ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第2話 エクスカリバーを許さない

 ……最近、祐斗の様子がおかしい。

 そう俺が感じたのは数日前からだ。

 どうも祐斗が俺の家に来て以来、もっと厳密に言えば例のイリナと俺の映っている写真を見てから妙に呆然とすることが増えた。

 まるで考え事をしているかのような立ち振る舞いをしていて、それで最初のほうは部長も気にかけていたけど、とうとう祐斗は悪魔家業にまで影響を及ぼし、結果、昨日は部長に怒られた。

 だけどそれでも祐斗の様子は変わらなかった。

 そして今日、今は夜中で俺達グレモリー眷属はある悪魔の依頼ではぐれ悪魔の討伐に来ていた。

 とある廃工場の跡地で、そこに凶暴な自我を失っているはぐれ悪魔が潜伏しているらしく、今は先行して来た俺と祐斗しかいないが、ともかくはぐれ悪魔討伐のためにここにきている。

 だけど、祐斗は剣を帯剣しているがそれでも様子は変わらない。

 

「……祐斗、お前は今日は帰るか?」

「…………いや、別に大丈夫だよ。はぐれになんか遅れはとらない」

 

 祐斗はそう言うと、一人で静かに工場跡地に入っていく!

 まだ部長の命令は出ていないのにだ!

 俺は祐斗の肩を掴んで制止の声を掛けるも、祐斗はこちらを振り返らなかった。

 

「おい、祐斗! まだ命令は下ってない!」

「……やることは一緒だよ? それに今は部長達もいないし、先に片づけておくよ」

 

 ……やっぱり様子がおかしい!

 俺は祐斗が心配になって部長達とは後で合流するため、祐斗と二人で先に工場跡に来たけど、それが仇になった。

 まだ部長達は到着していないから、必然的にあいつを止めないといけないのは俺だけだ。

 それに祐斗は眷属の中では最も冷静な部類に入るはずだ……その性質が、今のあいつの中にはない!

 

「待て、祐斗!」

 

 俺は赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を発動し、祐斗を追いかける。

 工場の中は埃で包まれていて、空気が悪く視界も悪い。

 ……そもそもはぐれが弱いなんて確証はどこにもないんだ。

 不意打ちでも主である上級悪魔を殺すほどの力を持っているってことは、それなりに戦闘力は誇っているはず。

 今のあいつが戦えば、怪我をするかもしれないし、何より危ない可能性だってある!

 俺はあいつを追いかけると、祐斗は剣を引き抜いて工場の中心に立っていた。

 

「さあ、姿を現しなよ。僕が相手をしてやる」

 

 祐斗は無表情のまま剣で空を切り、挑発するようにそう言った。

 そして祐斗の声が工場の中に響き渡り、そして俺は工場の中でいくつかの魔力が動くのを感じた……

 そう、いくつもだ。

 それが意味していることなんか一目瞭然…………単純に相手が一人ではないということだ。

 

「ひひひ……どれだけ多勢のあくまで来たかと思えば、ただの男のガキじゃないか」

 

 ……すると工場がが月光に照らされて影が晴れて少し明るくなる。

 そして工場の少し奥から、恐らく今回のはぐれ悪魔と思われる人物……それに加えじっと黙ってこちらを伺ういくつもの悪魔の影が見えた。

 そして俺たち前に立つ悪魔は、筋肉の塊のような体に血管が全身から浮き出ていて、目が赤く光っている。

 手が獣のように大きく、それと比例して体も俺たちの2倍以上あった。

 ……見るからに童話に出てきそうな悪魔だな。

 だけどこいつは―――最悪のパターンだ。

 さっきは不意を突いたとか色々言ってたけど、こいつの場合は真正面から殺すほどの力がありそうだ。

 はぐれのくせに知能はありそうだな……そう思考している最中、祐斗は俺より一歩、前に出る。

 

「君がはぐれ悪魔、ギルゴルグだね。さあ、君を殺すよ」

「それはこちらの台詞だ……貴様のような細腕で、我が力を止めれるかな!」

 

 ……ッ!

 あのバカでかい男が動き出した。

 それと共にあいつの傍らにいた無言のままの奴の仲間と思われる悪魔も同時に動き出す。

 ……仕方ない、一時は祐斗にあの怪物を任せるか。

 

『Boost!!』

 

 これで15回目の倍増!

 こんな人間界のこんな場所で禁手化なんか使ったら、余波だけで工場は吹き飛んでしまうからな!

 ただの籠手だけの力で戦わせてもらう!

 

「解放だ、ブーステッド・ギア!」

『Explosion!!!』

 

 神器が俺の声にこたえるように倍増した力を全て解放する。

 俺はその力を全て篭手に込める!

 魔力弾はどれだけの二次被害が出るか分からないからな!

 相手の悪魔はでかいのを抜けば6人ぐらいだ。

 俺はその一人に、倍増で高めた拳の力を全力で振り絞って殴り飛ばす!

 そして同じ動作で襲い来る悪魔を迎撃するんだけど……こいつら、まるで意識がないように、操られているように何度殴っても、どれだけ体が壊れても襲いかかってくる!

 

「……まさか、あの怪物悪魔に操られているのか?」

『冷静に考えるならばそうだろう……だが厄介だぞ、相棒』

『ええ。意識もなく、ただ屍のように襲いかかって来る悪魔は、ほとんど生きる屍と同義です……埒が明きません』

 

 ……俺も同意見だ。

 こいつら単体は弱いけど、でもこれほどしつこく襲ってくれば話は別だ。

 それに今は体力戦なんて悠長な事はしてられない。

 こうなりゃ、最近考えた二つの神器のコンボ技だ!

 

「フェル!あれを使うぞ!」

『……仕方ありませんね―――了解です!』

 

 俺の倍増の解放はまだ時間が残っている。

 俺はすかさず自分の胸にエンブレムのような外見をしているブローチ型の神器である、神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)を出現させる。

 

『Force!!』

 

 俺は悪魔たちの攻撃を避けながら、数段階だけ創造力を溜める。

 数にしたら……大体四段階くらいだ。

 今のままなら中堅クラスの神器しかつくれない……けど俺にはこの神器だけじゃない、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)がある!

 ライザー戦以降、ようやく俺の元に戻ってきた篭手の”譲渡”の力を使う。

 

「いくぜ、ブーステッド・ギア!」

『Transfar!!!』

 

 俺は籠手にあった倍増された力をそのまま胸にある神器へと譲渡する!

 途端に今まであった創造力は一気に創造力の濃度を濃くした!

 溜めた創造力を籠手の倍増の力で強く、密度の高い創造力を創り出す。

 今ならたった4回の創造力で上級の神器を創りだせる!

 

『Creation!!!』

 

 俺は溜めた創造力を使い、神器を創りだす!

 大体、10分くらい耐久出来れば良いほどの神器だけど、こいつらを倒すのには十分すぎるものだ。

 上級の神器……そう、例えばこいつらを行動不能に出来るような能力を持った神器ならば。

 俺がそう考えると、神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)から白銀の光の塊が俺の手元に光のように舞う!

 俺はその光を握り潰すと、次の瞬間、その光は白銀の神器となった。

 

白銀の不能鎌(シルヴァルド・イネフィシン・サイズ)!」

 

 白銀の光沢をみせる、思ったよりも小さめの鎌で、だいたい1メートルくらいの大きさか?

 

『主様、その神器は刃で切りつけた数だけものの行動を不能にします。より俊敏な攻撃を出来るように大きさは小さめになってます』

 

 ……神器の創造で少し精神力と頭に負荷がかかるが、だけど些細な痛みだ。

 籠手は一度、力をリセットして既に3段階ほど倍増を完了している!

 よし、一気に決めるぞ!

 

『Explosion!!!』

 

 俺はその段階で倍増の力を再び解放する!

 身体能力は格段に上がり、俺は速度を重視して相手を速度で圧倒する!

 そしてそのまま切れば切るほど相手の行動を不能に近づける鎌で一瞬で幾数撃、斬撃を浴びせた。

 少しすると悪魔たちは動かなくなる……もちろん、これは神器の効果だからな。

 ただ物理的なダメージはあいつらは無視できても、あいつらを縛ってる怪物の術は神器による強制的な行為は対応できないだろう、という考えは正解だったな。

 

「さて、こっちは終わりだ……けど」

 

 祐斗の方は終わっていなかった。

 祐斗は傷はないが、でも体力的に消耗していた。

 むしろあいつはいつも通りの戦い方が全く出来ていない!

 ただ感情任せに剣を振っているだけで、相手からしたら丸見えの攻撃法だ。

 

「ははは! 速いが丸わかりだぞ、餓鬼!」

 

 ……まずいな。

 俺は咄嗟に手に持っていた白銀の鎌を怪物野郎に回転させるように投げた。

 鎌はあいつの目に命中し、それに怯んだ隙に俺は祐斗の腕を引っ張って少しだけ距離を取る。

 鎌は俺の任意で消滅させることが出来るから、俺は鎌を消して篭手を構えた。

 

「しっかりしろ、祐斗! そんなのお前のいつものお前の剣技じゃねえぞ!」

「…………君が手を焼くまでもない。僕がやる!」

 

 すると祐斗は『騎士』の特性である速度で、俺のさっきの神器の効力で少しだけ行動が不能している怪物野郎に近づいて剣を横薙ぎに一閃する。

 ……おそらくはあの悪魔の元々の特性は『戦車』。

 あの防御力なら祐斗の剣が届くかどうかは微妙なところだ。

 いつもの祐斗ならば、圧倒的防御力を誇っていたとしても弱点を見抜いて攻撃に転じることが出来るだろう。

 

「ソード・バース!」

 

 でも今の祐斗はただ剣を振るっている、それだけだ。

 ……祐斗は地面に剣を突き刺すと、幾重もの剣が地面から生まれ、次々に怪物野郎に突き刺さるように向かって行く!

 剣の地面からの雨みたいな攻撃だ。

 だけど、それでもあいつの体に少し深い傷しか負わせない!

 

「仕方ない! 祐斗、お前の攻撃力じゃ埒が明かない! 俺の”譲渡”の力を使え!」

「…………悪いけど、必要ない」

 

 ……無表情で祐斗は俺の提案を断る。

 ったく、あいつはどうなっているんだよ。

 

「餓鬼が…………調子に乗るな!!」

 

 俺の与えた行動不能の斬撃の効力が切れたか。

 それにあの怪物悪魔が放つ狂気に満ちた魔力……やっぱりあいつはどこまで行ってもはぐれだ。

 力があっても冷静さは欠如している。

 ……俺の籠手の倍増は既に10段階ほどは溜まっている状態だ。

 だからいつでもあいつに譲渡出来るけど……あいつが断るなら仕方ない。

 本当に祐斗が危なくなった時、俺はあの怪物を一撃で沈める。

 それまでは力を溜める!

 

「ならこれならどうだ!」

 

 祐斗は一際大きな剣を創りだすと、それを怪物悪魔に投剣する!

 おそらく、あれは貫通力が高い性質を持つ魔剣だろうけど……ダメだ、祐斗とあいつは相性が悪い。

 たとえ傷がつけられても、戦車の防御力で無力化に近い状態になっている。

 速度で圧倒はしているけど、あれじゃあ祐斗の体力が尽きるのが関の山だ!

 

『……だが相棒。あれはあまりにも木場祐斗らしからぬ行動だ』

 

 ……分かってる。

 普段のあいつなら、俺の譲渡を断ったりはしないだろう。

 でも今のあいつはただ感情的に剣を振るっている。

 いつも通りならさ……いくら相性が悪くてもとうに決着はついているはずだ。

 でも今の祐斗の斬撃はめちゃくちゃで、普段の的確な鋭い剣戟が消えてしまっている……あの状態では、勝てる相手にも勝てない。

 斬撃の深さも鋭さも、感情的な行動で全てが出来ていないんだ。

 

「こんなものじゃないはずだ!僕の魔剣よ!」

 

 祐斗はそれでも魔剣を何本も創りだす。

 あらゆる属性、あらゆる能力を持つ無限の可能性のある希少な創造系の神器。

 あれは神器の中でも万能さに限定すれば上の部類に位置する神器。

 ……でも今の使い手じゃあ、それも満足に活用されない。

 

「……悪い、もう見てられないわ」

 

 俺はそっと動き出す。

 あまりにも、今の祐斗は俺には見ていられなかった。

 あいつのこんな戦いを俺は見たくない……ライザ―の一件で、あいつが相手の『女王』を倒した時の戦いを見れるかと思ったけど、それももはや幻想にすぎなかった。

 

『Explosion!!!』

 

 相当の倍増を続けた俺の神器が力を解放、俺は全身が赤龍帝の赤いオーラに包まれる。

 そして俺は一瞬で祐斗の後ろにたどり着き、祐斗の首根っこを掴んでそのまま後方に乱暴に投げた。

 

「き、貴様は……!?」

「悪いけど、見てられねえから介入させてもらった。悪く思うなよ!」

 

 俺は拳に魔力を集中させて、打撃力を極限にまで上げる。

 怪物野郎は俺に拳を振るってくるが、俺はそれを右手で受け止め、そのまま宙にこいつの体ごと投げる。

 そしてあいつが落ちてきた瞬間、拳をそのまま腹部に撃ちこんだ!!

 

「が、がぁ……ッ!!?」

 

 怪物野郎の腹部がゴキッ、という音を上げて顔をひどく歪ませる。

 一撃必殺。

 俺の一撃で、怪物野郎は工場の壁を突き破って外へと吹っ飛んでいった。

 確実に仕留めた……そう俺は確信して先ほど、投げ捨てた祐斗の元に行く。

 

「イッセー!!」

 

 ……ちょうどそこで工場の入り口から部長達が到着した。

 アーシア、小猫ちゃん、朱乃さんも息を絶やしながらも部長の後に続いて工場に入って、そして倒れている悪魔達を見た。

 祐斗はただ、顔を上げることなくそこに座り尽くすだけだった。

 ―・・・

 バチンッ!

 ……工場跡地の外に出て、そのような乾いた音が響く。

 頬を叩かれる音……叩かれたのは以前は俺だったが、今回は俺じゃない……祐斗だ。

 部長は外で倒れていた悪魔を止めを刺して、そして俺が倒した6名の操られていた悪魔を然るべきところに転送し、そして俺から事情を聞いてきた。

 そして今の状態になっているというわけだ。

 

「……今ので目が覚めたかしら? 祐斗、あなたが行った独断行動がどれだけ危険なものだったか分かっているかしら? 相手のはぐれ悪魔はA級クラスの危険指定のはぐれ悪魔だったのよ。イッセーがいてくれたから大事には至らなかったけど、下手をすれば誰かが傷ついていたかもしれないの」

「………………」

 

 部長は本気で怒っていて、厳しい口調で祐斗にそう言うが、だけど祐斗は無表情で無言のままだ。

 ……本当に祐斗はどうしたんだ?

 いつもの爽やかさはもう今はどこにもない……いつもの笑顔もない。

 ただ、何も考えていないような……逆に考え過ぎて顔に出ていないような錯覚までする。

 ……一体どうしたんだよ、祐斗。

 

「……すみませんでした。自分一人で何とかできると思いましたが、結局イッセー君がいなければ僕は何もできませんでした。今日のことは全面的に僕が悪いです……だから今日はもういいですか?」

 

 ……祐斗は淡々にそう言う!

 こいつ、部長にそんな言い方をして部長が怒らないとでも思っているのか!?

 そして流石の部長も、祐斗の面倒くさそうに感じる発言に目を見開いていて、同時にもう一度、祐斗に掴みかかろうとした。

 けど俺はそれを部長の手を引いて止めた。

 

「……イッセー、離しなさい。私は祐斗に言わなければいけないの」

「今言っても逆効果です。こいつのことは俺に任せてください……それでいいよな、祐斗」

「…………ああ、感謝するよ、イッセー君」

 

 祐斗はそう言うと、部長は肩の力を抜いた。

 そして祐斗は俺達に背を向ける。

 

「……イッセーさんッ」

「…………イッセー先輩」

「大丈夫だ。俺に任せておけ」

 

 俺は怯えるアーシアと不安そうな表情の小猫ちゃんの頭に手をポンっと置いて、そのまま祐斗について行く。

 空からは大きな雨粒がポツリ、ポツリと落ちてきた。

 部長達の姿が見えなくなったところで、祐斗は立ち止まり、振り返った。

 

「……頭の良い君のことだ。たぶん、ある程度は察しはついているだろう……だから部長を止めたんだろう?」

「……さあな。ただ俺もお前も部長に救われたんだろう? だからこそ、俺たちは部長の下僕だ。それ以上も、以下もない」

「…………そもそも君が悪魔になったのは、グレモリー眷属のせいじゃないか。それをそんな風に言うのはお門違いだよ。君はもっと責めるべきと僕は思うけど」

 

 ……祐斗は細く笑う。

 こいつは、そんなことも分からないのか?

 

「仲間だから、責めるわけないだろ! 俺にとって眷属は仲間で、友で、そして大切な存在だ。お前だって、それくらいは分かっているだろ!」

「仲間、か……君は相変わらず熱いね。でもね、イッセー君。僕はここのところ、少し浮かれて本来の僕を忘れていたんだ」

 

 祐斗は少し俺から離れて、一本の小さな魔剣を創りだす。

 ……何色にも染まらない、闇色をしたどす黒い剣。

 薄気味悪いくらいのそれを祐斗は指でなぞる。

 

「僕はそもそも、部長のために悪魔になったんじゃない。僕は僕の目的のために悪魔になった」

「……助けて貰ったのにか?」

「そうだよ。これは僕は断言する。たとえ、命を救われても僕は自分の使命を果たす……そのためなら僕は部長を利用することを迷わない」

 

 ……そうかよ。

 今のこいつは芯が固まり過ぎて、それが間違った方向に進んでいる。

 今の俺ではそれを正すことは出来ない。

 

「……この前、俺の家でお前は一枚の写真について聞いてきたな」

「やっぱり、察しはついていたんだね」

 

 祐斗は苦笑すると、頷いた。

 

「そうだよ。あの写真には、僕がこの世で最も嫌うものが映っていた」

「―――聖剣のことか?」

「ッ!?」

 

 ……祐斗はその単語を聞いて、目がどす黒く鋭くなる。

 

「知ってたんだね……そうだよ、僕はこの世で最も聖剣を嫌う―――その中でも僕はある剣を嫌悪していてね。僕はそれを壊すために生きている」

 

 祐斗は手に持っていた魔剣を消して、雨の降る空へと顔をあげた。

 

「僕は復讐のために生きている。僕はね、許さない……そう、聖剣を」

 

 そしてその名称を―――言った。

 

「僕はエクスカリバーを許さない」

 

 ……その言葉が嫌に俺の耳に響いた。

 こいつ……祐斗の憎悪、全てが篭ったたったそれだけの言葉で、鳥肌が立つ。

 本気だ、祐斗は……木場祐斗という男は本気で復讐のために生きている。

 祐斗は俺に背を向け、そしてそのまま歩いて行く。

 雨に濡れながら、俺はその姿を見ることしかできなかった。

 ―・・・

『Side:木場祐斗』

 

 僕は雨にうたれてながら夜中の道を歩いている。

 傘の代わりなんか、神器を使えば創れるけど、でも今の僕の沸騰した頭を冷やすにはちょうどいい。

 ……部長にわざと挑発的な事を言ってしまった。

 そして僕を考慮してくれたイッセー君には余計な事を言った。

 生まれて初めて、僕は自分を救ってくれた主に背き、そして生まれて初めてできた友達をあしらった。

 僕の中には当然、後悔はあった。

 ……でもそれと同時に、僕は今まで一度も聖剣エクスカリバーのことを忘れたことはないという想いが沸々と浮かんできたんだ。

 ……僕はただ、居心地のいいグレモリー眷属、学校生活にただ呆けてしまったんだ。

 それだけ……僕の目的は一つも変わってなどいないのに。

 ……部長に生きがいを貰い、名前を貰い、僕は幸せだ。

 でも、僕には幸せなんかあってはならない。

 僕の同士の無念を晴らすまでは、僕は好き勝手に生きて、笑顔でいてはいけないんだ。

 

「はぁ……僕はどうにかしてる」

 

 ……僕は初めて憧れた人に、愛想を尽かされただろうか。

 僕の名をイッセー君が呼んでくれた時、その時は彼が僕を認めてくれたと思って歓喜だった。

 素直に嬉しかった……今までで一番うれしいと思えるほどだった。

 僕は揺れている。

 皆の温もりと、復讐に……でも答えは一つだ。

 ―――僕の原動力は復讐だ。

 それさえ出来るなら、僕は仲間なんて捨てる。

 捨てたくなくても、捨てるだろう……その時はイッセー君は僕の敵になるかもしれない。

 それくらいの覚悟じゃないと、エクスカリバーを壊すことなんか不可能だ。

 ―――その時だった。

 僕は魔剣を創造し、それを構える。

 何故なら、路地裏から突然、神父服を着た男が現れたからだ……だけどそれの様子はどこか違った。

 すると神父服の男はその場で倒れる。

 

「……死んでる」

 

 そう、既に息絶えていたんだ。

 そして体には、至るところに致命傷になりえる急所を的確に突いた後があった。

 ……ここまで的確なら、死ぬのに苦しみすらなく死ねるだろう。

 でも、誰がこんなことを……僕がそう思った時だった。

 

「あらあら、そこにいる美男子君は悪魔君ではあ~りませんか! おひさっすねぇ~……っといっても話すのは初めてでありんすけど! ぎゃははは!!」

 

 ……こいつは、アーシアさんの件で堕天使側についていたはぐれ神父!

 フリード・セルゼン!

 まさかこいつがこの神父を?

 

「いや~、ほんとここに来なけりゃ死ななかったんスけどねぇ? まあ来たからには仕方ないでございますから? せめて苦しみを与えないように殺してあげたんでありますよ! きゃはは! 僕チン、天才?」

 

 ……相変わらず、下種な笑いだね。

 だけどちょうど良い。僕はいらついていた所だ。

 

「まさかまだこの町にいたとはね……でも悪いけど、今の僕は機嫌が悪いんだよ」

「ははは、こりゃ怖いですわ! 正直、悪魔を殺すことは今となってはどうでもいいんすけどぉ? でもこいつの試し切りに付き合ってくれるんなら、ご協力お願いしまぁ~っす!!」

 

 ……この男、以前と少し何かが違う。

 この男が悪魔のことをどうでもいいと言うだろうか……でも今は関係ないか。

 僕は魔剣をもう一本創りだした時だった。

 

「――――その剣、一応は名称を聞こうか」

 

 ……僕はフリード・セルゼンの握る剣の輝きとオーラをみて、自分の中のどす黒い部分が現れる。

 ―――あれはッ! 間違いなくそうだ!

 

「お察しのとーり! 最強の聖剣、エクスカリバ~~~っす! さぁて、おまえさんのその魔剣っぽい剣と、俺様のエクスカリバーの力、どっちが上かを試させてもらうですぜ? ひゃはは!!」

 

 ……まさしく僕が長年恨み続けてきた剣。

 それはエクスカリバーだった。

『Side out:木場』

 

 ―・・・

 ……俺は祐斗と別れたあと、家に帰って風呂に入り、部屋でごろごろしながら考え事をしていると、すると部長とアーシアが俺の部屋に来て、祐斗のことで話があると切りだした。

 そして俺とアーシア、部長は同じ部屋で今は話を聞いていた。

 

「……聖剣計画」

 

 部著の口から語られたその単語、それは祐斗の過去の最も大きな出来事のことだった。

 聖剣計画と呼ばれる事件のこと。

 それは教会サイドで行われていた聖剣、特にエクスカリバーを扱える子供育成するための計画のことだった。

 数年前まで当たり前のようにあったその計画は、悪魔にとっては究極の兵器ともいえる聖剣を人為的に操れる人間を創るための計画。

 そう、それだけの計画なら良かった……のに、部長の口から更に言葉が続けられる。

 

「でも祐斗はその計画での成功なんてものにはならなかった……いいえ、言い方が悪いわ。その計画に置いて、成功者なんか一人もいなかったの」

「「…………」」

 

 俺とアーシアは黙って部長の話を聞く。

 

「そして、誰一人として成功者を出さなかったその計画の果て、祐斗達は処分という形で全員が殺された……不良品というレッテルを張ってね」

「ッ! そ、そんなこと、主がお許しになるわけが!」

 

 ……アーシアが泣きそうな表情でそう言う。

 アーシアは信じられないんだ……少し前まで自分のいた世界で、そんな非人道的なことが起こっていたことに。

 そしてその犠牲になった子供のために涙を流している。

 

「でも事実なの……嫌悪するわ。ただ勝手に計画のために子供を使って、それが失敗だったからって全てを処分という形で毒ガスで殺す……許せないわッ!」

 

 部長は悔しそうな表情を浮かべながらそう言った。

 ……部長は、人に対して優しい。

 悪魔だけど、優しい悪魔だ。

 当然、人間も優しい人だってたくさん存在している……でも悪意や欲望のみに支配された人間は醜く、残酷だ。

 聖剣計画はそれの成れの果てだ。

 人の欲望が渦巻いて、子供の未来を奪い、そして殺した。

 許せないよ…………何があろうと、絶対に。

 ―――だけど、俺は部長の言った「毒ガス」って言葉に引っ掛かった。

 

『……やはり相棒、お前もそう思うか?』

 

 ……ああ、どこかでその単語を聞き覚えがあるんだよ。

 俺は自分の机の中の一枚の写真(・・)を手に取り、そう思った。

 ―――でも、今はとにかく祐斗が先だ。

 

「祐斗はね……唯一、命かながら施設から逃げたの。私が祐斗を発見した時には既に毒ガスを多く吸ってしまったから、雪が積もる森の中で息絶えた……私はその時に祐斗を悪魔に転生して生き返らせた……だから彼は唯一の生き残りだと思うわ」

「……祐斗」

 

 俺はあいつのことを考えた。

 生き残り、仲間だった者のための復讐……あいつが占める生きる意味っていうのはそれなんだろう。

 でもあいつもグレモリー眷属の一員だ。

 放っておけるわけがねえ。

 

「…………もうこんな時間だわ。イッセー、そろそろ寝て明日の朝に備えた方が良いわ」

 

 部長は暗に俺のことを心配するようにそう言って……

 制服を脱ぎ始めた。

 

「は、はぁ!?部長!何やっているんですか!?」

「何って……最近、私はあなたの体の温もりを肌で感じないと眠れないのよ。朝だって裸で寝てたでしょ?」

「それは朝、いきなりいたんでしょうが! 完全に夜中に忍び込んでましたよ!」

 

 俺は全力で反論する!

 だって、ここでしっかりと断らないと今朝と同じことになるんだもん!

 だけど部長は既に下着姿になっていて、そしてそれを見ていたアーシアは顔を真っ赤にして頬をぷくっと膨らませる!?

 

「部長さんだけずるいです! 私だってイッセーさんの温もりが欲しいです! 最近は自重してたんです!」

 

 そうだった!

 アーシアは兵藤家に住むようになってから少しの間、毎日のように俺と一緒の布団で寝てたんだった!

 そして最近はそれをやんわり止めて貰ってたのに今の部長の行動だ!

 アーシアが納得するわけがない!

 

「……アーシア、貴方はイッセーの右側よ。私は左側、これでどうかしら?」

「……はい! それでいいと思います!」

 

 俺には発言権はないんですか!?

 どうして二人で決めてしまうのか、俺は本当にわかりません!

 ……でも俺の心の叫びはむなしいもので、もう完全に詰んでいた。

 

『……フェルウェル、自立歩行型は俺でもなれるか?』

『無理ですね……アーシアさんはともかく、リアスさんには少しお仕置きが。以前は勝手に我々の主に接吻をしましたし……ッ!!』

『相棒をたぶらかすなど、許さん!』

『ええ! こうなれば戦争です! ドラゴンファミリーを呼びましょう!』

 

 ……頼むからそれだけは止めてくれ。

 俺は諦めながらも、それだけは止めろとドライグとフェルに心から言うのであった。

 そして朝、どうなったのかは言うまでもない。

 ―・・・

 翌日の朝、俺は目元に大きな隈があった。

 さて、まず言おうか……寝れるはずがない!

 部長の破壊力抜群のスタイルを誇る裸と、アーシアの健康的で綺麗な体を前に冷静に寝れるやつがあるか!

 しかも二人とも下着姿だ!

 ……結論、朝からボロボロです。

 っということで、俺は朝のランニングをする気も起きなくて一人で起きて、そしてさっさと学校に向かっていた。

 まだ朝としては早すぎる時間で、誰の姿も通学路にはなかった。

 大体、7時くらいだからな。

 

「……コンビニでも言って、コーヒーでも買おうかな」

 

 俺は学校への道から方向転換して、そのままコンビニに向かおうとした。

 

「―――ああ! イッセー君よね!? きゃ~! やっと会えた! これも主のお導きだわ!!」

 

 ……俺は聞いたことのあるような、むしろ最近、話していた声が聞こえた。

 俺は静かに声がした方を見る。

 そして、俺の予想は的中した。

 

「……・・来るとは言ってたけどさ、さすがに早すぎないか?」

 

 ああ、早すぎるよ。

 俺の視線の先、そこには……

 

「やっほ、イッセー君!本当にカッコよくなってる!背が高い!」

「……ほう、これが(・ ・ ・)イリナの幼馴染君か」

 

 ―――白い教会のローブを纏った栗毛のツインテールの美少女に変わった俺の幼馴染の紫藤イリナと、イリナの知り合いと思われる同様の格好をした青髪に緑のメッシュを入れた女の子だった。

 ああ、これはまた面倒な事になりそうだ……俺はそう何となく予感していた。


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