ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~ 作:マッハでゴーだ!
今、俺こと兵藤一誠の前には凄い美少女がいる。
アーシアと双壁を成すような綺麗な金髪の髪に赤い瞳、ショートボブ位の髪の毛の長さにきっちりと切り揃えられている。
それは俺が初めてアーシアと出会った時と同じくらいの衝撃だった。
あれか? 僧侶は金髪の美少女と相場が決まっているのかな?
俺は何となくそう思った。
ちなみにその子は今、白い毛布にくるまって顔だけ俺の方を見ているという状況下である。
「イッセー! どうして突然入っていくの!?」
俺に遅れて部長や他のメンバーも、その可愛い部屋の中に入ってくる……でも何で部長はそんなに大慌てなんだろう。
別に新しい眷属の仲間と顔合わせだけで……そんなにこの子の力は恐ろしいものなのかな。
「あうぅ!! 人が増えたぁぁぁぁぁぁあああ!!!?」
すると突然、その子は毛布から飛び出て近くにあった大きめのダンボールの中にダイブした……って段ボール!?
しかもダンボールの穴から見える赤い眼光が何となくホラーな感じがして怖い!
でもそれっきりその子はダンボールから出てこなくなった。
「部長……一応説明してもらってもいいでしょうか」
「分かってるわ。そのためにここの封印を解いたもの。でもまさかイッセーが突撃するとは思わなかったわ」
そりゃあ、あんな悲鳴をあげられたら敵襲と疑うしかないだろ?
部長が少し呆れたような表情になったが、俺の要望に応えてくれて話し始めた。
「この子は私の『僧侶』のギャスパー・ヴラディ。転生前は人間と吸血鬼のハーフだったの」
「……ヴラディ?どこかで―――」」
俺はそのヴラディという名に聞き覚えがあって少し考える……と、そこでドライグが俺に話しかけてきた。
『相棒。ヴラディは吸血鬼の一族の一つの名だ。確か相棒は転生前に吸血鬼と遭遇したことがあるだろう?』
……そういえばあったな。
確かあれは、はぐれの吸血鬼が人里に出て若い女性を連れ去って命を吸い取って力の糧にしていた時のことだな。
俺はたまたまその吸血鬼と遭遇して、そして更にその吸血鬼を追ってきた吸血鬼……つまりはぐれを殺しに来た吸血鬼の女性が確か”ヴラディ”と名乗っていたはずだ。
なるほど……あの一族の末裔がこのギャスパーってことか。
とりあえず今はあの吸血鬼の事を考える時ではないな。
「……話をつづけるわ。それでこの子を封印していた理由の一つはこの子の持つ神器が理由なの」
「……神器?」
俺は部長が言った神器のワードに反応する。
この眷属には祐斗のようなレアな神器を持つ者だっているし、しかも変異の駒が必要になるほどの神器か。
「そうよ。このギャスパーの神器は
……驚きだな。
その神器は俺も知っている……使い手によれば全ての時間を否応なく停止させる反則級の神器であり、神滅具にも近い力を持つ神器。
それが
それなら変異の駒が必要な理由も納得できる―――駒価値が3つの僧侶の駒じゃあ転生はまず不可能だ。
しかもギャスパーは吸血鬼の血もあるなら才能も十分あるだろうな。
見た感じ、どうにも強い力を感じるし……ダンボールの中に入って震えているけど。
「でもどうしてその子はダンボールの中に蹲っているんですか? さっきまではベッドで毛布に包まってただけなのに……」
「それは私も驚きよ。初対面のイッセーが入ってきてこの子が面と向かってあいさつなんかできるわけもないのに……」
部長が何やらぼそぼそと呟いているけど、その間に朱乃さんがダンボールの中に入っているギャスパーに話しかけに行った。
「もうお外に出られるんですよ? さぁ、私たちと一緒に外に出ましょう?」
あ、朱乃さんの声音がすごく優しい!
普段のドSの悪戯っぽい声音じゃなくて母性を軽く感じるような優しい声音だ!
「い、嫌ですぅぅぅぅぅ!! ここがいいですぅぅぅ!! 外に出たくない、人に会いたくないですぅぅぅ!!」
……馬鹿な、あの朱乃さんの優しい声音を振り切るだと!?
俺は驚いているが、それは同様にアーシア、ゼノヴィアもそうであった。
でも祐斗と小猫ちゃんは何か納得している表情をしている。
俺はどういうことだと疑問がっていると、部長が俺の隣に来て耳打ちしてくれた。
「あの子は凄まじいほどに対人恐怖症なのよ。もちろん理由はあるのだけれど、こんな感じで外に出ることを嫌がってるの」
「……そうですか」
対人恐怖症か…・・・そんなのになる理由なんか数えるぐらいしかないな。
っていうか神器を持つものの共通して言えることだ。
人とは違う違う力を持った者は周りから異質がられ、怖がられ、遠ざけられる。
俺が知っている中ではそれで人から拒絶され、人間不信にまで至った奴なんかもいた。
言ってしまえば神器を持つ人間が不幸になるっていうジンクスが実際に存在している……そんなバカみたいなジンクスを俺は何とかしたい。
とにかくこのギャスパーも同じなんだろうな。
ここまで人に恐怖するのは普通じゃない。
「っていうか! な、何で人が増えているんですか?」
するとダンボールの中から可愛らしい声が聞こえる。
そっか……この子は俺やアーシア、ゼノヴィアが部長の下僕になったことを知らないのか。
「ここにいる兵藤一誠、アーシア・アルジェント、ゼノヴィアはそれぞれ私の下僕になった眷属悪魔よ。ギャスパー、あなたも仲良くしなさい」
「…………」
するとその赤い眼光は俺の方を窺っていた。
「ギャスパー、お願いだから外に出ましょ? もう貴方はここに封印される理由はないのよ」
「い、嫌ですぅぅぅ!! 外なんか怖いだけなんです! 外に行ったって皆の迷惑になるだけですぅぅぅ!!!」
……重症だな、これは。
一体どれだけ怖い目に遭えばここまで外に恐怖するんだろうな。
―――仕方ないな。
「部長、ここは俺に任せてください」
俺は部長に断ってギャスパーが隠れるダンボールの前まで歩いて、俺はギャスパーの前でしゃがみこむように屈んだ。
「改めてはじめましてだな。俺のことはイッセーって呼んでくれて構わない。代わりに俺はお前をギャスパーって呼ぶことにするから」
「……知っていますぅ」
『――――――ッ!!?』
その場にいる俺以外の人は全員が驚いた。……たぶん、俺の言葉に反応したってことにかな?
そこは俺も気になっているところだ……っと、そこでギャスパーはダンボールから顔を出した。
「ま、前のレーティング・ゲームをこの部屋から見てました……だから先輩のことは知ってますぅ!」
「……じゃあ話が早いな。この部屋から出ようぜ? 外が怖い理由は俺には分からないけどさ」
俺はギャスパーに手を差し伸べるが、でも一向にその手が握られることはない。
「い、嫌ですぅ!! 外に出ても傷つくだけですぅ!! それならここで一人でいる方がいいですぅぅぅぅ!!」
「……外に出て誰かに傷つけられるって思ってんなら、悪いけど強硬手段をとらせてもらうぜ」
俺はそう言うとギャスパーをダンボールから無理矢理、手を引っ張ってダンボールから出した。
……神器はその所有者の精神状態で力を暴走させたり、発動させたりする。
こいつの邪眼の場合は間違いなく暴走の効果は決まっているはずだ。
―――次の瞬間、その空間の時間が止まった。
周りは時間が止まったようにモノクロの風景となって、その中でギャスパーは俺の手から離れて逃げようとする。
たぶん、俺も停止していると思っているだろうけど……
「その邪眼は相手との力の差が圧倒的だった場合、その効果は成さない。つまり俺はお前の神器が効かないってことだ」
「え……僕の力が、効いてない?」
するとギャスパーは目を見開いて信じられないような顔をして驚いていた。
俺以外の眷属は確かに時間が止まって動けなくなっているからな。
「全ての事象を停止させる事の出来る神器、確かに恐ろしいと感じる人もいるだろうな……大方、お前が恐れているのはそれか?」
「……そうですぅ! 僕の力は人を傷つけてるだけですぅぅぅぅ!! だから僕は……」
「そう思っているなら、俺がお前の面倒を見てやる。それだけ外が怖いなら外の良いとこを教えてやるよ」
俺は掌でギャスパーの頭をくしゃくしゃと撫でた。
っていうか中々、ギャスパーの停止が消えないな。
そう思っているうち周りの停止された空間は解除されていき、他の眷属も動けるようになった。
「……ギャスパー、貴方はまた力を暴走させて……」
「―――部長、一つお願いがあるんですけど」
俺は未だに混乱している部長や他の皆をさて置いて、部長にあるお願いをした―――・・・
―・・・
あれから部長に聞いた話では、ギャスパーは吸血鬼にも関わらずデイウォーカーと呼ばれる日中を活動できる特別な血を継いでいるらしい。
しかも魔術的な才能もあり、吸血鬼の才能もあるらしく、才能だけで言ったら眷属の中でもトップクラスに近いらしい。
ちなみに後から聞いて驚いたけど、ギャスパーの性別は男か女か分からないらしい……部長は俺にそう教えてくれた。
そして今、部長は朱乃さんと祐斗を御供にして、今は三すくみの会議の打ち合わせに行っているらしく、俺は部長にあるお願いをして、そして今、俺は夜の学校の校庭にギャスパーと二人でいた。
怖いのかギャスパーはダンボールの中に入ろうとしたけど、俺は無理矢理体一つで出てこさせた。
……手元にはダンボールがあるけどな?
―――俺が部長にしたお願い。それは少しの間、ギャスパーと二人きりにしてほしいというものだった。
「少しは落ち着いたか、ギャスパー」
「うぅぅぅぅ……やっぱり外は怖いですぅぅぅぅぅ!」
……まあ少しはマシになったか。
「人が怖い割にはどうして俺とは普通に話せているんだ?」
俺はギャスパーに最も疑問だったことを投げかけた。
「……優しそうだったから、不思議と平気だったんですぅ。僕を傷つけない、そんな気がして―――不思議と傍にいても怖くなかったんです」
……不思議と傍にいて怖くない、か。
「……あのレーティング・ゲーム。僕は部屋からずっと見てました。それでその……い、イッセー先輩の戦っている姿はずっと見てましたですぅ!」
「ライザーとの戦いか。まあ最後は結局、ゲームは負けちまったけどな」
最後にライザーが部長に攻撃をして、そして負けたあのゲームのことを思い出す……まああの後にライザ―をぶっ潰したけどな!
「見ていて思ったんですぅ…・・・こんなすごい人がいて、僕なんかよりも才能があって僕なんかよりも遥かに強い人がいるなら僕なんかいらないなって……そう思ったんですぅ」
「……悪いけど、俺に才能があるって言うのは止めてほしいな。俺は今の自分を才能の一言で言いきってほしくない」
俺はそうギャスパーの一言を切った。
ギャスパーはそのことに少し驚いているようだった。
「俺はさ、本当に昔から死を覚悟するような修行をしてきたんだ。人一倍、誰よりも才能がなかったから」
「さ、才能が、ない?」
「そうだ。それに引き換えギャスパー、お前はすごい才能を持っている。ただいまは色々な事に対する恐れと力の制御が出来ないだけだ」
「……イッセー先輩は、どうして強くなろうとしたんですか?」
するとギャスパーから、今まで何度もされた質問が飛び込んできた。
……俺が兵藤一誠になる前から何度も問いかけられ、そして一度も変わらなかった答え。
「―――守りたいから。助けを求める人、仲間を守りたいからだよ。そしてそれはお前も例外じゃない」
俺はギャスパーの赤い瞳を真っ直ぐと見つめた。
「ギャスパー、お前が外を怖いと思っているのには理由があるだろうな。怖いならまずは俺を頼ってくれ。先輩として、仲間としてギャスパーを絶対に守ってやるからさ!」
俺はニカっと笑ってギャスパーにそう問いかけると、ギャスパーは少し瞳に涙を溜めながらにこりと笑った。
その顔は月光に照らされて酷く幻想的で美しく、俺はそこで疑問をギャスパーに聞いてみた。
「そう言えばギャスパーの性別ってどっちなんだ? 正直、俺からしてみれば凄い可愛いし、女子の制服も凄い似合ってるから女の子にしか見えないんだけど……」
「……僕は半分人間かどうかはわからないですけどぉ、一応、男と女、どちらにでもなれるんです」
「……両性ってことか?」
「見た目は同じなんです。ただ、その……」
するとギャスパーはモジモジしながら下をうつむいて顔を真っ赤に染めていた……うん、間違いなく美少女の反応だ。
普通に可愛い。
「そ、その……せ、生殖器はどちらでも好きな方になれるんですぅ……。僕はずっと女の体でいますけど……」
「……なら一応、女扱いでいいのか?」
「は、はいぃぃぃ!! 子供だって産めますからぁ!!」
……それは聞いてないんだけど、少しは元気になったからいっか。
にしても両性、男にも女にもなれるのか。
確かに男でも女でも見た目は変わらないから見分けはつかないけど。
って今さらだけどギャスパーが恥ずかしがっていたのは生殖器のことか!
ああ……なんかギャスパーもアーシアとか小猫ちゃん同様、守りたくなるオーラがあるよな。
俺はあれなのか? 保護欲を掻き立てられる存在が好きなのか?
『確かに主様が癒される対象は色々と不完全な守りたくなるような雰囲気を持ってますね』
するとフェルがそう俺に語りかけてきた……そう言えばずっと静かだったな。
『ええ。少しばかり気になることがありまして、神器の奥に行って色々と調べていたんです……。あまり良い結果は出ませんでしたが』
気になることか。
何かは知らないけど、また今度教えてくれ……っと今はギャスパーだ。
「とりあえずギャスパー、しばらくは俺の悪魔家業の付き添いをして対人恐怖症を克服しよう」
「は、はいぃぃ!! イッセー先輩の期待にこたえたいですぅぅぅ!!」
「お、良い意気込みだ! ……ところでギャスパー、ずっとあの部屋にこもっていたなら、血の摂取はどうしてたんだ?」
吸血鬼といえば血を飲むことを欲する種族だからな。
でもギャスパーは俺の質問に顔を青ざめていた。
「ぼ、僕は血が嫌いなんですぅ……あんな生臭いもの、嫌いですぅ! 普段は一週間に一度、輸血パックを飲んでいるだけなんですけど……」
「……半分人間の影響か? ……じゃあ俺の血でも飲んでみるか?」
俺はそう言うと自分の制服のシャツのボタンをいくつか外して首をさらけ出した。
ドライグが転生前、吸血鬼と遭遇した時に教えてくれたけど、赤龍帝の力を宿した者の血は、飲めば力を増すことが出来るらしい。
特に神器の成長にはもってこいという事らしい。
「赤龍帝の血は神器の成長に最適だ。それでお前の邪眼の暴走も幾分マシになるだろうからな」
「い、いいんですかぁ? 確かに先輩からはあり得ないことに、僕でも反応するほど良い匂いですけど……」
「可愛い後輩のためならいくらでも吸わしてやるよ」
「……なら」
するとギャスパーは俺の首筋に顔を寄せると、自然と俺との距離が近くなる。
鼻息が首筋に辺りに当たってかなりくすぐったいけど、次の瞬間に俺の首筋に少しだけ痛みが走った。
……血が吸われているんだろうな。
力がほんの少し抜けそうになるけど、まあ大丈夫だ。
「…………ギャー君だけ良い思いしておかしいです」
「ああ、その通りだな……少し新顔のくせに調子に乗っているな」
「うぅ……私でもイッセーさんのあんなとこ、触れたこともないです!」
……俺は声が聞こえた方向を目だけを向けてみると、そこには仁王立ちして凄い怒った表情をしている小猫ちゃん、ゼノヴィア、アーシアの姿があった!
もしかしてずっと様子を見ていたのか!?
そして数秒経つとギャスパーは俺の首筋から口を離し、溶けそうなくらいの朦朧とした頬を赤く染めた表情で、俺をとろんとした目つきで見ていた。
「不思議ですぅ……。イッセー先輩の血は、全然生臭くなくて、僕を暖めてくれるようですぅ。先輩、もっと、ください……。先輩の熱いの、もっとくださいぃ……」
ギャスパー!? お前のその発言は傍から聞いたら凄い卑猥に聞こえるのは気のせいか!?
そしてまだ近くにいる修羅に気付いていないのか!
「ぎ、ギャスパー? 少しあっちを見ようか……」
「あっちぃ? …………ひっ!!!?」
ギャスパーはもう一度俺の首筋に噛みつこうとしている最中、目線を小猫ちゃんたちがいる方向に向けると、そこには先ほどよりも激怒している三人の姿があった。
「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ……この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する―――デュランダル!!」
ゼノヴィアが呪文を呟き、そして空間を切り裂いて聖剣デュランダルを発現している!!?
ちょっと待って、普段は異空間に閉じ込めなければならないほどの暴君であるデュランダルを何で今開放しているんだ!?
って目がマジだ……これは本気で―――ギャスパーが殺される!
「…………逃がしません。へたれヴァンパイアの分際でッ!」
小猫ちゃんも何かマジで怒ってる!?
手にオープンフィンガーグローブをつけて、普段の戦闘態勢でじりじりとギャスパーの元まで近づいてる!
いや、俺とほとんどゼロ距離にギャスパーはいるから、俺達の元に近づいているの間違いだ!
って本気でヤバい!
そしてギャスパーの錯乱状態もヤバい!
「いやぁぁぁぁぁぁあああ!!!? 聖剣デュランダル使いに殺されるぅぅぅ!! 小猫ちゃんもいじめるぅぅぅ!!」
そう言った瞬間、ギャスパーは俺の手を引っ張って走り出した……俺まで走らしてどうする!
そして分かっているのだろうか……俺を連れているという恐ろしさを。
「ほう……それは私に対する挑戦か。いいだろう、私は小さいころよりヴァンパイアと相対してきた―――私の気持ちに応えろ、デュランダル!!」
「……イッセー先輩から貰った瓶、使います!」
うっそぉぉぉ!?
もしもの時のためについ先日、小猫ちゃんに渡した俺の倍増の力を譲渡した瓶を小猫ちゃんは割って、小猫ちゃんは力を何倍にも倍増した!
ゼノヴィアはかつてないデュランダルの輝きを露わにして、剣を振りまわしている!
アーシアはおろおろしてる! それがすごい可愛い!
ってここでギャグを挟んでいる場合じゃないだろ、俺!!
ギャスパーはそのまま校舎に入ると、すごい速度で校舎の中を叫びながら逃げ回った。
「っと、いて!」
俺はその途中で血を吸われ過ぎたのか、力が抜けてギャスパーに振りほどかれる……にしてもギャスパーの奴、すごい速度だ。
「だ、大丈夫か、イッセー!? 首筋に血の跡が…………ってキスマークぅぅぅ!!!?」
すると匙が近くにあった生徒会室から出てくるや否や、俺に近づいて俺の心配をしたと思いきや、俺の首筋を見てそう叫んだ!
嘘だろ、キスマークがついてんの!?
「いや、イッセーだから当たり前なのか? ……とりあえずイッセー、廊下を走ると危ないからな―――って新しい顔だな。あれが噂の僧侶か?」
すると匙はすぐに切り替えてそう尋ねてきた。
「ああ。ただ今、少し他の部員を怒らせてしまってな……それで今までで一番強い輝きを放つデュランダルを振るうゼノヴィアと、力が何倍にも増している小猫ちゃんに追いかけられているんだ」
「ほう……おお、すげえ可愛いじゃん!」
「でもあれ、男でもあるらしいぜ?ギャスパー曰く、両性らしい」
俺が匙にそう言うと、匙は驚いていたけど俺は校舎を出て次はまた校庭に出ている三人を見た。
ゼノヴィアが聖なるオーラを纏った斬撃をギャスパーに放った!
小猫ちゃんも凄い拳を放ちまくってる!
……でもギャスパーの奴、あれを全部速度で避けてやがるな。
―――流石にそろそろ仲介に行くか。
「とりあえず俺はあの三人を止めてくる……ってアーシアも来たみたいだな」
俺は廊下の方から遅れてやってきたアーシアの姿を確認すると、アーシアは一目散に俺の方に近づいてきた。
「イッセーさん! 血が出ています、今すぐに治療を……治療、を…………」
……アーシアが俺の首筋を見た瞬間に表情を失った。
―――あれ、これ詰んでるじゃん?
「い、イッセーさん……反対の首筋を出してください!!」
「は、はいぃ!!」
俺はアーシアの迫真の迫力に負けて黙って反対の首筋をさらけ出す……っとそれと同時にアーシアは俺に抱きついて、首筋に唇を重ねた!
「あ、あ、アーシア!?」
「んん……」
なんかすごい勢いで俺の首筋を吸ってるぅぅ!?
アーシア、何でそんな大胆なことをするんだよ!?
君はそんなことをする女の子じゃないだろ!
横の匙も表情を失っているよ、目の前の出来事を見て!
……少し経つとアーシアは俺の首筋から唇を離した。
「……これでおあいこです!」
「―――やばい、これどうしよ……」
俺は真剣に、首筋の両側に出来たキスマークを見て青ざめるのだった。
ちなみにギャスパーが作った首筋の血はアーシアが治療してくれて、そして俺は首元を隠しながらギャスパーと小猫ちゃん、ゼノヴィアを止めに行ったのだった。
―・・・
「ほう! ひきこもりの癖に中々の身のこなしだ! だが私は激怒しているぞ!」
俺とアーシア、そして呆然としている匙が校庭に来ると、そこには本気で剣を振るうゼノヴィアと涙目で逃げ回るギャスパーの姿があった。
ちなみに匙は無理やり連れてきた……っていうよりあまりにも呆然として面白そうだっので連れてきただけだ。
匙も先ほどのアーシアの行動は衝撃的だったんだろうな。……まあ普段はアーシアは学校では清純、穢れを知らない真っ白な子という評価を受けているくらいだからな。
ただ一つ、アーシアは俺のことで暴走するけど……
「……へたれヴァンパイア」
小猫ちゃんは恨めしそうな視線でギャスパーに近距離で攻めている!
っていうか動きがいいな、二人とも!
……まあそんな二人から逃げているギャスパーも驚きだけど、流石に俺はそろそろ止めようと思って、既に胸に装着されていたブローチ型の形状の神器、
『Creation!!!』
俺は少し前から溜めていた十数回分の創造力を半分に分けて、同種の神器を二つ創造した。
それは俺の腕の手の甲で輝き、次の瞬間にそれは鎌のような形状になった。
……一度、祐斗と一緒にはぐれ悪魔と戦った時に創造した
こいつはその刃で切れば切るほど相手の動きを不能に近づける神器で、しかも今回はかなり大きな創造力を使って作ったから少し能力を変化させた。
「そろそろ止めておけよ、ゼノヴィア、小猫ちゃん」
俺は両手に持つ二つの白銀の鎌を二人に向ける形で、ギャスパーとゼノヴィア、小猫ちゃんの間に割って入る。
「……イッセー、それは創った神器か? まあそれよりもそこをどいてもらうぞ」
「…………イッセー先輩、どいてください」
「それは少し困るな……。力づくでも止めるぞ?」
俺達の間に何とも言えない空気が流れる。
俺は一触即発になりそうな瞬間、鎌の刃に宿る力を解放する!
それは刃は粉々に砕け、その砕けた刃があった部分から白銀のオーラのような刃が光輝いている力のことだ。
流石に仲間相手に鎌で何回も切りつけることは出来ないからな……このオーラは人体には直接傷は付けないが、この光が通過した対象は通過した分だけ不能に近づく。
ただ新しい力だけに不能に出来る規模……刃の大きさが小さくなってしまったのが難点だな。
「―――ッ! 面白い……。私はいつかイッセーと手合わせしたいと思っていたのでな……ちょうどいい!」
するとゼノヴィアは俺に向かってデュランダルを向けて特攻してくる。
ゼノヴィアはとにかく分かり易い。
「私はイッセーに決闘を申し込む……私が勝ったら即子作りだ。子を身籠るほどの熱いあれを私に注ぎ込んでもらう!」
「こんな時に何言ってんだよ!」
俺はゼノヴィアが『騎士』になったことにより手に入れた速度に対抗するため、手に
でも今回のメインは、この鎌の試運転だ。
『Boost!!』
俺の力が倍増して、俺はゼノヴィアの聖剣による斬撃を避ける。
斬撃を見るにゼノヴィアの動きは単純明快なもので、目で追える速度。
まだ倍増による身体強化は十分に行えていないから下手には動けない。
まあ次に力を解放した瞬間、決着はつくけど。
するとその時だった!
「……えい」
「―――ッ!」
俺はいつの間にか後ろにいた小猫ちゃんの鋭い拳を当たる寸前で回避し、俺は二人から距離をとる。
……全然気配を感じなかったな。
「……ゼノヴィア先輩、一人でやってもイッセー先輩には勝てません。二人で協力しましょう」
「……それもそうだな。ならば勝った暁には君もイッセーに子作りしてもらうがいいさ!」
「……無論です」
すると小猫ちゃんとゼノヴィアが同時に俺に向かって早い速度で向かってきた。
ったく、下手に連携されたらやりにくい。
『Boost!!』
「よし、5回目の強化! ドライグ、任せたぜ!」
『応ッ! 相棒を穢されてたまるか!!』
すごい怒っているドライグの声を皮きりに、次の瞬間に籠手から解放の音声が流れた。
『Explosion!!!』
「いくぜ、小猫ちゃん、ゼノヴィア!!」
俺は解放した力の全てを速度に重視して動いた。
おそらく二人からしたら目にも止まらぬ早さで光のように粒子化した鎌の刃を横薙ぎに振るい、察知される前に出来るだけ多くの斬撃を放った!
もちろん体に傷はない……この神器はただ戦闘を終わらせるための神器だからな。
「な、なんだ、これは……急に体が」
「…………ッ! イッセー先輩の、創った神器の力ですッ」
それと同時に二人の動きは鈍くなる。
……まだまだこの二人は冷静さと戦略がまだまだだな。
「とりあえず、ギャスパーは俺の血を吸ってただけだから勘弁してやってくれないか?」
俺は動きが鈍くなった二人に苦笑いをしながらそう言うと、二人は渋々といった風に頷いたけど、俺が頭を撫でると何も言わなくなった。
「流石は俺の同士だな! 素晴らしい神器だぜ、それ!」
すると突然、拍手のような音が俺の耳に響き、俺はその声の聞こえた方向を見た。
……するとそこには渋い男性用の甚平を着ているアザゼルの姿があった。
「アザゼル、久しぶりだな」
俺は特に警戒することなくそう言うと、その名を聞いた瞬間にその場にいる皆の目つきが変わった。
ゼノヴィアと小猫ちゃんは動けないけどアザゼルを睨み、匙も流石に冷静さを取り戻したのか、手の甲に黒い神器を出現させて臨戦態勢をとっている。
ギャスパーに至っては怖いのか、どこから出したのか不明なダンボールに身を隠している。
「警戒するのはいいことだが、残念だけど君たちでは俺の敵にはならない……イッセーを除けばな」
「悪いな。でもお前がここに今来ることは色々問題だと思うぞ?」
俺はアザゼルの目の前に立ってさも当然のことを言う。
なんたって会談はまだ少し後のことだからな……悪魔サイドであるこの学園に侵入するのは問題になる。
「それは悪いな。だがどうしても今朝の事を詫びようと思って来た次第だ。俺のとこのヴァ―リがそっちにちょっかい掛けたらしいな」
「……ちょっかいと言ったらお前もそうだと思うけど」
「あははははは!! そりゃそうだな!! 本音を言えば、単にお前らのサイドのレアな神器を見に来ただけなんだけどな!!」
アザゼルは高らかに笑ってそう言うと、ギャスパー、匙を見た。
目はすごいキラキラ光っていた!
「
「わかるか、アザゼル!」
「当然だ……邪眼は言わずもがな、使い手によれば全てを停止させるものだが、それこそ使い手の身に余れば害悪にしかならんもんだ。そしてその龍脈はかの有名な伝説のドラゴン、龍王の一角である
俺以外のその場にいる人物はそれを聞いて驚愕した。
俺の場合は事前にドライグからその事実を聞かされていたわけだしな。
「そもそもヴリトラの神器は複数存在している。これは最近発見した事実だ。……そう言えば聖魔剣使いはどこに行った? 今日の目的はそれなんだが」
「祐斗なら朱乃さんと一緒に部長の付き添いで今は居ない。で、今日はどうするんだ? 今なら俺は何も見なかったことにするけど」
俺はアザゼルにそう言うと、アザゼルは俺の言ったことを予測していたのかのように不敵な頬笑みを浮かべた。
「流石は我が同士だ。当然、今日の所は帰らせてもらうぜ。だがどうせ近いうちに顔を合わせることになる……。その時に神器について語ろう」
「ふっ」
俺とアザゼルの間に妙な関係が出来上がっているのを見て、周りの仲間は呆れているのだった。
―――ちなみに俺はその後、騒ぎの全てを知った部長に2時間説教をされた上に、部員の言うことを一人一つずつ聞かないといけないという事態に陥ってしまったのは内緒の話だ。
……そういうことで、とにかく俺は少しの間、ギャスパーの面倒をみることになったのだ。
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