ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第6話 堕天使と遭遇と決戦の学園です!

 次の日は休日で夕方、でも俺達はオカルト研究部部室にいた。

 いるのは部長、朱乃さん、小猫ちゃん、アーシアでそして俺……祐斗は昨日の夜にバルパーとフリードを追いかけてから姿を見せていないって状況だ。

 そして部長はそのことで腕を組んで考えている。

 

「祐斗のことは、聖剣使いが二人もいるのだから、フリード・セルゼンに遅れをとることはないと思って特に呼び戻さなかったけど……流石にこれは問題だわ」

「…………最悪な事態にならなきゃいいけど」

 

 未だ、俺達のところに帰ってこない祐斗。

 俺が予測している最悪の事態は、それは堕天使との接触だ。

 今回の件でコカビエルが関わっているのは間違いなく、そして祐斗の復讐は聖剣計画が繋がっているのも明確となった。

 でもまだ、不思議なのは堕天使であるコカビエルが何でわざわざバルパーとかフリードに力を貸してるんだろうな……

 確かにエクスカリバーは強力だし、価値も高いと思うけど、それでも堕天使側がエクスカリバーを奪い、しかも悪魔側のこの町に来た意味が分からない。

 コカビエルはそのリスクに見合う何かがあるのか?

 

『……コカビエルか。奴は聖書に載るほど昔から生きていた堕天使。そして戦争を生き抜いてきた者だ。そんな男がわざわざエクスカリバーを狙う理由か』

『理由があればいいのですが……』

 

 ……理由があれば、か。

 理由がなかったら単なる馬鹿か、それか……想像が付かないほどの厄介な存在だ。

 とにかく、祐斗がコカビエルに遭遇しているなら結構、事態は余り良いものじゃないかもしれないな。

 

「……部長、こうなってしまえば仕方ないと思います―――今すぐに祐斗を探しましょう」

「ええ、そのつもりよ。使い魔を使って祐斗達を探しましょう……イッセーも頼めるかしら?」

「はい!―――……ッ!」

 

 ……今、俺の無意識の感覚で何かを察知した。

 肌を刺すような感覚。

 でも堕天使とは……何か違う。

 

『……邪な聖の力。だがこれは、堕天使なのか?』

『ただし力を使ったわけではなく、それも挑発でしょうか? 感覚で言えば相手は相当遠くにいると思います』

 

 相手の居所を察知してもらう……コカビエルなのか?

 

「……部長、少し俺は出てきます」

「イッセー?」

 

 部長は怪訝な顔をするけど、俺はそれを無視して窓から出て校舎を足踏みで蹴って、そして悪魔の翼で飛び上がる。

 分からないけど胸騒ぎがする。

 

「ブーステッド・ギア! フォースギア!」

 

 俺は空を飛びながら二つの神器を発動する。

 赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)

 それぞれが胸にエンブレムブローチ、左手に篭手として装着されると、俺は倍増と創造力を溜めていく。

 俺はしばらくの間、空を全力で飛び続けている……その最中だった。

 

「……どういうことだよ。相手の気配が消えた?」

 

 俺は今まで感じていた邪な聖なる気配が消えたことに気付いた。

 俺は空で止まって辺りを見回すけど、誰もいない。

 すると俺のケータイが空中で鳴り響いて、俺は空中でケータイをポケットから出すと、そこにはアーシアと表示されていた。

 

「もしもし?アーシアか?」

『イッセーさん! 突然出て言って部長さんが驚いているんですが、一体何があったんですか!?』

「……いや、何でもないよ。とにかく部長には俺はこのまま祐斗を捜索に行くって言っておいてくれ」

『は、はい……気をつけてくださいね、イッセーさん』

 

 アーシアの心配そうな声が俺の耳に通る……はは、心配しなくても平気なのにな。

 俺はそれを聞いて通話を切る。

 

『……主様。今の状態で言いたくはなかったのですが、今の感覚―――もしかしてとは思いましたが、わたくしは存じているかもしれません』

 

 ……なんだって?

 フェル、お前はさっきの存在を知っているのか?

 

『ええ……今気付きました。長い間、あの者のことをずっと忘れていたのです。本当に長い間、名前すら発していませんでしたので』

 

 それで、さっきの奴はいったい……俺がフェルにそう尋ねると、フェルは重たい口を開けるように言い放った。

 

『二天龍が対に成っている龍……すなわち赤龍帝と白龍皇がいるように、無限と夢幻の龍が二対になっているように―――わたくしにも、対極に位置している龍がいます』

 

 ―――初耳だ。

 

 いや、でも考えてみればそうか。

 創造の龍がいて、その対極がいないはずもない。

 

『ええ、言っていませんし、忘れていましたから……ですがあの感覚、わたくしとは全くもって対極の力……―――神焉の終龍(エンディング・ヴァニッシュ・ドラゴン)と呼ばれる、終焉を司るドラゴンです』

 

 …………終焉の、ドラゴン。

 確かに対極の存在だ……始創と終焉、始まりと終わり。

 だけど、何でこのタイミングでそんなやばい感じのドラゴンが。

 

『……あのドラゴンはわたくしと共に「次元の深奥」に封じられていたはずなのですが……すみません、わたくしも奴がどのように封じられたかまではわかりません』

 

 ……いや、いい。

 むしろ今はそいつのことは考えてたら目の前の問題に集中できない。

 終焉とかなんだか知らないけど、そいつは今の状況に全く関係ない。

 

「今は上空……ちょうどいい」

 

 俺は魔法陣を4つ、展開させる。

 これは使い魔を召喚する魔法陣であり、それを4つだからもちろん今回はティアも召喚させてもらう。

 相手はコカビエル、チビドラゴンだけでは流石に危険すぎる。

 魔法陣は光り輝き、そしてその中から人間の姿のティア、そしてドラゴンの姿のフィー、メル、ヒカリが現れた。

 ティアは三人を抱えながらドラゴンの翼を生やして宙に浮かび、こちらを伺っている。

 

「一誠、珍しいな。4人を同時に召喚とは、何かあったのか?」

 

 長身美人のティアが空中でドラゴンの翼を織りなして俺の元に来る。

 チビドラゴンズはいつも通り、俺の腕に抱きついてきたから俺の腕の中にいるけど……まずは説明だ。

 

「俺の仲間の祐斗って知っているか?」

「ああ、あの復讐に燃える少年か。あれほどの負の感情であればチビどもが嫌悪するのも分かるな」

 

 ……やっぱり、チビドラゴンズが祐斗を嫌っていたのは気配で察したからだったのか。

 

「ドラゴン、しかも子供のドラゴンはそう言うのに敏感だ。幼いながら奴の問題を察していたんだろうな……私の場合は単に経験則だが」

「……ああ、その祐斗が今、復讐対象が目の前にいて―――」

 

 俺はティアに今まであったことを簡単に説明すると、ティアは理解したのか腕を組んで考えていた。

 

「……コカビエルか。ふふ、堕天使の幹部で相当の実力者―――是非とも戦いたいものだが。今回はイッセー、お前が戦うのだろう?」

「当然だろ? それにティアの力を借りずとも、戦えるさ」

『Force!!!』

 

 そうしていると40段階の創造力が溜まる。

 俺はそこで一度、創造力の創造を止める……これはつい最近になって発現した新システムで、創造力を任意で止めることが出来るんだ。

 40回以上の創造力は精神力に負担がかかり過ぎるからな。

 

「なるほど、一誠は常に進化をつづけているようだな」

「まあ赤龍帝で、創造の力まで備わっているからな」

 

 俺は軽口をたたくようにそう言うと、ティアは俺の胸の中の三人のうちからフィーとヒカリを両手で抱える。

 

「こいつらは私が持っていこう。一誠の願いは木場祐斗の発見、もしくはその聖剣使いの確保だったな?」

「ああ……メルと俺で違うところを探す。頼むぜ?」

「私を誰と思っている……いくぞ、チビ!!」

 

 ティアは人間の姿のまま上空からすごい速度で移動して行った。

 俺にくっ付いていたヒカリとフィーを無理やり剥がすと、二人は何か呻き声を挙げていたがティアは気にする様子もなく。

 俺は姿を見送ると、胸元のメルにコンタクトを取った。

 

 

 

「さてメル。俺達も行くぞ!」

「にいたんといっしょ♪」

 

 ……ちなみにいつの間にか、メルは人間の幼女の姿になっていた。

 それから俺とメルは上空から町中を探し続けた。

 魔力の微かな乱れも、全てを何とか察知するために目も瞑る。

 ―――その時、俺は何かを感じ取った。

 

『……相棒、次こそ完全に強力な堕天使の気配だ』

『しかも力を使っています』

 

 ……俺はドライグとフェルの声に心で頷く。

 ああ、俺も今さっき察知した。

 しかも同じ所から聖なる力も……―――まずいな。

 これは確実に俺の危惧していた最悪の事態だ……ッ。

 

「メル! しっかりつかまっとけよ!!」

 

 俺はメルが俺の腕にしがみつくのを確認すると、篭手の力を少し解放した。

 これも最近になって発現した新しい篭手の能力で、溜まった力を全て解放するんじゃなくて、ある程度だけを解放できる”部分解放”って奴だ。

 って言っても基本力を全力で解放し、そこから倍増の力を操作する俺からしたらそこまで重要な技でもないけどな。

 

『Part Explosion!!!』

 

 その音声が”部分解放”の音声で、俺は上がった魔力を駆使して空中を駆ける。

 速度で言ったら戦闘機位は出てるんじゃないかな……流石に継続でここまで速度を出すのはつらいけど。

 俺が気配に近づいた時、ちょうど光のようなものが辺りを覆い、そして次の瞬間、轟音が鳴り響いた!

 

「いた―――しかも現在進行形で襲われてるって! ったく、世話が焼ける!」

 

 俺は目視で確認すると、そこにはある存在に襲われている三人の姿。

 町のはぐれにある人通りがほとんどない山に近いところだな。

 そして一人、異様な人物がいる―――10枚の黒い翼を生やす堕天使コカビエル!

 無数の光の槍で三人を襲っているけど……いや、祐斗とゼノヴィアが戦線離脱している。

 

「ったくあのバカ! 逃げ遅れてんじゃねえよ!」

 

 俺は一人、光の槍の雨から逃げ遅れているイリナの姿を確認した。

 ダメージが激しい上に、しかもいきなり現れやがったフリードに襲われている!

 

「解放だ!」

『Explosion!!!』

 

 俺は篭手に溜まった全ての力を解放し、一気にイリナの元まで詰め寄ろうとする……けど一歩遅かった。

 

「なんですなんです、その弱さ!! 聖剣使いが聞いてあきれますわ! あはははは!!」

 

 ―――イリナは樹に首を抑えつけられて、そのまま聖剣を奪われていた。

 ……こいつは、どうしていつも俺の頭の中の「何か」をプツッと切れさせるんだろうな。

 今はもう相容れない関係かもしれない。

 聖教者と悪魔……だけど俺とイリナはそんなもん関係なく幼馴染だ。

 小さい頃からの、掛け替えのない友達なんだ。

 そんな大切な存在が傷つけられている―――我慢できる、かよッ!!

 

「……そこまでにしとけよ、クソ神父」

 

 俺はそんなフリードに向かって魔力弾を撃ち放った。

 直撃すれば確実に死ぬレベルの殺傷力を誇る弾丸。

 

「わ、わお!?」

 

 フリードはそれを天閃の能力を使ってで避ける。

 魔力弾は空中で霧散させて辺りに被害を出さないようにすると、俺はイリナの方に近づいて、イリナの体を支えるように抱き寄せる。

 

「……何やってんだよ、イリナ」

「っ……イッセー、くん」

 

 ―――イリナの体は、傷だらけだ。

 あの戦闘服は切り刻まれていて、更に体のいたるところから血が出ている。

 瀕死ではないけど、でもそれでも酷いけがだ。

 

「……ごめんね、イッセー君―――足を引っ張って……本当なら、関係ないのに……巻き込んで……」

「関係ないわけない。言っただろ? お前は幼馴染で、大切だって。例え種族が変わってさ。俺がやることは昔から何も変わらない―――必ず守るよ」

『Creation!!!』

 

 俺は溜まった力の一部を使って回復の神器、癒しの白銀(ヒーリング・スノウ)を創ってイリナの傷を回復させて、その場に寝かせる。

 イリナの表情は幾分穏やかなものに変わり、そして気を失った。

 

「よう、フリード、それに……コカビエル。俺の幼馴染が随分とお世話になったようで―――殺すぞ」

 

 俺は樹の上に立っているフリード、そして空中で悠然と浮いているコカビエルに交互に睨んでそう言った。

 

「……ほう、貴様は今代の赤龍帝か。既に話は聞いているぞ。何でも異様に強く、なおかつ良く分からん力を有している、とか」

「おいおい、イッセーく~ん……まさかまさかのお早い登場だねぇ。さすが、俺の宿敵くんだ!!」

 

 俺は警戒を解かない。

 言わば今は硬直状態だ……下手には動けない。

 俺の傍には動けないイリナ、しかも武器すら持っていないんだ。

 俺が動いたら、イリナが無防備になってしまうからな。

 

「……賢明だな、赤龍帝。今動けばその後ろの女は無防備―――だが安心しろ、俺はその女に興味はない」

「どうだか……でもお前に一つ言っておくぞ? ―――俺の大切に手を出してんじゃねえ、堕ちた下種」

「―――ッ!!」

 

 コカビエルは俺が発する殺気に近い魔力に、少し表情を変える。

 その時、俺の後方から赤い魔法陣が展開されて、そこから祐斗を除く眷族の皆、そしてシトリー眷属の会長、椿副会長、匙が現れる。

 

「イッセー、一体何が……―――コカビエル…………ッ!?」

「……部長、俺の後ろで倒れているイリナを保護してください」

 

 俺は振り返らずに部長にそう言う。

 

「リアス・グレモリーにソーナ・シトリーか。……ところでリアス・グレモリー、貴様、どうやってそこの赤龍帝を従えている?」

「何を言って……」

「そこの男はお前には見合わぬ存在だ。何を使った。体を抱かせて契約でも結んだのか? それとも好条件を叩きつけたか? 悪魔なら前者も後者もいけるだろうがな」

 

 ……勝手な事をコカビエルは部長に言う。

 にしてもふざけたことを抜かしやがるな、あの野郎は。

 

「俺は体でも、条件を出されているから部長の下僕になったわけじゃねえよ。ただ、仲間だから、大切な仲間だから一緒にいる。勝手な事を言うな!」

「……勿体ないな。たかだか魔王の妹にその身をささげるなど、愚の骨頂だが……まあいい。どちらにしても、俺の計画には問題は発生しないからな」

 

 ……ふざけやがって。

 イリナを傷つけて、何も知らないくせに部長のことを勝手な事を言いやがって……絶対に潰す。

 

「コカビエル、貴方の目的は何なのかしら? 悪魔と天使に喧嘩を売って、貴方は一体何をしたいのかしら?」

「―――つまらんのだよ。こんな平和は」

 

 コカビエルは、そう切り捨てた。

 その表情は奴の言う通り、つまらないの一言。

 この世の何もかもにうんざりしていると体現しているようだった。

 

「戦争が終わり、俺のとこの幹部は戦争に消極的になりやがった。しかもアザゼルに至っては神器の研究に没頭して戦争をしないと断言する始末―――どいもこいつもふざけてやがる!!」

 

 ……堕天使の総督、アザゼル。

 堕天使サイドのリーダーで、こいつの上司って言う具合か。

 つまりこいつは―――自分のリーダーである存在を差し置いて、このような暴挙に打って出ているってわけだ。

 

「お前は……戦争を望むのか?」

「分かっているじゃねえか、赤龍帝! そうだ! 俺は戦争がしたい! 殺して殺して、殺しが正当化されるものを望む! エクスカリバーを奪えば天使側は戦争は攻めてくる思ったんだが、送ってきたのは雑魚神父と、そこの聖剣使いのみ・・・ならば次はお前達、悪魔に喧嘩を売ろうと思ったわけだ」

 

 ……そんな理由でお前はイリナを傷つけ、俺達を襲うつもりってことかよ。

 

『まさしく戦闘狂。狂っているな』

 

 ドライグの呆れ声が耳に通るも、コカビエルの汚い声はまだ響いていた。

 

「……魔王の妹を殺せば、魔王は出てくるだろうな。だから俺はお前らを殺す。しかもそのついでに、そこの赤龍帝と戦える……面白い!」

「狂ってやがるな、お前」

「いやいやイッセーくん! この狂い具合が最高のスパイスでしょ!?」

 

 フリードが俺の前に立ちふさがる。

 手には聖剣エクスカリバー……しかも二本だ。

 イリナの擬態と天閃の聖剣。

 

「正直、戦争とかそんなものどうでも良いんで~、ちょっと俺っちとやろうぜぇぇぇ!! なあ、イッセー君よぉぉぉぉ!!!」

 

 フリードは天閃の速度で俺に近づいてくる……遅い。

 目で追える、全ての行動が嫌なほどにスローモーションに見える。

 

「……フリード、何をしている。お前は先に例の場所に向かえ」

「…………はぁ、仕方ないっすわねぇ」

 

 フリードはコカビエルの声で動きを止めて、そのまま俺に背を向ける。

 

「イッセー君、じゃあまたあとでねぇ? はい、ちゃらば!!」

 

 フリードはそう言うと、また閃光弾で姿を消しやがった。

 そしてその場に一人残されたコカビエルは未だ宙に浮かび続け、そして俺たちを見下すように見下ろしている。

 

「さあ、リアス・グレモリーにソーナ・シトリー。そしてその眷属。俺はこの町の、駒王学園を中心に破壊活動を行う。止めたければ、こいつを殺してでも来るのだな!!!」

 

 ッ!!

 コカビエルは突然、二つの魔法陣みたいなものを展開させて、俺達に無数の光を槍を撃ち放ってくる。

 だけど問題はそれではなく……もう一つの魔法陣。

 部長や他の皆は魔法陣を展開させたり、避けたりしてそれを回避していて、俺は魔力でそれを打ち消して魔法陣を見ている。

 

「赤龍帝、俺と戦う資格があるかはそれを殺して証明しろ! なに、最強クラスの魔獣だが、ドラゴンなら殺せるだろう!!」

 

 …………そういうことかよ。

 俺はコカビエルのあの魔法陣を正体が分かった―――あれは召喚陣。

 

「部長、この一帯に簡易的な結界を張ってください」

 

 俺は部長の隣でそう言った。

 そして次の瞬間だった。

 

 ガァァァァァァァァァァァァアアアアア!!!! ……悲鳴に似た魔物の叫び声辺りに鳴り響いた。

 

「こ、これは……ケルベロス!? でも何で―――首が九つもあるの……ッ!?」

 

 部長は驚いている。

 そりゃそうだ……俺達の目の前には身の丈が異様にでかい、9つの首を持つ魔物がいたんだからな。

 ケルベロスを合成したのか、それとも変異種かは知らないが……俺が知る中では最強クラスの魔物だな。

 

「……今すぐにここから離れて学校に向かってください」

「イッセー? もしかしてあなたはこれを……」

「ええ。こいつは俺が戦います」

 

 皆、驚いた表情をしている。

 だけど仕方ない……あれは正直、上級悪魔でも厄介な魔物だ。

 9つの首なんか聞いたことがねえ……そんな未知な化け物を皆に戦わせるたけにはいかない!

 あいつはまだ完全に召喚されていないからまだ動いていないけど、でももう時間の問題だ。

 

「ダメよ! いくらイッセーでも、こんなのを相手にしたら!」

「……俺が一番可能性は高いです。それに俺は大切な仲間を放って死にはしませんよ。だから―――――行け!」

 

 俺は最後の語尾を鋭くした。

 もう限界だ……魔物は動き出す。

 

「……わかったわ、イッセー…………お願いだから、帰ってきて!」

「…………」

 

 俺は何も言わずに皆を背中越しに見送る。

 応える必要なんかない。

 

『ああ、相棒……さぁ、やろうか』

『共に再び、戦いましょう』

 

 俺の相棒もやる気になったところで、俺は手をフェルの神器が装着されている胸に重ねた。

 

「『―――創りし神の力……我、神をも殺す力を欲す』」

 

 俺は呪文を呟くと、神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)は光輝く。

 

「『故に我、求める……神をも超える、滅する力―――神滅具(ロンギヌス)を!!』

『Creation Longinus!!!』

 

 神器から光の球が俺の右腕に漂い、次の瞬間に俺の右腕に見た目が左と同じで色が異なる神器。

 白銀龍帝の篭手(ブーステッド・シルヴァーギア)が現れた。

 光が止まり、篭手が完全に顕現した状態で俺は右拳を強く握る。

 ―――よし、戦える。

 

「紅蓮と白銀の篭手で戦うのか」

「……ティア?」

 

 すると上空からフィーとヒカリを抱えたティアが下りてきて、俺の隣に立つ。

 その表情から察するに、恐らく今の事態を大体理解出来ているんだろう。

 俺は詳しくは語らず、ティアに話しかけた。

 

「……禁手は強いけど、今はまだ連続では使えないんだ。篭手に新しいシステムが生まれたからってドライグが言ってたよ」

「……使えないゴミめ」

 

 ……ティアの毒舌がドライグの心に刺さる!

 

『ドライグ、感謝はしていますよ? 最近、主様はドライグの力ばっかり使って、わたくしの力はご無沙汰でしたから……さぁ! 使えないドライグは放っておいてやりましょう!!』

『うぉぉぉぉおおお!!!! 止めろぉォォォォォォォォ!!!!』

 

 ど、ドライグが叫ぶほどに傷ついてる!?

 止めてあげて、それ以上はドライグが!!

 

「ああ、もう今度絶対に慰めるからごめん! いくぜ、ツインブースター・システム!!」

『Start Up Twin Booster!!!!!!!』

 

 俺の掛け声でツイン・ブースターシステムが発動する。

 

「……亜種型のケルベロスが動けるようになったようだ。ふふ、コカビエルは譲るが、だがこいつは私も戦わせてもらうぞ!!」

 

 ……するとティアは人間の姿のまま体から翼、尻尾、そして指はすげえ長い爪が生えた。

 ―――まさに人型美女ドラゴンってとこか。

 

『Boost!!!!』

『Boost!!!!』

「……前よりも倍増の質が上がってる?」

『ああ、相棒は日々、成長しているんだ。倍増して上がる能力は以前とは格別に上がっている』

 

 おぉ、復活してくれたかドライグ!

 

『ふふ……息子の励ましを聞いて起き上らないパパはいないさ……』

 

 か、カッコいいのに何かカッコ良くない!!

 

「まあとりあえずは良い! いくぜ、ドライグ、フェル、ティア!!」

 

 俺はそのまま、9つ首の化け物へと向かって行った。

 

 ―・・・

『Side:リアス・グレモリ―』

 

 私達、グレモリー眷属とシトリー眷属は学園の校舎の中にいる。

 早すぎるけど、コカビエルやバルパー・ガリレイ、フリード・セルゼンは運動場にいて、しかも何かをしていた。

 魔法陣らしきものを張っていて、何をしているかは分からないけど……

 

「……悪いわね、ソーナ。結界を任せて」

「いいです。それに私は貴方にそれ以上のものを任せてしまったのですから……」

 

 ……ソーナの眷属は現在、学園の周りに被害が出ないように結界を張ってくれている。

 そして私の仕事は……コカビエル達を止めること。

 

「……リアス、もうこれは私たちだけで済む問題ではないわ。サーゼクス様を呼びなさい」

「…………奴の目的はお兄様を表に出して戦争を起こすことよ? そんなこと、出来るわけ……」

「現実を見なさい。今、この場には兵藤一誠くんの姿はない。聖剣使いのイリナさんだって、怪我をして今は兵藤君の家で休ませている。木場君やもう一人の聖剣使いもいない……魔王様を呼ぶ以外、方法はないわ」

 

 ……分かっているわ。

 この場にはイッセーはいない。彼は私たちではどうにもならない魔物と今、この時だって戦っている。

 私はポケットにしまってあった3つの瓶を出した。

 

「……それは何、リアス」

「…………イッセーがもしもの時のために少し前に私に渡したものよ」

 

 これはイッセーが創った神器の空き瓶。

 確かイッセーの創る回復の瓶型の神器の、使い終わった後の瓶にイッセーの倍増の力を閉じ込めたらしくて、これを破壊すると一時的にイッセーの譲渡の力を手に入れることが出来るらしいわ。

 この神器は2日くらいしか持たない神器で、そして三本しかない。

 ……全く、イッセーは予言者かしら。

 こんなものを私に渡して、本当に心強いわ。

 

「私には、私達にはイッセーがついているもの。負けないわ……彼がいる限り」

「…………あなたにとっては兵藤一誠君は相当の存在なのですね。私から見れば、彼はもうグレモリー眷属には無くてはならない存在です」

 

 ……ええ、その通りよ。

 イッセーがいないのなんて考えれないし、そんなの考えたくもない。

 

「……どうか、ご無事でいてください。私は一応、もしもの時のためにお姉さまをお呼びします」

「……わかったわ。私もお兄様に連絡をいれるわ」

「あらあら―――それならもう連絡しておきましたわ。冥界からの軍勢は1時間ほどで到着するとのことです」

 

 ……すると私の後ろから朱乃が笑顔でそう言ってきた。

 

「……流石は朱乃ね。敵わないわ」

「私も死ぬわけにはいかないので……少なくともイッセー君と添い遂げるまでは」

 

 ……朱乃は顔を乙女のように赤く染めて、そんなことを言ってくる。

 

「ふふ……私は結界を張る作業に戻ります。どうか、ご武運を」

 

 ソーナはそう言って、その場から去っていく。

 私は改めて朱乃を見た。

 

「ずっと思っていたのけど、どうして朱乃はそこまでイッセーに拘るのかしら? そもそも、男に興味はないって……」

「イッセー君は別ですわ。そもそも、彼以外の男に触れられることも嫌なもので……」

「…………」

 

 ……目は少し本気だわ。

 

「部長には悪いですけど、私のイッセー君に対する想いは想像を絶しますわ。誰も理解は出来ないと思いますけど、私はイッセー君のためなら何でもします」

「……会ってまだ時間は経ってないのよ? それにアーシアと私とは違うはずなのに……」

「助けられたのは自分だけと思っているのなら、そうですわ……」

 

 ……朱乃が懐かしそうな顔をしていた。

 でも分かった……朱乃の気持ちは本物。

 こんな朱乃、見たことないもの…………私にここまで宣戦布告めいた口調の朱乃は今まで初めて。

 

「……でも私は負ける気はないわよ?」

「あらあら……残念ですが、イッセー君の正妻は私の物ですわ」

 

 ……私と朱乃の間に電撃が走るような緊張感が流れる。

 そしてそれを打開したのは―――

 

「い、イッセーさんのことで喧嘩はダメです!」

「…………イッセー先輩は、喧嘩が嫌い」

 

 ……アーシアと小猫が朱乃と私の硬直を解いてくれる。

 そうね、イッセーがそんなことを望むわけはないわね。

 そう思って私は肩の力を抜いて、そして私は三人の前に立った。

 

「……普段なら、この場にはイッセーがいるわ。だから皆、安心して戦える……だってイッセーは絶対に守ってくれるもの。でも今回はイッセーはいないわ。だからこそ、私たちは自分の力で戦わなければいけないわ」

 

 私はそう思って、3つの瓶の内の2つを小猫と朱乃に渡した。

 

「…………これは?」

「なんですの?」

 

 小猫と朱乃は不思議そうに、白銀の瓶を見ている。

 

「それはイッセーが私に託した神器よ。その瓶にはイッセーの譲渡の力の有する倍増のエネルギーが入っているわ。これの蓋をあけるか、破壊するかで発動するらしいわ。持続は恐らく少しだけ……言ってしまえば、オプションのアイテムよ」

 

 ……でもこれがあれば、少なくとも瞬間の攻撃力はコカビエルにも通るはず。

 小猫から聞いた話だと、イッセーの譲渡の力は相当の力が上がるのと……心地よさが半端ではないらしい。

 なんでも、イッセーを肌で感じるとかなんとか……

 

「アーシア、ごめんさなさい……これは3つ、戦闘をする者を最優先にしたら、貴方には……」

「……いいです。私はイッセーさんに言われたとおり、後方から皆さんのサポート―――私にしか出来ないことをしますから!」

 

 ……アーシアはイッセーの弟子みたいなものね。

 神器の扱いを学び、早朝は毎朝一緒に走っている。

 

「……さぁ、行きましょう。イッセーは必ず来てくれるわ。それまで、私たちの出来ることをしましょう!」

 

 ……三人とも私の言葉に頷く。

 ―――祐斗の連絡は未だつかず、ゼノヴィアさんも消息は不明。

 不安要素はあるけど、でも最善は尽くさなければならないわ。

 下手をすれば全てを壊される……そんなこと、絶対にさせない。

 私たちは未だかつてないほどの敵へと向かっていった。

 

 ―・・・

 

「……部長、あれは魔法陣ですわ」

 

 朱乃は私にそう言うと、私はその魔法陣に目を向けた。

 ―――そこには4本のエクスカリバーが魔法陣によって浮いている状況があり、その前にはフリード・セルゼン、バルパー・ガリレイと思われる姿があった。

 

「ほう……まさか傷一つなくここにたどり着くとは」

 

 ……私たちの上空から、コカビエルが見下げた目線で私たちを見ながらそう言ってくる。

 奴は宙に浮く祭壇のような椅子に座っていた。

 

「……何をするつもり、コカビエル!」

「なに……多少、バルパーの計画を手伝っているだけだ。ただ―――そのせいでこの町全土が消し飛ぶがな」

 

 ―――ッ!?

 町が……消し飛ぶ!?

 

「だが赤龍帝はどうした? 俺の楽しみはあいつにあって、そもそもあの男を怒らせるために、お前たちを殺すための魔獣を放ったんだが……まあいい」

 

 コカビエルが座っている祭壇が消え、奴は10もの翼を展開して宙に浮く。

 

「大方、ケルベロス亜種はあの男が戦っているのだろう? あれは俺のペットの中でも上級の堕天使を普通に殺してしまうほどのものだ……余興にはちょうどいい、貴様らは俺のペットの残りと戦っているがいい!!」

 

 ―――――ッ!!

 コカビエルはいくつかの魔法陣を校庭にまばらに展開させると、そこから幾匹の魔獣……

 三つ首のケルベロスが現れた!

 

「朱乃、小猫、戦闘準備よ!! アーシアは魔力壁でケルベロスから逃げて、要所で支援!」

「は、はい!!」

 

 アーシアは急いで魔力壁を展開させる……心もとないけど、仕方ないわ!

 あれほどの魔物だもの……死なない限りはラッキーと言っても良いわ。

 

「いくわ!」

 

 私と朱乃は悪魔の翼を展開させて、空中から魔力による攻撃、小猫は徒手格闘での応戦……だけど流石は地獄の番犬ね。

 攻撃が嫌なほどに通らないわ。

 

「……消し飛びなさい!!」

 

 私は魔法陣から滅びの魔力を撃ち放つ……攻撃は当たるけど、でも完全に殺せていない!

 

「きゃあ!!」

 

 ―――ッ!!

 アーシアの叫び声!? まさか……そう思ってアーシアの方に視線を送ると、そこにはケルベロスに襲われて魔力壁が壊れかけているアーシアの姿があった。

 

「アーシア! ……くッ! どきなさい!!」

 

 私は立ちふさがるケルベロスに魔力弾を加え続けるけど、アーシアの元にはたどり着けない……ダメ!

 このままじゃあアーシアが!

 

「こうなったらイッセーの力で!」

 

 私は魔力でイッセーから受け取った瓶を割り、そしてその力を吸収する。

 ――――途端に、私の体に電撃が走ったような錯覚が襲われた。

 

「あぁぁ……なに、これぇ……」

 

 心地いいとか、そんなレベルじゃないわ!

 イッセーと一体になってるくらいの心地よさ……もう一種のドラッグみたいなものね。

 でも力が……溢れる!

 

「はぁぁ!!」

 

 私は魔法陣から全力の魔力弾を放つ。

 するとわたしの目の前のケルベロスを屠る……これでアーシアを救う!

 ケルベロスはアーシアの魔力壁を破壊させ、そしてそのままその鋭利な爪でアーシアを裂こうとしていた。

 私は魔力弾をそのまま、そのケルベロスに放とうとした刹那―――

 

「―――遅れてすみません、部長」

 

 ……地面から、無限のように生えてきた魔剣によってケルべロスは串刺しにされた。

 そして光のようにケルベロスは消えていき、私はアーシアの前に立つ存在に目が入った。

 

「…………祐斗、遅いわ」

 

 ……そこには私の『騎士』、祐斗の姿があった。


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