ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~ 作:マッハでゴーだ!
「―――皆、装備は整ったか?」
……三大勢力の一派は、俺を先頭として集結していた。
アザゼルから知らされた、禍の団が妖怪の世界に進撃したという事実に直面し、俺たちは今ある戦力を集結させた。
アザゼルとガブリエルさん、夜刀さんは先行して先に妖怪世界へと突入し、その後方部隊として俺は現在の面子の指揮を任された。
―――奴らの狙いは、八坂さん。つまり京都妖怪の長だ。
ガルブルトを筆頭とする謎の一派は何かの目的のために八坂さんを利用しようとしている。それは既に疑うことのない事実であり、だからこそガルブルト達は強硬手段に打って出たんだろう。
……そんなことを考えている最中、俺は傍にいる九重を見た。
本来、この子を戦場につれていくのは間違いだ。でもこの子はそれでも連れて行ってくれと言った。
自分だけ蚊帳の外で待つのは嫌だと、私も母様を救いに行く。……そう、曇りのない真っ直ぐとした瞳で行ってきたんだ。
きっと……この子は母親が心配なんだ。子供ながらでも。
―――俺の目の前の皆は、顔を引き締める。
グレモリー眷属とシトリー眷属の二年生メンバー。
急遽駆けつけてくれたベルフェゴール眷属とその守護対象の父さんと母さん。
回復担当のヴィーヴルさんに天使陣営のイリナ、そして……俺の眷属である黒歌と朱雀。
「今回は敵の殲滅。及び八坂さんの救出だ。前者については各陣営の戦闘向きの皆に任せたい。より詳しく言えば、グレモリー眷属からは俺、祐斗、ゼノヴィア。シトリー眷属からは匙。天使陣営からイリナで、俺の眷属からは黒歌と朱雀。そしてベルフェゴール眷属からは―――」
「ミルシェイドと霞をお貸ししましょう。私は兵藤夫妻の防衛及び最低限の殲滅に心がけるとします」
エリファさんの先読みに頷く俺。
今回の作戦では匙を覗くシトリー眷属とアーシアとヴィーヴルさんには後方支援を基本としてもらう。
シトリー眷属が一般妖怪の避難をし、ヴィーヴルさんとアーシアには適所で回復してもらう形だ。
そして―――
「今回の戦いは戦闘部隊は基本的に二人ないし三人のチームで戦ってほしい。組み合わせについては事前に行って通りで頼むぞ」
俺がそう言うと、散らばっていた皆が互いのパートナーと目を合わせる。
……黒歌とイリナとロスヴァイセさん。祐斗と霞ちゃん。ミルシェイドちゃんとゼノヴィア。そして―――匙と朱雀。
この組み合わせで戦うこととなる。
何でこの組み合わせになったかって言えば、実は相性のようなものに近い。
黒歌とイリナはトリッキーな嵌め技を得意としており、その後方支援としてロスヴァイセさんを加え、祐斗と霞ちゃんは騎士である速度がこの面子の中で飛び抜けている故に互いにサポートしやすい面。
ミルシェイドちゃんとゼノヴィアは……まあ絶大なパワーというところでエリファさんと意見が一致した故にだ。
そして匙と朱雀なんだけど……この二人は互いに宿すのがドラゴンであるから。
特に匙と朱雀の力は異質性の高い力というのが高い。
封印したドラゴンの力を使う朱雀の中の封印の龍の力と、匙の持つ呪いに近いヴリトラの厄介な力。
この二人については今はまだ不安定な力であるから、俺が傍で様子を窺わないとな。
……俺は九重を護りながら、後方支援に回る。
より具体的にはそうだな……倍増の譲渡や、後方からの魔力弾の放射ってところか。
まあ不測の事態を考え、予想外の強敵が現れた場合の組み合わせもあるわけだけど―――そろそろ魔法陣が繋がるな。
「次に転送されれば、すぐに戦闘が始まる。後方部隊は戦闘部隊の後ろに回って、戦闘部隊の皆は武器を構えてくれ」
俺が指示を仰ぐとその通りにする。
そして……俺たちはそのまま転送された。
―・・・
「……ここが、妖怪の世界なのか?」
……転送され、初めに目に入った光景を見て俺は絶句する。
本来ならば妖怪の世界は妖怪に満ち溢れた、明るい場所だと聞いていた。
神楽や提灯で彩られていたと思われるお祭りのような光景が、今は―――凄惨な惨劇の光景となっていた。
交戦の果てに死に絶えた妖怪や、何かの死体が転がっており、地面は抉れている。
……ガルブルト。お前は、ここまでの被害を出してまで、叶えるべき悲願があるとでも言うのか?
―――そんなもん、例えどんな崇高なものでも認めない。
「兵藤一誠。前方からこちらに気付いた敵影が見えます」
「恐らく全てが敵にゃん、イッセー―――ぶちかませ、にゃん」
エリファさんと黒歌からの声と同時に、俺は意識的に作って紅蓮の球体を握りつぶす。
そして―――放った。
極太の紅蓮の砲弾は前方から向かってきた敵を塵も残さず消し散らし、道が出来る。
「各自、散開しろ。各チームで敵を討て。緊急事態の場合は俺に連絡を」
『了解!!』
散開する各チーム。
残るは父さんと母さんを守護するエリファさんと、俺の指示の元、残った匙と朱雀だけだ。
「俺たちは八坂さんの元へ向かいます。エリファさん、あなたは―――」
「いえ、あなたから離れるよりも近くでいる方が安全でしょう。心配は要りません。あなたのご両親は私が守りますので」
……エリファさんは懐から黒い装飾銃を引き出し、トリガーを引いた。
そして照準を後方に向け、そちらを見ることなく引き金を二度引き抜いた。
ガンガン!! ……そのような音と共に俺たちの後方に近づいていた敵影を打ち抜いた。
「……これは一体、何なんでしょうね。そこらで落ちている黒い死体と、この生物は」
「……歪ですが、どこかドラゴンにも見えますね」
朱雀は今しがたエリファさんが葬った黒い生物を見て、そう呟く。
『その見解で間違いないよ、朱雀くん。これは間違いなく”ドラゴン”という生命体だ。ただし―――相当品種改悪されてるよ、それ』
……品種改悪とはよく言ったものだ。
朱雀はそっと手元に宝剣を出現させ、それを地面に刺して自身の長い髪を結う。
そして宝剣を抜き去り、その内の宝玉の一つを輝かせた。
「ディン。私と共に戦ってくれますか?」
『ああ、もちろんさ―――
「『封を解く。斬撃の死に風の龍よ。荒息吹け』」
濃厚に輝く碧の光と共に、目の前にうじゃうじゃと向かいくる化け物を、以前よりも更に強化された風の龍で消し去る。
それを確認したと共に俺たちは駆けだした。
―・・・
『Side:木場祐斗』
「キリがないね、これは」
僕は両手の聖魔剣で向かいくる化け物を切り裂きながら、周囲を確認しつつ再び剣を振るう。
対する化け物はいくらでも増えていくと表現しても良いほどの数で押し寄せる。
……これが何なのかは分からないけど、今はともかく殲滅しかない。
僕は足元に手を添え、地面に魔法陣を描いて地中から無数の聖魔剣を生やせ、化け物たちを蹴散らした。
「聖と魔、二つの聖魔で形を成す―――行くよ、エールカリバー」
僕は言霊を呟くと共にエールカリバーを創り出し、今まで手に持っていた片方の聖魔剣をその場に捨てる。
そしてエールカリバーを握り、その力を「天閃」の能力に変換した。
途端に僕の体は軽くなり、必然的に僕の速度は従来よりも底上げされる。
……徐々にエールカリバーの精度が上がってきて、出力がエクスカリバーに近づいてきたと実感できるよ。
まだまだだけど、ね!
「……木場殿の速度と戦闘センス、なるほど。お嬢が危惧するに値するものです」
「はは、君に言われても説得力がないよ―――僕より早く、僕よりも敵を殲滅している君に言われても、ね」
風のように現れたエリファ様の騎士、霞さんが涼しげな顔でそう言ってくるものだから、僕も言い返すようにそう言った。
口元を黒い布で隠す霞さんだが、その力量は恐ろしいレベルだ。
……速度、殺傷能力、戦闘センス、回避能力、判断力。彼女はこれについて圧倒的に秀でていると僕は思う。
「しかしこの化け物共は中々消えないとお見受ける。はて、どうしたものか」
「そうだね。でも僕たちの役目は妖怪たちの保護であり、原因の討滅は僕たちのボスの役目さ」
僕はそんな軽口を叩きながらも聖魔剣を地中から生やして化け物を串刺しにして、エールカリバーにて更に切り裂いていく。
……化け物、というよりこれはもしかしたら―――
「ドラゴン、と考えるのが妥当だ。黒い塊であるけど、感じ取るオーラはドラゴンのものに近い」
「……なるほど。誰よりもドラゴンの近くにいる木場殿であるから感じ取れるものですか。―――ですが、この均衡はすぐに消えます。ミル単体でこのような化け物は」
黒い布で口元を隠している霞さんであるが、その上からでも分かるように笑みを浮かべた。
その瞬間、僕たちの付近より激しい破裂音が聞こえた。
ドォォォォォンッッッ!!! ……その音は、パワー組の方から聞こえた。
エリファ様の妹であるミルシェイドさんとゼノヴィアの方を僕は見た。
それと共に霞さんが呟く。
「―――事足りる、のですから」
……ゼノヴィアは唖然とした表情をしており、その視線の先にはミルシェイドさん。
そして周りは―――灰と化していた。
「うっしゃぁぁぁ!! こんなんじゃ足りないぞ!! もっと来い!! ……ってあれ? もう敵がいないぞ霞ー!!」
「……わ、私の新生デュランダルの見せ場はなしか。そうか……はは」
ぜ、ゼノヴィアが引き攣った笑いを浮かべている!?
当のミルシェイドさんはまだまだ暴れたりないと言いたいが如く、僕たちの付近の敵にまでをターゲットとして睨む。
彼女はその場から動くことなく、距離が離れているにも関わらず拳を構える。
足腰に体重を篭め、目を鋭くさせる。
そして放った。
「いっくぞ!! 飛んでけ化け物!!!」
拳を振りかぶると、僕たちの周りの化け物が途端に吹き飛ぶ。
吹き飛ぶ、だけじゃない……ッ!!
その一部が……浸食されるように灰となって消え始める。
これは……
「ミルはディザレイド様の血を濃く継ぎ過ぎたサタン家の次期当主です。ミルの思考は至ってシンプルであり、テクニックには程遠いでしょう。しかし……あのサイラオーグ・バアルでさえ本気を出さざる負えなかったパワーと性質。距離という概念を消し去った蹴散らし、灰と化す圧倒的拳圧の打突―――ミルの異名は『灰の拳姫』。攻撃力だけならば赤龍帝とも渡り合えるでしょう」
「…………」
……これはまた、凄まじいのが僕たちのライバルってわけか。
ライバルはサイラオーグさんだけではないということだ。
「うっし! で、次はどいつを倒せば良い?」
「ミル。付近に敵はいません。先に進みま―――ッ」
霞さんがミルシェイドさんに近づこうとした瞬間だった。
……僕も彼女と同じように殺気を感じ、手元に聖魔剣を創り出してそれを投剣する。
霞さんも同じように神速で手裏剣を投げた。
家屋の隙間に突き刺さった剣と手裏剣は、殺気の正体に命中することはない。
しかし……殺気の正体は僕たちの前に現れた。
家屋の中より出てきたのは男性らしき男。
その男は苦笑いをしながら僕たちに話しかけてきた。
「いやはや。まさか私ともあろうものが、気配を悟られるとは」
「……何奴だ、貴殿は。その纏う圧からして、悪魔とお見受けする」
「はは、なるほど。名家のご令嬢の騎士か。ならば納得だ―――しかし女子供だけで私の相手になるとは思いません。例えサタンとベルフェゴールの血族で、グレモリーの有力な騎士であろうと」
……その男、どこかで見たことのある長い銀髪の男は涼しい顔で未だ余裕があるようにも見えた。
……奴は、何だ?
初対面のはずなのに、どこか面影を勘ぐってしまう。
「私だけならば対等に渡り合えたかもしれないですが、しかしあなた方は運がない―――私の同伴がこれでは、あなた方でもどうしようもないのですから」
「何を言っている? ここにはお前しかいないではないか」
「はは、何を言っているのですが。デュランダルの少女さん。―――先ほどからあなたたちは見られているではありませんか。私の仲間に」
男は訳の分からないことを言っていると一瞬思った。
……しかし、次の瞬間、僕たちは知ることになる。
「―――誰がいつ、貴様の仲間だと言った」
―――ッッッッッッッ!!!!!?
……どこからか聞こえたその声で、僕たちの身体に異様なほどの重圧が圧し掛かる……っ!!
僕だけじゃない。
この場において誰よりも冷静であった霞さんですら、冷や汗を流している!
もはや銀髪の男がどうでも良くなるが如く、姿を現したその謎の男に目が向かう。
赤と黒の双眸、黒と金が入り混じった髪。真っ黒なコートを身に包んでおり、ただその隣の男の傍に立っている。
ただそれだけで―――命が削られるほどの危機感に囚われるッ!!
駄目だ、この敵を前にして、戦うなんて考えては。
こいつは、悪魔でも人間でもない。
もっと異質で、もっと誇り高い存在。
僕たちが相手できるものじゃない!!
……時間を数秒でも良い。
逃げ延びる時間を作らなければ……ッ!!
「ソード・バース!!」
僕は乱雑に創り出した聖魔剣を幾重にも撃ち放ち、彼らの視界から僕たちを消す。
更に動けずにいるゼノヴィアの目を覚まさせるように肩を叩いた。
「ッ。す、すまない」
「良いから、早く逃げ―――」
「……良い判断だな、そこの悪魔」
……僕が後ろを向いて走り出した時、その先で声が響く。
そこには―――既にあの男がいた。
腕を組んで、仁王立ちで……僕を見ていた。
はや……すぎるッ!! 先ほどまで前にいたであろう男は、僕たちの後ろに回り込んでいた。
「俺を前にしてすぐさま逃げようとしたのは正しい。そこの銀髪よりも俺という存在を正しく認識しているな」
「……逃がしては、くれないようだね」
僕はエールカリバーを強く握る。
自分でも分かるほどに手汗が凄まじく、脳から逃げろと命令が下っているほどに、心臓がバクバクと胸打っている。
……何者、というのは今やどうだって良い。
今重要なのは、この状況をどのようにして最小限の損失で逃げ延びるかだ。
「……その眼、焦って冷静を失っているわけではないみたいだな」
興味深いものを発見したような表情で、男は僕をじっと見る。
……ダメだ、逃げ道がない。
後ろには銀髪の悪魔、前には謎の男。
余りにも分が悪すぎる。一度でも視線を背けたら殺される光景しか僕の頭には浮かばない。
……やるしか、ないのか?
「霞さん、あなたはミルシェイドさんとゼノヴィアを使って後ろの悪魔をお願いするよ」
「……待ってください。ならあなたはあれを相手にすると!?」
……僕は無言で頷く。
後ろの悪魔であれば、三人の力を合わされば勝てぬとも逃げ切れる。
でもこの男は、四人で相手しても勝ち目がない。
あの自信家のミルシェイドさんですら、何も言葉を発せないのが良い証拠だ。
この選択は、間違いではない!
「……二人を、お願いするよ」
「……承知した。ご武運を」
僕の考えを理解したのか、霞さんは悔しそうに眉間に皺を寄せながら、僕に背を見せる。
僕はすっと呟いて、自分の周りに幾重もの聖魔剣を創り出す。
……更に空いている右手に意識を集中させた。
「勝てるとは、思っていないよ。むしろ時間稼ぎすら不可能かもしれない―――でも、出来る最善はしてみせる。聖と魔、二つの聖魔によって形を成す」
「……無駄だ。お前と俺とでは、生物として違う。それでもなお向かって来るなら、来い―――見定めてやる。赤龍帝の友よ」
……何故そのことを知っているかは知らない。
でもこの男の言う通り、僕はあの誇り高き赤龍帝の親友だ。そしてあの男は、どのような時でも諦めることだけはしなかった。
どんなどん底からも這い上がってきた。
……そして僕のこの剣は、彼によって生まれた僕の誇りだ。
「―――行くよ、エールカリバー!
僕はエールカリバーの力を二本とも天閃に変換する!
それにより僕の速度は二重に底上げされ、僕はそれを以て男へと特攻をかける!!
僕は男の背後に回り、二本の剣を同時に振りかぶり―――
「最善な判断だ。俺に唯一立ち向かえる速度を特化した戦い。視界から姿を消した速度も見事だ。だが―――」
男は、僕の方すら見ない。
僕の方を一切も視線を向けず、手だけをエールカリバーに添えるように向けた。
エールカリバーは男によって防ぎ、握られ、そして―――
「そもそも戦いにまで到達することすら不可能だ。残念だったな、勇敢な騎士よ」
「ぼ、くの……剣が―――」
男によって、紙をクシャクシャに丸めるように―――僕の剣は、粉々になった。
……それは僕にとって、少なからず衝撃的な事だった。
仲間との再会、過去に目を背けず、あの時に抱いた夢を思い描いて作ったエールカリバー。
それが玩具を壊すように簡単に壊された。
……ふつふつと煮えたぎる言葉に出来ない感情。
こんなこと、初めてだ。
自分の最善を尽くしてなお、勝利のビジョンが見えないほどの圧倒的な敵。
全くの隙もなく、全くの慢心もない。
この男の姿はそう―――どこか僕の憧れるあいつに似ていた。
だからだろうか。……僕はこの感情が嫌じゃない。
怒りや絶望だとか、そんな負の感情ではなく……僕は高揚していた。
自分でも不思議なほど、この圧倒的力を前にして―――己を全て曝け出したいと。
……そう、僕は―――ワクワクしているんだ。
「……僕たちは、何度折れても―――何度でも、立ち上がれる」
僕は男から瞬時に距離を取り、地面に手を添える。
……足りない。
この男と戦いにまで発展するには何もかもが足りない。
力、技術、頭脳、速度……それのどれもが足元にも及ばない。
ならば創るしかない。
速度がなければ、力がないのならゼロから創り上げる。
それが―――創造系神器に出来ること。
イッセー君はいつだって何もない所から、限界を決めずに乗り越えてきた。
だったら、僕もそんな固定観念を捨てる。
……地面に描く魔法陣。
初めての試みかもしれない。
いつだって最善を選んできた僕の選択―――その固定概念も、捨てる。
穏やかな僕の成長の道を、急な上り坂にする。
そのためなら無茶だってしてみせよう。
後のことは考えない!
「聖と魔、二つの聖魔で複重の形を折り重ねる。いざ、僕に捧げ―――エールカリバーズ」
僕の周りに光り輝く聖と魔の光。
……その光が止むころに、僕の周りには複数の聖魔剣……エールカリバーが突き刺さっていた。
本数の総数は合計42本。
僕の用意できるギリギリ限界のエールカリバーだ。
僕はそのうちの一本を掴み、両手で構える。
……勝てなくても良い。
奴に、たった一度だけでも報いることが出来たらそれでいい。
「僕は貴方には絶対に勝てない―――それでも一矢報いる覚悟が出来た」
「……面白いな、お前。名前を聞いておこうか」
「―――グレモリー眷属の騎士、木場祐斗だ」
僕は足腰に力を籠める。
……動くのは一瞬。その一瞬の見極める。
―――呼吸、視線の動き、瞬き。
その微かな動きも見逃さない。
「そうか、木場祐斗。その名は覚えておこう。さて―――来い」
男がそう呟いた瞬間、僕は全神経をエールカリバーの制御に回す。
人事は尽くした―――後は挑戦するのみ!!
「
42本、全てのエールカリバーは天閃の能力に変化し、僕の体に今までにない負荷が掛かるッ!!
でもその負荷を魔力で軽減し、僕は過去最速の動きで男へと向かって行った。
首元を完全に狙った僕の一撃。
速度だけなら、あの男にも届く!!
「―――」
僕は切り抜ける。
男の傍を切り抜け、速度を止めきれずに家屋に衝突した。
木屑によって視界が悪くなり、僕のエールカリバーは全て青い光となって消えていく。
埃で視界が悪くなる中、男の人影は僕の目に確かに見える。
男は倒れるわけでもなく、ましてやふらつく様子もない。
―――そして、僕の耳に声が聞こえた。
「……素直に驚いた。お前の速度は、俺の予想を遥かに上回った。誇っていい―――この俺に傷をつけた
……男は僕の方を振り返る。
―――そこには、首から一筋の血を流している男の姿があった。
……僕の全身全霊を掛けて加えた一撃が、ただの掠り傷一つ。
はは……世界は、広いね。
こんな化け物の相手をしていたんだね、イッセー君は。
「勇敢な騎士。お前には名乗っておこう―――俺の名はクロウ」
―――男の背中より生えるのは、翼。
それは悪魔のものでも、天使のものでも、堕天使のものでもなく―――馴染み深い、ドラゴンの翼。
漆黒の、両翼を広げたその姿は思わず見惚れるほどの威風堂々としていた。
「―――
……その名を聞いて、驚きよりも納得の方が先決した。
―――僕が一切通用しないわけだ。
キリスト教により滅ぼされていたとされる最強の邪龍が、実際には生きてこの現世に生存していたということなんだろう。
「まさか彼があの姿になるなんて。予想外にあの騎士は有能だったわけですか」
……三人と戦っていたはずの銀髪の悪魔が、涼しい顔でそう言葉を漏らしていた。
その体にはいくつか傷があるが、しかし五体満足だ。
「……木場殿。すまない―――奴は、強い。少なくとも短期決戦では勝てないほどだ」
僕の傍に姿を現す霞さんが、僕を支えるように肩を組む。
その体には幾つか傷があり、そのクノ一の衣装の所々が破れていた。
ゼノヴィアとミルシェイドさんも同様であり、特にミルシェイドさんがその傾向が強い。
……あの三人ですら、劣勢なのか。
「クロウさん。いつまで遊んでいるのですか? あなたの仕事は他に―――」
「黙れ。貴様如きの指図など聞かん」
クロウ・クルワッハは僕の方へとゆっくり歩いてくる。
……ダメだ。もう手がない。
こいつらから逃げる手立てがない。
戦う手立てもない。
「さて、木場祐斗。素晴らしい覚悟を見せてくれた礼としては何だが、俺も全霊を以てお前の覚悟に応えよう―――」
クロウ・クルワッハは右手に黒いオーラを創り、それを球体のように形作る。
それを見た途端、ザワッと体が冷え切った。
―――あれは、イッセー君の全力の攻撃と同等か、それ以上だ。
……それはつまり、クロウ・クルワッハの力が天龍クラスであるという証明。
「―――散れ」
クロウ・クルワッハはそれを放つ。
もう、僕にはどうにも出来ない。
……僕は何も出来ず、それが来るのを待った。
―――しかし。
しかし、だ。
待てども、僕は痛みを感じることがなかった。
僕は目を瞑っているのを止め、目を開ける。
クロウ・クルワッハの攻撃は
それはものの例えではなく、物理的に止まっていたのだ。
それは僕たちの目の前に広がる魔法陣のようなもの。
しかし、それは僕の知る悪魔や天使たちの使う魔法陣とは異なるモノ。
……それは、イッセー君の扱う龍法陣のものだ。
ドラゴンの性質を持ち合わせるものにのみ使うことを許される、ドラゴンの技。
そしてそれをイッセー君に教えたのは―――
「―――龍法陣・業鋼の龍皮。……良く時間を稼いだな、ホモ野郎」
―――最強の龍王であり、イッセー君の使い魔。
―――
そんな彼女が、人間態のままクロウ・クルワッハの一撃を受け止めていた。
……何故、彼女が……
「ふぅ―――やっと見つかってくれたな。クロウ」
「ほぅ……これは懐かしい顔ぶれだ、ティアマット」
クロウ・クルワッハの攻撃は次第に止んでいき、彼女の龍法陣も消える。
ティアマットさんの登場はクロウ・クルワッハとしても予想外だったようで、しかしながら嬉しそうな笑みを浮かべていた。
……だけどティアマットさんは、確かチビドラゴンズを連れて旅行に行っているはずじゃ。
「以前、イッセーを連れて京都に来た時、ドラゴンの気配を感じて警戒していたのさ。そしたらビンゴってわけだ。しかも私の可愛い弟の親友に手を出しているんだ―――私が敵対する意味、分かるだろ?」
……つまりイッセーくんには黙って、ずっと邪龍であるクロウ・クルワッハの警戒をしていたということなのか?
「……変わったな、お前も。昔はもっと血を好んでいたお前も、今ではこの体たらくか……」
「抜かせ。人も悪魔も天使も神も、そして―――ドラゴンも常に変化している。私は時代に取り残される馬鹿ではない。孤高であったドラゴンは、イッセーを中心に集い始めている。そんな居心地の良い場所を壊されてたまるかという話だ」
クロウの一言を、ティアマットさんは高笑いで吹き飛ばす。
「それに体たらく、と言ったか? なら確かめてみろ。見たところ、お前は天龍クラスまで力を伸ばしたようだがな―――変わっているのはお前だけじゃない。ドラゴンファミリーが体たらくじゃないことを、この私が証明いてやろう」
「……龍王としてか?」
「―――姉としてだ」
ティアマットは翼を羽ばたかせ、チラッと僕の方を見てくる。
「木場。最強の邪龍であるクロウがこの場にいるのは偶然じゃない。明らかに仕組まれたことだ。つまりそれを裏で操る奴がいる―――お前たちはイッセーの元に行け。ドラゴンの相手はドラゴンがする」
「……感謝します」
僕は息を整え、霞さんと共にゼノヴィアとミルシェイドさんの回収に向かう。
しかしその僕たちの目の前に現す銀髪の悪魔。
「逃がしませんよ。傷ついたあなたたちを倒すなど、容易いで―――」
「黙れ、変態。お前は彼方まで消え去っておけ」
…………ティアマットさんは、その銀髪の男の顔面を空へと向かって殴り飛ばす。
それによって銀髪の男は彼方遠くまで消え去っていき、僕たちはそれを呆然と見ていた。
……あれほど苦戦したあれを、たった一動作で?
―――本当に、ドラゴンというのは規格外だよ。
「さぁてクロウ。久しぶりに喧嘩と洒落込もうじゃないか」
「―――それは願ったりかなったりだ」
その想いと共に、二人を背にして僕たちはイッセー君の方へと向かった。
『Side out:祐斗』
―・・・
『Full Boost Impact Count 4!!!!!!!』
俺はフェルの力で創った
魔物はそれによって消え去り、俺たちは出来た道を進んで八坂さんのいる城へと歩を進める。
「それにしてなんなんだ、こいつらは! どっかから現れたと思ったら、倒しても倒してもキリがなく現れ続ける!!」
「……恐らくはドラゴンを改造したか、量産しているんだろうな。じゃなきゃこの数は説明できない」
匙の質問に予想で応えるも、それが正しいかは分からない。
でもこいつらは正規の方法で生まれたドラゴンではないはずだ。
「ただ一つ、言えることがあるとすれば……正攻法ではないんだろうよ」
俺はアスカロンで消し損ねたドラゴンを切り裂いて、先頭に立つ。
背中に背負う九重を傷つけるわけにはいかないけど、突破力を考えれば俺は先頭にいくのは妥当だ。
「い、イッセー……母様は、大丈夫なの、か?」
「……それは分からない。でも最後は絶対に救ってみせる」
俺は九重の頭を撫でて、少し遠くを見る。
……そこには俺たちの目的地があった。
和を重んじた城。八坂さんがいるであろう場所だ。
……何より、ここより先には今までの敵とは訳の違う強者がいる。
―――ガルブルト・マモン。
今回の騒動の中心にいる俺の宿敵。
……いや、それの前に先に目の前のこいつらか。
「……来たか。赤龍帝一派よ」
……恐らくは上級悪魔クラスの悪魔を筆頭とする、旧魔王派の残党。
しかし人数は限りなく少なく、数でいえば十数ほどか。
―――本当の意味での、最後の旧魔王派ってわけか。
「随分の数が減ったものだよ……なぁ、赤龍帝」
「……お前たちが最後か?」
「そうさ。……同士は皆、お前を前に散っていった―――勝てるとは思っておらんさ。だがな。俺たちには俺たちの最後の意地を見せてやる」
……覚悟を決めた目の旧魔王派は、ポケットから黒い液体の入った瓶を取り出し、それを一気に飲み干す。
―――オーフィスの分身体であるリリスによって創り出された蛇。
凄まじい副作用のあるドーピングアイテムのはずだ。
それをあいつらは躊躇いもなく飲み干した。
途端に旧魔王派の魔力は極端に肥大化し、奴らの血管が浮き出る。
「ッ! これは、一度飲めばもう生きることは許されぬもの……ッ! リリスはオーフィスと違って完全な蛇は創れないからか、副作用が取り返しがつかん! だが……ッ! 一矢報いれるならば、この命! 容易く差し出そう!!」
「……それがお前たちの、最後の覚悟か?」
……俺は確認のようにそう言うと、旧魔王派は言葉を漏らさずに頷く。
―――なら、遠慮はしない。
俺は背中から九重を下して、臨戦態勢の朱雀と匙に九重を預ける。
「……お前なら、子供を背負っていても我らに勝つなど余裕の話だろうさ―――感謝する。我々に、本気で向かいきてくれることを」
「あんた、変わってんな。旧魔王派でそんな殊勝なことを言うやつなんて、いないだろうに」
「皆を同じにしてくれるな―――もし選択を誤っていなければ、違う光景もあったのかもしれんな」
……旧魔王派の男は小さく呟き、決死の覚悟で俺へと向かいくる。
「でもお前たちは選択を間違えたんだ。それはどう足掻いても変えることの出来ないことだ―――悲しいけど、さ」
『Full Boost Impact Count 5!!!!!!』
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!』
俺は右手に白銀の球体を、左手に紅蓮の球体を創る。
その照準を旧魔王派に合わせ、そして―――放った。
真っ直ぐと敵を貫く紅蓮の流星と、弾丸を拡散させて魔力弾の雨を降らせる白銀の流星。
それによって大半の悪魔は命の灯を消し去る。
「赤龍帝ぇぇぇ!!!!」
……最後まで生き残ったのは上級悪魔の悪魔のみ。
身体中から蛇の副作用から血が噴射し、血管が幾つも切れている。
それでもなお、その勢いはとどまらない。
……俺は拳を握る。
アスカロンの聖なるオーラを右腕に流し、それを何度も何度も倍増する。
悪魔は俺との距離が数センチほどとなり、拳を俺に放つ。
……それを俺は流して避け、そして力を込めた右腕で―――その腹部を貫いた。
「……ふっ―――全く……敵わないな、本当に……」
……そんな呟きと共に、悪魔は光の結晶となって消えていった。
なんていうんだろう―――この気持ちだけは、この感触だけはいつになっても慣れないな。
きっと永遠になれないんだろうさ。
……慣れなくていい。この感触を、殺したということを忘れてはいけないんだ。
「……行こう」
俺は一歩、そこから歩みを進めた―――その時であった。
俺の足元に突如、巨大な魔法陣が現れる。
―――途端に、俺は察知した。
この魔法陣から現れる存在についてのことを。
寒気のするほどの悪意、心の底から嫌悪するオーラ。
……一度だけ感じたことのあるものだ。
これはドラゴン。ドラゴンはドラゴンでも、最悪なドラゴン。
こいつは―――邪龍!!
《グへへへへへへヘッ!!! なんだぁ、こっからうめぇにおいがすっぞぉぉ??》
……漂う異臭に顔を歪ませる。
―――そこから現れたのは予想通り、ドラゴンであった。
黒い鱗に黄土色の蛇の腹、長細い蛇タイプのドラゴンだ。
……その姿を見た瞬間、俺の中のドライグと朱雀の中のディンさんが反応する。
『……ニーズヘッグか』
『ああ、その通りさ。これはまた、僕が散々手を焼いたおバカさんが出てきたものだね』
……なるほど、あいつがニーズヘッグ。
―――
北欧の氷の国、二ヴルヘイムに生息していた伝説の邪龍といわれており、その最大の特徴が討伐されても何度も蘇る。
ラグナロクが起きても生き残るのではないかと言われてるほど厄介なドラゴンだ。
……なるほどな。薄気味悪いドラゴンの量産体が出てきた時点で可笑しいと思ったけどさ。
―――ガルブルトの一派は、邪龍にまで手を伸ばしているってわけか。
《んんん? お、おめえらもしかしてドライグとディンかぁ!? すっげぇちっこくなったなぁ! まあんなことどっでもいいだ! ちっこいが、うまそうなやつらだなぁ……とくにそこの金髪のおんながうまそうだ》
ニーズヘッグはアーシアを見据えて、そう汚い言葉を言う。
『相棒、奴は悪食で有名でな。貪欲且つなんでも喰らうのが奴だ。特に人間を喰らうことで奴は討伐を何度もされた』
『僕もあいつを何度も封印しようとしていたんだけどね。でもあいつ、ここぞって時に逃げるから厄介なんだよ。対して強くはないんだけど』
《う、うるせぇぞぞぞぞ!? お、おではリリスの蛇で前よりももっどづよくなったんだぁぁ!!!》
ニーズヘッグはドライグとディンさんの言葉に激情し、俺たちに襲い掛かる。
―――そろそろか。
「ニーズヘッグ。悪いが、お前の相手なんてしてらんねぇんだ」
……この薄気味悪いオーラを誰よりもすぐに察するヒトが、この妖怪の世界にいる。
先程からその気配を察知しており、こちらに凄まじい勢いで向かっているのはわかっていた。
「そう、お前の相手は―――」
「―――拙者が手合せよう。邪龍、ニーズヘッグよ」
俺の言葉に合わせるように、俺の背を飛び越えて一陣の影がニーズヘッグを両断する。
ニーズヘッグの身体はそれにより目にも明らかに大きな切り傷が生まれ、汚い絶叫をあげた。
……三善龍最強の龍。ドラゴンの中では最小であるが、その力は有数の俺の尊敬するドラゴンのトップに君臨する『優しいドラゴン』の体現者。
―――三善龍。刃龍、夜刀神。
夜刀さんはいつも通りの麦藁の帽子をクイッと整え、俺に爽やかな笑みを浮かべた。
「待たせたでござるな、イッセー殿。ここは拙者に任せるのでござる!」
《で、でめぇは!! ぜ、善龍・夜刀神ぃぃぃ!?》
「そうでござるよ、ニーズヘッグ。拙者の顔、忘れたでござるか? ―――お主を42回ほど葬っている拙者の顔を」
……夜刀さんは刀を両手に携え、俺たちの道を作るように斬撃波を放ってニーズヘッグの巨体を削る。
「全く……お主、次はテロ組織に加担するとは、些かドラゴンとしての誇りはないでござるか? だがな。拙者の友の女子に手を出すとするなら、拙者も流石に堪忍袋の緒が切れる所存でござる」
《う、うっせぇぇぇぇ!! お、おまえを今日こそは―――》
「―――不可能でござるよ。拙者は以前よりも遥かに強くなった」
……神速の夜刀さんの全方位刀剣発射。
夜刀さんはあらゆる属性の刀を創り出すドラゴン。
その身体全てが刀で出来ているようなドラゴンだ。
……俺は夜刀さんを横目に、皆を連れて先に進む。
「ニーズヘッグ。ドラゴンもまた新しく変化している。変わらぬお主など、我々の敵ではない」
《はぁぁぁぁぁああ!!? んなもん、しらねぇよぉぉぉぉ!!!!》
―・・・
城の頂上に上っている最中、俺は後ろを見た。
エリファさんの後ろで、彼女の魔術によって俺たちに何とかついてきている父さんと母さんのことを。
……本当なら、こんなところに連れて着たくなかった。
でも二人は頑なに残ることを拒否した。
「……俺が二人の立場でも、同じことをするよな―――親子なんだから、仕方ないか」
『全くです。本当に妬いてしまいますよ、主様と謙一さんとまどかさんの関係性は』
『血の涙を流すほどにな』
『いえ、私はそこまででは……』
ドライグとフェルの軽口が俺の中で繰り広げられる最中、俺たちはとうとう城の最上階。
八坂さんがいるであろう部屋の前に到達した。
扉で仕切られていて、ここにいる。
八坂さんと、そして―――あいつが。
エリファさんは父さんと母さんを護る障壁を更に強くし、匙と朱雀は神器を構える。
……いくぞ!!
俺は先陣切って仕切りの扉を蹴飛ばし、室内に入っていく―――
「―――あれー? 思ったよりも早かったねー」
―――しかし、そこにはガルブルトの姿はなかった。
「そっかそっか。イッセー君はあの妖怪のお姫様を助けに来たんだー。でもあのヒト、既に連れ去られてるよー?」
―――そこにいるのは、会ったことがないにも関わらず俺を愛称で呼ぶ、軽快な声音の女の子。
声が少し加工されたような声になっていた。
「って、こうして会うのはもしかして初めてかな? ならちゃんと自己紹介をしないと!!」
―――フードのついている純白の布で来ていて、顔は見えない女の子。背丈は小さく、その胸には見たことのある機械的なネックレスを付けている。
それは俺の胸元に装着されているブローチとどこか似ていて。
「じゃあ初めまして! 私は―――
―――話に聞いていた終焉の少女。
俺の
「あはは、私の
―――そんな不確定要素が、この騒動の最中で邂逅した。
俺はそれを偶然とは思えず、ただ呆然と彼女を見つめる。
ただこの時、俺はただこう感じていた。
「―――本当に、初めまして……なのか?」
「……ふふ」
―――俺の呟きに、終焉の少女は嬉しそうに笑みを浮かべるだけだった。