ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~ 作:マッハでゴーだ!
僕、木場祐斗を含む四人の悪魔は敵を斬り伏せながらイッセーくんたちと合流するため、移動をしていた。
先ほどイッセーくんと通信が通り、彼の無事とそれまでにあった出来事を聞かされたところだ。
……終焉の少女と初めて邂逅したイッセーくん。
僕も一度あったことがあるから分かる―――終焉の少女の歪みを。
面識がないイッセーくんに対する執着は、心の底から異常と呼べるものだ。
僕はこのことに一抹の不安を感じつつ、他の面子を見る。
……ゼノヴィアと霞さんに関しては未だ息を切らしている様子は一切ないが、問題はミルシェイドさんだ。
実力は確かに織り込み済みで、非常に素晴らしいほどの将来性は理解できる。
……だけど、恐らく彼女は実戦経験が未熟だ。
戦闘においてペース配分を無考慮な上に、肉体的にも僕たちよりも未熟。
良く上級悪魔にありがちな、身体が才能に追いついていないと言ったところか。
霞さんが彼女をサポートしているとは言え、着実に僕たちの動きについてこれなくなっていることは目に見えて分かる。
……僕はそこで隣にいる霞さんと目があった。
「木場殿の考えていることは承知の上。恐らくはミルのことを案じているのでしょう」
「……うん。痩せ我慢をしているけど、これ以降の戦闘で支障を起こす可能性がある。彼女もきっと、力を加減するのが苦手なんだろうね」
「ええ。まったく以ってその通り。ミルはパワー馬鹿。故に燃費が悪いのが弱点……。全くサポートするこちらの身にもなってほしいものです」
霞さんが少し苦笑しながらそう呟く。
僕も彼女と同じでゼノヴィアのパワー馬鹿さ加減に苦労しているので、どこか共感めいたものを感じてしまった。
「……しかしながら、それにしても驚きです。もはや感嘆といっても良い―――良くここまで鍛えたものです。この短期間で、効率を最適化している私ですらついていくのがやっとなほどに」
霞さんは感心しているような声で、そう賞賛する。
……そうでもしないと生き残れない状況もあったから、そう思われるのは必然かもしれない。
でも真に僕たたが強くなれたとするならば、それはきっと……
「―――きっと、僕たちの背中をイッセーくんが護ってくれていたから……僕たちは強くなれた。そしてそれはこれからも同じで、僕たちは高みを目指し続ける。グレモリーはそんな絆で結ばれているんだ」
「……これは手強いものです。底知れないというものが、もっとも恐ろしいのですから」
霞さんはそう言うけど、こっちから言わせてみれば彼女たちこそかなりの脅威であることに違いない。
こちらが体力に分があるだけで、未だ実力を見せていない彼女。
ミルシェイドさんだって今後の伸びしろは相当だ。
……本格的に彼女たちには警戒しないといけないね。
「……さて、こうなってくるともはや敵が何なのかが分からないところです」
「そうだね―――黒い化け物次は黒い人形か」
……僕たちが二条城の付近に到着した時、僕たちの前に現れる幾重もの人形の数々。
関節があらぬ方向で回る黒いマリオネットのような人形が、不吉なキシキシと響く擦れるような音を立てていた。
しかしあるのはその人形だけで、その術者の姿はなかった。
「あれはなんだ? 人形であることは理解できるが、私にわかるのはそれだけだぞ!」
「落ち着いて、ゼノヴィア。あれが何であれ、敵であることには違いない。それさえわかっていればやることはたった一つ」
僕はゼノヴィアにそう言いつつ、地面に聖魔剣を突き刺す。
そして次の瞬間、「僕」を解き放った。
「―――殲滅するだけだ」
地面に返り咲く聖魔剣の数々。それが次々と人形たちを貫き、光の結晶と化していく。
……しかし、ここで変化が起きた。
確かに僕の一撃で人形の大部分は消え去ったが、それを補うように人形はどこらからか現れ、光景を先ほどと同じものにする。
……僕はそれを見て、その正体が確信のものと変わった。
「ゼノヴィア、覚えていないか? 悪神ロキと戦うことになったときより前に、僕たちが戦った英雄派の面々を」
「……なるほど。そういうわけか」
ゼノヴィアは僕の言葉を聞いて合点が一致したのか、大量の人形たちの後ろ―――影にめがけて飛翔した状態でデュランダルによる斬撃波を放った。
人形たちはその斬撃波を防御しようとするが、そこはゼノヴィアの放った一撃だ。
それを一切寄せ付けず、地面に凄まじい亀裂を作った。
……その亀裂より現れる二人の男。
黒い制服を身に包む、二人の英雄派が僕たちの前に現れた。
―――ロキとの戦いの直前、僕たちと交戦した二人の男。
一人は自在に影の神器を操る男と、一人は人形の神器を操る男だ。
そんな二人が僕たちの前に立ちふさがる。
「俺たちを覚えていてくれたか―――そう、俺たちはあの時、お前たちに惨敗した上で回収された二人だ」
影使いの男が臆することなくそう言う。
「グレモリー眷属の木場祐斗とゼノヴィア。お前たちは俺たち二人が相手をしよう」
「おいお前! あたしたちのことを忘れてるぞ!!」
影使いが霞さんとミルシェイドさんに対して眼中がない態度が気に食わないのか、ミルシェイドさんが彼に食って掛かる。
「ベルフェゴールの下僕の相手をするほど、俺たちには余裕はない―――お前たちは幻想を見ているといい」
……っと影使いが言った瞬間、霞さんとミルシェイドさんを包み込む靄のようなものが発生した。
それを瞬時に感じ取った霞さんがミルシェイドさんを抱えて、その靄から脱出しようとするも、既にそれは不可能と物語るように靄は濃くなる。
「っ……。木場殿、私たちのことは気にせずに先に進んでください」
「……それが最善なら、そうします」
「―――ご武運を」
その短い会話の後、二人はその場から完全に姿を眩ませる。
……恐らくは、英雄派による画策だろう。
僕は心の奥で彼女たちの安全を心配しながら、目の前の脅威に目を向ける。
「これで一対一。対等だな」
「……それは拮抗した実力者同士の戦いの時に使う言葉だよ。悪いけど、僕たちは君たちに時間を掛けている暇はない」
「こう見えてもヒトを待たせてあるものでな」
僕とゼノヴィアは互いに剣を構え、二人に対して先手必勝というように斬撃波を放った。
すると影使いの男は自身の影を伸ばし、僕たちの攻撃を吸収してしまう。
……なるほど、以前の時と同じように物理攻撃にはめっぽう強いということか。
だが以前に奴を倒したのは僕だ。
動かせる影の可動域には限界があり、なおかつ自身の技量を超える動きをする相手には対応できない弱点は健在。
それならば―――
「
僕はエールカリバーの力を天閃に変え、速度を底上げして影使いにせまる。
先ほどクロウクルワッハに対して無茶した反動からか、しばらくは大技は出来ない。
だからこそ、最小限の負担で最大限の結果を出す!
僕は影使いの反応速度を上回る速度で翻弄し、自身の姿を見失ったと確信して後ろから切り掛かる。
奴は僕の方には気付いておらず、それで決着がついた。
―――はず、だった。
「ふふ。驚いているようだな。今ので俺を完全に殺せると思っていたのだろう?」
「……それは、なんだい?」
……僕の一撃は止められる。
しかも僕の知っている方法ではなく―――新たな形態で。
男を守ったのは確かに影だけ。
しかしそれは彼の影から伸びたものではなく、彼自身の体にまとわりつくもの。
影がまるで鎧のように纏まり……いや、違うね。あれは紛れもない鎧だ。
……いやな予感がした。
これは恐らくあれだ。
神器使いの中で何かが劇的に変化した時に起こる現象。
実際に僕も至った神器の終着点。
「
影使いは影の鎧を身に纏いながら、僕を睨み付けてそう堂々とした出で立ちで言い放つ。
……まさかバランスブレイカーに至っているとは。
しかも僕が以前突いた弱点を克服している。
あれでは全方位からいかなる物理攻撃も無力化されてしまう。
「……ゼノヴィア。あの影使いは僕が相手をする。君はその間にあの人形使いを倒しておいてくれないか?」
「それが無難そうだな」
ゼノヴィアはデュランダルを両手で掴み、人形使いを見る。
人形使いは自身の周りに人形を密集させていて、一個の軍隊を作っていた。
「……見せてやるぞ。俺たちの力を―――さあ、至れ」
「ッッッ」
影使いが人形使いにそういった瞬間、人形使いの周りの人形が鈍く光る。
……ッ!? まさか、この人形使いも!?
僕がそう思った瞬間に、その予想が現実のものとなる。
それまでは背丈がせいぜい子供程度であった人形が、筋肉が隆起するほどの強靭な肉体を持ち、さらに背丈が3メートルは越すようになった。
その姿はもう人形ではなく、巨人。
これがあの人形使いのバランス・ブレイカー。
「
黒い巨人たちはゼノヴィアへと襲い掛かる。それと時を同じくして影使いが僕の方へと駆け出してきた。
影使いの戦闘方法は基本防御主体の拳による肉弾戦。
なおかつ肉体が人間のものが故に、対処は簡単だ。
だけど僕の攻撃は一切通らない。
もしゼノヴィアが巨人を対処できなくなり、僕のほうに流れてきた場合―――先に音を上げるのは僕だ。
「
僕は二振りのエールカリバーの能力を幻影と透明に変えて、自身の分身を作ってそれを透明化させる。
単体で基本一つしか使えないエールカリバーの能力。
現時点で僕が満足に扱える力は天閃、破壊、擬態、透明、夢幻の五つだ。
祝福と支配の力は残念ながら未だにうまく使えないのが現状。
ともかく、僕は自身の化身によって影使いに攻撃を仕掛けるが―――影に切っ先が埋没したかと思うと、その切っ先は影使いのあたりに展開している影から現れた。
僕はそれを紙一重で避けるも、すぐにその場から飛び立って聖剣を創造し、それを次々に影使いに放つ。
「無駄だ! 物理攻撃は影に吸収され、剣はお前に返される!!」
しかし影が僕の聖剣を吸収し、そして影を伝って僕の方へと放たれた。
……ここで僕に一つ、疑問が生まれる。
今僕が放った聖剣の数は合計143本。
しかし僕に返された聖剣はその半分にも満たない。……これはどういうことだ?
……僕は放たれる聖剣に対し、魔剣作って聖剣と相殺させ、更に魔剣を今聖剣を排出した影に向かって放った。
しかし魔剣は僕に向かってくるどころか、あらぬ方向から、僕が放った本数とは異なる数字で現れる。
―――そうか。
「なるほどね。君の影はしっかりと頭を使わないといけないみたいだね」
「……まさか」
影使いは僕が悟ったことに気づいたのか、少しあせるような声音でそう声を漏らす。
……そう。僕はあの神器の最大の弱点に気づいた。
僕の周りにある影は常に僕を狙っているわけではない。
この影はあの影使いと繋がっていて、影使いがそのパイプを常に変化させて僕を狙い続けているんだ。
しかし万能に思える影にも限界の質量があるんだろう。
それの証拠に僕の聖剣、魔剣を全て打ち返せない。
「確かに強い神器と思うよ。だけど原理をしれば、さして対処が難しいわけではない―――結局のところ、弱点は消えていないというわけだよ」
僕は地面に手を置き、目を瞑る。
……先ほどの戦いの負担は大体消えた。
今ならばできる。
「聖と魔、二つの聖魔で複重の形を成す―――七天に舞え、エールカリバー」
僕は自身の周りに7本のエールカリバーを出現させ、自身の持つ二振りのエールカリバーを強く握る。
……影使いは僕に対して脅威を感じたのか、影の中に身を潜める。なるほど、そんなこともできるわけだ。
だけど関係ない。これから君は僕の動きの一切を捕らえることができない。
「
地面に突き刺す7本のエールカリバーの能力を天閃に切り替え、僕は神速を持って辺りを縦横無尽に動く。
更に手に握る二振りのエールカリバーのうち、一本は夢幻の力にしている。それによって僕の動きと相まって幻影と残像が生まれ、影使いを混乱させていた。
「はやい……ッ!! なんなんだ、この速度は!!」
影使いがどこかの影からそう声を出す。
……この形態は持って10分ほど。
だけどそんな時間いらない。
もうこの戦闘を終わらせる手筈は整った。
―――僕がこの速度であらゆるところを動き回っていたのは、翻弄するためではない。
影に印をつけるため。
あの影使いが展開できた影の絶対量は多い。
だけどあの数以上の影を作ることができず、かつそれを一度に全て動かすことができない。
そしてあのそれらの影は全て、あの影使いと繋がっている。
……要は自身の影を引き伸ばしているのがあの禁手の正体。
ならば―――その影を全て潰す。
どこからも現れることができず、しかも影が移動できなくする。
普通はできないことだけど、それを僕が―――
「さぁ終わりだ。……ソード・バース! ―――
……僕は影に剣を突き刺すことで影の動きを止める剣を大量に創造し、それを動き回ってつけた印の付近全てに展開する。
魔剣はそれによって全て突き刺され、影は一切の動きを止めた。
つまり、やつの力を完全に激減させたということだ。
そうなれば次に影使いがすることは一つ―――
「まだ、だぁ!!」
「……わかっていたよ。最後、君が僕の影から現れるってことが」
影使いが僕の影から現れ、手の武器で僕を突き刺そうとする。
しかしそれを予想していた僕によって武器は弾き飛ばされ、更に地面に突き刺さる天閃化したエールカリバーを浮遊させ、それを一斉に僕の
「……かはッ!?」
……影使いはそれまで無傷だったにもかかわらず、その僕の行動で血反吐を吐いて影から這い出る。
―――あの影の鎧が影と直結しているなら、つまり影を通した攻撃は彼の内部に響く。
本来はあの幾重にも展開した影によって武器を他のところから放出していたはずだけど、今は僕によって影は封じられている。
つまり彼は僕の影としか繋がっていない。
だから僕は自分の影に剣を差した。
「君はもっと短期決戦をすべきだった。君の力は長期戦になればいずれボロが出て、そしてこうなってしまう―――まだ、やるかい?」
「……とう、ぜんだ」
僕のエールカリバーをまともに受け、彼は血だらけになりながらも立つ。
……そこには執念のようなものを感じた。
「……どうしてそこまで僕たちと戦うことに拘るんだ。これ以上やっても、勝利はない」
……僕は少し離れたところで巨人を屠り続けるゼノヴィアを見た。
ゼノヴィアは持ち前の体力で巨人と長期戦を選択し、術者の時間切れを選んだのか。
実際に巨人の数は減り、新たに出現する巨人の生産速度も大幅に遅くなっていた。
「……わからないだろうな。お前たちには」
……ぼろぼろの体で、影使いは震えながら声を奮い出す。
「神器を持つ人間にあるのは理不尽な人生だけだ―――望んでもいないのに神器を宿して、それを知られて排斥され行き場を失う。俺は死のうと思っていた。こんな人生、生きている意味がないと。それでも俺が今、こうして生きているのは……曹操がいてくれたからだ」
「…………」
「あいつがいるから、俺のくそみたいな人生で誰かのために何かできることがあるんじゃないかと思えるようになったんだ。だから俺の命を懸けるほどの価値がある。あいつだってそうだ」
影使いは人形使いを指差しながら言葉を続ける。
「あいつは親の虐待で声帯を失って声を失くした。君の悪い人形を創るから他人から排斥され、化け物扱いされた。それでもあいつは生きている―――人間を、舐めるなよッ!! そんなに簡単にあきらめてたまるかよ!!」
影使いは僕へと拳を放ってくる。
とても遅く、とても弱弱しい。少し右に避ければ拳は空を切り、彼は倒れるだろう。
……だけど僕はそれを避けず、男の拳を自ら受けた。
その行為に対して目を丸くして驚く影使い。
「―――強いね、君たちは」
……僕は心の底から、そう思うしかなかった。
「僕は、一人では何もできなかった。いつも友達に、仲間に助けられて生きてきた―――ただ一つの希望のために君はそこまで強くなった。だけどね」
だけど、一つ間違いがあった。
それは敵であろうと、絶対に間違ってはいけないこと。
それは……
「命を懸けるのはいい。でも、望んで失ってはだめなんだ! 命を失ってしまえば、君の生きた時間が無駄になってしまう! 君の仲間が、苦しんでしまう! 悲しんでしまう! ―――それだけは、駄目なんだ。仲間を失うことだけは、本当に辛いことだから」
イッセーくんが死の淵に追いやられたとき、僕は自分の無力さに悔いた。
仲間を失う気持ちは、僕は他の誰よりも知っている。
―――あの時、友達を、同士を失った。
―――あの時、そのどん底から親友が僕を救ってくれた。
「……そうか。悪魔にも、お前のような者がいるんだな―――だからといって、ここでは止まることができないんだ」
一度向けた刃を直すことはできないと、影使いは言う。
そうだろう。
……それでも、僕はイッセーくんが言っていたことを嫌でも認識してしまった。
―――戦いたくない。信念を持った、間違っていない人間と。
「―――相棒!!」
影使いは人形使いの方を見て、そう叫んだ。
その瞬間、影使いは影を伝って人形使いの背後に現れ、その方を人形使いが支える。
……それまで巨人と戦っていたゼノヴィアが僕の傍に駆け寄り、二人をじっと見ていた。
「木場。おそらくあの影使いも人形使いも限界だ。次が最後―――何かをしてくることは、確実だ」
「ああ、わかっているさ。それを承知の上で、僕は見逃した」
「何故だ? お前ならば油断をせずに敵を倒すものと思っていたが……」
「……そうだね。でもイッセーくんなら同じことをするよ。うちのお兄ちゃんドラゴンは、敵にでも優しいからさ」
「……はは、違いない」
僕たちが軽口を交わしている間に、影使いと人形使いは変化を及ぼしていた。
それは連携と呼べるもの。
影使いが自身に纏う影の鎧を、一際大きな巨人に纏わせていた。
「グレモリー眷属の騎士、木場祐斗とゼノヴィア!! これが最後だ!! 俺たち人間のあがき、受け止めてみろ!! ―――
「ッッッ!!!」
彼らの最大火力であろう、10メートル超を越す巨大な巨人。
それに対し、僕とゼノヴィアは互いに剣を合わせる。
―――できれば、レーティング・ゲームまで温存しておきたかった技なんだけどね。
だけど仕方ないよね。
この大質量の、しかも普通の物理攻撃が効きにくい相手にはこうなるざるを得ない。
「ゼノヴィア。君は何も考えずにデュランダルの力を放出してくれ。新しい力は使わず」
「ああ、わかっているさ。実際に私もまだ
……ゼノヴィアのデュランダルから、身を焦がすほどの聖なるオーラが漏れる。
ただしゼノヴィアはテクニックがない。
僕が仮にデュランダルを使うとしたら、僕はこのオーラをもっと濃密に凝縮し、破壊力を上げる。
しかしゼノヴィアはそれを行うにはまだ修行不足だ。
だからその役目は僕が果たす。
僕のエールカリバーは一度見たエクスカリバーの能力を全て使える。
能力をエクスカリバーと同じようにとはいかないけど、実はそれ以外にも一つ、特性を持っていた。
それは声援を、応援を贈るという意味に直結した力。
―――エールカリバーは、他の聖剣魔剣をサポートする能力が備わっているんだ。
今までそれを活用することはなかったけど、今回はそれを活用する。
今、地面に刺さるエールカリバーは合計7本。
この7本に、それぞれ異なる力を使う。
「
破壊の力でデュランダルの破壊力を強化し、天閃で速度を速め、夢幻で複製し、透明化させ、祝福の力で聖なる属性を底上げし、そして―――支配の力でそれを支配し、束ねる。
巨人は僕たちに迫る。
僕にできることは全てした―――後は頼むよ、ゼノヴィア。
「―――任せろ。いくぞ、勇敢な戦士よ」
ゼノヴィアはデュランダルを握って勢いよく駆け出す。
巨人の足元で悪魔の翼を生やして飛翔し、そして上空より放つ。
「―――
巨人に対して頭部から縦に振るわれるデュランダル。
剣を振るった瞬間に聖なるオーラが刃となって幾重にも拡散し、そして―――巨人を綺麗に一刀両断した。
影使いの影も、巨人の強靭さも何の意味もなさず、綺麗に真っ二つになって、そして消滅する。
……影使いと人形使いはその光景に膝を突く。
互いに神器が消え、呆然と消え行く巨人を見つめていた。
「……終わりだ。僕たちの勝ちだ」
「…………ああ。そうだな―――やれ、誉れ高き騎士」
影使いは倒れ突っ伏して、反抗しない意志を僕たちに見せる。
……殺せ、と言っているのだろう。
「お前たちほどの戦士に倒されるのなら、俺の人生も価値があった―――お願いだ。もう、終わらせてくれ」
「……そうしたくても、残念ながらそうさせてくれないよ」
「なにを言って……」
腕で目を覆っていたため、影使いは前方が見えなかった。
……そこには彼を庇うかのように、人形使いの男が体を大の字にして立っていた。
「―――僕たちは行くよ」
「……甘い過ぎる、お前たちは!! 何故だ……何故、お前たちは敵である俺たちを討たない!? 俺たちはお前たちが倒れていたら、必ず殺すぞ!? なのにお前たちは……ッ」
「それが普通さ―――でも君たちは決して間違っていない。だからまた来るといい。そのときは、僕たちは全力を持って君たちをまた倒す」
僕は剣を全て消失させて、彼らに背を向ける。
「……それが、俺とお前の差なのか」
……影使いは何かを悟るようにそう呟くと、それ以上は何も言わなかった。
「―――甘いな。グレモリーの騎士。虫唾が走るものだ、その甘さは」
突如、僕をあざ笑うかのような冷え切った声が響く。
それは僕たちの前―――二条城の石垣の上の瓦にいた。
その男は白い学生服を着ながら、刀を腰に帯刀する存在。
それだけではない。
その周りに控えるようにいる、若草色の髪の少女と巨体な男。
……土御門朱雀を殺した存在。
英雄派の二大トップの片割れ、そして土御門を滅ぼした張本人―――安倍晴明。
そしてその清明派であるクー・フーリンとヘラクレスが憎たらしい笑みを浮かべて僕たちの前に現れた。
「……これでもイッセーくんの真似さ。安倍晴明」
「笑えないな。貴様ごときが、兵藤一誠になり得るはずがないだろう」
嘲笑する晴明だが、表情は一切笑っていなかった。
……しかし、まさか二人の状態で彼らと遭遇するとは。
あまり状況はよくない。
「まぁまぁ、晴明。そこの彼も素晴らしい人材だよ。それは僕が保障しよう」
「そうよぉ? そこのデュランダルちゃんも中々の剣士だもの」
っと、後ろから声が響くっ!
そこには影使いと人形使いを介抱するジークフリートとジャンヌの姿があった。
……不味い。
更に状況は更に悪くなる。
辺りに霧が掛かり、その霧の中より現れる更に二人の姿。
あれは―――絶霧の神器の所有者!!
それに連れ引かれるレオナルドと呼ばれる魔獣創造の神滅具の所有者だ。
……曹操以外の、全ての英雄派幹部の集結。
―――そんな時、僕の耳に通信が入った。
『あ~、木場祐斗ですか? こちら、エリファ・ベルフェゴールです』
「え、エリファ様!?」
その突如、今まで通信の取れなかったヒトからの声に、僕は素直に驚いた。
『おそらく、そちらの状況はあまり芳しくないでしょう。ですが、落ち着いて。―――良い頃合でしょう。もう心配いりません。今、そちらに向かっているのは我らの全勢力』
エリファさんがそう言い切った時、僕たちの背後より風が吹雪く。
更に上空より英雄派に対して放たれる魔弾、光の剣、魔法陣による連続掃射。
更には黒炎すらも放たれる。
それらは英雄派にあたることはないけど、代わりに彼らと完全に距離が生まれる。
そして―――僕たちの周りに、その攻撃の正体が集結する。
「ふぅ~、やっと合流できた!」
「全くです。せっかくの見せ場が」
「ありゃりゃ、イッセーがいないにゃん」
それは僕たちとは違うところで戦っていたはずのイリナさん、ロスヴァイセさん、黒歌さん。
その三人が僕たちの前に立ちふさがり、更に後ろには―――
「ったく、やっぱこうなっちまうよな……」
「……兄さん」
晴明たちと向き合うように、匙くんと朱雀くんが立ち塞がっていた。
「朱雀、お前……」
晴明は自分が殺したはずの朱雀くんが生きていることに驚いているのか、彼の名を呟く。
対する朱雀くんは思っていたよりも冷静で、手元にある宝剣を下ろして晴明をじっと見ていた。
「……不思議なものです。つい先刻に自分を殺した相手が目の前にいるというのに、復讐心なるものが湧いてこない。それは私の心が死んだのか、それとも」
『心の在り処を得たのさ、君は』
「そうでありたいものです」
……役者が出揃い、英雄派と僕たちは睨み合う。
「しかしながら、些かだが華やかさが足りないな。我々には曹操が、貴様らには兵藤一誠が足りないか」
「残念ながらね。でも問題はないさ。どちらにしても曹操の相手はイッセーくんにしてもらう手筈だったし、それに―――」
僕は英雄派のいる足元に無数の魔剣を出現させ、強襲を掛ける。
「君をイッセーくんに合わせるのは気が引ける。剣を抜け、英雄派。御託はもういいだろう?」
「全くその通りですよ、木場祐斗くん。剣士ならば、語るのは剣が如し―――さあ、今度は互いに本気で参ろう」
ジークフリートは僕に好戦的な笑みを浮かべつつ、最初から本気なのか、魔帝剣・グラムを握っている。
英雄派を見るとそれぞれ戦う目当てに視線を合わせていた。
「ねぇジャンヌ! あの聖剣ペアを僕たちのタッグで遊んであげよ?」
「そうね。私的にあっちの天使ちゃんも気になるところであるし」
クー・フーリンとジャンヌは狙いをゼノヴィアとイリナさんにしたようで、対する彼女たちも好戦的に武器を握る。
「んだぁ? なら俺の相手はまたあのいけすかねぇ猫又ってわけか?」
「え、気持ち悪い。んなのお断りにゃん。あんたの相手はロスちんがするから」
「わかりました、黒歌さん―――さて、北欧魔術とレプリカグングニルの連携を試してみましょう」
ロスヴァイセさんはレプリカのグングニルをヘラクレスに向けてそう言い放つ。
「ってことで、安倍晴明の相手は私がするにゃん。妖刀の相手は私が一番心得ているからねー」
「兵藤一誠の僧侶か……まあいい。ならば朱雀、今一度お前もかかってこい。悪魔に成ったお前の力を俺に見せてみろ」
「無論、そのつもりです」
それぞれの敵は決まった。
あとは匙くんが手持ち無沙汰なわけだけど……っと思った時、僕たちの前に幾つかの大きな獣が現れる。
あれは―――魔獣創造によるアンチモンスター!
あのレオナルドと呼ばれる少年が創り出す危険なモンスターだ。
「おいおい、俺の敵はあれかよ! ……ほんっと、お前らと一緒にいたらフラフラすることも出来ねぇよな―――ヴリトラ」
『うむ、我が半身よ。思うがままに力を振るえ。我が呪いの力を入れ奴らに試そう』
匙くんと彼の中のヴリトラのしばしの会話の後、匙くんに変化が訪れる。
それは先のロキとの戦いの時の彼の状態。
龍王形態……またの名を、ヴリトラ・プロモーションと呼ばれる彼が龍化する形態だ。
本来はイッセーくんや他のドラゴンの能力を持つ人物がサポートを受けて発揮する力なんだけど、そうも言っていられない状況だからか。
匙くんは暴走を気にすることなくその形態に至った。
……未だ姿を見せないイッセーくんと曹操。
互いの支柱ともいえる存在が欠如した中で英雄派との決戦が行われようとしていた。
「僕としてもイッセー君なしは不安なところだけど―――」
僕はそう苦笑しながらも切り込み隊長を勤めようとした最中だった。
突如、僕たちよりも遠いところより紅蓮と純白の輝きが輝き放った。
「……なんだ?」
晴明はその光景を眉間にしわを寄せながら見つめる。
更に別方向より―――
『アォォォォォォォォォォォォンッッッ!!!!!!』
……突如、どこか狐のような叫び声が聞こえた。
それと共に現れる九尾の大きな狐。大きさで言えばあのタンニーンさんよりも大きいんじゃないかと思わせるほどのサイズだ。
まさかあれは……八坂さん、なのか?
となれば事態は僕たちが想定していたよりも最悪なものとなっている!
『……とうとうあの悪魔は動いたようだね』
朱雀くんの中に存在しているディンさんがそう言葉を漏らす。
あの悪魔、というのはガルブルト・マモンのことだろう。奴が八坂さんを狙う理由はここにあったんだ。
……だが一つ、疑問は残る。
あれほどガルブルトの介入を望んでいなかった英雄派が、なぜこの空間に奴を招きいれたんだろう。
彼らの目的は僕たちにあって、ガルブルトは邪魔な存在でしかないはず。
なのになぜ―――
「……君ならば、何か知っているのかい? 安部晴明」
「さてな。どちらにしろ俺には関係ないことだ―――さぁ、尋常に参ろう。童子切安綱」
晴明が朱雀くんを殺した妖刀を引き抜き、それを両手で構えて剣道の型を取る。
「そちらから来ないのであれば、俺から行って―――」
晴明が朱雀くんと黒歌のほうに一瞬で近づき、刀を振るおうとした。
……そのときであった。
「―――俺の眷属に手を出してんじゃねぇよ」
―――突如、晴明へと向かって紅蓮の流星が放たれる。
晴明はそれを受けとめる危険性からか体を逸らしてそれを避け、黒歌さんと朱雀くんから再び距離を取るように後方に飛んだ。
……それだけで理解した。
―――ヒーローは、遅れて登場する。
そんな時代外れの英雄論を実際に実行する男が来た。
「なぁ、安部晴明……ッ!!」
「……兵藤一誠。君は何故―――」
晴明はその場に到着したイッセーくんと、彼の連れていたまどかさんやアーシアさん、九重ちゃんを……その中でもなぜかまどかさんを見つめて何かを言いたげであった。
……イッセーくんの到着。
それは暗に、京都における決戦を意味しているようにも思えた。