ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第6話 双璧の紅蓮と白銀、そして・・・

 ……俺はアーシアが何を言っているのか分からなかった。

 そして俺の耳に聞こえた、朱乃さんのリタイアの音声。

 少なからずその二つの事柄で俺からは先ほどまであった冷静さが欠如してしまった。

 

「アーシア、一体何があった!?どうして部長が……」

 

 ……朱乃さんのことは当然、心配だ。

 だけど今は部長が最優先だ!

 

『……小猫さんが部室に戻る最中に……突然、相手の『王』に襲われたんです』

 

 ――――それを聞いた瞬間、俺の頭はフリーズした。

 ……小猫ちゃんが、襲われた?

 それってつまり……俺が小猫ちゃんを陣地に戻したから?

 

『それで……向こうからの通信で、小猫ちゃんを殺されたくなかったらって言って……そのままキャスリングって方法でッ!!』

 

 ……アーシアの泣きそうな声が聞こえる。

 キャスリングは、ルークの持つ性質の一つ。

『王』と『戦車』の位置を瞬間的に移動させる、一つの技だ。

 つまり……

 

「部長は、いま……」

 

 それと同時に、俺は新校舎から怒る爆発音と轟音に気付く!

 ……新校舎で、部長とライザーが戦っているッ!

 

『イッセーさん……私は今、小猫ちゃんを治療してますッ!だけど部長さんは今まで見たことのないような表情でッ!』

 

 ……ああ、怒るだろうな。

 眷属を一番大切にしている人だ……怒らないわけがない。

 それに俺が浅はかだったッ!

 ライザーが動かないなんて保証、どこにあったんだ!

 俺の中で後悔とやりきれない気持ちが充満し、自分を殴り飛ばしたくなるッ!

 

「木場!相手の『女王』は朱乃さんを倒した!次に狙われるのは部長か、アーシア達がいるところだ!だからお前はアーシアと小猫ちゃんの所に向かって……」

 

 ……その時、通信機からアーシアの叫び声が聞こえた!

 まさかこれは―――間違いない!

 

「急げ、木場!あの付近には朱乃さんが仕掛けた罠があるけど、それも通用しない!俺は今すぐ部長のところにいく!」

「ああ、分かった!…………イッセー君、頼んだよ!」

 

 ……木場は急いでアーシア達の所に向かう

 敵の狙いは俺たちの生命線であるアーシアの撃破。

 そして部長を自身で葬り、保険としてアーシアを潰す。

 だけど木場が相手の『女王』を押さえてくれたえら、俺はライザーに集中できる。

 でも敵は朱乃さんを倒したほどの悪魔だ……強さは相当なはず。

 

「……こんなこと、言いたくありませんけど、兵藤様―――あなた方は勝てませんわ」

 

 ……俺が急いで新校舎の中に入ろうとした時、俺に話しかけるライザーの妹のレイヴェルがいた。

 彼女はガラス張りの扉にもたれかかってそう言ってくる。

 

「こちらの女王、ユーベルーナ。彼女にはフェニックスの涙を一つ、持たせていますわ」

「……レーティングゲームで二つだけ利用を認められている、どんな傷でも一瞬で癒す高価なアイテム。作っているのは、確かお前の家だったな」

 

 ……話している暇はない。

 だからこそ、こいつとの会話はここで終わりだ。

 

「だからどうした?木場を舐めるなよ。あいつは俺と似ているところがあって、冷静さを失い易いかもしれない―――だけどあいつは強い」

『Boost!!』

『Force!!』

 

 そして俺は拳をレイヴェルの顔の前に向け、そして言った。

 

「―――それに何より俺は負けない。不死身だろうが、倒す。何があってもだ」

 

 俺はそれだけ言うと、そのまま新校舎を駆け上がる。

 部長達が戦っているのは恐らくは校舎の上、屋根だ!

 そして俺は全力で走り続けた―――

 

 ―・・・

 

『Side:リアス・グレモリー』

 

 私、リアス・グレモリーは『王』失格だ。

 イッセーと考えた作戦を無視して、今、感情でライザーと戦っている。

 

「はは、その程度かリアス!!そんなもんじゃ俺には傷一つ付けられんぞ!!」

 

 ……でも許せなかった。

 ライザーはリタイアするかしないかの瀬戸際まで小猫を痛めつけ、挙句の果てに一騎打ちしなければ殺すとまで言ってきた。

 それを映像として部室に流され、私は我慢ができなかった。

 そしてキャスリングをして、そのままこの男と戦っている。

 

「リアス、いい加減諦めろ……君はもう詰んでいる。君の本陣には我が最強の女王、ユーベルーナを送った。もうじき、リタイアになるだろう。そしてここで君が倒されればそこでもう終わりだ……投了しろ、リアス」

「誰が!!」

 

 私はライザーの顔に向かって大質量の魔力を放つ……でもそれが直撃しても、ライザーの顔は消し飛んでもまた再生する。

 それの繰り返し。

 精神力は確実に削がれて、自分の行動が馬鹿みたいになるのは当たり前よね。

 

「リアス、言っておくが今の君では俺に何度やっても勝てない。未成熟な力に未成熟な心……君はあまりにもまだ弱いさ」

「そうかもしれないわね……確かに私の攻撃は一切通らない。全てあなたの言う通りかもしれない―――だからって、私は貴方を許せない!」

 

 何度も何度も……私はライザ―に滅びの魔力を放ち続ける。

 私の体はボロボロ……ライザーの攻撃だって防御の魔法陣で回避しても反動は来る。

 傷もある……アーシアがいればそれも直せるけど、でも私はアーシアを放ってここまで来た。

 

「私が諦めるわけにはいかないわ……まだ戦っている下僕がいる!それなのに王である私がどうして諦めなければならないの!」

 

 私は決死の覚悟で、今までとは魔力の質が違う滅びの魔力を放つ……でも

 

「確かにそれはすごい力だ……だがな、リアス!単調過ぎて見え見えだ!!」

 

 ……ライザーが私の首根っこ掴んで、そして校舎の屋根に叩きつけたッ!

 

「うぅ…………」

 

 ……痛い。

 痛みで意識が飛びそうになるも、私は自分の唇を血が出るほど強く噛み、身体を無理やり起こさせる。

 ……諦めるわけにはいかない。

 だって……イッセーは何があっても諦めなかった。

 堕天使の時も、最後までアーシアを守り抜こうとして、涙を流しながらも戦った。

 彼の力が強いから?・・・違う。

 彼はたとえただの人間でも戦う。諦めない。だから私も……

 

「諦めない!!」

 

 私は倒れた状態で先ほどのレベルの魔力をライザ―に放った!

 

「ッ!!」

 

 ……その攻撃にライザーは表情を変える。

 

「……やはりリアス、君の将来性はすごい。土壇場で力を更に上げるとは……だがバージンが経験者に喧嘩を売っちゃいけないよ!」

「下劣な!イッセーはそんなことは絶対に言わない!!」

 

 私はライザ―の炎を魔法陣で防御する……でもその反動で、体のいたるところに火傷跡が出来た。

 ……イッセーなら、止まらない。

 戦い続ける……いつの間に、私の中はここまでイッセーで埋め尽くされていたのだろう。

 

「イッセー、イッセー……そこまであの小僧が気になるか?」

「……私の可愛い下僕よ。気にならないわけない!」

「……まあ、いい。君を倒せば、そこでお前は俺の花嫁だ!」

 

 ライザーの炎がこれまでとは比べ物にならないくらいに大きくなる。

 ……私は本能的にそれを回避しようとして校舎から飛び降りた。

 次の瞬間、今まで私がいた場所が焼けて燃え屑になっていた。

 ……あれに直撃していたら、私は完全に終わっていた。

 ―――でも今も同じだ。

 私は先ほどのライザ―の一撃で心身ともに限界に近付いている。

 今や、地面に落ちるのを待つしかできない。

 それにライザーは空を飛び、私に追撃の一手を放とうとしている。

 ……私は不意に、あの日の夜のことを思い出していた。

 

『……俺が、部長を自由にします』

 

 イッセーは真っ直ぐ、私を見てそんな出来もしないことを言った。

 最初、私はそれをありがとうと済まそうとした。

 だって期待するだけ無駄と思ったから―――でもイッセーはその後、更に私に心からの言葉をぶつけてくれた。

 

『俺には部長のお家事情も、悪魔の事情もあまり知っていません。でも、俺にとって、グレモリーの名はどうでも良いんです―――俺を助けてくれたのはグレモリーじゃない……リアス部長です!』

 

 ……その言葉を聞いて私は涙が出た。

 だって、それは私が一番望んでいた言葉だったから。

 その目は真剣で、私の名を―――「リアス」と呼んでくれた初めての男の子。

 その握る手は温かくて、私は心の底で理解した。

 ―――私は、この子に惹かれていると。

 弟みたいに思っていて、祐斗と同じような感じと思っていたけど、それも違う。

 一人の男の子として……

 …………イッセーに、助けを求めたら来てくれるかしら?

 ……ダメね、私は自分の下僕に何を求めているのかしら。

 私を助けるわけが……だけど私は不意に涙を溢し、そして言ってしまった。

 ありもしない奇跡を信じて。

 

「イッセー、助けて……」

 

 私は小さく、今は届くはずもない言葉を口にした。

 ――――――刹那、私は暖かい何かに包まれた。

 抱きしめられるような感触に包まれ、私は目を開けて目の前の存在を確認する。

 

「―――ええ、助けますとも。俺はリアス部長の下僕なんですから」

 

 ……それは優しくて、頼もしい姿だった。

 涙した……待っていたのかもしれない。

 そこには、私の…………私達の『兵士』、イッセーが悪魔の翼を展開させて、宙に浮いて、私を抱きとめていた。

 

「良く頑張って持ち堪えてくれました―――ここからは、俺が頑張る番です」

 

 そう言ってイッセーはニッコリと笑った。

『Side out:リアス』

 

 ―・・・

 部長を抱き止めて、俺はそのまま新校舎の天井に部長を下ろす。

 部長は満身創痍の状態で、ゆっくりと下ろすと、優しく頭を撫でた。

 

「……言いたいことはたくさんあります。でも、今は俺に任せてください」

「…………イッセー」

 

 部長は泣きそうな顔で俺を見てくる。

 そんな顔、しないで下さいよ。

 俺は貴方の『兵士』……だから俺は―――戦う。

 

「行ってきます、部長」

「……ごめんなさいっ」

 

 俺はそう言われると、新校舎の南塔に立っているライザーの元に向かった。

 悪魔の翼をはばたかせて、そしてあいつと同じ目線の高さで睨みあう。

 

「……まさかお前がここまで来るとわな。赤龍帝のゴミが」

「……そのゴミに負けるお前は有害な焼き鳥野郎だな」

 

 奴の翼……フェニックスの炎の翼が煌めく。

 ……確かに相当のものを感じるよ。

 

「……俺はお前がしたことを許さない」

『Force!!』

『Boost!!』

 

 こいつが傷つけた小猫ちゃんを許さない。

 部長の慈愛を踏み躙り、それを利用したこいつを許さない。

 何より―――俺を救ってくれた主様を傷つけたこいつを、許さないッ!!!!

 

「だからこそ、俺は全力を持ってお前を潰す」

『……主様、もう宜しいでしょう?』

『ああ―――――俺ももう怒りの限界だ』

 

 ああ、そうだな……それは俺もだ。

 

「黙れ、下級悪魔が!俺の力を思い知って、そのまま死ね!!」

「知るか、お前は下級以下だ―――きっちり40回の創造力」

 

 俺は篭手が装着されている―――――その逆の右手で胸を押さえた。

 

「お前に見せてやる」

 

 途端に胸のフォースギアからは白銀の光が水のように溢れ始める。

 

「自分が相手にしている存在が、敵に回した存在が何であるかを」

 

 そして次の瞬間―――

 

「『創りし神の力……我、神をも殺す力を欲す』」

 

 俺の胸のブローチ型の神器……神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)は白銀の光と共に輝く。

 そして俺は紡ぐ―――言霊、こいつを倒すための力を発動する。

 

「『故に我、求める……神をも超える、滅する力―――神滅具(ロンギヌス)を!!』」

 

 呪文を言い終え、フォースギアは狂ったように光を輝かせ、そして次の瞬間、激しい新しい音声を鳴り響かせた!

 

『Creation Longinus!!!!』

 

 俺の胸を押さえた右腕に光が包まれる。

 白銀の光……心地いい、フェルの光。

 ……ずっと、この時のために創造力を溜めてきた。

 俺が訳もなく創造力を戦いの中、負担になるのを覚悟に溜めてきたのは布石のためだ。

 こいつを倒すための……40回、600秒……10分もの創造力の果てに、俺はようやくこれを創造し、この力を行使するが出来る。

 神をも殺す力……すなわち

 

神滅具(ロンギヌス)創造―――白銀龍帝の籠手(ブーステッド・シルヴァーギア)!」

 

 左右共に装着される紅蓮と白銀の篭手。

 俺は手の平を何度か開いたり閉めたりしてその状態を確かめ、そして拳と拳の撃鉄を打ち鳴らす。

 ガキッ!!!……そのような激しい金属音が鳴り響き、そして二つの篭手から同時に音声が鳴り響いた。

 

『Start Up Twin Booster!!!!!!!』

『Boost!!!!』『Boost!!!!』

 

 ……これが俺がこの10日間、ずっと探してきた答えだ。

 神滅具の創造。

 これは正直、不可能と言われていた。

 それは神滅具が神をも殺すとされることと―――構造があまりにも複雑だからが故に創造はまず不可能であるというのがフェルの見解であった。

 ……だけど俺は長年、この赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)と一緒にいる。

 その積年の篭手との調和と、更にフォースギアに備わる神器の構造を見ることの出来る力。

 この二つが噛み合うことによって俺のこの力は完成した。

 だから篭手の創造は今のところ、可能となった。

 600秒の創造の果てに出来る神滅具は本物より火力は劣るけど、でも十分に有用な力だ。

 しかも互いの神器が共鳴して、新しい神器システム……そう、ツイン・ブースターシステムが発現する。

 

「な、なんだそれは!!?神滅具を創るだと!?そんな馬鹿な話が!?」

「それが真っ当な反応だ。だけどな、ライザ―。これは冗談ではなく―――俺の中のドラゴンは今回、俺を突き動かしてくる」

『Boost!!!!』『Boost!!!!』

 

 ……時間の制限は15分。

 それだけしかこの創造した神器は持たない。

 

「―――ライザー、お前を完膚なきまで叩き潰せってな!!」

 

 俺は二つの篭手によって圧倒的に早くなった爆発的速度で、ライザーの懐へと入りこむ!

 

『Right Booster Explosion!!!!!!』

 

 ……右の白銀の篭手から倍増した力を解放するように爆発させる!!

 悪魔の翼でライザーの付近に瞬時に到達し、更に胸倉を掴んでヘッドバッドをする!

 ライザーはそれに怯むも、俺は臆せず更に膝で奴の鳩尾を蹴り飛ばし、そのままライザーを地上に叩きつけるように殴り飛ばした!

 

『Right Reset』

 

 そして全ての力を使い終え、白銀の篭手は一度リセットされ、そして更に倍増をしていく。

 二度の倍増ではこれくらいが限界か。

 俺はそのまま殴り飛ばしたライザーが飛んで行った運動場へと屋根を蹴り飛ばして高速で降りていった。

 ―――ツイン・ブースターシステム。

 これは左右の赤と白銀の力を10秒ごとに倍増していく……つまり俺の力を10秒ごとに倍増させ、更に倍増させていく。

 更にそれぞれの篭手を任意で力を解放することが出来て、それによってリセットされても片方の倍増が残っているから問題なく戦闘を続けられる。

 そうして次の倍増を使うともう片方の倍増の力が溜まることで、絶えずパフォーマンスを維持し続けることができるのがこいつの最大の特徴―――もちろん負担は大きい。

 だけどそれは長年に渡って鍛えた体と悪魔の体で耐えればいい―――そうして初めて使える俺の禁手の代わりの力!!!

 俺の仲間を傷つけたライザ―を潰すのには十分過ぎる力だ!!

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」

 

 ライザーは土煙が立つ運動場から極大の炎を放ってくる!

 俺はその炎に包まれるが、でもそんなもんに負けるわけにはいかねぇんだよ!

 覚悟もない!

 

「―――そんなチンケな炎で!」

『Left Explosion!!!!!!』

 

 解放される俺の赤い左の篭手。

 そしてそれによって生まれた莫大な魔力を、俺は何も考えず魔力弾として撃ち放った!!

 

「俺が焼かれると思うなぁぁぁ!!!!」

 

 魔力弾は炎を突き破り、ライザ―の胸へと撃ち抜かれる!

 ライザーの胸を貫いた圧倒的破壊力の魔力弾により、奴は胸部が欠損する。

 だけどその欠損した部分はすぐさまフェニックスの性質により再生した。

 ……だけど

 

「―――がはッ!?不死身の俺が…………血だと!?」

 

 ……ライザーは口から少し血を吐き出した。

 ……つまりそれは、今の俺の攻撃が確かに効いたという証拠に他ならない。

 

『Left Reset』

 

 左の力もリセットされ、それと同時に俺の力は倍増し、倍増する。

 絶えず行われる倍増。

 ツイン・ブースターは互いの篭手の力を共鳴し高め、一度の倍増で今までとは比べ物にならない力を発動させるんだ。

 ……底が知れない。だけど

 

「時間制限があるんだ。行くぞ、ライザ―!!」

「黙れ小僧!!」

 

 ッ!!

 予想外のライザーの一撃が俺に襲う!

 炎が俺を囲むように包まれていて、俺は炎によって飲み込まれた。

 途端にライザーは勝ち誇ったような顔で俺を嘲笑した。

 

 

「どうだ!これがフェニックスの炎!!お前ごときの下級悪魔が図にのることがおこがましい!!」

「…………」

 

 ……確かに奴の炎は熱い。

 熱いけど―――軽い。

 誇りもなく、ただ自らの欲望のためだけに振るってきた軽すぎる力だ。

 何かを護るわけでもなく、平気で仲間を犠牲にする。

 ―――でもな、俺は仲間を背負ってんだ。

 お前みたいなすぐに犠牲を払ってまで結果を求めようとする……そんなの認めねえ!!

 

『Boost!!!!』『Boost!!!!』

 

 更に倍増する。

 ……これで倍々増は6回目。

 いくぞ―――俺は炎の中で両手の拳を力強く握り締めた!

 

『Twin Explosion!!!!!!!!!』

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 篭手から新たな音声が鳴り響く!

 俺の中の溜まった倍増の力が二つの篭手から一気に放射された!!

 全ての力を、両拳に溜める!

 魔力を拳に!

 俺は炎を拳で薙ぎ払い、そしてライザーの元へと一直線に飛んでいった。

 ……『騎士』をも超える速度。普通の『兵士』にしたら領域を超えているな。

 

「喰らえ!!!ツイン・インパクト!!」

『Twin Impact!!!』

 

 ツイン・ブースターシステムの真骨頂は同時解放だ!

 それにより神器は倍加した力を更に上乗せする相乗効果を発揮する!

 そして一番分かりやすく、強力な攻撃方法は……両篭手に力を注ぎ、相手を殴り飛ばす!!

 

「がぁぁぁぁぁぁああ!!?」

 

 俺はライザ―の体を何度も、何度も拳を打ち付ける!

 飛ばしはしねえ!何度も何度も苦しみを味あわせて、絶望を見せる!!

 解放が途切れる直前に俺は最後に全力でライザーを新校舎のガラス張りの方に殴り飛ばした!!!

 

『Twin Reset』

 

 ……代償は急に力がなくなることだ。

 だけどそれも10秒待てば二重倍加が起きる。

 そして俺は急いで、ライザーの元に向かおうとした時だった。

 

『リアス様の『戦車』1名、『僧侶』1名、リタイア』

 

 ……とうとう、その音声が響いたのだった。

 

 ―・・・

 

『Side:木場祐斗』

 

 ……僕が自陣の校舎に到着したときには、すでにもう手遅れだった。

 アーシアさんと小猫ちゃんは光となって消え、そしてそれをした人物……ライザー・フェニックスの『女王』は笑いながらその光の結晶を見ていた。

 

「よくも、小猫ちゃんとアーシアさんを!」

 

 僕は魔剣を創りだし、相手の女王に向ける!

 何も出来なかった二人を一方的に痛めつけ、リタイアさせた敵!

 

「あら……思ったより早かったわね。リアス・グレモリーの『騎士』、木場祐斗」

「……全然早くないさ。二人とも、救えなかったんだからね!」

 

 僕は『女王』に向かって剣で切りかかる……けどその瞬間、嫌な予感がしてその場から離れた。

 ……次の瞬間、僕が今までいた場所で爆発が起きた!

 

「……避けるとは予想外だわ」

「やっぱり、貴方は空間に爆発の罠を張っていたか」

 

 ……この『女王』が張っていた爆発の罠は、おそらくその罠の一定の距離に近づいたら発動するんだろうね。

 しかも既にはってある罠だから、その後も彼女は爆発の魔法を行えるだろう。

 ……厄介だ。

 攻撃力もだけど、この手の相手は僕とは最も相性が悪い。

 近接格闘戦ならまだしも、相手は生粋の魔法を使った遠距離戦闘が得意なはずだ。

 

「イッセー君なら……どうしたんだろうね」

 

 ……まあ彼は相当に頭が良いからね。

 僕は彼と同じように戦えるとは思えない……っていうか絶対に無理だ。

 何度も彼と戦っている僕だから言える確信。

 戦い方なんて幾つもあるだろうけど、この『女王』をイッセー君が戦っているライザ―・フェニックスの元まで送るわけにはいかない。

 

「全く―――僕はいつからここまで怒れるようになったんだ!」

 

 ああ、怒ってるよ……僕だって目の前でリタイアさせられた二人を想うと、この『女王』を憎み思ってしまう!

 でもここで冷静を失ったら、僕は負ける。

 僕は彼から学んだ。

 怒った時こそ、冷静になれと。

 だから―――僕は僕のやり方で、戦う!

 

「まずはその邪魔な罠から消させてもらう!ソード・バース!!」

 

 僕は手に一本の魔剣を創り、それを次々と『女王』へと投剣する!

 すると僕の魔剣は次々に爆発により消えていき、それを見た相手の『女王』は少し顔つきが変わった。

 

「……あなた、危険ね。あまりにも私の罠に対する順応が早い」

「…………悪いけど、イッセー君ならこんなこと、一瞬で思いつくよ」

 

 ……するとその時、新校舎の方で轟音が響いた!

 そしてこの魔力の波動は……間違いない、イッセー君だ!!

 

「君たちは随分とイッセー君を低く見ているようだけどね―――僕から言わせてみれば、フェニックスよりも彼の方が怖いよ」

「……まさか貴方がここに来たのは―――私の足止め!!」

 

 すると『女王』はその場から離れようとする……気付かれるのも当然か。

 だけどそうはさせないよ!!

 僕はひときわ長く細い魔剣を床から創り、そしてその刃が『女王』の頬をかすめた。

 

「悪いけど、ここは死んでも通さない。君にイッセー君の邪魔はさせない!!」

 

 ……魔剣創造による魔剣の地面からの奇襲を僕は『女王』にする。

 でもそれらは彼女の爆発魔法で無効化され、僕は両手に魔剣を創って『騎士』の特性を生かして一気に距離を詰めた!!

 

「爆炎剣!風魔剣!」

 

 触れれば爆発を起こす爆炎剣、風を司る風魔剣、それらを二刀流でもって僕は相手の『女王』に二つの傷を負わせた。

 

「くっ!たかがナイトが!」

 

『女王』は爆発系の魔力弾を放ってくる!

 ならば僕は二つの剣を捨て、新たに剣を創った!

 

「大盾剣……攻撃から僕を守る、防御の剣!そして!」

 

 僕は非力な力で爆発から身を守った魔剣を『女王』に投げ飛ばした!

 これは丈夫な、彼女の爆発すらも耐える剣!

 それは破壊されない遠距離武器となる!

 ―――常に最悪の事態を想定して、臨機応変に戦え。

 イッセー君から言われた言葉だ。

 自信なんか捨てる!そして最善の戦いをする!

 

「ッッッッ!!?」

 

 ……相手の女王の腹部に僕の魔剣が抉る。

 直撃は避けているけど、あれほどの傷だ!

 僕は更に魔剣を投剣し、怯んでいる女王を刃によって抉っていく。

 ―――今しかない。

 持久戦では間違いなく僕の方が不利になる。

 やるなら短期決戦しかない!

 僕は使い慣れた軽量の魔剣を生み出し、そして最高速で『女王』に詰め寄る!

 するとその時、僕は見た。

 相手の女王の――――――笑い顔を。

 

「テイク」

 

 ……その一言共に僕の周りに爆発の魔法陣が展開されていた!

 しかも一歩でも動けばそのまま爆発させられ、そうでなくても相手によって爆発させられる!

 罠……僕は最悪の想定した、最悪の事態。

 

「…………でも」

 

 僕は止まらずにそのまま『女王』に向かおうとした!

 イッセー君なら諦めない!

 だから!

 

「諦めるわけにはいかないんだ!!」

「勇ましいのは結構―――でも終わりよ」

 

 ……次の瞬間、僕は圧倒的な爆発に包まれた。

 死にそうなほどの灼熱に照らされ、僕の意識は遠のく……

 

「……油断大敵よ。でも褒めてあげる。むしろ私相手に良く戦えたわ……うっ……!! 高がナイトにここまでやられるなんて……ライザー様、今私も向かいま―――ッ!?」

 

 ……油断大敵は、君だよ

 彼女は、驚いているだろうね。

 だって彼女は今……僕によって生み出された無数の魔剣が腹部に刺さっている状態なんだから。

 

「……言った、よね?命に懸けてでも、通さない……って」

「あ、あなたは、どうして、そこ、まで……」

 

 ……イッセー君が戦っている。

 僕は憧れた……彼の力を初めてみた時から。

 そして嫉妬して……結局は最後はまた憧れた。

 涙を流しながら堕天使レイナーレに拳を振るい、悲しみに暮れていた彼を。

 そして最終的に大切な存在を護ってしまった彼を。

 

「あなたは、何者……?」

「僕は……リアス・グレモリー様の『騎士』―――木場、祐斗だ」

 

 僕は最後の一撃というように魔剣を創り出し、それを女王に投げ刺した

 ……僕は最後まで言うと、僕の体は光に包まれる。

 全ての爆撃を全て受けて、すでに僕の体は限界を迎えていたからね。

 相手の『女王』も、光に包まれているようだ。

 

「僕が出来ることは、ここまでだ……あとは……任せたよ……イッセー君ッ!!」

 

 ……僕の意識はそこで途切れた。

 彼ならライザー・フェニックスを倒せる。

 そんな確信を抱いて……

 

『Side out:木場』

 

 ―・・・

 

『リアス様の『騎士』1名、リタイア……並びにライザー様の『女王』1名、リタイア』

 

 ……アーシアと小猫ちゃんが退場して少しして、その音声が鳴り響いた。

 ……木場、お前が『女王』を倒したのか。

 ったく、やってくれるな!

 

「どうなっている……ユーベル―ナが負けるなど、あり得ない!!」

 

 ……さすがのライザーも今の放送が信じられないようだった。

 だから言っただろう……木場―――祐斗を舐めるなって。

 

「ライザー、後はお前だけだ」

 

 戦う気のない僧侶を抜けばな。

 どちらにしろ俺にももう時間がない。

 白銀の篭手の限界がもう5分を切っている。

 

『Boost!!!』『Boost!!!』

 

 ……これで7度目の倍々増。

 次の二つの解放でもこいつをやらなきゃいけない!

 

「……ドラゴンの分際で!フェニックスに勝てると思うなよ!!!」

「るっせぇ!忘れたか!?四大魔王を殺した存在を!!―――二天龍を!!」

 

 俺はドラゴンを侮辱するライザーに激昂するように遅い掛かる!

 力の解放はせず、単なる格闘能力だけを信じる特攻!

 魔力による弾丸を駆使してライザーの猛攻を仕掛けながらも、言葉を口にした。

 

「俺の中に宿るのはその片割れ、赤龍帝ドライグ!高だか雛鳥のお前が上から目線で居て良い存在じゃないんだよ!!」

「だ、まれぇ!!」

 

 俺のゼロ距離からの魔力弾を受け、ライザーは苦渋な表情となりながらも絶大な炎を生み放出する!

 こいつ、どこからこんな炎を出しやがる。

 校舎を揺らすような炎……ライザーはそのまま屋外に出た!

 ―――ライザーの中で、精神的に俺は恐れるほどの存在になっているからこそ、その恐れから俺の攻撃は通っている。

 それを理解した上で、俺はすかさずライザーを追いかける!

 

「決めるぞ、赤龍帝!!」

「……いいぜ、フェニックス!!!」

『Twin Explosion!!!!!!!!!』

 

 力を全解放、そしてそれを両篭手の拳に集中!

 紅蓮と白銀のオーラが俺の左と右に集まり、ツイン・インパクトの準備が整う!

 決めるぞ、ドライグ、フェル!!

 

『ああ、相棒!!』

『行きましょう、主様!!』

 

 俺はその全力を持って、傷だらけのライザーへと拳を放つべく、地面をけり飛ばして飛翔し、悪魔の翼を展開させて空を飛んだ。

 ―――――――――だけど、ライザ―は俺を、見ていなかった。

 ……なにを、してる?

 なんで俺の方を見ていない?

 お前の敵はここにいるだろ?

 お前が戦うべき存在は俺だろ?

 なのに何で…………動けないほどに消耗している部長の方に、その巨大な炎を向けている!!

 

「ライザァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 俺は急いでライザ―をぶん殴ろうとしようとした……その刹那―――

 

「これで終わりだ、リアス!!」

 

 …………ライザーの、炎が……新校舎の屋根で力なく座っている部長へと放たれ、部長は炎に包まれた。

 俺の一撃は―――届かなかった。

 

 ―・・・

 俺は炎で傷つきながら落ちてゆく部長を抱き抱え、そのまま運動場の脇で降りる。

 部長を木の陰に下ろし、腕で部長を支えながら横にした。

 ―――部長はライザーの炎に焼かれ、恐らくもうすぐにリタイアする。

 

「ご、めんなさい……イッ、セー……」

 

 部長の声に力はない。

 なぜならライザ―の全力の一撃を、既を満身創痍の状態で受けたのだから。

 それでも部長は、涙を流す。

 流し続け、後悔の言葉を紡ぎ続ける。

 

「私が、ふがいない、ばかりに……あなたの足ばっかり引っ張って……」

 

 ……俺は部長の俺の頬に伸ばしてきた手を、ただ握ることしかできない。

 言葉が詰まり、それがどれほど部長が傷ついているかの証明みたいなもので。

 それでも部長は謝り続ける。

 

「……王、失格よ……私は、仲間……小猫が傷つけられる、ところを……見捨てることが、できなかった…………ダメね、綺麗事、ね……」

「……確かに、部長は『王』としては間違った行動をしたと思います。ですが……でも!」

 

 俺は部長の抱きしめた!

 こんな弱い、儚く消えそうな部長を放ってなんて置けなかった!

 

「もし俺が同じ立場だったら、同じことをしていたッ!!たとえ、俺に力がなかったとしても、部長と同じことをしていたっ!」

「ありがと、イッセー……―――私、ね?新しい夢が出来たの……ずっと気付かなかったけど、さっき気付いた……」

 

 部長は俺を頭から抱きしめる。

 胸に俺の顔を埋めて、優しく俺の頭を触る。

 

「……あなたと共に、眷属と一緒、ずっと楽しく―――そしてあなたと出来ることなら……」

 

 部長が光に包まれる。

 何度か見てきた、リタイアを告げる光。

 そして同時に……

 

「……部長。きっとその夢を俺が叶えて見せます」

「イッセー……無理、よ……だって私はもう……」

「……だったら期待せずに、俺に助けを求めてください。だったら俺は―――何があろうと、あなたを……リアスという女の子を必ず助けます」

 

 部長は光になって消えていく。

 そして消える直前、確かに聞こえた。

 

「―――助けて……イッセー……」

 

 ……聞こえましたよ、確かに。

 

『リアス様の『王』、リタイア……よってこのゲームは、ライザー・フェニックス様の勝利です』

 

 ……俺の近くに魔法陣が出現する。

 でも俺はそれを無視して、少し離れたところにいたライザーと、その傍にいるレイヴェルの近くに行った。

 

「お兄様!どうして、あんなことを!!?」

「黙れ!王としては当然のことをしただけだ!お前は俺の眷属だろうが!!」

 

 そこには妹であるレイヴェルと共に口論をしているライザーとレイヴェルの姿があった。

 ……ああ、確かに正しいよ、お前は。

 ―――でもな。

 

「ライザー」

 

 ……自分でも驚くほどに低い声だった。

 その声に気付いたライザーはハッとするように振り返り、そして俺を化け物でも見るような目で見てきた。

 

「な、なんだ貴様はッ!。……もう終わったんだ!」

「ああ、終わったよ―――でも忘れるな」

 

 俺は二人に背を向け、そして言った。

 

「俺はお前を許さない……お前がどれほどの罪を犯したのか。誰を怒らせたのか、を」

 

 ……俺は転移魔法陣の中に入る。

 そして俺は再びライザーの方を睨んだ。

 

「―――決して、忘れるな」

 

 俺は光に包まれ、転移するとそこはいつもの部室だった。

 ……誰もいない、部室。

 俺はたった一人、傷がなかった。

 そのことが無性に腹立たしくて、体が震えるッ!

 

「……部長、アーシア、小猫ちゃん、朱乃さん、祐斗…………」

 

 全員、生きている。

 でも傷つけられたことは事実だ。

 確かに向こうも同じように傷つけられている……だから仕方ないことだ。

 仕方ない……ことなんだッ!

 でも……少なくとも小猫ちゃんを痛めつけ、最後に部長を傷つけたライザーだけは許さない。

 

『相棒……奴は相棒との戦いから逃げた臆病者だ―――相棒、少し遅すぎるが、調整がほぼ終わった』

「……遅、すぎるよ、ドライグッ!!」

 

 俺は言いたくもないのに、そんな言葉を漏らしてしまう。

 自分で今回は期待しないとか言ったくせに、ドライグに当たってしまう自分が憎たらしい。

 ……そんな俺に、ドライグはただ「すまない」というしか出来なかった。

 

『……主様』

 

 ……俺がすべきことなんか決まっている。

 俺はそう…………部長との約束を果たさなければならない。

 つまり、俺が部長を……

 ――――――助ける

 そう俺は決意を決め、だけど抑えきれない怒りから壁を殴りつけた。

 室内の壁の一部がボロボロになり、そこに瓦礫の山が築かれる。

 

「……んだよ、これ―――っ」

 

 ―――痛みは……感じなかった。


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