ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第5話 天使に聖剣、悪魔に吸血鬼です!

「いいか、ギャスパー。今のギャスパーは俺の血を吸って一時的に神器が安定してる。だから今のうちに神器の特訓をすることにする」

「は、はいぃ!!」

 

 現在、俺とギャスパー……厳密にいえば匙、祐斗、アーシアもいるが、俺達は体育館にいる。

 部長の厳しいお説教(色々と約束事をさせられた)の後、俺はギャスパーの邪眼の神器の安定を目指すべく軽く修行をすることにした。

 今、この場にいるのは集められる限りに集めた神器持ちだ。

 俺は”赤龍帝の籠手”(ブーステッド・ギア)”神創始龍の具現武跡”(クリティッド・フォースギア)

 ギャスパーは”停止世界の邪眼”(フォービトウン・バロール・ビュー)

 その他にアーシア、祐斗、匙の神器である”聖母の微笑”(トワイライト・ヒーリング)”魔剣創造”(ソード・バース)”黒い龍脈(アブソーブション・ライン)などといった、レアな神器が勢ぞろいしている。

 ちなみに今はデフォルメしたトカゲの頭部のような神器が匙の手の甲に装着されており、そこからトカゲの舌のようなものがギャスパーの華奢な腕に繋がっている。

 

「いいか? 今のギャスパーは力が暴走しないよう、匙の神器で余分な力を吸収している。だから周りを気にせずに今から飛んでくる祐斗の魔剣を止めるんだぞ?」

「は、はいぃ!!」

 

 ……匙の神器に関しては俺の調べはついている。

 あれは他人の力を吸って他者に譲渡出来る俺の神器と似ている部分があるから、今回はそれを使うために匙には協力してもらっている。

 

「いくよ、ギャスパー君!」

 

 すると祐斗は一本の魔剣をつくりだし、それをギャスパーに勢いよく投げた。

 祐斗は簡単に言ったらギャスパーに停止させるものを創る要因として来てもらっている……っというよりこの神器持ちが集まることで、参加したいと言ってきたからな。

 ちなみにアーシアは俺が参加してもらうようお願いした。アーシアはこの中では神器の扱いが上手いからな。

 それと仮にギャスパーが剣を停止し損ねて怪我をした場合の回復要因だ。

 剣をわざわざ真剣にしているのは、単に本当の戦闘を模擬しているからだ……流石に命に関わりそうなら俺が飛んできた剣を消し飛ばすけど。

 

「ギャスパー、今だ! 剣だけを停止させろ!」

「は、はいぃ!!」

 

 ギャスパーは目を見開くと、あいつの目は赤く輝き祐斗の放った魔剣はその空中で静止した。

 ……なるほど、ギャスパーは中々の神器を扱う上での能力が長けているな。

 

「い、イッセー先輩! 出来ましたぁ!!」

 

 するとギャスパーはぴょんぴょんその場で飛びながら歓喜していた。

 そして俺の懐まで来て、いい笑顔でそう言ってくる。

 

「よしよし、良くやったな。だけど止められる剣が一本だけなら話にならないぞ? 今は魔剣でやっているけど、祐斗は聖魔剣すらも創造が可能だ。それを停止させないと合格とはいえないな」

「うぅ……。そうでしたぁ……」

 

 するとギャスパーはしょんぼりした。

 うぅ……くそ、抱きしめたい衝動に掻き立てられるが、俺は自分の舌を噛んでそれを何とか止める。

 この場にはアーシアがいる。

 普段は優しく、気が利いて努力家、しかも可愛く俺の癒しの最強の存在だけどアーシアは俺のことになると暴走しがちだからな。

 さっきなんか俺の首筋にキスマークを付けるなんてこともしたから……だから俺は今、包帯を首に巻いてるし。

 そうしているとギャスパーはまた所定の位置に戻った。

 

「イッセーさん、首は大丈夫ですか?」

「……だ、大丈夫だよ? アーシアの癒しパワーで回復したからな!」

 

 寧ろ傷以外にもっと傷を産む原因があることは黙った。

 ―――キスマークはどれくらいで消えるかを本気で考える最中、俺は俺の隣でラインを伸ばしている匙に話しかけた。

 

「悪いな、眷属の中の問題なのにお前の手を煩わして……」

「気にするなよ、イッセー! お前は俺の憧れだから、そんなお前に頼られて何もしないってのは男が廃る! それにこれは俺にとってもいい訓練だからな!」

 

 ……確かに力を吸って誰かに譲渡する訓練にはもってこいだな。

 使い手によれば匙の神器の舌のようなラインは一つではなく複数にすることも可能だ。

 ―――それにしてもギャスパーの神器はどうやら扱いにくいみたいだった。

 先ほど剣を止めることに成功はしたものの、それまでに何度もギャスパーは失敗してその空間を一瞬、停止させてしまった。

 その中で俺は動けたものの、祐斗でさえほんの一瞬、動きを止めてしまうほどだ。

 その度に泣きながら逃げようとするのを宥めて、また修行を開始する。

 ……よし、少しだけステップアップしてみるか。

 

「祐斗、次に放つ剣は聖魔剣にしてくれ」

「……いいのかい、イッセー君。あれは自分でいうのはあれだけど、悪魔には危険だよ?」

「本当に危ない時は俺が身を呈して止めるから心配するな」

 

 俺がそう言うと、祐斗は神器の奥の手を発動する。

 禁手(バランス・ブレイカー)だ……そして祐斗は双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)を発動し、そして一本の白と黒の聖魔剣を創った。

 そして祐斗は黙ってそれをギャスパーに投げる。

 

「…………ッ!!」

 

 ギャスパーは先ほどと同じように目を見開いて、聖魔剣を止めようとするが……聖魔剣はその動きを停止させたけど、少しずつ動いている!

 ……むしろ上手く行った方だ。

 

「ッ! 不味い、聖魔剣が!」

 

 祐斗は聖魔剣がギャスパーの停止を破り始めていることに気付き、急いで聖魔剣を止めようとするけど、俺は先に動いていた。

 腕に籠手を出現させて、掌に魔力の塊を集中させてそれを聖魔剣に向かって放つ!

 

断罪の龍弾(コンヴィクション・ドラゴンショット)

 

 俺は少しずつ動いている聖魔剣に向かって、出来るだけ力を凝縮して消滅する力を高めた龍の形をした魔弾を撃ち放った。

 それは聖魔剣を包み込み、そして少しずつボロボロにしていった。

 ……流石は聖魔剣、中々の耐久度だ。

 俺はそう評価して、次の瞬間にもう一度同じ魔弾を撃ち放ち、そして次の瞬間に聖魔剣は跡形もなく消し飛んだ。

 

「―――僕の聖魔剣は君の魔弾を二度も耐えれたんだね。適当に創った聖魔剣だけど、精度が少し高かったのは嬉しいよ」

「分かってんじゃねえか、祐斗」

 

 祐斗は特にそのことに落ち込むことはなく、むしろ関心したような目だった。

 そして俺はその場でぺたっと座りこんでいるギャスパーの元に近づき、そして腰をおろして頭を撫でまわした。

 

「祐斗の聖魔剣をあそこまで停止したことはよかったぞ。後は修行を重ねれば神器の扱い方は上手くなるさ」

「うぅ……イッセー先輩の優しさが骨身にしみるみたいですぅ!」

 

 ギャスパーは体を震えさせて嬉しそうにそう言うと、アーシアが俺の服の裾を引っ張ってきた!

 

「イッセーさん! ギャスパーさんばっかりずるいです!」

「……あはははは」

 

 俺は苦笑いをしながらアーシアの頭を撫でると、どういうことだろうか……

 近くに来ていた祐斗が羨ましそうな目でアーシアを見ていた。

 

「……先に言っておくけど、お前にはやらねえぞ?」

「なッ!? イッセー君、ギャスパー君にはしているのにどうして!?」

 

 おい、どうしてお前は驚愕してんだ?

 ……ってギャスパー君?

 ああ、そっか……こいつは知らないんだな。

 

「言っておくけど、ギャスパーは男の子であり女の子でもあるんだぞ? 言わば両性……まあ限りなく女の子に近いけど」

「――――――そ、そんな、馬鹿な……」

 

 すると祐斗はふらふらな足取りになった。

 どうしてそんなに信じられないような感じになっているんだよ……

 

「どうしよう……まさかギャスパー君が男じゃないなんて。これではイッセー君を除けば男は僕一人だけ……最近の皆はイッセー君絡みで僕に冷たいし、こうなったら僕も……ッ!」

 

 すると祐斗はぼそぼそと何かを呟いていた。

 ……ちょっと怖いです、はい。

 

「そういえばギャスパー、やっぱりギャスパーの事はギャスパーちゃんって呼んだ方がいいか?」

「……出来れば呼び捨てでお願いしますぅ!」

 

 ……とにかく、俺達はそれからしばらくは訓練を続けた。

 だけどギャスパーは俺以外の誰とも目も合わせなかったことが俺は気になっていた。

 ―・・・

 ギャスパーとの修行の後、匙とは礼を言って別れて俺と祐斗、ギャスパーに小猫ちゃん、アーシアは部室に戻った。

 時間もそろそろ夜中に差し迫っていた。

 そして部室には既に全員がいるけど、ギャスパーは相変わらずダンボールの中に入っていた。

 ……俺はそこでドライグとフェルに心の中で話しかけた。

 

『相棒、どうした?』

 

 いや、ギャスパーの事を少し聞こうと思ってな……それでどうだった?

 

『才能はあるとは思います。ですが未だに未熟すぎますね……特に精神が脆すぎます』

 

 するとフェルは俺にそう言ってきた。……確かにギャスパーはそうかもしれないな。

 

『俺の個人的な意見では今のあの吸血鬼は相棒に依存する形で安定している気がするさ』

『それを言ってしまえば、ドライグ……この眷属は誰もが主様に依存しています。いえ、眷属だけでは治まりません―――主様は依存したいと感じさせてしまうほど優しい性質を持っていますので、当然な気もしますが』

『依存に依存を重ねた場合、最後はその依存対象が消えた時に崩壊が訪れる』

 

 フェルは冷静に俺のことを分析した。

 ……それを言ってしまえば俺も依存している気がするんだけどな。

 

『いえ、主様はいずれの誰にも依存すらしていません。むしろその逆……主様は誰も頼ろうとせず自分の力だけで行動しています』

『待て、フェルウェル。今はそのことを言っても」

『いえ、この際だからはっきりして言っておきます。主様は自分が傷つくことで誰かを守ることを正当化しています。つまり初めから自分は傷つくことを度外視しています』

 

 ……そうだとしても俺は上手くやっていけた。

 

『今はそうでもいずれ、それでは治まりきれないこともあります。故に自分を大切にしてください。主様が傷つくのは誰も望んではいないのです』

 

 フェルは俺を叱るようにそう言った。

 ……ホント、こういう時はお母さんっぽいよな。

 でも肝に銘じておくよ……だけどもし誰かが傷つくことがあれば俺はこの生き方を止める気はない。

 この身を呈してでも大切を護る。

 せめて最小限に留めるように努力はするよ。

 

『……まあいいでしょう。ですがマザー的にはあまり傷ついてほしくはないです―――では私は今一度、神器の奥底に行って調べることがありますので』

 

 そう言ってフェルの感覚は消える……神器の深層か。

 俺は二人と会話するのを止めて、現実に戻る。

 すると部長は何か話していた。

 

「三すくみの会議の日取りが決まったわ……決行は明日よ」

「あ、明日!?」

 

 俺は突然知らされたその事実に情けなくも大きな声をあげて驚いた。

 

「い、イッセーが驚くなんて珍しいわね。まあ確かに突然の事で驚きはあるのだけれど……」

「い、いえ……気がついたらその事実を突き付けられて驚いただけなので。話しの続きをどうぞ」

 

 部長は咳払いをしてその場を改めて、もう一度話し始めた。

 

「突然のことで悪いのだけれど、会談は明日になったわ。それに先立って明日の学校は臨時休校。他の生徒は立ち入り禁止で私達もいくつか仕事を任されているわ。……朱乃」

「はい、部長」

 

 すると朱乃さんは俺の前に来た……どうしたんだろうな。

 

「実は会談の前にどうしてもイッセー君にお会いしたいとおっしゃる方がいるのですわ。イッセー君は明日のお昼頃にある場所に来てほしいのですが……」

「それぐらいだったらお安いご用ですが……誰なんです?」

「うふふ……それは実際に会ってお確かめください」

 

 朱乃さんは悪戯そうな表情でそう言う。……朱乃さんはあの件以来、特に俺に対する態度を変化させていない。

 ただ俺と朱乃さんが話していると部長がすごい不機嫌になるんだよな。

 とりあえず俺は朱乃さんの言葉に頷くのであった。

 ―・・・

「いい? イッセー。私は最近思うの……あなたとの触れ合いが最近減っている気がするって―――由々しき事態よ」

 

 俺とアーシア、部長が家に帰っている途中で部長は俺にそう言ってきた。

 ……いや、正しくはギャスパーの入ったダンボールが俺の腕の中にある。

 ギャスパーが俺の家を見たいと言ったから部長が渋々了承したのがあれから起こったことだ。

 そして部長が俺の部屋に入り、アーシアもそれに続いて俺がダンボールを部屋の片隅に置くと部長は切羽詰まったようにそう言ってきた。

 

「ええっと……そうなんですか?」

「そうよ! どうしてか朱乃はイッセーに好意を抱いているわ。そして当然、アーシアや小猫、ゼノヴィアに至るまで。しかもそこに貴方の幼馴染のイリナさん、そしてティアマット……最近イッセーとの触れ合いが無さ過ぎて私はこのままでは死んでしまうわ」

 

 そこまでですか!?

 そんなに俺との触れ合いは死活問題な事に俺は驚いていると、部長は俺の肩を掴んできた。

 

「そういうことでイッセー、一緒の布団で寝るわよ」

「ええ、ええ、そうですか。なら早速布団に……ってはいぃぃぃ!!?」

 

 いや、なに芸人みたいなノリしてんだ、俺は!!

 っていうか触れ合い=ベッドで寝るっていうのはいささか違う気がする!

 それよりも部長がそう言ったおかげでアーシアは頬をぷくっと可愛く膨らませて俺を見ているし、何よりダンボールの穴から赤く光る眼光で俺を見ているギャスパーの恐ろしさが凄まじい。

 

「イッセーさん、部長さんがいいなら私だってイッセーさんのお布団で寝ます! 桐生さんに教えてもらった起こし方で起こしますから!」

「……桐生に教えてもらったってとこでもう嫌な予感がするんだけど、一応聞いておくよ。どんな起こし方なんだ?」

 

 俺がそう言うとアーシアは突然、顔を真っ赤に燃えあがらせて目線を下に向けた。

 

「あぅ……えっと、桐生さんが仰っていたのは男性のイチモツは朝、元気になるって……それを鎮めるために熱いのをお口で御奉仕して…………。―――やっぱり無理ですぅぅぅぅ!!!」

 

 アーシアはそう叫びながら涙を撒き散らして俺の部屋から逃げていく!?

 っていうか桐生の奴は俺の大切なアーシアをどれだけ穢すんだ!

 

「ふふ……これでアーシアは退場ね。なら私は今夜はイッセーを」

「―――ほぉ、リアス・グレモリー。我が弟に手を出そうとは、よい覚悟を持っているじゃないか?」

 

 ―――その時、アーシアが開けっぱなしにしていった扉から黒髪美女のティアが現れた!

 どうしてここにいる!?

 いや、なんでいるんだよ!

 

「気にするな、イッセー……まどかとお前について語っていたらいつの間にか夜になってしまってな。それよりもリアス・グレモリー。誰が誰と眠るって?」

「わ、私とイッセーよ! それに使い魔である貴方には何も関係は」

「ほう……ならばお前には話さないといけないな―――そう、ドラゴンファミリーの一員として、姉としての弟の愛し方を」

 

 するとティアは部長の首根っこを掴んでずるずると俺の部屋から連れ出す!?

 なにその絵! 部長が誰かに引きずられるのなんか見たことがない!

 

「い、イッセー! 助けなさい!」

「……部長、怒ったティアは俺も止められないので。……御愁傷様です」

「い、イッセーの裏切り者ぉぉぉぉ!!!」

 

 俺は涙を流して顔を真っ赤にする部長を不意に可愛いと思いながらも、ティアに酷くしないようにしてもらうことを伝え、そのまま部長とティアを見送ったのだった。

 だけどティアがここにいるってことはフィー、メル、ヒカリはどこに行ったんだろうな……

 

「……ま、いっか」

 

 俺は布団に横になろうと思い制服を脱ぐと、妙に布団が盛り上がっているのを確認した。

 …………考えられる可能性は二つだ。

 一つはチビドラゴンズが俺のベッドで寝ている。そしてもう一つは……

 俺はそれを確かめるべく布団を剥ぐと、そこには

 

「い、イッセーちゃん! ち、違うの! これは、そう! 親子でのコミュニケーションというやつなのよ!」

 

 ……そこには歳不相応のパジャマを着た母さんの姿、そしてこれまた年相応の可愛いパジャマを着たチビドラゴンズの姿があった。

 

「……母さん? またなのか?」

 

 俺は先ほどのティアがしたように母さんの首根っこを掴んでそのまま廊下に放り投げる。

 

「とりあえず反省しなさい! この親馬鹿母さん!!」

 

 そして俺は厳重に部屋に鍵をかけて、そのままベッドの上に横になる。

 どうやらチビドラゴンズは寝ているらしく、俺はその傍で横になった。

 ……っと忘れてたな。ギャスパーもこの部屋にいるんだった。

 

「ギャスパー、お前はどこで寝るんだ? ……って、もう寝てるのか?」

 

 俺はギャスパーが入るダンボールの蓋をあけると、そこには小さく丸くなって儚げな寝息を漏らしているギャスパーが眠っていた。

 なんか捨て猫みたいな儚げさだな。……不意に可愛いと思ってしまう。

 

「ったく、そんなとこで寝てたら風邪ひくだろ……」

 

 俺はギャスパーをダンボールから抱き寄せるように抱っこして、そのままベッドに横にした。

 

「さてと……俺は今日はどこで寝ればいいんだ?」

 

 さしあたっての俺の今の問題は自分の寝床の確保であるのだった。

 ―――ちなみにその夜、結局俺が寝たのは冷たい床である。

 ―・・・

 次の日。

 俺は制服姿のまま朱乃さんに指定された場所に向かっていた。

 でもその指定された場所は少し不可解だったんだ。……確か神社がある場所のはずだ。

 だけど悪魔は神社や教会の類には入れないはず。

 俺は神社へと続く大きな石段の前に到着すると、そこには巫女姿の朱乃さんがいた。

 そう言えば朱乃さんには「雷の巫女」なんてあだ名があったっけ。……たぶんこの姿からきてるんだろうな。

 

「あらあら、イッセー君。お早い御到着ですわ」

「家にいたらティアとフィーたちが絡んでくるもので……」

 

 実際にはアーシアとチビドラゴンズが俺に甘え過ぎた結果、ティアも参加しようとして来て逃げただけなんだけど……

 そして俺は朱乃さんに連れられて石段を登っていく。

 

「でも朱乃さん、確か悪魔は神社には入れないんじゃないんですか?」

「この神社は先代の神主がお亡くなりになり、荒廃していたものをある取引で悪魔でも入れるようにしたものですのです。だから大丈夫ですわ」

 

 朱乃さんは二コリと笑ってそう言うと、俺達は石段を登り切りそのまま境内の中の鳥居をくぐった。

 そして俺は神社の本殿を見ると、そこには立派などこも壊れている様子がないと思った。

 

「本当に入れるんですね。それよりも俺に会いたい人っていうのは……」

「それは私のことですよ」

 

 ―――その時、俺や朱乃さんじゃない第三者の声が俺の耳に響いた。

 俺はその声を辿ると、そこは空でしかもその空は眩い黄金の光で突然輝き始めた。

 しかもこの俺の肌に突き刺す強いオーラ……間違いない、相当な力を持つ者だ。

 俺はその気配に警戒しようとしたとき、横の朱乃さんが俺の手をすっと握ると思うと、俺の掌に女の子らしい柔らかい手の感触が伝わった。

 

「大丈夫ですわ、イッセー君」

 

 朱乃さんは俺にそう言うと、俺はその輝きの中心に佇んでいる人物を見た。

 

「そのオーラ……。まさしく赤龍帝のものですが、ですがそれ以外にも私に似たものを感じますね」

 

 ……おそらくフェルのことだろうな。

 ゼノヴィアも同じようなことを言っていたし。

 

「……誰だ?」

「私はミカエル。……お久しぶりですね、ドライグ。そしてはじめまして、赤龍帝の兵藤一誠」

 

 その輝きの中心にいた青年と見間違えるほど端正な顔立ち、豪華すぎる白いローブを身に纏う頭部に天輪を浮かばした12枚の黄金の翼を展開する天使。

 しかも今の名前から察するに……

 

「天使の長をしており、周りからは大天使などともてはやされています」

 

 柔和な笑顔でそう言うその人は、すごい大物だった。

 ―・・・

 俺と朱乃さん、そして今さっきあったミカエルさんは今、本殿内の大広場にいる。

 既にミカエルさんの翼やらは消えていて、ただ未だに頭の天輪は消えていない。

 そして俺達は座敷に座っていて、三人とも正座をして俺と朱乃さんはミカエルさんと対面している。

 

「……ではまず最初に少しお話しましょう。先日、あなたはコカビエルの件で教会側の紫藤イリナとゼノヴィアを御救いなさってくださったそうなので」

 

 するとミカエルさんは俺に頭を下げた。

 

「ありがとうございました。おかげで聖剣は返ってきました。誰も死んでいないことに私は感謝したい」

「…………それよりも俺はどうしてもあなたに言いたいことがあります」

 

 俺はその場に立ち上がる……そして俺は無礼を覚悟に、ミカエルさんの胸倉を乱暴に掴んだ。

 

「い、イッセー君!?」

 

 朱乃さんは俺に制止の言葉を掛けるが、でも俺はこの無礼を止めるわけにはいかない。

 

「無礼覚悟で、俺は処罰されることを覚悟で今行動しています。……だけど言わせてもらう。あんたたちは何でアーシアを異端者扱いした!!!」

「……ッ」

 

 俺がその言葉を言い放つと、ミカエルさんは苦虫を噛んだような顔になる。だけどそんなんじゃあ止められない。

 

「散々アーシアを担いで、悪魔を癒しただけで彼女を追放した! それが!! あんたら天使がすることなのかよっ!!!」

 

 ……本来はこんなこと、やってはいけない。

 だけど俺はその時、わざと自分の自制心を消し飛ばして―――ミカエルさんを、殴った。

 

「……あなたがアーシア・アルジェントを助けたという報告はありましたので、覚悟はしていましたが―――やはり痛いものですね。純粋な怒りがこもった拳は」

「……罰は後でいくらでも受けます。でも応えて貰います。どうしてアーシアが悪魔を治療しただけで異端扱いしたんです」

 

 俺はミカエルさんと同じ目線でそう問いかけた。

 

「…………神の不在のことはもう知っているでしょう。ですが神の不在が公になれば混乱が訪れ、どうなるかわからなくなる。ですから我々は神の不在を隠し通そうとしました」

「……つまり天使側は神の創ったシステム、すなわち聖と魔のバランスを脅かす存在を放っておけなかったってことですか?」

「ええ。アーシア・アルジェントの”聖母の微笑”(トワイライト・ヒーリング)は人どころか悪魔まで癒してしまう神器です―――故にこれの存在は神の不在を気付かせてしまうものだと言うことで我々は彼女を教会から追放しました」

 

 ……ミカエルさんは淡々とそう言うと、頭を深く下げた。

 

「ここでは謝りはしません。あなたに謝っても納得はしませんでしょうから。……直接、アーシア・アルジェント、そして悪魔となってしまったゼノヴィアに私が謝ります」

「……ならいいです。それに俺は感情的にあなたを殴った―――処罰は受けるつもりです」

「いえいえ。ここで私を殴らなければ私は貴方にこれを授けようとは思いませんでしたので……」

 

 ミカエルさんは殴られたことを気にしていないのか、掌に黄金の魔法陣みたいなものを展開させて、そこから光に包まれた物体を出現させた。

 ……形的には剣か?

 

『……これはまさか、”龍殺し”(ドラゴンスレイヤー)か?』

 

 ”龍殺し”(ドラゴンスレイヤー)……龍を殺すために作られた剣。

 でもこの剣から俺を殺すような感覚がしないんだけどな。

 そうすると、剣を出した張本人であるミカエルさんが何故か驚いたような声を出していた。

 

「ま、まさか……アスカロンが共鳴しているというのですか?」

 

 するとその聖剣は俺の元に浮遊してきて、そして静かに俺の手元にその柄を握らせようとしてきた。

 

「驚きました。もともとその剣……聖ジョージが用いたとされる聖剣アスカロンは和平の証しとして貴方に授けようとしたものですが」

「アスカロン……有名な聖剣を何で俺に? しかもこいつは……」

 

 アスカロンは聖なる光を出しながら俺の手の中にある。

 聖剣は確か悪魔では持つことすらできないし、聖剣の因子がない限り使うことすら出来ないはずだ。

 

「一言で言いましょう―――兵藤一誠、貴方はその聖剣アスカロンに認められたようです。ドラゴンの力を持つあなたなら使えるはずです」

「俺がアスカロンの担い手ってことですか?」

 

 俺は手の中にある聖剣アスカロンを軽く振るうと、その瞬間に衝撃波が辺りを襲った。

 ……軽く振るっただけでこの威力か。

 

「……元々、アスカロンはデュランダル同様、使い手を選ぶ傾向があります。ですがその聖剣は誰にも目を向けず、今まで真の力を発揮することはありませんでした……。ですがここにきて真の所有者が見つかったとあれば、その聖剣も本望でしょう」

「……ありがとうございます、この聖剣はありがたく頂きます」

 

 俺はアスカロンをその場に置いて、ミカエルさんに頭を下げた。

 

「頭をおあげください。それにそれは和平の象徴です。あなたに与えたのは貴方が赤龍帝だからです」

「俺が赤龍帝だから?」

「ええ……。三つの勢力が互いに手を取り合ったことは一度だけありました。そう―――二天龍である赤と白のドラゴンを倒したときのことです」

 

 ……ドライグとアルビオンが三大勢力の戦争に水を差し、その身を滅ぼされた時のことか。

 

「そして今回、我々が会談をしようということになった原因、それは兵藤一誠くん、あなたです。故に私は貴方にそれを授けようと思いました。再び我々が手を取り合えるきっかけとなった貴方に」

「……わかりました」

 

 するとミカエルさんは聖剣アスカロンに手をかざすが、アスカロンはそれを拒絶するように眩い光を放った。

 

「おやおや、よほど新しい宿主を気に入ったようですね。兵藤一誠くん、その剣は貴方の力になってくれるでしょう……。これ以上の修正は必要ないでしょう」

 

 たぶん悪魔の俺が使えるようにするための修正のことだろうな……聖剣アスカロンか。

 剣は使えなくもないけど、普段から持っているのは面倒だな。かといってゼノヴィアのように異空間に閉じ込めるのもどうにも気が引ける。

 

『相棒、ならばその聖剣を籠手と合体させるのはどうだろうか? それならば拳にドラゴンスレイヤーの力を付与することも出来る』

 

 ……ドラゴンが龍殺しのスキルを持つか。

 でもその意見には中々見所がある―――やってみる価値はあるな。

 俺は目を瞑り、籠手を出現させて聖剣アスカロンに籠手の宝玉を当てて意識を集中させる。

 アスカロンから流れる聖なる波動とドラゴンの波動を同調させ、新たなる神器の進化を願った。

 神器は所持者の想いで変わる……そして次の瞬間、今までそこにあったアスカロンは突然姿を消した。

 

「……驚きですね。それの助言はしようと思いましたが、先にされるとは」

「流石イッセー君ですわ」

 

 ……結果的には籠手とアスカロンの同調には成功した。

 今、俺の籠手の中にアスカロンが収納されていて、たぶん俺の思うがままに出すことが出来るんじゃないかな?

 そして俺は籠手を手から消して、もう一度ミカエルさんを見た。

 

「私はそろそろ帰ろうと思います。そしてあなたとの約束通り、あの二人には償いを果たすつもりです。・・・・・・ではまた、会談の時にお会いしましょう」

 

 そう言ってミカエルさんの体が光に包まれ、一瞬の閃光が輝いたと思った次にはミカエルさんの姿はどこにもなかった。

 ―・・・

「はぁ……イッセー君がミカエルさまを殴った瞬間はどうしようかと思いましたわ」

 

 ミカエルさんが去った後、俺は本殿の隣にある小さな家のような建物に案内されて、そこで朱乃さんにお茶を御馳走して貰い、そして今は朱乃さんと対面している。

 

「ですけど、それがイッセー君ですわね。……誰かのために怒り、助ける。私とお母様を助けてくれた時だって、全く関係ないのに何度も立ち上がって……ボロボロになっても、諦めることなく」

 

 そう言うと朱乃さんの瞳から一筋の涙がこぼれおちた。

 

「……朱乃さん。確かに関係はなかったですけど、でも俺は見捨てることなんかしません―――教えてくれませんか。あの時、何があったのか」

「……はい、そのためにイッセーくんをここに通しました」

 

 ……すると朱乃さんは巫女服を脱ぎ始める。

 俺は慌てて目線を外そうとするが、俺はあるものを見てそれが出来なくなった。

 ―――朱乃さんの背中に生える、悪魔の翼とそして―――堕天使の黒い翼。

 

「……あの時、私とお母様を襲ったのはお母様の家の親戚の者ですわ。お母様は神社の娘、そしてそんなお母様はある男と交わった。その男は堕天使でそしてそれから生まれたのが、私ですわ」

「……つまり朱乃さんは」

「ええ、私は堕天使と人間の子供―――そして今は悪魔。だから悪魔と堕天使の翼を持つ、忌むべき存在……。そうして私とお母様は命を狙われました」

 

 ……朱乃さんの表情は悲しみに覆われていた。

 

「……私の父の名はバラキエル。堕天使の幹部をしている男ですわ」

「バラキエル。……有名な堕天使です」

 

 アザゼル、シェムハザ、コカビエル、バラキエル……堕天使のトップとして有名で歴史に名を残す堕天使だ。

 俺は朱乃さんがそのバラキエルの娘ということに素直に驚いた。

 ……だけど朱乃さんの表情は未だに暗いままだ。

 

「……私もお母様もイッセー君に助けられました。ですが、私は悪魔になりましたわ」

「どうしてですか?」

「……許せなかったんです、父であるバラキエルを」

 

 ……朱乃さんの目はバラキエルにひどい憎しみを抱いているようにギラギラとしていた。

 

「……イッセー君が私たちを助け、お母様は瀕死から何とか持ち直しましたわ。そしてお母様は私を連れて家から無理に体を動かし、そしてまた倒れた。あの時、お母様には妖刀による呪いが掛けられていたんです」

「……知っています。俺は朱乃のお母さんを完全に助けることは出来なかったから……」

「イッセー君は自分を責めてはいけませんわ。……ここから話すことはただの私の逆恨みかもしれません。それでも……聞いてくれますか?」

「……ええ。何だって、受け入れます」

 

 朱乃さんはそう言って話し続けた。

 

「お母様は現在、堕天使が管理している医療施設にいますわ。日本の九州地方にある病院で、空気が綺麗な場所ですわ」

「……堕天使が?」

「そうです。……父が私たちの元に場に到着したのはそれから1時間後のことでした」

 

 一時間……そこまで遅れてきたら二人は―――

 

「……もし、イッセー君がいなかったらお母様も私も死んでいました。なのにあの人が来たのが1時間後……。正直、私は父の事を父と見れなくなりました。ただお母様と交わったせいでお母様は家の者に殺されかけ、消えない呪いを受けてしまった―――許せません。許しては、いけないんですッ!!」

「朱乃さん……」

 

 俺はそう涙を流しながら話す朱乃さんの頬に伝う涙を指先で拭いながら、朱乃さんを抱きしめた。

 

「……やめて。わたしは穢れています。それに堕天使の翼はイッセー君を殺したあの堕天使と」

「はっきり言います。レイナーレの翼と朱乃さんの翼、ぜんぜん別物ですよ」

 

 俺は朱乃さんの目をしっかりと見てそう言った。

 

「あいつは欲望だけでアーシアを傷つけ、殺そうとした……そんな穢れた奴です。ですけど朱乃さんは―――優しいです」

「やさ、しい?」

「ええ。俺にとっては朱乃さんは堕天使とか、そんなの関係なくすごく優しくていい先輩。ただ昔に縁があって、最近それが明らかになってもっと仲良くなっただけの……。ただの女の子です。だから自分を穢れた存在とかいわないでください。もし望むなら、俺がバラキエル。朱乃さんのお父さんをぶっ飛ばしますから」

 

 俺がそう言った瞬間、朱乃さんが俺の胸に飛び込んできた。

 俺はそれを咄嗟に受け止めて……そして俺に抱きついてくる朱乃さんの小さい体を抱きしめた。

 

「……何があっても、私は父を許しません。私が悪魔になったのは、父に対する戒めなんです」

「……分かりあうことは出来ないんですか?」

「それが出来たとしても、もう私の優先順位は変わりませんわ。仮に父とイッセーくんがピンチなら、私はイッセー君を真っ先に助けます―――それぐらいの想いです」

 

 ……それは悲しいな。だけど朱乃さんの決心は消えないだろう。

 でも―――バラキエルと朱乃さんのお母さんが交わったことを否定するのは、自分の存在を否定することになってしまう。

 それだけは駄目だ。

 それに……むしろこんな風に思われるまで娘を放っているバラキエルにも、俺は問題があると思う。

 事情があったとしてもそれからしっかりと朱乃さんを想っていれば、こんな風に嫌われることもなかったはずだ。

 事情は知らないけど、俺も現状ではバラキエルには良い思いは抱かないな。

 

「朱乃さん……今はまだ無理かもしれません。ですけど俺はいつか、朱乃さんのお母さんの呪いだって治してみせます」

「……もしイッセー君みたいなことを父が言っていれば、ここまで嫌うことはなかったかもしれませんわ」

 

 朱乃さんはぼそりとそう呟いた。

 そして数分経つと、顔をばっと上げた。

 

「……決めましたわ。もう譲りません」

 

 すると朱乃さんは――――――体を前に乗り出して、顔を俺に近づけてきてそして……

 俺の唇と朱乃さんの唇が重なった。

 

「あ、朱乃さん?」

「うふふ……ようやく念願のイッセー君とのキスですわ。そういうことですので、部長―――イッセー君は私のものですわ」

 

 朱乃さんがいつもとは違う真剣な表情で部屋の襖の方を向いてそう言った。

 するとそこには……部長の姿があった。

 

「……朱乃、今すぐイッセーから離れなさい」

「嫌ですわ。もう決めましたので……。イッセーくんへの想いは譲りませんので、お帰りくださいませ―――リアス」

 

 …………部長と朱乃さんの今すぐにでも戦いを始めそうな雰囲気が俺の肌に伝わる。

 あれ? どうしてこうなったの?

 

『主様……女という個体は時にして戦うことが必要なんです』

『相棒、女が怖かったらいつでも俺の元で慰めてやろう!!』

 

 るっせぇよ、ドライグ!

 っていうかこれは本気で洒落にならないくらいの殺気が交差してるぞ!

 

「朱乃、あなたは主である私にそう言うのね……」

「主や下僕は関係ありませんわ。下僕は下僕同士、仲良くしますので主はお下がりくださいませ」

「あら。主が下僕を可愛がるのは当然だと思うけど?」

「貴方の場合はただの邪な感情が混ざっているでしょう、リアス」

 

 やばい、今すぐにアーシアと小猫ちゃん、ギャスパーを可愛がりたい!

 癒されたいと思う中で殺気が更に大きくなる。

 俺はこの日、学んだ。

 ――――――女の人は怒らせてはダメ、じゃないと死んでしまうということ。

 その日、俺は教訓を得たのだった。

 ……ちなみにこの二人はまた喧嘩を始め、今度は神社の上空で魔力を介した喧嘩をして、仲介にきたサーゼクス様にきついお叱りを受けました。

 ―――そしてその日の夜、様々な力が交差する三すくみの会議が始まるのだった。


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