ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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「本当に良いのか? こんな荒療治、悪いが成功するとは思えん」
「分かっています。私も上手くいくとは思えませんし、それに―――奴が違う世界に飛んでしまった。そう知れば彼はきっと止まりません」
「なおのことだ。一度行けば、帰ってくる手立てはない。例え我ら魔王が手を貸しても、戻れる確証はないのだぞ」
「それも分かっています。……それでも私は、例え可能性が限りなくゼロに近くても。それでも託したいんです。私には彼をどうにかすることは出来ないし、何より手立てがない。ならば私は私に出来ることをするしかない―――とっても、簡単なことだとは思いませんか?」
「……存外頑固なものだな。その勇ましい顔、お前の主だったあいつにも見せてやりたいものだ」
「それをいうならあなたの現在の御姿を見せたいものです。私の大好きだった、あの方に……」
「…………そうだな、感傷に浸っても致し方ない―――もう、行くのだろう?」
「ええ。私は奴を殺すため、彼について行きます。……そして、彼を倒せる違う世界の『彼』を巻き添えにして……行きます」
「……関係のない者を巻き込むのは、お前の本質からすれば辛かろう―――それでも前に進む貴殿の心意気、俺は全力を以て賞賛する」
「……ありがとうございます。魔王様」
「はは、堅苦しいな。これが今生の別れにもならんとするのにな―――どうだ? 昔のように俺を読んでみたらどうだ?」
「ルシファー様をそのように呼ぶなんて、無礼です」
「今この場において無礼などもあるか。俺は奴の友としてこの場にいる。ならば今の俺は魔王ではなく、あいつと拳を交わしたただの『漢』でしかあるまい」
「…………ふふ。そういう任侠なところは昔から一切変わらないんですね―――様」
「……ああ、この気質、恐らく死ぬまで治らん」
「故にあなたは魔王になったのです。その優しさが、剛腕なる拳が魔王になる所以となった―――今は亡きかの魔王の後を継ぐのはあなたしかいなかったのです。あなただから、私もまた信頼できる」
「……止めてくれ。これでもこの漢は最近涙腺が緩んでいてな。年もとるモノだ―――自然と、涙が溢れそうになる」
「……それは私たちが仮に帰ってこれた時に流してください。……では、行ってまいります。―――様」
「ああ、行って来い! そして土産話をとくと聞かせろ! 違う世界のあいつが―――兵藤一誠がどのような漢気を魅せたかをな!」
「―――はい!」





―――そして彼女たちは、旅立った。


第11話 譲れないもの

     紅蓮の(クリムゾン・ジャガーノート・)守護覇龍     (ガーディアンドライブ)

 ロキとの一戦を経て、俺が長い時間をかけてようやく見つけた答えを具現化させた力。

 護ることに関して特化した形態であり、護るために敵を倒す力を付加させたものでもある。

 護るためには傷つけなければならないという矛盾を受け入れた俺だから使うことが出来た力。

 ―――それを、あいつを救うために使う。

 

「行くぜ、守護覇龍。最初から、ギアは全開だ!!」

『Boost!!!!!!!!!』

 

 全身の宝玉より力強い倍増の音声が鳴り響く!

 たった一度の倍増で俺の中の力は極限にまで膨れ上がり、先程までとは比べ物にならないほどの速度で黒い赤龍帝の目の前まで移動した。

 ―――ドライグ曰く、俺とあの守護龍たちは繋がっている。

 俺自身が力を一度倍増すると、守護龍たちも力を倍増させ、その一端を俺へと送信するんだ。

 それにより俺は一度の倍増で禁手の時よりも素早く力を強くできる。

 純粋な意味で、これは赤龍帝においての最強を冠するにふさわしい力だ!

 

『Hell Dragon Arms……』

「……だったら、こっちはこいつだ!」

『Full Boost Impact Count 19!!!!!!』

 

 俺は至近距離で即座に流星を創り出し、黒い赤龍帝の両腕に展開された極太の腕を流星で消し飛ばす!

 更に所作をコンパクトにし、拳を強く握って、……黒い赤龍帝の腹部を全力で殴り飛ばした。

 

『!?』

 

 黒い赤龍帝はすぐさま空中にて体勢を立て直し、闇に染まったアスカロンを横薙ぎに振るって斬撃波を放ってくる!

 

『Fang Blast Booster!!!!!!!!!』

 

 ……しかしその斬撃波は俺に届くことなく霧散する。

 俺の後方より一誠が背中のレールカノンから魔力砲を放ち、斬撃波を完全に相殺したんだ。

 

「っし! ドライグ、細かい調整は頼んだぜ!」

『応ッ! あいつにばかり良い所を見せていては赤龍帝の名が廃る!!』

 

 更に一誠は発射口にオーラを集中させ、魔力をチャージさせていた。

 ……真紅の赫龍帝(カーディナル・クリムゾン・プロモーション)

 この世界の兵藤一誠が至った覇の理を乗り越え、手にした答え。

 その色はあいつの愛する女の髪の色と同色で、煌びやかな紅の色に見惚れそうになるほどだ。

 あの形態はトリアイナにおける全能力が飛躍的にパワーアップしているだけでなく、鎧の基礎能力すらも大幅に上昇しているらしい。

 その代わりに体力の消耗が激しく、あまり乱発できるものではないと一誠は語っていたけど……

 

「オルフェルさん! 俺がどでかい花火を撃ち込みます!」

「……なら、俺は!」

 

 なら、俺はその補助に徹するだけだ!

 やることを全て理解した上で俺は行動する。

 黒い赤龍帝は俺の動きを察知したように絶叫のような叫び声を上げながら、更なる力を行使する。

 

『Hell Dragon Cage……』

 

 黒い赤龍帝は掌より小さな檻のようなものを展開し、それを俺へと放った。

 その檻は俺の近くで突如巨大化して俺を折檻するように包み込もうとする。

 先ほどは自分の身を護った盾を、次は拘束のために使うってわけか。

 

「来てくれっ! 守護龍よ!」

 

 俺は自身の身を守るため、即座に目の前に大きな魔法陣を展開する。

 そこより現れるのは自らの鎧と魔力を元に創った紅蓮の守護龍だ。

 守護龍は俺を守るように身代わりとなって檻に折檻され、そして次の瞬間だった。

 

『Hell Dragon Eater……』

「……っぶねーな、おい。そんな芸も出来るのかよ」

 

 守護龍が折檻された檻の内部には突如、ドラゴンズレイヤーの能力を持つ、魔力の塊のドラゴンが現れた。

 守護龍はそれらに傷つけられ、次第に体を失くしていく。

 ……ッ!! 守護龍とは俺の一部といっても過言ではない。

 もちろんダメージ共有などのデメリットはない。

 それでも俺を身を呈して守ってくれる守護龍が傷つくことで精神的な負担は掛かるんだ。

 だけど、守護龍は戦って守りーーーその傷は守護の誇りとなって、圧倒的相手を倒す礎となる!

 

『Guardian Booster!!!!!』

 

 その音声と共に守護龍は紅蓮の魔力が霧状になって、俺へと風に流れされるように漂ってくる。

 力は俺の中に入り、そして、……爆発する!!

 

「いくぜ、ドライグ!!」

 

 背中の翼を羽ばたかせ、俺は取り入れた守護龍の傷の力を使う。

 守護のための傷は誇りとなり、俺を突き動かす力となる!

 俺の体に装着される所々の鎧は紅蓮のオーラを撒き散らし、俺の拳は黒い赤龍帝へと放たれる!

 その拳に対して黒い赤龍帝はその極太の腕で対抗するように放ってきた。

 力と力のぶつかり合い。

 漆黒のオーラと紅蓮のオーラは螺旋状に絡み合い、激しい撃鉄の音を響かせながら拮抗する。

 

「……軽い」

 

 だけど次第にその拳は押され始める。

 執念と憎悪。その二つに支配された最凶の拳は強いのかもしれない。

 それでも……それでも!

 

「そんなもんじゃないだろ、兵藤……っ! 一誠っ!! お前の拳は―――最強だろ!?」

 

 己の無力さに涙して、それでも極め続けたこの男の強さは本物だ。

 俺を一度、完膚なきまで倒したこいつのあの時の拳はもっと強かった。

 拳ってのは力だけじゃないんだ。その拳で覆い隠すほどのたくさんの『大切』を背負うのが拳だ。

 だからこそ、ただの暴走の力は例え凶悪だろうと……、最悪だろうと!

 

「そんな拳に、俺は負けはしないッ!!」

 

 拮抗は消え去る。

 俺の拳は確実に黒い赤龍帝の力をかき消し、力任せに奴を後方へと殴り飛ばす。

 奴は宙に浮かび、圧倒的な拳の力に耐えようと何とかその場に踏みとどまろうとする。

 だけどそれは叶わない。

 

「オルフェルさん、引いてください! いくぜドライグ!!」

『応ッ! 相棒の全力を奴に放て!!』

 

 俺の後方に準備万端の一誠が銃口から熱気を迸らせながら、威勢の良い声を掛け声にも似た声を漏らす。

 俺はすぐさまに自分が今いる場から勢いよく上空へと上がる。

 そしてその刹那―――すぐ下にて恐ろしい威力の『何か』が放たれた。

 

「いっけぇぇぇ!! クリムゾンブラスタァァァァァァァァ!!!!!」

 

 一誠の背中の銃口より放たれるクリムゾンブラスター。一誠のトリアイナの僧侶モードの時に放たれたドラゴンブラスターよりも桁違いな魔力砲に黒い赤龍帝は完全に飲み込まれ―――ッ!? まだだッ!!

 

『ぐ、がぁ……だ、ま―――れぇぇぇぇ!!!!!!』

『Hell Dragon Head……!!』

『Hell Dragon Arms……!!』

『Hell Dragon Blade……!!』

 

 ―――相殺、している……ッ。

 黒い赤龍帝は、あの極限にまで強化されたクリムゾンブラスターを、真っ向から受け止めていた。

 腕は極太、尾には8つのドラゴンヘッドに、籠手より現れる通常の何倍にも巨大化している闇に堕ちたアスカロン。

 そして何より―――静かだった黒い赤龍帝に宿っているはずのドライグの声に、ほんの少し力があった。

 さっきまではずっと静かに、聞こえるか聞こえないかのレベルだった音声が、はっきりと聞こえた。

 ……変化している。

 あいつは、この戦いの中で確実な変化をしているんだ。

 ―――戦っているのは、俺たちだけじゃないんだ。

 黒い赤龍帝だって、己の中にある闇とずっと戦っているッ!

 それは強さだ。

 疑う事のない、信念のある立派な強さだ。

 俺は不意に武者震いで体を震えさせた。

 

「お前が限界を越えようとっていうんなら、こっちだって限界を越えてやる―――うぉぉぉぉぉぉ!!!」

『Full Boost Impact Count 20,21,22!!!!!!!!』

 

 俺は両腕の白銀の腕の宝玉を三つ砕き、一つは流星として。そしてもう二つを……身体強化に使うッ!!

 身体中の筋肉からは軋むような音が聞こえる。

 当然だ、今俺は本来一つでも十分に効果のある極限倍増による身体強化を、二度連続で行ったんだからな。

 ……俺も、限界を越えてお前に応える!

 俺は白銀の龍星(ホワイト・ドラグーン)を上空から黒い赤龍帝に放ち、更に一気に黒い赤龍帝の下方に回る。

 すると黒い赤龍帝は即座に俺の元に黒い歪なドラゴンを多数放った。

 

「来てくれ、守護龍たちよ!!」

 

 俺はドラゴンと同数の守護龍を生み出し、ドラゴンたちを横切って黒い赤龍帝へと拳を伸ばす。

 それとほぼタイミングを同じにして黒い赤龍帝は一誠のクリムゾンブラスターと、俺の流星を完全に相殺し、俺を迎え撃つように同じように向かってくる。

 

『Hell Dragon Lance……!!!!!!』

 

 ―――あの時、あの化け物を一瞬で屠った槍が黒い赤龍帝の手の平に形成される。

 間違いない、あの形態の切り札があれだ。

 肌で感じる圧倒的な破滅力。触れただけで自身が消え去りそうな恐怖に襲われる。

 ……ギュッ。……なんだ、拳は握れるじゃねぇか。

 だったら、問題ない。

 拳が握れるのなら、俺は出来る。

 ―――なんでも、出来る!!

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!! 鎧、パージ!!!」

『Star Sonic Booster!!!!!!!』

 

 俺が最後の切り札を出そうとした時、クリムゾンブラスターを放ち終えた一誠が鎧を騎士化して黒い赤龍帝に特攻をかける。

 俺よりも先に二人の距離は縮まり、そして一誠はそれを見計らい鎧を更に変化させた。

 

『Solid Impact Booster!!!!!!!』

 

 近距離に近づいた瞬間に鎧を戦車化させ、鎧自体を堅牢なものに変化させ、更に肘の撃鉄を打ち鳴らすッ!

 それによりオーラが更に倍増し、更にその拳には倍増されたアスカロンのオーラすらも含んでいた。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!!!!!』

 

 更にそれを赤龍帝の力によって三度倍増する!!

 

「後先なんて考えねぇ!! ただあんたに俺の拳を届かせるッ!! だからさっさと目を覚ましやがれぇぇぇぇ!!!」

『うがぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!』

 

 黒い赤龍帝は黒い檻を幾重にも展開し、一誠を折檻しようとする。

 ……だけど今の一誠は止まらない。

 後先なんてものをすべて排除し、その一撃に全てを掛けた一誠の最強の拳。

 それは黒い赤龍帝の即席の檻を嘘のように壊し尽くし、更に背中の翼と噴射口から魔力を噴射させ、黒い赤龍帝へと瞬間的に距離を詰める。

 そしてその拳は―――黒い赤龍帝の顔面へとクリーンヒットした。

 ヘッド部分の鎧とマスクはものの見事に粉砕し、黒い赤龍帝の相貌が露わとなる。

 目は赤く染まり、光彩はなくなった虚ろな目。

 しかし狂気に満ちたその怒っているような表情は、震えさせるには十分なくらいなもんだ。

 黒い赤龍帝はギロリと一誠を睨み、その黒い槍の先を一誠に向ける。

 大量の血反吐を吐きながら、一誠へと槍を投槍しようとしていた。

 ……準備は万端だ。

 俺は一端、目を瞑る。

 浮かぶ光景は白い空間。

 赤龍帝の神器の奥底にある、歴代の赤龍帝が陳列する空間。

 意識をその一席に向けると、そこには『俺』がいた。

『俺』は言葉を発することなくその場から立ち上がり、そして穏やかな表情で俺の中へと没入してくる。

 

 ―――全ては守護のために、救いのために力を使おう。皆の笑顔を護って、俺も笑顔で居れる世界を護る。

 ―――守護の誇りを集め、紡ぎ、全てを護る覇者となる。

 ―――それこそが。

 

『―――俺たちの掲げた、答えだ』

 

 ……呪文のような思いを胸に抱き目を開く。

 俺の元には四方八方より紅蓮のオーラが集結し、俺の声も違う声音の声と重なり合うようなくぐもった声となった。

 俺の両腕の白銀の腕はそのオーラを受け取り切れずに崩壊し、本来の赤龍帝の籠手が出現する。

 そして―――

 

『Guardian Drive Boosting Explosion!!!!!!!!!』

 

 紅蓮の守護覇龍の最大出力を示す音声が、戦場に鳴り響いた。

 

『紅蓮の守護覇龍、最終形態。赤龍帝との完全同調(フルシンクロ)。いくぞ―――死滅の獄覇龍・兵藤一誠!!』

『るぁぁぁああああぁぁぁぁああああ!!!!!!』

 

 俺と黒い赤龍帝は決着を付けるため、互いに力と力を交わす。

 黒い赤龍帝は槍を振るいながらも恐るべき俊敏性に富んだ動きで空中にて立体的な戦闘をするのに対し、俺は目の前にくる脅威だけを確実に取り払う。

 あの槍は必殺の武器だ。

 一度でも当たればただでは済まない。

 

『ッ! はぁ!!』

 

 紅蓮のオーラを大幅に含ませた拳で槍をいなし、懐に入って黒い赤龍帝の腹部に拳を放つ。

 黒い赤龍帝もまたマスクが消し飛んでいるためか、奴は口から血反吐を撒き散らして後方に後退る。

 更に尾より8つ首のドラゴンヘッドを放ち、更に凶悪な黒い魔力弾を縦横無尽に放ってくる!

 俺は即座に身に迸るオーラの一部を球体にし、それを放つ。

 ビー玉ほどの小さな球体を八つ首のドラゴンヘッドに投げると、それはハリネズミのように棘のある状態となり、ドラゴンヘッドを全て突き刺して宙にて霧散させた。

 ―――ッ!!

 

『がッ!? ……流石だな、この威力……っ』

 

 凶悪な魔力弾は俺の鎧のない横腹を抉り、血をダラダラと地に垂れ落ちる。

 ……俺もそろそろ限界に近いんだ。

 それはあいつも同じなんだろう。

 既にあいつは新たな黒いドラゴンを顕現することも、あの極太の腕を再生させることもしていない。

 あいつにあるのはあの黒い槍と、片方の極太の腕だけだ。

 すっと、息を整える。

 傷は痛むけど我慢できないほどではない。

 ―――一撃だ。

 あの一撃に全てを賭ける。悪神ロキを倒した、守護覇龍の必殺技を。

 最後に決着をつけるのは、……はは。

 やっぱりこいつ(・ ・ ・)しかねぇよな。

 

『全ての力を、この拳にッ!!!』

『き、えろ……キエロォォォォォォォォォォォッ!!!!!』

 

 俺の拳には身体中に迸る紅蓮のオーラが全て集まっていく。

 黒い赤龍帝の槍を含める腕には、奴の纏う全ての闇が集まっていき、槍と拳がほぼ一体化したようになる。

 ―――考えることは、一緒かよ。

 

『いくぞ―――守護龍の(ガーディアン)

 

 ……黒い赤龍帝は瞬時に俺へと近づく。

 無駄など一切ない、ただ真っ直ぐな動き。

 拳を振りかぶり、腰を捻らせ―――漆黒を纏い、拳を振るう。

 俺はそれに合わせるように冷静に奴を見て、そして放つ!!

 

『―――逆鱗(ストライク)ッ!!!!!!』

『ガァァァァァアアアアアアアアアアアアァァァアアアッッッ!!!!!』

 

 紅蓮と漆黒のオーラが、拳を介して荒れるようにぶつかり合うッ!

 龍殺しの性質故か、漆黒のオーラが迸るごとに俺の鎧は砂になるように風化していく。

 だけど拳は引かない。

 辺りに凄まじいオーラを撒き散らしながら、真正面から黒い赤龍帝と顔を見合わせる。

 ―――傷だらけの顔。酷く伸びた茶色の髪に、光を失った目。

 ……復讐のためだけに生きて、果たして闇に堕ちこんだ兵藤一誠。

 本当なら、お前は倒さないといけないような存在なんだろう。

 お前たちがこの世界に来てしまったせいで傷ついた存在がいた。

 殺されてしまった人間だっている。

 その人たちに報いるためには、俺はお前を倒さないといけないんだろう。

 だけどそれでも、敢えて俺は断言する。

 俺は、……お前をッ!!

 

『―――お前を絶対に、救って見せるッ!!!』

 

 バキッ!!!!! ……そのような音と共に、黒い赤龍帝の右腕の槍に亀裂が入る。

 

『お前がそれを例え望んでいなくてもッ!!』

 

 更に拳を押し込んで、紅蓮のオーラを更に大きくさせる。

 

『―――お前を愛する人がいるからッ!! 約束したから! だから―――倒すッ!!』

 

 亀裂は更に大きくなり、黒い赤龍帝を後方に押し込み始める!

 そして―――漆黒のオーラは全て消え去り、俺はその拳で黒い赤龍帝の顔面を全力で殴り飛ばすッ!!

 

「くっ……はぁ、はぁ―――融合が、終わったのか?」

 

 それと共に俺の守護覇龍の最終形態が解除され、紅蓮のオーラがほぼ全て霧散する。

 ―――そして、俺の目の前に極太の拳が映った。

 

「ッ!? まさか、あれをうけてまだッ!?」

 

 俺は咄嗟に防御に構えようとするが、先ほどの攻防で全身から血が流れ、体の動きが鈍る。

 まずい、このままじゃッ!!

 

『あ、が……がぁぁッ!』

 

 黒い赤龍帝の、満身創痍の最後の拳が俺に振るわれ―――

 

 

 

 

 

『Fang Blast Booster!!!!!!!』

 

 ―――突如、下方より真紅の魔力砲が黒い赤龍帝の極太な腕を貫く。

 俺はふと下を見ると、そこには…………

 

「へへッ……。一矢、報いたぜッ!!」

 

 ―――共に満身創痍の一誠が、最後の力を振り絞ってクリムゾンブラスターを放った姿があった。

 

「オルフェルさん! あとはあんたに任せるしかないッ!! だから―――いっけぇぇぇぇええええ!!!!!」

「ああ、そうだな―――お前のくれた希望を、絶対に逃さないッ!!」

 

 ……俺は宙に舞う黒い赤龍帝へと照準を合わせる。

 先程の一撃で黒い赤龍帝は完全に不意を突かれ、一瞬だが反応が遅れている。

 守護覇龍はまだ解除はされていなく、俺はまだ辺りに残る絞りかす程度しかない紅蓮のオーラをかき集める。

 ……でもするのは守護龍の逆鱗(ガーディアン・ストライク)ではない。

 こいつは救う力。

 対象は黒い赤龍帝だけかもしれない―――それでもあいつを救えるなら、これは優しい力だ。

 鎧は既に左腕の籠手だけで、その籠手に全ての紅蓮を集める。

 ……この拳で、俺はあいつの中の闇を取っ払う。

 出来る出来ないとかそんなんじゃない―――するかしないかだ。

 俺は何とかして見せる。

 だからお前もさ、黒い赤龍帝。

 いい加減―――

 

「―――目を覚ませよ、このバカヤロォォォォォォォォッッッ!!!!」

 

 黒い赤龍帝の頬を完璧に拳が捉え、紅蓮の拳は完全に黒い赤龍帝を貫く。

 その瞬間、俺の心に何かの声が届くような感覚に囚われる。

 

『……なん、だよ……。お前はどうして、そんなにも、真っ直ぐに……なれるんだよ……』

 

 その声は間違いなく黒い赤龍帝のものだ。

 奇跡と呼ぶべき現象なのか、それとも同じ赤龍帝だからこそ実現できることなのか。

 そんなことは知らないけど、しかし声は届く。

 

『お前と俺は……似てるのに……。どうして、お前の拳はそんなにも重いんだ―――強いんだ。こんな俺を、救ったって誰も救われないのに……ッ。どうして、どうして……』

 

 こいつの本音が心に届く。

 涙声だ。今にも死にそうな声だ。

 だけどこれが黒い赤龍帝の本心なんだ。

 なら俺は応えないといけない。

 同じ赤龍帝として―――兵藤一誠として。

 

「俺だって仲間を信じなくて、傷つけて、泣かしてしまったことが何度もある。自らを犠牲にして、失うことに恐怖して、護らないといけないという強迫観念に囚われていた」

 

 だけどそれが間違いという事に気付いた。

 気付かされたんだ、他の誰でもない仲間に。大切な人達によって。

 

「結局俺は原点回帰だった―――俺は誰よりも笑顔で居たかった。仲間と共に、大切な人達を笑顔にして自分も笑顔で居られる。そのために全てを護りたかった。自分の欲望も、強迫観念も実のところは全く同義だったんだ」

 

 黒い赤龍帝は地面に堕ちて行く。

 鎧は完全に解除され、血を流しながら。

 

『もう、俺には生きる糧なんてないんだ……。護る仲間もいない。信念すらも当の昔に捨て去った。プライドも、自分の価値も。愛する人も―――』

 

 ……しかし、その言葉を口にして黒い赤龍帝は声を押し殺すように黙りこくる。

 ははは―――なんだよ、分かってんじゃねぇか。

 

「愛する奴はいるだろ? お前のために全てを敵に回して、平行世界までお前を救うために行動出来るとびっきり良い女がさ。もしお前が生きる糧がもうないのなら―――まずは足掻いてみろよ」

『―――足掻く?』

「ああ。足掻くことを生きる糧にしてみろよ。お前が色々な人を傷つけてきたなら、それを償えるくらいに何かを救う。もちろん、それは一人じゃ無理な事かもしれない。でもさ……」

 

 ―――お前は、一人じゃない。

 そう心で呟いた時、空に黒い赤龍帝を支える存在が現れた。

 フラフラと落ちていくあいつを、ゆっくりと……さながら、聖母のように優しく包み込み、抱きしめる存在が。

 アイが……平行世界の、アーシア・アルジェントが兵藤一誠を抱きしめていた。

 

「―――本当に、イッセーさんはいつもいつも一人で抱え込んで、傷ついて……」

「……アー、シア……」

 

 微かに残るあいつの意識は、包み込む存在をアーシアと認識する。

 平行世界のアーシアはしかしなお微笑んで、その体を抱きしめ続けた。

 

「でも、イッセーさんはいつも私を救ってくれます。私達は、二人ぼっちなんです……。だから、だからッ!!」

 

 ……事切れるように、アーシアの体が震える。

 それは今まで我慢して、崩壊したダムのように涙腺を滲ませて、大粒の綺麗な涙を流させた。

 

「―――一人に、しないでくださいッ! 私を、一人に……しないで……」

「……ごめん、な……。アーシア、俺……ッ」

 

 ……何十年とこの二人は戦い続けて来たんだ。

 たった二人で、寄り添いながら、依存しながら。

 それでも生き続けて来た。

 そうした時間があったからこそ、お前は口では生きがいがないと言いつつも、必死で己の中の闇と戦い続けていた。

 戦いの最中、あいつの神器の音声に力が宿りはじめたのが良い証拠だ。

 あいつの神器はずっと死んでいた。

 その神器が息を吹き返した。

 それはきっと―――あいつがまだ諦めていなかったから。

 生きることを、諦めていなかったんだ。

 

『……今、声を掛けることは無粋だな。相棒』

『全く、また無茶をして―――でも生きているのならば、お説教はまた今度にしましょう。主様』

 

 俺の中の相棒たちが声を揃えてそう言ってくる。

 そうだな、また今度。

 今は見守ろう―――あいつらを。

 ……それに決まった。

 

『決まった? 何がだ、相棒』

 

 ……ああ、決まったんだ。

 そう―――俺がこの世界で、最後にしなければいけないことが。

 ―・・・

『Side:アイ』

 私は、ただ見守っていた。

 その三人の戦いを。三人の赤龍帝による死闘を。この目に焼き付けていた。

 既に私にはほぼ魔力がなく、戦う力も逃げる力もない。

 それでも私がそれを見ることが出来るのは、私をここまで連れて来た彼女のおかげだった。

 

「ほ~、これはすごいねぇ~。紅蓮と真紅と漆黒のぶつかり合いか~♪ あの黒も綺麗だけど、やっぱりイッセーくんの紅蓮はすっごく綺麗だな~♪」

「……あなたは、何者なんです? どうして私を助けるような真似を……」

 

 私がそう尋ねると、白いローブの女は即答という形で切り返した。

 

「さっき言ったよね? あなたは面白いから手伝ってあげるんだよ♪ 中々私が面白いって思うことはないからさ~」

「……たったそれだけのために、この戦場に立ったのですか?」

「ん? あははは!! そんなわけないじゃん♪ ……でもね、最初は傍観するだけって思ってたんだけど、あなたを見てると何故かお節介を焼きたくなったんだ~」

 

 声音は軽い……けど、その言葉に嘘は見受けられなかった。

 何十年と生きて私はどんな嘘でも見抜けるようになった―――だから分かる。

 この人物は嘘偽りはなく、ただ真実という本音だけを語っているのだと。

 

「私も全てを思い出したわけじゃないけどぉ~、でも根本的な部分では貴方と同類なの♪」

「……同類?」

「そ♪ ……彼を好きどころか、病的にまで好きになっちゃった困った性質。依存したい、独占したい、私だけを見て欲しい。でも彼の悲しい顔はみたくない―――ほんっと、めんどくさい性質だよねぇ~」

 

 ……納得してしまう。

 私だって、彼女と同じだ。

 そもそもそこまでの想いがなければ私はここにはいない。平行世界まで、ほんの少し可能性に賭けたりなんて無謀なことは絶対にしない。

 ……だけど、彼女は一体何者なんでしょう。

 平行世界の、守護を大前提とする兵藤一誠をここまで愛し、しかし彼の目の前には現れない。

 そもそもこの世界に何故―――そう思考した瞬間、彼女は私に素顔を見せて来た。

 …………な、なぜ? そ、そんなはずはない。

 どうして、あなたが―――

 

「はい、終焉♪ 悪いけどぉ~、このことは彼には言っちゃダメだよ? 私もまだ(・ ・)完全に目覚めたわけじゃないし、それに―――彼とは、一番美しい展開で出会いたいんだぁ~」

「……」

「良い子だね、あはは―――面白い。やっぱり君は面白いね。まさかイッセーくん以外に興味を引く存在がいるなんて思わなかったよ♪」

 

 彼女は再びローブを被り、悪戯な笑みを浮かべながら空を指さす。

 ……既に、勝敗は決していた。

 イッセーさんは鎧が完全に解除され、そのままゆっくりと地上へと落ちていく。

 意識はほぼなく、彼女は私の背中を軽く押した。

 

「行きなよ。愛しているんなら、絶対に離しちゃダメだよ? 縛り付けるくらいに依存しちゃえばいいんだよ♪ ―――あ、でも一つだけお願いがあるんだ~♪」

「……なんですか?」

 

「うん、それがね―――()を、よろしくね? 今から私は()に戻るから、保護してほしいんだよ」

「……ええ、それくらいなら喜んで」

 

 彼女は目を瞑り、私の展開した魔法陣の中に入っていく。

 それは即席で創り出した疑似空間で、全てが終わるまでその中で眠って貰おうという算段だ。

 

「それじゃ、もう会うことはないけどまたね♪」

「……ええ。あなたの幸せを私も願っておきます」

 

 ……彼女はその場から消える。

 ―――切り替えるようにイッセーさんに目を向けると、自然と私の瞳から涙が溢れ出た。

 ようやく、だ。

 ……違う。

 ううん―――違うんです。

 やっと、なんです。

 ずっと、ずっと私は無理をしてきた。強くなるために死に物狂いでイッセーさんについていこうとして、仮面を被って邪魔となる存在を何人も屠って来ました。

 でもどれだけ頑張ってもイッセーさんを救う方法は私にはなくて、ほんの少しの可能性に賭けて今回の荒療治の提案を受け入れてしまった。

 彼を心配する人達の制止も止めず、私はこの強行にうってでたんです。

 ……もう、彼を抱きしめることは出来ないと思っていたし、覚悟も出来ていました。

 死んでも構わないと思っていたのに―――どうして、涙が止まらないんでしょう……ッ。

 ……ああ、そうか。

 私は、本心も見ないふりをしようとしていたんでしょう。

 ―――ずっと、一緒に居たい。その本心すらも、私は蓋をして隠した。

 だけど分かってたんです。

 私は……一人は、もう嫌なんですッ!!

 だから、イッセーさん―――もう、私から離れないで。

 ずっと一緒に……、そう願いながら、私はイッセーさんを抱きしめました。

『Side out:アイ』

 ―・・・

 ……戦いを終えた戦場の一角で、黒い赤龍帝は死んだように意識を失い、その傍らにアイが寄り添っていた。

 アイはその頭を優しい微笑みで撫でながら、座っている。

 全てをやり遂げたような表情だ。

 ……でも、俺は聞かないといけない。

 

「……アイ。お前たちは、どうやってこの世界に来たんだ」

「……はい。話さないといけないということは理解していました。だから、包み隠さず私は話します」

 

 そう、アイたちがどのようにしてこの世界に来たのか。

 俺のタイムバイクに干渉したのもアイたちの仕業なんだろう。

 だけど一つだけ腑に落ちない―――そもそも平行世界に飛ばすなんてアイ一人の力じゃ不可能に決まっている。

 でもアイは実際に俺に干渉し、俺をこの世界に呼び寄せた。

 そして彼女たちもまたこの世界に到来し、こうして今回の顛末を起こした。

 

「……事の始まりは、イッセーさんがあの化け物を死滅の一歩手前まで追い込んだことが原因でした」

 

 アイは黒い赤龍帝の頭を撫でながら、そう話しはじめる。

 

「あの化け物は元は悪魔でした。私たちの仲間を殺し、大切な人達をも平気で手に賭けた存在……あなたが知っている光景の男です。奴は元は悪魔―――ですがイッセーさんに一度、殺されたんです」

 

 ……それは恐らく、黒い赤龍帝が初めて死滅の獄覇龍を使った時だ。

 あの時に既に化け物の元となった男は殺されたんだろう。

 

「……ですが奴は自身に対して保険をかけていたんです。それはとても醜い禁術でした―――奴は自身をキメラと化したんです。元が強力な悪魔だった奴は次々にあらゆる種族を手にかけました。悪魔、天使、堕天使、人間、エクソシスト、est……。そして奴はあらゆる種族から知識を得て、化け物でありながら多彩な力を身につけたのです」

 

 ……それは身に染みて理解している。

 あの化け物は反則級の力を誇っていた。

 

「ですが獄覇龍を得たイッセーさんが負けるはずもなく、実際に幾度なく奴はイッセーさんに倒されは逃げ、倒されは逃げていました。そしてある日―――死を目前にした時、奴はそれまでの経験と知識と肉体の大半を犠牲にして魔術を自らに施したのです。それが」

「平行世界への移動ってわけか」

 

 俺の言葉にアイは頷く。

 

「ええ。正直、私は奴がそれほどの魔術を誇っているとは思っていませんでした。……私の世界ではここよりも時間がかなりすぎています。確かに可能性でいえば平行世界に渡り歩くのも可能性がないわけではありませんでした。ただし、戻ってこれる手段はありませんが……」

「……待て、お前はタイムパラドックスを考えずにここに来たっていうのかッ!?」

 

 同じ世界に同質の存在がいる。

 これは問題だ。世界という歯車はそのような矛盾を許さず、それを消去という手段で解決する可能性だってあるんだ。

 

「……ええ。ですが、私達には奴を殺す以外にも目的があった―――いえ、私たちに悪意を持つ者達は、同時に私たちをも排除しようと考えたのです」

「……お前たちは、はぐれだもんな」

「あはは。やっぱり、気付かれていましたか」

 

 ……気配でこの二人がはぐれ悪魔だという事は分かっていたし、何より断片的であろうが俺はこの男の記憶持っている。

 

「……異端の化け物を倒す私達もまた、異端の化け物という烙印を押されたんです。私達はいつ悪魔の敵に回ってもおかしくない―――なんてありえないことを悪魔の上層部は考え、私たちはSSS級のはぐれ悪魔としました。腐った貴族の悪魔は、私たちのような転生悪魔がそのような力を持つことが許せなかったんでしょう」

「……だから化け物と同じ世界に放り投げ、自分たちの世界の問題をこの世界に丸投げしたってわけか―――ふざけてんな、あの野郎ども」

 

 そんな愚痴を言っても仕方ないけどさ。

 

「ただ彼らもまた一つ、誤算があった―――私達を支援する存在。すなわち魔王の存在を」

「……それってまさか」

「……いえ。あなたの知っている魔王は恐らく大抵が違います。そうですね……―――サーゼクス様とセラフォルー様は、戦いの中で死んでいってしまったので」

 

 ……予想は出来ていたとはいえ、何とも言えない気持ちになる。

 二人の世界の辛さが、身に染みて。

 

「私達を支援する魔王様は御二方。御一人は超越者アジュカ様。そしてもう一人が私達と若き頃、雌雄を決した漢です。その二人の支援を受け、私たちは元の世界に戻れるかもしれないほんの少しの可能性を持ち合わせ、そして今に至る。そしてアジュカ様の術によって知らされた平行世界の兵藤一誠の存在―――つまりあなたにわずかな希望を抱いたからこそ、あなたはこの世界に飛ばされた。つまり私があなたを巻き込んだのです」

「―――そう。でも例えどんな理由があろうとも、貴方たちが私達にもたらした危険を、許すことは出来ないわ」

 

 ……俺たちの後ろから、リアスの声が響く。

 そこにはリアスを中心としたこの世界のグレモリー眷属の姿があり、一誠は木場に支えられながらこっちに親指を立ててサムズアップをしていた。

 でも予想通り、全員ひどい傷だった。

 ……まあ、そうだろうな。

 当然だ、何も関係のなかった平行世界の問題をこの世界に放り投げられた上にこれほどの被害を出したんだ。

 俺が同じ立場でも許せないっていうかもな。

 

「分かっています。私は罪を犯した―――でも、こんなにも安らかなイッセーさんの寝顔を久しぶりに見れたのです。それだけで満足です……」

 

 アイは全てを諦めたように目を瞑る。

 

「……私を咎めるのも、殺すのも甘んじて受けます。私はそれほどのことをした。そのことは覆らない真実。ならば私はそれを清算しなければなりません」

「……ええ。まずあなたは冥界に連れて魔王の前に立たせるわ。そこから尋問をし、処遇が決まるでしょう―――ここからは私たちの仕事ではないもの」

「ええ―――でもイッセーさんだけは私が守ります」

 

 ……するとアイはイッセーを護るように抱き寄せ、好戦の態度を示そうとする。

 ―――まあそうだよな。

 これほど頑固に育ってしまったアーシアが、それをしないなんてことはない。

 分かっていた、分かっていたさ。

 だからこそ、俺も決めた。

 この世界で、最後にしなければいけないことを。

 ―――最後の約束を果たそう。

 

「―――それ以上、二人に近づくな」

 

 ―――俺は、二人へと近づこうとするグレモリー眷属の足元に何発かの魔力弾の放つ。

 それが牽制となり、グレモリー眷属はその場に立ち止まった。

 

「……どういうつもりかしら、オルフェル君?」

「見てのとおりだ―――俺はこいつらの味方をする。そう言ってるんだよ」

「なッ!? あ、あなたは何を言って」

 

 アイは口をパクパクさせながら取り乱しているが、俺は更に続ける。

 

「今これより赤龍帝 オルフェル・イグニールはグレモリー眷属の宿敵である。今これより二人に近づこうとするならば容赦はしない―――全力を以て、その命を刈り取る」

 

 俺はアスカロンの剣先を眷属に向け、そう言い放つ。

 向こうは信じられないという風な表情になっているものの、その中の一人だけ俺に真っ直ぐ視線を向けるやつがいた。

 

「…………」

 

 ……一誠だ。

 一誠は俺をじっと見つめ、何かを言いたそうにしている。

 ―――もしかしたら俺の行動の真意を読んでいるのかもな。

 だったらきっと事は上手く動く。

 俺はすぐさまアイと黒い赤龍帝の体を抱えてその場から離脱するように飛び上がった。

 ドラゴンの翼を展開し、更に悪魔の翼までもを展開して速度で逃げる。

 

「ッ!? オルフェル君を追いかけるわよ!! 余力のあるものは戦闘を視野に入れて―――ってイッセー!?」

 

 ……すると誰よりも真っ直ぐ俺を追いかけるイッセーの姿があった。

 

「……ったく、あいつはホントに」

「お、オルフェルさん! どういうことですか!? いったい何でこんなことを!!」

 

 すると俺に抱えられるアイがそんなことを言ってきた。

 

「言っただろ? 俺はお前たちの味方になったって」

「で、ですが私のしたことは処罰されるべきことなのです! 例え命が対価だとしても後悔はありません! それなのにどうして!!」

「―――だから言っただろ? 約束は守るって」

 

 俺は空を高速で飛びながら、グレモリー眷属と距離を大きく空ける。

 対してアイは俺の言葉に顔をポカンとさせていた。

 

「黒い赤龍帝。つまりこいつを救ってくれ。俺はお前とそう約束したはずだぜ?」

「それはもう果たしてくれました! それなのに何でこんな無茶なことを!!」

「いいや、まだ果たしてない。なぜなら―――こいつは、お前を一人にしないって言ったんだから」

「……え?」

 

 俺の言葉に茫然となるアイ。

 

「良いか。もしここでアイが死ねば、恐らくこいつは救われない。それじゃあ約束を果たしたことにはならない―――だから俺はこの行動にうってでたんだ。お前たちを元の世界に返す可能性である俺がな」

 

 ……そして、ようやく見えて来た岩礁を前に俺は速度を落とし、二人を地に下ろす。

 あいつらとはかなり距離を取ったし、これで時間は稼いだだろ。

 

「……どうして、そのことを……」

「俺の洞察力を舐めるなよ? アイでいうところの俺は希望、だったんだろ? つまりだ。俺は黒い赤龍帝を倒す可能性であり、自分たちを元の世界に返すための可能性だった。違うか?」

「…………」

「沈黙は肯定とみなすぞ? ……簡単にいえば、俺のタイムバイクに魔術干渉をしたお前たちは俺をこの世界に送った。つまりタイムバイクさえあれば、お前たちの魔術補正があれば平行移動出来るってことだ」

 

 アイは驚くあまり、声を発さない。

 まあこっちが一方的に話す方が早いな。

 

「そして何よりタイムバイクが見つからないのが一番の不可解な点だ―――お前、実はあれを隠してんだろ?」

「う、うぅっ……」

 

 途端にアイは、俺の知っている困った表情をする。

 なるほど、図星ってわけだ。

 なら話は早い。

 

「アイ。お前は平行世界の俺を救うためにあらゆる魔術、魔法に手を付けたんだよな? ならタイムバイクの際限も容易いはずだ」

「で、でも術式を再現できても、肝心の神器が―――あ」

「そう。俺がタイムバイクの基礎となる神器を創る。多少時間は掛かるだろうが、その時間は俺が稼いでやる―――フェル」

『分かってますよ、主様』

 

 俺は即座に胸元にブローチ型の神器、神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)を展開し、創造力を溜める。

 そして数段階の創造力を溜め終わり、一気に神器を創り上げた。

 

『Creation!!!』

 

 創るは未来への架け橋(ブリッジ・トュモロウ)

 俺は過去の平行世界に帰るけど、こいつらはここより未来の平行世界に帰るからな。

 まあ能力は今からアイが調整するだろうし、まずはアイからバイクを返してもらわないとな。

 

「アイ、良いか。お前たちのしたことは罪かもしれない。もし罰を望むなら、それはここではなく自分の世界で受けるべきだ」

「で、ですが……」

「良いから最後まで聞け! ……お前らの罪はな? ―――自分たちをまだ大切な存在と思っている者達を心配させていることだ」

 

 ……アイは三度、表情を失わせる。

 それは彼女もまた理解していたことなんだろう。

 

「だったらそいつらにまず報いることから始めよう。何、アイ。お前は一人じゃないだろ? そこに兵藤一誠がいる。だったら、お前は何でも出来るさ」

「……ッ! ありがとう、ございますッ!!」

「泣くなよ―――さて、んじゃあそいつが起きたらで良いから伝言を頼む」

 

 ……俺はアイに、ある言伝を頼む。

 アイはそれを聞くと何度も頷き、そして俺の近くに魔法陣を展開させた。

 そこから展開されるのは俺たちがここに来る所以となったタイムバイクと、そして―――み、観莉!?

 何故か意識のない観莉が気持ちよさそうにタイムバイクに跨りながら、穏やかに眠っていた。

 

「……彼女の記憶障害もまた、同じショックを与えたら治るはずです。……オルフェルさん」

「ん? なんだ、アイ」

「……っ。いいえ。彼女(・ ・)をよろしくお願いします」

 

 ……ん?

 なんか言い方が気に障るけど、まあ当たり前だから良いか。

 俺は観莉を背負い、タイムバイクを押して前に進む。

 遠い前方にはグレモリー眷属が見えてきて、俺はアイたちを岩陰に隠して近くにタイムバイクを置き、観莉をそのタイムバイクにもたれさせる。

 ……そして―――

 

「はぁ、はぁ……やっと、追いつきましたよ。オルフェルさん!」

「待ちくたびれたぜ、一誠」

 

 ……一誠を戦闘に、グレモリー眷属がなんとも言えない表情で俺と向かい合う。

 今更敵なんて思えないってか?

 ……まあそうだろうな。

 正直、俺も実のところ敵とは思えない。

 だけど時間の稼ぐ必要があるから、対立は仕方ないんだけどな。

 ―――って、この状況どこかで見覚えがあるな。

 

「ははは。これ、俺とお前たちが最初に出会った時とそっくりだな」

「……ははは! そうっすね、オルフェルさん」

 

 ……たったの数日前のことがずっと前のようにも思えるよ。

 俺がここで見たことは、体験したことは紛れもない真実であり、覆らないものだ。

 ……だからこそ、最後はけじめをつけないとな。

 

「最初見た時は本気で怒ったな。観莉っていう一般人がいるのに、それをお構いなしで攻撃して来たし」

「それを言われるときついっすよ! 俺たちもあの時は―――」

「分かってるさ。お前の愚直さも、芯の強さも、変態さも、エロさも……」

「いや、だからあれはもう穿り返さないでくださいよ!!」

 

 ……まるで敵同士の会話じゃないよな。

 だけど会話はここまでだ。

 残念だけど、そろそろ俺も帰らないといけない。

 じゃないと俺の仲間が心配するからな。

 

「……俺はここを退かない。一度宣言したことは何があろうと撤回しない―――分かってるだろ、一誠」

「ええ。あなたが絶対に退かないことはここにいる他の誰でもない、俺だからこそ知っています! だから、これから何をしないといけないのかも分かる」

「そうだな―――最終試験だ、一誠」

『Boost!!』

 

 俺は左腕に籠手を展開し、拳を一誠に向ける。

 

「もし赤点取るようなら、許さねないぞ?」

「……ええ、分かってますよ―――だから勝負だ!」

『Boost!!』

 

 そして一誠もまた籠手を展開し、同じように拳をこちらに向ける。

 他に手は出させない。

 何故ならこれは喧嘩だ。男と男の喧嘩に他人を口出しはさせない。

 

「……俺、あんたのことを本気で尊敬してる。だからこそあんたに届きたいッ!! だから!!」

「ああ、そうだな―――羨ましいよ、お前のそういう馬鹿なところが。だから―――」

『『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!』』

 

 ―――互いに同じ赤い鎧を身に纏う。

 あいつも俺も疲労が限界に近い。

 それでもこれは避けられない戦いだ。

 さぁ、始めよう!

 

「勝負だ―――赤龍帝 兵藤一誠!!」

「望むところだ! ―――赤龍帝 オルフェル・イグニール!!」

 

 ―――二度とない、平行世界に跨る喧嘩を!!


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