ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~ 作:マッハでゴーだ!
俺は宙に浮かぶ白い鎧を纏い、白い翼の神器を付けている姿をただ呆然と見ていた。
体が硬直したみたいに固まって、俺は舞い降りてくる白い存在……白龍皇の姿を見ていた。
それと同時の俺の鎧は活動限界を向かえ、そして禁手化は解除されて俺の腕には元の籠手が装着される。
「君が今代の赤龍帝かい?」
「…………ああ」
酷く俺の声が低い……さっきからまともな思考が働かない。
あの綺麗な白の鎧を見ていたら、俺の頭にはずっと一人の少女の姿―――ミリーシェの姿が浮かぶ。
「……先ほど、あのコカビエルを圧倒していたとは思えないような覇気だね。でも俺は君をずっと見ていたが―――素晴らしい。ぜひとも君とは死闘をしたいものだよ」
……白龍皇は白い翼を煌めかせると、俺の後ろにいた皆が臨戦態勢を取った。
今すぐにでも現れた「白」に襲いかかろうとする雰囲気。
それを察したとき……俺の口は、勝手に怒声を上げていた。
「―――止めろ!!!」
―――俺はその好意に対し、仲間に向かってそう荒げた声を撒き散らした。
何でだ……俺は何で今叫んだ?
俺の怒号に皆、驚いている……俺はどうして、ここまで乱れているんだ。
「……どうにもこうにも理解は出来ないな。だけど安心していい。万全じゃない状態の君と戦っても面白くないからな」
白龍皇はそのまま俺が倒したコカビエルの所まで行き、そして体を抱えると、そのまま少し宙に浮いた。
「どうやらあのはぐれ神父はどこかへ行ってしまったようだね」
俺は横目でフリードが今までいたところを見ると、既にそこにはあいつはいない。
でも今の俺にはそんなことどうでもよかった。
違う……違うのにあの白龍皇が、ミリーシェと重なるッ!!
性別も声音も、正確に至ってまで何もかもしれないのに、あの白の鎧が俺の心を抉るッ!
『相棒、それ以上は考えるな! 自分の心を壊してしまうぞ!』
……ドライグ。
俺とずっと共に戦ってきたい相棒……俺のことを誰よりも分かっている奴だ。
そのお陰で、少しだけ落ち着きを取り戻した。
「じゃあ俺は行くよ。なに、君と俺はいずれ戦う」
すると白龍皇は少しずつ宙に浮いて行く、けど俺はまだ確かめたいことがあった。
『無視か? 白いの……いや、アルビオン』
ドライグは俺の気持ちを汲み取ってか、辺りに響き渡るような音量で籠手から声を出した。
『よもやお前から話しかけてくるとはな、ドライグ』
「……まさか、これは赤龍帝と白龍皇の会話?」
察した部長がそう呟くと、俺はヴァ―リと同じ高度まで飛び上がる。
悪魔の翼を展開し、そして同じ目線になった。
『……ドライグ、随分とお前は変わったな。以前よりも……いや以前以上におとなしいではないか』
『お前だって分かっているんじゃないか、アルビオン。残念だが、今の俺にはお前とのことよりも大切なことがあるんでな』
『……そうか。俺は今代の白龍皇にも興味はあるものでな』
……そうか、こいつはミリーシェのことを覚えているのか。
なら俺は最後に白龍皇に聞かないといけないことがある。
「白龍皇、俺の名は兵藤一誠……お前は、誰だ? お前は本当にただの白龍皇なのか?」
「……言っている意味が分からないけど、俺は白龍皇だ」
すると白龍皇は鎧の頭の部分を収納して、そして俺に素顔を見せてきた。
……そこには彩度の低い銀髪の、絵画に出てきそうな美少年顔。
「俺の名はヴァ―リ。覚えておくといい。いずれ、君は俺と戦うのだからな……それが赤と白の運命だ」
―――運命、だと?
俺はその言葉を聞いた瞬間、頭に血が上った。
だからこそ、何も考えずに言った。
「―――ふざけるな。運命だと? そんなものに振りまわされて、何で傷つけあうんだ! 赤と白の運命、それがなければ俺は!!!」
……俺はそこでハッとしたように顔をあげた。
俺の目の前の白龍皇、ヴァ―リは驚いたような表情できょとんとしていた。
「……なんだ、その目は。君は何に泣いているんだ?」
「―――え?」
俺はヴァ―リに指摘されて、自分の頬を指で触る…………俺は知らずの間に一筋の涙を流していた。
『……ドライグ、これはどういうことだ。もしや……―――いや、それを問いただすのは愚行か』
……アルビオンは何かに気付いたようだけど、何も言わなくなる。
「……君は不思議だね。だけど面白い。また会おう、兵藤一誠。その時は楽しい戦いをしよう―――ただ忘れるなよ? 俺は今すぐにでも君と戦いたいということを」
そう捨て台詞を吐いて、ヴァ―リはそのまま高速で空に飛んでいく。
その姿は一瞬で見えなくなり、俺はその後、しばらくの間は宙に浮いたままだった。
『……相棒』
分かってる……俺が今更叫んだって無意味なことくらい。
大丈夫だ……少し泣いたら、すぐに今やるべきことをするから。
だから少しだけでいい―――それで俺は兵藤一誠に戻るから。
そう思って俺は、宙に浮いてヴァ―リの飛んで行った方を見続けた。
―・・・
あれから数時間が経った。
俺はすぐに皆の元に戻ると、俺のことを心配してか駆け寄って色々と気を使ってくれた。
でも俺はもう冷静を保っている……それよりも問題は神の死を目の当たりにしたアーシア、イリナ、ゼノヴィアだ。
俺達は今、何とか無事だった旧校舎のオカルト研究部部室にいた。
ちなみに俺が派手にやった運動場の大穴や壊れた校舎はシトリ―眷族が修復していてくれて、明日の登校には何とか間に合うらしい。
三人は静かにソファーに座っていて、そして祐斗はどこかここに居ずらいような表情をしていた。
……さっきは突然のことで動揺したけど、でも俺は祐斗に伝えないといけないことがある。
それと同じで、アーシアやイリナ、ゼノヴィアもどうにかしてやりたい。
俺は部長に目線を送ると、部長は察してくれたのか、小猫ちゃんと朱乃さんに目配りをして声を上げないようになる。
「……イッセー君。君には……いや、僕は皆に迷惑をかけた。僕の命を救ってくれた部長を裏切るような真似をして、ただ感情だけで動いたッ!僕は君に顔向け……出来ないッ!!」
「顔向けなんかいらねえよ。それに俺はお前に黙っていたことがあるんだよ」
「……黙っていたこと?」
祐斗は俺の言葉にキョトンとする。
俺はそれを見ると、自分のポケットの中に入っていた一枚の写真を取り出した。
「……これを見たら、多分全部分かるんじゃないか?」
「……これはいったい―――」
……祐斗は俺に渡された写真を見た瞬間、表情を失くした。
そして次に祐斗に訪れた現象は……涙だった。
表情を失った祐斗の瞳から落ちる涙は、次々と……止まることなく溢れていく。
「なんで……これはイッセー、君……どういうことなんだ―――なんで、どうして死んだはずの皆が!」
……その写真は、笑顔で俺と一緒に映っている、数人の小さな男の子と女の子だった。
大体俺と同じくらいから少し離れた歳の子供―――たぶん、それは祐斗が同士と言っていた子供だ。
「……俺は復讐を否定しないっていっただろ? だから俺はこれを見せることで、お前の想いを踏みにじってしまうと思ったんだ」
……簡単に言えば、あの聖剣計画で犠牲になったと祐斗が言っていた子供は生きていたってことだ。
これは俺が外国にいた時の話……俺は神器の修行のために母さんと父さんに黙ってある国の極寒の地域に行っていたんだ。
俺はそこでしばらく修行を続けてたんだけど、俺はその時、不自然にその極寒の森の中にぽつりと立っていた施設を見つけ、そして俺はその中の光景を目の当たりにした。
「ガスマスクを着け、防寒具を着た何人の大人達、そして苦しむ何人もの子供。既に息絶えていた子もいた……だけど大半は毒ガスが回っていて、苦しんでいたんだ」
「ああ、そうだよ……ッ!」
「……俺はその状況で、幼かったけど何とかしなきゃと思って―――それで大人たちを神器でぶっ潰して、それでまだ息の合った子の元に行った」
俺は思い出すように祐斗に話す。
祐斗はずっと涙を流しながらその写真を握り締めている。
「俺は毒を消す神器を創って、何とか皆を助けた……それがそこに映っている子たちだ」
「……イッセー君! 君はどうして、そこまで……!」
……祐斗は床に膝を付けて、何度もありがとうと言う。
「……礼、なんて言うなッ。俺は全員を助けることが出来なかったんだ」
……そう、俺は当時はまだフェルの創造の神器を使いこなせていなかった。
だからこそ、俺はまだ息の合った、確実に助かると思った子供を優先的に助けた。
もっと俺に力があれば、皆を救うことは出来たんだ。
何かを救うために、他の子を見殺しにしたんだッ!!
「それでも、君は! 君は……皆を救ってくれたんだッ! どんなに礼を言っても、感謝しきれない! 僕はそんな君を……君にひどいことを言ったんだ!」
「……お前は、あいつらと同じことを言うんだな」
……俺は数人しか救うことが出来なかった。
毒が完全に回り切って、いくら神器を使ってもどうにも彼らを助けることができなかった。
でもまだ何とか意識があって、俺は何度も何度も謝った。
でもあの時、あの子たちは俺の顔を見て、笑顔で言ったんだ。
「『ありがとう……たとえ僕達、私たちが死んでも、それでも君は救ってくれた』―――あの子たちが俺に最後に言った言葉だよ。全く……死ぬのに、ありがとうって何だよな……」
「……僕には気持ちが痛いほどに分かる。僕達を救ってくれる人は誰もいなかった……だけど君だけが皆を救ってくれたんだ……だからイッセー君、ありがとうッ!」
……そっか。
ずっと、俺の胸に残っていた後悔の一つが祐斗の言葉で楽になった気がした。
「あいつらさ、北欧の小さな村で皆で住んでいるんだ。今度、一緒に会いに行こうぜ?きっとあいつら、お前が生きていたことを知ったら喜ぶからさ!」
俺は祐斗に手を伸ばすと、祐斗は俺の手を握って立ち上がる。
……もうそこには、復讐だけのために生きている祐斗の姿はなかった。
そして祐斗は部長の前に膝まずく。
「……たびたびのご無礼、お許しになるとは思いません……ただ、もし許していただけるなら、僕はリアス部長の『騎士』として終始、命をかけて眷属を守ることを誓います」
「……祐斗」
部長も祐斗の姿を見て、優しい表情になった。
「顔をあげて、祐斗。あなたは私の大切な『騎士』……バランス・ブレイカーに至るなんて主として光栄よ。祐斗―――皆と共に、イッセーと共に最強の『騎士』になりなさい」
「―――はいッ!」
……ああ、これでいい。
俺は祐斗を横目に、俺の顔を驚いたような顔で見ている三人の元に行った。
「……イッセーさん。イッセーさんは、本当にすごいんですね。色々な人を守って、救って、皆を笑顔にして」
「すごくないよ。アーシアだってすごいじゃん―――いつも俺をなごませて、癒してくれる……今はつらいかもしれないけどさ、少しずつでいい……受け入れていこう」
俺は静かにソファーに座るアーシアの頭を撫でると、アーシアは俺の胸に抱きついて泣いた。
それに呼応するように、イリナも俺に抱きついてきたけど、俺はそれを優しく壊れものを扱うように抱きしめる。
泣きたいなら泣けばいい、つらいなら胸くらいは貸してやるって言ったからな。
「つらかったよぉ……ッ。イッセー君……ずっと信じてきた神様がいないなんて! 私は…………」
「……悪いな、兵藤一誠―――私も、肩くらいは貸してくれ」
嗚咽を漏らすイリナと同じくして、ゼノヴィアは俺の肩にちょこんと頭を乗せる。
イリナやアーシアと違って静かだけど、ゼノヴィアもつらいんだ。
ずっと信じてきた神の不在を突き付けられて、生きる理由を失ったような感覚。
……俺は、痛いほどに良く分かる。胸を引き裂かれるような、つらい気持ちが。
だから今だけは甘えていい、そう思って俺は何も言わなかった。
「あらあら……妬いてしまいますわ―――でも今は譲りましょう」
「…………同感です」
朱乃さんと小猫ちゃんは優しい顔でそう言っていて、祐斗も俺の方をにこりと笑っている。
部長も優しい笑顔で口元を緩めている。
……これで俺達、グレモリー眷属はまた一つになれる。
今回の件は、俺にとっても相当堪えることがあった……でも今、俺が冷静でいられるのはきっと…………皆がいてくれるから。
そう、信じた。
「終章」 明日は必ずある
「……そっか、イリナはもう帰るのか」
「うん」
俺は今、空港にいる。
そしてイリナのご要望で俺一人でいて、そしてイリナは本国へ帰るために空港に来ていた。
イリナは少し表情が優れないけど、でもそれでもある程度は元気になっていた。
「イッセー君には感謝してるわ。もしあの時、イッセー君が居なかったら私はもう死んでたと思うわ。神の不在なんて、そんなこと聞いてしまえば頭がおかしくなっちゃうもの!」
イリナは苦笑いをしながらそう言うと、そして俺の手を握ってきた。
「……この手で、イッセー君は木場君を救って、アーシアさんを救って、リアスさんを救って、そして私とゼノヴィアまで救ってくれた……もう、イッセー君が神様で良いんじゃないかしら?」
「……神様ねぇ。俺が白いひげつけて、杖なんかつけてたら可笑しくないか?」
「あはは! それは神に対する偏見ね! …………でもそうかもしれないわ」
イリナは俺の手を離して、少し俺から離れる。
「イッセー君は神様より、ドラゴンの方があってるわ。優しいドラゴン、いいあだ名ね。そう……イッセーくんは優しいドラゴン、最高の赤龍帝。ホント、罪な男になったわよ!」
……その時、イリナが搭乗する飛行機のアナウンスが入った。
「時間みたいだわ……最後にもう一度、ありがとうね? それと……あの子のこと、宜しく頼むわ。私もだけど、彼女もそんなに強くないから」
「ああ……でも忘れんなよ? 例え種族は違えど、お前は大切な俺の幼馴染。困ったら、いつでも電話してこい! 一瞬で助けに向かうからさ!」
「―――うん! ありがとう、イッセー君! イッセー君のこと、祈ってるわ!」
そう言ってイリナはスキップで搭乗口に向かう。
イリナは最後まで、笑顔だった。
「……さて、俺もそろそろ部室に行くか」
俺はその場を振り返ると……
「やぁ。イリナは無事に行ったようだな」
「ゼノヴィアも、見送りに来てたのか?」
……そこには、ゼノヴィアの姿があった。
彼女の姿は駒王学園の女子生徒の制服。
非常に似合っているけど、彼女がその制服をきているのには理由がある。
「歩きながら、少し話さないか?」
「ああ、いいぜ」
俺はゼノヴィアと隣になって歩き始める。
空港から出て、徒歩で部室に向かう。
「……神の不在を知った時、私は精神が崩壊すると思ったよ」
「そりゃあ信じていたものがいなくなったからな」
ゼノヴィアの言葉に俺は軽口でそう言うと、ゼノヴィアは苦笑いをしていた。
そしてまた話し続ける。
「何も信じられなくなって、自暴自棄になっていたさ……でも君は一人で私たちに言葉を掛けてくれた。私はあの言葉どれだけ救われたことか―――だから私は、悪魔になった」
……そう、ゼノヴィアは悪魔になったんだ。
この事実はまだ部長と俺しか知らないけど、ゼノヴィアはわざわざ俺と部長の元まで来てお願いしてきたんだ。
そして部長が『騎士』の駒を与えてゼノヴィアは俺達眷属の仲間になった。
「私はアーシア・アルジェントに酷いことを言ったな。魔女か……私だって今は彼女と同じ…………いや、彼女を愚弄したから、なおひどい」
「分かっているなら、謝ったらいいさ。アーシアは優しい、きっとお前とも仲良くなれるよ」
「…………時に兵藤一誠、私も君のことをイッセーと呼んでも構わないか?」
ゼノヴィアは改まったという感じでそう言ってくる……頬はほんのり赤く、俺を上目遣いで見てそう言ってきた。
「ああ。好きに呼んでくれて構わない」
「ありがとう。それにしても男に甘えるなど、私は生まれて初めてだぞ」
ゼノヴィアは先日のことを思い出して、目を逸らしてそんなことを言ってきた。
そんなことを言ってしまえばイリナは甘えっぱなしだけどさ。
「……あぁ、そうか。そういうことか」
するとゼノヴィアは何かに気がついたような顔をしていた。
「―――イッセー、私はどうやら君に惚れたみたいだ」
「そうなんだ……って!?」
……突然のゼノヴィアの告白に、俺は情けなく声をあげる。
いや、この状況は以前のアーシアと一緒だからさ!
驚くよ、そりゃ!
「最近の私は気付けば君のことを考え、近くにいれば君を見てしまう。君の隣にいるだけで胸は高鳴るし……これは惚れたということじゃないのか?」
「……良く恥ずかしげなくそんなことを言えるな」
俺は恥ずかしくなって視線をゼノヴィアから外した。
「神はいない。イッセーは私に言っただろ? 愛がないなら愛してやる、と……」
「あれは言葉のあやだからな!? 確かに本気で言ったけど!」
「ふふ……イッセーは意外と面白いな。なに、1パーセントくらい冗談だよ」
残りの99パーセントは本気なのかよ、おい!
「……とにかく、私はイッセーを信じるよ。悪いが、今の私は支えを失った家も同然だ。だから君に支えて貰うが……」
「……ま、それくらいだったらお好きなように。約束は守るからな」
「……ありがとう、イッセー!」
……ゼノヴィアは満面の笑みでそう言った。
―・・・
俺とゼノヴィアが部室に向かうと、何とそこにはティアいた!
「おぉ、イッセー! お邪魔しているぞ~……ほう、リアス・グレモリ―の『女王』のお茶は感慨深いな!」
しかもお茶菓子を出されてすごいくつろいでいらっしゃる!
「ええっと……どうしているんだ?」
「おお、すっかり忘れていたぞ! ほら、あの時に私とイッセーで倒したあのクソ犬がいるだろ?」
「ああ、いたな」
「あれ、私のペットになった」
「はいぃぃ!?」
俺は突然のティアの発言につい叫んでしまう!
あれ、相当凶暴だからペットとかそんなレベルじゃないだろ!?
「あの犬はどうやら私とイッセーには従順みたいだぞ? 私の命令で、今は首を一つにしているしな!」
「待って、あいつ首を一つに出来るの!?」
「ああ、しかも小さくなれるしな! ケルベロスの亜種というやつは随分と利口らしい。今はチビ共の相手をさせているよ。今のあいつは柴犬くらいの大きさじゃないか?」
……ケルベロス、お前は何でもう。
ま、平和ならいいか。
それにあいつは普通に強いし、ティアが管理してくれているなら心強いな。
「まあそう言うことだ。後は弟の顔を見たかったんだが……色々と顔が増えているな、この眷属は」
ティアはゼノヴィアを見ながらそう言った。
部室の皆は特に驚いていないから、多分部長に既に話されていたんだろうな。
「……そう言えば、祐斗はいないんですか?」
「祐斗なら屋上でたそがれているらしいわ……呼んできてもらってもいいかしら、イッセー。皆に話したいことがあるから」
「わかりました、部長」
俺は部長の言葉を聞いて、そのまま旧校舎の屋上に行った。
屋上と言うより、屋根の上だな。
祐斗は屋根の上で、静かに寝転がっていた。
「何してるんだ? イケメン」
「……イッセー君。うん、少し空を見てたんだ」
俺はそういう祐斗の隣に同じように寝転ぶ。
「……この空は、どこまで続いているんだね。この空の向こうには僕の同士がいて、僕の周りには仲間がいる。僕はそんな簡単な事を忘れてたんだね」
「忘れてなんかねえよ。お前はあのときでも少しでも冷静であろうとした。だからお前は怒りでただ暴走していただけだ」
俺は少し笑むと、祐斗は苦笑いをしてありがとうと言ってきた。
「……君が、何を憎んでいるのかなんて僕には想像できない」
……祐斗は俺にそう言ってくる。
ああ、そう言えば俺は祐斗に怒って、あんなことをいったな。
「もちろん、知りたくはあるさ……でも、僕には想像もつかないことを君は背負っているんだろうね」
「……そんなんじゃねえよ」
俺は切りすてるようにそう言うと、祐斗は話し続けた。
「……僕は聞かないよ。気になるけど、君が皆に、僕に話してくれるまでは僕は僕のままでいるよ。君が気付かせてくれたんだ―――仲間って、いいね」
「今更か?」
俺達はどちらともなく笑う。
「お前は最強の『騎士』、俺は最強の『兵士』になろうぜ」
「うん……僕は君に追いつけるように強くなるよ。イッセー君は僕の目標だからね」
俺はそう言って、祐斗と拳をぶつけあう。
「それと忘れてねえよな?お前、部長からのきついお仕置きが残っているのを」
「―――え?」
祐斗の俺の言葉を聞いた瞬間、顔が青ざめる。
そう……部長は許したけど、別にお仕置きをしないとは言っていないからな!
「部長からの魔力を使った尻叩き1000発……そう言えば匙は10000発やられたって言ってたっけ?」
「……それは、諦めるしかないのかな?」
「うん、俺の中のドラゴンも諦めろだってさ」
実際には何も言っていないけどな。
「んじゃ戻りますか。祐斗、部長は優しいからせいぜい1000回で止めてくれるから安心しておけよ」
「……ふっ、あはは! 本当に……君がいたら退屈しないね」
……祐斗のこんな笑い方を見たのは初めてだな。
でもいいじゃねえか……お前はそれの方がいい。
それでお前や皆は明日に進めばいいからな……俺はそう思った。
「明日は必ずある……本当に、そうだよな」
俺は聞こえない声でそう言って、そして俺と祐斗は皆の元に戻って行った。
―――そうだよな、ミリーシェ?