ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第12話 乱戦

 俺と曹操は互いに持てる力を出しながらも、五分五分であった。

 俺は自身の力の一部である守護飛龍で母さんとアーシアと九重を乗せながら、曹操と戦いながら移動をしていた。

 俺もこれ以上負担を考えない戦い方は出来ないため、既に発現させていた白銀龍帝の双龍腕と赤龍帝の鎧を上手く使いつつ、曹操の奇策に対抗。

 逆に曹操は流石と言うしかないほどの戦闘センスを見せて俺に猛威を振るう。

 それを長い時間続け、俺たちは出せる最大の一撃をぶつけ合い、それでも決着が着かなかった。

 それから曹操は俺の前から消え、俺は近くに皆の気配を感じて更に移動し。

 そして今―――英雄派と俺たち三大勢力が向かい合う状況となった。

 多少の欠員はいうものの、今集結できる最大戦力同士だ。

 英雄派の先頭に立つ晴明はこちらを見ながら、何か言いたげな表情であった。

 

「……どうしてその方が、戦場にいるんだ」

 

 晴明は小さな小声でそう呟くが、俺には何を言っているのかは分からない。

 ただ一つ分かることがあるとすれば、あいつは―――怒っていた。

 それだけはすぐに理解できた。

 

「英雄派、今より戦闘を開始する。今、この場にはいない曹操に変わり俺が指揮を取る―――奴らを潰すぞ」

 

 晴明は鞘から妖刀を引き抜き、人間としては規格外の速度で俺へと向かってくる。

 俺は籠手からアスカロンを引き抜き、刀を振るう晴明の刃を受け止めた。

 

「何に対して怒っているのかは分からないけどな。お前には言わなきゃいけないことが山ほどある」

「……知らん」

 

 晴明は手元に御符を展開する。

 その御符は晴明の周りに円を描き、そして次の瞬間、姿を消失させた。

 ……なるほど。あいつは妖術使いってわけか。

 

「……だけど繊細さが足りない。殺気を隠せないようじゃ、姿を消しても意味はないぞ」

 

 ―――俺は上空で妖術を編んでいた晴明に向けて、魔力砲を放った。

 俺の察知通り、そこには姿を眩ました晴明がいて、晴明は舌打ちをしながら妖術を放棄し、人間離れした動きで空を駆ける。

 ……あれも妖術か。

 

追尾の龍弾(ホーミング・ドラゴンショット)

 

 俺は晴明に対して追撃のために追跡する魔力弾を過剰に放つ。

 直撃はしていないものの、晴明の頬や体には小さな傷が生まれ、晴明は他の英雄派のところに戻る。

 

「……これはどうしようもないね。やはり彼の相手は曹操でしか務まらないか」

「へっ、晴明。だらしねぇぞ、あんなほせぇ腕の奴にてこずりやがって」

「……黙ってろ、ヘラクレス」

 

 ジークフリートとヘラクレスが晴明に掛け、それに対して晴明はぶっきらぼうに返した。

 俺はそれを見計らい、周りの仲間に視線を向けた。

 

『…………』

 

 ……気合は十分のようだな。

 俺はそれを理解して、皆に声を掛けた。

 

「今現在の状況は最悪なものに近い。俺たちの前には英雄派が、そして周りにはガルブルトが率いる謎の勢力、そして奴らに操られたであろう八坂さんがいる。―――皆、全員一緒に生き残るぞ」

『了解!!』

 

 声が揃い、俺たちは各々の武器を片手に戦闘を開始する。

 しかしその組み合わせが予定と変化していた。

 

「さて、少々予定を変更です―――木場祐斗くんにゼノヴィアさん、紫藤イリナさん。あなたたちの相手は僕が一人で引き受けましょう」

「猫のお姉ちゃんと晴明の弟くんは私とジャンヌが相手してあげる♪」

「彼女もまた手の負えない強敵だからね」

 

 ジークフリートにクー・フーリン、ジャンヌは彼らが言う皆の前に立ちふさがる。

 更に……

 

「俺とて何もしないわけにはいかないか……北欧魔術を体得するグレモリー眷属の戦車。君の相手は俺だ」

 

 以前の戦闘には参加しなかった、ゲオルクと呼ばれる黒い制服の英雄派がロスヴァイセさんの前に立つ。

 ……つまり

 

「てめぇの相手はこの俺がしてやんぜぇ!」

「少しは静かにしろ、ヘラクレス」

 

 ―――俺の相手はヘラクレスと晴明というわけか。それに加えてレオナルドの創ったアンチモンスター。

 

「あまり君に暴れられても計画が狂う。君が分かってくれないのであれば、こうせざるを得ないんだ」

「どの口で言いやがる―――覚悟しろ、晴明。報いは、受けさせる」

 

 俺はそう言いながら、腕に付いている宝玉の残り残数を数える。

 ……両腕合わせて、残り6つ。

 曹操との戦闘にかなり減らされたものだ。それでもあいつにまともな傷を負わせられなかったんだからな。

 ……今日はもう、既に一度神帝の鎧を酷使していることに加えて、神器創造もかなりしている。

 出来ることならこの宝玉と鎧の力、そして……守護覇龍で乗り切る。

 

『Full Boost Impact Count 19!!!!!!!』

 

 俺は宝玉を一つ砕き、それを全て身体強化に回す。

 そして強化と同時に駆け出した。

 

「いいねぇ!! んじゃこっちもそれで行ってやん―――」

「―――黙ってろ。お前には用はないんだ」

 

 ヘラクレスが隙だらけに拳を振りかぶった瞬間、俺はコンパクトに体を捻って奴の身体を壊すつもりで拳を放つ。

 その瞬間、奴の身体から折れるような音が響き、俺はヘラクレスを問答無用に殴り飛ばした。

 

「がっ……ッ。なんだよ、今の力は……!!」

「頑丈だけど、残念だな。お前と俺の相性は最悪だ―――無駄だ、晴明」

 

 気配を決して妖刀を振るう晴明に対し、俺は籠手で晴明の妖刀を受け止める。

 晴明は不意を突いたつもりだったんだろうが、俺は妖刀の気持ち悪い雰囲気を嫌でも知っている。

 晴明は御符を展開、妖術による炎の放射を放つも、俺は同じように火種を手元に創り、そこに鎧の倍増の力と魔力を合わせて巨大な炎の息吹きを放った。

 

劫火の龍息(ヘルファイア・ドラゴンブレス)

 

 晴明の炎は俺の劫火に飲まれ、完全に消失する。

 するとヘラクレスはその隙を狙って馬鹿の一つ覚えのように拳を振るった。

 

「ワイバーン!!」

 

 ……曹操によって潰されたワイバーンは合計6体。

 今、アーシアたちの守護に3体のワイバーンを残しており、俺の周りにはまだ2体のワイバーンがいる。

 ワイバーンはヘラクレスの拳を難なく耐え、更にもう一匹が追撃のブレスを放つ。

 ……曹操はその聖槍で俺のワイバーンを6体も潰したのに対し、ヘラクレスは傷一つつけられないようだ。

 

「……本気の君か。あぁなるほど。強いな、強い―――真価を使わないと君とは戦いにすらならないか」

 

 晴明は俺から距離を取り、妖刀を地面に突き刺す。

 ……空気が冷え切る感覚を俺は感じた。

 この感覚、俺はどこかで見覚えがある。

 ……晴明の体から次第に青白いオーラのようなものが湧き出て、風のようなものが息吹く。

 ―――仙術。黒歌や小猫ちゃん、曹操が扱うことのできる素養のあるものが極少数である武の極みの力。

 自然の流れを掌握し、気を操る生命の力。

 ……なるほど。妖術使いな上に妖刀使いで、更に仙術使いでもあるというわけだ。

 

「これが俺の本気だ。ただし俺の仙術の力は―――」

 

 ……晴明が俺の視界から消え、更に刹那の時間で俺に対して妖刀を振りかざしてくる。

 

「君の眷属の黒歌よりも強い」

「……さぁ、それはどうだろうな」

 

 俺はアスカロンで妖刀を受け止め、すぐさま距離を取る。

 ……仙術の力は俺もよく知っている。

 あれは一度でも気をこめた一撃を食らえば、よほどの実力者でなければ気を歪められ、敗北する代物だ。

 事実、黒歌はそれで何度も強者を破っている。

 俺はそれを理解したうえで晴明から距離を取り、更に空中にて宝玉を一つ砕いた。

 それを魔力砲……拡散放射型の魔力の雨の弾丸の性質を付加する。

 

「……血を吸え、童子切安綱」

 

 晴明は自分の人差し指を刀で軽く切り裂き、そこから血を滴り落とす。

 すると途端に刀の刀身は赤く染まり、晴明の目は充血した。

 ……あいつまさか―――

 

「妖刀との同調(シンクロ)!? お前、そんな禁忌に手を伸ばして、ただでは済まないぞ……っ!」

「……禁忌、か。そうは言うが兵藤一誠。案外どうともないんだぞ、これが」

 

 晴明は片手で刀を握り、そして俺の弾丸を次々に切り裂いていく。

 その刀の軌道は一切見えず、俺の弾丸が終わるも奴の体に傷一つなかった。

 ……やはり英雄派の二大トップ。

 そんな簡単にはいかないわけか。

 

「……居合い―――」

 

 晴明は鞘に妖刀を収め、居合い斬りをするために姿勢を低くする。

 鞘には青白いオーラと赤黒いオーラが交じり合い、異様な色を作り出していた。

 

「―――仏殺しの赤子捻り」

 

 ……刀を引き抜くと、そこより放たれるのは凝縮した仙術と妖術と妖刀の力が全て備わった斬撃刃。

 俺はそれを咄嗟に危険なものと判断し、ワイバーンを呼び寄せる。

 ―――そのワイバーンは、いとも容易く斬り消された。

 

「ワイバーン……っ!」

 

 晴明は再び鞘に刀を収める。

 ……第二刃か。俺はそれを理解し、すぐさま奴に近づく。

 懐より無刀を取り出し、そこに魔力を注いで紅蓮の刃を作った。

 アスカロンと無刀との二刀流はよくやる戦法ではある。

 しかし奴の得意な剣術は恐らく居合い斬り。

 その刀の速度でいえば俺を簡単に圧倒している。

 だからこそ、不用意にあいつのリーチに入るわけにはいかない。

 俺と晴明は途端に硬直状態に陥る。……動けばやられる、ということが頭の中を支配する。

 それはおそらく向こうも同じだろう。

 俺を相手にして下手な動きができないことは先ほどまでの戦闘で証明されている。

 俺の得意としている力の一つは、強大な攻撃をいなしたカウンター。

 あいつの先ほどの居合い斬りの技は恐らくは大技……確実な隙はある。

 それを晴明も十分理解しているからこそ、居合い斬りを放たずに力を溜めているんだ。

 

「……こうも動かなければ致し方ない―――行くぞ、兵藤一誠」

 

 ……膠着状態が続くと思いきや、先に動いたのは晴明だった。

 奴は仙術によって底上げされた身体能力を元に、刀を鞘に収めた状態で俺へと近づいてくる。

 あいつは、自分のリーチの中に無理やり俺を引きずり込む気だ。

 しかもあの速度は―――祐斗よりも遥かに速い!!

 いくら仙術によるものと言っても、速すぎる……っ!

 

「無刀!」

 

 俺は無刀を逆手に持ち、刃を出さずに晴明を迎え撃つ。

 片手にはアスカロン、もう片手には無刀。いつものスタイルによるカウンター狙いの戦法だ。

 晴明はそれをわかっていながら、それでも俺へと向かってくる。

 ……なるほど、構わないってわけか。

 

「共に技術を大元にしている戦士だ。無駄な小細工など必要なし。……行くぞ」

 

 晴明が俺を刀の範囲内に捉えた瞬間、瞬時に鞘から刀を引き抜く。

 先ほど見せた斬撃波を刃に込めた一撃だ。

 速度では反応できない。

 だから俺は予測する。

 その刀の軌道、晴明の視線、筋肉の収縮と動き。それらを全て鑑みて、この一瞬で全ての可能性を頭に叩き込む。

 ―――ブラフ。

 俺の導き出した答えはそれだった。

 

「―――ッ!?」

 

 晴明はたいそう驚いた表情をしていた。

 奴の動きは実に異常なものだった。

 居合い斬りをするかと思いきや、あいつは刀をわざと空振りさせて逆手に持ち替え、タイミングを外して俺の脳天を目掛けて切りつけてきた。

 ……視線誘導や直前までの動きは完璧だった。

 だけど

 

「お前が何の策もなしに俺の領域に踏み込むことはないと認識していたんだ。だからお前が何らかの策を持っていて、勝算があるからこそ危険を冒した―――それがお前の一連の動きをブラフということに気づいた理由だ」

 

 ……俺は無刀の鍔で妖刀で受け止め、驚愕の表情を浮かべる晴明を睨み付ける。

 

「晴明。お前の底は見据えた―――次はこっちの番だ」

 

 ……鎧が少しずつパージする。

 ガシャン、カシャンと不要な鎧は俺の体が崩れ落ちていく、それが更なるワイバーンを作り出した。

 ……鎧は現状、重荷にしかならない。

 鋼鉄は肉薄し、奴の妖刀でも簡単に切り刻めるほどに薄くなる。

 ……この状態は、平行世界の一誠のトリアイナの騎士形態に少し似ているかもな。

 まああいつみたいに兵士の駒による恩恵はないけどな。

 

「守護飛龍を率いる龍騎士……そうか、まだまだ手はあるということか……ッ!」

 

 晴明は俺の手札の数に気づいたのか、苦笑いをしながら俺から距離をとろうとする―――が、その動きは遅かったな。

 俺は後方に距離を取った晴明に対してすぐさま懐に入り、足で奴の腹部を蹴り込む。

 

「かはっ……!」

 

 晴明はそれを受け止めることなど出来ず、血反吐を吐いて蹲りそうになる。

 しかしそれが悪手と気づいたのか、踏むとどまって刀を再度構えた。

 それに対して俺は更なる追撃を試みる。

 

「ワイバーン!」

『リョウカイ!!』

 

 俺の周りに控える十数体のワイバーンのうち2匹が、俺の言葉と共に肉薄した俺の両腕に纏わる。

 そして紅蓮の光を放ち、次の瞬間極太の籠手となった。

 

「任意の位置を強化だと……ッ! そうか……。なるほど、お前にはぴったりのスタイルというわけだ。危険になれば飛龍を盾にして、攻撃に転じる場合は分離した飛龍を任意の部分に装着し武具とする―――攻防一体のスタイル。守護覇龍の顕現で生まれた派生の形態か」

「そんな大層なものじゃないさ。要は状況に応じて戦法を常に変えているだけ。これもその一つさ」

「……そうか。―――まだ駄目か」

 

 晴明は妖刀を地面に突き刺し、蹴られた腹部を押さえて俺を見る。

 

「今のままでは俺はお前の相手にさえならない。……出来れば、これは使いたくはなかった」

 

 ……突如、晴明は目を瞑る。

 その瞬間、この空間の全体が冷え切るような感覚に囚われた。

 その発生源である晴明の周りには、仙術による青いオーラだけではなく、紫色のオーラが包まれていた。

 ―――まさか、あれは

 

「……初のお披露目だ。英雄派の仲間にさえ黙っていた俺の力―――さぁ現れろ。神滅具(・ ・ ・)

 

 ―――突如、晴明の周りに身を焦がす紫炎が出現する。

 それは十字架の形を取り、炎による攻撃となって俺へと放たれる。

 俺はそれの正体にいち早く気づき、アスカロンの聖なるオーラを極大にまで倍増させた一撃で何とか消失させる。

 

「……素直に驚いたよ、晴明。お前は妖術使いで、仙術使いで、んでもって―――神滅具さえも宿す存在だったんだな」

「そうさ。しかもこいつは特別だ―――紫炎祭主による磔台(インシネート・アンセム)

 

 ……またの名を、聖遺物。

 聖十字架といわれる聖遺物であり、なおかつ神滅具である極悪な代物。

 悪魔に対しては必殺の力を宿す、曹操の持つ聖槍と同じカテゴリーの神器。

 ……その紫炎で焼かれたものはただでは済まないほどの力らしい。

 ―――この情報はアザゼルから聞いたものだ。

 その際に聞かされていたのは、魔女の夜(ヘクセン・ナハト)の幹部である少女がこの神器の宿主ということ。

 だけどそれを今は晴明が宿している。

 つまりそれは―――奪った。

 

「この神器は継承系の独立具現型の神器でな。前の宿主に譲ってもらった(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)。多少抵抗されたが、まあ問題なかったさ」

 

 晴明は紫炎に包まれつつ薄く笑みながら、そう言い切る。

 ……魔女の夜は禍の団の一勢力。晴明はそんな一応は味方である陣営から力を奪ったのか?

 確かに聖十字架の神器は、その神器に宿る何者かの意思で宿主を継承することは出来る特別なものだ。

 とは言っても継承には互いの承認が必要なはず。

 

「お前がどんな手を使ったとか、そんなことは正直どうだっていい。事情がどうであれ、結論だけ言えばお前は神滅具を宿していただけ―――難しい話は一つもない」

 

 厄介であるのは間違いないけどな。

 内心ではそう思いつつ、俺は周りで戦うみんなへと視線を向けた。

 最初に目に入ったのはジークフリートと対峙する祐斗、ゼノヴィア、イリナの三人だ。

 明日ら

 三人の剣士タイプの戦士を前に、ジークフリートの様子は俺の知っているものとは違い、変化していた。

 その背中には六つに及ぶ赤いドラゴンのような腕、その腕の先に装備されるジークフリートの五本の聖剣魔剣の数々。

 ……祐斗の情報でジークフリートが神器である龍の手(トゥワイス・クリティカル)を宿していることは知っていた。

 さらにそれが従来の形とは違う背中から腕が二本生えてくる特別なものということも知っていた。

 ……それらの情報にない形態ということはつまり、ジークフリートのあれは―――禁手。

 ただしあの禁手は従来のものではない、亜種のもののはずだ。

 

「……ジークフリートがあの形態でやるということは、本気ということか」

 

 晴明がジークフリートを見て、関心するようにそう呟く。

 

「僕の阿修羅と魔龍の宴(カオスエッジ・アスラ・リヴィッジ)を前にして善戦するなんて、やるじゃないか」

「……三人を相手にしていてよく言うよ」

 

 多少の傷を負う祐斗はジークフリートにそう言いつつ、密かに剣を複製し、罠を張る。

 それをすぐさまに理解したゼノヴィアとイリナは、それを悟られぬように動き出した。

 ゼノヴィアは新生デュランダルの聖なるオーラをジークフリートに向けて放ち、更にイリナは持ち前の速度とテクニカルな立体的な動きでジークフリートを翻弄する。

 翼を織り成して空を舞い、空中に浮遊している間に立て続けに光の剣を何本も具現化させ、それをノーモーションで放つ。

 でもジークフリートも負けじと、背中の5本の魔剣と聖剣でそれを全て消し飛ばし、残るゼノヴィアの一撃を魔帝剣グラムで難なく受け止める。

 

「木場! 今だ!」

 

 自身の攻撃が完全に受け止められたのを理解したゼノヴィアは、すぐさまに祐斗にそう言った。

 それと共にゼノヴィアの周りに幾重にも魔法陣が張り巡らされ、次の瞬間、ゼノヴィアの周りの全方位から聖魔剣の嵐がジークフリートを襲う。

 更に追撃のようにゼノヴィアはデュランダルを、イリナは光の剣による斬撃波を放ち続けた。

 

「……そんなものじゃあ、僕はやれないなぁ」

 

 ―――土埃から光のように現れるジークフリートが、攻撃をし終えたゼノヴィアに対して無慈悲な連撃をまともに喰らわせる。

 

「か……ッ!!」

 

 魔剣によって切り刻まれるゼノヴィアが血反吐を吐き、大きく後退する。

 しかしそれすら許さないジークフリートの追撃。

 すぐさまイリナはゼノヴィアの援護に向かうも、ジークフリートはそれすらも予測していたように背中の腕の魔剣をイリナへと瞬時に投げた。

 ―――イリナの脚部に突き刺さる、魔剣。イリナは声にならないほどの悲鳴を上げた。

 

「―――ゼノヴィア、イリナ……ッ!!!」

 

 俺は二人の傷の深さで命の危険を感じ、すぐさま二人の救護に向かおうとする……しかし俺の目の前に討ち放たれる、紫炎によってそれは叶わない。

 

「晴明……ッ!!」

「お前はここで黙って仲間が散る姿を見るしかない。それとも使うか? ―――あの力を」

 

 ……あいつは誘っている。

 俺が守護覇龍の力を使うことを。

 あれはこの戦場において使えば必殺のものとなる力を秘めている。

 そんな代物を使わせようとしているということは、つまり明らかな対抗策をあいつらは持っているんだ。

 ……だけど、現状を考えろ。

 

「……ゼノヴィアとイリナさんは動かないで。僕があいつを引き受ける」

 

 祐斗一人ではジークフリートを相手にするには荷が重過ぎる。

 

「……北欧魔術とグングニルの戦い方は面白いが、扱う貴様がその程度ならば高が知れている」

「……流石はゲオルク・ファウストの子孫といったところですか。あらゆる陣営の魔術を巧み扱い、更に神滅具までも操るその技量―――本当に、どうしたものか」

 

 ゲオルクと戦うロスヴァイセさんも明らかな劣勢。

 

「……いいぜ、晴明」

 

 俺は肩の力を抜き、鎧からパージしたワイバーンを全て呼び戻す。

 ……罠とわかっていても、やるしかない。

 ならば紡ごう。

 この状況をひっくり返す、俺の守護の理を。

 

「我、目覚めるは―――」

 

 俺が守護覇龍の一節を唱えようとした―――その瞬間。

 ……俺の視界が光に飲み込まれた。

 ―・・・

『Side:アザゼル』

 俺、アザゼルとガブリエルはガルブルトを追い続け、そして今は英雄派の企みで奴らの創った空間にて八坂を攫ったガルブルトと対峙していた。

 ガルブルトの真の狙いは八坂の暴走による手駒の強化、更には京都という町を八坂の不在で崩壊させ、更なる悪事を働こうとするものだった。

 

「ったく、しつけぇなぁ。アザゼル」

「それはこっちの台詞だ、ガルブルト。てめぇの行動は一々不気味なんだよ」

「あなたは何を企んでいるかは理解できました。……あなたの行動の裏で手を引く者。それを知るまでは帰しません」

 

 ガブリエルはレプリカの神槍・ブリューナクをクルクルと回転させながら切っ先をガルブルトに向けると同時に動き出す。

 現状ガルブルトの術で暴走状態の八坂をどうにかするにはガルブルトを倒すしかない。

 俺は堕天龍の鎧を身にまとい、ファーブニルを引き出してガルブルトに特攻する。

 ……さて、どう出る。

 

「堕天使と天使のトップクラスを相手にするなら、出し惜しみはできねぇな」

 

 ガルブルトは舌打ちと共に懐から何かを取り出し、それを辺りに分布する。

 

魔蜘蛛の糸(カオス・ペイン)

 

 ―――次の瞬間、俺たちの体を拘束するように幾重もの糸が張り巡らされる。

 ……これは、ただの糸じゃねぇ。

 S級クラスの魔物から極微量取れる強靭な糸を武器にした魔装具の一つ。

 

「ディザレイドはその拳を、シェルは銃を基本武装としているように、俺も糸を武器としているのさ―――ただし、ただの細い糸と思ったら大間違いだ」

 

 ガルブルトは細かな糸を手元で束ね、それを紡いで極太の鞭に姿を変える。

 ……つまり変幻自在ってわけだ。

 糸を紡いであのように鞭のような形態にしたり、はたまた俺たちを包み込むような糸を結界を作ったりと。

 最強クラスの魔物から取れる素材から作られる、冥界における最強クラスの人為的武装。それが魔装具と呼ばれる武具群だ。

 

「そいつは魔力を注ぐことで強度を増す武器だろ? お前の対人から魔力を奪う能力とあいまって、中々面倒な力じゃねぇか」

 

 俺は堕天龍の鎧の基本武装である身の丈以上の巨大な槍でその糸を何とか切り捨て、槍に光の力を注入する。

 ただしあいつは自分と近しい等級の実力者に対しては魔力を奪えない弱点を抱えている。

 俺とガブリエルからは力を奪えねぇはずだ。

 ……目先の目的はガルブルトの殲滅。その後、八坂の救出だ。

 俺たちとは別で動いているイッセーたちは恐らく、英雄派と相対しているに違いねぇ。

 

「「「…………」」」

 

 互いに動けないことで生まれる沈黙。

 ガルブルトは油断していなければここまで警戒しないといけないほどの要注意人物だ。

 最上級悪魔クラスどころか、本質的には魔王クラスの敵。

 ……先に動き出したのはガブリエルだった。

 ガルブルトの一瞬の瞬きを見逃さず、あいつは神槍を片手にガルブルトに特攻をかける。

 天界一の美貌と称されるその容姿とは裏腹な冷徹な、必ず敵を屠るとものを申しているほどの殺気。

 しかしそれは表には漏れず、確実で完璧な無駄のない動きだった。

 

「……っぶねぇな」

「今のを察知しますか」

 

 ……完璧ではあった。

 ただしガルブルトはそれすらも予想していたかのようにガブリエルの槍の牙突を受け流す。

 更に糸をめぐらせてガブリエルを拘束しようとするが、それを寸でのところでガブリエルが避ける。

 その隙を突いて俺は光力を全開に引き出して駆け出した。

 

「馬鹿の一つ覚えか? んな単調な攻撃、いい加減飽き飽きなんだよ!!」

 

 張り巡らされる糸。

 蜘蛛の巣のように張り巡らされた糸の集合体が俺の眼前に迫り、俺は槍を目の前でクルクルと回転させることでそれらを蹴散らそうと試みる。

 ガブリエルは俺への追撃を抑えるために光の武具を空中に待機させ、一斉にガルブルトへと放った。

 ガルブルトはそれに対して焦ることなく糸を極太の壁のように束ね、それら全てから自身を守る。

 

「俺の武器は攻防一体のもんだ。てめぇらの小細工は俺の前では意味をなさねぇ」

 

 防御に徹していたガルブルトは次の瞬間、攻めの姿勢に移行した。

 防御のために使っていた糸を全て攻撃のために使い始めた。

 複数の糸を束ねて体を簡単に貫くであろう鋭い刃を幾つも作り、全方向から俺たちの肉体を殺しに掛かる。

 要所要所で魔力弾を交え、更には自分の周りにはご丁寧に防御魔法陣の完全展開。

 ……やるっきゃねぇよな。

 俺は堕天使の翼を全て展開させ、その翼全てを光で覆う。

 鎧の武装である槍には黄金色のオーラを覆わせ、ガルブルトの攻めに対して特攻を仕掛けた。

 糸は翼で無力化させ、防御魔法陣をぶっ壊すために槍を打ち放つ。

 ガラスが割れるような音と共にガルブルトの魔法陣が崩れ、体勢が完全に崩れたガルブルトに翼で覆っている光を羽の刃として次々に放った。

 

「ちっ……やはりてめぇもあの戦争を乗り越えた強者か」

 

 ガルブルトは一端距離を取ろうとした瞬間、奴の背後に回り込んだガブリエルによる槍の突貫が襲う。

 それに反応しきれず、更に俺による光の攻撃が奴を襲った。

 ガルリエルはすぐさまにその場所から飛び立ち、俺の隣に降り立つ。

 

「悪ぃが、こいつは戦争だ。ガルブルト、お前では俺とガブリエルには勝てねぇよ」

「とはいえ、降参をするほど素直ではないでしょう」

 

 ……ガルブルトの身体はいたるところに傷が生まれていて、今のが致命傷になり得ずとも相当な負担になっていることは目に見えて分かる。

 だけど、こいつもしつこく諦めの悪い奴だ。

 イッセーに圧倒的敗北をしたにも関わらず落ちぶれていないところは、奴を強者と断定させるところである。

 ……ガルブルトは、静かな声音で呟く。

 

「勝てねぇ、か。ああ、てめぇの言う通りだ」

 

 ガルブルトは苦笑をしているのか。……笑う。

 あいつはこの追い込まれた状況で笑っていた。

 

「俺は自尊心(プライド)で出来ている悪魔だ。……だがなぁ、ここまで生き残ってきたのは、俺が強かったからだ。相性とか能力の差とか、戦場ではそんな言い訳通用しねぇ。生き残る奴が、一番強い」

 

 糸が、ガルブルトを中心に舞い踊るように展開される。

 ……ガルブルト、確かにお前は強者だ。

 ―――だけど、お前は誰かを傷つけ過ぎた。お前はもう、ここで消しておかなければ害悪でしかないんだ。

 

「……アナザーアーマー・オーバーフロー」

 

 俺は堕天龍の鎧の切り札を発動する。

 こいつを発動してしまえば神器の行使時間に関わらず、神器は核を残して完全に壊れてしまうが、今はそんなことを出し惜しんでいる暇がねぇんだ。

 この騒動の裏で手を引いている存在には当に見当はついている。

 その黒幕を、これ以上放っておくわけにはいかねぇ。

 

「ガブリエル、こっから先は鎧の力が周囲を否応なく巻き込む。お前は少し離れてろ」

「……それが妥当ですね。わかりました―――後は頼みます」

 

 ガブリエルは俺から離れたことを確認し、俺は力を解放する。

 金色に輝くファーブニルの黄金の力。それがオーラとなり、更に鎧自体が黄金に染まる。

 黒い翼はより純粋な黒になり、煌びやかな光は辺りに攻撃的オーラを放出させる。

 ―――アナザーアーマー・オーバーフロー。

 本来セーブしているファーブニルの力を解放し、負担を全て無視した完全形態。

 こうなった俺は、イッセーやヴァーリでも遅れは取らねぇ!

 

「いくぜ、ガルブルト!!」

「―――アザゼルぅぅぅぅ!!!」

 

 ガルブルトが全ての魔力をつぎ込み、周りに幾重もの魔法陣を展開し、周囲の物体を利用して糸の結界をつくる。

 ……だが、この黄金のオーラは周囲全てに牙を剝く。

 ただ照らされただけで糸は切れる。

 オーラの放出で即席の防御魔法陣は崩れる。

 ―――キシッ。そんな軋む音が耳に入る。

 

「ッ……もうちょい、堪えてくれよ。ファーブニル」

 

 ……いわばこの形態は二天龍の神器で言う所の『覇龍』だ。

 俺ですらその負担に長い時間を耐えることはできない、本当に短期決戦用の切り札。

 鎧は各所でひび割れていく。

 ……関係ねぇ。

 

「お前は、俺の大事な生徒をいたぶってくれたよなぁ……」

「てめぇ、俺の攻撃を無視して……ッ」

 

 ガルブルトの攻撃を全て無視し、例え当たろうとももろともせず、俺は手元の武器で奴に襲い掛かる。

 

「あいつの道に、お前は必要ねぇ―――俺たちの未来に、お前は邪魔でしかねぇんだ!」

 

 ―――ガルブルトの腹部に、槍が迫る。

 防御魔法陣は完全に消え、槍が肉薄したところでガルブルトと目があった。

 

「……てめぇも、赤龍帝の影響か」

「……ああ、そうだな。あいつは面白い奴でさ―――次々に何か救って、次々に色々なヒトを変えていく。面白れぇ生徒だ」

 

 ……ガルブルトの腹部には、最初か仕込んでいたのか、糸がグルグルに巻かれていた。

 俺の槍と、ガルブルトの糸が交差する中、俺たちは会話をする。

 

「……あいつの行く道を、俺は見守ってやりたい。だから―――」

 

 ―――お前はここで!!

 

「―――もう、終わりだ!!」

 

 糸が解け、ガルブルトの腹部に俺の槍が突き刺さる。

 黄金のオーラによりガルブルトは吹き飛ばされ、先の建物に勢いよく衝突すると、その衝撃から建物は倒壊した。

 ……それと時を同じくして、俺の鎧は核を残して壊れる。

 

「アザゼル!」

 

 今まで見守っていたガブリエルが俺に近づいて、俺に気休め程度の治癒をかけてくる。

 ……今のでガルブルトを完全に倒せたとは思えねぇ。だがこれ以上あいつに構っている時間がねぇ。

 現状、暴走している八坂を放っておけば何が起きるかわからねぇ。それほどに九尾の妖怪は重要な存在なんだ。

 

「しかしアザゼル。一体何を使えば八坂さんを洗脳し、暴走させることができるのでしょうか」

「ああ。八坂は実力的には龍王クラスの猛者だ。あいつとまともにやりあえるのは龍王の中では恐らくティアマットだけだ」

「……つまり敵には、そんな八坂さんを洗脳できるほどの強者がいると」

「ああ―――大体目星はついているがな」

 

 ……会話をしている最中、突如地面が揺らいだ。

 激しい地面の揺れに絶えつつ、八坂の方を見る。……八坂は、先ほどまでとは打って変わって物理的に物を壊しつくす暴走に変化していた。

 辺りの建物を壊しつくし、火を吐く。吐いた火の粉でその周りが焼け野原になる。

 

「くそっ! この空間であいつを平常に戻さねぇといけないってのに」

 

 俺は即席の束縛するための魔法陣を描き、そこから鎖を放つ。ちっとばかしダークエルフの技術を拝借して作った偽グレイプニルだが……しかし呆気なく消し飛ばされる。

 ……おいおい、あれ作るのに1ヶ月費やしたんだぜ? 技術者としてプライドが傷つく。

 

「せめて洗脳方法をしればやりようがあるのですが」

「んなこと言っている間にあいつは壊しつくすぞ! ……今できることは、あいつを抑えることだ」

 

 俺は幾重にも光の武具を作り出し、その照準を八坂に向ける。

 八坂は俺からの脅威に気づいたのか、ギロッと睨み付ける。

 ―――俺たちと八坂の膠着状態がしばらく続く中、刹那、俺とガブリエルの横を風のように人影が通り過ぎる。

 更に俺たちの後方より黒炎が放たれ、それは全て八坂へと向かう。

 

「―――静穏・八つ斬り」

 

 ……八の剣戟が八坂にまともに入り、更に後方からの黒炎により体を炎で包まれる。

 刃の見えない刀を二振りこしらえて八坂へと攻撃を放った夜刀神は、動きの鈍くなった八坂の頭の上に乗って、何かを語りかけていた。

 俺はそこで後ろを見ると、そこには龍王形態(ヴリトラ・プロモーション)になっている匙が黒炎をほとばしらせながら、走ってきていた。

 

『アザゼル先生!』

 

 匙は俺たちの方まで来る。

 恐らく八坂の暴走に気づいたイッセーが拘束力のある匙をこちらに送ったんだろう。

 

「お前が無事ってことは、他の奴らも無事ってことか?」

『はい。今、他の皆は英雄派の総戦力と戦闘中です』

「……やはりこの状況は奴らが起こしたことか。つまりガルブルトを含む謎の軍団はそれに勝手に介入したということか」

『……? ともかく、俺の知っている限りでは敵は英雄派だけじゃなくて、なんか邪龍とかいう奴らも出張っているらしいっす!』

 

 ……邪龍という言葉に驚く。邪龍までこの戦いに関わっている?

 俺は頭でそのことを考えつつ、八坂に対して言葉を掛けている夜刀神のほうを見た。

 

「八坂殿、意識を取り戻すのでござる!」

『~~~~~~~~っ!!!』

 

 夜刀神による攻撃の影響か、八坂の動きは鈍いもののあいつを敵と認識しているんだろう。

 だが言葉は届いているというのは今ので認識できた。

 恐らくだが、相手の洗脳は完全ではない。そこに八坂救出の希望がある。

 ……しっかし、その希望がいつもあいつにあるのが申し訳ないよな。

 

「イッセー、お前がやはり中心だ―――ここが正念場か」

 

 ……俺たちがしばしの休憩のように夜刀神を見ていると、俺たちの周りに英雄派とは違う服装の敵が現れ、囲むように包囲する。。

 ―――こいつらが、ガルブルトが所属している謎の勢力の一員ってわけか。

 

「堕天使の総督、アザゼルと熾天使の一人、ガブリエルを確認。我々の討伐対象だ」

「油断はするな。奴らはガルブルト様を退けている。しかし武具の一部を損傷している今が好機だ」

「―――堕天使舐めんなよ、末端。物分りのわりぃお前らにはきついお仕置きが必要みたいだな」

「アザゼル、彼らには聞かねばならないことがあるのです。殺してはだめですよ?」

 

 ガブリエルの小うるさい小言を貰いつつ、俺は目の前の脅威を葬っていく。

 ……俺の生徒たちは無事であることを祈って。

『Side out:アザゼル』

 


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