ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第3話 始動する現実

「いや~。まさかこんなところでイッセーくんに会えるなんて、運命感じちゃうよ♪」

 

 俺は今、新幹線内で偶然にも出会った観莉と少しばかり会話をしていた。

 どうやら観莉もまた修学旅行に来ているらしく、しかも車両も同じで行先も互いに京都。

 観莉の台詞を使いまわすようであれだけど、確かに何かを感じてしまうよな。

 

「俺も驚いたよ。まさか観莉と会えるなんてさ」

「うん! あ、それならイッセーくんのお土産もしっかりと考えないとね。行く場所が同じなら、被るかもしれないし!」

「それもそうだよな」

 

 家に買って帰るお土産と貰うお土産が同じなら何とも微妙な感じだからな。

 ……と、そこで嬉しい反面、少し不安が過る。

 ―――土御門本家の崩壊。恐らくは禍の団の強行のはずだが、あいつらは人間に手を出した。

 今まで人間に手を出さなかった何者かが動き出したとしか思えない。

 もしも観莉に何かあれば、俺はすぐに駆けつけれるだろうか?

 観莉だけじゃない。

 ……全てを護ることは、出来ない。

 俺の救えるのは、この手が届く範囲でしかない。

 

「……ん~? イッセー君、なにか難しいこと考えてるの~?」

 

 ……すると観莉が俺の顔を覗き込んで、目を丸くしてこっちを見てくる。

 

「え?」

「え? っじゃないよ! イッセーくん、今凄く怖い顔してたよ? ほら、こんなに眉間に皺を寄せて」

 

 観莉は人差し指を俺の眉間にツンとつけて、その後にそっと頬に触れてきた。

 

「イッセーくんはいつも笑顔でいないと! ほら、いつも優しいから私は甘えていられるんだから」

「……ごめんな。ちょっと色々と考えなくちゃならないことがあってさ」

「―――大丈夫だよ。イッセーくんって器用だし、何だかんだで全部解決できるから」

 

 ……何の根拠もないのに、観莉のその言葉はどこか納得してしまうほどの説得力があるような気がした。

 ―――なんなんだろう、この温かさ。

 観莉に触れられている頬が、どこか懐かしいような温かさを含んでいるような気がする。

 

「そう言い切るところが観莉らしいよな」

「信頼していると言ってよ、きみぃー♪」

 

 観莉はわざとらしく人差し指を俺の頬に突きつけてくる。

 ……小悪魔というか、観莉最大の魅力と言いますか。

 なんかあざとさとはまた違うんだよな。

 観莉は心の底から思ったことを口にして、決して嘘はつかない。

 そう、まるで―――

 

「あんまりふざけてると怒るぞ? ミー―――」

 

 ……無意識に言葉に出して、自分一人でハッとする。

 ―――何言ってんだろ、俺。

 少し京都のことで不安でどうにかしたのかよ。

 

「……あはは。うれしーなー、イッセーくんにあだ名をつけてもらえて! なんかそのあだ名、とっても大切な気がするよ!!」

「言い間違えただけだよ」

 

 俺は軽口を叩きながら観莉のおでこを軽く小突く。

 観莉はオーバーリアクションをとって「いったぁ~い!!」なんて言っている。

 

『―――憶測だけど、たぶん私たちを引き裂いた存在は私を幾つかの要素としてバラバラにしたの。だから私そっくりな存在がいたり……私の残留思念が残っていたり、ね』

 

 ……不意に思い出したミリーシェの言葉。

 ―――まさか、な。

 俺は頭をぶんぶんと左右に振って、頭を切り替える。

 

「観莉、修学旅行だからってはしゃぎすぎるなよ? それと絶対に危険なことには首を突っ込まないこと。それと」

「えぇ~、大丈夫だよ? 私、世渡り上手だし」

「いいから聞けって―――何かあったら、絶対に俺を呼ぶこと。そのときは身を挺してでも観莉の元に駆けつけるから」

 

 俺は観莉の肩をガシッとつかみ、真剣な表情でそう言うと……、観莉は顔を真っ赤にして視線を逸らした。

 

「……顔、近いよ。イッセー君」

「……ッ! ご、ごめん」

 

 俺は言われて初めて目と鼻の先に観莉の顔があることに気づいて、すぐさま離れようとした。

 しかし……

 

「ううん、いやじゃないよ? むしろ近くでイッセーくんのお顔を見れて、嬉しいな♪」

 

 ……観莉は俺の腰に手を回す。

 な、何をして……

 

「イッセー君も気をつけてね? でももしもの時は―――」

 

 観莉は背伸びをして、その唇を……ッ!?

 俺は即座に観莉が何をしようとしているかに気づき、顔を背けてバッと観莉から離れた。

 

「あらら、ざーんねん♪」

 

 ……今、観莉はキスをしようとした?

 な、なんで……ッ!?

 

「み、観莉? 一体どうしたんだよ、今日は……」

「別にいつもどおりだよ? ただなぜかイッセー君がすご~っく、愛おしく見えて暴走しちゃうのだよ!」

「い、愛おしくって! 意味をわかって言っているのか?」

「―――うん。気持ちの整理は出来ていなくても、この気持ちはイッセーくんが思っていることと同じ意味だよ」

 

 観莉はすっと一歩、俺に近づく。

 

「はじめてあった時から、たぶんずっと惹かれてたんだよ? だってあの日から、イッセーくんのことをいつも考えていたんだもん。新しいバイト先の常連がイッセーくんって知ったときも、私の家庭教師をしてくれたり、一緒にいてくれたときも、今も……頭がぐるぐるになるほど嬉しくて、つい舞い上がって一人で盛り上がっちゃうくらいに」

「み、観莉……」

 

 観莉は俺の手を取って、ギュっと握った。

 

「私、最近思うんだ―――愛する人のためなら、人はどんなにも歪んでも良いって。ね、イッセー君もそう思わない?」

 

 ……観莉の目は、少し虚ろになっているような気がした。

 ―――何か、違う。

 この観莉は、いつもの観莉ではない。

 何かが確実に違っている。

 でもその何かが俺にはわからない。

 

「俺は―――」

 

 そんなことはない、と言おうとしたときだった。

 ギィィィィッ!! ……突如、電車は大きく揺れて観莉は状態を大きく崩した。

 俺は体勢を崩す観莉を抱き留めて、自分のほうに抱き寄せた。

 その結果―――観莉との距離は、再び目と鼻の先となる。

 

「……(ずるいよね、)(ホント)

 

 観莉は何かを呟いて、そっと俺の頬にキスをする。

 観莉の触れる唇の感触は頬に伝わり、その部分が熱を帯びたように熱くなった。

 ……そして少しして、唇をそっと離す。

 

「―――どうだった? 私の演技」

 

 そして―――途端に観莉はいつもしたり顔になり、そんなことを言ってきた。

 え、え、……演技?

 

「いやぁ、ごめんねイッセー君! 実は学校の文化祭で演劇をするんだけど、私の役が歪んだお姫様って役なんだよね~!」

「は、はぁ!?」

「お、怒らないで~~~!! 私だってすっごく恥ずかしかったんだから! 本当にファーストキスをイッセー君に捧げるところだったんだからね!!」

 

 し、知らねぇよ!?

 なんだ、つまりさっきまでの観莉は役に入りきってたから雰囲気がいつもと違って、しかもあんな台詞を吐いていたってのか?

 ……もう怒るを通り越して関心するよ、このやろう。

 

「はぁ~、ドキドキしたぁ……あんな近くでイッセー君の顔、恥ずかしすぎるよ!」

「……うるせぇ。ドキドキさせられる身にもなれっての」

 

 俺は観莉の頭をぐしゃぐしゃに撫で回す。

 ……この小悪魔は本当に手に負えない。

 ここまでなのは、あいつとも引けを取らないくらいの小悪魔レベルだよ。

 

「え、ドキドキしてくれたの?」

 

 ……すると観莉は俺が不意に口にした台詞を拾う。

 やばい、失言した。

 でも言ったからには正直に言うしかないよな。……仕方ない。

 

「……当たり前だろ。観莉は可愛いんだから、そういうことされると困る。その、……うん、やっぱり今後そういうのはなしな!」

「…………そーだね。わかった―――わかったよ」

 観莉は穏やかな笑みを浮かべながら、すっと隣にピッタリくっついてきた。

 

「そういいつつ、何くっついて」

「―――演技じゃなかったら、いいんでしょ?」

 

 ……少し悪戯な笑みを浮かべる観莉に、俺はもう何も言おうとせず、ただ肩を落としたのだった。

 ―――敵わないな、観莉には。そう思わざる負えなかった。

 ―・・・

「うぉぉぉぉぉ!! きょうと、だぁぁぁぁ!!!」

「うっさい、松田!」

 

 到着に叫ばずにいられない松田の頭を、バシッと桐生が叩く。

 ……そう、俺たちはようやく修学旅行先の京都に到着したんだ。

 観莉とはあの後、すぐに別れてたぶん自分の学校の予定をこなしているんだろうな。

 俺たちは現在、京都駅にいる。

 ここから班に分かれてまずはバスに乗ってホテルに移動、その後、一日目の班での自由行動となる。

 俺たちは今日は電車を使って様々な歴史的某所に行く予定なんだけど……ってそうだ。

 

「アーシア。皆にあれは配ってるか?」

「あ、はい! 匙さんや木場さんにもお渡しできてます!」

 

 ……そう、悪魔である俺たちは本来、妖怪の住処である京都を無許可で徘徊することは出来ない。

 その許可を貰うための通行証みたいなものを常に肌身離さずに持っておかないとダメなんだ。

 今回はそれをリアスがとっておいてくれて、それをアーシアが管理しているということだ。

 本来俺が管理をしてもいいんだけど……まあアーシアが管理させて欲しいと言ってきたから、任せているんだ。

 

「ありがとな、アーシア。……っし、バスに乗り込むか」

「はい!」

 

 俺はアーシアと共にバスに乗り込み、アーシアの隣にさも当然のように座る。

 そしてしばらく二人会話が途切れることなく談笑していると、ふとアーシアに気になることを聞いた。

 

「ところでアーシアはさ? リアスとエリファさんのいざこざについては知ってるのか?」

「あぅ、そのことですか……。そうですね、一応私もその場にいたので」

 

 いた、というより当事者に近いですけど。……っと、少し苦笑しながらアーシアは言った。

 ……アーシア曰く、俺が平行世界に行っていた一週間の間にエリファさんはグレモリー眷属の元まで来たらしい。

 目的は濁して話しているけど。

 それでそこで俺を除くグレモリー眷属はエリファさんの眷属と対面し、そして目の前で宣戦布告をされたそうだ。

 

「『私たちベルフェゴール眷属は貴方たちグレモリー眷属をレーティングゲームで下します』って言って……」

「な、なんとも大胆不敵な……」

 

 でもなんかエリファさんらしくて、その行動に納得してしまう。

 ……それにしてもベルフェゴール眷属か。

 俺が知っているのはエリファさんの駒価値二個分の騎士、霞っていう忍者の格好をした子だけだ。

 

「なんでもエリファさんの眷属はまだ未完成なんだそうです」

「未完成?」

「はい。現在は女王と騎士と兵士が一人だけの眷属で、今は眷属集めで世界各地を転々としているそうで……」

「その途中でグレモリー眷属の元を立ち寄ったのか」

 

 眷属が集結したら、俺たちとレーティングゲームで雌雄を決する……か。

 分かりやすくていいな。

 

「この修学旅行が終われば次に待っているのは、若手のトップを決めるレーティング・ゲーム。……不謹慎かもしれないけど、俺さ。ものすごいワクワクしてるんだ」

「わ、ワクワクですか? ……でもイッセーさんの気持ちも分かる気がします」

 

 禍の団との命懸けの戦いでもなく、最近ずっと続いているロキやら黒い赤龍帝との戦いとも違う。

 どちらかといえば平行世界の兵藤一誠と戦ったときの感覚に近いのかもしれない。

 ……サイラオーグさんに、エリファさん。

 あの二人が素晴らしいヒトなのは俺がよく知っている。

 でも、それでも―――絶対に、勝ってみせる。

 そう決心を固めるため、俺は一つ行動に起こすことにした。

 

「……アーシア、ちょっと神器の中に潜りたいから、一度眠ってもいいか?」

「そ、それは構いませんが……あ!」

 

 アーシアは何かに気付いたようにハッとする目を見開き、自分の太ももの辺りをパッと払ってタオルをそこに敷いた。

 え、もしかして……

 

「イッセーさん、私の太ももを使ってください!」

「あ、アーシア? そ、そういうのはそんな大声で言っちゃだめなんだぞ?」

 

 そう、俺が男子の怒りを買うから。

 

「で、でもバスの背もたれは硬いですし、それに……はぅ」

「……わかった。お言葉に甘えるよ」

 

 不安げなアーシアの顔を見ていると、そんなことがどうでも良くなって来るよ。

 それにまあアーシアの言うことも一理あるし、何より……触れ合うことが既に癒しの範疇になっているからな。

 俺はすっと、タオルの敷かれたアーシアの太ももに頭を寝かせ、目を瞑った。

 アーシアはそんな俺の頭を子犬を撫でるみたいに優しく撫でて、時折髪を手ぐしするように優しく弄る。

 ―――これ、定期的にやってもらおうかと本気で思いながら、俺は神器の奥へと意識を追いやった。

 ―・・・

「「「「「「「お兄様を癒す女神様恐るべし!!!!!」」」」」」」

 

 ……俺は神器の中に潜って、歴代の先輩たちと何かを語らおうと思っていた。

 それがドライグの言うところの、守護覇龍以外の赤龍帝の可能性に繋がると思っていたからだ。

 しかしいざ潜ってみると、待ち受けていたのはお兄様信教なるものに身を投じた先輩たちであった。

 ってか女神様ってアーシアのことか?

 

「はっ! この気配は―――お兄様ですかぁ!?」

 

 そんな俺に気づく歴代の先輩の一人、ルミエールさん。

 背はとても小さく、華奢であり、まるで赤龍帝だったと思えないほどの少女である。

 栗色のフワッとした癖のある髪質で、なんか……そうだな、小動物的なお人だ。

 そんな彼女はこの歴代の先輩たちの中でも一二を争うほど俺に心酔しているらしい(ドライグ談)。

 

「これは兄上殿! 良くぞ参られましたぞ!! 皆の衆、お出迎えの準備はできているか!?」

「うむ、問題ないぞ。ナイト」

「ええ、こちらも問題ないわ。いつでも歓迎できるようにしているもの」

 

 っと、桜色の長髪の男性の言葉に返すのは歴代最強の女性赤龍帝ことエルシャさんに、歴代最強のベルザードさん。

 それと桜色の髪の男性がナイトさん……だったはずだ。

 他にもこの場にはあと二人ほどの魂が存在しているんだよ。

 それ以外は何でも「そんな、私めがお兄様とご対面するなど、失礼極みの所存でございます!!」……だ、そうだ(ドライグ談)。

 まあこの6人の魂が神器の中でもかなり強くらしく、魂の強さ=俺への親しみだそうだけど……。

 まあ非常にやりにくいものである。

 

「それでお兄様、この度はどのようなご用件なのですかっ?」

「い、いや……そのな? 少し会話しようと思って来てみたんだけど」

「―――なんと!! なんと優しいお方なのだ!! 兄上殿!! ベルザード、共に至極の酒を取りにいくぞ!!」

「うむ」

 

 ベルザードさんもノリが軽い!?

 そしてナイトさん、なんかすごいデジャブを感じる人相なんですけど!?

 ……そんな思いは裏腹に、ナイトさんとベルザードさんは消える。

 そ、それで良いのか、最強の赤龍帝さん!

 

「え、エルシャさん。ホント、この対応はどうにかならないんですか?」

「ええ。私たちにとってあなたは神のような存在なの。つまりお兄様神―――兄神、といっても過言ではないわ」

「過言すぎるわ!! 新しいカテゴリー創るなよ!?」

「はぅ!! お、お兄様が私をお叱りに……♪」

 

 怒られて喜ぶエルシャさん!

 ちょ、おかしいでしょおい!

 ああ、こんなことなら平行世界の一誠にこの人のことをもっとしっかりと聞いて置けばよかった!!

 

「ルミエールさんも何とか言ってくださいよ!?」

「い、いえいえ!! 私のような惨めでスタイル悪くて背も小さくて視力以外何の取り柄のない女なんて、こうしてお兄様と会話することがおこがましいんです! だから躾けてください!!」

 

 か、会話が成りたたねぇ!?

 え、もしかしてドライグ、いつもこんなの相手にしているの!?

 

『……その通りなのだよ、相棒』

 

 っと、ドライグの声だけが聞こえるな。

 

『そいつらは普段はそれはもう、普通なんだ。しかし一度相棒の名を出したら、それだけで暴走する―――そんな相棒を前にすれば、もう暴走を超える暴動だ』

「誰がうまいことを言えと言った!! ともかくどうにかして何かの糸口をだな!?」

「―――ほぅ、糸口でありますか」

 

 ……すると現れるはハット帽を被った、すごいダンディーチックな男性であった。

 腰には二丁の拳銃を携え、カツッ、カツッとこちらに向けて歩いてくる。

 あ、あれは―――

 

「お初にお目にかかる、あんさんよ。俺の名はガレッド。しがないガンマンさ」

「……いやな予感しかしないんだが」

 

 俺は身構えるも、声だけのドライグが一言付け加えた。

 あの雰囲気、ダメな空気がプンプンするんですか!?

 

『いや、ガレッドはまだマシな部類だ。そもそも普段は奥に隠れているからな。お兄様信教序列が5位だからか、自制してあまり出てこないんだ』

「ちょっと待て、お兄様信教序列ってなんだよ!?」

 

 俺のツッコミをドライグはスルーして、更に話し続ける。

 ……そうか、こんな理不尽が許されるのか。この空間においては。

 殻をむいたらこれって、変わりすぎだろ!?

 俺のあのときの努力とは一体……

 

「まあ話を戻そうか、あんさん。っと、その前に―――レイ、その暴徒を抑えておいてくれ」

「―――うぃ~っす。んじゃ皆さん、少しの間黙っててもらいまっすよぅ?」

 

 ガレッドさんが『レイ』という名を呼ぶと、彼の影より現れるローブを着た女性が暴走中のエルシャさんとルミエールさんを止める。

 魔法陣のようなもので二人は完全に拘束され、ガレッドさんは帽子を取って、こちらに一礼してきた。

 

「あんさんよ。こちらはお兄様信教序列第6位のレイ。レイ、挨拶をしなさ―――」

「―――おにいちゃぁぁぁん!!! 会いたかったよぅぅぅ!!!」

 

 ガレッドさんが挨拶を促した瞬間、ガレッドさんを蹴飛ばして俺へと抱きついてくるレイさん!?

 おいおい、またこのパターンかよ!?

 ってか何なんだよもう!!

 桃色のツインテールをしたレイさんは、胸が当たるとか擦れるとかお構いなしにむぎゅむぎゅと抱きついてくる!!

 ちょ、どうなってんだよ!!

 

『……レイは相棒愛が強すぎるんだ。普段無表情を決め込んでいるくせに、相棒を前にすると最も暴走する―――その危険性からお兄様信教序列第6位となっているのだよ』

「もうこの際、お兄様信教序列のことはどうでもいい!! でも俺の先輩たちはどいつもこいつもこうなのか!?」

『っはは。だからガレッド以外まともなやつがいないんだよ』

 

 笑ってんじゃねぇぇぇ!!

 ……おい、話が何一つ進まないじゃないか。

 せっかくアーシアに膝枕してもらって癒された心が、どんどん削れていく。

 

「すぅぅぅ……ふぅぅ、おにいちゃんのにおいがすりゅのぉぉー……」

「―――はぁ、まったく愚かな。あんさんへの信仰は、もっとクールでなきゃなんねぇだろぃ」

 

 ……そう呟くと共に、突如激しい銃声がガンッ!! ……っと鳴り響いた。

 鳴り響いた瞬間、レイさんは俺の傍から吹き飛んでいって、朦朧とした惚気顔で気絶していた。

 銃声の鳴り響いたほうを見ると、そこにはガレッドさんが頭に手を置いた状態で拳銃を構えており、そして俺のほうにゆっくりと歩いてきた。

 

「さてあんさん。向こうのほうで話しましょうや」

「あ、ああ―――ホント、一人でもまともなのがいて心から嬉しいよ」

 

 ……心の底からそう言うのであった。

 ―――それから少しの間、ガレッドさんと話をした。

 

「あんさんが聞きたいのはあれだろぃ? ドライグの提示した赤龍帝の可能性。正直にいえば、あれは俺たちも良く把握していねぇんだわ」

「それは俺もだよ。何かの兆候があるってこともない。今も何かを掴むためにここに来てるし」

 

 今の赤龍帝の最も強い力は守護覇龍だ。

 これは確かに強力だし、ひとたび発動すれば神に対抗できるほどの力を有する。

 ……でも現状、この力を使う条件は厳しすぎる部分がある。

 まず一つ、仲間の全員が危機的状況に陥るか、それに近い状況下……つまり戦争などの時でしか発動できないこと。

 こんな状況はレーティング・ゲームではまず起こらない。

 ……それに加えて俺の中に眠る二つの神器もまた、制限がかかるかもしれないんだよ。

 赤龍帝の籠手だけなら問題ないが、そこに神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)が加わることで無限の倍増と無限の創造が可能だから反則である……ってのが、悪魔の上層部の考えらしい。

 全く以て人様迷惑な話だよ。

 悪魔の上層部……あの老害共は俺に制限をつけていきたいそうだ。

 だから今後、俺には何らかの制限がかかったり、厄介ごとが増えるとアザゼルには言われたが……。

 ともかく、俺は赤龍帝だけの力を、フェルの力だけを共に単体で強くしていかないといけない。

 現状は二つの掛け合わせで強敵と戦ってきているからな。

 

「まあなんにしろ、一つだけわかることがあるってんなら……。そうだねぃ、恐らく一人ではどうにもならんことだ」

「一人じゃどうにもならない?」

「そーいうこった。赤龍帝の闇を取っ払い、歴代の俺たちを解き放ったあんさんだからこそ到達できる高みがきっとあるんだわ。そーさな、あんさん。おめぇにあって、俺たちになかったもんがある。そりゃあ単純で大切なもんさ」

 

 ガレッドさんは人差し指を天に向けて、そして言った。

 

「―――あんさんにはあんさんを支える仲間がいる。俺たちだっている。ドライグも入れば、あんさんを愛する者たちがいる。だから至れるんだわ。お前さんの高みへ」

 

 ガレッドさんはそれを確信しているようにそう宣言した。

 ……わかった。

 きっと歴代の先輩たちと語らうことで何かを掴める。

 

「ありがとう、ガレッドさん」

「なぁに、俺もまたあんさんに心酔してんだよ―――何せ、俺は初代だからねぃ」

 

 そう言うとガレッドさんは俺の前から消えていく。

 初代ってことは、まさか―――

 

『ああ。ガレッドは俺が初めて宿った男―――初代赤龍帝だ。いつものらりくらりと、俺が宿っていようがいまいが自由な奴だった』

「……初代赤龍帝。俺、あの人が覇に囚われたようには見えないんだけどさ」

『そもそもガレッドの時代は覇龍なんてものはなかったし、奴は力に囚われなかったからな―――最後は一人で死んでいった。そのことが後悔となり、残留思念が残ったまま他の闇に飲み込まれていったんだよ。まあその中でもうまく生きていたな、あいつは』

「……赤龍帝の怨念は積み重ねだったもんな」

 

 ……俺も他の歴代の人たちの話を聞きたい。

 どんな生き方をしたのか。

 どんな力を手に入れたのか。

 ……語らいをもっと増やしていこう。もちろん穏便に、だけど。

 

『ふむ、相棒。もうそろそろ現地に着く頃だ』

「そうか。んじゃそろそろ―――」

 

 俺は意識を現実へと戻していった。

 ―・・・

「古き都、京都……やはり感慨深いものだね」

「やっぱりゼノヴィアはわかっているわね!」

「自称日本人が何を言っているんだい?」

「むきー!!!」

 

 ……伏目稲荷神社を前にして、ゼノヴィアとイリナはいつも通りに喧嘩をしていた。

 俺たちを乗せたバスは宿泊をするホテルに到着をして、そして今は本日の自由時間。

 自由時間は班ごとに好きなところを観光でき、俺たちは地元の交通機関を利用して現在は伏目稲荷神社に来ていた。

 伏目稲荷神社の次は東福寺、そのあとに時間があれば清水寺にも行く予定だ。

 

「神聖な鳥居の前でするなって。……っていうか松田と元浜いねぇな」

「あ、松田さんと元浜さんは京都の食べ物を堪能するっていって、別行動していますよ?」

 

 ……あの野郎共、勝手な行動しやがって。

 俺のタイムテーブルが崩れるだろうが。

 後で部屋で説教だな。

 

「それにしてもすっげぇ鳥居の数だな。階段の段数もそこそこあるし……元浜辺りは体力的に厳しいか?」

 

 なんて軽口を叩いていると、鳥居の奥より人が歩いてきた。

 学ラン? のようなものを着ているから、俺たちと同じで修学旅行生かな。

 俺は周りで写真を撮っている皆より先に行き、少しばかり談笑しようかと階段を数段飛ばしで駆けていった。

 

「ちょっと良いか?」

「……ん? なにかな?」

 

 俺が話しかけると、すぐさま爽やかな声音で笑みを浮かべる男。

 背は俺より少し高く、短く切り揃えられた藍色の髪が印象的な好青年だ。

 

「上の神社には結構人がいたか聞きたくてさ」

「いや、特にヒトはいなかった。ゆっくり出来るのではないか?」

「そっか。……ところでそっちも修学旅行かな?」

「……いや、少し違うな」

 

 少し会話していると、途端に男の表情が少しだけ曇る。

 

「……見納めさ。今は京の各地を回っている」

「……そっか」

 

 なにか深い事情がありそうで、俺はそれ以上は何も言わず、その男の横を通り過ぎようとした。

 

「教えてくれてありがと。んじゃ俺はそろそろ―――」

「―――一つ、聞きたいことがある」

 

 俺が通り過ぎる最中、その青年は俺の腕をガシッと掴み、俺の顔を横目で見る。

 ……なんだ? この感覚。

 

「その制服……。君は駒王学園の生徒とお見受けするが」

「ああ。俺は駒王学園の生徒だけど?」

「……そうか。―――君は、兵藤一誠という名を、知っているか?」

 

 ―――俺の名を呼んだ。そのことに驚くと共に、俺は瞬時にあることを思い出していた。

 ……なんで、気付かなかったんだろう。

 この学ラン……見たことがある(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)ッ!!

 この学ランは―――

 

「俺のことだ。分かっているんだろう? ―――英雄(・ ・)

 

 曹操の着ていたものと、同じものだッ!!

 

「……偶然か。だが俺はこの偶然を奇跡と思うよ」

 

 ……こっちが身構えても、英雄派であろう男は少し笑みを浮かべているだけで、交戦する意思を見せない。

 なんだ、こいつは……?

 

「―――身構えないでくれ、兵藤一誠。俺は君と戦うつもりはないさ」

「じゃあ、なんで俺を探していたんだ? 英雄派のお前が!」

 

 いつでも赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)を出す準備は出来ている。

 それにこいつの纏う雰囲気はただの人間ではなく、曹操のものと同様。

 

「勘違いしないでほしい。俺は曹操のように君を宿敵と見るつもりは毛頭にない」

「敵だろ? 禍の団に在籍している時点で、お前は俺の敵だ」

「……悲しいな。俺は兵藤(・ ・)の味方でありたいんだがな」

 

 ……男は少し寂しそうな顔をする。

 ―――なんなんだ、こいつは。

 敵なのか、味方なのか? 全く、読めない。

 

「兵藤一誠―――君はそんな薄汚れた悪魔側にいるべき存在ではない」

 

 すると男は突如、俺に手を差し伸べてくる。

 

「……何が言いたい?」

「ああ、そうか。なら簡潔に言おう―――君は英雄だ。その性質、気質。君は明らかにこちら側の存在だ」

「…………そういう、ことか」

「ああ、そうだ。……兵藤一誠。俺の仲間に、ならないか?」

 

 男はそう単刀直入に言ってくる。

 ……とても簡単な勧誘だった。

 男の目は真剣であり、ふざけていってきているわけではない。

 本気で俺に、自身の仲間にならないかと聞いているのはすぐに理解できた。

 どういう目的かは分からないが、目の前の英雄派の男は俺を勧誘して来たんだ。

 ……男は俺へと手を差し伸べているが、残念だよ。

 ―――答えなんて、考える間もなく決まってるんだから。

 

「―――断る。俺はグレモリー眷属の兵士で、赤龍帝眷属の王だ。お前たちがどんな存在でも、俺はお前たちの敵でしかない」

「……そうか。なら―――無理やりにでも、連れて行くしかないようだな」

 

 晴明はすっと目を瞑って、肩を落とす。そして―――

 ……突如、俺に向けられて放たれる殺気。

 ……ッ。この殺気、ただの構成員ではない。

 まさに曹操に匹敵するほどの……ッ!!

 

「そういえば、自己紹介がまだだったな―――俺の名は安倍晴明。曹操と並ぶ、英雄派の二大トップの一人だ」

「……それはまた、大物が来たもんだ。お前ら、単独行動し過ぎだろ?」

 

 ……曹操といい、こいつといい大胆な事ばかりしやがる。

 曹操はオープンキャンパスの時に俺の前に現れて、こいつは修学旅行中に接触してくるのかよ。

 

「曹操から聞いている。彼も君に接触したそうだからな」

「……それで、お前はどうするつもりだ。まさかここで戦おうとでも言うのか?」

「まさか。俺もそこまで愚かではない―――俺が狩るのは君を除く三大勢力さ。人間は俺たちが護るべき存在だからな」

 

 ……今の一瞬、晴明から濃厚な負のオーラを感じた。

 こいつは……三大勢力に何か恨みでもあるのか?

 何か、か―――そんなもの、一つしかないか。

 

「……だがまあ、今回は去るとしよう」

 

 しかし、晴明はすっと俺に背を向けて、俺から離れていく。

 ……今、この場であいつと戦うことは容易い。

 だけど現在、京都で起こっている現実を考えれば、あまり考えなしに動くのは得策ではない。

 ……見逃すしか、ないか。

 

「安倍晴明。俺は屈しないぞ? 俺は護るために戦う。それが変わることは決してない。お前がいくら俺の敵ではなくても、お前が俺の

「ああ、分かっているぞ―――だが、君はいずれ俺の元にくる。悪魔はそれほどに罪深い」

 

 ……晴明は消える。

 ―――どんなことを言われようと、俺はぶれない。

 悪魔が罪深い? ああ、人間に言わしてみれば当たり前だ。

 悪魔の老害どもも、そもそもこの転生システムも人間からしたら迷惑極まりない。

 そんなこと、人間の頃から知っていたよ。

 だけどどんな経緯があろうと、俺は悪魔になってしまった。

 ―――だけどその前に俺はドラゴンだ。

 守護覇龍の神髄は、何かを護ること。

 

「……次会う時は、容赦はしない。俺の大切に牙を剥くなら、お前は敵だ」

 

 今はいない晴明に、そう呟いた。

 ―・・・

「に、二大トップ!?」

 

 伏目稲荷神社に到着して、木陰で俺はゼノヴィアに先ほどのことを説明していた。

 その途端にこの反応をされるのは少しばかり面倒か。

 ってか桐生がゼノヴィアの反応を見てこっちを睨んでいた。

 

「声がでかい! ゼノヴィア、もう少し声を抑えてくれ」

「す、すまない。……まさかまた英雄と会っているなんて思っていなかったものでな」

 

 確かにゼノヴィアの言うことも最もだ。俺だってこの場で英雄派に会うなんて考えてもいなかった。

 だけどこれは非常に深い問題だ―――土御門の崩壊に英雄派が現れた。

 これを偶然で片付けてはいけない。

 英雄派が土御門本家の崩壊に関わっているとは思えないけど、何か繋がりはあるはずなんだ。

 

「それにしても、イッセーを勧誘か……。少し不気味だな。今までになかった敵だ」

「ああ。英雄派……俺の知っている限りでは曹操と清明は掴み所がないような奴だった。そうだな―――あまり敵になりたくないよ」

 

 あいつらの英雄としての理念は正しい。

 人間を守ると二人とも言っていた。

 それ故に俺たち……今の今まで睨み合っていた三大勢力が手を取り合うなんて、脅威以外に言葉がないはずだ。

 それに加えて三大勢力は人間に干渉をし続けているのも確かだ。

 ……そのせいで不幸になった人間だってたくさんいた。

 アーシアだって、フリードだって……もっとたくさんいる。

 だからだろうな。……俺はあいつらと、戦いたくないと思ってしまうのは。

 

「甘っちょろいな、俺。あいつには堂々と敵と言ったくせに、いざ考えると揺れてる」

「何を言っている、イッセー。―――イッセーが甘いなんていつものことじゃないか」

「……うるせぇよ」

 

 俺は誤魔化すようにゼノヴィアの後頭部に軽くチョップを入れ、そのあと肩に手を置いた。

 

「……ありがとな、ゼノヴィア」

「ふふ。何のことかな? そんなことよりもイッセー、今日の夜はよろしく頼むぞ?」

 

 ……今日の夜? はて、なんのことだろう。

 特に何の約束もしていないけど……部屋にでも遊びに来るのか?

 まあ特に気にすることはないか。

 

「まあいいや。ゼノヴィア、せっかく来たんだからお参りして行こうぜ。ほら、皆はもう先に―――」

 

 ゼノヴィアにそう声を掛けようとした瞬間だった。

 ―――俺は何かの気配と、尋常じゃないほどの殺気を肌で感じ取った。

 それを一瞬、晴明のものと思ったが、これは明らかに違う。

 これはそう……憎悪といえる殺気だ。

 

「―――ッ。イッセーも気づいたかい? この尋常じゃないほどの殺気。まさか、安倍晴明という奴か?」

「いや、違う。これは純粋すぎる憎悪の殺気だ。しかもどんどん近づいて来ている!」

 

 ……ここには桐生がいる。

 桐生を巻き込むわけにはいかない!

 

「ゼノヴィア、お前は皆の警護をしてくれ」

「イッセーはどうするんだ?」

「―――迎え撃つ。相手がどんなのかは分からないけど、出迎えるよ、相手を」

 

 相手はもしかしたら禍の団かもしれない。

 俺はゼノヴィアを置いて鳥居の入り口の方に走り出した。

 ……ゼノヴィアは気付いていないようだったが、俺は違うものも感じ取った。

 殺気を放っている気配の他にもう一つ―――静かすぎる気配があることを。

 

「イッセー、敵は二人にゃん」

 

 するといつの間にか俺の隣に黒歌が現れ、小さな声でそう言ってきた。

 ……黒歌の場合は仙術の類で感じ取ったか。

 

「ああ。黒歌、周りに影響がないように結界を張れるか?」

「ふふん♪ 私はイッセーの眷属にゃん! そんなこと朝飯前にゃん〜!」

 

 黒歌はどこか嬉しそうな顔で笑みを浮かべ、俺のお願いを了承する。

 ……そんな軽口を叩いている間に、俺たちの視界に目標の人影が二つ見える。

 

「黒歌、頼んだぞ」

「うにゃ!」

 

 黒歌の変な掛け声と同時に、俺はその人影の視界に入るほど近づく。

 ……対象は予想通り二人だった。

 だが一つ、予想外なことがあった。

 

「―――許さない。私はお前たちを、許さない……ッ!!」

「…………」

 

 ―――俺はその二人を知っていた。

 一人はすらっと伸びた藍色の髪を一つに束ね、装束服のようなものを着た美女。

 そしてもう一人はぼろぼろの白い布に身を包む、ボサボサの銀髪で目が虚ろになっている少女。

 ……知っている。

 一人は俺を助けてくれて、一人は俺の敵である存在だ。

 ―――ロキとのいざこざの前に現れた英雄派。

 奴らは俺たちに刺客を幾人も送り、その最後に「回収」という名目で俺の前に現した少女。

 確かその名は……メルティ・アバンセ。

 その少女と対峙している美女のことも、俺は知っている。

 数日前、アザゼルのせいで幼児化した際にチビドラゴンズと共に訪れた京の地で出会った存在。

 落ち武者に襲われた俺たちを救ってくれた土御門(・ ・ ・)の人物。

 それが俺の目の前にいる人物だ。

 

「禍の団に土御門。……ただでは帰れないってことか」

 

 少しばかり溜息が出る。

 そう呟いた瞬間に、両者共、俺の方をぎょっと見てきた。

 

「……一般人、ではないようだな―――ここは危険だ。今すぐに立ち去れ」

 

 土御門の美女は、剣を構えながら俺に向けてそう言ってきた。

 ……宝剣のようなものだ。要所要所に宝玉が埋め込まれた機械的な剣。

 それぞれが違う色をしているたくさんの宝玉が微かな光を輝かせていた。

 

「そうでもないんだよ。俺はお前たちに色々と聞かなきゃならないことがある。―――そうだろ? メルティ・アバンセ」

 

 俺が視線をメルティ・アバンセの方に向けてそう言うと、彼女は小さく何かをボソボソと呟いていた。

 

「……目標、捕捉。……赤、龍帝」

「―――赤龍帝……ッ!?」

 

 メルティ・アバンセの一言に土御門は異様なほどの驚きに包まれていた。

 ―――赤龍帝が悪魔に、更には上級悪魔に昇格したことは色々な方面に知りわたっている。

 だからこそ、俺はそれを利用してでもうまく立ち回る。

 

「……俺は赤龍帝、兵藤一誠。上級悪魔で、赤龍帝眷属の王だ―――悪いが、少し話を聞かせてもらうぞ」

「―――捕獲……」

 

 単純な一言と共にメルティ・アバンセは祐斗並かそれ以上の速度で俺に近づき、その鋭利な爪の生えた指で俺に危害を加えようとした。

 ……捕獲、か。

 以前とはまた目的が変わってるんだな。

 だけど―――

 

「言っただろ? 話を聞かせてもらうって」

『Boost!!』

 

 俺は即座に展開した籠手で彼女の腕を捉え、その動きを止める。

 メルティはすぐさま反対の手で俺の腕を引き裂いて逃げようとするが、その手は……

 

「おっと、私のご主人様に手を出すのは許さないにゃん♪」

 

 黒歌による仙術と妖術によって止められた。

 メルティの動きを完全に制圧し、俺はその上で土御門の美女に声を掛けた。

 

「話を聞かせてもらう。土御門の現状と、お前の知っている情報を話してもらうぞ?」

「…………承知した」

 

 俺の言葉に素直に頷く。

 ―――後にこの時の出会いは、俺にとって運命的なものになる。

 そんな気がしてならなかった。


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