ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第5話 聖剣破壊の共同戦線です

 俺、兵藤一誠は現在の服装はいつもと勝手が違う。

 実際には俺だけではなく、その場にいる匙、祐斗、小猫ちゃんも普段の駒王学園の制服ではなく、フリードが着ていた黒い神父服を着飾っている。

 そして俺達が今現在滞在しているのは、多少因縁のあるアーシアを助けに来たあの教会。

 流石に俺達が暴れたからすごい勢いで内装はめちゃくちゃだけど、俺達はここで神父服に着替えている。

 部長の目もさすがにここには来ないという考えからこうなったんだ。

 一応、アーシアには急遽悪魔家業の仕事が個人的に入ったってことで話をつけている。

 悪魔が神父服を着るのはどうかと思ったんだけど、祐斗からの情報とゼノヴィアの情報を合わせた結果、フリードは聖剣を神父などといった人間に使って、性能を確かめているらしい。

 っということで、囮捜査的な発想で俺達は4人は神父の格好をしているわけだが……

 

「悪魔が神父服姿とはね……」

「そこは我慢してよね。気持ちは分かるけど……」

「分かってるさ。目的のためだからね……どんなことでもするよ」

 

 祐斗はある程度、落ち着きを取り戻している。

 一応、復讐を果たせる一つのきっかけがあるからか分からないが、少なくとも最近の中では最も冷静な気はする。

 まあそれでも危うさは消えないんだけどさ。

 

「効率を考えよう。これだけ人数がいるんだ、二手に別れた方がいいだろうが……力を均等に分けたほうが良いか?」

「…………均等に分けるならイッセー君を一人、それ以外を一緒にしたらようやく計算がつくと思う」

 

 ……祐斗はやけに冷静にそう言うと、皆、黙りこくる。

 ゼノヴィアに関しては理解不能という表情をしているけど。

 ……どうして祐斗はそんなことを?

 

『それは相棒、ここにいる全員で襲いかかって来ても相棒は倒せないからさ』

『赤龍帝の禁手もありますしね』

 

 ……まあそうか。

 確かに自惚れを差し引いても負けるとは思わないからな。

 

「……ごほん! とにかく、二手に分かれよう。流石に一人では辛いだろうし、いざとなったら私は奥の手もある。よってやはり、当初の予定通り、悪魔は悪魔、私達は私達で動くことにする」

「もしどちらかが先に目的を見つけた場合は?」

「戦闘になれば嫌でも気付くだろう。気付き次第、援護に回る」

 

 ……確かにイリナとゼノヴィアが遭遇したら聖剣の波動は何となく察知できるし、俺達が遭遇したら魔力がだだ漏れだからな。

 嫌でも気付くのは当然か。

 

「了解。ただ油断するなよ? フリードは油断こそすれど、弱くはない。それにあいつだってエクスカリバーを扱っているんだからな」

 

 実際に見ていないから何とも言えないけど……と言うよりあいつは俺にぶっ飛ばされて、小猫ちゃんにぶっ飛ばされてるからな……どうしてもあいつが手ごわくなるって予想は出来ないな。

 

「分かっているさ…………そう言えば兵藤一誠。君には色々と感謝がある。それゆえに君に一つ、教えておきたい情報があるんだ」

「教えたい情報?」

「ああ……単刀直入に―――白き龍は、既に目覚めている」

 

 ―――――思ったより、俺の動揺は少なかった。

 その情報に驚いてはいるけど、どこか自分の中に冷静すぎる自分に俺は一番驚いている。

 白い龍……アルビオンは目覚めている、か。

 

『……相棒、分かっているな?』

 

 ああ、分かってる。

 嫌なほど冷静だからな……これからのことに支障を起こしてしまうほど、弱くはないさ。

 解決しないといけないことはエクスカリバーの問題だ。

 私情は挟まない。

 

「……そっか。情報をありがとう、ゼノヴィア」

 

 俺は礼を言うと、イリナとゼノヴィアは俺達に背を向けてその場から去っていく。

 さて……

 

「じゃあ俺達も移動するか」

 

 俺の一言ともに俺達は教会を出て、適当に夜道を歩く。

 でも俺達には圧倒的に情報がない。

 フリードは教会関係者を中心に襲っているらしいけど、こんな大っぴらな住宅街で襲ってくるのか?

 なんて俺は疑問を抱いてるわけだけど、流石に俺も落ちつかない。

 傍らには復讐に燃える祐斗の姿、友情に燃える匙、普段通りの無表情ながらも俺の服の裾を握る小猫ちゃん……

 しかも黒い神父服を着飾る何とも言えない集団だな。

 そして小猫ちゃんは可愛い。

 

「どこから探したら効果的だろうな」

 

 俺は呟きながら考える。

 フリードは教会から送られてきた神父を処分する形で殺していると言うのは明らかになっているけど、俺は実は祐斗の言ったことが気になっていた。

 それはフリードの様子が前よりも違っていたということだ。

 

「イッセー君。もう一度言っておくけど、僕はあのはぐれ神父と対峙している……だからあの神父は以前とは明らかに違っていたんだ」

 

 すると祐斗は今一度といったように話し始めた。

 

「まずはフリード・セルゼンと言う男の性格を考えると、神父を苦しませずに殺すなんてことをすると思うかい?」

「いや、思わない……むしろ苦しみを与えて喜ぶ部類の男だろ、あいつは」

 

 ……そこだ。

 祐斗の話では、フリードの野郎は聖剣を持っていて、しかもそれはエクスカリバー。

 そしてその能力は祐斗とゼノヴィアの情報から察するに、おそらく『天閃の聖剣』(エクスカリバー・ラピッドリィ)だろう。

 フリードの速度が前よりも上がっていた、斬撃の速度が速すぎる……これに該当するエクスカリバーは間違いなくこれだ。

 問題は、フリードが神父を残忍に殺さず、苦しみを与えないみたいな急所を突く的確な殺人を行ったこと……正直、気味が悪い。

 あいつが、人を殺すのにそんな躊躇をするとは考えられない……でもそれが本当なら真に厄介なのはあいつかもしれないな。

 警戒は怠らない方が良い。

 

「それとフリード・セルゼンは悪魔はどうでもいいと言っていたよ……そしてもう一つ―――彼は君にこだわっていたよ。そしてエクスカリバーを使いこなしていたよ」

「……厄介だけど、それよりも俺を拘る?」

 

 俺は祐斗の言葉に疑問を持つ……俺に拘る?

 どういう意味かは分からないけど、とりあえずはあいつを探すことに専念するしかないか。

 見つからない限りは正直、どうしようもないし……それに部長にいつ、この勝手がばれるかも分からないしな。

 

「とりあえず、神父の立場になって考えるか……匙、お前ならはぐれを探すならまず、どこを探す?」

「俺か?俺なら…………とりあえず誰も行かないようなところに行くかな?人目が少ないとこにいそうだし……」

「大体俺と同意見だな。そうだ、俺もまずは誰も近づかないようなところを探す」

 

 ゼノヴィア達の情報だけど、この町に潜入した神父は既に何人も殺されているらしい。

 大体が祐斗の言ったような殺され方だけど、そいつらは大抵は人目のない所で殺されている。

 

「……とりあえずは人目がつかないところを重点的に探すほかはないね」

 

 ……なら人手が必要か。

 

「よし、なら使い魔を使おう」

 

 俺は魔法陣を目の前に出現させる。

 全部で三つで、それぞれ光をあげる……これは使い魔の召喚のための魔法陣。

 ティアにたまにはチビドラゴンズを使ってくれっていわれているからな……あいつらも偵察くらいなら大丈夫だろ。

 

「おいで、フィー、メル、ヒカリ」

 

 俺の声で魔法陣から三つの可愛らしい見た目をした小さなドラゴンが現れて、それでを俺の胸にダイブしてくる!

 しかもすぐさま人間の姿……大体3歳くらいの子供の姿になった。

 真ん丸な目をパッチリと見開いて、召喚されたことを確認して嬉しそうに俺に抱き着いてきた!!

 

「にいちゃん!フィー、ずっとあいたかったぞ!」

「あはは……これでも3日に一度は召喚してるんだけどな?」

 

 ……まあ遊んでやろう感覚で3日に一度はこいつらは召喚してる。ってティアに至っては突然龍法陣で現れてくるしな!

 

「にいたんは何でメルをよんだの?あそんでくれる!?」

「おままごと!ヒ―はあいじん!」

 

 …………ヒカリぃぃぃぃ!!?

 お前は何でいつもいつもそんな、おませさんなんだ!

 一体誰にそんなことを教えられて…………ああ、ティアか。

 とにかく、一度この子たちの教育と言うものを考えた方が良いかも……兄貴だし!

 

「今日は普通に仕事だ。少しお願いがある」

「おねがい?」

 

 フィーがそう言うと、三人とも俺のお願いの言葉に目を光らせる!

 ……そう言えば、俺がチビドラゴンズに使い魔らしいことをさせるのは初めてだった。

 なるほどな、嬉しいってことか。

 

「いいか?この町をドラゴンの姿で空から見て、怪しい奴を見たら俺に知らせて欲しいんだ……出来るか?」

「「「うん!」」」

 

 即答する三人は瞬間的に最初のドラゴンの姿となって、そして空へと飛び去っていく。

 

「…………いいなぁ、兵藤。俺の使い魔なんか、すごい俺のことを狙ってきて怖いからまだ召喚してないんだよ……」

 

 ……そう言えばこいつの使い魔は将来的に超有望の人をも食う蛇―――バジリスクだったな。

 それに比べれば俺の使い魔は可愛く見えるか……

 実際可愛いけど!

 

「……でもこれですぐに見つかるはずだよ。君には感謝しないとね」

「それは終わってから、まとめて感謝してもらうぜ? ……男三人でどっか、ぱぁっと遊びに行こうぜ」

「………………私は仲間はずれですか、ぷん」

 

 ……小猫ちゃんがぷくっと頬を膨らませてすごく可愛い仕草で怒っていらっしゃる!

 愛らしいから何とも言えない……とりあえず、小猫ちゃんには俺から御礼をしようか。

 

「……でも心配だよ。彼女らはドラゴンって言ったってまだ子供だよ。相手は堕天使の幹部、コカビエル……下手をすれば殺されるんじゃ」

「それこそ大丈夫だ。どうせ、どこかで過保護なドラゴンがあいつらを見張ってるはずだからな……指一歩でも手を出したら、この町は消えてしまうぜ?」

 

 無論、ティアのことである。

 

『確かにティアマットはこの町にいる。大方、あのチビどもの召喚と共に龍法陣で飛んできたのだろう』

『ティアマットはいいお姉さんですからね』

 

 ま、そう言うわけでチビドラゴンズのことは心配はいらねえ。

 ただ、俺の心配はエクスカリバーを目の前にした時に、祐斗が今みたいに冷静に居られるかどうかの所だ。

 ただでさえ、ゼノヴィアの時はあれだけ荒れてたわけだし……出来れば今回の件はこいつの力で終わらしてやりたい。

 俺はただ、こいつをサポートするだけだ。

 

「……とりあえずは俺の使い魔の連絡を今は待とう。どうせすぐ見つかると思う。なんだかんだでドラゴンってやつは優秀だからな」

 

 ……俺はいつかドライグに言われたことをそのまま3人に言うのであった。

 優秀故に畏怖され、敬遠される存在と。

 

 ―・・・

 

 チビドラゴンズから連絡があったのは、それから数十分後のことだった。

 どうやらフリードはある廃墟に隠れているらしく、そこを拠点に神父を狩っているらしい。

 待ち伏せってやつか。

 しかもその廃墟っていうのは、以前に俺達眷属がはぐれ悪魔、バイザーを滅したところだ。

 灯台もと暗しだな……とりあえず、俺達は今はそこに向かっている。

 ちなみに俺の手元には人間の姿にドラゴンの翼を生やしたヒカリがいて、案内をしてくれていた。

 

「にぃに!こっちでフィーとメルがまってる!」

 

 どうやらフィーとメルはフリードをずっと遠くから見張っているらしい。

 俺達はヒカリに連れられるがまま走り、そしてその付近に到着すると、上からフィーとメルが下りてきて俺の胸に再びダイブした……ちなみに小猫ちゃんの視線が厳しいです。

 一応、こいつらの存在は部員は全員、知っているはずなんだけど……まあいい。

 

「ありがと、三人とも……でも今から戦闘になると思うから、三人はもう帰ってくれるか?」

「「「…………うん」」」

 

 三人は声を合わせて、少し沈んだ声でそう呟く。

 流石のまだ成長中だからな……この戦いには巻き込めない。

 三人とも俺と一緒に戦いたいんだろうな……でも兄貴的に俺はそれをさせることは出来ない。

 三人を護りながらコカビエルと戦うなんてことはたぶん、俺には出来ないから。

 そして三人は魔法陣から消えていく……よし、また今度呼んで遊ぼう!

 俺はそう決め、そして祐斗達の方に視線を向けた。

 

「…………確実にいるな。この体を焦がすような感覚、間違いなく」

「…………聖剣です」

 

 小猫ちゃんは俺の横で呟く……っとその時!

 

「あひゃひゃ!! これにて切り捨て御免ですですぅ!!!」

 

 聞いたことのある奇声をあげて、俺達の目線の上空より奴……フリード・セルゼンが現れる!

 手には剣……エクスカリバーを持ってそのまま振りかざしてきやがった!

 だけど、それは

 

「やらせない!」

 

 祐斗が瞬間的に創った魔剣によって防がれる。

 祐斗はそれと共に頭に被っていた帽子を脱ぎ去り、その顔をフリードに向けた。

 

「おやおや!? あの時の悪魔君ではありませんか!? またまたお会いしましたねぇ~……それでまた俺の剣の試し切りになっちゃってくださるんですかぁ!?」

「黙れ! エクスカリバーを僕は壊す! それだけだ!」

 

 ……やっぱり冷静さを失ったか。

 仕方ない、今は倍増を溜める!

 

『Boost!!』

 

 俺は篭手を出現させ、倍増のエネルギーを溜める。

 

「―――おぉ!? まさかまさかの君は、まさかのイッセー君!!? ひゃひゃひゃ! まさかに君が会いに来てくれるなんて、僕チン感激ぃぃぃ!」

 

 フリードは祐斗から一度距離を取って、柱の上に立つ。

 

「俺も出来ればお前とは出会いたくはないんだけどな……フリード・セルゼン」

「いいよいいよ! その冷たい視線が俺を熱くさせてくれます! 当の俺は君と会いたくて会いたくてねぇ!! でもまだ早い! 君と戦うのは少し待ってくださいっちょ! だからぁ~」

 

 ……フリードのふざけた口調とは裏腹に、建物の中から結構大人数の男が現れる……間違いないな、はぐれ神父かその類だ。

 

「ちょっとそこのザコ神父を蹴散らしていてねぇぇぇ!! その間に僕チン、このイケメン君を切り刻むから!」

「それは僕の台詞だ。やらせてもらおう!!」

 

 祐斗は瞬間的に『騎士』の特性である光速でフリードへと斬りかかる……けどそれにフリードは速度を以て張り合う―――同等の速度だとッ!?

 ……あれがスピードを上げる天閃のエクスカリバーか。

 あれじゃあ祐斗の強みが通用しない。

 

「イッセー!! なんかわらわら出てきたんだけど!?」

「……焦るな。どうせはぐれだ。お前の実力を出せば負けはしねえよ」

 

 実際、俺は何度かこいつと戦ってるけど、戦うごとにこいつは少しずつ強くなっている。

 ……俺の篭手も数段階の倍増は完了した。

 

「匙、お前も神器を発動しろ」

「お、おう! ―――こい、黒い龍脈(アブソーブション・ライン)!!」

 

 匙は手の甲に黒い神器、黒い龍脈(アブソーブション・ライン)を発現する。

 あの神器は龍系統の神器で、しかも相手の力を吸って誰かに渡すことの出来るサポートの神器だ。

 その力を自分にも使えるから、使い勝手はいい。

 

『……黒邪の龍王と謳われた龍王の一角、ヴリトラの魂が封印されている神器だな。しかもあれはヴリトラの魂が封じられた神器の一つにすぎない。全部そろえば、それこそ神滅具ともタメを張れるだろう』

 

 解説ありがと、ドライグ……さて、じゃあさっさと決めるか。

 

「小猫ちゃん、今から小猫ちゃんに力を譲渡する。それであいつらを匙と一緒に蹴散らして……」

「…………一人で十分です」

 

 ……隣で匙が泣いています。

 仕方ないか……それに実際問題、小猫ちゃん一人でもどうにかなるのは事実だからな。

 

『Transfer!!!』

 

 俺は倍増した力をそのまま小猫ちゃんに譲渡……途端に小猫ちゃんの魔力を含めた全ての能力が跳ね上がる!

 

「あ、あぁんっ……こ、これが、イッセー先輩の、力!」

 

 ……力を神器じゃなく、体にその人の体に送ったのは初めてだったけど、小猫ちゃんが艶めかしく体を震わせている!

 なんか、罪悪感が……

 

「……兵藤! 気持ちは分かるが、あれを見ろ!」

「…………押されているな」

 

 若干内股気味の匙は指を指す。

 そこには光速で戦い続ける祐斗の姿があった……でも若干、押されているな。

 魔剣を創ってもエクスカリバーに壊される……あれじゃあ消耗戦で祐斗が負ける。

 それに祐斗の言った通り、フリードはエクスカリバーを使いこなしている。使いこなしのレベルだけで言えば、下手すりゃゼノヴィアよりも上手い―――多分、天閃の力があいつに一番、あっているんだろうけど……それにしても本当にフリードかと疑うほどの強さだな。

 

「僕は、僕の同士の想いに応える! ソード・バース!」

「おいおい、なんですかぁぁぁ!! その雑魚雑魚の魔剣は! この僕チンのエクスカリバァァァァァ~には勝てないわけってことですのよぅ!!」

 

 祐斗が放った魔剣の弾丸を物の見事に避け、そして幾つかを完全に破壊する……あれ、本当にフリードか?

 

「おいおい、イッセー! あいつ、超強いじゃん! 木場も押されてるしよぉ!」

「……何の変革があればあんなに変わるんだろうな。それにあいつからは……」

『……やはり気付いていましたか、主様』

 

 ……ああ。

 どう考えてもフリードは戦いを楽しんでいるように見える―――殺気がほとんど感じられない。

 それこそ無邪気な餓鬼みたいな雰囲気だ。

 それ引き換え、祐斗は怒りで強さが半減している。

 それに加えて強みの速度が封じられている状態で、武器のレベルは相手の方が格段に上……まずいな。

 譲渡をしようにも、あれほど激しく動かれたらその暇すらない。

 

「イッセー! もうお前がやった方が早いんじゃないか!? お前ならあいつに何か負けないだろ!」

「……ああ、負けないよ。でもあれは―――あいつの戦いなんだ」

 

 だから俺はいざという時までは手を出さない。

 エクスカリバーを俺が壊すのはたやすいけど、それじゃああいつの気が晴れない。

 俺がするのはサポートまでだ。

 

「……でもあのままじゃあきついな。匙、フリードの動きを止めてくれ!」

「お、おう! 伸びろ、ラインよ!!」

 

 匙は俺の指示通り、フリードの動きが一瞬狙った隙をついて光っている「ライン」と呼ばれるカメレオンの舌のようなものを発射する。

 

「うお!? 何すか、何でっせ!?」

 

 匙の神器は龍が封印されている……その力は絶大だ。

 ただ相手の力を吸うパイプだけど、あれの強度は相当だからな……ただでは切れない管だ。

 

「よくやった! 匙!」

 

 俺は勢いよく飛び出す。

 祐斗は建物の上に乗っていて、俺は脚で地面を踏み蹴り、そして祐斗の近くまで飛翔して祐斗の肩を叩いた。

 

『Transfer!!!』

 

 俺は祐斗へと倍増した力をそのまま全て譲渡した。

 

「お前の目的はフリードじゃない。エクスカリバーだってことは忘れてねぇよな?」

「……もちろんだよ」

 

 ……祐斗の力が俺の譲渡の力で跳ね上がる。

 祐斗の場合は体ではなく神器への譲渡だから、その分、神器の力が上がるはずだ。

 俺は祐斗から離れて、そして匙を見た。

 

「うぉ!? なにこれ、切れねえ!! 因子集中しねえといけないってことですか!?」

 

 そこには匙の神器で足を拘束され、その場から動けないなっているフリードの姿がある。

 ……でもそれも束の間の話だ。

 

「フリード・セルゼン! 覚悟してもらう! ソード・バース!!」

 

 祐斗は譲渡によって上がった力で、地面に剣を刺すと、そこからすごい速度で地面から剣が生えてフリードへと向かって行く!

 

「―――――えぇ、えぇ、集中すればいいんでしょ?」

 

 ……次の瞬間、フリードを拘束していた匙の神器の管が切断された。

 ―――あれは聖剣に橙色のオーラが集中している?

 でも匙の神器の管を破壊するほどの切断力……間違いない、エクスカリバーの力が上がっている!

 

「体に流れる因子を刃に集中させているってことですわ! じゃあこれにて本気のタイムっとことで!」

 

 さっきよりもフリードの速度が上がってる!

 そしてフリードは襲いかかる魔剣を避け、そして祐斗に襲いかかる。

 祐斗も突然のことで反応が遅れ、そしてフリードはエクスカリバーをそのまま祐斗に振りかざす―――事にはならなかった。。

 

「―――遅れてすまないな。察知が遅れてしまったものでね」

 

 何故ならフリードの斬撃は、遅れて登場しやがったゼノヴィアの聖剣に止められたからだ。

 ゼノヴィアだけじゃない。

 

「イッセー君! 助けに来たよ!!」

 

 ローブを脱ぎ去って、例の戦闘服姿になっているイリナの姿があり、そして小猫ちゃんは神父を倒し終えて俺の傍に来ていた。

 

「…………終わりました」

「ご苦労さん……それより」

 

 フリードは突然のゼノヴィアの登場に驚いたのか、祐斗から離れて少し離れたところで着地した。

 

「ちょいと人数が多すぎ! しかもエクスカリバー持ちのクソビッチが二人とか」

「……確かにそうだな、少しお前には分が悪いようだ、フリード」

 

 ……この声はここにいる者の誰の声でもない。

 新しい、年老いた声。

 

「まさか、貴様は……バルパー・ガリレイ」

「―――ッ!!」

 

 その姿を見た瞬間、激昂のような声音でその名を叫ぶゼノヴィア。

 祐斗はその名を聞いた瞬間、目を見開いて怒りの表情をあらわにさせる。

 

「……ソード・バースか。あらゆる属性、あらゆる力の魔剣を生み出し、使い手によれば無類な力を発揮する上級の神器。それに聖剣使い二人に―――赤龍帝か」

「バルパー・ガリレイ!!」

 

 祐斗はフリードの傍に立つバルパーへと襲いかかろうとする!

 でも祐斗の剣はフリードの阻まれ、そのまま鍔ぜり合いになった。

 そして祐斗は魔剣の限界を察知して、フリードから離れる。

 

「もしや君は……聖剣計画の生き残りかね?」

「―――そうだ。僕は一度、貴様に殺され、そして悪魔となって生き延びた。僕のこの魔剣は僕の同士の無念を顕現したものだ!! だから僕は貴様を殺して復讐を果たす!!」

 

 ……魔力の純度が少し上がった。

 それだけ祐斗の想いが本物ってことか……仕方ないな!

 

『Boost!!』

『Explosion!!!』

 

 俺は数段階倍増した力をそのまま解放する。

 そして俺は祐斗の隣まで走っていき、そして傍で立ち止まって拳をバルパーとフリードに向けた。

 ……祐斗の心からの叫び、それに充てられたのか?

 

「不干渉でいようと思ってたけどさ……やっぱり止めだ。祐斗の本気の想いを見てたらどうしても何とかしてやりたくなった。だから一緒に戦うぞ、祐斗!」

「…………君は全く……だけどありがとう」

 

 祐斗も同じようにひと際純度の高い魔剣を創造し、そしてそれを俺と同じようにバルパーとフリードに突きつけた。

 

「……これは分が悪い。聖剣使い二人に赤龍帝がいるのならば、計画に支障をきたすかもしれん。ここは一端引こう」

「おぉ、バルパーの爺さん! さすがの僕チンもイッセー君相手はまだ拒否したい気分っすからねぇ」

 

 聞きたいことは山ほどあるけど、まずはこいつらを抑えることだ!

 逃がさねえ!

 

「はい、ちゃらば!!」

「ちっ! 逃がさん!!」

 

 ―――フリードは閃光弾のようなものを地面にたたきつけ、そして俺達は全員が眩しさから目を瞑った。

 ゼノヴィアはその仕草を早く察知したのか、エクスカリバーでフリードに切りかかったが、しかし目を開けるとそこにはフリードとバルパーはいない。

 ……逃がしたか。

 

「イリナ、追うぞ!」

「分かったわ!」

 

 イリナとゼノヴィアが逃げた二人を深追いする!

 

「絶対に逃がすものか!」

 

 って祐斗!?

 予想通りと言うか、祐斗もまたイリナとゼノヴィアに続いてすごい速度で走っていく……ったく、世話が焼けるな!

 

「小猫ちゃん、匙! お前らはもう帰っていてくれ! 俺は今から祐斗を追いかけ……」

「―――何を追いかけるって?イッセー」

 

 ………………この場で響くはずのない声がはずのない声が俺の耳に通る。

 そしてその声が聞こえた瞬間、俺の動きは止まる……このタイミングですか?

 俺は壊れた人形みたいに少しずつ声が聞こえた方向を見る。

 

「随分と勝手な事をしてたみたいね、イッセー?」

 

 …………はい、そこには笑顔だけどすごい寒気がするくらいに怒っている部長、更にソーナ会長、そして副会長の椿さんに朱乃さんがいた。

 

 ―・・・

 

「イッセー、姿勢を崩さない」

「……はい」

 

 現在の俺と小猫ちゃんの状況から説明しよう。

 まず肩身狭く寄り添いながら正座をしていて、場所は例の廃墟。

 部長は仁王立ちで俺と小猫ちゃんの前に立っていて、朱乃さんもニコニコしながらも少し怖い……

 

「匙……貴方はどうしてこんなことに首を突っ込んでいるのかしら?」

「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!? イッセー!! こういう時、真の男はどうすれば!?」

 

 匙は正座をしながら俺に懇願してくるけど、あいにく、俺も自分のことで精いっぱいだ!

 

「イッセー。あなた自分が何をしていたのかは……理解はしているわよね。賢明な貴方ですもの。理由がなくこんなことをするとは思えないわ」

「……言い訳はしません。結果的に、小猫ちゃんと匙を巻き込んで危ない橋を渡っていました。祐斗のためとは言え、許されることではありません」

「ええそうね。下手をすれば三勢力の均衡を崩壊させるほどのものよ。でも過ぎたことをこれ以上、言う気はないわ」

 

 ……部長はそう言うと、俺と小猫ちゃんを大切そうに抱きしめてくれた。

 心配だったんだろうな…………あれだけ派手に戦闘をしてたら、嫌でも部長は俺達が何かを企んでいることに気付いたらしい。

 

「あうぅぅぅ!? 会長ぉぉぉ!! 止めて! それ、洒落にならないぃぃぃ!!?」

「ええ、洒落になりません。それくらいのことをあなたは!!」

 

 ……匙の叫び声が聞こえたと思うと、匙は魔力を介した会長の魔法陣込みの掌で―――お尻を叩かれていた。

 

「イッセー! 俺は後悔してないぞぉぉぉ!! 会長がなんぼの……やっぱりむりぃぃぃぃ!!!」

「さあ、後1万回です!!!」

 

 ……そこは千じゃないの!?

 匙のお尻が何かすごい細胞分裂を起こして分裂しそうな数ですよ、それ!!

 

「あら、イッセー。他人事じゃないのよ?」

 

 ―――良く見ると、そこには会長のように掌に魔法陣を展開させている部長のお姿がありました。

 はい、魔力を溜まっていますね。

 凄い量の魔力です。

 それでお尻を叩かれたらもう―――いやぁぁああああ!!!

 

「せめて、小猫ちゃんだけでも……」

「首謀者は貴方でしょう? ――――――さあ、お尻を出すか、私の言うことを何でも5回聞くか、どちらかにしなさい!!」

 

 それ、欲望入ってるじゃないですか!?

 何でも五回って!! しかも朱乃さんみたいなドS顔になってますよ!?

 

「どこかいじめたくなるイッセー……さあ、イッセー!」

 

 ……覚悟を決めよう。

 今、いじめたくなるとか私見が入っていた部長をスルーして、俺は静かにお尻を差し出したのだった。

 ……だって何でも5回は嫌な予感がするんだもん!

 そして―――廃墟に無慈悲な炸裂音が響き渡るのだった。

 

 ―・・・

 

「……割れます。いや、本気で割れる……っ!」

 

 今の状況をいいましょう、俺はお尻を押さえてすごい不自然に家へと向かっています。

 祐斗のことは部長の使い魔を使って探索しているらしく、俺と部長は帰路についているところだ。

 あれから尻叩きは千回で許されたけど、匙は本当に一万回叩かれていて、最後は静かに倒れた……

 あいつは魔法陣で家に運ばれたらしいけどね?

 

「なんでも5回なら、そんなにしなかったのに……」

「……じゃあ何でもを選択したら、俺に何を要求するつもりだったんですか?」

「・・・・・・~~~~っ!! そんなこと、女の私から言わせないで頂戴!!!」

 

 ―――ちょっと待て、今何を想像したんですか!?

 一瞬、寒気がしました…………本当に叩かれたのは正解だったかもな。

 

「……でも部長、祐斗はどうするつもりですか? あいつの精神はある程度は回復しましたが、それでも復讐が祐斗の行動原理です」

「…………イッセー、貴方は今回、仮に堕天使コカビエルと遭遇したらどうするつもりだったの?」

「……戦います。俺がやらなきゃ、皆が死にますから、何があっても倒しますよ」

 

 俺は即答すると、部長の表情は何とも言えない表情になった。

 

「……前からずっと思っていたわ。貴方は誰かを助ける、救うために手段は選ばない。そのくせ、絶対にハッピーエンドに持っていく―――でもあなたは今まで、傷ついてばかりよ」

「……それが必要なら、俺は喜んで傷つきます」

「ッ! ダメよ!」

 

 ―――部長は俺の手を握って、真剣な表情でそう言ってきた。

 

「イッセーは自分を蔑にし過ぎだわ! 自分のことを貴方は何も考えていないわ!傷つくことを前提に、助けることをしている……お願い、私も、眷属の誰も貴方が傷つくのは見たくないの」

「……最善は尽くしますよ。それに俺って結構強いですから―――傷ついても、平気です」

「……強さの基準が戦闘なら、そうね。でもイッセー、貴方はある意味では祐斗よりも…………いえ、何でもないわ」

 

 ……部長はそう言うと、俺の手を離す。

 最後に何を言おうとしたか、俺には何となくわかった。

 

『……主様。遺憾ながら、わたくしもリアスさんと同意見です』

 

 だろうな……でも俺はこの考えは変えるつもりはない。

 大丈夫だよ、出来るだけ傷つかないようにするからさ。

 

『……なるほど、リアス・グレモリーが最後、何を言おうとしたのか分かったよ、相棒』

 

 ……出来れば言わないでもらいたいものだな。

 そう思いつつ、俺は家の前にまでついて、そしてドアを開けた。

 

「おかえりなさいです、イッセーさん! 今すぐご奉仕します!!」

「……あ、あ、あ、アーシアぁぁぁ!!? また桐生なのか!? そうなんだろ! どうせまた桐生なんだろう!! ぜってー許せねぇ、あの野郎!!」

 

 ああ、怒るのは当然だ!

 何故なら……アーシアは裸エプロンだったからだ!!

 しかも計算されているような様子……桐生のせいで最近のアーシアは暴走し過ぎだ!!

 

「……なるほど、その手があったわね―――ふふ、アーシアはいつも私よりも先の手を考えるわね」

「……負けたくないですから!」

 

 ……なんか部長とアーシアの視線が好敵手と出会ったバトル漫画見たな感じになってる!

 でもこの状況、あの母さんに見つかったら……

 

「イッセーちゃん! どうかな? 私も裸エプロン、似合うかな?」

「―――なんで母さんまでぇぇぇぇ!? いや、似合ってるけど、なんでそんなに似合ってんの!?」

 

 俺は突然、リビングから姿を現したアーシア同様……少し違うのは下着をつけている母さんのエプロン姿だった!

 それを見た部長は目を輝かせる!

 

「お母様!私にも裸エプロンのご指南を!」

「ほう……リアスちゃんも裸エプロンになりたいか!?」

「はい!!」

 

 部長ぉぉぉぉぉおおお!!

 貴方だけは暴走しないって信じてたのに!

 すると部長はアーシアに何かを耳元で囁く。

 

「今日は先手を打たれたわ、アーシア。でも私は貴方の壁を乗り越えて見せるわ!」

「桐生さんが言ってました……武器がないなら、作ればいいと!!」

 

 桐生……一見したら良いこと言ってるんだけどさ? それがもっと違う状況だったらよかったよ。

 桐生が言っているのは大方、スタイルとかその辺だと思うけどさ……あぁ、俺の女難が消えはしない。

 

「ふふ……なら次は私の番よ。首を洗って待ってなさい!」

「はぅ……でも負けません! 乳房で勝てなくても、お尻で勝ちます!」

 

 ……さぁ、聴覚をシャットダウンしようか。

 ドライグ、今すぐ俺の耳を壊してくれ!

 

『は、早まるな、相棒! 気持ちは分かるが、そんなことは出来ん! ああ、自分の指で耳を刺すな!?』

『主様!? わたくしたちが慰めますから止めてください!! ドライグ、主様癒しモードのための一時協力です!!』

『応! 相棒の廃れた心を俺達、パパとマザーが癒すのだ!』

『ええ!!』

 

 あぁ……神器を通して二人の俺を大切に思う気持ちが流れて、癒されるぅぅぅ……

 耳を指から抜いて、俺は少し深呼吸をした。やっぱりちょっと痛いけど、別に怪我はない。

 今気付いたけど、既に母さんと部長は家の奥に行っていて、玄関にはその姿はなかった。

 

「……イッセーさん、イッセーさん♪」

 

 アーシアは甘えたように俺に抱きついてくる!

 待ってよ、それは本当に、真剣と書いてマジでやばい!

 …………ま、いっか。

 甘えてくれるなら、甘やかせたいし、それにアーシアはもう俺にとっては……大切な存在だ。

 好きとか、そんなんは分からないけど、でもアーシアにずっと傍で仲良くしたい。

 

「いつか…………皆であそこに行けたらいいな」

「……イッセーさん?」

「…………何でもないよ。ほら、風邪ひくからそろそろ―――」

 

 俺はアーシアに着替えを進めた瞬間だった。

 

「イッセー! 私も着替えてきたわよ!」

 

 …………俺の女難は、もう止まらないようです。


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