力を発揮したまえ」

「はい」

 

 俺はサーゼクス様にそう頷くと、俺は話すことを止めた。

 とりあえず今は黙ることで色々と知ったことを冷静に追っていこうとしたためだ。

 

「赤龍帝の性質も分かったことだしさ、そろそろ本題に入ろうぜ。……ミカエルにサーゼクスよ」

「……理解しているのだろう。三勢力の中で最も信用の薄いのは堕天使サイドということを」

 

 サーゼクス様はそう言う。

 確かにここまでの経緯の中で、最も問題を起こしてきたのは堕天使サイドだ。

 アーシアの一件に今回のコカビエルの件。

 これは言い訳のしようのない真実で、例え部下が勝手にやったとは言えど、監督不届きに違いがない。

 

「ああ、全部俺の部下が起こした不祥事だ。今更それを言い訳する気はねえよ。それに俺自身は戦争なんてものに興味はねえ―――だからこそ、和平を結ぼうぜ」

 

 ……驚いたな。

 まさかアザゼルが最初にそのことを言ってくるなんてな。

 いつかはこの話になるとは思っていたけど、まさかアザゼルがそれを切り出したことに俺は素直に驚いた。

 

「……まさか貴方からそのような言葉を聞くことが出来るとは。私はてっきり、堕天使はまた戦争を起こすものだと思っていました」

「ははは! 信用ねえな、俺は!」

 

 するとサーゼクスさまとミカエルさんは同時に当たり前だろうと言いたげな表情になった。

 

「当然だ。神器やその所有者……特に白龍皇を手中に収めた時は流石に肝を冷やした。また戦争をしようとするものだと思ったよ」

「……まあ神器に関しては若干俺の趣味が入っているんだけどよ。そこの辺は赤龍帝である兵藤一誠が分かっているはずだぜ」

 

 アザゼルは俺の方を見て薄く笑って言った……まあアザゼルは戦争を起こすとか、そんなことは今更考えていないだろうけどさ。

 でもまだ疑問ってやつは残る。

 

「……今さら何だがミカエル。ずっと気になっていたんだが、何でお前、頬に殴られた跡があるんだ?」

 

 ―――そこに気付くのは勘弁してくれよ、アザゼル!

 割と俺も殴ったことに冷や冷やしてるんだからさ! 後悔は全くないけど!

 

「……殴られて当然なことをしたので、気にしないでください。それに私はまだこの場で話さなくてはならなく、そして謝罪が必要です」

 

 ……するとミカエルさんはその場から立ち上がって俺達―――アーシアとゼノヴィアに近づいてきた。

 

「……アーシア・アルジェント、ゼノヴィア。本当に申し訳ありませんでした」

 

 そしてミカエルさんは深々と、アーシアとゼノヴィアに向かって頭を下げた。

 その行動に俺と朱乃さん以外の眷属の皆……サーゼクス様やアザゼルまでもが驚愕の表情になった。

 そりゃあ天使のトップが下級悪魔に頭を下げているんだからな。

 

「み、ミカエルさま!?」

「……これは流石に私も驚きだ。ですが頭をお上げください、ミカエルさま」

 

 アーシアとゼノヴィアはミカエルさんの行動に慌てふためいているから、俺は二人に近づいて経緯を軽く説明した。

 なぜアーシアが追放となったのか、どうしてそのような事をしなければならなかったかを。

 その間、ミカエルさんは頭を下げたままだった。

 

「私はどうすることもできません。貴方達二人を悪魔にしてしまったのには私に責任があります。もっと上手くできたはずです。……だからこそ私は貴方達二人に償わなければならない」

 

 ……ミカエルさんは本気で二人に謝罪していた。

 この人のことだ。ずっと気がかりだったんだろうな。

 アーシアを追放してしまい、神の不在を公にすることが出来ずにゼノヴィアまでも追放してしまったこと。

 仕方なかったこともある。でもこの人の性質を考えるとそんな風には思えないはずだ。

 激しい後悔と自虐の念。……今、ミカエルさんを襲っているのはそんなところだろうな。

 俺は口を出すべきじゃない……それに俺が口をはさまなくても心配はないはずだ。

 

「……頭をお上げください、ミカエル様」

 

 ……すると室内にアーシアの優しげな声音を帯びた声が響いた。

 アーシアの表情はいつも通りの優しく、俺を癒してくれる綺麗で一緒にいるとどこか安心できる表情だった。

 

「確かに当時の私は本当に辛かったです。聖女から魔女と呼ばれ、追放されて。―――辛いの他に言葉が見つかりませんでした」

 

 アーシアは一瞬、暗い表情をするけど「だけど」と言って話を続ける。

 

「私は追放されたお陰でイッセーさんと出会いました。堕天使に利用されて殺されそうになった時もイッセーさんが私を命がけで救ってくれました。神の不在を知って絶望した時も……イッセーさんがいてくれて、頼もしい言葉をかけてくれたから私は今もここにいます」

「……その点は私も同様だ。イッセーがあの時、私達に声をかけてくれた。たとえ種族が違えど、例え敵であろうともあの言葉は深く私の胸に刻み込まれた。ある意味では神の不在を知ることが出来て私は本当の幸せを知ることが出来たよ」

 

 ゼノヴィアは「辛いこともあるけどね」と苦笑しながらもそう言った。

 少し照れくさいけど、二人はミカエルさんにそう言いたいことを伝えると、ミカエルさんは静かに頭をあげた。

 

「……そうですか。ならば私はせめてあなた達に幸せでいれるように祈っておきましょう」

 

 ……ミカエルさんは穏やかな表情でそう言った。

 そこで俺は不意に思い出したことがある。

 祐斗のことだ。

 祐斗は今回の件で禁手……しかも”魔剣創造”(ソード・バース)では異例の形で禁手化した。

 聖と魔を司る聖魔剣は神のシステムにバグが生じたからこそ生まれた禁手のはずだ。

 それならば、と俺は思った。

 

「……ミカエルさん。勝手なお願いであると思いますが、一つ俺の願いを聞いてもらえないでしょうか?」

「他ならぬ貴方の頼みなら快く受けましょう。それで一体何を望むのです?」

 

 ミカエルさんは特に邪険な様子もなく、俺の問いを持っていた。

 

「今回の件で俺達の『騎士』は聖と魔を司る聖魔剣という、本来は混ざり合わない力を手に入れました。それは神の創ったシステムにバグが生じたことによって出来たこと。……なら、悪魔であっても神に対し、祈ることは出来ないでしょうか?」

「―――ッ! つまりそれは……」

「はい。アーシアとゼノヴィア、この二人に対して祈りを捧げることを可能にすることは出来ないでしょうか?」

 

 ……俺の言葉にアーシアとゼノヴィアは目を見開いて驚いていた。

 悪魔だから神に祈りをささげることでダメージを受ける……そんな場面を俺は何度も見てきた。

 だからこそ、悪魔になってなお、神に祈りをささげる二人をどうにかしてあげたいとずっと思っていた。

 

「……赤龍帝、貴方は私の予想を遥か斜めに裏切ってくれますね。もちろん、良い意味で―――良いでしょう、二人くらいならどうにかなると思います。もちろん教会や神社の類に近づくのは無理でしょうが、せめて祈ることぐらいならば何とかしてみせましょう」

 

 ミカエルさんが二コリと笑ってそう言うと、すると俺に突然、一つの衝撃が伝わってきた。……アーシアだった。

 ゼノヴィアは腕を組んで涙ぐんでいるけど俺の方を見ている。

 アーシアは何も言わず、ただ涙をこらえるように嗚咽を漏らしていた。

 

「……ありがとう、イッセー。私は君に救われてばかりだよ」

「……そっか」

 

 それ以降はゼノヴィアは特に何も言わず、俺は会談の席を見た。……なんだ、凄い生温かい視線が俺に直撃する!

 

「ほう……。兵藤一誠はあんな感じで女を落とすのか。俺とは全く違うな」

「……グレイフィア、イッセー君を題材に何か出来ないだろうか? 私には出来ないのでどうともいえないんだが……」?? 分かりづらいのですが どういうことなのでしょうか

「サーゼクス様、そのようなことはこの場に於いてはお話にならないでください。後でしっかりと計画などを聞きますので。とりあえずプロットを考えるところからです」

 

 ……なんかサーゼクス様とグレイフィアさんの不穏な掛け合いが俺はかなり気になっているけど、とにかくは―――

 

「……本題に戻そうか。アザゼル、貴方は何故、神器を集めていた? 戦争を起こす気がないならどうしてだ?」

「ああ、戦争は起こす気はねえ。ただ力を蓄えていたんだ」

「力を蓄える? それこそ戦争を起こすためじゃないのか?」

「まあ聞けよ、サーゼクス。確かに俺は神器を集めていた。それは趣味の一環でもあるし、それに……ある存在を危惧してだ」

 

 ……俺はアザゼルの意味深な言葉に疑問を抱く。

 存在? アザゼルが危惧するほどの存在があるのか?

 

「それはある組織でな、このことは俺達、堕天使サイドも少し前に露見した事実なんだが……特にその組織のトップがヤバいなんてものじゃない。マジで世界を滅ぼせるくらいの奴だ。そいつらに対抗するためにも、今は俺達は争うべきじゃねえ」

「……まあ我々天使側も和平を持ちこもうとは思っていましたが、まさかそんな事情があるとは思いもしませんでした」

「悪魔である我々も和平を望んでいる。だがアザゼル、君が危惧するほどの組織、そしてそのトップに君臨している存在を教えてほしい」

 

 サーゼクス様はアザゼルにそう詰め寄ると、アザゼルはあっけらかんとした態度で応えた。

 

「教えるも何も……。まあ良いぜ。その組織の名は―――」

 

 アザゼルが口を開いた瞬間だった。

 俺の体が一瞬、何か血の気を引くような感覚に襲われた。

 ……俺はこの感覚を知っている。

 ――――――今のはギャスパーの力が暴走した時に起こる現象そのものだ。

 それはつまり…………。

 その場において、全てが停止したことを意味していた。

 簡単に言えばギャスパーの力が暴走した……そしてギャスパーのいる旧校舎とこの会議室の距離から察するに。

 ここら一体が停止したことを指していた。

 そしてそれが起こる理由は暴走。

 つまり……

 ―――ギャスパーが暴走を起こすほどの何かが、この駒王学園で起こっているいう他なかった。


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