ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~ 作:マッハでゴーだ!
俺、兵藤一誠はサーゼクス様のお願いで街の案内をその日の朝にしていた。
その案内自体は既に終わって、そして今日は休日。
今、俺はその日曜日に部長からの連絡を受けて今は学校に向かっている。
……今はあんまり誰かと一緒にいたい気分じゃないんだけどな。
『ならば相棒、今日はゆっくりとのんびりしていたらどうだ?』
『気分が乗らないのであれば仕方ないでしょう』
……そういうわけにもいかないよ。
さっきはそう思ったけど、なんだかんだ言っても仲間と一緒にいれば治まることだってある。
ともかくそういうことで今、俺は学校に向かっているわけだ。
……白龍皇と出会って以来、俺はどうも調子が出ないのは多分、皆も気付いているんだろうな。
伊達に仲間はしてないし、仮に俺だったら絶対に気付くからな。
いつまでもこのままじゃいけないよな……よし!
うじうじと考え込むのは止めだ!!
「あ、イッセーさん!」
「……先輩、遅いです」
俺が校内に入ると、すぐに体操着姿のアーシアと小猫ちゃんに出会った。
何故かは知らないけど若干濡れてるけど……
ともかく風邪を引く上に、それに……ふ、服が透けているから何とかしなければッ!
「水遊びでもした? とりあえず濡れてるからタオル使おう、うん」
俺は鞄の中からタオルを出して特に濡れているアーシアの頭の上にかぶせた。
「はふ……イッセーさんの匂いがしますぅ……」
「……む。ずるいです、アーシア先輩」
そして途端にそのタオルの匂いを嗅ぎだすアーシアと、それを見て恨めしそうに自分も顔を近づける小猫ちゃん。
……えっと、君たちは何でタオルの匂いを嗅いでるのかな?
とりあえず今はそれをスルーしよう。
「あらあら……遅いと思っていましたら、何やら羨ましいことをしていたのですわね」
っと、次にこれまた何故か体が濡れている朱乃さんが現れた!
しかもそれは色々とダメでしょ! 体操着が透けて下着が見えてるし!
「うふふ……見たければいくらでも見せてあげますわ。望むなら、その先も……」
朱乃さんが悪戯な表情で近づいてきて、舌舐めずりをした!
まずい、これはドSの状態の時の朱乃さんだ……完璧ないじめっ子性質が半端ないな。
っていうかそれは女の子としてダメです!
「え、えっと……。またいつかの機会で……」
ってそうじゃねえだろ、俺! なんだよ、またいつかの機会って!
まるで俺がそう望んでいるみたいに聞こえるだろ…・・・そう思っていると、朱乃さんはニコニコしていた。
「あらあら……では
やけにまた、のところを強調する朱乃さん。
「はい。……それで俺を呼んでどうしたんです? 何かみんな体が濡れていますし……何故か体操着ですし」
「はぅっ! そうでした!」
するとアーシアは俺のタオルの匂いを嗅ぐのを止めて、そんな声をあげる。
アーシア、まだ嗅いでいたのか!?
「…………先輩、こっちです」
すると小猫ちゃんが俺の手を引いてどこかに連れて行こうとしていた……俺のタオルの首に巻きながら。
それで俺は小猫ちゃんに連れられて、目的地は知らないけど校内を歩いて行った。
「小猫さん! それは協定違反です!」
「……ならアーシア先輩は先輩の左腕を支配してください」
「あらあら……。なら私はイッセー君の背中を支配しましょう」
……小猫ちゃんの前にどこかで聞いたことのある台詞と同時に、俺は左腕にアーシア、右腕に小猫ちゃん、背中に朱乃さんと密着したまま向かうのだった。
ちょっと皆、男に対して警戒心が足りなさ過ぎると思う今日この頃だった。
―・・・
俺が連れられた先にはオカルト研究部の面々がいた。
そして連れられた先はプール……なるほどね、だから皆濡れてたんだ。
プールは既にピカピカに光るくらい掃除されていて、水まで張られているところを鑑みると、恐らくプールの掃除をしていたんだろう。
ともかく今、俺は部長に言われて男子の更衣室で水着に着替えている。
……ちなみに水着はいつの間にか部長が用意していた―――何故俺のサイズにピッタリの水着を用意できたかは聞くのが怖いけど。
「それで祐斗、どうしてプールの掃除なんてしてたんだ? あれって確か生徒会の仕事じゃ……それに俺を呼ばなかったしさ」
「それは部長がソーナ会長に頼みこんだからなんだよ。プールの掃除は今年は僕達でするから、今日一日プールを好きに使わせてくれないかって。イッセー君はサーゼクス様に街をご案内していたからね」
ふ~ん、なるほど……そんな経緯があったのか。
まあ良いか。
とりあえず俺は制服のシャツやらの衣服を脱いで上半身が裸になっているわけだが、何故か祐斗は制服の前をワイルドにあけながら俺の体をマジマジと見ていた。
「……おい、視線がさっきから気になるんだけど」
「……悪いね。君の体はいつ見ても鍛えられていて美しいからね」
……こいつ、同じ眷属の女の子達にすら美しいとか可愛いとか言ったことないにも関わらず、なぜ同姓の俺をそんな風に褒める!
やっぱりお前は最近、少しおかしい!
「ゆ、祐斗? 俺、先に行ってるからな!!」
俺は祐斗から逃げるように更衣室から一瞬で着替えて出ていく!
だってなんか祐斗の目がギラギラしていて怖いんだもん!
……俺はプールサイドに出るけど、まだ俺以外の部員の姿はなかった。
俺はとりあえず暇なのでプールの中に足を入れ、温度を確かめる……流石にまだ少し冷たいか。
―――皆がこんなことをしてくれたのは、多分俺のためだよな。
『……そうだな。グレモリー眷属は悪魔の中でも同じ眷属への情愛が強いことで有名だ。それに相棒が調子が悪いなんて他の奴らは見たことがないだろうからな。でなければわざわざ相棒の知らないところでこんなことをするはずがない』
『いつも主様の強い部分しか見ていませんからね。その点、マザーであるわたくしは主様の強さも弱さも分かっています!』
『なぬ!? 貴様、そのような事をぬかすか! 俺なんて転生前からの相棒だ。お前とは年差が違う!―――そしてパパだ!!』
ああ、せっかく感動してたのにどうしてすぐに俺の中で喧嘩するかな!?
そしてお前らがマザー、パパって言うの久しぶりに聞いたよ!
っていうかお前らがママパパ連呼するせいで、謎に家族の呼称を欲しがるドラゴンがわんさか出ているんだからな!?
俺がそうやって俺の中のドラゴンに突っ込んでいる中、更衣室から他の部員が出てきた。
「あら、イッセー。随分と早かったのね?」
「……祐斗の視線が怖かったので」
「…………ごめんなさい、無神経だったわ」
俺は後ろを振り返り部長にそう言うと、そこにはビキニ姿の部長、朱乃さんに学校指定のスクール水着のアーシアと小猫ちゃんがいた。
……皆、似合っているけど部長と朱乃さんの露出が少し多い気がする。
少なくともあまり男に見せるような水着じゃない!
「イッセー、この水着はどうかしら?」
「に、似合ってると思いますよ? 少し肌が見え過ぎな気がしますが……」
俺は直視が出来ないので目線を外してそう言うと、部長は何故かニヤッと笑っていた!
「イッセー、しっかりと見て言わないと信憑性に欠けるわ……もっとじっくり見てちょうだい」
「部長、それ絶対わざとですよね!?俺をいじめたいだけなんですよね!」
俺はそう言ってそのままプールに飛び込もうとしたとき、突然腕をひかれた。
……案の定、それは小猫ちゃんとアーシア、そして朱乃さんだった。
「イッセーさん! 私の水着はどうですか?」
「…………感想を」
「うふふ」
三者三様の態度だけど、要は三人とも水着の感想を言えって言っているんだろう。
甲斐性のある男なら、ここで気の利いた褒め言葉を思いつくだろう。
―――だけどそれを選択したら、取り返しのつかない事態になる気がするんだよな。
「……眩しいくらいとてもお似合いです!!」
俺は感情を押し殺してそう言ったのだった。
―・・・
プールの一角で、俺は水面にプカプカと浮かびながら空を見ていた。
とりあえず、皆の水着の似合っている部分まで言わされて若干疲れているけどな。
それで俺はプカプカと浮かびながらリラックスしている。
プールは程よく冷たくて、俺の心は穏やかになっていくようだった。
「……はぁ」
俺は安堵のため息を吐きながら浮いていると、俺の元に浮き輪を装備した小猫ちゃんがバタ足で向かってきていた。
「どうしたんだ、小猫ちゃん?」
「…………イッセー先輩、お願いがあります」
そう言うと、小猫ちゃんは頬を軽く赤くして上目遣いでそう言ってきた。
……保護欲が、俺の守りたくなるような目が俺の良心を刺激する!
やはり小猫ちゃんみたいな可愛い女の子の上目遣いは卑怯だよな。
「お願い? 小猫ちゃんのお願いなら、俺は聞くよ」
「……でしたら私に泳ぎを教えてください」
……意外だったな、小猫ちゃんはどうやら泳ぐことが苦手らしい。
小猫ちゃんは運動が得意だから水泳も出来ると思ったけど、意外と苦手らしい。
俺は水泳は特に苦手とはしていないから快く了承した……したのだけれどさ?
「小猫ちゃん、これは泳ぐ練習じゃない!」
「……浮き輪を捨てたので、今はイッセー先輩にくっつかないと溺れてしまいます♪」
小猫ちゃんが俺の胸板から腹部に至って、挙句の果てには足まで絡めて水中で密着してきたんだ!
小猫ちゃんは俺が了承した瞬間に浮き輪を捨てて、そのまま今のような状態になってしまった。
しかもさっきから俺を抱きしめる力が強くなってるし!
嫌でもドキドキしてしまう……そりゃあ小猫ちゃんはすごく可愛いからな。
可愛い後輩にこんなことされてドキドキしないなんておかしいよ、男として。
―――でも……何でだろ。
やっぱり俺は……この子を知っている。
この子の泣き顔も、この子の笑顔も、この子の……温もりも。
俺はこの子に対して何故か甘やかしてしまうし、可愛がってしまう。
きっとそれは何か要因があるんだ。
「……小猫ちゃんはさ。……どこかで俺と会ったことある?」
「―――ッ!」
……俺がそう言うと小猫ちゃんは突然、驚いたような顔をした。
やっぱりそうなのか。
俺は小猫ちゃんのこの匂いを何故か知っている……この抱きしめた時の感触を知っている。
「小猫ちゃんと接していると、会ってまだ数カ月とは思えないんだ。懐かしい感じがするんだ」
「………………」
小猫ちゃんは俺の腕の中で黙り込んでいる。
頬はこれまで見たことのないくらい紅潮していて、かすかに瞳が潤んでいる。
……俺はそれを見た瞬間、本能的に小猫ちゃんを―――抱きしめた。
「…………せん、ぱい?」
分からなかった。
何故かは分からないけど、さっきの小猫ちゃんを見た瞬間に体が勝手に小猫ちゃんを抱きしめたんだ。
抱きしめなきゃいけないと、思ったんだ。
この抱きしめた感触は俺はやっぱり知っている……そもそも、初めて会った時も俺は初めて会った感じがしなかったんだ。
だから俺は自ら死ぬことを恐れずに、体を動かして小猫ちゃんを護った。
「ごめん。……急に抱きしめて」
俺は小猫ちゃんを抱きしめるのを止めて腕を離す。
小猫ちゃんは依然として俺の腹部にひっついているけど、俺はそれを特に気にしなかった。
……何でか、心地いいんだ。
小猫ちゃんが傍にいてくれたら、心が楽になる。
アーシアと同じ感覚のようで少し違うんだ。……アーシアは傍にいるだけで俺を癒してくれて、小猫ちゃんは傍にいるだけで安心する。
眷属の皆に言えることだけど、この二人は特にそれだ。
……どうにかしてるな。
ここまで弱っているのか、今の俺は。
「……イッセー先輩、私は…………。―――いえ、何でもないです」
すると小猫ちゃんは俺の腹部にひっつくのを止めて、俺の腕を掴んで何とかプールに浮いていた。
「……泳ぎ方、教えてください」
「ああ!」
小猫ちゃんはわざとらしく話題を変えるようにそう言うと、俺はそれに便乗するように行動する。
知りたくはある……。俺が小猫ちゃんに対して抱いている懐かしい感覚。
それを小猫ちゃんが知っていたとしても、小猫ちゃんが言いたくなかったら俺は聞かない。
いつか言ってくれると思うから。
「……そう言えば先輩の体、すごく素敵だと思います」
「……ありがと?」
俺はその台詞に苦笑いで応えた。
そして小猫ちゃんの手を握ってそのまま小猫ちゃんを支えて引っ張るように泳ぎを教えようとした……その時だった。
「イッセー? いつ貴方は小猫とそんなにイチャイチャするようになったのかしら?」
……修羅のごとく恐ろしく怒った形相をした部長が、俺と小猫ちゃんが向かっているプールサイドの上で仁王立ちをしながら立っていた。
こ、怖い!
すると小猫ちゃんは突然、バタ足を止めてそしてわざとらしく俺の胸に飛び込んできた!
「……ここは私の居場所、です」
「―――ッッッ!! 小猫……それは宣戦布告ということで良いのかしら?」
「あらあら……なら私も参加せざる負えないですわね」
すると朱乃さんは突然、俺の背後から現れて俺に密着してくる……って感触が色々とヤバい!
「はぅ! ゼノヴィアさんを呼びに行ってたら出遅れました!」
「な、何!? アーシア、私達も今すぐにあそこに混ざるぞ!」
そして着替えに手間取っていたゼノヴィアと、ゼノヴィアを呼びに行っていたアーシアが戻ってきて、そのままプールの中に飛び込んで俺の元に来る!?
ってか準備体操しろぉぉぉ!
「な!? い、イッセーは私のイッセーよ!」
ぶ、部長までもですか!?
部長は他の部員に遅れながらも俺の元まで来て、そしてどうにかして俺にくっつこうとするけど、既にいっぱいくっついていますから無理です!!
『…………。主様、今よりわたくしは自立歩行型になります』
ま、不味い!
今までずっと黙っていたフェルがとうとう殲滅モードになった!?
『フェルウェルよ……とりあえずは殲滅だ。これ以外は却下だ』
ドライグぅぅぅ!!
フェルを止めてくれ、パパだろ!?
「お、お願いだから離れてくれぇぇぇぇぇ!!!!」
俺はプールの中心でそう叫んだ。
そしてこのことから、女子陣では少しの間、口論となったのだった。
ちなみにその頃、祐斗は一人優雅に泳いでいた。
―・・・
「うぅ……酷い目に遭った」
俺は上に上着を羽織ってプールのすぐそばにある自販機の元に来ていた。
俺の体のひっついてきた女子陣……特に部長と朱乃さんの口論が凄まじかったよ。
アーシアと小猫ちゃんは譲歩して二人が口論している間に俺をどこかに連れて行こうとして、ゼノヴィアはそれに便乗。
それに気付いた部長、朱乃さんが更に怖い形相で俺達を見てきた……っとまあそんな具合だ。
それにしても驚いたな。朱乃さん、部長に啖呵を切って普通に口喧嘩していた。
内容は俺のことだけども。
『……相棒、先ほどからフェルウェルの様子が恐ろしいんだが』
……ちなみにフェルは本当に機械ドラゴンとなって、今は部長と何か話しをしているみたいだ。
よって俺の中にはドライグだけしかいないから、ドライグはそう愚痴る。
「う~ん……普通に炭酸にするか、紅茶系にするかで迷うな。あ、皆の分も買っていった方が良いよな。ならいっぱい買えばいいか」
俺は財布から札を出して自販機にいれると、すると俺の後ろから手が伸びてきた。
そしてその手は俺の首に巻きついて、そのまま誰かに後ろから抱きつかれた。
「うふふ……相変わらず優しいですわね、イッセー君は」
……朱乃さんだった。
そして朱乃さんは俺の背中に引っ付きながら俺の頬を撫でてくる。
「朱乃さん?」
「あらあら……流石にこうも抱きついていたら反応が鈍くなりますわね。なら……」
ん? ―――ってちょっとストップ!
朱乃さんから何故か布が掠れる音が聞こえるんですけど!?
しかもそのまままた抱きつかれると思っていると、感触がただの肌の感触だ!
まさかこんな所で脱いだのか!?
「今日は日曜日ですわ。……それにここら辺に簡易的な結界を張りましたので、人は誰も来ません」
すると朱乃さんは……俺の耳たぶを甘噛みしてくるぅぅぅ!!?
「あ、朱乃さん! それは流石に……」
「あらあら……これでも我慢している方なんですのよ? 私的にはイッセー君を今すぐに押し倒したい気分ですわ」
……俺は朱乃さんの方を振り返ると、そのまま朱乃さんに手をひかれて近くにある準備室に連れ込まれた。
水泳用具が色々と入っている倉庫だけど、何故かそこにマットが敷かれている。
それはもう用意周到に、あらかじめ用意されていたかのように。
そして俺は呆気なく朱乃さんに押し倒された。
「朱乃……さん?」
「……ふふ。イッセー君は大人っぽいですけど、まだ誰とも経験はないですよね?」
「け、経験って……」
俺は朱乃さんの表情を見た。
……そこにはお姉さまではなく、一人の女の子としての朱乃さんがいた。
髪の毛を解いて、髪を俺の前で初めてロングにする。
―――それに意味は俺はすぐに分かった。
経験……ってのはたぶん、女性との性交経験のことを言っているんだよな。
ミリーシェとも結局キス以上の進展がなかったから、その問いには頷くしかない。
でも髪を解いた意味は、たぶんそれじゃない。
たぶんそれは昔の姿になるため。
つまり―――
「部長や他の皆さんには申し訳ありませんが、私も自分の気持ちには嘘はつけませんわ。……応えてもらえるかしら、イッセーくん」
「……はい」
朱乃さんの表情は真剣だった。
上半身だけ体をあげている俺に馬乗りになって、至近距離で俺の顔を見ている。
「……イッセーくん、あなたは―――私やお母様を昔、救ってくれた男の子。そうですわね?」
―――朱乃さんはそう言った。
そっか……やっぱり朱乃さんがそうだったんだ。
……予想はついていた。
朱乃さんは俺が昔、まだ神器を思うがままに使えていないころに命がけで救った少女だったんだ。
「……ええ、そうですよ。
「―――ッ!!」
朱乃さんは俺の言葉を聞いた瞬間、そのまま俺を抱きしめた。
俺はその体を支えることが出来ずにマットに倒れ込むが、朱乃さんは体を震えさせる。
「ずっと……ずっと貴方を探していましたわッ! 私と全然、年が変わらないのに命をかけて守ってくれてッ! 傷ついて、探していましたのにッ!」
「…………」
……朱乃さんは涙を流していた。
そっか……朱乃さんはずっと俺を探していたのか。
「ずっとお礼が言いたくて、貴方を長い間探していましたわ……でも一年経っても、二年経ってもイッセー君を見つけることはできませんでした……」
……朱乃さんとの一件の後、俺は両親に連れられて海外で2年間暮らしていたからな。
たぶん、それで朱乃さんとはすれ違いになったんだろう。
「……いつから、気付いたんですか?」
「……イッセー君が堕天使レイナーレとの戦いで初めて神器を見せた時、確信しましたわ―――この子は私がずっと探してきた男の子……私の、想い人」
そうだな。
俺が初めて朱乃さんに神器を見せたのは多分その時だ。
それから朱乃さんの態度は一変して、すごく俺を可愛がろうとした。
「見た時、体中が震えるくらい鳥肌が立ちましたわ―――優しい赤いオーラ、誰かを救う白銀の光……お母様を救ってくれたあの時の白銀の光。あれを見た瞬間、イッセー君が私の王子様と確信しましたわ」
……すると朱乃さんは俺に真正面から対面した。
―――可愛い、俺はついそう思ってしまった。
涙を流し、頬を赤く染めて少しニコっと笑っている。
「私は、イッセー君が好きです。……イッセー君なしじゃ生きていけませんわ。それくらい、あなたのことを考えると胸が弾けそうになるくらい……ずっとずっと想っていました」
「朱乃、さん……」
「それにようやく出会えたんです。お母様もあなたにお会いになりたいでしょう」
……そうだ。
あの時、朱乃さんのお母さんは俺を庇って妖刀の一撃を受けて、そのまま呪いを受けたままなんだ。
「朱乃さんのお母さんはどうなったんですか?」
「……生きていますわ。と言っても、私の元にはいませんが」
……どういうことだ?
呪いのせいでどこか悪魔の病院で修養されているとか……でもそれじゃあ私の元にはいないとまでは言わない。
「……イッセー君、このことはまたいずれ、絶対に話しますわ。だから今は―――」
そう言いながら朱乃さんが自分の服を脱ぎ始めた!
しかも丁寧に全部綺麗に脱いで全裸になるけど、俺は直視できずに目を逸らす……けどそれは防がれた。
「……見てください、イッセー君―――触れてください。乱暴に、自分の物のようにぐちゃぐちゃになるくらい……」
そう言うと朱乃さんが俺の手をそのままその豊満な胸に近づけて、そして触れさせた。
……ウソみたいに、朱乃さんの胸は高鳴っていた。
ドキドキ、という音が手に伝わるマシュマロみたいに柔らかい感触と共に伝わる。
「うふふ……いつもですわ。イッセー君のことを考えると、こうなってしまいますわ。小さいころから、ずっと想い続けてきましたもの……抱いてください」
「俺は……」
俺はなにも言えない。
俺が断ったら朱乃さんは悲しむ……でも俺の脳裏には一人の女の笑顔が映った。
―――ミリーシェだ。
「……朱乃さんの俺への好意は分かりました―――でも、俺はそれに応えるわけにはいかないんです」
俺はきっぱりとそう言った。
「……それはどうしてです? 単に私に魅力がないから…・・・」
「それは違います! 朱乃さんは……魅力的な人です。これは誰のせいでもない……俺の中で決着をつけないといけない問題なんです」
俺の問題……。ミリーシェに対する未練と、俺の復讐の心。
それをどうにかしない限り、俺は半端にみんなの気持ちには……応えられない。
俺は自分の胸に拳をくっ付けてそう言うけど、朱乃さんはなおもそこから離れようとはしない。
「……魅力があるなら、イッセーくんをその気にさせて見せますわ。ここでイッセー君と既成事実を作れば、後々が楽になりますから」
朱乃さんが俺の唇にその艶っとしている唇を近付けてきた!
「あ、朱乃さん! そ、そう言うのは恋人がするものであって、手軽にするものじゃ!」
「あらあら……でもリアスには無理矢理されたのでしょう? なら私も」
なんでそんなことを知って……まさかティアか!?
もしかしてこの前、コカビエルの一件が終わったあの時に言ったのか!?
とりあえず差し迫っては目の前の朱乃さんをどうにかしないと! ……そう思った時、用具倉庫の扉がバタンと開かれた!
「……朱乃、これはどういうことかしら?」
「あらあら……思ったより早いご登場ですわね」
……今日はとことん部長はここぞって時に現れる。
でも今はそれに感謝しよう!
「どうせ朱乃のことだからイッセーを無理矢理ここに連れたんでしょうね……私のイッセーから離れてちょうだい」
「嫌ですわ。今から私、イッセー君と大人な時間を過ごしますので」
……まずい、今のこの二人は相当頭にきている。
朱乃さんは俺との時間を邪魔されて、部長は俺と朱乃さんが密着していることに……
「なっ!? それは私が最初よ! 朱乃、貴方は男には興味はないって言ってたじゃない!」
「あらあら……私は昔からイッセー君一筋ですわ。それにリアス、貴方だって男なんてどれも同じだって言ってたじゃない!」
「「……………………」」
そして両者、睨みあいになる。
朱乃さんは部長と同じ目線で無表情、部長は仁王立ちでいた。
「朱乃、貴方は調子に乗りすぎね。表に出なさい」
「あらあら―――望むところですわ」
……冗談抜きでヤバそうなので、俺はそそくさと用具倉庫から離れるため、二人が睨みあっている隙に部屋から抜け出した。
―――命が二つあっても足りないよ!
そう思って俺はそこから少し離れたところにある自販機で人数分のジュースを買って、プールに戻った。
―・・・
「あれ?イッセー君、部長と朱乃さんはどこにいったの……いや、いいや」
祐斗が俺にそう聞いてきて、そして空を見上げた瞬間に言うのを止めた。
俺はプールに戻ってくると、部長と朱乃さんはプールの上空で飛びながら魔力の飛び交う喧嘩をしていた。
俺はそれをスル―して買ってきたジュースを皆に渡して、自立歩行の機械ドラゴンになっていたフェルも俺の中に戻った。
「イッセーは気が利くな。流石は私の将来の旦那だ」
「ゼノヴィア、お願いだからそれは皆の前で言わないでくれ……もしこの場に部長と朱乃さんがいたら大変な事になる」
俺は切にそう願う。
だって現在でも小猫ちゃんの視線が鋭くなったんだからさ!
……今日の女難はヤバい。
「……それにしてもイッセー、君の体は素晴らしいな。無駄な筋肉はついていなくしなやか、かつ美しい。正に君の体は芸術というものだ。なるほど、脱いだらすごいというやつか」
「ゼノヴィアさん、分かってるね。確かにイッセー君の体は美しい。実は部室にイッセー君の半裸の肖像画があるんだけど……」
「なに!? それは本当か、木場!!」
……何でそんなものがあるんだ?
「だが生に勝るものはないさ―――っということでイッセー、子作りしよう」
「はいはい、そうだなそうだな……―――って子作りぃぃぃぃぃぃ!!!?」
俺はゼノヴィアの言葉を軽く流そうとしたが、でも流せなかった!
今、軽く問題発言が入った!
流石にこの発言には祐斗も小猫ちゃんもアーシアも驚いているよ!
「おぉ、イッセーもその気なのか? な、ならばその物陰にでも行って……」
「おい、ゼノヴィア! 誰だ、お前にそんな情報を与えたのは!!」
俺はゼノヴィアの肩を掴んでそう言うと、ゼノヴィアは特に動揺することなく、
「部長だが、それがどうかしたか?」
「うぉぉぉ!! 部長、あんた何してんのぉ!?」
俺はすぐ上空に部長が朱乃さんと喧嘩しているのに関係なくそう叫んだ。
俺の叫びはむなしくも空に消えていく。
……だけど一応、理由くらいは聞いておくか。
「何しろ私は今まで神を信仰し、神につくすことを人生と思っていたからな……そこで神がいないという事実を知り、絶望のどん底にいた―――そんな私を救ったのがイッセー、君だよ」
「えっと……まあ一応はそうだな」
「それでだ。女としての喜びを全て捨てていたわけだが、悪魔になったんだ。欲望のままに生きていこうと思ったが、何分欲望を禁忌としていた私は何をすればいいか分からない。だからリアス部長に聞いたんだが……」
ゼノヴィアはコホン、と咳払いをした。
そして若干声音を部長に真似て、話し始めた。
「『好きな人を作って子供を作るいうのはどうかしら? 私の今の欲はそれだけど……。ふふ、イッセーとの子供はさぞかし可愛いんでしょうね』って言っていたものでね?」
部長ォォォ……最近、部長の目がギラギラしていたのはそのためですか。
っていうかゼノヴィアになんてことを教えているんですか……。こいつは嫌な意味で純粋なんですから!
「……駄目ですッ! イッセー先輩は私がッ!」
「あうぅ! 言ってくれれば私もイッセーさんのために!」
……ああ、空は青いな。
いや、今は部長と朱乃さんの喧嘩のせいで赤いや、もうホント、赤いさ。
「……イッセー君、少し目が死んでいる気がするんだけど」
「大丈夫……僕、赤龍帝だから。ほら、赤龍帝って赤いでしょ? だから何にも問題ないんと思うんだあはははははははは」
「イッセーくん!? 気を確かに持つんだ!」
祐斗が俺を励ましてくれるけど、残念ながら俺は現実逃避するしかないんだよ!
……すると俺とゼノヴィアの間に割って入った小猫ちゃんとアーシアが何かゼノヴィアと話していた。
「そうか……ならば三人で子作りをしよう。私もイッセーを一人でどうにかしようなどと考えてはいないさ」
「…………私もそれで譲歩しましょう」
「はい! じゃあ最初は誰か、まず決めましょう! ……それで子作りってどうするんですか?」
アーシアが思った以上に純粋だった!
ああ、もうアーシアは可愛過ぎるッ!!
なんか救われた、ホント、今の一言のお陰で救われた!
俺はとりあえず、テンションが変な方向に向かってしまった頭を冷やすためにプールに飛び込んだ。
……体が沈んでいき、俺は体を丸くする。
でも不思議だけど……俺の中の痞えが消えていた。
最近の俺の憂鬱さがどこかに消えていた。
―――皆のお陰、なんだろうな。
『相棒が望んでいたのは一人じゃなかったということだよ。相棒は一人でいるべきではない―――いつでも誰かと一緒にいないといけないさ』
『……認めたくはないですが、グレモリー眷属は我々と同じくらい主様を想っています。ですから、たまには寄り添ってもいいのではないでしょうか』
ああ……もう十分頼りにしてるよ。
だけど―――もう一歩だけ、近づこうと思う。
もう大丈夫だ、プールから上がれば、俺はいつも通りでいれる……心の底から、そう思う。
サーゼクス様は俺を弱いと言った。
……その通りだ。
俺は弱い、だから誰かに支えて貰わないと崩れてしまう……だけどそんなの皆だって一緒だ。
俺も支える、だから皆も支えてくれる。
今はそれでいい。
俺はそう考えながらそのまま水中から顔をあげて、プールサイドを見た。
そこには眷属皆の姿があって部長や朱乃さんも皆、笑顔だった。
そして部長は俺に手を差し伸べてくる。
「イッセー、手を貸すから上がりなさい」
「……はい!」
俺はのばされた手を力強く握る。
この手をしっかりと掴めばいい……そう思った。
俺は皆の優しさを改めて知った、そんな休日のひと時だった。
―・・・
次の日の朝、部長とアーシアには先に学校に向かってもらった。
それは俺が朝、感じた感覚によるものだった。
俺は一人、学校に向かう。
周りには既に同じ駒王学園の生徒の姿がちらほらあり、だけど俺は真っすぐに校門前に向かう。
そして俺は……特に動揺することなく校門前にいる存在に近づいた。
「……よぉ。これは久しぶりって言えばいいか?」
「そうだな……ここで会うのは2回目だからね」
そこにいたのは暗い銀髪の容姿が整った俺と同じくらいの身長の男。
その男は不敵な笑みを漏らしながら校門前で壁にもたれかかりながら、そこに存在していた。
「じゃあ久しぶり―――白龍皇、ヴァ―リ」
「そうだね―――赤龍帝、兵藤一誠」
だけど俺はもう大丈夫だ……もうおかしくなんかならない。
―――俺は校門前で、再び白龍皇と邂逅した。