ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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番外編9 前編 家出姉大捜索作戦!

「私達の眷属の強みは多種多様さです。あらゆる属性の力を引き出せる朱雀様に、仙術妖術魔術に精通する黒歌様の万能性、そして何と言っても神をも倒すイッセー様の手札の数と質は、この段階でゲームに出場しても良い成績を残せるものであると思います」

「レイヴェルちん、さらっと自分を除いちゃだめにゃん♪ 練度が足りないとはいえ、フェニックスを含めるその他諸々の才能はレイヴェルちんも中々素晴らしいものにゃん」

「そうだな。レイヴェルも含め、現状の戦力でもゲームで活躍できることは俺も認めるところだ。それほどまでに俺の眷属は最高だよ」

「イッセー殿、その殺し文句は些かレイヴェル殿に刺激が強いようです」

 

 ……現在、この修学旅行にて増えた俺の三人の眷属(+メルティ)は、赤龍帝眷属のために造られた広大な眷属部屋にて、今後の方針や現状についての作戦会議をしていた。

 今日は休日で、他の眷属の皆には席を外してもらっての会議。

 ちなみにこの室内には赤を基調とした小物やインテリアが多く、その壁には龍を描かれた絵など、赤龍帝という存在を、意識した部屋となっている。

 俺の隣の部屋に繋がっているこの部屋は、俺の眷属でなければ扉を開けることが出来ないようになっているんだ。

 

「ただ、黒歌の言う通りまだまだ荒削りなのは否めない。現実的な話をすれば、俺と黒歌の練度はかなり高い。それこそ最上級悪魔クラスにも善戦できるだろうさ。だけど朱雀とレイヴェルはまだまだ修行が必要だ」

「はい。それは私も自覚しているところです」

「私も赤龍帝眷属へと所属するに相応しい力を高める所存ですわ!」

 

 俺の言葉と共に、朱雀とレイヴェルは異様なやる気を見せる。

 まあ原石としてはかなりの才能を持つ二人だ。俺としても鍛え甲斐があるってもんだ。

 特に朱雀は同じドラゴン系の神器使いっていうこともあって、しっかりと鍛えていこう。

 レイヴェルは……黒歌に面倒を見てもらうか。

 ともかく幸先の良い俺の眷属集め。

 バランスとしては、俺を含めたグレモリー眷属よりも格段に良いと思う。

 まあ何分、グレモリー眷属は恐ろしいほどのパワー思考で、俺も祐斗も頭を悩ましているくらいだからな。

 ……それでもうちの眷属に足りないものがあるのだとすれば、それは―――

 

「うちは現在、分かりやすいパワーが足りないか」

「そうね。うちはテクニックとパワーを両方持つタイプが多い代わりに、純粋なパワータイプは少ないと思うにゃん。一応イッセーはパワータイプと言っても良いパワーを持ってるけど、いつも王様が前線にずっと出るって言うのは駄目だろうしねー」

「っということは、当面の課題はパワータイプの確保、及び私たちの強化というところが落とし所、ですね」

 

 レイヴェルが簡潔に記した事柄を、ノートに綺麗に纏める。

 レイヴェルはこういう眷属運営に長けていて、こういうスケジュール管理や俺たちの体調管理といった、マネージャー的な能力が異様に高い。

 まあ元々あのダメダメなライザーを兄貴にしているんだから、そっち方面に長けてしまったのは何とも言えないか。

 

「幸いレイヴェルにはライザーの他に、限りなく最上級悪魔に近い兄貴もいることだし、そっちの方にも当たってみるのも良いんじゃないか?」

「ルヴァルお兄様ですか? ですがルヴァルお兄様も大変お忙しい身なので、あまり時間が取れるかわかりませんが……一応、聞いておいてみます」

 

 レイヴェルは俺の提案を丁寧に手帳に記していく。

 ……流石はレイヴェル、余念がないな。

 ともあれ、俺たち眷属の会議は滞りなく進んでいき、話題が話題を生んで基本的に和やかな雰囲気だ。

 あえて言えば、黒歌がレイヴェルの生真面目さを気に入っていて、めちゃくちゃちょっかいを掛けているところが微笑ましい。

 それに一々反応しているレイヴェルが可愛いってもんだ。

 そんな感じで新たな癒しの存在に和んでいるところで、朱雀がすっと立ち上がって室内に設置されている給水場からお茶を淹れ、すっと俺の前に差し出した。

 

「イッセー殿、どうぞ」

「おっ、悪いな」

 

 ……ちなみに、朱雀は今回の件で京都に住処がないということ、なし崩しとはいえ俺の眷属になったということで駒王学園への転入が決まっていたりする。

 実は歳が小猫ちゃんやギャスパー、そしてレイヴェルと同じだったっていう新事実があったりして、この休み明けからレイヴェルと朱雀は同時に小猫ちゃんとギャスパーのクラスに転入するんだ。

 朱雀とレイヴェルは兵藤家に居候することになっていたりする。

 ……余談であるが、朱雀の家庭的スキルは他の皆を卓越していたりする。

 家事全般が得意で、裁縫、料理、庭のガーデニングなどなど、この世の女子が極めたがるスキルを全て習得しているという完璧さだ。

 特にその料理スキルは卓越されており、日本料理を作らせればもう料亭クラスの品をサラッと出す。

 その綺麗な見た目もあいまって、もう女子力をカンストしているんだよな。髪長いし。

 ……すると朱雀をじぃっと睨む黒歌とレイヴェル。

 

「朱雀ちん、そういうのは女子がするもんだにゃん」

「私のお茶を淹れる特技が薄れてしまうようで、非常に腹立たしいですわ」

「……私としては、そんなつもりはないのですが」

 

 朱雀が理不尽に責められ、苦笑いを浮かべるのも既にご愛嬌なもんだ。

 ―――すると、クイクイと俺の服の袖を引っ張る存在が一人。

 俺の隣を陣取る、以前までのみすぼらしい服装ではなく、きっちり可愛い服を着飾っている少女―――メルティ・アバンセだ。

 相も変わらぬ無表情ぶりだが、この家で生活という名の保護を始めてから、メルティにも多少の変化があったりする。

 言葉はあまり発さないものの、割と意思疎通が出来るようになってきたんだ。

 他の皆は分からないっていうんだけど、俺はメルティがその時何を望んでいるのかが何となくだけど分かる。

 ちなみに今はお腹が減っているという合図だ。服の裾を二度引っ張る時は、彼女はお腹が減っているときなんだよな。

 

「はいはい、ほらクッキー」

「……美味」

「お前はオーフィスか」

 

 一言「美味」と簡潔に呟くメルティの額に人差し指を親指で弾き、デコピンをする。

 メルティはクッキーを貪りながら、小さな手で額を抑えた。

 

「激痛……」

「痛いんならもっと痛がれよな―――ほら、散らばってるぞ」

 

 メルティの服の周りにクッキーの残骸が散らばり、それは彼女の頬にまでくっ付いていた。

 仕方がないから、それを払ってあげると―――感じるのは眷属のジト目。

 気が付くと、他の三人が俺のことをじっと睨んでいた。

 

「何だよ?」

「……イッセー、忘れていないと思うんだけど、そいつは一応捕虜だからね?」

「忘れていないけど?」

 

 俺は黒歌の的外れな言葉に、特に反応することなくしれっと返した。

 すると黒歌は人差し指を俺に突きつけて高らかに言い放った。

 

「―――それ、捕虜に対する甘やかし方じゃないにゃん! ってか羨ましいにゃん!!」

「黒歌様、落ち着いてください! それではただの嫉妬です!!」

「嫉妬で悪いかー! レイヴェルちんだってそうにゃん!?」

「そ、それは……う、羨ましくないとは言えないですが」

 

 ……まあこんなやり取りも、俺の眷属の恒例となっていたりする。

 なんていうか、こういう感情の抑揚の感覚が取りずらい人物とは結構付き合ってきたりするんだよ。

 オーフィスだったり、リリスだったり、それからタイプ別で小猫ちゃんだったり。

 そういう経験からメルティとも割とうまくやってたり、実は割と仲良かったりするんだ。

 メルティは生活力ゼロで、世話のし甲斐があるっていうか―――赤ちゃんの世話をするみたいで新鮮なんだよな。

 それに命令なしの場合、こいつからは殺意は一切感じないんだよな。

 良くも悪くも、命令なしでは動かないというわけだろう。

 

「ま、メルティは何も知らないから捕虜としての価値はないんだけどな」

「なのに保護してるってところがイッセーの甘ちゃん具合だにゃん」

「まぁまぁ、黒歌。戦争派の一端であるメルティを保護するのは必ず意味があるからさ。いずれ奴らは確実に潰すんだ。奴らがメルティをモノと扱っているのなら、必ず奴らからアクションがある」

 

 俺はメルティの頭をクシャクシャと撫で回すと、メルティは身震いをする。

 ……犬みたいな反応だな。

 いや、よく考えればメルティの真の戦闘形態はどこか犬っぽいし、耳や尻尾まで生えてるからなぁ。

 ……そこらへんの異常さも、戦争派から聞きださないとな。

 少なくともメルティは普通の方法で生まれてはいない存在だ。

 俺はしばらくメルティで遊んでいると、周りから再びジト目で見られたのだった。

 ―――そんなとき、突如俺たちの部屋の扉がドンドンと叩く音で響く。

 

「ん? どなたでしょうか。今は他の皆様には部屋に近づかないようにしてもらっているというのに……」

「んー、イッセーをずっと独り占めしてたから、他の人たちが痺れ切らしてきたのかにゃー?」

 

 レイヴェルと黒歌はそう予想するも、俺はそれが違うことにすぐ気付く。

 このオーラ、この何とも受け入れてしまう雰囲気は―――

 

「……これはドラゴンのオーラです」

『その通り。しかもまだ小さいけど、将来性のあるオーラだよ』

 

 朱雀と、朱雀の中のディンさんがそう予想する。

 その通り、この愛しいオーラは俺の妹分であるチビドラゴンズのものだ。こうして近くにいるのは数週間ぶりだからか、すぐにあいつらと遊んであげたい気持ちになる。

 チビドラゴンズの可愛さは異常だからな!

 俺はすぐに席から立ち上がり、メルティをソファに放り投げて扉に早足で向かう。

 そして扉を開けた次の瞬間、俺の腹部に飛びつかれる衝撃が来る!

 それはいつも通りのチビドラゴンズの愛着表現。

 しかし―――

 

「にいちゃぁぁん!! ティアねぇが!! ティアねぇがー!!」

「うぇぇぇぇん!! メルたちステラレタヨーーー!!!」

「……フィー、メル、おちついて」

 

 ―――三人の趣きは、いつもと違っていた。

 フィーは慌てふためき、メルは泣き喚き、ヒカリはヒカリで我慢して二人を落ち着けようと頑張っている。

 突然のことに頭がついていかないものの、俺はすぐに三人の言ったことを頭の中でまとめる。

 フィーは「ティア」を示し、そしてメルは「捨てられた」と言った。

 ……つまり、ティアが三人を捨てた?

 ―――いやいやいやいや、そんなはずがないだろ。

 あんのシスコンドラゴンがそんな馬鹿なことをするはずがない。

 ってことはチビドラゴンズは何かを勘違いしていて、そんでもってティアは聡明で健気で純真なチビドラゴンズを勘違いさせる何かをしたってわけだ。

 ……あの野郎。

 

「い、イッセー様が笑顔で子供達をあやしながら、怒りのオーラを滲ませています……っ!!」

「あれがイッセーの半ギレにゃん、レイヴェルちん。ああなったときのイッセーは一番危険だから、触れないのが一番なんだよ?」

「む、あの子供たちは以前京都で救ったときの……」

 

 各々がそれぞれの反応を示す中、今の俺がすべきことは可憐なチビドラゴンズを泣き止ますこと。

 久々に俺の完全甘やかしモードが発動したときであった。

 …………。

 ―――

 

「えへへ……にぃちゃぁん♪」

「はふぅー……にぃたんせいぶんが、メルのなかをみたしてくよぉ〜」

「……にぃにのナデナデレベルがあがってる?」

 

 先ほどから数十分経ち、現在のチビドラゴンズは骨抜き状態で惚けた表情をしていた。

 まさにここに来た理由を完全に忘れている状態―――ティアとは一体何だったんだろう。

 とは言っても、いつまでもこうして甘やかせ続けるわけにもいかない。いや、甘やかしたいんだけど、でもそれだと話が進まないし……。

 とりあえず、ソファーの上で俺にしがみついている三人をどうにか現実に戻そう!

 

「それで、何があったんだ? ヒカリでも動揺することがあったんだろ?」

「……うん。あ、ちょっとまって」

 

 三人が話し出そうとすると、ヒカリがそう静止の言葉掛け、自身の周りに龍法陣を展開して幼女モードから少女モードになる。

 

「……こっちの方が話しやすいね、にぃに。実は―――」

 

 そうして、三人を代表して、ヒカリが事の次第を説明し始めた。

 ―・・・

 ―――時は少し進み、俺は冥界のある土地に来ていた。

 実際には俺一人というわけではなく、眷属の三人に加えてチビドラゴンズ、オーフィスまでもを連れてきている。

 ……その冥界のある土地っていうのは―――ドラゴンが支配する、最上級悪魔であり元龍王であるタンニーンの爺ちゃんが保有する領地だ。

 そこに俺はドラゴンファミリーを全員集結させたんだ。

 タンニーンの爺ちゃんの巨大なりんご畑の集結する。

 周りにはタンニーンの爺ちゃんの配下のドラゴンたちがこちらを見ている。その視線は好奇心半分、不安半分というところか。

 そりゃそうだろう。

 こっちには無限の龍神であるオーフィス、三善龍が三角全員、赤龍帝である俺やドライグなどなど、錚々たる面子が揃っているんだからな。

 

「最近はこうして顔を合わす場面が多いでござるな、イッセー殿」

「ふ、ふぇぇふぇぇ……怖い顔のドラゴンがいっぱいだよぉ、夜刀くん、ディンくんー!」

『ヴィー、一応僕たちもドラゴンなんだから、いつまでもそんな反応は……あー、怖がりさんのヴィーには無理かー』

 

 三善龍たちの長い時間を超えても変わらない会話に心がほっこりしたいる時、俺たちの上空より巨体が過ぎる。

 その巨体は翼をバタバタと羽ばたかせ、そして俺たちを見下ろすように顔を向けた。

 

「おぉー、久しいな。イッセー」

 

 タンニーンの爺ちゃんはその厳格な見た目とは裏腹に、軽い口調で話しかけてきた。

 こうしてドラゴンファミリーの面子が一同に終結するのは、実は結構珍しいことだ。

 俺+誰か、なら結構あるんだけどさ。

 ……今回はいつもはいるティアがいないけどさ。

 

「再会を祝して宴会、と言いたいところだが……。イッセー、そのために我々を集めたわけではないのであろう?」

「……ああ」

 

 俺はタンニーンの爺ちゃんが既に何かを察しているのを理解して、素直に頷く。

 恐らくオーフィスも既に勘付いているいるからこそ、こうしておとなしくチビドラゴンズを優しく宥めているんだろう。

 俺はふぅっと息を吐いて、ポケットの中にしまっていた一枚の紙を取り出した。

 そこにはティアの文字で一言―――

 

「もう帰らない―――ティアがそう書き置きを残して、チビドラゴンズの元から消えたんだ」

『―――』

 

 俺の言葉に、他の皆が言葉を失くす。

 既に事情を知っている眷属の皆やチビドラゴンズは複雑な表情を浮かべており、オーフィスはどこか納得したような顔をしていた。

 この場で素直に驚愕しているのは夜刀さんとヴィーヴルさん、タンニーンの爺ちゃんだ。

 

「……にわかに信じられん。お前を、チビたちを溺愛していたティアマットが……」

「それは拙者も同意でござる。ティア殿は確かに時たま大切な者に試練を与えることはありはするでござるが……これは些か強引に感じるでござるよ」

「……つまりつまり、ティアさんに何かがあったってことなのかな?」

 

 二人の意見を聞いて、ヴィーヴルさんがそう予想する。

 ……そう。ヴィーヴルさんの予想通りで、ティアに何かがあったことは確実だ。

 しかも時期的に、恐らくという確証が実は俺の中にある。

 ―――数日前の修学旅行での禍の団との正面衝突。あの時に祐斗たちの前に現れた存在がいた。

 ……最強の邪龍と謳われ、その実力は既に天龍クラスにまで昇華しているとまで予測される一匹のドラゴン。

 ―――三日月の暗黒龍、クロウ・クルワッハ。

 そして祐斗たちの窮地を救ったのが、どういうわけかこの戦場にその存在を嗅ぎ付けていたティアで、そこから先はティアがクロウ・クルワッハを相手にしていたはずなんだ。

 ……恐らくこの一連の事柄が今回のティアの家出に繋がっていると俺は思っている。

 俺はそれを包み隠さず皆に話すと―――クロウ・クルワッハが生存しているということに、皆が戦慄を覚えていた。

 

「……そうか。クロウ・クルワッハが敵側にいるのか」

「ふむ。……些かではすまないでござる。かの最強の邪龍ならば、既に天龍の頂にまで足を踏み込めても不思議ではないでござる」

 

 ……天龍クラスっていうのは、この世界でトップを争う強さのことを指す。

 この世界の不動のトップ2はグレートレッドとオーフィスの二人だ。これはどう足掻いても変わることのない普遍。

 その例外を除けば、ドライグとアルビオンは神をも易々と凌駕し、三大勢力が束になって掛かっても封印することがやっとであったような存在だ。

 そのレベルにまで、クロウ・クルワッハは到達している。

 ……グレートレッドはあの戦場に舞い降りたとき、天龍クラスと天龍の二歩手前クラスという表現をした。

 前者がクロウ・クルワッハ、後者がティアだ。

 あのグレートレッドをして、言わしめたんだ―――クロウ・クルワッハの実力が天龍クラスであることは間違いない。

 その上で、ティアは奴と戦った。

 そしてチビドラゴンズや俺たちの前から姿を消した。

 つまり―――

 

「ティアは、クロウ・クルワッハに負けたんだろう。それが理由かはわからないけど、きっかけではあると思う―――そこで、俺は皆を集めたんだ」

『―――』

 

 言葉を区切り、そう言うと皆は俺の言葉を待つように沈黙する。

 

「どうしようもねぇけど、姉担当は家出して可愛い妹たちを放ってるやがる。俺の大切なチビドラゴンズを、だ。こいつらはあいつが消えて、泣きながら俺の元に来たんだ―――あの馬鹿には一度、お灸を据えねぇと気がすまない」

「……激しく、同意」

 

 すると、これまでずっと黙っていたオーフィスがチビドラゴンズから手を離してそう言った。

 

「ティアマット、泣かした。フィーとメルとヒカリは、我にとってもイモウト―――イッセーが怒っている、我も怒っている。やることは、一つ」

「……その通りだな。ああ、その通りだとも」

「そうでござる。そんな簡単に逃げられるほど、ドラゴンは安っぽくはないでござるよ!」

「うんうん! ティアさんにはしっかりとお話をして、考え直してもらわないと!」

 

 ……オーフィスの言葉に、皆の心は一つになる。

 つまりは―――

 

「……ティアを探し出そう。んでもって、場合によってはボコボコにする―――家出姉大捜索作戦だ」

 

 ―――この広い世界のどこかにいる、ティアの大捜索。

 俺たちドラゴンファミリーはそのためだけに動き始めた。

 ―・・・

「おーいティアねー! でてこーい!!」

「でてこないとかくしてるにぃたんコレクションぜんぶもらうからねー!!」

「……ちなみにヒーはいちぶはいしゃく」

「―――おい、あとでティアから聞き出すことが増えたじゃねーか」

「……こんな原始的な方法、絶対見つからない」

 

 ―――雲を抜けた空で俺たちはそんな会話をしている俺とチビドラゴンズとオーフィス。

 現在俺たちはティアの捜索のために、人員を三つに分けて捜索していた。

 一つ目は夜刀さん、ヴィーヴルさん、朱雀とあいつの中にいるディンさんを含めた三善龍チーム。

 二つ目はタンニーンの爺ちゃんとその眷属や、気配察知に長けた黒歌、そしてレイヴェルを含め、更に黒歌によって拘束されているメルティを連れたチーム。

 そして最後が特にティアとの親交が深かった俺やチビドラゴンズ、オーフィスのチームだ。

 タンニーンの爺ちゃんたちにはその圧倒的機動力を生かして冥界中を捜索してもらっていて、三善龍チームには人間界を中心に。

 そして俺たちは―――思い当たるあいつとの思い出の場所を転々と回っていた。

 

「これで18箇所。……全滅」

「チビドラゴンズと遊びに行った場所は全部回ったんだけどなぁ。……あいつの生息地がよくわからねぇ」

 

 野生のティアマットは中々現れませんっと。

 でもまぁ手がかりが一切ないというわけでもない。

 それは、あいつがその場所にいた痕跡はあるということだ。

 オーフィスによると、ティアを含む全てのドラゴンにはそれぞれ特有の匂いがあるらしい。

 特に力が強ければ強いほど、よほど隠匿が上手くない限りはオーフィスはその匂いを的確に嗅ぎ分けられる。

 ティアはドラゴンの中では最上位クラスの力を持つドラゴンの一人。

 オーフィスはその匂いをこれまで回った数箇所で発見したんだ。

 つまりティアはどういう理由か、チビドラゴンズとの思い出の場所を転々としている。

 思い出の場所を回っていれば、いずれはあいつの元にたどり着けるはずなんだけども……

 

「……流石に空からあいつを捜索するのは難しい、か」

「同意。いくら我でも、距離が離れすぎている場合、察知不可能」

「いいよ、最初から楽ではないってわかっていたんだから」

 

 俺は少し申し訳なさそうな顔をしているオーフィスの頭を撫でると、オーフィスは子犬のようにすっと摺りついてきた。

 

「……イッセーとの触れ合い、久しぶり。……イッセーの匂い」

「お前は犬か。……仕方ないなぁ」

 

 オーフィスの愛着行為を苦笑いのまま受け入れ、頭を撫でると、それに対して反旗を翻すのはもちろんチビドラゴンズだ。

 

「こらー、オーフィスー! にいちゃんにひっつきすぎ!!」

「メルもくっつくー!!」

「……もうくっついてるヒーはかちぐみ」

 

 知らない間にヒカリは俺の背中に回って、後ろから蝉みたいに俺に引っ付いていた。

 それに更に腹を立てるチビドラゴンズ―――その騒がしい声を聞いて、先ほどまでの涙が無くなっていることに安堵する。

 ……チビドラゴンズはもう色々頑張ってくれた。

 思い出せる情報を全部教えてくれ、ハイスピードで捜索をする俺とオーフィスについてきているんだ。

 ―――ここから先のことは、俺が何とかする。

 

「―――次の場所、そろそろ行こうぜ?」

 

 ……未だに言い争っている4人に、俺は心の底からそう願った。

 ―――騒がしく、俺たちは次の場所に超高速で移動する。

 原動力はオーフィスで、オーフィスの無限の力を無駄遣いして思い当たるところを全て転々とする。

 次はオーフィスの思い当たるところを回る番だ。

 俺がロキと戦っている付近の時期に、ティアとオーフィスは邪龍狩りに出向いていた。

 その本当の目的は此度のクロウ・クルワッハの存在の確認であり、オーフィスはオーフィスなりの思い当たりがたくさんあるんだろう。

 オーフィスは背中の小さな翼から恐ろしいほどの黒いドラゴンのオーラを噴出させながら、俺たちを連れて次々と移動する。

 俺は魔力障壁で自分とチビドラゴンズを風圧から守ることに専念する。

 俺一人ならオーフィスについていけなくもないが、それではチビドラゴンズを置いていってしまうことになるからな。

 それを三人は望んでいない。

 ……ふと、オーフィスが立ち止まる。

 

「……? オーフィス、どうした?」

「…………向こう。あっちに、ティアマットの残り香」

 

 オーフィスの視線の先には、荒れた更地が見える。

 まるで焼き払われたような更地で、こんなところに一体何の思い出があるというんだろうか。

 

「ここで我、ティアマットと喧嘩した」

「……は?」

 

 更地に降り立って、オーフィスは特に声音を変えることなくそう言い放った。

 ……龍神と龍王の喧嘩。

 そんな世紀末な喧嘩、考えるだけで身震いするもんだ。

 ……一応理由を尋ねておくか。

 

「ちなみに理由は?」

「どちらが、イッセーに好かれているか、議論の結果」

「それで更地に?」

「…………」

 

 ―――頷くオーフィスに項垂れる俺。

 そんなしょうがないことで喧嘩して、ここら一体を更地にするって……ここが冥界の未開の地だろうが、流石にやり過ぎだろう。

 俺はオーフィスの後頭部にチョップをいれ、辺りを見渡す。

 ……オーフィスの言う通りならば、ティアはこの更地にも訪れている。

 こうも良くも悪くも思い出の場所に来ていることに対する、俺の見解はいくつかはある。

 ありはする、けど―――どれもしっくりこないんだ。

 クロウ・クルワッハに負けたから、自分の不甲斐なさから俺たちの元を去り、最後に思い出に浸る。

 ……ティアはそんな考えをするような奴じゃない。

 あいつは馬鹿だ。すぐに調子に乗るし、結構な喧嘩腰だ。その癖、口は弱けりゃチビドラゴンズにはめっぽう弱い。

 ……でもあいつは、しっかりと『姉』をしていた。

 でなけりゃチビドラゴンズはティアをこうも大好きとは言わない。

 ―――あいつの考えはわからない。だけど、こんなのティアらしくない。

 

「……そういえば、あいつと最初にあった時―――そういえばそのときはチビドラゴンズとの出会いでもあったよな」

 

 ……ふと俺は昔のことを思い出す。

 ティアとチビドラゴンズと使い魔の契約を契ったのは同じ時期だった。

 使い魔を探しに森に行き、その森で超希少なチビドラゴンズと出会い、奇跡のような巡り会わせで最強の龍王と出会った。

 あの時、俺はティアに力を見せ、あいつに可能性を見出された。

 それからというもの、あいつはすぐ姉と言っては揚げ足を取られて、良い所を見せれず―――始まりは全部、あの森だった。

 ……そう思ったとき、俺は思いつく。

 これまでティアは思い出の場所をずっと回っている。

 ―――あいつが最後に行き着く場所、それはもしかしたら……

 

「四人とも、行くぞ―――家出姉捜索もそろそろ終わりだ」

 

 俺たちは向かう―――冥界と人間界の境目にある、使い魔の森へ。

 ―・・・

 その森は小動物や魔物の多くが生息する使い魔の森。

 多くの悪魔や魔法使いはこの森で魔物と契約し、使い魔を使役する。

 この契約は対価契約であり、契約者は常に魔物に何か対価となるものを与え続けねばならない。

 俺の場合はティアもチビドラゴンズも特別な対価を求めてくるわけでもなく、今の今まで使いまであることを忘れていたほどに仲良くなった。

 今では俺にとってチビドラゴンズは家族同然の妹で、ティアは姉だ。

 ……俺たちは声を上げることなく森を進んでいく。

 ―――森は何かに怯えるように、ただただ静かであった。

 俺はそれに加え、肌に感じるドラゴンのオーラに確信する。

 ……この先に、ティアが確実にいると。

 俺はそれを最初から理解していたからこそ、すぐにここに来たんだ。

 思えば辿ってきた道のりも、人間界からこの地に近づいてきていた。

 ティアを追いかけた最終地点がきっとここだったんだ。

 ……俺は歩く。

 森を進み、そして最後に―――森の中心部の、空が見える開けた広場のような空間にたどり着く。

 そこは俺がチビドラゴンズと最初に出会った場所であり、そしてティアと出会ったところ。

 ―――その開けた場所の中心に、あいつはいた。

 

「―――なんだ、お前たちか」

「ああ、俺たちだよ―――ティア」

 

 ティアは俺たちに背を向けたまま、最初から来ることを理解していたように悟った口調でそう言ってくる。

 

「まぁ、来ることはわかっていたさ。いや、心の何処かでお前たちが来てくれるとか期待していたのかもな」

「……とんだ構ってちゃんじゃねぇか、お前」

 

 俺は思っていた以上に穏やかなティアの声音に安堵して、一歩彼女に近づこうとする。

 それをすぐに理解したチビドラゴンズもティアに近づこうとした―――そのときだった。

 一歩踏み入れる足が、ティアから発生した風で押し戻される。

 ……ティアは振り向かない。

 そしてただ一言―――

 

「―――私はそんな自分の情けなさが、心の底から憎い」

 

 ―――ティアは冷たい声音でそう言い切り、背中から白と黒が入り混じった翼を生やした。

 そこに含まれるオーラは―――殺気。

 その殺気を感じた瞬間、オーフィスは俺たちの前に立った。

 

「ティアマット。乱心?」

「あぁ、お前もいるんだな。―――お前は良いな。群れていても変わらず強者であれて」

「……理解できない。ティアマット、なぜ?」

「理解できないだろうさ、少なからずお前にはな―――なぁイッセー」

 

 ティアはオーフィスとの会話を打ち切り、俺に声を掛けてきた。

 ―――今までにないほど低い声音に、俺はただひたすら困惑していた。

 

「お前たちとの日々は心の底から楽しかったものだよ。それは否定は絶対にしない。お前やチビ共の『姉』であった時間を、私は二度と忘れない―――だけどな、私はドラゴンだ」

 

 ―――次の変化は、それまでの人間態ではなく、ドラゴンの形態であった。

 神々しい白と黒の入り混じった天魔の龍。龍王最強の名をそのまま体現しているように、その往々しい翼を翻すティア。

 そこでティアは俺たちの方を向いた。

 

「力の権化とされ、様々なものに畏れられ、畏敬を払われる―――私はそんなドラゴンに憧れた。だが今の私はどうだ? 平和ボケを許容し、自分が強くなっていると勘違いをしていた大馬鹿者だ」

「ティア、お前は……クロウ・クルワッハに負けて、そんなことを言っているのか?」

「―――それはきっかけに過ぎない」

 

 俺の質問に、ティアは一言で返す。

 そして続けざまに言い放った。

 

「私は奴に手も足も出なかった。あいつは既に天龍クラスへと至っていた。全盛期のドライグと同レベル―――私が妬み憧れた赤龍帝ドライグと同じ高みに立っていたんだ。奴は言った。全ての時間を自らを高めることだけに使っていたと」

「それで、自分は努力を怠っていたと?」

「―――ぬるま湯に浸り、多少の強さに酔っていた。私は孤高でなければならなかったんだ。でなければ、ああはならなかった。だから私は……お前たちの元から去ると決めた」

 

 ……ティアは再び人間態に戻り、一歩、そしてまた一歩俺たちへと近づいてくる。

 

「だから、これが私の最後の『姉』としての時間だ―――チビ共、イッセー。お前たちはお前たちの強さを得る方法がある。きっとそれは私とは道が違うんだ。私はお前たちの道に必要ない」

 

 ティアは何も言えず瞳に涙を溜めているチビドラゴンズの頭に手を載せようとして、そしてすぐに躊躇い手を引っ込める。

 

「―――私にお前たちは、必要なかったんだ」

 

 ティアがそう言い捨て、俺たちから背を向けたとき。

 ……俺の頭の中に、嫌にその台詞が繰り返して聞こえた。

 ―――俺の理性を締める螺子が、取れる。

 

「―――ふざけんじゃねぇぞ、ティア」

「……離せ、イッセー」

 

 俺は離れようとするティアの手首を握り、睨みながら引き止めた。

 ……俺はこの手を、絶対に離さない。

 今のは何があろうと否定させないといけない。

 今の言葉が、どんな意味を持っているのか―――ティアが最初に言った言葉を否定している。

 俺たちと過ごした日々が楽しかったとティアは言った。

 でもそれが必要がないものだとティアは言った。

 ……ふざけるな。それなら、最初からそう言いやがれ。

 だけどティアは中途半端に言動を並べ、自分勝手にそう言いやがる。

 あいつを慕うチビドラゴンズのことは考えず、自分の勝手な理論につき従って―――その中途半端さに俺は苛立ちを覚えたんだ。

 ……ティアの腕を握る力が、強くなる。

 

「お前がどんな理論を並べようが、お前がどんな決心をしようがな―――んなものは最初からどうでも良いんだよ」

「……何?」

 

 ティアの声音に怒気が宿る。しかし俺は構わず言葉を続けた。

 

「―――くっだらねぇ。言うに事欠いて、お前はドラゴンファミリーが自分を弱くしたと? 俺たちがお前の成長を妨げたと? ふざけるなよ。自分の敗北の理由に、俺たちを巻き込むな!」

「くだら、ない……!? ふざけるなよ、イッセー!! 私がどんな想いでお前たちにこんな言葉を―――」

「―――それもくだらねぇんだよ。未練タラタラなんだよ。本当に不甲斐ないって思っていてどうにかしたいと思うんなら、勝手にいなくなって勝手に強くなっちまえ。でもそれをしない以上は」

 

 俺はティアの手を離し、ティアを後ろに突き飛ばす。

 そして

 

「―――お前は、ドラゴンファミリーで俺の使い魔だ。だから俺はお前を放っておかない。それにな、何があろうと俺はお前にお灸を据えるって最初から決めてんだ」

 

 俺は即座に赤龍帝の鎧を身に纏い、その拳をティアに向ける。

 ティアはその俺の一連の行動に目を瞑り何も言わず、俺はそれを確認して最後に言った。

 

「―――チビドラゴンズ泣かしてんじゃねぇ、この駄姉が」

 

 ―――俺の言葉と共に、ティアの容姿も変化する。

 轟々しく神々しいドラゴンの姿に。その翼を再び翻し、威厳ある姿でティアは俺に声を掛けた。

 

『思い上がるなよ、イッセー。例えお前がどれだけ強くなろうとも、お前は私には届かない。そのことを理解させてやる―――お前を完膚なきまで叩き潰して、私はお前たちの元に二度と現れない』

「なら俺はお前を完膚なきまで叩き潰して、何でも言うことを聞かせてやる―――覚悟しろよ、ティア。チビドラゴンズを泣かせた罪は重いぞ」

 

 ―――俺たちはほぼ同時に地上から天空へと駆け出す。

 そして何者も邪魔をしない空に翼で浮かび、相対する。

 ……最強の龍王、ティアマット。恐らく本気の戦いは初めてだ。

 ―――そのとき、俺たちの喧嘩が火蓋を切って始まった。


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