ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第3話 一人だけと思うなよ

 まだ辺りには俺以外の生徒の姿はなく、朝の7時前後の時間帯ってところだ。

 だけど俺の前には嫌にも目立ってしまう格好をしている二人の少女がいた。

 一人は俺の幼馴染で電話でずっと連絡を取っていた紫藤イリナ、そしてその隣に恐らく彼女の知り合いであるはずの緑のメッシュが入った青髪の女の子。

 格好は白いローブのようなもので顔以外を覆われていて、イリナは予想通り、教会関連での仕事のことでこっちに来たということを今さっき教えられたところだ。

 そして俺は今、こいつら二人と学校近くにある小さな公園のベンチで向かい合っている。

 とりあえずコンビニで買った飲み物を渡していて、イリナは屈託ない笑顔で礼を言ってくるが、しかしもう一人の女の子は何とも言えない表情をしていた。

 

「……君のことはイリナから聞いているよ、兵藤一誠君。私はゼノヴィア。見ての通り、教会に関わりのある者だ」

 

 ……俺はその時、そのゼノヴィアと名乗る女の子の近くにもたれ掛かっている、大きな布で覆われている物体に目が入った。

 何となく分かっていたけど、これはまさか……

 

『相棒、間違いない……このオーラは間違いなく――――聖剣』

 

 ……やはりか。

 このゼノヴィアと会ってから、俺の肌にチクチクと突き刺さっていた聖なる力の正体はやはり聖剣。

 対悪魔の究極兵器。

 ……なるほどね、大体は察したよ。

 つまりあれだ、イリナが聖剣を持つ少女と一緒にいると言うことはイリナも一緒ってことか。

 

「それで? イリナに関しては町に来るって言ってたから別に驚きはしないけど、どうしてここに来たんだ?」

 

 一番の問題はそれだ。

 イリナは確実に聖剣に関わりがあるんだろうな……それは間違いない。

 でも、そんな聖剣持ちがどうしてわざわざこの町に来るんだ?

 悪魔狩りではないだろうし、でもそれにしたって来る意味が……

 

「そうなのよ、イッセー君! 結果的にイッセー君と再会できたから良いけどね? さすがに教会も勝手なのよ!」

「……イリナ、少し落ちつこうか。それにお前は少しはしゃいでいただろう?」

「ぎくッ!」

 

 ……イリナ、自分の口でギクって言ってるよ!

 そんなことをしている奴は初めてみた!

 

「そ、それは……い、イッセー君と久しぶりに会えるから、少しくらい世間話とか、遊びに行けるかと思って! 幼馴染だしね!」

 

 ……イリナ、君は聖職者だろ。

 だからそう言う欲望を滲みだしたら問題じゃないのか!?

 

「そ、それに私の信仰する神は愛を真とする神なのよ! だから全くもって問題ないわ、故に私は正しいのよ!」

「ふっ……これだから君の信仰は軽いのだ。私を見習え、全ての欲は捨てているではないか?」

「愛も知らない子供が言うセリフじゃないわ!」

「黙れ、この異端者め!」

 

 ちょっと、ちょっと!?

 なんか信仰の違いですごい喧嘩に勃発して、しかもにらみ合いが激しい二人!

 何を話しているのかは俺には理解不能だけどさ、でもこれ以上巻き込まれたら面倒だ!

 時間もそろそろ他の生徒がちらほら見えてきてるし……仕方ない、仲裁をするか。

 

「どうでもいいけど、とりあえず要件を言えよ。目的があってここに来たんだろう?」

「……確かにそうだが、君に言われるのは存外、不愉快でもあるな」

 

 ……ゼノヴィアが呟くように言う。

 もしかしてこいつ……いや、間違いない。

 確実にこいつは俺のことを悪魔だと気づいている!

 イリナは気付いていないようだけど……

 

「そうだな。私は君の通う駒王学園に在籍しているリアス・グレモリーという女に会いたくてな……出来れば君が仲介してくれないか?」

「ゼノヴィア!」

 

 するとイリナは突然、ゼノヴィアの肩に掴みかかった。

 

「関係のないイッセー君を巻き込むなんてどういうつもり!? イッセー君を巻き込むのは許さないわ!」

「……いや、同じ学校なら面識くらいはあっても可笑しくないだろうと思ってな。それでどうだ? 兵藤一誠」

「…………」

 

 確実に俺が悪魔で、なおかつグレモリー眷属と関係あるって確信している顔だな。

 そしてイリナはまだ俺が悪魔だとは気付いていない。

 ……なるほど、イリナは俺を人間と思っているから悪魔に俺を近づけたくないってことか。

 

「お前の言いたいことは分かった……いいよ、俺が仲介役になろう。それで日取りは?」

「なるべく早く……そうだな、今日なんかどうだ?」

「もう! 勝手に話を進めるなんて許さないわ!」

 

 ……イリナは少し怒りながらそう言う。

 仕方ない、こうなったら……

 

「イリナ、少し歩いたところにある自動販売機でジュースを買って来てくれないか? 話してたら少し喉が渇いてさ……」

「……イッセー君の頼みなら、無下にするわけにはいかないわね!」

 

 イリナは素直に頷いて俺から小銭を受け取ると、小走りで走っていった。

 

「……さて、イリナは消えた所で話を決めようか、悪魔」

「そうだな……聖剣使い」

 

 ―――イリナが消えた途端、俺とゼノヴィアの視線が合わさる。

 やっぱり気付いていたか、こいつ……

 

「どうしてイリナに黙っていた? 俺が悪魔だってこと……」

「分からないか? ずっと慕ってきた幼馴染が悪魔だと知ってみろ。そんな酷なことは私には出来ない。言うなら自分から言ってもらう」

「………………」

「……イリナは、君が幼馴染という先入観から君が悪魔ということは勘違いということにしている。何があろうと、我々にとっては悪魔は仇敵。許されるなら、今この場で殺しても構わない」

 

 するとゼノヴィアは布に包まれた聖剣らしき大きな物体の柄らしき部分を掴む。

 血の気が多い奴だ。

 

「悪いけど、俺はお前とやりあうつもりはない。悪魔だろうと、イリナは昔からの幼馴染、それには変わりはないからな!」

「……とにかく、リアス・グレモリーとの会談は本日の君の学校で放課後に。場所は校門前で迎えに来てもらおう。それならば君のことは私からイリナに伝えてあげよう」

「……わかった。その要望に飲む」

 

 俺はそう言うと、鞄を持ってゼノヴィアから背を向ける。

 実のところを言えば俺は……自分の口からイリナに真実を告げることが怖かった。

 昔から仲が良かったから、余計に……口ではどう言っても、結局のところは怖いの一言だ。

 

「イッセー君、買ってきたよ?」

「……おう、サンキューな? 詳しいことはゼノヴィアから聞いてくれ」

 

 俺はイリナと公園の入り口付近で遭遇し、そしてイリナの持っているジュースを受け取るとそのまま彼女の横を通って学校に向かった。

 ……心に重い何かを感じながら。

 ―・・・

 俺は午前中、ずっとらしくないほどに暗かった。

 それは俺よりも学校に遅く来たアーシアが激しく心配してくるくらいで、俺はアーシアに心配をかけるくらいならと割り切ることにした。

 悪魔になったからにはいずれ、通る道であることは間違いないことだからな。

 覚悟ぐらいはしよう。

 っということで、俺は今は午後の授業の真っ最中であるのだが、俺を右側の席のクラスメイトの女子が俺に何か紙を回してきた。

 なになに……?

 

『木場きゅんとは喧嘩しちゃったの? ダメだよ? 恋人はしっかりと大事にしなきゃ!』

 

 ……無言で破り捨てる。

 そして更に左側の女子からも手紙が回ってくる。

 

『兵藤君の攻めもいいと思うんだけどさ? 木場君の攻めで、兵藤君が受けって言うのもなかなか斬新と思わない?』

 

 ……またもや無言で破り捨てる!

 すると最後と言うべきか、俺の前の席の桐生藍華が紙を送ってきた。

 

『そういえばアーシアと昨日寝たんだって? どうだった? アーシアの蜜の味ってやつは? アーシアはきっと初めてだったんだから、優しくしなさいよ? あはは♪ あ、でもアーシアは若干Mっ気があるから、無理やりヤッても受け入れるかもね♪』

 

 ……その文面を見た瞬間、俺の中で限界を迎えたのです。

 

「おらぁ!! お前ら、なんの恨みがあって俺にこんな紙を回してくんだよ! そして桐生!! 書いていいこととダメな事があるだろうが!!!」

 

 俺は、授業中であるということをつい忘れて叫んでしまう!

 ……そう、授業中なんだ。

 

「ひ、兵藤君……わ、私の授業は至らなかったかしら?」

 

 先生が、震えながら俺を見ている。

 しかも松田、元浜の美女教師ランキングで上位に位置する足立先生は涙目だった。

 

「にひひ♪」

 

 ……よし、俺は桐生藍華を殺そうか、うん。

 今こそドラゴンファミリーを出動させるべきだと俺は思うな!

 

『相棒……人間相手にそれは……』

『いえ、ドライグ。主様は誰よりも純情なのです。そんないかがわしいことを言われて、我慢できるわけが……』

『……なら仕方あるまい』

 

 俺は授業が終わったら桐生をどう説教しようか考えながら、残りの授業を無言で受けるのだった。

 ―・・・

「すみませんでした、だからもう許してください! 私の体に何をしてもいいから、ぶたないで!!」

 

 ……桐生は今、俺の前で正座をしている。更に言えば土下座をしていた。何しても良いんなら殴っても良いんじゃないか?

 ……今は昼休みなんだけど、こいつが授業が終わった瞬間にどこかに逃げようしていたから、首根っこを掴んで今は正座をさせている。

 そんでもってまだ、ふざけたことを言っているようだ。

 

「よし、何でもしていいんならまずは校庭を100周ほど走ろうか? な? 桐生?」

「……いやぁ、私も少し悪乗りし過ぎたね! ごめん、ごめん! そりゃあ一緒に住んでたらアーシアと毎日、熱い夜を……」

 

 ……俺は桐生の頭を掌で掴む。

 そして少しずつ、力を込める。

 するとどういうことか、桐生の頭からギシギシと軋む音が聞こえるではないか!

 

「いだい、いだい! ちょ、兵藤!? マジで真剣な方向で私の頭が!」

「そんな緩い頭は一度、完全に崩壊するべきだと俺は思うんだよ……なあ?」

 

 俺は桐生と同じように紙を送ってきた女子に笑顔でそう言うと、女子は首をぶんぶんと縦に振った。

 どうやら、彼女たちは賢明なようだな!

 

「あ、あんたら私を裏切った!? アーシア、私を助けて!」

 

 すると桐生は心配そうな表情を向けている、優しいアーシアにそう助けを求めるんだけど……

 

「アーシア、後で一緒にご飯食べよっか? 先に屋上に行っておいてくれ」

「は、はい!イッセーさんとお食事……ふふ」

 

 アーシアはスキップでもしそうな勢いで教室から離れていく。

 ……さあ、桐生。退路は俺が絶たしてもらった!

 あとはお説教の時間だ!

 

「こ、これが……地獄……がく」

「まだ何もしてねえだろうが!嫌なら最初からあんなことしてんじゃねえ!」

 

 俺は手を離し、手元にあった教科書で桐生の頭をはたいた!

 

「きゃうッ! ……もう兵藤~、もっと優しく………………はい、ごめんなさい! だからその拳を本気で直してください!」

 

 ……女の土下座を見たのは初めだったよ、桐生。

 俺は桐生の情けない姿を見て溜息を一つ溢した。

 

「……でも少しは表情はマシになったかな?」

「お、お前……」

 

 俺は桐生の苦笑いを見て少し罰が悪くなる。

 桐生はもしかして、俺を気遣ってあんなことを……

 良く見ると周りの女子も俺のことを心配そうに見てるし、男子もなんか笑ってる……

 やっぱり俺は今日一日、そんな顔をしてたのか。

 ……ダメだな、切り替えないと。

 俺はそう思って思い切り自分の頬をパンパンとたたいた!

 

「よし! 俺はアーシアとご飯食べに行ってくる! 桐生! さっきのことは置いといて、ありがとな!」

 

 俺は自分のお弁当を持って教室を出ていく。

 これはアーシアにも謝らないといけない、そう思いながら俺はアーシアの待つ屋上に向かった。

 ―・・・

 俺はアーシアと二人でご飯を食べることを望んでいた。

 アーシアは一人だったら暴走することは少ないし、それだったら気疲れもないだろう……そう考えたていたんだけどさ。

 

「……イッセー先輩、こっちです」

「イッセーさ~ん!」

 

 屋上に入った瞬間、俺の目に入ったのは俺の方に嬉しそうに腕を振っているアーシアと、ここに座れと言うように自分の近くの地面を叩いている小猫ちゃんの姿があった。

 ……この二人は最近、妙に仲が良い。

 まるで協定でも結んでいるように俺と三人でいようとするなどといった強硬手段を何回かとっていたりする。

 ちなみに少し前にそのことを聞いてみたんだけど……

 

『部長さんと朱乃さんに一人で挑んだら大変です!』

『……圧倒的、戦力差』

 

 ……だそうだ。

 確かに部長と朱乃さんは女子から見ても凄いスタイルをしているとは思うけど、俺はアーシアや小猫ちゃんが二人と劣っているようには見えない。

 俺からしたら愛でたい対象だし……眷属の中での俺の癒し双門だしな!

 そして俺は小猫ちゃんの言う通りに言われた場所に座ると、アーシアは距離を詰める!

 そして小猫ちゃんは胡坐をかく俺の足の上にちょこんと座る!

 

「…………協定通り、今日は膝は貰います」

「うぅ……仕方ありません! 私はあーんをします!」

「……ッ! それは交互です!」

 

 ……なんか俺が知らないところで二人の交渉が始まっている!?

 待って、俺の権利が存在していないんだけど!

 ―――ま、俺が何言っても二人は止まんないから考え事でもするか。

 ちなみに今、兵藤家では俺の弁当を交互に母さん、部長、アーシアが作っている。

 部長は昔から花嫁修業で色々仕込まれたらしく、和洋折衷、あらゆる料理を平均的にこなしている。

 母さんは元々料理上手で慣れ親しんだ味だからな……安心できる料理を作る。

 アーシアはダークホースで、料理をし始めて数カ月とは思えないような上達ぶりで、師匠である母さんは賞賛していたな。

 ちなみに今日はアーシアの当番である……追伸で言うと、俺は料理は作れない。

 お菓子なら出来るんだけどさ、そういう包丁を使う作業がどうにも下手で……

 たぶんやろうと思えば出来るんだけど、母さんがあんまり俺を台所に入れてくれないからな。

 ま、やってくれる人がいるんだから文句なんかはない。

 それにしても昼の屋上なのに誰もいないな。

 

「…………人払いの結界です」

 

 ……俺が周りをきょろきょろするもんだから小猫ちゃんがそう呟く。

 って人払いの結界!?

 たかが昼ぐらいで魔力使うって小猫ちゃん!

 

「イッセーさん!あ~んです!」

「…………先輩、あ~ん」

 

 するとアーシアと小猫ちゃんが同時にお箸を俺に向けてくる!?

 もしかして、交渉の結果が一緒ってやつなのか?

 …………よし、腹をくくろう!

 寧ろこんな可愛いアーシアと後輩の小猫ちゃんにこんなことをされて、もっと喜ぶべきだ!

 俺はそう思い、まずはアーシアの卵焼きを食べようとした時―――

 屋上の扉が、バン!……っという音と共に開かれた。

 

「そこまでよ!アーシア、小猫!」

「あらあら、うふふ……抜け駆けは許しませんわ~」

 

 ……そこにいたのは仁王立ちの部長、そしてニコニコしてるけど額の血管がぴくぴく動いている朱乃さんの姿があった!

 

「…………アーシア先輩、不味いです」

「はぅ! どうしましょう、どうしましょう!」

 

 ……俺の近くであわあわしてるアーシアの卵焼きを、俺はパクリと食べる。

 うん、これは絶品だ!

 …………ごめん、今のはただの現実逃避だ。

 だって部長と朱乃さん、すごい怖いんだもん!

 ―――部長には、俺は今朝のことを既に話している。

 朝、俺は直接部長の教室に言って、人影が少ない所で事情を話して了承はすでに貰っている。

 それもあるから今日の俺はいつもとどこか違っていたんだと思う。

 

「全く、最近の貴方達は油断の隙もないわ。ただでさえアーシアと小猫は強敵なのに……」

「あらあら……私では相手にならないとでも言いたいのかしら?」

 

 ……なんで次に二人が険悪になるんですか!?

 部長の呟きに、朱乃さんが真っ向から反応して睨み合いになってる!

 しかも朱乃さんが部長に対してため口だ!

 ……でも、この場には祐斗はいない。

 俺は不意にそう思ってしまった。

 眷属が集合している中で、いつもなら俺たちの傍で微笑みを浮かべているあいつがいない。

 みんな集まっているのに、祐斗だけがぽつんと居ない……そんなの、悲しすぎる。

 だから俺は小猫ちゃんに耳打ちをして、足の上から退いてもらって、そして立ち上がる。

 

「部長、せっかくなんですから眷属みんなで仲良くご飯を食べましょう!」

「……イッセー? ……そうね、私は少し大人げなかったわ。朱乃、それでいいかしら?」

 

 朱乃さんは部長の言葉に頷く。

 ……そうだ、あとは一人だけだ。

 

「じゃあ俺は祐斗でも誘ってきます! あいつ、昨日あれだけ失礼な事をしたんですから、皆の前でしっかりと謝らせます。ま、それはダチの役割ってことで」

「……イッセー。分かったわ―――じゃあ行ってきなさい!」

 

 俺は部長に背中を後押しされて屋上から祐斗のクラスに向かう。

 あいつは放っておけない……認めた仲間だし、それに俺の友達だ。

 俺は祐斗のクラスのガラス窓から教室を窺うと……祐斗は教室の自分の席で静かに本を読んでいた。

 でも明らかに、あいつの機嫌は昨日よりも悪い。

 普段あいつに近寄っていく女子たちも、今は遠巻きで祐斗のことを心配そうに見ていた。

 ったく、あいつは……仕方ねえ。

 

「祐斗! 昼なのに何、本なんか読んでんだよ!」

 

 俺は教室に入ってあいつの席の前に座ると、祐斗は俺の顔を見て一瞬、驚いた顔をする。

 

「……イッセー君か。驚いたよ、昨日の今日で僕に話しかけてくるなんてね」

「うるさい。それよりもお前、昼はどうするんだ?」

「……いらないさ。今は何も考えたくはないからね」

「…………お前、昨日あれから何があった?」

 

 ……俺はそう聞かずには言られなかった。

 今日の祐斗はあまりにも昨日とは更に雰囲気がガラリと変わっている。

 目に宿る復讐の色が、更に濃くなっている。

 それはつまり、俺と別れてから祐斗に何かがあったという確信にしかならなかった。

 

「……昨日、やるべきことを再認識しただけさ。そして今の僕は逆に生き生きしている」

「つまりそれは……いや、何でもない」

 

 ……こいつがイリナとゼノヴィアと接触しているとは思えない。

 今のこいつが所見で突然、あの二人と出会ったら襲いかねないからな。

 その状態であのゼノヴィアが俺と会って普通に交渉できるとは思えないからな。

 ……今の祐斗はそう思うしかないほど危う過ぎた。

 

「……一人で考え込むのは良くない。もしお前が他の部員を頼れないなら俺を頼れ。ある程度、お前の想いは理解している」

「……そうだね、他の人に比べたら君は僕を尊重してくれるだろうから。もしもの時は頼らせてもらう」

 

 こいつの中にはまだ頼ろうと思う気持ちがあることに俺は安堵する。

 やっぱり祐斗は仲間がどうでも良いわけじゃない……自分の問題に関わって傷ついてほしくないからそう言っているんだ。

 ……そんな祐斗だからこそ、言っておいた方が良い。

 

「祐斗、今日の放課後、必ず部室に来い」

「……どうしてだい?今僕が行っても、空気が悪くなるだ」

「―――今日、部室に聖剣を所有している教会の者が来る。お前はその場にいるべきだ」

「―――ッ!!」

 

 祐斗は俺の宣言に表情を変える。

 

「……君は僕の欲していることを分かっているね……ありがとう、イッセー君。僕は君に感謝する」

「…………」

 

 俺は何も言わない。

 だけど……俺はそれに加え、祐斗に条件をつきつけた。

 

「ただし、今から屋上で皆で飯を食う! それが教えた条件だ!」

「…………条件を言う前に情報を僕に与えるなんて―――全く、君は食えない人だよ」

 

 ……祐斗はそこで少し肩の力が抜けた苦笑いを浮かべる。

 確かに祐斗が今の状態で屋上で皆とご飯を食べたとしても、一人だけ浮くかもしれない……でも一緒にいることが今は大切なはずだ。

 俺はそう思う。

 そして俺は祐斗と共に屋上に向かうのであった。

 ―・・・

 放課後になった。

 もう俺の中の不安な気持ちはない。

 俺は約束通り、放課後になって駒王学園の校門前に行くと、そこには目立つ白いローブを纏っているイリナとゼノヴィアがいた。

 そんな中、俺はイリナの顔を見た。

 イリナの表情は……暗い。

 俺の顔を見ると、どこか泣きそうな顔になっていた。

 

「……やあ、兵藤一誠君。話しはつけてくれたか?」

「ああ、約束通りな……お前も、約束は果たしてくれたみたいで何よりだ」

 

 俺は特に動揺することもなくそう言う。

 ゼノヴィアに俺のことを伝えてくれと願ったのは俺だ。

 今更、もう焦ることはない。

 それに何より、焦ってももう逃げることは出来ない。

 

「……イリナ、ゼノヴィア。俺についてきてくれ」

 

 俺は歩み始める。

 二人は無言で俺についてきて、しばらくすると俺達はオカルト研究部がある旧校舎に到着した。

 おそらく、既に俺以外の眷族は部室に集結しているだろうな。

 俺は部室前に着くと、先にノックを済まして部長の許可を得てから部室に入った。

 ……部室には、部長がソファーに座っていて、窓側に朱乃さん、アーシア、小猫ちゃんが立っていて、そして祐斗は皆から離れたところに腕を組みながら立っていた。

 俺は二人をソファーに座らせ、そしてアーシアと朱乃さんの間に立つ。

 ……部室の空気は、どこか重いな。

 まあ当たり前だ……本来は敵であり、向こうからしたら悪魔は殺す対象でしかない。

 そんな悪魔に話があるってことは、相当の事情があってのことだ。

 

「この度、会談に了承してもらって感謝する。私は教会からの使者、ゼノヴィアだ」

「……紫藤イリナです」

 

 ……イリナは声音が随分、いつもと比べて暗い。

 

「ああ、イリナのことは気にしないでくれ。少し知りたくなかった事実を知って、意気消沈しているだけだ」

 

 ゼノヴィアが俺の方を見て少て笑ってくる。

 

「……それで、今まで悪魔を敬遠してきた教会側が一体、私達に何の用かしら?私達と交渉するくらいだもの……相当なことがあったのでしょう?」

「……簡潔に言おう。我々教会はある聖剣が所有している。その聖剣―――エクスカリバーが、堕天使によって少し前に奪われた」

 

 ―――聖剣エクスカリバー。

 その名が部室の中に響いた。

 ……ゼノヴィアのその発言に俺たちは驚愕の表情になるしかなかった。

 そしてそれは祐斗も同様だった。

 ―――エクスカリバーは、大昔の大戦で一度、完全に折れて壊れた。

 それはドライグから聞いた情報だけど、それから年月が経過し、そしてエクスカリバーは新たな形で生まれた。

 それはエクスカリバーを七つに分散させるという形……要はエクスカリバーは7本あるんだ。

 

「…………私たち、教会は3つの派閥に分かれていて、所在が不明のエクスカリバーを除いて6本の剣を2つずつ所有していた。それが少し前、堕天使によって3本が奪われた」

「…………」

 

 俺たちはあまりにもの突然のことに驚いている。

 ……よりにもよって、こいつらがここに来たのはエクスカリバーの関係か。

 

「先に言っておこう。我々は聖剣使いだ―――エクスカリバーのな」

「「「「「―――ッ!!」」」」」

 

 俺たちは身構える……流石にそこまでとは思っていなかった!

 しかもゼノヴィアは我々と言った……つまりイリナもまた、聖剣エクスカリバーの使い手ということになる。

 祐斗の復讐対象の、所有者。

 

「私の持っているエクスカリバーは『破壊の聖剣』(エクスカリバー・デストラクション)

「……私の聖剣は『擬態の聖剣』(エクスカリバー・ミミック)よ」

 

 ゼノヴィアは布に包まれた大きな聖剣、そしてイリナは自分のしなやかな腕を出して、そこに巻かれているひものようなものを指した。

 破壊と擬態か。

 

『相棒……破壊の聖剣は文字通り、破壊を司る。そして擬態はあらゆるものに姿を変えることが出来る聖剣だ』

 

 ……だからイリナはあんな軽装で来ていたのか。

 擬態の力でエクスカリバー事態を剣ではない、別の形態に変化させて持ち運びをしやすくしたってところか。

 

「我々がこの地に来たのはエクスカリバーを奪った堕天使がこの町に潜伏したからだ。我々はそれを奪取、もしくは破壊するためにここにきた」

「堕天使に奪われるくらいなら、壊した方がマシだもの」

「……貴方達の聖剣を奪った堕天使のことを教えて貰えるかしら?」

 

 部長は事務的にゼノヴィアにそう尋ねた。

 確かに教会から聖剣を盗むことが出来るほどの堕天使なら、気になるのも仕方ないか。

 そう思っていると、ゼノヴィアは特に戸惑う事なく応えた。

 

「堕天使、コカビエル」

 

 ……俺は少なくとも、驚いた。

 まさかとは思ったが、堕天使の中でも上位クラスの奴が出てくるとは思わなかった。

 コカビエルは俺でも知っているほどの歴史に名を残すほどの堕天使だ!

 まさか、そんな奴が聖剣を奪うとは……

 

「まさか堕天使の中でもトップクラスの堕天使とはね。古の戦争から生き残り続けた堕天使の強者……つまり、今回の件は」

「ああ、間違いなく『神の子を見張る者』(グリゴリ)が関係している」

 

 ……グリゴリ?

 それは俺も知らない単語だ……俺が首を傾げていると、俺の隣の朱乃さんが俺に耳打ちしてきた。

 

「彼方より存在する堕天使の組織ですわ。おおよそ全ての堕天使がその組織に属している……この前の堕天使レイナーレもグリゴリのメンバーですわね」

 

 朱乃さんが少し声音を低くしてそう言う。

 なるほど、あのレイナーレはグリゴリの末端だったってことか。

 

「……それで、貴方達は私達に何を要求するのかしら?」

「簡単だ……今回の件に、悪魔の介入を許さない。それが我々、教会側の総意だ。つまり、今回の事件で悪魔側は関わるなということだ」

 

 ゼノヴィアの発言に、部長のオーラが少し怒りになる……これは不味いな。

 それはそうか……要は教会側の対策が足りないせいで聖剣を強奪される事態に至った。

 責任は全て教会側であり悪魔側には落ち度がないのにこの言い方。

 怒るなっていうのが無理な話だ。

 それに何より、二人がこの町に来たってことはその堕天使もまた駒王町に隠れているはずだから余計か。

 

「それは牽制かしら?それにしては随分な言い方だわ……もしかして、貴方達は堕天使の行為に私たち、悪魔が関わっているとでも思っているのかしら?」

「……悪魔にとっては聖剣とは身を滅ぼす兵器だ。堕天使と結託して聖剣を壊すと言うのならば、利害は一致していると思う。それが本部が示した可能性の一つだ」

 

 ……部長は完全にぶち切れていた。

 あの魔力が抑えきれていないのは何よりの証拠だ。

 

「もしそれが本当なら、我々は貴方を消滅させる。たとえそれが魔王の妹である貴方でもな」

「私を魔王の妹と知っているということは、言わせてもらうわ―――私はグレモリーの名に掛けて、魔王の顔に泥を塗ることはしない」

 

 部長は視線を鋭くし、ゼノヴィアを睨むように言い放った。

 それに対してゼノヴィアは嘆息して、納得するような表情を浮かべる。

 

「……それが聞けただけでいい。今のは上の考えだから、私の本意ではないさ」

 

 ゼノヴィアは好戦的な笑みを浮かべてそう言う。

 ……最初からそれくらいは分かっていたってことか。

 

「それで私たちが今回のことに介入しなければ、貴方達は私たちに関わろうとはしないのかしら?」

「ああ、神に誓って約束しよう」

「……了解したわ」

 

 部長はそう言うと、肩の力を抜く。

 話は終わったか…………でも一人だけ、まだそうでもない。

 ―――祐斗だ。

 未だに殺意のこもった視線で祐斗はエクスカリバーを睨んでいる……ずっと恨んできたものがこんなところにあるんだから、当たり前か。

 

「……そろそろ帰らせてもらおう。お茶などの気遣いは無用だ―――何よりこれ以上、イリナにここにいさせるのは苦だろうからな」

「……そんなことないわ」

 

 ……イリナは立ち上がって俺を見てくる。

 目には、はっきりとした怒りが映っている。

 それは俺への怒りなのか、それとも俺を悪魔に転生させた部長への怒りなのかは分かりはしないけど……

 そして二人は俺たちの近くを通って部室から去ろうとした……その時だった。

 

「―――君はもしや…………アーシア・アルジェントか?」

 

 ……ゼノヴィアは俺たちの隣を横切って通り過ぎようとした時、アーシアの顔を見てそう聞いてきた。

 

「は、はい……」

 

 アーシアは名前を呼ばれたことで少し驚いている……まさか、こいつはアーシアのことを知っているのか?

 ……待て、それならゼノヴィアが知っているのは当然―――

 

「……まさかこんな地であの『魔女』と会うことになるとはな」

「―――ッ!」

 

 ……魔女、その言葉にアーシアは体を震えさせた。

 その単語はアーシアが最もトラウマを持つ単語であり、忘れられない悲しい日々の始まりとなったもの。

 

「……あなたは確か、一部で噂になっていた元聖女―――悪魔をも治癒してしまう力のせいで教会から追放された少女……」

 

 ……イリナも気付いたのか、ゼノヴィアとは違い少し同情しているような目でアーシアを見ている。

 

「まさか悪魔になっているとはな……安心しろ、このことは上には報告しない―――だが、堕ちれば堕ちるものだな。聖女と崇められた者が、今では本物の魔女になっているとは……」

 

 ―――こいつは、今何て言った? ……俺は今すぐにあいつに殴りかかろうとした時、不意に小猫ちゃんに止められる。

 ……分かってる、ここで俺が手を出したら大変な事になることくらい!

 

「……だが君はもしかして、まだ神を信じているのか? 君からは罪の意識を感じながらも神を信じる信仰心がまだ匂う。抽象的だが私はそう言うのに敏感でね」

「…………捨てきれない、だけです……ずっと、ずっと信じてきたものですから……ッ!」

 

 ……アーシアはゼノヴィアの質問に涙を浮かべながらも答える。

 辛いのに、アーシアはそう言うしかなかった。

 

「そうか、なら私達に斬られるといい。我々の神は罪深い君でも、それでも救いの手を差し伸べてくれるだろうからな……せめて私が断罪しよう。神の名においてな!」

 

 ……その言葉を聞いた瞬間、俺は小猫ちゃんの手を振り切って、アーシアとゼノヴィアの間に立つ。

 ―――何が可笑しくて、アーシアが弾劾されなくちゃいけないんだよ。

 

「―――ふざけんな。アーシアを斬る? 殺す? ―――ふざけるのもいい加減にしろ……ッ!」

「イッセー!?」

 

 部長は俺に制止の声をかける……でも、俺は我慢できない。

 俺はアーシアの優しさを知っている。

 その笑顔で俺だって救われてきたんだッ!!

 だから、だから! アーシアの何にも知らない野郎に、アーシアを傷つけられて、何も言えずに言えるかよッ!!

 

「イッセーさん……ッ!」

 

 しかもアーシアが泣いている……また泣いているんだ!

 それだけで俺はもう我慢できない!

 

「お前、アーシアを魔女と言ったな」

「……だが現時点では間違いなくそうだろう? 堕ちた聖女、そして今は悪魔……どこからどうみても、彼女は」

「ふざけるなよ……ゼノヴィア!!」

 

 アーシアを……誰かのために涙を流して、死にゆくその瞬間まで俺の心配をしていたほどのお人好しなんだッ!!

 それくらい優しいのに、こいつらはそれを分かろうとしない!

 俺は声を荒げてゼノヴィアに反論する。

 

「勝手に聖女なんてものに称えておいて、悪魔すら癒してしまう優しい力を持っているのに、それを魔女だって……お前らはどこまで身勝手なんだ!!」

「……聖女と呼ばれたのも、そして神に見捨てられたのも彼女の信仰心が足りないからだろう?」

「そんな信仰、クソ喰らえだ! そんなもので優しい子を不幸にする! そんな信仰、間違っている!」

 

 俺は手の骨が折れてしまうと錯覚してしまうほど強く、強く拳を握りしめる。

 言わなきゃいけない……こいつらに!

 

「色々な人を救って、救って、それでも友達が全然できなくて、ただ泣いていた子なんだぞ! そんなアーシアをお前たちは見捨てたんだ! アーシアはな! ずっと……―――一人だったんだ!」

 

 ……俺の瞳からは少し、涙がこぼれる。

 思い出したからだ―――死にそうになった最後で、アーシアが言った小さな夢を。

 そんな夢しか描けないくらい辛い目に遭った、孤独だったアーシアの寂しさが頭に残っていた。

 後ろからアーシアは涙で嗚咽をもらし、俺の名を呟く。

 

「聖女は神に愛される存在だ。そんなものが、他人から愛や友情を求める時点で、聖女の資格はない」

「何が資格だ……どいつもこいつも、アーシアの優しさを理解しようともしない馬鹿野郎だ! 教会も、信徒も……神もどいつもこいつも愚かな奴じゃねえか!!」

「……君はアーシア・アルジェントのなんだ?それほど我々を愚かだと言うくらいだ……それほどのものなのだろう?」

 

 ……不機嫌な表情でゼノヴィアは俺にそう問い掛けてくる。

 ―――俺はすかさず、自分の本心の全て吐露した。

 

「家族だ! 友達だ! 仲間だ! ……俺のことを好きだって言ってくれる、優しい、俺の大切な存在だ! だから俺は許さない……アーシアを傷つけるというなら、俺はお前ら全員敵に回してでも、神を殺してでもアーシアを守る!!」

「……ほう。一介の悪魔がそれほどの口を叩くか。いいだろう」

 

 ……ゼノヴィアが布に包まれた聖剣をすっと構える。

 

「イッセー、止めなさ」

「……いや、イッセー君の言うとおりだ」

 

 ……部長の言葉を遮り、祐斗がそこで声を上げる。

 

「教会……いや、そもそも天界は一度滅ぶべきだ。間違いしか犯さない愚かな存在だよ―――だから僕が相手になろう」

「…………誰だ、君は」

「ふん……君たちの先輩だよ――――――失敗作のね」

 

 ……祐斗はそう言うと、一本のどす黒い魔剣を創りだす。

 

「どれだけ待ったことか……これで僕はエクスカリバーを壊すことが出来る……ッ!!」

「……祐斗」

 

 祐斗は狂気に囚われた歪な笑みを浮かべながら、そう言い放った。

 ……部長は祐斗の名を、悲しそうに呟き、それ以上は何も言わなかった。

 ―・・・

 俺と祐斗、ゼノヴィアとイリナは旧校舎前にある芝生の空間で対峙している。

 ここら一体に結界を張っていて、辺りには騒動は広がらないはずだ。

 

「……祐斗。お前はあのゼノヴィアってやつを任せる」

「いや、僕はどちらも……ううん、わかった」

 

 ……祐斗は俺の真剣な目に頷いてくれる。

 模擬戦だけど、対決は一対一。

 俺はイリナ、祐斗はゼノヴィアだ。

 ……本当なら、俺がゼノヴィアを叩き潰したい気分だけど―――俺には自分のけじめがあるんだ。

 そう……俺は伏し目がちのイリナをみると、そこにはローブを着ている大切な幼馴染の姿。

 ……イリナとのけじめをつける。

 

「では……はじめよう!」

 

 そしてゼノヴィアの声でイリナとゼノヴィアはローブを脱ぎ去った!

 ゼノヴィアは剣から布を解放し、馬鹿みたいに巨大な聖剣を掴む……あれがエクスカリバー。

 いや、それよりも俺が気になるのは……あいつらの格好だ!

 

「おい、お前らの教会はどうなってやがる! 何で歳もまだ言っていない女の子にそんな戦闘服を着せてんだよ!!」

 

 そう、あいつらの服装……それはピッチリとしたボンテ―ジっぽい体のラインが見えるくらいぴっちぴちの戦闘服だった!

 

「おい、イリナ!可愛くなったと思ったら、そんな服着てんじゃねえ!」

「な、イッセー君!? か、可愛いとかそんなのは今は無し! ……もう!落ち込んでたのに、台無しよ!」

 

 ……するとイリナの腕の紐が日本刀の形に変化する。

 なるほど、あれが聖剣……擬態のエクスカリバーか。

 

「俺はお前を説教する! ドライグ、いくぞ!」

『……相棒がやる気になっている。だがその理由が幼馴染にいやらしい服を着せた教会に対する怒りか……』

 

 うっさい!

 敵でもあんな服、俺は認めないし、それにそんな服を着せるあいつらの上司の変態の聖職者を俺はいつか説教してやる!

 そう思いながら、俺は赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)を発現させた!

 

『Boost!!』

「……まさかそれは―――神滅具」

「イッセー君が…………神滅具保持者?」

 

 イリナとゼノヴィアが目を見開いて驚いている……そうか、こいつらは俺が赤龍帝ということを知らなかったんだ。

 

「……僕を忘れて貰っては困る! ソードバース!!」

 

 ……すると祐斗は地面から次々に魔剣を生やしていく!

 地面から伸びた魔剣は次々にゼノヴィアを襲った!

 

「……イッセー君、君はいつからそれに目覚めていたの?」

「少なくとも、お前と遊んでいた時には既にな」

 

 俺は拳をイリナに向ける。

 

「あの時はよく喧嘩したな……お前を男と思ってた時代もあったし。そうだな……今、その決着をつけようか」

「……イッセー君の、馬鹿!!!」

 

 ……イリナは俺に突撃してくる。

 片手に悪魔を殺すための聖剣を持ち、立体的な動きで。

 俺はその全てを見切って、全てを躱す。

 

「久しぶりに会えると思って、嬉しかったわ! 前みたいに優しいし、カッコよくなってたし! でもそんな幼馴染が悪魔になっていた私の気持ちが分かるの!?」

「…………」

 

 俺は黙ってイリナの攻撃を避け続ける。

 イリナは感情を全て曝け出して剣を振るう。

 ……強くなったな、イリナ。

 

「分からないでしょう! だから私がさばいてあげる! 罪深いイッセー君に愛の手を……アーメン!!」

 

 イリナは刀で俺の頭から一閃する……俺はそれを神器で受け止めた。

 

「……お前の気持ちは、俺には正直よくわかんねえや」

 

 そして聖剣をそのまま掴んで、そして聖剣を奪い、それを俺の後方の大きな樹に投げ刺す。

 

「わ、私の聖剣が……ッ!?」

「……悪いけど、これで勝負ありだ」

 

 俺は拳をイリナの目の前で止め、そして寸止めしてそう言う。

 

「はっきり言う。俺は悪魔になったことを後悔していない。俺は堕天使に殺されて、そして部長に命を救われた身だ。そんな部長をお前が恨む意味はない」

「……いやよ。絶対に、私は悪魔は許さないもんッ! ―――大切な幼馴染を悪魔に変えた存在を、絶対ッ」

 

 ……イリナは、その場で静かに膝を地面につけて崩れる。

 

「……種族は違うけどさ、でも俺にとってはイリナはずっと友達で幼馴染だよ。それだけは何があっても変わらない。俺はそれが伝えたかっただけだよ」

「……それでも、私は……」

 

 俺は俯いているイリナの頭を少し撫でて、そして背を向ける。

 勝負は終わった。

 もしイリナに冷静さがあったら、こんなあっさりでは終わらなかっただろうな。

 あいつの動きは洗練されていたし、速くもあって相当の実力者だろう。

 

「終わりました、部長」

「は、早いわね……まさかもう?」

 

 部長はおろか、そこにいる全員が俺の戦闘を見ていたのか、顔をひきつらせた。

 ……全ての攻撃に手を出さず、一閃された斬撃を受け止めて更にそれを奪って戦闘不能。

 確かに信じられないだろうな。

 

「……それにしてもあなた、あの子と随分と親しそうだったけど」

「そりゃあ、幼馴染ですから」

「「「「幼馴染!!?」」」」

 

 ……4人とも、すごく驚いていた。

 そういえば言ったのは初めてだったな。

 まあ、良い……それよりも問題は祐斗だ。

 

「……魔剣創造の神器。それにまさかこんな辺境の地で、しかもイリナの幼馴染が赤龍帝であるとはな―――それにしてもイリナは一瞬で倒される、か……」

「次は君の番だ!」

 

 祐斗は光喰剣を幾つも創ってゼノヴィアに放り投げる……けどそれは全てエクスカリバーによって完膚なきまで破壊される。

 

「魔剣か……そんなもの、私のエクスカリバーにかかれば!!」

 

 そしてゼノヴィアが聖剣を大きく振りかぶり、そのまま祐斗のいる地面にそれを叩きつけるッ!

 ―――祐斗は避けたが、今まで祐斗がいたその場所の小さな範囲で深いくれ―タみたいな穴が生まれた。

 

「……破壊のエクスカリバー……ここまでの物とはね。これでも7つにわかれているんだから、全てを壊すのは骨が折れる―――でも!」

 

 祐斗は剣を構えてゼノヴィアに襲いかかる!

 

「僕の神器は僕の同士の恨みの剣だ! エクスカリバーを僕はこの剣で叩き壊す!」

「…………先ほど見たであろう? 破壊の聖剣が繰り出したあの破壊力。君では私には勝てない!」

 

 ゼノヴィアと祐斗の聖剣と魔剣は激しい剣戟を繰り広げる!

 速度は祐斗の方が分はあるけど、パワーは段違いにゼノヴィアが上だ!

 さっきから祐斗の剣が壊れて、既に何本も魔剣は壊れている!

 消耗戦……しかも今のゼノヴィアのエクスカリバーはオーラを覆っていて、一撃で祐斗の魔剣を壊すほど!

 まずい……ただの魔剣じゃあ一撃で壊れるぞ!

 

「……僕の魔剣はこんなものじゃない。死んでいった同士の、想いがあるんだ!」

 

 ……祐斗はひときわ大きく頑丈な剣を創る。

 でもそれは、あいつが一番取ってはいけない行動だ。

 あれならいくら聖剣でも一撃では破壊は出来ないだろう……でも代わりにあいつは自身の長所を失う。

 

「僕の魔剣の破壊力と、その聖剣の破壊力、どちらが上か勝負だ!」

 

 破壊力重視の魔剣……明らかに重量のある魔剣は、本来は祐斗は持ってはならない。

 

「……残念だよ、木場祐斗」

 

 ……ゼノヴィアは真正面からその剣を斬り合う。

 ―――壊れたのは、祐斗の魔剣の方だった。

 そしてゼノヴィアはエクスカリバーの柄で祐斗の腹部を抉りこませる!

 

「が、は……っ!?」

 

 祐斗の口からは血が吐かれる。

 ……あれは破壊の聖剣だ。

 ただの柄の一撃でも、防御力のない祐斗は打撃と衝撃波で終わる……つまりこの勝負は

 

「君の負けだよ、『先輩』……君がもっと冷静であればいい勝負が出来ただろう。だけど君の強みは速度。それを潰すその大きな魔剣を創った時点で、君の敗北は決していた」

 

 ……ゼノヴィアは聖剣を布で再び包んで。そして座っているイリナの元に行った。

 

「待てッ!僕はまだ……ッ」

 

 ……俺は祐斗の所にアーシアと共に駆け寄る。

 傷は浅いから、大丈夫だろう。

 

「イリナ。君は何をしている? それではこれから起こる戦いで足手まといだぞ?」

「……大丈夫よ。自分の想いには決着はつけたもの」

 

 ……イリナは立ち上がって、俺の方を見てくる。

 

「……私にとってもイッセー君は大切な幼馴染……でももう、一緒には居られない、か―――行きましょ、ゼノヴィア」

「……ああ。それではリアス・グレモリー。先ほどのことを宜しく頼む……それと赤龍帝、兵藤一誠。先ほどの動きは素晴らしかった。いつか、戦おう」

 

 ……好戦的だな、あいつは。

 そう言いながら、ゼノヴィアとイリナは去っていく。

 幼馴染、対立するしかない……懐かしい言葉だ。

 ………………クソがッ! ―――俺はそう心の奥で思った。

 ―・・・

「待ちなさい、祐斗!」

 

 ……祐斗は、戦いが終わってから一人、その場から去ろうとしていた。

 俺達は部室でその現場を止め、そして部長は祐斗の腕を掴んで止めている。

 

「祐斗、あなたが私から離れることは許さないわ。はぐれになんてさせない……あなたは私の大切な『騎士』よ!」

「…………それでも僕は、許せない」

 

 ……俺は祐斗の腕を、部長が掴む手を退かして代わりに掴む。

 

「祐斗。去るならそれははぐれ、じゃなくて頭を冷やすために去れ。復讐をしたい気持ちは俺には良く分かる―――でもな、復讐だけが人生じゃないんだ。復讐だけを生きる意味にしていたら、いつかお前は脆く崩れ去る……だからお前はもっと強くなってくれ」

「ッ!!!!」

 

 ―――祐斗は俺の掴む手を乱暴に振り払った。

 表情は怒りだった。

 

 

「君は強いから、そんなことを言えるんだ! 君に僕の気持ちなんか分かるはずがない!! 勝手な事を言うな! 僕がどんな気持ちか……憎しみを抱いたことがないくせに、復讐をする前に守れるくせにそんなことを言うな!!!」

 

 祐斗はそう言う。

 ―――プツンッ…………その時、俺の中の線のような物が、切れる音がした。

 そして………………俺はそのまま―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――復讐を知らない? お前……誰にそんなこと言ってんのか、分かってんのか?」

 

 ―――こいつの首を片手で絞めあげて、壁に勢い良くうちつけた。


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