ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~ 作:マッハでゴーだ!
俺、兵藤一誠にとってドライグとフェルの存在は、ただの相棒でも契約者でもなかった。
幾多の視線を共に抜けてきて、時には笑い、時には泣いて、時には悔いて……そんな色々な状況で、いつも俺の傍にいて力を貸してくれた二人は―――俺にとっては、家族と同然だった。
ドライグがパパドラゴンって誇らしく威張って、フェルがドライグと夫婦のことを頑なに否定するためにマザードラゴンと名乗って、本当に楽しいと思える日々だ。
……今、その二人は俺に力を貸してくれない。
フェルは一連の出来事で心を閉ざすように俺の深奥に沈み、ドライグの力は謎の力の干渉でうまく作用しない。
フェルの残した腕も既に晴明との戦闘によって宝玉も消失し、奥の手も使用しきった。
……その甲斐からか、既に戦況は逆転する。
「まだ、だ……俺はまだ、お前を屠れる力を残している……っ」
しかし、晴明は未だに俺を殺すことを諦めてはいない。
朱雀と父さんの乱入により俺を追い込んでいた戦況は引っくり返されている状況でも、晴明の執念は未だ消えていない。
……俺の神器の力を無効化する力の正体は不明だ。
ただ一つ、分かることは―――俺が完全に意識を外した死角に、狙ったように魔法陣が展開される。
特に神器を展開した瞬間にそれだ。
恐らくは謎はそこにある。
「聖十字架、紫炎を―――散らせ……ッ」
すると晴明は少し苦痛の表情を浮かべつつ、聖十字架より紫色の炎を放ってきた。
俺はそれを手に集中させた魔力に火の性質を付与させた火炎で対抗し、多少の拮抗をしている間に晴明の懐に入り込む。
……体全身に魔力を巡らせ、一時的に身体能力を激変させる俺オリジナルの魔力応用の一つ、オーバーヒートモード。
元々は神器が使えないという自体を想定して、強者と神器なしで渡り合えるようにするために作り出した技だ。
……いずれ自分の神器を攻略されることは分かりきっていたからこそ試みだったけど、今の精度なら中々の力を発揮できる。
自己評価で、この状態でも上級悪魔クラスならば渡り合えるだろう―――最も、晴明と渡り合えているのはそれまで他の手であいつを消耗させ続けていたからだけどさ。
俺は無防備な晴明に対して腹部にフックを放ち、そこから腰をくねらせて晴明の横腹に回し蹴りをする。
晴明はその一瞬の判断で仙術の力で身体防御力を高めて何とか倒れないようにするが、あいつが仙術で身体能力を底上げするのと同じように俺も魔力で身体能力を底上げしている。
……オルフェルの時は皆無であった魔力が、兵藤一誠である今は満ち溢れているのは父さんのおかげなんだろう。
父さんのあの魔力量は俺に順ずるものがある。恐らくは父さんの魔力量の多さが俺に遺伝したんだと思う。
……晴明は聖十字架を自分の背後に浮かばせ、妖刀との同調を未だに継続している。
あれらの力は確実に代償を含む力だ。
聖十字架然り、妖刀然り。
これまであいつがそれを十全に扱いこなせていたのは仙術の力だろう。
余計な気の流れを正し、不純な力を制御していた―――その均衡が崩れかかっている。
「……そういえば、結局お前には何も聞いていなかったな」
「なに、を? もう俺は、君と話すことなど」
「―――朱雀のことだ」
俺の呟きに晴明は言葉を失った。
……俺は晴明と戦いながら、ずっと思っていた。
―――晴明はどこかがずれていると。晴明は何かが歪んでしまっていると。
朱雀を殺したあのときから、晴明の行動は支離滅裂だ。
人間の味方であるといいつつ、自分の実の弟を殺害した歪み。八坂さんの暴走を許容している歪み。
……あいつの動きは英雄派の中でも奇妙だった。
ガルブルトが従えていたメルティがこの戦場に現れても、あいつは特に気にすることなく、最初から来ることが分かっていたと思うしかないほどの対応をした。
メルティの力を理解したうえで、俺を追い込んだ。
―――つまり、そういうことだ。
あいつら英雄派、その中でも晴明派の連中はガルブルトのいる派閥と密接に繋がっている。
ガルブルトが行おうとしているのは八坂さんの暴走。そして京都から八坂さんが、九尾の狐がいなくなればどうなるか。
―――京都にたちこめる、人間にとっては毒でしかない瘴気が漏れ始め、京都は壊滅する。
あいつはそのことを知っていてなお、この強行作戦を実行しようとしている。人間の味方であるというのに、結果としてあいつの行動は人間を殺そうとしている。
……曹操がこの戦場に現れない理由はたぶんそこなんだろう。
曹操の思い描いていた理想と、今の戦場はあまりにも違いすぎているから、あいつは独断で動いている。
―――そこまで考えて、俺は晴明を改めて見た。
最初、あいつを見たときとは全く違う晴明の顔があった。
歪みに歪んだ、自分が何をしているのかも分からないと言わんばかりの表情。
あいつの身に纏うものは、今のあいつを象徴するように歪なほどに入り組んでいる。
妖刀、聖十字架、仙術、妖術……それ以外にも、あいつの体より感じる力は分からないほどに複雑だ。
……俺は晴明に問いかける。
「お前はどうして、朱雀を殺した? ……いや、違う。
「なぜ殺せた? そんなもの―――何故だ?」
―――そのとき、途端に晴明の表情がおかしなものになった。
それまで苦悩に苦悩を重ねていた表情が一転して、キョトンとした表情になる。
「俺が朱雀を殺したのは何故だ? 考えてみれば、どうだ。よくよく考えてみれば、俺は何故あいつを殺した? 人間であり、弟である朱雀を……? 正当防衛? いいや、違う。そんなことしなくても俺は圧倒できていた。ならばなぜ俺は、……」
「晴明、お前は何を言って」
突如、一心不乱に何かをぶつぶつと呟き始める晴明に少なからず驚きを隠せなかった。
いくらなんでも、これはおかし過ぎる。
これではまるで―――
「―――壊れているのか? お前は」
つい漏れた言葉に、晴明は反応を示した。
……よく考えれば、晴明の目をしっかりと見たのはこれが初めてかもしれない。
―――晴明の目は、恐ろしいほどに濁り切っていた。絶望を通り越したような狂人の目。
「……朱雀は生きていたら、いずれ俺の障害となる。だから、だから……殺したまでだ」
「……晴明、お前は一体、何を考えているんだ」
「俺は悪魔を殺す。三大勢力を滅亡させる。そのために、……そのためだけに!」
……晴明から展開されるのは紫炎。
更に妖刀とのシンクロにより目が黒く染まり、仙術の力により体が青白いオーラに覆われる。
「神器が無効化される君は、今の俺の敵ではない! 君の持つ白銀の腕も存在しない! 今ならば、君を殺せる!!」
「……それが本当に、お前の心の底からしたいことなのか?」
―――魔力を体中に過剰供給し、廻らせ、肉体そのものの能力を驚異的に向上させる。
手にはアスカロン、無刀を携えた二刀流。更に気休め程度に籠手を展開し、更に残りのワイバーンをも展開した。
晴明が俺に向かい来るのに対し、俺は撃退という選択肢を取る。
晴明の力は言ってしまえば万能型と言える性能を誇っている。
接近戦は仙術や妖刀によって何の不甲斐もなくこなし、中・遠距離戦は神器と妖術でこなす。
現状、俺に足りていないのは圧倒的に遠距離武器だ。
ならば俺に残されたカードはもう超近距離による剣戟と打撃戦しか残されていない。
……晴明の実力は、曹操より二回りほど劣る。
しかもかなり消耗している晴明とでならば、何とか渡り合えるはずだ。
―――晴明の刀が俺の首を切り落とそうと迫るも、アスカロンでそれを弾き飛ばす。
すると次は紫炎を翼のように振るうも、次の動きを読んでいた俺はそれを斜め前に身を乗り出して避け、晴明の背中を二度三度、蹴り技を放つ。
「ッ! まだだ!!」
晴明の次なる手は、紫炎を妖刀に纏って振るう斬撃。俺はそれを籠手を盾にして防ごうとする―――と同時に、魔法陣が自分の死角から一瞬で展開されるのに気づく。
……何度も何度も同じ手ばかりじゃ、不意打ちも何もない。
その魔法陣がたとえ俺の死角であろうが、最初からその死角は俺が意図的に作ったものだ。
だからこそ―――その魔法陣に向けて、無刀の何もなき刀身が向いている。
魔法陣が俺に対して何かをしようとした瞬間、魔力を無刀に注ぎ、そして魔力の刃で魔法陣ごと何かを貫く。
―――すると、何か肉を抉るような嫌な感触が俺に伝わった。魔法陣はすぐさまに消え、俺は晴明の斬撃も籠手で受け止め、そのままカウンターで晴明の腹部に無刀で斬り傷を負わせた。
晴明は表情を歪め、俺から距離を取って紫炎を放つ。
―――聖なる炎には、聖なる龍を。
俺はアスカロンから聖なる光を轟かせ、それを龍のような形に成型して放つ。
「唸れ、アスカロン―――あいつを、掻き消せ」
簡潔な言霊をもらすと、アスカロンは俺の言霊に従うように紫炎を飲み込む。
その現象を軽く視線で送りつつ、俺は距離を取った晴明に一気に近づく。
『Boost!!』『Explosion!!!』
ここでようやく数段階溜まった籠手の倍増の力を解放し、更に身体能力に拍車をかける。
晴明は大技を放ったことで俺の動きに目がついてこず、懐に入った時点でもう防御不可能なところまで追い込んでいた。
俺は倍増の力を全て籠手に乗せ、そして―――晴明の頬に、全力で鉄拳を放った!!
「―――ッ!!!」
晴明は俺に殴り飛ばされ、そのまま建物へと突撃した。
俺は手の平に魔力球を作り、晴明に追撃を放つ……も、俺の前には先ほどの無粋な魔法陣とはまた違うものが展開され、俺の攻撃は防がれた。
「……これでも彼は俺たちのトップの一人でね。あまり乱暴な真似はよしてくれるかい?」
「お前は、ゲオルク? ……お前が乱入してくるってことは―――」
「お前のところのヴァルキリーの女は既に倒している。ほら、あちらを見ろ」
俺はゲオルクの指差すほうを見ると、そこにはヴィーヴルさんに回復をされているロスヴァイセさんの姿があった。
……あのロスヴァイセさんを圧倒したのか、こいつは。
「曹操不在の今、晴明を倒されては困るな。……戦況は芳しくない。出来れば撤退を願いたいところだが―――それを赤龍帝からすることの困難さを知っているさ」
ゲオルクは眼鏡のクイッとあげて、溜息をつきながら自身の背後にありとあらゆる魔法陣を展開した。
「とはいえ、既にそこまで消耗しきった君を倒すのはそこまで苦労はしないだろう。……と油断もしない。君の強さと恐ろしさは曹操から聞き及んでいる。窮地になればなるほど、君はそれを諸共せず逆境を跳ね返す。だからこそ、手加減抜きの最大火力で君を屠ろう」
……ゲオルクの魔法陣が俺に放たれようとなった瞬間、俺の後方より凄まじい速度で近づく一つの影。
―――黒歌は俺を守るように複雑な魔法陣を幾つも展開し、ゲオルクの急襲から俺を守った。
更に
「封を解く―――厳格なる破龍よ、滾り打ち壊せ」
―――違う方向から、ゲオルクに対して破壊の力を行使して牽制する朱雀の姿があった。
朱雀はメルティと戦闘を繰り広げながらも、こちらに意識を向けて力を行使した。
……俺の眷属の登場に眉間に皺を寄せるのはゲオルクだ。
「黒歌、君はジャンヌとクーの相手をしていたはずだが」
「ああ、あの小娘共なら適当にあしらって来たにゃん。残念だけど、この戦況はもうあんたたちの不利にゃん。ほら―――」
黒歌の言葉と共にどこからか飛ばされるように飛んできたのはジークフリート。
その体は血でひたすら滴っていて、しかし目が恐ろしいほどに血走っている。
更に黒歌を追うようにゲオルクの傍に降り立つのは埃塗れで傷も多く付いているクー・フーリンとジャンヌ。
……更に―――殴り飛ばされる形で、ボロボロのヘラクレスが吹き飛んできた。
「がぁっ―――」
「……なるほど、そうか」
ゲオルクは何かを察したように眼鏡を整え、回りを見た。
……俺も周りを見る。
俺の周りには、最初と同じように仲間が終結していた。
ただ最初と違うのは匙が八坂さんのところに行っていないことと、父さんがいること。
そして一番驚いていることは―――
「お? やっほー、イッセーくんじゃあーりませんか。これはまたまた、傷だらけで傷も滴るいい男ってか? ひゃはははは」
「……お前が救援に駆けつけてくれると思ってもいなかったぞ、フリード」
祐斗を肩で支えながら、俺の元に駆けつけたフリードの存在に驚きを隠せない。
っていうかどうやってこの空間に入ったんだよ。
「んん? あ、もぉしかして、俺がどうやってここに来たかって? んなのお前さんとこの悪い堕天使さんの手回しに決まってんじゃーん」
「……あのやろう、俺に相談もなしで」
心の底でアザゼルに憤りながら、俺は息を吐いて前に出る。
……すると建物奥より物音が響き、そこより晴明が這い出てきた。
ゲオルクは晴明に軽く目を向けるも、すぐに晴明に道を空ける。
そして晴明は俺と同じように、英雄派の前に立った。
「……兵藤一誠。悪魔が憎い。三大勢力は悪だ。人間を利用することしか考えていない」
「なら晴明。お前のしていることもまた、悪でしかない。人間を殺し、更に多くの人間を殺そうとしているのはお前も同じことだ」
―――俺の言葉に耳を疑ったのは、俺の仲間たちだけではない。
あいつを除く他の英雄派。特に曹操派の面々が晴明に突き刺さるほどの視線を送っていた。
……それが英雄派の中でも派閥で分かれている所以である理由ということを理解する。
わざわざ二大トップの曹操と晴明で派閥を分けているのは、英雄派の中でも考えに違いがあるからだ。
それぞれの派閥の態度というか、在りようを見ればなんとなくだが納得できる。
曹操は英雄の鑑のような男で、敵でありながら敵でありたくないと思わせるほどのカリスマ、人徳がある。その曹操を慕う曹操派はこちらに対して敵対的ではあるが、そこまでの敵対心を抱いていない。
……でも晴明派は違う。
晴明派はどこか歪んだ人物で構成されている。晴明を筆頭に、反英雄としてしか見えないヘラクレス、ヴァーリと同じく戦闘凶であり英雄とは程遠いジークフリート、敵をおもちゃで遊ぶように戦うクー・フーリン。
―――間違っている。あいつらを、晴明派をこのまま野放しにはできない。
あいつらは危険だ。
「この京都から八坂さんが……九尾の狐が消えれば、この都の人間と妖怪の世界の均衡は崩れ、瘴気が地上に蔓延する。そうすれば人間がどうなるか―――晴明、お前なら最初から分かっていただろ。それを分かった上でガルブルトをこの戦場に招き入れた。そしてその現状がこれだ」
八坂さんが敵の手に渡り、現在の状況が生まれている。
……ふざけている。
英雄を名乗りつつ、それを許容する晴明も、それについていく晴明派。
―――父さんがヘラクレスに怒る理由が今になってよく分かる。
「―――晴明、お前は薄っぺらい。お前には、自分がない」
例えばヘラクレスが曹操や晴明に乗っかっているように、晴明もまた誰かの何かに頼っているような気がする。
その誰かが、この騒動の全ての元凶で黒幕。
晴明はこの騒動の黒幕なんかではない。
晴明が誰かに乗っかって、誰かに影響されて、そして誰かの影響で俺の知る「土御門白虎」は壊れ、「安倍晴明」が生まれてしまったのであれば、全て繋がる。
晴明の歪みの全てが全て繋がる。
「土御門白虎が何故そうなってしまったのかは俺にはわからない。でもな、何があろうがお前が歪んだのはお前の弱さだ。―――ガルブルトの陣営のトップ。そいつがお前たち晴明派を影で支配してるんじゃないのか? なぁ、晴明」
「……はっ。何を言っているんだか。俺の弱さ? そんなものはない。俺は歪んでいない。俺は俺の意思で英雄派を率いている。瘴気など、俺たちの力があればどうにでもなる」
「俺が言っているのは結果論じゃない。少しでも人間の脅威を許容するのが、その時点で反英雄だ。結果の過程で犠牲を許容する考えはお前たちの頂点の考えとは逸れすぎている」
晴明の言い訳を切り捨てるように、俺は言い切る。
……そんな俺を不安そうな顔で見ているのは、朱雀だ。
朱雀は不安げな表情で俺と晴明のやり取りをただ見守っている。
本当は自分が一番晴明と話さないといけないと思っているのにもかかわらず、朱雀はそれを俺に譲ってくれていた。
―――この場で真実を明らかにしないといけない。
でなければ、何か最悪な事態に陥るって気がした。
「……晴明、どういうことだ。俺はお前に説明を要求するぞ」
すると曹操派に属するゲオルクが納得できない表情で、晴明に食いかかった。
それはゲオルクに限らず、同じく曹操派に属するジャンヌも同じ。レオナルドはゲオルクの袖を握って不安そうにその光景を見守っていた。
……ゲオルクは晴明の肩を掴み、彼に問いかけ続ける。対する晴明はそんなゲオルクはじっと睨み付けるだけで、言葉を発することはしなかった。
「なぜ、何も言わない……ッ。それはつまり、赤龍帝の言っていることが事実であると、そう言っているのか!? 答えろ、晴明!!」
「…………」
ゲオルクは声を荒げ、晴明に対して怒鳴り散らす。
晴明の胸倉を乱暴に掴んで鋭く睨み付けるも、晴明は何も言わず―――
「―――そうだよ」
―――何も言わない晴明の声の変わりに聞こえたのは、母さんの声だった。
いつの間にか俺の隣まで歩いてきていた母さんは晴明を真っ直ぐ見て、確信を持つようにそう断言する。
突然の母さんの登場に目を見開くのは晴明。
母さんの登場と言葉とともに、晴明には明らかな同様が見られた。
「ま、どか……さま」
―――そしてはっきりとした声で、そう呟いた。
……今、ようやくはっきりした。晴明が異常に「兵藤」の名前に拘る理由を。
晴明は元々は土御門の人間。つまりは―――あいつは、母さんのことを知っているんだ。
しかも母さんのことを「まどか様」と呼ぶってことは、慕っていたということと同意。
……ここにきて、晴明の表情は初めて違う表情になった。
まるで―――不安に押し潰され、助けを求めるような顔。
そんな表情を前にして、母さんは静かに言い放った
「―――リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。君の心の声の雑音の中にあった、一つ名前。それが君の心を支配する存在の名前だよ」
リゼヴィム・リヴァン―――
俺たちや英雄派に空いている空間に一つの魔法陣が展開され、そして俺たちの周りを囲むように無数の魔法陣が展開される。
……その魔法陣には見覚えがあった。
その魔法陣はルシファーの文様―――ヴァーリの扱う魔法陣と同じものだ。
そのルシファーの魔法陣から現れるのはサーゼクス様と同じ魔王装束を身にまとう銀髪の中年男性。
しかしその容姿どこかあいつと似ていた。
……そういうことか。
以前、アザゼルから聞いたことがあった。
冥界には超の付く実力者には称号が付き、例えばガルブルトやシェルさん、ディザレイドさんは三つの家柄の名をとって「三大名家」。
四人の魔王には「四大魔王」といった称号があるのと同じで、冥界のある三人の悪魔に対して、とある呼び名があるということを。
悪魔の中でもあまりにも実力や力が桁違いすぎて、本当に悪魔であるのかと疑われるほどの実力者。
冥界に三人しかいない、最強の悪魔。
その一人は言わずと知れたサーゼクス・ルシファー。もう一人は同じく魔王であるアジュカ・ベルゼブブ。
そして最後が――-
「―――ちぃ~っとばっか登場には早すぎんだよねぇ~。ほんとに晴明くんはしょーがねーくそ野郎だぜ? あひゃあひゃあひゃ!!!」
―――その男は悪意を振りまく。
その男は真性の悪魔だ。
悪意に満ちた表情を浮かべ、俺たちに顔を向ける。
その恐ろしいまでの悪意に、母さんは倒れそうになる。父さんはそんな母さんを受け止め、悪意を振りまく男をにらみつけた。
……男はいまだふざけた笑みを浮かべて煽るように、扇動するように―――まずは自己紹介と言ったように、言い放った。
「―――俺の名前はリゼヴィム・リヴァン・ルシファー。ん? 敬うことを知らないのかい、チミたちぃ~? おじいちゃん、頭が高いぞぉ~? ひざまづけよ、うひゃうひゃうひゃ~!!」
―――こいつが、黒幕。
前ルシファーと悪魔の母といわれるリリスとの間の子供で、聖書には「リリン」という名前で記載されている真性の悪魔。
―――リゼヴィム・リヴァン・ルシファーの登場と共に俺たちの周りに無数の生命体が魔法陣から現れた。