ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

17 / 138
第2話 喧嘩、売られました!

 まず最初に言っておく。

 今の俺は冷静さが欠けてしまっている状態だ。

 ……何故かって? はは、そんなの決まっているだろ?

 そんなもん―――俺の視線の先には俺の上に馬乗りになりながら、自分の衣服の類を脱ぎ始めているリアス部長の姿があるからだ!

 頬はほんのり赤くなっていて……って、ちょっと待て! これはいくらなんでもおかしい!

 

『貴様ぁぁぁぁああ!!!? 相棒に何を言っているぅぅぅ!!?』

『主様に体で近づくなんて許しません!!!』

 

 ぎゃぁぁぁああ!!?

 俺の中のドラゴン二人が怒り奮闘で叫んでる!?

 ってそうじゃない!

 怒り心頭のドライグとフェルなんか、今はどうだって良い!!

 

「ぶ、部長!どうしたんですか!? なんでこんなことを!?」

「……お願い、今は黙って私を抱いてッ!ただの都合のいい女と思っていいから・・・既成事実が出来れば・・・」

 

 部長は何かに縋るように、何かから逃げるように自分を卑下してそう魅惑の言葉を並べる。

 だけど……違う。

 こんなの、俺の知ってるリアス・グレモリー部長じゃない。

 さっきまで恐ろしいほどに焦っていた頭は途端に冷静になっていった。

 

「お願い。……無理を言っていることは分かっているわ。でもあなたしかいないの! 私だって本当なら、こんな形でなんて……」

 

 部長がぶつぶつと何かを呟く。……でも、俺にはあまり届いてはいない。

 確かに今日の部長は何となく暗かった。

 何かに悩んでいるような、そんな……そんな顔をずっとしていた。

 それが今の行動を起こしているのだとすれば。

 それなら俺にだって出来ることがある。

 

「いい加減にしろ―――リアス(・ ・ ・)!」

 

 俺は部長の肩を躊躇いもなく掴んで、叱るようにわざと名前で部長を呼ぶ。

 

「そんなの、あなたらしくないです。自分を都合のいい女なんか呼ばないでください! 今の部長は俺の知っている部長じゃない。何かに焦って、好きでもない男に抱かれるなんてダメです!」

「で、でもこうでもしないと私はッ!」

「部長。部長が何に困っているのか、焦っているのか、それは俺には分かりません。ですが……」

 

 俺は部長から離れ、タオルケットを部長の肩からかける。

 

「俺は部長の『兵士』です。だから部長が何かに困っているなら助けます。本当にこの場で抱いてほしいなら、ギュッと抱きしめることくらいはします。ですから……自分を大切にしてください」

「…………イッセー」

 

 部長は泣きそうな顔で、俺の名を呼ぶ。

 

「大丈夫ですよ。俺は赤龍帝! 俺は何かを守るために赤龍帝になりました。だから部長の悩みくらいは命を懸けてでも解消します」

 

 俺は部長に不安を与えないように、二カッと笑ってそう断言した。

 

「……ありがとう、イッセー。私がどうにかしてたわ―――そうね、あなたにそんなことしたら、そもそもアーシアに悪いわ。それにもしかしたら私は……ふふ、それは駄目ね」

 

 部長は瞳に涙の雫を溜めた状態で、指先で目元を拭って俺にそう言ってくる……。その時だった。

 俺の部屋の床に、突如、銀色の魔法陣が浮かんでくる。……これはグレモリー眷属の転移魔法陣?

 銀色ってことは、俺達の眷属の一員じゃないってことか?

 

「……来たわね」

 

 部長はあれの正体を知っているようだけど……そうして少しすると、魔法陣から人が現れた。

 

「こんなことをして破談に持ち込もうということですか?」

 

 ……そこから現れたのは銀髪の髪にメイド服らしき服装の女性。

 だけど現れた瞬間、俺はその存在の異常性に気がついた。

 ―――肌を焦がされるほどの魔力、これまで感じたことのない濃密な魔力の質。

 

『……相棒、この者は今までの悪魔とはレベルが違うぞ』

 

 分かってるいるよ、ドライグ。

 身に纏う威圧感から魔力まで……正直、ここまでの悪魔は俺は会ったことがない。

 これは下手すりゃティアと戦って善戦するかもしれないほど。……それほどの悪魔。

 俺はそんな存在の、突然の登場に緊張感を解けずにいると、そのメイドは俺のことをじっと見つめてきた。

 

「…………こんな下賤な輩に操を捧げるということをサーゼクスや旦那さまが知れば悲しみますよ?」

 

 ……下賤、か。

 そう言われたのは初めてだな。

 

『おい、相棒……あいつを殺していいか?』

『主様、今すぐわたくしを自立歩行型の機械ドラゴンとなって、あの者を完膚なきまで痛めつけます。っていうかぐちゃぐちゃに殺戮します』

 

 ……まあ予想はしてたけど落ちつけ!?

 俺は怒って無いからさ!

 俺の中の相棒達は俺が「下賤」と呼ばれたことに怒り心頭みたいだ。

 

「私の貞操は私の物よ……それに今、あなたは私の下僕を下賤と言ったかしら? それは違うわ。……イッセーは私が暴走しているのに私を叱ってくれた。だから今の私は冷静よ」

「……どちらにしろお嬢様はまだ学生なのですから、殿方の前で肌をさらすのはおやめください」

 

 メイドさんは部長の脱ぎ去った衣服を部長に手渡しすると、部長は少し不機嫌な表情でそれを受け取る。

 そしてメイドさんは俺の方を見て、頭を下げてきた。

 

「先程の無礼を謝罪申し上げます。はじめまして、私はグレモリー家に仕えるグレイフィアと申します」

 

 ……先ほど、俺を下賤呼ばわりした人とは思えないような丁寧なあいさつだ。

 俺は感心していると、部長は既に服を着こんでグレイフィアさんの前に立っている。

 

「グレイフィア。貴方がここにいるのはお父様のご意思? それともお兄様のご意思かしら?」

「……全部です」

 

 今の部長とグレイフィアさんの会話から察するに、恐らく部長のお家事情がこの状況の発端いなっているんだろう。

 俺には部長のお家事情は分からない。……だけどまあ、もう大丈夫だろう。

 少なくとも俺に馬乗りになった時のあの焦りようは感じられないし、冷静っていうのもあながち嘘じゃない。

 ……するとグレイフィアさんは俺のことをもう一度、見透かすような視線でじっと見ていた。

 

「……もしかしてこの方がお嬢様の『兵士』ですか?」

「ええ。私の下僕にして今代の赤龍帝。……兵藤一誠よ」

 

 するとグレイフィアさんは、まるで納得したような表情になる。

 

「なるほど……。私に対して初手から警戒をしていたのはそのためですか」

「どちらにしろ、一度私の根城に戻りましょう。話はそこで聞くわ。朱乃も同伴でいいかしら?」

「ええ。『王』たる者、傍らに『女王』を置くのは当然でありますから」

 

 グレイフィアさんは感心するようにそう言って、部屋の床に銀色の魔法陣を展開させる。

 部長はその最中、俺の元に近寄ってきた。

 

「ごめんなさい、イッセー。……今日のことは気にしないで。でもこれだけは覚えておいて―――私は誰でも良いわけじゃない。一番最初に思いついたのがイッセーだったってことを」

 

 すると部長は俺の顔に唇を近付けて……途端に俺の頬に柔らかい感触が伝わる。

 ―――ま、まさか頬にキスをした!?

 

「今日はこれで許してもらえるかしら?」

「は、はいっ!?」

 

 俺は突然のことで頷くことしか出来なかったのだが……

 

『よし、フェルウェル。悪魔を滅ぼそう』

『そうですね、主様の貞操は主様のことを本当に想っている女性の物です!!』

 

 なんかドラゴン、殺る気になっていらっしゃる!?

 いや、こいつらがマジになったら本気でどうなるか!

 封印されてるけども!!

 それをどうにかしてでも行動しそうな危うさがあるんだよ!

 

「また、部室で会いましょう」

 

 そう言うと部長は魔法陣に入って、そしてグレイフィアさんと一緒に部屋から光のように消えていく。

 残された俺は少し、何故だかむなしい心が残った。

 

「…………おいで、チビドラゴンズ」

 

 ……俺は何か居たたまれなくなって、魔法陣を出して俺の使い魔である小さな子供ドラゴン3匹を出して、その晩、思いっきり可愛がった後、一緒に眠るのであった。

 

 ―・・・

 

 朝―――それはとても心地よいものであり、今の俺はとても幸せな気分だった。

 ちなみに俺の腕の中には安らかに眠っている愛くるしい小さなドラゴンが三匹、幸せそうな形相で眠っている。

 昨日はアーシアがいなかったから、俺の中の癒し成分が足りなかったのか?

 まあ何にせよ、なんか虚しかったからフィー、メル、ヒカリの三匹を呼んだわけだけれど……これはやばいな、可愛過ぎるッ!!

 

「おはよう、一誠。どうだ?可愛いだろう? その三匹」

 

 ……何故か黒髪のすらっと背の高い見ためで、肌がすごく白い美人な女性がいる。

 まあこれは人としての姿で、実際には龍王、ティアマット。

 人間態ではまさにお姉さん、って感じの見た目なんだよな。

 

「ティア。悪いな……。ちょっと1人が虚しくて癒しが欲しかったんだ」

「まあそれは良いんだが…………何故だ?」

 

 するとティアが俺の顔をじっとのぞきこんでくる。

 

「何故チビたちの三匹は呼んで、私は呼ばないのだ!?」

 

 ……ティアが俺の肩を掴んで、目をクワッと見開いてそう言ってくる!

 そして未だに不思議だけど、どこから現れた、お前!

 俺、これでも気配に対しては敏感だぞ!?

 

「いや、ティアは癒しと言うよりもうお姉さん系だろ? めちゃめちゃ綺麗だし、何か包容力があるし……」

「……なるほど、お姉さん、か」

 

 …………んん?

 なんかこれ、デジャブな気がするんだが気のせいだろうか……

 

「そう言えば、お前の中のドライグは確かパパ……そしてもう一人の正体不明のフェルウェルは確かマザー、だったな」

 

 ……どこから仕入れたのだろうか、ティアはぎらぎらとした目で俺を見てくる!?

 待て、思い出した―――このパターンはドライグの時と一緒だ!

 不意に言った言葉をあいつが気にいって、そのままパパになった、あの時の状況と!!

 

「よし、ならば私は一誠の姉になろう。これは決定事項だ!」

「―――ああ、もう! なんで伝説ドラゴンは俺の家族の立場に立ちたがるんだよぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 ……朝っぱらから、俺の叫び声が響き渡る一日であった。

 ちなみにティアはチビドラゴンを連れ戻しにきたらしい。

 

 ―・・・

 

「イッセーさん、何故か顔がつかれているようですが・・・」

 

 俺はアーシアと学校に行く道で合流して、共に登校をしている。

 何故一緒に暮らしているのに合流するかといえば……今朝、俺はどうにも気があれだったのでランニングどころかフルマラソンをした。

 だからアーシアは今日はランニングはしなかったんだ。

 フルマラソンで悪魔の身体能力を完全に使ったために、どうにも体が疲れているみたいだった。

 まあ疲れている一番の原因は朝一番の出来事のせいだったんだけどさ……

 

『とうとう姉まで出来たか……ならば順当にいけば、あのチビどもは―――』

『妹、という立場に治まるでしょうか?』

 

 ……本当にあり得そうだから止めて貰えるかな?

 チビどもは俺にべったりとくっついてくるから、成長したらどうなるか考えないようにしていたのに。

 

「はは……。大丈夫だよ、アーシア。……アーシアが傍にいるなら俺は癒されるからさ」

 

 そう言って俺はアーシアの体にぎゅっと抱きつく。

 

「あ……イッセーさんは甘えん坊さんですね♪」

 

 アーシアは嬉しそうな声で抱きしめてくれる。……と、俺はそこでずっとそこにいた存在に気がついた。

 

「ほほう……兵藤はアーシアには甘えると」

 

 ……そこにはニヤニヤと笑みを浮かべる、桐生藍華がいた。

 俺はそれでハッとしたようにアーシアから離れ、桐生に怒鳴り声を響かせた。

 なお、離れた時にアーシアはシュンとしていた。

 

「こりゃ、思った以上にアーシアと兵藤の距離は短いね!」

「おい、てめ!! 今見たことは全て忘れろぉぉぉぉ!!!」

「あははは! いやぁ、今の写真を見たら学園の女子はどう思うかな~?」

 

 すると桐生は自前のデジカメを片手に、その中の一枚を見せてくる……

 って俺がアーシアに抱きついてる写真!?

 いつの間に!?

 

「桐生さん!!」

 

 するとアーシアが顔を真っ赤にして桐生の名を叫ぶ!

 おぉ、やっぱりアーシアも分かってくれるか!

 そうだよな! 隠し撮りなんかダメだもんな!!

 

「―――その写真……今度、焼き増ししてくれませんか?」

「あ、アーシア!?」

 

 あぁぁぁああああ!!?

 俺の想いをへし折って、アーシアが桐生に詰め寄る!!

 アーシアは最近、暴走気味だぞ!

 

「オーケイ、オーケイ……今度、しっかりと背景をラブラブのピンクにデコってアーシアにあげるわ!」

「ありがとうございます! 桐生さん!!」

 

 するとアーシアは桐生の手をぎゅっと握って、お礼を言う。

 

「なんでこうなるぅぅぅぅ!!!」

 

 ……俺はそう叫びつつ、朝の通学路を懸け走るのだった。

 今日の俺は少し、叫び気味である。

 ―・・・

 学校到着。

 ですがもう俺のヒットポイントは風前の灯だ。

 朝はティア、登校は桐生とアーシアのことでもう、俺はふらふらである。

 

「やぁ、イッセー君! おはよう!!」

 

 ……すると元気な木場が俺に下駄箱で挨拶してくる。

 

「ああ、おはよう。……今日はすごく悪い天気だな?」

 

「その聞き方はすごく大丈夫じゃないよね? 今日は快晴だよ。……一応聞くけど大丈夫かい? なんなら僕が保健室まで運ぶけど」

 

 ああ、木場は苦笑いをしながらそう尋ねて来た。

 確かに今日はすごい快晴で雲一つないもんな。

 

「いや、運ぶなら教室にしてくれ……」

「……イッセー君がそこまで元気がないなんてね。……よし! 今日のお昼は僕がおごるよ!」

 

 ……それは暗に俺を昼食に誘っているのか?

 まあ今日は購買で済まそうと思っていたから、ちょうど良いけど。

 

「ところでイッセー君、そろそろ僕のことを名前で呼んでくれないかい? 僕一人だけ名字というのは悲しいからね……」

 

 ……おい、木場、この野郎。

 下駄箱で何言ってやがる?

 なに乙女みたいな表情でそんな、恋人にずっと名字で言われている女の子みたいな照れくさいこと言ってやがる?

 もう一度言うぞ?

 ここは下駄箱、そして下駄箱は生徒が最も集まる場所。

 つまり……

 

「きゃ~!! ついに木場×兵藤のカップリング、きたぁぁぁぁああ!!」

「あ、あの王子様系イケメンの木場きゅんと、男前兄貴系男前の兵藤きゅんが……ぶほ!!」

「神聖だわ! もうあの二人は神の領域よ!!」

 

 ああああああああ!!!

 女子が俺と木場を見て、あの松田と元浜が流したホモ疑惑を確信のものに変えてるぅぅぅぅ!!?

 しかも木場はまだ照れてやがる!!

 湧くんじゃねぇよ、腐り過ぎだろこの学校の女子!!

 

「なんで今日はこんなにぃぃぃぃ!!!?」

 

 ……俺はどこにそんな力が余っていただろう、すごい速力でその場から風のように消え去るのだった。

 

 ―・・・

 その日の俺は、ずっと女難(たまに男難)続きな気がする。

 昼に木場が俺を迎えに来たと思うと、先に俺の元に来ていた小猫ちゃんと木場が睨みあい(小猫ちゃんが一方的だけど)。

 そして教室の入り口からモジモジとした朱乃さんがとても大きな重箱でお弁当を作ってきてくれて、それを見たクラスメイトが発狂。

 更に昼明けの体育でアーシアがソフトボールに当たりそうになったのを庇ったら、アーシアを押し倒してしまい、危うくキスをしてしまいそうになったとき、その時咄嗟にそれを回避するためにアーシアの胸を揉んでしまったということ。

 更にその時のアーシアがどこか嬉しそうだったという事で一騒動!

 …………今日、俺は既にボロボロです!

 そして今は放課後……。俺は木場とアーシアと共に、オカルト研究部の部室に向かっている。

 

「い、イッセーさん……」

「い、イッセー君の負のオーラが目に見えるのは僕だけだろうか?」

 

 ……木場がそう言う。確かに昨晩から今日の放課後に掛けて、俺は女難が立て続けに続いて、ホントにな?

 ―――いや、ホントもう疲れました。……オカルト研究部からすごい魔力の気配を感じますが、もう俺には関係ないことです、はい。

 

『……相棒の心が廃れている!? 相棒には癒す存在がいる!!』

『ダメです! アーシアさんでさえ、今の主様は癒されない!」

『くそ! ならばどうすれば! 詰んでいるじゃないか!! 誰か相棒を助けてくれぇぇぇ!!!』

 

 ……ドライグとフェルウェルが焦っている会話を聞いて、少しだけマシになる。

 なんだかんだでこいつらは俺のことを第一に考えてくれるからな。

 

「とりあえず早く部室に行こう。……じゃないと倒れてしまうッ」

「は、はいぃ!」

「うん、そうだね……。イッセー君が割と真剣に倒れそうなところを僕ははじめてみるよ」

 

 木場が本格的に心配してか、俺の荷物を持ってくれる。

 アーシアは癒しの光で俺を癒そうとしている、その仕草に軽く癒される俺なのだが……

 俺達が部室の近くまで来た時……そこで木場がハッとしたように顔を上げた。

 

「……まさか僕がここまで気配に気がつかなかったなんて」

 

 ……恐らく、木場は気付いたんだろうな。

 アーシアは首を傾げてるけど。

 

「とりあえず入ろうぜ……多分、敵じゃないから」

「え? も、もしかして君は気付いて……」

 

 俺は木場の言葉をスルーして部室の扉を開けた。

 ……まあ予想通りと言いますか、そこには昨日に会ったグレイフィアさんの姿があり、そしてその傍に不機嫌な形相の部長、そしてニコニコ顔だけどどこか表情が冷たい朱乃さん。そしてドアを開けた瞬間に俺に抱きついてきた小猫ちゃんの姿があった。

 小猫ちゃんに至っては、まるでその場にいたくないって言いたいみたい表情だ。

 

「全員そろったわね……でも部活を始める前に少し、話があるの」

「お嬢様、私がお話しましょうか?」

 

 部長はグレイフィアさんの申し出を断ると、席を立って何かを言おうとした。

 

「実はね――――」

 

 部長が何かを言おうとした時だった。

 …………部室の床の一面に、魔法陣が出現した。

 それと共に広がる熱い炎。

 そしてそれはグレモリ―家の紋章じゃない―――前に適当に呼んでいた本に、この紋章があった。

 それは確か―――

 

「……フェニックス」

 

 俺の傍で木場がそう呟く。

 そう、あれはフェニックスの紋章。

 その紋章から炎の熱気が部室の中を包み、そしてその炎の中心に男の姿があった。

 

「ふぅ……久々の人間界だ」

 

 ……そこにいるのはスーツ姿の男。

 スーツだけどシャツを着崩して着ていて、ボタンを胸が見えるくらいまではだけている状態だ。

 当然ネクタイなんてつけていない。

 容姿は整っているが、俺からしてみれば鼻につき貴族らしさなんて欠片も存在しない男。どちらかといえばチンピラ、三下。・・・それが俺の印象だ。

 

「やぁ、愛しのリアス」

 

 ……そしてそいつは、部長を見ながらそんなことを軽い口調で言う。

 

「部長。……こいつは誰ですか?」

「おいおい、リアス。……下僕の教育がなってないんじゃないか? 俺を知らないとは……」

「教える必要がないもの」

 

 部長がきっぱりとそう断言した。

 

「兵藤一誠様」

 

 するとグレイフィアさんは俺の前に来ていた。

 そして話し始める。

 

「この方は古い家柄であるフェニックス家の三男坊にして将来が有望視さえている上級悪魔の一人……ライザー・フェニックス様です」

 

 グレイフィアさんは「そして」と付け加える。

 

「この方はグレモリ―家の次期当主……すなわちリアスお嬢様の婚約者であらせられています」

 

 ―――さすがにそこまでは予想になかったから、俺を含めたアーシア、小猫ちゃん、木場は驚愕の色を隠せなかった。

 

 ―・・・

「いやぁ……リアスの『女王』が淹れてくれたお茶は美味いな~」

「……痛み入りますわ」

 

 ……朱乃さんはニコニコしてるけど、やっぱりいつもの笑顔とは違う。

 なんて言うんだろう……演技臭い微笑みだ。

 いつもの朱乃さんの魅力的な笑顔ではなく、形式ばった微笑みで朱乃さんの心情が大体理解できた。

 そしてライザーの隣に座る部長は、不機嫌な表情で腕を組んでいる。

 時折、ライザーが部長の綺麗な紅髪を触ったたり、太ももを撫でてやがるのが目につくけどな……ッ!

 

『……品性の欠片もないな。あれがリアス・グレモリーの婚約者』

『昨日の彼女の行動には怒りはしましたが、ですがあれを見れば気持ちは分かります。……あれなら主様の方が万倍良いです―――いえ、比べるのがおこがましい』

 

 ドライグとフェルウェルはライザーをそう評価する。

 ……確かにあんな奴、部長には似合わない。

 部長を美しい紅石(ルビー)なら、ライザーはさしずめ石ころってところか。

 どこにでも落ちていて、復活しているように無限に現れる鉱物、ってところだ。

 

「いい加減にして頂戴、ライザー。私は前にもあなたに言ったはずよ。私はあなたとは結婚しない……私は私の旦那様を自分の意思で決める」

 

 部長はライザ―の手を振り払って、そしてソファーから立ってそう言い放つ。

 

「しかしリアス。……先の戦争で純粋な悪魔の72柱の大半は消えた。この縁談はそんな純粋な悪魔を減らさぬよう、俺の父やリアスの父、そしてサーゼクス様の考えの総意なんだよ。それに君のお家事情はそんなことを言えるほど、切羽詰まってしまっているのではないか?」

「私は家は潰さないし、婿養子は迎え入れるわ。……でもそれは私が本気で好きになった人とよ。だからもう一度言うわ。ライザー、私は貴方とは絶対に結婚しない!!」

 

 部長が真剣な瞳でそう言うと、ライザ―は部長の目の前に立って睨みつけ舌打ちをする。……しかも部長の顎を掴んで顔を近づける!

 

「リアス。俺もフェニックスの看板を背負っているんだよ。家名に泥を塗られるわけにはいかないんだ。俺はお前の眷属、全員を燃やし殺してでもお前を冥界に連れて帰―――」

 

 ―――俺は部長の頬を掴むライザ―の手を振り払い、そして至近距離でこの野郎を睨みつける。

 

「―――薄汚い畜生の手で、俺たちの主である部長に触れるな、ライザー・フェニックス」

「貴様、この俺が誰だか分かって言っているんだろうな?」

「はっ、知るか。生き返ることしか脳がないフェニックスが、リアス・グレモリーと同等の価値があるとでも思っているのか?そんな奴が部長に触れることが我慢ならないんだよ」

 

 俺は引かない。

 それにコイツは今、俺の仲間を殺してでも部長を冥界に連れて帰るって言った。

 俺の仲間に、手を出すと言ったんだ―――我慢なんてしていられるか。

 己が欲だけのために多方面が傷つくのを、俺は許せない。

 だからこそ、引いてられるか!!

 

「俺の大切な仲間を殺すつもりなら俺はお前を許さない。俺の大切に手を出すっていうんなら、命を摘もうと少しでも考えているのなら―――お前を殺してでも俺は仲間を護る」

「……ははは! たかだか転生したての下級悪魔のくせにな―――息がるなよ、小僧ッ!!」

 

 するとライザ―から炎が噴射する。……だからって俺が恐怖に陥るとでも思っているのか?

 俺はライザーに対抗するように魔力を放出しようとした時・……背筋に冷たいものを感じた。

 

「おやめください、兵藤様、ライザー様」

 

 ……すると俺とライザーの真横にグレイフィアさんの姿があった。

 そしてグレイフィアさんの体から漏れる魔力……それは恐ろしいほどに強力なものだった。

 

「私はサーゼクス様の命によりここにいます故、この場に置いて一切の遠慮はしません」

「……最強の女王と称されるあなたに言われたら俺も止めざるおえない」

「……お言葉ですが、例え魔王様の命だとしても俺はこの拳を抑える気はありません」

 

 俺はグレイフィアさんの前に屈せず立つ。

 

「少なくとも、俺が納得するような説得があるなら別ですが……」

「……グレモリー家もフェニックス家も当人の意見が食い違うことは初めから気づしていました。……ですので、もしこの場で話が終わらなければということで最終手段を用意しました」

「最終手段?」

 

 部長はグレイフィアさんにそう質問すると、グレイフィアさんは話し続ける。

 

「お嬢様が自らの意思を押しとおすのであれば、ならばこの縁談を『レーティングゲーム』でお決めになるのはどうでしょう」

 

 ……『レーティングゲーム』という単語で俺達は少し、驚く。

 レーティングゲームは爵位もちの上級悪魔が自分の下僕を戦わせるゲームのことだ。

 でも確かそれは成人を迎えた悪魔でしか出来ないはずだけど……だけど非公式なら別か。

 すると途端にライザーは得意げな顔をして嘲笑した。

 

「リアス、俺は既に成人していて、レーティングゲームを幾度も経験している。それに勝ち星も多い……どう考えても、君が勝てるとは思えないけどな」

「……圧倒的不利、か」

 

 俺はライザーの発言を聞いて、そう呟く。

 それは明らかなことだ。

 すでに何度もゲームを経験しているライザ―と、まだ一度もゲームをしていない部長とでは、圧倒的な戦力差がある。

 

「……それだけじゃないです」

 

 すると小猫ちゃんの小さな声が俺の耳に通った。

 ……それだけじゃない、ってことは―――

 

「おい、リアス。もしかしてと思うが、君の眷属はここにいるだけで全部か?」

「……ええ、そうだけど?」

「……あはは! おいおい、それでこの俺と戦おうと言っているのか? 君の下僕では『雷の巫女』と謳われる君の『女王』くらいしか、俺の眷属とまともに対抗できないと思うが……それに」

 

 ライザーは朱乃さんの二つ名を呟いた後、指を鳴らす。

 すると部室の床にフェニックスの紋章が現れた。

 そして部室は再び、炎に包まれて、そしてその炎の中には―――15にもなる人影があった。

 

「俺の眷属は全部で15名。フルでそろっているわけなんだがな、……だから君が俺に勝てるとは到底思えないね」

 

 俺はその人影を見る―――そこには、男の姿はなく、全てが全て、美少女や美女と呼べるような女の子だった。

 

「……アーシア、君はこんな悪い男にだまされたらダメだよ?」

 

 ……俺はそれを見ると、ついアーシアにそう言ってしまう。

 すると小猫ちゃんは俺に同意してくれているのか、うんうんとうなずいていた。

 

「おい、貴様……もしかしてうらやま」

「もしかしなくても、全くうらやましくないから大丈夫だ。この変態鬼畜種まき野郎」

 

 ……なるほど、こいつはどうしても高貴な存在に思えないわけだ。

 こいつはあれだ。松田と元浜の性癖の同類者で、ただの成功例だ!

 

「なっ!? 貴様、俺を愚弄するつもりか!?」

「うるさいわ!! なんだよ、もう!! ホント、今日は何でずっと女、女、女!! ああ、もう! 女難にはもううんざりなんだよ! この種まきクソ焼き鳥が!! 四六時中欲情しやがって、この変態野郎!!」

「種まき!? 焼き鳥!! 貴様ぁぁぁぁ!!!」

 

 ライザーは怒ったようにそう叫んでくるけど、ふざけんなよ!!

 こちとら、今日は見知らぬ女を見るのは、もういいんだよ!

 

『……まさか相棒がこんなところで爆発してしまうとはな』

『普段爽やかな主様から出る単語ではないですね』

 

 ドライグとフェルが俺を宥めることなく、達観してそう言った。

 

「ライザー様」

 

 するとあいつの眷属の一人らしき大きな杖を持った女が、ライザーに近づく。

 

「ユーベルーナ……ああ、そうだな。少しは落ち着こうか」

 

 …………するとライザ―は、とんでもないことをしやがった。

 ライザーに近づいた眷属の一人の腰に手を回し、そしてグッと近づけた。

 そして・・・自分の眷属の女を貪りつくようにキスし始めやがった!!

 舌まで入れて胸を弄る。

 女の羞恥心も考えず無理矢理、しかもこの場に他の男がいるのに衣類を取っ払って直接揉んでいた。

 ―――ふざけんなよ。

 

「お前……部長と結婚するつもりでこの場にいるんじゃないのか?」

 

 するとライザ―は眷属の口元から唇を離し、そして俺の問いに答えた。

 手は未だに胸にあり、更に首筋にキスをする始末。

 

「ああ、愛するぞ? ―――俺のハーレムの一人としてな」

「―――ッ!!」

 

 部長がライザーのことを軽蔑を含んだ目つきで睨みつける。

 その言葉を聞いて、頭の中で言葉に出来ない「何か」が広がった。

 

「人間界のことわざで、英雄、色を好むってのがあるだろ?それだよ、それ」

「……違うな、色欲魔、自分の欲望を満たすの間違いだ、変態フェニックス」

 

 俺はライザ―の言葉を真っ向から否定する。

 そうだ。……あんな奴が、ヒーローなんかじゃない。

 あんなやつが英雄であってたまるか。

 

「一人の女を純粋に愛することすらできない奴が、多くの人を愛することなんか不可能だ。お前は自分の女を、所詮、道具としか思っていない」

「・・・貴様、どこまで俺を怒らせる?」

「怒るのは、思い当るからじゃないか?―――それに何より、英雄(ヒーロー)が色を好むんじゃない。正しいことをした英雄は魅力的で、周りの異性が英雄と一緒になりたいと思うからそんな言葉が出来たんだよ」

 

 俺は遠慮もなしにそう断言し、そして―――

 

「お前には部長は不釣合いだ! 自分の女をこんな場で辱めて、それを許されるなんて思っているお前には特にな!」

 

 俺は部長の手を引っ張り、皆の前に立って部長を俺の背に隠す。

 

「ふん―――ミラ、やれ」

 

 ライザーは小さく近くにいた棍棒を持った小柄の女の子に命令する。

 するとその子は俺に向かい、棍棒を突き立ててきたけど・・・

 

「……悪いけど、そんな単純な動きは見切る必要もない!」

 

 だけどな!

 そんな遅い速度、木場の速度の方が何倍も上だ!!

 俺は刺してきた棍棒を神器なしで掴み、そして棍棒を引いて女の子を自分のところに寄せる。

 

「これで終わりだ」

 

 そして拳をその女の子の額付近で止めると、その女の子はその場にぺたんと座りこんだ。

 

「き、貴様、俺の可愛い下僕を!!」

「それでどうする? 俺はどこも怪我をしてない、神器も使ってない。まだやるって言うなら、俺はゲーム関係なしでお前を倒しちまうが」

 

 俺とライザーは睨みあいになる。

 あいつと俺の間で緊張感が生まれ、沈黙の硬直状態が続いた。

 

「……矛を納めてください」

 

 するとその間にグレイフィアさんが溜息を吐いたように立っていた。

 

「しかしグレイフィア殿! 奴は俺の眷属を傷つけた!」

「いえ、兵藤様はライザー様の眷属に指一本触れてはいません。それよりも最初に手を出したのはあなたではありませんか―――これ以上するなら、サーゼクス様の女王として、あなたを粛清します。あなたを屠ることがどれだけ容易いかをご証明いたしましょうか?」

 

 ……グレイフィアさんの本気の殺気が部室に広がる。

 まるで風が生まれたといえるほどの衝撃を感じ、俺も寒気を感じる。

 アーシアは既に恐怖で体を震えていた。

 小猫ちゃんも同様で、木場も冷や汗をかいているようだ。

 

「……わかりました。ならばそれは、レーティングゲームで決めよう―――リアス!」

「ええ。私もあなたとのレーティングゲームを受けるわ―――そして消し飛ばしてあげる!」

 

 すると部長は俺の前に立って、ライザーと睨みあう。

 

「……ではゲームはこれから10日後の深夜。それにて全てを決着とします」

 

 グレイフィアさんの言葉で、ライザーは魔法陣を展開させて眷属と共にその中に入る。

 

「そこの下級悪魔。10日後だ。……その時、貴様をフェニックスの炎で焼き殺してやろう」

「知るか。そんなチンケな灯、俺たちが蝋燭みたいに消し飛ばしてやる」

 

 ライザーはそう捨て台詞を言うと、そのまま魔法陣から消える。10日後。それはつまり俺たちへの配慮だ。

 まだ未熟な俺達の、準備期間。

 つまりは……

 

「部長。俺、勝手に突き進んじゃいます。だけど最終的には絶対に損をさせません―――だから部長を勝たせて見せます!」

 

 俺は部長に真っすぐな瞳を向けてそう言う。

 ああ、決めたさ。

 俺は部長を勝たせて見せる!

 あんな下種悪魔に部長を渡してたまるか!

 ……俺はそのことを心に決め、そして奴との戦いに向け準備を始めるのだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。