ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~ 作:マッハでゴーだ!
第1話 恋する乙女と悩む部長です
突然で悪いけど、俺、兵藤一誠は悪魔だ。
元は人間、さらに言えば前赤龍帝からの転生者なんかでもあるんだけど、最近の俺のことを振り返ると、多少だけど性格が変化したらしい。
これは俺の前からの相棒、ドライグからの意見だ。
どうも俺はとても熱い性格になったらしい。
最近の俺はとにかく困っている人がいたら何も考えず助けようとして、がむしゃらに突き進む傾向にある。
……自分観測はこれくらいにして、まずは無事に復活を果たした俺の中の二人のドラゴン、ドライグとフェルのことを言っておく。
リアス部長の話を織り交ぜると、どうやら俺を悪魔に転生させるためには異様なほどの現象が起きたらしい。
なんでも、本来の俺は『悪魔の駒』の役割の一つ、『兵士』の駒8つだけじゃあ転生は不可能だったらしい。
それでも俺が転生出来たのは、部長の駒が普通の駒ではない駒……一つの駒で複数の駒と同価値の『変異の駒』が3つ混ざっていたからだったらしい。
そして駒は俺を転生させる前に蠢いていたらしく、木場曰く……
「君が僕達の仲間になるのは必然だったんじゃないかな?」
……ということらしい。
そしてドライグとフェルウェルが俺の中で身動きが取れなかったのは、恐らくはその『悪魔の駒』のせいと思われる。
俺が突然、悪魔になったことで『悪魔の駒』が自動的に俺の中の力を縛り、封印したとドライグは言っていた。
あの時の俺の神器の不調はたぶん、その封印が原因だと思う。
今では神器の縛りもなくなったから、前の神器の性能に戻ってきているけど、ただ一つ戻っていないとすれば……
『相棒、その件だがまだ禁手は待ってくれないか?』
ドライグが俺の中から話かけてくる。
そう……俺の悪魔への転生前から体に染みついていた禁手化はまだ出来ないということだ。
『元々、俺の神器は相棒が人間だったころの体を主に調整していたものでな。……悪魔になった相棒の体は正直、体一つでも相当強い。不完全なら今でも禁手出来るんだが……』
ドライグは少し言葉を濁す。
『出来れば、相棒にはその時における最高の力で禁手を使ってもらいたいからな。だからあと10日ほどは待ってくれないか?』
ドライグッ!
お前、俺のことをそこまで考えてくれていたなんて!
『当然だ、俺にとっては相棒は最高の相棒だからな!それに子供のようでもある!!パパだ!!』
……それがなかったら、もっと良いのに。
『主様』
すると今まで、俺達の会話を聞いていたフェルが俺に話しかけてきた。
『少しばかり主様が新しく手にれた、強化のことを話したいのですが……』
……あれのことか。
俺が堕天使レイナーレとの戦いで新しく手に入れた
神器の性能を上げ、今までにない力を引き出す反則級の能力―――簡単に言えば神器の性能を格段に上げるという力だ。
『あの力はわたくしも想像しておりませんでした。ですがあの力は正直、人の身には余る力……主様の鍛えた体でも、1秒ごとの強化はかなり体に負担がかかるでしょう』
……確かに、その通りだ。
この前、使い魔を獲得した時も、俺はあの力を龍王ティアマットに力を示すために使った。
籠手を強化し、結果的にティアマットを含む4体のドラゴンを使い魔に出来たけど、だけどあの時の体への負担は普通の篭手とは比べ物にならない。
強化の力の欠点はおそらくは……
『ええ。―――性能を上げ過ぎて負担を体に掛け過ぎる……ということです』
……まあそうだよな。
正直、あれを連続で使うのは相当の修行が必要になる。
確かにただの……だけで従来の禁手に近い力は手に入るけど、代わりに一回使ったらもう戦えないでは話にならないな。
『おそらく、今の主様なら連続の使用は5回が限度。……しかもそれは創造力が最低限溜まった創造力を使い発動した時に限っての話です。創造力を極限まで引き上げた状態での強化では3回も出来ないでしょう』
……使うために創造力の上限があるのか?
『ええ……”強化”を使うためには最低7回の創造力を溜める必要があります。そして溜めた創造力の分だけ、神器の力を強化することが出来るのです。その神器の強化度が創造力と比例する……というわけです』
……まだまだ使い勝手が悪い。
あれはいうなれば、ここぞというときの切り札か。
まあそこは今後の課題だな。
『それと先ほど、5回は出来ると言いましたが、戦闘中では1度の使用で体に影響を及ぼすでしょう。……神器の強化ですから、当然、他人の神器を強化することも可能です』
アーシアの
『ええ。グレモリー眷属の中ではアーシアさんがそれに該当しますね。主様、”強化”で強化される神器の強さはどれほどになると思いますか?』
……正直に言えば、神滅具クラスだと俺は思う。
『その通りです。神滅具である
そう言ってもらえると助かる。……確かに、普通の神器が神滅具クラスの神器に突然なると考えるなら、扱いに困るだろうな。
『ただ神滅具になるならば良いのですが……”強化”の欠点は、強化対象にあり得ないほどの負担を与えることにあります。例を上げるなら、主様は単純に体に負担がかかります』
つまり、神器によって負担がかかる場所が異なるってことか?
『これは予測ですが、主様のような戦闘神器ならば体に、サポート神器ならば精神的にですね。そしてそれは『どちらかと言えば』の話で、どの神器にもある程度の精神的、身体的な負担はかかります』
……なるほど、出来ることならあんまり他人には使いたくないな。
『ええ。ですので主様、”強化”の仲間への使用は禁止しておいた方がよろしいでしょう―――そして自分への使用も自重してください』
了解だ。
……それはそうと、今の俺は夢の中だ。
夢の中でフェルやドライグと話している言ってもいい。
だから今の俺には二人の姿が見えている。
……相変わらず、ドライグは威風堂々としており最強の名が相応しい姿だ。
フェルは美しく、俺が見てきたドラゴンの中では一、二を争う美しさを持つドラゴンだ。
『主様はそのような事を臆面もなく言えるから、異性に良く好かれるのですね』
『良くも悪くも、相棒は素直だからな……そこがまた可愛い!』
『ええ……珍しくドライグ、意見が合うますね! なんていうのでしょう。大人ながら童心を忘れない純粋な心!』
『その通りだ! 流石は相棒の中に十数年、一緒にいることはある!!』
……そう言うのは、よそでやってくれ!
ああ、もういい! もう起きる!!
俺は二人の俺に父性と母性を感じさせるドラゴン・・・パパドラゴンとマザードラゴンに呆れながらも、夢から覚めるのであった。
―・・・
「すぅ・・・イッセー、さぁん・・・」
……さて、これはどういう状況だろう。
待て待て、俺は寝ぼけて誰かの布団に入り込むなんて性癖は持っていない!
でも、でも!!
こういうことをするのは今まで母さんだけと思ってたんだ!
なのに!!
「ふふ……イッセー、さんは……かっこいい、ですぅ……」
「何でアーシアが俺の布団で下着姿で寝てるんだよぉぉぉぉ!!!」
……俺は朝から、そう高らかに叫ぶのであった。
―・・・
「さて、アーシア。どうして俺の布団で、しかも下着だけで!更に体を密着させながら寝てたか教えて貰うぞ!!」
現在の状況はアーシアが俺の部屋で寝ぼけながら正座をしている、何とも言えない状況。
ちなみに服は着せてある。
「はふぅ……イッセーさん、おはようございまふ……」
もう、この寝ぼすけ!
可愛いけど! ホントに抱きしめたくなるくらい可愛いけど!!
「…………はぁ、どうせ桐生あたりに唆されたんだろうけどさ」
俺はクラスメイトで、アーシアが転校してきてからアーシアとよく仲良くしているメガネをかけた女子、桐生藍華の顔を浮かべながら嘆息する。
……そう、桐生はある意味で松田や元浜と同じだ。同類と言っても良い。
それ―――彼女が異常に性に関して興味を示していることだ。
割と可愛いくせにそれが男子を遠ざけてしまっている。
話は逸れたけど、簡単に言えばアーシアは転校初日に俺に告白をして以来、クラスでは癒しの存在以上に『愛のアーシア』なんてあだ名を頂戴した。
それで桐生が気に入ったんだろう……で、俺とお近づきになる方法をアーシアに提案して、このような状況になった。
こんなところだろうな。
「まあ一緒の布団で寝る。……これは百歩譲ってまあ許すよ。だけど下着はだめだ。アーシア、君は男を知らなさすぎる。言っとくけど、アーシアみたいな可愛い子がこんなことしたら、男はどうなるか分からないからな!」
「か、可愛いだなんて、イッセーさん……」
なんでそこしか聞いていないんだよ!?
アーシアはすごい顔を真っ赤にして「きゃ~、きゃ~」と悶えている!?
うわ、乙女だ!
…………まあ、アーシアは俺に直球で好意を示している。
だから、行動の全てを否定することはしない。
アーシアからの好意ならできる限りは受け取りたいからさ。
「一緒に寝たい時は、まあ腕の一つは貸すからさ。……潜り込むのはやめような?」
「……はい。すみません、イッセーさん。今思うと、私は何か舞い上がっちゃうみたいで―――これからは毎晩、イッセーさんのところに了解を得ていこうと思います!」
「ああ、それでいい……って!?」
毎晩って言ったか、アーシア!
俺の予想ではまあ一週間に一度くらいと思ってたんだけど!?
…………ま、いっか。
アーシアの俺に対する気持ちは分かってるつもりだ。
そんなに鈍感じゃないし、それにあれほど素直に言われた方が俺は嬉しいし好きだし……
でもまだ答えは出せない。
それは本当に申し訳ないけど、俺の中の全ての問題が解決しない限りは―――
だから今はアーシアの気持ちに出来るだけ応えよう。
「アーシア、早く着替えて下に集合な? 俺は日課のランニングにいくから」
「は、はい! すぐに支度します!!」
するとアーシアは急いで自分の部屋に戻って、ドタバタする。
アーシアが俺の家に住み始めてから、アーシアは俺のすることに興味を示して俺の毎朝の日課であるランニングに付き合ってくれている。
アーシアは体力が皆無と思ってたんだけど、思ったより体を動かすことは不得意じゃないらしく、良く俺の速度についてきている。
まあ終わるころには息が絶え絶えになっているんだけど……でも俺に追いつこうとする意思は俺は好きだ。
アーシアはすごい努力家で、俺に神器の使い方なんかも習いたいって言ってきてさ。その努力の結果か才能かは分からないけど、最近では回復の速度なんかがすごい上がってる。
俺は先に玄関先に行き、そしてアーシアを待つ。
こうして、俺の一日が始まった。
―・・・
「おはよ~」
「おはようございます!」
俺はアーシアと一緒に登校する。
これは毎日のことで、最近ではそれにも慣れた。
そして俺とアーシアはいつもと同じように教室の扉を開けて挨拶をすると、突然、松田と元浜が俺に近づいてきた。
「やぁ、イッセー……おはよう」
「…………松田、なんか悪いものでも食った?」
俺は妙に爽やかな松田に向かって、そう言った。
「いやいや、俺は悟っただけさ。……イッセーが何でそんなにもモテるのか―――その答えに辿りついた時、俺は悟ったね」
「……………………」
俺はちなみに呆れている。
アーシアは目を丸くして、それでもにこっと笑みを浮かべている所は本当に天使だ。
「そう……最近の男子は爽やかさだけではない! 同時に熱さ! そして適度なエロス! これが必須なのだ!!」
「その通りだ、松田氏!故に我らはイッセーに頼みたい!」
「……何をだ?」
俺は、一応は親友のよしみで聞いてやる。
「「どうやったらアーシアちゃんみたいな子を堕とせるの?」」
……声を合わせて聞いてきやがる!
なんて執念だ!
全く爽やかさも熱さも関係ねえ! 脈略が存在しないよ!!
「……そうだな、まずは命を懸けることだ」
仕方ないから応えてやろう……俺の実際の経験からね?
「なに!? 初っ端から命をかけるのか!? さすがはイッセーだ!」
「あぁ。そして思うんだ……助けたい、ってな。そのためなら槍で腹部を刺されるのも、銃で撃たれることも厭わない。そしてそれこそがむしゃらに突き進めばいい……そんでもって最後は必ず救う」
俺は松田と元浜の耳元に顔を寄せ、あることを呟いた。
「―――すっげー難しいことだけど、大切な人のためなら俺はそうするよ」
「「ッッッッ!!!???」」
……すると松田と元浜は途端に俺から距離を置く。
「ま、まさかこの俺が男相手に……!?」
「まてまてまてまてまて!! 俺は女の子が好き、女の子の体が好き、とにかく女の子が大好き!!!」
……松田と元浜が呪詛の如くぶつぶつと呟き始める。
「イッセーさん、松田さんと元浜さんに何を仰ったのですか?」
「……アーシアを助けた時のこと?」
「あ、あの時のイッセーさんはカッコよかったです! いえ、いつもカッコいいんですけど、あの時は特によかったって言うか……」
アーシアが照れながら、もじもじしながらそう言う!?
すごい! なんかここまで恋する乙女ならもう無敵な気がする!!
……するとアーシアに近づく影が一つ。
「やっほー、アーシア」
「あ、桐生さん!」
……出たな、アーシアの大胆な行動の張本人!
眼鏡をかけているからなんかインテリっぽく見えるけど、裏を返せば松田と元浜よりも厄介な人物、桐生藍華!
アーシアに良からぬことを伝授してるであろう、張本人だ!
「兵藤もおっは~……相変わらず仲良く御登校でいらっしゃいます?」
「仲良くは否定しないけど」
「じゃあ昨晩はお楽しみでしたかねぇ?」
桐生のやつがニヤニヤにやけながら俺にそう言ってきやがる!
やっぱりこいつが全ての元凶か!
「……アーシアは先に席に座っておいてくれるか? 俺はちょっとこいつに用があるから」
「お、私に告白ですかね? それともちょっとエッチな要求?」
……少し黙ろうか、桐生藍華?
「私はイッセーさんを信じてます!」
そういってアーシアは自分の席に行って一時間目の用意をし始める。
さて……尋問の時間だ!
「まあ言いたいことは分かるけど、一応聞いておくわ。……なぁに?」
「白々しい! 今朝のことだ! お前、アーシアになんて言ったんだよ! なんか下着姿で俺の布団に入っていたんだけど……」
「え? 私、そんなことをアーシアに言ってないわよ?」
桐生は目をパッチリと開けて俺を見てくる。……本当に知らないのか?
……なんか悪いことしたかも。
そうだよな、証拠もないのにそんな勝手に決め付けて……
「もうアーシアったらぁ―――私は裸で潜り込めって言ったのに……」
「前言撤回だ、こらぁ!! しかも状況が悪化するところじゃねえか!」
「あはは! 兵藤って意外と面白いね!」
この野郎、なんかむかつく!
……だけど突然、桐生の奴は真面目な表情になった。
「ま、実際のところさ? 兵藤って女子に人気がある割には結構、話しかけづらいところがあるからさ。……なんて言うんだろ。分かってて女子に距離を置いているの。しかもそれが分かるか分からないかの絶妙な距離」
…………こいつ、意外と洞察力があるんだな。
「まあそんなあんただけど、最近の兵藤は割と話し掛けやすいって言うか……それもアーシアのおかげかなって思ってね」
こいつの言うことは、間違いじゃない。
確かに俺はアーシアと知り合ってから、少しは周りとも話すようになった。
元々、俺は松田と元浜くらいしか仲の良い奴がいなかったからな。……いや、仲良くしようとしてなかっただけか。
「アーシアね? 最初にあんたに告白して、割と女子の間で話題になったんだよ。なんか突然出てきていきなり兵藤にアタックしてるから? あんたのことを気になってる女子からは嫉妬の的ってわけ」
「でもアーシアは……」
「分かってる。アーシアは優しくて良い子。だから皆もだんだんアーシアのことを分かっていって、今はみんなアーシアのことを大切にしてるわ」
「……ありがとう」
俺はそう言えずにはいられなかった。
「ま、だからアーシアのある程度の暴走は容認してあげてよ? あれでもアーシアは全部、本気なんだから」
「分かってる。さすがにあんなに堂々、好意を受けたら嫌でもな?」
「ふ~ん……なるほど。―――兵藤は自分からじゃなく、周りが勝手にハーレムを形成してしまうタイプの人か……」
桐生がなんか呟いているけど、俺の耳には何を言っているのか聞こえなかった。
―・・・
放課後になった。
まあ一日は非常に平凡なもので、特に変わったこともなく一日が過ぎ去ったって感じだ。
今は机の上で突っ伏してる。
何だろう……今日はどうしてか非常に眠たい。
『おそらく普段の鍛錬の疲れだろうな。……相棒は誰よりも自分を追い込んで鍛錬をする。最近ではティアマットを相手に体一つで修行しているのだろう』
そう……最近の俺の鍛錬の相手はつい最近、俺の使い魔となった龍王の一角にして最強の
伝説のドラゴンを相手に出来る環境は充実していて、あいつとの修行はすごい有意義だ。
ただの魔物を相手にするのとではまるで違う。
でもなんか、少しティアは俺に甘いんだよ。……どうしてか。
『ティアマットは主様に好意を抱いているのでは?』
いやいや……伝説のドラゴンだぞ?
さすがにそれは……
『ちなみにわたくしは創造の龍です。ある意味、伝説を超えている気がしますが……』
……そうでしたね。
詳しいことはあまり知らないが、ドライグですら知らないほどに存在を抹消さえたほどのドラゴンだ。
しかも世界最強のドラゴンと同等の力を持つドラゴン。
ある意味では伝説を超えてるな。
『相棒、ティアマットは女性ドラゴンの中では凄まじい人気があったそうだ。強く、美しいのでな。誇っていいぞ、相棒はドラゴンに好かれる才能がある』
……否定はできない。
ドライグをはじめとしてフェルウェル、そして更に俺のティアマット以外の3匹のドラゴン、火炎龍のフィー、蒼雷龍のメル、光速龍のヒカリ。そしてティアマット。
合計6体のドラゴンが俺の周りにいる。
ちなみにティアはフィー、メル、ヒカリの面倒を見ているらしい。
あの三匹は……まあ可愛いな。
たまに召喚して遊んだり、俺の鍛錬の時にタオルを預かってもらうと欲しい時に持ってきてくれるし、非常に利口なドラゴンだ。
特に速度が非常に早い光速龍のヒカリは、欲しいものがあると光速で取ってきてくれるというありがたいドラゴン。
どいつも才能あふれるらしく、ティアは三匹を強くすると張り切っていた。
意外と面倒見のいいドラゴンである。
あと、三匹は人間で言うところの赤ん坊らしく、まだ話すことは出来ないらしいけど、成長したらティアやドライグ、フェルウェルみたいに話せるらしい。
……そのように思い耽っていると、突然、俺の服の裾を引っ張る存在に気がついた。
「……イッセー先輩、元気がないなら大福をどうぞ」
するとそこには大福が沢山入っている袋を持った小猫ちゃんがいた。
そして俺に大福を一つ、渡してくる。
「あれ、小猫ちゃん? あ、大福ありがと」
俺は小猫ちゃんがくれた大福を食べて、そして小猫ちゃんに質問してみる。
「……先輩と一緒に部室に行こうと思ったら、イッセー先輩が寝ていまして」
「ああ、起こしてくれたのか。……ありがと、小猫ちゃん」
俺はもう癖になったように小猫ちゃんの頭を撫でると、これまた癖になったように小猫ちゃんが体を震えさせ、そしてニコっと笑ってくれる。
「にゃぁぁ…………♪」
……このように、小猫ちゃんは非常に俺に懐いてくれてる。
思えば、初めて教室で会った時からそうだった。……いや、実際にはレイナーレの一件で公園で会っているか。
まるで初めてではないように俺のことを先輩と呼んで、どうやら木場や部長たちは異常ともいえる小猫ちゃんの行動……
他人にお菓子をあげるという行動も初めて見たって言ってたな。
あとはたまに教室に来て、俺のことを陰から見てたりもしていた。
まあ小猫ちゃんはそれぐらいだな。
「さてと……じゃあ行こうか?」
「…………はい」
なんか少し残念そうだけど、俺と小猫ちゃんはそのまま部室に向かう。
……そういえばアーシアはどこに行ったんだろう? いつもは部室に行くのに待っていてくれるのに。
「……アーシア先輩なら先に行くと言っていました」
「あぁ、なるほど―――お。木場?」
するとちょうど、階段でばったり木場とあった。
「イッセーくんに……小猫ちゃん?」
「…………ちっ」
小猫ちゃん!?
なんか今、木場に対して舌打ちをしなかったか!?
「ええっと……イッセー君、僕はそんなに悪いことをしたかな?」
ほら!
木場が少し涙目で俺に詰め寄ってくるじゃん!
確かに気持ちは分かるけども!
「…………気のせいです、行きましょう。イッセー先輩」
小猫ちゃんはすっとぼけた様子でそういうと、木場の名は言わずに一人先へ行ってしまう。
俺はそっと木場の肩に手を置いて少し同情した。
「……木場、今度、飯でも食いに行こうぜ。奢るから」
「うぅ……。ありがとう、イッセー君。君は眷属の中での僕の良心だよ……」
そして俺達は一緒に部室に向かうことになり、そしてしばらく歩くと部室に到着した。
「失礼します」
俺達は部室の中に入ると、そこには部長の姿とアーシアの姿があった。
どうやら部長とアーシアはチェスで対戦しているようだが……
「……ありゃりゃ、これもう詰んでる」
そこには割と序盤で既にチェックメイトされてるアーシアの姿があった。
「うぅ……イッセーさん、私はやはり、おバカなんでしょうか?」
「……まあ部長が強いってのもあると思うよ? ……確かにこういう攻防が得意そうには見えないけど」
俺は涙目のアーシアの頭を撫でると、すると小猫ちゃんがじと目で俺を見てくる。
「あはは……はいはい」
まあこれもなれたことだ。
俺が涙目のアーシアの頭を撫でることが結構あり、そのたびに小猫ちゃんは俺に同じことを要求するからな。
「あら、イッセー。そういえば貴方とチェスをしたことはないわね……どう? 私と一戦、交えてみない?」
「……いいですね、やりましょうか」
俺は部長の申し出に快く頷く。
…………こう見えても、実はこういうゲームは得意なんだ。
俺はアーシアに席を変わってもらい、椅子に座る。
そして部長と戦うのだが……
「―――チェックです、部長」
「…………イッセー、あなた、何者?」
それから10分ほど経って、そこには明らかに劣勢な部長の盤面があった。
部長の残っている駒はポーン一つとビショップ一つ、そしてルーク。
対する俺はクイーン、ナイト、そして昇格してクイーンとなったポーンに2つのポーンが残っている。
この戦況にその場にいる木場と小猫ちゃんは驚いていた。
「驚きだね。……部長が押されているのを見るのは、ソーナ会長以来、僕は見たことがない」
「……新たな才能」
木場と小猫ちゃんは感心したように言うと、部長は頭を悩ませる。
「なんて言うのかしら。……イッセーは他人の手を読むのに長けているのかしらね。私が今、打とうとした手を先に止めてしまうから、思うように駒を進ませれないの。……そしてミスを起こすように誘導する。私の感覚としては正直、ソーナよりもやりにくいわ。ソーナは確率を準じた計算尽くめの先方ばかりだもの。イッセーは心情を読み取って逆に自分はポーカーフェイスを決め込むタイプね」
……どうやら、俺の勝ちみたいだ。
部長は素直に投了して、そしてチェスは終わる。
部長は決して弱くはない……だけど少し表情に出過ぎるところがある。
それで何となく、次の手が読めてしまう。
だからそこを直せば多分、俺でも勝てるかは分からない。
部長の大胆な戦法とかは多分俺よりも得意としていることだと思うしな。
「イッセーはかなり『王』向きかもしれないわね? 将来が楽しみだわ」
「……部長はもっと表情を隠すべきですね」
「私、年頃の女の子よりは隠れてると思うのだけれど……」
「そうですか? 俺にとっては部長はただの部長で女の子ですからね」
……その時、部長は目を見開いて驚いていた。
「えっと……変な事を言ったでしょうか?」
「い、いいえ……少し不意をつかれて驚いただけよ。あまり気にしないで―――女の子、か」
すると部長は俺から視線を外す。
かすかに頬が赤い気がするけど……
「……イッセーくん」
すると、俺は朱乃さんが部室に入ってきて、俺に来てくれというような視線を送ってくる。
「どうしたんですか、朱乃さん?」
「そのですね……お菓子を作ってきたのですが、食べてくださらないですか?」
朱乃さんがアーシアみたいにモジモジしながら箱に入った多めのクッキーを勧めてくる!
……そうだ。変わったと言えば朱乃さんが一番変わった。
あれはそうだな。……俺が堕天使を力を全力で使って戦ってからのことだな。
元々奥ゆかしい大和撫子でお姉さまキャラが定着していて、普通の同級生より大人びていた感じなんだけどさ……
ここ最近は妙に乙女ちっくなんだ。
俺に差し入れみたいにお菓子を作って来てくれたり、照れることも増えて、年相応って言うのかな?
割と甘えてくることが増えた。
「どう、ですか?」
「いつも通り、おいしいです!!」
「あらあら…………ふふ」
そう言うと朱乃さんは嬉しそうにニッコリ笑ってくれる。
……こういう朱乃さんも悪くないな。
「むぅ……イッセーさん」
「…………先輩」
するとアーシアと小猫ちゃんがじと目で俺を見てくる・・・まあ最近の俺の日常とはこんなものだ。
「……朱乃も、ね。皆、それぞれの想いを持ってるってことかしら」
その時、部長が何かつぶやいたけど、俺にはあまり聞こえなかった。
だけど部長の表情はどこか……暗かった。
―・・・
俺は家にいる。
学校から帰り、悪魔の仕事も今日はない。
ちなみにアーシアは桐生の家に泊まるらしく、母さんは今は父さんの単身赴任先に行っており、久しぶりに俺は一人で家にいる。
『一人とは言い難いな、相棒』
「ま、そうだな……最近はアーシアも居たし、それに1人ってことはあんまりなかったからな」
意外と1人はすることがない。
どうせならチビドラゴンズを呼んで遊んでやろうかな・・・そう思った時だった。
「……グレモリ―の魔法陣?」
突然、俺の部屋の隅にグレモリー眷族の紋章の魔法陣が浮かんだと思うと、そこから俺の見知った人が現れた。
「ぶ、部長!? どうしたんですか?」
そこには部長がいて、そしてどこか表情に曇りがあった。
俺はベッドに横になっていて、そして部長は俺の姿を確認すると、俺に馬乗りになった!?
「ぶ、部長!?」
「ごめんなさい……でも急を要するの」
そういうと部長は……急に服を脱ぎ出した!?
「黙って聞いて、黙って言うことを聞いて……―――イッセー、私のことを抱きなさいっ!」
…………え?
俺は部長の言うことに呆然とする……が、部長は更に続けた。
「―――お願い。今すぐに私の処女を貰ってちょうだい……っ」
――――――どうやら、また何かが起こっているみたいです。