ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第4話 俺は否定しない

『Side:木場祐斗』

 僕はイッセー君の言いたいことは理解しているつもりだ。

 部長が僕や他の眷属を愛していて、そして大切にしていることなんて分かっている。

 でもそれでも、僕の復讐は止まることが出来ない……いや、止まることが許されないんだ。

 イッセー君は、強い。

 自分のするべきこと、守ると言ったものは今まで全部守っている。

 アーシアさんのこと、部長のこと……全部、その手で救っている。

 彼のことだから過去もずっと、他人を守り続けてきたのだろう。

 だから彼は人望があり、他人から好意を持たれ……僕が彼を憧れているように、たくさんの人から憧れられる。

 だからこそ、僕はイッセー君にだけは言われたくなかった。

 僕は弱い……だから彼に「復讐だけが全てじゃない」なんて言葉を掛けられたくなかった。

 正しいのは分かっている……でも、復讐なんかの前に、前提の復讐の理由すら作らずに守ってしまう彼に、僕の気持ちなんか分かるはずないと思ったいた。

 だから言ってしまった。

 

「君は強いから、そんなことを言えるんだ! 君に僕の気持ちなんか分かるはずがない!! 勝手な事を言うな! 僕がどんな気持ちか……憎しみを抱いたことがないくせに、復讐をする前に守れるくせにそんなことを言うな!!!」

 

 言ってしまった後で、僕は後悔した。

 こんなもの、ただのやつあたりだ。

 本当のことを言われて、ただそのことを認めたくなかったからだ。

 今まで復讐を糧に生きてきた僕の全てを否定されるような気がして、つい頭にきた。

 彼は何も悪くない……だからすぐに冷静さを取り戻した。

 その時だった。

 ―――僕は、胸倉を乱暴に掴まれてそもまま壁に体を打ちつけられて、押し上げられた。

 

「が……ッ! い、イッセー君?」

 

 何とか息は出来る……でも僕からはイッセー君の顔は見えない。

 部室にいた僕以外の眷属の皆も、目を見開いて今何が起きているか分からないと言いたいような目をしていた。

 ……そして、ただイッセー君は静かに……

 

「―――復讐を知らない? 誰にそんなこと言ってんのか、分かってんのか?」

 

 顔をあげて、そう言った。

 …………その目は、僕が今まで見てきた彼の物じゃない。

 その声音は、今まで聞いたことがないほどに低く、恐ろしい。

 そこには僕の知る兵藤一誠の姿はなく、まるで別人のような人だった。

 

「ふざけるなよ……何も知らない? 復讐をする前に守れる……ふざけんじゃねえ!!」

 

 彼の胸倉をつかむ力が強くなるッ!

 ―――復讐だった。

 彼の目は、僕と同種の目。

 いや、むしろ更に暗く、更に悲哀に満ちた目。

 僕は何も言えない……言えるわけがない。

 

「……お前はまだマシなんだよ。お前には、まだ明確な復讐の対象(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)がいるんだから……お前は考えたことはあるか?」

 

 彼は掴む手を緩め、再び顔を下にしかめる。

 

「復讐したいのに出来ない……何も分からない……そんな、ずっと暗闇を歩く奴の気持ちが……」

 

 ……ほとんど聞こえない声だけど、僕の耳には嫌にも響く。

 その声は絶対に他の眷属には届いていない。

 

「イッセー!!」

 

 部長の声が響く。

 それと同時に、イッセー君の僕を掴んでいた手が離れ、僕はその場に座り込んだ。

 息が楽になる……だけど僕の頭にはそれ以上に彼のことがあった。

 

「さっさと行け…………祐斗。ただこれだけは覚えておけ。俺は復讐を否定しない。肯定もしない……大事なのは、復讐を果たした後だってことを」

 

 ……彼はそう言うと部室の端に歩いて行く。

 僕は声をかけたい……でも僕はイッセー君に近づけない。

 あの僕以上の闇を抱えた目を僕は気になっている……でも触るべきじゃない。

 そうだ。彼の言うとおり、僕は僕が抱える問題をどうにかしないといけないんだ。

 

「……部長、すみません」

 

 そう思って、僕は部室を後にした。

『Side out:木場』

 ―・・・

 ……俺は、アーシアと部長より先に家に帰って、真っ先に風呂場に向かった。

 シャワーを冷水にして、頭から浴びる。

 ―――どうにかしてる、なんで俺はあそこで我慢できなかったんだろうと後悔する。

 あの後、祐斗が部室を去ってからずっと皆は俺の方を心配そうに見てきた。

 

「……何やってんだよ、俺はッ!!」

 

 俺は風呂場の壁を軽く殴ってしまう。

 ダメだ……ものに当たっても、そんなの何も解決しない。

 

『……相棒。お前はずっと』

 

 全てを知っているドライグは、俺の奥底から語りかけてくる。

 ああ、そうだよ……ずっと俺はあの時(・ ・ ・)のことを忘れたことはなかった。

 忘れられるはずがないだろッ!?

 …………だけど、今はそんなことを考えるべきじゃないんだ。

 今の問題は祐斗なんだ!

 それなのに俺は勝手にキレて、そんな俺は…………自分の弱さに怒ってるんだよ。

 

『主様……わたくしはドライグより聞かされた情報から、ある程度のことは存じ上げています。だからこそ、わたくしは何も言えません……ですが自分を責めないでください』

『相棒。お前は弱いかもしれない……だからこそ、俺達がついている。なに、天龍と創龍がいるんだ。何も恐れることはない』

 

 ……二人が、俺を励ましてくれる。

 

「……ありがとう。もう、大丈夫だよ」

 

 俺はシャワーにうたれながらも段々、冷静さを取り戻していく。

 とりあえず、まずは皆に謝らないとな。

 祐斗は、多分当分は帰ってこないだろうな。

 なら俺に出来る限りのことはしてやりたい……それが俺があいつに当たってしまった償いだ。

 あいつのためになることは何だろう……って、あいつが望むのは、それは決まっている。

 

「はぁ……とりあえず風呂に入って考えよ」

 

 俺はシャワーを止め、そのまま湯船に入る。

 俺に何が出来るかを考える、それが今すべきことだ。

 ……少なくとも、それを考えていればあのことを思い出さなくて済む。

 俺は単にそう思っていたいだけだった。

 ―・・・

 

 翌朝、俺はいつものようにランニングをしている。

 昨日はあれからすぐに部長とアーシアが帰ってきて、とりあえず心配してきたけど、いつも通りの俺を見て肩の力が抜けたんだろうな。

 でも昨日のことを詳しく聞いてこなかったことはありがたかった。

 そう言えば、俺の日課なんだけどアーシアはずっと俺と走っている。

 最近はアーシアの体力もついてきて、俺的には何か成長を見ている感じで嬉しい。

 部長はどうやら朝は弱いらしく、最初の方は俺達に参加していたんだけど、最近では俺達の走った後の朝ごはんを作ってくれる。

 これがまた美味いんだぜ?

 

「イッセーさん! 今日もいい天気ですね!」

「おお? アーシアはまだまだ元気だな! でももうすぐ終わりなのにな」

 

 ……本当にアーシアは体力がついたと思う。

 流石に速度は俺よりはだいぶ遅いけど、俺もランニング程度ならこれくらいでも十分だから、アーシアに速度を合わしている。

 でも最近は徐々に速度は上がっているし、アーシアの最近の神器の扱い方もだいぶ良くなってきた。

 神器の効果範囲も広くなってきたし、精度も高い。

 

『確かに神器の使い方の精度で言えば、木場祐斗よりも高いかもしれんな。流石に相棒には遠く及ばないが……』

『いえ、回復だけに絞るのならば、主様よりも高いです。主様が創造するわたしくしの神器である、神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)による癒しの白銀(ヒーリング・スノウ)でも、彼女の回復には敵いません』

 

 ……えらく好評価だな、アーシアには。

 でもこいつらは俺と同じでずっとアーシアの努力を見ているからな。

 考えてみれば、俺がアーシアと一緒に寝ていた時も二人はアーシアにはそんな怒っていなかったし……

 怖いパパドラゴンとマザードラゴンをも認められるアーシアか。

 

「よし……今日はこれくらいにするか」

「はぁ、はぁ……はい!」

 

 アーシアが少し汗をかきながら笑顔でそう言う……ああ、癒される眩しい笑顔だ!

 そう思いながら俺は二人で歩きながら近くにある家まで話しながら帰っていく。

 そしてアーシアに先にシャワーを浴びて貰い、そのあと俺がシャワーを浴びる……それが俺とアーシアの暗黙の了解だ。

 たまに部長が俺のシャワー中に突撃してくるんだけど……まあそれは置いておくとする。

 それでアーシアは先にバスルームに向かい、俺は自室に戻っているわけだ。

 

「あ、そう言えば風呂場のシャンプーが確か無くなっていたな……」

 

 でもなぁ……アーシアは今シャワーを浴びてるからな。

 でも母さんも部長も料理をしてるから頼めないし……仕方ないな。

 脱衣所から渡せば問題ないだろう、そう思って俺はシャンプーの換えを持ってバスルームに向かった。

 

「おーい、アーシア。脱衣所からシャンプーの換えを渡すから、扉から手を…………」

 

 ……俺はこの時、本来しなければならないノックという存在を忘れていた。

 アーシアがバスルームに向かって少し時間が経っているからって、まだ脱衣所にいる可能性があるわけで……

 アーシアは全ての服を脱いで、ほんのり汗で湿っている白い肌に何もつけずに、俺の突然の突入に目を丸くしていた。

 

「い、イッセーさん?」

「あ、あ、アーシア?えっと……その……」

 

 ……体が硬直して動かない。

 ―――俺は馬鹿か!?

 ホント、何をデリカシーないことをしてんだ……俺はアーシアから背を向けて脱衣所から去ろうとした……その時―――

 

「い、イッセーさん……私、イッセーさんなら……構いませんよ?」

 

 ……………………何言っちゃってんのぉぉぉぉぉ!!!?

 俺は背を向けて出て行こうとした瞬間、服の裾を掴まれてそう言われる!

 

「あ、アーシア! 女の子がそんなことを言ってはいけません!」

「わ、私はイッセーさんなら大丈夫です! それに日本には裸のお付き合いという風習があると聞いています! 桐生さんから!」

 

 あんのエロ眼鏡ぇぇぇ!!

 俺の可愛い純粋なアーシアにそんないかがわしいことばかり教えやがって!

 やっぱり昨日、懲らしめとけばよかった!

 

「……イッセーさんは、私の一緒にお風呂に入ることが嫌ですか?」

 

 俺はアーシアの裸を見ないように何とか、彼女の顔を見る・・・上目遣い止めて!

 可愛い上に潤んだ目は俺の加護欲を、保護欲を掻き立てる!

 そして俺は…………

 

「た、タオルを巻いてくれるなら良いよ?」

 

 情けなく、頷くのだった。

 ―・・・

「い、イッセーさん……か、痒いところはありませんか?」

「だ、大丈夫です……はい」

 

 俺は体が固まりながらも何とか冷静さを保っており、アーシアに背中を洗ってもらっていた。

 これも桐生の策略なんだろうか……あいつにはいつか”エロの諸葛亮孔明”というあだ名をつけたいものだ。

 ……とにかく、緊張の一瞬だ。

 こう、意識している女の子と一緒のお風呂なんて、普通の男子なら緊張しないはずがない。

 そうして考え事をして何とか気を紛らわそうとした―――その時だった。

 

「んしょ……い、イッセーさん……桐生さんから聞いたんですけど、この洗い方は男性が喜ぶそうで……どこかは教えてくれなかったんですけど、私を気持ちよくしてくれる部分が、あんッ……肥大化するって聞いたんですが……」

 

 アーシアが胸で俺の背中を洗ってる!?

 ちょ、それは本気で冗談にならないから!

 しかも艶めかしい吐息まで漏らしているし!?

 しかもまた桐生か!

 

「……イッセーさんが昨日、どうして怒っていたのか、私にはわかりません」

 

 ……するとアーシアは体を密着させたまま、静かにそう言ってくる。

 ―――ここからの流れはどうであれ、アーシアは気にしていたのか。

 

「……でもイッセーさんが怒ってくれる時は、いつも誰かのためです。私の時だって、部長さんの時だって……この前のゼノヴィアさんの時だって、誰かのために怒ってくれた……だから、私は何も聞きません」

 

 ……アーシアは俺のことを思ってくれてこんなことをしたのか。

 俺を気遣って……ったく情けないな、俺は。

 俺はそう思ってアーシアの方を向いて、頭を撫でた。

 

「ありがとう、アーシア。でも大丈夫。今はやらなきゃいけないことをひたすらやるから……今、分かったから」

 

 そう……今、ようやく決心がついた。

 やらなければいけないことを……ああ、動こう。

 

「では続きをしますね!」

「それは止めなさい」

 

 俺はアーシアの頭を軽く小突いて、そう言うのだった。

 全く、桐生にはキツイお仕置きが―――

 

「イッセー、もう朝食の用意は出来て……」

 

 ―――――部長が、脱衣所に入って顔を風呂場に、覗かせた。

 ……部長は俺とアーシアの状態を見て固まってしまっている!

 簡単に言えば、俺の背中を胸に石鹸の泡ををつけて洗っていたアーシアと、そのアーシアの頭を撫でている俺。

 むろん、裸でタオルを腰に巻いているだけである。

 

「…………イッセー、少し話があるのだけれども」

「……は、はい」

 

 ……部長の声音が低くなったから、俺は素直に頷いたのだった。

 ―・・・

 ……あの後、俺とアーシアは部長からきついお説教……というより「何故私を誘わなかったのかしら?」といったことを言われた。

 部長は俺とアーシアが密着していたことに怒っているのではなく、自分を誘わなかったことを怒っているようだった。

 それはさておき、今、俺はある男を呼び出している。

 時間は放課後、場所は俺の行きつけの喫茶店。

 静かでゆっくりできる喫茶店で、そこのマスターとバイトの子とは仲が良い。

 

「いらっしゃいませ~……ってイッセー君だ!」

 

 ……俺が店内に入って、出迎えてくれた店員はここでは初めてみる顔で、そして少し前に知り合った子だった。

 確か、チビドラゴンズと一緒に公園に遊びに行った時、移動販売のアイス屋でバイトしていた中学3年生の……袴田観莉だったはずだ。

 

「覚えてる? 袴田観莉だよ?」

「覚えてるよ。それで、ここもバイトか?」

「うん! 実はあれからアイスのバイト、クビになっちゃって……それでここに面接に来たらこの年でもオッケーって言ってくれて!」

 

 ……まあ、ここの店長は個人経営だからな。

 それに観莉は可愛いから、宣伝役にもなるか。

 

「ま、俺もここには結構来るから宜しくな?」

「ホント!? やった、またイッセー君とお話しできるね!」

 

 ……本当に人懐っこい子だな。

 それはそうと、俺は席に案内してもらった。

 この店は町の中心からは少し離れたところにあって、それで知る人ぞ知る自家製ブレンドのコ―ヒーやご飯を出す名店。

 俺みたいな常連が結構いるんだ。

 とりあえず、俺は紅茶を頼む。

 そして、少しして店内に新たな客が入ってきた。

 

「お、来たな」

 

 俺はその客らしき人を見ると、それは俺が呼びだした男だった。

 

「いたいた……それでどうしたんだよ、兵藤」

「悪いな、匙……急に呼び出して」

 

 そう……俺はシトリー眷属の『兵士』の匙を呼び出したんだ。

 こいつとは結構仲が良く、たまに飯を一緒に食うほどに仲が良い。

 

「いやいや、俺が兵藤の呼び出しを無視するわけねえだろ? で、どうしたんだ?」

 

 匙は俺の前の席に座る。

 

「ご注文はいかがですか~?」

「ああ、こいつにコーヒーでも淹れてやってくれ」

「了解! イッセー君、ちょっと待っててね!」

 

 俺は観莉にそう注文すると、観莉はそのままスキップで店の奥に行く。

 

「……流石は兵藤、あんな可愛い知り合いもいたのか」

「来年、駒王学園に入るらしいぜ? ……話はコーヒーが来てからでいいか?」

「おう!」

 

 匙が頷くと、少しして俺の紅茶とコーヒーが運ばれる。

 そして観莉がそのまま店の奥に行くのを確認すると、俺は早速話してみた。

 

「ああ、これは本来、お前に頼むのは筋違いと思うんだけど……」

「そんな水臭いことを言うな! 俺とお前の仲じゃないか!!」

 

 出鼻を挫くならぬ、初めから受け入れ態勢とは流石は匙!

 ……本当にこいつはいい奴だ!

 ならば言おう!

 

「俺の仲間がさ……実はある問題を抱えていてさ。俺はどうしてもあいつを救いたいんだ!」

 

 ……なんとも演技臭いな、俺。

 

「な、仲間を助ける……なんて素晴らしいんだ、兵藤……いや、もうイッセーと呼ばせてくれ!」

「もちろんだ! むしろ呼んでくれ!」

 

 ……無駄に俺と匙の仲が深まった。

 

「それで仲間というのは……」

「ああ……祐斗のことだ」

「……木場か。だけどあいつはそんなに何かの問題を抱えているのか?普通に爽やかに女子に人気のある奴だと思うけど……」

 

 ……お前も祐斗のモテモテに嫉妬しているパターンの奴か。

 でも匙は松田や元浜よりかはまだ軽度か……あいつらに至っては「イケメン、死すべし!!」なんか言ってるくらいだからな。

 

「……やっぱり、そんなことだろうと思ってました」

 

 ……ッ!

 今の声はまさか……

 

「こ、小猫ちゃん?」

「……はい、何かイッセー先輩が考えているようなので、つけさせてもらいました」

 

 ……俺と匙の座るテーブルの前には小猫ちゃんの姿があった。

 つけられた? ……でも俺、そんなへまはしてないと思うんだけど……

 

『相棒……実は相棒に心配かけたくなかったから黙ってたんだが、相棒が駒王学園に入学して以来、誰かに毎日放課後つけられていたんだ』

 

 ……えっと、それってもしかして?

 

『十中八九、彼女でしょうね。主様が気付かないほど追跡に慣れているってところでしょう』

 

 フェルが冷静にそう分析してくれる。

 

「…………その話、私も聞かせてもらいます」

「……分かったよ。小猫ちゃんも何か頼むか?」

「…………なら、パフェを」

 

 ……小猫ちゃんは注文を取りに来た観莉にパフェを一つ頼む。

 そして少ししてパフェが運ばれて、そしてようやく話が出来る状態になった。

 

「……じゃあ結論から言おうか。俺は祐斗の力になるため、一つの計画を考えたんだ」

「…………計画、ですか?」

 

 小猫ちゃんは俺の隣からパフェを食べながら尋ねてくる。

 

「ああ。俺が計画したこと、それは―――聖剣エクスカリバーの破壊」

「な、何だと!?」

 

 すると匙はすごく驚いた表情をしていた。

 ま、確かに一介の悪魔なら聖剣ってやつは聞きたくもない単語だろうからな。

 

「ま、実際にはそれの許可をイリナとゼノヴィアに取ることなんだけどさ……匙、お前は聖剣使いのことは会長から聞いているか?」

「あ、ああ……確かリアス様から会長に渡った情報を聞いたが、そのイリナ、ゼノヴィアって子がそうなのか?」

「ああ。そいつらの目的がエクスカリバーの奪取、もしくは聖剣の破壊でな。これは利害が一致しているんだ」

 

 ……そう、向こうは最悪の場合はエクスカリバーを破壊してもいいと考えている。

 祐斗はその聖剣を壊したがっている。

 だから、利害が一致している分、向こうも素直に頷いてくれる可能性が高い。

 俺がしたいのはあいつが何の後腐れなく聖剣を破壊できる状況を作ることだ。

 それにあいつも聖剣が絡んでたら、俺達と一緒に行動してくれるだろうから、一石二鳥だ。

 ―――あいつを今、一人にしてたら、死んじまうかもしれないからな。

 それほどの危うさがあるからな。

 

「でも、イッセー……そんな勝手な事をしたら俺は会長に殺されてしまう!」

「……そっか。やっぱり、嫌だよな」

 

 ……ここは声を低くして落ち込んだ雰囲気を出す。

 流石に俺だけで動くのは出来ない……少しのサポーターが必要だからな。

 

「分かってたよ……なら俺は命に代えても一人でやる。匙、悪かったな……今日の話は忘れてくれ……でも、明日になって俺がいなかった時は、その時は……俺を忘れないでくれ」

「なっ!! イッセー! 俺はそんな薄情な奴じゃない! 友を見捨てることなんて俺には出来ないぃぃぃ!!! ああ、覚悟するぜ!! 会長のお仕置きがなんぼのもんじゃぁぁ!!」

 

 言っちゃ悪いけどさ、匙…………もう少し疑おうぜ?

 でもこれで協力者が出来た。

 匙の神器はサポート向きでしかも結構強いからな。

 

「…………イッセー先輩の考えは分かりました。でもそういうことはつまり」

「ああ、部長に黙ってことを進める。悪いけど、部長はこういうことには融通が利きにくいからな。ばれた時は俺が一人だけ怒られるから心配すんな!」

「…………いえ、怒られるなら私も一緒です。私も祐斗先輩のために動きたいです」

 

 小猫ちゃんははにかんだようにそう言う。

 ……これで役者はそろったか。

 

「…………でもイッセー先輩。彼女たちがどこにいるか、分かるのですか?」

「それもそうだぞ。流石にそんな簡単には見つからないと思うが……」

「……ふふ、俺を舐めるなよ?これでもイリナとは幼馴染なんだ。あいつの行動ぐらいは読める」

 

 そう……あいつは基本、馬鹿だからな。

 どうせ、今頃は……

 

「じゃあ行こうか。何、一瞬で見つかるさ」

 

 俺はそう言って3人分の料金を支払って店を出る。

 その時、後ろで匙が……

 

「……なるほど、出来る男は黙っておごる。これぞ、俺が目指す男か!」

 

 ……なんてことを言ってた。

 ―・・・

「………………イッセー、どうしてお前は決意から数分で目的を見つけるんだ?」

「……驚きです」

 

 二人は目線の先の存在に目を向け、驚いていた。

 そりゃそうだ……俺達の目的の人物が―――

 

「えぇ~……迷える子羊に恵みの手を~」

「どうか、天にかわって哀れな私達に救いの手をぉぉぉ!!」

 

 イリナとゼノヴィアが白いローブを身に纏って、お手製の募金箱でそう道行く人に祈りながら募金をお願いしてたんだからな。

 俺達が喫茶店から町に向かって約10分のことだ。

 

「言っただろ? 俺は幼馴染のことを理解してるって。大方、町の路上販売で何か、神に関係するようなものを押し売られて、それで買ったんだろうな……イリナが」

「「…………」」

 

 二人は、それはないだろう、とでも言いたいような顔をしている。

 だけど間違いない。

 これは昔、俺とイリナが西欧にいた時の話なんだけど……

 

『お譲ちゃん、この石はね? 神によって作られた聖なる石……これを持つことで神に認められた人間になれるわけだ』

『おじさん! イリナ、それ買う!!』

『ほう、ならば君の持つお金全てでギリギリ足りるよ』

『うん!!』

 

 ……こんな感じで、あいつはすごくだまされやすい。

 どうせそんな感じで何かを買って、それで日本にいる間の資金を根こそぎ奪われたんだろうな。

 

「さて、じゃあ神の手じゃなく……悪魔の手でも差し伸べようか」

「…………イッセー先輩の悪そうな顔、意外といけます」

「なるほど……真の男は時に悪くもあるのか」

 

 俺は二人の呟きを無視して、そして二人の近くに近づいた。

 

「やあ、迷える子羊? 神の手じゃなく、悪魔の手を望むことをお勧めするぜ?」

「なっ! イッセー君!?」

 

 俺の顔を見た瞬間、イリナがそう声を上げるのだった。

 ―・・・

 …………その20分後。

 

「んぐ、んぐ……日本の料理は、なんてうまさだ!!」

「うぅ……幼馴染の優しさで涙が―――昨日はあんな恋人の別れみたいなこといってたのにぃぃぃ!! ああ、故郷の味はおいしいわ!!」

 

 そして現在、俺達は例の喫茶店に戻ってイリナとゼノヴィアにご飯をおごってやっている。

 ここの喫茶店のオーナーの料理は最高だからな……値段もリーズナブル。

 既に机には異様な量の皿があり、さっきから観莉が大忙しだけど。

 にしても食べる量が尋常じゃない……こんなにスタイルが良い二人なのにな。

 

「…………私も、もう少ししたらスタイルくらい……」

 

 ……この子は俺の心でも読んでいるのだろうか?

 小猫ちゃんの呟きに俺は一応フォローを入れる。

 

「俺は小猫ちゃんは小猫ちゃんで可愛いと思うんだけどな」

「……ならいいです」

 

 少し顔を赤くしてそうぶっきらぼうに言う小猫ちゃん……いちいち可愛いな!

 ……それはそうと、二人はようやくご飯を食べるのを止めていた。

 

「ふふ……まさか悪魔に救ってもらうとは……世も末だ」

「ああ、主よ! 悪魔だけど変わらずに心優しいイッセー君にご慈悲を!!」

 

 ……イリナは天然で十字架を刻もうとするが、俺はそれを先に止める。

 

「お前、俺達が悪魔だってことを忘れてんのか!」

「あ、そうだった」

 

 可愛く舌を出してるけど、それは結構、真剣に頭痛がするんだからな!

 

「ごめんね、イッセー君……つい癖で!」

「……イッセー、お前の幼馴染は恐ろしいよ」

 

 匙が俺にそう言うけど、まあ先に止めたからギリギリセーフだ。

 それにしてもよく食べたな……今日はお金を大分持って来ててよかった。

 

「……それで、私達と接触してきた理由は?」

 

 ……ゼノヴィアが単刀直入にそう尋ねてくる。

 なるほど、大体は察していたか。

 なら話は早い。

 

「単刀直入に言わせてもらう。お前たちが行おうとしていること―――エクスカリバーの奪還、もしくは破壊に協力させてほしい」

 

 俺の発言に、二人は目を丸くして驚く。

 まあそうだろうな……昨日は俺達に手を出すなっていって契約を結んだ矢先、いきなりこんなことを言われているんだから。

 

「……昨日のことを忘れたのか?私たちは悪魔の手は借りない」

「そうも言ってはいられないはずだ。どう考えても、お前たち二人では戦力不足だろう?」

「ッ!!」

 

 俺の発言に、ゼノヴィアが顔を曇らせる。

 

「図星だろ?相手は堕天使のトップクラス……コカビエルだ。エクスカリバーの聖剣使いだろうが、そんな簡単にはことは運ばないはずだ」

「……確かにそれはそうだ。だが、我々は命に代えてでもエクスカリバーを壊す。堕天使の手に渡るよりはマシだ」

「そこだ」

 

 俺はゼノヴィアの発言にそう言って区切らせてもらう。

 

「命をかける……そんな簡単に言うな。命はなくなったらそれまでだ。信仰も何も関係ない…………それに悪魔になってもイリナは俺にとっては幼馴染だ」

「……イッセー君」

「祐斗だって、聖剣のせいで人生を狂わされたんだ。あいつの気持ちは、痛いほどに分かるッ!」

 

 ……だから俺は動くんだ。

 ずっと闇にいるあいつを助け出すため、イリナを死なせないために。

 自分の身をささげても守り切る。

 

「…………確かに君の言うことはもっともだ。確かに、コカビエル相手に我々二人では聖剣3本の奪取は不可能に近い」

「……でもゼノヴィア、相手はイッセー君とは言え、悪魔なのよ?」

 

 イリナはさも当然のことを言う。

 確かにこれは下手をすれば三大勢力が関わってくる問題だからな……だけど俺は

 

「俺は赤龍帝……ドラゴンだぜ? それに俺の力は知っているはずだ。それにこの前の戦い、俺は全く力を使っていない。ただの身体能力だけでイリナ、お前を圧倒した」

「それは……そうかもしれないけど」

 

 イリナが全力じゃなかったことくらいは分かってる。

 でも、仮に全力でも俺の本気以前にあいつは俺には届かない。

 イリナはそれくらいは分かっているんだろうな、だから難しい顔をしている。

 

「……確かに、君の力は絶大だろう。いつかは魔王や神すらも超える神滅具……しかもドラゴンが封印される赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)を宿しているんだから。それに君からは何故か、悪魔なのに聖なるものを感じる」

 

 ……こいつ、まさか俺の中の神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)に気付いているのか?

 あれは確かに聖なる力に似ている力を宿している……まあドラゴンだから聖力ではない。

 それを感じ取る……か。

 

「先に言っておく。俺の中には赤い龍以外にも白銀の龍がいる。それを駆使すればコカビエルとも渡り合える。それでも俺の協力を無下にするか?」

「……わかった。一本くらいなら任せても構わない」

 

 ……ゼノヴィアは渋々といったようにそう言った。

 交渉は成立か。

 

『今度は堕天使のトップクラスか……相棒、そのレベルならば禁手(バランス・ブレイカー)は必須だ』

『ええ。間違いなく、必要でしょう』

 

 ……バランス・ブレイカーか。

 赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)白銀龍帝の篭手(ブーステッド・シルヴァー・ギア)によるツイン・ブースタ―でも良いと思ってたけど、それはきつそうか。

 あれもまだまだ改良の余地はあるんだけどな。

 

「お前の領分の広さに感謝するぜ。大丈夫、まとめて俺が守ってやる」

「お、おぉ……これが真の男、兵藤一誠!!」

 

 匙が何か、すごい感動しているわけだけど、なら次にすることは一つしかない。

 

「……来たようだな」

 

 すると更に一人、店内に見知った男が入ってきた。

 ……それは少し前に俺がメールで呼び出した祐斗だった。

 ―・・・

 

「……なるほど、話は大体理解した」

 

 祐斗は俺の隣に座って、コーヒーに口をつけながら俺が話した事情を聞いている。

 マスターは温かい目でこっちを見て、騒いでもいいよ、みたいなことを言ってくれている。

 今は一応、他に客はいないからな……あとでちゃんと謝っておこう。

 ちなみに祐斗は「聖剣関連で話がある。お前にとっては確実に有益な事だ」という連絡を送ったら普通に来てくれた。

 

「……それにしてもまさか、貴方からそんな譲歩が出るとはね」

「こちらも方法を選んでいられないということだ。私だって、まさか悪魔に頼ることになるとは思ってもいなかった……」

 

 ……途端に睨みあいになる二人。

 こいつら、本当に相性が悪いな。

 

「……なら僕も情報を提供しよう。君達以外にこの町に来た神父はいたかい?」

「ああ。ただ、この町で何者かに殺されていたが……」

「それをやった人物を僕は知っている……しかもエクスカリバーを持っていた人物だ」

『ッ!?』

 

 ……俺達は祐斗の情報に驚いた。

 まさか祐斗が既にエクスカリバーと接触していたとは……もしかして、祐斗が一番機嫌が悪かった時にか?

 だったら説明がつくけど。

 

「……やったのはイッセー君や小猫ちゃんが知っている人物……フリード・セルゼン」

「……はぁ、またあいつか」

 

 俺は白髪のふざけた口調の似非神父を思い出してつい溜息を吐く。

 …………でもこのタイミングであいつか。

 

「……聞いた話では、君はあの聖剣計画の被害者らしいな」

「そうだよ」

「……君の憎しみは、もっともだ。あの計画は、我々の間でも最大級に嫌悪されている。故にその首謀者だった男も教会から追放され、今では堕天使側の人間だ」

 

 ……堕天使側?

 エクスカリバーに、聖剣計画の首謀者……そしてコカビエル……―――!!

 なるほどな、今回の件、都合が良すぎるわけだ。

 

「バルパー・ガリレイ。皆殺しの大司教って呼ばれた男よ」

「……バルパー・ガリレイ」

 

 祐斗はその名を呟く。

 バルパー・ガリレイ……間違いない、そいつは今回のこの件と関わっている。

 

「今回の件、間違いなくバルパー・ガリレイが関わっている。エクスカリバー、聖剣計画、コカビエル、はぐれ神父……全部繋がっているからな」

「……君は本当に頭が回るね、イッセー君……そうだね、同士の敵であるバルパーが関わっているのなら、僕が黙っている理由はない。力を貸そう」

「……話はついたな。赤龍帝、兵藤一誠。飯のお礼はいつか必ずする」

「イッセー君……こんなことになっちゃったけど、よろしくね?」

 

 ……そう言うと二人は店内から去っていく。

 

「……はぁ、緊張した~」

 

 匙はすると、肩の力が抜けるように机にうなだれた。

 ……さて、どうせ祐斗のことだから今回の件は手を引けくらいのことは言いそうだな。

 先に先手を打つか。

 

「祐斗、昨日はすまなかったな。でも、俺はお前の気持ちは誰よりも理解している。だからお前に手を貸すことにした」

「……だけどこれは僕の問題で」

「お前は俺達の仲間だ!仲間がみすみす死んでいくさまなんか、俺は見る気はない……」

「…………私も、祐斗先輩がいなくなるのは嫌です」

 

 ……小猫ちゃんの必殺、上目遣いのうるうる瞳が祐斗に炸裂する。

 ちなみに俺はあの可愛すぎる動作に勝てたことがない!

 それはあいつも同じなようだ。

 

「……はは、小猫ちゃんにそう言われたら仕方ないね。わかった。僕も自分のことを話そう。匙君も何知らずに関係するのは納得がいかないだろうから」

 

 ……祐斗はそれから話し始めた。

 聖剣計画のことを。

 自分の他に同士がいて、みんな色々な夢があった。

 神に僕達は選ばれた、聖剣の力を僕達は使える……そう信じて計画に参加していた。

 でも毎日のようにたくさんいた同士は傷つき、少しずつ消えていき、途端に恐怖に身をよせるようになった。

 次は自分かもしれない、死ぬのは嫌だ……そんな日々が毎日続く。

 でもいつか、特別な存在になれると信じて……毎日過酷な実験に身を投じ、毎日聖歌を歌った。

 ……そしてその結果が――――――『処分』

 

「……僕は毒を散布しに来た奴らから、同士に君だけは逃げろ、そう言われて施設を抜け出した。でも毒はね?もう僕の体に回っていて、僕は雪の降る寒い森の中で、倒れた……死んでいった仲間たちのことを思いながら、僕は復讐を誓った。そして生きることを願った……そしてそれを部長が叶えてくれた」

 

 ……祐斗は語る。

 その話に、小猫ちゃんは少しだけ涙を流し、匙は号泣していた。

 

「うぉぉぉぉん!!! 木場、お前がそんなこと過去を背負っていたなんて! 俺、お前と一緒に戦うぜ!! エクスカリバー、んなもん壊そう!」

 

 ……熱い男だ。

 でも、俺はある事(・ ・ ・)に祐斗の話を聞いて確信した。

 

『やはりそうか……やはりあの事は繋がっているのか、相棒』

 

 ああ、間違いない……でも、今はまだそのことは黙っておこう。

 少なくとも、今回の騒動が終わってからだ。

 俺はそう思い、確信を自分の胸に押し込んだ。

 

「安心しろ、コカビエルごとき、俺がぼっこぼこにしてやる!」

「君が言うと本当にしそうだから困るよ」

「…………イッセー先輩は、最強」

 

 ……久しぶりの、祐斗の笑顔。

 ああ、決まった……祐斗、お前の想いをぶつけようぜ。

 

「とりあえず、よろしく」

「……ああ、イッセー君」

 

 俺はそう言うと、俺は祐斗に手を出し、そして祐斗はその手を握り返したのだった。


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