ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第3話 潜入共同戦線

 戦争派の子供たちの襲撃を受けてから数時間経過した今現在。俺たちは拠点を変え、今は合流したフリード、そしてその付き添いのガルド・ガリレイの隠れ家にいた。

 俺と対面に座るのはガルド・ガリレイ。フリードはガルドさんの近くに立っていて、俺の眷属は俺の周りに待機させている。

 ……事の次第、そして情報の共有は既に済ませている。

 フリードたちの目的は第三次聖剣計画の阻止、そしてそれには戦争派が関わっているということ。

 俺たちの目的は北欧における戦乱を止めること。それにも戦争派が関わっているのは確実。

 つまり利害が一致しているんだ。故にガルドさんは俺たちにこう提案してきた―――共同戦線を組まないか、と。

 

「味方は多いに越したことはないから、俺は話を飲んでも良いと考えてるけど―――お前たちはどうだ?」

「……そうだにゃ。んじゃ私からは一つ。こいつらは信頼に値するの?」

 

 すると黒歌がガルドさんとフリードを見ながらそう尋ねる。

 ……黒歌は実際には、特に問題ないことは理解しているだろう。だけどこの中にはこの二人のことをよく知らない人物がまだ大半を占める。

 だから代表して聞いてきたのか。

 

「ああ。フリードは元々は禍の団だが、それも身内を囚われていたからだ。今はあいつらから反旗を翻し、奴らとは敵対関係にある。そして何より、前回の京都でフリードは俺たちの仲間の命を救ってくれた―――俺は信用しても良いと思う」

「……まぁ裏切っても問題ない。私がいるからな」

「ひぇぇ、最強の龍王に言われたら僕ちん、ちびっちゃうぜ?」

 

 フリードは特に焦っているわけでもないのに、大げさな態度でそう言った。

 ともあれ、特には問題はないようだな。

 なら話を次に進めるか。

 

「んじゃガルドさん。俺たち赤龍帝眷属はあなたたち二人と共同戦線をする。その上で今後の方針を決めよう」

「ああ、そのことだね―――フリードくん。あとは君に任せよう」

「うぃ~っす」

 

 するとガルドさんは席をフリードに譲る。

 そして近くにおいてあった丸めた紙を机の上に広げた。

 

「フリード、これは?」

「こいつは俺っちが独自に手に入れた戦争派からしたら超極秘の情報なんだぜ? これ、あいつらの隠れ家、っていうか本部の見取り図だから」

 

 ―――それは俺たちが喉から手が出るほど欲する情報だった。

 俺はその見取り図を凝視する。

 ……本物かどうかは後で考えるとしても、少なくともフリードがここで提示する情報だ。信憑性は高いと言っても良い。

 んでもって、これを提示してくるっていうことは……

 

「なるほど。お前は既に、戦争派の隠れ家を特定しているってわけか」

「にっししし、話が早くて助かるぜぇ、イッセーくん」

 

 フリードは口角をニヒルに上げて、満足げにそう言った。

 

「んじゃあまぁ―――潜入捜査としゃれこもうじゃないっすか」

 

―・・・

 

 俺たちがいた諸島から離れた北欧南部よりも更に南。

 俺とフリード、黒歌とメルティはそこにいた。

 フリードよりもたらされた情報によると、奴らの拠点は灯台下暗しだったんだ。

 まさか同じ北欧に拠点を置くなんて思わないからな。

 

「神々を欺く隠匿性が奴らにはあるってわけか。つーかフリード。お前はどうやってこの情報を得たんだよ」

「しっしっし。どこにでもゴキブリみたいに湧く僕チンだよ? あいつらの幹部クラスをとっちめて、こいつの力で吐かせたわけよ」

 

 フリードはアクセサリーとして収納しているアロンダイトを指して、得意げにそう言った。

 ……なるほど、機能の多いアロンダイトの能力の一つか。

 スペック的に言えばゼノヴィアのデュランダル、エクスカリバーをも凌ぐ可能性のある世界初の人の手によって生まれた聖魔剣は伊達じゃねぇな。

 ……フリードの力量もまた、あのジークフリートとやり合えるほど向上しているのか。

 祐斗の奴もウカウカしていられないな。

 

「つっても、あいつの情報が全て正しいかまでは保証できませぇん。そのために隠密性に長ける面子で来たってわけ」

「まぁ不穏分子はあるけどねー」

 

 黒歌はメルティの方を目配り、彼女を観察する。

 ……変化はない。相変わらず無表情で、俺の服の裾をずっと握っている。

 ……こいつは確実に、戦争派に改造された人間だ。

 あの龍人のドルザークと同じように、何かを施されているのは安易に想像できる。

 ―――時折変化する、まるで狼のような形相。あれの正体は一体なんなんだろう。

 ……それも戦争派の拠点で判明することだ。

 

「……イッセーきゅん、ストップだ」

 

 ……フリードはある地点にたどり着いて止まると、手を俺たちの前に出して制止してくる。

 俺たちの目の前にあるのは広大に広がる雑木林の森で、フリードはその一点を睨んでいた。

 

「……なるほどにゃん。木を隠すなら森の中。巧妙に幻術が張られているにゃん」

「そーいうこと。実際に俺たちの目の前には森はあるんすけど、ここまで広大ではないんすよ。それを盛に盛って拠点を隠している。森だけにね、きゃはは!」

「「…………」」

 

 フリードによる凄まじい寒いギャグは置いておくとして、理屈は分かった。 

 それにフリードはここで止まれって言ったからには、恐らくこの隠蔽を破る手段があるってことだろう。

 フリードは指先で手首に巻かれているブレスレット―――コンパクトに収納している聖堕剣・アロンダイトエッジを顕現する。

 フリードの背丈を軽く超えるアロンダイトを鋭く振り下ろす。するとそこには……

 

「……幻術の類を切り裂けるのか、こいつは」

「そのとーり。幻術に限らず、術式系統はレベル上限はあるんすけど、ほぼほぼ大体を切り裂けるんすよ、俺っちの相棒は」

 

 フリードは剣に軽くキスをして、ウインクしながらそう言ってくる。

 未来予知に術式破壊、身体強化、更に魔力や聖力の吸収。このアロンダイトエッジの機能の多さには驚きだな。

 この場合、これを錬金できるガルドさんが凄いのか、それともそれを使いこなすフリードを褒めるべきなのか。

 

「いやぁ、俺っちの才能は底知らずっすねぇ~うひひひ」

「……お前のことは褒めたくねぇわ」

「うぉん、いきなりディスられたぜ♪ ―――んじゃ、そろそろ潜入と行きますか」

 

 目の前には裂け目ができており、そこにあるのは森ではなく建物のようなものだった。

 ……フリードの言う通り、すぐに行動に起こした方がいい。俺はすっと黒歌の方を見た。

 

「黒歌。俺たちがこの中に入ったら生まれた裂け目を黒歌の術で閉じてくれ。そこからは予定通り、ここで待機。俺の連絡と共に例の作戦を頼む」

「おっけ―――気をつけて、イッセー。戦争派は底がしれないから」

「ああ。お前も危険が迫ればすぐに退避して、増援を寄越すんだぞ?」

 

 ……俺たちはそう会話を交わし、そしてフリードとメルティと共に戦争派の本部に潜入した。

 ―――戦争派の隠れ家の本部は、一言でいえば研究施設のようなものであった。敷地は広大で、良く知られている悪の組織の本部という表現するのが一番分かり易い。

 ……監視カメラも幾つも仕掛けられているな。

 

「……どうするフリード」

「んー? ……んなもん、もうどうにかしてるっすよ」

 

 フリードは手元の剣をちょんちょんと指さし、サムズアップしてくる。……アロンダイトの新たな機能なのか?

 

「こいつはアロンダイトエッジの能力ってわけじぁないっす。簡単にいえば、この剣ってかなり高名な聖剣と魔剣の合体なんすよ。聖剣の名前がアロンダイト、魔剣の名前がエッジ。それらの能力を全て複合した結果がこれまで俺っちが見せてきた能力なんす―――俺が今使っている能力は、そのあとでガルドの爺さんが追加した能力スロットを一つ消費して生まれたこの剣の能力。まぁまやかし、ってのが分かり易いっすねぇ」

「……能力スロットってのは、好きな能力を作れるってのか?」

「そこまで凄まじいものじゃないっすよ。いわば俺の持つ力、可能性があるものじゃないと能力は生まれない―――俺、意外と隠密系の能力の才能があるってわけ」

 

 ―――フリードがそう言った瞬間、突如廊下から研究者らしき戦争派の一員が俺たちの横を一瞥して通り過ぎる。

 ……まやかしってのは、そういうことか。

 

「俺らは普通の奴らからはこの施設の関係者に見られているってわけか」

「そーいうこと。つまり、こそこそしたら余計怪しいってわけ―――少しの違和感でこの能力は効果を失くす。ここからは出来る限り自然体でよろしくぅ!」

 

 ……フリードと肩を並べ、俺たちは研究所内を堂々と歩いて行く。

 歩いていてすぐに気付いたことは一つ―――この研究所にはおおよそ、戦闘要員と思われるものはいない。本当に、なにかの研究をしている非戦闘員しか見えない。

 

「恐らくって不確定な予想なんすけど、戦争派は武装集団ってわけではないんすよね」

「……そうなのか?」

「あん。例えばそこのメルティ・アバンセは英雄派に貸し出されていたり、戦争派の実験結果と思わしき化け物が各地で確認されているっす。……戦闘力を支援する立場、ってところじゃないっすか?」

「戦闘は英雄派やクリフォトに任せてるってわけか」

 

 そう言われれば納得できる。

 あいつらは間接的に事件を起こしており、自分たちは決して表ざたに動かずに支援に徹底する。だからこれまで尻尾すら掴めなかった。

 ……そんな奴らがどうして、このタイミングで事を起こす必要があるんだ。自分の保身を考えるならば、これまで通り暗躍に徹底すべきであるのに。

 

「―――さぁて、色々弄る前に調達しないといけないものがあるっすね」

 

 フルードは口角をにぃっと上げて、アロンダイトエッジを地面に突き刺して目の前からタブレットを見ながら歩いてくる研究者に襲い掛かった。

 研究者は音もなく近づいたフリードに成す術なく気絶させられる。フリードは職員の身体を弄って、首に掛けられているカードキーと、手に持っていたタブレットを奪った。

 たぶん一連の行動も監視カメラには何も起こっていないように見えているんだろう。……フリード、隠密性に長け過ぎてるだろ。

 

「こいつはそこにあるダストボックスに捨てて置くとして―――カードキーも手に入ったことだし、そろそろガサと洒落込みやんすよぉ?」

「……おまえの言う通りに動くから、よろしく頼むぜ」

 

 俺はもやはフリードの無駄な隠密性に頼ることにしたのだった。

 ―――それはともかくとして、俺は別動隊のことを気にする。俺たちを潜入部隊とするならば、ティアや朱雀たちは陽動部隊。俺たちの隠密部隊が活動をしやすいために、戦争派と思わしき影があるところで 暴れろることになっている。

 戦闘力は完璧に二分しているから、大丈夫だとは思う。……まぁそれでも、やっぱり心配なものは心配だ。

 俺はそう心で思いながら、隠密行動を執行するのだった。

 

―・・・

『Side:三人称』

 

 兵藤一誠とフリード・セルゼン主導のもと隠密行動が行われているちょうどその時。陽動部隊である朱雀やティアマット、レイヴェルは王である一誠の命の元、怪しい人影を探していた。

 しかしながら、幾ら探しても見つかるのは戦争をしている兵士だけ。戦争派は尻尾すら掴ませないというのが現状だ。

 

「アぁ、面倒くさい。ここら一帯を平地にしたら、あいつら出てこないか?」

「やめてくださいティアマット様。イッセー様に迷惑が掛かりますよ!?」

「……あ、姉は弟に迷惑をかけるのがふつう―――」

「ではありませんから! 自重してください!!」

 

 ―――このように、ティアマットのストッパーの役目は朱雀であったりするのだ。

 しかし、ティアマットの言う通り埒が明かないのも事実である。ティアマットはもはや唸るだけしか出来ないとき、レイヴェルはふと周りを見渡した。

 

「……レイヴェル様は何を探しているのですか?」

「あ、その……先日イッセー様がお会いした、アメとハレって子供たちを探しているのです」

「……そうですね。イッセー様が気にしていましたから」

 

 先日、戦争派に追われていた二人の少女。ハレとアメをレイヴェルは探していたのだ。一誠という主に陶酔するレイヴェルにとって一誠の意向は第一のことであり、今現在の一誠が一番注目している問題はハレとアメという少女のこと。よってレイヴェルもまた、知らずの内に彼女たちを探してしまうのだ。

 建物の影で身を潜める三人は再度周りを確認する。聞こえるのは轟々しい銃声音だけだ。動くのは戦争をしている兵士のみ。

 

「ここには怪しい奴らはいない。そろそろ次のポイントに向かうぞ」

 

 ティアマットが先導して動こうとしたその瞬間―――突如近くの建物が倒壊した。

 それにいち早く反応したのはティアマットではなく、既に宝剣を解き放った朱雀であった。朱雀は宝玉を解放して封じられる龍の力と共に宝剣を振るって瓦礫を消し飛ばした。。

 

『―――朱雀くん。ドラゴンの反応だ』

「ええ、分かっています、ディン」

 

 三人は突如の襲撃者―――なおかつ、ドラゴンの反応のする敵に警戒する。

 土埃で包まれたその空間は次の瞬間、襲撃者の元より生まれた風で消え去る。

 ……そこにいるのは、紛れもなく敵であった。

 

『―――昨日ぶりだなァァァ、糞どもがぁぁ!!』

「……貴様は昨日の龍人!」

 

 ―――戦争派の八人の子供の一人、ドルザークがそこにはいた。

 昨夜の襲撃時と同じように龍人の姿となっている彼は、獰猛な目を三人に向けながら牙を剝く。

 更には彼の背後には、まるで控えるように佇んでいるドラゴンと思われる生命体が幾重にも存在していた。

 

「……あの黒い化け物のようなドラゴンは」

『ああ、間違いない―――京都で発生していたドラゴンのような生命体だよ』

「つまり、あれは戦争派の造った存在だったというわけですね」

 

 既に三人は戦闘態勢だ。ティアマットは腕をドラゴンのものに変え、朱雀は宝剣を構え、レイヴェルは炎の翼を纏わせる。

 戦力的にいえば、極論を言えばティアマットがいる限り赤龍帝眷属は揺るがない。戦車として悪魔に転生したティアマットに勝てる存在は数えるほどしかいない。

 ……しかし、敵はそれを織り込み済みで襲い掛かっているはず。レイヴェルはそこまで思考を巡らし、現段階で戦闘するのは危険であると思った。

 そう思うのは先日、ドルザークが一誠と戦った時の出来事を思い出したからだ。

 ―――ドルザークはアスカロンの一撃を喰らっていた。その後、その聖なる一撃をまるで吸収したかのようにブレスとして放ったのだ。

 

「……さぁて、私に喧嘩を売ったことを後悔させてやる―――」

 

 ―――刹那、ティアマットはドルザークたちの視界上から消える。

 

『んあ!?』

 

 ドルザークは背後から殺気を感じ、凄まじい勢いで上空に飛び、今まで自分がいたところを見た―――そこにあるのは自分が引き連れていたドラゴン擬きの死体の山であった。

 ……実に一薙ぎである。ティアマットは背後に回り腕を一度薙ぐだけであれほどの敵を一掃したのだ。

 

『―――イイナァ、流石最強の龍王様ダァァァ!!! もえてきたもえていたぁぁぁぞぉぉぉぉ!!!!』

 

 しかし、それほどの実力差を見せつけられたドルザークは高揚を見せた。

 翼が開き、牙を更に剝く。宙に浮いた状態から地面に急降下し、ティアマットに襲い掛かった。

 

「敵がティアマット様だけと思うな―――封を解く。鉄槌の撃龍よ、鋼壊し尽くせ」

 

 朱雀が黙ってみているだけなはずがない。朱雀はすぐさま宝剣の封印を解き、そこに封印される鋼の龍による拳の鉄槌をドルザークに放つ―――しかしドルザークはそれを軽くいなし、その鋼の龍の腕を獰猛にも喰らった。

 

『―――不味い。今すぐ封を閉じるんだ』

「……ええ」

 

 朱雀はディンの言う通りに鋼の龍を消し、ドルザークを見る―――その体は、一部が鋼になっていた。

 その姿を見て、朱雀はもちろんレイヴェルの嫌な予感は当たる。

 

「……恐らくあの龍人が私たちを襲ったのは偶然ではありません―――彼には恐らく、ドラゴンの力、及びそれに通ずるものを喰らって自分の力にすることが出来ます」

『―――アァ、流石にばれるかァァ』

 

 ドルザークは歪に笑いながら、レイヴェルの推理に肯定する。

 ―――兵藤一誠の聖剣アスカロンは、彼の赤龍帝の力の性質を吸収し、今やドラゴンの力が宿っている。だからこそだ。一誠のアスカロンの力を取り込み、今は鋼の性質をドルザークは得た。

 

「……私とは凄まじく相性が悪いです。彼は」

『ああ、その通りさ。複数のドラゴンを使役する朱雀くんと僕からすれば、彼は天敵。僕たちと戦えば戦うほど、彼を強くしてしまうんだからね』

 

 朱雀は攻撃を躊躇う。いくらなんでも敵からすれば自分たちの存在が好都合すぎるとも思ってしまえるほど。

 ―――まるで赤龍帝眷属は敵の思惑通りにこの戦場に誘い込まれた。そうとも思えたのだ。

 

「……そういえば昔いたな。ドラゴンを喰らい、喰らった奴の力を自分の元にする邪龍が。お前はそのドラゴンの遺伝子なりを埋め込まれているんだろう?」

『はっ、だからどうしたァ? 次はアンタを喰らって、強くなろうかなァァァ!!!』

 

 ドルザークはティアマットの方に駆けていき、鋼鉄の拳を振るう。ティアマットはそれを詰まなさそうに避けると、ドルザークはすぐさま口から聖なるブレスを放つ。一誠から得た力だ。

 ―――それを見て、ティアマットは苛立ちを覚えた。

 その力はお前のものではないと。ティアマットが大切にする一誠が、血の滲むような修行の果てに得た努力の結晶であると。それをドルザークが悪そびれもなく、我が物顔で扱うことが、彼女はどうしても耐えることが出来なかった。

 

「……つまらない」

 

 ティアマットは目を細め、ドルザークに対して本気の殺気を見せた。

 その瞬間―――空気が、凍る。その悪寒はドルザークだけでなく、朱雀やレイヴェルも感じた。

 ……ティアマットは大胆不敵である。基本的に格下を舐める節がある。そんな相手に怒ることは本来ない―――そんなティアマットの逆鱗に、ドルザークは触れたのだ。

 

「お前がそれを使っても、つまらないだけだ。それは私の愛する弟のものだ」

『アァ!? 何言ってん―――』

 

 ―――ドルザークは言葉を失う。

 目の前にいる、規格外の存在を前に、動けなくなった。

 ―――翼を展開し、龍の眼、牙、腕、尾。その全てを展開した、自分と同じように龍人の姿となるティアマットに、心から恐怖した。

 

『―――知りたいか? 龍王の、最強の一撃を』

「て、ティアマット様! そいつにドラゴンの力を使うのは危険です!」

 

 ティアマットの行動を察したレイヴェルはすぐさまに彼女を止める。ティアマットの口元には明らかにブレスが溜まっていたのだ。

 しかしレイヴェルの制止で止まるほど、ティアマットの怒りは甘くはなかった。

 ティアマットの口元の白と黒のブレスオーラは全てティアマットの腕に集まる。それは正に兵藤一誠の得意とする攻撃法の一つに酷似している。

朱雀の制止を聞きもせず、ティアマットはその言葉を三言で切る。

 

「強くなろうと、私には届かない」

 

ティアマットの凶手がドルザークに迫る。ドルザークは先ほどの鋼の龍と同じようにティアマットを喰らおうとする―――しかし最強の龍王はそれを許容しない。

王者の如く放つのは他を寄せ付けない龍のオーラ。それを肌で受けたドルザークは吹き飛ばされ、宙に浮かんだ。

 

「―――万年早い。出直して、こい!!!!」

 

そして、その猛き燃える龍の拳をドルザークに振るう。打撃と衝撃波によって辺りの建物は消し飛び、そしてドルザークは遠い向こう空に吹き飛んでいった。

……ティアマットは龍化を解き、元の人の姿に戻る。パンパンと手につく埃を払い、朱雀とレイヴェルの方を振り返った。

 

「よし、すっきりした。次のポイントに行くぞ、お前ら!」

 

―――なにもなかったように爽やかな笑顔を浮かべるティアマット。朱雀とレイヴェルはその姿に苦笑いを浮かべるしかなかった。

……それはさておき、このメンバーの中での頭脳であるレイヴェルは、今起きた事態についてを考える。

 

「……幾ら何でも、私たちに対する対処が行き過ぎてますわ」

「そうですね。それは先ほど、私も思いました」

 

レイヴェルと朱雀はそう共感しあう。

思えば先日の出来事からも分かる通り、戦争派は赤龍帝眷属の数少ない弱点を的確に攻めすぎているのだ。

堅牢な鎧を纏う一誠には、クー・フーリンによる必中の槍ゲイ・ボルグを。市街地で、なおかつ周到に周りとの連絡手段を途切れさせ、一誠に本気を出せない状況に追い込み、今はドラゴンの力を喰らうドルザークを朱雀に充ててきた。

 

「―――敵はここまで周到です。まるで私たちが来ることが分かっていたように、私たちを攻略しようとしています」

「ですがレイヴェル様。私たちは極秘でこの任務についたのです。そうだとすれば」

「ええ。悪魔側に裏切り者がいると思っていいでしょう」

 

レイヴェルの予想に朱雀は苦虫を噛んだような表情を浮かべる。分かっていたことだ。兵藤一誠という存在は冥界にとって光と闇なのだと。その存在を喜ぶものもいれば憂うものもいる。ああ、分かり切ってることだ―――それでも、あんなにも優しい主を罠にかけようとする存在がいる。

それがどうしようもなく許せないのだ。

 

「ですが、すこし気になることがあります」

 

ふと、レイヴェルはそう言葉を漏らした。

 

「ドルザークは明らかに朱雀様の対策と言っていいでしょう。ですか、敵も彼一人でティアマットさまをどうにか出来るなんて考えていないはずです。……可能性の話をするならば」

「…………」

 

レイヴェルは神妙な顔つきで最悪の可能性を考える。

仮に戦争派が赤龍帝眷属の対策を立てているとしているのだとすれば―――ティアマットの対策を真っ向できる存在は、自ずと予想がついた。

 

「―――クロウ・クルワッハ。もしくは」

「イッセー、どこ?」

 

―――唐突の小さな声音。幼い声の主の方を見る前に、ティアマットはその存在の異質性に誰よりも早く気が付いた。

 朱雀とレイヴェルの首根っこを掴み、地上から近くの建物の屋上に飛び、その存在を視覚した。

 ―――そこにいるのは真っ黒な瞳と真っ黒な髪。戦場には似つかないゴスロリ風の衣装を着る、ある意味ではクリフォトの切り札的存在。

 

「―――リリス!」

 

 ティアマットは彼女の登場に歯ぎしりをする。クロウ・クルワッハを警戒していたティアマットにとって、リリスの存在は予想外そのものであった。オーフィスの無限の因子を用いて造られた少女だ。度々戦場に現れては一誠と関わりを持とうとする彼女が、この戦場に姿を現した。

 ……確かに、自分を封殺するためにこれほどの適任者はいないとティアマットは思った。

 

「……りゅうおう。イッセー、どこ?」

「……これくらいは普通にしてくるってことかっ」

 

 リリスは音もなく、ティアマットたちがいる建物の屋上に現れる。ティアマットは出来る限り冷静にリリスという存在を見極める。

 ドラゴンのオーラとしては天龍以上のものであることは間違いない。オーフィスやグレートレッドに近いクラスであるとその一瞬で理解した。

 

「お前は、一誠を見つけてどうするつもりだ?」

「……どうする? ……わからない」

 

 しかし、リリスから返ってきた言葉はそのような不確定なことであった。

 だからこそ、余計に一誠に合わせるわけにはいかないとティアマットは、朱雀は、レイヴェルは思った。

 

「イッセー、あいたい。りりす、しりたい。りりす、すくうってイッセー、いった。しりたい、しりたい」

「……お前は自由に動いているのか?」

「リゼヴィム、いない。りりすがかってに、うごいてる」

 

 ―――ティアマットは考える。リリスは感覚的に、ただ一誠に対して興味を持ってここまで来ていると。その証明というべきか、リリスは一切三人に殺意を向けていなかった。

 ……恐らく、ここで逃げてもリリスは三人を逃がさない。ともなれば―――

 

「分かった。イッセーに合わせてやる―――だけど約束だ。絶対にこの戦いに手を出さないって約束できるか?」

「できる」

 

 ティアマットの約束に、リリスは素直に頷く。

 この時、ティアマットはふと思った―――やりにくい、と。オーフィスと瓜二つのリリスの扱いがどうしても困るのであった。

 しかしこの時、彼女たちはまだ知らなかった―――自分たちの主の置かれた状況を。

 

―・・・

 

「……フリード。お前」

「い、いやぁ……まさかこんなにあっさり見つかるとさぁ、思わないじゃん?」

 

 ―――俺とフリード、メルティはものの見事に敵に見つかり、囲まれていた。

 あれから数十分が経過し、その間に資料を回収していた時の出来事だった。

 

「……まさか俺たちの本部が嗅ぎ付けられていたなんてな」

「いやぁ、クーちゃん大手柄だね!」

 

 ―――職員はともかく、戦争派の子供たちであるディエルデとティファニア、英雄派のジークフリートにクー・フーリンにヘラクレスと顔を合わしたらバレルに決まってるよな。

 

「……お前ら、馬鹿だろ? 幾ら偽装してるからって堂々と敵の基地を歩くとか考えらんねぇ」

「てめぇに馬鹿とか言われたら世も末だよ、ヘラクレス」

「ははは、本当にそうだね」

 

 ……こんな平和な会話をしているが、現状はかなりピンチだ。既に外の黒歌には連絡は送っているが、そう都合よくことは進まない。

 

「……まぁまぁ、そんなに警戒しなくてもいいよ~? 私たち英雄派の今回の任務はあくまで子供たちを守ること♪ ディエルデくんはドルザークくんと違って、あなたたちと無理に戦おうとはしてないから」

「昨日の今日だぞ? ―――だけど流石に厳しくはあるよな」

 

 この面々だけでもかなり厄介だ。特にジークフリートの魔剣グラムを相手にするならば、俺も本気を出さないといけない。

 ―――守護覇龍を使う隙すら与えて貰えないだろう。

 

「も、もう戦うのは、や、やめよ? お兄ちゃんも、ね?」

「テ、ティファニア……兵藤一誠。大人しく捕まってくれないか?」

 

 ―――今は、素直に応じるしかないか。

 俺は高を括り、ディエルデの申し出に応じようと思った。……その時であった。

 

「―――レディース&ジェントルメーン!」

 

 ……突如、高揚した声音の男の声が施設内に響き渡る。その声を聞いた瞬間、ディエルデとティファニアはビクッと体を震えさせ、クー・フーリンは少し目つきが鋭くなった。

 カツ、カツっと靴の音が鳴る。俺はそちらを見ると、そこには―――二人の男がいた。

 一人は白い英雄派の制服を着る男―――安倍晴明だった。

 

「……晴明」

「あぁ……君はまた、来てしまったのか」

 

 その眼は暗く、表情はない。ただ色の灯らない目が俺を見据えている。

 ―――だけど問題はあいつではなく、その隣の白衣を着た男だ。

 髪は特徴的で、様々な色の髪が生えている。メッシュのようなものか? 眼鏡を掛け、無精髭の男。二ヤニヤと笑みを浮かべる男は言った。

 

「いやぁ、ようやくお目にかかれましたなぁ、赤龍帝くん! ずっと君が欲しくて欲しくてたまらなかったんだよぉ―――おっと紹介が遅れたね」

 

 男はわざとらしく白衣の裾をバサッとして、そして眼鏡のフレームの位置を直すようにクイッとあげた。

 そして名乗る。

 

「―――僕はディヨン・アバンセ。そこの愛娘の父親にして、戦争派のトップであり、頭脳さ」

 

 ―――この状況の元凶。

 ディヨン・アバンセは、心の底からイラつく顔でそう言ったのだった。


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