ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~ 作:マッハでゴーだ!
「わぁ、わぁ~!! すごいです、イッセーさん!! こんな大きなテレビ画面、私、見たことないです!!」
俺のすぐ傍には、映画館の大きな画面に好奇心旺盛で目をキラキラさせているアーシアの姿があった。
見ていて微笑ましくなるほど嬉しそうなアーシア。
見る物、全てが真新しそうに見えるのか、アーシアは今すぐにでもスキップしそうなテンションになっていて、俺もそれにつられそうになるくらいだ。
「アーシア、聞いて驚け。――この映画は画面から飛び出すのだ!!」
「そ、そんな!! す、すごいです、イッセーさん! 私はまるで時代錯誤に陥った感覚です! タイムスリップです!!」
アーシアの反応がいちいち可愛くて、面白いからつい俺はからかってしまう。
その度にアーシアは過剰にも反応するものだから、俺はついつい癒された。もうアーシアはあれだ、癒しの体現者といっても過言ではない。
「アーシア、この映画を見る際には入口で貰ったこのメガネを装着してみるんだ」
「わ、分かりました! やってみます!!」
アーシアはマジマジとそれを見つめるも、恐る恐るという風に3Dメガネをつけて画面を見た。
「大変です、イッセーさん! 目の前が暗くなりました!!」
「アーシア……そりゃあ3Dメガネだからな?」
……アーシアの純粋さに俺は苦笑するのだった。
さて、俺とアーシアは現在、母さんから貰ったチケット……3D映画『陽と闘の74日』というアクション映画を見に来ている。
何でも3Dアクションに力を入れた作品で、迫力がすごいらしい。
特に主人公とラスボスキャラとの戦いはかなりのものらしく、俺も楽しみにしているんだ。
それに日本語が分からないアーシアでもアクションシーンなら楽しめるだろうと思ったんだけど、母さんがここまで都合の良い映画を選ぶなんて信じれなかった。
どうせ、すごいドロドロとした恋愛もののチケットと思ってたんだけど……
「はぅ! すごいです、イッセーさん!」
映画が始まってアーシアはずっと活き活きしている。
でも少し声が大きいかな?
俺はアーシアにそれを耳打ちすると、アーシアは顔を真っ赤にして口に手を当てる……その仕草もまた癒しだ!
そうして映画はそっちのけで、アーシアに癒されていると、映画はどうやら終盤になっ―――…………はい?
俺はその映像が信じられなくなり、ついメガネを外した。
いや、だってさ……アーシアも顔を真っ赤にしながら画面から目を離そうにも離せない状態になっている。
…………そこに映ったいたのは、3Dとして俺達の目に入る、濃厚なラブシーンだった。
「そ、そんな! い、イッセーさん! あんなことはいけません! あ、あれは恋人同士がする神聖なもので!!」
アーシアは真っ赤になりながらそう言ってくる。
……そう言えばこのチケットをくれたのは母さんだ。
あの母さんが、ただの映画を選ぶはずもないわけで―――うん、すっかり失念していたよ。
母さんがただのアクション映画を選ぶわけがないよな―――俺はそう考えると、何でか悲しくなったのだった。
そして俺とアーシアはその映画を最後まで悶えながら見て、映画が終わるころには二人して意気消沈しているのだった。
アーシアは映画館を出て、俺に言った言葉。
「うぅぅ……。で、でもあれを最後まで目を離さずに見てしまった私は、咎人なのでしょうか……? イッセーさん……」
俺は涙目でそう訴えて来るアーシアに対し、ただ苦笑いで頭を撫でてあげることしか出来なかった。
……今度映画を見ることがあれば、俺自身で話をチョイスしようと心に刻んだ一時であった。
―・・・
「イッセーさん! これは何ですか!?」
次に俺達が向かったのは某チェーン店のハンバーガーショップだった。
そしてアーシアはまた、紙に包まれたハンバーガーを見ながら右往左往している。
教会出身であるアーシアがジャンクフードのような食べ物に縁がないのは当たり前で、食べ方が分からないのも当たり前ってもんだ。
「アーシア、それはな? こうやって食べるんだ!」
そういうと、俺はハンバーガーの紙を取っ払い、大きな一口でハンバーガーを食べた。
体には良くないとは思うけど、やっぱり偶に食べるとこれは美味い!
アーシアは俺の食べる姿を見て、目を見開いて驚いた。
「はわわ! そんな食べ物がこの世にあるなんて!」
「郷に入っては郷に従え、ってな! ほら、アーシアも食べてみなよ」
「は、はいっ!」
するとアーシアは小さな口でハンバーガーを上品に食べる。
シスターとハンバーガーのアンバランスさがなんか絵になるなぁ、っと保護欲が駆り立てられる!
そして良く見ると、店の中の男子客はおろか、恐らく彼女持ちの男でさえアーシアのことを呆けて見ていた。
……まあアーシアは可愛いし、絶世の美少女だし、清楚だし、癒しの存在で且つシスター服だからか?
いや、間違いなくそれだな。
「……あ、イッセーさん。頬にケチャップがついてますよ?」
「え、本当か? えっと……」
俺はアーシアにそう指摘され、近くにあったウエットティッシュで頬を拭こうとしたその時だった。
「わ、私が取りますね!」
するとアーシアは突然そう言って、そっと俺に顔に手を近づけて―――指でケチャップを取ってそのまま俺の頬についてたケチャップを舐めたぁぁぁあ!?
「あ、あはは……。ちょっとハシタナイですか?」
「ソ、ソウデスネ、ハハ……」
俺の言葉は何故か、片言になる……そりゃそうだろ!!
こんな子にこんなことされて、緊張しない男なんかいない!!
周りなんか見たら……ああ、あそこの男なんか彼女に頬をぶたれちゃってるよ。
まあ彼女とのデート中に他の女の子に目を向けるなんて、男としてあるまじき行為だから、自業自得だけど。
それ以外はなんか、俺にすごい殺意を込めた視線を送ってくるし……
アーシアに至っては、未だモジモジしてる!
ホント、一つ一つの仕草が男の加護欲を掻き立てるよ、アーシアは!
俺はそんなことを考えつつ、アーシアに提案するのだった。
「アーシア、今すぐ食べてこの店を出よう!」
「え? イッセーさん?」
それから俺とアーシアが店を退出したのは3分後のことだった。
―・・・
「これはパンチング・マシーン。お金を入れて、自分のパンチ力を測ると共にストレス発散になる優れ物だ!」
「す、すごいです! そんな画期的なシステムが存在しているなんて! 科学とはすごいです~!!」
……なんか、アーシアの「すごいです」がもう定番になっている気がする。
ということで俺とアーシアはゲームセンターの中にある俺、御用達のパンチングマシーンのところに来ていた。
さっきのバーガーショップに居にくくなったのも理由の一つだし、アーシアには出来る限り色々な遊びを体験してほしいからな!
……ちなみにここに記録されているトップ10のランキングは全ては俺の記録だ。
「よぉし、まずは俺が!」
俺は専用のグローブをはめて、お金を入れる。
このパンチングマシーンの上限パンチ力は20000だ。
今までは18000くらいだけど、今なら限界を超える気がする!
「うぉりゃあ!!」
俺の拳が、パンチ力をはかる計測機に衝突する!
パァン、という心地良い衝突音が鳴り響き、数字を表示するディスプレイが計算を始める。
そして数秒のタイムラグの末、パンチ力を示すディスプレイにパンチ力が出された。
「イッセーさん!20000オーバーって何ですか?」
そこには20000を超えた数字にのみ出される、20000越えの表示が出ていた。
……悪魔になったのも大きな理由の一つか?
悪魔になって弱点は増えたけど、その分肉体的な性能が格段に上がったからな。
「あはは……。今まで、誰も見たこともないようなパンチ力ってことだよ」
「や、やっぱりイッセーさんはすごいです!」
アーシアが自分のことのように喜んでくれる。
その反応に俺は少し照れ臭くなって頬をポリポリと掻くが、アーシアは未だに尊敬の眼差しを俺に送っていた。
そこで俺は機械にもう一度、お金を入れてグローブをアーシアに手渡した。
「次はアーシアがやってみたらどうだ?」
「わ、私ですか? ……頑張ってみます!」
アーシアは慣れない手つきでグローブをイソイソとはめ込んで、俺を真似してるのように構える。
が、あまり様になっていない。
っていうか腰が若干引けてる。
「えいっ!」
そしてアーシアの拳が計測機にぶつけられた!
でも何だ、嫌な予感がする!!
―――だって音が!
バコン、じゃなくてペコ、だったんだ!
そして数秒が、計測器が残酷な点数を言い放った。
「ぱ、パンチ力、2……」
アーシアはその数字を見て枯れる!?
待ってくれ、ちょっと小突いただけでパンチ力は30はいくんだぞ!?
しかもパンチ力の下に『なに?蚊でもついたの?パンチじゃなくで虫さされだな』とか非常にムカつく台詞込みだし!!
しかもご丁寧に英語つきって何だよ!!
思いっきり嫌がらせじゃねぇか!!
アーシアなんか固まっちまったじゃねえか!
「イッセーさん……私は蚊さん以下何でしょうか?」
「うぅぅぅぅ! 大丈夫だ! アーシアは俺が守るから!!」
……俺はどうしようもなくなって、アーシアを抱きしめてそう言うしかなかった。
ちなみにアーシアからシャンプーみたいな良い匂いがしていたのは秘密だ。
―・・・
アーシアが気を取り直してくれたのはそれから数分後のことだった。
そして俺がアーシアに断って、トイレから帰ってくると、アーシアはクレーンゲームのディスプレイに張り付いてた。
それは・・・ああ、ラッチューくんか。
ネズミが元の可愛いマスコットキャラで、母さんが好きで家に割と人形がある。
アーシアが見ているのはそのラッチュー君人形が取れるクレーンゲームだった。
「アーシア、それが欲しいのか?」
「は、はぅ!」
アーシアは突然、声をかけられたことに驚いてか情けない声を出してしまう。
そして俺の方を見て、俺だということに気がつくと安堵の溜息をついた。
「アーシアはラッチュー君が好きなのか?」
「そ、その……はい。こういうものは見るのは初めてで……実は前に初めてテレビを見た時にラッチュー君が映っていたの見てから、その……」
「なるほど、ファンになったってことか」
アーシアは頬を紅潮させて頷く。
でも可愛いものに惹かれるのは女の子としては当たり前のことで、恥ずべきことは一切ない。
むしろアーシアに人形とかヌイグルミは似合いすぎるくらいだ。
……よし、なら一肌脱ぐしかないな!
「俺に任せろ、アーシア! こう見えてもこのゲームは得意なんだ!」
俺はそう言うと機械に小銭をいくつか入れて、クレーンを操作し始める。
これでも松田と元浜と一緒にゲームセンターで遊んでたからな!
俺は一度目の操作でラッチュー君を落としやすい位置にもってきて、そして二度目で確実にとれるようにした結果、二度目でラッチュー君を無事、獲得したのだった。
俺はヌイグルミの排出口から先ほど取ったものを取り、そしてアーシアに渡した。
「はい、アーシア。ご所望のラッチュー君だ」
「あ、ありがとうございます!イッセーさん!」
アーシアは俺から人形を受け取ると、それを嬉しそうに抱き寄せる。
本当に嬉しそうで、感動してるのか少しだけ涙目だった。
うん、やっぱり様になるけど涙目はなんかいたたまれない気がする。
「私はこれを、一生大事にします。……今日、イッセーさんと出会えた記念として」
「……馬鹿だな。これくらい、俺がいつでもとってあげるよ。だから泣くことはないだろ?」
「…………。そうですね、イッセーさん!」
そして俺とアーシアはどちらともなく、笑い合った。
―――でもその笑顔は、どこか儚げだった。
―・・・
その日、俺とアーシアは遊び尽くした。
ゲーセンに行った後は、屋台でタイ焼きを買って二人で食べたり、服屋で服を見たり……
そうしているうちに、時間は既に夕方になっていた。
俺とアーシアは立ち寄った公園の水辺付近のベンチで二人して座っている。
……そういえば、この公園はあの堕天使野郎と初めて合って、俺が殺された公園だな。
「ふぅ。さすがに疲れたなぁ……」
「は、はい……でもこんなに楽しかったのは、生まれて初めてですっ!!」
「……俺も、こんなに楽しく女の子と遊べたのはアーシアが久しぶりだよ」
……そうだ。
俺はどこか、女の子を少し遠ざけていた。
松田と元浜もそれを指摘してきたし、実際に俺自身も、そんなに女の子がどうこうって気持ちはなかったんだ。
たぶん、それは俺の転生前の……名前は忘れてしまったころの俺の、好きだったミリーシェのことが関係しているんだろうな。
……だった、じゃないな。
今もあいつのことが好きなんだ。
……それでも、アーシアと一緒にいると本当に楽しい。
もっと一緒にいたいって思える。
そんな風に思えるのは、本当に久しぶりだった。
「その、イッセーさん……私、イッセーさんに少し聞きたいことがあるんです」
「……良いよ。俺もある。それにアーシアの聞きたいのはこれのことだろ?」
俺は大体のことは察して、胸に白銀の宝玉が埋め込まれたブローチのような神器である
共に未だに力を完全に解放できないけど、発現自体は出来るからな。
「……イッセーさんも、神器を持っているんですね」
「ああ。アーシアほど、優しいものではないけどな」
「優しい、ですか……」
……俺の言葉を聞いたアーシアは、復唱するようにボソッと呟く。
そして……アーシアは、一筋の涙を流した。
いや、一筋なんかじゃない―――止め止めもなく、ずっと絶えずに涙を流し始める。
俺はその姿を見て、余計に知りたくなった―――アーシアのことを。
これほどの涙を流すアーシアを、優しいアーシアを……傷ついているアーシアを。
そんなアーシアを癒してあげたくなったんだ。
「私の過去……聞いてもらえますか?」
「ああ。……もちろんだ」
するとアーシアが語り始めた。
「聖女」とあがめられた一人の少女の、救われない末路を、涙を流しながら。
それはアーシアが小さい頃、彼女は欧州のとある地方で生まれ、生まれてすぐ捨て子として教会に捨てられたところから始まった。
そこで育てられたアーシアだったけど、転機は8歳の時のことだった。
アーシアはある日、怪我をした犬を発見し、そしてその犬を助けようと思った時に
そしてその回復の力が教会中に知れ渡り、そしてアーシアは人の傷を癒す力を持つ「聖母」として崇められたらしい。
傷を癒すシスター……崇められるのは必然だったのだろう。
そう―――彼女が望んでいなくても、それは当たり前のように行われた。
どれだけアーシアの地位が高くなっても、どれだけの名声を浴びせられても……アーシアの心の隙間は埋まるどころか広がっていった。
当たり前だ。
だってアーシアが望んでいたものはそんなものじゃなく、もっと単純で……だからこそ大切なこと。
……アーシアはただ、友達が欲しかったんだ。
だけどそれは出来なかった。
出来るはずがなかった。
例え誰かを癒すことのできる優しい神器を持っていたとしても、それは人ならざる力だ。
他人はアーシアを異質な目で見るようになり、そしてアーシアはずっと孤独。
友達はいない、誰も守ってくれない、味方がいない・・・神器に目覚めた者が受ける確執、孤独。
アーシアは幼い時からそれをずっと味わってきたんだ。
……そんな状況だった。
そしてアーシアの人生が大きく変わってしまったもう一つの転機は―――ある日、アーシアが教会の前にいた黒い翼を生やした悪魔を救ったことだった。
神器とはそもそも神聖なものではない。
どの神器もそれぞれの力は世界に対して平等に働き、そしてそれはもちろん多種多様な種族に影響する。
……つまり悪魔すらも癒すことが出来る。
悪魔をも救えるその力は聖なるものではない、魔女のものだと教会は判断し、そして……
―――アーシアを追放し、そして見捨てた。
だからこそ、アーシアは行き場がなくて極東の……日本のはぐれ悪魔払いの組織に入って、堕天使の加護を得るしかなかった。
それがフリードがあの家で言ったことの真相だ。
「私は、きっと神様に対する祈りが足りなかったんです……ッ! 私は自分ひとりじゃ何もできないから。ハンバーガーの食べ方だって、自分だけでは分からないし、それに力も何もないから……」
アーシアは、泣きながら笑ってる。
自分を嘲笑うように、自分で自分を傷つける。
自分で自分を否定して、未だに信じ続ける神に対して「ごめんなさい」
……そうやって、謝り続けている。
弱い……小さい体が、今にも悲しさで消えそうだ。
俺がアーシアに出来ること……アーシアに壮絶な過去を知って、今さらもう何も変えることはできない。
だったら何もしないのが正解?―――そんなの、あるわけがない……!!
確かに過去を変えることなんて不可能だ。
だけど、だからこそ俺はアーシアに出来るをことをしてあげないといけないんだ。
「これは試練なんです。神様が私に与えてくれた、試練……。これを乗り越えさえすれば、きっと友達だって―――そんなこと、ないってわかってる癖に」
アーシアは涙を止めない。
神様、か……そんなもの、何の役にも立たない。
神はいつも世界に対して不平等で、いつも不幸を見捨てる。
苦しんでいても絶対に救ってくれなくて、知らんぷりする。
この子を絶対に守ってくれない……いつも神様ってのはこの子を見放すんだろう。
俺は泣いているアーシアの頬に伝う涙を指で拭った。
そしてアーシアの手をギュッと握り、アーシアと向き合った。
「辛い思いをしなければ幸せになれないなんて、間違ってるよ」
「イッセー、さん?」
アーシアは俺の方を目を丸くして見ている。
……俺はアーシアに救われている。
あの日、フリード・セルゼンが殺した男の人を俺は救えなかった。
目の前で死んでいる姿を見て、後悔した。
守れなかったことを、死なせてしまったことを。
だけどアーシアが彼の傷を癒し、せめて安らかに眠って欲しいと思ったら、あの男の人は安らかな顔になった。
……アーシアは知らずの内に俺を後悔の渦から救ってくれたんだ。
だからこそ、俺がアーシアを救わないといけない。
「アーシアがいつ間違った? 悪魔すらも治してしまう優しい力なのに、それを追放した協会は大馬鹿野郎だ。勝手に聖女とか崇めて、最終的に魔女何て言うのもお門違いだ」
そして俺は片手アーシアの手を握り、もう片手で頭を撫でた。
臭いことをしてるのはわかってる……でもしなきゃいけない。
この子を……アーシアを守りたい、救いたい。その心を、せめて救いたかった。
「もしも今の俺の言葉を神様が聞いているとして、それでアーシアを神様が裁きに来たとしたら―――アーシアを守るために戦うよ」
「い、イッセーさん?」
「神様だろうが、魔王だろうが、ドラゴンだろうが……その全てを俺が全部倒す。それでアーシアを笑顔にしてみせる」
そして俺は「それに」、と繋げた。
「俺はアーシアのことを、友達と思ってる。友達はさ、なってやるじゃないんだ。―――なってるものなんだ! だからアーシアは俺の大切な友達だ。そんで俺は、友達は死んでも守る!」
「とも、だち?」
「そうだ、友達だ! ほら、友達がいるんなら、もう神様の試練なんか無視すればいい! 俺は信仰とかは分からないけど、人を不幸にする教えなんかいらない!」
「イッセーさんは……私の友達になってくれるんですか?」
「なるんじゃないよ。一緒に遊んで、笑って、それでもう友達だ! だからよろしく、アーシア」
アーシアはそう言うと……涙を浮かべてるけどすっきりとした、笑顔を俺に見せてくれる。
嬉し泣きだと良いな。
そうだ、この笑顔を俺は守りたいんだ。
だから俺は―――こいつらを、アーシアをどうにかしようとする連中を。
消し去ってでも……倒してやる。
「―――友達?そんなのは無理よ」
……その時、俺の知っている声が上空から聞こえた。
しかしそれは既に俺も探知して知っていた―――堕天使。
「アーシアが逃げ出したと聞いて急いで追いかけてみたら、まさか男とデートしてるなんてねぇ……。アーシアに妬いちゃうわ」
本気で言ってない……こいつはそう、小猫ちゃんを襲い、そして俺を殺した女の堕天使だ。
相変わらずの下品な恰好で噴水口の上に浮いていて、そして気味の悪い笑みを浮かべている。
「あれ? もしかして兵藤一誠君?あはは! あなたはまだ生きていたのね!」
「……変態堕天使さん、あんた相変わらず恥ずかしい格好をしているんだな」
「あなた、一度殺したはずなんだけど……もしかしてあなた、悪魔になっちゃったの? うわ、最悪」
堕天使は俺を潮笑する。
こいつは典型的に悪魔を下等と思っているタイプか。
いや、自分の種族以外の全てを下に見ているタイプだ。
「れ、レイナーレ様……」
するとアーシアが俺の隣で見知らぬ名前を呟いた。
なるほどな……。この堕天使の名前はレイナーレっていうのか。
それにしてもアーシアがこいつらの元から逃げた、か―――つまりこいつはアーシアの敵というわけだ。
アーシアはその堕天使の存在に恐怖し、体を震えさせながら俺の陰に隠れた。
「アーシア、帰って来なさい。あなたの力は私の計画に必要なものなの。だから……」
俺はアーシアに近づこうとする堕天使にそこに落ちていた小石を投げた。
それは堕天使の足元に衝突し、それは制止を促した。
「アーシアに近づくな、堕天使レイナーレ」
「汚らしい悪魔が私の名を」
「汚いのはお前だろうが―――欲望で天使から堕ちた半端者の癖に良く言うな」
……レイナーレの表情は、その言葉で明らかに憤怒のものに変わった。
手にはあの時、俺を殺した光の槍がある。
「……あなた、たかだか
「……あっはは! その龍の手に手こずった堕天使は誰だよ―――下級堕天使風情が、調子に乗るのもいい加減にしろ」
―――俺は全ての殺気を真正面でレイナーレに送った。
そしてなるべく堕天使を怒らせるように笑って、煽ってやる。
そうだ、こいつから冷静力を失わせる。
……それに俺もそろそろ舐められるのにイラついてたんだ。
何だかんだでグレモリー眷属は俺のことを下に見ている節があるし、それに―――殺されたことに対する恨みだってある。
「―――いくぞ、ブーステッド・ギア」
『Boost!!』
俺は籠手を出現させて、一度目の倍増を溜める。
「このくそ悪魔ぁぁぁぁ!!!」
堕天使は光の槍を俺に打ち込んできた。
俺はそれを神器でいなして避け、そして堕天使の近くに近寄る。
神器が少しでも正常に動いていれば、こんな堕天使に俺は負けない!
俺は低し姿勢のまま、自身の最高速度でレイナーレに近づき、そして懐に入る。
「な!? 早い!!」
ああ、お前が油断してくれたおかげでたった一回の強化でお前の元までたどり着いた。
『Boost!!』
ちょうどそこで二度目の倍増!
俺は腕を振りかぶり、そして未だに防御態勢を取っていないレイナーレに対して拳を撃ち放つ!
それはレイナーレの腹部にめり込み、その瞬間―――
『Explosion!!!』
倍増の力を解放し、ゼロ距離から倍増した身体能力でレイナーレを殴り飛ばした。
確実に内臓に影響を及ぼす攻撃法。
レイナーレは成す術もなく公園の木々に衝突する。
口元からは血が流れ、そして俺はそれに近づいて行った。
「終わらせるぞ、堕天使」
俺がそう呟き、そしてトドメを刺そうと魔力を拳に集中した―――その時だった。
「き、きゃぁぁぁぁぁああああ!!!」
ッ!!
突如、後方よりアーシアの叫び声が聞こえる!?
俺はその方向を見ると、そこにはスーツを着た、死んだ次の日に俺を襲いかかってきた堕天使の姿があり、更に元には気絶したアーシアが抱え込まれていた。
俺は方向転換してアーシアを拘束する堕天使の方に向かって走るが、スーツの堕天使はアーシアを抱えたまま、先ほど俺がいた場所に翼で飛んでって、そして着地した。
そして木に背を任せているレイナーレに手を差し伸べた。
「レイナーレ様、油断がすぎますぞ……。それとそこの小僧は良く分からぬ。貴方は早く、
「わ、私を馬鹿にした上に傷つけたあの悪魔を放っておけっていうの!?」
「辛抱て下され。あの悪魔は私が相手をしておきます故……」
するとスーツの堕天使は光の槍を幾つにも創る。
「アーシア! ?アーシアをどこに連れていくつもりだ!!」
「ふん、あなたには関係ないわ……。そこのドーナシークにでも殺されているがいいわ」
そう堕天使が呟くと、あいつはアーシアと自分の体を黒い翼で覆い、そして次の瞬間、一瞬の光とともに黒い羽を撒き散らしてその場から……―――消えた。
俺はアーシアが連れ去られるのを呆然と見て、そして頭の中は考えることで精一杯になった。
『Boost!!』
……アーシアを、どうして俺は奪われた?
『Boost!!』
何で俺は油断してたんだ……
『Boost!!』
考えれば分かることじゃないか……仲間が潜んでいることぐらい。
『Boost!!』
なんで俺は!!
「……貴様、何者だ。たったの数分足らずでどこまで力が―――貴様の神器は……!?」
「俺は……馬鹿だ」
そうだ―――こいつを最初から、襲われた時にさっさと潰しとけば、こうならなかった。
アーシアを守れたかもしれない……でもまだ遅くない。
そうだ。……力を求めれば、覇を―――求めれば。
そうすれば全てを守れるかもしれない。
だから…………ッ!!
『―――……違うでしょ、―――の馬鹿……そんなの、ダメに決まってるよ―――』
――――――――――なん、だ?
今、どこから声が……それに今の声は―――ミリー、シェ?
……その声を聴いた瞬間、俺の歪みかけていた心が元に戻る。
今の声が幻聴で、ミリーシェの声でなかったとしても……今、少しだけ冷静さを取り戻せたから。
……ったく、俺は今、何をしていた……覇は捨てたと思ってたのにな。
こんなんじゃ駄目だ―――あいつに顔を合わせることも出来ない。
『Boost!!』
「なんでもいい……ただ、俺はお前らを許さない」
「ッ! この力は、魔力は!!? やはりそうなのか!? 貴様は!」
堕天使が何かに気付いたようだった。
奴は焦るように光の槍を俺に投げてくる―――それと同時に俺は力を解放した。
『Explosion!!!』
光の槍は、俺の強化した魔力が、オーラと化したものが受け付けず、消失させる。
「なんてことだ……貴様は、まさか」
「―――呆けている場合か?」
俺は自分の力が一瞬で無力化されて呆けている堕天使に一気に近づき、そして顎下からアッパーを放つ。
そして足で空中に浮かぶ堕天使を連続で蹴って、更に宙に浮かばせ―――そして手の平をそっと堕天使に向けた。
「……消えろ―――
次の瞬間、俺の籠手より極大の、力を凝縮した魔力弾を放った。
「赤、龍……帝…………」
……怒りに狂ったドラゴンのような魔力弾は堕天使をあっという間に飲み込み、堕天使はその一撃になすすべもなく全ての力を失い、体はボロボロになって倒れた。
既に虫の息だ。
『Burst』
……神器の機能が制止する。
関係ない、また無理矢理でも使ってやる。
「……死にたきゃ勝手に死ね。罪を改めるなら勝手に生きろ―――だけど覚えておけ。もし次に俺の前に現れた時。……その時は生き残ったことを後悔させてやる」
……多分、あいつならこうするだろう。
俺はあの時に聞こえた、幻聴の面影を思い出しながらそう呟いた。
……することは決まってる。
今助けに行く。
だから待っていてくれ。
―――アーシア。